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2014年度 卒業論文

日本の英語教育におけるALTの役割の再検討:

「日本人の指導者研修」としてのALT

慶應義塾大学

文学部人部社会学科

教育学専攻4年 松浦良充研究会

11112380 野川海

目次                             

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1                                     

序説 本研究のテーマ及び導入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第1節 小学校英語教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1-1 小学校への英語教育の導入の経緯

1-2 小学校英語における指導者の充実

1-3 小学校英語教育の課題

1-4 小学校教員への指導者研修

第2節 ALT(外国語指導助手)とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

2-1 ALTの意義

2-2 ALTの役割

2-3 ALTの雇用形態

2-4 ALTの現状

2-5 ALTの資格要件

第1章 先行研究検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

第1節 ALTの人員不足(数)の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

第2節 「偽装請負」問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

第3節 教職資格又は経験が必須ではないALTの質の問題・・・・・・・・・・・・・29

第2章 筆者の主張及び検証方法の提示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

第1節 まとめと筆者の主張の提示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

第2節 検証方法の提示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

第3章 仮説検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

第1節 韓国の教員研修:EPIKプログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

1-1 韓国の小学校英語教育

1-2 韓国の教員研修

1-3 EPIKプログラム

第2節 MEF(Monbusho English Fellow)制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

第3節 MEF制度からJETプログラムへの職務の変遷の要因・・・・・・・・・・・・・38

終章 まとめと示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

第1節 検証のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

第2節 示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

第3節 残された課題(※未執筆)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41

参考文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53

アブストラクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

序章

序説 本研究のテーマ及び導入

2011年度より、日本においても公立小学校に「外国語活動」として英語教育が導入された。経済のグローバル化や情報通信技術の情報化が進む21世紀では、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどの地方言語であった英語は、国際的なコミュニケーションツールとしてその重要性を増している。諸外国においても、外国語教育に積極的な取り組みがなされる状況の中、日本もまた例外ではなく、世界的な英語教育への取り組みに遅れないために、外国語教育の在り方が問題とされている。

小学校英語教育についてはその導入に向けてその目的や意義、有効性、他教科との関係から賛否両論含め様々な議論がなされてきたが、本論では小学校英語教育の是非については深く言及しない。

小学校の英語教育では、担任と外国語指導助手(ALT)と呼ばれる日本人英語教員の補佐役の外国人とのティーム・ティーチングが望ましいとされている。しかし、実際にはALTに対して様々な問題が指摘されている。筆者はその中でも、まずALTの募集要項に記載されている資格要件の中で語学教師としての経験又は資格、教職経験又は教職資格が必須条件には含まれていないことに問題意識を感じた。また、唯一の必須要件として挙げている大学の学士号取得も、学部や専攻は問われていない。つまり、大学等で教職課程のコースをとらず、外国語教育について知識のない状態であるにも関わらず採用されているのである。現状ではALTは日本へ招致後、様々な研修を受けて、日本人教員もティームティーチングについて研修を受けて教職に立つ。しかしこれは時間的、金銭的にも非常に負担があり、二度手間であると言わざるをえない。特に日本人の教師は世界的に見ても負担感が大きく、英語教育に対しても負担を感じる人も多い。先行研究者の中ではALTの資格要件として外国語教育について修得した人材を招致するべきという指摘があるが、筆者は日本人の教員研修にあたってALTがその役割を果たせないかという点に着目し、本論でALTの役割について検討していく。

第1節 小学校英語教育

1-1 小学校への英語教育導入の経緯

中学校以降で行われていた外国語(英語)教育に対して、小学校段階で外国語教育を行うことを初めて公に検討されたのが、1986年4月の臨時教育審議会第二次答申[footnoteRef:1]である。答申では「日本の外国語教育、とくに英語教育は長時間の学習にもかかわらず極めて非効率であり、改善すべき」[footnoteRef:2]と外国語教育の必要性を訴えている。具体的には、「中学校、高等学校等における英語教育が文法知識の修得と読解力の養成の重点が置かれ過ぎている」[footnoteRef:3]点、「大学においては実践的な能力を付与することに欠けている」[footnoteRef:4]点など、根本的な教育内容の見直しを検討すると同時に、初めて公に「英語教育の開始時期についても検討を進める(下線筆者)」[footnoteRef:5]という英語教育の前倒しの検討を意味する文言が入った。 [1: 臨時教育審議会『教育改革に関する第二次答申』臨時教育審議会, 1986] [2: 同上(1), p.114.] [3: 同上(1), p.114] [4: 同上(1), p.114] [5: 同上(1), p.114]

1991年12月の臨時行政改革推進審議会答申は「小学校においても英会話など外国語会話等の特別活動を推進する」[footnoteRef:6]、「英会話など外国語によるコミュニケーション能力の育成をねらいとする教科の新設について検討する」[footnoteRef:7]など、小学校における外国語教育とコミュニケーション能力の育成について提言がなされた。 [6: 臨時行政改革推進審議会「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第 2 次答申:平成 3 年 12 月 12 日(資料)」『地方自治』(530), 1992, pp.105-126] [7: 同上(6)]

翌年(1992年)には鳩山文部大臣が研究開発学校制度により国際理解教育の一貫として、英語教育を試験的に導入することを表明し、大阪の公立小学校2校(真田山小・味原小)が研究開発学校として指定された。この研究開発学校は、小学校での英語教育の在り方に関する実験的な試みとして開始された。1996年(平成8年)から全都道府県に1校ずつ指定され、2005年度には77校の指定校が研究課題に取り組んでいる。

1993年7月には「外国語教育の改善に関する調査研究協力者会議」による「中学校・高等学校における外国語教育改善の在り方について」[footnoteRef:8]という報告書が提出された。報告書では、「児童は、外国語に対する新鮮な興味と率直な表現力を有し、音声面における柔軟な吸収力を持っているため、外国語の習得に極めて適している。そのため、小学校段階から外国語教育を開始すれば、その能力を日本人の外国語の能力は著しく向上する」[footnoteRef:9]と英語教育の開始時期を小学校から始めることの有用性について述べている。ただ一方では、小学校段階から外国語教育を実施するには「小学校教育の基本的な在り方や目標についてどう考えるのかという問題、教員の確保の問題、教科のとしての目標、内容、評価をどうするのかという問題、他の教科との関係の問題等検討すべき多くの問題がある」[footnoteRef:10]とされ、そのためまずは先述の研究開発学校のような「実践的な研究を一層積み上げる」[footnoteRef:11]よう提言されている。 [8: 外国語教育の改善に関する調査研究協力者会議「中学校・高等学校における外国語教育改善の在り方について(報告)」平成5年7月30日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/04070501/009/002.htm(取得日2014年7月20日) ] [9: 同上(8)] [10: 前掲(8)] [11: 前掲(8)]

1996年7月には第15期中央教育審議会(以下「中教審」)が第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」を公表し、以下のように述べている。

(前略)小学校における外国語教育については、教科として一律に実施する方法は採らないが、国際理解教育の一貫として、『総合的な学習の時間』を活用したり、特別活動などの時間において、学校や地域の実態等に応じて、子供たちに外国語、例えば英会話等に触れる機会や、外国の生活・文化などに慣れ親しむ機会を持たせることができるようにすることが適当であると考えた(後略)[footnoteRef:12] [12: 中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」平成8年7月19日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/04070501/009/003.htm(取得日2014年7月20日)]

同答申では、検討されていた小学校段階での外国語教育は、教科としてではなく、「総合的な学習の時間」や特別活動の時間を活用して国際理解教育の一環として実施することが提言された。教科の見送りの背景として、小学校児童の負担増大、教育内容の厳選、授業時数の縮減、といった問題や国語能力育成の重要性から上記の結論となった。

1998年8月の教育課程審議会の答申[footnoteRef:13]では、中学校、高等学校でそれぞれ選択科目として設定されていた外国語(英語)が必修化目になることが提言された。また小学校の外国語教育については、上述の中教審の答申と同様に「総合的な学習の時間」や特別活動の時間を活用して体験的な学習活動を行う必要があるとしている。 [13: 教育課程審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について(答申)」平成10年7月29日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_katei1998_index/toushin/1310294.htm(取得日2014年7月20日)]

