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、『地租改正

二付人民心得書」

にみる

改租事業

の府県差

地租改正の基本的理念と地租改正事業

(以下改租事業と略す)

の大綱、およびその施行法については明治六年七月

 

二八日公布の地租改正法に示されている。すなわち、その理念は同法の上諭において、その大綱は太政官布告と地租

改正条例において、・その方法

.手順などば地租改正施行規則

(以下施行規則と略す)と地方官心得書

に記されている

いってよいであろう。

ところで、上諭が示すように、

「公平画

一」な税制を全国的に施行するためには、全国

一律の基準と方法によ

って

なされなければならない。しかし、それは言うに易く行ない難いことであ

った。当時

の為政者は全国の改租事業を統

,一的に画

一的に実施しようとする

一方、改租事業があまりにも大事業であり、かつ、旧来の貢租法があまりにも地方

(とくに藩による相異)が著しか

ったためハまた、改租事業に対する農民の抵抗を少なくしたいという意図もあ

て、

すべてを政府主導型で実施することを困難にした。

㌦地租敢正において、政府のと

った施策についてはいろいろな評価ができよう。地租改正の研究に貴重な資料を提供

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

八五

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八六

する

『覊

地租改正基礎資料』

(以下

『基礬

料』と略す)の響

の蟹

では、中央政府と各府県との関係について

のように述べている。すなわち、

「地租改正においては、大蔵省租税寮や地租改正事務局が事業

の全局を統轄し、

府県が事業の実施に当たる。したが

って府県は各種改租上の具体的問題

に当面すると、右の中央政府官庁に伺を立て

の指令を仰ぐ。事柄によっては内務省に対して同様

の措置をとる。

これ

によ

って、政府は、各地方きわめて区々で

 

った租法や土地権利関係を画

一的に処理し、全国統

一の地租改正の実施を保障し・兄たのである」と。

この解題にょれば、全国の地租改正が統

一的

・画

一的に実施されたことになる。

一応、そう

いう見方もできるであ

ろうが、

一概に、そうともいえないものがある。地租改正というのはそれほど統

一的

.画

一的に実施できるような簡

単な事業ではなか

った。地租改正条例の第

一章の冒頭に

「今般地租改正ノ儀

ハ不容易事業

二付、実際

二於テ反覆審按

ノ上調査可致。尤土地

二寄リ緩急難易

ノ差別有之、各地方共

一時改正難出来

ハ勿論

二付、必シモ成功

ノ速

ナルヲ要

(傍点筆者・以下同じ)とあるのは、当時の為政者が改租事業を難事業と意識し、地域による差

のあることを予

いた

こと

いる。

地租改正法の地方官心得書

の公布に当た

っても

「別冊地方官心得書相達候条、右之内人民

へ告知

スヘキ条件

ハ、地

漿

那・纛

合抽描黎

評讒

と萱

府県の実状痣

じて実施することを示している。

はいえ、先きのように

「必シモ成功ノ速ナルヲ要

セス」

いいながら、明治八年八月には翌九年末までに改租事業を

竣功するように太政官崗を出したり、事業の統

一的な施行を意図したさ苳

まな施策をと

っていた。大蔵省租税寮改

正局および地租改正事務局の日報

・別報にょる各府県

への通達や指導、両局員の地方

への出張にょる指導などがそれ

である。

政府はこのように早期の統

一的な改租事業の推進も図

ったが、結果は必ずしも政府が意図するようには進行しなか

った。大規模な改租事業を明治

一四年までにほぼ完了したことは、今日の国土調査法に基づく地籍

調査の進行

に比べ

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れぽ驚異的早さであるが、・さきの明治九年末までに竣功すべしとの太政官達を出している点からみれば、改租事業の

捗状況は政府

の意図からかなりずれている。

一方、改租事業そのものについては、さきにみたように政府の統

一化

の施策はあ

ったが、府県単位に実施要項を作成して施行したので、それぞれの間にある程度の相違が生ずるのは、ま

ぬがれないことであ

った。

本稿は、わが国における地籍図の性格を明らかにする

一環として改租事業

の府県にょる相違を明らかにしようとす

 

るものである。こうした意図から、すでに

『府県地租改正紀要』㍉を素材に、府県の相違をみてきた。それによれば、

改租事業の施行期、期間をはじめ、地図の種類

・呼称、土地丈量法などについて府県差の存在が知られた。この改正

紀要は明治

一五年二月に参議兼大蔵卿松方正義から太政大臣三条実美に提出した

『地租改正報告書』の第

二二款を成

すもので、その内容は地租改正事務局員にょるところが大きいと思われる。府県にょる相違をみるには、さらに府県

の布達類や地元町村における史料の検討が必要である。そこで今回は府環の

『地租改正

二付人民心得書』

(以下

『人

民心得書』と略す)およびそれに類似するものから府県にょる相違をみることにした。

なお、各府県の

『人民心得書』の類は、後述のように、まだすべて収集されていないので、本稿

は中間報告的なも

のとなる。

『地租改正

二付人民心得書』

の作成

地租改正法のうち、施行規則と地方官心得書とは、改租事業の具体的な手続きを規定したも

のである。従

って、各

府県が改租事業を進めるに当た

っては、この二つの法令が基準

になる。しかし、改租事業はさきにもふれたように、

この施行規則と地方官心得書とによ

ってできるような単純なも

のではない。政府が地方官心得書を通達した際に指示

したように、各府県は改租事業を進めるに当た

って、県

の実状に即した手引書を作成する必要があ

った。その必要に

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

八七

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八八

えるも

のが

『人民心得書』である。

『人民心得書』の作成過程の一斑は、各府県がそれを管内に布達するに先立

て、政府に伺を立てた文章から知られる。次に引用するのは明治七年

二月

二七日付の岡山県から大蔵省宛に出された

伺文

の一部である

(傍線は筆者)。'

地租改正ノ蒜

ハ・既二綿密ノ御規則及地方官心得圭・等鍵

相成篌

二仗

二照準調査可致ハ勿論

二難

猶細目熟

差示取調方為斟

㊥依之地方官心得圭量

人民

二示スヘキ条件ヲ始メ、羣

ノ際順序簪

内ノ景況

ト官民ノ便宜ヲ斟酌シず

治六年日爨

四+四号千葉県伺御掛紙ヲ以御指霜

成候香

雛形等折衷龜

別冊人民

心得書並地図帳

・地価取調帳、山林原野地価取調小前帳雛形共管内人民

へ告示仕度。右

二付、左ノ条々更

二相伺

 候。

(後略)

この文から推せば、岡山県の

『人民心得書』は施行規則と地方官心得書を基準にしたのは勿論であるが

(傍線④)、

より詳しい取調法を示すために

(同◎)、県下

の状況や官民の都合を考え

(同◎)、またすでに公示されている千葉県

 

『人民心得書』

(同㊥)を参考にして作成された、ということになる。長野県も

「長野県伺撮録」第二条によれば、

 

の岡山県と同じような措置をと

うていることが知られる。小田県

「地租改正着手

ノ儀

二付伺」

の中にも、右の長

野県と類似した表現が存在する。このように各府県の

『人民心得書』

の作成過程には共通点がよみとれる。

ところで、この

『人民心得書』は各府県において作成されたはずであるが、現在までに確認され

ているのはそれほ

ど多くないゆ『基礎資料』

の補巻

の解題には

『人民心得書』「地位等級調査心得書」の類は、

「各府県の地租改正の実

情をうかがう基礎資料的意義をも

つ」ていること、その編者らがすでに相当厖大なそれらの史料を収集していること、

 

しかし

「なお全国を網羅しえたものでない」ことを述べ、、その出版を

「将来

の企画にゆずるべき

であ

ろう」として

いる。

『基礎資料』・の補巻が発行されたのが昭和四七年であるから、かなりの年月を経ているが、それが上梓された

ことを聞

いていない。ー従

ρてう

こにどれだけ

の府県

のもめが含まれているのかわからな越

いずれにしても早期

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に刊行されることが望まれる。

日本地理学会

の地籍図研究グ

ループの有力な推進者の

一入である佐藤甚次郎氏は、近年地租改正関係資料の収集に

 

精力的

に取組まれている。同氏の昭和六

一年に著わされた大著

には各府県

『人民心得書』がかなり現われる。同書

索引

「地租改正

二付人民心得書」

の箇所をみると

二二県を数える

(同書四六七頁)。

そこには記されていないが、

同索引には

「(豊岡県)地租改正

二付人民心得書」(同書四七〇頁)がみられるので、合計では

一四を数える.(表1の

皿欄A)。

..

