食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

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Hitoshi Watanabe.Lab Waseda.Univ 2005 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 - C Uvwf{ qp Gcvkpi Urceg Dcugf qp Gcvkpi Rquvwtgu /Cp Gxcnwcvkqp d{ Kpuvcnncvkqp qh Hwtpkvwtg cpf VkogRcuucig/ 日下部 真世 U0509 早稲田大学理工学部建築学科卒業論文 指導教授 渡辺仁史 Fgrctvogpv qh Ctejkvgevwtg.Uejqqn qh Uekgpeg cpf Gpikpggtkpi.Ycugfc Wpkxgtukv{

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2009年度,卒業論文,日下部真世

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Page 1: 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

Hitoshi Watanabe.Lab Waseda.Univ 2005

食事姿勢からみた食空間の研究-しつらいの違いと時間経過による評価 -

日下部 真世

              U0509早稲田大学理工学部建築学科卒業論文        指導教授 渡辺仁史

Page 2: 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶はじめに

Hitoshi Watanabe.Lab Waseda.Univ 2005

はじめに

私がこの研究を行うきっかけとなったのは、なにげない日常生活の中で疑問というか、違和感を感じたからだ。家族や友達との生活の中で、日々食事という場面に対面する。自宅で家族で囲む食卓。友達と学校の中庭のベンチで食べる昼食。課題に終われ電車の中で食べる、携帯栄養食。様々なシチュエーションと食事形態、一緒に食べる人。実に様々な食事をしているということに気がついた。外食一つにしても、学校の帰りにふらりと入った牛丼屋と、前もって予約して行ったイタめしやでは大分違う。また、友達と「さぁお昼を食べよう」と言った時に、どこで、何を食べるのか。すぐに決まる場合もあれば、お互いの意向を探り合いながらなかなか決まらないことも多々ある。この二つの差は、相手の食事に対する価値観を知っているかいないのかによるものだと思う。この食事に対する価値観の違いによって、大幅に食生活は違ってくる。夕食はきちんと摂る人。朝食を食べない人。昼食はいつもパンの人。例を挙げたらきりがないほど、その人の食がある。良い悪いを抜きにして、その人の食が存在する。その原因となる価値観は、どのような要因によって決まるのか。育ってきた家庭環境が一番に影響しているように思う。そして、その人の人生観のようなものとも繋がっていると。趣味趣向から、友達、今の生活環境、経済状態、優先順位などなど、ありとあらゆる要素が複雑に絡み合ってできているものだと考える。自分が生まれた頃と、今を比較しても、生活は見違えるように変わった。Fax や電子辞書、携帯にパソコン、液晶テレビに食器洗い機など、電化製品だけでも目まぐるしく新製品のラッシュだ。食という身近で大切な問題を、ここでもう一度見直す時がきているのではないかと思い、この研究を始めた。

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第0章 序論

第0章 序論

0-1 目次

0-2 背景

0-3 目的

0-4 概要

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

Hitoshi Watanabe.Lab Waseda.Univ 2005

目次はじめに第0章 序論                        20-1 目次                       30-2 背景                       60-3 目的                        90-4 概要                       10

第1章 食事空間と姿勢                   111-1   食事と空間                  121-1-1 食事                      121-1-2 食事空間                   131-1-3 日本の住宅の食事空間             141-2   しつらい                    151-3   食事と姿勢の関係               161-3-1 坐食と腰かけ食                161-3-2 様々な食事姿勢                 171-3-3 食事にまつわるエピソ ード           18

第2章 アンケート                      192-1   調査概要                   202-1-1 調査目的 2-1-2 調査日時2-1-3 調査対象者                  202-2   調査方法                    212-3   調査結果                    222-3-1 調査票A                   222-3-2 調査票B                   27調査票Bの回答例 1, 2                  28アンケートシート(調査票A,B)               30

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第3章 実験方法                       333-1 実験概要                      343-1-1 実験日時・場所                 353-1-2 Frame-DIAS Ⅱ                353-1-3 実験機材                    363-1-4 被験者                     373-1-5 食事内容                    373-2 測定する食事パターン                383-3 基本姿勢                      493-4 実験手順                      413-4-1 会場セッティング                413-4-2 キャリブレーション               433-4-3 教示の仕方                   44

第4章 実験結果                       45

第5章 考察                         675-1 分析方法                      705-2   分析                      705-2-1 テーブルの高さ                 70 700 ㎜ ( 被験者 7名 ) 5-2-2 各被験者内の比較                725-3   考察                      795-3-1 個人差                     795-3-2 評価                      80

第6章 展望                         82

おわりに参考文献

食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

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0-2 背景昔と今と比べて、生活の環境が大きく変わった。今ではあたりまえとなった携帯やパソコンは 1980 年代あたりから、次々と作られ始めたわけで、今からたったの 20数年あまり前のことである。かつては「一家に一台」だったテレビ、ラジオ、電話などが、今では「一人一台」の時代となり、電話は体に身に付けて持ち歩くものになった。今後、個人化が進んで家族は解体するのでしょうか?それとも携帯電話の結びつきなどによって新たな大家族が生まれるのだろう。戦後の家族の変遷を追うと、1950 年代の大家族と自営業者が多く、近隣共同体とのつながりが強かった時代、1960 年代の団地が増え、雇用労働者と専業主婦による核家族化が進んだ時代、70年代から90年代にかけての個室とリビングルームからなる住宅、少子化、晩婚化の時代、今日に至る携帯電話、家族関係が拡散する時代へと変化していった。一方でメディアはマスメディア、パーソナルメディア、ネットワークメディアと変化してきた。産業社会も変化してきた。家族の変化は、これらのメディアや産業の変化が促した結果といえるか。少なくとも影響しているのは確かだ。メディアは家族や社会の変化にどのような影響力をもっていたのか。 メディアや産業が発達して、世の中が便利になった。場所を移動するのも、仕事のスピードもあらゆることで、時間短縮が進み効率よくなった。コミュミケーションの幅も広がった。しかし、その便利さゆえに時間感覚や、人との関係の感覚が麻痺してきたといえる。食事の場面にもその影響が反映されてきた。20 代の約7割は「日本人の食生活」は悪くなっていると認識している ( 図 0-2-1)。私たちの親世代がこどもの時代は、食事中テレビを見る事や、席をたったり、食べ残したりすることが、いけないことという共通認識のようなものがあった。それが今は、食事中のテレビは当たり前だし、最近では食事中の携帯をいじるこどももいる。姿勢もくずれ食べ散らかす。何が一番変わったかというと、食事という行為が社会の変化とともに多様化するなかで、存在意義がなくなる傾向にあるということだ。生活習慣病などという病気が叫ばれる世の中になり、近年事態の危うさに気づき始めたといえる。あるアンケートで半数以上は食生活に関心があり、もっと改善したいと回答している (図 0-2-2)。スローライフ注1)、スローフード注2) といったこともその流れのひとつだろう。そこで、多様化した社会の中での食事行為がどうあるべきか問われている。              

注1) スローライフ スピードや効率を重視した現代社会とは対照的に,ゆったりと,マイ - ペースで人生を楽しもうというライフスタイル注 2) スローフード 食生活を見直そうとする運動。伝統的な食材や料理を守り,質の良い食材を提供する小生産者を保護し,消費者に味の教育を行う。イタリアで始まった運動が世界的に広まった。また,運動を進める同名の非営利組織がある。スロー - フード運動。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

