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In this issue 欧州連合スポットライト 欧州議会及び欧州理事会による欧州連合関税法典の採択 ........................................................................2 グローバル クラウドコンピューティングの輸出管理と日本、米国における法整備の動向.................................................5 自由貿易協定その後の展開 カナダ-EU: 包括的経済貿易協定の項目................................................................................................11 EU ・中米連合協定発効 ........................................................................................................................12 環太平洋パートナーシップ協定近況......................................................................................................13 湾岸協力会議- シンガポール自由貿易協定の発効...................................................................................15 米州 ブラジル Inovar-Maquina制度: 資本財を対象とした税優遇措置........................................................17 Inovar-Peças制度: 自動車部品を対象とした税優遇措置................................................................18 Reduction of the PIS/COFINS import tax basis ..............................................................................19 カナダ カナダが外国貿易地域を活用する意向...................................................................................20 メキシコ メキシコ税制改正で外国の輸出入業務に重大な影響............................................................21 アジア太平洋 オーストラリア 判例が示した関税免除令要件の重要性.......................................................................25 アンチダンピング制度の整備によるコンプライアンス強化 ..............................................................27 新しい連立政権の下オーストラリアの貿易政策に変化が.................................................................29 中国 上海自由貿易試験区 ...............................................................................................................30 日本 一般特恵関税制度の改正.........................................................................................................31 ニュージーランド 低価格輸入品の基準値見直し ................................................................................33 ヨーロッパ、中東、インド、アフリカ 欧州連合・湾岸協力会議 EUの一般特恵関税制度が改定 GCC加盟国の石油・ガス・石油化学製品産業に影響..........................................................................35 ロシア ロシアがTIRカルネの利用を再開...........................................................................................37 20131212-4TradeWatch EY発行のGlobal trade management: how high performers are accelerating ahead EY の 刊 行 物ソート・リーダー シップ(thought leadershipの最新版が発表されました。本 号はグローバル貿易を取り上 げた内容となっています。 EYグロー バ ル・トレード・シン ポジウムは10年以上にわたり、 幅広い業界から選ばれたエグ ゼクティブを対象に、グローバ ル貿易を取り扱う部門のリー ディングプラクティス及び戦略 展開を考察するフォーラムを提 供しています。本年のシンポジ ウムで取り上げたトピックは、参 加エグゼクティブがリーディン グプラクティスのその先に目を 向け、ハイ・パフォーマンスに見 られる共通した特徴について 意見を述べることを可能にしま した。同シンポジウムでの討論 内容とその結果の要約を本レ ポートにまとめておりますので、 ここからアクセスの上是非ご覧 下さい。 このTradeWatchは、 EY CITグループにより発行された"TradeWatch December 2013 Volume 12, Issue 4"を、平素より業務上お世 話になっております皆様向けに邦訳した仮訳であり、原本はあくまで英語版となります。ご不明な点がある場合には、英語版を参照頂けますよ うお願いいたします。

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Page 1: TradeWatch - EY税理士法人...た貿易促進を目指して、欧州全域に電子通関環境を整 備し、通関手続きの統一化及び簡素化を規定していまし

In this issue欧州連合スポットライト欧州議会及び欧州理事会による欧州連合関税法典の採択 ........................................................................2

グローバルクラウドコンピューティングの輸出管理と日本、米国における法整備の動向 .................................................5

自由貿易協定その後の展開カナダ-EU: 包括的経済貿易協定の項目 ................................................................................................11EU・中米連合協定発効 ........................................................................................................................12環太平洋パートナーシップ協定近況 ......................................................................................................13湾岸協力会議-シンガポール自由貿易協定の発効 ...................................................................................15

米州ブラジル ー Inovar-Maquina制度: 資本財を対象とした税優遇措置 ........................................................17 Inovar-Peças制度: 自動車部品を対象とした税優遇措置 ................................................................18 Reduction of the PIS/COFINS import tax basis ..............................................................................19カナダ ー カナダが外国貿易地域を活用する意向 ...................................................................................20メキシコ ー メキシコ税制改正で外国の輸出入業務に重大な影響 ............................................................21

アジア太平洋オーストラリア ー 判例が示した関税免除令要件の重要性 .......................................................................25 アンチダンピング制度の整備によるコンプライアンス強化 ..............................................................27 新しい連立政権の下オーストラリアの貿易政策に変化が .................................................................29中国 ー 上海自由貿易試験区 ...............................................................................................................30日本 ー 一般特恵関税制度の改正 .........................................................................................................31ニュージーランド ー 低価格輸入品の基準値見直し ................................................................................33

ヨーロッパ、中東、インド、アフリカ欧州連合・湾岸協力会議 ー EUの一般特恵関税制度が改定

GCC加盟国の石油・ガス・石油化学製品産業に影響 ..........................................................................35ロシア ー ロシアがTIRカルネの利用を再開 ...........................................................................................37

2013年12月第12-4号

TradeWatch

EY発行のGlobal trade management: how high performers are accelerating ahead

EYの刊行物ソート・リーダー シップ(thought leadership)の最新版が発表されました。本号はグローバル貿易を取り上げた内容となっています。

EYグローバル・トレード・シン ポジウムは10年以上にわたり、幅広い業界から選ばれたエグゼクティブを対象に、グローバル貿易を取り扱う部門のリー ディングプラクティス及び戦略展開を考察するフォーラムを提供しています。 本年のシンポジウムで取り上げたトピックは、参加エグゼクティブがリーディングプラクティスのその先に目を向け、ハイ・パフォーマンスに見られる共通した特徴について意見を述べることを可能にしました。同シンポジウムでの討論内容とその結果の要約を本レポートにまとめておりますので、ここからアクセスの上是非ご覧下さい。

※ このTradeWatchは、EY CITグループにより発行された"TradeWatch December 2013 Volume 12, Issue 4"を、平素より業務上お世話になっております皆様向けに邦訳した仮訳であり、原本はあくまで英語版となります。ご不明な点がある場合には、英語版を参照頂けますようお願いいたします。

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2 TradeWatch 2013年12月

欧州議会及び理事会は、欧州連合関税法典(UCC)を定める規則952/2013を共同で採択しました。UCCは、2008年に採択されたEU新関税法(MCC)を練り直したものです。UCCは、関係者のいくつかの懸念に対処したものと思われます。しかし、依然として、通関の一元化や関税評価等の重要事項については、欧州委員会が、委任法令及び実施法令で明らかにされる必要があります。そのため、2016年より適用予定の同法典の内容や事業への影響に関しては、いまだに不確実な点が多く見られます。

ここでは、代表的な問題をご紹介します。

背景MCCは、輸出入円滑化と税関規制とのバランスが取れた貿易促進を目指して、欧州全域に電子通関環境を整備し、通関手続きの統一化及び簡素化を規定していました。 MCCは共同(欧州議会及び欧州理事会)決定規則として、2008年4月に採択され、実施規則が発効となり次第、遅くとも2013年半ばまでには適用される予定でした。ところが欧州委員会は、MCCの練り直しが適切と判断したのです。

この点について欧州委員会は、次のような配慮があったと強調しています。まず、期限の2013年6月が迫っているにも関わらず、導入可能な新規ITシステムが非常に限られている又は新規ITシステムがないことが欧州委員会を含む政策立案者にとって明白になったという事情です。 次に、MCCはリスボン条約に準拠する必要があり、その実施規則は委任法令と実施法令に分ける必要があります。さらに、MCC実施規則を作成する過程で、実施が困難だとわかった条項を調整する必要性がありました。そこで、欧州委員会は2012年2月にUCCを定める規則の草案を提示したのです。欧州委員会の提案を受け、欧州議会及び欧州理事会は、2013年10月にUCCを定める規則952/2013を共同採択しました。

輸出入を行う企業は、UCCの導入に伴い変更される業務プロセスに関連して、税関規則の明確さと整合性が必要なことから、UCCの採択を待ち望んできました。なお、UCCは2013年10月30日に発効しましたが、大部分の条項は2016年6月1日まで適用されません。委任法令及び実施法令に言及している条項は発効日から適用され、欧州委員会は2016年6月1日の期限を視野に入れ取り組むことが可能になります。なお、UCCをもってMCCは無効となりました。

通関の一元化 MCCの重要な側面に、通関の一元化というコンセプトがありましたが、これは認定を受けたEUの輸出入者は、当該物品の輸入先がどの加盟国であるかに関わらず、申告者の会社が設立された国において物品の電子申告を行い、関税を支払うことができるというものです。UCCの下では、申告書の提出国の税関、また物品の輸入国の税関双方で、いずれにおいてもさらなる責任が生じます。その上、関係する各税関は、税関申告書の認証及び物品の引き渡しに必要な情報のやり取りを行わなければなりません。ここで留意すべきことは、認証付与の条件について、今もなお欧州委員会が委任法令を用いて明確に定める必要がある点です。さらに、関連する通関手続き及び規制についても、欧州委員会が手続きを明確にする必要があります。

ファースト・セール MCC実施規則の草案作成中に議論された分野として、ファース・トセールがありました。現在、EUへの輸入以前に複数の販売取引を経て貨物を輸入する輸出入業者の多くは、関税評価戦略のファースト・セールの活用によってメリットを享受できています。現行ルールの下では、一定の要件を満たすEU輸入者は、関税上、ファースト・セール価格を申告することが許されており、その結果、関税評価価格が低減し、税負担も減少させることができます。

欧州議会及び欧州理事会による 欧州連合関税法典の採択

欧州連合スポットライト

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3 TradeWatch 2013年12月

提案されていたMCC実施規則では、EU輸入時における最後の販売取引が、関税評価のベースとなる取引として適格であると規定されていました。このような改正は、関税評価額の上昇、ひいては影響を受ける輸出入者の税負担の増大につながります。しかし、ファースト・セールは、UCCによって除外されることはない模様です。しかし、関税評価額を決定する手続については、依然として欧州委員会が実施法令により定める必要がある点に留意が必要です。以上から、企業は、現時点ではファースト・セールの存続について断定できない状況です。

ロイヤリティ及びライセンス料もうひとつの議論として、ロイヤリティ及びライセンス料の関税上の取扱いがありました。ロイヤリティが輸入貨物の取引価格(すなわち課税価格)に加算されるのは、それが評価対象貨物に関連しており、また、その支払いがEUへ輸出されるこれらの貨物の販売条件となっている場合に限定されています。現行ルールでは、ロイヤリティは一般的に、一定の条件を満たすことで関税評価額から除外可能です。

MCC実施規則の案では、加算対象となる販売条件の範囲が拡大されているため、ロイヤリティも容易に関税評価額に含まれてしまい、結果として影響を受ける輸出入業者の税負担の増大につながってしまいます。これに対し、UCCの追加条項は、現在EC関税法で適用されている条項に一致しています。一方で、上述の通り、欧州委員会は依然として、関税評価額を決定する手続きを、実施法令を用いて定める必要があり、これにはロイヤリティやライセンス料等の追加項目に関する規則も含まれます。そのため、加算対象となる販売条件について現状維持となるか否かが判明するのは今後のこととなります。

その他

通関代理誰でも、業務円滑化を目的として、税関申告書の提出等、税関当局とのやりとりを補助する通関代理を任命することができます。MCCでは、通関代理はEU内に所在する者でなければならないという要件を定めていました。しかしUCCでは、当該通関代理がEU(関税地域)内に所在する必要のない者の代理を務めている場合、別途定めのない限り、この要件は免除されました。

AEO制度UCCは、(AEO認定取得に必要な投資にみあった)さらなるメリットを認定事業者(AEO)制度に結びつけるという輸出入者の要望を満たしているように見受けられます。例えば、AEO認定付与の際に審査対象となった基準が、UCCに従って改めて審査されることはありません。

