title 安定マッチング問題に関する最近の話題 citation 信学技報 ... ·...
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Title 安定マッチング問題に関する最近の話題
Author(s) 宮崎, 修一
Citation 電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report :信学技報 (2009), 109(211): 19-22
Issue Date 2009-09-18
URL http://hdl.handle.net/2433/227010
Right © 2009 by IEICE
Type Research Paper
Textversion publisher
Kyoto University
社 団 法 人 電 了情 報 通 信 学 会
THLiVSTiTしTEorELECTRO」NICS,
⊥NFORMAT10NANDCOMMしNlCATlO」NE」NGl」NEERS
信 学 技 報
iLiCLTechnicalReport
AI2009-12(2009-9)
[招待講演]安 定マ ッチング問題に関す る最近の話題
宮 崎 修 一†
† 京 都 大 学 学 術 情 報 メデ ィ ア セ ン タ ー
京 都 市 左 京 区 吉 田 本 町
E-mail:[email protected]
あらまし 安定マ ッチング問題 とは,男 女の集合 と,各 人の異性に対する希望 リス トが与えられた とき,「安 定性」と
呼ばれ る性質を満たす男女間のマッチ ングを求める問題である.本 問題 は,研 修医の病院配属や生徒の学校への配属,
大学における学生の研究室配属等,応 用の広い問題である.本 講演では,本 問題の紹介を行 うと共に,関 連す るい く
つかの間題に対する最近の話題を,著 者の研 究グループが得た成果を中心に紹介する.
キーワー ド 安定マッチング問題,近 似アル ゴ リズム
[lnvitedTalk]RecentTopicsontheStableMatchingProblems
ShuichiMIYAZAKIt
fAcademicCenterforComputingandMediaStudies,KyotoUniversityYoshida-Honmachi,Sakyo-kuKyoto606-8501,Japan
E-mail:[email protected]
AbstractInthestablematchingproblem,wearegivenasetofmenandwomen,andeachperson'spreferencelist
thatordersmembersoftheoppositegender.Ourtaskistofindamatchingbetweenmenandwomenthatsatisfies
the"stability"condition.Thisproblemhaswidevarietyofapplicationsinreal-world,suchasassigningmedical
studentstohospitals,primaryschoolstudentstosecondaryschools,andgraduatestudentstosupervisors.Inthis
presentation,weintroducetheproblemandshowsomeelementarypropertiesoftheproblem.Wealsoshowsome
ofrecentresultsonthisproblem,whicharemainlyobtainedbytheauthors.
Keywordsstablemarriageproblem,approximationalgorithms
1.は じ め に
安 定マ ッチ ング 問題(安 定結婚 問題 と も言 う)は,1962年 に
GaleとShapleyに よ り提 唱 され た 問題 で あ る[5],[8].入 力 と
して,同(nと す る)の 男 女 の集 合お よび 各個 人 の希 望 リス ト
が 与 え られ る.希 望 リス トとは,そ の個 人 の好 み に従 って 異性
全 員 を全 順 序で 並べ た リス トで あ る.マ ッチ ング とは,男 性か
ら女性 へ の1対1写 像(す な わ ち,n組 の男 女 のペ ア)で あ る.
マ ッチ ン グMに お け る男 性mの パ ー トナ ー をM(m),女 性
wの パ ー トナ ー をM(w)と 書 く.マ ッチ ングMに お いて,ペ
アに な って いな いmとwが,(1)mはM(m)よ りwを 好 む,
(2)wは 一M(w)よ りmを 好 む,の 両方 を満 たす とき,(m,w)
を 一Mに お け るブ ロッキ ング ペ ア と言 う.す な わ ち,mとwは,
今 のパ ー トナ ー と別れ て マ ッチ す る こ とに よ り,共 に 得 をす る.
