テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月...

40
テクニカルレポート Hitachi Chemical Technical Report ISSN 0288-8793 7 2005. 45

Upload: truongduong

Post on 21-Sep-2018

214 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

テクニカルレポートHitachi Chemical Technical Report

ISSN 0288-8793

72005.号第45

Page 2: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

■半導体用ダイボンディングフィルム HIATTACH DF

ICチップとリードフレームなどの支持基材との接合に用いるダイボンディング材は,半導体パッケージの高性能化,高機能化,および小型・薄型化を実現するためのキーテクノロジーとなっており,その重要性とマーケットは今後もますます拡大していくことが予想される。当社が開発したフィルム状の新規なダイボンディング材は,従来のペースト状ダイボンディング材が抱えていたパッケージの製造歩留まりおよび信頼性を飛躍的に向上させ,HIATTACH(ハイアタッチ)DFシリーズとして販売されている。

DFシリーズでは,主成分である熱可塑性ポリイミドの共重合組成によって,系のモルフォロジーが変化するため,硬化物のレオロジー特性を制御できる。詳細は P.11「エポキシ樹脂含有ポリイミド系コンポジットフィルムの相構造とレオロジー挙動」をご参照ください。

ドメイン

エポキシ樹脂成分の網目鎖

PI-PSX成分のポリマー鎖(ポリシロキサン成分と他の共重合成分)

Page 3: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

3

第  45 号 2005年7月

テクニカルレポート

巻頭言

わたしの研究の極意 5山口由岐夫

論 文

リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂 7真下清孝・鈴木健司・福地 巌・伊藤敏彦・西村 伸

エポキシ樹脂含有ポリイミド系コンポジットフィルムの相構造とレオロジー挙動 11増子 崇・武田信司・長谷川雄二

ポリエチレン系分解性樹脂デグラレックスの微生物分解性 17宮田裕幸・太田伸一・藪下 諭

COG用低温接続異方導電フィルムアニソルムAC-8408 23富坂克彦・竹田津潤・廣澤幸寿・竹村賢三

FPD用防湿絶縁塗料タッフィー 27杉下拓也・鈴木雅博・志賀 智・進藤尋佳・木村昌宏

環境対応高耐熱基板材料MCL-E-679FG 31宮武正人・村井 曜・福田富男・島岡伸治

製品紹介 36~38環境対応高周波多層材料 MCL-EX-77G MCL-LZ-71G

高耐熱多層用材料 MCL-E-679F(J)

粘着テープ用背面処理剤テスファインシリーズ

分解性ラップフィルムエレージュ

Page 4: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

4

Contents

Commentary 5Yukio Yamaguchi

Anode Binder Resin for Lithium Ion Batteries 7Kiyotaka Mashita・Kenji Suzuki・Iwao Fukuchi・Toshihiko Itho・Shin Nishimura

Morphological and Rheological Behavior of Composite Films Based on Polyimide/Epoxy Blend Resin 11Takashi Masuko・Shinji Takeda・Yuji Hasegawa

Microbial Degradability of Degradable Resin Degralex based on Polyethylene 17Hiroyuki Miyata・Shinichi Ohta・Satoshi Yabushita

Low-Temperature-Curable Anisotropic Conductive Film ANISOLM AC-8408 for COG Interconnection 23Katsuhiko Tomisaka・Jun Taketatsu・Yukihisa Hirosawa・Kenzo Takemura

Conformal Coating Material TUFFY for FPD 27Takuya Sugishita・Masahiro Suzuki・Satoshi Shiga・Hiroka Shindou・Masahiro Kimura

High Heat Resistance Substrate Material MCL-E-679FG for Environmentally-Friendly Printed Wiring Board 31Masato Miyatake・Hikari Murai・Tomio Fukuda・Shinji Shimaoka

Products Guide 36~38

Licensing Business ──────────────────────────────────────────────── 50

Page 5: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

5日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

巻 頭 言

東京大学大学院工学系研究科教授

山口由岐夫(やまぐち ゆきお)Yukio Yamaguchi

略歴:1975年 東京大学大学院化学工学専攻修士

修了1975年 三菱化成(現:三菱化学)入社1981年 MITのDept. of Chemical Engineering

留学1983年 三菱化学非平衡領域研究室室長,

計算科学研究所所長,材料工学研究所所長等を歴任

2000年 東京大学大学院 教授2005年 現職

著書:「ナノテクノロジー用語集」など

わたしの研究の極意

研究らしきものに初めて手を染めるのは,やはり卒業研究でしょうか。自分

の研究スタイルが身につき始めたのは30才位の気がします。この頃から,研

究で飯を食っていける自信らしきものがつき始めました。会社では専門の異

なる人と一緒に仕事ができ,自分の専門性を意識する機会が多く,しかも課

題解決型が多いため,アプローチの仕方や考え方など参考になることが色々

とあり,常に前を向いて何かを得ようと頑張っていた。しかし,自分の専門性

といっても深いわけでなく,「あせり」の気持ちがあり,自分を鍛えたいという

思いが常にありました。学生時代にしっかりと勉強しなかったつけがまわっ

ていたのでしょう。

30才前に研究留学を薦めてくれる上司があり,真剣に考え,まずMITに

決めました。次に,分野として「石炭のガス化」を選びました。そして,

この分野の第一人者であるJack Howard教授にレターを書いて,国井大蔵

先生に推薦状をもらいに行きました。しっかりと説教されました。これま

で,ガス化を研究したこともなく,しかも推薦状を書いてくれなど,日本

と違って,推薦状を書くことは簡単ではないと言われました。そこを粘っ

て,何とか書いてもらいました。

夏の暑い日,ボストンに着きました。研究留学の肩書きはvisiting scientistで,

Howard教授に具体的な研究テーマの話をしました。燃焼の際に排出される

「粒子状汚染物質」の低減に関するテーマで,ポスドクの指導下で実験をする

ということでした。ガス化のテーマは終わりに近いということでした。

そもそも,これまでガス化の研究をしたこともなく,自分の甘さを痛感し,研

究留学をやめようと決意しました。これからが大変で,不安材料が一杯の状

況の中で,GREを受け学生になる準備をしました。会社の総研所長には事後

承諾することにし,Howard教授に真摯に話をしました。

最終的に,大学院学生になり,コースワークをしつつ,全く新しいテーマで

研究を開始しました。それは,「Multiple Buoyancy-driven Flows in a Vertical

Cylinder Heated from Below」という熱対流における多解性を数値的に解くも

のでした。徹底的に非線形数値モデルを勉強しました。この時のsupervisor

はRobert Brown教授で現在MITの学長です。当時は新進気鋭のassistant

professorでした。毎週1時間,議論しました。これは結構タフで,毎週進捗を

Page 6: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)6

問われているわけです。でも,このおかげで研究の厳しさを学んだ気がし

ます。

この後の研究者そして研究マネージャーとして進んでいくための自己形

成の道程は,30才過ぎのこの時期がポイントだったと思います。かくあり

たいという姿と現実の乖離からくる,居心地の悪い「あせり」がこの後も

続きますが,ふとしたことで出会った言葉が,「あせり」を「学び」に変

えてくれたと思います。それは,今は亡き英文学者の中野好夫(シェクス

ピア翻訳)の翻訳の極意に関するものです。

難しいことは,解りやすく

解りやすいことは,面白く

面白いことは,深く

研究の極意も同じではないか,面白く,しかも深く追求していないから,

「あせり」が生まれるのであって,研究を職業に選んだのだから,思い存

分やれるだけやってみよう。これまでは,「解りやすいことを難しく」言

っていた自分は本当のプロではない。少しずつ変えよう。どんなテーマに

も潜む本質(メカニズム)を把握しよう。面白くない,身が入らないのは

テーマが悪いのではなく,自分の取組み方が浅いからだ。これから成長し

始めた。

現場のトラブルから始まり,さまざまな開発研究,さらに探索研究と

色々な分野を渡り歩いた結果,「非平衡相転移」の概念化にたどりついた

のは40才のころでした。モード論といってもいいかと思いますが,平衡か

らはるかはなれた領域で起きる構造形成の学理に興味を持ちました。なぜ

突然「転移」するのか,なぜ「空間の不均一化」が起きるのか,なぜ「振

動」が起きるのか。この当時,よく議論できた相手はボストン大学の

H.E.Stanley教授でした。彼は若くして,「Phase Transitions and Critical

Phenomena」を書きました。まさに,「臨界現象」は私の研究者(求道者)

としての始まりでした。

時は移り,大学で研究と教育を行う身として,学生さんに,「知識の量」

ではなく,「知識のネットワーク」を強調しています。しかも,just in

time に使えない知識は無きに等しいと。現在,「材料ナノテクノロジーの

知識の構造化」プロジェクトのリーダをしています。小宮山宏教授(東大

総長)がさまざまな分野で知識を構造化し,さらに統合化することにより,

「知の社会」が来る,と言っております。産業も,それを支える科学技術

も,「知の構造化」が必要でしょう。各人各様の構造化の手法があるでし

ょう。そのため,私的な研究の極意を皆様に贈り,皆様のさらなる活躍を

期待し,巻頭の辞にかえさせていただきます。

Page 7: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 621.315.616:678.6.029.4:546.34-71:621.352.035.2

7

リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂Anode Binder Resin for Lithium Ion Batteries

真下清孝* Kiyotaka Mashita 鈴木健司* Kenji Suzuki 福地 巌* Iwao Fukuchi

伊藤敏彦** Toshihiko Itho 西村 伸*** Shin Nishimura

モバイル機器高性能化に伴ない,使用するリチウムイオン電池の高出力,高エネル

ギー密度化が求められており1),今後は電気自動車用への展開も期待されている2)。そ

のような中で,バインダ樹脂も電池に用いられる材料の一つとして特性の向上が望ま

れている。

当社では,電池の高性能化に対応するため,耐電解液膨潤性と接着性に優れた新規

負極用バインダ樹脂を開発した。開発材は,少量でも比表面積の大きい高性能黒鉛系

負極材のバインダ樹脂として十分に機能し,電極を高密度化しても高い容量を維持で

きることから,電池の高容量化に有効である。

*当社 機能性材料研究所 **当社 化成品事業部 ***株式会社日立製作所 日立研究所

〔1〕緒  言

リチウムイオン電池は,ニッケルカドミウム電池やニッケ

ル水素電池と比較して,体積エネルギー密度と重量エネルギ

ー密度が大きく,小型軽量化が可能である。また,高電圧が

得られることから電池の使用本数を少なくすることができ

る。リチウムイオン電池は,使用されるモバイル機器等の高

性能化の要求からさらなる高エネルギー密度化,急速充放電

特性の向上が求められている。

当社ではこの要求にこたえるため,高性能な塊状人造黒鉛

負極材(MAG)を開発し上市している。一方で負極用バイン

ダ樹脂としては,有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン

(PVDF)あるいは水分散系のスチレン-ブタジエンゴム(SBR)

が使用されている。有機溶剤系のバインダ樹脂であるPVDF

は,接着性に劣るために,活物質に対して使用量を多くする

必要があり,当社のMAGを代表とする比表面積の大きい高性

能黒鉛系負極材の特性を十分に引き出せないという問題があ

る。また水分散SBRは,わずかな使用量の違いで電池特性が

変化したり,増粘剤としてカルボキシメチルセルロース

(CMC)を併用する必要がある等の問題点がある。また,ど

ちらのバインダ樹脂も耐電解液膨潤性が不十分で,電解液の

膨潤による電池特性の低下が生じる3)4)。

当社では,耐電解液膨潤性に優れた負極用バインダ樹脂の

検討を進め,高耐電解液膨潤性と高接着性を有し,電極を高

密度化しても高い容量を維持できる新規な溶剤系負極用バイ

ンダ樹脂を開発した。本報では,樹脂開発の経緯と開発した

バインダ樹脂の特性について報告する。

〔2〕耐電解液膨潤性

リチウムイオン電池は,正極活物質であるリチウム複合酸

化物と負極活物質である炭素材の間を非水系電解液を介して

リチウムイオンが移動して,充放電を繰り返すことによって

二次電池として機能する(図1)5)6)。バインダ樹脂の役割は,

Lithium ion batteries have been increasingly requested to have higher power and

energy density to be used as the power sources of higher performance mobile tools and

further as the power sources of hybrid electric vehicles.

The binder resin to be used in such higher performance batteries is also required to

improve its performance.

To meet such demand we have developed a new type of anode binder resin having

lower swelling and higher adhesive properties.

A small amount of the new binder resin can afford good electrode properties even

when the specific surface area of the active materials used is large. As it can maintain

high capacity even with higher electrode density, the new binder resin will be able to

improve the capacity of lithium ion batteries.

セパレータ

負極バインダ樹脂

電解液中での結着

正極バインダ樹脂

集電体(アルミ箔)

電解液

充電時 放電時

活物質(リチウム複合酸化物)

正極

負極

充電時

e-

e-

Li + Li +

e-

e-

活物質(炭素材)

集電体(銅箔)

放電時

活物質 ― 活物質

活物質 ― 集電体or

図1 リチウムイオン電池の構造とバインダ樹脂の役割 バインダ樹脂は活物質同士および活物質と集電体を結着して,導電ネットワークを形成する。

Fig. 1 Structure of a lithium ion battery and the function of binder resinBinder resin binds an active material to the other active material or the

current collectors to form a conductive network.

Page 8: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

活物質同士あるいは活物質と集電体を結着させ,導電ネット

ワークを形成してその構造を維持することにある。

リチウムイオン電池用の電解液には,極性が大きく溶解力

の高いカーボネート系有機溶剤が使用される。バインダ樹脂

は,この電解液に対して溶解や過度の膨潤を引き起こさない

必要がある7)。バインダ樹脂が過度に膨潤すると,活物質同

士,あるいは活物質と集電体間の接触不良が生じ,導電ネッ

トワークが崩壊して電池容量や出力の低下が起こる(図2)。

エチレンカーボネート(EC) /ジメチルカーボネート

(DMC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1/1(体積比)

の混合溶媒に,電解質としてLiPF6を1mol/L溶解した電解液を

用いた場合の,各種樹脂と電解液に対する膨潤度の関係を図

3に示す。溶解度パラメータ(以下SP値と表記する)がDMC

やDECに近い樹脂の膨潤度が大きくなっている。樹脂のSP値

8

を溶剤のSP値より低い領域,あるいは高い領域にずらすこと

により電解液に対する膨潤度を下げることが可能となる。

樹脂の電解液膨潤度と電池特性の関係を図4に示す。電解

液による過度の膨潤が電池特性低下を引き起こすことがわか

る。当社では,特定の高極性基を導入し高SP値化した樹脂系

を用いることで,優れた耐電解液膨潤性を達成した。開発材

と現在使用されているバインダ樹脂の電解液膨潤度の比較を

表1に示す。開発材は,他社材に比べて膨潤度が1桁小さい。

〔3〕活物質被覆性

耐電解液膨潤性に優れる樹脂系であっても,負極用バイン

ダ樹脂として使用した場合に電極の内部抵抗が高くなる場合

がある。バインダ樹脂が電極の内部抵抗を増大させるのは主

に樹脂による活物質表面の被覆によると考えられる8)。その

表1 各種バインダ樹脂の電解液に対する膨潤度 開発材は優れた耐電

解液膨潤性を示す。

Table 1 Degree of swelling of several binder resins by electrolyte solutionThe newly developed binder resin showed far better one order of magnituderesistance to the swelling by electrolyte solution.

フィルム作製条件:80℃熱板上/1 h+120℃真空中/5 h電解液:1M-LiPF6、EC/DMC/DEC=1/1/1(体積比)電解液浸漬時間:24 h

電解液

電解液膨潤度:小 電解液膨潤度:大

活物質

バインダ

導電ネットワーク保持

充放電が阻害されない。

導電ネットワーク崩壊

充放電が阻害される。

集電体

e-e-

図2 バインダ樹脂の膨潤による導電ネットワークの崩壊 バインダ樹脂が電解液で膨潤すると導電ネットワークが崩壊し,充放電が阻害される。

Fig. 2 Disruption of a conductive network by the swelling of binder resinSwelling of the binder resin by electrolytic solution causes disruption of a

conductive network to impede charging and discharging.

50℃,50サイクル後

10 100負極バインダ樹脂の電解液膨潤度(%:50℃,24 h)

1,000

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

放電容量維持率(%)

図4 負極バインダ樹脂の電解液膨潤度と50サイクル後の放電容量の関係 バインダ樹脂の過度な膨潤により,電池の放電容量が低下する。

Fig. 4 Relationship between the degree of swelling of the binder resin and theresidual discharge capacity of a battery after 50 cycles of dischargeExcessive swelling of the binder resin will lead to the degrease in dischargecapacity.

バインダ樹脂

NMP溶剤系

開発材 PVDFSBR/CMC=2/1(質量比)

水系

フィルムの電解液膨潤度(%)

室温

50℃

2

2

18

24

13

19

溶解領域

低SP値樹脂 高SP値樹脂

電解液溶媒

低膨潤域

DEC

溶解度パラメータ(MJ/m3)1/2

電解液膨潤度(%:50℃,24 h)

25151

10

100

DMC EC

図3 溶解度パラメータ(SP値)と電解液膨潤度の関係 電解液溶媒に近いSP値を持つ樹脂は電解液膨潤度が大きくなる。

Fig. 3 Relationship between the solubility parameter of electrolytic solutionand the degree of swelling of the binder resinDegree of swelling increases when the solubility parameters of both binderresin and solvent are near.