さらにUCCには、AEO企業は「税関規制に関し、付与される認定の種類に応じて、物理的なあるいは書面での規制が軽減される等、他事業者よりも有利な扱いを享受する」という明確な記述があります。これはEUの立法者の善意を反映したものです。しかし、この記述は恩恵としてはやはり抽象的であるため、具体的な優遇措置と関連させることが求められます。こうした優遇措置の概要については、欧州委員会の委任法令で明らかにされる予定です。

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4 TradeWatch 2013年12月

ペーパーレス環境情報・通信技術の利用は、輸出入の円滑化及び税関管理を進める上で重要な要素です。そのためMCCには、税関と輸出入に関わるすべての手続きを電子処理するという原則を実施するための枠組みが盛り込まれました。しかし、自ら課した2013年6月という期限は、あまりにも野心的でした。そのため、UCCでは暫定的に非電子的なデータ処理が認められていますが、その期限は2020年12月31日までとされています。必要な電子システムが実用化されるまで、通関一元化のための移行措置として、「税関手続き簡素化のための一元的認証」として現在知られている手続きを存続させることになるでしょう。

終わりにUCCは、長期にわたる適用を見込んで、また様々な関係者の懸案事項に対処するために立案されました。しかし、こうした懸案事項への対処が実際になされているかどうかは、欧州委員会が今後委任法令・実施法令で周辺的な要件及び手続ルールを定めなければならないことから、未だ判然としていません。企業は憂慮しながらこれらの法令が出されるのを待つことになりますが。その結果は、とても良いものになる、あるいはその逆、のいずれも可能性があります。いずれにせよ、2016年6月1日までに委任・実施法令が導入されることを、UCCは欧州委員会に義務付けています。

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5 TradeWatch 2013年12月

業務の円滑化、自身の近代化、サービスの共有、容易な社内外のコミュニケーションは企業が切望するもので、これがインターネットを基盤としたクラウドコンピューティングモデルへの動きを加速させています。クラウドコンピューティングは企業理念として受け入れられましたが、インターネットを基盤としたコンピューターサービスはしばしば国境に遮られることがなく、特にこの性質を考えてみると、多くの企業にとって規制リスクはまだ明らかではありま せん。

多くの国では輸出や再輸出、及び規制品目・ソフトウェア・技術・技術的データの送信には、物理的な経路(船荷、貨物輸送等)に加え仮想的な手段(サーバー間のデータの移転やリモートアクセス等)にも同様に輸出規制が適用されます。

大抵の場合、物理的な世界のために策定され条文化した輸出規制法が、新しいテクノロジーにどう適用されるかについて、ますます多くの国で規制機関による明確化が始まっています。ここでは輸出規制の対象となるクラウド利用者の主要な課題と検討事項の概観をお届けし、米国と日本での法整備の動向について何点かご説明します。

クラウドコンピューティングについてビジネスの世界においてクラウドコンピューティングは、クラウドベースのハードウェアや共有のグローバルネットワーク、及び選択したデバイスを通じ、企業ユーザーや契約者に多種多様なコンピューティングリソースを活用する機会を提供してくれます(例えば、コンピュータ処理、セキュリティ、ストレージやインフラ等)。

クラウドコンピューティングのサービス提供者は一般的に次の3つのサービスモデルを契約者に提供しています。

1. サービスとしてのインフラ(IaaS):基礎的コンピュータ処理、ストレージ及びネットワーク回線

2. サービスとしてのプラットフォーム(PaaS):データ ベース、開発ツール及び特別仕様のアプリケーションの提供を支援するのに必要な他のコンポーネント

3. サービスとしてのソフトウェア(SaaS):ワードプロ セッシング、電子メール、表計算等の一般的なアプリ ケーションや顧客関係管理、企業資源管理等の専門的アプリケーション

また、クラウドコンピューティングは、リソースの共有レベルを変えて設定及び展開することができ、共有レベルを上げればさらに拡張性とコスト節約性が高まる可能性があります。

• コミュニティークラウド - 共通課題を抱える特定の利用者のコミュニティーが複数の組織から参加し排他的に利用

• プライベートクラウド - 単一の組織で内部又は外部管理• ハイブリッドクラウド - コミュニティークラウド、プライベートクラウド及び(又は)他の展開モデルの組み合わせ

クラウドコンピューティング: 具体的な輸出管理の課題と検討事項クラウドコンピューティングについて多くの企業が直面している輸出管理法令遵守の主たる障害は、まずは心構えの問題といえます。クラウドによる通信と情報アクセスは物理的なものでないため、当初から輸出規制を視野に入れて適切に設定しないと管理するのが困難になりかねません。

クラウド環境で情報が伝達される時は、超高速で、容易に、しかも捕捉不能性をもって伝達されるので、不注意による技術の移転や輸出の可能性があり、クラウド利用者である企業が輸出や他の適用法令に違反してしまうリスクが存在します。クラウドコンピューティングを検討している企業は初期のプランニング工程の一環として以下の事項を検討する必要があります。

クラウドコンピューティングの輸出管理と 日本、米国における法整備の動向

グローバル

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6 TradeWatch 2013年12月

物理的な所在地とセキュリティ規制対象の技術情報を保管するインフラ(例えばストレージスペース等)を外注すると、とりわけ企業が不正な輸出を犯すリスクにさらされることになりかねません。これはクラウド利用者がクラウド提供者の物理的なサーバーの所在地を把握していない場合に起こり得ます。外注による費用削減のためにしばしば、クラウドサーバーは外国に置かれ、クラウドサービスの利用者に通知も無く移転される場合があります。ハイブリッドやコミュニティーモデルでは輸出規制リスクがさらに増し、利用者がコミュニティーメンバーのアクセスや利用に関し自身のプライベートシステムと同程度のコントロールを有していない場合があります。

管理とサポートアクセスのコントロールクラウドサービスの数と種類が増加するにつれて、サービス提供者と利用者の相互関係が多小なりとも絡み合ったものになる可能性があり、サービス提供者の職員(外国人か否かを問わず)が利用者の技術と情報に関してサービシングやアクセスをする等、利用者にとって他にも懸念事項が生じてきます。プライベートクラウドモデルでさえも輸出リスクがないというわけではありません。利用者はクラウドモデルに移行する前に自己の技術と情報を特定し、一旦クラウドに保存されたら、たとえ不注意によるものであってもそのような技術や情報の輸出に係るリスクを理解しなければなりません。

規制技術の特定とタグ付け企業の規制対象技術を特定(すなわち判定分類)し、符号を付ける(すなわちタグ付けをする)ことは輸出規制の対象企業にとって重要な法令遵守対策です。この工程は、不正な移転を防ぐための内部コントロールを(自動化されている場合もある)を物理的及び仮想輸出に適用することを可能にします。特定化とタグ付けはクラウドの中で情報がどこにどのように送信されるか、又は保存されるかを管理する企業の能力を向上させます。

クラウド利用と安全な転送プロトコル高度の規制技術機微度の高い、規制対象技術を持つ企業の中には、機密性の高い情報を保存するのにプライベートクラウドを活用し、機密性のそれほど高くない情報にコ ミュニティークラウドを併用するところもあります。クラウド契約者はクラウド利用者に対し規制対象となる技術情報の保存、転送及び利用に関し内部コントロールを明確に定義する必要があります。追加的なセキュリティ措置として、企業の中にはクラウドに送信する情報やクラウド内に保存する情報を暗号化するところもあります。

クライアントアクセスコントロールクラウド利用者は選択したクラウドモデルが自己の従業員又は利用者との情報・技術の共有にどう影響するか熟知しなければなりません。さらに企業はクラウドモデルが不安定又は硬直的な場合に初期費用の便益・節約に対して長期の法令遵守リスクを比較すべきでしょう。例えばハイブリッドやコミュニティークラウドに対してパブリッククラウドモデルは、問題となる情報や技術の種類や、利用者が希望するアクセスの種類により、数々の追加的なアクセス管理を必要とします。このようなモデルは利用者自身の従業員に対するアクセス管理や当該ハイブリッドやコミュニティーモデルにアクセスできる当事者(サービスプロバイダー以外)に対するコントロールの導入を必要とします。

情報と技術を特定しタグ付けをし、適切な管理を怠ったことに加え、アクセスモデルが無計画な場合、輸出規制遵守を逸脱する機会が飛躍的に増加します。利用者の従業員のID、物理的な所在地やアクセス要件のたんなる変更がクラウドモデルで共有できる情報や技術に影響します。クラウド利用者は、いかなるクラウドコンピューティング構造の計画にも通常のリソースや構造変更(例えば従業員のグローバルの異動、合併又は買収、ジョイントベンチャー)を検討すべきでしょう。さらに、クラウド利用者は従業員のリソース、情報や技術の識別や性格に係る将来の変更がシステム全般のセキュリティやコンプライアンスの整合性に影響を与える可能性のある場合は、当該工程を監査する能力を検討し、クラウドモデルと基本契約の柔軟性を測定する必要があります。

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7 TradeWatch 2013年12月

インフラストラクチャー(IaaS)

プラットフォーム(PaaS)

ソフトウェア(SaaS)

物理的所在地と セキュリティ

アドミニストレーションとサポートアクセスの管理

利用と安全な送信のための暗号化

クライアントアクセスの管理

サービスモデル

サービススタックの要素

輸出規制検討事項

プライベート コミュニティー ハイブリッド 設定オプション

技術の判定規制情報の特定とタグ付け

クライアント端末と人員

物理的データセンター

ネットワークとファイアウォール

サーバー及びバックアップ

オペレーティングシステム

プラットフォーム ソフトウェア

ホスティングされたアプリケーショ

クラウドコンピューティングをめぐる 米国の規制動向クラウドコンピューティング利用者は次の3つの注意事項について認識しなければなりません。

1. 米国から禁輸国への情報の移転2. 認可国から禁輸国への米国規制対象情報の再輸出 移送

3. 米国所在の規制対象の人物・組織への米国内での 情報の移転(みなし輸出)

仮想環境では、情報がサーバーから他のサーバーへ送られる場合や、遠隔操作により送られる時に移転が起こります。場合によっては、情報を実際に移転したり閲覧してなくとも、規制対象の人物が(米国内又は海外を問わず)情報を移転したり、閲覧したりできる能力があっただけで、政府は移転が行われたとし違法とみなします。

クラウドコンピューティングに関しては、これまで米国の輸出管理所管官庁からの指針はやや限定的でした。以下に様々な行政機関が取り上げた主要な検討課題をいくつか取り上げてみます。

輸出管理規制に係る義務主要な課題の一つに輸出規制に関してそれぞれの当事者(すなわち、クラウド利用者/契約者及びクラウドサービス提供者)の持つ義務を理解することが挙げられます。米国産業安全保障局(BIS)がこの点について正式にコメントをした唯一の行政機関です。クラウド提供者からの匿名の要請に応じて出された2009年のBIS回答でBISは、米国輸出管理規則(EAR)の下ではクラウドサービス提供者は一般的には規制対象技術の輸出者ではない一方、クラウド契約者は、自身の情報の伝達について、「物理的な」世界で第三者の流通配送業者を利用した場合等と全く同じように米国輸出規制義務の対象となるであろうとの見解等を示しました。1

1“Application of EAR to Grid and Cloud Computing Services,” Bureau of Industry and Security (2009年1月13日)

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TradeWatch 2013年12月8

2011年のBIS回答では、クラウドサービス提供者は自身のクラウドコンピューティングシステムの管理維持をする外国籍のIT職員のためにみなし輸出許可を取得する義務があるかどうか尋ねられました。2 一般的なみなし輸出の概念にやや反するようですが、BIS回答はサービス提供者がEAR上「輸出者」でない場合は(そして代わりに利用者が情報や技術の送り主や移送者である場合は)、サービス提供者はみなし輸出許可を取得する必要はないであろうと述べているようです。しかしながらBISは実際には利用者が輸出許可を取得する義務があるだろうと述べているようであり、企業が日常的に米国輸出規制対象の情報を送信したり保存したりするための方法としてクラウドを活用している場合に複雑さを増すことになります。

