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テクニカルレポート� 2003.1 40 Hitachi Chemical Technical Report ISSN 0288-8793

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テクニカルレポート�2003.1第40号

Hitachi Chemical Technical Report

ISSN 0288-8793

Page 2: 第 号 2003.1 テクニカル ... - hitachi-chem.co.jp · PDF file3 第 40 号 2003年1月 テクニカルレポート 巻頭言 技術の集積化と融合化 5 小柳光正 総

■ 応力緩和型WL-CSPの外観写真ウェハレベルCSP(Wafer Level Chip Size Pakage:WL-

CSP)は,ウェハ状態で再配線や封止などの組立工程を行うパッケージである。生産効率の向上するため,低コスト化が期待でき,各半導体メーカでWL-CSPの導入が本格化している。表紙の写真は,㈱日立製作所と共同開発したWPP2

(Wafer Process Packge)である。はんだ接合部への負荷を低減するための応力緩和材(HL-P200)及び耐マイグレーション性に優れた配線保護層(HD-6000;日立化成デュポンマイクロシステムズ㈱)が採用されている。

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3

第 40 号 2003年1月

テクニカルレポート

巻頭言

技術の集積化と融合化 5小柳光正

総 説

電子機器用実装材料システム 7安田雅昭

論 文

半導体パッケージ用エポキシ樹脂封止材料の成形性評価技術 13吉井正樹・水上義裕・荘司秀雄

受動素子内蔵基板の高周波特性とシミュレーションモデル 21山本和徳・島田 靖・大塚和久・平田善毅・渡辺悦男

画像診断用高性能放射線検出素子(GSO単結晶シンチレータ) 25住谷圭二・蔵重和央・石橋浩之・軍司章弘・須佐憲三

マイクロチップ電気泳動解析用“i-チップ” 29渡辺博夫・井筒 浩・渡辺健二

製品紹介 33~36微細配線対応アディティブ材料 AS-11G

低臭気対応FR-1材 MCL-437G(N)

無電解ニッケル・金めっき用感光性フィルムフォテックH-8050

高熱伝導コイル含浸ワニスWP-2782F

低スチレン化粧板用不飽和ポリエステル樹脂ポリセット1238AP

樹脂製バックドアモジュール

カベピタ浴室暖房システムWF-1620ATD

ライセンス供与 ─────────────────────────────────────────────────── 50多目的高機能DCPD樹脂技術 Metathene<ライセンス供与事業>

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4

Contents

Commentary 5Mitsumasa Koyanagi

Packaging Material System for Electronic Devices 7Masaaki Yasuda

Evaluation Technologies on Moldability of Epoxy Molding Compounds for Encapsulation of Semiconductors 13

Masaki Yoshii・Yoshihiro Mizukami・Hideo Shoji

High Frequency Properties of Embedded Passives and a Model for their Simulation 21Kazunori Yamamoto・Yasushi Shimada・Kazuhisa Otsuka・Yoshitaka Hirata・Etsuo Watanabe

High Performance Radiation Detectors (GSO Single Crystal Scintillators) for Medical Imaging 25Keiji Sumiya・Kazuhisa Kurashige・Hiroyuki Ishibashi・Akihiro Gunji・Kenzo Susa

Development of “i-chip” for Microchip Electrophoresis System 29Hiroo Watanabe・Hiroshi Izutsu・Kenji Watanabe

Products Guide 33~36

Licensing Business ──────────────────────────────────────────────── 50

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5日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

巻 頭 言

工学博士,東北大学 大学院工学研究科 教授

小柳光正(こやなぎ みつまさ)Mitsumasa Koyanagi

略歴:東北大学大学院工学研究科博士課程

(電子工学専攻)修了

学位:工学博士(東北大学)

職歴:

1974年 (株)日立製作所中央研究所入社

「DRAM プロセス/デ バイス技術の研究」「スタッ

クドキャパシタDRAM発明 」

1980年 (株)日立製作所デバイス開発セン

ター「DRAM及びASIC ・LSIプロ セス/デバイ

ス技術の研究・開発」

1985年 米国 ゼロックス社パロアルトリサーチ

センター入社「サブミクロン半導体デバイス,

TFT,デジタル/ア ナログLSI設計 に関する研究」

1988年 広島大学集積化 システム研究セン

ター教授「極微細半導体素子,デバイスシミュ

レーション,知能集積回路,光インターコネクシ

ョン等の研究」

1994年 東北大学工学部機械知能工学科教授

1995年 東北大学大学院工学研究科機械知

能工学専攻教授「極微細半導体素子,デバイ

スシミュレーション,3次元集積化技術,光イン

ターコネクション,科学計算専用並列計算機

と並列メモリLSI,脳型コンピュータと視覚情

報処理システム等の研究」

1998-2000年 東北大学ベンチャービジネ

スラボラトリー長

専門:半導体工学および計算機工学

著書:「VLSIデバイスの物理」(丸善),

「サブミクロンⅠ,Ⅱ」(丸善)他

受賞:文部科学大臣賞(科学技術功労者)

(2002年),

IEEE(米国電気電子学会)Fellow

Award(1997年)

IEEE Cledo Brunetti Award (1996

年),SSDM Award(1994年),

大河内賞(1990年)他

趣味:音楽鑑賞,読書,絵画

技術の集積化と融合化

今日,社会はコンピュータ技術やネットワーク技術の急激な進歩によ

り,革命的な変化を起こしつつあります。そのため,I T 革命とも呼ばれ

るこのような変革を支えているL SIには,これからも絶え間ない性能の追

求と集積度の向上が求められ続けることになります。これまで,このよ

うなL SIの高性能化と高集積化を支えてきたのは比例縮小則の考え方に基

づいた半導体素子の微細化でした。比例縮小則に基づく素子の微細化の

結果として最近では,ゲート長が100nmを切るような極微細MOSトラン

ジスタを搭載したL SIも量産されるようになってきました。しかし,素子

寸法が更に縮小されて 50nmを切るような領域に入ってくると,これまで

のような単純な比例縮小則に則った手法では素子の微細化が難しくなっ

てきます。そのため,半導体素子の微細化限界が叫ばれるようにもなっ

てきています。このような限界を打破するために,L SIへの異種材料,異

種技術の投入が避けられない状況になってきています。振り返ってみる

と,L SIの走りと言える初期の集積回路では,シリコンやシリコン酸化膜,

リンガラス膜,アルミ配線など限られた種類の材料しか用いられていま

せんでした。しかし,今日のL SIでは,多結晶シリコン,シリコン窒化膜,

T E OS 膜に加えて,WS i2,T iS i2,C oS i2などのシリサイド膜,WやC uなど

の金属膜,T iN,T aN,WNなどのバリアメタル,SiOF,有機SOG,HSQ,

B C Bなどの低誘電率膜,T a2O5,P ZT ,S T O,S B T などの高誘電体膜や強

誘電体膜など,様々な材料が用いられるようになっています。プロセス

技術も初期の頃の酸化,拡散,ウェットエッチ,C V D,蒸着などに加え

て,イオン打ち込み,プラズマエッチ,プラズマC V D,スパッタ蒸着な

どが使われるようになり,最近では機械研磨や C M P ( C h e m i c a l

Mechanical Polishing),メッキ,ウェーハ張り合わせなど,これまで考え

られなかったような技術までL SIの製作工程に導入されるようになってい

ます。このように,意識するしないに拘わらず,L SIは異種材料や異種技

術をふんだんに取り入れ始めています。しかし,L SIがこれまでの素子の

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集積化からシステムの集積化へと変化し始めた今日の状況を考えると,

より広い見地からLSIへの異種材料や異種技術の混載をもう一度考え直し

てみる必要があります。

LSIへの異種材料や異種技術の混載は,LSIチップだけではなく,それ

を搭載するパッケージやボードを含むシステムにまで変革をもたらすこ

とになります。今後,LSIが集積回路から集積システムへと変革して行く

中で,LSI技術とパッケージ・実装技術の融合は避けられない技術の流れ

と言えます。CSP(Chip Size Package)や,三次元パッケージ・実装技

術,三次元集積化技術はその代表的な例であります。パッケージ・実装

技術の分野では,LSIのSoC(System on a Chip)に対応する概念として

SiP(System in Package)という考え方が出されていますが,異種材料,

異種技術の混載を追求して行くと全てを一チップに納めることはできな

くなってくるので,当然の帰結としてSiPという概念が必要になってきま

す。しかし,システムの観点からすると,SoCとSiPは別個の技術ではな

く,システム集積化のための相補的な技術と考えられます。特にシステ

ム設計の観点からは,SoCとSiPを別々に設計して,それを併せるという

積み上げ方式ではシステムの最適設計は難しくなります。SoCとSiPを連

続した技術,相補的な技術として捉えたシステムの最適設計という考え

方が重要になってきます。

以上のように,今後のLSI開発,システム開発においては,従来のボト

ムアップ的な積み上げ方式だけでは技術の差別化,高付加価値化が難し

くなりつつあり,システムを意識したトップダウン的発想がより求めら

れるようになってくると思われます。目指すシステムにあった機能や性

能を達成するためには,これまでの技術ややり方にだけ固執するのでは

なく,異分野にまで視野を広げ,異種材料や異種技術を積極的に取り入

れていくことが必要になってきます。そのためには,異分野の研究者や

技術者間の交流が今後益々重要になってくると考えられます。大学に身

を置くものとして,このような異分野の研究者や技術者間の交流の促進

に努めながら,自らも異分野の技術の融合に積極的に取り組んで行きた

いと考えております。

日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)6

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

U.D.C. 621.3.049.774-758.3:621.792.8.053.4

7

総 説

〔1〕 緒  言

電子機器の小型化・高性能化に伴い,携帯電話,ゲーム機,

PDA(Personal Digital Assistance )などデジタル情報機器の

需要が増大している1)。これらの電子機器に用いられる半導

体パッケージ(以下,パッケージと略す)は,図1に示すよ

うに,ロジックやメモリ用途で伝送信号の高速化や小型・薄

型化に対応するため,パッケージ構造が多様化している。

QFP(Quad Flat Package),TSOP(Thin Small Outline

Package)などの金属リードフレームを用いたパッケージは,

BGA(Ball Grid Array),CSP(Chip Size Package),MCP

(Multichip Package)へと移行し,最近ではウェハ段階でパ

電子機器用実装材料システムPackaging Material System for Electronic Devices

当社総合研究所 安田雅昭 Masaaki Yasuda

デジタル情報機器に用いられる半導体パッケージとして,伝送信号の高速化や小

型・薄型化に有利なCSP(Chip Size Package)やMCP(Multichip Package)が普及す

るとともに,高集積化やシステム化に対応するため,SIP(System in Package)の開

発が積極的に進められている。当社は脱鉛,脱ハロゲンなど環境負荷の低減や,高性

能化,多機能化に対応できる実装材料を開発しており,加えて構造設計,実装および

信頼性評価からなる材料システム設計技術開発を,材料開発と同期化させたマテリア

ルシステムソリューションを展開している。本稿では材料システム設計技術及び新規

パッケージ用材料システムについて述べる。

Chip size package (CSP) and multichip package (MCP), which have the advantages ofhigher speed of electrical signal transmission and thinner packaging, have spreadthrough semiconductor packages for digital information electronic equipment. Inaddition, the development of system in package (SIP) technology has been acceleratedto meet the requirement of greater integration and systematization. Our company hasbeen developing packaging materials that meet the requirements of higher integrationand performance as well as of environmental preservation such as lead-free andhalogen-free. We have been endeavoring to synchronize the development of materialswith that of material system design technology, which concept we call “ material systemsolution”. This paper reports the material system design technology and the newlydeveloped packaging materials.

QFP

BGA

CSP

FC-CSP

WL-CSP

TSOP

MCP

E-BGAFC-BGA

System�Module

高速・多ピン化�

環境対応(脱ハロゲン,脱鉛)�

小型・薄型化�

ロジック�

メモリ� 3次元実装�

ウェハプロセス�

SIP

System in Package

System on Chip

SOC

図1 半導体パッケージの変遷 伝送信号の高速化や小型・薄型化に伴い,パッケージ構造が多

様化している。

Fig. 1 Trend of semiconductorpackagesPackage structure has been

diversif ied to meet therequirements of higher speed ofelectrical signal transmission andthinner profile.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)8

総 説

ッケージングを行うWL(Wafer Level)-CSPが開発されてい

る2),3)。一方,チップとインタポーザの接続方法として現在

ワイヤボンディング法が主流であるが,実装の高密度化や高

速化に対応するため,フリップチップ接続によるパッケージ

が採用されている。

当社は,これらのパッケージに用いられる実装材料として,

封止材,ダイボンド材,基板材料などを製造しており,現在

では脱鉛,脱ハロゲンなど環境負荷の低減や,更なる高性能

化,多機能化,低コスト化に対応できる実装材料の開発を進

めている。一方,顧客からは各種先端パッケージの市場投入

を早めるために,より完成度の高い実装材料が求められ,場

合によっては実装材料が持つ性能を十分発揮できるように,

パッケージ構造の微調整が行われることがある。そこで当社

は1994年から,図2に示すように材料特性,構造設計,実装

および信頼性評価からなる材料システム設計技術開発を,材

料開発と同期化させたマテリアルシステムソリューションを

展開している。

〔2〕 材料システム設計技術

パッケージは有機材料,金属材料などが複合された構成で

あるため,信号伝送に関わる電気的設計以外に,クラック,

はく離などに対する構造設計が重要になる4),5)。図3には,

銅リードフレームを用いたQFPの各種信頼性試験時に発生す

る欠陥を示す。リフロー試験(260℃)においては封止材と

インナリードの界面にはく離が,温度サイクル試験(-65℃

~150℃)においてはダイパッド端部からクラックがそれぞ

れ発生する。これは各界面の接着強度や封止材のバルク強度

が,信頼性試験時に発生する熱応力に比べて低いためであり,

この応力状態を最適化するため,封止材やダイボンド材など

の材料物性評価,熱応力解析,およびパッケージ信頼性の検

証からなる材料システム設計技術を構築した6),7)。QFPおよ

びCSPを対象とした脱鉛,脱ハロゲン対応材料のシステム設

計技術を以下に紹介する。

2. 1 QFP

パッケージ信頼性の重要項目に挙げられている耐リフロー

性について,構成材料のダイボンド材と封止材の影響因子を

調べた。まず,リフロー時(260℃)に発生する熱応力を解

析した結果,図4に示すように,チップ,ダイパッドおよび

インナリードの各端部で応力が集中することが分かる。一方,

図5に封止材と各被着体の界面の接着性をせん断ひずみエネ

QFP BGA/CSP Stacked CSP WL-CSP SIP/SOC

材料特性� 構造設計� 実装� 信頼性評価�

・界面/接着特性�・熱物理特性�

・熱応力解析�・回路解析�

・W/B,FC�・フィルムアタッチング�・モールド,ポッティング�

・反り変形�・耐湿・バイアス�・実装信頼性�

実装材料�

材料システム設計技術�図2 半導体パッケージ用マテリアルシステムソリューション 実装材料開発と材料システム設計技術開発を同期化させたマテ

リアルシステムソリューションを展開してい

る。

Fig. 2 “Material system solution” forsemiconductor packages

“Material system solution” synchronizes thedevelopment of materials with that of materialsystem design technology.

はく離�

クラック�

チップ反り�金ワイヤ�

銅リードフレーム� ダイボンディング材�

チップ� 封止材�

パッケージサイズ:14mm×20mm×1.4mmt�チップサイズ:8mm×10mm×0.28mmt

図3 QFPの不良現象 信頼性試験において,はく離,クラックなどの不良が発生する。

Fig. 3 Failure modes of QFPDelamination and cracks will occur during reliability tests.