同年12月には、2002年から実施される1998年版の小学校学習指導要領が告示された。いわゆる「ゆとり教育」の導入である。新設された「総合的な学習の時間」の中で、「国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること」[footnoteRef:14]と提示しており、2002年から初めて公式に小学校の英語教育活動の導入が始まった。また同年に告示された中学校の学習指導要領では、英語が必修科目となった。 [14: 文部科学省「小学校学習指導要領(平成10年12月) 第1章 総則」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1319944.htm(取得日2014年7月20日)]

以上、小学校英語教育が導入されるまでの経緯を述べた。特筆すべき点として、小学校英語教育はあくまでも中学校英語教育の前倒し、ではなく「国際理解教育」の一貫として導入されたことが挙げられる。これによって教科ではなく「総合的な学習の時間」を利用して英語教育を実施している。次項では、2001年以降の報告者や答申から、国際理解教育の他に「コミュニケーション能力」の育成が重要視されたこと、そのために英語教員の指導方法について改善が求められるようになったこと、特にALTの活用の促進が度々提言されてきたこと、を明らかにする。

1-2 小学校英語教育における指導者の充実

2001年に文部省の「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」が提出した報告書[footnoteRef:15]では、序文に「英語による基礎的・実践的なコミュニケーション能力をしっかりと身に付けること」[footnoteRef:16]を今後の最重要課題とし、英語の指導方法の改善について検討している。「小学校英会話学習について」の項目の中では以下のように述べられている。 [15: 文部科学省「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会(報告)」平成13年1月17日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/010110b.htm#e(取得日2014年7月20日) ] [16: 同上(15)]

小学校における英会話学習については、以下のような指導者の研修をはじめとした支援策について、今後、積極的に検討する必要がある。

小学校において英会話学習を効果的に実施するため、前述の文部科学省の「小学校英語活動実践の手引」等を活用し、英会話学習担当教員の指導者となる教員の研修を重点的に実施する必要がある。また、これらの教員を核に、各地域や校内等において英会話学習担当教員やALTを対象として、小学校英語の意義、理論、指導方法等についての研修を推進する必要がある。

小学校における英会話学習では音声を使った体験的な活動が重要であることから、ALTの小学校への派遣を充実することが特に重要である。これに加えて、海外勤務経験のある者、留学生等を特別非常勤講師やボランティアとして積極的に小学校で活用しティームティーチングを実施することが必要である。

中学校の英語担当教員が、小学校英語の意義、理論、指導方法等について研修を深め、小学校英語への支援・協力ができるようにすることも必要である。また、小学校での英会話学習と中学校の英語学習の連携を図るため、地域における合同の校内研修や研究会を設けることが望まれる。(後略)(傍線筆者)[footnoteRef:17] [17: 同上(15)]

この報告書で注目すべき点は、それ以前にはあまり本格的に議論されてこなかった英語教育の指導者の養成・研修について解説していることである。小学校教員の他にALT、海外勤務経験のある者、留学生、中学校教員などを挙げていることが特徴である。

2002年4月には、上述した1998年に告示された学習指導要領が施行され、小学校の外国語活動が本格的に実施された。

2002年7月には、英語教育改革に関する懇親会による「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」(以下戦略構想)が、翌年2003年3月にはより具体化された「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(以下行動計画)が策定された。「戦略構想」は前年2001年の「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」の報告を受け、1月から5月の5回にわたって行われた「英語教育改革に関する懇談会」の有識者の意見を踏まえ取りまとめたものである。この戦略構想は、英語教員の資質向上及び指導体制の充実、小学校の英会話活動の充実などを含めた問題について、長期的な見地から達成目標と検討課題を提案している。

2003年3月には、戦略構想に基づいて「行動計画」[footnoteRef:18]が策定された。行動計画は2003年度の予算措置などを踏まえながら、2008度までの5年間に「英語が使える日本人」を育成する体制を確立すべく、英語教育の改善の目標や方向性を明らかにし、その実現のために国として取り組むべき施策を具体的な行動計画としてまとめたものである。英語教育改善のためのアクションとして、(1)英語の授業の改善、(2) 英語教員の指導力向上及び指導体制の充実、(3) 英語学習へのモティベーションの向上、(4) 入学者選抜等における評価の改善、(5) 小学校の英会話活動の支援、(6) 国語力の向上、(7) 国語力の向上の7つの項目が目標として設定されている。小学校の英会話活動については、「ネイティブスピーカーなど高い英語力を有する者の活用が重要であるため、英会話活動を行う小学校については、その実施回数の3分の1程度は、ネイティブスピーカーや中学校の英語教員等による指導が行えること」[footnoteRef:19]を目標に、以下のような施策を通じて支援すると提唱している。 [18: 文部科学省「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」平成15年3月31日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/04042301/011.htm(取得日2014年7月20日)] [19: 同上(18)]

【指導方法の改善】

○小学校英会話活動推進のための手引の作成

 効果的な指導法や指導に当たっての配慮、中学校の英語教育を踏まえた指導の在り方など、小学校の英会話活動の指導に関する手引書を作成する。

○英会話活動の実施状況に関する調査の実施

 先述の英語教育に関する改善実施状況調査の中で、小学校の英会話活動の実施状況や内容などについて調査・公表し、一層の取組の改善に資することとする。

○研究開発学校制度の推進

 研究開発学校制度の下で、引き続き、小学校の英語教育に関する指導方法などを開発する。

【指導力及び指導体制の充実】

○英会話活動担当教員への研修の充実

 独立行政法人教員研修センターにより、英会話活動担当教員の指導者となる教員の研修を重点的に実施する。

  (平成15年度予定人数 600人)

○経験豊かなALTの配置促進

 JETプログラムや特別非常勤講師制度等を通じ、中・高等学校等での指導経験を有するALTの小学校への配置を促進する。

○英語に堪能な地域人材の活用促進

 学校いきいきプランや特別非常勤講師制度等を通じ、海外生活経験等により英語に堪能な社会人や留学生等の活用を促進する。

○中・高等学校教員の小学校英会話活動への参加の促進

 平成14年5月の教育職員免許法の改正により、中学校又は高等学校の教諭の免許状を有する者が小学校の相当する教科及び総合的な学習の時間の授業を担当することができるようになったことを踏まえ、小学校の英会話活動の支援とともに小・中学校等間の連携を促進する観点から、小学校の英会話活動への中・高等学校教員の活用を促進する。(後略)(傍線筆者)[footnoteRef:20] [20: 前掲(18)]

この行動計画の中でも、小学校の英語教育において、日本人教員の研修の他に、ALTの活用の促進、具体的には小学校への配置の促進を挙げていることに注目したい。行動計画の英語教員の指導力向上及び指導体制の充実の項目では、ALTを積極的に有効活用し、また正規教員としての活用の促進を以下のように提言している。

【ネイティブスピーカーの活用促進】

○ALT(外国語指導助手)の活用促進

 JETプログラム5によるALTの勤務年限の弾力化(最大3年から5年に拡大)や、単独での授業が可能な特別非常勤講師としての活用などを通じて、ALTの有効活用を促進するとともに、地方公共団体の配置要望に可能な範囲で応え、ALTの活用を促進する。また、活用状況は、先述の英語教育の改善実施状況調査により把握する。

○優れたALT等の正規教員への採用促進

 平成15年度からの3年間で中学について教員定数の加配等も活用し300人、将来的には、中・高等学校について教員定数の加配等も活用し1,000人の配置を目指し、ALT等として優れた経験等を有するネイティブスピーカーを正規教員として活用することを促進する。(傍線筆者)[footnoteRef:21] [21: 前掲(18)]

2005年10月の中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」[footnoteRef:22]では、「グローバル [22: 中央教育審議会「新しい時代の義務教育を創造する(答 申)」平成17年10月26日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05102601/all.pdf(取得日2014年10月29日)]

社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要がある」[footnoteRef:23]ことを指摘している。 [23: 同上(22)]

