11.病害応答 - 岡山理科大学ino/courses/plant_2/pdf/ps2-11.pdf11.病害応答 11.1...

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11.病害応答 11.1 植物の病気の原因 生物的病原(病原体):糸状菌、細菌、ウイルス、線虫、原虫、寄生性植物など 環境的病原:気象条件、土壌状態、化学物質など 11.2 病害抵抗性の種類 11.2.1 静的(受動的)抵抗性 病原菌の感染を受ける前から備えている、潜在的な物理・化学的性質による抵抗性。 細胞壁の硬さや厚さ、抗菌性物質の蓄積など。 11.2.2 動的(能動的)抵抗性 外的の攻撃に対して積極的に発動する一連の防御反応 1) 過敏感反応 (hypersensitive response;HR)の誘発 感染部位の周りの細胞が自発的に細胞死を起こす現象。 病原菌への栄養補給を断ち切るとともに、病原菌を包囲して 他の部位への侵攻を防ぐ。 2) 抗菌性低分子物質( ファイトアレキシン )の合成・蓄積 病原体の攻撃によって植物中で新たに生合成される低分子の 抗菌性物質。植物種により生産される種類が決まっている。 3) 感染時特異的(pathogenesis-related; PR タンパク質 の合成・蓄積 侵入菌の細胞壁を分解しエリシター分子を遊離させる、キチナーゼやグルカナーゼなどの 分解酵素や、その他の抗菌性タンパク質。 PR1~5には酸性と塩基性の2種類のタイプが存在し、酸性PRタンパク質は細胞間隙に、 塩基性PRタンパク質は液胞に蓄積する。 岡山理科大学・生物化学科 植物科学講義資料 タバコモザイクウイルスを接種した タバコの葉(右)

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Page 1: 11.病害応答 - 岡山理科大学ino/courses/plant_2/PDF/ps2-11.pdf11.病害応答 11.1 植物の病気の原因 生物的病原(病原体):糸状菌、細菌、ウイルス、線虫、原虫、寄生性植物など

11.病害応答

11.1 植物の病気の原因生物的病原(病原体):糸状菌、細菌、ウイルス、線虫、原虫、寄生性植物など環境的病原:気象条件、土壌状態、化学物質など

11.2 病害抵抗性の種類11.2.1 静的(受動的)抵抗性病原菌の感染を受ける前から備えている、潜在的な物理・化学的性質による抵抗性。細胞壁の硬さや厚さ、抗菌性物質の蓄積など。11.2.2 動的(能動的)抵抗性外的の攻撃に対して積極的に発動する一連の防御反応1) 過敏感反応(hypersensitive response;HR)の誘発感染部位の周りの細胞が自発的に細胞死を起こす現象。病原菌への栄養補給を断ち切るとともに、病原菌を包囲して他の部位への侵攻を防ぐ。2) 抗菌性低分子物質(ファイトアレキシン)の合成・蓄積病原体の攻撃によって植物中で新たに生合成される低分子の抗菌性物質。植物種により生産される種類が決まっている。

3) 感染時特異的(pathogenesis-related;PR)タンパク質の合成・蓄積侵入菌の細胞壁を分解しエリシター分子を遊離させる、キチナーゼやグルカナーゼなどの分解酵素や、その他の抗菌性タンパク質。PR1~5には酸性と塩基性の2種類のタイプが存在し、酸性PRタンパク質は細胞間隙に、塩基性PRタンパク質は液胞に蓄積する。

岡山理科大学・生物化学科 植物科学Ⅱ講義資料

タバコモザイクウイルスを接種したタバコの葉(右)

Page 2: 11.病害応答 - 岡山理科大学ino/courses/plant_2/PDF/ps2-11.pdf11.病害応答 11.1 植物の病気の原因 生物的病原(病原体):糸状菌、細菌、ウイルス、線虫、原虫、寄生性植物など

11.3 病原体の認識メカニズム遺伝子対遺伝子説(gene-for-gene theory)植物の病害抵抗性は単一の優性遺伝子によって遺伝し、植物の抵抗性(resistance;R)遺伝子と対応する病原体の非病原性(avirulence;Avr)遺伝子の組み合わせによって過敏感反応などの応答反応(病害抵抗性)が誘導されるとする説。

遺伝子の組合せ遺伝子の組合せ宿主植物の遺伝子型宿主植物の遺伝子型

遺伝子の組合せ遺伝子の組合せRR または Rr rr

病原体の遺伝子型

Avr非親和性

(病気にならない)親和性

(病気になる)病原体の遺伝子型

avr親和性

(病気になる)親和性

(病気になる)エリシター(elicitor)元々はファイトアレキシン生成を誘導する物質に対して用いられたが、現在では“動的抵抗性の誘導因子”として使われている。Avr遺伝子産物もエリシターの一種と考えられる。エリシター受容体R遺伝子産物はエリシターの受容体であると考えられる。

12.4 トマトのR遺伝子Ptoの例トマトのR遺伝子Ptoと病原菌Pseudomonas syringae pv. TomatoのAvr遺伝子AvrPtoの相互作用(1)PtoおよびAvrPtoによる形質転換タバコにおける過敏感反応の誘発

(2)Ptoタンパク質とAvrPtoタンパク質の相互作用

岡山理科大学・生物化学科 植物科学Ⅱ講義資料

予めPtoを過剰発現させているタバコ形質転換体にAvrPtoを過剰発現させる遺伝子を保持するAgrobacterium菌株を感染させて(葉の右側)、36時間後のファイトアレキシンの蓄積(A)と、48時間後の過敏感反応の様子(B)。葉の左側は、対照としてAvrPtoの代わりにGUS遺伝子を発現させたもの。

酵母菌を用いたTwo-hybrid法によるタンパク質間相互作用の確認。p53およびLTAは、対照として用いたタンパク質で、相互作用することが既知。Fenは、Ptoと相同性のあるトマトのタンパク質であるが、過敏感反応には関係しないことが既知。p53とLTAおよびPtoとAvrPtoの組合せのみ相互作用が確認された(青色)。

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タンパク質間相互作用解析法Two-hybrid法酵母の転写因子の遺伝子をDNA結合ドメイン(BD)と転写活性化ドメイン(AD)とに分割し、それぞれに相互作用を検討したいタンパク質の遺伝子を結合させた融合(hybrid)遺伝子を作成する。

融合タンパク質1 DNA binding domain (BD)転写因子のDNA結合ドメイン

bait (B)(エサ)

融合タンパク質1 DNA binding domain (BD)転写因子のDNA結合ドメイン

bait (B)(エサ)

融合タンパク質2 transcription activating domain (AD)転写因子の転写活性化ドメイン

cDNA library (L)(サカナ)

融合タンパク質2 transcription activating domain (AD)転写因子の転写活性化ドメイン

cDNA library (L)(サカナ)

それらの融合遺伝子を酵母細胞内で発現させる。

reporterBE PBD ADP P

Bait Library

BD B ADL

発現 発現

融合タンパク1 融合タンパク2

融合タンパク質同士が相互作用すると、酵母細胞内で転写因子が再構成され、レポーター遺伝子の発現が観察される。

reporterBEreporterBE

RNApol

P P

RNApolBD

AD

BD

ADB

L

BL

ExpressionTwo-hybrid法によるタンパク間相互作用の解析

岡山理科大学・生物化学科 植物科学Ⅱ講義資料