Page 9: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

被覆が起こる過程としては,図5に示すように,(1)合剤スラリー

調整時の樹脂による活物質の被覆,(2)電極乾燥時の樹脂溶融

に伴う活物質の被覆,(3)電極乾燥時の合剤層表面への樹脂の

偏析などがある。(1)では樹脂の極性基の種類や量,主鎖への

結合の様式,(2)では樹脂の融点,(3)では樹脂の分子量,樹脂

とスラリー溶媒との親和性などが大きく関わっている。開発材

はこれらを考慮に入れて樹脂設計した。

図6には内部抵抗評価の一例として行った,単極試験(負極

材は比表面積2.1×103 m2/kgの球状黒鉛)による直流抵抗(DCR)

の評価結果を示す。放電直後の電圧変化が単極セルのDCRと

想定できるので,グラフの傾きがDCRの大きさと見なせる。開

発材を使用した電極のDCRは従来材(PVDF)のものと比べて小

さく,電池の出力を向上できることがわかった。

活物質表面のバインダ樹脂による被覆の様子を直接確認す

ることは困難であるが,被覆性の評価として,黒鉛負極材

(比表面積4.3×103 m2/kg,当社MAG)を用いて電極合剤層へ

の電解液の浸透性の測定,および電極合剤層中の活物質の比

表面積測定を行った結果を図7,図8に示す。図7では,ガ

9

ラス基板上に電極合剤層を形成・乾燥した後,電解液を滴下

して電極合剤上の液滴残存量を測定した(電極合剤のプレス

なし)。開発材を用いた電極合剤層は,PVDFやSBRを用いた

場合よりも電解液の浸透が早く,窒素吸着可能な表面積も大

きいので(図8),活物質が表面に露出している割合が高い

と推定する。すなわち,開発材による活物質表面の被覆割合

は他のバインダ樹脂よりも低く,活物質の持つ性能を十分に

引き出せると推察される。

〔4〕接着性

溶剤系バインダ樹脂であるPVDFは接着性が乏しいため,

比表面積の比較的小さな活物質には適用可能であるが,当社

のMAGに代表される大きな比表面積を有する高性能な炭素材

に対しては添加量を大きくする必要があり,活物質が持つ特

性が十分に発現しない場合がある。これに対して,開発材は

接着性付与基の導入が容易な樹脂設計となっているため,接

着力を高めることが可能である。このため,比表面積の大き

な炭素材に対しても少量で電極作製が可能となっている。

負極スラリー調整工程

塗布・乾燥製膜工程

合剤層

溶融被覆性 膜厚方向への偏在(表面偏析)

未吸着分吸着分

活物質に対する吸着性

図5 バインダ樹脂が活物質を被覆する過程 主として次の3つの過程が考えられる。

(1)負極スラリー調整時の吸着、(2)電極乾燥時の溶融被覆、

(3)電極乾燥時の樹脂の偏析

Fig. 5 Timing and mechanism for the binder resin to cover active materialsThe following must be the three main : (1) adsorption during the preparation of anode slurry, (2) melt adhesion duringdrying, and (3) segregation during drying.

0.00

10

20

30

80

70

60

50

40

0.5 1.0 1.5 2.0

着液後の時間(s)

残液率(vol%)

開発材(2.5 %)PVDF(5.5 %)

SBR/CMC(1.25/1.25 %)

活物質 MAG

図7 電解液浸透性の評価 バインダ樹脂として開発材を用いた電極は電解液が浸透しやすい。

Fig. 7 Evaluation of the permeability of electrolyte solution into electrodeElectrode prepared with our new binder resin has the highest permeability.

開発材:3 %(5.6 vol%)

活物質 球状黒鉛

0 10 20放電電流(mA)

30 40 50

PVDF:5 %(6.1 vol%)

0.450.40.350.30.250.20.150.10.050

放電 1s 後の電圧変化ΔV(V)

対極:金属リチウム

充電:CC 0.28 mA/cm2

   CV 0 V, 0.01 mA/cm2カットオフ

放電:1.13~22.65 mA/cm2CC, 1 min

図6 直流抵抗(DCR)評価 開発材を用いた電極のDCRは従来材と比較して小さい。

Fig. 6 Evaluation of direct current resistance(DCR) The electrode with our new binder resin has smaller DCR than that with thecnventional binder resin(PVDF).

開発材 PVDF SBR/CMC

5

4

3

2

1

0

電極作製後,合剤層をかきとり測定

0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

電極合剤密度(×103 kg/m3)

活物質 MAG活物質のみの比表面積=4.3×103 m2/kg

比表面積(×103 m2 /kg)

図8 各種電極合剤層のBET比表面積評価 開発材を用いた電極合剤の比表面積は従来材を用いた場合に比べて大きい。

Fig. 8 Evaluation of the specific surface area of various electrodes The electrode with our new binder resin has a larger specific surface area

than those with the conventional binder resins.

Page 10: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

容量低下が少ない。すなわち,開発材は電極の高密度化に対

して優位な材料であり,電池の高容量化に寄与することが期

待できる。

〔6〕結  言

耐電解液膨潤性に優れたリチウムイオン電池負極用バイン

ダ樹脂を開発した。開発材は高い接着性を有しており,溶剤

系でありながらも,比表面積の大きい高性能黒鉛系負極材の

特性を十分に引き出すことができる。また,電極を高密度化

したときの容量低下が少ないことから,電池の高容量化に有

効なバインダ樹脂であると考えられる。さらにリチウムイオ

ン電池負極だけでなく,電気二重層キャパシタ(EDLC)など類似

の用途のバインダ樹脂としても用途展開が期待できる。

10

図9には接着性の比較を示す。当社のMAGを用いて厚さの

異なる電極を用意し,プレス圧力を除々に上げながらそれぞれ

の電極をプレスして,合剤層が集電体から剥がれ始めるときの

電極合剤密度を測定した。図9では合剤塗布量で表現したが,

合剤層の厚さとの関連から接着性を評価した。開発材は,

PVDFに比べて添加量が少ないにも関わらず高電極密度まで剥

がれが起きないので,接着性が大幅に向上していることがわか

った。

〔5〕高密度電極での放電負荷特性

リチウムイオン電池のさらなる高容量化のためには,電極

の高密度化が必要である。しかし,一般に電極を高密度化す

ると,電池性能が低下する傾向にあるため,高密度化しても

電池性能低下が少ない電極が望まれている。そこで,当社の

MAG材を用いて密度が1.5 kg/m3と1.8 kg/m3の電極を作製し,

放電負荷特性を調べた結果を図10に示した。開発材を用いる

と,SBRを用いたときに比べて,電極を高密度化したときの

2

11.5 12.5 13.5 14.5 15.5

塗布量(×10-2 kg/m2)

接着を維持できる限界密度(×103 kg/m3 )

1.9

1.8

1.7

1.6

1.5

1.4

1.3

開発材 3 % 開発材 2.5 %

開発材 2 %

PVDF 5 %

PVDF 5.5 %

活物質 MAG

図9 各種電極の接着性評価 開発材は接着性が高く少量の添加量でも高比表面積の負極材に適用可能である。

Fig. 9 Evaluation of the adhesive property of various electrodesOur new binder resin showed better adhesive property with smaller amount.

00

20

40

60

放電容量維持率(%)

80

100

0.5 1

放電レート(C)

1.5 2

開発材: d=1.51×103 kg/m3

開発材: d=1.80×103 kg/m3

SBR/CMC: d=1.53×103 kg/m3

SBR/CMC: d=1.81×103 kg/m3

活物質 MAG

対極:金属リチウム

充電:CC 0.28 mA/cm2

   CV 0 V, 0.01 mA/cm2カットオフ

放電:0.28~8.15 mA/cm2CC, 1 Vカットオフ

図10 異なる電極密度での放電負荷特性 開発材を用いた電極では電極の密度を高めた場合でも高い放電容量を維持している。

Fig. 10 Discharge rate characteristic of the electrodes having different densityThe electrodes prepared with our new binder resin showed higher discharge

capacity at higher discharge rate.

参考文献1)機能材料, 6月号, p.48-53 (2002)

2)電子技術, 1月号, p.21-25 (2002)

3)伊藤, 外:特開平11-135379

4)杉田, 外:特開平11-219709

5)R.Fong,et al.:J.Electrochem.Soc.137,p.2009-2013 (1990)

6)吉野, 外:特開昭62-90863

7)高密度リチウム二次電池:(株)テクノシステム, p.217-228

(1998)

8)細川, 外:特開2003-249225

Page 11: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 621.3.049.77:621.791,35:678.686.073-416:532.135:544.01:620.187.5

11

エポキシ樹脂含有ポリイミド系コンポジットフィルムの相構造とレオロジー挙動Morphological and Rheological Behavior of Composite Films Based on

Polyimide/Epoxy Blend Resin

増子 崇* Takashi Masuko 武田信司** Shinji Takeda 長谷川雄二* Yuji Hasegawa

電子機器の高速化および小型化の要求に対応するための要素技術として,低温接着

性と耐はんだリフロー性を兼ね備えるフィルム状ダイボンディング材が求められてい

る。当社が開発した“ハイアタッチDF”は,熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,

およびフィラーをコンポジット化した設計であるため,硬化前の熱溶融特性と硬化後

の耐熱性を有効に両立できる。この材料系の物性に及ぼす内部構造の影響を把握する

目的で,使用ポリイミドの構造とフィルムのレオロジー的特性との関連性について検

討した。その結果,ポリイミドの共重合成分間の相分離により形成されたポリマー鎖

のミクロドメイン構造は,ガラス転移温度を超える温度領域でのフィルムの流動抑制

に寄与することを,粘弾性解析,破断面の走査型電子顕微鏡観察,および圧縮試験に

より明らかにした。

*当社 電子材料研究所 **当社 機能性材料研究所 工学博士

〔1〕 緒  言

ICチップと支持基材との接合に用いるダイボンディング材

は,半導体パッケージの高性能化,高機能化,および小型・

薄型化を実現するためのキーテクノロジーとなっており,そ

の重要性とマーケットは今後もますます拡大していくことが

予想される。当社が開発したフィルム状の新規なダイボンデ

ィング材は,従来のペースト状ダイボンディング材が抱えて

いたパッケージの製造歩留まりおよび信頼性を飛躍的に向上

させ,“ハイアタッチDFシリーズ”として販売している1)2)。

DFシリーズは,熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,および

必要に応じてフィラーを配合した組成を有している。この組

成により,Bステージでの熱溶融特性と硬化後の耐熱性を確

保でき,ダイボンディング材として要求される低温接着性と

耐はんだリフロー性を両立できる3)4)。

このような材料系は,性質の異なる素材をコンポジット化

した設計であるため,ポリマー系複合材料(p o l y m e rcomposite materials)とみなすことができ,単一素材では達

成が困難な特性を実現できるだけでなく,それらの組成比に

よって物性を広範囲に制御できるという特長を有している。

しかしながら,このような材料系は,内部に不均質な構造を

有するため,力学特性や成形加工過程における溶融物の流動,

変形などのレオロジー的な性質は,単一高分子材料に比べて

複雑な挙動を示す場合が多い5)。したがって,目的とする物

性または機能を得るためには,材料の構造と物性,使用環境

における内部構造,およびレオロジー挙動との関連性につい

ての詳細な把握が必要である。筆者らは,これまでに前述の

組成を有するフィルム(以下,コンポジットフィルム)の相

構造および種々の特性に及ぼすポリイミド構造の影響6)7),フ

ィルム組成比依存性8)9),フィラー性状の影響10)について詳細

に検討してきた。

本報では,主鎖に柔軟な分子構造を有するポリイミドをベ

ース樹脂に用いたコンポジットフィルムのレオロジー的特性

を詳細に解析し,それらに及ぼす要因について考察した結果

をまとめる。

〔2〕 柔軟な分子構造を有するポリイミドの合成

低温接着性を付与する目的で,コンポジットフィルムの溶

融温度を下げるためには,使用ポリイミドの構造をより柔軟

にしてガラス転移温度(Tg)を下げることが有効である。こ

の設計は,出発原料である酸二無水物またはジアミンとして,

屈曲性に富む分子鎖を有するモノマを選択することによって

Die attach films with lower attaching temperatures and sufficient reliability

performance during reflow soldering are required as a key technology for higher

response speeds and further compactness of electronic devices. HIATTACH DF series,

developed as novel die attach films, are fusible at temperatures above their Tg’s before

curing, but will hold restricted flow behavior even above their Tg’s after curing, because

they are composed of a thermoplastic polyimide, an epoxy resin, and a filler. The

relationship between the chemical structure of the polyimide used and the rheological

properties of the film was studied through dynamic mechanical analysis, scanning

electron microscopy (SEM), and compression tests to explain the effect of the

morphological structure on the various properties of the film. These analyses suggested

that the microdomain structure formed by the microphase separation between the

copolymerization segments of the polyimide used will restrict the flow of the film even

above the Tg.

Page 12: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)12

表1 合成ポリイミドの組成と特性 屈曲性に富む分子構造を有する酸二無水物またはジアミンを使用することにより,ポリイミドのTgを有効に低減できる。

Table 1 Monomer compositions and characterization of the polyimides synthesized The lower Tg is due to introduction of the decamethylene connecting groups with long and flexible molecular chains into the polyimide backbone.

ポリイミド

PI-BAPP

PI-TSX

PI-PSX

モノマ組成(mol%) GPC*

Mn Mw Mw / Mn

収 率

(%)Tg(℃)**

酸二無水物

DBTA(100)

DBTA(100)

DBTA(100)

BAPP(100)

BAPP(50)/ TSX(50)

BAPP(50)/ PSX(50)

95.0

95.0

92.5

120

064

030

32500

26900

23800

121000

080800

068600

3.73

3.01

2.89

ジアミン

O O

C O

O C

C O

O C COO OCO10(CH2)

CH3

NH2H2N

CH3

C

CH3

CH3

Si

CH3

CH3

SiO

OO

DBTA

BAPP

n

(H2C)3 (CH2)3 NH2H2N

n=1

n=10

:TSX

:PSX

図1 使用した酸二無水物およびジアミンの構造Fig. 1 Chemical structures of the dianhydride and diamines used

達成できる。そこで,酸二無水物として,1,10-(デカメチレ

ン)ビス(トリメリテート)二無水物(DBTA)を,またジ

アミンとして,2,2’ -ビス[4- (4-アミノフェノキシ)フェニ

ル]プロパン(BAPP), 1,3-ビス(3-アミノプロピル)テト

ラメチルジシロキサン(TSX),およびビス(γ-アミノプロ

ピル)ポリジメチルシロキサン(PSX, 分子量:914)をそれ

ぞれ選択し,表1に示すTgの異なる3種のポリイミド(それ

ぞれ,PI-BAPP,PI-TSX,およびPI-PSX)を合成した。なお,

使用した酸二無水物およびジアミンの構造を図1にまとめて

示す。

DBTAとBAPPとから合成したPI-BAPPの示差走査熱量計

(DSC)によるTgは120℃であった。Ultem(米国GEプラスチ

ックス社の商標)のような従来の芳香族エーテル系ポリイミ

ドのTgは200℃を超えることから11)12),このポリイミドの低

いTgは,主鎖に柔軟性に富むデカメチレン基を導入したこと

による効果と考えられる。さらに,シロキサン基の導入によ

って,Tgは120℃よりも低くなることが示された(PI-TSX,

PI-PSX)。特に,ポリシロキサン基を導入したPI-PSXのTgは

30℃まで低下している。

〔3〕コンポジットフィルムの粘弾性挙動

PI-BAPP 100重量部に対して,エポキシ樹脂(エポキシ化

合物,硬化剤,硬化促進剤を含む)を10重量部,および銀フ

ィラーをフィルム組成全体に対して40 wt%配合したコンポジ

ットフィルムについて,硬化前後の粘弾性挙動を図2にまと

めて示す。なお,硬化熱履歴は180℃/1時間とし,この条件は,

含有するエポキシ樹脂のDSCによる発熱挙動が,それぞれT

init : 118,T onset : 158,T exo : 171,T end : 199,Tg : 97℃

であり,180℃/1時間の熱履歴で発熱ピークが消失することに

基づいて設定した。

未硬化フィルムの貯蔵弾性率(E’)は,Tgを超える温度領

域において大きく低下し,熱可塑型フィルムに典型的な挙動

を示したが,硬化フィルムのE’は,これらの温度領域での

低下が抑制され,熱硬化型フィルムの挙動を示している。こ

の差は,含有するエポキシ樹脂成分の架橋効果によるもので

あり,この樹脂設計によりダイボンディング材としての硬化

前の熱圧着性と硬化後の耐熱性を両立できることが示されて

いる。

未硬化フィルムの損失弾性率(E”)および損失正接(tan

δ)のピークの挙動を見ると,硬化熱履歴によってそれらの

温度位置が上昇しており,ここでも含有するエポキシ樹脂成

分の架橋効果が認められる。ここで,硬化フィルムのE”ピ

ークは,わずかに2本に分離しているのが観測され,それぞ

れの温度位置は115および121℃であった。PI-BAPPおよびエ

ポキシ樹脂硬化物のDSCによるTgはそれぞれ120,97℃であ

ることから,このピークの分離は,含有するポリイミド成分

とエポキシ樹脂成分の部分的な相分離を示していると考えら

れる。しかしながら,このフィルムのtanδピークにおいては,

そのような分離は観測されていない。この樹脂系のモルフォ

ロジーは基本的に相分離系ではあるものの,ポリイミドリッ

チの樹脂組成であり,かつ線状ポリイミドの分子鎖とエポキ

シ樹脂の網目鎖が互いに複雑に絡み合った,いわば半相互貫

入高分子網目(semi-interpenetrating polymer network; semi-

IPN)構造13)を形成していることに起因して生じる現象と推

察される。

一方,未硬化フィルムのtanδピークの広がりが硬化フィルム

と比較してブロードになっているのが観測されているが,これ

は測定温度の上昇とともに徐々にフィルムの硬化が進み,見か

けのTgが上昇していることによるものと考えられる。

次に,PI-TSXおよびPI-PSXをそれぞれベース樹脂に用い,

同様のエポキシ樹脂および銀フィラーを同様の比率で配合し

たコンポジットフィルムを調製し,同様の条件で加熱硬化し

たフィルムの粘弾性挙動を,PI-BAPPを使用したフィルムと

合わせて図3にまとめて示す。

使用したポリイミドが,PI-BAPP,PI-TSX,PI-PSXの順に,

室温付近のフィルムのE’は低くなった。特に,PI-PSXを使

用したフィルムにおいて,E’が大きく低減している。これ

は明らかに使用ポリイミドの主鎖に可とう性に富むポリシロ

キサン基を導入したことによる効果である。一方,PI-TSXお

よびPI-PSXをそれぞれ使用したフィルムのTgを超える温度領

* ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン換算)** DSCにより測定

Page 13: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7) 13

トしていることから,エポキシ樹脂成分が一部ポリイミド成

分に相溶していることが示唆されている。また,このフィル

ムのtanδピークは,PI-BAPPを使用したフィルムと同様,単

一ピークであり,使用ポリイミドの構造による顕著な違いは

見られなかった。

一方,PI-PSXを使用したフィルムのE”およびtanδの温度

依存性は,明らかに他のポリイミドを使用したフィルムと異

なる挙動を示した。PI-PSXのTgに相当する温度において,明

確なE”ピークは観測されず,tanδにおいてはピークが確認

されるものの,他のポリイミドを使用したフィルムよりもブ

ロードであり,その強度も小さいことが示された。さらに,

E”およびtanδともに,-110℃付近にポリシロキサン基に

硬化

硬化

硬化

未硬化

未硬化

未硬化

-150 -100 -50 0 50 100 150 200 250 300

温度(℃)