これを踏まえて、中教審初等中等教育分科会教育課程部会外国語専門部会(以下「外国語専門部会))は、小学校の外国語教育における教育目標と内容、教育条件、教育課程上の位置づけ等について具体的に検討を行い、2006年3月には小学校高学年の英語教育の必修化する内容の報告書[footnoteRef:24]が提出された。同報告書では、①「音声を中心とした英語のコミュニケーション活動や、ALT(外国語指導助手)を中心とした外国人との交流を通して、音声、会話技術、文法などのスキル面を中心に英語力の向上を図ることを重視する考え方」[footnoteRef:25]と、② 「英語を使った活動をすることを通じて、国語や我が国の文化を含め、言語や文化に対する理解を深めるとともに、ALTや留学生等の外国人との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、国際理解を深めることを重視する考え方」[footnoteRef:26]の二つを対比し考察している。そして「中学校での英語教育を見通して、何のために英語を学ぶのかという動機付けを重視する、言語やコミュニケーションに対する理解を深めることで国語力の育成にも寄与するとの観点から、②の考え方を基本とすることが適当であると考える」[footnoteRef:27]と指摘している。このことから、文部科学省は小学校英語教育の目標を当初の「国際理解」に加えて、「コミュニケーション能力」を深めるためのものとして捉えていることが明らかである。 [24: 文部科学省「小学校における英語教育について(外国語専門部会における審議の状況)(案)」平成18年3月http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/06032708/003.pdf(取得日2014年8月14日)] [25: 同上(24)] [26: 同上(24)] [27: 同上(24)]

また、小学校における英語教育の充実のために、指導者及びその資質の向上、ALTなどの英語に堪能な人材の配置と活用について、次のような方向で検討する必要があると述べている。

・ 小学校教員の英語指導力の現状を踏まえると、当面は学級担任(学校の実情によっては、担当教員)とALTや英語が堪能な地域人材等とのティーム・ティーチングを基本とする方向で検討することが適当と考える。今後、教育内容や指導方法の具体的な設計、研修による小学校教員の英語指導力確保の見通し、教材・教具の整備活用の見通し等を考慮しながら専門的に検討していく必要があると考える。

・ 学級担任及び担当教員に求められる英語及び英語教育に関する技能の内容と水準についてさらに具体化したうえで、現職教員研修のプログラムを開発・実施することが必要である。

・ 小学校における英語教育が充実の方向にあることから、教育課程上の位置づけなどを踏まえつつ、中期的な見通しを持って、大学の小学校教員養成課程における英語に関するカリキュラムの導入について、検討することが必要である。

・ 小学校における英語教育は、英語を用いたコミュニケーションを実際に経験させることによって、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、国際理解を深めることをねらいとするものである。このためには、外国人と直接コミュニケーションを行う機会をもつことは大いに有効であることから、ALTの一層の充実を図る必要がある。

・ その際、多様なコミュニケーションを経験するという観点からは、上記行動計画が指摘するように、ALTに限らず、留学生等の活用を含めて考えることが重要である。

また、ALTに加えて、海外勤務経験のある者や、英語に堪能な地域の人材を、特別非常勤講師等として積極的に活用すること、中学校等の英語教員が支援・協力することも重要であると考える。(傍線筆者)[footnoteRef:28] [28: 前掲(24)]

 同報告書では、学級担任とALTとのティーム・ティーチングを基本とする点、英語力に課題があるため現職教員に対する研修の必要性、「ALTの一層の充実」という言葉を用いてALTの活用促進を指摘している。

2008年1月に行われた、中教審の答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」[footnoteRef:29]においても、小学校の外国語活動について外国語専門部会と同様の提言がなされている。 [29: 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」平成20年1月http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/news/20080117.pdf (取得日2014年9月10日)]

これらの答申を受けて、2008年3月に告示された新学習指導要領[footnoteRef:30]では、小学校における「外国語活動」が小学校5年生、6年生を対象に新設された。内容的には、先述の外国語専門部会報告書、中教審答申を踏まえたものになっている。教育課程上の位置づけとしては、コミュニケーション能力の素地を養い、中学校との連携を図ることを目標にした教育内容は数値による評価はなじまないとして、「教科」としてではなく、「外国語活動」と位置づけられた。2011年度から小学校5,6年に年間35単位時間(週1コマに相当する)が導入されることになった。 [30: 文部科学省「小学校学習指導要領」平成20年3月http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/11/29/syo.pdf(取得日2014年10月12日)]

以上より、小学校英語教育の導入からその後の文部科学省の報告書や答申の提言を概観した。ここで明らかになったのは、小学校英語教育が「国際理解」と「コミュニケーション能力」を深めるためのものである点、小学校の英語教育においては、学級担任とALTとのティーム・ティーチングを基本とする点、指導者の研修と題して日本人教員の研修とALTの「活用促進」が度々指摘されてきた点である。当初国際理解教育の一環として小学校に英語教育を導入した後に、新たに「コミュニケーション能力」を付け加えた背景として、TOEFLの平均スコアがアジア21カ国中18位という日本人の英語能力の低さが課題として挙げられたことが大きい。[footnoteRef:31]受験者の数や特性が異なるため単純な比較はできないが、日本人の英語運用能力は国際的に見て十分でないことを問題視していることが下記を見れば明らかである。 [31: 『読売新聞』2000年2月5日夕刊「TOEFL平均得点 日本、初の500点台 アジア21か国中18位」]

(前略)今後、国民一人一人が、積極的にコミュニケーションを図ることの重要性を踏まえつつ、それぞれの必要に応じて外国語、特に英語によるコミュニケーション能力を身に付けることはますます重要な意味を持つものと考えられる。

そのような視点から現状を見ると、日本人の多くは外国語力が十分でないために、国際的な活動や外国人との交わりにおいて制限を受け、また、適切な評価が得られないといった事態も生じている。言わば国際共通語となっている英語によるコミュニケーションの能力の向上が強く求められているゆえんである。(後略)[footnoteRef:32](傍線筆者) [32: 前掲(8)]

(前略)現状では、日本人の多くが、英語力が十分でないために、外国人との交流において制限を受けたり、適切な評価が得られないといった事態も生じている。同時に、しっかりした国語力に基づき、自らの意見を表現する能力も十分とは言えない。(後略)[footnoteRef:33](傍線筆者) [33: 文部科学省「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想の策定について」平成14年7月12日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/020/sesaku/020702.htm#planhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/020/sesaku/020702.htm#plan (取得日2014年11月24日)]

文部科学省が小学校英語教育においてALTとのティームティーチングを推奨したのも、この日本人である教員の英語力の低さと関連している。

3つ目のALTの活用については、2001年の「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会報告」を始めとして、ALTの学校授業での活用、ALTを正規教員とするための研修など、ALTを実際に子供たちと直接コミュニケーションするために授業での活躍を求められている点が注目に値する。

次項で、小学校英語教育において認識されている課題について明らかにしていく。なお、ALTについてはその概要を第2節で概観していく。

1-3 小学校英語教育の課題

ここまで小学校英語教育の導入と、導入の後その条件設備として指導者の充実(日本人教員・ALTの両者に対して)が提言されてきたことを明らかにしてきた。本節では2011年度から実施された新学習指導要領以降の現在(2015年1月)、小学校英語教育において何が課題として認識されているかを英語教育について検討した最新の文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」による報告書[footnoteRef:34]と、日本英語検定協会による調査報告書[footnoteRef:35]から確認していく。 [34: 文部科学省「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」平成26年9月26日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/houkoku/attach/1352464.htm (取得日2015年1月1日)] [35: 公益財団法人日本英語検定協会「小学校の外国語活動及び英語活動等に関する現状調査」平成26年3月http://www.eiken.or.jp/eiken/group/result/pdf/sogo_2013_12.pdf (取得日2015年1月3日)]

「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」[footnoteRef:36]は文部科学省の「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を受けて平成26年2月に英語教育の在り方に関する有識者会議が小・中・高等学校を通じた英語教育改革についてまとめたものである。報告書では、改革の提言として、(1)国が示す教育目標・内容の改善、(2)学校における指導と評価の改善、(3)高校・大学の英語力の評価および入学者選抜の改善、(4)教科書・教材の充実、(5)学校における学校指導体制の充実、の5つを挙げている。本論では、報告書の中で小学校での指導者の研修とALTについて言及している課題を取り上げていく。なお、提言で内容が重複している場合省いていることをここに断っておく。 [36: 前掲(34)]

(1)国が示す教育目標・内容の改善では、小学校の課題として、以下を挙げている。

○外国語活動への取組が充実してきたものの、地域や学校、教員によりその取組に差があるという指摘がある。また、外国語指導助手(以下、「ALT」という。)の労務管理上、学級担任等とALTとがティーム・ティーチングができない状況もあり、ALTに指導を任せてしまうという状況も指摘されている。[footnoteRef:37](傍線筆者) [37: 前掲(34)]