BISの指針は、輸出及び非米国人との取引に管轄権を持つ他の規制機関の動向まで示すものとしては利用できないと留意すべきで しょう。

加えて、米国軍需品リストに列記された国防関係の物品と役務の輸出入を規制する国際武器取引規則(ITAR)については、防衛貿易諮問グループ(DTAG)が最近クラウドコン ピューティング全体会議で明確性の問題にふれました。DTAGはクラウド利用者とサービス提供者の役割と責任について、ITARの統一的かつ明確な理解を伸長するためのいくつかのアイデアと、当事者にそのリスクを伝える統一的な基準・許可について提案をしました。全体会議の詳しい情報は、(www.pmddtc.state.gov/DTAG/)をご参照下さい。

暗号の使用もう一つの問題は、規制対象である情報の不注意な送信を防ぐための暗号の使用の影響です。2013年5月の本会議ではDTAGはクラウドに特化した規制変更を推し、それには、ITARで定めた輸出の定義から、暗号化された情報は除くという提案も盛り込まれていました。その理由は暗号化された情報は、人間にもコンピュータにも読み取りの際には暗号文としてしか映らないからです。DTAGは情報が暗号鍵無しで伝達された場合には、その情報を所有している者でさえも暗号化されたフォーマットに含まれる情報を読み取ったり、演算したりできず、解読資料がない限り不注意による送信のリスクも除去されると いうものです。しかし、米国の規制の対象となる者は、ITARが現実に改正されるまでは、国防貿易管理課はクラウドで行われる活動についてITARを厳格に執行すると想定すべきで しょう。

財務省外国資産管理局はクラウド コンピューティングについて言及無し輸出管理に関係するもう一つの米国の規制機関は財務省外国資産管理局(OFAC)で、この機関は規制国と特別に指定された個人等に対する経済・貿易制裁を管轄・執行します。

2“Cloud Computing and Deemed Exports,” Bureau of Industry and Security (2011年1月11日)

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9 TradeWatch 2013年12月

OFACの規則は規制対象者や規制対象国に対して役務、物品及び便益供与の制限や禁止を定めています。OFACは、その管轄する制裁がクラウドコンピューティングにどう影響するか直接には言明していません。それゆえ、利用者も提供者も、そのクラウドモデルが規制対象の人物や国にクラウドサービスや、クラウド内の情報・技術を提供しないよう(又はクラウドサービスから、金銭的その他の音利益を得ることがないよう)、気をつけなければなりません。

クラウドコンピューティングに関する 日本の規制動向産業界からの増大する要求に応えて、経済産業省(経産省)は2013年9月1日付の改正通達を出しました。この通達は、クラウドコンピューティングに関する日本の輸出管理法令の適用を明確化しています。

日本の輸出管理法令では、次の場合に輸出許可が必要 です。

• 日本の居住者又は非居住者が日本国外特定国において、規制対象技術を提供する目的で取引を行おうとする場合、又は

• 日本の居住者が非居住者に規制対象技術を提供する目的で取引を行おうとする場合

従来、この条項がクラウドコンピューティングにどう適用されるかについて、正式なガイダンスはありませんでした。その結果、クラウドという比較的新しい技術・サービスについて、サービス提供者と利用者にどの程度のコントロールが要求されるのかは不明確でした。

IaaSIaaSモデルについては、日本の居住者が外国のサーバー又は非居住者が閲覧できるサーバー(所在地を問わない)に情報をアップロードする行為自体がが、法令で禁じられた人又は国に対し技術を提供する「目的」(意図や知識)要件を満たすか、つまり当該居住者が現実にそのような「認識」や「意図」を有していたかを問題とせず責任を問われるかどうかが不明確でした。経産省はサービス提供者(又はその他の非居住国者)が規制対象技術を閲覧、取得又は利用できることを日本の居住者が知っていた(又は後になって判明したにもかかわらず相当な間内に処置を取らなかった)場合には、かような「目的」が存在するとみなすとしています。このような場合にアップロードするには輸出許可が必要となります。しかし、日本の居住者である利用者のみが規制対象技術を閲覧、取得及び利用できる場合には輸出許可は必要ありません。

SaaSSaaSに関しては、土台となるソフトウェアやテクノロジーがダウンロードできず、サーバー上に存在するソフトウェアの利用のみが可能な場合のサービス提供者の責任について不明確なところがありました。

改正通達では、SaaSで規制対象技術を利用できる状態に置くことは、輸出許可を要すると明確に示しました。SaaSの該非判定にあたっては該当するアプリケーションソフトウェア自体の技術のみを検討すればよく、オペレーティングシステム、ミドルウェア、ロードバランサー等のサービスを実現するために使われる技術については該非判定の対象とする必要はありません。さらにプログラムが、市販プログラム特例該当する場合は、輸出許可は必要ではありません。

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10 TradeWatch 2013年12月

クラウドの方向性決定とプランニングのための次のステップクラウドコンピューティングに対する輸出規制の適用に対し、様々な国から規則の明確化やガイダンスの発表が予想される一方で、クラウド利用者は規制対象技術に対し究極的な遵守義務を負います。サービス提供者も、全くリスクを負わないわけではない一方、利用者、特にグローバルの企業の場合は、世界中の輸出規制要件を遵守しながらクラウドコンピューティングの恩恵をどのように活用するか、判断しなければなりません。

クラウドコンピューティングの各モデルは、国境を越えた流動性のある性質を持っていますが、企業の規制技術の管理に必要な遵守要件と調和裡に共存できます。しかし、企業は規模の大きいITインフラの改良に際しては、クラウドへの円滑な移行を確保するため、できるだけ早い段階で輸出規制遵守義務の計画を検討すべきでしょう。

企業が、事前計画を策定し、リスクの特定、技術の判定、それら作業に基づいて作成したスクプロファイルによる適切な技術管理の実施等をする能力を備えれば、遵守リスクの管理と「緊急」措置を回避でき、コスト削減も達成可能になるでしょう。緊急措置は必要性又は規制違反の可能性に基づいた矯正措置であり、コストが高くつき、時間を要し、企業の評判と究極の事業目標に悪影響を与えかねないものです(技術、物理的な商品及びサービスのフローを遅滞・停止することも含みます)。

以下の点をご検討下さい。

• 情報とテクノロジーを検査し、規制対象となる技術を特定、判定を行いましたか?

• 現在の輸出プログラムは、現在又は将来のクラウドコンピューティングへの移行について検討していますか?

• 規制対象となる技術情報がどこに保存されていて、どのようなITモデルが現在使用され、サーバーがどこに所在し、どのようなサポートのモデル又は人員が利用されているか知っていますか?

• 文書化されたグローバルな貿易管理コンプライアンスプログラム、及び物理的及びITセキュリティと、技術・情報管理の手順を定めた、情報管理プランを備えていますか?

• 最近又は今後予定されている移行(例えばITの移行、合併又は買収、ジョイントベンチャーやパートナーシップ、製品サービスラインの変更、事業の海外進出等)により、特にリスクにさらされていますか?

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11 TradeWatch 2013年12月

カナダ-EU: 包括的経済貿易協定の項目カナダ-EU包括的経済貿易協定(CETA)の明確な交渉の成功が、2013年10月18日に発表されました。2008年からヨーロッパとの貿易自由化を目指した、この長期にわたる努力の結果、今後は新たな貿易とサプライチェーンの多くの好機が物品輸出入者にもたらされます(雇用流動化や専門的なサービスの市場へのアクセスも可能となるでしょう)。それはまた投資家を保護し、国際的なサービス貿易を促進します。CETAと北米自由貿易協定(NAFTA)によってカナダは、世界の二大市場への特恵待遇を享受している数少ない先進国の一つとなりました。

カナダ各州及びすべてのEU加盟国が協定を批准しなければならないため、CETAが発効するにはまだ数年を要します。ただし、カナダとEUが関連する関税率の改訂を毎年行うことで、関税の段階的削減及びその他の暫定的な自由化措置が早い時点で実施されるかもしれません。

法律の条文がこれから起草されるためCETAの最終合意はまだですが、カナダとEUはすでに協定の批准発効によりもたらされる変化の大枠を公表し始めています。今まで行われた限定的な正式発表及び「欧州における新市場開拓」アクションプラン(カナダ外務省のサイトwww.international.gc.caで最近発表された52頁の冊子で、現在入手可能な最も詳細な情報)によれば、貿易にもたらされる恩恵には次のものがあります。

• 関税及び非関税障壁の撤廃と割当の調整CETAの発効と共にEU、カナダ双方のほぼすべて(98%)のタリフラインを免税とし、残りについても段階的に関税を撤廃します。加えて非常に多くの非関税障壁(例えば、しばしば関税率よりも大きな影響を与える規制に基づく承認や技術標準の負担)もこれらを双方が統一することで排除されます。これには、欧州産チーズ及びカナダ産牛豚肉製品の輸入割当数量が、市場アクセスレベルで大幅に増加することなどがあります。

• 原産地規則物品がカナダ原産かEU原産かを決定するために、他の特恵関税措置とともに原産地規則が導入されます。カナダ原産とする域内生産割合の決定にあたっては、カナダと米国の貿易及びサプライチェーンの関係を抑制することは無いものと思われます。また自動車についてのCETAの域内生産割合要件は既存の多国間にわたる製造サプライチェーンに適合したものとなるでしょう。

• 特筆すべき分野経済的に恩恵を受ける分野としては、工業、農業、医薬、ライスサイエンス及び自動車分野が含まれます。工業分野の優遇措置は特にカナダの石油、ガス及び鉱業分野に恩恵を与えます。例えば、カナダは鉱物探査と採掘において有数の国であり、EUへの金属及び鉱物製品の年間輸出額は2千万カナダドルを超えています。CETAの発効に伴い(もしくはより早く)、金属、鉱物及び鉱業技術製品の関税は実質的に撤廃されます。ただし非特恵関税率の中でも最高の25%が輸入商船に課されている造船分野が影響を受けるのはまだ先のことでしょう。

• 公共調達州、地方自治体レベルの公共調達に参入する権利が、EU又はカナダ国籍の人、企業に認められます。これはNAFTAと大きく異なる点であり、カナダの契約企業は年間2.7兆カナダドルに達するEUの政府系調達市場へ特恵的アクセスを得ることができます。

• 企業従業員及び高技能労働者の一次入国カナダの専門職業家及び企業は、その投資及び顧客に対応する専門職スタッフを簡易な一次入国手続きに よって派遣することが出来るようになります。

自由貿易協定その後の展開

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12 TradeWatch 2013年12月

EU・中米連合協定発効 2012年6月に署名されたEU・中米(すなわちグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、 及びパナマ)連合協定(「協定」)のうち貿易に関する部分が、エルサルバドル、コスタリカ、及びグアテマラで発効しました。

協定はそれぞれ依存関係にある基本的な三つの分野、 政治的対話、協調、及び貿易からなっています。

協定の貿易部分では双方の地域で自由貿易圏を設けています。協定による重要な恩恵には以下のものが含まれます。

• 関税及び貿易に対する非関税障壁の削減又は撤廃• 物品貿易の円滑化• サービス貿易の自由化• 関税手続きに関する経済的地域間の統合の推進• 効果的、相互主義的かつ段階的な公共調達市場の開放• 十分かつ効果的な知的財産権の保護• 自由で歪みのない競争の推進• 効果的かつ公正で予測可能な紛争解決手段の構築• 当事者間の国際貿易と投資の推進

2013年7月にエルサルバドルとコスタリカの議会によって協定が批准された後、この2カ国における貿易部分の発効はイタリアとの紛争により遅れていましたがそれも解決しました。

これによって協定の貿易部分はすべての地域で発効したこととなります(ホンジュラス、ニカラグア及びパナマは2013年8月1日、コスタリカ及びエルサルバドルは2013年10月1日、グアテマラは2013年12月1日に発効しました)。