損失正接 tan δ

損失弾性率 E″(MPa)

貯蔵弾性率 E′(MPa)

104

103

102

101

104

103

102

101

101

100

10-1

10-2

10-3

図2 PI-BAPPベースコンポジットフィルムの粘弾性挙動におよぼす硬化熱履歴依存性 未硬化フィルムは,Tgを超える温度領域において流動するが,硬化フィルムについてはこれらの温度領域でも流動が抑制される。

Fig. 2 Effect of curing on the dynamic mechanical properties of the compositefilm using PI-BAPPThe composite films showed fusible thermoplastic behavior above their Tg's

before curing, but thermosetting behavior with restricted flow even above theirTg's after curing.

PI-BAPPフィルム

PI-TSXフィルム

PI-PSXフィルム

PI-BAPPフィルム

PI-TSXフィルム

PI-PSXフィルム

PI-BAPPフィルム

PI-TSXフィルム

PI-PSXフィルム

-150 -100 -50 0 50 100 150 200 250 300

温度(℃)

損失正接 tan δ

損失弾性率 E″(MPa)

貯蔵弾性率 E′(MPa)

104

103

102

101

104

103

102

101

101

100

10-1

10-2

10-3

図3 コンポジットフィルムの粘弾性挙動におよぼすポリイミド構造の影響 使用ポリイミドの主鎖に導入したシロキサン基の長さによって,共重合成分同士の相溶性が変化し,コンポジットフィルムのモルフォロジーが

変化する。

Fig. 3 Dependence of the dynamic mechanical properties of the compositefilm on polyimide structureThe length of the siloxane unit introduced into the polyimide backbone will

affect the compatibility between the copolymer segments to change themorphological behavior of the composite film.

域でのE’は,いずれもPI-BAPPを使用したフィルムより低

くなっているが,温度上昇に伴うE’の顕著な低下は認めら

れなかった。含有するエポキシ樹脂成分の架橋効果により,

Tgを超える温度領域でのフィルムの流動は一様に抑制される

ことがわかった。

PI-TSXを使用したフィルムのE”ピークは,PI-BAPPを使

用したフィルムと同様,わずかに2本に分離しているのが観

測され,このフィルムにおいても樹脂成分の相分離が示され

ている。このE”ピークのショルダー形状は,PI-BAPPを使

用したフィルムと同様,使用ポリイミドのTgに相当するピー

クの方が高くなっており,エポキシ樹脂硬化物のTg(97℃)

に相当するピークの位置が,使用ポリイミドのTg付近にシフ

Page 14: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)14

由来する転移温度のピーク14)~16)が観測されていることから,

このフィルムの樹脂硬化物においては,PI-PSXのポリシロキ

サン成分と他の共重合成分が互いに非相溶の傾向にあり,こ

の不均質性が転移領域を広げる要因になっていると考えられ

る。また,これらのフィルムの主分散ピークの温度位置は,

使用ポリイミドのTgが低くなるにつれて低下方向に進むこと

が示されている。このように,ポリイミドリッチの樹脂組成

を有するコンポジットフィルムにおいては,使用ポリイミド

の構造がフィルムの粘弾性挙動に大きく反映することがわか

った。

〔4〕ポリイミド/エポキシ樹脂ブレンドの相構造

上述の粘弾性挙動の解析から,ポリイミドの主鎖に導入し

たシロキサン基の長さによって,共重合成分同士の相溶性が

変化し,コンポジットフィルムのモルフォロジーが大きく変

化することを示した。この点についてさらに詳細に検証する

ため,PI-TSXおよびPI-PSXをそれぞれ使用したコンポジット

フィルムの樹脂成分の硬化物を調製し,それらの相構造を調

べた。それぞれのポリイミドを使用した樹脂硬化物の破断面

走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4および図5にそれぞれ

示す。

これらのSEM写真から明らかなように,樹脂硬化物の相構

造は,各成分の配合比から,いずれもポリイミド成分が連続

相,エポキシ樹脂成分が分散相と推測される海島型であるこ

とが示された。これらの結果から,PI-TSXおよびPI-PSXとエ

ポキシ樹脂成分は互いに非相溶の傾向にあることがわかる。

さらに,使用したポリイミドのシロキサン鎖長によって,熱

処理による相構造の経時変化に明らかな相違が認められた。

PI-TSXを使用した樹脂硬化物については,熱処理による相構

造の変化は観測されず,また連続相と分散相の界面が不明瞭

であることから(図4(a)~(d)),PI-TSX成分とエポキシ樹

脂成分が一部相溶していることがわかる。PI-TSXを使用した

フィルムにおいて観測されたTg付近のE”ピークのわずかな

分離(図3)は,このような相構造と密接に関係していると

考えられる。

一方,PI-PSXを使用した樹脂硬化物については,熱処理前

の段階では,連続相と分散相の界面が不明瞭である点,PI-

TSXを使用した樹脂硬化物と同様の相構造を示した(図5

(a))。ところが,熱処理時間が長くなるにつれて,連続相と分散相の界面が明瞭になり,相分離がさらに進行することが

示された(図5(b)~(d))。これらの結果は,使用したポリイミドのシロキサン基が長くなるにつれて,エポキシ樹脂成

図4 PI-TSX/エポキシ樹脂硬化物の破断面SEM写真 (a):熱処理前,(b):(a)の拡大写真,(c):180℃/4時間加熱後,(d):(c)の拡大写真

Tgを超える温度でPI-TSX/エポキシ樹脂硬化物を加熱しても相分離構造に変

化は見られない。

Fig. 4 SEM photographs of the fracture surfaces of PI-TSX/epoxy resin blend (a): Before heating, (b): Enlarged photograph of (a), (c): After heating for 4 hat 180℃, (d): Enlarged photograph of (c).The change in phase separation structure of PI-TSX/epoxy resin blend wasnot observed after heating above the Tg.

(a) (b)

(c) (d)

図5 PI-PSX/エポキシ樹脂硬化物の破断面SEM写真 (a):熱処理前,(b):180℃/2時間加熱後,(c):(b)の拡大写真,(d):180℃/4時間加熱後

Tgを超える温度でPI-PSX/エポキシ樹脂硬化物を加熱すると相分離構造が変

化する。

Fig. 5 SEM photographs of the fracture surfaces of PI-PSX/epoxy resin blend.(a): Before heating, (b): After heating for 2 h at 180℃, (c): Enlarged

photograph of (b), (d): After heating for 4 h at 180℃.The change in phase separation structure of PI-PSX/epoxy resin blend wasobserved after heating above the Tg.

(a) (b)

(c) (d)

Page 15: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

分との相溶性が低くなることを示している。ただし,エポキ

シ樹脂成分に相当する分散相の形状,大きさ,および量につ

いては,PI-TSXを使用した樹脂硬化物と同様,熱処理による

顕著な変化は見られなかった。このように,分散相の構造が

固定されているのは,前述したように,樹脂硬化物を調製し

た段階(180℃/1時間の硬化熱履歴)で,含有するエポキシ

樹脂の硬化がほぼ終了しているためであると考えられる。

さらに興味深いことに,連続相の状態が,PI-TSXを使用し

た樹脂硬化物においては,熱処理時間によらず比較的平坦で

あったのに対し,PI-PSXを使用した樹脂硬化物においては,

熱処理時間とともに徐々にいびつな形状に変化しているのが

観測された(図5(b)~(d))。図3に示した E”およびtanδ

の挙動から,PI-TSXを使用したフィルムにおいては,比較的

均質構造であることが示されているのに対して,ポリシロキ

サン成分を含有するPI-PSXを使用したフィルムにおいては,

PI-PSXのポリシロキサン成分と他の共重合成分間の相分離が

示唆されていることから,上記の連続相の状態変化は,PI-

PSXの共重合成分間の相分離により,各成分鎖の凝集が起こ

り,その凝集構造(ドメイン)の寸法が熱処理時間とともに

大きくなっていることによるものと推測される。その結果,

エポキシ樹脂成分に相当する分散相との相分離がさらに進ん

だと考えられる。また,図3の粘弾性挙動において,PI-PSX

を使用したフィルムのTg付近の分散ピークが,E”において

は不明瞭であり,かつ tanδにおいてピークの明確な分離が

観測されないのは,系全体が不均質構造であるものの,ポリ

イミドリッチの樹脂組成であることと,連続相のいびつな形

状と分散相の大きさがともに微細であることが影響している

と考えられる。

〔5〕コンポジットフィルムの塑性変形挙動

ポリイミドの主鎖に導入したシロキサン基の長さによっ

て,エポキシ樹脂成分を含む樹脂硬化物の相構造が変化する

ことを明らかにした。そこで,これらの挙動がコンポジット

フィルムの塑性変形に及ぼす影響を検討するため,PI-TSXお

よびPI-PSXをそれぞれ使用したコンポジットフィルムについ

て,180℃/1時間加熱硬化した後,さらに180℃での熱処理時

間とフィルム圧縮時のフロー量との関係を調べた。フロー量

は,50 µm厚に調製したコンポジットフィルムを10 mm×10

mmの形状に打ち抜き,同サイズのユーピレックスフィルム

上に載せ,2枚のスライドガラスに挟み,180℃の熱盤上で

10 MPaの面圧を加え,120秒間プレスしたときにサンプルの

端部からはみ出した樹脂の長さの最大値とした。結果を図6

に示す。

初期のフロー量は両者のフィルムともに同等レベルであっ

たが,熱処理時間が長くなるにつれて,両者のフィルム間で

フロー量に明らかな差が認められるようになった。PI-TSXを

使用したフィルムについては,4時間熱処理してもフロー量

の変化は認められなかったのに対して,PI-PSXを使用したフ

ィルムについては,熱処理時間とともにフロー量の低下が認

められるようになり,塑性変形が抑制される方向に進むこと

が示された。両者のフィルムの塑性変形挙動に及ぼす使用ポ

リイミドの流動特性を比較するため,エポキシ樹脂成分のみ

を取り除いたフィルムについて,図6と同様の熱処理を加え

たときのフロー量の変化を調べた(図7)。しかしながら,

いずれのポリイミドを使用したフィルムについても熱処理に

よるフロー量の変化は認められず,それらの値はよりTgの低

いPI-PSXを使用したフィルムにおいてむしろ大きいことが示

された。エポキシ樹脂成分を含有するフィルムの初期のフロ

ー量は約300~350 µmであるのに対して(図6),エポキシ樹

脂成分を含有しないフィルムのフロー量は熱処理時間によら

ず3000~4000 µmと大きな値を示した(図7)。これらのフィ

ルムは架橋構造を有しないため,図2で示された未硬化フィ

ルムのE’の挙動と同様,使用ポリイミドのTgを超える圧縮

温度において大きく流動し,熱可塑型フィルムに典型的な挙

15

PI-TSXフィルム

PI-PSXフィルム

00

100

200

300

400

1 2

加熱時間(h/180℃)

フロー量( m)

3 4

μ

図6 コンポジットフィルムのフロー量におよぼす熱履歴依存性PI-PSXを使用したフィルムにおいて,熱履歴による塑性変形量の低下が認め

られる。

Fig. 6 Dependence of the flow length of the composite films on heating time at180℃The restricted of plastic deformation after heating above the Tg was

observed only for the composite film based on PI-PSX.

PI-TSXフィルム

PI-PSXフィルム

00

1,000

2,000

3,000

4,000

1 2

加熱時間(h/180℃)

フロー量(

µm)

3 4

図7 エポキシ樹脂成分を含有しないコンポジットフィルムのフロー量におよぼす熱履歴依存性 エポキシ樹脂を含有しないフィルムは,使用ポリイミドの構造によらず,熱履歴による塑性変形量に変化は認められない。

Fig. 7 Dependence of the flow length of the composite films without epoxyresin on heating time at 180℃The restricted of plastic deformation after heating above the Tg was not

observed for both the composite films without epoxy resin, irrespective of thestructural differences of the polyimides used.

Page 16: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

動を示したと考えられる。これに対して,エポキシ樹脂含有

系においては,図3においても示されるように,Tgを超える

温度領域での温度上昇によるフィルムの流動抑制が達成され

ている。さらに,PI-PSXを使用したフィルムの方が,PI-TSX

を使用したフィルムよりもtanδピークの強度が小さいことが

示されている。tanδピークの強度はポリマー鎖のミクロブラ

ウン運動の量と密接な関係にあることから17),PI-PSXを使用

したフィルムの方が,Tg付近での緩和に基づく分子鎖運動の

量が少なく,結果的に塑性変形に及ぼす流動が抑制されると

いうことがいえる。

〔6〕ポリイミドの構造とコンポジットフィルムの塑性変形挙動との関連性

PI-PSXを使用したコンポジットフィルムの樹脂成分におい

て,推定される相構造の模式図を図8に示す。PI-PSXにおい

ては,互いに非相溶のポリシロキサン成分と他の共重合成分

が共有結合で連結されているため,それぞれの成分鎖が寸法

の限られた別々の空間に凝集したミクロドメイン構造を形成

していると考えられる。ここで,樹脂成分のTgを超える温度

での熱処理を加えると,これらの成分鎖の凝集がさらに進み,

各々のドメイン寸法が大きくなる。凝集が進んだ密度の高い

ポリマー鎖中にエポキシ樹脂成分の網目鎖が存在し,それら

のポリマー鎖が複雑に絡み合っているため,系全体の見かけ

の架橋密度が増大する。こうして,Tgを超える温度領域での

フィルムの流動が抑制され,結果として,図6に示されるよ

うな圧縮方向の外力に対する塑性変形が抑制されるようにな

ったと考えられる。これに対して,PI-TSXの場合は,共重合

成分鎖同士の相溶性が良好であるため,それぞれの成分鎖同

士の凝集が起こりにくく,熱処理による塑性変形領域が維持

される。結果として,圧縮方向の外力に対する塑性変形量の

変化が小さかったと考えられる。

〔7〕結  言

熱可塑性ポリイミド,エポキシ樹脂,および銀フィラーか

らなるコンポジットフィルムの粘弾性挙動は,使用ポリイミ

ドの共重合成分鎖同士の相溶性によって大きく変化すること

を明らかにした。また,前記の相溶性が低くなるにつれて,

系全体の不均質化が進み,Tgを超える温度領域でのフィルム

の塑性変形が抑制される方向に進むことがわかった。このよ

うな内部構造の不均質性に起因して発現するポリマー鎖のミ

クロドメイン構造を有効に利用,または制御することによっ

て,ダイボンディング材のみならず,他用途向けに新たな特

性を付与した材料の開発が期待できる。

16

ドメイン

エポキシ樹脂成分の網目鎖

PI-PSX成分のポリマー鎖(ポリシロキサン成分と他の共重合成分)

図8 PI-PSXベースコンポジットフィルムの樹脂成分におけるポリマー鎖のミクロドメイン構造の模式図 PI-PSX成分のミクロドメイン構造とエポキシ

樹脂成分の架橋構造からなるポリマー鎖の

絡み合いによって,フィルムの見かけの架

橋密度が増大する。

Fig. 8 Schematic diagram of themicrodomain structure of the polymer chainin PI-PSX composite filmThe polymer chains entangled between

the microdomain structure of PI-PSXcomponent and the network structure of theepoxy resin component will increase theapparent crosslinking density of thepolymer.