応力集中個所�

チップ�

ダイパッド�インナリード�

節点数:2,894,要素数:921

図4 熱応力解析結果 チップ,ダイパッド及びインナリード端部に応力が集中する。

Fig. 4 Result of thermal stress analysisStress concentration occurs at the edges of the chip, die pad, and inner lead.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 9

総 説

ルギーとして相対値で示すが,ダイパッドとの界面のせん断

ひずみエネルギーを 1とすると,インナリードとの接着性が

最も劣っていることが分かる。したがって,これらの解析お

よび接着性評価結果から,熱応力の大きさに比べて接着性に

乏しい,封止材とインナリードとの界面がリフロー試験時に

はく離しやすいことが予測できる。実際に種々の封止材を用

いて耐リフロー性を評価したところ,図6に示すように,熱

応力が小さくひずみエネルギーが大きいほど耐リフロー性に

優れていた。このことから,低弾性率,低熱膨張係数および

高接着性を備えた脱ハロゲン封止材を用いることによって,

脱鉛の高温はんだに対応した耐リフロー性を確保できること

が分かる。チップの反りや耐温度サイクル性についても,耐

リフロー性の場合と同様に,熱応力解析,材料物性評価およ

び信頼性検証を行い,その結果をもとにして表1に示す脱

鉛・脱ハロゲン対応材料システムを設定した。これらの材料

は現在QFPの小型・薄型化を図ったQFN(Quad Flat Non-

Lead)にも適用されている。

2. 2 CSP

CSPは携帯電話,PDA,デジタルカメラなどに適用されて

いるが,最近では複数のチップを一つのパッケージに収納し

たMCPや,薄形パッケージを積み重ねた積層パッケージが開

発されている。現在では,パッケージングコストをさらに低

減するため,一括封止するMAP(Mold Array Package)工法8)

が主流となっている。

そこで,図7に示すMAP-CSPを取り上げ,反り変形および

耐リフロー性の影響因子を調べた。パッケージおよびチップ

寸法を固定し,基板厚と封止材の成形収縮率を変えて反り変

形を調べた結果,解析による計算値と実験値は良く一致した。

そして,それぞれの基板厚に対し,封止材の最適成形収縮率

を決定することができるようになった。一方,耐リフロー性

については,封止材と基板との界面はく離以外に,ダイボン

ド材と基板およびチップとのはく離が問題となる。これは基

板からの吸湿水分がダイボンド層に蓄積するためであり,ダ

イボンド材の吸湿量,基板との接着性および熱応力が支配因

子となる。図8に示すように,ダイボンド材の低吸湿化,接

着性の向上,封止材とダイボンド材の低応力化が,耐リフロ

ー性の向上に有効であることが分かる。これらの結果を材料

0.0

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

ひずみエネルギー(×10

-5 N・m)�

インナリート部応力(MPa)�

インナリード部 はく離なし�

インナリード部 はく離発生�

図6 耐リフロー性と材料物性の関係 界面の接着性に優れているほど,またインナリー

ド端部に発生する熱応力が小さいほど,リフロ

ー時にはく離が発生しにくい。

Fig. 6 Relationship between reflow crackresistance and material propertiesHigher adhesive strength(or strain energy)

and lower thermal stress at the edge of innerleads result in excellent reflow crack resistance.

0

4

2

チップ� ダイパッド(銅)� インナリード(銀)�

ひずみエネルギー(A.U.)�

測定条件:85℃/60%RH/168h+260℃/30s�封止材:CEL-9200

図5 封止材と各部品との接着性 封止材とインナリードとの界面が最も接着性に劣る。

Fig. 5 Adhesive property between epoxy molding compound(EMC) and eachcomponentAdhesive strength in terms of strain energy is the lowest for the interface

between the compound and the inner lead.

表1 QFP用脱鉛・脱ハロゲン対応材料システム これらの材料システムは,マテリアルシステムソリューションの手法により開発された。

Table 1 Material systems for QFP to meet lead- and halogen-free requirement

These material systems have been developed through the technique of“Material system solution”.

封止材 チップ反り(µm) 耐リフロー性 耐温度サイクル性

CEL-1702HF<30

JEDEC レベル30/5

CEL-9220HF JEDEC レベル2

リードフレーム:EFTEC64Tダイパッド構造:ウインドウダイボンディング材:EN-4900F1耐リフロー性:265℃/10s×3回耐温度サイクル性:1,000サイクル/-65℃~150℃,不良数/試料数

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)10

総 説

開発にフィードバックし,封止材(CEL-9700HF,9200HF),

ダイボンド材(DF-450,HS-232),基板(E-679F(G))およ

びソルダレジスト(SR7101G)で構成される,脱鉛・脱ハロ

ゲン対応材料システムを設定した(表2)。これらの材料シ

ステムは次世代DRAMやMCPに採用され始めている。

〔3〕 新規パッケージ用材料システム

材料システム設計技術を各種パッケージに適用することに

よって,最適な材料物性を導出できる。そこで,信号伝送の

高速化や小型・低コスト化に有利な,フリップチップCSPお

よびWL-CSP用材料システムを以下に紹介する。

3. 1 フリップチップCSP

フリップチップ接続技術は,表3に示すように,はんだバ

ンプを用いたC4(Controlled Collapse Chip Connection)方式

や,金バンプと基板端子を導電性接着剤,ACF(Anisotropic

Conductive Film)およびNCF(Non-conductive Film)を介し

て接続する方法が実用化されている。特に,ACFやNCFを用

いた接続法では基板に仮圧着した後チップを実装するため,

アンダフィル工程が不要となり,さらに,金スタッドバンプ

表2 CSP用脱鉛・脱ハロゲン対応材料システム これらの材料システムも,マテリアルシステムソリューションの手法により開発された。

Table 2 Material systems for CSP to meet lead- and halogen-free requirementThese material systems have also been developed through the technique of “Material system solution”.

基板厚 封止材 ダイボンディング材 MAP反り(mm) 耐リフロー性 耐温度サイクル性

0.1 CEL-9700HFDF-450

HS-232<0.5 JEDECレベル2 0/4

0.4 CEL-9200HFDF-450

HS-232

0.00

0.50

1.00

1.50

0 1.0 2.0 3.0 4.0

接着強度/発生応力(A.U.)�

ダイボンド材の吸湿水分量(g)�

はく離なし�

封止材:CEL-410HF�基板:E-679F

図8 耐リフロー性と材料特性の関係 ダイボンド材の高接着化,低応力化および低吸湿化によって耐リフロー性は向上する。

Fig. 8 Relationship between reflow crack resistance and material propertiesHigher adhesive strength, lower thermal stress, and lower moisture

concentration of the die attach material are effective in improving reflow crackresistance.

基板:E-679F(G) 耐リフロー性:265℃/10s×3回ソルダレジスト:SR7101G 耐温度サイクル性:1,000サイクル/-55℃~125℃,不良数/試料数

封止材�

チップ�

基板�

金ワイヤ�

はんだボール� 基板�

(A)解析モデル� (B)封止材の成形収縮率と反り変形量の関係�

ダイボンディング材�

チップ�

ソルダレジスト�

封止材�

MAPサイズ:70mm×90mm,封止サイズ:40mm×70mm×0.8mmt�パッケージサイズ:10mm×10mm,チップサイズ:6.5mm×6.5mm×0.28mmt�はんだボールピッチ:0.8mm

-0.8

1.2

0.8

0.4

0.0

-0.4

0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35反り変形量(mm)�

封止材の成形収縮率(%)�

基板厚0.1mm

CEL-9200HF

CEL-9700HF

チップ面積/封止面積=0.42

基板:E-679F(G)�ダイボンディング材:DF-402   0.4mm

解析値�

節点数:5,528�要素数:4,314

z

yx

図7 MAP-CSPの反り変形(A)解析モデル (B)封止材の

成形収縮率と反り変形量の関係

Fig. 7 Warpage of MAP-CSP(A) Analytical model for warpage (B) Relationship between themolding shrinkage of EMC andthe warpage of MAP-CSP

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 11

総 説

が用いられるため,今後の狭ピッチ化や脱鉛化の要求に対応

できるという特長がある9)。当社は表4に示す低応力ACFや

NCFを開発しており,脱ハロゲン基板と組み合わせて,メモ

リパッケージ,MCM,COB(Chip on Board)などへの適用

を図っている。

3. 2 WL-CSP

ウェハ状態で再配線や封止などの実装を行うWL-CSPは,

再配線型,樹脂封止型,配線基板型(図9)など数十種類が

発表されている。WL-CSPの技術課題の一つは,はんだ接合

部を補強するためのアンダフィルが必要なことであるが,最

近当社は日立製作所と共同で,アンダフィルが不要なWL-

CSPとして,図10に示すWPP2(Wafer Process Package)を

開発した10),11)。弾塑性解析に基づきパッケージ構造や各材料

物性を最適化するとともに,はんだ接合部への負荷を低減す

るための応力緩和層の形成法,再配線など新規な実装プロセ

スを開発した。実装材料として,応力緩和材(HL-P200)と

耐マイグレーション性に優れた配線保護層(HD-6000;日立化

成デュポンマイクロシステムズ)が採用されており,WL-

CSPとしては画期的な耐温度サイクル性(1,000サイクル以

上,-55~125℃)を達成している。

〔4〕 結  言

デジタル情報機器などの電子機器に用いられる半導体パッ

ケージは,伝送信号の高速化や小型・薄型化の要求に対応す

るため,パッケージ構造が多様化し,MCPなどの高密度パッ

ケージや,フリップチップ接続などの高機能パッケージの採

表3 フリップチップ接続方法 ACFおよびNCFを用いたフリップチップ接続法に

よると,アンダフィルと内部

接続を同時にできる。

Table 3 Various microinter-connection methods for flipchipsFlip chip bonding with the

ACF or NCF can performunder-fi l l ing and inter-connection simultaneously ata time.

方法 接続構造 アンダフィル 接続方法

はんだバンプ必要 はんだ接続

導電性接着剤必要 機械的な接触

ACF

(Anisotropic Conductive Film)不要 機械的な接触

NCF

(Non-Conductive Film)不要 金属接合

IC Chip

SubstrateElectrode

Solder Bump

IC Chip

SubstrateElectrode アンダフィル�

アンダフィル�

導電性接着剤�Au Bump

IC Chip

SubstrateElectrode

Au Bump

IC Chip

SubstrateElectrode

ACF

NCF

Au Bump

表4 フリップチップ接続用ACFおよびNCFの一般特性 低応力で接着強度が高いため,CSPに適用した場合,耐リフロー性に優れている。

Table 4 General properties of ACF and NCF for flip chip interconnectionThe FC and UF series have good reflow resistance because of their low stress generation and high adhesive strength features.

項    目ACF NCF

FC-212B FC-212K UF-511 UF-526

ガラス転移温度(℃) 145 172 145 150

熱膨張係数(×10-6/℃) 55 30 55 30

弾性率(GPa,40℃) 1.4 6.6 1.4 4.8

接着強度*1(MPa,260℃) 0.3 1.0 0.3 1.0

流動性*2 2.3 2.1 2.3 1.9

吸湿率(mass%,85℃/85%RH/100h) 1.2 0.5 1.2 0.6

特徴 低弾性率 低熱膨張率 低弾性率 低熱膨張率

*1)チップ:5mm×5mm基板:0.8mmt圧着条件:180℃/1MPa/20s

*2)流動性:圧着後面積/初期面積

物 性

ステージ:260℃�

ACF/NCF

チップ�

基板�

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)12

総 説用が進んでいる。また,半導体素子の性能向上に伴い,更な

る高集積化やシステム化の動きが活発になっており,受動部

品を内蔵したSIP(System in Package)の開発も積極的に進

められている。当社はマテリアルシステムソリューションを

展開することによって,今後ますます高度化する実装材料の

要求に応え,半導体産業の発展に貢献してゆく所存である。

参考文献1) 2001年度版日本実装技術ロードマップ,(社)電子情報技術産

業協会

2) 日経マイクロデバイス, p.40(1999年2月号)

3) フリップチップおよび関連チップスケール技術の実際,産業科

学システムズ,1998

4) 半導体パッケージ工学,日経BP社, p.249-313

5) T.C.Chai,Electronic Components and Technology Conference,

p.702(1999)

6) 蔵渕,鈴木,安田:エレクトロニクス実装学会 MES2000論文

集,p.355(2000)

7) 富山,他:ネットワークポリマー,21(3),p.136(2000)

8) 辻,他:ネットワークポリマー,21(3),p.25(2000)

9) I.Watanabe et al., IMC 1996 Proc. Omiya, p.328, 1996

10) Y. Yamaguchi et al., Proc. IMPAS Advanced Technology

Workshop on Chip Scale Packaging, Sep. 2000

11)安生一郎,エレクトロニクス実装技術, 2000臨時増刊号,

p.102

応力緩和層�HL-P200

配線保護層�HD-6000

再配線�

図10 WPP2の構造 WPP2はアンダフィルが不要で耐温度サイクル性に優れる。

Fig. 10 Structure of WPP2WPP2 has good temperature cycle resistance without under-filling.

再配線�

再配線�

基板�

メタルポスト�封止材�

(A)再配線型�

(B)樹脂封止型�

(C)配線基板型�

封止材�

図9 WL-CSPの代表的構造 ここにあげた3種が,文献にでている代表的な構造である。 (A)再配線型 (B)樹脂封止型 (C)配線基板型

Fig. 9 Typical structures of WL-CSPThese are three representative structures appeared in the reference.(A) Redistribution type (B) Resin mold type (C) Substrate type

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

U.D.C. 621.3.049.774-758.3:621.792.8.053.4:678.686.027.73

13

半導体パッケージ用エポキシ樹脂封止材料の成形性評価技術Evaluation Technologies on Moldability of Epoxy Molding Compounds for

Encapsulation of Semiconductors

吉井正樹*Masaki Yoshii 水上義裕**

Yoshihiro Mizukami 荘司秀雄**Hideo Shoji

半導体パッケージの小型・薄型化,ファインピッチ化などに伴い,樹脂充填(てん)

過程におけるボイド,ワイヤ変形や,離型時のストレスによるチップクラックなど成

形性に関する問題が顕在化してきている。そこで,成形性に優れる封止材料の開発支

援を目的に,成形性評価技術の構築を目指した。その結果,新規な流動・硬化特性評

価技術,流動およびワイヤ変形シミュレーション技術,流動可視化によるウェルドボ

イド,ワイヤ変形,アンダーフィル評価技術,実パッケージ成形時の離型力測定によ

る連続離型性評価技術を開発した。

With the miniaturization and finer pitch of semiconductor packages, molding defectssuch as voids, wire sweeps, chip cracks and so on are becoming serious problems. Inthis study, to aid development of high moldability Epoxy Molding Compounds (EMC),we developed evaluation technologies for moldability. As a results of this achievement,new evaluation technologies, namely rheological and curing characterization of EMC,simulation of the flow behavior and wire sweeps, visualization of weld voids, wiresweeps and underfilling of flip chip packages, and a measurement method of thereleasing force in molding the actual package were created.