ブ ロ ッキ ングペ ア の存 在 しな いマ ッチ ング を安 定 マ ッチ ング と
い う.安 定マ ッチ ング 問題 は,与 え られ た 入力例 題か ら安 定マ ッ
チ ング を 求 め る問題 で あ る.GaleとShapleyは,任 意 の 入力
例 題 に最 低1つ の安 定マ ッチ ングが 存在 す るこ と,お よび,そ
れ を見 つ け る0(n2)時 間 の アル ゴ リズ ム(Gale-Shapleyア
ル ゴ リズ ム と呼ばれ てい る)を 示 した[5].ま た,一 般 に は,1
つ の 例題 に 対 して複 数 の安 定 マ ッチ ング が存 在す る.
安 定マ ッチ ング 問題 は幅 広 い応 用 を持 つ.そ の 中で も最 も有
名 な ものが,研 修 医の 病 院配 属で あ ろ う.ア メ リカ では,研 修
医 と病院 双 方が 希 望 リス トを提 出 し,そ れ に 基づ い た安 定 マ ッ
チ ング に よ り研 修 医の 配 属先 を決 定 す るシ ステ ム が,1952年
か ら運 用 され て い る[27](1つ の 病 院 に複 数 の研 修 医を 配属 す
る必 要 もあ るが,上 記 の 定 義 に お い て,「女 性 は複 数 の男 性 と
マ ッチで き る」と い う拡 張 を加 えた もの が使 われ て い る).こ
こで は,毎 年 約3万 人 の研 修 医 と約2万 の募 集枠 の 問で の マ ッ
チ ン グが 行 われ てい る.同 様 の シ ステ ムは カナダ 【25]やイ ギ リ
ス(ス コッ トラン ド)[28]に も見 られ,日 本 で も2003年 か らス
ター トした[26].そ の他 に,生 徒 の学 校配 属[22]や 大学 院 生の
研 究 室 配 属[1],最 近 で は 腎臓 交換 移 植 に お け る交 換ペ ア の決
定[21]に も応 用 が 見 られ る.
19
CopyrightO2009byIEICE
上 記 の よ うに応 用が 広 い こ と,ま た,数 学 的 に美 しい構 造 を
持 って い る こ とか ら,安 定マ ッチ ン グ 問題 は,数 学,経 済 学,
計算 機科 学 な ど多 くの 分 野で研 究 対 象 とな って い る.本 講 演で
は,安 定マ ッチ ン グ 問題 の基 本 的な性 質,お よび,最 近 筆 者 ら
の研 究 グル ープ に よ って得 られ た結 果 を幾つ か 紹介 す る.
2.最 大サイズ安定マ ッチング問題
安 定 マ ッチ ング 問題 の 定義 にお い て,各 人 は 異性 全 員 を全順
序で 希 望 リス トに 書か な けれ ば な らなか った.し か し,例 えば
ア メ リカの研 修 医配属(3万 人の研 修 医 と2万 個 の ポ ス ト)を
考 え る と,こ の 制約 は 実用 的 で ない.従 って,自 然 な拡 張 とし
て,マ ッチ した くない 相 手は リス トに書 か な くて 良い 不完 全 リ
ス トお よび 同程 度 の好 み の人 は 同順位 に して良 い 同順位 リス ト
が 考 え られ てい る.
不 完全 リス トに お いて は,リ ス トに 書 いて い ない 人 とは マ ッ
チ させ られ な い た め,不 完 全 マ ッチ ン グ も考 え る必 要 が あ り,
ブ ロ ッキ ングペ ア の定義 を拡張す る必要 が あ る.マ ッチ ン グ ーM
に対 して,(1)男 性mと 女 性wは お互 い を リス トに書 き合 っ
てお り,(2)mが 独 身 で あ るかM(m)よ りもwを 好 み,か つ,
(3)wが 独 身 で あ るかM(w)よ りもmを 好 む とき,(m,w)を
.Mに 対 す るブ ロ ッキ ング ペ ア と定義 す る.こ の拡 張 に お いて
も,安 定マ ッチ ング は少 な く とも1つ 存在 し,Gale-Shapleyア
ル ゴ リズ ムの簡 単 な修 正 に よ りそれ を求 め る こ とが で き る.前
述 した よ うに安 定 マ ッチ ング は必 ず し も完 全 マ ッチ ング とは 限
らな いが,全 て の 安定 マ ッチ ング に おい て マ ッチす る男 女 集合
が 同 じで あ る(す な わ ち,1つ の安 定 マ ッチ ン グで マ ッチ す る
人 は,他 の どの 安 定マ ッチ ングで もマ ッチす る)こ とが 知 られ
てい る[6].従 って,必 然 的 に全 ての安 定 マ ッチ ングは 同サ イ ズ
とな る.
