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Hokkaido University of Education Title Author(s) �, Citation �. �, 69(1): 69-83 Issue Date 2018-08 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9878 Rights

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Hokkaido University of Education

Titleアメリカにおける行政機関による消費者被害の金銭的救済 ― 民事制裁

金を中心に ―

Author(s) 籾岡, 宏成

Citation 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 69(1): 69-83

Issue Date 2018-08

URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9878

Rights

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北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第69巻 第1号� 平�成�30�年�8�月Journal�of�Hokkaido�University�of�Education�(Humanities�and�Social�Sciences)�Vol.�69,�No.1� August,�2018

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アメリカにおける行政機関による消費者被害の金銭的救済

――�民事制裁金を中心に�――

籾 岡 宏 成

北海道教育大学旭川校法律学研究室

Monetary�Reliefs�Including�Civil�Penalties�Imposed�by�the�Federal�Trade�Commission�on�Behalf�of�Direct�Relief�to�Aggrieved�Consumers�in�the�United�

States�of�America

MOMIOKA�Hironari

Department�of�Law,�Asahikawa�Campus,�Hokkaido�University�of�Education

一人が種を蒔き,別の人が刈り取るというのは,悪にも善にも当てはまる真理である。� ―――ジョージ・エリオット

Abstract

 The�imposition�of�civil�penalties�is�one�of�the�Federal�Trade�Commission’s�most�powerful�enforcement�tools�for�consumer�protection�in�the�USA.�Along�with�other�remedies�such�as�cease�and�desist�orders,�consumer�redress�(restitution�and�disgorgement),�preliminary�and�permanent�injunctions,�and�rescission�and�reformation�of�contracts,�the�FTC’s�authority�to�impose� civil� penalties� has�been� augmented� over� the�years�by�Congress.�This� article�illustrates�the�manner� in�which�this�measure�has� functioned� in�modern�American�society,�and�discusses�several�suggestions� for�an� improved�consumer�protection�regime� in�Japan.�This�article�finds�that�the�FTC�has�been�quite�active�and�retained�the�favor�of�its�judicial�and�congressional�reviewers�in�this�area.�

Ⅰ.はじめに

 高度に産業化が進んだ現代社会においては,個人単位では僅少でありながら社会全体では共通した広範な被害が見られる消費者問題について,被害者自身が損害賠償請求や契約解除などの救済を求めることができ

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るだけではなく,社会全体の被害を俯瞰できる立場にある行政機関が,被害実態の的確な把握に基づいて迅速な救済を図るとともに他の同様の違法行為を抑止することが,今まで以上に期待されている。これはどの国も抱える共通の課題であり,程度の差こそあれ,各国の消費者保護を担当する行政機関が,国内または国際的な取引をめぐって生じる消費者被害の救済について対応を迫られているところである。 わが国においても,景品表示法の平成26年11月改正により,消費者に対して優良誤認表示等を行った事業者に対する行政上の制裁措置として,課徴金納付命令を発令することが可能になった(平成28年4月1日施行)。この背景には,わが国では制度として事業者に対する金銭的制裁の種類が豊富ではないために,違法行為の効果的な抑止効果が必ずしも十分に見られないという実態がある。こうしたことから,金銭的な救済を始めとした,消費者保護のための実効性のある制度づくりが模索されているところである。 この点において非常に参考となるのが,アメリカ合衆国における行政機関による加害事業者に対する制裁金の制度である。連邦レベルでの連邦取引委員会(Federal�Trade�Commission)は,裁判手続を経たのちに,違法行為の差止(injunction)や消費者被害回復措置(consumer�redress)に加えて,民事制裁金(civil�penalty)も事業者に課すことができるが,この制裁金が事業者による違法行為に対して極めて高い「抑止」機能を発揮しているとされる。 本稿では,連邦取引委員会が事業者に課すこの民事制裁金の制度に着目し,沿革,根拠条文,手続,代表的な適用事例を含めたその概要を紹介することにする1。その中では,現実の運営において見られる特長のみならず問題点なども指摘してみたい。そして最後に,わが国での消費者保護法制に対してアメリカの制度が示唆するところを考察する。

Ⅱ.民事制裁金制度の概要

 連邦取引委員会は,その設置法である連邦取引委員会法(Federal�Trade�Commission�Act,�以下,FTC法という)によって1914年に設立された。主として反トラスト及び消費者保護を所轄し2,わが国で言えば公正取引委員会と消費者庁を併せたような連邦政府の機関である。同法によって認められているのが,事業者による違法行為の差止,被害者回復のための救済措置であるが,それらとともに,同法に規定されている違法行為を行っている事業者に対して民事制裁金を求めて連邦地方裁判所に訴えを提起できる制度が存在する。この民事制裁金は,事業者による違法な行為を抑止する強力な「武器」であるとされ,同委員会がいわば「企業警察」としての機能を発揮するための有用な道具でもある。以下,その概要を示す。

 1.沿 革

 一般的に民事制裁金とは,制定法違反について連邦・州などの行政機関が,行政手続および裁判所での判決に基づいて課すことのできる金銭的制裁で,刑罰的な意味を持たないものをいう。環境規制,経済規制などの分野において,行政機関が規制法違反者に対して求める制裁金として広く認められている。なお,民事

1  本稿の執筆にあたっては主として,August�Horvath et al.,�Consumer ProteCtion law DeveloPments seConD eDition�267-77�(2016);�Dee PriDgen�&�riCharD m. alDerman,�2�Consumer ProteCtion�anD the law�2016-2017�eDition,�§§�12:23-29�(2016)の2編の文献を参考にした。

2  See,�e.g.,�Chris Jay hoofnagle, feDeral traDe Commission PrivaCy law anD PoliCy�(2016);�James CamPbell CooPer, the regulatory revolution at the�FTC:�A�thirty-year PersPeCtive�on�ComPetition anD Consumer ProteCtion�(2013);�J.�Howard�Beales�Ⅲ�&�Timothy�J.�Muris,�FTC Consumer Protection at 100: 1970s Redux or Protecting Markets to Protect Consumers?,�83�geo. wash. l. rev.�2157�(2015).�

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

制裁金は基本的には被害者救済のための基金等に充当されるのではなく,国庫に組み入れられる。 消費者保護の分野では,1938年にFTC法の改正の際に,5条にl(エル)項が追加され,連邦取引委員会が出す行政命令の一種である「排除措置命令(cease�and�desist�order)3」を事業者が違反した場合に,同委員会が連邦地方裁判所に民事制裁金を求めて出訴できるようになった4。これ以前は,命令を執行するためには同委員会は連邦控訴裁判所に訴えを提起し,被告事業者が裁判所侮辱(contempt)を行っているという判決を得る必要があり,法執行の面でのハードルが高かった。1973年に連邦議会は,違反行為ごとの制裁金額の上限を5,000ドルから10,000ドルに引き上げた5。なお,2018年現在,上限は40,000ドルとなっている。 同委員会による民事制裁金が適用される範囲が劇的に拡大したのは,1975年のマグヌソン・モス保証法(連邦取引委員会改善法)によってであった。同法により連邦取引委員会法5条にm項が追加され6,同委員会が策定した取引規制ルール(trade�regulation�rule)の違反行為についても民事制裁金を課すことができるようになった。さらには,連邦取引委員会が別の事業者に対して以前に発令した命令に違反した場合についても,民事制裁金の対象となった7。後述するように,この後者の規定によれば,個々の裁判での判示内容を実質的に当該産業全体でのルールに拡張することが可能で,しかも同様の行政手続を繰り返すことなく,当該ルールを裁判所で直接に執行できるという画期的な内容となっている。

