一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - meiji repository:...

15
Meiji University Title Author(s) �,Citation �, 4: 53-66 URL http://hdl.handle.net/10291/10739 Rights Issue Date 1960-03-05 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

Upload: others

Post on 26-Sep-2020

11 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

Meiji University

 

Title 人間関係論と小集団の問題

Author(s) 岡山,礼子

Citation 明治大学短期大学紀要, 4: 53-66

URL http://hdl.handle.net/10291/10739

Rights

Issue Date 1960-03-05

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

Page 2: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

人間関係論と小集団の問題

り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

一入間関係論と小集団の問ve-一一・53

六五四三ニーはしがき

職場集団の行動様式

行動様式と素因

動態とモーティヴ

「利益集団」の把握

むすびにかえて

一 はしがき

 産業における人間関係的方針(ぎ量昌琶舞δ蕊昌嘆8。げ)

が、E.メヨーを中心とするハーバードのひとびとのホーソン

実験から結実した、とみることに異論はない(-)。 このウェス

タン.エレクトリック会社のホーソソ工場における五年間の実

験.観察調査から、人間関係的方針の領域が展け、経営の実践

におけるヒューマン・リレイションズ・テクニックの「万能薬」

的流行の下地がつくられたのであった。

 この「方針」に対する多くの批判、論争の多様さにもかかわ

らず、それが持ちえた唯一の意義は、産業における小集団の存

在に着目しそれを分析、確認したことである。

 「継電器組立作業テスト」の実験の第十二期(一九二八年九

月)において、労働の物理的条件と生産性の関連の上に立つ作

業仮説が覆えされ、小労働集団の自発的な労働行為の統制、余

暇活動における親密な人間関係の存在、が発見された。さらに

「バソク捲きとり観察調査」(一九三一年十月から三二年五月)

において、クリーク(o賦ρβ①)の存在とそのインフォーマルな

掟が労働の生産性を左右する有力な要因として、認められたの

である。

 こ,こに初めて、クリークーーインフォーマル・グループの存在

が確認され、技術の組織に対置さるべき人間の組織が措定さ

Page 3: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

54明治大学短期大学紀要一

れ、しかもそのフォーマルな組織に対してのイソフオーマルな

組織が、情感の論理によって貫ぬかれるものとして定置された

のであった。

 個人はインフオーマルな集団に所属することによって、なん

らかの「安定」(ω①2葺団)を得るとすれば、集団はその成員た

る個人の総計以上の「なにものか」である。この「なにもの

か」を拒否せずに容認し、効果的に操作すること。それは経営

の実践における新しい理念となる。したがって、集団のリーダ

ーシップ、コミュニケイションの問題に、研究の焦点が絞られ

たのも当然である。

 けれども、組織というメカニズムと個人というパーソナルな

ものとを対置し、この両者の結合を小集団によって媒介しなけ

ればならない場合、集団内部の閉鎖的な入間関係にのみ視点を

限定することは不可能である。ここから「集団内の人間関係を

あたかも自由な空間に浮んでいる原子のように把握」する研究

動向にきびしい反省が生れてくる。なぜなら「そこでは、人間

関係がまるで個人の属性のように扱かわれ、個人が構成してい

る集団の構造と、集団が所属している組織にたいする分析を、

全く欠如しているからである」(2)。

 このような批判にたいして人間関係論の内部から、それに応

えようとする作業がみられる。 そのひとつ、 セイルズ(いΦo,

コp。乙菊゜ωβ・凱窃)によってなされたのは、すぐれて動態的な集

団行動を、技術的、組織的脈絡のなかで把捉しようとすること

であった(じU警碧δ肘ohぎ留■.窪曽一ミo時σq『o巷。。》H㊤α。。)。 こ

の集団行動の分析は、 「利益集団」概念を介入させることによ

って、いわゆる伝統的なイソフォーマル・グループの概念を破

る。そしてこのこどは、 --組織における人間行動--の問題を考

える者にとっても、意味のあることである。なぜなら、 「集団

の斉合性、均衡の存在」という視点のみからの小集団把握は、

組織と個人という図式のなかでの個人の自発性・創造性の行使

という問題を、みちびきだしてくる如何なる論理も提供できな

いからである。

 小稿では、セイルズの集団行動の分析を跡づけて見ることを

目的とする。それはとくに彼の利益集団にたいする検討を通じ

ることによって、集団行動の解明へ接近する場合のひとつの準

備作業となるものである。

 註1 ぐタ団゜妻7讐ρζ9。コき山o預餌三鎚二〇P6㎝Pウω

  2 即ゆげ~..閃霞ヨ巴o嶺鋤三Np臥o『U一ヨ魯臥o器o{

   雪巴童-■、、(アメリカ社会学会第五一回総会報告)