参考文献1)武田信司, 増子 崇, 湯佐正己, 宮寺康夫, 日立化成テクニカルレポ

ート, (24), 25 (1995)

2)加藤利彦, 諏訪 修, 藤井真二郎, 山崎充夫, 増子 崇, 日立化成テ

クニカルレポート, (43), 25 (2004)

3)S. Takeda, T. Masuko, Y. Miyadera, M. Yamazaki, and I. Maekawa,

“A Novel Die Bonding Adhesive-Silver Filled Film”, Proceedings

of 47th Electronic Components & Technology Conference

(ECTC), 518 (1997)

4)S. Takeda and T. Masuko, “Novel Die Attach Films Having High

Reliability Performance for Lead-Free Solder and CSP” ,

Proceedings of 50th Electronic Components and Technology

Conference (ECTC), 1616 (2000)

5)“ポリマーアロイ 基礎と応用”, 第2版,高分子学会編, 東京化

学同人, (1993)

6)増子 崇, 武田信司, 長谷川雄二, エレクトロニクス実装学会誌, 8

(2), 116 (2005)

7) 増子 崇, 高分子論文集,62 (2), 55 (2005).

8) 増子 崇 , 武田信司 , ネットワークポリマー , 25 (4) , 181

(2004)

9) 増子 崇, 武田信司, 日本接着学会誌, 40 (4), 136 (2004)

10)増子 崇, 高分子論文集, 61 (9), 489 (2004)

11)今井淑夫, エレクトロニクス実装学会誌, 4, 640 (2001)

12)S. H. Hsiao and P. C. Huang, J. Polym. Res., 4, 183 (1997)

13)秋山三郎, 熱硬化性樹脂, 9, 216 (1998)

14)N. Furukawa, M. Yuasa, F. Omori, and Y. Yamada, J. Adhes., 59,

281 (1996)

15)N. Furukawa, Y. Yamada, and Y. Kimura, High Perform. Polym., 8,

617 (1996)

16)N. Furukawa, Y. Yamada, M. Furukawa, M. Yuasa, and Y. Kimura,

J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 35, 2239 (1997)

17)L. E. Nielsen: “高分子と複合材料の力学的性質”, 化学同人,

(1976)

Page 17: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 678.742.092:044.046:663.1:678.742:678.002.68:504.056:546.264-31:546.212

17

ポリエチレン系分解性樹脂デグラレックスの微生物分解性Microbial Degradability of Degradable Resin Degralex based on Polyethylene

宮田裕幸* Hiroyuki Miyata 太田伸一* Shinichi Ohta 藪下 諭* Satoshi Yabushita

プラスチックによる環境汚染対策の一つとして,使用廃棄後に微生物による分解が

進行し,最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解プラスチックが開発されている。

しかし,これらの材料は高価,成形性が悪い,また,加水分解性があり保存性に欠け

るなどの問題がある。さらに,生分解性プラスチック材料の多くは植物由来と言われ

ているが,LCAでは原料となる植物栽培のために多量の石油エネルギーを駆使して作

製した肥料を使用するため,必ずしも環境に良いとは言い難い面もある。本報では,

汎用プラスチックであるポリエチレンをベースとし,①熱/光分解による低分子量化,

②低分子量物の微生物分解という設計思想による分解性材料(デグラレックス)を開発

し,その分解機構の確認結果を報告する。

*日立化成フィルテック株式会社 開発本部

〔1〕 緒  言

20世紀における技術革新の大きな成果として挙げられるプ

ラスチックは,広く社会に受け入れられると共に使用量が増

大している。しかし,それは同時に廃棄物として地上にあふ

れ,地球環境汚染の原因の一因ともされ,自然界の物質循環

を乱すものとして憂慮されている。これに対し,最近着目さ

れているのが植物由来成分を原料とするポリ乳酸を代表とす

る生分解性プラスチックである。これらは加水分解と微生物

分解により最終的に水と二酸化炭素に分解されるため,自然

界における炭素循環を乱さないと言われているが,原料植物

を育成するには多量の肥料を必要とするため,かなりの石油

エネルギーを消費するといわれており,トータルな炭素循環

は必ずしも目標通りとなっていない。そこで,石油からダイ

レクトに製造されたプラスチックを生分解させることを考え

た。まだ一般的ではないが,プラスチックといえどもある一

定の条件を与えれば微生物分解するということが確認されて

おり1)2)3),これを発展させれば,低コスト,保存安定性が良

いという汎用プラスチックの特性を維持したまま生分解可能

な材料が得られる。材料の設計思想は,①通常の材料では添

加剤等により発生を抑制しているラジカルを,逆作用の添加

剤を入れることにより一定条件下で多く発生させて低分子量

化させる,②低分子量化したポリエチレンを微生物により水

と二酸化炭素にまで分解させる,というものである。この分

解過程をJIS及びISO規格に沿った分解性評価試験で検討した

結果を報告する。

〔2〕 汎用樹脂ベースの分解性樹脂デグラレックスとその分解機構

分解性樹脂デグラレックスの検討として,まずポリエチレ

ンと澱粉の系に少量の添加剤を混合することで均一な混合物

を得た。澱粉量はフィルムの強度等の特性と分解性のバラン

スから自由に変えることができるが,本報告では約20%の配

合品で検討した。この樹脂組成物によるフィルム成形品の分

解性を調べたところ,澱粉部の分解は見られたが,ポリエチ

レン部の分解は見られなかった。そこで,ポリエチレン部も

分解させるために,遷移金属化合物などの触媒作用によりラ

ジカルを発生させポリエチレンの主鎖の分解(レドックス反

応)を促進させる組成物(分解促進剤)を検討し4),種々の

分解促進剤から,分解特性,コスト,入手の容易さ等からA

社の分解促進剤を選定した。以下にこの分解促進剤添加系の

分解性について検討した結果を示す。

Numerous biodegradable plastic products, which fully decomposed into water and

carbon dioxide due to the action of microbes, have been developed to counter

environmental pollution.

However, these resins are expensive, difficult to mold and they have poor

preservation properties, as they are easy to hydrolyze. Besides, though it is said that

most of the biodegradable plastics are derived from the plants, there are some aspects

that it is difficult to say that they are necessarily environmentally-friendly because they

consume fertilizer which is produced by a lot of petroleum energy. Consequently, we

selected a general-purpose resin, such as polyethylene and we developed the

degradable material (Degralex) that has a following design concept. It has two-stage

degradation steps: 1. It degraded into low molecular weight resin by exposing it to heat

and/or light, 2. this low molecular weight resin was degraded by microbes. We applied

various methods of estimating degradability through which we confirmed the

degradability of the composition.

Page 18: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

分解性樹脂デグラレックスのベース樹脂としてはポリエチレ

ンおよびポリプロピレンがあるが,本報告ではポリエチレンについて報告する。

ポリエチレン等の汎用樹脂の分解機構については図1のよ

うに考えた。即ち,分解第一段階では,分解促進剤の働きに

より,熱および/または熱光(紫外線)による汎用樹脂成分の

低分子量化,並びに微生物の働きによる澱粉成分の分解が起

こり,それに伴って樹脂の多孔化,表面積の増大が起こる。

分解促進剤は,酸化触媒である遷移金属塩と脂肪酸を主成分

とするものである(劣化,崩壊)。分解第二段階では低分子

18

0 3 5 7 9

経過日数(d)

分解促進剤添加量

0

20

40

60

80

100

破断伸度保持率(%)

0%

0.5%

1%

2%

3%

図2 80℃加熱における分解促進剤の添加量と破断伸度保持率変化の関係 分解促進剤の量が増すにつれ,破断伸度保持率の低下が早く大きくなる。

Fig. 2 Relationship between amount of degradation accelerator and keep ratioof break elongation at 80℃ heatingAs the amount of degradation accelerator increases, the lowering rate of

break elongation becomes fast and large.

分子量分布曲線

1.50

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

2.5 3.5 4.5

Log分子量

5.5 6.5

80℃,9日加熱Mw 3,194

60℃,26日後 Mw 6,423

80℃,3日後 Mw 11,069

Blank Mw 236,548

dwt/d(logM)

図4 加熱処理による分子量分布の変化 加熱温度が高く,加熱時間が長いほど低分子量化していることがわかる。

Fig. 4 Change in molecular distribution after heat treatment As long as the heating temperature is higher and the heating time is longer,

molecular weight is lower.

分解促進剤添加量

0%

1.0%

0 100 200 300 400 500

経過時間(h)

0

20

40

60

80

100

120

140

破断伸度保持率(%)

図3 紫外線照射における分解促進剤の添加量と破断伸度保持率変化の関係 分解促進剤の添加により,破断伸度の低下が見られる。

Fig. 3 Relationship between amount of degradation accelerator and keep ratioof break elongation under ultraviolet-rays irradiationThe degradation accelerator lowers break elongation.

微生物の働き

熱の作用光の作用

澱粉の分解

分解第一段階

分解第二段階

ポリエチレンの      低分子量化

評価・確認 微生物分解CO2, H2O

微生物が低分子量化されたポリエチレンを分解

劣化,崩壊

図1 分解性樹脂デグラレックスの分解機構 分解は,樹脂の低分子量化,微生物による低分子量化された樹脂の微生物分解の2段階で行われると推

定した。

Fig. 1 Degradation Mechanism in degradable resin, DegralexDegradation has two stages: The first is degradation of resin, and the secondis the degradation of degradated resin by microbes.

量化された汎用樹脂成分が微生物の働きにより分解される

(微生物分解)。以上のように推察した分解機構の確認のため,

各種評価方法による評価を行った結果を以下に報告する。

〔3〕 デグラレックスの分解性評価(分解第一段階)

分解第一段階の評価にあたり,汎用樹脂に分解促進剤を添

加した際に,汎用樹脂におよぼす影響を検証するため,分解

促進剤の添加量を変えたポリエチレン,澱粉系のフィルムを

作製し,加熱試験による破断伸度の変化を測定した。80℃で

加熱した結果を図2に,サンシャインウエザーメータで紫外

線照射した促進試験結果を図3に示す。

図2,3から分解促進剤を添加することで熱および/または

光(紫外線)で破断伸度が低下していることが確認でき,ま

た添加量が増加するに従い破断伸度が低下する時間が早まる

ことが明らかとなった。

次にサンプルの劣化に伴い,低分子量化も起こっているこ

とを確認するために,分解促進剤を1%添加したデグラレッ

クスの分子量分布をゲルパーミエイションクロマトグラフィ

ー(GPC)により求めた。図4に80℃×3日,80℃×9日およ

Page 19: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7) 19

加熱処理品埋設後 ( ×1,000)

埋設前( ×1,000) 加熱処理品埋設後 ( ×5,000)

加熱処理品埋設前断面図 ( ×2,000)

未処理品埋設後 ( ×1,000)

加熱処理品埋設後断面図 ( ×2,000)

ボディーマーク

フイルム表面からの著しい損失を確認

写真 1 写真 2 写真 3

写真 4写真 5 写真 6

図5 デグラレックスの土中埋設品のSEM写真 加熱処理品では4ヶ月土中に埋設後,微生物の活動跡である多数のボディーマークが観察された。

Fig. 5 SEM micrographs of Degralex film buried under groundMany body marks, which are traces of microbe activity, can be observed in the heat treated sample four months after being buried in the ground.

び60℃×26日間加熱処理したデグラレックスのGPC測定結果

を示す。加熱温度が高く,加熱時間が長いほどGPC曲線が左

側にシフトしており,低分子量化が起きていることが明らか

となった。

以上の結果から,劣化および崩壊時に熱および/または紫外

線のエネルギーによりデグラレックスが崩壊し,低分子量化

が起きていることが確認された。また,この破断伸度の低下

がポリエチレン成分の分子量低下によって引き起こされてい

ることも明らかとなった。さらに分解促進剤の添加量を調整

することで劣化および崩壊速度を調整できることから,最終

的な分解速度を調整できる分解性樹脂を作製することができ

る。

〔4〕 デグラレックスの分解性評価(分解第二段階)

分解第二段階の評価として低分子量化されたポリエチレン

の微生物分解性を証明するため,土中埋設試験,コンポスト

試験および水系培養液試験評価を行った。以下にその結果を

示す。

4. 1 土中埋設による微生物分解性評価試験結果5)

厚さ25µmのフィルムにしたデグラレックスを4ヶ月間土中

に埋設し,その分解状況を分析,観察した。フィルムにした

デグラレックスは①未処理品 ②80℃9日間加熱処理品の2種類

である。

(1)SEMによる観察

図5に土中埋設前後のSEM写真を示す。未処理品では表面

の広範囲で微生物の増殖が認められたが,フィルム表面から

の著しい欠損および微生物による分解の証拠となるボディー

マーク(微生物が分解した跡)が確認できなかったことから,

分解が全く進行していなかった(図5の写真 1, 4 参照)。

一方,加熱処理品では表面の広範囲に酵素で溶解したよう

な多数の微細な空孔が生じており,また,部分的に深く欠損

しており,広範囲に微生物(バシュラス菌)の増殖が認めら

れた。以上のように,微生物による微生物分解の証拠となる

多数のボディーマークが鮮明に観察された(図5の写真 1, 2,

3, 5, 6 参照)。

このことから,加熱処理をすることによりデグラレックス

中のポリエチレン成分が低分子量化され,さらに低分子量化

されたポリエチレン成分が微生物により分解されていること

が示唆された。

(2)顕微鏡フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)による分析

ポリエチレンが劣化,崩壊を経て低分子量化され分解する

過程の中で起こる構造変化をFT-IRにより分析した。ポリエ

チレンが劣化すると1800cm-1~1600cm-1付近にかけて各種カ

ルボニル基の吸収ピークが減少する傾向が見られることか

ら,これをポリエチレン分解の指標とした。図6に未処理品

の埋設前後の赤外チャートを示す。未処理品では3300cm-1及

び1020cm-1付近に認められる添加剤の澱粉に起因する吸収が

埋設後では減少していた。しかし,ポリエチレンの分解の指

標となる1710cm-1付近のケトン型カルボニルに起因する吸収

ピークの減少が見られないことから,澱粉の分解は進んでい

るものの,主成分であるポリエチレンの分解は進行していな

いことが示唆された。

図7に加熱処理品の埋設前後における赤外チャートを示

す。加熱処理品についても未処理品と同様に3300cm-1および

1020cm-1付近に認められる添加剤の澱粉に起因する吸収が埋

設後では減少していた。また,1710cm-1付近のケトン型カル

ボニルに起因する吸収の大きな減少が認められ,フィルム加

熱処理品についてはポリエチレンの分解が進行していること

Page 20: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)20

Wavenumber

Wavenumber

No.2:kanebj, 80c, 9days-2

No.2 kanetu-4m-2

吸光度

吸光度

.02

.04

.06

.08

.10

.12

.14

.16

.18

.20

.22

.24

.0

.1

.2

.3

.4

.5

3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,6001,400 1,200 1,000 800

3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800

3,300 cm-1 1,020 cm-11,710 cm-1

埋設前

埋設後

3294.4

3393.9

2920.3

2951.8

1709.9

1471.8

1237.0

1172.0

1064.9

717.6

2917.3

2849.3

1711.0

1462.2

1370.4

1410.5

862.5

1153.7

1025.2

936.3

719.0

図7 加熱処理品の赤外チャート 澱粉の分解に加え,1,710cm-1付近のケトン型カルボニルに起因する吸収の大きな減少が見られたことからポリエチ

レンも分解が進行していることが示唆された。

Fig. 7 IR charts of samples with heat treatmentIn addition to starch degradation, We can see that polyethylene also is

degraded because of the large reduction in the peak near 1,710cm-1, whichwas derived from keton type carbonyl.

経過日数(d)

6040200

分解率(%)

澱粉,添加剤の分解率

デグラレックス

0

5

10

15

20

25

30

35

図8 MODA試験結果 澱粉および添加剤の分解以上の分解率が確認され,ポリエチレンも分解していることが明確になった。

Fig. 8 Test results for MODAThe degradability ratio more than for starch and additives and it is clear thatpolyethylene has also degraded.