 2.手 続

 司法省(Department�of�Justice)との関連における裁判手続は次の通りとなる。民事制裁金を求める訴えを提起する前に,連邦取引委員会は,連邦の司法長官(Attorney�General)に対して当該事件の内容を告知し協議することが法的に義務付けられている8。連邦取引委員会からの通知を受領した後に司法省が訴えを提起した場合には,司法省からの要請に応じて,連邦取引委員会は当該事件について司法省に協力・援助する9。連邦取引委員会からの通知から起算して45日以内に司法省が民事制裁金を求める訴えを提起しない場合には,同委員会が提訴を行うことができる10。

 3.事実認定者(裁判官か陪審か)

 事実問題については陪審が判断し,法律問題については裁判官が判断するというのが,英米(とりわけアメリカ)の法制度における伝統的な原則である11。民事制裁金をめぐる事件においても,陪審審理を求める権利が,被告事業者または原告である連邦取引委員会にあるか否かについては,判例上争いがある。民事制裁金を課すためには,裁判所は,当初の行政命令においてどのような法的な義務が被告に生じていたのかを

3  違法な行為の停止や原状回復等を命じる行政機関等の命令。連邦取引委員会が出す排除措置命令は,主として不公正な取引方法をやめるよう事業者に命ずるものである。See generally�horvath,� supra�note�1,�at�257-67;�PriDgen & alDerman,�supra�note�1,�§§�12:2-6.�

4  FTC�Act�§�5(l),�15�U.S.C.A.�§�45(l)�(1982).�5  Trans-Alaska�Pipeline�Authorization�Act�of�1973,�87�STAT.�584,�591�(1973).�6  FTC�Act�§�5(m)⑴(A).�7  FTC�Act�§�5(m)⑴(B).�8  15�U.S.C.�§�56(a)⑴.�9  FTC�oPerating manual §�12.5.1.�ここでいう「協力・援助」には,訴訟に関連する書面の作成,申し立て・訴答・証言

録取などの実施なども含まれる。10 15�U.S.C.�§�56(a)⑴.�ただし,このような事例は稀であるとされる。11 �田中英夫『英米法総論 上』27-30頁(東京大学出版会,1980年),浅香吉幹『現代アメリカの司法』24-28頁(東京大学

出版会,1999年)などを参照。

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確定する必要があるが,これについての判断は専ら裁判所が行うべき法的問題である。そして,問題となっている被告事業者の行為がその命令に違反したか否かについて確定する必要があるが,これを陪審に委ねることの可否について判例の立場が分かれている。第2巡回区控訴裁判所の判例の中には,これは事実問題であるから,陪審が決定しなければならないと判示したものもある12。他方において,第3巡回区控訴裁判所は,これは法律問題であり裁判官が決定すべきであるとしている13。現在のところ,民事制裁金の可否に関して,陪審と裁判官のどちらが決定するかについては,決着がついていない。 なお,被告事業者に命令違反による法的責任ありと認定されたのちに,民事制裁金の金額を算定するのは専ら裁判官の権限に属し陪審は一切関与できないことについては,争いはないと言ってよい。関連して,環境保護関連の連邦浄水法(Clean�Act)違反をめぐる事案において,民事制裁金額の算定については陪審の裁量内ではないとされた合衆国最高裁の判例がある14。これはおそらく,裁判の過程で陪審が算定する損害賠償額と,立法過程で議会がその基準を策定した民事制裁金では,その本質が根本的に異なるという認識に由来するものと思われる。

Ⅲ.FTC法5条l(エル)項(排除措置命令違反)に基づく民事制裁金

 1.違反行為の単位

 連邦取引委員会は,既決の行政手続における排除措置命令または以前の訴訟で問題となっていた排除措置命令に再度被告が違反している場合には,連邦地方裁判所に民事制裁金を求める訴えを提起することができる15。一連の違反行為を一括してではなく,個別の違反行為が民事制裁金の対象となる16。 過度に懲罰的な負担を被告事業者に課すことを回避するため,連邦地方裁判所はその裁量として,当該違反行為が個別のものなのか継続的なものなのかを考慮することができる17。この点が争点となった連邦控訴審判決の事案では,文書および放送による無数の虚偽広告が流されていたが,原審の連邦地裁は,すでに出されていた連邦取引委員会の排除措置命令に違反した行為の回数ではなく,違反の広告を流していた日数で民事制裁金額を算定した18。この事案では,1,490,000ドルの制裁金が連邦地裁で認定され,連邦控訴審でも維持されている19。このように「行為ごと」ではなく「日数ごと」の算定方法が妥当するのは,他の事業者との共謀によるセット料金の請求や広告版の広告に虚偽的・欺瞞的な表示を行うなどの行為が衰えることなく継続している事案などであると考えられている20。

12 U.S.�v.�J.B.�Williams�Co.,�Inc.,�498�F.2d�414�(2d�Cir.�1974).�13 U.S.�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�Inc.,�662�F.2d�955,�967�(3d�Cir.�1981).�14 See�Tull�v.�United�States,�481�U.S.�412,�426�(1987).�この判例については,拙著『アメリカ懲罰賠償法』163-67頁(信山社,�

2012年)を参照。15 15�U.S.C.�§�45(g)�(「排除措置命令は,連邦控訴審裁判所に係属している場合を除いては,それが被告に通知されてから

60日を経て,効力を一般的に有する。」).16 15�U.S.C.�§�45(l)⑴.�17 United�States�v.�ITT�Cont’l�Baking�Co.,�420�U.S.�223,�229�n.6�(1975).�18 United�States�v.�Alpine�Industries,�Inc.,�352�F.3d�1017�(6th�Cir.�2003).�19 Id.�20 See�United�States�v.�Phelps�Dodge�Indus.,�589�F.�Supp.�1340,�1368�(S.D.N.Y.�1984);�FTC�v.�Consol.�Foods�Corp.,�396�F.�

Supp.�1353,�1356�(S.D.N.Y.�1975).�

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

 2.民事制裁金に関する法的責任の成否

 事実審理においては,被告が排除措置命令の違反を犯していたことの立証責任は,連邦取引委員会側にある21。同委員会は,原告側の当事者という地位にある者に過ぎず,被告と対等の地位にあり,何らかの特権が与えられているわけではない22。一方,被告事業者は,関連する事実に関する証拠について審問する権利がある23。また,上述のように,法的な責任の成否に関する事実問題について,陪審審理を求める権利が被告にはあると判示した判例も数多くあるため24,陪審が付された審理においては,連邦取引委員会による排除措置命令の意味を裁判官が陪審に説示し,命令違反が認められるか否かの判断は陪審に委ねられることになる25。 審理において提示される証拠は無制限ではなく,禁じられているものも数多くある。裁判所は,排除措置命令が妥当であったか否か,すなわち問題となった被告の行為が不公正または欺瞞的であったかについて改めて審査を行ってはならないとされている26。被告事業者は,自らが誠実な行動をとっていた27,または違反行為を既に中止している28,といった抗弁を行ってはならない。また,違反行為によって何ら現実の損害が生じていないという抗弁を被告が行うことは許されない29。さらには,消費者側に権利不行使(laches)や権利放棄(waiver)があったことなどのエクイティー上の抗弁も行使できないとされる30。事実認定者である裁判官または陪審は,当該行為が排除措置命令に違反しているか否かのみの判断を行うことになる。ただし,排除措置命令に至った交渉過程に関する事実関係についても,すでに明確な形で出された命令の解釈を行うにあたっては,証拠として提示することは許されない31。

 3.民事制裁金額の算定

 問題とされている行為が排除措置命令違反にあたると事実認定者が認めた場合,民事制裁金の算定段階に入るが,前述の通り,これを行うのは専ら裁判官の権限に属する。金額の決定にあたっては,裁判官の広い裁量が認められており,法的責任の成否の際には排除されていた数多くの事項を考慮に入れることができる32。裁判所が民事制裁金の算定にあたって一般的な評価要素とするのは,①被告事業者の誠実性,②被告

21 United�States�v.�Alpine�Industries,�Inc.,�352�F.3d�1017,�1022-23�(6th�Cir.�2003).�22 FTC�v.�Owens-Corning�Fiberglass�Corp.,�853�F.2d�458,�462�(6th�Cir.�1988);�United�States�v.�J.B.�Williams�Co.,�498�F.2d�

414,�438�(2d�Cir.�1974).�23 But see�United�States�v.�J.B.�Williams�Co.,�498�F.2d�414,�438�(2d�Cir.�1974)�(審問が「望ましい」としながらも,証拠に

関する審問を行っていたとしても結論に影響が出なかったであろうという理由から,審問なしで民事制裁金を認容した連邦地裁判決を連邦控訴審が維持した事例).