*当社 半導体材料事業部門 工学博士 **当社 半導体材料事業部門

〔1〕 緒  言

半導体のパッケージング(封止成形)は,エポキシ樹脂コ

ンパウンド(以下,封止材という)を用いたトランスファー

成形が主流となっている1)。

一方,半導体パッケージは,LSIの高集積化に伴って,小型,

薄型,ファインピッチ・多ピン化が急速に進んでいる。この

ようなパッケージの薄型,ファインピッチ化に伴って,トラ

ンスファー成形を主体とする封止技術1)では,樹脂充填(て

ん)過程でのボイド2)~4),ワイヤ変形5)~14),パドルシフト15),16),

さらには硬化後の離型過程におけるパッケージ変形によるチ

ップクラックなど,広義の意味での成形性の問題が顕在化し

てきている(図1)。

これらの成形性課題は,パッケージ構造,金型,封止材,

成形技術など多くの要因と複雑に関係しており,その解決に

は総合的なアプローチがますます必要となってきている。

エポキシ樹脂封止材料�

チップ�

金ワイヤ�

パドル�

リードフレーム�(L/F)�

(a)半導体パッケージ�

プランジャー�

キャビティ�

ゲート�

L/F

溶融樹脂�

ワイヤ変形� ボイド�

チップクラック�

パドルシフト,�チップチルト�

(b)樹脂充填過程�

(c)離型過程�

エジェクタピン�

チップ�

図1 トランスファー成形による半導体パッケージングおける成形性課題 半導体パッケージの小型・薄型化などによって,樹脂充填過程では,ボイド,ワイヤ変形などが,

離型課程では,チップクラックなどが顕在化してきている。

Fig. 1 Moldability problems in semiconductor packagingusing transfer moldingWith the miniaturization of semiconductor packages, duringthe filling stage, voids, wire sweeps and so on are becomingserious problems. Also, at the releasing stage, chip cracksbecoming serious problems.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)14

そこで,成形性に優れる封止材の開発支援技術として,封

止材の基本的な特性をはじめとして,樹脂流動挙動やワイヤ

変形などのシミュレーションや可視化による成形性評価,離

型荷重の検出による離型性の定量的評価に至る評価技術を構

築してきた。

本稿では,これまでに構築した評価技術と,その評価技術

の活用によって明らかになった成形性に優れる封止材の特性

仕様や成形性改善のための成形技術を併せて紹介する。

〔2〕 硬化および流動特性評価

封止材は,熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂にシリカフィ

ラが体積比率で通常60~80%充填された複合材料である。そ

のため,封止材の粘度は加熱時間の経過に伴って変化し,し

かもフィラの凝集・分散などにより,強いせん断速度依存性

を示す。そこで,成形性評価の精度の向上を図るため,まず

これらの特性を明らかにした17)。

2. 1 硬化特性

エポキシ樹脂の硬化反応速度式としては,下に示すKamal

のモデル式19)が広く用いられている。

dα/dt=(K1+K2αm)(1-α)n ………………………(1)

K1=A1exp(-E1/T)……………………………………(2)

K2=A2exp(-E2/T)……………………………………(3)

ここで,αは硬化度,dα/dtは硬化速度,Tは絶対温度(K),

m ,n ,A1,E1, A2,E2はそれぞれ材料によって定まる係数

である。

これらの係数は,示差熱走査熱量計(DSC;Differential

Scanning Calorimeter)による非等温硬化挙動から求めること

ができる。図2に,シリカフィラ80vol%充填の低粘度系封止

材の非等温硬化曲線を示す。このデータから,(1)~(3)式

の係数をデータフィッティング法により求めた(表1)。こ

れによって,当該樹脂の硬化速度を規定でき,例えば図3に

示すように成形温度180℃における硬化の進行状況を推定す

ることができる。

2. 2 流動特性

封止材のようにフィラが高充填された複合材料の粘度は低

せん断域でせん断速度依存性が強く,その特性は(4)式に

示すHerschel-Bulkely モデルによって精度よく表すことがで

きる19),20)。

0

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

硬化度(α)�

時間(s)�

ゲル化時間:35s

成形硬化時間:90s

T=180℃�

α~0.96

α~0.65

図3 Kamalモデルによる硬化速度の推定 この図から,ゲル化点の硬化度は約0.65,成形完了時の硬化度は約0.96と推定される。

Fig. 3 Degree of cure with elapsed time estimated from Kamal’s modelThe degrees of cure at the gel point and the end of the molding are

estimated at c.a. 0.65 and 0.96, respectively.

表1 Kamalの硬化速度モデルの係数

Table 1 Coefficients of Kamal’s model

m - 0.342

n - 1.14

A1 s-1 0.1

A2 s-1 1.72E7

E1 K 19,796

E2 K 8,866

0

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

300 350 400 450 500

硬化度(α)�

温度(K)�

10℃/min

5℃/min

20℃/min

昇温速度�

図2 DSCによる非等温硬化曲線

Fig. 2 Non-isothermal conversion curve measured using DSC

η(γ・,T)=τy(T)/γ・+K(T)γ・(n-1)………………(4)

ここで,γ・はせん断速度,nは流れ指数,τyは降伏応力で

次式により表される。

τy(T)=τy0exp(Ty /T) ……………………………(5)

K(T)は,Williams-Landel-Ferry(WLF)式の適用により

次式のように表される。

K(T)=K0exp{-CA(T-Tg)}/{CB+(T-Tg)}……(6)

さらに,K0はCastro-Macoskoの式21)により,硬化の進行に

よる粘度の変化を表すことができる。

K0=K00{αgel /(αgel-α)}(C1+C2α) ………………………(7)

ここで,Tgはガラス転移温度(K),αgelはゲル化点におけ

る硬化度,τy0,Ty,CA,CB,K00,C1,C2は樹脂によって定ま

る係数である。したがって,流動特性を規定するには,これ

らの係数を求める必要がある。

そこで,温度,時間,せん断速度をパラメータとして粘度

を測定できるスリット式粘度装置を開発した(図4)。測定

原理は,溶融樹脂がスリットを通過する際の圧力損失を圧力

センサにて検出し,粘度を算出するものである。せん断速度

はプランジャーの速度とスリット形状で設定され,約10~

2,000s-1の広範囲にわたる測定が可能である。ちなみに,従来

の流動性指標であるスパイラルフロー,高化式フローテスタ

による粘度は,高せん断域での流動性を表している。

この粘度計を用いて,前節で硬化特性を明らかにした低粘

度系封止材の流動特性を調べた。図5および図6に,粘度の

温度,時間,せん断速度との関係を示した。特に,図6に示

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 15

溶融樹脂� 圧力センサ�

プランジャー�

スリット�リザーバ�

図4 スリット式粘度測定装置の概要 溶融樹脂がスリットを通過する時の圧力損失から粘度を算出する。せん断速度はプランジャー速度とスリット

形状によって設定され,低せん断域から高せん断域までの測定が可能である。

Fig. 4 Brief skeleton of slit viscometerThe viscosity is calculated form the pressure loss detected using a pressuretransducer. The shear rate is set using the plunger speed and the dimension ofthe slit. The viscosity can be measured at a low to high shear rate.

すように封止材の粘度は低せん断域で強いせん断速度依存性

があることがわかる。封止成形におけるキャビティ内の樹脂

流動は50s-1近傍の低いせん断領域にあり,このように低せん

断域での粘度を明らかにすることは成形性評価の点から重要

である。

図5,6のデータから,(4)~(7)式の係数を求めた。そ

の結果を表2に一覧した。表1および表2に示した係数は,

封止材の硬化および流動特性を規定する重要なパラメータで

あり,後述する流動シミュレーションの樹脂特性パラメータ

としても用いられる。

2. 3 低せん断域粘度とワイヤ変形,パドルシフト

キャビティ内のせん断速度は,ランナやゲート部に比べて

かなり低く,50s-1近傍にある。そこで,せん断速度50s-1にお

ける粘度を指標に,ワイヤ変形,パドルシフトとの相関を調

べた。その結果を図7および図8に示す。

0

300

250

200

150

100

50

0 10 20 30 40

見かけ粘度ηa(Pa・s)�

時間(s)�

せん断速度:300s-1

175℃� 160℃�

145℃�

図5 封止材粘度の温度,時間依存性

Fig. 5 Viscosity of EMC elapsed with curing time at various temperatures

1

1,000

100

10

10 100 1,000

見かけ粘度ηa(Pa・s)�

見かけのせん断速度γ・a(s-1)�

145℃�

160℃�

175℃�

図6 封止材粘度のせん断速度依存性 高せん断域ではせん断速度依存性はほとんど認められないが,低せん断域では強いせん断速度依存性がある。

Fig. 6 Viscosity dependence on shear rateIn the high shear zone, the viscosity is almost independent of the shear rate.However, in the low shear zone, the shear rate dependence is strong.

0

5

4

3

2

1

0 10 20 30 40 50 60 70

ワイヤ変形率(%)�

せん断速度50s-1における粘度(Pa・s)�

ワイヤ径:28 mワイヤ長さ:2mm

金ワイヤ�

1mm

10×20mmTSOP

図7 低せん断粘度とワイヤ変形との関係 低せん断粘度とワイヤ変形は非常に強い相関関係がある。

Fig. 7 Relationship between low shear viscosity and wire sweepsThere is a strong correlation between low shear viscosity and wire sweeps.

表2 流動特性に関する係数

Table 2 Coefficients of rheological kinetic equations

n - 0.85

K00 Pa・sn 2.322E6

CA - 25.85

CB K 179.6

C1 - 5.13

C2 - 1.2

αgel - 0.682

τy0 Pa 857

Tg K 293

Ty K 0

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)16

〔3〕 シミュレーションによる評価23)

パッケージの設計段階から,樹脂の流動解析を行い,ボイ

ドやワイヤ変形などを予測し,パッケージ構造,金型,樹脂

特性,成形条件などの仕様を明確にすることは,開発のスピ

ワイヤ変形,パドルシフトとも,低せん断粘度と強い相関

があり,ワイヤ変形やパドルシフトの抑制には低せん断域の

粘度の低減が重要であることがわかる。

2. 4 ファインピッチ対応の低粘度封止材の開発

最近の話題として,直径15µmの金ワイヤを用いた35µmピ

ッチのボンディング技術がKulicke & Soffa Industries 社によ

って開発された。

そこで,上記のボンディング技術に対応できる実装技術の

開発の一環として,ワイヤ変形を抑制できる低粘度封止材の

開発に取り組んだ。対象パッケージはBGA(Ball Grid Array,

□27xt1.4)パッケージである。成形ゲート方式としては,

ワイヤ変形に不利とされるサイドゲートを敢えて採用した。

各種封止材の低せん断粘度とワイヤ変形との関係を図9に示

す。粘度が約30Pa・s以下であれば,ワイヤ変形が4%以下と

なり,ワイヤショートのない成形が実現できることがわかっ

た22)。また,図中に示したようにカウンタプレッシャー成形

法(詳細は§4.2に述べた)により,ワイヤ変形をさらに低減

できることもわかった。

一方,ワイヤ変形に有利とされているトップゲート方式で

は,粘度30Pa・s以下の封止材で,ワイヤ変形は約2%であっ

た。しかし,トップゲートでは,ワイヤの配列形態によって

樹脂の流動が大きく影響され,その結果,局部的に大きなワ

イヤ変形を生じる場合がある。

0

7

6

5

4

3

2

1

0 20 40 60 80

ワイヤ変形率(%)�

せん断速度50s-1における粘度(Pa・s)�

ワイヤ径:15 mワイヤ長さ:6mm�ゲート:サイドゲート�

常圧成形�

カウンタプレッシャー成形�

ワイヤショートのない�領域�

ワイヤ径15µm

サイドゲート�

ファインピッチBGA

樹脂成形部 t0.86×27mm×27mm

基板 t0.54×27mm×27mm

図9 ファインピッチBGAにおける封止材粘度とワイヤ変形ワイヤショートのない粘度値は

30Pa・sで,それを満足する低粘度

封止材料を開発できた。また,カウ

ンタプレッシャー(加圧)成形でワ

イヤ変形を低減できる。

Fig. 9 Relationship between lowshear viscosity and wire sweeps inmolding fine-pitch BGAA low viscosity EMC that avoids

wire shorts whose viscosity is lowerthan 30 Pa-s, was developed. Wiresweeps can be reduced using thecounter-pressure molding.

ゲート� ゲート�

エアトラップ域�(b)流動シミュレーション結果�

(a)ワイヤの流動抵抗の考慮�

(c)ショートショット結果�

Q3

Q1

WW

H*Q2

Q*

等価厚みH*�の流路に変換�

3つの流路�に分割�金ワイヤ�

L/F

チップ�

LOCタイプのTSOP

図10 ワイヤの流動抵抗を考慮した流動解析の例 ワイヤの流動抵抗を考慮することによって,実際の流動挙動とよく

一致する。

Fig. 10 Flow simulation with f lowresistance effect caused by wiresTaking the flow resistance caused by

wires, the results of analysis agree well withthe actual flow pattern.

0

200

160

120

80

40

20 40 60 80 100

パドルシフト(

m)�

せん断速度50s-1における粘度(Pa・s)�

パドルのシフト方向�

3.2mm

28mm×28mmQFP2828

図8 低せん断粘度とパドルシフトとの関係 低せん断粘度とパドルシフトとは強い相関関係がある。

Fig. 8 Relationship between viscosity and paddle shiftsThere is a fair correlation between low shear viscosity and paddle shifts.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 17

ゲート�

(a)高粘度で高チクソ性の封止材料�ゲート�

(b)低粘度で低チクソ性の封止材料�

メルトフロント�メルトフロント�

エアトラップ⇒ウェルドボイド� エアトラップは生じず�

図12 流動可視化によるLQFPのウェルドボイド評価 ウェルドボイドの発生ポテンシャルの低減に

は,低粘度化と低チクソ性が有効で

ある。

Fig. 12 Evaluation of weld voidsduring encapsulation of LQFP usingflow visualization toolTo reduce the potential of weld

void, lowering the viscosity andthixotropy of EMC is effective.

溶融樹脂�L/F

キャビティ�

ガラス�

CCDカメラ�

サーボモータ�

荷重センサ�

プランジャー�

モニター�

図11 流動可視化装置

Fig. 11 Flow visualization tool

ードアップ,コスト低減の点から極めて重要である。

当社では,流動解析ソフトとしてMOLDFLOW社の“MPI”

(旧称,“C-Mold”)と,応力解析ソフトとしてHibb i t t

Karlsson & Sorensen社の“ABAQUS”を併用して,流動解析

やワイヤ変形解析など,成形性評価のツールとして活用して

いる。

しかし,現行の流動解析ソフトでは,ワイヤの流動抵抗を

考慮した解析はいまだ実現されていない。そのため,樹脂流

動がワイヤによって大きく影響を受けるLOC(Lead on Chip)

タイプのTSOP(Thin Small Outline Package)では,シミュ

レーション結果と実際の流動挙動とは大きく相違している。

そこで,ワイヤによる流動抵抗を仮想的に設定する手法を

考案し,ウェルドボイドの発生ポテンシャルとなるエアトラ

ップの予測を試みた。

図10(a)に示すLOCタイプのTSOPを対象に,ワイヤの存

在による流動抵抗の考慮を次の手法により行った。チップ上

面の流路はワイヤ群によって 3つの矩形流路に区切られると

し,それぞれの流路における流量Q1~3の総流量Q*(=Q1+

Q2+Q3)をもつ等価な流路(幅W,高さH*,長さL)1つに置

き換えた。すなわち,各流路の流量Q1~3を(8),(9)式で求め,

総流量Q*をもつ等価流路の高さH*を(9)と(10)式との繰返

し計算により算出した。

Qn= ・ ・Fn,(n=1~3)……………………(8)

ここで,ηは粘度,∆Pは圧力損失,Fnは各流路の形状によ

って定まる係数で,次式で求められる。

Fn=1- ・tanh( )…………(9)

H*=( )…………………………………(10)

上記した手法による流動解析結果と実際の成形よるショー

トショットをそれぞれ図10(b),(c)に示した。ワイヤによ

る流動抵抗のためチップ中心部の流れが遅く,相対的にチッ

プ周辺部の流れが速くなり,チップ下からわき上がってきた

樹脂と合流して,大きなエアトラップ域が形成されているこ

とがよく再現されている。このような大きなエアトラップの

発生は,ウェルドボイドと呼ばれる貫通穴が残留するポテン

シャルが高いことを示している。このエアトラップは,樹脂

の高流動化やL/Fの構造変更などにより小さくすることが可

能である。

13

12ηQ*LF*W∆P

iπWn

2Hn

Σ 1i=1,3,5・・・ i5

192Hn

π5 Wn

∆PL

WnHn3

12η

〔4〕 流動可視化による評価

成形時の流動状態をin situで観察8),16),24)~26)することは,成

形現象を正確に把握できるため,成形不具合に対してより迅

速で的確な対応が可能となる。当社では,流動挙動に起因す

るボイド,ワイヤ変形,パドルシフトなどの要因解明と成形

性向上のために図11に示す流動可視化装置を活用している。

4. 1 ウェルドボイド

せん断速度50s-1における粘度が105Pa・sと64Pa・sの封止

材を用いて,LQFP(Low Profile Quad Package)のウェルド

ボイドの発生状況を流動の可視化により評価した。

粘度の高い樹脂では,図12(a)に示すようにチップ上面

の流動速度が,L/F面での速度より極端に遅くなり,チップ

を通過した時点でエアトラップを生じ,最終的にウェルドボ

イドと呼ばれる貫通穴がパッケージに残留した。これは,粘

度が高いと流動圧力が高くなり,パドル下面の樹脂からの力

でパドルが上昇(パドルシフト)し,チップ上面の流路厚が

減少したためである。一方,粘度の低い樹脂では,パドルシ

フト量が小さいためチップ上面の流速の減少は少なく,図12

(b)に示すようにエアトラップは生じず,ウェルドボイドは

発生しなかった。

このように,ウェルドボイド防止には,低せん断域粘度の

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)18

0

7

6

5

4

3

2

1

-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4

ワイヤ変形率(%)�

キャビティ内気圧(ゲージ圧:MPa)�

高粘度封止材料(粘度:50Pa・s@50s-1)�

低粘度封止材料(粘度:30Pa・s@50s-1)�

図13 キャビティ内気圧とワイヤ変形との関係(LQFP,ワイヤ径27µm) カウンタプレッシャー(加圧)成形によりワイヤ変形を低減できる。

一方,真空成形では,ワイヤ変形は増大する。

Fig. 13 Relationship between ambient pressure inside the cavity and wiresweeps (LQFP, wire diameter: 27µm)Wire sweeps can be reduced under the counter-pressure molding. However,the vacuum molding increases wire sweeps.