『基礎資料』の総索引において、

「地租改正人民心得書」(「二付」は記されていない)の項をみ

ると

=

一県を数え

るが、重複するのが二県あるので

一〇県となる

(表1の皿欄B)。うち、先

の一四府県以外のものは五県である。しか

し、五県のうち、

『基礎資料』に

「人民心得書」そのものを掲載するのは

一県もない。わずかに北条県の

「地価調査

心得書」

(上巻四五八頁以下)が載

っているにすぎない。この五県以外では福島

・千葉

・福岡三県

『人民心得書』

が掲載されている。

『人民心得書』の名称でないが、それに類似したものが他の呼称で呼ばれているものが存在する。岐阜県の

「郡村

取調方規則」、

滋賀県

「地租改正取調方心得書」などがそれである。

それらに似たものをさきの佐藤氏の前書

の中

から求めると表1の皿欄Cがそれに当たる。同書では

「作業全般に関する順序や方法についての心得書」と、

「土地

丈量や地引絵図作成などの諸作業

に関する規準」にわけて幾

つかず

つの事例があげられている。同書

によれば熊谷県

には前者

に属するものとして

「地租改正

二付人民心得書」と

「地租改正着手心得書」

の二つが存在するが、

一方は主

として土地丈量に関するものであるから表1には示していない。同様にして、同書

に記されているが、表に載せてい

いものが他にも存在する。

表1の皿欄Aの中でまだ見ていないのが四県存在する。熊谷

・長野

・三重

・豊岡の諸県である。熊谷県は、その大

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

八九

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表1r地 租 改正 二付人民心得書』類一覧

府 県 名 ニエ II 皿 N V

1青 森 地租改正二付人民心得書 M7.11 A 20 ⑭

2岩 手 地租改正人民心得書 B

丈量法心得書並地価帳取調心得書 8.5.27 D 31 21

3磐 前 地租改正人民心得書 B

4福 島 地租改正人民心得書 8.11.? A 52 ⑳

5若 松 地租改正二付人民心得書 7.5 D 20 0

6茨 城 地租改正二付人民心得書 8.5.7 A 22 ⑳

7栃 木 地租改正二付人民心得書 8.11.9 A 17 ⑳

8熊 谷 地租改正二付人民心得書 A

9千 葉 地租改正二付人民心得書 6.9 A.B 23 0

10埼 玉 地租改正二付人民心得書 8.3 A.B 23 18

11神 奈川 反別地価等書上方心得書 7.3 C 34 ④

12浜 松 地租改正人民心得書 B

13愛 知 地租改正二付心得書 7.11 A 35 13

14長 野 地租改正二付人民心得書 A.B

15岐 阜 郡村取調方規則 6.10 C 18 OO

16新 川 地租改正二付人民心得書 8.1 D 1? is

17敦 賀 郡村取調規則 7.5.9 C 23 ⑥ノ

18滋 賀 地租改正取調方心得書 7.10.28 C 16 ii

19三 重 地租改正二付人民心得書 A

20度 会 地租改正二付実地取調心得 7.11.8 C 31 12

21京 都 地租改正二付人民心得書 8.8 A 23 22

22和 歌山 地租改正二付人民心得書 8.3 D 21 19

23豊 岡 地租改正二付人民心得書 A.B

24鳥 取 地租改正人民心得書 B

25島 根 地租改正二付人民心得書 7.12 D 16 ⑮

26岡 山 (地租改正二付)人 民心得書 7.2 A 24 0

27北 条 地租改正人民心得書 B

28小 田 地租改正実地丈量人民心得書 8.3 C 32 ⑰

29愛 媛 地所 ・地価取調心得書 8.8.27 C 23 ⑳

30福 岡 地租改正二付人民心得書 7.10.9   23 io

31三 潴 地租改正二付人民心得書 7.10.? D 26 0

32大 分 地租改正二付人民心得書 7.4.19 D 15 O

33白 川 地租改正二付入民心得書 7.8 D 30 ⑧

※ 皿は主に作成年 月 日,皿 は本文89~91頁 参熙,Nは 条文 の数,

Vは 表2に 掲載の府県,数 字は作成年月の順位。

九〇

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部分が現在の群馬県に属しているが、県史の

「地租改正」部門

の史料

の中には、さきにみた

「地租改正着手心得書」

 

「地位等級定方心得書」などはみられても、

『人民心得書』は見当らない。長野

・豊岡両県は

『基礎資料』を見る

かぎり、作成されたことは間違

いないと思われるが、まだ見る機会を得ていない。豊岡県の場合、

『租税寮改正局別

 

報』

一号に載る

「豊岡県伺」および右指令

によ

って、その内容がある程度知られる。佐藤氏の著書

に引用されている

 

豊岡県の

「地改正

二付人民心得書」第

二条は、

『基礎資料』に載る

「豊岡県伺」に記されている第

二条とほぼ同じで

る。両者が同じものであるか否か確認していない。

表1のDは、主として昭和六

一年度

の文部省科学研究費による資料収集の過程で得たものである。佐藤氏の著書

現われる

『人民心得書』以外では七県を追加したにすぎない。若松

・新川

・和歌山

・島根

・三潴

・大分

・白川の諸県

がそれである。岩手県

「丈量法心得書並地価帳取調心得書」は、

『人民心得書』と同じような内容

のように見える

 

「岩手県伺人民心得書撮録」にみられる若干の条項と比較してみると、両者の間には関係がみられない。

以上のA~Dを合わせても、当時

の府県数の約半分にすぎない。しかも、この中でAとABおよびDはその存在が

ほぼ間違

いないと思われるが、Bはいまのところ確認できない。また、表1以外にも酒田県

・高知県

のようにそれぞ

の県賜

によ

って

「人民心得書」が作成されたことが記されているが、そのものは掲載されていな

い。後者の場合は、

 

「高知県立図書館蔵」とありながら同館に見当たらないということもある。

いずれにしても、これらの資料が、組織

に収集され、出版されることが望まれる。

一方、府県史などの近現代の資料編

には、是非この種

の史料を掲載して

ほしいものである。

さて、本稿で対象とする

『人民心得書』類は表1のV欄

に○印を付したもので、その数は二五を数える。その内容

ついては後節においてふれるが、作成年次は千葉県の明治六年九月から、栃木県

の明治八年

一一月まであり、条項

も大分県

の一五条から福島県の五二条

(含前章)まで、

その差が大である

(表1のW欄)。

同じ

『人民心得書』とい

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

九一

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九二

われるものでも、府県により相違

のあることが知らされる。

千葉県

『人民心得書』の意義と性格

 

明治六年

一〇月

『租税寮改正局日報』四四号には千葉県の

『人民心得書』が載

っている。これ

は、わが国の府県

『人民心得書』としては最初期

に作成されたも

のである点、それが日報によ

って全国に配布され、諸府県の

『人

民心得書』の作成気運にある種の刺戟を与え、かつそれをサンプ

ルにした府県が多い点などから、大きな意味をも

ているように考えられる。その日報

には

『地租改正

二付人民心得書』のほかに、その前に

「千葉県伺大意」、その後

「地価取調帳」

「字

一筆限地図帳」

の雛形があり、最後

「右指令」が付け加えられている。この指令は、ほぼ法規

としての効力をも

ってい煽とされるが、日報

に指令だけでなく、

「千葉県伺大意」から地図の雛形までも掲載された

ことは、それが他府県

に与えた影響から考え、そのも

つ意義は大きいといえよう。

千葉県の『人民心得書』が載る

『租税寮改正局日報』は明治六年

一〇月四日付であるが、これは指令の出された日付

である。さきの

『人民心得書』の末尾には

「明治六年九月」と記されている。ということは、地租改正法が公布され

てから、わずかニヵ月後

には

『人民心得書』や

「地価取調帳」雛形などができていたと

いうことになる。山田安彦氏

の研鑷によれば、同県の

「字

一筆限地図帳」は明治六年中

に作製されている。千葉県

の改租事業

の土地丈量

・地図作

製がいかに迅速であ

ったかが知られる。同氏によれば千葉県のこうした取組みは県令柴原和

の行政手腕と、近世以来

の系譜をも

つ和算家の活動などが影響しているようである。

さて、さきに千葉県の

『人民心得書』は、わが国での最初のものであり、それが全国に配布され、諸府県

の改租事

に影響を与えたであろう、という点において大きな意味をも

っていると述べた。その大きな意味をも

ったと考えら

れる同県

『人民心得書』は、どのようなものであろうか。前節では

『人民心得書』の作成過程を岡山県などに例を

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ってみたが、

ここではまず日報に載る

「千葉県伺大意」からそれをみてみよう。その内容を列挙すると次のように

なる。

・今般の地租改正は

「至大至重」の事業である。

・各県がまちまちにならぬように政府から綿密な施行規則と地方官心得書が渡されている。従

って

・改租事業は誤解はない筈だが、細民は固着

の弊習が多

い。従

って

・出来る限り詳しく指示して取調べさせたい。

ついては

・地方官心得書の中から人民に示す条件、着手の際の順序、その他をこまかく記した人民心得書を作りたい。それを

・地価取調帳、地図帳雛形等と共に管内の人民に示したい。

.心得書や取調帳の中には前の地券取調の際と達うものもあるが、それは管内

の景況と将来

の官民

の便宜を斟酌して

のことである。

・これが許可になれば直ちに上梓し、管内全村

に配ばり、早

々に着手したい。

この伺大意は簡単な文面

のようであるが、

『人民心得書』

の作成経緯

の概要が知られる。また、さきにふれたよう

に岡山

.長野その他

の県では、

『租税寮改正局日報』

に載る本県

のそれを参照したが、それらの諸県の中には、

『人

民心得書』

の条文だけでなく、政府

への伺

の文面まで参考にしたものがあるようにみられる。

「千葉県伺大意」や、

さきの岡山県の伺文

の中で

「綿密な」

と表現され、

またそれらによ

って

「聊誤解無之筈

候得共」といわれる施行規則と地方官心得書とは、千葉県の

『人民心得書』にいかに関

っているだろうか、関心のも

たれるところである。これらを比較するため、また千葉県の

『人民心得書』は後節でも利用できる

ので、やや紙幅を

るが列挙する。千葉県の

『人民心得書』の各項に関連した事項が施行規則にみられるところは傍線を付してω、地

方官心得にみられる場合は傍線を付して@と記した。その下の数字は前者は則、後者は章の序数である。また、傍線

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

九三

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九四

の実線は両者

の条文が殆んど同じであり、点線は表現に若干の相違をみるが内容的にはほぼ同じことを示している。

なお、第

一条第二条……はー

・2……とする。そ

の他は原文のままである。

地租改正

二付人民心得書

(千葉県)

