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1 控訴棄却判決の主文
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第2節 本案判決の主文
1 控訴棄却判決の主文
⑴ 控訴棄却の本案判決
控訴裁判所は、控訴が適法であり、第1審判決を相当とするときは、口頭弁
論を開いて、控訴を棄却しなければならない(民訴法302条1項)。控訴審におけ
る審判の対象は、控訴人の不服申立ての当否であって、第1審で提示された請
求自体の当否ではないから、控訴が適法であれば、控訴裁判所は、控訴審にお
ける本案である第1審判決の取消し又は変更を求める不服申立ての当否につい
て判断し、不服申立ては理由がないと判断するときは、控訴棄却の本案判決を
する。
控訴棄却判決が確定すれば、第1審判決も確定するが、この第1審の確定判
決の既判力の基準時は控訴審の口頭弁論終結時であり、第1審判決が給付判決
であれば、債務名義となるのは第1審の確定判決である。
なお、控訴審で訴えの追加的変更がされたときには、その追加された訴えは
新訴の提起であるから、不服申立ての当否の判断(控訴棄却判決)に加え、そ
の新訴に対し事実上第1審としての裁判をする必要がある。
また、第1審が訴えを不適法として訴え却下の訴訟判決をした場合の控訴に
おいて、控訴裁判所が第1審判決を是認するときには、その訴訟判決の当否が
本案となるので、控訴裁判所は、控訴棄却の判決をすることになる。
⑵ 理由の差替えによる控訴棄却判決
第1審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により
正当であるときは、控訴裁判所は、控訴を棄却しなければならない(民訴法302
条2項)。すなわち、第1審判決の事実認定又は法律解釈に誤りがあるが、す
べての証拠関係から認定される事実により第1審判決の結論を正当として是認
できる場合や、第1審判決とは異なる別の法律解釈によっても第1審判決の結
論を正当として是認できる場合には、控訴棄却の判決をすることになる。確定
判決の既判力は、主文に包含するものに限られ(民訴法114条1項)、理由中の判
断に既判力は及ばないから、理由の差替えによる控訴棄却判決をしても、当事
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第2節 本案判決の主文
者に不利益を与えることにはならないことが、このような処理を正当とする根
拠となっている。
なお、訴えを不適法として却下した第1審判決の判断は誤っているが、他の
点で訴えが不適法である場合、例えば、第1審が当事者能力の欠缺を理由とし
て訴えを却下したのは誤っているが、控訴裁判所は訴えの利益の訴訟要件に欠
けると判断した場合に、控訴裁判所としては、控訴棄却判決をすべきであると
いう見解( 東京高判昭和50・5・28判時785号67頁、兼子・条解上914頁)と、第1審
判決を取り消した上、改めて訴え却下の判決をすべきであるという見解(菊井
=村松・全訂Ⅲ145頁、条解新版1185頁)とがあるが、訴訟判決の既判力は確定判
決において判断された訴訟判決の欠缺について生じることに照らし、後説が正
当と解される。
⑶ 理由の差替えと相殺の抗弁
控訴裁判所が、第1審と同じく請求棄却の結論を維持するとしても、理由中
の判断に既判力が生じる相殺の抗弁が問題となってくる場合、例えば、第1審
は消費貸借契約の存在は認められるが予備的相殺の抗弁を容れて請求棄却判決
をしたところ、控訴裁判所は消費貸借契約の証明がないとして請求を棄却する
場合に、控訴裁判所は、第1審判決を取り消した上で改めて請求棄却の判決を
すべきであるという見解(注解民訴⑼〔小室直人=東孝行〕273頁、条解新版1185頁)
と、控訴棄却の判決をすべきであるという見解(菊井=村松・全訂Ⅲ156頁)とが
ある。後説は、相殺の抗弁についての判断に既判力は生じるものの、その判断
は判決の主文のうちに特別に示されるものではなく、判決の理由中に示される
にとどまるものであるし、訴訟費用については、当事者が第1審の訴訟費用の
裁判に対して不服を申し立てていれば、本案について控訴が提起されているか
ら、控訴を棄却する場合でも、第1審判決の訴訟費用の裁判の部分を取り消し
て、第1審と控訴審を通じての訴訟の総費用につき改めて裁判をすることがで
きるので、控訴棄却判決をすべきであるという。しかしながら、控訴裁判所の
理由中の相殺の抗弁についての判断には既判力が生じて(民訴法114条2項)、請