(a)常圧(大気圧)成形� (b)真空成形� (c)カウンタプレッシャー成形�

0MPa -0.1MPa 0.4MPa

金ワイヤ�

メルトフロント�気泡�(白い斑点)�

L/F

観察箇所�

金ワイヤ�ゲート�

LQFP2828Chip

図14 流動可視化装置による溶融樹脂中の気泡の観察 真空成形では多くの気泡が観察されるが,カウンタプレッ

シャー(加圧)成形では気泡はほとんど

観察されない。

Fig. 14 Observation of bubbles in themelt during fi l l ing stage using flowvisualization toolWith the vacuum molding, many

bubbles were observed. On the otherhand, with the counter-pressure molding,few bubbles were observed.

低減が有効である。

4. 2 溶融樹脂内の気泡とワイヤ変形

先に述べたように,ワイヤ変形の主要因は樹脂の粘度であ

る。しかし,粘度以外の要因として,溶融樹脂内の気泡の存

在が指摘されてきている5),14),15)。

そこで,可視化装置を用い,キャビティ内の気圧(ゲージ

圧表示)を,-0.1MPa(真空成形)~0.4MPa(カウンタプレ

ッシャー成形)に変化させ,成形時の溶融樹脂内の気泡状態

とワイヤ変形との関係を調べた27)。実験に用いたパッケージ

はLQFP(□28xt1.4)である。

キャビティ内の気圧条件とワイヤ変形との関係を図13に示

す。ワイヤ変形は,真空成形では常圧(大気圧)成形に比べ

て大きくなるのに対して,加圧成形では減少することがわか

った。特に,粘度の低い封止材では,その効果は顕著であ

る。

一方,キャビティ内の気圧条件と気泡との関係を図14に示

した。真空成形では気泡が多く存在しているのに対して,加

圧成形では目視される気泡はほとんどみとめられない。これ

は,加圧により気泡が押しつぶされたものと考えられる。図

13のワイヤ変形の結果と気泡とを関連付けると,気泡の存在

がワイヤ変形を増大させていると考えられる。

気泡がワイヤの変形を増大させるメカニズムとして,①気

泡の生成,移動,消滅という一連の挙動による溶融樹脂の脈

動効果,②気泡のワイヤへの衝突効果,③気泡のワイヤへの

スピニング効果などが考えられるが,これらの検証について

は今後の課題である。

いずれにしても,ワイヤ変形の抑制には,樹脂の低粘度化

とともに溶融樹脂中の気泡を抑制することが重要である。

4. 3 フリップチップパッケージのアンダーフィル

パッケージの超多ピン化に伴い,はんだバンプによるフリ

ップチップ接合が重要なパッケージング技術となっている。

このフリップチップ接合部には,信頼性確保のために封止

材が充填される。この充填プロセスを一般に「アンダーフィ

ル」と呼んでいる。樹脂を充填する隙間は,100µm程度のも

のから30~40µmのものまである。そのため,封止材として

は微細なシリカフィラを用いるとともに低粘度化を図ること

が必要であり,成形技術としてはエアトラップなどによるボ

イドを防止することが課題でとなっている。その評価法の一

つとして,流動の可視化による評価を進めている。

図15は,トランスファー成形用アンダーフィル材として開

発した,粒径20µm以下のシリカフィラを充填した樹脂を用

いた可視化の例である。一方,オーバーモールドタイプのア

ンダーフィルについても可視化を実現しており,ボイド防止

のキー技術の一つである真空成形による評価も可能としてい

る。

今後,これらにより,アンダーフィル性と流動特性,充填

流路の隙間,バンプ配列,充填方式・条件などとの相関を明

らかにしていく予定である。

〔5〕 離型性評価

封止材は,信頼性確保のためにリードフレームやチップな

どとの接着性が要求される反面,成形工程においては金型と

の離型性が求められるという相反する特性が要求される。

離型性不具合による問題は,連続成形による封止材成分の

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 19

金型表面への残留,劣化に起因する,①離型力増大によるチ

ップクラックやタイバークラック,②「金型汚れ(Stain)」

の成形転写によるパッケージ外観不良が主である。そのため,

金型の定期的なクリーニングが必要で,このことが生産性向

上の大きな阻害要因となっている。

このような離型性の評価には,「連続で多数」の成形にお

ける「定量的」な評価が不可欠である。そこで,従来のモデ

ル試片評価に代わる方法として,実パッケージを用いた離型

力測定システムを開発した。

5. 1 離型力測定システム

実パッケージ(LQFP2020)を用いた離型力の測定方法を

図16に示す。エジェクタピンの下部に荷重センサを設け,パ

ッケージ離型時に負荷される荷重(離型力)を検出するもの

である。このようなエジェクタピンを用いる手法は,粘度の

低い封止材では,エジェクタピンのクリアランス部に樹脂が

浸入し真の離型力が検出できないとされていた。しかし,今

溶融樹脂� フリップチップ� はんだバンプ�

充填経過時間 t=0.2s t=1.0s t=3.0s t=4.3s t=4.8s

ゲート�

溶融樹脂� フリップチップ�はんだバンプ�

CCDカメラ�

ガラス�

図15 フリップチップのアンダーフィル可視化の例

Fig. 15 Visualization ofunderfill of flip chip package

回,樹脂浸入などによる摺動抵抗を相殺する方法を考案し,

真の離型力の検出を可能にした28)。これより,量産条件とほ

ぼ同じ条件での離型性を定量的に評価できるようになった。

5. 2 連続成形および金型高温放置における離型力の変化

低粘度系封止材を例に,連続300ショットにおける離型力

の推移と,金型を高温放置した後の離型力変化を図17に示し

た。この例では,成形開始初期では離型力は小さいものの,

50~100ショットあたりから増大し始め,300ショットでは初

期の離型力の約 3倍にも増大することがわかった。また,金

型を成形温度の175℃の高温で放置すると,離型力はさらに

増大することがわかった。連続成形および高温放置による離

型力増大の主な理由は,封止材の成分である離型剤,硬化剤,

エポキシ樹脂などが成形によって金型に表面に付着残留し,

パッケージ成形品� 離型力検出用�エジェクタピン�

荷重センサ�

PC

AMP

図16 実パッケージの離型力測定方法

Fig. 16 Detection of releasing force using actual package

0

16

14

12

10

8

6

4

2

0 100 200 300 400 500

離型力(N)�

成形ショット数�

金型を175℃で�14h放置�

図17 連続成形および金型の高温放置による離型力の変化の例 連続成形により離型力は増大し,金型の高温放置によっても離型力は増大する。

Fig. 17 Typical releasing force during continuous molding and after leavingmold in high temperature atmosphereThe releasing force increases by long-continuous shots and by exposing themold to high temperature.

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0

12

10

8

6

4

2

0 100 200 300

離型力(N)�

成形ショット数�

新規離型剤を用いた�封止材料�

従来の封止材料�

図18 離型性に優れる封止材料の開発

Fig. 18 Development of high releasability EMC

最後に,本評価技術の開発にあたり,樹脂の流動・硬化特

性に関してご指導をいただいた米国Cornell 大学の元教授K.

K. Wang博士,同大学の元研究員S. Han博士,粘度測定装置

の製作にご協力いただいたエムテックスマツムラ株式会社,

またファインピッチ封止技術に関してご協力いただいた

Kulicke & Soffa Industries 社,TOWA株式会社,第一精工株式

会社,さらに本開発全般にわたりパッケージサンプルなどを

ご提供していただいた株式会社日立製作所・半導体グループ

に深く感謝致します。

参考文献1)例えば,金田,佐伯,西:NIKKEI MICRODEVICES,95(1988)

2)Ichimura S., Kinashi K. and Urano T.:40th Electro. Comp. &

Tech. Conf., 20(1990)

3)Nguyen L. T. et al.:ASME/JSME Conf. on Electro. Packaging, 751

(1992)

4)Yamamoto M, Matsumura Y.:ASME Advances in Electronic.

Packaging, EEP-Vol.19-1, 269(1997)

5)Hunter W. L.:IEEE Trans. Comp, Hybrid. Manuf. Tech., CHMT-

10, 327(1987)

6)Nguyen L. T. and Lim F. J.:40th Electro. Comp. & Manuf. Tech.

Conf., 777(1990)

7)Nguyen L. T. et al.:ASME Winter Annual Meeting, EEP-Vol. 2,

27 (1992)

8)Han S. and Wang K. K.:J. of Electro. Packaging, 117, 178(1995)

9)Wu J. H., Tay A. A. O. and Lim T. B.:Electro. Comp. & Manuf.

Tech. Conf., 1047(1996)

10)Yang H. Q., Bayyuk S. A. and Nguyen L. T.:47th Electronic

Component and Technology Conference, 158(1997)

11)佐伯,吉田,宝蔵寺:成形加工,12,67(2000)

12)Yang S. Y., Jiang S. C. and Lu W. S.:IEEE Trans. Comp. &

Packaging Tech., 23, 700(2000)

13)高堂,外:Proc. of MES 2000, 335(2000)

14)小池,佐々木,小野:Proc. of 15th JIEP Annual Meeting, 157

(2001)

15)Sato M. and Yokoi H.:IEEE Trans. on Advanced Packaging, 23,

574(2000)

16)Su F. et al.:IEEE Trans. Comp. & Packaging Techn., 23, 684

(2000)

17)M. Yoshii, Y. Mizukami and H. Shoji, Asian Workshop on Polymer

Processing in Singapore 2002, O-14-1(2002)

18)Kamal M. R., Sourour S. and Ryan M. E.:SPE Tech. Papers, 19,

187(1973)

19)Papo A. and Cafin B.:Hungarian J. of Industrial Chemistry, 16,

270(1988)

20)Han S. and Wang K. K.:J. Rheol. 41, 177(1995)

21)Castro J. M. and Macoscko C. W.:SPE Tech. Papers, 26, 434

(1980)

22)水上,吉井,外:特許申請中(2002)

23)例えば,Han S. and Wang K. K.:J. of Electro. Packaging, 122, 20

(2000)など

24)佐藤,山口,横井:成形加工’95,103(1996)

25)佐藤,横井:成形加工シンポジア’96,159(1996)

26)Nguyen L. T., Quentin C. G. and Lee W. W:49th Electro. Comp.

& Tech. Conf., 177(1999)

27)M. Yoshii, et al, Asian Workshop on Polymer Processing in

Singapore 2002, O-15-1(2002)

28)吉井,水上:特許申請中(2002)

熱劣化(酸化)した結果,離型機能が失われたものと考えら

れる。

5. 3 離型性に優れる封止材の開発

この離型力測定システムを活用して,新規な離型剤を成分

とする離型性に優れる封止材を開発した。図18に,従来の離

型剤を成分とする封止材と新規な離型剤を成分とする封止材

の連続300ショットにおける離型力の比較を示した。新規離

型剤を成分とする封止材では,連続成形による離型力の増大

が見られず,むしろ減少傾向にあることがわかった。この理

由については,新規離型剤は熱安定性に優れており,成形に

よって離型剤が金型表面に蓄積され,離型効果が増大したた

めと考えられる。この新規離型剤を用いた封止材については,

耐リフロー性などの信頼性も確認し,すでに上市している。

〔6〕 結  言

半導体パッケージの封止成形における新規な成形性評価技

術を構築し,それらの活用により成形性に優れる封止材特性,

成形法などを明らかにした。

(1)評価技術として,①封止材の流動・硬化特性評価技術

をはじめ,②流動およびワイヤ変形のシミュレーション技術,

③流動可視化による評価技術,④連続離型性評価技術を開発

した。

(2)ウェルドボイド,ワイヤ変形,パドルシフトは,キャ

ビティ内せん断速度を代表する50s-1における粘度と強い相関

が認められ,これらの抑制には,低せん断域粘度を低くする

ことが望ましい。

(3)ワイヤ変形について,溶融樹脂内の気泡の影響が認め

られ,気泡を抑えることができるカウンタプレッシャー成形

法はワイヤ変形の抑制に効果がある。

(4)ワイヤ径15µmを用いたファインピッチ化に対応できる

低粘度封止材を開発した。

(5)実パッケージの連続成形における離型力の測定を可能

にし,これにより離型性に優れる封止材を早期に開発した。

成形性の課題は,封止材だけでなく,パッケージの構造設

計,金型技術,成形技術など,総合的なアプローチが重要で

ある。そのため,今後とも関連分野の研究機関,メーカーな

どと協力し技術開発を進めていく予定である。

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

U.D.C. 621.3.011.732.16:621.315.619.049.75.012.8.029.5

21

受動素子内蔵基板の高周波特性とシミュレーションモデルHigh Frequency Properties of Embedded Passives and a Model for their Simulation山本和徳*

Kazunori Yamamoto 島田 靖*Yasushi Shimada 大塚和久*

Kazuhisa Otsuka

平田善毅*Yoshitaka Hirata 渡辺悦男**

Etsuo Watanabe

携帯電話をはじめとする無線通信機器の小型化/高機能化を背景に,RF(Radio

Frequency)モジュールの小型化が進んでいる。最近、受動素子部品の小型化だけでは

対応が困難になってきたため,配線基板に受動素子部品を内蔵化することが提案され

はじめている。また,RFモジュールの回路設計にシミュレータが活用され,効率の

よい開発が進められている。しかし,樹脂基板については電気特性や回路設計に関す

る情報が少ないために、回路設計者は樹脂基板の検討ができない状況にある。

ここでは,回路設計情報の提供のために,受動素子部品であるキャパシタを内蔵し

た樹脂基板の高周波特性を測定し,シミュレータを用いて性能を解析した結果を述べ

る。

Radio Frequency (RF) modules have been miniaturized to meet the demand forsmaller yet more enhanced handsets for wireless apllications such as cellular phones.However, area for passive devices used in RF modules have made furtherminiaturization difficult. Passives embedded in substrates are now being studiedintensively. In addition, circuit simulation technology has been developed that enablesdesigning RF module circuits efficiently. Circuit designers, however, have limiteddatabases of organic substrates and embedded passives.

In this paper, we describe high-frequency properties of a capacitor embedded in anorganic substrates, present its equivalent circuit model and database.