同順位 を許 す 場合 は,ブ ロ ッキ ングペ ア の 定義 は3種 類 提案
され て い るが[12],こ こで は 最 も 自然 な弱 安 定性 を考 え る.す
なわ ち,第1節 に書 いた 定義 と同 じで,男 女共 に今 のペ ア よ り
もお 互 い をよ り好む もの を対象 とす る もの で あ る.(こ の他 に 強
安定 と超 安 定 とい う概 念 が あ り,こ れ らは,今 のペ ア と同順位
の相 手で もブ ロ ッキ ングペ ア の対象 とす るもの であ る.)こ の拡
張に お いて は,入 力 例 題 の希 望 リス ト内の 同順位 を任 意に 壊す
(つ ま り,無 理 に順 位 を つ け る)こ とに よ り得 られ た(拡 張 を
許 す 前 の)例 題 の 安定 マ ッチ ング が,そ の まま 現在 の例 題 の安
定マ ッチン グ にな る こ とが 容 易 に分 か る.従 って,や は り安 定
マ ッチ ング は必 ず 存在 し,そ れ をO(n2)時 間で求 め る こ とが 出
来 る.
不 完全 リス トと同順 位 を両 方許 した場 合 のブ ロッキ ングペ ア
は,上 記 の 両拡 張に お け る場 合 か ら 自然 に 定義 で き る.ま た,
安 定 マ ッチ ング は少 な くと も1つ 存 在 し,同 順 位 を適 当 に壊 し
てGale-Shapleyア ル ゴ リズ ム をか け る こ とに よ り,上 記 と同
様 に 安 定マ ッチ ン グ を求 め る こ とが で き る.不 完全 リス トを許
して い るので,安 定マ ッチ ング は完 全マ ッチ ング とは 限 らな い.
今 回は 不完 全 リス トの みの 場 合 と異 な り,1つ の 入力 例 題 に 異
な るサ イ ズ の複 数 の安 定 マ ッチ ン グが 存 在 す る可 能性 が あ る.
従 って,出 来 るだ け大 き なサ イズ の 安定 マ ッチ ン グ を求 め るこ
とが応 用 上重 要 とな る.
本 研 究 で は,最 大 サ イ ズ の 安 定 マ ッチ ング を求 め る とい う
最 適 化 問題(MAXSMTI;SMTIは「StableMarriagewith
TiesandIncompletelists」を 意 味す る)を 考 え,こ の 問題 が
NP困 難 で あ るこ とを示 した[13].NP困 難 な最 適 化 問題 に対
して は,多 項 式時 間近 似 アル ゴ リズ ム を 与 え るのが 解 決策 の1
つ で あ る.近 似 アル ゴ リズ ム の性 能は 近似 度 で評 価 され る.最
大 化 問題 に おけ る近 似度 の 定義 は 以 下の よ うに な る.近 似 アル
ゴ リズ ムAの 近似 度がcで あ る(「Aはc一 近 似 アル ゴ リズ ムで
あ る」と も言 う)と は,任 意 の入 力例 題1に 対 して
一{劉 ≦・
が 成 り立 つ とい うこ とで あ る.こ こで,opt(1)は 例 題1中 の
最 大 安 定マ ッチ ング のサ イ ズ,A(1)は アル ゴ リズ ムAが 求 め
る安 定マ ッチ ングの サ イズ で あ る.す なわ ち,ア ル ゴ リズ ムA
は,ど ん な入 力 に対 して も最 大 サ イズ の1/c以 上 のサ イズ の答
を求 め る こ とがで き る.cは1以 上の 値 を と り,小 さい ほ ど ア
ル ゴ リズ ム の性 能が 高 い こ とを示 す.