二 職場集団の行動様式

 職場集団の行動の型の把握は、セイルズによれば、経営者と

組合の双方に対して行われた苦情および抗議活動をメルクマー

ルとしておこなわれる。この苦情および抗議活動の量的、質的

な面からみて、集団は四つのタイプに分類される。すなわち、

無関心型(鋤箭静巴。讐。毛)、移り気型(實韓討聖。毛)、戦術

Page 4: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

人間関係論と小集団の問題55

型(ω一「9件⑦σq【O σq『O蛋で)、保身型(8冨臼奉二くoσq8考)である。

 それぞれの集団の基本的な特微は以下のごとくである。

 1無関心型

 比較的苦情が少く、マネジメントあるいはユニオソに対する

圧力活動を行うことも最小である。たとえ、なんらかの「出来

ごと」が生じたとしても、 「決定」に挑戦したり、自己の集団

の特別な利益を得ようと試みることを好まない。けれどもこの

集団は、紛争が皆無なのではなく、皮相的に無いのであって、

他の集団に比べて、内部的な摩擦と些細な嫉妬が多く、信頼さ

れたリーダーシップに欠け、集団の凝集性がこの集団の特徴と

なるように思えない。そして、ここには、抑圧された不満の根

拠がある。無関心型のもつ不変な生産性・協調性のわりには、

経営者の評価は高くない。

 2 移り気型

 このもっともいちぢるしい特徴は、その“移り気”一定しな

い行動傾向である。

 しかも、彼らの不平、苦情の重要さ、真剣さと抗議の強度と

のあいだには関係が無い。経営者と組合の双方が重要では無い

と考える問題が、山猫争議のようなかたちで爆発するかもしれ

ないし、些細な問題が激しいストライキやデモのためにほとん

ど解決できない問題になったり、反面、重要な問題が公的な苦

情処理手続きのあいだで、大衆の擁護が無いために、立ち消え

となることもあるQ

 行動の特徴は、容易に熱狂しやすく、圧力戦術は貧弱で、気

まぐれと矛盾した行動をとり、組合活動でバネあがる反面にお

いて、プロマネジメソトへの態度転向が速やかにとられる。し

ばしば、中央集権的なリーダーシップがみられ、リーダーの性

格はカリスマティックなものとなりやすい。

 3 戦術型

 多くの工場のなかで、重要な不平-主要な経済的配慮が含

まれているという意味で重要なのだが、この不平・苦情の中心

となっている集団がみられる。この集団は、しばしぼ、組合の

レギュラーの核心的要素である。このような集団が戦術型集団

であり、かれらは、現存の政策や契約事項のなかに、かれらの

利益となるような抜け穴を探したり、他の部門とかれらの部門

の利益を比較したりして、経営政策、決定に対する疲れを知ら

ぬ圧力集団となる。            ・

 この範疇に属する集団の行使する圧力活動は、求める目標、

それにたいする戦術の両者とも、注意ぶかく計算され、持続的

である。集団の凝集性は高く、リーダーシヅプは、小数の核心

的な活動家で勢力のある成員によってとられ、対組合、対経

営、集団内部の統一性、不平、苦情の表明のリードというよう

な機能別に専問化される。

 4 保身型

 予告なしには、圧力活動をほとんど行わな「いという意味で

は、もっとも安定した集団であり、圧力活動の結果、満足すべ

Page 5: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

56一明治大学短期大学紀要一一一一・・一一一a

き状態が得られると、ある期間、非活動の時期が存するという

ように、活動の周期性がみられる。大部分が上位の職位にあ

り、現存の利益が弱められようとするときにのみ活動する。

 適度の穏健な内部的統一性と自信をもち、組合への参加度は

弱い。

 以上が、三〇〇以上の職場集団の観察から帰納された分類で

あり、指標としては、抗議活動の量よりも質に重点が置かれて

いる。しかも、集団の行動を、各個人のパーソナリティおよび

態度の集積として、集団内部から把えようとする立場を離れ

て、外部的な現象に現われた面から把握しようとしている。そ

して、この場合、職場集団の行動様式の相異に有意に関連する

要因として挙げられるのが、職場集団が置かれている組織的・

技術的脈絡のなかの諸要因である。

 つぎに、それらの関連諸要因について、かれの言うところを

聴いてみよう。

三行動様式と素因

 前述のような集団行動の型の相異は、どのような要因と関連

して理解されるのであろうか。

 苦情・圧力活動という集団行動においては、集団内部のいち

じるしい強固性が必要とされる。なぜなら、苦情、圧力活動に

ょって、経営もしくは組合の友好関係を失うかもしれない危険

がはらまれることを別としても、この活動の過程において、成

員は収入と心の平和を脅やかされるに相異ないからである。ま

た非常に統一化された集団は別として、一般に、苦情・圧力活

動における目標・戦術についての成員間の意見の相異は、この

活動に必須的な集団の協調性の強さを弱めるのである。

 そして、このように集団の高度の凝集性が求められるばかり

でなく、ここでは、集団の全成員が包括されるような基盤がま

た必要である。なぜなら、苦情、圧力活動において、経営もし

くは組合に提出される問題は、成員すべてにとってもっとも重

要だという、否定することのできない結論をもって、表明され

なければならないからである(-)。

 したがって、苦情・圧力活動という集団行動の面において

は、直接的な満足を要求し自然発生的に抗議し一斉に救済を期

待するごとき集団は、非現実的な存在となる(2)。 したがって

また、ここには、従来の人間関係論におけるインフオーマル・

グループもしくは、フレンドシップ。クリークという集団概念

のみでは、解きあかせない問題領域が残される。それにたいす

るアプローチとして措定されるのが、「利益集団」 (ぎ8器鴇

σq円o口で)である。

 利益集団とは、 「共通の経済的利益を亨受し、組織のなかで

共通の目標を獲得するために結合される集団」(3)である。セイ

ルズは、苦情・圧力活動という面に着目して、まさにそのよう

な利益集団を、工場という場における産業関係のなかで把えた

のである。

Page 6: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

一・l間関係論と小集団の問題57

 ところで、このような集団概念が介入するとき、集団行動の

様式の相異を、成員や監督者のパーソナリティや人間関係の相

異からのみ、直ちに説明することはできない。ましてや、「経

営・組合の政策の変化があった場合でさえも、比較的長期にわ

たって集団行動に変化がみられなかった集団」という見地か

ら、前述の集団行動の型が打ちだされてきたのであるから、経

営・組合の政策の変化に原因を求めることはできないQセイル

ズによって求められたのは、工場の技術的・組織的脈絡におけ

る集団の位置づけと、工場の技術組織(§言。一。σq冨=団゜。8ヨ)

