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TechnicalReport
工藤 恭彦 1、河村 和広 1、田中 幸樹 1、渡辺 壱 2、松井 和子 2、渡辺 忠一 2
11 株式会社島津製作所 分析計測事業部2 フロンティア・ラボ株式会社
C146-0389
高分子添加剤ライブラリとF-Searchポリマーライブラリを利用したPy-GC/MSシステムによる樹脂の詳細解析Detailed analysis of an unknown polymer using the Py-GC/MS system with Polymer Additives and F-Search Polymer Libraries
5
高分子材料に含まれる添加剤の分析は高分子材料の品質管理、品質改良や化学物質規制に向けた対応などのために重要である。「高分子添加剤ライブラリ」は高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS マススペクトルライブラリである。マススペクトルと共に保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録しており、添加剤の詳細な解析が可能となる。
本レポートでは、未知の樹脂をPy-GC/MSシステムの 3 つの分析モード(発生ガスMS、熱分解 GC/MS、熱抽出 GC/MS)で分析し、高分子添加剤ライブラリとフロンティア・ラボ社製F-Searchポリマーライブラリを用いて、含有される添加剤の推定と樹脂母材の推定を行った。その結果、樹脂母材は Styrene butadiene rubber(SBR)と推定され、添加剤として老化防止剤の p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD などが含有されていることが推定された。Py-GC/MSシステムとこれらのライブラリを組み合わせることで未知の樹脂の詳細解析が可能であることが示された。
Keywords: Py-GC/MS、樹脂、高分子、添加剤、高分子添加剤ライブラリ、F-Search
Abstract:
1. はじめに
高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS
マススペクトルライブラリです。約 4900 種のマススペクトルに加
え、保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録し
ており、添加剤の深い知識がなくても簡便に添加剤の解析が可
能です。熱分解 GC/MS はもちろん、液打ち GC/MS などさまざま
な GC/MS システムで使用可能なライブラリです。
GC/MS マススペクトルライブラリ
高分子添加剤ライブラリ
検索ソフトウェアの F-Searchと各種ライブラリーから構成され、
EGA サーモグラムとパイログラムから、ポリマーと添加剤の高速
検索が可能です。Ver. 3.6 では 3 種のポリマーライブラリーの収
録数を増加しました。
1) EGA-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
2) PyGC-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
3) Pyrolyzate-MS ポリマーライブラリー : 全 268 種類(103 種のポリマーを追加)
4) ADD-MS 添加剤ライブラリー : 全 494 種類
フロンティア・ラボ社製
F-Search システム Ver.3.6
本資料の掲載情報に関する著作権は当社または原著作者に帰属しており、権利者の事前の書面による許可なく、本資料を複製、転用、改ざん、販売等することはできません。掲載情報については十分検討を行っていますが、当社はその正確性や完全性を保証するものではありません。また、本資料の使用により生じたいかなる損害に対しても当社は一切責任を負いません。本資料は発行時の情報に基づいて作成されており、予告なく改訂することがあります。
初版発行:2019 年 5 月 © Shimadzu Corporation, 2019
3218-02901-10AIT
https://www.an.shimadzu.co.jp/
樹脂材料中の微量添加剤の分析は、その品質管理や研究開発、厳格化が進む化学物質規制に向けた対応などのため、ますます重要性が高まっている。現在その分析法としては、数十~数百 ppm の種々の添加剤を高感度に検出し選択性に優れたGC/MS が既存の NIST や Willey の汎用マススペクトルライブラリと併用して広く用いられている 1)。しかし汎用ライブラリは、一般的に樹脂材料に使用されている添加剤の登録は限定的であり、一部の添加剤の解析には使用できない。また一部の添加剤は配合後の加熱や練り工程において熱分解や変性をするため、汎用ライブラリでのライブラリ検索ではそれらの化合物同定は可能であるが本来の目的である元の添加剤の同定は難しく、熱分解生成物から元の添加剤を推定するには長年の経験と知識が必要であった。
そこで、我々は樹脂材料中の添加剤分析を効率的に行うため、新たに高分子材料向け添加剤に特化した GC/MS マススペクトルライブラリ「高分子添加剤ライブラリ」を開発した。
