大学サッカー競技における 集団凝集性・集団効力感...

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大学サッカー競技における 集団凝集性・集団効力感とライフスキルとの関連性の検討 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科教育内容方法開発専攻 持田和明 はじめに 集団スポーツにおいて,チームのまとまりと 競技成績は深く関係性のあるものだと考えられ ている(本問ら,2004).そこで,チームのまと まりという視点から本研究において,2つの変 数に着目した.先行研究(阿江,1985)によって, チームパフォーマンスと関連性のあることが示 されているrまとまりの程度」を認識する変数 である集団凝集性、そして,パフォーマンスを 高める要素の1つであることが示唆されている (河津,2010)「集団に属するメンバーが共有す る信念」(Bandura,1997)を指す集団効力感で ある.この両概念は,パフォーマンスに影響を 与えているだけでなく,両概念同士が密接な正 の相関があることが明らかになっている (Heuze,2006).このことから,近年の研究で は,これら2つの概念を用いて集団スポーツに ついての研究が進められている. では,これら2つの変数を高めるためのキー ワードとして,本研究では,個人の心理社会的 能力であり,r日常生活で生じるさまざまな問題 や要求に対して,建設的かつ効果的に対処する ために必要な能力」(WH0.1997)と定義される 「ライフスキル」に着目した.その理由は,チ ームそのものは個々の集合体であり,集団凝集 性や集団効力感を規定するものの1つは,構成 員個々の能力であると考えたためである.その ライフスキルの構成に関して,島本・石井(2006) は,大学生全般に求められるライフスキルを対 人的なスキル(親和性,リーダーシップ,感受性, 対人マナー)と個人的なスキル(計画性,情報要 約力,自尊心,前向きな思考)の2つに大別して いる. また,ライフスキルにおける主要な側面であ るコミュニケーションスキルと集団効力感との 間には,正の相関関係が認められることが明ら かにされている(芹澤ら,2008),さらに,ライ フスキルの個人的なスキルについても,学業を 本業とする大学生とアスリートとしての立場を 両立させながら,積極的にチームに関与してい くことや,試合に出場できない等自分自身が苦 境に立たされていても,忍耐強くチームのため に全力を尽くして行動する基盤となるスキルで あることが考えられる1 これらのことから,選手個々のライフスキル が集団凝集性・集団効力感を高めるための1つ の方法と仮説を立て,ライフスキルと集団凝集 性・集団効力感の3者間の関連性を検証するこ とを本研究の目的とした. 1一一〇カ■ ライフス年ル ■■m■ ●■■ ■●I■■カ■・□㎜●口研ル目 1.調査対象と調査時期 調査対象:関西学生サッカーリーグ1部に所属 するA大学を対象として,その男子部員57名 (平均年齢19.8土0.9歳) 調査時期:2012年5月,2012年9月 2.調査内容 (1)集団凝集性 阿江(1986)が作成した集団凝集性尺度を用 いた、本尺度は,19項目,5因子(メンバーへ の親密さ,チームワーク,魅力,価値の認めら れた役割、目標への準備)からなる. (2)集団効力感 芹澤ら(2008)が作成した高校運動部員版集 団効力感尺度を用いた.12項目3因子(能力発 揮、協力体制、準備態勢)からなる、 i

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大学サッカー競技における

集団凝集性・集団効力感とライフスキルとの関連性の検討

          兵庫教育大学大学院

学校教育研究科教育内容方法開発専攻                持田和明

         はじめに

 集団スポーツにおいて,チームのまとまりと

競技成績は深く関係性のあるものだと考えられ

ている(本問ら,2004).そこで,チームのまと

まりという視点から本研究において,2つの変

数に着目した.先行研究(阿江,1985)によって,

チームパフォーマンスと関連性のあることが示

されているrまとまりの程度」を認識する変数

である集団凝集性、そして,パフォーマンスを

高める要素の1つであることが示唆されている

(河津,2010)「集団に属するメンバーが共有す

る信念」(Bandura,1997)を指す集団効力感で

ある.この両概念は,パフォーマンスに影響を

与えているだけでなく,両概念同士が密接な正

の相関があることが明らかになっている(Heuze,2006).このことから,近年の研究で

は,これら2つの概念を用いて集団スポーツに

ついての研究が進められている.

 では,これら2つの変数を高めるためのキーワードとして,本研究では,個人の心理社会的能力であり,r日常生活で生じるさまざまな問題

や要求に対して,建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WH0.1997)と定義される

「ライフスキル」に着目した.その理由は,チ

ームそのものは個々の集合体であり,集団凝集

性や集団効力感を規定するものの1つは,構成員個々の能力であると考えたためである.そのライフスキルの構成に関して,島本・石井(2006)

は,大学生全般に求められるライフスキルを対人的なスキル(親和性,リーダーシップ,感受性,

対人マナー)と個人的なスキル(計画性,情報要

約力,自尊心,前向きな思考)の2つに大別している.