`-齢:

0

1

今般地租改被

仰出候

二付追,郊相渡候券状面之儀

ハ旧来石盛の不同と貢租の甘苦に因り高低有

之儘の地価をIjta載

するものなれ

ハ此度地租改正に付て

ハ実地相当之真価

に無之候間御規則第

一則の通り従前の石盛井貢租等

ハ一切無

  ロロ 

ココココロ

コココ

コココ

ロ   

ココミ

ロコく

ココココ コ ミ

ココ

きものとし更に其土地

一歳取上け米金の作益を見積り第二条

の通取調地価何程と持主限,り銘,<見込の実価を為申出

r其邨正副戸長共篤と調査の上不都合無之に於て

ハ別紙雛形の如く帳面相仕立

一筆限り拝主名前下

へ調印せしめ正副

戸長立会人共奥書連印の上可差出事

2

地価積リ方

ハ従前直作小作地の別なく小作入付何程といたし地,価積リ来候地

ハ仕来

に基き右入付高

の内より此後

の慧

酬雛

引去り全く地主所得になるへき米金を蔀

従亠削売買仕来の方法に仍り地価を

ロ㈹

算出記載可致事

一ケ年全の取上高を以て積り来候土地

ハ第三条の振合を以積り方可致事

3

畑方永取の場所等

ハ従前小作入付高

ハ実地と適当不致分不少に付右様の地

ハ小作地と雖とも小作高

に不拘直作

`ものと見なし

一ケ年取上惣数

の内より種肥代を始此後

の地租村入用等を引去り其余第二条の振合を以て更に至当の

代価を見積可申立事

但永小作の地も入付高実地適当不致候間本文之振合を以取調可申立事

4

雛形に記せる収獲糞

他の品類ハ蠡

年く其地よ星

せる取上高の惣整

して種肥其他の諸膊

引去らす有

のま二書出すべし尤其年く豊凶に寄り

一定ならすと雖とも平年

の作柄を以て正実

に書出し可申事

5

従前用来候反別

ハ往古の検地帳或

ハ名寄帳等に拠り候事

にて検地

ハ土地に寄地所

の余歩を取

るに種

くの方法あり

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又古今の規則

一様ならす名寄

ハ村方恨りにて調たる帳簿なれ

ハ誤来

るも

の尠からす総て年暦を経天災地変等の

為に帳簿上と実地と大に相違

いたし或

ハ広く或

ハ地詰りになり来れるもの多けれ

ハ御規則第二則

の通り是,迄σ幗簿

に拠る時

ハ地の広狭適実,な残ず陰に地価

の昂低をなし其相当を失ひ候に付現に今有

る所

の全

の歩数を更副精密

イ 

ゆ取調別紙雛形の振合に字

一筆限の地図を製し然して一邨の惣絵図を仕立之を以て根本とし諸事取調可致事

6

実地歩数を定るにハ先ッ村役人立会蕚

に畝杭を建置き蝋る後に讐

畑持主共申合耕地へ臨み経界を正し銘

く限り持地有の儘の形を画き入歩出歩等見計ひ屈曲を平均して縦何間横何間と間数を量り其間数に応し坪詰いたし

一筆毎右之通取調村役人へ差出し役人おゐてハ右絵図を以尚又実地に臨み其地拜隣地持主再び為立会歩数を改め相

違無之上ハ畝杭へ更正之反別を認め此絵図を元にして第五条の字限地図を仕立可申事

但持主限り銘く間数其外可取調ハ勿論なれとも小前末くに至りてハ坪詰等出来兼候ものも可有之に付親類或

ハ組

合等相互に助合役人共おいても精く世話可致事

7

字限地図井

一邨惣絵図出来の上ハ之を掛り官員出張取調所へ差出し検査を受夫より地価取調帳を相仕立可申事

8

実地有歩を調出し候とも地租改正の上ハ地価により貢租民費等差出候儀にて反別の多少にハ拘わらさる訳に付後

来紛乱の憂無之様極めて精密に反別取調可申事

9

是迄

一筆壱畝歩内外等の小筆に而不都合之分ハ此度壱人持に而地続之分に限三畝歩迄

ハ合併

一筆に致し候儀願に

寄被差許候条合筆いたし度ものハ別紙取調帳の振合に照し元の畝歩を肩書に記し可差出事

10

畝杭之儀御規則第十四則の通達之処当管内邨くハ昨年来地券取調之節夫く打建有之二付右畝杭の片面へ改反別何

程と書加へ不苦候得共杭木手弱なる分

ハ後来紛敷義無之為め更に打替可申事

11

新開地鍬下年季中者御規則之通り無代価の券状可相渡候得共従来多くハ見積の凡反別を用来候義

二而年期明之節

検地等の手数を省く為め更に其土地の現反別を量り有体可申立事

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

九五

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イゆ

12

新開鍬下年季願済の分d御規則第十二則之通其年季中無税之筈

二付無代価の券状可相渡若鍬下中の名義に候とも

是迄年季の定めもなく両三年以前より多少作付もいたし或

ハ鍬下税等納来候程の場所

ハ相当之代価申立御規則の通

税納可致候事

但鍬下税等納来候地所と雖とも其実作付不相成荒蕪の地ハ本文の例に無之御規則第十二則に準し可申立尤是迄鍬

下税納来候趣反別腹書に相断可申事

13

是迄高内引の剤地ハ御規則第十則の通年季中無代価の券,状楫渕側に付

ハ従前貢租弁納致し来候荒地と雖とも

イゆ

損害の厚薄により更に可起返難易を量り年季を定め其年季中無税相成候に付川欠川成等にて旧地の形状を失ひ反別

難改分の外

へ生地同様現歩数を取調可申立就でハ是迄引方相成候地と雖とも既に起返作付等致し候地所

ハ現歩を改

め至当之代価可申立事

コイゆ

但荒地と雖とも瀏溷成等にて水草又

ハ魚鳥等の利潤有之,分,バ,凡の反別を記し相当之代価,申,立御規則第十

一則之通

りたるへき事

14

番号之儀

ハ従来の本田畑宅地尻付新田を始社寺

の上知反高大縄場等

ハ勿論試作地或

ハ社寺境内地墓所地堤外不定

地其他池沼持山秣場野地海岸空地諸物干場官林等の類に至迄

一邨進退

の地

ハ悉く他所

の順序を以持主に拘らす

一筆

限更

二新規押番を付可申事

15

甲村

の地所乙村内

へ飛地に相成居候分

ハ甲村地押番号の末番に加

へ地図

ハ実地の遠近に随ひ惣絵図中

へ載せ候と

も別紙

にいたし候とも都合次第に取調又乙村より甲村内

へ飛地入交候分

ハ甲村地図上

へ色分けいたし何村何地と記

載可致事。

16

繍場野地或

ハ池沼等の矧

入会候公有地

ハ第十四条の例に無之番外にいたし其入会之数邨役人連印して凡の反別

 