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図表 0-2- 1 日本人の食生活は全体として

よくなっている

(%)01020304050607080 0 10 20 30 40 50 60 70 80

70 歳以上60代

50代40代

30代20代男女全体

悪くなっている

朝日新聞社「全国世論調査詳報(食生活と食品の安全性)」調査対象 : 全国の有権者 調査年月 :2002 年 6~7月

(%)

n=2,015

図 0-2-1 日本人の食生活は全体として

日本人の食生活は全体として

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

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図 0-2-2 食生活への関心

農林水産省関東農政局「食生活改善に関するウェブアンケート結果の概要」調査対象:「あぐりテーブル関東」会員 調査年月 :2001.9

n=729

17%

13%

57%

3%

10%

食生活への関心

図表0-2-2 食生活への関心

食生活にあまり関心がない

関心はあり、問題もあると思うが、特に改善したいとは思わない

関心はあるが、特に問題もないので、改善したいとは思わない

関心があり、もっと食生活を改善したいと思う

関心があり、すでに食生活改善のための工夫を実行している

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序論

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0-3 目的姿勢を悪くする原因(しつらい・時間経過)と食事姿勢の関係を明らかにし、正しい食事姿勢を導く食事空間の設計の手助けとなる指標を得る。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第0章 序章

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0-4 概要

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第1章食事空間と姿勢

第1章 食事空間と姿勢

1-1   食事と空間1-1-1 食事1-1-2 食事空間1-1-3 日本の住宅の食事空間1-2   しつらい1-3   食事と姿勢の関係1-3-1 坐食と腰かけ食1-3-2 様々な食事姿勢1-3-3 食事にまつわるエピソ ード

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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第1章 食事空間と姿勢1-1   食事と空間1-1-1 食事食事(しょくじ)とは、食品を食べること。人間が生命を維持し活動や成長をするためには、栄養素を摂取する必要があり、そのための手段が食事である。食事の時刻・回数・調理方法・内容などには文化的なものが反映される。日本では、朝食、昼食、夕食の3回食事をとる習慣が普通である。これは、1日のサイクルを昼間に活動し夜間は休息することにあわせたものである。従って、深夜に勉強や業務を行う場合には夜食などをとることがあるし、朝食や昼食の間、昼食から夕食の間に間食をとることもある。食事には、単に食べること以上の社会的意味が付与されている。同じ釜の飯を食うという慣用句にみられるように、複数の参加者が同時にあるいは同内容の食事を取ることは、共同体としての帰属意識を持つこと、あるいはそれを強化する意味がある。また、食事に招待するということは、儀礼の意味もある。食事の対価を参加者の一部メンバ -が肩代わりすることで、上下間や男女間の関係の確認が行われていることもある。自作の手料理を食べるということで特別な関係を意味づける場合もある。精神的・医学的な側面でいうと、精神的なストレスや異状は食欲の減退や正常な食事ができなくなる摂食障害の形をとることがある。偏った栄養摂取、不適切な量など問題のある食習慣は、生活習慣病の原因となることがある。また、医療の一環として食事制限が行われる場合がある。

参考サイト 10)http://ja.wikipedia.org/wiki/ 食事ウィキペディア

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-1-2 食事空間食べる営みの場所とは、大きくとらえると空間的要因と、時間的要因と、人間的要因という三つの要因が有機的に相関し合って、ひとつのシステムを形成している場所ととらえられる。この三つの空間・時間・人間ともに間の字が使われていることに気づく。空間における間とは、もともと日本語では間であり、空間としての間は具体的には柱と柱の間(あいだ)、壁と柱の間、壁と壁の間の意である。間を取る、間取りとは今日の設計手法では部屋と部屋を並べる部屋取りとも言うべき、かなり西洋式のやり方になってしまっているが、本来の日本式は「間(あいだ)取り」としての間取りであった。時間とは時と時の間である。これも本来は単位時間を足し合わせるものではなく、始まる時と終わる時の間であっただろう。間をとるとは、そういうことであっただろう。間あいを取る、間に合う、などはそのへんの感覚をとらえている。空間と時間と同じように、人間も考えてみると、これは人と人との間をいっていることになる。人と人との間のあり方、間柄、人と人の関係の取り合いが人間、なのである。この、食べる営みの三要因なるものを、最も狭くとらえると、台所という空間、調理の時間、台所に立つ人間(単数、ときに複数)、である。現代の普通のキッチンはこのぐらいのことで設計が始められているように思われるが、じつはこんな程度の見方では設計にならないはずである。わかりやすいところからいえば、ここでいう人間とは主婦であり母である時代もあった。がしかし、いまは違う。つまり時代によって、その人のライフスタイルによって、さまざまであり、高齢化に伴い、台所に立てなくなった人もいる。ある一人の人をとっても、状況は変わっていく。今は家庭によっても大きく違う。母親が料理をしない家、祖母から母から子どもが台所に立つ家など。そして、つくる人だけでなく、食べる人も関わってくる。食事行為という観点からすれば、つくる人と食べる人の間のかかわり、すなわち「人間じんかん」が大きな問題となる。それだけでなく、ここに時間の問題がからんでくる。何時に食べるのか、準備にどれだけ費やし、どのくらいの時間をかけて食べるのか。これまでは、いかに効率よく調理するかということが重要視されていたが、息抜きや、趣味という人、団欒のときなど。人によっても、その場によっても大きく違うものとなった。一様ではなく、それぞれの価値観や環境に合わせて求めるものがかわってきた。食べる営みの場所としての空間は、台所空間、キッチン空間の位置や広さ、だけの問題ではなく、生活環境、自然環境とのかかわりのなかでとらえられるべきである。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-1-3 日本の住宅の食事空間住宅の食事空間は、民族の生活様式を具体的な形として表現している。アメリカのように歴史がそれほど長くない国でも、いまやアメリカ独自の食事空間をもちはじめた。日本の住宅の食事空間が、食堂・ダイニングルームとして、特定の空間をもつようになったのは、第二次世界大戦後である。日本の住宅は歴史的に考察すると、大きな転換が何回かあった。明治の初めまでは日本の封建社会の構成が確立されていて、一部に町人の家屋や、農民をまとめる立場の庄屋の家を除けば、一般の住宅では大きな変化はなかった、と考えている。あるとすれば、南北に長く展開する日本列島では、地域差によるもので、囲炉裏を囲むか、竈で調理するかという、調理場の変化に合わせた食事空間であった。明治10年頃から、住宅の構成にも変化が現れてきた。その時代の大衆の望みは、対面の場(床の間)を持つ事、などであった。大正から昭和にかけて、洋風の空間が一般の住宅にも普及した。終戦とともに、デモクラシーが住宅に入ってきた。とはいうものの、戦後の耐乏生活では、贅沢なことはできず、合理的とか機能的という概念が住宅に深く打ち込まれただけだった。戦後20年くらいから、新しい暮らし方を追求しだした。長い間日本人は、与えられた空間で暮らしてきた。食事の場についても同様である。戦前の日本の住空間は、精神的な合理性のうえに成り立っていた。戦後の住宅の価値観は、全てにおいて計量化されたもののうえで表された。このようなことは、住まいの空間にもあてはめられていて、戦後では食堂は台所の隣にあって、食事を運ぶのに最短距離にある設計が、もっともよいものとされた。来客重視だったのが、戦後の民主化により、来客より家族が主となったために、現代の食事空間は住まいの中で、よい場所に設けられる事が多い。キッチンの存在が住宅の中で、大きな割合を占めるようになった。料理をつくるだけでなく、そこから家族のコミュニケーションが生まれ、生活がはじまる。家を家族をつなぐ、ハブとしての機能を持つものとして考えられるようになった。それと同じく、ダイニングと称されている場も、食事だけでなく、パソコン作業や勉強、本や新聞を読む場所であったりと、いくつかの機能を包括していくことが求められている。