2一近似 アル ゴ リズ ムの構 築 は比較 的簡 単で あ るが,近 似 度 を2
よ りも厳 密 に良 くす るこ とは難 しい.漸 近 的には2に なって しま
う2-o(1)と い う近似 度で,o(1)部 分 を改 良す る程 度 に留 ま っ
て いた[14],[15].そ の後2007年 に初 め て2を 切 る近 似度1.875
のアル ゴ リズ ム に成功 した[16].以 上 のアル ゴ リズ ムは いず れ
も,任 意 の安 定マ ッチ ングか ら出発 して 逐次 的にサ イズ を大 き く
して い く とい う局所 探 索型 のアル ゴ リズ ムで あ る.以 後,2008
年 にKiraly[19]に よ り5/3,2009年 にMcDermid[20]に よ り
1.5へ と立て続 けに 改 良が 重ね られ,現 在 最 良の近似 度 は1.5で
あ る.P十NPの 仮 定 の 下で の 近似 度 の 下 限 は33/29(N1.137)
で あ り[24],こ れ らの 問 には まだ 開 きが あ るので,改 良の 余地
は残 され て い る.
3.男 女平等安定マ ッチング問題
異 性 全 員 を 全 順 序 で リス トに 書 くオ リジナ ル の 問題 を考 え
る.前 述 し た よ うに,Gale-Shapleyア ル ゴ リズ ム を使 えば 安
定 マ ッチ ン グ を0(n2)時 間で 求 め るこ とが で き る.し か し,
Gale-Shapleyア ル ゴ リズ ムに よ り求 め られ た解 は,全 て の男性
は可 能 なパ ー トナー の 中で 最 良の 女性 を得,全 ての 女性 は 可能
なパー トナー の 中で最 悪の 男性 を得 る とい う性 質 を持つ 同.こ
こで 言 う「可 能 なパ ー トナー」と は,複 数 存在 し うる安 定 マ ッ
チ ング の いず れ か に お い てパ ー トナ ー とな る異 性 を意 味す る.
この よ うなマ ッチ ング を 男性 最 適 安定 マ ッチ ング(か つ 女 性最
悪 安 定マ ッチ ング)と 呼ぶ.ま た,Gale-Shapleyア ル ゴ リズ ム
にお いて,男 性 と女性 の役 割 を交 換 す る こ とに よ り,女 性 最適
安 定 マ ッチ ング(か つ 男性 最悪 安 定マ ッチ ング)が 求 ま る.こ れ
らの 安定 マ ッチ ン グは 両極 端 で あ るの で,あ る程 度公 平 な マ ッ
チ ン グ を求 め る とい う問題 が考 案 され て い る.公 平 さの 尺 度 は
様 々考 え られ るが,以 下 の3つ が 自然 で あ る.
安 定 マ ッチ ング ーMに お い て,人 物pが マ ッチ してい る相 手
の(pの 希 望 リス ト上 で の)順 位 をCM(p)と 表 す.こ れ は あ る
20
意 味,pの 不 満 度 を表 して い る と も言 え る.Xを 男 性集 合,yr
を女 性集 合 とした とき,
・(M)一 Σ・M(p)
pEXUY
が最小となるMを 求める問題を最小不満度安定マッチング問
題とい う.す なわち,全 員の不満度の総和を最小化する問題で
ある.
R(M)=max _cM(p)pEXUY
が最小となるMを 求める問題を最小後悔安定マッチング問題
とい う.最 も不満な人の不満度を最小化する問題である.
D(M)-1Σ・M(p)一 Σ・M(p)l
pEXpEY
が 最 小 とな るMを 求 め る問題 を男 女 平等 安 定マ ッチ ング 問題
とい う.男 性 の不 満 度 の総 和 と女 性 の不満 度 の 総和 を 出来 るだ
け近 づ け る問題 で あ る.