(2)学校における指導と評価の改善では、以下が指摘されている。

○ 小学校中学年においては、これまでの高学年における外国語活動の実績を踏まえつつ、児童の発達段階に留意した指導内容や活動の設定、他教科等との連携強化を意識した効果的な指導方法等を更に充実・強化していく必要がある。

○ 小学校中学年から外国語教育を開始することを前提として、言語や文化についての体験的理解に加え、英語学習への動機付けを更に高め、コミュニケーション能力の素地を養うとともに、小学校高学年から卒業時までにコミュニケーションへの積極性やコミュニケーション能力の基礎を身に付けさせる指導法等の在り方について検討する。[footnoteRef:38](傍線筆者) [38: 前掲(34)]

(5)学校における学校指導体制の充実では、以下が挙げられている。

ALTの指導力の質向上や、JET-ALTへの生活支援の充実、地方自治体における財政負担、活用状況の地域間格差(半年に1回程度しか訪問がない学校も)がある。

【ALTに関して指摘される課題】

・教員とALTの打合せや研修時間の確保

・ALTの指導力の質向上

・地方自治体における財政負担

・JET-ALTへの生活支援の充実

○小学校高学年の英語教育が教科化される場合、より専門性の高い教科指導を行う指導者の養成・採用が必要である。一方で、現状は、小学校で専科指導を行っている学校の割合は低く(※28)、小学校教員で中学校外国語科の免許状を有する者は約4%という状況で、必ずしも外国語教育に関わっていない。

(※28 文部科学省「教育課程の編成・実施状況調査(H25)」より、5年生は5.8%、6年生は6.2%)

○これまでの小学校の学級担任を中心とした外国語活動における成果を十分に認識しながら、小学校における指導体制の在り方を検討するとともに、次期学習指導要領の改訂と並行して準備段階における専科指導者の養成・確保への支援が急務である。

○ 小・中・高等学校の教員の多くは指導力を向上させたいと感じているが、地域における研修機会が少ない、多忙により参加できないといった状況がある

○ 外国語講師、ALT、英語が堪能な地域人材等の外部専門人材の活用において、教員とのティーム・ティーチングなどの質を確保しつつ、効果的かつ、適切な運用を図るためのガイドラインを整備することも重要と考えられる。今後、モデルとなるガイドラインを策定し、地方公共団体、各学校において地域の実情を踏まえた活用を促す。  

例:

・外部人材として、外国語指導助手(ALT)、英語が堪能な地域人材などの活用促進方策(配置拡大、ガイドラインの策定等)

・ALT等向けの研修強化・充実 等[footnoteRef:39](傍線筆者) [39: 前掲(34) ]

 まとめると、日本人教員については、依然として教員や学校、地域の取り組みに対する理解や指導体制に格差がある点、指導方法等更なる充実、強化が必要である点、現状ではそのための地域における研修機会が少ない、多忙により参加できない点、専科指導者の養成・確保への支援が必要である点が指摘されている。ALTについては、依然配置拡大が求められている点の他に、新たにALTの指導力について向上が必要という点、ALT向けの研修の充実が指摘されている。

「小学校の外国語活動及び英語活動等に関する現状調査」[footnoteRef:40]は日本英語検定協会により、現在の小学校現場において、カリキュラムの編成・指導方法・教材の選択・研修及び焼酎連携などについて、どのような取り組みを行っているのか、また、どのような不安要素や課題を抱えているのかを、外国語活動及び英語活動等に関する設問によるアンケートを実施し、現状を浮き彫りするための調査である。 [40: 前掲(35) ]

調査は2013(平成25)年12月、全国の国公私立小学校のうち5,216校を対象に実施し、そのうち1,412校(27.1%)から回答を得ている。調査によると、外国語活動の年間授業時間数は「23~35時間」が小5で80.1%、小6で79.9%となっている。約8割の小学校で学習指導要領が定めた年間35時間の標準時間数を実施し、残る2割は何らかの形でそれ以上の授業時間数を組んでいる。また小4以下で英語教育を「実施していない」という学校は、小1・2が30.1%、小3・4が23.1%だった。7~8割の小学校は、小4以下でも総合的な学習の時間などを活用して独自に英語教育を実施している。

現在の「外国語活動」において、「問題や課題であると感じていること」の項目では、最も多かったのは「教員の指導力・技術」で55.5%、次いで「指導内容・方法」が49.2%、「ALT(外国語指導助手)との連携および打合わせ時間」が48.2%となった。小学校における外国語教育は担任とALTとのティーム・ティーチングを基本とし、かつ担任が主体となって行うことを基本とするため、項目内の「教員の指導力・技術」や「指導内容・方法」は生徒に対してだけでなく、ALTと指導する上での教員の指導力や方法について支援が求められていると解釈できる。文科省は小学校教員の英語研修を進めているが、実際に指導に当たる小学校教員の間では、ALTとどのように打ち合わせをするか、授業を行うかが課題として捉えられている。

1-4 小学校教員への指導者研修

前項では、小学校英語教育において指導者である日本時教員への研修が必要視されてきたことを明らかにした。本項では、現状小学校教員に対してどのような指導者研修が行われているかを概観していく。

吉田ほかが実施した「小学校英語に関する基本調査」[footnoteRef:41]では、「英語教育に関する研修」を2006年に公立小学校の教員に質問紙調査で答えている。その中の「校内研修の頻度」の項目では「実施していない」学校が過半数(54.9%)を占め、実施している学校でも「年に1回程度」(21.6%)がもっとも多い結果となった。ALTが中心となって指導している学校はそもそも6割以上が校内研修自体を実施していない、つまりALTに丸投げしている状況にある。また、「校外研修への参加頻度」の項目では、「ほとんど全員が参加していない」が62.0%、年間時数が35時間以上の場合、「ほとんど全員が参加していない」が33.5%、「ほとんど全員が参加している」 が20.4%と、研修に参加する教員自体が少ないことがわかる。 [41: 吉田研作ほか「小学校英語実施における課題と展望『小学校英語に関する基本調査』教員調査と保護者調査の結果から」http://www.arcle.jp/research/edu_english/data/pdf/0013_2.pdf (取得日2015年1月8日)]

しかしこの調査結果は2011年度から開始される小学校の「外国語活動」前であることから、現状も同じ結果とは限らない。現に、文部科学省は小学校外国語活動の導入に当たっての教員の指導力の向上に力を入れて取り組んでいる。2007年度より,教員研修センターにおいて指導主事等を対象とした「小学校における英語活動等国際理解活動指導者養成研修」の実施を開始している。2012年度には上記の中で目的別の2つのコースを開講し、参加人数を拡充した。 2008,2009年度には、各都道府県教育委員会において中核教員研修(文部科学省補助事業)を実施するとともに、2008年2月には、全国の小学校等で外国語活動に対応した研修の実施を依頼する通知を発出している。2009年1月には、教職課程や免許更新講習、採用選考や初任者研修において、外国語活動に係る内容を適切に取り扱うこと等を依頼する通知を発出した。2010年度から2013年度に、外国語活動の具体的な授業の在り方のモデルとなる実践事例を収録した映像資料(DVD)を作成・配付している。[footnoteRef:42] [42: 文部科学省「外国語活動の現状・成果・課題」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/05/01/1347389_01.pdf (取得日2015年1月5日)]

また、2020年度の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、文部科学省は小学校における指導体制強化を謳っている。2013年12月に公表された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」にもとづき、文部科学省は「英語によるコミュニケーション能力を有し、グローバル化に対応した人材の育成を強化するため、外部専門機関と連携した効果的な研修を通して、英語教育に携わる者の指導力の向上を図る事業を実施する」[footnoteRef:43]ことを決めた。そしてその一環として、小学校英語教育の推進リーダーを養成するための中央研修実施の実施が2014年から開始された。全体の構成として、集合研修1(実践のための研修)→授業実習→集合研修2(指導のための研修)→研修実習といった流れになっている。(図表1参照)具体的な内容は講義と活動体験として絵本の読み聞かせ、歌・チャンツ・教室英語、ALTとの打ち合わせに必要な表現、発音と綴りの関係、が盛り込まれている。[footnoteRef:44]その他にも都道府県・政令指定都市教育委員会が外部専門機関(外国の公的機関、大学等)と連携して指導力向上事業を実施しているが、国の指導力向上研修を修了した推進リーダーや域内の大学等との連携を期待している。 [43: 文部科学省初等中等教育局長「平成26年度英語教育推進リーダー中央研修実施要項」平成26年4月25日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/102_1/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/06/26/1348788_01.pdf (取得日2015年1月8日)] [44: 文部科学省「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/102_1/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/08/07/1350490_01_3.pdf (取得日2015年1月8日)]