ミロコミミコ ミイ  

井図面とも別段に仕立地価をも記載差出可申事

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17

壱人又

ハ数人惣持の山林原野等其邨に属せる地所

ハ地価取調帳銘く所持の田畑宅地名寄の外書

に各種限り書加

合計いたし其他左

の各種

の地所

ハ取調帳惣計の外書に書載せ可申尤地所番号

ハ十四条の通り心得可申事

神地

官庁地

官用地

官有地

公有地

r

〃册

除税地

右各種の名称

ハ本年第百十四号の御布告見合可申事

18

藪林等にて是迄高外の地と雖とも現今田畑になりし分ハ田畑の部に加へ藪畑成又ハ林畑成何反歩と可認又之に反

して元高内の田畑にて現在藪林芝地等に変せしものハ畑林成又ハ畑芝地成何畝歩と記載し従前の山林と等しく外書

の部

へ入へし其他総て旧名に不泥現在の地形に寄り区分し可取調事

19

従前切畝にいたし置候分是迄何番之内切畝と記し候へ共固より人民の都合に寄既に裂地にいたし候上ハ現在切畝

の歩数を以更に別筆の新番を付可申事

、但少歩数にて此際合筆に致し度ものハ第九条之通可心得尤向後屋敷地の外ハ兼て御達の通百坪以下の切歩不相成

事20

地券取調に付昨壬申年切添切開隠田等の類此度限り

一切被差許候旨御布告有之開墾地たりとも既に作付出来候分

ハ地代金上納をも被差免候儀に付是迄書上漏之分ハ無之筈に候得共若し漏落等有之ハ相当之地価を付有体可申立万

一地租改正の後に至り隠歩等有之於てハ今般更に被仰出候御布告の通欺隠田糧律に準し所刑相成候条心得違致間敷

事21

地価の髏持主小作人共自身に調方致し候上ハ決而不相当なる事

ハ無之筈なれとも万一地租を減せん為に低価に書

出候様之儀有之候とも官にハ夫く検査の法則ありて其当否を検査し不相当と見込候時

ハ調直し之儀申達尚不服の者

ハ御規則之通り入札又ハ買上等q処分致レ候に幅心得違不致第

一条の趣相守見込の定価有体可申出事

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

九七

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/

九八

22

一大区或

ハニ大区毎に壱ケ所

つ玉取調所を設け官員出張地租改正の事務取扱時く回在諸事差配可致事

23

右箇条の外字

一筆限地図帳井地価取調帳等の雛形を能く熟知不都合の儀無之様注意可致若了解

いたし兼候廉有之

ハ・何ケ度なりとも伺出精密

二取調可申事

右之通可相心得事

明治六年九月

千葉県

はじめに千葉県の

『人民心得書』の中

に施行規則

の条文がどの程度みられるかについてみる。前者の中には

「御規

則第何則の通り」といった表現が六ヵ所

にみられる。また傍線④も七か条にわた

って存在している。従

って、千葉県

『人民心得書』は施行規則に拠

っているといえる。しかし、前者には二三か条、後者には

一七か則あるところから

すれば、密接な関係があるとは言い難い。

『人民心得書』と地方官心得書との関係は

一層疎となる。もちろん、地方

心得書は改租事業の具体的な手続きを規定したものであるが、その名称が示すところからして、民間に示されるこ

とは少なくて当然といえよう。

『人民心得書』と施行規則とが対応する条項を

一部比較してみよう。前者の第

一条は後者の第

一則

に対応するが、

者の方がより具体的で盛られていることも若干多

い。前者の第五条と後者の第二則とは

一部にお

いて対応するが、

これも前者では従来の反別の不当性を説明したり、

一筆限地図や

一村惣絵図を諸事取り調べの基本資料とするよう指

示するなど、後者を敷衍した形で表現している。土地丈量ないし官員の検査に際し、

一筆毎の地所

に建てる畝杭につ

いては、千葉県

の心得書には第六条と第

一〇条、施行規則には第

一四則に記されているが、とくに前者の第

一〇条の

存在は後述のように千葉県の現実的な対応といえよう。その他にも、合理的な手法、柔軟な対応などを感じさせるも

のがある。

地方官心得書は、さきにもふれたように、民間に直接かかわる部分が少ないため、

『人民心得書』の条文に対応す

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るのはわずか二か所にすぎない。

『人民心得書』の第

二条と第四条が、地方官心得書の第四三章と第四四章とに対応

るのがそれである。ここでも、千葉県のそれの方が若干詳しく記されている。

『人民心得書』の二三か条にかかわ

るのはこの程度であるが、それに続く地価取調帳

の雛形に記されているものの中には、地方官心得書と同じ内容

のも

のが若干みられる。前者の田および畑の収穫

に関した補注は、後者の第四〇章のそれとほとんど変

わらない。また、

地価取調帳の奥書

の体裁も両者はほぼ同じである。

 fi

千葉県の

『人民心得書』の条項の中

には、明治五年の地券渡方規則の条文に類似したものが若干みられる。後者

一八条の

「屋敷地之外切歩

ノ儀

ハ百坪以下

ハ難相成事」は前者の第

一九条の但書に似ている。そ

の条文

の中

にも

「兼て御達

の通」りとある。また、地券渡方規則第一=

条の

「従前切添切開並高外地

へ試作致

シ候」分や

「隠田タリ

モ此度限リ

一切差許候間、有体可書出旨申渡事」と、第二二条の

「地券相渡候後

二於テ隠田等有之候節

ハ此規則第

一二条密売買

ノ例ヲ以テ所置可致事」の両条は、千葉県の第二〇条に引き継がれているとみてよいであろう。

以上のように、千葉県の

『人民心得書』の条項および地価取調帳

の雛形

の中

には、施行規則や地方官心得書、ある

いは地券渡方規則などと同

一ないし類似したものがみられる。

これは

『人民心得書』の作成

にそれらが関わ

っている

ことを示している。しかし、前年

の古い地券渡方規則は別にして、施行規則などに含まれている事項で千葉県の

『人

民心得書』に見当らないものがある。それらの中

には、千葉県

『人民心得書』にはないが、他の府県のそれにはみ

られるものも存在する。ということは、

『人民心得書』の作成者

の意図ないし視点の相違によ

って、また府県の事情

によ

って、取り上げる条項

に差

のあることを示している。

府県別

『人民心得書』類の対比

前節では、わが国で最初に作成された千葉県

『人民心得書』についてみてきた。その前には、明治初期の諸県の

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

九九

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一〇〇

には、自県の

『人民心得書』の作成に当た

って、施行規則や地方官心得書の他に千葉県のそれを参照したもののあ

ことを紹介した。そこで、本節では、手許にある各府県の

『人民心得書』およびそれに類似した規則類を、千葉県

のそれと比較してみる。対比するのは主として条

(章の場合も存在)単位であるが、但書

の中には独立的に扱

ったも

のもある。従

って、対比数は表1に示した条文数とは

一致しない。ただし、表2のー~23は、前節

に掲載した千葉県

『人民心得書』

(九四頁以下参照)

のそれに付した番号と符合する。

 