文4) 石毛直道 監修 , 山口昌伴 責任編集 :『「講座 食の文化」第四巻 家庭文の食事空間 』,p.369 ~ p.385

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-2 しつらいしつらいとは辞書では「ある目的のための設備をある場所に設けること」「部屋の内装や設備などを飾りつける」とある。前者は機能としての意味合いがあり、後者はその機能に付加価値を付ける行為の事である。もとは室礼(しつらい)と書きかしこまった意味で、形式の定まった一式の行為のための道具立てのセットを意味していた。「日本国語大辞典」(小学館)にはしつらいには室礼の字を宛てているけれども本当は料理と書くのだとある。料理と書いてしつらい。食べ物の調整ばかりではなく、もっと広い意味での調製注3)、調整注4) をいっていた。料理の言葉の使い方も、料理(しつらい)の仕方も少しずつ変化していったと言える。この研究でのしつらいは、食べ物の調整の次の段階の、家具の調整として料理(しつらい)、食の演出を考えた。

文4) 石毛直道 監修 , 山口昌伴 責任編集 :『「講座 食の文化」第四巻 家庭文の食事空間 』,p.321 ~ p.327

注 3) 調製 注文や好みに合わせて作る事。飼料を調製する。注 4) 調整 つり合いがとれるようにすること。基準に合うように整えること。日程を調整する。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-3 食事と姿勢の関係1-3-1 坐食と腰かけ食立ったまま、あるいは寝転んで食べるのが日常の食事の規範とされる社会は、現在の世界には存在しないようである。野外でしゃがんで食べたり、立食パーティのような場面は例外として、どの文化においても、屋内での普段の食事は坐って、あるいは腰かけた姿勢で食べることになっている。ここでは、地面や床面に膝や尻をつけて、坐って食べるのを「坐食」、イスやベンチ状の家具に腰かけて食べるのを「腰かけ食」と表現する。人類の初期の生活様式である狩猟採集時代には、坐食が人類の普遍的な食事姿勢であったと考えられる。現代にいたるまでの、一般的傾向として狩猟採集民族と遊牧民は、地面や床面にクッションとなる草を敷いたり、敷物を置き、そのうえに直接腰をおろして食事をする坐食が普通である。定住農耕民でも寝台や高い脚をもつ机状の家具を使用せず、住居内の床面を生活平面として、床に寝具を敷いて寝たり、床面に坐って作業をする生活慣習の社会では坐食が普通である。坐食の食事様式は、床面にじかに食器を並べる方式と、食卓、あるいは食卓に相当する食事専用の盆、マットなどのうえに食器や食物をならべる方式に大別される。食卓を使用せず、食器をじかに床面に並べるのは、アフリカ、オセアニア、アメリカ大陸のおおくの部族社会と、北アフリカ、西アジア、中央アジアのじゅうたんを生活平面とする社会に一般的である。イス、ベンチ、スツールなどに腰かけて食事をする腰かけ食は、背の高いテーブル状の食卓の使用を前提とする。ただし、床面に直接坐らずに、ベンチやスツール状の腰かけを使用しても、その腰かけの高さによっては坐食と変わらぬこともある。ベッド状の寝台を使用し、スツールやベンチなどに腰かけて生活する民族がいるが、それらの坐具が高さ20㎝前後の背の低いもので、机や台の類とはセットにならず、食卓を使用しないで食事をする。つまり、腰かけに坐食する社会も存在するのである。背もたれと肘掛けを備えたチェアは、古代オリエントで王侯や貴族などの権威を象徴する家具として出現したという。腰かけ食が、まず発達したのはイス、テーブル、ベッドを使用し、床面よりも高い生活平面で暮らすようになったヨーロッパである。古代のギリシャ、ローマでは、饗宴の食事の際には寝台のような寝イスに横たわり、中央のテーブルの食物を給仕に持ってこさせて食べた事が知られている。ただし、日常の食事はイス、テーブルで食べたのである。この横たわって食べる宴会の風習は、中世ヨーロッパにはひきつがれなかった。ヨーロッパ文明をモデルとした近代化とともに世界各地で、オフィス、学校、兵舎などの公的機関でイス、テーブルを使用するようになった。それが家庭生活にも浸透し、イスとダイニング・テーブルで食事をする様式が普及しつつあるのが、現代の世界である。

文3) 石毛直道 :『食卓文明論 チャブ台はどこへ消えた?』,p.71 ~ p.76

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-3-2 様々な食事姿勢一般的に食事の姿勢というと、イスやスツールに腰かけテーブルで食する場合と、床に座してテーブルで食する場合が思いつく。しかし、立ち食いそばなどに見られる立位による食事や、公園の芝でしゃがんで食べたり、様々な場所やシチュエーションでそれに合わせた食事姿勢で食事をしている。お祭りの屋台では、歩きながら食べる。電車に乗りながら、自転車をこぎながら、また走りながらの食事もある。介護に見られるように、ベッドの上で体を起こした状態で食べさせてもらったり、ベッドや布団で横になった状態での食事もある。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第1章 食事空間と姿勢

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1-3-3 食事にまつわるエピソード

・コミュニケーション手段としての飲食

 飲食をともにすることによって、人々の連帯感が促進されるのはよく知られるところ

である。

 友人たちとの飲食など私的な飲食や、また日本では法事の食事など親族での食事・神

社の祭礼に伴う氏子の直会(なおらい)・会社の宴会などの社会的性格の強い行事に伴う

食事も、コミュニケーション手段として用いられている。

・カースト制度と食事

 「浄・不浄」の概念が発達しているヒンドゥー文化では、食べ物を通じてのカースト間

の汚染を避けるため、個人単位の食事配膳が一般的で、また使い捨ての食器もよく用い

られる。下位のカーストの者が使用した食器を使用すると不浄が汚染するので、露天の

飲み物は素焼きのカップで供され、飲み終ったら叩き捨てる。また外食における汚染の

心配がないよう、料理人は最上位のカーストであるブラーマンの仕事とされている。

・食事中の音

 日本では、飲食の際に発せられる音に対しての人々の抵抗は少ない。麺類や汁物をす

する音、ビールを飲み干した後の吐息、食べ物をかむ音などは日常生活の中にありふれ

た光景であり、音の発生は自然なことと考えられている。特に麺類は、音を立てながら

でないとおいしくないと考えている人もいるほどである。

 それに比べ欧米では、そのような音は他人に不快感を与えるためにできるだけ音を立

てずに食べることがマナーと考えられている。

・食育

 現代日本の子どもたちの食事は、好きなものを好きなだけ食べるという偏食傾向にあ

り、栄養バランスにも偏りが見られる。また、朝食を抜いたり間食をすることによるム

ラ食い、柔らかいものを好む傾向から来るあごの未発達なども問題になっている。さら

にこのような歪んだ食行動が続けば、将来生活習慣病を引き起こす事も懸念されている。

 このような問題に対し、子どもたちに食生活を教育して行こうという、いわゆる「食育」

の概念が広まりはじめている。欧米では数年前からの国を挙げての対策が成果を上げて

おり、日本でも今年食育基本法が成立した。

Page 19: 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

第2章 アンケート

第2章 アンケート

第2章 アンケート2-1   調査概要2-1-1 調査目的2-1-2 調査日時2-1-3 調査対象者2-2   調査方法2-3   調査結果2-3-1 調査票A2-3-2 調査票B調査票Bの回答例 1, 2アンケートシート(調査票A,B)