図表1 英語教育推進リーダー中央研修の枠組み[footnoteRef:45] [45: 前掲(43)]

本項では、文部科学省が実施している小学校英語教育における指導者研修を概観した。研修事業では英語力テストを用いたりオンライン教材、サイトを通して参加者同士や講師と経験や振り返りを行ったりしているが、ALTは研修事業に全く携わっていない点が注目に値する。現状の教員研修ではALTを活用した取り組みがほとんどなされていないことを明らかにした。

第1節をまとめると、1998年告示2002年実施の学習指導要領までは、小学校英語教育は「国際理解教育の一環」として導入されたこと、その後から2008年告示2011年実施の新学習指導要領までは国際理解に付け加えてコミュニケーション能力の育成が求められたこと、指導者の充実として日本人教員の研修とALTの活用促進が度々提言されてきたこと、2011年以降の現在においても課題としてALTとの打ち合わせやティーム・ティーチングを行うための指導力、指導方法が挙げられていること、現在文部科学省が行なっている教員研修ではALTが全く活用していないこと、を明らかにした。本論では、小学校英語教育の改善にALTが大きなポイントとなると考え、ALTの役割を再検討していく。次節より、ALTについて概要を示していく。

第2節 ALT(外国語指導助手)とは

2-1 ALTの意義

小学校の英語教育では、授業のやり方として担任の先生とALTが二人で授業を行うティーム・ティーチングが望ましいとされている。しかし、なぜALTを活用する必要性があるのだろうか。この問に対して、渡辺(2011)[footnoteRef:46]が筆者と同じ見解を示しているためここに引用する。 [46: 渡辺一彦「外国語教育におけるJETプログラムの活用について」『異文化研究』(8), 2011, pp.129-144]

小学校の外国語教育を充実させる教材として、「英語ノート」の存在があるが、現時点においてこれは補助教材の位置付けであり、正式な教科書は無い。従って小学校英語教員の授業内の創意工夫が重要になってくる。しかし、大部分の小学校教諭は英語に接する機会が殆どないため、外国語活動(主に英語活動)に対して不安がある。それゆえ各自治体も公立小学校の外国語活動を各学校に任せて静観しているのではなく、外国語活動の情報共有や情報交換を行うための研修を実施している。しかし、日本語教師のみの教授法では外国語活動におけるコミュニケーション能力育成は非常に困難である。(中略)音声面の補助教材となるCDやDVDを積極的に活用しても自ずと限界がある。コミュニケーションとは相互の情報交換を前提とするものであり、外国語活動においてコミュニケーション能力を育成するためには意思疎通を行うための相手が必要である。自ら発した外国語を用いて相手との意思疎通ができたという喜びや、その体験を通して外国語への興味に対する動機づけが強化される。その動機づけに重要なのがネイティブ・スピーカーなのである。(中略)小学校の外国語活動においてコミュニカティブな授業を中心にするならば、児童とネイティブスピーカーを中心として対面教育が必要不可欠である。[footnoteRef:47](傍線筆者) [47: 同上(46), pp.129-130]

小学校の外国語活動の目的がコミュニケーション能力の育成であるため、生徒にはコミュニケーションの相手が必要である。しかし、現状の日本語教師は英語力や指導方法に課題があるため、単独では外国語活動のコミュニケーションに支障をきたしてしまう。日本語教師の問題に加えて、生徒の動機づけのため、小学校英語教育においてALTは必要不可欠といえる。

「英語教育の在り方に関する有識者会議 指導体制に関する小委員会」[footnoteRef:48]でも、小学校では、学級担任の役割を評価した上で、外国語講師や外国語指導助手(ALT)などの外部人材とのティーム・ティーチングが望ましいと提言されている。また、2006年(平成16)6月に公立小学校の児童、調査対象となる児童の保護者及び調査対象校の教員を対象として実施された外国語教育に対する意識調査[footnoteRef:49]でも、「小学校英語活動を行う場合に誰が教えるのがよいか」という質問項目において以下のような結果になっている。 [48: 文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議 指導体制に関する小委員会(第2回) 議事録」平成26年7月25日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/102_1/gijiroku/1352189.htm (取得日2015年1月4日)] [49: 文部科学省「小学校の英語教育に関する意識調査調査報告書 第2章 調査結果」平成16年6月http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/gijiroku/05032201/004/001/002.pdf (取得日2015年1月3日)]

図表2 小学校英語活動の望ましい指導者(回答者:保護者)

(資料[footnoteRef:50]より筆者作成) [50: 同上(49)]

図表3 小学校英語活動の望ましい指導者(回答者:教員)

(資料[footnoteRef:51]より筆者作成) [51: 同上(49)]

以上の調査結果から、保護者の約9割と教員の9割弱が「小学校の教員と英語を母語とする外国の人のティームティーチング」を望ましいと考えていることがわかる。

2-2 ALTの役割

次に、文科省と先行研究者の泉(2007)[footnoteRef:52]のALTの役割の捉え方について参照していく。 [52: 泉恵美子「小学校英語教育における担任の役割と指導者研修」『京都教育大学紀要』 110, 2007, pp.131-147]

「文部科学省が一般的に考える外国語指導助手(ALT)とのティーム・ティーチングにおけるALTの役割」[footnoteRef:53]では以下ALTについて以下のように述べている。 [53: 文部科学省「(別紙)文部科学省が一般的に考える外国語指導助手(ALT)とのティーム・ティーチングにおけるALTの役割」http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1304113.htm (取得日2015年1月4日)]

○ALTは基本的には担当教員の指導のもと、担当教員が行う授業にかかる補助をする。

(1)授業前

学校(担当教員)が作成した指導計画・学習指導案に基づき、授業の打ち合わせを行うとともに、教材作成等を補助する。

・授業の目的、指導内容を理解

・指導手順、指導の役割分担、教材等を把握

・教材作成やその補助

(2)授業中

 担当教員の指導のもと、担当教員が行う授業を補助する。

(ALTが行う役割の例)

○言語活動における児童生徒に対する指導の補助

・活動についての説明、助言、講評

・言語モデルの提示

・音声、表現、文法等についてのチェックや助言

・児童生徒との会話

・母国の言語や文化についての情報の提供 等

(3)授業後

 担当教員と共に、自らの業務に関する評価を行い、改善方法について話し合う。

※上記における補助とは、担当教員が作成した指導計画・学習指導案に基づき、担当教員とALTが役割分担をして授業を進めるものも含む。その場合においても、学校教育法上、授業全体を主導するのは、あくまでも担当教員である。

「教諭は、児童の教育をつかさどる。」(学校教育法第37条第11項)[footnoteRef:54](傍線筆者) [54: 前掲(53)]

以上より、文部科学省はALTの主な役割は担当教員が行う授業の補助と教材作成等の補助、特に、授業内での生徒に対しその役割を発揮するものと考えられている。

次に、先行研究者の泉はALTの役割について以下のように述べている。

ALTの役割は、授業の前は学習指導案(活動計画)の作成に協力し、教材作成時の英語の語彙・表現・英語の正確さ・自然さ等のチェックを行い、担任との授業の打ち合わせを行う。また対話やインタビュー、スキットなどビデオ教材やテープ教材の作成に協力することも大切である。授業中は、ネイティブスピーカーとして英語のモデルを示し、英語の十分なinputを行い、正しい英語の使い方、発音などを指導するとともに、自国の文化・習慣・考え方等、異文化を伝え子供の外国や外国語への興味・関心を喚起し、国際理解教育を推進することが望まれる。また、授業の英語活動の中心となり、一人一人の児童に英語で話し掛けたり、会話を聴き取るなど、生きたコミュニケーションの相手になることで、児童は英語が通じる喜びと達成感を味わうことができる。授業後は、授業のフィードバックとコメントを積極的に発信し、授業改善に貢献する。また、発音、簡単な英文による教室英語など教員への英語の研修の支援を行うことも重要である。[footnoteRef:55](傍線筆者) [55: 前掲(52), p.138]