が明らかとなった。

以上より土中埋設試験範囲内において,デグラレックスは

微生物による分解を受けているものと判断され,またこの現

象は加熱処理したフィルムにおいて顕著であった。

4. 2 ISO14855(JISK6953:2000 )(制御されたコンポスト

条件下の好気的生分解度および崩壊度の求め方)に準

拠した微生物分解試験(MODA試験)結果

この試験は,58℃に保たれた好気的コンポスト条件下にサ

ンプルを投入し,発生する二酸化炭素を定量することで分解

度を求めるもので,試験機としては微生物酸化分解測定装置

(MODA)を用いた。フィルムにしたデグラレックス80℃×9

日間加熱処理品の測定結果を図8に示す。測定の結果,デグ

ラレックスの52日後の分解率が32%となった。デグラレック

スは汎用樹脂,分解促進剤,澱粉およびその他の添加剤の混

合品である。易分解成分である澱粉と添加剤が先に分解した

と仮定すると,この成分の分解率は,図8に点線で示したよ

うに16%である。従って実際のポリエチレン成分の分解率は

32-16=16%となり,16%分がポリエチレンの分解による寄

与と考えられる。

以上の結果から,分解するスピードは緩やかであるが,汎

用樹脂であるポリエチレン成分も確実に分解していることが

明らかになった。

さらに,ポリエチレン成分の分解について別な観点から検

討を行った。MODA試験の52日後の残存成分を熱キシレンで

抽出し,試験前のポリエチレン成分も合わせて分子量分布の

測定を行った。その結果を図9に示す。図9に示したように

Q値の減少が確認された。Q値とは重量平均分子量を数平均

Wavenumber

Wavenumber

No.1 mishori

No.1 mishori-4m-4

吸光度

吸光度

.0

.1

.2

.3

.4

.5

.6

.0

.1

.2

.3

.4

.5

3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,6001,400 1,200 1,000 800

3,500 3,000 2,500 2,000 1,800 1,6001,400 1,200 1,000 800

3,300 cm-1 1,020 cm-1

埋設前

埋設後

3328.7

3329.2

2925.2

2854.6

1701.1

1662.2 1459.5

1376.7

1154.3

1026.7

717.6

2919.9

2851.0

1705.5 1455.5

1375.8

1243.7

1153.5

1027.8

933.3

718.5

図6 未処理品の赤外チャート 3,300cm-1,1,020cm-1付近に認められる添加剤の澱粉に起因する吸収が埋設後では減少している。

Fig. 6 IR charts of samples without heat treatment The absorbance peaks seen near 3,300cm-1 and 1,020cm-1 decrease after

samples are buried. These peaks were derived from starch.

Page 21: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

分子量で割った値であり,この値が減少することは,分子量

分布が狭くなったことを示している。またGPCチャートも

MODA試験後には低分子量側が低くなっていることから

MODA試験によりポリエチレンの低分子量成分が分解するこ

とが明かとなった。

4. 3 ISO14851(JISK6950:2000 )(水系培養液の好気的究

極性分解度の求め方)に準拠した微生物分解試験(クー

ロメータ試験)結果

この試験では,密閉された瓶の中で水系培養液中にサンプ

ルを投入して微生物分解させ,発生した二酸化炭素を吸収剤

で除去して,瓶内が負圧になった分だけ酸素を供給し,その

酸素量から分解度を求めるものである。測定器にはクーロメ

ータを用いた。80℃で所定時間加熱処理したフィルム状デグ

ラレックスを25℃に保たれたクーロメータに入れその分解度

を求めた。結果を図10に示す。サンプルとして,80℃×9日

間,80℃×1ヶ月間加熱処理品および未処理品の3種類を投入

した。図10より加熱処理時間が長いものほど多くの酸素を消

費していることがわかった。70日後の検体の状況を観察する

と,加熱処理品は粒子が崩れさらに細かくなっていた。この

ため表面積が大きくなったことも酸素消費量の増大に寄与し

たと考えられる。デグラレックスの澱粉と添加剤が全て分解

したときの理論酸素消費量は30.7mgであり,これは図10に点

線で表示した。デグラレックスの80℃×1ヶ月間加熱処理品

70日目の酸素消費量は54.9mgであることから,汎用樹脂成分

の酸素消費量は54.9-30.7=24.2mgとなり,これが汎用樹脂

であるポリエチレン成分の分解による酸素消費量である。ま

た,易分解成分が同量であるにもかかわらず,試験投入前の

加熱処理時間により酸素消費量が大きく違うことから,低分

子量化されたポリエチレンが澱粉や添加剤よりも優先的に微

生物分解されていることが示唆された。

以上の結果から,加熱処理をすることにより低分子量化さ

れたポリエチレン成分が,微生物により水と二酸化炭素にま

で分解されていることが明らかとなった。

〔5〕 結  言

ポリエチレンのような安価な汎用樹脂への分解促進剤,澱

粉およびその他添加剤の配合による分解性樹脂の検討に取り

組み,この検討に際し最大の課題である汎用樹脂の微生物分

解性の確認を行った。その結果,ポリエチレンのような汎用

樹脂に分解促進剤を添加したデグラレックスは当初の推察の

通り,図1のような機構で分解が進行し,分解第一段階(劣

化,崩壊)では分解促進剤の働きにより,熱および/または光

21

MODA試験後

MODA試験後

MODA試験前

MODA試験前

1.18×103

1.03×103

2.94×103

2.83×103

2.49

2.75

数平均分子量 重量平均分子量

分子量分布

Q値※

※Q値:(重量平均分子量/数平均分子量)

項  目

Molecular Weight Distribution

Log MW

dW/d(Log M)

1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00

1.60

1.20

0.80

0.40

0.00

図9 MODA試験(試験期間52日)後の分子量分布変化 MODA試験後にQ値が減少し,低分子量側の値が低下していることから,ポリエチレンの低分子量部分が分解されたことがわかる。

Fig. 9 Change in molecular distribution after MODA test(52 days)The degradation in lower molecular weight of polyethylene is obvious from the results were the Q value is lower and the lower part of the GPC curve is lower afterthe MODA test.

Page 22: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

(紫外線)による汎用樹脂成分の低分子量化,並びに微生物

の働きによる澱粉成分の分解,それに伴って樹脂の多孔化,

表面積の増大が起こり,分解第二段階では低分子量化された

汎用樹脂成分が微生物の働きにより最終的には水と二酸化炭

素にまで分解されることが確認された。

なお,これらの成果は農林水産省平成14年度食品産業技術

開発支援事業成果報告会 6)および第14回廃棄物学会研究発表

会7)にて,論文報告および発表を行った。

今後は分解性樹脂デグラレックスについて,本報告の分解

機構に適した用途および自然環境下へ流出する可能性のある

分野への製品展開を図っていく。

参考文献1)大武義人,小林智子ら;日本ゴム協会誌,66(4),266(1993)

2)大武義人,小林智子ら;日本ゴム協会誌,66(7),504(1993)

3)Albertsson.A-C, Polymer Degradation and Stability, 18(1987)73

4)Peter P. Klemchuk, et al., Polymer Degradation and Stability, 27

(1990)183

5)試験報告書 No.15-2A-2526:生分解性プラスチックの土壌埋設評価

試験( I )「4ヶ月埋設後の評価」,財団法人化学物質評価研究機

構(2003)

6)太田伸一,藪下諭ら;農林水産省平成14年度食品産業技術開発支援

事業成果概要集,(2003)134

7)太田伸一 ,藪下諭ら ;第14回廃棄物学会研究発表会講演論文集

(2003)410

22

経過日数(d)

0 20 40 60 80

酸素消費量(mg)

デグラレックス80℃×1ヶ月間加熱処理品

デグラレックス80℃×9日間加熱処理品

デグラレックス未処理品

澱粉,添加剤の酸素消費量

0

10

20

30

40

50

60

図10 クーロメータ試験結果 加熱処理品では,澱粉寄与率以上の酸素消費量が確認され,ポリエチレンも分解していることが明確になった。

Fig. 10 Test results for coulometerThe ratio of degradation in the heat theated samples is more than that of

starch and polyethylene has also degraded.

Page 23: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 621.315.06-416.001.6:532.783:537.311.3:621.397.4.049.77

23

COG用低温接続異方導電フィルムアニソルムAC-8408Low-Temperature-Curable Anisotropic Conductive Film ANISOLM AC-8408 for COG Interconnection

富坂克彦* Katsuhiko Tomisaka 竹田津潤* Jun Taketatsu

廣澤幸寿* Yukihisa Hirosawa 竹村賢三* Kenzo Takemura

異方導電フィルム(アニソルム)は,LCD(Liquid Crystal Display)を中心とした

FPD(Flat Panel Display)の実装材料として広く用いられており,TCP(Tape Carrier

Package)やCOF(Chip on Flex)によるLCDパネルとプリント基板(Printed Wiring

Board)の実装や駆動用ドライバICをLCDパネルに直接搭載するCOG(Chip on Glass)

実装に採用されている。

近年,LCDモジュールは大型化,狭額縁化,薄型化の傾向にあり,特にCOG実装に

おいては,実装時に発生する駆動用ICとLCDパネル間の温度勾配に起因する基板反り

によって,表示品位が低下する問題が出てきている。そこで,アニソルムの接着剤組

成の検討を行った結果,低温硬化系の採用と弾性率の最適化によって,COG実装の反

り低減による表示品位の向上と高信頼性を両立ができることがわかった。開発品は,

従来品よりも40℃低い条件(150℃/10 s)で接続できるため基板反り量が半分以下で,

かつ従来品と同等の信頼性を有するCOG用異方導電フィルムAC-8408として販売され

ている。

*当社 実装フィルム事業部 実装フィルム開発部

〔1〕 緒  言

異方導電フィルム(アニソルム)は,熱硬化性樹脂を主体

とした接着剤中に,金めっきプラスチック粒子やニッケル粒

子などの導電粒子を均一に分散させた回路接続用接着フィル

ムである。その特長は,導電粒子によって電極間の電気的接

続を行う機能と,接着剤によって電極間を接着しさらに隣接

電極間の絶縁性を保持する機能とを,同時に発現できること

である1)。

このためアニソルムは高密度実装回路の接続材料として,

TCP入力用(TCPとPWBの接続),TCP出力用(TCPとLCDパ

ネルの接続)およびCOG用(駆動用ICとLCDパネル接続)な

ど,LCDパネルを電気的に接続する用途を中心に広く使用さ

れている2)~ 6)。

こうした中で近年の大型TFT-LCDモジュールは,画面寸法

の大型化,狭額縁化,軽量化を図るためにガラス基板の薄肉

化が進められており,アニソルムに対しても接続材料として,

より一層の高信頼性が要求されている。しかしながら,良好

な表示品位と高信頼性の両立は難しくなる傾向にある。特に

COG実装(図1)において,実装時に駆動用ICとLCDパネル

Anisotropic conductive film (ANISOLM) has been widely used as an interconnecting

material in flat panel displays (FPDs) or mainly liquid crystal displays (LCDs) for

connecting the electrodes of LCD panels to those of printed wiring boards (PWBs), via

either tape carrier packages (TCPs) or chip on flexes (COFs). In addition, it has been

used for connecting driver IC chips directly to LCD panels in chip on glass (COG)

packaging.

Recently LCD modules tend to have larger panel areas, narrower frame widths, and

thinner glass substrates. In COG packaging especially, substrate warpage due to the

temperature gradient between IC and LCD panel will lower the display quality. To cope

with this problem, we designed on adhesive resin composition by using a new curing

agent to create lower temperature curing of ANISOLM and by optimizing the elastic

modulus of ANISOLM. As a result, we developed a new low-temperature-curable

ANISOLM for COG packaging, AC-8408, which will decrease the warpage to less than

half that of the conventional ANISOLM while still being reliable.

アニソルム

ICチップ(駆動用 IC)

LCDモジュール(COG実装品)

LCDパネル(ガラス基板)

図1 アニソルムを用いたCOG実装 COG実装では,アニソルムを用いて駆動用のドライバICを直接LCDパネル上に搭載している。

Fig. 1 LCD module using ANISOLM for COG interconnectionIn COG packaging, ANISOLM is used to connect driver IC chips directly toLCD panels.

Page 24: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

間に温度勾配が発生することに起因して実装部に反り(歪み)

が発生し,この反りが液晶表示面のギャップに影響を与える

ことから,チップ実装部近傍の表示面の色調が不均一になり

表示品位が低下する現象が見られている。

本報では,低温硬化系接着剤の適用および弾性率の最適化

を図ることによって,表示品位向上に対応したCOG用低温接

続異方導電フィルムAC-8408を開発した経緯を述べる。

〔2〕COG実装における反り発生メカニズム

アニソルムを用いたCOG実装では,図2に示す様にチップ

側から圧着ヘッドを用いて熱を加えるため,被着体間での温

度勾配が生じる。例として,これまでCOG用途に広く用いら

れているアニソルムAC-85017)を使用した実装では,アニソ

ルムの最終到達温度を190℃程度にするために,圧着ヘッド

の温度を210℃程度に設定し,チップの温度を190℃以上にす

る必要がある。一方,圧着ステージと接触しているガラス基

板下部の温度は,ステージの材質の影響を受けるものの,

100℃まで到達することは無く,チップとガラス基板の間に

は大きな(100℃程度の)温度差が生じることがわかった。

その結果,熱圧着時は基板側の伸び量に対してチップ側の伸

び量の方が大きくなり,圧着終了後に圧着ヘッドを開放して

実装品が冷却されると,基板側に対するチップ側の縮み量が

大きくなることから,チップ側に凹型の反りが発生すると考

えられる。

以上のことから,COG実装品の反りを低減する方法として,

(1)圧着時の温度勾配を小さくする,(2)アニソルムの弾性

率を低減して残留応力を緩和することが有効であると考えら

れる。そこで,実装時の到達温度を低温化させることで温度

勾配を小さくするため,低温圧着可能な材料組成とすること

にした。同時に接着剤の弾性率を最適化することで低基板反

りを実現する材料設計を行うことにした。

24

〔3〕接着剤の組成検討

3. 1 低温硬化性接着剤の採用

接着剤の硬化挙動にはDSC(示差走査熱量計)による解析

が有効であり,アニソルムの接着剤においても,種々の硬化触

媒を検討して,DSCで測定した硬化反応のピーク温度が低下

する系を採用して低温接続化を図った例が報告されている8)。

図3に従来品(AC-8501)と低温硬化系接着剤(開発品(1))

を用いた場合のDSCのピーク温度と,各温度で10秒処理した

場合のアニソルムの反応率を示す。ここで,反応率は初期と

加熱処理後のDSCの発熱量の差より算出した。また従来品は

190℃/10sで反応率が80%を超えて安定した接続特性を示すた

め,80%を反応率の指標とした。

チップ(190~210℃)

ガラス基板(100℃以下)

アニソルム(190℃)

圧着ヘッド(210℃)

圧着ステージ

低温接続による方法

温度差:大

温度(低) (高)

①実装時(熱圧着時)温度勾配により,チップ伸び大,ガラス基板伸び小となる。

②圧着ヘッド開放~室温冷却チップ縮み(大),ガラス基板縮み(小)となり,縮み量による力関係から

凹型の反りが発生する。

伸び(小)伸び(大)

縮み(小)縮み(大)

縮み(小)縮み(大)

伸び(小)伸び(大)

図2 COG実装における反り発生メカニズム 熱圧着時に発生する温度勾配により,実装終了時にICチップとガラス基板の収縮量が異なるため,チ

ップ側に凹型の反りが発生する。

Fig. 2 Mechanism of the warpage development in COG packaging During COG bonding, the IC chip expands more than the glass substrate dueto the temperature gradient, causing concave warpage.

従来品

従来品

開発品(1)

実装温度(℃)

開発品(1)

ピーク温度(℃)

反応率(%)

150

140

130

120

110

100

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0120 140 160 180 200 220 240

10s処理

図3 従来品(AC-8501)と開発品(1)のDSCピーク温度と反応率 開発品(1)は,昇温速度10℃/minで測定したDSCのピーク温度が従来品と比較し

て20℃以上低減しており,150℃/10sの加熱処理条件で80%以上の反応率が得

られている。

Fig. 3 DSC peak temperature and the reaction rate of both conventionalANISOLM (AC-8501) and newly developed ANISOLMThe new low-temperature-curable ANISOLM has a DSC peak 20℃ lower

than the conventional ANISOLM, but has an equally high reaction rate at abouta 40℃ lower curing temperature.

Page 25: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7) 25

〔4〕接続信頼性

4. 1 高温高湿試験および温度サイクル試験での接続信頼性

図7にAC-8408と従来品(AC-8501)を用いて,Auバンプ

電極(電極サイズ2,500µm2)を持ったICチップと,表面に

ITO電極回路を配したガラス基板を,実装条件①150℃/10s,

②190℃/10sで実装した試験体の高温高湿試験処理(85℃

85%RH)における信頼性を接続抵抗変化によって示す。AC-

8408は低温条件①で接続した場合でも,1,000時間後に5Ω以

図3より低温硬化系接着剤を採用した場合,ピーク温度が

20℃低減し,150℃/10s処理で80%以上の反応率を示すことが

わかった。一方,検討したアニソルムのCOG実装品の基板反

り量は,図4に示すような当社の試験体を用いて,チップ実

装部のガラス基板側背面を25mm測定した時における最大反

り変形量とした。その結果,従来品(AC-8501)では,実装

条件が190℃/10sにおいて,基板反り量が15µmであるのに対

して,開発品(1)の基板反り量は150℃/10s実装品で,10µm

にまで低減できることを確認した。

反り測定端子

反り変形量

ガラス基板

ガラス基板サイズ:28mm×38mm× t0.7mm チップサイズ:1.7mm×17mm× t0.55mm

チップ

アニソルム

25mm

図4 COG実装品の基板反り量測定方法 チップ実装部のガラス基板側背面を接触式のプローブで25mmスキャンした際の反り変形量を測定する。

Fig. 4 Method of measuring warpage in COG packagesThe warpage was measured by scanning the glass substrate surface with asurface profile analyzer.