24 See,�e.g.,�United�States�v.�Alpine�Indus.,�352�F.3d�1017,�1022�(6th�Cir.�2003);�United�States�v.�J.B.�Williams�Co.,�498�F.2d�414,�414�(2d�Cir.�1974).�

25 United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�662�F.2d�955,�960-61�(3d�Cir.�1981);�United�States�v.�J.B.�Williams�Co.,�498�F.2d�414,�430-31�(2d�Cir.�1974).�

26 United�States�v.�Sav-Cote�Chem.�Labs.,�Civ.�No.�458-68,�1969�WL�229�(D.N.J.�1969).�27 United�States�v.�ACB�Sales�&�Serv.,�590�F.�Supp.�561,�573�(D.�Ariz.�1984).�28 P.F.�Collier�&�Son�Corp.�v.�FTC,�427�F.2d�261,�275�(6th�Cir.�1970).�29 United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�Inc.,�662�F.2d�955,�962�(3d�Cir.�1981).30 United�States�v.�Papercraft�Corp.,�540�F.2d�131,�140-41�(3d�Cir.�1976).�31 United�States�v.�Alpine� Indus.,�352�F.3d�1017,�1028�(6th�Cir.�2003).�But see�United�States�v.�Vulcanized�Rubber�&�

Plastics�Co.,�288�F.2d�257,�259�(3d�Cir.�1961)�(事実審裁判所が,被告事業者による行為が排除措置命令違反にあたるとする結論を導くために,連邦取引委員会側の調査官の報告書を証拠として採用した事案).

32 United�States�v.�Am.�Hosp.�Supply�Corp.,�No.85�C8371,�1987�WL�12205,�at�*2�(N.D.�Ill.�1987)�(禁制品を製造している会

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の行為によって公衆に惹き起こされた損害,③被告の支払い能力,④違反行為から得られた利益を吐き出そうとする意思の程度,⑤連邦取引委員会の権限を正当化する必要性などである33。法的責任の成否の認定においては,原告側の連邦取引委員会は,被告が違反の内容について知っていたことを立証する必要もなく,被告は自らの誠実性を立証する必要もないが,制裁金額の決定においては,被告事業者の誠実性が最も重要な要素であるとされる34。被告が違反行為を知っていたか否かを問わず,法令違反を犯す以前の一定期間において,関連する別の命令に誠実に従っていた場合には,民事制裁金額を下方修正することができる35。 訴訟提起前に連邦取引委員会が被告事業者に告知を行っていなかった場合には,制裁金額について減額などの調整を行うことができる。民事制裁金を求める訴えを提起する旨の同委員会による事前の告知は,法的に義務付けられているわけではない36。しかしながら,特に,被告の行為が命令違反であったか否かについて疑義がある事案においては,同委員会からの事前の告知がなかったことについて,民事制裁金額の決定における減額要素とできるとした判例がいくつかある37。排除措置命令に至る交渉の過程に関する証拠は,命令違反の成否に関する段階での抗弁としては認められないものの,制裁金算定の際には,命令の要請に関する被告の主観的な態様(誠実性)に反映されているものとして,その提示が許容されている38。しかし,弁護士による社内業務の検査が行われただけでは,誠実性の立証には十分ではないとされる39。命令違反の程度は制裁金の多寡を決定する証拠として許容され40,命令違反の経緯および期間についても,これらを考慮要素に入れることは可能である41。

社を買収したことが発覚した直後に連邦取引委員会に被告会社が提示した証拠は,法的責任を「免除」するには至らないものの,民事制裁金の「減額」のための考慮要素にはなると判示された事案).

33 See�United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�494�F.�Supp.�770,�772�(D.�Del.�1980);�United�States�v.�Alpine�Indus.,�No.�2:97-CV-509,�2001�WL�587856,�at�*6�(E.D.�Tenn.�2001),�aff’d,�353�F.3d�1017�(6th�Cir.�2003)�(考慮すべき要素として,⑴当該事業を継続する被告の能力に対する制裁金の影響力,⑵違反行為の悪質性,逆に言えば,被告の誠実さの程度,⑶連邦取引委員会の権限の正当性を立証する必要性,すなわち抑止的効果が及ぶか否かなどを挙げている).

34 United�States�v.�Alpine�Indus.,�No.�2:97-CV-509,�2001�WL�587856,�at�*2�(E.D.�Tenn.�2001)�(被告の誠意の有無は制裁金額の算定において,裁判所が考慮すべきあらゆる要素の中でも最も重要なものであると判示した事例).

35 See United�States�v.�Home�Diathermy�Co.,�1960�Trade�Cas.�(CCH)�¶�69,601�(S.D.N.Y.�1959)�(命令違反を犯す以前の15年間において当該命令を被告が遵守していた場合に,最低限度の民事制裁金が課された事例).�

36 Unites�States�v.�J.B.�Williams�Co.,�498�F.2d�414,�434-35�(2d�Cir.�1974);�United�States�v.�Swingline,�Inc.,�371�F.�Supp.�37,�46�(E.D.N.Y.�1974).�See�FTC�OPERATING�MANUAL�§�12.5.1�(「事前の告知は,個々の事件に固有の事実を踏まえて行われるが,告知がなされる場合には,被告が命令を遵守していないという連邦取引委員会の決定を通知する簡潔な宣言的文言を入れるべきである。」).

37 United�States�v.�Papercraft�Corp.,�540�F.2d�131,�140-41�(3d�Cir.�1976)�(制裁金額の算定において,連邦取引委員会が命令遵守を促すような圧力をかけていなかった事実を考慮に入れてもよいと判示した事案);�United�States�v.�Am.�Greetings�Corp.,�168�F.�Supp.�45,�50�(N.D.�Ohio�1958)�(連邦取引委員会が被告の行為について4年間も何ら異議を唱えなかったとして,名目的な制裁金のみを課した事例).

38 United�States�v.�Alpine�Indus.,�No.�2:97-CV-509,�2001�WL�587856,�at�*2�(E.D.�Tenn.�2001)�(「民事制裁金に関する限りでは,要請される科学的根拠を自らが有していると被告が真に信じていたか,そう信じたことが合理的であったか,すなわち「誠実性」が認められるかを決するためには,裁判所は,裁判上の和解(consent�order)がなされる前の当事者間の交渉について考慮すべきであり,該和解内容を被告が主観的にどのように解釈していたかも考慮すべきである。」).