本ライブラリを用いて未知配合樹脂中の老化防止剤等の添加剤の定性解析を行い、ライブラリの有用性を検証した。さらに発生ガス MS 分析や熱分解 GC/MS 分析の結果からポリマーの組成解析が可能な F-Search ポリマーライブラリ2)を併用して、樹脂の詳細解析を行った。
その結果、NIST 及び高分子添加剤ライブラリのいずれの検索結果からも、架橋剤の Irgacure に加えて老化防止剤のBHT、Nocrac M-17、Nocrac 6C、NocracCD 等が使用されていることが推定された。一方、ピークA からD についてはNIST を用いた検索ではヒット率が低く化合物推定が困難であった。また NISTを用いてパイログラム上の熱分解生成物の同定は推定できたとしても、熱分解前の元の添加剤の推定ができなかった。これらのピークについて高分子添加剤ライブラリを用いることで類似度、保持指標などの情報と共に化合物を推定することができた(Fig. 5)。
ピークA、B はそれぞ れ Dibutyl amineとButyl isocyanateと推定し、さらに添加剤ライブラリに登録されているオリジナル添加剤の情報から、これらの化合物は老化防止剤 Tributyl thiourea 等に由来する化合物であると推定された。ピークCは N-Phenyl-1,4-benzendiamineと推定し、オリジナル添加剤の情報からピークD の化合物の成形等における熱分解生成物で あると推 定し た。ピ ークD は 老 化 防 止 剤 p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD で あると推 定された。
Fig. 5 高分子添加剤ライブラリによるピークA、B、C、D の定性解析結果
高分子添加剤ライブラリを用いることで汎用ライブラリでは解析が難しいピークでも添加剤の推定が可能であった。また従来は熟練の知識が必要であった熱分解生成物の検出による元の添加剤の推定を本ライブラリにより簡便に行うことができた。さらに、F-Search ポリマーライブラリを用いることによって未知樹脂材料の基材の推定を行うことができた。このように高分子添加剤ライブラリとF-Search ポリマーライブラリを組み合わせることで、未知の樹脂試料についての詳細な解析可能であることが分かった。
4. 結論1) K. D. Jansson, C. P. Zawodny, T. P. Wampler, J. Anal. Appl. Pyrolysis,
79 (2007) 353-3612) A. Hosaka, K. Ito, I. Watanabe, C. Watanabe, 島 津 製 作 所 GC/MS
technical report No.9
参考文献
マススペクトルの類似度検索の結果
保持指標によるフィルタリングを行い、絞り込んだ結果
類似構造をもつ化合物が沢山ある添加剤成分では、マススペクトル
だけの類似度検索では複数の候補化合物が上位にヒットする場合が
あります。保持指標でフィルタリングすることで候補が絞り込まれ、
効率よく同定することが可能になります。
保持指標によるフィルタリング
添加剤の分類情報(可塑剤、難燃剤など)が登録されているので、ヒッ
トした化合物がどのような添加剤に関与するのかを確認するのに役
立ちます。
添加剤の分類情報の確認
● 登録スペクトル数:4,869(添加剤、添加剤の熱分解生成物を含む)F-Search 添加剤ライブラリ ADD-MS16B(フロンティア・ラボ)の情報を収録したライブラリに加え、市場での使用状況や化学物質規制(REACH、GS マーク等)情報を基に選定した分析要求の高い化合物 65 種のマススペクトルを収録した島津独自開発のライブラリを追加。
● 保持指標情報を登録保持指標の絞込みによる精度の高いシミラリティ検索が可能。
● 添加剤の分類情報を登録添加剤の詳しい知識がなくてもライブラリでヒットした化合物が可塑剤、難燃剤等、どのような添加剤に関与するかを判別可能。
● 添加剤の分解生成物から元の添加剤の推定が可能本ライブラリには元の添加剤と紐付けられた分解生成物の情報が登録されており、添加剤分析の長年の経験や深い知識がなくても同定された分解生成物から元の添加剤の推定をすることが可能。
1-1. 高分子添加剤ライブラリの概要
Butyl isothiocyanate Tributyl thiourea (Antidegradant)
分解生成物 元の添加剤
NC
S
N
S
HN
Di-n-butylamine測定スペクトル
ライブラリスペクトル
RI: 942
RI: 945
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
ピーク A 類似度:96
類似度:97
類似度:94
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク B
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク C
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク D
Butyl isothiocyanate
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