全 て の安 定マ ッチ ング を列 挙 し,そ の 中で 最 良 の もの を選べ
ば 最 適解 を求 め るこ とが で き るが,一 般 に安 定 マ ッチ ング は入
力 サ イ ズ の 指数 個 あ り[2],[10],[23],多 項 式 時 間で は 動 作 し な
い.そ れ に も関わ らず,全 て の安 定 マ ッチ ング か らな る分 配束
構 造 を利 用 す る こ とに よ り,最 小 不満 度 安定 マ ッチ ン グ 問題 と
最 小 後悔 安 定マ ッチ ング 問題 は多 項 式 時間で 最 適解 を得 る こ と
が で き る[3],[4],[7],[11].し か し,男 女 平等 安 定 マ ッチ ン グ 問
題 はNP困 難 で あ る こ とが 示 され てい る[18].
本 研 究で は,男 女平 等安 定 マ ッチ ング 問題 に 対 して,限 りな
く1に 近 い近 似度 を持つ 近似 アル ゴ リズ ムを 与え た.ま た,そ
の拡 張 であ る,男 女平 等 な 中で最 小 不満 度 の安 定 マ ッチン グ を
求 める 問題 のNP困 難 性 を示 し,こ の 問題 に 対す る2よ り小 さ
い近 似度 の 近似 アル ゴ リズ ム を与 え た[17].な お,こ こで は最
小 化 問題 を取 り扱 って い るた め,近 似 度は 第2節 にお け る式 の
分 子 と分 母 を入れ 替 えて,
A(1)max
opt(1)Sc
とい う形 に 基づ い て定 義 され る.
4.配 属数下限付き研修 医配属問題
研修医配属問題は安定結婚問題の多対1へ の拡張である.男
性を研修医,女 性を病院とみなし,研 修医は病院を,病 院は研
修医を希望リスト上で順序付けする(安 定結婚問題と違い,研
修医配属問題はオリジナルの問題で不完全リストを許すことに
なっている).さ らに,各 病院は受け入れ可能な研修医の上限
値を宣言する.こ こでは,(i)各 研修医の配属先は高々1つ であ
り,(ii)各 病院に配属され る研修医数はその病院の宣言した上
限値以内である,と い う条件を満たす配属をマッチングと呼ぶ.
マッチングMに おいて,研 修医rが 配属されている病院(も
し存在すれば)をM(r),病 院hに 配属されている研修医の集
合をM(h)と 書く.
マ ッチ ン グMに おい て,研 修 医rは 病 院hに 配属 され てい
ない が,(1)rもhも お 互 い を希 望 リス トに 書 き合 って い る,
(2)rは ど こ に も配 属 され て い ない か,ま た は,rはM(r)よ
りもhを 好 む,(3)hへ の 配 属 者 数 が 上 限 に満 ちて い な い か,
また は,hがrよ りも下位 に 書い てい る研 修 医がM(h)中 にい
る,の3条 件 を満 たす とき,(r,h)をMの ブ ロッキン グペ ア と
言 う.ブ ロ ッキ ングペ ア を含 まな いマ ッチ ングが 安 定マ ッチ ン
グ で あ り,研 修 医配 属 問題 も同様 に,与 え られ た 入力 か ら安定
マ ッチ ング を求 め る 問題 で あ る.
研修 医配 属 問題 にお いて も安 定 結婚 問題 の 様 々な性 質 が成 り
立っ こ とが 知 られ てい る[8].例 えば,全 ての例 題 に少 な くとも
1つ の安 定 マ ッチ ン グが存 在 し,Gale-Shapleyア ル ゴ リズ ムに
よ りその うちの1つ を求 め る こ とが で き る.ま た,安 定結婚 問
題 で 不完 全 リス トを許 す拡 張 に対 して成 り立 ってい たの と同様
の性質 が こ こで も成 り立つ[6].す な わ ち,全 ての 安定 マ ッチン
グ に おい て,配 属先 の あ る研修 医は 同一 で あ り,ま た,全 ての
安 定 マ ッチ ング にお い て,各 病 院 に配 属 され る研 修 医数 は 同 じ
で あ る.こ の こ とか ら,実 応用 に お いて,以 下 の考 察が 成 り立
ち,新 たな 問題 を考 え る必 然性が 生 じ る.例 えば,あ る安 定マ ッ
チ ン グ にお いて研 修 医 配属数0の 病 院が あ った とす る.配 属数
0で は 病 院運 営 に支 障 を来 たす 恐れ が あ るが,定 理 よ り他 のど
の よ うな安 定マ ッチ ン グ を選 ん だ として も配属 数 は0で あ り意
味を な さな い.こ の よ うな状況 は,例 えば 近 年 の 日本 で は,医
師の遍 在 に よ り田舎 の病 院 に よ く見 られ る問題で あ る.従 って,
本 研 究 で は,そ れ ぞ れ の病 院 に 対 し て あ る程 度 の配 属 数 を保
証 す るモデ ル を提案 した.す なわ ち,各 病 院 が配 属者 数 の 上 限
のみ で な く,下 限 を も宣言 で き るよ うに し,上 下限 を満 たす 安
定 マ ッチ ング を求 め る問題(HRMQ;「Hospitals/Residents
ProblemwithMinimumQuota」の 略)を 提案 した.