政治的対話及び協調の分野はEUの加盟28カ国の議会すべてで協定が批准された時点で発効することとなります。

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13 TradeWatch 2013年12月

環太平洋パートナーシップ協定近況3年以上交渉の続いている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、現在世界の貿易の3分の1を占める12の加盟国の参加を誇るようになりました。オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムを含む包括的自由貿易協定は今後さらなる加盟国の増加を見込んでいます。

21世紀における包括的かつハイスタンダードのFTAと謳われるTPPは、物品貿易、サービス、労働基準、投資、競争政策、環境、知的財産及び国有企業その他の分野をカ バーする29の章から成り立っています。TPPはほとんどすべての物品及びサービス貿易における自由化を目指し、現在世界貿易機構のもとで構築されている取組みを超えるものを含んでいます。

ほとんどのFTAと同様に、原産地規則は製品ごととされ、特定の規則又はそれらの組合せ(例えば完全生産品、 関税分類の変更、付加価値及び特定の工程に着目したの規定など)に基づくことになります。

TPPは、すでにいくつかの加盟国間で締結されたFTAの集まりに加わることになります。例えばニュージーランドとシンガポールはTPPをいれて4件の共通するFTA(相互のFTA、P4協定、及びASEAN-オーストラリア・ニュージーランドFTA)を有することになります。関連するFTAによって製品の原産地規則、関税譲許や手続き上の要件は異なるので、輸出者はどのFTAが最も有益か十分な情報を得たうえで決定が下せるようにならなければなりません。

TPPの主な利点はグループ化の規模の大きさであり、これによって広範な調達が可能となります。なぜなら、FTAは、製造業者による製品の原産地規則充足を可能とするため、加盟国域内で調達された原材料や資材も「原産」として取り扱うようにしているからです。

総合的に見て、TPPは加盟国間の貿易に大きな影響を与えると考えられています。またさらに加盟国が増えること、特にアジア太平洋経済協力(APEC)3及び東南アジア諸国連合(ASEAN)4の国々の参加が期待されています。

TPPにおける米国の存在を考えると、ASEANの国々が一つのブロックとして参加する可能性は、この地域の多くの貿易業者の関心事です。ASEAN加盟国では唯一シンガ ポールが米国とFTAを結んでいます。したがってTPP参加している他のASEAN加盟国(ブルネイ、マレーシア、ベトナム)にとってTPPは格別に有利なものとなります。これらの国は米国市場への特恵的なアクセスを得ることが出来るのです。しかし、加盟国間の経済発展の格差と法的・政治的システムの多様性を考えると、今のところASEANがTPPにブロックとして参加する兆候は見られません。さらにTPPの目標水準の高さに伴う、環境、知的財産、労働などの分野における先進的な取組みを、ASEANが近い将来に受け入れる可能性は低いものと思われます。

しかし同時に、各国は米国-ASEAN拡大経済対話(E3)の下、米国-ASEAN間の貿易と投資を促進し、ASEAN全体を通じた貿易フロー及びサプライチェーンの効率性及び競争力を向上させるための、具体的な協調活動を特定するため協議を続けています。このようにして、E3の活動における協働は、ASEANの国々がTPPのような高い標準の貿易協定に参加するための地ならしとなるでしょう。

3 APAC加盟国にはオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニュー ギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、台湾、タイ、米国、及びアメリカが含まれます。

4 ASEAN加盟国にはブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナムが含まれます。

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14 TradeWatch 2013年12月

中国とインドもまたその市場の大きさからTPPへの参加が興味深く見守られている国々ですが、現時点ではこれらの国が積極的に参加を検討しているという公式な兆しは見られません。

TPPの利点を活用する計画を立てている貿易業者は協定の詳細を心待ちにしていますが、今のところ交渉担当者によって厳しく秘密にされています。今後のTPPの動向に ついても、次号以降のTradeWatchで取り上げていく予定です。

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15 TradeWatch 2013年12月

湾岸協力会議-シンガポール自由貿易協定の発効湾岸協力会議(GCC)の国 (々バーレーン、クウェート、オ マーン、サウジアラビア及びアラブ首長国連邦)とシンガポールの自由貿易協定(GSFTA)が2013年9月1日に発効しました。GSFTAは物品及びサービス貿易、政府調達その他の分野の協力を包括的に定めたものです。恩恵を受けると期待される主な産業分野には電気通信事業、電気及び電子機器、石油化学、宝石、機械、そして鉄鋼関連産業が含まれます。

GSFTAの重要事項 • シンガポールからGCCへの輸出について当初95%の関税が撤廃され、これに加え2.7%が2018年までに免税となります。

• GCC内で営業するシンガポールの事業について、外国資本制限が緩和されます。

• カタール及びバーレーンで営業するシンガポールの金融サービス機関に特別な減免措置が取られます。

• シンガポールはGCCからの輸入についてすべての関税を撤廃します。

• GSFTAによる特恵的関税の取扱いの恩恵を受けるためには、製品が協定の原産地規則を満たすこと、そして価格が1,000米ドル以上の場合には関連当局に認証された原産地証明が必要であり、また直送要件もあります。

シンガポールは中東以外で最初にGCCと貿易協定を締結した国です。これによってシンガポールの輸出者は特恵関税待遇により、他の海外輸出者に対し、競争において大きなコスト面での優位さを得るでしょう。一方GCCのシンガポールに対する輸出者にはGSFTAの新しい関税の恩恵は限られたものとなります。なぜならこれら対象となる製品のほとんどは、すでにシンガポールの最恵国待遇(MFN)関税によって税率ゼロとなっているからです。

GCCでビジネスを行っているシンガポールの事業者もまた、GCCの外国資本制限が緩和されることで恩恵を受けることとなります。ただしGCCの資本要件緩和にはさらにGCC各国における法制の変更が必要となるため、シンガポールの投資家がこれらの恩恵を受けるのはまだ先の事のようです。加えて、特恵関税の取扱いを受けるための手続き要件がまだ固まっていないことから、シンガポールの輸出者は協定に基づいて特恵関税の取扱いを受けようとする際には、事前の協議を経るべきでしょう。

原産地規則 原産地規則によって関税の観点から製品の国籍が決定されますが、GSFTAではシンガポール又はGCCで十分に加工又は製造された製品のみが、協定の関税譲許適格となるような規則となっており、工場渡し価格の35%(付加価値割合)が原産国での製造やその他の活動に帰属しなければ特恵的取扱いを受けることはできません。ただし原産地基準が関税分類の変更に基づいている10の製品があることに留意してください。

付加価値割合の算定には、工場渡し価格と非原産材料(NOM)を考慮した次の計算式が適用されます。

工場渡し価格 – NOMx 100% ≥ 35%

工場渡し価格

工場渡し価格とはGCC又はシンガポールにおいて、工場渡しされる製品について製造業者に対し支払われる価格を言います。輸送費、保険料及び現地の租税等の物品製造後の関連費用は除かれます。

原産地を決定する際に、GCC原産の原材料でシンガポールでの物品製造に使用されるものはシンガポール原産、その逆の場合にはGCC原産とみなされます。この累積規定はGCCとシンガポール間の増加する貿易の発展を助けるものとなります。

また、GSFTAは、製品の原産地を考える際に十分な製造とはみなされない7つの「不十分な工程」を設定しています。これらには物の保存に加えて、ほこりの除去、包装の変更、委託品の分解と組立て、製品のビン詰め、単純な切断、 物品又は包装への商標又はラベルの貼付、動物の屠殺といった単純な作業及びこれらいずれかの組み合わせと なっています。

GSFTAの特恵的取扱いの恩恵を受けるためには、通常GCCからシンガポールへ、又はその逆の製品の直送が必要ですが、一定の条件を満たした場合には第三国を通過することが認められることもあります。

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TradeWatch 2013年12月16

税関手続き協定は、GCCとシンガポール間の自由な物品の移動を促進にするため、以下のような一定の通関手続きを定めています。

• 特恵的取扱いのための原産品の適格性及び関税分類に関する事前教示

• 低価格の原産品についての原産地証明要件の免除

• ハイリスク物品に重点を置き、低リスクな積荷の通関を円滑にするためのリスク管理

サービス貿易GSFTAは、シンガポールのサービス提供者に対し、GCCの市場参入機会を高めるでしょう。いくつかのGCCの国々はシンガポールの関心の深い一定の重要分野、建設サービス、流通サービス、及び病院サービスなどで外国資本制限を緩和するでしょう。その他のGCCの国々では全ての分野において70%から100%にわたり外国資本制限を緩和すると考えられます。

政府調達 GCCとシンガポールは双方のサプライヤーが、お互いの市場に進出するために、競争できる機会を得られるよう、開かれた透明な調達システムを維持することを約束しました。物品及びサービスの調達のため、GCC国内で生産された物品又はサービスをシンガポールのサプライヤーが使用する場合、GCC内国のサプライヤーと同様に10%の応札価格優遇制度が与えられます。

結論シンガポールとG CC間での貿易増加を背景に、GSFTAはサプライチェーンにおける費用を大幅に軽減する好機をもたらしています。ただし「自由貿易」という語はより厳密には「条件付きの貿易」と言うべきでしょう。なぜなら特恵的取扱いを受けるためには、事業者は製品が実際に適格であるか決定するための特定の原産地規則を遵守しなければなりません。GSFTAの規定は複雑で、間違った恩恵を申請しないためにも条件をすべて遵守することが欠かせません。

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17 TradeWatch 2013年12月

ブラジルInovar-Maquina制度: 資本財を対象とした税優遇措置ブラジル政府は、Inovar-Maquinaと呼ばれる、資本財 (機械・装置)分野を対象とした新たな税制度を検討中しています。これはポルトガル語で「機械イノベーション」を意味する言葉です。この新制度は、イノベーションを通じた国内産業の発展、また弊害を及ぼす輸入品からの保護を主な目的としており、2013年末の承認が見込まれています。

Inovar-Maquinaは、昨年発表されたInovar-Auto制度を基本としており、実現すれば、輸入割当量が課され、国内原産割合の要件が満たされていることを証明する厳格な追跡システムが導入されます。割当限度を超えて輸入された非原産資本財には連邦付加価値税(VAT)(Imposto sobre Produtos Industrializades又はIPI)が課され、ブラジル原産資本財にかかる税率に30%を上乗せした税率となります。

この計画は、ブラジル機械装置工業会(Associação Brasileira da Indústria de Máquinas e Equipamentos又はAbimaq)及びブラジル全国自動車製造業者協会(Associação Nacional dos Fabricantes de Veículos Automotores又はAnfavea)が支援しています。さらに、ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)の承認も得ています。

今後の動向については、引き続きTradeWatchで取り上げる予定です。

米州

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18 TradeWatch 2013年12月

Inovar-Peças制度: 自動車部品を対象とした税優遇措置ブラジル政府は、同国内の自動車部品産業の発展を目的とした、税関連の優遇パッケージであるInovar-Peças制度を発表すべく準備を行っています。このInovar-Peças制度の目的は、Inovar-Auto制度の補完です。Inover-Auto制度は、自動車メーカーを対象に割当制限及び国内原産割合の要件に基づく税関連の優遇措置を定めたものですが、同制度が実際にサプライチェーンに与えた影響は、自動車用部品の国内生産を促進するほど効果的なものではありませんでした。そのため、Inovar-Peçasが目的としているのは、自動車用部品のサプライヤーに立ちはだかる外国企業との競争問題に対するより適切な対処となります。

Inovar-Peçasの詳細については、ブラジル政府がブラジル自動車用部品工業組合(Sindipeças)及びAnfaveaと共同で協議しており、次のような事項を検討中です。