泉もまた同様に、教材作成の補助、授業進行の補助、特に授業内での英語のモデルとしてその役割を発揮することが望ましいとされている。

従ってALTのティーム・ティーチングにおける役割は担任の授業の補助(特に英語のモデルとして生徒のコミュニケーションの相手をすること)、教材作成時の補助を主な役割として定義できる。

2-3 ALTの雇用形態

以下、ALTについてその雇用形態を概観していく。

現在、ALTの雇用形態は(1)国の事業であるJETプログラムによるALT、いわゆるJET ALTと、それ以外を総称する(2)Non-JET ALTである民間者との派遣契約によるALT、民間業者との請負契約によるALT、直接雇用によるALTがある。以下ALTの雇用や実態について記す。本論では国が実施しているJETプログラムを中心に取り扱う。従って、以後特に指定のない場合はALTという単語でJETプログラムのALTを指すものとする。

(1)JETプログラム

JETプログラムとはThe Japan Exchange and Teaching Programme[footnoteRef:56]の略称であり、地方公共団体が総務省・文部科学省・外務省及び財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施している。このプログラムは地域レベルでの国際交流及び外国語教育を通じて諸外国との相互理解の増進と日本における国際化推進に資することを目的として、1987年度から開設された。以下にJETプログラムの実施に関わる組織の関係図[footnoteRef:57]を示す。 [56: 財団法人自治体国際化協会(CLAIR)「JETプログラムの歴史」http://www.jetprogramme.org/j/introduction/history.html (取得日:2014年12月1日)] [57: 財団法人自治体国際化協会(CLAIR)「関連団体」http://www.jetprogramme.org/j/organisations/index.html (取得日2015年1月4日))]

図表4 JETプログラム実施のしくみ[footnoteRef:58] [58: 同上(57) ]

参加者の職種は国際交流活動に従事する国際交流員(CIR:Coordinator for International Relations)、主に中学校や高等学校で日本人外国語教員と共に語学教育、特にTT(Team Teaching)に従事する外国語指導助手(ALT: Assistant Language Teacher)、地域においてスポーツを通じた国際交流活動に従事するスポーツ国際交流員(SEA: Sports Exchange Advisor)がある。本論ではALTを中心として進めていく。

JETプログラムのALTは、法的には各地方公共団体が特別職の地方公務員として任用(民法上の「雇用」に該当するが、公務員の雇用は臨時・非常勤も含め「任用」と呼ばれている)したものであり、招致外国青年任用規則が適用されることになっている。

1987年度に開設されたJETプログラムの当初参加者は800名程度で、しかも参加者の出身国はアメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドの4ヶ国のみであったが、その後徐々に参加国及び招致人数も増加し、2014年度に28年目を迎え、招致国は4ヵ国から42ヵ国に、参加者も848人から4,476人へと、大きく展開していっている。開始当時はAET(Assistant English Teacher)という呼称だったが、英語以外の外国語指導の助手という立場の外国青年も招致されるようになったため、ALTに変更された。JETプログラムのALT参加者及び参加国の内約は以下の図表5の通りである。

図表5 JETプログラム参加者数

(資料[footnoteRef:59]より筆者作成) [59: 『英語教育』2008年5月号p.11大修館書店、前掲(56)、文部科学省「4 指導体制」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/06/30/1348956_02.pdf]

図表5を見れば明らかだが、JETプログラムは2002年以降を境に徐々に減少している。その代わりに台頭してきたのが、国による取組ではないnon-Jet ALTである。non-JET ALTには、労働者派遣契約、民間の請負業者等による業務委託契約、各自治体による直接雇用がある。以下non-JET ALTの雇用形態を概観する。

(2)JETプログラム以外によるALTの雇用:民間業者との派遣契約、民間業者との請負契約、直接雇用

派遣契約とは、「派遣元が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働に従事させるもの」[footnoteRef:60]である。労働者派遣は後述の業務委託契約と違い、「直接現場の英語教師のよる指示や改善要求等を行うこと」[footnoteRef:61]が可能である。 [60: 奥貫妃文、ルイス・カーレット「労働者としてのALT(外国語指導助手)についての一考察 : 公教育の非正規化、外注化の観点から」『大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター年報』-(9), 2012, p.20] [61: 前掲(55)]

業務委託契約は、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもので、派遣との最大の相違点は、請負には注文主と労働者との間に指揮命令関係が生じない」[footnoteRef:62]点である。 [62: 前掲(55) ]

直接雇用は、JETプログラム以外のALTと、市町村の教育委員会が直接雇用した形態である。

下記にそれぞれの雇用形態の概略図を記す。

図表6 Non-Jet Altの雇用関係の概略図

(資料[footnoteRef:63]より筆者作成) [63: 厚生労働省「労働者派遣事業の概要等(別紙)」http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2011/03/30/1304118_1.pdf (取得日:2015年1月2日)]

Non-JET ALTの雇用が増えた結果、新たに「偽装請負」の問題が生じることになる。図表6で示しているが、業務委託契約では、法律上だと教師がALTに対して直接指示ができない。しかし、現実的にはティーム・ティーチングを行う上で指示をしないことは不可能なため、請負契約をしている学校に対して労働局から是正指導を受ける件が多発した。後述の第1章の先行研究検討で、この問題を指摘する先行研究者と、それが改善されたため重要性が低いことを示す。

2-4 ALTの現状

次に、文部科学省の「平成25年度公立小学校における英語教育実施状況調査」[footnoteRef:64]より、現状のALTの活用状況について概観していく。 [64: 文部科学省「平成25年度公立小学校における英語教育実施状況調査」http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/09/03/1351570_04.pdf (取得日2015年1月3日)]

公立小学校における外国語活動等の授業で、外国語指導助手(ALT)を授業で活用する時数については、平成22年度は54.4%、平成24年度は56.2%、平成25年度(計画)では57.9%となっており、増加傾向にある。(図表7参照)

図表7 ALT等の年間活用総授業時数[footnoteRef:65] [65: 文部科学省「平成25年度公立小学校における英語教育実施状況調査」前掲(59)]

公立小学校における外国語活動等の授業で活用するために雇用等しているALTの総数は7735人である。ALT総数に占める割合は、JET プログラムによるALTが26.4%と最も多く、次に、JETプログラム以外で自治体が独自に直接雇用しているALTが22.5%、請負契約による ALTが21.4%、その他の ALT(地域人材のネイティブ・スピーカーなど)が17.0%、派遣契約による ALTが12.7%となっている。(図表8参照)

図表8 ALTの活用人数の状況[footnoteRef:66] [66: 前掲(59)]

日本国内におけるALTの活用数は以下のようになっている。なお、2010の調査結果[footnoteRef:67]であるため、最新のデータではないことをここに断りたい。 [67: 文部科学省「平成22年度 外国語指導助手(ALT)の雇用・契約形態に関する調査結果」http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2010/07/26/1295843_1.pdf (取得日2015年1月1日)]

図表9 ALTの活用数(平成22年4月1日時点)[footnoteRef:68] [68: 同上(67)]

図表10 活用しているALTの種類(平成22年4月1日時点)[footnoteRef:69] [69: 同上(67) ]

図表11 JETプログラム以外のALTの雇用・契約形態(平成22年4月1日時点)[footnoteRef:70] [70: 同上(67)]

 

上記のデータから、ALTはほぼ全国で活用されていること、年々ALT活用総授業数、人数は増加していることが明らかである。

ALTの資格要件

JETプログラムに参加しているALTの参加要件は以下のようになっている。

(1)日本について関心があり、来日後もすすんで日本に対する理解を深める意欲があること。日本語を学ぶ努力をすること又は学び続けること。日本の地域社会における国際交流活動に参加する意欲があること。

(2)心身ともに健康であること。

(3)日本で職務に従事し、生活適応する能力を有すること。

(4)外国語指導助手又は国際交流員に応募する者は、大学の学士号取得者又は指定の来日日までに学士号取得見込みの者であること。(または、外国語指導助手に応募する者は、3年以上の初等学校若しくは中等学校の教員養成課程を修了した者又は指定の来日日までに同課程を修了見込みの者であること。)