表2は、わが国で最初につくられた

『人民心得書』ではあるが、千葉県と

いう個別県のそれを基準に作成したもの

であるから、これから多くのことを読み取ることはできない。しかし、表を概観しただけでも幾

つかのことが注目さ

れる。まず、全体的に空欄がかなり多いことに気づく。

これは、先

に千葉県

『人民心得書』が地租改正法公布後の

間もない明治六年

一〇月

『租税寮改正日報』に掲載されたことから、多くの府県に影響を与、兄たであろうとする記

に必ずしも符合しないことを意味している。

そのことと関連するが、各府県

『人民心得書』類の条文には、千葉県のそれと直接的に関係しない条項がかなり

多く見られる。表2の千葉県の最後

「その他」とある欄に記されている数字はその数である。

一箇

の条文の中

には

複数の内容を含むものがあり、また、表現に府県差もみられるので、視点を若干替えることによ

って、表中の記号や

数字は変わ

ってくる。しかし、空欄の数とその他の数の多い県が相当多く見られるのは、結果的には千葉県の

『人民

心得書』の影響力はそれほど普遍的なものでなか

ったことを物語

っているといえよう。

とはいえ、表2を縦に見ると、二重丸ないし

一重丸が連続的に並ぶ府県が幾つか見られる。

これは明らかに千葉県

『人民心得書』と同じか類似しているものが多いことを意味している。特に二重丸は埼玉

.若松

.愛知

.和歌山の

諸県に多い。これらのうち、ほとんどが

二重丸で条文の配列が千葉県のそれに従

っている場合は、ほとんどそのまま

利用したと見てよいであろう。その点からすれば、本表

の事例の中では千葉県の心得書に最も近いのは埼玉県である。

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さきの二において、岡山県が

『人民心得書』を作成するに当た

って、

『租税寮改正局日報』に載

る千葉県のそれを

参照したことを示す史料をあげた。その岡山県を表

によ

ってみると、

二重丸は六箇で

一重丸を合わ

せても、その数は

同県の条文全体の半ばに達しないが、千葉県の

一から六条までの順序が同県のそれと符合すること、それ以降

の両県

の条文の順序も対応する部分が存在することなどから、岡山県

の心得書は千葉県のそれに依拠するところがあ

ったと

みられる。このようにみると、先

にあげた諸県以外にも千葉県の

『人民心得書』を参照して作成した府県が存在して

いたとみてよいであろう。

一方では、栃木県

のように対比できる条文が乏しく、対比できるものでも類似するものが

少なく、明らかに千葉県のそれと異なることを示している県がある。

『人民心得書』に類するものとして取り上げた

滋賀県の地租改正取調方心得書もそれに近い。この種のものについては再検討の必要が感じられる。

に表2の横列を少しみておく

ことにする。全体に空欄がかなり存在することは、先にみたのと同様で、千葉県が

り上げた条項が、必ずしも各府県で取り上げられていないことを示している。また千葉県が取り上げていない条項

がかなりあることは、

これまた先

にふれた

「そ

の他」にかなりの数が記されていることから推察される。その中にあ

って、各府県が条項に取り入れているのは、条文番号の第

一・二

・五

・六の各条および第

一三

・一二

両条である。各

条文はさきの二に全文をあげているが、地価決定の基本方式にかかわることや、実地歩数

の定め方、荒地の扱い、あ

いは地所め漏落、隠歩

の処置など、重要なものが含まれている。

他方、

『人民心得書』類の条文の中で、取りあげている府県の少ないものが幾

つか存在する。とくに少ないのは条

の但書に記されているものの中にみられる。第

一二条但書

の鍬下税などに関わる荒蕪地の処理、あるいは第

一九条

但書

の屋敷地以外では百坪以下の切歩は不可、という内容のものがそれに当たる。その外には第八条

の反別は貢租に

関係しないので精密

に取調べること、第

一七条の山林原野などの扱い、第

一九条の切畝の地番付などが含まれている。

これらの条項は重要度がやや低いように考えられる。

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一〇

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11O1

表2千 葉県 『人民心得書』各条文と他府県のそれらとの対比

千葉 岐阜 岡山 神奈川 大分 敦賀 若松 白川 三潴1福岡 滋賀 度会 愛知 青森 島根 新川 小田 埼玉 和歌山 茨城 岩手 京都 愛媛 福島 栃木

1条 △ 0 △ 0 v 0 0 0 0 0 O 0 0 0 0 0 0 0 △ 0 O 0

2 0 0 △ 0 0 0 0 D 0 v 0 0 0 0 △ 0 0 0 0 △ 0 0 △

3 v 0 0 0 v 0 △ 0 v 0

4 0 0 △ 0 0 0 O ◎ ◎ 0 0 0 0 0 0 △ O OO

5 v D △ 0 O D 0 △ 0 0 D O 0 0 0 0 0 0 0 0 v

6 △ 0 △ 0 V O 0 OO 0 D 0 0 D △ O 0 ◎ D 0 0 O △

0 0 0 ◎ OO 0 v 0 v 0 0

7 D △ v 0 O v ◎ v △ 0 0 v 0

8 0 0 ◎ 0 ◎ 0 0 0

9 △ 0 v OO 0 △ v △ △ △ △ 0 △ △ △ △ △ v

10 X X 0 X X X X X X X X X X

11 0 △ 0 0 O 0 0 0 0 0 △ O

12 0 0 0 0 D 0 Oo OO ◎ △ 0 0

0 X 0 0 v OO 0 ◎13 0 0 v D 0 0 0 0 V △ 0 0 0 0 0 0 0 0 v ◎ 0 0

0 0 0 0 0 ◎ 0 0 ◎ 0 0 OO O 00 0 0 0

14 X 0 0 0 △ O ◎ O D 0 0 0 0 △ O 0 0 0

15 D 乂 0 D X v X 0 X 00 0 △ O O v X v

16 △ △ △ 0 0 0 v v 0 0 △ 0 0 0 O v 0

17 D 0 △ 0 0 △ O △ △

18 0 0 0 OO △ 0 0 0 0 0 OO D 0 0 0 0 0 0

19 O 0 O 0 0 v 0 0 O

0 0 0 OO 0 O 0 0

20 0 ◎ O 0 0 0 O O △ 0 0 OO 0 0 ◎ OO 0 0 △ 0 OO v

21 0 O O 0 O D 0 △ 0 △ 0 0 O 0 0 0 OO 0 O 0 0

22 V 0 0 0 v ◎ 0 0 0 0 ◎ △

23 O 0 0 0 0 △ 0 △ 0 ◎ D 0 △ 0 O 0 0

その他 8 7 20 3 14 0 13 11 4 7 13 13 4 2 1 17 0 6 5 21 18 14 27 12

◎:千 葉県の条文 と同文またはそれ に近い。 ○:両 者間に若干 の過不足 がある。 △:異 質のものの加除があ る。

V:ご く一部のみ関連 する。 ×:全 く異 なる。

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畝杭

・合筆

・飛地

の扱いに見る府県差

前節では、各府県の

『人民心得書』類にみられる条項別の異同を概観した。本節ではそれらのうち幾

つかを取り上

げ、具体的に対比してみたい。対象の事項は限定せざるを得ないので、ここでは土地丈量やその検査などに用いられ

た畝杭、

一畝内外の小筆の合筆、および現在でも

一部の自治体で問題

にな

っている飛地の扱いないしその処理法を中

心にした三点に限ることにする。

(一)

まず、畝杭についてみる。さきの表2からもわかるように、畝杭

のみを扱う第

一〇条はほとんどすべての県が千葉

県と相違する。またハ第六条

の記号の配列状況から、そこで扱われる畝杭についても、かなりの変

化のあることが予

される。とくに明治五年

の地券取調

の節に建てた畝杭を用いてもよいとする千葉県の第

一〇条は、同県の

『人民心

得書』を全面的に採用した埼玉県でも、この条文に関連した部分だけは変えている。若松県の畝杭

の条文

(第九条)