• ブラジル国内生産要件を充足し、メルコスール加盟国製造部品を使用する企業に対し、IPIを最高で30%軽減する措置

• 完成品の原産地を決定するため、部品の追跡システムの策定

• B N D E S 及 びブラジ ル 科 学 技 術 金 融 公 社(Financiadora de Estudos e Projectos又はFINEP)を介した、自動車部品分野の近代化に係る資金調達及び製品エンジニアリングの支援

• ブラジル国内の一部の州(サンパウロ、リオ・グランデ・ド・スル、パラナ、ミナスジェライス、リオデジャネイロ、サンタカタリーナ、ゴイアス等)における自動車部品の国内生産のための各種手配・整備を実施。これにより、当該地域に国内自動車メーカーが支援する研究センターが設立される予定

• 対象となる部品の振興を目指す取り組みに、国家度量衝・規格・工業品質院(INMETRO)が参入

Inovar-PeçasとInovar-Autoを関連付ける部品の追跡システムは、どちらの制度にとっても複雑な問題です。主に負担を被るのは、追跡システムの遵守義務を負うことになっている、受託製造業者です。 なお、このシステムの運営、また自動車メーカーから提供される情報の管理は、ブラジル産業開発庁(ABDI)が担当する予定です。

さらなる動向については、次号以降のTradeWatchでご覧ください。

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19 TradeWatch 2013年12月

PIS・COFINSの輸入関税の課税ベース引下げ輸入品に課されるPIS・COFINS(すなわち社会負担金)の金額を決定する課税ベースが引き下げられました。法no.12,865/2013(2013年10月10日官報にて公布)に則り、ICMS(州付加価値税)、PIS及びCOFINSの課税ベースは、いわゆる「グロスアップ」方式の対象外となります。これに伴い、輸入品に課すPIS・COFINSを決定する際、法律10,865号第7条(法12,865号第26条により改定)に反映されている通り、関税評価額が基準となります。

この大きな改定は、最近の最高裁の判決によるものです。これまでのPIS・COFINSの課税ベースを、関税評価額、ICMS、PIS、及びCOFINSの合計額(グロスアップ)としていたことを違憲だとする判決を下しました。

PIS及びCOFINSの課税が非累積課税方式となっている輸入者の場合、輸入諸税の課税ベースが引下げされ、キャッシュフロー上の負担軽減となります。非累積課税方式では、納税者は税控除を受けPIS・COFINS支払額との相殺ができます。 ただし、過去の輸入取引についても控除を受けられるかどうかは、過去に記録されている控除額を有効に利用できるかにかかっています。実際のところ、こうした判断には事務手続上及び行政上役所の困難がつきもの です。

累積課税方式(すなわち輸入品について支払った社会負担金の控除なし)の下で事業を行う輸入者の場合、PIS・COFINSの輸入に関する課税ベースが引下げられることで、輸入コスト削減による直接的な負担軽減となります。同時に、かかる輸入者が過去5年間(更生の期間制限)に遡り、過払い税の還付を請求できる可能性もあります。いかなる払戻し請求の際も、輸入者は過去の輸入申告を個別に修正(書面ベース)しなければなりません。なお、還付額によっては、かかる事務作業を行う価値があるかもしれません。

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20 TradeWatch 2013年12月

カナダカナダが外国貿易地域を活用する意向カナダは2013年連邦予算で、進行中の外国貿易地域(FTZ)改正と同様の政策に対する取り組みを再確認しました。もともとこの政策は2011年に発表されたもの です。

財務担当国務大臣ケヴィン・ソレンソンは先頃、輸入者へのメリット提供と外国からの直接投資の誘致を目的とした、新たな重要施策を発表しました。4

• 税関保税倉庫制度プログラムの年間登録手数料(段階的に定められており最高で年間5,000カナダドル)の 廃止

• カナダのFTZ等のプログラム利用への申請プロセスの簡素化

• 申請処理時間についてサービス基準の採用• カナダの戦略的地域におけるFTZ等のプログラムの普及のため、新たな「FTZポイント」単一窓口の設置要請を承諾

• カナダのFTZのメリットを普及すべく、500万カナダドルを投じて5年間のプログラムを開始

カナダでは、米国で見られるような各地域に特化したFTZプログラムが設けられていません。

しかし、カナダ国境サービス庁(CBSA)がカナダ歳入庁(CRA)との協働体制で運営する一般的な免税プログラムが設けられており、他国のFTZがもたらす内容と同等のメリットを享受することができます(図表1を参照)。輸入者・製造者は、自身のカナダ国内の地理的所在地にかかわらず、こうしたプログラムにより恩恵を受けられることになります。

カナダのプログラムはより柔軟な対応を示しているようですが、プログラムの認知度不足、また一か所でのプログラム利用が困難である点が問題となっています。

マニトバ州ウィニペグ近郊のセンターポートで実施された試験プログラム5の成功を基盤に、新たに考案された「FTZポイント」プログラムは、その利用に関する周知、及び認知度といった問題への対応策となることを目的としています。「FTZポイント」プログラムは、戦略的に配置された官民の協力体制を法的に統合することにより、事業者が既存の関税減免プログラム並びに政府各レベルの労働・インフラ関連プログラムを活用する際に、行政・財政面での支援の提供を行うことを目的としています。

4 「Harper Government’s Improvements to Foreign Trade Zones Helping Canadian Businesses Compete Globally」を参照 (http://news.gc.ca)。

5 The CentrePort Canada Act (C.C.S.M. c. C44)参照のこと。また、今後FTZポイントにより見込める恩典、現行の免税プログラムに関する詳細は「Backgrounder: Canada’s Foreign Trade Zone Programming」を参照(http://www.fin.gc.ca)。

図表1 減免プログラム

税関保税倉庫(CBSA)

関税繰延 (CBSA)

戻し税 (CBSA)

関税の軽減措置 あり あり ありGST・HSTの軽減措置 あり 条件付き

(CRAの承認が必要)なし

保管・輸出配送業務にかかる軽減措置 あり あり あり輸出加工・生産業務にかかる軽減措置 制限あり あり あり

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21 TradeWatch 2013年12月

メキシコ議会は2013年10月31日、メキシコ関税、VAT、及び物品税に関する法律の重要な改正を承認しました。この改正により、関税及び外国貿易に重大な影響が生じることになります。改正事項の大半は2014年1月1日に発効予定ですが、一部は追加規則が公布されるまで先送りとなります。

ここでは、新たな制定法の下で企業が直面しうる最も関連性の高い改正事項や影響について解説します。

一時輸入品にかかるVAT・物品税の納付(IMMEXプログラム)、及びその他の関税制度 これまでVAT法第I章第25条では、物品及び固定資産の一時輸入にVAT納付義務が課されることはありませんでした。 そのため、この免除措置は、IMMEX6(以前はマキラとして知られる)プログラムのような、製造、加工、もしくは修繕を目的とした一時輸入及び保税状態での輸入に関する制度、加工を目的とした保税倉庫(自動車産業用等)、また戦略的保税倉庫に恩恵をもたらしました。

VAT法改正に従い、一時輸入又は保税状態での輸入には標準税率16%の輸入VATの納付が義務づけられます。輸入時に納付したVATは、かかる輸入品を組み込んだ完成品がバーチャルオペレーションにより輸出又は輸送される際に、控除あるいは還付という形で取り戻せるかもしれませんが、この手続きには相当の手間暇を要する可能性があります。

さらに、物品の一時輸入又は保税状態での輸入にかかる物品税を免除する条項も撤廃されました。そのため、物品税賦課対象の一時輸入又は保税状態での輸入には、IMMEXプログラムの下での輸入時、あるいは加工を目的とした保税倉庫への輸送時又は戦略的保税倉庫への輸送時に、該当する物品税が課されます。これにより影響を受ける品目には、アルコール入り飲料、ビール、タバコ、ガソリン、ディーゼル等(他にも先頃の物品税法改正で100グラム当たりのカロリー密度が275キロカロリー以上の「ジャンクフード」も多く追加、スナック類、砂糖菓子製品、チョコレート、及びその他ココアベースの製品等)があります。

証明書による免除改正には、メキシコ税務行政サービス庁が実施する承認プログラムを通じた免税措置利用のチャンスがあります。このプログラムでは、輸入者が一時輸入又は保税状態での輸入の適正管理に関し要件遵守を示していれば、かかる輸入に適用されるVAT及び該当物品税について税控除の申請が可能です。承認は1年間有効で、更新は期限失効日の30日前に行う必要があります。なお、承認プロセスの正式な要件について、メキシコ当局からの明示はまだされていません。

承認取得を望まない輸入者の場合、公認機関による保証金を関税当局に供託するという別の選択肢があります。これは、一時輸入期間の終了後に輸出又は国外返送されていない対象物品について、VAT及び適用物品税の支払いを保証するものです。

メキシコメキシコ税制改正で外国の輸出入業務に重大な影響

6 輸出向け製造・マキラドーラ・サービス産業の振興のための政令

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22 TradeWatch 2013年12月

留意すべき重要事項は、物品の一時輸入又は保税状態での輸入にかかるVAT・物品税納付義務の効力発生が、税務行政サービス庁による承認プロセス・税控除申請手順を定める規則の公布から1年後となる点です。

VAT・物品税に関する法の改正は、VAT・物品税納付(又は保証金による代替)を行う、あるいは税務行政サービス庁の承認プロセスに忍耐強く対処する、といった新たな義務により影響を受ける企業にとって、新たな重大な検討課題を提示することになります。なお、企業はこうした事項において調査を受ける可能性が高くなることを考慮しなければなりません。

マキラ制度の利用が減少する可能性また、「マキラ」制度の下で事業を行う企業にはこれらの検討事項に加えて、マキラオペレーションとして所得税法上適格とされた企業に提供されていた特定の税優遇措置が撤廃されるという重大な改正も行われました。さらに今回の改正では、マキラオペレーションとして適格とされるための要件が厳格化(生産的活動による所得の全てが、その企業のマキラオペレーション源泉であること等)しています。

企業によっては、VAT・物品税に関する法改正、また改正によるマキラ制度下での業務複雑化を考慮した場合、こうしたプログラムに残り続けることはもはや不可能かもしれません。影響を受ける企業、特にIMMEXプログラム及びその他の一時輸入に関する制度を現在関税上の目的のみで利用している企業は、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)をはじめとした特別プログラム下での特恵関税率の恩典のフル活用、また、メキシコで発効している自由貿易協定の広大なネットワーク等、別の選択肢を検討・調査すべきでしょう。

輸出入業務に関する申請及び通関業者の利用が任意にメキシコで企業が輸出入業務に関する申告を行うには、これまで、文書作成、情報の有効性確認、及び”pedimento”と呼ばれる輸出又は輸入申告書の提出を担当する通関業者の利用が義務付けられていました。 通関業者は、物品の輸入においてその一定の義務や納税を怠った場合、輸入者と共同責任を負うことになっていました。また、企業が雇用した個人がいわば社内通関業者として輸出入に関する税関申告書の提出を行うにあたり、メキシコ税関総局はその承認を行うことは可能でした。

メキシコ税関法第40条の改正により、通関手続申請は輸入者又は輸出者が自身で行ってよいことになり、かかる申請を行うために通関業者のサービスを利用することは義務ではなくなりました。この改正により通関業者の役割が通関プロセスから廃止されることはなく、輸入者は引き続き、自身の代理人を務める通関業者を介して通関手続申請を行うことができます。

したがって、輸出入者が通関手続申請を行うために通関業者の利用を継続することもできる一方、輸出入に関する税関申告書の作成・提出を行う法的代理人を「通関代理人」として指名することで、かかる手続きを企業自身が行うという選択も可能となりました。

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23 TradeWatch 2013年12月

「通関代理人」として指名を受けられるのはメキシコ国民に限られ、全ての納税義務に関し最新情報を解していることの立証、輸入者又は輸出者と職務上の関係を有していることの説明、また貿易関連事項の専門的経験・知識を身に付けていることの証明等、一定の要件を満たす必要があります。なお、「通関代理人」は、物品の輸出入で生じる関税及びその他各種税金の納付について、輸出入者と共同責任を負うことになりますので注意が必要です。