Page 20: 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第2章 アンケート

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第2章 アンケート2-1 調査概要

2-1-1 調査目的食事姿勢が最近乱れてきている。では、なぜ食事姿勢が悪くなったのか、姿勢を悪くする原因を明らかにする。2-1-2 調査日時2005 年 7月 1日に実施2005 年 7月 15 日回収

2-1-3 調査対象者早稲田大学理工学部建築学科の学生に調査票を配布した

Page 21: 食事姿勢からみた食空間の研究 - しつらいの違いと時間経過による評価 -

食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第2章 アンケート

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2-2 調査方法正しい姿勢「基本姿勢」を提示し、自分の身近にいる食事姿勢の悪い人を探してきてもらい、調査してもらった。

A. 悪い姿勢をスケッチ・実測してもらい、姿勢が悪くなる要因を4つの項目について聞いた。

ながら動作注 2-1)

内的要因注 2-2)

外的要因注 2-3)

その他

実家に住んでいる人、対象者がみつかる人は、調査票Aのアンケートを、一人暮らしで対象者を見つけにくい人、また見つけられない人には、調査票Aのかわりに調査票Bを用意した。

B. 様々な姿勢での食事を見つけてくる

注 2-1) ながら動作 食事中にテレビを見たり本を読んだり、食事以外の事をしながら食べる時の、どの動作のこと注 2-2) 持病の腰痛や、太ったことにより姿勢がたもてなくなり悪くなった。などという、病気や、体格、心理など内面的なこと注 2-3) 外的要因とは、テレビの位置や、家具の配置など、食事空間の外的環境のこと。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第2章 アンケート

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2-3   調査結果調査票Aと調査票 Bで共通の設問は調査票Aの結果としてまとめる。

2-3-1 調査票A□対象者が観察中に食べていた食事内容について、姿勢と食事内容の関係を聞いたところ、28%の人が食事内容が姿勢に影響をあたえていると答えた。つまり、約 70%の割合では食事内容は姿勢に影響を与えないという結果となった。

□観察してきてもらった対象者の座り方は、82%と大半がイス座であった。残り17%の人が床座で、そのうち 7%の人があぐらをかいていた。

□食事をしていた時の、視線の方向は、64%の人が正面で、残りの 36%人が斜めの方向を向いて食事をしていた。

□背もたれのあるイスで食事をしていた人の中で、背もたれによりかかって食事していた人は 34%。

□机やイスに肘をついていた人は全体の 31%

□食事中の手の位置を聞いたところ、59%の人が両手とも机の上で食事をしていた。

□ 35%の人が脚を組んで食事していた

□イス座のひとで、浅く腰かけてしたのは全体の 20%で、深く腰かけていたひとが40%にも及ぶ

□食事中の姿勢が前傾ぎみだった人(猫背や前屈みの人)が全体の 48%と約半数。後ろに反っていた人は 12%であった。

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□食事に使用していたイス・テーブルを実測してきてもらったところ座面とテーブル高さの差尺の平均が 281.2 ㎜コンパクト建築設計資料集成の差尺の規定内であった。正しいとされる、イス・テーブルで食べているにもかかわらず、姿勢が悪いということになる。

□調査対象者に、食事において何を大事にしているのか順序をつけてもらったところ、図 2-1 のようになった。(調査票Aと調査票 Bを合わせた結果)

8つの項目中、場所は6番目で、食事というと味や健康など身体に直接結び付く。その次は、一緒に食事する人など団欒というイメージが食事にたいしてあるようだ。「食事」は食べる行為だけではないので、食事の向上というのを考えると、場所に対する意識をもっと上げていく必要がある。

図 2-1 食に対する重要度

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□姿勢を悪くする原因

4つの項目、ながら動作・内的要因・外的要因・その他、について調査してもらったところ以下のような結果が得られた。(図 2ー 2,3,4)

ながら動作は、テレビが約 60%を占めている。次いで、会話、新聞・雑誌となっている。テレビが食事の間についている事が、当たり前となってきたことがわかる。食に対する重要度の項目でもわかったように、食という要素に人との関わりがあることがわかる。この数年で騒がれていた、家族の団欒・コミュニケーションというものが浸透した結果だろう。新聞・雑誌は食事の習慣になっている人がいる。そして、少しでも時間を節約したいということと、食事の意味合い・食事に対する価値観が変わってきたことを表している。

ながら動作

0102030405060708090

テレビ 携帯 パソコン 本・新聞 勉強 会話 その他

図 2-2 ながら動作

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内的要因は、体格が1番であった。やはり姿勢は体格に大きく影響されることがわかる。続くのは、身体の体調面である。持病の病気を抱える人や、疲れなど。内的要因は、他のに比べて、まんべんなく様々な原因が姿勢に影響しているのがわかる。

図 2-3 内的要因

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図 2-4 外的要因

外的要因は圧倒的な結果で、テレビが1番となった。8割近くを占める。イスやテーブルの高さや、食事スペースも上がった。がしかし、食事に対する意識の中に食事中にテレビを見てはいけない、よくないという認識があるのだろう。それと同時に、外的要因とされる空間の認識、位置づけが低いためである。

その他に上がった原因人の視線元々の姿勢の良い・悪い姿勢に対する意識その日の天気ー暑い・寒い生活が不規則ー生活の乱れが姿勢に影響するなど。

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2-3-2 調査票B

調査をしたのが大学生なので、キャンパス内での食事行動を調査した人が多かった。そのため、昼食時の写真が多く、地面や芝、コンクリートの塀やベンチなど、屋外のちょっとした段差のあるところをイス変わりにし、食事している風景が多かった。大学内の写真でも色々な場所で食事していて、自宅の食事風景でもダイニングセットのようなものだけではなかった。一人暮らしの学生が多いので、テーブルがかなったり、ベッドで食べたりしている人もいた。食事の環境について、大抵の人は知識を持っている。どういう場所でとか、どういう風に食べるとよいなどのイメージは持っているだろう。しかし、実際の食事は日々行われ、どんどん日常化しているように思う。生活にとけ込みすぎて、改めて考えたり、意味付ける人が減ってきたといえる。その場しのぎの食卓がそこかしこにあふれている。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶

第2章 アンケート

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調査表Bの回答例 1

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶

第2章 アンケート

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調査表Bの回答例 2

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶

第2章 アンケート

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第2章 アンケート

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶

第2章 アンケート

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第3章 実験 方法

第3章 実験方法

3-1 実験概要3-1-1 実験日時・場所3-1-2 Frame-DIAS Ⅱ3-1-3 実験機材3-1-4 被験者3-1-5 食事内容3-2 測定する食事パターン3-3 基本姿勢3-4 実験手順3-4-1 会場セッティング3-4-2 キャリブレーション3-4-3 教示の仕方

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第3章 実験方法

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第3章 実験方法

3-1 実験概要

機材のセッティング場所・方法の検討キャリブレーションできるか各ポイントが撮影できるか

プレ実験

会場セッティング

教示

デジタイズ注2)

キャリブレーション注1)

分析

グラフ・図の作成

考察

本実験 注 3-1) キャリブレーション キャリブレーションとは、Fame-DIAS Ⅱのソフト上で 3D空間を構築するために行う作業のこと。撮影したコントロールポイント注 3-2) に、既知の実座標を入れることで、DLT法によって 3D座標を計算し、3D空間を構築する。

注 3-3) デジタイズ 撮影した反射マーカーの画面上の位置を、数値化する作業。自動デジタイズと手動デジタイズがある。

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3-1-1 実験日時・場所10/10( 月 ),16(日)の 2日間場所は、早稲田大学理工学部 55 号館 S棟 2F- 第3会議室追加実験を、10/29(土)に早稲田大学理工学部 9F E 系サロンで行った。