(5)応募時に、募集選考国の国籍(永住権ではない。)を有すること。日本国籍を有する者は参加同意書提出期日までに日本国籍を離脱する手続きを行うこと。日本以外の二重国籍を有する者は一つの対象国籍者として応募できる。

(6)指定言語(例:英語圏の国は英語)について、現代の標準的な発音、リズム、イントネーションを身に付け、正確かつ適切に運用できる優れた語学力を有していること。また、論理的に文章を構成する力を備えていること。

(7)2010年度以降(2010年4月指定来日日以降)のJETプログラムに参加しておらず、かつ、過去の参加累計期間が5年以下であること。

(8)前年度JETプログラムに合格し、配置先決定の通知後、辞退した者でないこと。ただし、やむを得ない事由があると認められる場合を除く。

(9)応募時までに、2003年以降合計して6年以上にわたり日本に居住していないこと。

(10)本プログラム終了後も日本との交流に積極的に関与する意欲を有していること。

(11)JETプログラムに参加するための我が国への入国に際して、出入国管理及び難民認定法第2条の2に定める在留資格をもって在留することに同意すること。

(12)日本国法令を遵守すること。

(13)犯罪に係る刑罰等の執行猶予を受けている者においては、応募時までに執行猶予期間を満了していること。

英語圏以外の国の場合:

(14)英語又は日本語の実用的能力を有すること。

外国語指導助手については、一般要件のほか、更に以下の要件を必要とする:

(15)日本における教育、特に外国語教育に関心があること。

(16)積極的に子ども達と共に活動することに意欲があること。

(17)語学教師としての資格を有する者又は「語学教育」に熱意がある者であること。

※資格要件ではないが、次のような要件に該当する応募者には選考にあたり一定の評価が追加的に与えられる。

語学教師としての経験又は資格を有すること。

教職経験又は教職資格を有すること。

高い日本語能力を有すること。[footnoteRef:71](傍線筆者) [71: 財団法人自治体国際化協会(CLAIR)「JETプログラム資格要件」 http://www.jetprogramme.org/j/aspiring/eligibility.html (取得日2015年1月4日)]

ALTの資格要件としては、(4)の大学の学士号取得であることが必須条件であること以外は、日本について関心があること、日本で職務に従事し、生活適応する能力を有すること、心身共に健康であること、日本における教育、特に外国語教育に関心があることなどが挙げられている。注目したいのは、語学教師としての経験又は資格、教職経験又は教職資格、日本語能力はあれば評価されるものの、必須条件には含まれていない。(17)で語学教師としての資格を有する者を挙げているが、なくても語学教育に熱意があれば要件を満たしていることになる。後述の先行研究検討で、この資格要件に対する指摘や批判を紹介していく。

 第2節をまとめると、ALTの意義、役割は教育の現場のティーム・ティーチングにあると文部科学省や先行研究者が捉えていること、ALTはほぼ全国で活用されていること、ALTの雇用数は雇用形態が色々あるが年々増加していること、ALTの募集要項では、教職経験又は資格、あるいは「外国語としての英語教育」について学んでいる必要がないこと、を明らかにした。

次章の先行研究検討で、文部科学省や先行研究者が最も問題視し、繰り返し指摘されてきたALTの人員確保の問題とALTの資格要件の中で教職経験、資格、「外国語としての英語教育」の修得が問われていない問題に対する先行研究者の見解や指摘を概観していく。

第1章 先行研究検討

第2節のALT(外国語指導助手)とはにて、ALTの意義、現状の実施状況を概観した。その中でも、ALTの募集要項において、筆者は学士号取得以外必須要件がない点、特に指導経験や外国語教育について修得していない人物が児童に対して指導ができてしまう点に問題意識を感じた。本章では先行研究者が指摘しているALTに関する問題について概観していく。ALTに関して指摘されている問題は大別すると、①ALTの人員不足、つまり数の確保の問題、②Non-JET ALTに見られる請負により行われる業務委託契約から生じた「偽装請負」問題、③教職資格又は経験が必須ではないALTの質の問題、に分けられる。これらの問題は必ずしも個々で独立しているわけではなく、関連していたりすることをここに断っておく。

以下第1節第2節にて、①と②の問題に関する先行研究者の指摘とそれに対する改善の取り組みを示し、問題の重要性の低さを示す。第3節において、ALTの資格要件の中で教職資格、経験もしくは外国語教育についての学習が必須ではないことを問題として捉えている先行研究者を紹介していく。ここで明らかにしたいのは、ALTを招致するにあたって教職過程や指導経験が必須ではないことに対して先行研究者は基準を明確にし、上記を必須要件として求めていること、そして招致した「外国語としての英語教育」に詳しいALTを、教職の現場で活用することを求めてはいるが、指導者研修という文脈でALTについては触れられていないことを明らかにする。

第1節 ALTの人員不足(数)の問題

ALTの確保に関しては、上述の小学校英語教育における指導者の充実で示したように、小学校において外国語活動が行われることが決定した時期から文部科学省の有識者会議や報告書で度々述べられてきた(例:「ALTの小学校への派遣を充実することが特に重要」[footnoteRef:72]、「すべての小学校でネイティブスピーカーによる授業を実現するためには、(中略)国をあげて取り組まなければならない」[footnoteRef:73]等)。主に小学校にALTを配置することや、「ALTの活用促進」、「ALTの充実」といった言葉が多く報告書に記載されている。また、2004年の「小学校の英語教育に関する意識調査調査報告書」[footnoteRef:74]においても、教員で英語活動を実施する上で、特に重要な課題は何かという問に対して、「ALTや英語に堪能な民間人など外部人材の確保」[footnoteRef:75]が74.2%と最も多かった。最新の報告書である「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」[footnoteRef:76]においても、「すべての小学校にALTが確保できるようにする必要がある」[footnoteRef:77]と提言され、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」[footnoteRef:78]においても、「外国語指導助手(ALT)の配置拡大」[footnoteRef:79]を新たな英語教育の在り方実現のための体制整備の主な施策として挙げられている。先行研究者では、金子・君塚(2009)[footnoteRef:80]、君塚・西尾・田中(2010)[footnoteRef:81]、矢野(2011)[footnoteRef:82]が小学校外国語活動の中で解決すべき問題としてこのALTの人員確保の問題を指摘している。 [72: 文部科学省「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会(報告)」前掲(15)] [73: 文部科学省「学校における英語教育の在り方に係る現状と課題、主な意見」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/05112901/009.htm (取得日2015年1月5日)] [74: 文部科学省「小学校の英語教育に関する意識調査調査報告書 第2章 調査結果」前掲(44)] [75: 前掲(44)] [76: 文部科学省「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」前掲(34)] [77: 前掲(34)] [78: 文部科学省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/12/__icsFiles/afieldfile/2013/12/17/1342458_01_1.pdf (取得日2015年1月5日)] [79: 同上(78)] [80: 金子智香、君塚淳一「英語母語話者を標準モデルとしない伝達能力の有効性について(1)ALTアンケート調査結果から得られる日本の英語教育における課題」『茨城大学教育実践研究』(28), 2009, pp.37-48] [81: 君塚淳一、西尾直美、田中智子「小学校英語における課題を考える : フォニックスの効用と課題(1)」『茨城大学教育実践研究』(29), 2010, pp.137-147] [82: 矢野淳「小学校外国語活動必修化に伴う解決すべき問題点」『静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇』42, 2010, pp.57-66]

しかし、2012年の小学校外国語活動実施状況調査[footnoteRef:83]を見ると、小学校教員が感じる外国語活動の課題として、ALT等の外部人材の確保は「十分である」と「どちらかといえば十分である」を合わせて85.2%、また外部人材の来校回数も合わせて78.7%と、8割前後が概ね満足と答えている。また、2014年の日本英語検定協会による「小学校の外国語活動及び英語活動等に関する現状調査」[footnoteRef:84]でも、外国語活動において、問題や課題であると感じていることとして、「ALTの確保・採用」と答えたのは15.7%で、選択肢の優先度の高い順位では17項目中11番目と、以前ほどALTの確保が第一優先ではなくなってきていることがわかる。 [83: 文部科学省「外国語活動の現状・成果・課題」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/05/01/1347389_01.pdf (取得日2015年1月5日)] [84: 「小学校の外国語活動及び英語活動等に関する現状調査」前掲(35)]