39 United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�Inc.,�662�F.2d�955,�968�(3d�Cir.�1981).�40 United�States�v.�Am.�Hosp.�Supply�Corp.,�No.85�C8371,�1987�WL�12205,�at�*2�(N.D.�Ill.�1987).�41 See,�e.g.,�Kimmelman�v.�Henkels�&�McCoy,�Inc.,�527�A.2d�1368�(N.J.�1987).�

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

 さらには,前述の通り,被告の支払い能力42,違反行為から得た不当な利益の程度43,公衆に与えた損害の程度44,なども制裁金算定での考慮要素とされる。いくつかの判例では,排除措置命令違反として被告に高額の民事制裁金を求める連邦取引委員会の権限の正当性を立証する必要性が重視されている45。消費被害者からの民事訴訟で支払った損害賠償額を民事制裁金から差し引くことはできないが,命令の不遵守を抑止するために必要な金額という観点から,裁判所は民事制裁金の算定の際にそれを考慮要素に入れることは許される46。また,排除措置命令が出されてからの事情の変化,公衆に対する損害の不存在,事業者自身の利得の不存在などに関する証拠を被告が提示した場合には,制裁金額は,連邦取引委員会の権限の正当性を立証するために必要な額を超えてはならないとされている47。なお,排除措置命令を再開する申し立てがなされた場合でも,制裁金の増額とはならない48。

 4.和解事例

 百万ドル(1億円超相当)を超える民事制裁金の支払命令が,判決でなされる事案も相当程度見られる49。しかしながら,連邦取引委員会から提示された民事制裁金の額をめぐって被告事業者は交渉することが可能であるため,裁判に持ち込まれる前か,訴訟になっても判決が出る前に,両者の間で和解が成立する場合が現実には圧倒的に多いと言われる。以下,近年の裁判上の和解に関する代表的な事例を示す。 大手の栄養サプリメント販売会社が,広告に関する排除措置命令違反としては当時史上最大規模の民事制裁金2,400,000ドルの支払いに同意しているが(1994年),これは,同社が薄毛予防,体格作り,減量などの効果について科学的な根拠のない広告を継続して打っており,ビタミンのサプリメントの効果についても苦情が殺到していた事案であった50。同年の別の事案では,運動靴の製造会社が,販売していたランニング用シューズに怪我防止などの効用があるという科学的に裏付けのない広告に対して以前に出されていた排除措置命令に違反しているとして,250,000ドルの支払いに同意している51。 2000年には,多種の介護用製品についての根拠の薄い情報コマーシャルに深く関与したとして1996年に既

42 FTC�v.�Consol.�Foods�Corp.,�396�F.�Supp.�1353,�1356-57�(S.D.N.Y.�1975)�(被告が高い利益を得ている親会社の場合には,問題となっている同社の一部署の財政的脆弱性は,民事制裁金を減額する要素とならないと判示された事例).

43 United�States�v.�Phelps�Dodge�Indus.,�589�F.�Supp.�1340,�1365�(S.D.N.Y.�1984)�(裁判所は,命令を遵守しない場合は割に合わないことを被告に教える手段として,命令違反が発覚する確率なども考慮に入れて制裁金額を算出すべきであると判示した事例).

44 United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�Inc.,�662�F.2d�955,�972�(3d�Cir.�1981).�45 United�States�v.�Phelps�Dodge�Indus.,�589�F.�Supp.�1340,�1367�(S.D.N.Y.�1984)�(連邦取引委員会の権限の正当性を立証す

ることは,「民事制裁金の請求に関連するあらゆる手続の根拠となっている」と判示した事例);�United�States�v.�Louisiana-Pacific�Corp.,�554�F.�Supp.�504,�507�(D.�Or.�1982)�(民事制裁金は抑止的でなければならず,「受忍できる費用」ではないとされた事案).

46 United�States�v.�Phelps�Dodge�Indus.,�589�F.�Supp.�1340,�1366�(S.D.N.Y.�1984).�47 FTC�v.�Consol.�Foods�Corp.,�396�F.�Supp.�1353,�1357�(S.D.N.Y.�1975).�48 United�States�v.�Louisiana-Pacific�Corp.,�967�F.2d�1372,�1378�(9th�Cir.�1992).�49 United�States�v.�Alpine�Indus.,�352�F.3d�1017,�1030�(6th�Cir.�2003)�(1,490,000ドルの民事制裁金は過大ではないと判示さ

れた事例);�United�States�v.�Louisiana-Pacific�Corp.,�554�F.�Supp.�504,�507�(D.�Or.�1982)�(4,000,000ドルの民事制裁金);�United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�Inc.,�662�F.2d�955,�969�(3d�Cir.�1981)�(1,750,000ドルの民事制裁金);�United�States�v.�Prochnow,�No.�1�02-CV-917,�2006�U.S.�Dist.�LEXIS�92,�895�(N.D.�Ga.�2006)�(5,450,000ドルの民事制裁金).�

50 United�States�v.�General�Nutrition,�Inc.,�66�Antitrust�&�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�(W.D.�Pa.�1994)�(裁判上の和解).51 United�States�v.�Asics�Tiger�Corp.,�66�Antitrust�&�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�483�(D.D.C.�1994).�

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に出されていた排除措置命令に違反したとして,通販会社が1,100,000ドルの民事制裁金を支払っている52。さらには,あるマーケティング会社が刊行する雑誌の定期購読の契約で,実際の価格や「ネガティブ・オプション」に関する詳しい条件を提示していなかった事案において,2003年に被告会社は350,000ドルの制裁金の支払いに応じた53。 2005年には,高額の民事制裁金が課された和解事案が数多く見られた。住宅販売会社の事例では,住宅保証に関する紛争についての1979年の連邦取引委員会の命令違反について54,ダイエット・サプリメント販売会社の事例では,科学的根拠のない体重減量・体質改善の謳い文句に対して1999年に発令された命令の違反について55,同様のダイエット食品販売会社の事例では,欺瞞的な広告の是正命令(1995年)の違反について56,いずれも2,000,000ドルの民事制裁金の支払いに2005年に各社が同意をしている。ビタミン剤の健康上の効用についての適切な根拠を求める同委員会からの以前の命令に違反しているとされた事例では,2007年に健康食品販売会社が3,200,000ドルの支払いを行っている57。

Ⅳ.FTC法5条m項(取引規制ルール違反など)に基づく民事制裁金

 FTC法5条l項に基づく民事制裁金に加えて,同法5条m項を根拠として58,以下に説明する2種類の違反行為について,連邦取引委員会は連邦地方裁判所に民事制裁金を求める訴えを提起することが可能である。それぞれの条項は,被告による実質的に別の行為を対象としているものの,被告に対する以前の命令が制裁金に関する責任の成否の前提条件ではないという点で共通性を有している。

 1.取引規制ルールの違反行為に対する民事制裁金

 FTC法5条m項1号Aに規定されている第1のタイプの違反行為があれば,連邦取引委員会には,「当該行為が不公平または欺瞞的であって,しかもルールによって禁じられているという客観的な事情に基づいて相当程度知っていた,または実際に知っていた状況において,…不公正または欺瞞的な行為または慣習についてのあらゆるルール59」の違反について民事制裁金を請求する権限が与えられることになる。法令に基づく一種の委任規定である取引規制ルールには60,不公正または欺瞞的であると思料される行為類型が明確に定義されていなければならないが,連邦取引委員会には,そうした行為または慣習を防止するためのルール策定,および具体的な事案における違反行為の認定をめぐる広い裁量が認められている61。 現時点において,30を超える取引規制ルールが存在するが,その対象は,住宅用絶縁材のラベリングおよび広告から,通信販売,訪問販売,フランチャイズ,中古車販売,葬儀業の商慣行に関するものまで多岐に

52 United�States�v.�Home�Shopping�Network,�No.�99-897-CIV-T-25C�(M.D.�Fla.�2000)�(裁判上の和解).53 United�States�v.�Cross�Media�Marketing�Corp.,�No.�1:02-CV-917-JOF�(N.D.�Ga.�2003)�(付随事項について両当事者が終