*当社 総合研究所 **当社 下館事業所

〔1〕 緒  言

携帯電話をはじめとする無線通信機器の小型化/高機能化を

背景に,RFモジュールの小型化が進んでいる。これまでは,

より小型の半導体部品や受動素子部品を採用して対応してき

たが,さらなる小型化を図るためには受動素子を基板の中へ

内蔵化する必要がでてきている。受動素子内蔵基板の検討に

は,LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)などのセラ

ミック基板やシリコン基板が主に用いられてきたが,ここ数

年はマザーボードとの熱膨張係数の整合性やコストの点で有

利な樹脂基板を用いた研究開発が活発である1)~10)。また最近

では,試作評価の回数を少なくして開発効率を高めるために,

回路設計にシミュレータが活用されている。しかし,樹脂基

板に関する電気特性や回路設計についての情報が少ないた

め,樹脂基板の適用はまだ十分には検討されていない。

本報では,受動素子部品であるキャパシタを内蔵した樹脂

基板の高周波特性を測定し,シミュレータを用いて解析した

結果を報告する。

〔2〕 受動素子内蔵基板

2. 1 受動素子内蔵基板のコンセプト

樹脂材料を用いたRFモジュール向け受動素子内蔵基板のコ

ンセプトを図1に示す。高誘電率樹脂材料を電極で挟みこん

だ厚膜キャパシタと高誘電率薄膜を電極で挟みこんだ薄膜キ

ャパシタ,さらに配線パターンで形成したインダクタ等の受

動素子を内蔵化する。ここでは,厚膜キャパシタ内蔵基板に

伝送線路�IC インダクタ�

樹脂基板材料�

高誘電率樹脂材料�

厚膜キャパシタ�高誘電率薄膜�薄膜キャパシタ�

図1 受動素子内蔵基板の概念図 高誘電率樹脂材料や高誘電率薄膜を電極で挟みこんだキャパシタおよび配線パターンで形成したインダクタを基板

に内蔵する。

Fig. 1 Conceptual model of embedded passivesHigh-dielectric-constant materials or thin films are assembled between the

electrodes to form embedded capacitors; embedded inductors are made bypatterning.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)22

ついて述べる。

2. 2 キャパシタ内蔵評価基板の断面

キャパシタ内蔵基板の回路特性評価パターンの断面写真を

図2に示す。L1層からL5層にビアを介して配線を引き回す回

路において,L2~L3層間にキャパシタを形成している。L2層

とL3層が電極を形成し,L2層のパターン面積が電極面積とな

っている。また,L2~L3層間に高誘電率樹脂層が20µmの厚

みで均一に形成されていることが確認できる。また,回路特

性評価パターンのほかに,キャパシタ単体および外層ビア単

体の特性を評価するためのパターンも作製して評価する。

2. 3 キャパシタ高周波特性測定結果と等価回路モデル解析結果

回路特性評価における高周波特性測定にはHewlett Packard

製のネットワークアナライザ8510Cを用い,高周波プローブ

にはCascade製のACP40 GS650を用いた。測定項目は1ポー

トのSパラメータとした。回路特性評価パターンのL5層の末

端をはんだでグランドと短絡させ,L1層の測定端子に高周波

0.2mm

L3

L1

L2

L4

L5

拡大�

高誘電率樹脂材料�

0.05mm

図2 キャパシタ内蔵基板の回路特性評価パターンの断面写真 キャパシタ内蔵基板の回路特性評価パターンには,膜厚20µmの高誘電率樹脂材料

を適用した5層基板を用いる。

Fig. 2 Cross-sectional photograph of an embedded capacitorThe test pattern to evaluate circuit properties is a five-layer board including

20-µm-thick high-dielectric-constant material.

50

01 MHz 周波数� 6 GHz 6 GHz1 MHz 周波数�

(1)キャパシタンス�

キャパシタンス成分(pF)�

(2)Q値�

0

50

Q値�

図4 キャパシタTEGの高周波特性 キャパシタンスは60GHzまで安定で,Q値は最大で25を示す。

Fig. 4 High-frequency properties ofcapacitor TEGThe embedded capacitor showed astable capacitance up to 6 GHz; themaximum Q value was around 25.

測定端子1

測定端子1

測定端子2

GroundGround

インダクタンス�成分�

抵抗成分�

測定端子2電極部分�

コンダクタンス�成分�

キャパシタンス�成分�

(1)ビアTEG (2)キャパシタTEG

図3 ビアTEGとキャパシタTEGの等価回路モデル ビアTEGの等価回路モデルは直列のインダクタンス成分と抵抗性分で表され,またキャパシタTEGの等価回路モデルは並列のキャパシタンス成分とコンダクタンス成分に加えて,電極部分のインダクタンス成分と抵抗成分で表せる。

Fig. 3 Equivalent circuit models of a via-hole TEG and a capacitor TEGThe via-hole TEG is modeled by inductance and resistance in series; the capacitor TEG is modeled by using capacitance and conductance in parallerl together with

electrode-based inductance and resistance.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 23

プローブを当てて測定した。

高周波回路シミュレータ(Agilent製MDS:Microwave

Design System)を使って作成したビアTEG(Test Element

Group)とキャパシタTEGの等価回路モデルを図3に示す。

ビアTEGの等価回路モデルは直列接続されたインダクタンス

成分と抵抗成分で,またキャパシタTEGの等価回路モデルは

並列接続されたキャパシタンス成分とコンダクタンス成分に

加えて直列接続されたインダクタンス成分と抵抗成分(電極

に相当)で表せる。キャパシタTEGのSパラメータ測定結果

から求めたキャパシタンスとQ値の周波数特性を図4に示す。

インダクタンス成分が寄生するために,キャパシタンス特性

は周波数依存性を示すが,作製したキャパシタは6GHzまでの

周波数範囲では安定的に使用できることがわかった。また,

Q値はQ=2πf・C/G(f:周波数,G:コンダクタンス)で表せ

る値であり,大きい値ほどキャパシタの損失が小さく優れた

キャパシタであることを示す。図4から,作製したキャパシ

タは最大25のQ値を示すことがわかった。さらに,等価回路

モデル解析を行って電極面積とキャパシタンス成分との関係

を求めることができる。電極面積の異なるキャパシタ評価パ

ターンの解析結果を図5に示す。キャパシタンス成分は,理

論どおりに電極面積に比例して増加することが確認できた。

このことから,電極面積を変えることにより,キャパシタン

ス成分の値を任意に設定することができると考えられる。

最後に,回路特性評価パターンの等価回路モデルを図6に

示し,実測結果とシミュレーション結果を図7のスミスチャ

ートに示す。低周波側の回路特性はキャパシタが支配的であ

るため,トレースが下弦を掃引する容量性の特性を示してい

る。下弦から上弦に変わる周波数が共振周波数であり,今回

の回路では1.69GHzとなっていた。この共振周波数を超えた

高周波側の回路特性はビアなどのインダクタが支配的にな

り,トレースが上弦を掃引する誘導性の特性を示している。

また,細線の実測値に対して,太線のシミュレーション値が

ほぼ一致していることが確認できた。このことは,ビアやキ

ャパシタを等価回路モデルで表すことにより,キャパシタ回

路の特性をシミュレーションで推測可能であることを示唆す

る。今後,等価回路モデルのデータベース化が進むことによ

って,シミュレーションが活用され,キャパシタ内蔵基板の

設計試作期間の短縮が可能となっていくであろう。

Ground

Ground

Ground Ground

Ground

Ground

測定端子�

ビアモデル�

キャパシタ�モデル�

図6 回路特性評価パターンの等価回路モデル 回路特性評価パターンの等価回路

モデルは,ビアやキャパシタ

のモデルを組み合わせて表す

ことができる。

Fig. 6 Equivalent circuitmodel of a test pattern havingan embedded capacitorThe equivalent circuit modelof the embedded capacitor withvia-holes can be expressed bya combination of each elementmodel.

0

100

80

60

40

20

0 1 2 3 4

キャパシタンス成分(pF)�

電極面積(mm2)�

Ground

キャパシタンス�成分�

図5 内蔵キャパシタの電極面積とキャパシタンス成分との関係キャパシタンス成分は,理論通りに電極面積に比例して増大する。

Fig. 5 Relationship between electrode area and capacitanceCapacitance was proportional to the electrode area as was theoretically

expected.

A1A1B1B1

回路共振点�(1.69 GHz)�回路共振点�(1.69 GHz)�

10.1 GHz10.1 GHz

100 MHz100 MHz

シミュレーション�

実測値�

シミュレーション�

実測値�

図7 キャパシタ内蔵基板の回路特性評価パターンの高周波特性回路特性のシミュレーション結果と実測値が一致し,等価回路モデルを用いる

シミュレーションで回路特性を推測できることがわかる。

Fig. 7 High-frequency properties of the embedded capacitorThe simulated high-frequency-property data of the embedded capacitor

agreed with the measured data, indicating that this equivalent cirecuit model canbe used to evaluate circuit properties.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)24

参考文献1)H. Ronkainen et al.:Passive Integration Process for RF Multi-

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4)R. Anderson et al.:Electrical Characteristics of Planar Spiral

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6)B. Kim et al.:A New Test Method for Embedded Passives in High

Density Package Substrates, Proceedings of 2001 Electronic

Components and Technology Conference, 1362-1366(2001)

7)S. O’ Reilly et al.:Routes to Embedded Inductors in MCM-L

Technology-Design, CAD and Manufacturing Issues, Proceedings

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(1998)

8)P. Chahal et al.:Integration of Thin Film Passive Circuits Using

High/Low Dielectric Constant Material, Proceedings of 1997

Electronic Components and Technology Conference, 739-744

(1997)

9)P.H. Bowles et al.:An Overview of the NCMS/StorageTek

Embedded Decoupling Capacitance Project, Proceedings of 1999

International Symposium on Advanced Packaging Materials, 191-

196(1999)

10)島田靖,他:樹脂基板に設けたインダクタ/キャパシタの高周波

特性, 第11回マイクロエレクトロニクスシンポジウム予稿集,

455-458(2001)

11)A. Okubora et al.:A Novel Integrated Passive Substrate

Fabricated Directly on An Organic Laminate for RF Applications,

Proceedings of 2002 Electronic Components and Technology

Conference, 0-7803-7430-4/02(2002)

〔3〕 結  言

基板に内蔵したキャパシタの高周波特性を測定した。これ

らの受動素子には種々の寄生成分が存在し,それらが自己共

振周波数やQ値の低下を招いている。等価回路モデルの解析

により寄生成分の値を明らかにし,特性低下の原因を究明す

ることが可能である。今後は,図8に示す微細配線形成技術

を活用したインダクタの特性評価や解析を行うと同時に,材

料や構造を見直して高周波特性の向上を図っていきたい。ま

た,これらの知見を回路設計に有効なデータベースとしてま

とめていく予定である。

図8 スパイラルインダクタのSEM写真 配線パターンを活用するスパイラルインダクタについても,今後検討する。

Fig. 8 SEM photographs of spiral inductorsThe properties of spiral inductors are now under investigation.

穴径:φ0.1mm ランド径:φ0.15mm

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

U.D.C. 621.387.462:549.3-162:[546.655:546.662'226]

25

画像診断用高性能放射線検出素子(GSO単結晶シンチレータ)High Performance Radiation Detectors (GSO Single Crystal Scintillators) for Medical Imaging

住谷圭二*Keiji Sumiya 蔵重和央*

Kazuhisa Kurashige 石橋浩之**Hiroyuki Ishibashi

軍司章弘***Akihiro Gunji 須佐憲三****

Kenzo Susa

画像診断装置であるPET(positron emission tomography=陽電子放出核種断層撮像)

装置は,近年の保険適用開始により市場が拡大するとともに高性能化が進められてい

る。これには蛍光出力が大きく,蛍光減衰時間が短いシンチレータタイプの放射線検

出素子(以下,シンチレータと略す)が求められる。加えて高性能PET装置では数万

個のシンチレータを緻(ち)密に配置する必要から,特性の均質性,安定性および量

産性が重要となる。そこで我々は,Ce添加Gd2SiO5(以下,GSOと略す)単結晶シン

チレータをこの高性能PET装置に適用するため,特性の結晶内均一化,蛍光減衰時間

の最適化,表面研磨技術の確立,そして量産化(単結晶の大型化)を行った。その結

果,GSO単結晶シンチレータを高性能PET装置に適用することができた。

The performance of positron emission tomography (PET) for medical imaging is beingimproved with the expansion of its market, stimulated by the start of health insurancereimbursement in recent years. High-performance PET equipment demands highperformance radiation detectors of scintillator type with a large fluorescent light outputand a short decay time. The equipment is loaded with tens of thousands of elaboratelyarranged detector pieces, which must admit mass production and have uniform andstable performance. In order to apply Ce-doped Gd2SiO5 (GSO) single-crystalscintillators to the equipment, we have improved the uniformity in GSO crystals,optimized the fluorescent decay time, established surface polishing technology, andrealized the mass production (or enlargement) of the crystals. It was proved that thenewly developed GSO single-crystal scintillators meet the requirements of the high-performance PET equipment.

*当社 総合研究所 **当社 複合材料事業部門 理学博士 ***当社 生産技術推進室 ****当社 総合研究所 Ph.D

〔1〕 緒  言

PETに代表される核医学画像診断法は,放射性アイソトー

プで標識された放射性薬剤を体内に投与し,その薬剤の動態

および分布を画像化することによって生体内の機能的情報を

得ることを特長とする。これは従来のX線C T(X - r a y

transmission computed tomography)やMRI(magnetic

resonance imaging)などの形態的な画像診断法とは異なり,

機能診断法として重要な役割を担っている1)。核医学画像診

断装置では,体内に投与した薬剤から放出されるγ線をひと

つひとつ正確に計測する必要がある。したがってそこに用い

られるシンチレータの性能が画質を大きく左右する2)。最近,

FDG(フルオロデオキシグルコース)薬剤を使ったPET装置

による癌診断が保険適用(米国:1998年,日本:2002年)と

なったことから,PET装置の普及が拡大している。そのため,

従来より蛍光出力が大きく,蛍光減衰時間が短いなどの特性

に優れる,高性能なシンチレータを搭載した装置(以下,高

性能PET装置と略す)の需要が高まっている3)。

一方,高木,深沢によって見いだされたCe添加Gd2SiO5

(以下,GSOと略す)単結晶は,シンチレータとしての基本

特性に優れた材料である4)。そこで我々は,このGSO単結晶

を高性能PET装置に適用するための開発を進めた。そして,

単結晶全体の特性均一化とCe濃度による蛍光減衰時間の最適

化を図り,さらに量産に適する表面研磨技術および大型単結

晶育成技術などを確立することで,最新の高性能PET装置に

適用できた3)。以下,これらの開発内容について述べる。

〔2〕 高性能PET装置用シンチレータへの要求項目

高性能PET装置用シンチレータ材料の要求事項を表1に示

す。理想的な高性能PET装置用シンチレータ材料としては,

①γ線入射位置精度を上げるために,陽電子消滅に伴って放

出される511keVのγ線を小型の素子で検出する必要から,構

成元素の原子番号が大きい(密度が高い)こと,②診断時間

表1 高性能PET装置用シンチレータ材料の要求事項 高感度,高解像度のほかに品質の均一性,安定性や量産性,加工性がある。

Table 1 Requirements of scintillation materials for high-performance PETequipment

Uniformity and stability of performance, mass productivity, and goodmachinability are required, besides high sensitivity and resolution.

要求項目 求められる性質

高感度 高密度,短い蛍光減衰時間

高解像度 無色透明,高蛍光出力

高品質 均一性,安定性

生産性 量産化(大型化),加工容易,安価

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)26

った。まず(a)の課題に対しては,放射線入射によって発

生する蛍光(ピーク波長430nm)の吸収や散乱の原因となる

割れ,着色,微細ボイド(気泡)などの無い単結晶育成プロ

セスを確立した。

具体的には①高純度原料の選定と不純物量の管理による着

色の防止,②原料組成および育成条件(温度勾配,回転速度,

引き上げ速度)の最適化で融液の温度変動,組成変動を防止

し,微細ボイドの抑制,③育成雰囲気として窒素に微量な酸

素を混合させることによる割れの防止,などを図った8),9)。

図1は上記対策後のGSO単結晶の上部から下部にかけて採

取したサンプルの蛍光出力を,採取位置との関係で示したも

のである10)。蛍光出力は結晶上部で高く,下部ほど低くなる

傾向がわずかに見られるが,上下の差は約15%であった。

LSO単結晶では,結晶上下で蛍光出力に30~40%の差が見ら

れることから11),得られたGSO単結晶は蛍光出力の均一性に

優れていることがわかる。また本対策後に得られたGSO単結

晶の特性は,単結晶ごとの特性のばらつきも少なく,(b)の

課題にも効果があった。

3. 2 Ce濃度による蛍光減衰時間の最適化

添加剤であるCeは,GSO単結晶中にCe3+で存在し,発光中

心として機能する12)。Ce3+の発光は励起電子の5d→4f遷移で

起こり,GSO単結晶の蛍光減衰時間が短いことは,この遷移

時間が短いことに由来する 13)。図2にCe濃度0.5mol%と

1.5mol%のGSO単結晶の発光減衰曲線を示す。この図から,

GSO単結晶の蛍光減衰時間はCe濃度0.5mol%,1.5mol%のそ

れぞれの場合に60ns,37nsとなり,Ce濃度によって大きく変

化し,Ce濃度が高いほど短く(減衰が速く)て優れているこ

とがわかる14)。一方蛍光出力については,Ce濃度が高いほど

単結晶がわずかに着色し出力が下がる傾向がある15)。以上の

ようにGSO単結晶の特性はCe濃度の影響を強く受けることか

ら,Ce3+がGSO単結晶内で均一かつ安定に存在することが重

要である。そこで筆者らは,単結晶育成条件などを検討する

ことでその最適化を図った。特に育成雰囲気については,前

述の酸素混合により,Ce3+がCe4+に酸化する問題が生じたが,

酸素濃度を最適化することでCe3+の安定,均一化を図った。

図3は最適条件で育成したGSO単結晶中のCeの濃度分布を

示したものである。図の中で横軸は固化率で,シード(種結

晶)からの結晶位置を意味する15)。出発原料のCe濃度が0.5~

0.00001

0.1

0.01

0.001

0.0001

-1.00E-06 -5.00E-07 0.00E+00 5.00E-07 1.00E-06

Output(V)�

Time(s)�

Ce:0.5mol%

Ce:1.5mol%

Ce:0.5mol% τ=60ns

Ce:1.5mol% τ=37ns

図2 Ce濃度0.5mol%と1.5mol%のGSOの発光減衰曲線 GSOの蛍光減衰時間はCe濃度によって変化し,Ce濃度が高いほど蛍光減衰時間が短く,

優れる。

Fig. 2 Decay curves for GSOs with Ce concentrations of 0.5 mol% and 1.5mol%The decay time of GSO decreases with increasing Ce concentration.