メキシコ税務当局は、改正の公布後1年以内に、追加的規則を通じ、輸出入者が自身で通関手続を行う際に用いる一定の手続方法を規定することにしています。追加的規則が公布されるまでは、輸出入品の申告は通関業者を介して行う必要があります。

今回の改正で、関税分類、関税評価額、及び通常は通関業者が扱っていたその他事項について、企業が自身で手続きを整備できるようになります。これにより企業は関税及び輸出入に関わる機能を以前よりも掌握できるため、改正は好ましい展開となりえます。

国内の要件・規則遵守が確保されるにはさらなるプロセスの確立が必要かもしれませんが、自社の「通関代理人」を介して行う輸出入品の通関手続きがメリット享受となるか否かについて、企業は検討・判断しておくことが望ましいでしょう。

その他の重大な改正事項• メキシコでは、国内のどこにでも戦略的保税倉庫(米国の外国貿易地域と同様の制度)を設置することができるようになりました。以前の法の下では、戦略的保税倉庫は税関事務所に隣接する施設に限られていました。しかしながら、戦略的保税倉庫に輸送される輸入品にはVAT・物品税が適用されてしまい、当該制度の下で事業を行うメリットが大幅に減る可能性があります。

• 以前の「単一窓口」プラットフォームは、新しい電子通関システムに統合される予定で、このシステムにより、税関申告書に付随する補完文書(コマーシャル・インボイス、船荷証券、原産地証明書等)を含む通関プロセスに必要な申告は全て、電子的に、かつデジタル文書で行われます。この新たな電子通関システムの一環として、輸入者は電子申告書に輸入品の価格情報を添付して送信する必要があります。価格の電子申告で輸入者が不正確なデータ、又は虚偽のデータを申告すると、新たに定められた罰金として1,500~2,500米ドルが課される可能性があります。

• メキシコ関税法では、通関後修正を行う際に税関申告書の訂正可能範囲が制限されていました。例えば価格の修正時、かかる修正で納税義務が生じない場合に輸入者が税関申告書の情報を訂正できるのはわずか2回のみで、原産地や物品の記述等、税関申告書の一部記入欄は修正不可でした。改正後の関税法では、税関申告書に記載した情報は、必要に応じていつでも回数に制限なく訂正できるようになります。例外措置については税務行政サービス庁が出す事前承認で判断されます。しかし、この承認がどのようなケースで必要となるのかについては、今後決定される予定です。

• 「正常化(regularization)」手続きにより、輸入者は該当する輸入手続き文書を作成し、関税及びVATを納付できます。現行の関税法では、有効期限切れの一時輸入に「正常化」手続きを使い遵守を満たすことはできませんでしたが、メキシコ貿易細則の下、有効期限切れの一時輸入には「バーチャル」文書による代替的方法が利用可能でした。改正後の関税法では、輸入者が「正常化」を有効期限切れの一時輸入に適用してもよいと明文化しています。この改正事項は、関税(あれば)及びVAT支払い漏れのリスクが限定されることから、輸入者にとって有用なものとなります。

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24 TradeWatch 2013年12月

• VAT法には免除措置が盛り込まれており、この措置によりメキシコ非居住者間、もしくはメキシコ非居住者とメキシコ居住者間で行われる一時輸入品(IMMEXプログラムに基づく輸入品等)の販売は、販売VATの適用対象外になっています。改正VAT法の下では、メキシコ非居住者とメキシコ居住者間で行う、IMMEXプログラム及びその他の関税制度に基づいた輸入品の販売について、免除措置が廃止されています。そのため、かかる販売には一般に16%の税率でVATが課されることになり、メキシコ居住者には源泉徴収と税務当局への納付という義務が課されるため、そのキャッシュフローに多大な影響を与える可能性があります。その一方でメキシコ非居住者間の一時輸入品の販売についてVAT免除措置が廃止されなかったことは、好ましい点と言えます。

• メキシコ国境地域での輸入及び販売に適用されていた11%の特別VATは廃止となり、2014年1月1日付で実施予定のVAT税率は、メキシコ全域で16%となります。

関税法の改正は、企業が関税及び輸出入に関わる機能を以前よりも掌握できるようにし、プロセスの効率化につながる一方で、一時輸入及び保税状態での輸入にかかるVAT・物品税の納付は企業のキャッシュフローに相当の影響を与えるものと考えられます。輸入者は、各業務についてどのような影響を受ける可能性があるか分析し、不利な影響を緩和すべく最善の指針を定める必要があります。

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25 TradeWatch 2013年12月

行政控訴裁判所(AAT)による最近の判決の多くは、関税免除令(TCO)を適用するためには、関税法1901(関税法)に定められた法的要件に従った適正な準備と利用が重要であることを示しています。

TCOは代替可能物品の国内生産者又は製造者が存在しない場合に、輸入品の関税率を0%に引き下げる関税免除制度で、個々の製品が対象となります。一度承認されれば、当該TCOの条件を満たす物品の輸入者は、だれでもこれを利用できるというオープンな免除を意味します。

重要な点は、TCO申請を行う時点において申請者は以下の要件を満たす必要があることです。

• 代替可能物品の国内生産者又は製造者が存在しないという確信について、合理的な根拠を有していること

• 申請対象物品の詳細な説明と関税分類の記述を含めること

代替可能物品の国内生産者又は 製造者が存在しないという確信Vestas – Australian Wind Technology Pty Limited [2013] AATA 721の判決(以下「Vestas」)は、風力タービンのギアボックスについて、代替可能物品の国内生産者又は製造者が存在しないという確信を裏付けるためにはどこまでの調査が必要かという点が争点となりました。関税庁長官(CEO)は、申請者は国内生産の代替可能物品が申請の時点で存在するかどうか、充分な調査を行っていなかったと主張しました。CEOは申請の時点で代替可能物品の国内製造者が存在したと述べ、有力な国内製造者のウェブサイトの内容に言及しました。留意すべきは、申請者はこの国内製造者に問合せをしていたのに回答が無かったということです。CEOはさらに2010年3月付オーストラリア関税告示(ACN)の指示に反して、検索において「製造」という用語を使用していなかったと指摘しました。

AATは、ACNに拘束力は無く、又可能性のある国内製造者のウェブサイトの存在が申請者の確信を損なうものではないという判断を下し、むしろ対象物品が実際に代替可能であることはCEOが立証しなければならないとしました。AATは代替可能物品の国内生産者又は製造者が存在しないという確信の合理的な根拠を得るために、申請者は必要とされる調査を行ったと結論づけました。

Vestasの判例は、何らかの予断に基づいてTCOの申請を行った場合、CEOにその有効性について異論を差し挟む余地を与えてしまうということを申請者に教えてくれます。TCOの申請者は、徹底的な調査をし、国内製造者について関連する全ての調査が行われたことを確実にしなければなりません。もし可能性のある国内製造者が特定されたのであれば、彼らが実際に代替可能物品の生産又は製造することが可能かどうかを確認するために連絡を取り、その記録をしっかり文書化しておくことが必要です。

物品の詳細な説明H.A.G. Import Corporation (Australia) Pty Ltd and Chief Executive Officer of Customs [2013] AATA 599の判決は、TCOの申請において対象物品について充分な説明を行うことの重要性が争点となりました。この判決は、「主要百貨店及び小売店で販売される陶磁器及びセラミック素材の一連の台所用品、食器、洗面具」と、大まかに説明された物品に関するものでした。CEOは関税譲許公報(Tariff Concessions Gazette)で、その申請に当たり物品の詳細な説明が行われていないため、全部で12件 (内5件は今回の判決の対象となっています)のTCOを取り消すと表明していました。さらにCEOは控訴中、代替可能物品の国内製造業者を発見したとも述べていました。

オーストラリア判例が示した関税免除令要件の重要性

アジア太平洋

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26 TradeWatch 2013年12月

関税法は、あるTCOが有効である時点において、もしそのTCOが有効ではないと仮定して同様の申請が行われたとしたら却下されるとCEOが確信した場合に、TCOの取消手続きを開始することができると定めています。今回AATはTCOが確信をもって物品を特定するだけの詳細な説明を有していないと認めました。物品の説明が全般的に漠然としすぎており、例えば、カップ、受け皿、バター入れ、又は塩コショウ入れ、等のように、より詳細であるべきでした。

代替可能物品の国内製造業者が存在するというCEOの主張を、控訴が開始してから述べられたものとしてAATが退けたことは注目すべきでしょう。この件について、関税譲許公報で撤回告知が公表された日にはCEOには確信はなく、その後確信を抱いたものであるとAATは明確にしま した。

この判例はTCO申請において、物品の説明について正確で充分な記述を行うことがいかに重要かを強調しています。物品の原材料はもとより、必要な場合にはデザインや機能の説明を含み、正にどのような物品なのかを明白に特定できなければなりません。

Woolworths Limited and Chief Executive Officer of Customs [2013] AATA 730の判決(以下「Woolworths」) もまたTCOにおける物品の説明が争点となりましたが、この場合はTCOに記述されたより詳細な説明のために、類似する物品に適用することが制限されました。Woolworthsの判例は「リップスティック」と説明された物品が、「スケートボード」又は「スネークボード」を対象とした既存のTCOに該当する物品かどうかが争われたものです。AATは、当該物品はスケートボードでもスネークボードでもなく、「キャスターボード」であり、したがってTCOの説明に合致しないとの判断を下しました。この決定にあたってAATは、「スケートボード、スネークボード、及びリップスティックは類似性を有しているが、外観、デザイン、及び機能に大きな違いがあり、客観的に検討して、又2件のTCOの趣旨からして、リップスティックは別途区分されるべきものである。」との見解を示しました。さらにAATは、リップスティックがその固有の差異に基づいて検討されるべきであると決定したのは、スケートボードとスネークボードにはそれぞれ個別のTCOが存在することも考慮事項であるということを指摘しています。

既存のTCOを利用する輸入者はそのTCOの条件が実際に満たされているかをしっかり検討すべきです。ある特定の物品が既存のTCOの対象物品と類似しているというだけでは充分ではありません。むしろ新たなTCO申請が必要となるかもしれません。TCOの対象が曖昧な場合にはご相談されるようお奨めします。

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27 TradeWatch 2013年12月

アンチダンピング制度の整備による コンプライアンス強化オーストラリアのアンチダンピング制度改革の結果、アンチダンピング委員会が新たに組織され法制改正が行われることとなり、すでにダンピングに対抗するためのコンプライアンス監督強化の兆しが見えています。低価格輸入品の打撃を受けたオーストラリアのビジネスに、より効果的な貿易救済制度がもたらされました。

ダンピングは、物品が輸出者の国内市場における通常価格よりも低い価格で輸出される時に起こります。また、輸出者が政府の補助金や経済的支援を得ている場合も同様の効果が生じます。アンチダンピング及び相殺関税は、輸入物品に適用される救済措置であり、ダンピング物品や経済的助成を受けた物品によって「重大な損害」を受けている場合、オーストラリアの国内産業に一定の保護を与えることを目的としています。

2013年6月にオーストラリアのアンチダンピング制度の改正が施行されました。これらの改正は2011年6月に発表された連邦政府政策協議「オーストラリアのアンチダンピング制度の整備―オーストラリアにとって効果的なアンチダンピング及び相殺制度」に沿っており、改正には以下のものが含まれます。