局的な合意を行った上でなされた判決).54 United�States�v.�KB�Home,�Civ.�No.�91-0872WQH�(POR)�(S.D.�Cal.�2005)�(内容が一部補正された同意判決).55 United�States�v.�NBTY,�Inc.,�Civ.�No.�CV-05-4793�(E.D.N.Y.�2005)�(裁判上の和解).56 United�States�v.�Body�Wise�International,�Inc.,�Civ.�No.�SACV�05-43�DOC�(C.D.�Cal.�2005)�(裁判上の和解).57 United�States�v.�Bayer�Corp.,�Civ.�No.�07-01�(HAA)�(D.�N.J.2007)�(裁判上の和解).この事案では,表示上は含まれてい

る緑茶の抽出成分が製品に実際には入っていなかたことについても,追加的に民事制裁金の対象とされた。58 15�U.S.C.�§�45(m)⑴.�59 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(A).�60 取引規制ルールについては,波光巖「FTCによる規則制定」関東学園大学法学紀要20号115-23頁(2000年)が詳しい。61 See�Katharine�Gibbs�Sch.,�Inc.�v.�FTC,�612�F.2d�658,�662�(2d�Cir.�1979).�

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わたっている62。近年において連邦議会は,数多くの商取引の分野において,制定法違反となる行為が取引規制ルール違反と見做し,制定法違反ではない場合でも,不公正または欺瞞的な行為の特定を連邦取引委員会に委任し,FTC法5条m項1号Aに基づいて民事制裁金を求める権限を連邦取引委員会に与える法律を制定している63。なお,被告に破産手続開始決定が下された場合には,連邦取引委員会が民事制裁金を求める訴えを取り下げることが多い64。 被告事業者が取引規制ルールを知らなかったことは,法的責任の有無についての抗弁となり得る。したがって,問題とされている行為が不公正または欺瞞的でありしかも規制ルールに規定されているものであることを被告が知っていたことの立証責任は,原告の連邦取引委員会の側にある65。しかも,立証の内容が被告の主観的要素に関わるものであるため,立証の程度もFTC法5条l項(排除措置命令違反)よりも若干高いとされている。しかしながら,被告が「実際に」知っていたことの立証がなされない場合であっても,それが客観的な事情から相当に「暗示」されるという立証に成功した場合には,連邦取引委員会は訴訟を続けることができる66。FTC法5条m項1号Aには「知っていたまたは知っていたはず(knew�or�should�have�known)」という基準が適用され,さらには代理関係の法理に基づき,被告側が知っていたことが「推定」されるという同条項に関する解釈を行った判例もある67。また,現実には,新たなルールを策定した場合には,委員会は関係する業界に対する周知を周到に行っていることから,そうしたルールを事業者が全く知らなかったという事例は稀であるとされる。なお,被告が規制ルールとの整合性について連邦取引委員会に以前に照会していたことは,抗弁にはならないとされている68。 民事制裁金についての法的責任が認定された後は,金額の算定段階に入るが,取引規制ルール違反に対する制裁金額の算定基準は,基本的にはFTC法5条l項の排除措置命令違反に基づく場合と同じであるとさ

62 See�Labeling�and�Advertising�of�Home�Insulation,�16�C.F.R.�pt.�460;�Funeral�Industry�Practices;�16�C.F.R�pt.�453.�連邦取引委員会による取引規制ルールが規定されているのは,16�C.F.R.�subch.�D�(16�C.F.R.�§§�408-60)である。

63 See�Sports�Agent�Responsibility�and�Trust�Act,�15�U.S.C.�§�7803�(「本法の規定に違反する行為は,FTC法18条a項1号Bに定めのある不公正または欺瞞的な行為にあたると定義する連邦の取引規制ルールに違反するものとして扱う。」);�Controlling�the�Assault�of�Non-Solicited�Pornography�and�Marketing�Act�of�2003�(CAN-SPAM�Act),�15�U.S.C.�§�7706�(同旨);�Children’s�Online�Privacy�Protection�Act,�15�U.S.C.�§§�6501-06�(同旨);�Telemarketing�and�Consumer�Fraud�and�Abuse�Prevention�Act,�15�U.S.C.�§�6102(c)(同旨);�Telephone�Disclosure�and�Dispute�Resolution�Act,�15�U.S.C.�§�5711(a)⑻(同旨).�

64 See,�e.g.,�FTC�v.�Wright�Cos.,�62�Antitrust�&�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�254�(D.�Nev.�1992);�FTC�v.�Wright,�63�Antitrust�G�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�505�(S.D.�Cal.�1992).�

65 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(A);�see�United�States�v.�JS&A�Group,�716�F.2d�451,�455�(7th�Cir.�1983)�(郵便注文ルールの違反);�United�States�v.�Bldg.� Inspector�of�Am.,� Inc.,�894�F.�Supp.�507,�521�(D.�Mass.�1995)�(フランチャイズルールの違反);�United�States�v.�Car�City,�Inc.,�Civ.�No.�4-91-70444,�1992�WL�314020,�at�*1�(S.D.�Iowa�1992)�(中古車販売ルールの違反);�FTC�v.�Hughes,�710�F.�Supp.�1524�(N.D.�Tex.�1989)�(葬儀業ルールの違反);�United�States�v.�Union�Circulation�Co.,�Civ.�No.�C81-997A,�1982�WL�1912,�at�*4�(N.D.�Ga.�1982)�(「問題とされている行為を行っていた被告が,それが規制ルールによって禁じられているものであることを知っていたか,または知っていたことが客観的な事情から相当に強く示唆されることを連邦取引委員会が立証したことを受けて」,訪問販売に関するクーリング・オフの期間の違反が認定された事例).

66 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(A).�原告は,被告が問題となっている行為が不公正または欺瞞的な行為であることを知っていたことだけではなく,特定の取引規制ルールによって当該行為が禁じられていた事実を知っていたことも立証する必要がある。

67 United�States�v.�Technical�Communs.�Indus.,�1986�WL�15489,�at�*3;�United�States�v.�ACB�Sales�&�Serv.,�590�F.�Supp.�561�575�n.11�(D.�Ariz.�1984)�(FTC法5条m項は,「被告またはその代理人が,当該規制ルールの要件について,現実的にであれ推定的にであれ,一定程度知っていた」ために,被告がその行為の違法性を「知っていたまたは知っていたはず」であることを成立要件としていると判示した事例).

68 FTC�v.�Hughes,�710�F.�Supp.�1524,�1529�n.8�(N.D.�Tex.�1989).�

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れる。具体的には,被告の行為に見られる有責性の程度,以前に同様の行為を行っていたか否か,被告事業者の支払い能力,事業を継続する能力に対する影響,その他裁判官が必要と認める事項などがそれにあたる69。

 2.取引規制ルールの違反行為をめぐる事案

 取引規制ルール違反のため同条項に基づき,連邦取引委員会が相当に高額の民事制裁金を判決または和解によって得る事案が数多く見られる。その中でも代表的なものをルールごとに見ると以下の通りである。 1980年代から全米的にトラブルが頻発し,現在でも連邦取引委員会が違反行為の取締まりに力を入れているのが,葬儀業に関する商慣行ルールである。1984年にルールが策定・宣言され,10年後の1994年には内容の一部が改定されている。紛争の内容としては,葬儀の際の価格リストやサービスの内容を顧客に開示しないといったものが圧倒的に多い。中小規模の事業者が対象となることが多いため,個々の事案の民事制裁金額自体は他のルールに比べて比較的低いものが多いが,件数として全米で押し並べて多く見られるのが特徴である。一例を挙げれば,価格リストを顧客に提供しなかったこと,特定の商品およびサービスの購入を他の商品購入の条件としていたこと(抱き合わせ商法)などが,連邦の取引規制ルール違反にあたるとして,1994年にメリーランド州ボルティモア市の葬儀業者が100,000ドルの民事制裁金の支払いに同意している70。 通信販売に関するルールの違反事例も大変に多い。1994年にはこのルールに,電話注文によるものも追加された。例えば,商品配達の遅延について通知せず,しかも遅延の場合には可能であったはずの解約および即座の返金を行わなかった事業者に対して,800,000ドルの制裁金の支払いが命じられた1999年の事案がある71。また,インターネットでの販売を行う複数の事業者が,1999年の繁忙期に商品配達の遅延に直面した際に,解約の選択肢があることを顧客に告知しなかったとして,2000年に合計約1,500,000ドルの制裁金の支払いに同意した72。 フランチャイズに関するルールも,依然として違反事例が数多く見られる分野である。例えば,骨董品販売のフランチャイズ運営会社に対して1,000,000ドルの消費者回復措置(consumer�redress)に加えて400,000ドルの民事制裁金の支払いが命じられた1993年の判決では,フランチャイズ加盟予定者に対して,過去における2社への詐欺事件に関する情報を提供しなかったこと,ルールに定められた事項を開示しなかったことが理由となっている。 織物のラベリングについての取引規制ルールでは,大手の複数の販売事業者に高額な民事制裁金が課される事例が見られる。その典型例として,2013年にアマゾンやメイシーズなどの4社を相手取り,販売する繊維の成分が竹と表示しておきながら実際にはレイヨンであったとして,民事制裁金を求めて連邦取引委員会