表2 PET装置用単結晶シンチレータの特性比較 GSOは総合的特性に優れたシンチレータである。

Table 2 Characteristics of single-crystal scintillators for PET equipment

GSO is the best in overall scintillation properties.

シンチレータ GSO LSO BGO NaI

化学式 Gd2SiO5:Ce Lu2SiO5:Ce Bi4Ge3O12 NaI:Tl

密度(×103 kg/m3)

6.7 7.4 7.1 3.7

蛍光出力(相対値)

20-30 50-75 10-15 100

蛍光減衰時間 30-60 ns 41 ns 300 ns 230 ns

エネルギー分解能(511keV)

9% 12% 14% 7%

200

450

400

300

0 50 100 150 180

Light output(ch)�

単結晶端部からの位置(mm)�

CeO2:0.5mol%

図1 GSO単結晶のサンプリング位置と蛍光出力 GSO単結晶の採取位置による蛍光出力差は約15%であり,ほかの単結晶に比べて蛍光出力均一性

に優れる。

Fig. 1 Distribution of light output in a GSO single crystalThe light output varies 15% in a GSO single crystal. It is uniform comparedwith other single crystal scintillators.

を短縮するため蛍光減衰時間が短く,蛍光出力が大きく,無

色透明であること,③511keVのγ線だけを正確に検出するた

めエネルギー分解能が優れる(小さい)こと,④被検体の周

囲に数万個のシンチレータ素子を緻密に配置する必要から,

特性が均一および安定であること,などが挙げられる5)~7)。

これらの要求,特に無色透明,高密度,特性均一性を同時に

満たす必要から,シンチレータ材料としては無機単結晶が使

われている8)。表2に現在実用化あるいは注目されている

PET装置用単結晶シンチレータの特性比較を示す2),7)。表2

からわかるように,それぞれのシンチレータには一長一短が

ある。その中でも,GSO単結晶は基本特性のバランスに優れ

たシンチレータ材料であることがわかる。

〔3〕 高性能PET装置用GSO単結晶の開発

3. 1 蛍光出力均一性の向上

最近の高性能PET装置では,断面数mm角×長さ数十mmの

シンチレータが数万個使用され,シンチレータの総体積は10

リットル近くになる。高性能PET装置では,これらのシンチ

レータすべてに均一な特性が要求される。そこで,(a)GSO

単結晶内の特性均一性の向上,(b)単結晶ごとの特性ばらつ

きの防止,(c)加工プロセスによる特性変化の防止などを行

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 27

が課題であった。

そこで我々は加工応力の生じにくい酸を使った化学エッチ

ング方法を検討した。その結果,150~300℃の濃リン酸液に

GSO単結晶を数分浸けて表面をエッチングすることで,光沢

のあるきれいな面が得られることがわかった17)。図4に化学

エッチング前後のGSO単結晶の外観を示すが,無水リン酸で

表面をエッチングすることで,きれいな鏡面のGSOが得られ

る。表3に化学エッチング前後のGSO単結晶の特性比較を示

す。この結果から,化学エッチングで鏡面化したGSO単結晶

は機械研磨で鏡面化したものと同レベルの蛍光出力が得られ

た。

3. 4 大型単結晶育成技術の開発

高性能PET装置 1台につき数万個のシンチレータを必要と

するため,シンチレータ材料を安定に供給するには,より大

型の単結晶育成技術の確立が必須となる。GSO単結晶はNaI

単結晶(融点651℃)やBGO単結晶(同1,050℃)に比べて,

融点が1,950℃と高く単結晶育成が比較的難しい。しかもGSO

単結晶は空間群P21/Cの単斜晶系に属する単結晶で,(100)

面にへき開性を有し,さらに熱膨張係数の異方性が強く,単

結晶を育成する際の結晶割れが問題となる7)。

筆者らはまず熱応力シミュレーションと炉内温度分布シミ

ュレーションを行うことで18),結晶割れの発生は①結晶育成

過程で生じる残留応力,②冷却過程での炉内温度勾配により

発生する熱応力,が主因であることを明かにした。そこで,

炉内温度勾配の低減で熱応力の低減,また育成時の回転数制

御による固液界面形状平坦化で残留応力の低減を図った7),15)。

さらに温度分布シミュレーションにより,耐火物構造と炉

内温度勾配の最適化を図り,大型化単結晶の育成を行った。

この結果,直径約100mm,長さ250mmの大型GSO単結晶の育

成に成功した。図5にそのGSO単結晶を示す。

0.0

1.8x 10-2

1.6

1.4

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

x in Ce X Gd 2-

XSiO5

g(fraction melt and solidified)�

Ce:1.5mol%

Ce:0.95mol%

Ce:0.5mol%

fitted curve(k=0.59)�

fitted curve(k=0.70)�

fitted curve(k=0.73)�

図3 単結晶位置(固化率)とCe濃度の関係 Ceの濃度が高くなるほど蛍光減衰時間は短くなるが(図2),単結晶内のCe濃度の変化は大きくなる。

Fig. 3 Ce concentration changes within GSO crystalsThe variation of Ce concentration in GSOs increases with the amount of Ceadded.

左:エッチング前,中:85%リン酸水エッチング後,右:100%無水リン酸エッチング後

図4 化学エッチング前後のGSOの外観 150~300℃の無水リン酸液でエッチングすることでGSOシンチレータ表面は短時間で鏡面化できる。

Fig. 4 Photos of typical etched samples of GSO before and after chemicaletching to show their transparency Left:As-sliced (before etching) Middle:Etched in 85% orthophosphoric acid in water Right : Etched in anhydrousorthophosphoric acidThe surface of GSO scintillators is polished in a short time by etching withanhydrous orthophosphoric acid at 150-300℃.

図5 φ100mmGSO単結晶(φ100mm×L250mm) 割れのない大型

GSO単結晶育成に成功した。

Fig. 5 GSO single crystal of 100mm diameter and 250mm longA large crack-free single crystal of GSO has been successfully grown.

表3 化学エッチング前後のGSOの特性比較 化学エッチングで鏡面化したものは機械研磨で鏡面化したものとほぼ同レベルの蛍光出力とエネルギ

ー分解能が得られる。

Table 3 Scintillation performance of etched GSOs

Light output and energy resolution of a chemically polished sample are asgood as those of a mechanically polished sample.

試料 蛍光出力(相対値) エネルギー分解能(%)

化学エッチング前(機械切断品) 146 11.9

化学エッチング後 245 8.9

機械研磨後 262 9.0

1.5mol%の範囲で,GSO単結晶中のCe元素の偏析係数 kは約

0.59~0.73と 1に近い値となった。これはCe元素のイオン半

径が,GSO中の置換元素であるGdのイオン半径に近いことか

ら説明できる。このことは図1で示した単結晶全体にわたっ

て均一な特性を示す最大の要因と考えられる。

3. 3 量産性に優れた表面研磨技術の開発

PET装置用シンチレータの高解像化を図るため,シンチレ

ータ表面を鏡面化し,十分な発光効率を得ることが必要であ

る。一般にシンチレータを鏡面化する方法としては機械研磨

法が用いられている16)。しかしこの研磨法は,粗研磨工程,

鏡面研磨工程などの複数の工程からなり複雑で,高性能PET

装置 1台につき数万個必要とするシンチレータの研磨には適

切でないうえ,研磨する結晶方位の違いで研磨面の表面粗さ

が異なるという課題もあった。特にGSO単結晶はへき開性を

有することから機械加工中に割れやすい問題があり,鏡面化

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)28

高性能PET装置への適用ができた。

一方,PET装置もそれに用いられる放射性医薬の新たな開

発とともに進展している。今後,さらに短時間診断化,高分

解能化,低価格化が望まれている次世代のPET装置を視野に

入れ,より優れたシンチレータ材料の開発を進めていきた

い。

終わりに,GSO単結晶シンチレータの開発に関しご指導,

ご討論いただいた,放射線医学総合研究所・村山秀雄室長,

湘南工科大学・石井満名誉教授,高エネルギー物理学研究機

構・小林正明教授,元立教大学・窪田信三教授に感謝いたし

ます。また,本論文に関連写真を提供してくださったDr. Joel

Karp(University of Pennsylvania PET Center)およびPhilips

Medical Systems, a division of Koninklijke Philips Electronics

N.V. に感謝いたします。

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2)石橋,蔵重,倉田,須佐:放射線,24,1,35(1998)

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7)小林:放射線,20,2,41(1994)

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10)石井,石橋,秋山:湘南工科大学紀要,25,1,119(1991)

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20)S. Yamamoto and H. Ishibashi:Trans. Nucl. Sci., 45,3,1078

(1998)

〔4〕 GSO単結晶の高性能PET装置への適用

以上の検討により,シンチレータとしての基本特性に優れ

るGSO単結晶について,新たに単結晶全体の特性均一性の向

上,Ce濃度による蛍光減衰時間の最適化,量産に適する表面

研磨技術の確立,さらに量産化に向けた大型単結晶育成技術

の確立をはたすことができた。その結果として,GSO単結晶

を高性能PET装置に適応させることが可能になった。

図6はGSO単結晶を搭載したPET装置(GSO-PET)の診断

画像の一例を示したものである。GSO-PETは,GSO単結晶シ

ンチレータがエネルギー分解能に優れるため,吸収補正の精

度が高い。そのため,体内の深い部分の癌(写真の矢印部分)

も発見することができる。このGSO単結晶は高性能医療PET

用シンチレータとして米国大手医療機器メーカーに採用され

た3),19)。図7には採用されたGSO単結晶シンチレータとそれ

を搭載したPET装置を示す。この装置は高性能PET装置とし

て米国内に普及し,2003年には日本国内に導入される。

〔5〕 次世代高分解能PET装置に向けた検討

PET装置の高分解能化に伴い,検出器ユニット内のシンチ

レータは細長い形状となるため,視野を見込む同時係数が空

間分解能を劣化させるという課題が生じる1)。この欠点を克

服するため深さ位置(DOI,depth of interaction)の検出を可

能とした次世代高分解能PET用シンチレータが提案されてい

る。それらの中で,最も代表的なものは,蛍光減衰時間の異

なるシンチレータを用いて深さ位置を同定するものである20)。

前述したように,GSO単結晶は添加するCeの濃度で蛍光減

衰時間を変化させることが可能である。我々は現在,次世代

高分解能PET装置向けのシンチレータとしてGSO単結晶の適

用を図るため,新たな視点でCe濃度の最適化を進めている。

〔6〕 結  言

GSO単結晶を核医学診断用高性能放射線検出用素子に適応

させるため,均一性の向上,Ce濃度の最適化,表面処理方法

の開発などを進めた。その結果,GSO単結晶シンチレータの

図6 GSO-PETの診断画像 提供:Dr.Joel Karp(University ofPennsylvania PET Center) GSO-PETは,GSOシンチレータがエネルギ

ー分解能に優れるため,吸収補正の精度が高い。このため体内の深い部分の癌

(矢印)も発見することができる。

Fig. 6 Image quality in GSO-PET Left: Without attenuation correction,Right: Attenuation correctedGSO-PET is excellent in energy resolution, resulting in high precision of

attenuation correction. Therefore, the cancer deep inside the body can bediscovered. (as indicated with arrows)

左:吸収補正なし          右:吸収補正あり

図7 GSO-PET装置と搭載されたGSOシンチレータ GSOは高性能PET装置であるPhilips社製Allegroに採用された。

提供:Philips Medical Systems, a division of Koninklijke PhilipsElectronics N.V.

Fig. 7 Photos of GSO-PET equipment and GSO scintillators loaded in thisequipmentGSO scintillators have been loaded in high performance PET equipment suchas Allegro made by Philips Medical Sysytems.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

U.D.C. 543.545.07:577.133.5

29

マイクロチップ電気泳動解析用“i-チップ”Development of “i-chip” for Microchip Electrophoresis System

渡辺博夫*Hiroo Watanabe 井筒 浩*

Hiroshi Izutsu 渡辺健二**Kenji Watanabe

これまで異質の領域であった半導体・マイクロマシンとバイオ関連分野が今マイク

ロチップで融合しようとしている。半導体産業にとっては新しいアプリケーションの

開拓であり,バイオや医療分野にとっては,煩雑な分析・解析をマイクロチップ化す

ることでコスト低減・迅速化を図りテーラーメード医療実現に向けた動きが今後加速

されると考えられる。このような背景のもと当社基盤技術であるプラスチック精密成

形加工技術と診断薬開発技術を応用してマイクロチップ電気泳(えい)動解析用“i-

チップ”を開発した。①検体試料の微量化,②測定操作の簡単・迅速化,③解析結果

のデジタル処理化を可能とし,DNAやRNAなど遺伝子断片の鎖長解析などにより遺伝

子診断への適用が可能である。

The semiconductor, micro-machine which were in the territory of the different qualityso far, and biotechnology begin to unite by the microchip now. It is the reclamation ofthe new application for the semiconductor industry, and it can be planned forbiotechnology and the medical field to realize cost reduction and speed up oncomplicated analysis by the microchip. It can think that the movement turned to tailor-made medical realization by this will be accelerated from now on. Under such abackground, we have developed an “ i-Chip” for the microchip electrophoretic analyticalsystem by combination of two our company base technologies, high-precision plasticprocessing and developing diagnostic products. “i-Chip” can be applied to the genediagnosis by the chain length analysis of DNA and RNA with the following features: ①minimized sample volume, ②quick measurement with simple procedures, ③digitalmanagement of the results of analysis.