求債権の存在、反対債権の存在、請求債権と反対債権が対等額で消滅したこと
などにつき既判力をもって確定されるのであって、第1審の消費貸借契約の不
存在を理由とする判決とは既判力の内容と範囲が異なる上、控訴裁判所が第1
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2 控訴認容判決の主文(その1・差戻判決)
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審判決を取り消す場合には、訴訟の総費用の負担についての裁判をすることが
できて(民訴法67条2項)、控訴人に控訴費用を負担させる不都合な結果を避け
ることもできるので、前説が正当である。
⑷ 控訴棄却判決の主文及び理由例
【主文例】
「1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。」
【理由例】
「そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴
は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。」
「そうすると、被控訴人の控訴人に対する100万円の貸金請求は理由があ
るから、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないか
ら、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。」
2 控訴認容判決の主文(その 1・差戻判決)
⑴ 第1審の判決手続が違法な場合
ア 第1審判決の取消し
第1審の判決の手続が法律に違反しているときは、控訴裁判所は、第1審判
決を取り消さなければならない(民訴法306条)。第1審の判決の手続とは、判
決の成立(民訴法249、253条)及び言渡し(民訴法250、252条)などの判決の成立
に至る手続をいう。
イ 判決の成立手続の違法
判決の成立手続の違法には、評決手続の違法と判決書作成手続の違法がある。
評決手続の違法は、法律の規定により評決手続に関与することのできない裁
判官が評決に関与した場合(民訴法312条2項2号、338条1項2号参照)であり、
忌避申立てが認められて裁判に関与することができなくなった裁判官が評決に
関与した場合、裁判官の交替があったのに弁論手続の更新をしないまま口頭弁
論に関与しなかった裁判官が評決に関与した場合( 最二小判昭和32・10・4民集
11巻10号1703頁、 最三小判昭和33・11・4民集12巻15号3247頁)などがその例である。
判決書作成手続の違法は、法律の定める方式に従って判決書が記載されてい
ない場合(民訴法253条1項、民訴規則157条参照)であり、判決書に事実又は理由
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2 充実した第1回結審
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第3節 第1回口頭弁論期日における審理
1 控訴審における第 1回口頭弁論期日
第1回口頭弁論期日には、控訴状と答弁書の陳述、第1審判決の事実摘示に
基づく第1審の口頭弁論の結果陳述、控訴理由書の陳述、その他の準備書面の
陳述や証拠の提出、求釈明事項についての質疑応答などが行われるのが一般的
である。
ところで、控訴裁判所としては、訴訟記録の到着後、速やかに第1審の審理
と結論が正当であるか否かを検討し、当事者との事前協議を通じて、控訴審に
おける審理の対象と範囲及び審理方針を確定した上で、第1回口頭弁論期日に
臨むことが、審理の迅速化と充実を図るために必要である。
そして、第1審の審理と結論に問題はないと判断されるときは、控訴審にお
ける主張立証の必要は乏しいから、相当の割合の控訴事件は、第1回口頭弁論
期日で結審に至る実情にある。
全国の高等裁判所で平成18年の1年間に既済となった民事控訴審訴訟事件の
口頭弁論期日実施回数は、1回までの事件が58.5%、2回の事件が18.4%、3
回の事件が6.8%、4回の事件が3.2%、5回以上の事件が3.1%であり(最高裁判
所事務総局編・前掲119頁)、控訴審では、第1審で十分な審理がされており、更
に争点整理や証拠調べをする必要がないと判断された場合には、第1回口頭弁
論期日で審理を終結する第1回結審事件が約60%と多いことが明らかである。
ただし、口頭弁論期日と弁論準備手続期日の合計が5回以上の事件も10%程度
あるので、控訴審から見て第1審の審理が不十分であると判断された事件や、