によって基底づけられる集団の内部構造の問題であった。

 まつはじめに、技術的・組織的脈絡のなかの集団の相対的な

位置づけの面をふりかえってみよう。ここでは、つぎの諸要因

が変数として考慮される。

 ω 職階上の位置(集団のステイタスの問題) ② 集団の

規模 8ー 集団成員の職務の均質性(ぴOヨOσqo鐸⑦詳図) ㈲ 全

組織から見た集団の職能の重要度 ⑤ 作業遂行中、労働者の

判断を含む程度(乙。鉱=の程度) ⑥ 課業の反覆性の程度 ω

集団の密集 ⑧ 性別 ⑨ 作業時間

 このうち、有意の働きをなすと認められたのは、ωから⑤ま

でであり、その他については、明白な相関がみられなかった。

行動の型と関連する要因の分析を要約すれば、以下のごとくで

ある。

 ω 職階上の位置。職格の高い集団は各種の特権を与えられ

ているので公然とした圧力活動を採ることが少い。一方、職格

の低い集団は、各種の特権をもたないので、圧力活動を行う戦

術に無能力となっている。したがって、集団の利益を追求・獲

得しようとする公然たる圧力活動は、 ”中流の上8-階層に集中

して現われる。この階層の多くが、「移り気」「戦術的」型の範

購に入る。これらの階層に属する集団からの昇進への途は、き

わめて稀である。なぜなら、ヨリ熟練度の高い作業集団への門

戸は外部からの熟練労働者の雇用、もしくは、年期を入れた熟

練労働者によって充足されているからである。

                 ブレステイジ

 また、職格によって集団に与えられる威信は、、経営もしく

は組合によるその苦情の取り扱かわれかたに影響する。職格の

高い集団は主要な問題をもつ、と想定されがちであるが、一

方、トップの職格の下に位置する集団は、かれらの問題がいく

らか軽く扱われがちなのを発見して、その苦情を認めさせるた

めに、ヨリ多くの圧力を行使しなければならない。かくして、

攻撃性が必須となる。

 図 集団の規模。集団の大きさは、戦術型の場合には、工場

の全労働者数との関連において重要な要因となるが、「移り気」

「保身」型においては関連性が無い。「移り気」型の爆発はしば

しば少数の第一次集団に限定されるし、 「保身」型は、かれら

が少人数でもつ職能にかえって強みがあるのである。したがっ

て、集団の規模は、たんにそれ自体を考察するのは無意味であ

る。

Page 7: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

58一明治大学短期大学紀要一

 圖 成員の職務の均質性。不平・苦情を.,=口葉に出し“それを

正当にする”ために人びとを結合する為にはある共鳴的要素が

必要である。同一的な経験をもつ人びとによって、 「問題」に

たいする反響が得られるところでは、人びとは相互に自らの不

平・苦情を反復・拡大して聴くことができる。彼の仕事仲間の

問題を聴かされて彼もまた共通の問題を分かちあっていること

を発見する。この共感的な繰りかえしのなかで、その問題は重

大さを増大してくる。そして、気こころの知れた労働者の集団

        ヤ   ヤ

は、なにが為さるべきかということを確信するばかりでなく、

      も   し

それが為されうるということについても相互に確信をもつので

ある。したがって他の事情が同一であれば、同質の作業環境に

ある労働者の数が多ければ多いほど、そこでは、協同した圧力

活動が多くなるのである。

 職務上の同質性を欠いているが、作業工程上、相互依存関係

が必要とされる集団では、利益目標にたいする意見の相異と、

同意を得るための試みが、成員間に憎悪と摩擦を生みだす。だ

から惹き起さるべき緊張を避け、もしくは、それを最小限にす

るためには、それらの試みを避けねばならぬ。したがって、個

人的な次元の上で持たれる不平・苦情から予想されるよりも、

集団としての協同的な圧力活動は少いのである。

 ω 組織のなかでの集団の職能の重要性。工場の全生産行程

上にしめる当該集団の職能の緊急、もしくは重要度。あるい

は、職務の技能度。危険度から生ずる労働者の代替性の程度も

このなかに含まれるQこの職能の緊急・重要性の程度は、その

事実が秘密にされうるものではないから、経営にとって緊急・

重要度の高い集団は、圧力活動において利点をもつことが考慮

される(4)。

 ⑤ スキルの程度。作業遂行中に労働者の判断が含まれる程

度の多いほど、圧力活動が活澄である。調査事例の半数におい

て、強力な活動集団がこの「判断」の余地のいちじるしく高い

課業であり、作業遂行が労働者自身のコントロールに任される

余地の多いことを示していた(5)。

 註1 8箆こ℃°蔭

  2 一げ己:℃°命

  3崔ρo」瞳

  4。帥ζ゜ω①αq無貯。§ω卿口毛鋤αq①》ユ甘゜・ぎ①巨δ

   ↓①畠昌oδσQぎ巴Oプ碧σqρ冒臼.■辞『幽巴碧らい菩o「刃①巨幽8ω

   カ①〈冨ヨH霧ρ唱゜b。卜。α

  5ω帥覧。の=玄8噂゜逡~①①

 つぎに、集団の内部構造上の要因として、集団内の課業の分

業化Q作業工程から惹きおこされる成員の相互作用の頻度。の

問題が考察される。

 まず組労働(O目O老く ≦O目犀)および小規模の流れ作業の場合に

は、集団の課業は各部分作業に分かれ、技術的に成員の労働は

相互依存関係にある。「方同じ課業が個別的に遂行される場合

には、成員の労働は自己完結的である。したがって、前者では

Page 8: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

人間関係論と小集団の問題一一

59

後者よりも、集団の内部的統一性がいっそう必要となる。そこ

では、作業速度、生産高について相互に容認された決定へ到達

されなければならない。

 また、この相互作用の高い頻度は、かれらを緊密に接合され

た作業ティーム・社会集団と成らしめる反面、さまざまな就

業・職格水準を含む成員の要求の抗争が、職場集団の目標を達

成するための協同活動のなかで、その集団の統一性を無効にな

しうることができる。さらに、多くのこのような組労働あるい

は組立労働集団を含む職場組織では、共通目標のための統合性

は、構成部分である各集団の自閉的性格のために、困難であ

る。同様にこれらの集団は、かれらのリーダーシップの選択に

おいても自由ではない。なぜなら、職能的なリーダーがこの場

合支配的であるから。

 したがって予想されたように、事実そうであったのだが、こ

の集団成員は、かれら自身の利益にかんする長期にわたっての

周到に計画された活動に参加する傾向はない。

 つぎに、成員の労働が均質的な組労働では以上の結論は妥当

しない。成員は最大限の共通の利益をもち、このような集団に

おける共感的要素は強められ、高い協同活動を見せる。けれど

も、直接的な活動を抑制するかれらの無能力さ、心の移り変り

易さは、戦術型集団の特性である長期にわたる計算的な要求活

動を不可能にする。さらにかれらは一つのハソディキャップー

ーすなわち、組の内部で育くまれる自閉的な家族的相互関係1

ーをもつので、多くの諸問題の処理に当たるべぎヨリ大ぎな組

織へ結合することが困難である。

 したがって、持続的な苦情・圧力活動ー長期的な目標のた

めの周到な思考の産物とみなされるーは、以上のような組労

働・小規模流れ作業の特性であるよりも、成員の労働が相互依

存性をもたない個別労働の特性であったのである。

 以上のような考察を要約すればつぎのようになる。

 1 恒常的な高度の苦情・圧力活動を伴う集団(移り気・戦術型集団)。

   職格は中位。労働遂行に労働者の判断”自己統制が含ま

  れる。企業にとって必須的作業。成員の経済的利益に高度

  の類似性がある。

°2 突発的・予期されない苦情・圧力活動を伴う集団(移働厳

  愚。

   労働の相互依存的性格(繍蛸辮跡)。

   労働の流れの中断と不完全さ。

 3 慎重で予期されうる苦情・圧力活動を伴う集団(戦術的・保身型集団)