 また,ライフスキルにおける主要な側面であるコミュニケーションスキルと集団効力感との

間には,正の相関関係が認められることが明らかにされている(芹澤ら,2008),さらに,ライ

フスキルの個人的なスキルについても,学業を

本業とする大学生とアスリートとしての立場を

両立させながら,積極的にチームに関与していくことや,試合に出場できない等自分自身が苦

境に立たされていても,忍耐強くチームのため

に全力を尽くして行動する基盤となるスキルであることが考えられる1

 これらのことから,選手個々のライフスキル

が集団凝集性・集団効力感を高めるための1つ

の方法と仮説を立て,ライフスキルと集団凝集

性・集団効力感の3者間の関連性を検証するこ

とを本研究の目的とした.

       1一一〇カ■ライフス年ル       ■■m■

●■■ ■●I■■カ■・□㎜●口研ル目

1.調査対象と調査時期

調査対象:関西学生サッカーリーグ1部に所属

するA大学を対象として,その男子部員57名(平均年齢19.8土0.9歳)

調査時期:2012年5月,2012年9月

2.調査内容

(1)集団凝集性

 阿江(1986)が作成した集団凝集性尺度を用

いた、本尺度は,19項目,5因子(メンバーへ

の親密さ,チームワーク,魅力,価値の認めら

れた役割、目標への準備)からなる.

(2)集団効力感

 芹澤ら(2008)が作成した高校運動部員版集

団効力感尺度を用いた.12項目3因子(能力発

揮、協力体制、準備態勢)からなる、

i

(3)ライフスキル

 島本ほか(印刷中)が作成した大学生アスリ

ート用ライフスキル評価尺度を用いた.本尺度

は,40項目10因子(目標設定・コミュニケー

ション・ストレスマネジメント・体調管理・最

善の努力・礼儀、マナー・責任ある行動・考え

る力・謙虚な心・感謝する心)からなる.

3.分析方法

(1)既存尺度の信頼性の検証

 信頼性(内的一貫性,安定性)を検討するため

に,両時点における各々の尺度の内的一貫性を

表すα係数を算出した(ライフスキルは各下位

尺度).安定性については,1時点目(2012年5

月),2時点目(2012年9月)の同一変数間の相

関係数(再検査信頼性係数)を算出した.

(2)横断データ,縦断データを用いた変数間の

関連性の検討

 変数間の関連性を検討するため,まず,横断

データをもとに各尺度間の相関分析を実施し

た.また,変数間の関係を厳密に検討するため,

1時点目のライフスキル下位因子を独立変数,

2時点目の集団凝集性,集団効力感それぞれを

従属変数とする重回帰分析(ステップワイズ

法)を行った.なお,分析にはIBM SPSS

Statistics20.0を用いた.

         結果

(1)既存尺度の信頼性の検証

 α係数においては,全体的には基準値であ

る.70を上回る値であった.再検査信頼性係数

では各側面ともに,その値は概ね.40以上であ

った、この結果から,各尺度の信頼性は概ね確

保されていることが確認された.

(2)変数間の関連性の検討

 集団凝集性,集団効力感とライフスキル各下

位尺度との相関分析における結果では,「コミ

ュニケーション」「感謝する心」の両スキル

が.50以上の中程度の正の相関関係を示した.

また,2時点目の調査においても,同様の結果

が得られた.このことから,集団のまとまりと

チームに所属する選手個々の「コミュニケーシ

ョン」「感謝する心」の両スキルとの間に正の

関連性があることが示唆された.

 また,縦断データによる重回帰分析の結果,

効力感・凝集性ともに「コミュニケーション」

が両変数に正の影響を与えていた.このことか

ら,チームに所属する選手個々のrコミュニケ

ーション」スキルが上がると,集団効力感,集

団凝集性が上がるのではないかと示唆される.

また,同様に,縦断データによる重回帰分析の

結果,r感謝の心」が「コミュニケーション」

に正の影響を与えていた.このことから,「コ

ミュニケーション」を高めるためには「感謝す

る心」を高める必要があることが推測される.

 (図2).

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         考察

 経験的に,感謝の一言を伝えるか否かによってその後のコミュニケーションの円滑さが変化

することもあるだろう、このことからも,「感謝

する心」がコミュニケーションに正の影響を与

えるのではないかと考える.

 その「コミュニケーション」スキルが集団凝

集性,集団効力感に正の影響を与えていること

が示された.集団効力感に限って言及すると,

芹澤ら(2008)の知見と同様の結果を示している、

このように示された要因としては,調査対象ク

ラブがチーム全体のコミュニケーションの活性

化を重要視した「ファミリー制度」という活動

を行なっているためではないかと推測する.

 また,両スキルが凝集性、効力感に正の影響

を与えているからこそ,横断データにおいても

凝集性,効力感と「感謝する心」「コミュニケー

ション」の両スキルの間には正の関連性がある

ことが示されたのではないかと推測される.

主任指導教員 永木耕介/指導教員 島本好平

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