69 See,�e.g.,�FTC�v.�Hughes,�710�F.�Supp.�1524,�1989-1�Trade�Cas.�(CCH)�¶�68249�(N.D.�Tex.�1989)�(葬儀業ルールの違反について,80,000ドルの民事制裁金を認定した事例);�FTC�v.�Plaza�Motors,�Inc.,�1988-2�Trade�Cas.�(CCH)�¶�68390,�1989�WL�21796�(E.D.�Va.�1989)�(中古車販売ルールの違反行為につき,10,000ドルの民事制裁金を認定した事例).

70 United�States�v.�Sol�Levinson�&�Bros.,�Inc.,�67�Antitrust�&�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�151�(D.�Md.�1994).�71 United�States�v.�Telebrands�Corp.,�No.�96-0827-R�(W.D.�Va.�1999)�(裁判上の和解).72 United�States�v.�CDNow,�Inc.,�No.�00-CV-3795�(E.D.�Pa.�2000)�(100,000ド ル で の 裁 判 上 の 和 解);�United�States�v.�

Southdale�Kay-Bee�Toy,� Inc.,�No.�Civ-00-1772�(DWF-AJB)�‘D.�Minn.�2000)�(350,000ドルでの裁判上の和解);�United�States�v.�Federated�Dept.�Stores,�Inc.,�No.�CIV-00-681�(D.�Del.�2000)�(350,000ドルでの裁判上の和解);�United�States�v.�Bishop,�No.�00-CV-2682�(N.D.�Cal.�2000)�(全額の消費者被害回復措置);�Unites�States�v.�Original�Honey�Baked�Ham�Co.�of�Ga.,�Inc.,�No.�1:00-CV-1896�(N.D.�Ga.�2000)�(45,000ドルでの裁判上の和解);�United�States�v.�Patriot�Computer�Corp.,�No.�3:00-CV-1609-L�(N.D.�Tex.�2000)�(200,000ドルでの裁判上の和解);�United�States�v.�Toysrus.com,�LLC,�No.�2:00-CV-3665�(D.N.J.�2000)�(350,000ドルでの裁判上の和解).

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

が提訴した事件を挙げることができる。この事件では,4社は合計で1,260,000ドルの制裁金の支払に同意している73。さらに,この後の追跡的な訴訟において,さらに別の4つの大手販売会社も被告に追加され,同様の内容で織物ラベリング違反として,合計1,300,000ドルの制裁金が課されることになった74。これら一連の事件では,被告となった販売事業者はいずれも,レイヨン製品を竹製品と表示する欺瞞的なラベリングの先行事例に関する概要書を同委員会から受け取っていた。 最近では,電話セールスについての取引規制ルール違反の事例も相当数見受けられる。例えば,2011年には,このルールの中の「電話禁止名簿(do-not-call� list)」の規定に違反したとして,電話セールスの事業者が500,000ドルの民事制裁金の支払いを命じられている75。この事案において被告事業者は,顧客が自社の名前を電話禁止名簿に登録することを不当に妨害し,しかも虚偽の発信者IDを発信するなどの行為を繰り返していたが,これらの行為態様につき悪質性が極めて高いと判断されている。 取引規制ルールには,子どものプライバシー権保護に関するものもある。2015年の事例では,第三者を介して親の許可なしに子どもの個人情報を収集したことが,「オンライン子どもプライバシー保護法(Children’s�Online�Privacy�Protection�Act)」に基づく連邦取引委員会の取引規制ルールに違反するとして,2社に対して360,000ドルの民事制裁金が課されている76。

 3.非当事者に対する民事制裁金

 FTC法5条m項のもう一つの規定が同条項1号Bであり77,これを根拠として,自身ではない他の事業者に対して以前に発令された排除措置命令について,これを知りながらあえて違反した事業者を被告として,民事制裁金を請求する訴えを連邦取引委員会は提起できる。この規定の正当性については,民事制裁金に関する3つの規定の中でも最も論争のあるところであるが,「そうした自然人,共同事業者,または法人がそうした排除措置命令の対象となっていたか否かを問わずに78」,その当事者に以前の別の当事者に対する命令を連邦取引委員会が執行することが可能となるために,「非当事者(non-respondent)79」責任などと呼ばれることが多い。この規定が適用される事案では,以前に発令された排除措置命令は,和解によるものではなく裁判所による終局的な判決によるものでなければならず80,しかも,非当事者である被告は「そうした

73 See,�e.g.,�United�States�v.�Amazon.com,�Inc.,�Case�1:13-cv-0002-TFH�(D.D.C.�2013)�(付随事項について両当事者が終局的な合意を行った上でなされた判決).

74 United�States�v.�Bed,�Bath�and�Beyond,�Inc.,�Case�No.�15-cv-2129�(D.D.C.�2015)�(500,000ドルの民事制裁金での裁判上の和解事例);�United�States�v.�Nordstrom,�Inc.,�Case�No.�1:15-cv-2130�(D.D.C.�2015)�(360,000ドルの民事制裁金での裁判上の和解事例);�United�States�v.�J.C.�Penny�Co.,�Case�No.�1:15-cv-2128�(D.D.C.�2015)�(290,000ドルの民事制裁金での裁判上の和解事例);�United�States�v.�Backcountry.com,�Case�No.�15-2127�(D.D.C.�2015)�(150,000ドルの民事制裁金での裁判上の和解事例).

75 United�States�v.�Americall�Group,�Inc.,�1:2011cv08895�(N.D.�Ill.�2011)�(終局的差止命令(permanent�injunction)を含めた付随事項について合意を行った上でなされた判決).

76 United�States�v.�LAI�Systems,�Civ.�Action�2-15-cv-09691�(C.D.�Cal.�2015)�(付随事項について両当事者が終局的な合意を行った上でなされた判決);�United�States�v.�Retro�Dreamer,�Civ.�Action�5�15-cv-02569�(C.D.�Cal.�2015)�(付随事項について両当事者が終局的な合意を行った上でなされた判決).