   個人作業の集団。ときどき、小規模.均質的流れ作業。

   均質的組労働。

 4 軽度の間歌的苦情・圧力活動を伴う集団蕪鯛恥鯉跡)。

   職格が特に古同い。もしくは特に低い。

  註 集団内部構造の諸要因についての考察は、O訂やG。》ゆ陰

   H馨の弓⇒巴o「鵬帥β冒¢島oづo{爵Φ≦O門需㈹吋o信℃を参照。

 職場集団の行動様式の相異が、右のような諸要因に関連して

Page 9: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

60一明治大学短期大学紀要一

いるとすれば、これらの行動様式の相異は工場の技術組織に大

きく関係してくることになる。したがって、 「多くの持久的な

産業関係(ぎ臼ω践巴冨鼠島8°。)上の問題は工場の技術のなか

にその根源をもつ」と認められるのであり、今まで、産業関係

上の諸問題を、「労働者・経営者の個人的特質や、仕事のきび

しさ、不潔さ、反覆性等々の問題に帰せしめがちであった」の

にたいし、「技術工程によって組み立てられる社会関係(亀・09巴

。。

{8ヨ)もまた労働者の集団の態度と行動にたいする基本的な

持続的な決定因となる」と述べられるのである。なぜなら「あ

る特定の環境条件にたいする成員の満足・不満足につけ加え

て、この集団の構造の相異は、成員の集団行動を形づくる重要

な変数」(-)だからである。

 註1 一三9℃°㊤ω

四動態とモーテイヴ

 ところで、集団行動の基本的な決定因として求められた社会

関係iこれは技術工程によって組み立てられたものであった

ーは、直ちに、集団の行動の動因に結びつくものではない。

労働者の職務を中心にして把えられたかずかずのコンフィギュ

レイションは、ある条件のもとでいかなる行動が起りうるか、

という行動の可能的条件(①暴げ一8σq8民三8ω)であるが、攻

撃的活動の奔流を爆発させたり、停止させたりするもの、ある

いはそこに含まれているパースナルな動因については何も説明

しないQ行動の可能的条件は集団行動と組織のあいだに介在す

る変数なのである(-)・

 そこでつぎに問題は、この行動の力学的な面に移る。

 このためのアプローチとして、まず集団行動の様式のなかの

同質性と相異性が探られる。

 抵抗活動と頻度において相対的に非活動集団として分類され

たのが「無関心」「保身」型であり、緊張領域に属するものが

「戦術」「移り気」型として分類されていた。けれどもこの活

動を分つ二つの分離線は、行動の動態の上では必らずしも明確

なものとはならず、むしろ「無関心」「移り気」型と、「戦術」

「保身」型との系列の上に共通性がみられたのである。

 《無関心・移り気系列》

 経営および組合にたいする関係がヨリ個人的であり、どのよ

うな長期にわたろうとも、経済的。威信的地位の再更新を求め

ず、在来からの権利を守ろうとする(いわば伝統主義者)。 監

督にたいする関係への依存のなかで情緒的経済的安定を保とう

とする傾向があり、この状態が打ち破られるとき、突発的で爆

発的な反動が生じうる。

 計画的な苦情活動に必要な集団の凝集性と忍耐つよい交渉技

術を欠除しているから、しばしば自己の殻のなかに閉じこも

る。ぶっきらぼうな活動によって軽そつに自己を傷つけ、この

ような行動への報復を脅かされる場合に、自ら退き面目をたて

るべき組織的手段をもたない。かくしてかれらの攻撃的活動の

Page 10: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

人間関係論と小集団の問題一

61

性格は、逃避・隠遁に連なる行為によってつくりだされる欲求

不満の性格をもつのである。

 《保身・戦循的系列》

 ヨリ合理的な行動を特徴とする。ことに労働組合の出現以

来、契約事項について考えることを学び、経営者がその文書の

字義どおりにしか従わないときに、いつもこれを阻止する。他

の集団との比較において自分たちの経済的・威信的地位が公平

であるとみなせば満足する。しかし、職格が中間的位置にある