3-1-2 Frame-DIAS Ⅱ 注 3-4)

動作解析とは、身体の各部分(腕、脚、胴体など)や人間の扱う用具(つえ、ラケット、ボールなど)の位置を数値化し、それらを客観的に評価する解析方法である。主に、リハビリテーションにおける回復過程の診断・評価や、スポーツにおける選手間の運動技術の比較などに役立てられる。具体的な手順は、動作をビデオ撮影し、解析の対象となる部分の画面上の位置を数値化する。この数値化作業をデジタイズといい、各時刻のビデオ画像からマウスを用いて行う。本システムのデジタイズには、手動式と自動追尾式の2つのモードがある。

注3-4)Frame-DIAS Ⅱ Frame-DIAS II は、ビデオ画像から解析ポイントを自動または手動でデジタイズする、ビデオ動作解析システム。 様々な画像ソースを用いて、幅広い用途に使える。( 株式会社ディケイエイチ )

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3-1-3 実験機材テーブル・イス

Home ERECTA(エレクター株式会社)注3-5) というワイヤーシェルフを、テーブル・

イス(肘掛けイス)として使用した。奥行 350 ㎜シリーズの間口 1200 ㎜のワイヤー

シェルフで、ポストが高さ 450 ㎜と 800 ㎜の2セットを使用。肘掛けイス以外の時の

イスには、座面が直径 295mm、高さ 400 ㎜のスチールイスを用いた。

食器反射マーカーの自動検知の邪魔にならないように、黒色の食器に黒色のお箸を使用する。お茶碗、汁碗、主菜・副菜・漬け物の皿とお箸を、エレクターのワイヤーシェルフの上に、330 ㎜ ×360 ㎜の黒いシートを敷きそのうえに置いた。

テレビMac の iBookG4 の 14inch をテレビとして代用5分から 10分ごとに終わる短編もののDVDを使用

ビデオカメラ(4台)・三脚デジタルビデオカメラ4台と、三脚4脚を使用DVテープで撮影

布・突っ張り棒黒い布(110 ㎝幅 ×10mと 150 ㎝幅 ×30m)突っ張り棒(最大 280 ㎝まで伸びる)

注 3-5)ERECTA  様々なパーツを自由に組み合わせることによって、好みの棚がつくれる、ワイヤーシェルフの名称(エレクター株式会社)

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注 3-6) 図 3-4-2 を参照注 3-7) 左利きのの人の場合左右反転して、右利きと同じ扱いとした

3-1- 4 被験者被験者は主に 20代学生で、2回実験を行った。動きを比較するために全員、テーブルの高さ 700 ㎜で実験した。また、パターンを比較するために、それぞれもう一つのパターンで実験を行った。参考にテーブルの高さ 400 ㎜の床座、TV左 45°でも実験した。

注3-3) 図3-4-2を参照

a

bcdefgh

ji

実験パターン性別 利き手注 3-7

属性年齢 身長 (㎝ )

男男

男女

男男

177157

171168

166

177168

162

163 A-2A-2A-2A-2A-2A-2A-2A-2A-2A-2

A-4A-4A-4C-3C-2C-1BA-3A-3A-1右

右右右右

右右右

20代20代20代20代20代20代20代20代

20代30代

173

表 3-1-4 被験者注 3-6)

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3-2 測定する食事パターン コンパクト建築設計資料集成によるとテーブルの高さとイスの座面の差尺の機能寸法は、男性が 280 ~ 300、女性が 270 ~ 290 ㎜である。また、アンケートの被験者が使用していたテーブルとイスの差尺の平均は 281 ㎜と規格内である事がわかった。悪い姿勢の人を観察したが、テーブル・イスの被験者は機能寸法に見合っていたにも関わらず、姿勢が悪かった。そこで、3種の高さで実験を行うことにした。アンケート結果により、テレビが姿勢を悪くする一番の原因ということがわかった。また、全体の3割の人が、両肘または肩肘をテーブルやイスの肘掛けに付いていて、身体が傾き姿勢が悪くなることも、アンケートから明らかになった。そこで高さ 700 ㎜のテーブルで、テレビと肘掛けイスのパターンも行い、全部で6パターンのしつらえで実験を行った。

□ 1 テーブルの高さ床から 600,700,800 ㎜の高さのテーブルの 3パターン□ 2 テレビ座っている位置から、左右 90°(参考までに、左 45°も撮影)の2パターンテレビまでの距離は、テレビ画面の高さの 5~ 7倍と推称されているので、テレビ画面の高さの 6倍の距離とした。今回はテレビではなく、14インチ型のノートパソコンで代用した。高さ 215 ㎜なので、イスから 1290 ㎜の距離(215 ㎜ ×6=1290 ㎜)で、見ながら実験を行った。□ 3 肘掛けイスHome ERECTA(エレクター株式会社)のポスト 450 ㎜のものを使用し、被験者は一人で、イスの座面からの肘頭位置がコンパクト建築設計資料集成において 240㎜であったので、肘掛けは高さ 240 ㎜、幅 60 ㎜に設定した。肩幅が 400 ㎜なので座面の幅も 400 ㎜とし、座位殿幅以上なので問題はない。イスの座面の高さは 400㎜である。

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図 3--2-1 食事パターン

A-1 600 ㎜ A-2 700 ㎜B- 肘掛け

C-1 TV 左 90°

C-2 TV 右 90°

C-3 TV 左 45°

A-3 800 ㎜ A-4 400 ㎜

A- テーブルの高さの違い(床からの高さ)

テーブル 700㎜

C-TV の位置(イスの中心から)

図 3--2-1 食事パターン

参考

参考

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3-3 基本姿勢

1. 少し浅めに座る

2. 基本的にはテーブルの下で脚を組まない

3. 背もたれにはもたれない

 握り拳1つ分(5~12cm)の空間。 テーブルと体の間に拳 1つ分。背もた

 れと体の間にも拳 1つ分

 背もたれから約 8°

4. 食事のマナーとしても背中を伸ばして食事中はテーブルの上に手を置く為 、

 肘は 90~ 100 度となる

図 3-3 基本姿勢

図3-3 基本姿勢

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3-4 実験手順3-4-1 会場セッティング食事動作を撮影するために、ある程度の広さと高さの空間を確保し、以下の順序でセッティングする□ 1 黒い布を会場に張る

  食事動作をビデオ撮影後、Frame-DIAS Ⅱで身体の各ポイントをデジタイズする 時に、身体のポイントに付けた反射マーカー注3-8) が自動検知されるように、マーカ ーの背後を黒くする必要がある。これは、このソフトに撮影した画像を取り込んだ 時に 0~ 255 の明るさでデジタル化され、マーカーの明るさと背景の暗さの差を読 み取り、反射マーカーを検知するためである。カメラ4台から被験者を映した時に、 背後が黒くなるように、会場に黒い布を張った。4本の突っ張り棒を床と天井の間 に張り、三方にひもを通し、そのひもに黒い布を通した。カメラの配置上、被験者 の背後の一方は布が必要なかった。□ 2 カメラ設置DVテープをカメラに装着し、三脚にカメラを取り付ける。カメラのレンズ高さを床から700㎜の位置に設定。下図のように、四隅に三脚に取り付けたカメラを設置。

図 3-4-1 実験会場平面(キャリブレーション位置)