• 新アンチダンピング検討委員会への控訴手続きの設立• 相殺関税対象補助金に関する条文の変更• 新しい迂回防止体制の確立

重要な点は、アンチダンピング措置対象物品のオーストラリアへの輸入に際し、アンチダンピング及び相殺関税の支払いを迂回する輸入者の行為を阻止するために、新しい調査手続きが迂回防止体制に基づいて導入されたことです。迂回行為は必ずしも違法ではないため、既存のアンチダンピング告示の対象を調査に基づいて拡大することでコンプライアンスの強化を図ったものです。迂回行為には、アンチダンピング告示の対象となる輸出者が輸出した同対象物品のパーツを、オーストラリア又は第三国において組み立てる行為、第三国を通じた対象物品の輸出、及び低い関税率の適用を受ける他の輸出者を通じた輸出が含まれます。

2013年7月1日から活動を開始したアンチダンピング委員会は、これらの法令改正によって制度を管理しコンプライアンスを改善するためのより良いシステムを得ました。アンチダンピング委員会はオーストラリア税関・国境警備局(オーストラリア税関)からアンチダンピング制度の責任を引き継ぎましたが、オーストラリア税関は引き続き執行を手助けします。制度を管理する専門の機構を有することで、ダンピングについての調査により大きな透明性と厳格さがもたらされると期待されています。

アンチダンピング委員会とオーストラリア税関はすでにコンプライアンスの監督を活発化しています。2013年8月19日、オーストラリア税関は、中国からのアルミニウム製ホイール輸入に対するダンピング及び相殺関税迂回の申し立てについて、すでにビクトリア、ニューサウスウェールズ及びクイーンズランド各州にわたり捜査令状を執行したとの声明を行いました。対象となる輸出入者には、中国からの直送ではなく第三国を経由した物品の輸入によって追加される関税を逃れたとする疑いがかけられています。

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28 TradeWatch 2013年12月

近い将来オーストラリアのアンチダンピング制度は更に強化されるでしょう。9月の選挙に勝利した連立政権は、アンチダンピング調査の迅速化と法制変更をさらに検討することを選挙公約の一環として挙げていました。検討された大きな変更点の一つはアンチダンピング調査における挙証責任の転換、すなわちダンピングを問われる海外企業側にその無実を証明することを求めるものです。

低価格輸入品に打撃をうけた国内ビジネスはこのような最近の動向を歓迎しています。アンチダンピング制度に注力する担当部署の設置と特に迂回防止体制を通じたより効果的なコンプライアンスシステムが出来たことで、オーストラリアにおいてアンチダンピングの照会とコンプライアンス活動は大きく増加するでしょう。

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29 TradeWatch 2013年12月

新しい連立政権の下オーストラリアの 貿易政策に変化が2013年9月7日、中道と右派の政党による連立が2007年から政権にあった労働党を破り、2013年のオーストラリア連邦選挙において勝利しました。就任以来トニー・アボット首相とその閣僚たちは、連立政権の貿易政策について多くの公式見解を述べていますが、それらは長く協議されている自由貿易協定の締結と、オーストラリアの貿易相手国との迅速かつ実務的な二カ国間協定を達成することへの積極的な姿勢を強調しています。

最近バリで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)サミットで、中国・オーストラリア間の自由貿易協定(FTA)を12カ月以内に締結すること、そしてそのために必要であれば妥協もいとわないと首相は表明しました。国際貿易に対する連立政権の実務的な取組みは、より包括的な多国間の貿易取引を獲得することに重点を置いた前政権からの重要な変化を示していると言えます。

中豪FTAに加え、中国、インドネシア、日本、インド、韓国、及び湾岸協力会議との相互協定を迅速に進めることを政府は約しました。さらにEU、ブラジル、香港、パプアニューギニア、南アフリカ、及び台湾を含むその他の重要なオーストラリアの貿易相手国と、新たな自由貿易交渉を開始する可能性が模索されます。

選挙前に発表された政策案では、FTAにおける国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)条項の使用についてより実務的に取組むことが示唆されていました。ISDS条項は、FTA署名国がFTAに基づく義務に従わない場合、その政府に対し外国企業が訴訟を起こすことを認めています。現政権は概してこの条項の使用に反対していますが、個々のケースに応じてその採用を検討することもありうるとしています。ただし現在交渉中の環太平洋パートナーシップ協定についてはこの条項の採用に反対するとしています。環太平洋パートナーシップ協定は米国、シンガポール及び日本などいくつかのオーストラリアの主要貿易相手国を含む多国間FTAです。

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30 TradeWatch 2013年12月

中国上海自由貿易試験区 2013年9月に国務院は上海自由貿易試験区(SHFTZ)の設立を認可しました。これは押し寄せる経済改革の波の進行を記す一つの里程標といえます。SHFTZは、国発[2013]38号(2013年9月27日)で公表された「中国(上海)自由貿易試験区総体方案(以下、「方案」)」に示されたように、通商と投資(特に金融部門)を促進するように設計されています。

大半の措置が中国の金融及び銀行業界の開放に焦点を当てていますが、中国税関はSHFTZ試験区の活動を管理するための新しい監督措置を導入することを目指しています。これは「輸入監督を簡素化し、国境の開放を促進し、次の段階での効果的かつ効率的な管理を厳格に実施する」というものです。それゆえ、輸出入者及び製造者にとって魅力的な税務上・関税上のメリットが盛り込まれるものと期待されています。

自由貿易区として、指定された地理的領域は上海周辺のおよそ28.78平方キロメートルの地域で、現在の外高橋保税区、外高橋物流園区、洋山保税港区及び浦東国際空港保税区を統合したものです。これらは税関区域の外側とみなされ、試験区に搬入された物品は、国内市場に持ち込まれない限り関税や諸税が課せられません。

試験区に持ち込まれる物品には通常の税関規制が適用されません。試験区内に搬入する物品の輸入プロセスを迅速化するために、税関の監督を中国国内の既存の保税区域よりもさらに緩和することが見込まれています。例えば現行の保税区域においては「申告後搬入」という方式が圧倒的に多く採用されています。SHFTZの場合、輸入品は税関当局への申告を行う前に区内に入ることが認められるでしょう。国際通過貨物と積替貨物に関する物品の輸出入手続きもこれに合わせて円滑化されます。一定の条件での場合に限定されますが、SHFTZでは指定区域のための取引場を許可し、これにより試験区の中で保税物品の直接取引が可能になります。

試験区の中で製造され、国内市場に持ち込まれた物品は、関税待遇の選択利用を享受することができ、SHFTZで製造された完成品が国内市場に入る際に、輸入された原材料又は完成品のどちらかに基づいて関税を支払うことができます。さらに、SHFTZ内に所在する製造会社と生産関係サービス会社は、機械機器の免税輸入の恩恵を受けることができます(若干の例外あり、特に自動車産業)。 製造活動に対するこれらの優遇措置は滬府発 [2013]75号(2013年10月15日)で公表されていますが、今のところ実際の導入に関してはさらに進展を見守る必要があります。

上記の製造活動に対する優遇策に加え、SHFTZが他の分野でも柔軟な処置を検討するかもしれないと取りざたされています。クロスポーダーの電子商取引、国内向け及び国外向けの修理業務、倉庫証券担保、保税先物取引、国際船舶登録や商品検査・検疫なども含まれるかもしれま せん。

SHFTZは、中国が、現在他で交渉が進んでおり、中国が参加していない主要な新自由貿易協定と競合する一つの手段だと主張する専門家もいます。これには、環太平洋パートナーシップ(本号の「環太平洋パートナーシップ協定近況」参照)や、環大西洋貿易投資パートナーシップ(米国とEUの二か国間協定)等があります。

金融及び投資促進措置に関連する追加措置についての詳しい情報はthe Ernst & Young China Tax and Investment News, “A milestone for China’s new wave of economic reform: Shanghai Pilot Free Trade Zone.” (Issue No. 2013005、2013年9月30日)をご覧ください。

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31 TradeWatch 2013年12月

日本一般特恵関税制度の改正一般特恵関税制度(GSP)は、開発途上国に対しその発展を支援するために、これらの国からの輸入品に一般関税率よりも低い税率を適用して日本市場への特恵的アクセスを可能とする通商制度です。

同制度からの除外品目を選別する基準を適用した結果、以下の変更が見込まれています。

中国を原産地とする除外品目の一部が特恵適用対象に 以下に挙げる中国を原産地とする品目は、日本市場で高い競争力を有することから、平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間、GSP制度の対象から除外されていました。しかし、これらの品目は特恵適用対象に復活し、 平成26年4月1日よりGSPの恩典を受けられるようになります。

HSコード 品名

MFN税率 (平成25年3月31

日まで)

一般特恵関税率 (平成26年4月1

日より)0306.14-1 かに(冷凍したもの)(くん製したもの) 9.6% 7.2%

0306.24-2 かに(冷凍していないもの)(くん製したもの) 9.6% 7.2%

0910.12-2-(2) ex しょうが(破砕し又は粉砕したもの)(塩水、亜硫酸水その他の 保存用の溶液により一時的な保存に適する処理をしたもの及び小売用の容器入りにしたものを除く。)(生鮮のもの)

2.5% 無税

0910.12-2-(2) ex しょうが(破砕し又は粉砕したもの)(塩水、亜硫酸水その他の 保存用の溶液により一時的な保存に適する処理をしたもの及び小売用の容器入りにしたものを除く。)(生鮮のもの以外のもの)

2.5% 無税

1605.51 ex かき(調製し又は保存に適する処理をしたもの) (気密容器入りのもの以外のもの)

9.6% 7.2%

1605.53 ex い貝(調製し又は保存に適する処理をしたもの) (気密容器入りのもの以外のもの)

9.6% 7.2%

1605.58 ex かたつむりその他の巻貝(海棲のものを除く。)(調製し又は 保存に適する処理をしたもの)(気密容器入りのもの以外のもの)

9.6% 7.2%

2206.00-2-(2)-B-(b) その他の発酵酒(その他のもの) 1リットル当たり42.40円 1リットル当たり30.80円

28.43 貴金属の無機又は有機の化合物等 2.5% 無税

55.13 合成繊維の短繊維の織物(短繊維の重量が85%未満、 混用繊維の大部分が綿、重量が170g/㎡以下)

6.6%–10% 5.28%–8%

62.14 ショール、スカーフ、マフラー等(織物) 4.4%–9.1% 無税

71.16 真珠、貴石等の製品 2.5%–5.2% 無税

81.10 アンチモン及びその製品 1キロ当たり0–8.80円 無税

82.15 スプーン等台所用具及び食卓用具(卑金属製のもの) 3.9%–4.6% 無税

85.44 電気絶縁をした線、ケーブルその他の電気導体等 0%–4.8% 無税

94.05 照明器具等及びその部分品 0%–3.9% 無税

95.06 運動等に使用する物品等 0%–3.2% 無税

96.13 たばこ用ライターその他のライター及びその部分品 0%–5.1% 無税

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32 TradeWatch 2013年12月

輸入者は、最新リストを確認の上、平成26年4月1日から実施となるGSP制度で恩恵享受の新たな機会が生じるか否か、見極めておくことが賢明だといえます。

中国を原産地とする特定品目の除外以下に挙げる中国を原産地とする製品は現在GSP特恵措置の適用対象ですが、平成26年4月1日付でGSP制度の適用対象から除外されます。現在GSP制度を活用し下記物品を中国から輸入している輸入者は、関税率の引き上げにより陸揚費が増加することになります。

GSP制度から適用除外される品目を記載したリストの完全版は、下記リンク先で閲覧できます(日本語のみ)。http://www.customs.go.jp/shiryo/tokkeikanzei/hinmoku-jogai.pdf

HSコード 製品

一般特恵関税率

(平成25年3月31日まで)

MFN税率 (平成26年4月1日より)

1212.99-2ex 主として食用に供する果実の核及び仁その他の植物性生産品(その他のもののうち、あんず、桃(ネクタリンを含む)又は プラムの核及び仁以外のもの)