は、千葉県

の表現と異なる部分もあるが、内容はそれに近い。いずれにしても、この条項は千葉県が経費

の節減を計

って決めた独自の条文であ

ったといえよう。ただ、それが可能であ

ったのは、

『人民心得書』としては最初のもので

り、壬申地券取調の時期とあまり隔たっておらず、その損傷が少なか

ったことによると思われる。

さて、千葉県では畝杭を第六条と第

一〇条で扱

っているが、度会県

の如きは六か条にわた

って現

われるなど、府県

によ

って多様である。そこで、各府県の

『人民心得書』類から、畝杭に関する部分を抽出し、内容

によ

ってグループ

分けをしてみることにする。

ω

千葉県

『人民心得書』の第六条

にみられる形

の畝杭が最も多い。

この条項は先に掲げたが

(九五頁参照)、

のために設けたものでなく、

「実地歩数を定める」順序

・方法などを示した条文の中でみられるものである。そこ

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一〇三

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一〇四

にはω村役人立会下で各人の持地に畝杭を建

てること、@役人と其地並びに隣地持主の立会で確認

した更正反別を畝

に認めること、の二つが記されている。これに同じか類似した表現は大分

・白川

.福岡

.愛知

.和歌山などの諸県

にみられる。和歌山県の第五条では@の畝杭には字

・姓名のみを記入し、ωのそれには後に調査した現実の反別

.番

号を記したことが記されており、改租過程の

一端を知ることができる。青森県と岡山県は記載内容

に若干の相違をみ

るが、基本的にはこれに属するとみてよいであろう。この形式は比較的初期に作成された

『人民心得書』にみられる。

Uり

若松県

の第五条ではωのωを欠き@のみ記されている。@の部分には

「兼テ建置候畝杭

へ」

とあるので、村役

人立会であ

ったか否かは別として、ωに類似した作業の行われたことは事実であろう。従

ってこれはαとする。

次は畝杭の記された条文の箇所

「御規則第十四則

ノ通リ」と

いう文面のみられるものであ

る。明治六年七月

に公布された施行規則の第

一四条には

「官員派出ノ上実地点検可致就テ

ハ持主銘々所持

ノ地所

一筆毎

二反別並番号持

主姓名相記シ畝杭可建置事」と記されている。これによ

って、畝杭が派出官員の実地検査

に利用されたことと、それ

に書き入れることを指示された項目が知られ

る。この②に属するのは三潴

・島根

.新川の三県であ

るが、それぞれの

畝杭についての扱

いには差がある。島根県は畝杭を独立の条文で扱

っているが、他はさきのωと同じように

「実地ノ

歩数を定

ムル」手順ないし方法を示す箇所で扱

っている。また、畝杭に記される事項は、施行規則

に忠実

に従

ってい

のは新川県

のみで、他の二県は異な

った表現がとられ、畝杭そのものの雛形も島根県

は丸太、三潴県は角材といっ

た相違がみられる。

②では施行規則の第

一四則の通り、と表現している県をまとめたが、神奈川県

「反別地価等書上方心得書布

告」

の第三〇条の内容はそれに近いものとみてよいであろう。同条には

「更正反別地価等書上相成候

ハ、改済

ノ上官

員場所出張実地検査可致、付テ

ハ地引絵図

二引合

セ一筆毎反別拜番号持主姓名相記シ畝杭建置検査可受儀ト兼テ心得

可罷在事」とある。内容的には上記の②に類似しているのでこの種

のものはσとする。これに該当す

るも

のと

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に岐阜

・岩手両県があげられる。前者は同県の

「郡村取調規則」第九条と第

一〇条によ

って、後者は同県の

「丈量

心得書」第

一八条によ

って知ることができる。岐阜県の第

一〇条には

「郡村下調相済次第掛官員実地

へ派出検査及

ヒ候

二付地所

一筆限字番号及

ヒ東西何間南北何間又

ハ竪横何間

ニテ何段何畝歩ト地主名面トモ明細

畝杭

二記シ置可申

事」と述べている。岩手県の場合も縦横の間数を求めるなど、似たところがみられる。

滋賀県の地租改正取調方心得書第九条と京都府の

『人民心得書』第六条には、

「御規則第

一四条」とか

「掛官

員派出」とい

った事項はみえないが、前者

「地所取調相済候上

ハ」の後

に、後者では

「反別調出実価取調済ノ上

ハ」に続いて、成文化はされていないが、ちょうど、先

の岐阜県の郡村取調規則第

一〇条の

「郡村下調相済次第」の

「掛官員実地

へ派出検査及ヒ候

二付」といった類のことが略されているように思われる。従

って、この二県は②

の系統のものとみなし、禦としておくことにする。

ωと②系統の二つの内容をもつのが小田

・埼玉

・福島の三県にみられる。埼玉県の場合は、第六条に千葉県の

六条と同じω

の内容

の条文があり、第

一〇条にはさきにふれた千葉県のそれとは異なる②に示した内容の条文があ

る。福島県

の場合はω

の内容が第

一章の第二、第三の両条にわたり、②の内容が同第四条に記されるなど、記述の体

は異なるが内容的には同じとみてよい。また、小田県の場合も、その第

二条にはωのωの村役人立合のこと、およ

び@の事項は見当らないが、第五条には②の内容が記されているので類似

のものとみなされる。また、第五条には上

のほか施行規則の第

一四則にみられない田畑の等級その他が記されているなど、③も数は少ないがかなり変化に富

んでいる。

以上のω~③に属さないようにみえる県が若干残

っている。それぞれが異な

った形で示され

ているので、これ

はその他として扱うことにする。

その他①

度会県は先にふれたよう畝杭が六か条にわた

って現われる。第四条では持主銘々において

一畔毎に字

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一〇五

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一〇六

反別

・持主名を記した畝杭を建てること、第六条では正確に反別を取調べるため官員が出張し、

一筆毎に畝杭を改め

るので不安な者は改めて正実な取調べをすること、第七条では村内耕地の全部に畝杭が建てられたら村役人達で耕地

絵図と実地田畑を照合し、新しい押番を

つけること、第九条では耕地絵図に番冖号を付けた時に畝杭

にもそれを書入れ

ること、第

一〇条では持主銘々は畝杭面の反別により其の地

一歳の取揚高

の総数と相当

の地価を見積ること、第

一一

では正副戸長において持主より指出された収穫地価取調帳が畝杭乏符合するか否か照合することなどを規定してい

る。単純な条項が多いが、改租事業の過程が理解できる。なお、第六条の官員の畝杭改めは、②の点検と異なり警告

的意味をも

ったものと考えられる。

その他②

栃木県は第

一章が

「地引絵図編製

の事」となり、その第

一条に

「地引絵悩ヲ製スルニハ村役人立会左ノ

雛形ノ通リ銘々持地

二畝杭ヲ建」と記し、それに

「畝杭

ハ現地ノ種類ト番号ト持主名面トヲ可書、尤モ官有地モ其旨

記載畝杭建置可申事」の注記をつけている。注記のあとに、ω

「実地歩数を定るに

ハ」の条文によく見られた

「隣

地持主申合経界正シ置」くといった記事がみられる。そのことから、①に属するようにもみえるが、章のタイトル、

一条の冒頭の文、割注に記している畝杭

への書入れ事項などを見ると、それとは別のタイプにみえる。とはい、兄、

千葉県の第六条には畝杭建のほか、経界の整理、坪詰、字限図仕立などがみられるように、これらに密接な関係をも

っている。おそらく畝杭は

「地引絵図編成」のためだけに用いたのではないであろう。

その他③

茨城県の畝杭は、同県の

『人民心得書』の第

一条

に記されている。同条の本文後半には

「銘々持地限境

を正

シ一筆毎竿入イタシ

(中略)地引絵図ヲ仕立、

一村落総追番

ヲ以テ隠地落地ナク精密取調改

正ノ反別拜字番号

持主名前共明瞭

二記載シ

一筆限リ畝杭相建可申事」とある。これは隠地落地のない精密な取調事業

を意図↓たもので

ろう。畝杭それ自体についての位置づけが明示されていないが、畝杭に記入される事項が施行規則

の第

一四則と同

じであることからして、官員

の実地点検

の便宜を頭においた畝杭の規定と考えられる。

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その他④

愛媛県の地所取調心得書

の第

二条では、平坦地は区別するに及ぼないが、山地などの地形によ

っては幾

つにも区分して調査せよ、と述べ、その後

に次

の三つの標木雛形を示している。イ耕地標木雛形、

ロ一筆限畝杭雛形、

ハ山林杭木雛形がそれである。イの耕地はいわゆる田畑の耕地ではなく、河川

・道路などで区切られた

一定区域をさ

している。本稿で対象とするのはロである。

ロの雛形には地目

・反畝歩

・持主名

・番地と郡村名

・等級、畝杭を建て

た年月を書くようにな

っている。第三条の

「実地歩数を定むる」条項では、ωのイの内容が記されているにすぎない。

畝杭に記されている項目は、その他③と若干異なるが、畝杭の機能

は同じとみてよいであろう。

その他⑤

敦賀県の郡村取調規則には畝杭が三か条に記されているが、第

二条と第

一四条では要するに地主は持地

一筆毎調査して畝杭を建てること、第

一五条では山間棚田は畝杭に棚田何枚、合わせて何段歩と書き、平地の耕地

で便宜的に

一筆の地券で申受けた分は畝杭に但何枚と記入し、

一筆

の現段別を申立てること、と記されているにすぎ

 ,a

ない。ただ、雛形によ

って畝杭には字

・番号

・反畝歩

・地主名を記していたことが知られる。

このように、

『人民心得書』類に現われる畝杭の扱

いは府県によ

って多様である。それは主として地押と官吏によ

る地押検査、丈量と官吏にょる丈量検査などのあり様が、府県によ

って相違したことによると思われる。地押検査と

丈量検査とを別箇にした府県もあれぽ両者を兼ねて実施したところもある。また、記述の精粗や表

現法による相違も

考えられる。それにしても、

『府県地租改正紀要』では畝杭につい工一笈

しない府県を多く見た嘩

『人民心得壼日』

には粗密

の差はあ

っても例外なく扱

っており、資料的価値の高いことが知られる。

(二)

地租改正法

の施行規則には小筆の合併

(筆)に関した条文は見当たらないが、多くの府県

にはそれに関した条項が

設けられている。小筆を合併することは、土地の所有

・管理の上から、また改租事業を推進する上

からも有利なはず

である。千葉県をはじめ、多くの府県で

「一畝内外等の小筆

二而不都合之分

ハ」と表現しているのは、小筆の管理

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一〇七

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一〇八

運営が非能率であることを示している。従

って、各府県は合筆を推進させる方法をと

ったと思われ

るが、

『人民心得

』類にみられるその内容には府県による相違がみられる。

小筆は

「五歩十歩

ノ小筆」、「小歩数」などの表現もあるが、多くはさき

にふれたように一筆

一畝歩内外と表現して

いる場合が多

い。合筆の条件は、ほとんどが

「壱人持

ニテ地続ノ分

二限リ」

(京都府)といった文面で示されている。

県による相違は合筆面積についての制限のあるものとないもの、それについてふれないもの、および合筆

の認可措

置を

「此度限り」と明記しているか否かにおいてみられる。各府県の合筆

に関する条項を、類似したものにまとめる

と次のA~Fになる。

 B千葉県

(第九条)本誌九五頁に全文

神奈川県

(第五条)

是迄

一筆

一畝歩内外等ノ小筆

ニテ不都合ノ分

ハ此度

壱人持

ニテ地続ノ分限リ三畝歩迄

ハ合筆

ニイタシ候

儀不苦候事

白川県

(第

一五条)

千葉県

にほぼ同じ

埼玉県

(第九条)

千葉県にほぼ同じ

栃木県

(第二章第三条)

U

従前数筆ノ地所

一人持地続

ニテ連絡セシモノハ一筆

二合併ノ儀此度限リ願

二寄差許候条更

二新規

一筆

番号ヲ附可申事

但本文合併

ノ儀弐反歩以内タルベシ尤

一畦畔中数筆

籠リ居候分

ハ此限

二非ズ

度会県

(第

一条)

(前略)従来別筆

二候共

一人持

ニテ地続

ノ分

一筆

景況ヲ成居候

ハ.・此度限幾筆

ニテ

モ合併不苦候

二付

取調可願出事

但小畝歩

ノ耕地持主

一人

ニテ実地聚合スル者

ハ百歩

ハ合併

一筆トシテ不苦事

Page 25: て 差 ,一 な と 改 二 地 的 さ と い 正 八 地 租 す と …...地 租 改 正 二 付 人 民 心 得 書 」 に み る 改 租 事 業 の 府 県 差 桑 原 公

QE

小田県

(第三条)

是迄

一筆

一畝歩内外等

ノ小筆

ニテ不都合之分

ハ此度

一人持

ニテ地続之分

二限リ幾畝歩

ニテモ合併

一筆

シ候儀願

二寄リ被差許候条合筆

二致度

モノ

ハ左ノ

通肩書

三兀ノ畝歩ヲ記シ合筆可願出候事

(後略)

茨城県

(第四条)

小田県の前半部にほぼ同じ

京都府

(第七条)

小田県にほぼ同じ

ただし、その後に左

の条文と図解

(図略)あり

耕地図中

ヱハ左

ノ通旧境界朱線ヲ以記シ可申事

敦賀県

(第

一五条)

(前略)五歩十歩ノ小筆

ニテ此際合筆

二致度分

一人

ニテ地続之分

二限リ合併致シ候儀願

ニヨリ此度限

リ被差免候条右様ノ分

ハ取調帳段別ノ肩

二元畝歩ヲ

記載可差出候事

福岡県

(第七条)

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

F

是迄

一筆壱畝歩内外等小筆

ニテ不都合ノ分

ハ此度限

リ壱人持

ニテ地続ノ分

二限リ幾畝歩ナリトモ

一筆

致不苦候事

若松県

(第八条)

是迄

一筆壱畝歩内外等ノ小筆

ニテ不都合

ノ分

ハ此度

一人持

ニテ地続

ノ分

二限リ合併

一筆

二致シ候儀願

寄リ被差許候条合筆

ニイタシ度者

ハ別紙取調帳ノ振

二照シ元ノ畝歩ヲ肩書

二記シ可差出事

愛知県

(第二八条)

(前略)少歩数

ニテ此際合畝

二致

シ度モノハ一人持

ニテ地続ノ分

二限リ合併

一筆

二致

シ不苦

(後略)

青森県

(第七章)

若松県に似る

島根県

(第

一七条)

従前数筆

ノ耕地壱人持

ニテ地続

ノ分

二限リ合併

一筆

二致

シ候儀願

ニヨリ差許候条合筆

二致度

モノハ別紙

取調帳

ノ振合

二照

シ夫

ノ畝歩ヲ肩書

二記シ可差出候

一〇九

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一一〇

和歌山県

(第九条)

若松県に似る。他に左の但書がある。

但山中濕罵梯田ト唱

へ候地所

二本条ノ如キモノ多

シ注

意可致尤字

一筆限地図

ヘハ現地ノ形相記シ飛朱

ヲ以

合併ノ主意可顕尤従前本条ノ如キ実地数株ヲ合セ

二見ナシ有之分

ハ先規ノ通可相心得事

愛媛県

(地所取調心得書第九条)

愛知県にほぼ同じ。他に左の但書

・附がある。

但道路溝渠等を隔たる地は必別筆

に可致事

梯子田

も寄

セテ可也

セ歩のトキ小畝歩毎ノ畔

ハ除竿ス

ヘシ

附従前段替リノ反歩

ハ寄

セヌ方可然

福島県

(第

一章第七条)

島根県に似る

(他に但し書あり)