ビデオカメラつっ張り棒

黒い布

キャリブレーション位置

600 600

1100

注 3-8) 反射マーカー 球状の発砲スチロールに、反射テープを巻いたもの。自動デジタイズの検知が容易になる。

図 3-4-1 実験会場平面(キャリブレーション位置)

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第3章 実験方法

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□ 3 印付け床に、三脚に対するカメラの角度、三脚位置、突っ張り棒の位置、キャリブレーション位置、テーブルとイスの位置をビニルテープで印を付ける。万が一、場所がずれた時のため、またDVテープ交換の時のために印をつけておく。□ 4 床に黒い布を敷く。□ 5 テーブル・イスを置く。テーブルに使用するエレクター(二台)の高さを 400 ㎜と 700(600,800)㎜に組み立てる。

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3-4-2 キャリブレーション□ 1 キャリブレーション撮影会場のセッティング終了後、Frame-DIAS Ⅱのソフト上で3D空間を構築するために、キャリブレーションを行う。キャリブレーションは2種類あるが、今回は3次元DLT、スタティック・キャリブレーションを行った。

 スタティック・キャリブレーションは、撮影空間内に 6点以上のコントロールポイ ントが必要である。今回は 9カ所の位置で、高さを 4段階で、全部で 36 点のコン トロールポイントを撮影した。標準較正ツール注3-9) と呼ばれる、較正器を用いた。 キャリブレーションする 9カ所に、標準較正ツールを移動しながら、4台のカ メ ラで撮影した。□ 2 デジタイズ撮影した全 36点のコントロールポイントをデジタイズし、既知の座標値を入力する。これで、ソフト内に3D空間が構築された。

図 3-4-2 キャリブレーション

注 3-9) 標準較正ツール 三次元動作解析に不可欠な較正を行うための装置。高さ約 2.5mの範囲をカバーするもので、垂 下式の標点用バーには経年による反りや変形と揺れを防ぐために 2本のカ ーボン製パイプを使用している。

図 3-4-2 キャリブレーション

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3-4-3 教示の仕方一人あたりの実験時間は約 30分ほどである。反射マーカーの自動検知のため、被験者には上下黒い服を着てもらった。反射マーカーの位置がポイントからずれないように、身体にフィットした黒い服を着用。□ 1 被験者に、上下黒色の服を着てもらう□ 2 被験者に反射マーカーをとりつける   身体の各ポイント、全 14カ所に取り付けた□ 3 普段通りに食べてもらう

     条件として、「15分ほどで食べて下さい」と伝え、あまりに食べ終わるの     が速い人がいないようにした。厳密に 15分ということではないので、時間     にとらわれて、動作に影響することはない。□ 4 実験終了   15分経過または、食事が食べ終わったら終了とする。その後、反射マーカー    を取り外し終了。

右肩左肩

腰左腰

背中

右腰左ひじ 右ひじ

右足首

左膝 右膝

左足首

右手首左手首

背面から

右側面から

図 3-4-3 反射マーカー取り付け位置

図 3-4-3 反射マーカー取り付け位置

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左右肩の距離被験者 パターン Z軸方向の変位 合成成分の変位 Y軸成分a 600㎜b 800㎜ ◯ ◯c 800㎜ ◯ ◯d 肘掛け ◯ ◯e TV90°左 ◯f TV90°右 ◯g TV45°左

右ひじ,左ひじの原点からの距離の変位

右ひじー右肩ー右腰 の相対角度被験者 パターン XY座標 XZ座標 YZ座標 XZ座標a 600㎜ ◯b 800㎜ ◯ ◯c 800㎜ ◯ ◯d 肘掛け ◯ ◯ ◯e TV90°左 ◯f TV90°右 ◯g TV45°左

背中と腰のZ軸に対する曲げ角度

被験者 パターン XY座標 XZ座標 YZ座標 XZ座標 YZ座標a 600㎜ ◯b 800㎜ ◯ ◯ ◯c 800㎜ ◯ ◯ ◯d 肘掛け ◯ ◯e TV90°左 ◯ ◯f TV90°右 ◯ ◯g TV45°左 ◯

背中ー腰 直線の軌跡 右腰ー右肩ー右ひじ 直線の軌跡

食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-3 背中ー腰角度 机高さ 600㎜

図4-4 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-6 背中ー腰角度 机高さ 800㎜

図4-7 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-8 背中ー腰角度 机高さ 800㎜

図4-9 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-10 背中ー腰角度 机高さ 700㎜ 肘掛有り

図4-11 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-13 背中ー腰角度 机高さ 700㎜ TV90度左

図4-14 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4- 16 背中ー腰角度 机高さ 700㎜

図4-15 背中ー腰角度 机高さ 700㎜ TV90度右

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-19 肘位置変位 机高さ 700㎜ 

図4-18 肘位置変位 机高さ 800㎜ 

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-21 腰ー肩ー肘角度 机高さ 700㎜ 

図4-20 腰ー肩ー肘角度 机高さ 800㎜

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図4-24 肘位置変位 机高さ 700㎜ 

図4-23 肘位置変位 机高さ 800㎜ 

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図4-26 腰ー肩ー肘角度 机高さ 700㎜ 

図4-25 腰ー肩ー肘角度 机高さ 800㎜

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図4-29 肘位置変位 机高さ 700㎜ 

図4-28 肘位置変位 机高さ 800㎜ 

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-31 腰ー肩ー肘角度 机高さ 700㎜ 

図4-30 腰ー肩ー肘角度 机高さ 800㎜ 

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図4-34 両肩のY軸に対する角度 机高さ 700㎜ 

図4-33 両肩のY軸に対する角度 机高さ 700㎜ TV90度左

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第4章 実験結果

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図4-37 両肩のY軸に対する角度 机高さ 700㎜ 

図4-36 両肩のY軸に対する角度 机高さ 700㎜ TV90度右

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第5章 考察

第5章 考察

5-1 分析方法5-2   分析5-2-1 テーブルの高さ 700 ㎜ ( 被験者 7名 ) 5-2-2 各被験者内の比較5-3   考察5-3-1 個人差5-3-2 評価

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第5章 考察

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第5章5-1 分析方法

6 つのそれぞれのしつらいのパターンによって、姿勢の動きが異なってくるので、その動きの特徴がわかりやすいように座標軸ごとに分析した。ムービーから計算した身体の各ポイントの3D座標から、関節角度や身体部位の位置座標変位のグラフを作成し、各しつらいの動きの特徴が顕著に現れるパターンにおいて分析を行った。さらに、肩や腰などのデジタイズしたポイントや、ポイント間の直線などの軌跡を記録し、データの数値だけではわかりづらいところを、補足する。そのパターンの動きの特徴を、可視化することで、データからでは読み取りにくい、個人の動きの癖なども観察できる。

[座標軸ごとに見るしつらいの違い]1.テーブルの高さの違い・テーブルの高さ 600・テーブルの高さ 700・テーブルの高さ 800

これら3つの高さの違いは、背中と腰の曲げ角度に差が出てくるので、被験者の右側真横からみたYZ座標における、背中と腰のポイントを結んだ直線について、分析する。

2.テレビの位置による違い・TVの角度右 90°・TVの角度左 90°

食事中にテレビがあることで、身体がテレビの方向を向くので、腰を捻る姿勢が予測できる。よって左右肩のXY座標での傾きに注目する。食事の時間にも違いがでてくるのではないかと考える。