集団では、 --自分たちが受ける資格のあるものを全部得ていな

い㍑との疑いが続くかぎり、すべての機会を捉えて圧力活動を

行使する(いわばマーケット・マソ)。

 かれらの合法的な苦情の大部分はよく考慮表明され、経営

者・集団成員ともその〃要求惚を理解するので、急激な爆発が

殆ど無い。合法的・計画的苦情活動は、要求を獲ちとる機会を

増大し、爆発の可能性を減少する。

 以上のような行動の動態的な系列において、集団のイソブオ

ーマル・リーダーシップの問題もまた対照的である。

 前者においては、高度に攻撃的な人物に魅きつけられて、か

れらにリーダーシップの機能を許す。かれらはカリスマティッ

クな性格をもつリーダーである。

 後者においては、集団の総意が成員によって表明されうるの

.で、かれらの提案の執行者として適合性のある人が、リーダー

として選ばれる。適合性が無いとみなされる成員にリーダーシ

ップの機能をゆだねることは拒否される(2)Q

 註ω 一げ達∴℃幽㊤A

  伽 ひ二遥喝゜8    ,

 したがつて、圧力集団の行動の変移の過程は、その原因がい

まだ不明であるにしても、つぎのような系列のなかで示され得

たのである。

 ① 一時的もしくは短期的変移。移り気↓無関心(理由不

明)。無関心ー移り気(理由不明)。保身ー戦術(組織のな

かでの利益配分において集団の利益が低められたこと)。

 図 長期的変移。戦術i↓無関心(技術的変化による集団の

職能の重要度の低下)。 戦術ー保身(集団のステイタスの向

上)(-)。

 註ω 子崔」や同Ob。注意しなければならないのは、 集団行

   動の変移にかんする資料的裏づけは不十分で、この分野

   は仮説的なところが多く残されている。

 さて、集団行動を誘発する動因は、つぎのように整理され

るo

 ω 諸集団のあいだに配分された利益の比較。これは工場に

おける各集団のステイタスと密接に関係する。すなわち、熟練・

収入が中位にある集団は、上位の労働者が亨受している給与・

労働条件を自分たちと比較して、要求を正当化するクライテリ

アとする。

 ② 外部から集団に対してなされる脅威・圧迫。諸集団が現

Page 11: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

62一明治大学短期大学紀要一

在亨受している諸利益に対する脅威。圧迫は、成員を行動へ衝

りたてる誘因である。

 ⑧ 集団の過去の活動実績がもつ履歴効果。これは集団のも

つカへの信頼感を含むもので、成功ー新しい要求ー新しい

成功というサイクルによって補強されるか、あるいは逆の場合

には消去されるものである。 すなわち圧力活動の失敗の経験

は、とくに集団内部に原因が帰せられるときには、つぎの活動

を試みようとする動因を弱めるのである(-)。

 註ω ま乙こ竈。H8~HO8H8

五 「利益集団」の把握

 職場集団の行動様式を苦情・圧力活動の面にスポットライト

をあてて把えようとした試みは、当然、伝統的なインフォーマ

ル・グループの概念に対して挑戦せざるをえなかった。

 セイルズは、 既存の集団概念ーh嵩Φ巳ωぼ℃o}5¢ρ 一⇔。・犀

ぴq

Wもにたいして検討を加えながら、それらの集団概念の共通

の特徴として、集団の8駄oH巴受への欲求、組織と集団のあ

いだの均衡関係の樹立という把握のしかたを批判する。そして

むしろ、組織と集団とのあいだの不均衡関係をつねに醸成して

ゆく利益集団の概念を、導入・措定するのである9

 もちろん、これらの集団のメムバーシップは重なり合うもの

であり、これらの集団の内部構造は、それが包括あるいは排除

するメムバーシップによって形づくられる。だが、利益集団と

いう概念の導入によって、はじめて職場集団の行動様式は理解

されうるものとなる。

 圧力集団によって行使される勢力(…一P併①尻①も自一 {○鳴O①し働)は、技

術(90訂5δσQ団)がワーク・ティームの相互関係を錯雑させて

フレンドシップ・クリークを分離。排除する程度に準拠して弱

められる。したがってここで重要なことは、インフオーマル.