0% 3%

1604.32ex イクラ以外のキャビアの代用物 4.8% 6.4%27.01 石炭及び練炭、豆炭その他これらに類する固形燃料で

石炭から製造したもの0% 0%–3.9%

29.03 炭化水素のハロゲン化誘導体 0% 0%–3.9%

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33 TradeWatch 2013年12月

ニュージーランド低価格輸入品の基準値見直し 多くの地域と同じく、ニュージーランドも低価格輸入品、特に海外サプライヤーからのオンラインショッピング及びデジタルコンテンツの爆発的増加に対する間接税課税の難題に取り組んでいます。現在公式調査が行われる一方で、法令違反が注目を集めており、ニュージーランドもいよいよ改正に取り組む模様です。

低価格輸入品の現在の間接税取扱いニュージーランドは低価格輸入品の基準値の決定に、積荷価格ではなく関税額を用いるという独特の方式を採っています。現在の基準値は60NZドル(一般消費税(GST)を含む)です。もし実際の関税額が基準値よりも低ければ、ニュージーランド税関から一切課税されずに物品を輸入することが出来ます。もし関税額が基準値の60 NZドル以上となる場合は、関税、GST及び輸入通関取引手数料が輸入者に課されます。

実際には(現在のGST税率15%を前提とした場合)、積荷価格が399NZドル(輸送費及び全ての関連保険料を含む)までの免税品は一切の課税を受けずに輸入することが出来ます。もしその物品が関税対象の場合は、課税が不要とされる低価格輸入品の基準値が、より低い積荷価格に(製品に適用される関税率に基づいて)適用されます。この計算は難しいため、ニュージーランド税関はオンラインで物品を購入する消費者の手助けとなるサイト(www.whatsmyduty.org.nz)を立ち上げました。

デジタルコンテンツ(音楽のダウンロード及び電子書籍等)は一般にGST上はサービスとみなされており、受取人払いシステムで課税されます。このシステムは年間60,000NZドル超のデジタルコンテンツを輸入するニュージーランドの最終消費者だけに適用されますが、この基準はGST登録が必要となるレベルです。このように、受取人払いはデジタル製品のオンラインショッピングにおいては、非常に限られた実効性しかもたらしません。

低価格輸入品の基準値見直し2011年にニュージーランド税関は低価格輸入品の基準値を再検討しましたが、結果としては12.5%から15%に上がったGSTの標準税率を反映させただけでした。

しかしすでに低価格輸入品の基準値はニュージーランド税関、財務省、及び内国歳入庁によって再度の見直しが行われており、政府決定文書が間もなく発表される見込みです。今回の見直しはオンラインショッピングの著しい増加、国内小売産業のロビー活動、及び税源浸食と利益移転並びに間接税に関する議論の結果です。したがって今回の見直しには、インターネットからダウンロードされるコンテンツ及び輸出入物品販売の間接税取扱いの評価が含まれています。

オンラインショッピングについて、メディアで広く議論されている選択肢のいくつかには以下のものがあります。

• 低価格輸入品の基準値を廃止又は引き下げ、ニュージーランド税関又は郵便局から消費者が物品を引き取る際に間接税を支払わせる

• クレジットカード会社及び決済サービス業者に対して、インターネット取引に間接税を課し徴収する義務を 課す            

• ニュージーランドの提供地ルールを変更し、海外サプライヤーにGST登録義務を課す

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TradeWatch 2013年12月34

現在行われている見直しの結果如何に関わらず、ニュージーランド税関が変更に向けて準備を進めていることは明白です。2013年7月1日には国境手続(貿易の単一窓口及び関税)法案が議会に提出されましたが、これには評価方式(すなわち、必ずしも関税額に基づかない)及び関税・GSTが徴収されない低価格輸入品の基準値を定める権限を税関監督官(the Comptroller of Customs)に与える改正案が含まれています。

海外サプライヤーの 違反行為に注目ニュージーランド税関は低価格輸入品用の電子貨物情報(Electronic Cargo Informa-tion)を利用して通関した貨物の検査作業を最近終了しましたが、2,562件の貨物のうち733件(ほぼ30%)が誤って低価格輸入品として申告されていました。

税関の長は2013年9月9日のメディアへの発表で、「この作業の結果からすれば、税収の損失は年間何百万ドルにものぼり、簡易手続きの許されない濫用だ。」と述べました。

税 関は電 子 貨 物 情 報 交 換システム(Electronic Cargo Interchange)で処理された物品の監視を増加させています。当局はこれによって法令違反を発見した場合には厳しく追及するものと考えられます。この場合、純粋な過ちとその対極にある不正の見極めを大手海外サプライヤーが行うことは難しいでしょう。このことは海外サプライヤーにとって、インターネットを通じた物品の販売に関するプロセスとコミュニケーション及びこれらの物品の通関申告方法を定期的に再点検するよいきっかけとなりえます。

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35 TradeWatch 2013年12月

2014年1月1日付で、湾岸協力会議(GCC)加盟国(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、及びアラブ首長国連邦)からの製品は、EUの一般特恵関税制度(GSP)で享受していた特恵関税待遇を失うことになりました。対EU輸出を行っているGCC加盟国の石油・ガス・石油化学製品産業は、代替的な関税プランニング機会を見つけて実行しない限りは、輸入関税が増加するという事態に直面することになります。

EUのGSP改定EUのGSP制度は、対EU輸出品に対し優遇関税率(すなわち免税又は軽減税率)を認めることで新興国を支援するものです。TradeWatch2013年9月号でお伝えしたとおり、2014年1月1日施行のGSP制度改定で、受益国の数は減少することになります。世界銀行が3年連続で「高所得国」に分類するクウェート、サウジアラビア、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、及びオマーンは、GSP制度から除外されます。その結果、GCC加盟国からの輸入品には最恵国(MFN)関税率が適用されるため、EU市場への特恵的待遇によるメリットは失われることになります。

GCC加盟国の石油・ガス・ 石油化学製品産業に及ぼす影響対EU販売に適用されていたGSP特恵関税率が失われることは、共にEUと自由貿易協定を締結しているノルウェー・韓国との競争を考慮すると、重大な経済的影響になりかねません。GCC加盟国からEUに輸入される原油については免税措置が継続されるものの、同加盟国からのその他の重要な対EU輸出品には、以前より高い関税率が適用されます。表1は、様々な製品を対象に、GSP特恵措置の有無により異なるEUでの関税取扱い、またEU・韓国自由貿易協定(FTA)の下適用される関税率を比較したもの です。

欧州連合・湾岸協力会議EUの一般特恵関税制度が改定 GCC加盟国の石油・ガス・石油化学製品産業に影響

ヨーロッパ、中東、インド、アフリカ

表1: EUの関税取扱い比較

製品カテゴリー 製品サブカテゴリー GSPに基づく関税率 最恵国関税率EU・韓国FTAに 基づく関税率

石油・ガス製品 ジェット燃料 0.00% 4.70% (*) 0.00%軽油(高硫黄) 0.00% 3.50% 0.00%ベースオイル 0.00% 3.70% 0.00%

石油化学品 低密度ポリエチレン(LDPE) 3.00% 6.50% 0.00%直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE) 3.00% 6.50% 0.00%

化学品 メタノール 2.00% 5.50% 0.00%アルミニウム アルミニウムの棒(合金を除く) 4.00% 7.50% 0.00%

(*) 関税支払い猶予を申請し欧州委員会が認めた場合、0%になる可能性

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36 TradeWatch 2013年12月

2014年1月1日付でGCC加盟国からの一定の製品に最恵国関税率が適用されることで、多くの対EU輸出品の陸揚費は、特にEU市場への特恵的アクセスを享受している他国と比較すると増加します。目下の状況において、GCC加盟国の生産者が現行市場価格で関税コスト増加分を顧客の支払い分からまかなえる可能性は、限定的です。そのため、影響を受ける企業は、経済的影響の軽減を図るため、関税面における入念な対応策の検討が重要となり ます。

EUの関税プランニング機会企業のサプライチェーンによっては、様々な関税制度をEUへの輸入コストの削減に役立てることができます。以下にいくつか例を挙げてみましょう。

• 域内加工軽減措置により、EUに輸入される製品のうち、加工後にEU域外に輸出されるものについては関税免除。石油・ガス産業で行われるブレンディング等の様々な加工業務が該当するものと考えられます。

• 税関監視下での完成品への加工を目的とした原材料の輸入には、関税支払い猶予措置が適用可能。後に完成品を輸入する際、軽減税率が適用される可能性もあります。

• 保税倉庫の利用で、保管製品にEU関税支払い猶予措置が適用可能。またEU加盟国以外の仕向地に再輸出される場合は、この制度によりEUの関税支払いが免除されます。

また、EUの貿易や規制に関する協定も検討すべきです。ジェット燃料の場合を例に挙げると、EYはEU税関当局及び欧州委員会との対話を何度か行い、GCCから輸入するジェット燃料について、可能な解決策を協議してきました。EU及び各加盟国は、拘束力のある航空輸送協定を締結しており、この協定にはジェット燃料の関税・各種税金を、原産地に関わらず免除する条項が盛り込まれています。欧州委員会は2014年1月1日以降に輸入されるジェット燃料について、関税支払い猶予措置を提案しています (ただしこの提案はまだ承認されていません)。

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ロシアロシアがTIRカルネの利用を再開 何ケ月も続いたトランジット業務の遅れと不透明感の末、ロシアは国際道路運送手帳(TIRカルネ)の利用期限を、少なくとも2014年7月1日まで延長することにしました。

2013年7月より、ロシアの連邦税関サービス局(FCS)は、同国内の特定地域におけるTIRカルネ利用について規制(すなわちロシア通過物品にかかる関税及び各種税金の保証)を設け始めました。TIRカルネはもはや十分とは言えず、保税運送を確保するには、関税同盟の関税法で定められた代替措置(銀行保証等)を用いる必要があったと、FCSは述べています。FCSのこうした動きは、TIRカルネによる義務履行を担保するにあたり、膨れ上がるロシア国際自動車輸送協会(ASMAP)の債務が原因となっていました。

TIRカルネの利用を規制する動きは、ロシアが「国際道路運送手帳による担保のもとで行う貨物の国際運送に関する通関条約(1975年)」の締結国であることを考慮すると、物議を醸すものでした。さらに、ロシア連邦最高仲裁裁判所は2013年10月、新たに設けられた規制が関税法に準拠していないとしてASMAP側が勝訴する判決を下しました。それでも、FCSは2013年12月1日付で、ロシア全域におけるTIRカルネの利用を制限すると発表したのです。TIRカルネに関する規制は、他の関税同盟加盟国(ベラルーシ及びカザフスタン)にも普及するものと見込まれていました。

結果として、ロシアの一定地域を通過する国際保税運送業務においては出費のかさむ遅延が生じ、FCSはTIRカルネの利用承認を中止する計画を続行するものと見られていました。しかし、FCSは2013年11月30日、TIRカルネの利用を2014年7月1日まで延長可能にするASMAPとの合意を発表したのです。

FSCによるこの最新告知は、ロシア及び関税同盟の全域における輸出入者にとって、またトランジット業務については喜ばしいニュースですが、事態はまだ不安定であると思われます。FCSは、2013年12月1日からヴィボルグスカヤ、ムルマンスク、及びカレリスカヤに限りTIRカルネが利用可能になることを明らかにしました。その他の地域でトランジットを確保するには、今のところ別の措置を利用しなければなりません。

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関税・国際貿易サービスEYの間接税チームによる関税・国際貿易サービスについてEYの間接税チームは、関税・国際貿易について、グローバルな視点でサービスを提供し、同分野の専門家集団が、企業によるコスト管理の戦略構築、サプライチェーンの迅速化、及び国際貿易のリスク低減を支援いたします。また、通商コンプライアンスの増進、輸出入オペレーションの改善、関税・物品税の低減、及びサプライチェーン・セキュリティーの強化においてもサポートが可能です。EYでは、企業がそのポテンシャルを最大限に発揮できるよう、今日のグローバルな環境下で企業が直面する課題への取り組みを支援いたします。

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