*当社 医薬品事業部門 遺伝子診断事業推進部 **当社 五所宮事業所自動車部品事業部門 自動車部品開発グループ

〔1〕 緒  言

近年,micro-Total Analysis System(µ-TAS)やLab-on-a-

chipと呼ばれる研究領域が関心を集めている。これは,半導

体作成技術を発展させたMicro Electro Mechanical System

(MEMS)技術を用いてガラスなどの基板上にミクロンオーダ

ーの微小な流路を形成し,その流路内で流体を取り扱うため

にシステム化したデバイス,すなわちマイクロチップを用い

るものである。マイクロチップはその内部の微小空間の物理

的・化学的特性が従来の試験管などの化学反応容器中とは異

なり,極微量で桁(けた)違いに高速かつ効率良く化学反応

や分析を行うことが可能である1)。最初に報告されたマイク

ロチップはガラス基板上にエッチング法で微細溝を加工し,

もう一枚のガラス板を張り合わせたもの2)で実用的なもので

はなかった。

その後,1996年頃から米国のベンチャービジネスからガラ

ス基板及びプラスチック基板製のマイクロチップの実用化が

提案され開発競争が激化した。ガラス製マイクロチップを用

いた解析システムは1999年秋の米国での学会で米国アジレン

トテクノロジーズ社(装置,マイクロチップはキャリパー社)

が展示したものが最初である。一方,当社は米国ベンチャー

(アクララ社)から基盤技術を導入して実用化研究を進めた

結果,2000年10月に世界で初めてプラスチック製マイクロチ

ップを用いた電気泳動解析システム(i-チップ/コスモアイ)

を上市した。これはマイクロチップ上に 3本の独立した微小

流路を形成したもので 1回の電気泳動で 1検体試料の解析処

理を実施できるものである。さらに,この 3レーンマイクロ

チップ電気泳動解析システムを改良し,特に検体試料処理能

力を向上させた12レーンマイクロチップを開発し,2001年11

月に12レーンマイクロチップ電気泳動解析システムとして新

たに市場投入した。本報告では,12レーンマイクロチップお

よび電気泳動用試薬の開発,そして製品特性について報告す

る。

〔2〕 マイクロチップ電気泳動解析システム開発

2. 1 マイクロチップの製造

i-チップの製造工程を図1に示す。半導体製造工程で使わ

れるフォトファブリケーション技術を用いてシリコン基板上

に微細溝形状を形成しシリコンマスタを作成した。金属ニッ

ケル電鋳を経て射出成形用金型を作成した。チップ成形用樹

脂材料として,透明性(透過率≧90%),蛍光特性(低蛍光ノ

イズ)および親水性などに優れるPMMA(Poly Methyl

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)30

Methacrylate)を選択した。成形基材と同一材質のフィルム

で泳動用溝をカバーしてマイクロチップを作成した。このフ

ィルムカバー法としては接着剤を用いて接着する方法,超音

波溶着法,平板プレスまたは熱ロールラミネートによる圧着

法などが知られているが,成形品上に形成された溝形状確保,

チップ寸法形状確保および貼付強度などを検討した結果,熱

ロールラミネート法によるフィルムカバー法を採用した3)(図

2に12レーンマイクロチップを示す)。

2. 2 マイクロチップとその微細形状

シリコン基板上に微細溝形状を形成する方法としては異方

性エッチング法やドライエッチング法などがあるが,溝形状

の寸法精度や表面平滑性に優れるドライエッチング法を採用

した。ドライエッチング法で作成したシリコンマスタから電

鋳金型を作成し,射出成形法によりマイクロチップ基板を作

成した。

図3に成形チップ基板の微細溝交差部の走査型電子顕微鏡

写真を示す。ドライエッチングシリコンマスタ由来金型で射

出成形した成形品は溝形状および表面平滑性に優れているこ

とがわかる。これを超深度測定用レーザ顕微鏡で微細溝寸法

および表面平滑性を測定した。同一チップ内の微細溝部分 7

個所とチップロット間における同一微細溝部分の測定結果を

表1に示す。同一チップ内の微細溝間におけるバラつきはほ

とんどなく,12レーンを同時に電気泳動する上で実用上問題

となることはない。一方,チップロット間では多少のバラつ

きが認められたが,後述するように電気泳動用内部標準物質

の易動度にチップ間でバラつきが生ずるようなことはなく,

実用上問題となるものではなかった。

2. 3 試薬キットの開発

このマイクロチップを用いてDNAやRNAなどの遺伝子核酸

の鎖長解析を行うための試薬を開発した。これらの分析は従

来,アガロースまたはアクリルアミドなどの分離用固形ゲル

中で電気泳動分離するゲル電気泳動法で行われていたが,分

離能,測定感度および測定時間などに難点があり,測定操作

が煩雑なものであった。マイクロチップが持つその内部微小

空間の物理的・化学的特性を利用すると極微量で桁違いに高

図2 12レーンマイクロチップ 12サンプルを同時に測定することができる(外形寸法:縦92mm,横66mm,厚さ1.5mm,溝形状:幅100µm,深さ

30µm。溝を可視化するため黒線で描画してある。)

Fig. 2 Microchip with 12 lanesTwelve specimens can be tested simultaneously. The outer size of microchipis: 92mm (in length) ×66mm (in width) ×1.5mm (in thickness). The lane form ofmicrochip is: 100µm (in width) x 30µm (in depth). Black lines are drawn⦆tovisualize each lane.

図3 マイクロチップ基板の微細溝交差部 チップ基板表面と同じく溝部分も平滑性に優れている。

Fig. 3 Cross Section of Minute Lanes on Microchip SubstrateThe surface of a chip substrate and lanes are highly flat and smooth.

エッチング�

ニッケル電鋳�

シリコンマスタ�

金型�

成形チップ基板�

チップ�

射出成形�

ラミネート�

マスク�

シリコン�

図1 マイクロチップの製造プロセス ニッケル電鋳金型を用いて射出成形し,フィルムラミネートしてチップを製造する。

Fig. 1 Microchip Manufacturing ProcessChips are manufactured by injection molding using nickel electroformed

mold, and film-laminated.

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1) 31

速かつ効率のよい分析が可能となるが,そのためにはマイク

ロチップ電気泳動のための最適な試薬構成の検討が必要であ

る。液状分離剤(ゲル),検出のための蛍光標識色素および

電気泳動用緩衝液からなる構成試薬の中でも最も試薬性能を

左右するのは分離剤である。この分離剤に求められる特性は

マイクロチップの泳動用細溝中への充填(てん)性,電気泳

動解像度そして分析の再現性である。これらを評価指標とし

て検討した結果,水溶性セルロース誘導体を分離剤として選

択した。

表2にDNA鎖長解析用キットを用いて測定した結果を示

す。内部標準物質(50,800bpDNA)の易動度のばらつきは

CV2%以下で,この標準物質の易動度をもとに計算したDNA

断片試料の鎖長計算値は真の値に対し,誤差5%以下でそのば

らつきもCV1%以下と良好であった。一方,標準物質の蛍光

ピークの面積強度をもとにDNA断片試料の濃度を求めると

CV6%以上となり鎖長解析に比べて精度が低かった。この原

因としては試料導入方法に定量性が欠けているためと考えら

れる。

2. 4 解析装置

12レーンマイクロチップ電気泳動解析システムは専用電気

泳動解析装置とゲル・試料充填機から構成されている(いず

れの装置も日立電子エンジニアリング株式会社が開発製造元

で,前年に当社と共同開発した 3レーンマイクロチップ電気

泳動解析システムをもとに改良を加えた)。

〔3〕 製品特性

今回開発したマイクロチップ電気泳動解析システム(i-チ

ップ/日立コスモアイ)の基本製品特性を表3に示す。従来法

のアガロースゲル電気泳動法に比べてサンプル処理能力,測

定感度,分離能いずれも格段に優れており,分析データのデ

ジタル処理化が可能であるため,データ管理が極めて容易に

なった。また,i-チップは12レーンを同時に電気泳動するこ

とができるのでA社の同種製品に比べてもサンプル処理能力

に優れており,電気泳動の条件設定も可変であることから使

用者にとってより使い勝手の良いシステムといえる。

〔4〕 解析応用例

i-チップを用いて解析した応用例について述べる。図4は

大腸菌に感染するバクテリオファージφX174のDNAを制限酵

素HaeⅢにより切断したDNA断片を電気泳動解析した結果を

エレクトロフェログラムおよび擬似泳動パターンで示してい

る。従来法のアガロースゲル電気泳動法では分離できなかっ

た 2本のDNA断片をi-チップでは分離することが可能である。

この分析手法を用いればPCR-RFLP(制限酵素切断片長多型

解析法)による病原細菌や有用微生物の分類に,感染症の疫

表1 成形チップの寸法精度および表面平滑性 チップ間(3製造ロット各3枚の同一溝位置で計測),チップ内(同一チップ内7箇所の溝で計測)

Table 1 Dimensional Accuracy and Surface Smoothness of MoldedMicrochips

Measurements were performed between chips (on the same lane of 3 chipsfrom each 3 manufactured lots) and within chip (on 7 lanes of the same 1 chip).

溝寸法(µm) 表面平滑性(µm)

上部 底部 深さ 溝底部チップ基材平面

チップ間平均値 103.6 71.49 30.44 0.14 0.04

標準偏差 2.67 0.50 1.99 0.02 -

チップ内平均値 101.74 71.57 29.19 0.12 0.04

標準偏差 0.81 0.21 1.04 0.01 -

表2 DNA鎖長解析用キットの基本性能 チップ12枚(電気泳動溝144本)を用いて測定した。試料DNAの真の鎖長およびカタログ濃度は試料1(267bp,3.4µg/l),2(489bp,6.1µg/l),3(658bp,8.3µg/l)である。

Table 2 Basic Performance of Kit for DNA Chain Length Analysis

Twelve chips (144 lanes) were used for evaluation. True chain length and catalogue concentration for DNA samples are: Sample 1 (267 bp, 3.4µg/l), Sample 2(489 bp, 6.1µg/l), Sample 3(658 bp, 8.3µg/l).

内部標準DNA易動度(s) 試料DNA鎖長計算値(bp) 試料DNA濃度計算(ng/µl)

50bp 800bp 試料1 試料2 試料3 試料1 試料2 試料3

測定平均値 81.9 161.3 266 493 633 3.1 3.7 6.1

変動係数(CV%) 1.3 2.0 0.73 0.36 0.62 7.8 6.4 6.1

表3 性能比較 システムの基本仕様および基本性能について従来法および他社品と比較した。

Table 3 Comparison of Specifications and Performance

Specifications and basic performance of ”i-Chip” system were compared with those of other company's products and the conventional method.

項   目マイクロチップ電気泳動解析システム 従来法

i-チップ(12レーン)/コスモアイSV1210 A社バイオアナライザ アガロースゲル電気泳動法

システム光学検出系 レーザ蛍光検出(励起波長:635nm) レーザ蛍光検出(励起波長:635nm) 電気泳動槽,高圧電源,泳動用電気泳動 泳動条件可変(泳動電圧・時間・温度) 条件一定 平板ゲルからなり,ゲル染色,撮

基本仕様チップ材質 プラスチック(使い捨て) ガラス(使い捨て) 影,データ解析には別装置が必要

必要サンプル量 1µl 1µl 10µl

処理能力 120(サンプル/h) 24(サンプル/h) 10(サンプル/h)

基本性能 測定感度 0.1ng/µl(DNA) 0.1ng/µl(DNA) 1ng/µl(DNA)

分離能 5bp(DNA) 5bp(DNA) 20bp(DNA)

分析項目 DNA・RNA(タンパク質開発中) DNA・RNA・タンパク質 DNA・RNA・タンパク質・その他

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)32

で鎖長の離れた数種類の組み換え遺伝子を組み合わせること

でマルティプレックスPCR解析も可能となる。

〔5〕 結  言

DNAやRNAなど遺伝子核酸の鎖長を測定して遺伝子解析,

ひいては遺伝子診断を行うためのマイクロチップ電気泳動解

析システムを開発した。極微量の検体試料を用いて短時間に

再現性良く測定解析結果を出すことができ,また従来法には

ないデータのデジタル処理化も可能であることから今後,省

力化やIT化が求められる臨床検査分野などでの需要が見込ま

れる。現在,遺伝子核酸に加えてタンパク質などを解析する

ための試薬キットの開発も進めており,この臨床検査分野で

のプラットフォーム化を促進させたい。

今回開発したマイクロチップ電気泳動解析システムはµ-

TASの中でもマイクロ流体制御技術にキャピラリー電気泳動

法を用いている。そのため検体試料の定量的導入が困難で定

量性にやや欠点がある。一方,ゲル電気泳動分離を必要とし

ないが高い定量性を求められる免疫反応や生化学反応などで

はマイクロポンプやマイクロバルブなどのマイクロ流体制御

技術をチップに直接または間接的に取り入れることが可能で

ある。今後,医療の現場では簡単,迅速で微量採血など患者

負担の少ないPOC(ポイント・オブ・ケア)化がより進み,

マイクロチップを用いた臨床診断システムが標準化される日

もそう遠くないと予想されるので,その開発を促進したい。

参考文献1)北森武彦:計測・技術におけるマイクロ化学プロセス技術,ワー

クショップ革新的部材産業創出プログラム講演要旨集(主催;経

済産業省,NEDO),171-177(2002)

2)D.J.Harrison他:Capillary Electrophoresis and Sample Injection

Systems Integrated on a Planar Glass Chip, Analytical Chemistry,

Vol.64, 1926-32(1992)

3)渡辺健二ほか:電気泳動用チップとその製造方法,該電気泳動用

チップを用いた電気泳動装置および荷電性物質の分離方法,特開

2000-310613~5

学調査などに,またPCR-VNTR/STR(繰り返し配列多型解析

法)による親子判定などDNA鑑定や食品の品種検定などにも

利用することができる。

次に遺伝子組み換え食品における組み換え遺伝子検出への

応用例を示す。遺伝子組み換え大豆およびトウモロコシが含

まれている加工食品から所定の方法でDNAを抽出し,組み換

え遺伝子に特異的なPCR増幅用プライマを用いて増幅し,i-

チップの両端の泳動溝1および12に100bpのDNAラダーマーカ

を,泳動溝 2から11に増幅産物を泳動した。図5に解析結果

として得られる擬似泳動パターンを示す。食品加工時に原料

作物中のDNAが細断化されてしまうために遺伝子増幅は100

~150bp程度の短い鎖長領域で実施される。従来法のアガロ

ースゲル電気泳動法ではこの鎖長領域の正確な分析が困難で

あるが,i-チップでは5bpの鎖長差を十分に分離解析できるの

レーンNO.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

800700

600

500

400

300

200

10050

bpレーンNO.�

1�

2�

3�

4�

5�

6�

7�

8�

9�

10�

11�

12

遺伝子名�

-�

P35S1�

PRS01�

Le1n02�

Bt113�

SSIIb�

NOSIIb�

P35S�

T251�

E1762�

M8102�

-�

解析サイズ(bp)�

-�

95�

115�

114�

125�

146�

151�

97�

146�

91�

106�

-�

品種�

100bp・Ladder�

大豆・トウモロコシ組換遺伝子�

大豆組換遺伝子�

大豆内存性遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

トウモロコシ内存性遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

トウモロコシ組換遺伝子�

100bp・Ladder

図5 遺伝子組み換え食品検査への応用 組み換え遺伝子のPCR増幅産物を~5bpの解像度で分離できる。

Fig. 5 Application for Inspection of Genetically-modified FoodsPCR amplified products from modified genes can be separated with resolution of ~5 bp (represented as gel-like image).

0

10,000

20,000

30,000

100 150

蛍光強度�

泳動時間(s)�

Size�[bp]�

5

1072

572

72

bp

1,3531,078872

603

310 281271

234194

11872

1,353bp

72bp

271bp

281bp

2%アガロースゲル�(EtBrで染色)�

図4 マイクロチップ電気泳動装置による解析 アガロースゲル電気泳動では分離できないダブレット(271/281bp)が分離できる。

Fig. 4 Electropherogram Obtained by i-Chip Assay“i-Chip” system can separate peaks (271/281bp DNAs) in the

electropherogram that cannot be separated with a conventional agarose gelelectrophoresis.