3.肘掛けの有無による違い・肘掛けのイス

この場合、肘掛けに肘をつくと身体が横にずれるため、真後ろからみたXZ座標から分析する。

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□時間経過

食事は、思った以上にエネルギーを消耗する。食べ始めた頃と、食べ終わる頃には、身体状況やしつらいも状況が変わってくる。お腹が満たされて後傾したり、食べ終わるに従い、食べることと座ることに疲労したりする。食べ始めてから食べ終わるまでの約15分間の間に、姿勢がどのように変化していくかを分析するために、以下のようにグラフを作成した。時間の経過に伴い姿勢が崩れてきて、動きの幅は大きくなり姿勢が悪くなると考えている。

□分析グラフ

食事空間・食事行為を、姿勢を中心に置き、時間経過というパラメータを使い、空間、しつらいが食事姿勢にどのように影響しているのか、時間が経過することで姿勢に変化がみられるのか、について分析を行った。各被験者の実験の食事時間(実験時間)を Tとする。食事時間 Tを3等分し、t1=1/3T t2=2/3T t3=T とすると、t=0 ~ t1 の時間を T1,t=t1 ~ t2 の時間をT2,t=t2 から Tの時間を T3とする。全体を 3当分した時間の各データの平均値をだした。算出された3つの平均値からグラフを再び作成し、グラフの要素・特徴を明確にした。

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5-2   分析5-2-1 テーブルの高さ 700㎜ ( 被験者 7名 )被験者の個人差を考慮するために、被験者には基準となるパターンとしてテーブル zの高さが 700 ㎜で食してもらった。つまり、被験者には、2回実験に参加していただき、テーブル 700 ㎜ともうひとつのパターンで実験を行ってもらった。そこで、食事姿勢の基本という位置づけにこのテーブル 700 ㎜がある。もう一つのパターンと比較するためにも、この 700 ㎜のテーブルで食べる姿勢の基準をつくる必要がある。この実験は被験者の数が少なく一般的な食事姿勢まで定義はできないが、撮影したビデオや割り出した座標から姿勢の特徴を考えてみた。食事姿勢は、全身をまんべんなく動かすというより、腰からしたの下半身は安定していて、腰より上の、肩や背中、肘などの動きで特徴づけられている。足首、膝、左右の腰のポイントはほとんど動きがなく固定されている。つまり。食事をする姿勢として、下半身が安定していることは条件なわけで、今回は取り上げていないが、イスの形状も重要であることがわかる。

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第5章 考察

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                   図5-2-1 テーブル 700mm 曲げ角度 ;YZ

上半身の姿勢は、どのような要因によって影響を受けているのか。被験者7人の、

テーブル 700 ㎜で食した時の、t=T1,T2,T3 の三つの時間の平均の背中 - 腰 直線の

Z軸に対する曲げ角度のグラフ(図5-2-1)を見ると、直線的に徐々に曲げ角度が減っ

ていて、背中が垂直に近づいているのがわかる。そして、他のパターンに比べると、

グラフが山形でも谷型でもなく直線的なので、時間経過の影響をあまり受けていな

い事がわかる。

軌跡図やVTRの目視によって、身体の動きの激しい人や、お箸を持つ手しか動か

さないなどの比較的固定された格好で食べる人など、それぞれに特徴が見られた。

さらに、右で箸を持つため座り位置から、両肩も少し後方に旋回する。

このように、同じ状況下でも人それぞれによって動作に異なる特徴が現れる。食

事姿勢において自然と自分にとって食べやすい座り方を身につけ、それが習慣となっ

ている。その善し悪しに関係なく個人の癖となっている事が、万人向けのしつらい

の難しさの理由である。

図5-2-1 テーブル700mm 曲げ角度:YZ

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5-2-2 各被験者内の比較

被験者 a テーブル 600 ㎜

700㎜の時に比べ、600㎜の時は前傾姿勢となっている(図 5-2-2)。テーブルの高さが低いため、食べ物を口に運ぶ時以外は身体を起こしているので、曲げ角度が

180°に近いところで落ち着いていて、時折かがむような動きをする。被験者 a以外

の2人を加えた3人の平均(図 5-2-3)をとると、700㎜ ,800㎜の平均にあまり差はなかった。

図 5-2-3 テーブル 600mm 背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移

図5-2-2 被験者 a テーブル 600,700mm の背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移

図 5-2-3 被験者 a テーブ

ル 600,700mmの背中と腰

の角度の時間平均の推移

図5-2-4 テーブル600mm

背中と腰の曲げ角度の時間

平均の推移

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被験者 b テーブル 800㎜被験者 bは , 被験者 c とは違い、800㎜の時の方が 700㎜の時より前傾姿勢になっている。左肘 -左肩 -左腰(左利き)の相対角度のグラフ(図5-2-5)を見ると、700㎜に比べ 800㎜の方が肘が身体から離れている。左右の肘の床からの高さのグラフ(図 5-2-6)を見ても、800㎜の時の利き手側の左肘が一番床から離れていて上がっている。つまり、食事をするのにテーブルが高くて、肘を上げないといけない

という事が分かる。700㎜に比べ、800㎜の時は肘を約 200 ㎜高く上げている。

被験者 c テーブル 800 ㎜(図 5-2-9)

図 5-2-4 テーブル 800mm 背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移

図5-2-5 テーブル800mm背中と腰の曲げモーメントの時間平均の推移

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図 5-2-6 テーブル 800mm 右肘・左肘の原点からの距離の時間平均の推移

図5-2-5 右肘 -右肩 -右腰の相対角度の時間平均の推移 ;XZ

図 5-2-6 右肘ー右肩ー右腰の総体角度の時間平均の推移:XZ

図5-2-7 テーブル800mm右肘・左肘の原点からの距離の時間平均の推移

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被験者 c テーブル 800㎜この被験者は、800 の方が 700 に比べて背中と腰の曲げ角度が浅く背が起きてい

る。背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移のグラフ(図 5-2-7)において、t=T2 の

時が平均値で言うと一番身体が起きていた。右肘-右肩-右腰の相対角度のグラフ(図

5-2-8)も、t=T2 の時に平均で肘が最も上半身に近くなっていた。グラフが山型の

場合は、食事時間が長めの人が多く、谷型の場合は食事時間が短い。山型の被験者 b

は、700 ㎜のテーブルでの食事時間が 12分で、谷型の被験者 cは、700 ㎜のテーブ

ルでの食事時間が 7分であった。

図 5-2-7 テーブル 800mm 背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移

図5-2-8 テーブル800mm 右肘-右肩-右腰の相対角度の時間平均の推移;XZ

図 5-2-9 テーブ 800mm 右肘ー右肩ー右腰の相対角度の時間平均の推移

図 5-2-8 テーブル 800mm 背中と腰の曲げモーメント角度の時間平均の推移

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テーブルの高さの違いによる姿勢の変化において、同被験者でテーブルの高さを

変化させた場合、高さによって前傾の度合いが変わる。グラフの位置は、テーブル

の高さが 600㎜と 700 ㎜ ,700㎜と 800 ㎜のいずれの場合も、上下どちらかにシフトしたような2つの折れ線になっていた。グラフの形状がほぼ同じであるというこ

とは、テーブルの高さは姿勢に大きな影響を与えなかったと言える。h

図 5-2-10 背中と腰の曲げ角度の時間平均の推移

図 5-2-9 テーブル 800mm 右肘・左肘の原点からの距離の時間平均の推移

図 5-2-11 テーブル 背中と腰のまげ角度の時間平均の推移

図 5-2-10 テーブ 800mm 右肘・左肘の原点からの距離の平均時間の推移

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被験者 d 肘掛けイス

肘掛けイスの場合、前記の a ~ c の被験者とやはり様子が違っている(図

5-2-11)。被験者の真後ろから見た、背中と腰のZ軸に対する角度は、テーブルの高さが 700mmの時は食事時間中ほぼ垂直で、800mmの時は、食事中ずっと左側に傾