また、文部科学省は小学校の英語教育の強化のために、外国語指導助手を5年で2万人拡充することを決定した。[footnoteRef:85]読売新聞では以下のように報道されている。 [85: 『読売新聞』2014年9月22日夕刊「英語指導助手 全公立小に 国方針 5年で2万人に拡充」]

小学校の英語教育を強化するため、文部科学、総務、外務3省は、学校で英語指導などにあたる外国語指導助手(ALT)を来年度から5年間で、国の事業だけで約2300人増員し、6400人以上とする方針を決めた。自治体が独自に採用しているALTなどと合わせ、2019年度までに総数を現在の1・5倍の2万人に拡充し、すべての公立小学校に配置できる体制を目指す。(中略)

このため、文科省などは来年度からJETプログラムによるALTを段階的に増やす方針。(中略)費用は今年度の約300億円から、最終的には年500億円程度と見込まれる。また、ALTを独自に採用している自治体を支援するための補助制度も新設する計画で、文科省は来年度の概算要求に約2億6000万円を盛り込んだ。(後略)[footnoteRef:86](傍線筆者) [86: 同上(85)]

最新の調査の報告書から、以前ほどALTの確保が問題視されていない点、また文部科学省がALTを5年間で2万人に拡充する方針を決めた点から、ALTの人員不足の問題は重要ではないことをここに示す。

第2節 「偽装請負」問題

JETプログラムは2002年以降を境に徐々に減少し、その代わりに台頭してきたのが、国による取組ではないnon-Jet ALTである。Non-JET ALTが増加した理由として、奥貫(2012)[footnoteRef:87]は「自治体のコストの削減」と「雇用負担の軽減」にあると指摘している。「平成 26 年度第 28 期『語学指導等を行う外国青年招致事業』募集要項」[footnoteRef:88]をみると、JETプログラムの年間報酬額は初年度が336万円程度、再任用された場合の2年目は360万程度、3年目は390万程度となっている。また、「任用団体が特に優れた参加者に対して2回を超えて再任用を行った場合、4年目及び5年目の年間報酬額はそれぞれ 396 万円程度」[footnoteRef:89]と記載されている。また健康保険、厚生年金保険、雇用保険等への加入も義務付けられている。JETプログラムはnon-JET ALTと比べるとはるかに高額の報酬を得て、安定性も高いといえる。 [87: 「労働者としてのALT(外国語指導助手)についての一考察 : 公教育の非正規化、外注化の観点から」前掲(55)] [88: 「平成 26 年度第 28 期『語学指導等を行う外国青年招致事業』募集要項」http://www.sp.br.emb-japan.go.jp/pdf/jet_regulamento_japones2014.pdf (取得日2015年1月5日)] [89: 同上(88)]

しかし、このJETプログラムのALTの好待遇は基本的に市町村の教育委員会がALTの生活上の様々な支援を担うことになっており、その負担も大きい。業務委託契約や労働者派遣契約を活用すれば、労務管理や生活上の支援等は民間業者が担ってくれるため、教育委員会にとってはそういった「『簡便さ』が費用以上に大きなメリットであった」[footnoteRef:90]。 [90: 前掲(60), p.19]

また、2002年当時の背景として、小泉純一郎内閣の「小さな政府」政策が押し進められた時期であり、公務の担い手を民間に移譲する様々な法改正や政策がとられていた(例:平成11年「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に係る法律」、平成18年「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」等)。このような時代状況下、ALTも外注化が進んだと考えられる。

もう一人の先行研究者の渡辺(2011)[footnoteRef:91]はnon-JET ALTが増加した理由として「2011年度より開始される小学校外国語活動の拡大がある」[footnoteRef:92]と述べている。現在国内における小学校(国立、私立含む)の総数は21460校である。全ての小学校にALTを配置することは未だ課題となっており、現在小学校における外国語活動は大部分がワンショット(特定の学校に駐在せずに多くの学校を巡回して学習指導に関わる形態)訪問の割合が高い。そのため、交通の便が良い都市部の場合、ALTを小学校に派遣する民間業者が多く存在する。 [91: 前掲(46)] [92: 全景(46), p.135]

このようにnon-JET ALTは2002年以降増加してきたが、このように研修費や人件費を安く抑えるために学校がALTと請負契約したことで「偽装請負」の問題が多発した。上述のALTの概要でも述べたが、労働者派遣契約では「直接現場の英語教師のよる指示や改善要求等を行うこと」[footnoteRef:93]が可能であるが、請負契約では指揮命令関係が生じない。そのため、教師が直接ALTに指示を出すと、労働局から「偽装請負」と指導される可能性がでてくる。 [93: 前掲(55), p.20]

実際に大きく話題になったのが千葉県の柏市のケースである。2010年4月に、柏市の市立小中学校61校のALTが偽装請負であると労働局から是正指導を受け、ALT事業が7月上旬まで停止する事態になった。[footnoteRef:94] [94: 『朝日新聞』2010年4月17日朝刊「柏市・小中の外国語指導助手に『偽装請負』、労働局が指導 事業中断」、『朝日新聞』2010年5月29日朝刊「7月に再開方針、偽装状態改善へ 柏市の外国語指導事業」]

ALTに直接指示できないことに対して、黒澤(2011)[footnoteRef:95]は「授業中に担任教師が生徒について何か気づいた時、ALTとの話合いでその場ですぐに解決できることもあるなか、それができないことは問題である」[footnoteRef:96]と認識している。また奥貫も「担任教師とALTはTTを行うパートナーであり、注文者である学校が指揮命令をしないということになれば、TTが成立しなくなるという実に奇妙な状態に陥ることになる」[footnoteRef:97]と述べている。 [95: 黒澤純子「小学校外国語活動(英語活動)における問題と教員研修講座の提案」『鳴門教育大学小学校英語教育センター紀要』2, 2011, pp.29-38] [96: 同上(95), p.32] [97: 前掲(55), p.20]

この問題を受けて文部科学省は2009年8月に各都道府県の教育委員会に「外国語指導助手の請負契約による活用について」[footnoteRef:98]文書通知を出している。通知では「疑義がある場合は(中略)契約形態を見直し、JETプログラムの活用、自治体独自の直接雇用、労働者派遣契約など適切な対応を」[footnoteRef:99]取るように呼びかけている。 [98: 文部科学省「外国語指導助手の請負契約による活用について(通知)」平成21年8月28日http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1304104.htm (取得日2015年1月5日)] [99: 同上(98)]

千葉県柏市はこの問題の対応として、日本人の教員とALTで担当の授業時間を分ける方法を導入している。「例えば授業時間を10分と40分に分け、先に日本人教員が授業を行い、残りを外国人が指導する方式を取り入れることにした。授業を進める上で改善点がある場合は、委託業者側へ連絡する」[footnoteRef:100]方針となっている。 [100: 『読売新聞』2010年5月29日朝刊「柏市の指導助手事業再開へ 授業時間を外国人と分離」]

文部科学省が言うように、ALTの雇用について請負による業務委託契約を他の雇用形態へ変更するか、あるいは柏市のように担任とALTの授業時間を分けることで、「偽装請負」の問題は解決の一途をたどっている。実際平成21年度のALTの雇用契約形態に関する調査で業務委託契約と回答した自治体は上述の通知を受けて207の市町村が見直しを行う予定と答えており[footnoteRef:101]、平成23年度から業務委託契約の割合は減少している[footnoteRef:102]ことから、この問題は重要ではないことをここに示す。 [101: 文部科学省「平成21年度 外国語指導助手(ALT)の雇用・契約形態に関する調査結果」http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2010/07/23/1290108_1.pdf (取得日2015年1月5日)] [102: 文部科学省「平成23年度公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査(B票)の結果について」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2012/01/31/1315677_2_1.pdf (取得日2015年1月5日)]

第3節 教職資格又は経験が必須ではないALTの質の問題

日本においてALT、ひいては外国人教師が英語教師としての資格をもっていない問題は、実は30年以上前にも指摘されている。ラミス(1975)[footnoteRef:103]は日本人のネイティブスピーカーに対する絶対視、いわゆるネイティブスピーカー信仰を問題視し、その差別性を取り上げている。ラミスには次のような一節もある。 [103: ダグラス・ラミス「イデオロギーとしての英会話」『展望』(194), 1975