グループのなかの相互作用を云々することではなくて、むしろ

三つの集団の相互関係を研究することこそ有用なのである(-)。

したがってこの意味では、セイルズによる職場集団の行動分析

は、既存の人間関係的方針に対する挑戦であった。

 註1 ま崔」℃°同8

 さて、職場集団についての研究においては、その重要な部分

が、ぎ{oHヨ巴oHαq螢ゑ鑓叶δ昌の問題に充てられている。 イソフ

ォーマル。グループの概念.は、ウェスタン・エレクトリックの

調査によって、ho目ヨ巴實σq螢巳壁二〇昌のなかで予期される行動

の修整老としての意義を獲得して以来、産業関係の分野で重要

なものとなってきた(-)Q

 個人にとって労働のもっとも直接的な、意味のある経験は、

職場集団と作業仲間との文脈のなかで獲得される。覇リ大きな

組織についての経験は間接的に為しうるのみである。けれども

小集団でのメムバ:シップは、かれの労働の全世界にたいす

る態度と行動を形づくる上に直接的に寄与する。この有効性

(℃08口塗)のゆえに、小集団は、人間関係に関心をもつひと

Page 12: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

人間関係論と小集団の問題63

びとの研究課題となったのである(2)Q

 註1 ぴ置這O.置ω

  2塗儀‘唱」食

 「それがもっとも強い人間の特性でないとしても、仲間と、

ひきつづいて、友だちになりたいという人間の欲求は強力であ

る」(-)。気こころの知れあったひとびとはお互いに魅かれあ

う。年令・性・婚姻状態・余暇活動・趣味等々の一致が、友好

集団({江①ロ留三で。ζρ口①)を形づくる素材となる(2>。

 この友好集団は、組織にたいして個人を鋳接するニイジェン

               イムパロソナリテイ

シイとして浮び出す。組織における非人格化、ヒエラルキーの

拡大、そこにおける社会的距離の増大は、組織にたいする忠

誠、愛着さえも曖昧にする。けれども、直接的な、容易に感知

される面接集団への愛着は、組織における経験の有力な実体と

なる。それはイムパーソナルな組織のなかの個人にたいして、

パーソナルな保証を与えるものである(3)。

 註1 国L≦我o”ω099℃Ho窪oヨ゜・ぎぎ畠塁けユ9Q<…母-

   島o静お蔭押層゜H二

  2 0り鎚♂9一ぴこご喝゜Ha

  3 一げ匹゜”℃°は①

 ところで、職場集団にかんする人間関係的研究は、さいき

ん、作業組織それ自体に大きな考慮を払っている。

 組織図、工場のレイ・アウト、作業工程は、共通の関心と社

会的相互作用への欲求がインフオーマル・グループの形成を促

したと同様に、イソフォーマル。グループの形成に資する。こ

れが冨ω犀曹q婦o毛として規定されるものである。

 これらの集団は、順次に、労働者の努力と忠誠に重要な影響

をおよぼす態度と行動のノルムを発展させる。その多くは、作

業方法、生産高の標準、賃金やプレステイジを統制するなか

で、集団の利害関係に根を置いて醸成されてくる(-)。

 これらの領域にたいする集団の統制と決定(ユ①O一ω一〇目)の展

開は、集団の規範がもつ有効性を認めさせるのである(2)。

 註1 ま置こ℃°に㊤

  2 旨凱ご娼゜H認

 この二つのイソフォーマル・グループの概念は同じものでは

ないし、ある場合には、その基礎的な次元において、相互に補

足するものでもない。しかし、両者に共通の特徴として、その

「均衡」(①ρ巳冒暫言ヨ)への強調がある。労働者相互間の、お

よび労働者と上位者とのあいだの状況を安定させる相互関係様

式の発展。また、友好の連鎖、作業工程上における相互関係、

生産高標準、地位と収入の諸関係の相互連結的な一環。そこに

均衡が存在するとの強調である。仕事(すげ)を行う上での個人

の要求(ロ⑦巴ω)と、 それにたいするフオーマルな組織の要求

(『①ρロ一吐①5P①昌侍匂o)とのあいだの暫定協定(≦o匙⊆。・三く①口虫)々

つうじて、個人と組織の安定(の鼠ぴ≡蔓)を維持することが目

的となる(-)。

 「均衡」という見地で規定されるかぎりにおいて、インフォ

Page 13: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

64

[一明治大学短期大学紀要

ーマル・グループの組織にたいする反作用は、つねに、集団の