77 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(B)⑴.�78 Id.�§�45(m)⑴(B)⑴.�79 Respondentとは,エクイティー裁判所での被告をさす言葉である。これに対して,コモンロー裁判所の被告はdefendant

である。80 Id.�§�45(m)⑴(B)⑴,�as�amended�in�FTC�Act�Amendments�of�1994,�Pub.�L.�No.�103-312,�§�4,�108�Stat.�1691.�

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行為または慣行が不公正または欺瞞的であり,FTC法5条a項に基づき違法であることを実際に知って81」いなければならない。 この「非当事者」責任については,被告が有する「デュー・プロセス」に関する諸権利を侵害しており憲法違反であるという主張が裁判の中で被告事業者によってなされてきたが,いずれも斥けられている。この論点についてのリーディング・ケースとされる連邦地裁判決では,連邦取引委員会が訴えを提起したのが,以前の決定に基づき,特定の商慣行がFTC法違反となっていることを告知する書面による通知を送達した後であったため,被告のデュー・プロセス上の諸権利は侵害されていないと判示されている82。この事例では,被告には「以前の排除措置命令に関する連邦取引委員会の認定について,行政手続または司法手続上,これを争う機会が奪われたためにFTC法5条m項は違憲である83」という主張を裁判所は斥けた。同条項の合憲性を認めた理由付けとしては,被告が以前の手続における連邦取引委員会の認定に拘束されていないこと,あらゆる事実問題について覆審的(de�novo)に審査を行わなければならないことなどが,この判例では示されている84。さらには,被告事業者からすると「最悪な事件」のタイプの訴訟,すなわち,中小企業に対してなされた以前の命令の際に,同委員会から狙われていれば確実に訴訟になっていたはずの大企業に対して,この条項を用いて事後的に訴えを提起するという,いわば「海老で鯛を釣る」方式の訴訟戦略を連邦取引委員会が実際にはとってはいないという指摘もなされているところである85。

 4.FTC法5条m項の2つの規定に関する手続上の違い

 FTC法5条m項1号A(取引規制ルール違反)とB(第三事業者)との間には,いくつかの重大な違いがある。その中でも顕著なのが,後者の規定に基づく手続においては,あらゆる事実問題について,覆審的審査,すなわち改めて最初からの審査が行われるという点であり,これは前者では行われないものである。これと同じく重要なのが,同条項Bに基づく手続の場合には,被告が命令について知っていたことの立証の程度が高くなっていることである。つまり,取引規制ルール違反とは異なり,以前の排除措置命令についての非当事者の責任は,「推定」的に知っていたことの立証では不十分で,原告である連邦取引委員会は,被告事業者が「現実」に知っていたことを立証しなければならない。その帰結として,連邦取引委員会は実務上,配達証明郵便で,同じ産業の事業者に対して同委員会が排除措置命令を出した内容の概要書を,他の事業者に送達しなければならないが,その目的は,排除措置命令の事実についての周知を徹底することと,それにより他の事業者に対して抑止効果を及ぼすことにある86。ただ,このような通知は,その受領者に対しては彼らの行為が不公正または欺瞞的である可能性を示唆するものの,当該行為が必然的に民事制裁金の対

81 Id.�§�45(m)⑴(B)⑴.�82 Unites�States�v.�Braswell,�Inc.,�No.�C�81-588A,�1981�WL�2144,�at�*2-3�(N.D.�Ga.�1981).�83 Id.�at�*3.�84 Id.��85 See�Tyler�&�Erikson,�The Federal Trade Commission Today: The New Improved Improvements Act,�3�hastings Const.�

L.Q.�849,�869-73�(1976).�86 See�FTC�oPerating manual�§�11.2.2.4�(「連邦取引委員会の職員は,被告が知っていたことに関する制定法上の要件を満

たすために以下のような手続をとらなければならない。(a)次の文書を配達証明書の返信を求める配達証明郵便で送達する。⑴禁じられている行為または慣行に従事することについて民事制裁金が課されることに関して,対象となる事業者に告知する文書,⑵その告知文書に添付される,該制定法の中の関連する条文の写し,⑶適用可能な事件の写し,⑷そうした事件の概要書);�see also�Complaint,�United�States�v.�Mantra�Films,�Inc.,�No.�CV-03-9184�(RSWL)�(C.D.�Cal.�Dec.�16,�2003)�(継続プログラムに関連した不公正または欺瞞的な行為または慣行に関する概要通知書の送達を行ったあとに,被告の行為が,他の違反の中でも特に,無注文販売禁止法(Unordered�Merchandise�Statute)に違反すると連邦取引委員会が主張した事例).

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

象となるというわけではないとされている。 FTC法5条m項1号Bに基づく訴訟において原告が勝訴するためには,委員会が以前に別の事業者に対して出した排除措置命令の対象となった行為と,被告事業者の行為との間に緊密な関連性が存在することについての立証に,原告である連邦取引委員会が成功する必要がある。この点が争点となった第8巡回区控訴裁審は,貸付真実法(Truth�in�Lending�Act)に基づく取引規制ルールに従わない与信条件を広告に記載した自動車ディーラー2社に対して民事制裁金を課すことができないと結論づけたが,それは,連邦取引委員会によって以前に出された終局的な排除措置命令がこの点について触れていなかったことが主たる理由であった。類似するおとり商法(bait�and�switch)に関する事件における排除措置命令の写しを被告事業者に送達するだけでは,民事制裁金についての法的責任を認定するための十分な根拠にはならないと判示された87。 事実審理において被告は,自らの行為や商慣行が不公正または欺瞞的であることを現実に知らなかったことについての証拠を提示することが,FTC法5条m項に基づく権利として認められている88。さらに,以前の連邦取引委員会による決定によって違法と判断された行為と,被告が従事していた行為とは異なるものであるという抗弁を被告が行うことは許容される89。別言すれば,具体的に被告のどの行為が,以前に連邦取引委員会が不公正で欺瞞的な行為と認定したものに該当するかを裁判所は特定しなくてはならないが,これは,FTC法5条m項には,禁止の対象となる行為の大幅な拡張や予防的措置が明文で規定されていないためである。また,ある特殊な事例においては,以前に発令された排除措置命令をめぐる事情や条件がその後大幅に変化したため,もはやその適用に公益性は認められないと判断された90。さらには,被告は,連邦取引委員会が以前に行った決定に関する合法性,すなわち,その決定が同委員会の権限に属するとするのが正当な解釈か否かについて,審理の中で直接に異議を唱えることも可能である91。1994年のFTC法の改正により,FTC法5条m項2号を根拠として連邦地裁には,被告からの要請に基づき,「以前の手続において連邦取引委員会によってなされた法的問題についての決定事項を審査」し,当該行為または商慣行がFTC法5条a項1号上の不公正または欺瞞的な行為にあたるか否かを認定する権限が与えられた92。 FTC法5条m項1号AまたはBの規定に違反する行為は,行為ごとに最高40,000ドル,または違反行為が継続している場合には日ごとに同額の民事制裁金が課される93。民事制裁金についての法的責任が認定された場合には,連邦地裁は,制裁金額を決定するために特定の諸要素を評価することになるが,そうした要素の中には,被告の行為の有責性,事業を行う被告の能力に対する影響,および「裁判官が必要と思料する94」その他の事項が含まれる。FTC法5条l項と同様に,各々の違反行為は別個の行為と見做され,それぞれが民事制裁金の対象となる。

87 United�States�v.�Hopkins�Dodge,�Inc.,�849�F.2d�311�(8th�Cir.�1988).�88 Unites�States�v.�Braswell,�Inc.,�No.�C�81-588A,�1981�WL�2144,�at�*3�(N.D.�Ga.�1981).�89 Id.�90 Id.�91 Id.;�see also�FTC�v.�Sears,�Roebuck�&�Co.,�Civ.�Act.�No.�81-A-503,�1983�WL�1889,�at�*3-4�(D.�Colo.�1983)�(連邦取引委員

会が以前に不公正または欺瞞的な商慣行であると認定した決定は別の行為に深く関係するものであるという主張を退け,その決定の合法性に対する直接の異議申し立ては,審理前の却下申し立ての段階ではなく,事実審理において解決されるべきであると判示された事例).