3. 2 接着剤の低弾性率化

COG実装品の基板反り量の低減には,接着剤の低弾性率化

も有効であると考えられる。図5にはアニソルムによるCOG

実装の概念図を示す。アニソルムの電気的接続は導電粒子を

介しての電極の接触接続であり,この接触は実装部に働くIC

チップやガラス基板の変形回復力,接着剤の接着力,および

界面の収縮力から構成される電極間の収縮力によって保持さ

れる。しかしながら,接着剤の過度の低弾性率化は接着剤の

収縮力の低下を伴うため,接続信頼性試験で接触接続の維持

ができなくなり,導通不良が発生する可能性がある。このた

め,接着剤の弾性率に関しては最適化を必要とする8)~ 9)。

図6に低弾性率化した低温硬化系接着剤の,40℃での弾性

率と実装品の基板反り量,および温度サイクル試験処理(-40

~100℃)後における接続抵抗を示す。基板反り量は接着剤

の低弾性化に従って減少する傾向にある。しかし,1.7GPa未

満の弾性率では接続抵抗が急上昇することがわかった。そこ

で,基板反り量の低減と高接続信頼性を両立するためには,

接着剤の弾性率を1.8GPa以上にする必要がある。

以上の検討結果に従って,接着剤としては150℃/10s実装が

可能な低温硬化系の採用,および弾性率の最適化を行い,高

接続信頼性を維持した状態で基板反り量を従来品の15µmか

ら7µmまで低減した。さらにアニソルム中の樹脂組成の官能

基種や導電粒子の最適化を図ることによってCOG用異方導電

フィルムAC-8408を得た。

チップの変形回復力

Auバンプ電極

基板電極(ITO)

基板の変形回復力接着剤と界面の収縮力

接着剤の接着力

ICチップ

ガラス基板

図5 アニソルムによるCOG実装概念図 接続は接着剤の接着力および収縮力によって保持される。

Fig. 5 Mechanism of COG connection through ANISOLMThe strong adhesion strength of ANISOLM, the contraction stress at the

interface, and the restoring force of the deformed substrate will sustain theconnection between the electrodes.

硬化物の弾性率(GPa)

基板反り量(

µm)

接続抵抗(Ω)

1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.22

4

6

8

10

4

6

8

10

12

図6 接着剤(硬化物)の弾性率と基板反り量および信頼性試験後の接続抵抗 接着剤の低弾性率化で基板反り量は低減可能だが,弾性率が1.7GPa未満では温度サイクル試験後の接続抵抗が上昇する。

Fig. 6 Influence of elastic modulus of ANISOLM on amount of warpage andelectrical contact resistance after reliability testThe warpage decreased with the decreasing elastic modulus, but the

connection resistance through ANISOLM interconnections steeply increasedwhen the elastic modulus was below 1.7 GPa.

Page 26: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)26

〔5〕 結  言

COG実装における基板反りを低減し,表示品位の向上を可

能としたCOG用低温接続アニソルムAC-8408は,ノートパソ

コン,液晶モニタ,液晶テレビといった大型LCDモジュール

を中心に採用されている。LCDモジュールの市場が引き続き

拡大する中で,LCDモジュールの大型化,狭額縁化,薄型化

はさらに進行し,それに対応した異方導電フィルムによる表

示品位の向上は,今後ますます重要になると考えられる。当

社では,今後はさらなる低基板反り対応を目指し開発を行っ

ていく予定である。

参考文献1)山口,外:異方導電フィルム,日立化成テクニカルレポート,

No.6(1987-7)

2)H. Kristiansen et al.:Overview of Conductive Adhesive

Interconnection Technologies for Display Applications in Johan

Liu,Conductive Adhesives for Electronics Packaging,Chapter 15,

Electrochemical Publications,p.376 (1999)

3)I. Watanabe et al.:Anisotropic Conductive Films For Flat Panel

Displays,369,vol2, IDW ’96 (1996)

4)塚越,外:高精細回路接続用アニソルムAC-7144の開発,日立化

成テクニカルレポート,No.16(1991-1)

5)塩沢,外:金属電極用異方導電フィルム,アニソルムAC-2052,

日立化成テクニカルレポート, No.23(1994-7)

6)渡辺,外:二層構成異方導電フィルムの開発,日立化成テクニカ

ルレポート,No.26(1996-1)

7)高精細COG用アニソルムAC-8501,日立化成テクニカルレポート,

No.36(2001-1)

8)藤縄,外:入力用低温接続異方導電フィルム アニソルムAC-

9000,日立化成テクニカルレポート,No.39(2002-7)

9)有福,外:COF出力用異方導電フィルム アニソルムAC-4000,

日立化成テクニカルレポート, No.41(2003-7)

AC-8408

従来品

時間(h)

接続抵抗(Ω)

400 600 800 1,0002000

10

8

6

4

2

0

AC-8408

従来品

時間(h)

接続抵抗(Ω)

400 600 800 1,0002000

10

8

6

4

2

0

①150℃/10s実装条件

実装条件②190℃/10s

図7 高温高湿試験(85℃85%RH)における接続信頼性 AC-8408は各接続条件で良好な接続信頼性を示す。

Fig. 7 Reliability of connection at high temperature/humidity (85℃, 85%RH) AC-8408 showed excellent connection reliability in each bonding condition.

下の接続抵抗を維持し,従来の実装条件②を適用したAC-

8501と同等の信頼性を示している。また,温度サイクル試験

処理(-40~100℃,1,000サイクル)においても,同様に低接

続抵抗を維持することが確認できた。

4. 2 絶縁信頼性

図8にはAC-8408を用いて,Auバンプ電極(隣接電極間ス

ペース15µm)を持ったICチップと,表面にITO電極回路を配

したガラス基板を,150℃/10sで実装した試験体の高温高湿試

験処理(85℃85%RH)時間と15µm電極間の絶縁抵抗の関係

を示す。絶縁抵抗は,試験体を所定時間処理後に隣接電極間

に直流電圧50Vを60秒間印加した後に測定した。その結果,

1,000時間後も109Ω以上の高い絶縁抵抗値を維持することを

確認した。

時間(h)

絶縁抵抗(Ω)

0 200 400 600 800 1,0001 × 105

1 × 106

1 × 107

1 × 108

1 × 109

1 × 1010

1 × 1011

1 × 1012

1 × 1013

1 × 1014

図8 AC-8408の面内絶縁信頼性 AC-8408は高温高湿試験1,000時間処理後も高い面内絶縁特性を維持している。

Fig. 8 Insulation reliability of ANISOLM AC-8408 in planar directionAC-8408 showed satisfactory insulation resistance in the planar direction

even after 1,000 h of high temperature/humidity (85℃, 85%RH).

Page 27: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 621.315.617.001.6:667.629.2:667.637.233:678.7:621.397.4.049.77

27

FPD用防湿絶縁塗料タッフィーConformal Coating Material TUFFY for FPD

杉下拓也* Takuya Sugishita 鈴木雅博** Masahiro Suzuki 志賀 智* Satoshi Shiga

進藤尋佳* Hiroka Shindou 木村昌宏* Masahiro Kimura

FPD(Flat Panel Display)のパネルとFPC(Flexible Printed Circuit board)の接続

部およびドライバーICのインナーリード部の絶縁信頼性を高めることを目的に防湿絶

縁塗料の塗布が行われている。しかし,不具合部を除去して再度接続をやり直すこと

がしばしば行われ,この際に一旦塗布した塗料を除去し塗り直す工程(リペア工程)

が必要になるが,従来の防湿絶縁塗料では除去し難く,この工程に多大な労力がかか

っていた。一方で絶縁信頼性の観点から,基材との密着性が重要であり,リペア性と

密着性とを両立させる必要がある。当社では新たに,溶剤型防湿絶縁塗料タッフィー

TF-4200シリーズと,UV硬化型防湿絶縁塗料タッフィーTF-3348-741を開発した。こ

れらは,基材との密着性および絶縁信頼性に優れており,しかも簡便にリペア可能な

材料であるため,FPDの生産性向上に貢献できると考えている。

*当社 化成品事業部 山崎開発グループ **当社 化成品事業部 山崎製造部

〔1〕 緒  言

LCD(Liquid Crystal Display),PDP(Plasma Display Panel),

有機EL(Electroluminescence)などのFPDでは,FPCにより

映像信号の入力を行っている。このパネル本体とFPCの接合

部,およびドライバーICのインナーリード部の回路接続は,

ACF(Anisotropic Conductive Film)によって行われるが,こ

の部分では配線が剥き出しの状態であるため,絶縁信頼性を

高めることを目的に防湿絶縁塗料の塗布が行われている(図

1)。この防湿絶縁塗料には信頼性保持の必要性から,防湿

性,絶縁性と共に基材であるガラス基板やポリイミドフィル

ムとの密着性が求められる。

一方で,FPDの高精細化により配線の微細化が進み,FPC

の接合部にしばしば不具合が発生している。その場合には,

不具合部のみを除去して再度接続をやり直す1)ので,一旦塗

布した塗料を除去し塗り直す工程(リペア工程)が必要にな

る。しかし,従来の防湿絶縁塗料では塗膜強度が弱いために

除去し難く,削除した後に研磨工程が必要であったり,溶剤

で少しずつ溶かしながら除去するなど,このリペア工程に多

大な労力がかかっている。そこで,十分な絶縁信頼性を維持

しつつ,リペアの際には容易に除去できる防湿絶縁塗料が望

まれている。

Conformal coating material is applied to the electrodes of flat panel display (FPD)

panels connected to flexible printed circuit boards (FPCs), and to the inner leads under

the driver ICs, to enhance insulation reliability. However, rejected FPD modules are

often re-assembled after defective parts are removed, and a "repair process", in which

the coating materials should be removed and reapplied, is necessary. This process

requires a great effort for conventional coating materials, because they are difficult to

remove. However, coating materials must adhere well to substrates for the sake of

insulation reliability, which requires the compatibility of adhesion and repair-ability. We

developed new repairable coating materials, the solvent type TUFFY TF-4200 series and

the UV cure type TUFFY TF-3348-741, which have excellent adhesion and insulation

reliability. Using these materials will allow for higher productivity of FPD modules.

FPC

銅電極ITO電極ガラス

LCD シール材

タッフィー塗布位置

ドライバーIC

図1 タッフィーの塗布位置 TUFFYはFPDのパネルとFPCの接続部およびドライバーICのインナーリード部の,防湿絶縁用に塗布する。

Fig. 1 Location of TUFFY applicationTUFFY is applied to the electrodes of FPD panels connected to FPCs, and to

the inner leads under the driver ICs to enhance insulation against moisture.

Page 28: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

〔2〕 TF-4200シリーズの開発

2. 1 ポリマ設計

一旦塗布した塗料を除去するもっとも簡便な方法は,塗膜

の端を引張り,引き剥がすことである。しかし,従来の防湿

絶縁塗料では基材との密着力よりも塗膜強度が弱いため,引

き剥がそうとすると塗膜が切れたり,凝集破壊を起こし樹脂

の残渣が基材上に残ったりした。したがって,塗膜をきれい

に引き剥がすためには,

塗膜強度>基材との密着性

である必要がある。ここで絶縁信頼性保持の観点から密着性

を低くすることはできないので,塗膜強度を上げる必要があ

る。塗膜強度を上げる手法としては,次の二つが考えられ

る。

①樹脂の重合度を上げる。

②架橋点を増やす。

ここで,樹脂の重合度を上げると塗料の粘度が上がり塗布

性が著しく悪化してしまう。また溶剤型の塗料の場合,塗布

時には化学反応を伴わないため,化学的に架橋点を増やすこ

ともできない。そこで,物理的にしっかりとした架橋点を形

成させることを考えた。通常,溶剤型の塗料では樹脂鎖間に

水素結合等により擬似的な架橋点が作られる。さらに,ブロ

ック型コポリマの場合は,図2のように各々のセグメント同

士が凝集しミクロ相分離構造をとるため,セグメント凝集部

が物理的に強固な架橋点となり,強靭な塗膜が作られる2),3)。

そこで,ブロック型コポリマをベースポリマとして,樹脂組

成を検討した。

28

期待通りの柔軟で強靭な塗膜が得られたが,基材との密着性

に劣ることがわかった。これはソフトセグメント部分の表面

エネルギーが基材の表面エネルギーと大きく異なる4)からで

ある。しかし塗膜の構造的特性を活かすため,ベースポリマ

は変更せず,粘着付与剤を組み合わせることで密着性を向上

した2)(図3)。

ソフトセグメント

ハードセグメント凝集部

図2 TF-4200シリーズの塗膜強度発現機構 ハードセグメント部が凝集し,擬似的に架橋点を形成する。

Fig. 2 Mechanism of exerting film intensity for TF-4200 series Hard segments coheres to make quasi-cross-linkages.

粘着付与剤なし

10

500

粘着付与剤あり TF-4200シルーズ

180°はく離強さ(N/m)

図3 TF-4200シリーズの密着性改良 粘着付与剤の配合によりガラス基材との密着性は大幅に改善される。

Fig. 3 Improvement of adhesion to the glass for TF-4200 seriesThe addition of the tackifier improved the adhesion dramatically.

また,塗布部分であるパネルとFPCの接合部,およびドラ

イバーICのインナーリード部の回路部は,形状が立体的で応

力集中し易いので,冷熱衝撃時の信頼性を考えて,ハードセ

グメントとソフトセグメントの組み合わせとした。

2. 2 密着性の向上

ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック型

コポリマと溶剤を用いて塗料組成物を作成し,検討した結果,

〔3〕 TF-3348-741の開発

UV硬化型塗料は通常,①反応性オリゴマ,②反応性モノマ,

③光重合開始剤からなる。塗布,硬化時に化学反応を伴うの

で,3次元的に架橋して強靭な塗膜が得られそうであるが,

実際はもろい樹脂となることが多い。これは,反応性オリゴ

マの鎖長が短いことと,強いエネルギーで大量のラジカルを

発生させ短時間で硬化させるので重合度が上がらないことに

よる。しかし反応性オリゴマの鎖長を長くすると,硬化前の

塗料の粘度が高くなり,塗布性が悪化するので好ましくない。

またラジカル発生量を減らして重合度を上げるように設計す

ると,速硬化性が損なわれてしまう。

そこでラジカル重合反応について考えてみると,次の四つ

の素反応で進む5),6)。

開始反応 : I 2R・

R・+M RM・(≡Mn・)

生長反応 : Mn・+M Mn+1

停止反応 : 2Mn・ P(再結合)

2Mn・ 2P(不均化)

連鎖移動反応: Mn・+A P+A・

式中,M,I,PおよびAはそれぞれモノマ,開始剤,生成ポリ

マおよび連鎖移動剤である。また,R・は開始剤の分解によ

りできる一次ラジカル,M・は生長ラジカルである。ここで,

残存モノマ量を無視して考えると,生成するポリマの鎖長は,

生長反応と停止反応および連鎖移動反応の競合反応により決

まることがわかる。つまり,生長反応が速いほど,すなわち

ktr

ktd

ktc

kp

ki

kd

Page 29: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7) 29

高反応性モノマを使用したところ,塗膜強度を上げることに

成功した。

〔4〕 TF-4200シリーズ,TF-3348-741の特性

4. 1 リペア性

表1に各塗料の引張り破断強さと180°はく離強さの値を示

す。TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は,塗膜強度(引張

り破断強さ)が上がり,はく離強さを上回っていることが確

認できた。また,図5,図6のように,塗膜をきれいに引き

剥がすことができる。

4. 2 一般特性

TF-4200シリーズおよびTF-3348-741の一般特性を従来品と

比較して表2に示す。TF-4200シリーズは,粘度の違いによ

り3つの品番がある。どの品番も従来の溶剤型塗料よりも乾

燥時間が短くなっている。TF-3348-741も従来UV硬化型塗料

よりも硬化性が良くなっている。また,どちらの塗料も伸び

が大きく柔軟性に優れる。

4. 3 絶縁信頼性

TF-4200シリーズおよびTF-3348-741の絶縁信頼性の評価

結果を図7に示す。評価は,ガラス基材上に形成したライン/スペース=40/10 µmのITO櫛型パターン電極上に,これらを

夫々塗布・硬化した試料に,60℃/90%RH雰囲気下で電極間

に直流電圧10 Vを印加して行った。図7よりTF-4200シリー

ズ,TF-3348-741ともに,試験時間500 hにおいても109Ω前後

の高い絶縁抵抗を維持しており,優れた絶縁信頼性を持つこ

とが確認できた。

〔5〕 結  言

ハードセグメントとソフトセグメントからなるブロック型

コポリマに,粘着付与剤を組み合わせることで,密着性と絶

表1 引張り破断強さと180°はく離強さの比較 引張り破断強さを単位厚さ当りに換算し,180°はく離強さと比較すると塗膜の引き剥がしの可否がわかる。

Table 1 Tensile strength and 180°peeling strength for various coating materialsComparison of the tensile strength and the 180°peeling strength accounts for whether each coating film can be peeled or not.

項  目

表2 一般特性 TF-4200シリーズは粘度違いで3つの品番がある。TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は優れた硬化性(乾燥性)を持つ。

Table 2 General properties of various coating materialsTF-4200 series has three products with different viscosities. TF-4200 series and TF-3348-741 have excellent curability.