いていた(図 5-2-12)。t=T3 のときにはより左側に傾いている。食事が終盤に差し

掛かり、肘を付く時間が長くなっている様子がうかがえる。

図 5-2-12 肘掛けイス背中・腰 直線の Z軸に対する絶対角度の平均の時間推移

図 5-2-11 肘掛けイス 右肘 - 右肩 - 右腰の相対角度の時間平均の推移 ;XZ

図 5-2-12 肘掛けイス背中・腰 直線の Z軸に対する絶対値角度の平均時間推移

図 5-2-13 肘掛けイス背中・腰直線のZ軸に対する絶対角度の平均時間推移

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TV

テレビを見ると、両肩を結んだ面がテレビの方へ向かい、両腰は安定しているので、

身体がテレビの側へねじれる。食事をしているので、ずっとテレビに向かうのでは

なく、小刻みにテレビを見ている。700mmの時に比べて、小刻みに激しく回旋しているのがわかる。

両肩・両腰の移動距離の総和によっても、テレビを見るときは、肩を激しく動かしているのがわかる。軌跡からも肩の動きを読み取ることができる。被験者 e TV90°左被験者 f TV90°右

左右の違いは、箸の持つ手に関係している。普通右手で箸を持つので、食事動作

をしていると、右肩が左肩より前に出ている。よって肩は左側に開いているので、

左にテレビがあった方が自然だ。軌跡からも、右にテレビを置いた時ははっきりと

違いが出たが、左側にテレビがある時は、一見 700mmの時と同じ軌跡に見える。

図5-2-13 テーブル高さ700mm TV90°左 両肩のz軸に対する角度の時間平均の推移;XY

図 5-2-14 テーブル高さ700mm 両肩の z軸に対する角度の時間平均の推移 ;XY

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5-3   考察5-3-1 個人差体格や、その人固有の姿勢の癖・特徴を考慮するため、今回の実験では基準を設けその基準と比較する事で解決した。基準の一つは、「第3章 実験方法の3節『基本姿勢』」である。もう一つは、テーブルの高さが床から 700 ㎜のパターンである。被験者にはこの700 ㎜のパターンと、もう一つのパターンの2種実験した。床から 700 ㎜のパターンとの違いを比較することで、その違いを他の被験者のパターンと組み合わせ比較することによってその考察をした。

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1 2 3 4 5 6腰 背中 右肩 左肩 右ひじ 左ひじ

600 5485 8615 14230 18234 24509 29679腰 背中 左肩 右肩 左ひじ 右ひじ

700 2443.833333 6174 10351.83333 11050 13413.33333 19174腰 背中 左肩 右肩 左ひじ 右ひじ

800 2476 4683.5 8421.5 11093 13014.5 20479.5腰 背中 左肩 左ひじ 右肩 右ひじ

肘掛けイス 3130 4635 8147 8537 10246 17278腰 背中 左肩 右肩 左ひじ 右ひじ

TV90°左 2901 6015 8875 9303 10104 15520腰 背中 左肩 右肩 左ひじ 右ひじ

TV90°右 1228 4721 9253 10929 17110 28865

移動距離の総和小さい 大きい

パターン

5-3-2 評価反射マーカーを取り付けた身体の6つの各ポイント(腰・背中・右肩・左肩・右腰・左腰)の移動距離の総和を算出した。値が大きいほど動いたことになり、基本姿勢からのずれが激しいということになる。6つのしつらいパターンごとに、各ポイントの移動距離の総和の小さい順に順序付けを行った(表 5-3-1)。

すると、各ポイントの全パターンにおいての順位を足し合わせて平均すると、腰、背中、左肩、右肩、左ひじ、右ひじの順に動きが大きくなった。腰はほぼ固定位置を保ち、背中の動きの支点となる。左右の肩・肘のポイントが両者とも右の方が動きが激しいのは、多くの人が右利きであるためである。6つのポイントの移動距離の総和の順位は、しつらいが変わってもほぼ同じ結果となった。身体の各ポイントの動きの大きさの度合いに、相対的な差はみられないということになる。しかし、移動距離の総和を数値的にみると値に違いがあるので、次に身体の各ポイントごとの移動距離の総和を、しつらいの違いによって順位をつけた(表 5-3-2)。

各ポイント

小さい

大きい

移動距離の総和

表 5-3-1 各パターンごとにおける身体の各部位の移動距離の総和の順位

表 5-3-2 身体の各部位ごとにおける各しつらいパターンの順位

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これを各ポイントごとのパターンの順位を、足し合わせて平均をとると、肘掛けイス、TV90°左、800mm、TV90°右、700mm、600mmの順に全体のポイントの動きが増えた。肘掛けは、食事中に肘掛けに肘を置き上半身が安定してしまうので、動きが少なくなる。TV90°左が次いで動きが少なかった。これは、右利きの人が多いため右で箸を使うと、自然と右肩が左肩より前に出てきて、身体が左に開いている。そのため、TVが左にあると右に比べて元々身体が左に開いているので動きが少なくなる。また、TVを見る時首を回旋させて見るので、ある程度角度がつかないと、姿勢に影響しない。それに加え、TVがあると TVを見ている時動きが止まるので、移動距離の総和はそれほど大きくならなかった。また、角度が大きくなりすぎるとTVを見ないで聞くようになるので、姿勢への影響が少なくなる。800mmは、テーブルが高いと前傾姿勢にはならず、食べる方の肘が他の場合に比べて上がる。食べるたびに肘が上がるので、利き手の動きが大きくなる。その反面、あまり前傾姿勢をとらないので他のポイントはそれほど動かない。800mmの時より、TV90°右の方が利き手の肘の動きが大きかった。テレビが右側にあると、左に開いている身体を右に向けなければならない。左肘の変位も大きくなる。右腰の移動距離の総和は他のパターンの中で一番少ない。つまり、右腰を中心に回旋の分析をしなくてはならない。700mmは全体の中で、2番目に動いているパターンとなった。各ポイントでそれぞれ順位が異なる。全体では動きは激しいが、右肘はあまり動いていなかった。食べる行為において利き手の肘は重要である。右肘に負担が少ないという点においては、700mmのテーブルの高さは食事に向いていると言える。600mmは動きが最も大きかった。テーブルが低いと、食べ物を口に運ぶたびに前に大きくかがむ。他のパターンよりもかがむ回数が増える。また、かがむ角度も深いので変位が大きくなる。

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第6章 展望

第6章 展望

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食事姿勢から見た食空間の研究 ̶しつらいの違いと時間経過による評価̶第6章 展望

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第6章 展望・問題

この研究では多くの被験者に実験に参加してもらうことができず、姿勢としつらえの関係の一般解のようなものまで到達することはできなかった。体格の差や、元々の姿勢の良い悪い、またその人その人が持つ癖があることがわかり興味深かった。簡単に、個人の姿勢を測り分類することができたら、その人に対して固有のデザインのイスやテーブルだけでなく、部屋や住宅などにもつなげていけたらよいと思った。今回は食事中の姿勢と時間経過・変化した生活に注目して、食を改めて研究をしたが、食事というものは、基礎調査にもあるように、食に関する行動全てを包括する、広義の食事としてとらえる事ができる。捉えていく必要がある。食を全体的にデザインする、スローフードのようなフードスタイルとでもいうのか、そのようなものと建築がどのように関わっていくのかを明らかにしていく事で、人にやさしい新たな空間を生み出すことにつながると思う。