上 述の 性 質か ら,下 限 を無視 した通 常 の研 修 医配 属 問題 の安
定 マ ッチ ング は,各 病院 へ の配属 数が 一 定で あ る.し たが って,
あ る1つ の安 定 マ ッチ ング を求 めて,そ れ が 全 ての病 院の 上下
限を満 た していれ ば 求 め る解で あ るし,満 た してい な けれ ば 上
下限 を満 たす 安 定 マ ッチ ング は存 在 しな い と結論 づ け られ るの
で,HRMQは この観 点か らは容易 に解 け る.し か し,解 が 存在
しな い場 合 に も何 らか の答 を得 る必要 が,現 実 には あ る.そ こ
で,本 研 究 では,上 下 限 を満 たす マ ッチ ング の 中で「で き るだ
け安 定」な マ ッチン グ を求 め る問題 を2つ 提 案 し,そ の計 算量
に 関して 以 下の結 果 を得 た[9].1つ 目は,ブ ロ ッキン グペ ア数
を最 小化 す る 問題(Min-BPHRMQ)で あ る.本 研 究 では,
Min-BPHRMQがNP困 難で あ る こ と,お よび,P十NPな ら
ば 多項 式 時 間(IHI+IRI)1-E一 近似 アル ゴ リズ ムを持 た ない こ と
を示 した.こ こで,HとRは それぞ れ 病 院 と研修 医の集 合,E
は任 意 の正 定 数 で あ る.ま た,近 似 可 能性 に 関 して,Min-BP
HRMQに 対 す る多項 式 時間(H+lRl)一 近似 アル ゴ リズ ムを与
えた.2つ 目の問題 は,ブ ロ ッキングペ アに 関わ る研修 医数 を最
小 化す る問題(Min-BRHRMQ)で あ る.Min-BRHRMQ
に 関 して も 同様 にNP困 難 性 を示 した が,近 似 可能 性 につ い
て はV1珂 一近 似 アル ゴ リズ ム を構 築す るこ とに よ りMin-BP
HRMQよ りも本 質 的に 良い結 果 を得 る こ とが で きた.
21
5. お わ り に
本講演では,安 定マッチング問題の定義や応用例,基 本的性
質などを紹介した.ま た,筆 者 らによって得られた最近の結果
(特に近似アルゴリズムに関する結果)を 幾つか紹介した.
謝 辞.本 研 究 は科 研 費(15700010,17700015,20700009)の 助
成 を受 けた も ので あ る.本 稿 に 掲 載 した研 究 成 果 に つ い て 共
同研 究 を行 っ た以 下 の方 々に 感 謝 す る.京 都 大 学 教授 岩 間 一
雄 氏,研 究 当時 に京 都 大 学の 学生 で あ った盛 田保 文 氏,柳 澤 弘
揮 氏,岡 本 和也 氏,山 内 直哉 氏,濱 田浩 気氏,レ イキ ャ ビ ク大
学ProfessorMagnusM.Halldorsson氏,グ ラ スゴ ー大 学Se-
niorLecturerRobertW.Irving氏,グ ラス ゴー 大学Lecturer
DavidFManlove氏,お よび グ ラ スゴ ー 大 学 の 学生 で あっ た
SandyScott氏.
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