RI: 990
RI: 984
RI: 1989
RI: 1983
N-Phenyl-1,4-benzenediamine
ピークD の熱分解生成物と推定
p-(p-Toluene sulfonylamido) diphenylamine
老化防止剤(NIST14 に登録なし)
RI: 3331
RI: 3341
類似度:97
NH
NC
S
HN
H2N
NHHNS
OO
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32 4
次に、熱分解 GC/MS 分析で得られたパイログラムについて、検出されたピーク群全体のマススペクトルを F-Search ポリマーライブラリを用いて解析した(Fig. 3)。その結果、3-1の結果と同様に類似度 96 で SBR がヒットした。また得られた
パイログラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。3-1、3-2 の結果から樹脂の母材は SBR であると推定された。
3-2. 熱分解GC/MS分析による樹脂母材の組成解析
3-1 の発生ガス MS 分析のサーモグラムの情報を基に、揮発性成分の熱抽出温度領域(100 ~ 340℃)における熱抽出 GC/MS分析を行い、主要なピークについてNIST および高分子分析ライブラリを用いて定性解析を実施した(Fig. 4)。
3-3. 熱抽出GC/MS分析による添加剤の定性解析
Fig. 4 熱抽出 GC/MS 分析で得られたトータルイオンカレントクロマトグラムと検出された各ピークの定性解析結果
2. 実験
測定には、マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロン ティア・ラ ボ)とガ スクロ マトグ ラフ 四 重 極 型 質 量 分 析 計GCMS-QP2020(島津製作所)を用いた。熱抽出 GC/MSでの添加剤の定性解析には高分子添加剤ライブラリ、および NIST(2014 年版)を用いた。発生ガス MS 分析、熱分解 GC/MS 分析での樹脂基材の定性には F-Search(フロンティア・ラボ)のポリマーライブラリを用いた。詳細な分析条件は Table 1 に示した。
2-1. 装置
実試料として添加剤の配合や基材の情報が不明な加硫ゴムシート(厚さ:2 mm)を用いた。内径0.5mmのマイクロパンチャーで切片を採取し、熱分解用の不活性試料カップに入れて約 0.5 mgを秤量して測定試料とした。
2-2. 試料調製
① 発生ガスMS 分析による熱特性評価、樹脂の組成推定試料を発生ガス MS 法で分析し、揮発性成分と樹脂の熱分解生
成物が検出される温度領域を評価した。また樹脂の熱分解生成物のマススペクトルを F-Search Ver.3.5 EGA-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を行った。
② 熱分解 GC/MS 分析による樹脂の組成解析試料を熱分解 GC/MS 法で分析し、取得されたパイログラムの
マススペクトルを F-Search Ver.3.5 PyGC-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を
行った。
③ 熱抽出 GC/MS による添加剤の解析①の分析で得られた揮発性成分が検出される温度領域での熱
抽出 GC/MS 分析を行い、検出された各ピークについて高分子添加剤ライブラリ(島津製作所)および NIST(2014 年版)を用いて定性解析を行った。
2-3. 分析
Table 1 分析条件
装置
Py : EGA/PY-3030Dマルチショットパイロライザー (フロンティア・ラボ)GC-MS : GCMS-QP2020(島津製作所)
発生ガスMS法
【Py】 分析モード : 発生ガス 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 700℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : Ultra Alloy EGA tube(2.5 m x 0.15 mm I.D.) オーブン温度 : 300℃ 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(1 mL/min) 注入法 : スプリット(1:50) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 600)
熱抽出GC/MS法
【Py】 分析モード : ハートカットEGA(熱抽出法) 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 340℃(1 min) ITF温度 : 300℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min) - 20℃/min - 320℃(16 min) 試料気化室 : 300℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 800)
熱分解GC/MS法