項  目TF-4200シリーズ 従来

溶剤型塗料TF-3348-741

従来

UV硬化型塗料EB-45 EB-451 EB-452

外  観

不揮発分(%)

粘度〔25℃〕(Pa・s)

引張り弾性率〔25℃〕(MPa)

引張り破断点伸度〔25℃〕(%)

硬化条件タックフリータイム

完全硬化時間

青色透明 青色透明

28

0.6

常温/12 min

常温/24 h

400

5

淡黄色透明

100

1.8

1,000 mJ/cm2

(at 365 nm)

120

60

黄色透明

100

1.8

1,500 mJ/cm2

(at 365 nm)

2

20

25

0.4

常温/10 min

常温/6 h

12

700

28

0.7

30

1.2

単  位

MPa

µm

N/m

N/m

20

150

3,000

500

TF-4200シリーズ

引張り試験

180°はく離強さ

塗膜の引き剥がし

破断強さ

試験片厚さ

単位厚さ当りの破断強さ

モノマの反応速度(kp)が大きいほどポリマの重合度が上が

ることになる。

したがって,鎖長の短い反応性オリゴマを用いて塗料の粘

度を高くすることなく,モノマに反応性の高いものを配合し

て硬化・架橋時の重合度を上げ,架橋密度を高くすることで,

より強靭な塗膜を得ることができる(図4)。そこで特殊な

7

150

1,000

N.D.

不可

従来溶剤型塗料

14

300

4,200

400

TF-3348-741

0.4

300

110

N.D.

不可

従来UV硬化型塗料

高反応性モノマによる架橋 反応性オリゴマ

図4 TF-3348-741の塗膜強度発現機構 高反応性モノマの配合により重合度を上げ,架橋密度を高くすることができる。

Fig. 4 Mechanism of exerting film intensity for TF-3348-741New reactive monomers promote polymerization and cross-linkage.

Page 30: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)30

縁信頼性に優れ,かつ引き剥がしによる塗膜のリペアに対応

可能な,溶剤型防湿絶縁塗料TF-4200シリーズを開発した。

また,特殊な高反応性モノマを使用し硬化・架橋時の重合度

を調整することにより,速硬化性で絶縁信頼性に優れ,かつ

引き剥がし可能な,UV硬化型防湿絶縁塗料TF-3348-741を開

発した。

TF-4200シリーズは,特にリペア性が求められている大型

LCDにすでに採用されており,TF-3348-741も現在PDP用途を

中心に適用検討中である。今後は,高耐熱化,および狭ピッ

チ化に対応するさらなる高絶縁信頼性を目指し,開発を行っ

ていく予定である。

参考文献1)第4世代のLCD製造・検査技術,プレスジャーナル(2000)

2)高分子学会編:高分子新素材 One Point-18 高機能接着剤・粘着

剤,91-104,共立出版(1989)

3)プラスチック・機能性高分子材料事典,411-416,産業調査会

(2004)

4)向井,金城:実学高分子,66-87,講談社サイエンティフィク

(1999)

5)日本化学会編:新実験化学講座19 高分子化学[Ⅰ],44-51,丸

善(1978)

6)高分子学会編:入門 高分子材料設計,1 5 - 2 2,共立出版

(1983)

図5 TF-4200シリーズの引き剥がし TF-4200シリーズは引き剥がしによりリペアできる。

Fig. 5 Peeling of TF-4200 seriesTF-4200 series can be repaired through peeling.

時間(h)

絶縁抵抗(Ω)

0 100 200 300 400 500 600

1010

109

108

107

106

TF-4200シリーズ

TF-3348-741

60℃/90%RH,印加電圧10V

図7 絶縁信頼性 TF-4200シリーズおよびTF-3348-741は絶縁信頼性試験500 h後でも高い絶縁抵抗を維持している。

Fig. 7 Insulation reliabilityTF-4200 series and TF-3348-741 kept excellent insulation resistance even

after 500 h of the high temperature and high humidity bias test.

図6 TF-3348-741の引き剥がし TF-3348-741も引き剥がしによりリペアできる。

Fig. 6 Peeling of TF-3348-741TF-3348-741 can also be repaired through peeling.

Page 31: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

U.D.C. 621.39.049.7.002.3:621.791.3:536.49:678.6.046:612.314.49

31

環境対応高耐熱基板材料MCL-E-679FGHigh Heat Resistance Substrate Material MCL-E-679FG for Environmentally-Friendly Printed Wiring Board

宮武正人* Masato Miyatake 村井 曜* Hikari Murai

福田富男* Tomio Fukuda 島岡伸治** Shinji Shimaoka

電子機器の小形化や高機能化に伴い,半導体パッケージに使用されるプリント配線

板は薄形化,高密度化,高剛性化等が強く望まれている。また,環境保護の取り組み

として実装時の鉛フリープロセスに対応した基板,および燃焼時に有毒ガスが発生し

ないハロゲンフリー基板への要求も高まっている。

当社では耐熱性やフィラーの分散性,樹脂-フィラー界面の接着性を向上させる独

自の界面制御技術(FICS: Filler Interface Control System)を確立した。本技術を適用

して開発したMCL-E-679FGは,高耐熱性,低熱膨張性および高剛性を有し,かつハ

ロゲン化合物,リン化合物を用いずに難燃性UL 94 V-0を達成している。また,MCL-

E-679FG(S)はMCL-E-679FGと同様の特性を有する上に,さらに耐熱性やピール強度

が向上しており,フリップチップパッケージ等への適用も可能である。

*当社 電子材料研究所 **当社 配線板材料事業部

〔1〕緒  言

近年,携帯電話,ノートパソコン等の携帯端末の小形化や

高機能化に伴い,それらの電子機器に使用される半導体パッ

ケージは小形化,薄形化,高密度化がますます進んでおり,

多ピン化や端子の狭ピッチ化およびチップの微小化は年々加

速の一途をたどっている。同時に環境保護に関する問題意識

の高まりから,用いられる基板や実装部品のハロゲンフリー

化や鉛フリー化が進んでいる。

一般にプリント配線板や半導体パッケージに用いられる基

板には,難燃性を付与するためにハロゲン系難燃剤(主に臭

素系)が用いられているが,燃焼時に猛毒のダイオキシン類

の発生が懸念されるため,使用しない方向にある。一方,部

品の実装においては従来Sn-Pb系はんだが主に使用されてい

たが,近年は廃棄処理時などに土壌を汚染するので鉛を用い

ないはんだ材料への転換が進んでいる。鉛フリーはんだでは,

融点が10℃から40℃ほど上昇するため1),実装時におけるリ

フロー温度も同程度上昇する。このような状況なので,環境

保護に対応するパッケージ用基板には,ハロゲンフリー化と

ともに,鉛フリープロセスに対応可能な,優れた耐熱性が要

求されている。また,パッケージのパッド面積は微小化が進

んでおり,鉛フリーはんだボールの特性変化と相まって,は

んだボール接続の信頼性が高い材料という要求がある。その

ため,用いられる基板にはピール強度の向上が強く望まれて

いる。

また,半導体パッケージにおいてチップの接続方式は,汎

用のワイヤボンディング接続に加え,近年はフリップチップ

接続も使われるようになってきている2)。フリップチップ接

続の場合,配線の微細化や高密度化を目的に,ビルドアップ

層を設けた配線板が用いられる場合が多く3),この様なパッ

ケージ基板ではビルドアップ層の熱収縮に伴う反り等の変形

を低減するために,基板側にはガラス転移温度(以下,Tgと

略す)や弾性率,耐熱性が高い材料が要求されてきている。

本報では,難燃性を確保し,かつ,高耐熱性,低熱膨張性,

高弾性率,高ピール強度等の性能を発揮し,信頼性向上に有

効なパッケージ用基板材料を開発したので報告する。

〔2〕MCL-E-679FG, MCL-E-679FG(S)の開発

従来,ハロゲンフリーで難燃性UL 94 V-0を達成する手法と

しては,リン系化合物を主体に窒素化合物や金属水酸化物を

併用する方法が知られている。しかし,この手法ではリン系

化合物のため高い耐熱性の発現は困難であった。

According to the recent improvements in miniaturization and performance of

electronic equipment, lower thickness, higher wiring density and higher elastic modulus

are required of printed wiring boards (PWBs) for semiconductor packages. In addition,

substrates suitable for lead-free soldering processes and also halogen-free without

generating harmful gases are required because of an increasing desire to protect the

environment.

We have developed a new filler treating technology called the Filler Interface Control

System (FICS) that improves heat resistance, filler dispersion, and adhesion between

resins and fillers. By applying this technology, we have developed MCL-E-679FG, which

satisfies UL 94 V-0 without halogen and phosphorus compounds and has high heat

resistance, low thermal expansion, and a high elastic modulus. MCL-E-679FG(S) has

higher heat resistance and peel strength than MCL-E-679FG, and is particularly

suitable for flip chip packages and the like.

Page 32: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

開発品の難燃化コンセプトは,①難燃性と耐熱性に優れる

樹脂,②金属水酸化物を主とした無機フィラー,③界面制御

技術(FICS)3)でフィラーを高充填化することにより,ハロ

ゲン化合物,リン化合物を用いずに難燃性UL 94 V-0を達成す

ることとした(図1)。

図2に示すように,エポキシ樹脂内に占める耐熱成分の比

率が高いほど難燃化に必要な臭素(Br)含有量を少なくでき

る。本開発の樹脂系は,樹脂骨格中に占める耐熱成分の比率

が高く基板の難燃化に大きく寄与している。さらに,樹脂組

成物中にリン化合物を含んでいないため耐熱性が高く,かつ

32

高Tgを発現する。

金属水酸化物を適用する際の課題としては,充填量の増加

とともに難燃性が向上する一方で耐熱性は低下する点があげ

られる。そのため従来は難燃化に必要な量を充填した場合,

鉛フリーはんだプロセスに対応可能な高い耐熱性を得ること

はできなかった。そこで金属水酸化物を充填し,難燃性UL

94 V-0を維持したまま耐熱性を向上させる手法として,金属

水酸化物に対して界面制御技術(FICS)を適用した。本開発

のFICSは金属水酸化物の表面に嵩高い応力緩和処理層を形成

するもので,金属水酸化物中から水分が発生しても樹脂に直

接ダメージを与えることがない。そのため実装温度領域にお

いて水分発生に起因した樹脂クラックが抑制され,表1に示

すように未処理と比較してFICSは耐熱性が大幅に向上する。

また,高耐熱性金属水酸化物とFICSを併用すると,さらに耐

熱性のレベルが向上する(表1)。

さらにFICSは,フィラーの高分散性を発現し,フィラーを

高充填化した際に発生する樹脂ワニスの粘度上昇を抑えるこ

とができる。図3に示すように,FICSを用いたフィラー高充

填化ワニスの粘度は未処理と比較して,回転数に関わらず非

常に低いことがわかる。このため,樹脂にフィラーを高充填

化しても,ガラス基材への良好な含浸性を実現し,この材料

表1 フィラー高充填基板のはんだ耐熱性 FICSは優れた耐熱性を発現

する。

Table 1 Solder heat resistance of highly filled printed wiring board The FICS can afford higher heat resistance.

35

難燃性(V―0)に必要なBr量(%) 30

25

20

15

10

5

00.0 0.2 0.4

エポキシ樹脂内の耐熱成分比較(%)

0.6 0.8 1.0

図2 必要な臭素量とエポキシ樹脂の耐熱骨格の関係 V-0を達成するために必要な臭素の量は耐熱成分を多く含むエポキシ樹脂ほど少ない。

Fig. 2 Relationship between the amount of bromine required and that of heat-resistant elements in the epoxy resinThe ratio of bromine to heat-resistnat epoxy resin required for attaining V-0 is

very small.

項  目 測定条件 単位金属水酸化物

(未処理)

金属水酸化物

(FICS)

高耐熱性

金属水酸化物

(FICS)

はんだ耐熱性

(float)

260℃

288℃

s

s

60-100

10-30

>600

200-300

>600

>600

2.0

1.5

1.0

0.50 10 20 30 40 50 60

未処理

処理(FICS)

ワニス粘度(Pa・s)

測定回転数(rpm)

図3 フィラー高充填ワニスの粘度特性 FICSは高充填化ワニスの低粘度化に有効である。

Fig. 3 Viscosity of highly filled varnishThe FICS is effective in decreasing the viscosity of highly filled varnish.

フィラー

 難燃性 低熱膨張率 高弾性率

高耐熱性樹脂

 難燃性 高耐熱性

界面制御(FICS)

 高耐熱性(嵩高い応力緩和処理層) フィラー高分散性 樹脂―フィラー界面接着性

図1 MCL-E-679FGの開発コンセプト MCL-E-679FGの難燃性は高耐熱性樹脂と,独自の界面制御技術(FICS)を用いたフィラーの高充填化によ

り発現する。

Fig. 1 Concept for developing MCL-E-679FGMCL-E-679FG will have excellent flame retardant property depending on

high-heat-resistant resin and the FICS-based filler treating technology.

Page 33: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7) 33

行い,AEで解析した場合,低振幅側から樹脂の微小クラック,

樹脂-ガラスクロス界面の剥離,樹脂-フィラー界面の剥離

の順で分布する6)。FICSの適用の有無でAE解析を行った結果

を図5に示す。未処理では樹脂-フィラー界面での破壊が目

立つのに対して,FICSを適用すると樹脂-フィラー界面での

破壊はほとんど見られないことから,界面接着性が大きく向

上していることが確認できた。推定される界面破壊機構の概

要を図6に示す。未処理ではまず樹脂-フィラー界面での破

未処理 処理(FICS)

樹脂―フィラー界面の破壊

振幅(dB)

40400

50

100

150

200

250

50 60 70 80

伸び率1.0~1.5%

1.5~2.0%

90 100

0

50

ヒット数(hit)

100

150

200

250

50 60 70 80 90 100

樹脂―ガラスクロス界面の破壊

樹脂の微小クラック

未処理 処理(FICS)

界面破壊

フィラー

破断部

樹脂

クラックの成長

FICS

図5 フィラー高充填基板のAE解析FICSでは樹脂-フィラー界面の破壊がほと

んど無く,界面接着性が改善されている。

Fig. 5 Acoustic emission analysis of highlyfilled printed wiring boardThe substrate adopting the FICS has

hardly any destruction between resin andfiller, supporting that the adhesion of theinterface is improved.

図6 推定破壊機構の概要 FICSでは界面の表面処理層により,界面の接着性が

高くなり,かつ界面近傍の応力を吸収する

ことができる。

Fig. 6 Presumed mechanism of destruction In the FICS, interfacial surface treatment

layer improved the adhesion of the interfaceand also reduced the stress at the interface.

0105

106

107

108

109

1010

1011

1012

1013

1014

1015

500

抵抗値(Ω)

1,000

未処理

測定条件

 印加電圧 100V

 85℃85%RH

T/H壁間 0.3mm

処理(FICS)

1,500

処理時間(h)

図4 フィラー高充填基板の耐CAF性FICSによりフィラーの分散性が向上し,優

れた絶縁特性を発現する。

Fig. 4 CAF resistance of highly filled printerwiring board The substrate adopting the FICS exhibits

excellent insulating characteristics due to thehigh dispersion of filler.

で作製した基板の耐CAF(Conductive Anodic Filament)性は

非常に良好である(図4)。

FICSの適用の有無による樹脂とフィラーの界面接着性を,

アコースティックエミッション(以下,AEと略す)で解析し

た。AEは,材料の破壊試験において材料中の微視的な損傷,

樹脂亀裂,界面剥離等の不連続現象に伴って発生する弾性波

を検出することができ,界面接着性の評価に有効であること

が知られている5)。フィラーを充填した基板の引張り試験を

Page 34: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

表2 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の一般特性 MCL-E-679FGとE-679FG(S)は難燃性と高耐熱性のほかに,高弾性率や低熱膨張率の特長を有している。

Table 2 MCL-E-679FG and E-679FG(S)exhibit good flame retardant and high heat resistance, together with a high elastic modulus and low thermal expansion.

注)上記表中記載のデータは代表的な実験結果であり,保証値ではありません。

とFICSの併用により開発したMCL-E-679FG(S)の一般特性

も同時に示す。

MCL-E-679FGはハロゲンフリー,リンフリーで難燃性

UL94 V-0を達成している。また図7および図8に示すように,

MCL-E-679FGの曲げ弾性率は現行のパッケージ用基板に比べ

て1.2倍以上と高く,表面硬度は各基板温度において高いレベ

ルを維持している。このため,パッケージの薄形化によるそ

りの低減やワイヤボンディング接続工程の高速化等にも有効

である。

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)34

項  目

難燃性

ガラス転移温度(Tg)

熱膨張係数

曲げ弾性率

バーコール硬度

吸水率

耐湿耐熱性(dipping)

はんだ耐熱性(float)

ピール強度

比誘電率

誘電正接

熱伝導率

測定条件

UL-94

TMA法

厚さ方向(Tg前)

厚さ方向(Tg後)

たて方向

200℃

PCT 5h処理後

288℃, 20s

260℃

288℃

12µm

1GHz

1GHz

A

単位

ppm/℃

ppm/℃

GPa

%

s

s

kN/m

W/m・K

E-679FG

Halogen free

V-0

160-170

27-32

130-170

27-29

48-50

0.40-0.45

PCT 5h OK

>600

200-300

0.75-0.85

4.6-4.8

0.017-0.019

0.79-0.83

E-679FG(S)

Halogen free

V-0

165-175

27-32

130-170

27-29

48-50

0.40-0.45

PCT 5h OK

>600

>600

0.85-0.95

4.6-4.8

0.017-0.019

0.79-0.83

E-679

High-Tg FR-4

V-0

173-183

50-65

240-270

22-24

40-45

0.50-0.60

PCT 1h OK

>600

>600

1.00-1.10

4.2-4.3

0.021-0.022

0.30-0.40

E-679FG,E-679FG(S)

E-679

E-679

E-679FG,E-679FG(S)

2510

15

20

25

30

200

温度(℃)

曲げ弾性率(GPa)

図7 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の曲げ弾性率 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の曲げ弾性率は高Tg FR-4(E-679)よりも高い。特に200℃の高温

領域では1.2倍以上である。

Fig. 7 Bending elastic modulus of MCL-E-679FG and E-679FG(S)MCL-E-679FG and E-679FG(S)have higher modulus than the conventionalhigh-Tg FR-4(E-679):1.2 times higher at 200℃.