ノルムのなかに組みこまれた作業方法、 社会関係、 生産標準

を防衛するための企てでしかない。 その目的は、 集団の地位

(ω叶象Oq∩)の安定、保持である(2)。

 註1 ま達凱づ゜HOQ。

  2 一げ乱こやH誤

 ところで、苦情・圧力活動という集団行動へ焦点を結んだと

き、利益集団(一嵩陣Φ「Φωけ αq目O口℃)形成への誘因が、組織によっ

て提供される、ということが明らかになったのであった。この

誘因はたんに既存のステイタスを防衛するという欲求ばかりで

なく、その地位の相対的改善への欲求を含むのであった。

 そこでは取得可能な経済的利益の争奪をめぐって、集団相互

間の競合が存するQそして闘争力の強度によって、利益亨受の

相異が生ずる(-)。        」

 当初において、このような集団は、防衛的動因を有している

のかもしれぬ。だがいつまでもその静態的な姿勢を保つことは

不可能である。工場というダイナミックな環境において、つね

に同じ状態を維持しているということは、相対的な地位の低下

を意味する。さらに他の集団が経済的なパイの分けまえに預か

ろうとしない場合においても、経営において創り出される「変

化」は、その静態的な状態を可能ならしめないのである(2)。

 この利益配分をめぐる集団の競合関係は、集団の壁を超えて

の労働者間の共感・忠誠感の欠除をもたらす。労働者はその利

益追求活動のなかで、 他の集団の利益の侵害さえも行う(3)。

集団それ自体の利益の保護改善という力量をもって集団それ自

体を充足する「利益集団」の観点からは、これらの集団間の総

体的な忠誠感、高度の一体感は存在しないのである。そこでは

むしろ、圧力活動のなかでの集団間の提携と拒否の問題が、戦

術の問題として存在するのである(4)。

 したがって、そのメムパーシップは、直接的な面接集団に限

定されない。日常的な相互作用の応答の範囲を超えて、圧力集

団は、共通の利害関係に在り協同的な活動に結合される多数の

労働者を含みうるのである(5)。

 だからここには、 「行動のノルムの確立を伴うコンフォーミ

ティへの欲求」というイソフォーマル・グループについての伝

統的概念は、妥当しない。この高度に動態的な活動単位は、

「作業工程の技術的要求に帰因される自成的な集団形成と、労

働者の利益追求動因(゜・①}{・ωΦΦ犀ぎσQヨo牙$)の意識的結実と

しての集団形成、を共有するもの」として、基本的な特異性を

有するのである(6)。

 この結果、いやしくも産業関係において、 「均衡」への傾向

は生みだされない。しかも同様に、集団の内部構造においても

高度の動態性がみられるqそれは集団行動の変移の過程として

跡づけられたものであった(7)。

 註1 一ぴ三G℃℃。H紹~①

  2 ま乙4℃℃°円綬~①

Page 14: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

一人間関係論と小集団の問nc-一65

38墨堕娼゜目零

4旨分o」巽

5葦匹‘P呂。。

6ま8喝」昭

7 まこG噂゜扇Q。 内部構造の動態性については技術的変

 化のために、凝集性の強かったタスク・グループが反目

 的な集団となった場合(一げ一匹゜vO.ドO刈)。あるいは凝集性

 の稀薄な集団が工場の社会システムのなかで重要な力と

 なる場合Q oh°り’カ゜ω凶≦。9H艮φ茜円oξOo⇒塗。rぎ

 芝゜国≦ゲ旨02p。一ご]≦8Φ団餌昌侮ζ〇二くp二8ごH霧伊

 ℃℃°爵~OQO

六 むすびにかえて

 小集団が、組織と個人を結び着ける場合の媒介的役割を果す

という観点から問題にされるとき、小集団内部の相互作用にの

み視点を限定する研究方針は、その有用性を失う。

,戦後の人間関係論における、組織的・技術的脈絡のなかで集

団を把握しようとする努力は、ここにその根拠をもつものであ

る。小集団を通じて個人を操作しようとする場合、集団内部の

人間関係を「真空」のなかで把握することは、それ自体無意味

だからである。セイルズの集団行動の分析は、このような人間

関係的方針の文脈のなかで跡づけられねばならない。

 ここで提起された利益集団の概念はーたとえかれが初めて

それを行ったものではないにしてもー、 「伝統的な小集団概

念」を打ち破ったという意味においては意義をもつものである。