条文から知られるように、Aは合筆面積の限度が三畝歩まで、Bはそれが二反歩または百歩までと

「此度限り」の

つの制限がつく。Cは面積制限がなく

「幾畝歩

ニテモ」と記すもの、Dは面積制限についてはふれていないが

「此

度限り」とその措置の機会を限定したもの、且ば同じく機会を限定するが面積は幾畝でもと明記するもの、最後

のF

は面積、機会の制限については全くふれていないものである。本稿で取り上げた

『人民心得書』類

の中にはA~Fの

いずれについても言及していない県が数県存在する。ということは合筆についての取り扱いはA~

F以外にも存在し

いた可能性のあることを意味し、それが多様であ

ったことを物語

っている。

最後

のFに属する諸県には

一人持ち、地続きという条件のほかに制限事項を記していないが、和歌山

.愛媛両県の

条文

の但書に棚田に関した記載がみられる。前者では山間地の階梯田

(棚田)と称する地所

には

「一枚地

ニテ

一畝歩

内外

ノ小筆」が多

いとし、後者ではわざわざ梯子田

(棚田)も

「寄

セテ可也」と記す

一方、段差

のある耕地の合筆は

わない方がよいとしている。戦後の資料であるが愛媛県は段階工の施された田および畑の割合が

わが国で最も高く、

和歌山県もそれが高率であ砺・棚田

・翳

畑の割合の高い両県の条文にこの種

の記鼕

みるのは、

『人民心得書』類

に府県の独自性の表わされているものがあるという点で注目される。

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なお、Bの栃木

.度会、Fの島根

・福島の諸県の条文には小筆

・小歩数などの表現がない。しかし、たとえば福島

の条文からみれば、広くて複雑な耕地は適当に分筆し、地続の

(それほど広くない)耕地は適当

に合筆してよいと

解釈され、小筆などの記載の有無は、ここではとくに問題にならないように思われる。

(三)

安土桃山時代から近世初期にかけての検地によ

って村切が行われ、村境が定まり、出作入作関係も整理されたはず

であるが、村の入組や飛地は近世を通じて残存し、近代に持ち越されたところが少なくない。現在

においてもなお残

社会問題となっているところがあ隔・町村界の錯綜や町村間の叢

の存在は改租妻

を妨げる

となるか餐

多くの府県ではその解消を目指した。

『人民心得書』類に、これらの条項をみる府県が多いのはそ

のためである。た

だし、

これらに対する対応

の仕方も、府県によ

って必ずしも

一様ではない。

『人民心得書』類から飛地や村界の整理に関した条項を抽出し、それを内容によ

ってわけると表

3のようになる。

1欄には飛地や錯綜した境界の解消に対して消極的な条文、巫欄にはそれらの解消に積極的な態度

を示している条文、

皿欄にはそれらの問題の解消のために村の合併について言及している条文をあげた。全体的にH欄が多いのは、改租

事業を推進する上から当然といえよう。しかし、1欄にもかなりの該当県がみられる。この欄に載る諸県に飛地が少

なか

ったか否か、今

のところ明らかでない。

飛地の解消に積極的でない1欄の県は七県を数えるが、そのほとんどは千葉県の条文と同じか似

ている。すなわち、

三潴県を除く六県については①他村

への飛地は地押番号の末番につける。②地図は惣絵図中に載せても別紙に描いて

よい。③他村の飛地は地図上に色分けし、何村何

(飛)地と記すことなどがその内容である。ただ岩手県の②

の地

は飛地だけの絵図を作ることを規定しており、選択の余地がない。三潴県の場合ば、第

一〇条の本文に上記の①

記載がなく、②は岩手県と同様に絵図を仕立て、持地

・反別などを記すことを規定しているが、③

は他の諸県

に類似

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一二

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している。・三潴県が他と異なるのは上記のことよりも、但書で、しかも

「硝少ノ地」と限定しているが、飛地解消の

手立てを示している点である。かくて本県は本文は1欄に、但書

の部分は亜欄に載せることになる。

皿欄は先

に飛地など

の解消に積極的な態度を示したもの、と記したが、条文から見る限りでは必ずしも能動的では

い。だが、1欄

の諸県では何

の解消法も示していないのに対し、本欄の各県ではその解消

の方途

を示しており、境

の更正や飛地の解消を指向していることが読み取れる。皿欄には該当県が多く、内容もかなり多様である。白川県

はすでに関連の布達が出されていることもあ

って、飛地は此際

「判然トイタシ候様」に、というにすぎない。三潴

.

島根両県も飛地を申合わせによ

って処理することを示した簡単な条文である。度会県は村界と飛地

の問題にわたるが、

取扱

い方は前の二県に似ている。

皿欄

の岡山県

の条文は、飛地

・村境についてふれているが、その続きは皿欄

におよんでいる。甲村の地所が乙村に

飛地している場合、甲村からその反別を引いて乙村に加え、また村界が錯綜している場合は新境界

を設け、交換分合

によ

って整理し

(以上豆欄)、さらに広範な入組みが

る場合は村の合併を図る、など極めて具体的

に、かつ合理的

に述べているといえる。また、こうした措置は改租事業の施行以前に手続するよう

に規定している

(以上皿欄)。そ

の他、先にみた四県を除く多くの諸県では、④甲村

の地が乙村に飛地とな

っている場合、それは乙村の属地に組み替

えるようにする。その談合が決着しないときは、福岡県の例でいえば◎甲村の飛地はその村の地引絵図に色分けか、

または別紙に画き、番号はその村の末番を

つける、◎乙村においては他村

の飛地を地引絵図に色分けで示し、そこに

何村飛地と記載するようにした。このうち、例えば◎は愛媛

・福島両県では飛地だけの絵図の作製

を規定するなど、

県による若干の相違がみられる。

改租棄

中の町村の合併籍

当数行われている幅

本稿で扱

った

『人民心得書』類

には合村に関した条項が少ない。

ない理由は明らかでないが、別な布令などで扱

ったことによる可能性も考えられる。それはとも

かく、岡山県の場

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表3

『人民心得書』にみる各府県の飛地対策

H

①千葉県

(第

一五条)

本誌九六頁に全文あり

愛知県に同じ

⑦若松県

(第

一三条)

千葉県にほぼ同じ

⑨三潴県

(第

一〇条)A

村々引離レタル飛地ノ分

ハ別

二絵図面ヲ仕立

持地并二反別及ヒ四隣ノ経界分明

二書載セ可申

且又他村ノ飛地自村経界中

二摂リ居候分

ハ右絵

図中色分ケ致シ何村飛地ト記載可致事

⑬愛知県

(第

一二条)

甲村ノ地所乙村内

へ飛地二相成居候分

ハ甲村地

押番号ノ末番

二加

へ地図ハ実地ノ遠近

二隨総絵

図中

へ載セ候トモ別紙二致シ候トモ都合次第

取調又乙村

ヨリ甲村内

へ飛地入交候分

ハ甲村地

図上

へ色分致シ何村何地ト記載可致事

⑰小田県

(第三二条)

千葉県と同じ

⑱埼玉県

(第

一五条)

千葉県と同じ

⑳岩手県

(丈量法心得書第

一五条)

甲村ノ地所乙村へ飛地二相成居候分ハ乙村ノ絵

図面

ニハ何村飛地ト色分致シ甲村

ニテハ飛地丈

ケノ絵図面ヲ製シ甲村字番号ノ末番

二加へ本文

第二条

二依リ取調可申事

但野帳

ヘハ甲村合反別内書二何程乙村

へ飛地ト

記載致

ヘシ

b

ω

(千葉県)指令

(前略)右之内拾五条

二掲載有之飛地等

テ甲乙村界錯雑之分図面之儀

ハ申立之通

二候得共経界之儀

ハ此際成丈判然イタシ

候様更正之積取調追テ

一纒ニシテ図面相

添可申立事

③岡山県

(第

一七条)A

村二寄飛地二相成候分間々有之今般改正

二付テ

ハ成丈ケ各村之境界更正之積相心得譬

ハ甲村之

地所乙村内二飛地

二相成居候類甲村之反別ヲ除

キ乙村之反別二加

へ或

ハ甲乙両村ノ地所互

二出

入境界錯雑相成来候類ハ適宜区界相立甲村ノ地

所ヲ乙村へ付シ乙村ノ地所ヲ甲村

二加

へ↓B

⑧白川県第

一七条

甲村之地所乙村之内

へ飛地

二相成居候分

ハ当県

本年二百五号布達之通相心得此際成丈ケ判然イ

タシ候様地理掛へ禀議ノ上更正ノ積リ可取調事

働三潴県

(第

一〇条)B

但硝少ノ地ニテ自他飛地錯雑致シ調方不都合

ヨリ其村々申合セ便利ノ村方二附与致シ度向

絵図面取調双方区戸長百姓惣代等連印可申立事

㈹福岡県

(第

一二条)

数筆或

ハ数十筆甲村ノ地所乙村

へ飛地二相成候

分往々有之

ハ此際村界判然候様乙村内ヘノ

飛地ハ乙村属地二組替候様可致若組替ノ示談行

届兼候

ハ・村界外ノ分ハ地引図中色分致シ候歟

又ハ別紙

二認メ番号

ハ其村ノ尻番

二致シ可申乙

村二於テモ地引図中色分致シ何村飛地ト記載

ヘキ事

⑫度会県

(第

一四条)

両村経界ノ儀

犬牙相接シ後世紊乱ノ恐レ有之者

ハ両村耕地ノ碁布錯雑罷在ル者

ハ甲村ヨリ乙

村地内ヘノ飛地等

ハ両村熟議ノ上可成境界致判

然候様此際改正ノ積ヲ以其旨地租改正掛

へ禀議

ノ上取調可申事

⑮島根県

(第

=二条)