【Py】 分析モード : シングルショット 熱分解温度 : 600℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min)- 20℃/min - 320℃(14 min) 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z : 29 ‒ 600)
Fig. 1 発生ガスMS 分析によるサーモグラムと樹脂母材の熱分解成分の MSスペクトルの取得
Fig. 2 F-Search 発生ガスMS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
3. 結果・考察
発生ガス MS 分析により得られた本試料のサーモグラムを Fig. 1 に示す。100 から340℃付近で添加剤などの揮発成分、それ以上の温度領域で樹脂由来の熱分解生成物が検出された。この熱分解生成物のマススペクトルについてF-Search EGA-MSポリマーライブラリによるライブラリサーチを実施した結果、スペクトル類
似 度 97 で Stylene-butadiene rubber(SBR)が ヒットした。また得られたサーモグラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。これらの結果から樹脂母材は SBR であると推定された(Fig. 2)。
3-1. 発生ガスMS分析による樹脂母材の組成解析
樹脂母材由来の熱分解生成物
添加剤などの揮発性成分
範囲 A の平均MSスペクトル
樹脂母材の熱分解成分に注目
340℃
発生ガス MS によるサーモグラム
樹脂母材は、SBRと推定!
検索上位拡大
A
100 200 300 400 500 600 ºC
検索一覧
検索 Hit No1 のサーモグラム
検索対象サーモグラム
Fig. 3 F-Search 熱分解 GC/MS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
1 の結果と同様SBRと推定!
検索結果のパイログラム比較樹脂母材の MSスペクトルの検索
検索上位拡大
RI は保持指標(Retention Index)を示す。
4 6 8 10 12 14 16 18 min
1-Octanethiol(RI: 1130)
HS
Dioctyl disulphide(RI: 2122)
S
S
Benzothiazole(RI: 1242)
BHT(RI: 1519)
Nocrak M-17(RI: 1572)
Naugard 445(RI:3575)?Styrene
N-Butylidenebutylamine(RI: 902)
p-Toluenethiol(RI: 1078)
ピーク B(RI : 990)
ピーク C(RI : 1989)
ピーク D(RI : 3331)
ピーク A(RI : 942)
Nocrac 6C(RI: 2367)
Diphenylamine(RI: 1610)
(RI:1840)
(from2,5-Di-tert-butylhydroquinone)
3-Cyclohexen-1-yl-benzene(RI:1348)
NH
OHO
O
C17H35
O
N
HN
NH
NH
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次に、熱分解 GC/MS 分析で得られたパイログラムについて、検出されたピーク群全体のマススペクトルを F-Search ポリマーライブラリを用いて解析した(Fig. 3)。その結果、3-1の結果と同様に類似度 96 で SBR がヒットした。また得られた
パイログラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。3-1、3-2 の結果から樹脂の母材は SBR であると推定された。
3-2. 熱分解GC/MS分析による樹脂母材の組成解析
3-1 の発生ガス MS 分析のサーモグラムの情報を基に、揮発性成分の熱抽出温度領域(100 ~ 340℃)における熱抽出 GC/MS分析を行い、主要なピークについてNIST および高分子分析ライブラリを用いて定性解析を実施した(Fig. 4)。
3-3. 熱抽出GC/MS分析による添加剤の定性解析
Fig. 4 熱抽出 GC/MS 分析で得られたトータルイオンカレントクロマトグラムと検出された各ピークの定性解析結果
2. 実験
測定には、マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロン ティア・ラ ボ)とガ スクロ マトグ ラフ 四 重 極 型 質 量 分 析 計GCMS-QP2020(島津製作所)を用いた。熱抽出 GC/MSでの添加剤の定性解析には高分子添加剤ライブラリ、および NIST(2014 年版)を用いた。発生ガス MS 分析、熱分解 GC/MS 分析での樹脂基材の定性には F-Search(フロンティア・ラボ)のポリマーライブラリを用いた。詳細な分析条件は Table 1 に示した。
2-1. 装置
実試料として添加剤の配合や基材の情報が不明な加硫ゴムシート(厚さ:2 mm)を用いた。内径0.5mmのマイクロパンチャーで切片を採取し、熱分解用の不活性試料カップに入れて約 0.5 mgを秤量して測定試料とした。
2-2. 試料調製
① 発生ガスMS 分析による熱特性評価、樹脂の組成推定試料を発生ガス MS 法で分析し、揮発性成分と樹脂の熱分解生