なぜならそれは、集団の斉合性。均衡の存在という把握に対す

るアンチ・テーゼの提起であり、それによって小集団の閉鎖的

な壁を破ったからである。

 だがこの小集団の閉鎖的な壁が破られたということは、そこ

から二つの相反する方向への論理の展開を可能ならしめるので

あり、この意味から、それ自体としては、完結した構図をもつ

ものではない。

 ひとつは、組織による集団の操作方法の合理性・巧緻性に役

だつ理論的武器を提供しうるということ。他は、それによっ

て、小集団を媒介とする個人の組織にたいする働きかけを可能

とする前提を置いたことである。そして、後者の領域における

「利益集団」分析の屈折が、セイルズの集団行動解明の姿勢

を、前者の次元に留めてしまった、と考えられる。

 すなわち経営あるいは組合は、職場集団の置かれている技術

的・組織的脈絡から、その集団の行動様式を予見しうるとい

う、行動予見の可能性が措定される。セイルズは、自己の研究

の有用性をそこに置いた。それは集個操作技術の精密化・巧緻

化へ途を拓くものである。

 つぎに、個人の組織にたいする働きかけの領域においてセイ

ルズは、集団相互間の競合関係を置いた。経済的なパイの分け

まえをめぐっての集団間の競合は、集団の壁を超えての労働老

Page 15: 一 はしがき 人間関係論と小集団の問題 - Meiji Repository: …...人間関係論と小集団の問題 り.夘゜ω鋤泣2の集団行動の分析を中心にして

66明治大学短期大学紀要一「

間の共感・忠誠の欠除をみちびくσそこで行われる集団間の提

携は、利益追求・獲得の面から志向された戦術的意味をのみも

つのである。

 だからこのような利益集団の構図においては、経営偏向、も

しくは組合偏向の性格をもつ集団は存在せず、在るのはただ、

成員の利益追求をめざして圧力活動を行使し、それによって集

団自体を充足する、という集団像である。

 このようなセイルズの利益集団の把握を踏まえて見るとき、

つぎのような問題点が明らかになる。

 すなわち、利益集団の形成基盤が労働者の労働の脈絡のなか

での日常的な利害関係のなかにのみ置かれていることQしかも

行動の動因として、その脈絡のなかでの集団のステイタスの相

対的比重が大きな要素をしめるのであった。

 だが集団の行動の動態的な面が問題とされゐ場合には、集団

間における地位・収入・労働条件の比較というようなレファソ

ンスだけでは、解明できない意識構造が残されるのである。セ

イルズの分析の構図には、その点にたいする考慮は読みとれな

いQ同様に、集団行動のモーティヴとして、個々の労働者を超

えて存在しうる社会意識の問題は、この構図のなかに介入する

余地だにないのである。

 だからこそ、セイルズの調査方法は、苦情のアップ、圧力活

動の、質、量的把握を、職場集団対経営・組合という関係のな

かで把えせしめたのであり、そこでは、小集団に対置するもの

として、経営。組合という図式が描かれ、きわめて異質的なも

のである筈の二つの組織が並列的に並べられたにすぎない。

この集団対経営・組合の対置が、集団ー組合対経営という対

置の図式で打ち出されてこなかったのは、かれの利益集団の把

握のしかたのなかにその論理的基盤をもつのである。

 職場における日常的な利害関係を基盤としての自然発生的集

団形成は、組織”経営に対する労働者の抵抗のきわめて始源的

なナイーヴな根源であるが、ここで育くまれる僚友意識は、集

団の枠を超えた階級意識にまで高まってゆく可能性を胎むもの

である。この可能性の分析-個人意識から社会意識への脱皮

の過程、あるいはまたそこにおける屈折についての分析は、集

団行動の解明にとって欠くことのできない残された領域であ

る。だがそれは、セイルズの分析の姿勢とはおのつから異った

研究の視点と方法とを要求するであろう。

  註 セイルズの集団行動の分析は、経営および組合役員か

   ら提供された報告と面接から得られた三〇〇の職場集団

   (三〇工場)の資料にもとつく。彼は集団行動の型の分

   類とそれを直接酌に技術組織に関連させよ5としたため

   に、集団行動の動態的な面についてはことに仮説的な説

   明に留まってしまった。このような性格の調査の困難性

   は諒解されるとしても、彼の「集団行動の解明」の批判

   のためには、その調査内容の内在的な検討が必要である

  から、後日それに触れたいと思う。