92 15�U.S.C.�§�45(m)⑵.�93 Id.�§�45(m)⑴(C)(「そうした不履行が継続しているそれぞれの日数は,個別の違反行為として扱うべきである。」);�16�

C.F.R.�§�1.98(c).�94 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(C);�see�FTC�v.�Hughes,�710�F.�Supp.�1524,�1529-30�(N.D.�Tex.�1989).�

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籾 岡 宏 成

 なお,非当事者に対する民事制裁金の場合においても,裁判上の和解に至る事例も多く見られる。例えば,�百科事典などを出版する会社が適切な承諾なしに顧客に年鑑および別冊付録を送付したことについて,以前に連邦取引委員会が別の事業者に出した非注文商品(unordered�merchandise)に関する決定に違反しているとして同委員会から訴えを提起された事件では,被告出版社が200,000ドルの民事制裁金を支払うことで和解が成立している95。

Ⅴ.おわりにかえて(わが国の消費者保護法制への示唆)

 以上,アメリカ合衆国における連邦レベルでの消費者保護法制の中で,事業者に対する金銭的な制裁機能を有する民事制裁金について,その概要,根拠条文,適用事例などを見てきた。全体として見ると,民事制裁金を求めて訴訟を提起することは,現在でも連邦取引委員会に付与された極めて重要で強力な措置であると言える。FTC法5条m項1号B(非当事者に対する民事制裁金)などのように論争の的になる問題も残されてはいるものの,概ね裁判所は連邦取引委員会の取り組みに対して一貫して好意的な態度をとり続けている。ただし,連邦取引委員会が制定法の解釈上許容されている範囲を超える行為に出た場合には,例えばデュー・プロセス違反などの重大な憲法上の問題に直面する可能性も浮上するものと考えられる。連邦取引委員会は,消費者の利益を著しく阻害する事業者の行為に極めて活発に介入しているものの,決して過度に不当に高額な制裁金を求めているわけではないとされている。そのため,現在のところでは,政権の交代などにより多少の変動はあるにせよ,連邦取引委員会の消費者保護施策の一環としての民事制裁金制度の運営に対しては,司法府・立法府ともに大きな異議を唱えていないと言ってよいであろう。 翻ってわが国における消費者保護の分野での行政機関による金銭的制裁を見てみると,課徴金制度が盛り込まれた景品表示法の改正は記憶に新しい。最初の適用事例は同法8条1項の規定に基づいて三菱自動車に対して2017年1月27日に発令された約4億8000万円の課徴金納付命令(実際の燃費よりも高い数値を表示した「優良誤認」)である96。しかしながら,緒に就いたばかりの制度であるため,違法行為の抑止効果についてどの程度実効性のあるものかについての検証には暫くの時間を要するものと思われる。 その点はさて措き,本稿で紹介したアメリカの民事制裁金制度にはわが国が参照すべき事項があるかどうかについて検討すれば,少なくとも以下の2点は指摘できるものと思われる。 第1は,裁判所の位置づけに関する両国の根本的な違いである。本稿でも紹介したように,アメリカでの消費者保護法制における連邦取引委員会による事業者への制裁は,刑事手続などと同様に,基本的に「司法取引」的な発想に基づく運営がなされている。すなわち,不公正な商慣行に対する民事制裁金に関する協議が不調に終われば連邦取引委員会側が訴えを提起し,訴訟の場においても双方が裁判の形勢に即して和解に持ち込むというように,常に裁判所という場を中心に事業者と行政機関とが「駆け引き」を行い「交渉」を進める。これに対して日本では,消費者庁などの行政機関が基本的には事業者との金額に関する交渉なしに法律の規定に従って課徴金額を算定した上で納付命令という行政処分を下すということが前提となって,この処分に不服のある場合にその妥当性を争って事業者側が行政裁判を起こすことができる(処分性の要件)。 わが国においても,ごく最近になって追加された刑事訴訟法350条の2の各項の規定で「司法取引」が明文化されたが(2018年6月施行),消費者保護法制の分野にもアメリカ式の「司法取引」的な手続を経た事業者への制裁の導入を検討すべきであると考える。なぜならば,同様の地位にある他の事業者がどのような

95 United�States�v.�Hachette�Book�Group,�66�Antitrust�&�Trade�Reg.�Rep.�(BNA)�145�(D.�Conn.�1994).�96 日本経済新聞朝刊2017年1月27日39面参照。

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アメリカにおける消費者被害に対する民事制裁金

行為に従事しているかを把握できる立場にあるのが行政機関であり,資力および情報収集力に欠ける消費者を保護する観点から行政機関による事業者との交渉の必要性が極めて高いからである。また,将来にわたって当該事業者に同様の行為を行わせないという特定抑止の観点からも,問題となった行為に関する諸事情を把握した上での交渉を経ることが望ましいと思われる。今後は法整備を行い,例えば,下記のように複数の要素を考慮に入れた上での課徴金額を提示する権限を消費者庁に与え,これについて事業者と交渉できるようにすれば,実効性のある迅速な消費者保護の実現に向けた一歩を踏み出すことができるのではなかろうか。 第2は,制裁金額の算定方式についてである。わが国においては,改正後の景品表示法8条の規定によれば,課徴金は商品・サービスの売上の3%とされている。また,課徴金の減額事由としては,同法9条に規定のある事業者による自己申告(2分の1の減額),同法10~11条に規定のある消費者に対する自主返金(全額または一部免除)などがある。これに対して,本稿で検討したアメリカの制度の下では,被告事業者の行為にどれだけの有責性・非難性が認められるか,問題となった行為が継続した期間,以前にも同様の行為を行っていたか,被告事業者の支払い能力の程度,民事制裁金を課すことが当該事業者の事業を継続する能力に対してどの程度影響を与えるかなどの,多種多様な諸要素を総合的に考慮に入れることが,制定法においても97,判例においても98,認められている。わが国の課徴金に違法な行為の制裁ないし一般的・特定的抑止という効果も期待するのであれば99,被告の支払い能力や行為の悪質性などを課徴金の算定の際の考慮要素に入れることを検討する必要があるのではないかと思われる。例えば,課徴金納付命令が出された三菱自動車の事案においても,4億8000万円という金額自体は日本では高額に見えるものの,同社の資産規模および支払い能力などに鑑みれば,これが果たして同社および同業他社の将来における同様の行為の抑止力を発揮できるかについては疑問が生じるからである。行為の悪質性の程度,行為の期間,支払い能力などを反映した課徴金の制度が実現することにより,事案に即した柔軟性のある抑止効果が期待できる。 結局のところ,消費者保護において重要なのは,既に起こった被害の救済だけではなく,将来における同様の被害をいかに防止・抑止するかである。そのためには,「不正は割に合わない」,すなわち,消費者を欺いて不公正なやり方で利益を得ても結局は損をすることを事業者に教えることが肝要となる。問題はその方法論であり,いくつかの手法が考えられるが,その一つが違法行為の抑止効果を狙った制裁金である。アメリカの民事制裁金は,そうした点において極めて有用であり,示唆するところが多い。

(追記) 本稿は,科学研究費補助金・基盤研究(B)・課題番号16H03574「消費者被害の救済手法と抑止手法の多様化及び両者の連携に関する比較法政策的研究」(研究代表者:松本恒雄)の成果の一部を利用した。

(旭川校教授)

97 15�U.S.C.�§�45(m)⑴(c).�98 See,�e.g.,�United�States�v.�Reader’s�Digest�Ass’n,�494�F.�Supp.�770,�772�(D.�Del.�1980);�United�States�v.�Alpine�Indus.,�No.�

2:97-CV-509,�2001�WL�587856,�at�*6�(E.D.�Tenn.�2001),�aff’d,�353�F.3d�1017�(6th�Cir.�2003).�99 ただし,事業者が消費者に対して自主的に返金した場合には課徴金を命じないとする景品表示法10条の規定からすると,

課徴金制度の主たる目的は被害を受けた消費者の救済の促進であると解される。

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