控訴審で新たな主張がされ、争点が追加あるいは変更される事件も、一定程度
存在することがうかがわれる。
2 充実した第 1回結審
第1回結審に対しては、①控訴審の続行期日における主張立証の機会を強引
に第1回結審によって奪われたこと、②何の警告もなしに、第1回結審され、
第1審判決が取消し又は変更される結果となったこと、③合議体による慎重な
合議を経ないままに、第1回口頭弁論期日前における主任裁判官の事前協議に
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第3節 第1回口頭弁論期日における審理
よって、控訴審の審理の方向付けがされてしまっていることなどの不満が述べ
られることが多い。
しかしながら、覆審的な審理方法では、控訴審の審理方針が確定されないま
まに、攻撃防御方法の提出と反論及び証拠調べが延々と続き、訴訟遅延の弊害
が生じて、適正かつ迅速な審理の実現ができないことは明らかである。また、
事案の内容と第1審の審理及び判決内容等にかんがみて、早期の段階で争点の
解明をなし得る早期解明型事案において、第1回結審による早期の終結を目指
すことには何ら問題がない。さらに、主任裁判官においては、訴訟記録が到着
した後、速やかに、第1審の事実認定及び法律上の問題点の調査を尽くした上、
合議体による合議を実施し、事案に即した適切な審理方針を定めるようにすれ
ば、当事者の誤解は生じない。
その結果、控訴裁判所が、控訴理由において指摘された特定の認定判断の当
否に控訴審の審理の対象を絞り、この争点に対する集中的な審理を進める形で
「続審制の下における事後審的訴訟運営」による充実した第1回口頭弁論期日
を実施して、特に主張の追加や証拠調べをする必要がない審理状態に至れば、
第1回結審について、当事者双方の理解を得ることもできる状況となる。充実
した事後審的訴訟運営の1つの結果として、第1回結審が行われるにすぎない。
3 続行期日の指定
第1審判決が欠席判決であったり、公示送達によった場合、本人訴訟の場合、
原審での争点整理に不備がある場合、控訴審において新たな主張の追加や請求
の変更がされた場合など、事案の内容と第1審の審理及び判決内容等にかんが
みて、争点の解明のために弁論の続行や証拠調べによる弁論の深化を必要とす
る弁論深化型事案については、第1回結審をすることなく、控訴審において十
分な主張立証を尽くさせる審理を行う必要がある。
このような弁論深化型事案においては、無理に第1回結審をすることは相当
ではないから、主任裁判官を受命裁判官として、弁論準備手続を指定したり、
和解期日を指定したりして、弾力的な運用を図る必要がある。
4 心証の開示と不意打ち防止
控訴裁判所が、訴訟記録を検討した結果、第1審で審理が十分に行われてお
り、控訴審で更に主張立証を尽くす必要はないものの、第1審の結論は誤って
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4 心証の開示と不意打ち防止
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いるので、第1審判決を取消し又は変更すべきであると判断するときは、第1
回口頭弁論期日において口頭弁論を終結するのが相当と考えられる。
しかしながら、第1審で勝訴している被控訴人としては、控訴裁判所が、第
1審判決の取消し又は変更の可能性を指摘せず、これを前提とした和解による
解決の機会も与えず、十分な主張立証の機会も与えることなしに、第1回結審
をして、第1審判決を取消し又は変更することに対しては、不意打ち的な第1
回結審による一発逆転判決であるという不満を抱くことが多い。
しかしながら、続審制の下では、控訴裁判所は、第1審及び控訴審における
当事者双方の主張と取り調べられたすべての証拠から、独自に心証を形成する
のであるから、控訴審で証拠調べが実施されなかったとしても、そのことは控
訴裁判所が第1審判決を取消し又は変更しないという心証を抱いているという
予想を正当化するに足りるものではない。
ただし、控訴審における審理としては、審理の公正・適正・透明性の観点に
照らし、上記のような批判を解消し又は軽減するための方策を講じることが必
要であろうと考えられる。そのためには、事前協議の場において、第1審判決
の問題点を指摘し、控訴裁判所の暫定的な心証を示したり、裁判長が、第1回
口頭弁論期日において、裁判所の心証を伝え、第1審判決の取消し又は変更の
可能性を示唆するなどの方策を講じることで対処するのが相当であり、実務に
おいても一般的にこのような方策を実施しているものと考えられる。