040

45

50

55

60

65

70

75

80

10050

バーコール硬度

150 200

基板温度(℃)

E-679

E-679FG,E-679FG(S)

図8 MCL-E-679FGとE-679FG(S)のバーコール硬度 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の表面硬度は高Tg FR-4(E-679)よりもさらに高いレベルであ

る。

Fig. 8 Barber-Colman hardness of MCL-E-679FG and E-679FG(S)MCL-E-679FG and E-679FG(S)have much higher surface hardness than

high-Tg FR-4 (E-679).

壊が発生し,その破壊を起点として樹脂へとクラックが成長

する。一方,FICSは界面接着性が高くフィラー表面の処理層

が界面近傍での応力を吸収することができるため,フィラー

を高充填しているにも関わらず,樹脂本来が持つ延性を十分

に引き出すことができると考えられる。

〔3〕 MCL-E-679FG, MCL-E-679FG(S)の特性と特長

MCL-E-679FGの一般特性を現行のパッケージ用基板MCL-

E-679と比較して表2に示す。また,高耐熱性金属水酸化物

Page 35: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

図9に板厚方向の熱膨張特性を示す。開発品(MCL-E-

679FG, E-679FG(S))は現行のパッケージ基板(MCL-E-679)

と比較して,フィラーの高充填化によりTg前後での熱膨張率

がそれぞれ約1/2と非常に小さい。このため,温度サイクル試

験などのスルーホール接続信頼性の向上が期待できる。

MCL-E-679FG(S)はMCL-E-679FGの特性に加えて,さらに

耐熱性とピール強度が向上した基板である。特に,基板の両

面にビルドアップ層を配した層構成において,リフロー

(Max.260℃)で10サイクル以上通しても基板の膨れが発生せ

ず,優れた耐熱性を発現する(表3)。また,ピール強度も

向上しており,高い接続信頼性が期待できる。MCL-E-679FG

(S)は,今後の小形化,薄形化,高密度化するBGA(Ball Grid

Array),CSP(Chip Scale Package),BOC(Board on Clip)

等に加え,フリップチップ接続を用いたハイエンドグレード

のパッケージにも対応可能な材料と考えられる。

〔4〕結  言

高耐熱樹脂とフィラー,および耐熱性を発現する独自の界

面制御技術(FICS)の併用により,パッケージに対応可能な

MCL-E-679FGおよびMCL-E-679FG(S)を開発した。

MCL-E-679FGは,ハロゲン化合物,リン化合物を使用せず

に難燃性UL 94 V-0を達成すると同時に,鉛フリープロセスに

も対応可能な高耐熱性や高弾性率,低熱膨張率を発現してい

る。MCL-E-679FG(S)はMCL-E-679FGの特性に加えて,さら

に優れた耐熱性とピール強度を有しており,ハイエンドグレ

ードのパッケージにも適用可能と考える。

35

50 100 150 200 250

変位(板厚方向)

温度(℃)

E-679大

E-679FG,E-679FG(S)

リフロー試験領域での変位差

熱サイクル試験領域での変位差

図9 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の熱膨張特性 MCL-E-679FGとE-679FG(S)の熱膨張率は高Tg FR-4(E-679)の約半分

である。

Fig. 9 Thermal expansion of MCL-E-679FG and E-679FG(S)MCL-E-679FG and E-679FG(S)have a

thermal expansion about half that of high-TgFR-4 (E-679).

表3 ビルドアップ層構成の耐熱性 MCL-E-679FG(S)はビルドアップ層構成においても優れた耐熱性を発現する。

Table 3 Heat resistance of build-up PWBsBuild-up PWBs using MCL-E-679FG(S)showed excellent heat resistance.

○:膨れ無し×:膨れ発生(n数:3)

層構成銅

基板

ビルドアップ層

ビルドアップ層

項  目 サイクル数 MCL-E-679FG MCL-E-679FG(S)

リフロー耐熱性

(Max.260℃)

3

5

10

○○○

○○○

×××

○○○

○○○

○○○

参考文献1)西村:鉛フリーはんだ問題点と実用化状況,実装技術,8,26-29

(2004)

2)佐藤:SiP実装技術,エレクトロニクス実装学会誌,2,111-115

(2004)

3)高根沢,外:次世代パッケージ基板用ビルドアップ材料 AS-11G,

日立化成テクニカルレポート,41,35-38(2003)

4)武田,外:高弾性・低熱膨張材 MCL-E-679F,日立化成テクニカ

ルレポート,32,29-32(1999)

5)大塚:複合材料の非破壊検査-2.アコースティックエミッショ

ン,日本複合材料学会誌,3,102(1984)

6)島岡,外:アコースティックエミッションを用いた樹脂-充填剤

界面接着性の解析,MES 2000(第10回マイクロエレクトロニク

スシンポジウム)論文集,139-142(2000)

Page 36: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)36

製品紹介 環境対応高周波多層材料

MCL-EX-77G MCL-LZ-71G情報通信分野の電子機器で使用さ

れる信号の高速大容量化(高周波数

化)が進んでいます。これらの機器

に搭載される基板材料には,信号の

高周波数化対応として低誘電率,低

誘電正接化が求められています。ま

た,環境に対応した電子機器の要求

もあり,基板材料には鉛フリーはん

だに対応できる高耐熱化やハロゲン

フリー化が求められています。

このような背景から当社では,優

れた誘電特性を維持しつつ,ハロゲ

ンフリーで高耐熱性(高Tg)を実現し

た,環境対応高周波多層材料MCL-

EX-77G,および MCL-LZ-71Gを開

発しました。

MCL-EX-77Gはミドルレンジの通

信分野に適合した誘電特性で,高い

Tgを有しており,耐熱性に優れて

います。MCL-LZ-71Gはさらに優れ

たハイレンジの通信分野に適合した

誘電特性を有しており,GHz帯での

伝送損失の大幅な低減が可能です。

いずれの開発品も低熱膨張率(CTE)

であり,耐CAF性も良好で信頼性の

高い材料です。

これらの開発品はネットワーク関

連機器,携帯電話基地局,高周波部

品等の用途と,MCL-EX-77Gについ

ては,さらに高速用PKG用途への展

開が期待されます。

(配線板材料事業部)

表1 環境対応高周波多層材料MCL-EX-77G,MCL-LZ-71Gの特性

項  目 条  件 単  位 MCL-EX-77G MCL-LZ-71G

難燃系

比誘電率

誘電正接

Tg

CTE

耐熱性

吸湿耐熱性

耐CAF性

1GHz*1)

1GHz*1)

1GHz*2)

DMA法

TMA法

Z ( < Tg)

T-288*3)

288℃ 10 s float*4)

PCT 2 h+

260℃ 20 s dip

85℃ 85%RH,100 V

ppm / ℃

min

cycle

h

ハロゲンフリー

3.7~3.9

0.011~0.013

0.008~0.010

210~220

160~170

40~50

>10

>10

OK

>1,000

ハロゲンフリー

3.5~3.7

0.005~0.007

0.004~0.006

210~220

165~175

40~50

>20

>10

OK

>1,000

*1)トリプレートライン共振器法 *2)マテリアルアナライザー法 *3)IPC-TM650 2.4.24.1 *4)22層板

表1のデータは当社における代表的な測定値であり,保証値ではありません。

高耐熱多層用材料 MCL-E-679F(J)

近年,環境問題への関心が高まり,電子機器に使用される物質の規制が

強化されています。この流れを受け,

プリント配線板には,鉛フリーはん

だが使用されるようになってきまし

たが,従来のはんだに比べ融点が高いため,プリント配線板に使用され

る基板材料には,高い耐熱性が要求

されます。この要求に対し,当社で

は,高Tg多層材料MCL-E-679を上市

してきましたが,高多層分野ではさらなる高耐熱,高信頼性化の要求が

高まっています。そこで,独自の界

面処理技術による無機フィラーの均

一分散により,樹脂の低熱膨張化を

図り,高信頼性化を実現した,高耐

熱多層用材料MCL-E-679F(J)を開発

しました。

本材料の特長

(1)鉛フリー対応の試験条件である,

288℃のはんだフロート試験におい

て,膨れなどの異常がみられませ

ん。

(2)基材の熱膨張係数を現行材より

約30%低減したことにより,スルー

ホール信頼性に優れています。

(3)張り合わせ高多層板作成時の

IVH穴埋め性に優れています。

今後,これらの特性を生かし,高

多層分野,車載分野への展開が期待

されています。

(配線板材料事業部)

表1 MCL-E-679F(J)の特性

図1 張り合わせ4層板のIVH穴埋め性(t1.6 mmの基板2枚をt0.1 mmのプリプレグ2枚で張り合わせた4層板,IVH径0.3 mm,壁間1.27 mmピッチ)高アスペクト比のビア内でも穴埋め性は良好です。

項  目 条  件 単 位

はんだ耐熱性

T-288

ガラス転移温度

(Tg)

熱膨張係数

(CTE)

スルーホール信頼性

耐電食性

(耐CAF性)

288℃,10 sフロート

TMA法

DMA法

厚み方向(<Tg)

厚み方向(>Tg)

-65℃,30 min ⇔

150℃,30 min

85℃,85%RH,100 V

壁間0.3 mm

cycle

min

ppm/℃

cycle

h

MCL-E-679F(J)

>10

>20

170-175

195-205

35-45

180-240

>1,000

>1,000

高Tg FR-4

7

>20

173-183

205-215

50-60

200-300

600

>1,000

表1,図1のデータは弊社における代表的な実験結果であり,保証値ではありません。

t1.6 mm

プリプレグ樹脂でIVH穴埋め プリプレグ層

(t0.1 mm×2 ply)

Page 37: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

37日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)

製品紹介粘着テープ用背面処理剤

テスファインシリーズ粘着テープの背面やラベルの台紙

には,離形処理が施されています。一般にはシリコーン樹脂が塗工され

ていますが,粘着テープの多機能多用途化に伴い,離形層にもシリコーンでは発現できない中~重剥離性や

筆記性という特徴が求められるよう

になりました。

当社ではこれらの要求に対応した

背面処理剤テスファインシリーズを

上市しています。(表1,図1)テ

スファインシリーズは,主成分となるアミノアルキド樹脂にシリコーン

を少量(5wt%以下)変性したシリコーン変性背面処理剤と,シリコーンを一切使用しない非シリコーン系

背面処理剤から構成されます。シリ

コーン変性背面処理剤は導入するシ

リコーンの構造や量により離形層の

表面自由エネルギーをコントロール

することができ,剥離性を調整したり,筆記性(図2)を持たせたりすることがでます。一方,非シリコーン系背面処理剤はアミノアルキド樹

脂に表面自由エネルギーの低い長鎖

アルキル基を導入し,剥離性を発現しています。長鎖アルキル基の炭素

数や量により,剥離性能をコントロールすることができます。またこれ

ら背面処理剤は熱架橋型で,基材上で三次元架橋構造をとることによ

り,粘着層への離形成分の移行が少なく,紙,フィルムなど基材との密着性に優れています。

以上のように離形層にテスファイ

ンシリーズを用いることで容易に表

面自由エネルギーを制御できるた

め,従来の粘着テープ用途だけでなく,近年要求性能が多様化している様々な粘着加工製品に対応できま

す。特に非シリコーン系剥離剤はシ

リコーンの移行がなく電子材料用途

の粘着加工製品に好適で,将来の需要の伸びが期待されます。

(日立化成ポリマー株式会社)

表1 テスファインの性状と表面特性

図1 テスファインの表面自由エネルギーと剥離力

図2 筆記性

項  目

加熱残分

粘度

表面自由エネルギー

剥離力

筆記性

単  位

シリコーン変性系非シリコーン

(長鎖アルキル基変性)系備  考

TA31-209E TA31-086テスファイン

319TA31-082A

テスファイン

305

テスファイン

303

テスファイン

314

mPa・s

mN/m

N/50mm

45

75

22.4

1.1

×

45

75

24.6

2.2

×

45

75

27.8

3.3

×

45

75

30.5

4.3

50

60

29.0

4.9

48

40

31.3

7.4

61

220

34.8

13.2

108℃×3h

B型(25℃)

接触角計

アクリル系

粘着剤

油性インキ

性  状

表面特性

シリコーン変性アミノアルキド樹脂系

PET

長鎖アルキル基変性アミノアルキド樹脂系

テスファイン314

テスファイン303

テスファイン305

TA31-082A

TA31-086TA31-209E

テスファイン319

一般的なシリコーン樹脂系

20 25 30 35 400

5

10

15

表面自由エネルギー(mN/m)

剥離力(N/50mm)

テスファイン

塗工品

(TA31-082A)

シリコーン樹脂

塗工品

(市販クラフトテープ)

Page 38: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

日立化成テクニカルレポート No.45(2005-7)38

製品紹介 分解性ラップフィルムエレージュ

プラスチックによる環境汚染対策

の1つとして,生分解性樹脂を原料

とした種々の製品が開発されていま

すが,これらの樹脂には高価で成形

性および保存安定性が悪いなどの問

題がありました。そこで当社ではポ

リエチレン等の安価な汎用樹脂をベ

ースに,安価で成形性および保存安

定性に優れた分解性樹脂の開発を行

い,熱と光により分解が進行し,最

終的には微生物により水と二酸化炭

素にまで分解する分解性樹脂の開発

に成功しました。この分解性樹脂を

用いて,開発されたのが分解性ラッ

プフィルムエレージュです。

分解性ラップフィルム エレージ

ュは誤って自然界に放出・廃棄され

てしまっても,太陽の光と熱および

微生物によって分解され,自然環境

中に長年残存して美観を損ねたり,

植物生育に悪影響を与えたりしない

環境への負荷の少ないラップフィル

ムです。また基本機能に優れ,一般

のラップフィルムと同様にご使用い

ただけます。

環境適応製品として,分解するラ

ップフィルムの第一号として期待さ

れています。

(日立化成フィルテック株式会社)

図1 分解性ラップフィルムエレージュ 図2 分解性ラップフィルムエレージュ分解機構

使用中 紫外線,熱による分解,樹脂の低分子化 微生物の働きによる生分解

第一段階:3ヶ月~6ヶ月 第二段階:1年~2年

水と二酸化炭素

Page 39: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

編集委員

お問い合わせ先

相 原 章 雄

関   泰 幸

中 村 吉 宏

前 川   麦

板 橋 雅 彦

塚 越   功

中 山 憲 一

山 寺   隆

市 村 茂 樹

坪 松 良 明

沼 田 俊 一

横 澤 舜 哉

大 森 英 二

戸 部 豊 男

藤 岡   厚

太 田 文 彦

岡 村 昌 彦

中 島 文 一 郎

堀 部   治

宮 崎 安 弘

日立化成テクニカルレポート 第45号

発    行 2005年7月

発 行 元 日立化成工業株式会社〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1番1号(新宿三井ビル) 電話(03)3346-3111(大代表)事務局 研究開発本部研究開発推進グループ 電話(03)5381-2389

編集・発行人   義之

印 刷 所 日立インターメディックス株式会社〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目1番地 5 電話(03)5281-5001(ダイヤルイン案内)

©2005 by Hitachi Chemical Co., Ltd. Printed in Japan(禁無断転載)

本資料に掲載している物性値は保証値ではありません。参考値です。実際の使用に当たりましては事前に十分なチェックをお願いいたします。

・掲載事項に関するお問い合わせにつきましては,弊社インターネットホームページの下記アドレスのお問い合わせフォームをご利用くださるか,または下記事務局までお問い合わせください。お問い合わせページアドレス:https://www.hitachi-chem.co.jp/cgi-bin/contact/other/toiawase.cgi

・「製品紹介」に関するお問い合わせにつきましては,弊社インターネットホームページの下記アドレスの各製品紹介をクリックして,お問い合わせフォームをご利用ください。製品紹介ページアドレス:http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/index.html

この印刷物は環境に配慮し、植物性大豆油インキを使用しています。 古紙配合率100%再生紙を使用しています。

編集後記

今回は日立化成グループの有機系高機能材料製品の技術論文を取り上げました。お客様の多様なニーズに合わせてこれらの製品開発を進めるには,これまで培ってきたプラットホーム技術に科学的知見をうまく組み合わせることが重要です。ごらん頂いたように,これまで培ってきたフィルム技術にプラスチックの分解メカニズムを組み合わせることや,塗料樹脂技術や耐熱性樹脂技術に分子間会合や分子内会合のメカニズムを組み合わせることで,相反する製品特性の両立を実現してきました。今後も製品開発に直結するプラットホーム技術の育成と科学的知見の深耕に努めて,お客様の多様なニーズにお答えしていこうと考えています。

Y.T.

Page 40: テクニカルレポート - hitachi-chem.co.jp · 3 第 45 号 2005年7月 テクニカルレポート 巻頭言 わたしの研究の極意 5 山口由岐夫 論 文 リチウムイオン電池負極用バインダ樹脂

ホームページアドレス http://www.hitachi-chem.co.jp