甲村ノ地所乙村

へ飛地二相成居候分

ハ甲乙両村

申合可成互

二地所交換此際二於テ飛地無之様見

込相立絵図面相添可願出事

㈲茨城県

(第三条)B

但本文ノ外甲村ノ地乙村内

工飛地二相成居候分

ハ乙村属地

二組換候様可致若組換示談行届兼候

ハ・甲村地押番号ノ末番

二加へ一村地図

ハ別紙

二認メ候共

一紙

二致シ候共都合次第

二取調亦乙

二於テモ

一村地図エハ色分イタシ何村飛地ト

記載可致事

⑳京都府

(第

一一条)

甲村之地所乙村工飛地又ハ乙村ノ地所甲村

工飛

地相成居候分ハ此際可成丈其地所在ノ村地

二組

替候様協議スヘク若シ止ムヲ得サル分

ハ従来其

地進退致居候村方

一筆限帳ノ地順末番二加

へ何

村へ飛地ト片書二認可申地図ノ儀ハ其地所在

村方図中へ色分二致シ何村ヨリ飛地ト判然記載

致シ其地所進退之村方

二於テハ字限図二認加

候歟遠隔之地二候ハ・別紙

二認メ可差出事

⑳愛媛県

(地所取調心得書第八条)

従来甲村の地所乙村内

へ飛地に相成居候分も此

際両村申合更二乙村内ノ属地に組替候様可致

若組替難相調候分は乙村の絵図へ飛地を分色し

甲村にては別に飛地丈けの絵図製す

へし且甲村

は反別地価帳総計

へ内何程何村へ飛地を朱書し

番号は甲村の末番に加ふへき事

○組替ル地所は前以可伺出

⑳福島県

(第

一章第

一八条)

甲村ノ地所乙村内へ飛地

二相成居ル分ハ両村示

談ノ上甲地ヲ除キ更二乙村ノ反別

二組入取調可

申都テ簡便ヲ旨トシ従前地所ノ互

二錯雑シテ不

都合ナル地景

ハ甲へ附スルモ乙

二与フルモ其便

宜ヲ要シ従来紛紜ナキ為ナレハ宜シク相議シテ

無益ノ争論アラサル様心得ヘク尤示談整ヒ地所

ヲ交換及ヒ属地セシムルハ其訳ケ双方

ヨリ連印

ニテ略図相添可願出事

但本条示談ナラサルハ乙村ノ絵図

ニハ其飛地ヲ

色分シ甲村ニテハ別

二飛地丈ケノ絵図ヲ製スヘ

シ尤甲村ハ反別総計上内

何程乙村へ飛地ト朱書

シ番号

ハ甲村ノ末二加フ

ヘシ

⑳栃木県

(第三章第二条)

甲村ノ地所乙村

へ飛地セシ分可成両村熟議ノ上

乙村へ属地二組替ノ議可願出

若シ熟談ナリガ

タキモノハ地引絵図中甲村飛地ノ趣記載シ地番

ハ甲村ノ末番二附着スヘキ事

 

(岡山県

一七条)B

又ハ甲村乙村耕地

一円混淆之村ハ合村之積夫

取調前以可申立事

⑥敦賀県

(第二二条)

属村独立ヲ不論小村或ハ地所入組候村々ハ実地

取調ヨリ地引図面等製造ニモ差閊隨テ冗費モ不

尠候

二付総テ合村ノ見込相立実地取調以前可申

立候尤村名ノ儀

ハ更

二改正候トモ便宜二任スヘ

ク候事

但従前分郷致シ自然独立ノ姿

二相成居候トモ各

自二取調候儀

ハ不相成候条総テ地所

一ト番号

シ合帳ニテ可差出候事

⑩福岡県

(第

一一条)

古来

一村ノ地分村致シ甲乙村土地棊ノ如ク錯雑

候場所往往有之後年紊乱ノ基

二付村々申合復古

合村願立候歟村境更二分割願出候歟両様闘可申

立事

⑳茨城県

(第三条)A

古来

一村ノ地分村致シ土地甲乙入交リ錯雑候場

所往々有之後年紊乱ノ基二付此際

二臨ミ村々申

合復古合村願出候歟又

ハ村境更

二分割候歟両条

之間可申立事

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は、甲乙両村に若干ず

つの飛地が存在するときは相互

に交換分合をおこない、それが広い範囲にわた

って分布し、

村領が錯綜するときは合村の措置をと

った。

これが普通

のあり方であ

ったと思われる。敦賀県の郡村取調規則の場合

は、入組関係がいかに改租事業を妨げ、経費

の労費

になるかを説き、改租事業の着手前に合村をさ

せ、さらにかつて

分郷して独立の体裁をとる村でも独自

の取調べを認めない態度をと

った。福岡

・茨城両県では、か

つて

一村が分村し

た甲乙両村は領有関係が錯雑で、後世

に問題を起こし易

いので、合村するか境界の補正を求めている。

この両県は条

に若干の相違

はあるが、ほとんど同じである。茨城県が福岡県に倣

ったか、あるいは両県が同じものに拠

ったもの

と思われる。

『地租改正報告書』には地種の

「経界

ノ更正」の項で

「村字ノ経界

二至

ッテ

ハ錯雑犬牙ノ如クナ

ル者アリ又散布碁

 

ノ如クナル者アリ紊乱混淆名状

スヘカラズ」と述べ、その成因や、それによ

って起る問題点などをあげている。錯

した境界や飛地を具体的な地域で実証するような研究が望まれる。

地籍図の基礎的研究の

一環として、先に

『府県地租改正紀要』を扱

ったが、今回は同じような意図から、各府県の

『人民心得書』およびそれに類似した規則類を取り上げた。取り扱

った

『人民心得書』類の数から、また具体的

に条

文を対比した数からいっても、本稿は中間報告

の域を出ない。また、

『人民心得書』類は府県によ

って作成年月、条

文数、条文の表現などが多様であるが、さらにこれが布達されて以後、府県単位の訂正や中央政府

の法令の追加など

があり、それらとの対比

・検討など、多くの課題が残されている。

それでも、わが国

において最初に作成された千葉県

『人民心得書』のもつ意義と性格、それが他府県

に与えた影響

いしその限界

については、かなり明らかにな

ったように思われる。また、千葉県の

『人民心得書

』の二三か条と各

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

一二二

Page 31: て 差 ,一 な と 改 二 地 的 さ と い 正 八 地 租 す と …...地 租 改 正 二 付 人 民 心 得 書 」 に み る 改 租 事 業 の 府 県 差 桑 原 公

一一四

府県の

『人民心得書』類の条文との対比からは、千葉県のそれの性格が知られるだけでなく、各府県と千葉県との関

係、およびそれぞれの府県のも

つ多様性の

一端が理解された。

『人民心得書』の条文を具体的に対比したのは畝杭

・合筆

・飛地だけであ

ったが、これだけでも府県によ

って多様

な対応

のあることが知られた。また、その中には府県の独自性を表わすようなものも存在していた。今回取り上げな

った事項の中

にも、そのような例が多くみられる。それらは今回取り上げることができなか

った地引絵図そのもの

と共に、さらに

『人民心得書』を追加して考えたいと思

っている。

付記

本研究の経費の一部は、昭和六十一年度文部省科学研究費補助金

(一般研究◎課題番号六

一五八〇二〇七)を使用した。記

して謝意を表する次第である。

註①

『法令全書

』六巻、四〇二頁以下

『基礎資料』補巻、四

・五頁

『法令全書』六巻、四〇三頁

同右、四〇六頁

『法令全書』八巻、

七三四頁

桑原公徳

『府県地租改正紀要』にみ

地図

地丈量、

『鷹陵史学』

一〇、昭和六〇年

『岡山県史稿本』上、二

一二頁以下

『基礎資料』

上巻、四七二頁以下

『岡山県史稿本』下、

一〇頁

『基礎資料』補巻、解題五頁

『基礎資料』、総索引、

二九頁

佐藤甚次郎

『明治期作成の地籍図』古今書院、昭和六

一年

『群馬県史』資料編24

近現代8

『基礎資料』上巻、四四五頁

前掲⑫、八九頁

『基礎資料』上巻、五二〇頁

酒田県は

『山形県史』農業編下、高知県は

『高知県史』近

代編

高知大学正木久仁氏のご協力で県立図書館と県史編纂委員

の方に当たって頂いたが所在不明である。

『基礎資料』上巻、所収、二九二頁以下

同右、解説、

一三頁

山田安彦

房総における字一筆限地図帳作成をめぐる若干

の問題、

『地図』二一-二、昭和五八年他

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林健久

『日本

における租税国家

の成立』東京大学出版会、

昭和四〇年、

二二九頁

『法令全書』五巻、

六七五頁以下

2の作成には佛教大学史学科卒業生内田真理子

さんの協

を得

た。謝意

を表する。

『福井県史』には雛形を載せていな

いが、

田中完

一氏収集

の布令書所収

の原本

にはそれが描

かれている。

前掲⑥の本文および付表参照

農林省農林経済局統計調査部

『昭和32~43年耕地総合統

計』、昭和四四年、三二九頁

桑原公徳

近世・近代における村の飛地について

『佛教大

学学報』、三四、昭和五九年

前掲⑫

一二三頁

「地租改正報告書」『醐齡財政経済史料集成』七巻所収

『地租改正二付人民心得書』にみる改租事業の府県差

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