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33日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

製品紹介

項  目 単位AS-11G

(ハロゲンフリー)

引張り破断伸び % 7

弾性率 GPa 2.5

ガラス転移温度TMA法 ℃ 165

DVE法 ℃ 190

熱膨張係数(25~150℃) ppm/℃ 45

粗化後表面粗さ(Rz) µm 2

めっき引きはがし強さ kN/m 0.8

はんだ耐熱性(260℃フロート) s >120

絶縁信頼性(30µm厚,層間)h >300

(130℃85%RH-DC6V)

誘電率 / 誘電正接(1GHz) - 3.1/0.014

難燃性(UL 94)- V-0相当

(0.2mmMCL-E-679FG+両面150µm)

表1 AS-11Gの特性

微細配線対応アディティブ材料 AS-11G

近年ますます微細配線化が進む配

線板においては,セミアディティブ

法を適用できる材料の要求が増えて

きています。本工法に対応する材料

には,微細配線化を可能にするため,

化学粗化した樹脂面の表面粗さを小

さくすることが求められています

が,当社では緻(ち)密な化学粗化

形状が形成可能なセミアディティブ

対応絶縁フィルムAS-11Gを開発し

ました。

従来,化学粗化した樹脂面の表面

粗さを小さくすると,樹脂とめっき

銅間の密着性が著しく低下してしま

うという問題点がありましたが,

AS-11Gではサブミクロンクラスの

緻密な粗化形状を形成でき,表面粗

さ(Rz)2µm以下でも十分なめっき

密着性が得られます。AS-11Gは,

このほか次のような特長を有してい

ます。

(1)熱衝撃によるクラック発生を防

ぐため,高伸び率と低熱膨張係数を

実現しました。

(2)ハロゲン,アンチモン化合物を

使用しないで難燃性UL94 V-0相当を

満足します。

(電子基材事業部門)

図1 化学粗化後のAS-11G表面形状

項  目 試験方法 処理条件 単位低臭気対応MCL-437G(N)

FR-1

加熱発生ガス量フェノール

HPLC法 80℃30min µg/cm23.5 5.0

クレゾール 0.2 0.5

官能試験 * A - 臭気が弱い 臭気が強い

フェノール抽出量 ** A ppm 8.8 12.1

表1 臭気試験 (板厚1.6mm片面銅張積層板)

項  目 試験方法 処理条件 単位低臭気対応MCL-437G(N)

FR-1

耐燃性 UL-94A

-V-0 V-0

E-24/125 V-0 V-0

はんだ耐熱性 JIS C 6481 A s 32(26~37) 35(30~39)

絶縁抵抗A

Ω1.9×1012 2.2×1012

D-2/100 1.3×109 9.8×108

打ち抜き加工性注) 60℃試験金型 A -

○~△ ○~△

はく離,白化 80℃ ○ ○

ハロゲン化合物臭素

蛍光X線分析 A %0.05以下 3~10

塩素 0.05以下 0.05以下

表2 特性比較表 (板厚1.6mm片面銅張積層板)

低臭気対応FR-1材 MCL-437G(N)

地球環境保護の関心の高まりに伴

い,電子機器に使用されるプリント

配線板用銅張積層板についても,難

燃剤として臭素化合物を使用しない

ハロゲンフリー材料が使用されてき

ています。さらに,紙フェノール樹

脂銅張積層板については,フェノー

ル樹脂特有の臭気(フェノール臭,

クレゾール臭など)があり,臭気の

少ない材料が要望されています。

そこで,当社では,ハロゲンフリ

ー紙フェノール樹脂銅張積層板の合

成条件などの検討を行い,未反応フ

ェノール量の少ない低臭気,ハロゲ

ンフリーFR-1材 MCL-437G(N)を

開発しました。

本製品の特長を以下に示します。

(1)加熱時に発生する,フェノール,

クレゾールのガス量が低減していま

す。

(2)ハロゲン化合物,アンチモン,

赤リンを使用せず,UL94 V-0を満足

します。

(3)一般特性,打ち抜き加工性が従

来のFR-1とほぼ同等です。

(電子基材事業部門)

注)* 官能試験:無作為に選出した判定員が臭いを嗅いで,臭気の強弱判定を行った。** フェノール抽出量:4-アミノアンチピリン法

注)打ち抜き加工性 評価基準:○;良好,○~△;やや白化,△;白化大,△~×;はくり大,×;著しいはく離記載内容は,実験結果に基づくものであり,特性値は,保証値ではありません。

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)34

製品紹介

項  目 単位 H-8050 従来品A 従来品B

感度*1 mJ/cm2 70 95 70

最少現像時間*2 s 40 33 36

めっき汚染性(Ni膜厚比)*3 % 95 90 20

耐めっき性(無電解Ni/Au)*4 - ○ ○*6 ×

はく離性(ソルダレジスト上)*5 s 117 125*6 >300

後硬化の推奨 - なし あり -

表1 H-8050の特性             (測定値の一例)

図1 めっき汚染性の比較(めっき液へのフィルム溶出処理量 0.3m2/L)

無電解ニッケル・金めっき用感光性フィルムフォテックH-8050

携帯電話に代表される情報端末は

携帯性が重要であり,高密度化と耐

衝撃落下性が求められています。そ

のプリント配線板の回路表面は従来

全面ニッケル(Ni)-金(Au)でし

たが,CSPやBGAなどの実装部品と

のはんだ接合強度を向上するため,

銅とする仕様が増えてきています。

これにはソルダマスク後に銅部分を

感光性フィルムでカバーし,選択的

に無電解Ni-Auめっきする工法が採

用されています。

従来の回路形成用感光性フィルム

を適用した場合,一般にめっき浴汚

染性,耐めっき性(銅上のレジスト

破れによるめっきもぐり)およびは

く離時にソルダレジスト上から取れ

にくいなどにより,歩留まりが低い

という問題がありました。

H-8050は各配合材料のめっき汚

染性を吟味した上で,架橋密度を最

適化する専用の組成設計をすること

で低めっき浴汚染性,高耐めっき性

および易はく離性を実現しました。

さらに,通常の感光性フィルムと同

じプロセスでパターンの形成ができ

るとともに,従来のフィルムで推奨

されていた現像後の後露光,後加熱

を省略でき,生産性の向上を図るこ

とができます。

(感光性フィルム事業部門)

注)*1:ST=23/41を示す露光エネルギー量*2:1wt% Na2CO3水溶液,30℃*3:ブランクの無電解Niめっき膜厚に対する比率*4:○;レジスト破れなし,×;レジスト破れあり*5:3wt%NaOH水溶液, 50℃*6:ST=29/41後露光あり

H-8050 従来品

300µm 300µm

汚染による金めっき不析出

項目 開発品 従来品

品名 WP-2782F WP-2782 WP-2780

硬化剤,添加量 CT-7,0.7% CT-7,1% CT-38T2,1%

UL認定耐熱クラス N種(200℃)

モノマの種類 スチレン

フィラ含有量(%) 30 -

外観(ワニス,目視) 茶褐色不透明 淡黄色透明 黄褐色透明

粘度(mPa・s,25℃)(6rpm) 190 - -

(60rpm) 140 50 170

(揺変度,6rpm/60rpmの粘度比) 1.4 - -

比重(25℃) 1.29 1.07 1.07

塗膜の付き方(中央部,mm) 0.045 0.020 0.040

(下部,%) 110 110 110

せん断接着力(N,23℃) 680 600 460

熱伝導率(W/m・℃) 0.34 0.19 0.19

コイルへの含浸性* 良 良 良

硬化条件(℃/h) 175/1.5 175/1.5 175/1.5

表1 WP-2782Fの一般特性の一例

高熱伝導コイル含浸ワニスWP-2782F

トランス,モータで代表される電

気機器は,省資源化,省エネ化とと

もに高機能化の観点から,小型軽量

化・高出力化が進行し,動作時にコ

イルから発生する熱が増加する傾向

にありますので,使用される各材料

には,より耐熱性が高く,かつ,熱

放散性に優れたものが要求されてい

ます。

今回開発したWP-2782Fは,耐熱性

と可とう性に優れた不飽和ポリエス

テル樹脂と熱伝導率の高いフィラを

て,動作時にコイルで発生した熱を

放散しやすいので,電気機器の小型

軽量化,高出力化を可能にしていま

す。

(化学製品事業部門)

複合化したコイル含浸用絶縁ワニス

で,コイルへの浸透性に優れ,高い

熱伝導率を有しています(表1)。

WP-2782Fは,図1に示すように,

ノンフィラタイプのワニスと比較し

注)*コア寸法が83mm×80mm×50mmのトランスを,室温,133hPaの減圧下に5分間浸漬し,引き上げて3分間除滴後,175℃2時間硬化を行った。その後,トランスの二次側コイルを切断し,コイル断面のエナメル線間を実体顕微鏡で観察し,ワニス硬化物の含浸状態を評価した。

0

250

200

150

100

50

0 30 5010 20 40 60

コイル抵抗値からの換算温度(℃)�

通電時間(min)�

WP-2782F処理�

ワニス処理なし�

フィラなし�(WP-2782,� WP-2780処理)�

図1 WP-2782F処理ステータコイルの通電時の温度上昇

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35日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)

製品紹介

項 目 測定条件 単位ポリセット1238AP 従来品

(A) (B)

適用温度 - ℃ 20~30 20~30

外観 目視 - 赤紫色透明

粘度 25℃,BL型粘度計,No.2/60min-1 Pa・s 0.28 0.26

常温ゲル化時間 25℃,55%MEKPO※1=1.0wt% min 4.0 4.0

成形1時間後μg/m2 2100 6100

% 低減効果:66※2

保管30日後μg/m2 1.1 19

% 低減効果:95※2

成形1日後μg/m2 3360 7820

% 低減効果:57※3

保管14日後μg/m2 24 100

% 低減効果:76※3

表1 ポリセット1238APと従来品の一般特性(測定値の一例)

低スチレン化粧板用不飽和ポリエステル樹脂ポリセット1238AP

安価で意匠性に優れることから,

住宅建材や家具などに広く使用され

ている化粧板は,主に硬化剤を混合

した不飽和ポリエステル樹脂を,化

粧紙付き板の端部に載せ,フィルム

を被せた後,ローラで樹脂を延伸さ

せながら化粧紙に含浸させて,その

まま室温で硬化させ,その後,フィ

ルムを除去することにより製造され

ます。

近年,揮発性有機化合物が原因と

される室内の空気汚染によって引き

起こされるアレルギー性健康障害が,

シックハウス症候群として問題視さ

れており,化粧板では,化粧板製造

後のスチレンの残存量と揮散量の双

方の低減が求められています。

そこで,これらの問題に対応して

開発したのがポリセット1238APです。

本製品は,主に不飽和ポリエステ

ル樹脂,低臭気性の重合性モノマお

よびスチレンモノマから成り,製品

に含まれるこれらのモノマの量と硬

化後の残存モノマ量をそれぞれ低減

するために,化学組成と分子量を最

適化した低分子量・高反応性不飽和

ポリエステル樹脂が用いられていま

す。

本製品の主な特長は次のとおりです。

(1)スチレン臭気が少なく,労働環

境の改善を図ることができる。

(2)残存スチレン量とスチレン揮散

量の双方を低減できる。

(3)作業時期,温度に応じて粘度,常

温ゲル化時間を自由に選択できる。

(化学製品事業部門)

※1:55MEKPO;55%メチルエチルケトンパーオキサイド※2:残存スチレン低減効果(%)={(B)-(A)}/(B)×100※3:スチレン揮散量低減効果(%)={(B)-(A)}/(B)×100

残存スチレン量

アセトン溶剤で破砕片を1時間煮沸し,抽出液中のスチレン濃度をガスクロマトグラフ質量分析計で測定

バイアルビンに破砕片を封入し,60℃で30分加熱後,ガスクロマトグラフ質量分析計でガス濃度を測定

スチレン揮散量

樹脂製バックドアモジュール

昨年10月に発表された日産自動車

株式会社殿の新型ステージアに搭載

されたバックドアモジュールは,国

内初の樹脂製です。従来のスチール

製に比べて17%軽量化するととも

に,樹脂の優れた賦形性を生かし,

インテリア部品を一体化して,剛性,

強度を確保しながらスチールでは得

られないデザインを達成しました。

バックドアの主な要求性能は衝突

安全性,耐クリープ性および高い外

観品質であり,これらを達成するた

め,本体はガラス長繊維強化ポリプ

ロピレンのプレス成形品とし,外表

面はスチールと同じ高温焼付塗装が

可能なナイロン/ポリフェニレンエ

ーテル樹脂の射出成形品としまし

た。また,本体と外表面部品との接

合には,線膨張差を吸収できる接着

剤を適用しました。開発に当たって

は各種CAE解析技術を活用し,短期

対応を図りました。

本製品は,ワイパーモータ,ロッ

クなどの電装部品,機構部品をすべ

て組み込んだモジュールとして,顧

客組立ラインに供給しています。

(自動車部品事業部門)

図1 ステージアの外観 図2 樹脂製バックドアモジュールの外観

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日立化成テクニカルレポート No.40(2003-1)36

製品紹介

項    目 仕    様

機      能 給湯,追焚き,ふろ自動注湯,自動保温,自動たし湯,暖房,(衣類乾燥,換気※2)

給     湯 34.9kW

追  焚  き 9.9kW

能 力 暖     房2.7kW

(浴室:0.75坪,浴室内温度:5℃→25℃の昇温に約6分※1)

乾    燥※22.7kW

(浴室:0.75坪,衣類質量2kgの乾燥に約2.5時間※1)

寸 法カベピタ WF-1620ATD 286×570×467

切替ユニット WF-KU-1 336×286×67(幅,奥行,

暖房端末機 WF-DT-1 574×306×96高さmm)

専用浴槽 HK1171D7 1,100×545×720

表1 カベピタ暖房システム基本仕様

カベピタ浴室暖房システムWF-1620ATD

近年,リフォーム市場の拡大によ

り,集合住宅用浴室リフォーム商品

であるカベピタの需要が増加してい

ます。カベピタは,浴室内に設置さ

れているバランス形ふろ釜の給排気

筒設置空間に収納できる器具で,浴

槽のサイズアップを可能にした商品

です。一方,冬季でも快適に入浴す

るため,浴室暖房に対する要望も増

加しています。

そこで,カベピタに浴室暖房機能

を追加した「カベピタ暖房システム」

を開発し,02年 9月に発売しました

(図1,図2)。本開発品は,カベピ

タの追焚き用熱交換器で得られた約

70℃の温水を,浴槽エプロンに内蔵

した温風用熱交換器に循環し,送風

機でエプロン前面下部から温風を吹

き出すシステムです。

1.主な特長

(1)効率のよい暖房

浴室暖房は,壁掛けや天吊りタイ

プが主流ですが,本開発品はエプロ

ン下部から温風を吹き出すため,効

率のよい暖房ができます。また,浴

室洗い場の床面も同時に暖めるの

で,入浴時のヒヤット感がなくなり

ます。

(2)衣類乾燥も可能

換気扇が設置されている浴室で

は,既設の換気扇と暖房システムを

連動制御することにより,衣類乾燥

機能を追加できます。

(3)使い勝手の向上

リモコン操作により,浴槽へのお

湯張りと浴室暖房が全自動でできま

す。

(4)美観性の向上

暖房用の配管や機器をすべて浴槽

周囲のエプロン内部に収納する構造

ですので,露出部分がなく,美観に

優れた浴室リフォームにできます。

2.主な仕様

主な仕様を表1に示します。

(株式会社日立ハウステック)

※1:浴室の仕様により,暖房時間,乾燥時間は変わります。※2:衣類乾燥,換気;既設換気扇と別売のリモコン,リレーボックスが必要です。

図1 カベピタ暖房システム図 

リモコン�

水栓�

循環口�

温風用熱交換器� 送風機�

浅型浴槽�

追焚配管�

暖房端末機�

カベピタ�

浴槽エプロン�

切替ユニット�

図2 システム外観写真 

カベピタ�浴室リモコン�

吹出し口�

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化学製品事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9110 FAX(03)5446-9469

複合材料事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9210 FAX(03)5446-9450

医 薬 品 事 業 部 門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9220 FAX(03)5446-9467

半導体材料事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9250 FAX(03)5446-9465

表示材料事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9260 FAX(03)5446-9465

電子基材事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9300 FAX(03)5446-9463

感光性フィルム事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9272 FAX(03)5446-9112

自動車部品事業部門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9360 FAX(03)5446-9461

配 線 板 事 業 部 門 〒108-0023 東京都港区芝浦4-9-25(芝浦スクエアビル)1(03)5446-9335 FAX(03)5446-9464

編集委員

岡 村 昌 彦

最 上 和 親

堀 部   治

横 澤 舜 哉

川 口 邦 雄

義 之

大 森 英 二

藤 岡   厚

中 村 吉 宏

田 井 誠 司

中 山 忠 光

中 山 憲 一

金 久   修

南   好 隆

小 泉 泰 伸

本 源 一

前 川   麦

吉 田   健

戸 部 豊 男

村 形   哲

日立化成テクニカルレポート 第40号

発    行 2003年1月

発 行 元 日立化成工業株式会社

〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1番1号(新宿三井ビル)

電話 (03)3346-3111(大代表)

事務局 研究開発推進室 電話(03)5381-2401

編集・発行人 景山 晃

印 刷 所 日立インターメディックス株式会社

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目 1番地 5号

電話 (03)5281-5001(ダイヤルイン案内)

©2003 by Hitachi Chemical Co., Ltd. Printed in Japan(禁無断転載)

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