成物が検出される温度領域を評価した。また樹脂の熱分解生成物のマススペクトルを F-Search Ver.3.5 EGA-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を行った。
② 熱分解 GC/MS 分析による樹脂の組成解析試料を熱分解 GC/MS 法で分析し、取得されたパイログラムの
マススペクトルを F-Search Ver.3.5 PyGC-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を
行った。
③ 熱抽出 GC/MS による添加剤の解析①の分析で得られた揮発性成分が検出される温度領域での熱
抽出 GC/MS 分析を行い、検出された各ピークについて高分子添加剤ライブラリ(島津製作所)および NIST(2014 年版)を用いて定性解析を行った。
2-3. 分析
Table 1 分析条件
装置
Py : EGA/PY-3030Dマルチショットパイロライザー (フロンティア・ラボ)GC-MS : GCMS-QP2020(島津製作所)
発生ガスMS法
【Py】 分析モード : 発生ガス 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 700℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : Ultra Alloy EGA tube(2.5 m x 0.15 mm I.D.) オーブン温度 : 300℃ 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(1 mL/min) 注入法 : スプリット(1:50) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 600)
熱抽出GC/MS法
【Py】 分析モード : ハートカットEGA(熱抽出法) 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 340℃(1 min) ITF温度 : 300℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min) - 20℃/min - 320℃(16 min) 試料気化室 : 300℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 800)
熱分解GC/MS法
【Py】 分析モード : シングルショット 熱分解温度 : 600℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min)- 20℃/min - 320℃(14 min) 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z : 29 ‒ 600)
Fig. 1 発生ガスMS 分析によるサーモグラムと樹脂母材の熱分解成分の MSスペクトルの取得
Fig. 2 F-Search 発生ガスMS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
3. 結果・考察
発生ガス MS 分析により得られた本試料のサーモグラムを Fig. 1 に示す。100 から340℃付近で添加剤などの揮発成分、それ以上の温度領域で樹脂由来の熱分解生成物が検出された。この熱分解生成物のマススペクトルについてF-Search EGA-MSポリマーライブラリによるライブラリサーチを実施した結果、スペクトル類
似 度 97 で Stylene-butadiene rubber(SBR)が ヒットした。また得られたサーモグラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。これらの結果から樹脂母材は SBR であると推定された(Fig. 2)。
3-1. 発生ガスMS分析による樹脂母材の組成解析
樹脂母材由来の熱分解生成物
添加剤などの揮発性成分
範囲 A の平均MSスペクトル
樹脂母材の熱分解成分に注目
340℃
発生ガス MS によるサーモグラム
樹脂母材は、SBRと推定!
検索上位拡大
A
100 200 300 400 500 600 ºC
検索一覧
検索 Hit No1 のサーモグラム
検索対象サーモグラム
Fig. 3 F-Search 熱分解 GC/MS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
1 の結果と同様SBRと推定!
検索結果のパイログラム比較樹脂母材の MSスペクトルの検索
検索上位拡大
RI は保持指標(Retention Index)を示す。
4 6 8 10 12 14 16 18 min
1-Octanethiol(RI: 1130)
HS
Dioctyl disulphide(RI: 2122)
S
S
Benzothiazole(RI: 1242)
BHT(RI: 1519)
Nocrak M-17(RI: 1572)
Naugard 445(RI:3575)?Styrene
N-Butylidenebutylamine(RI: 902)
p-Toluenethiol(RI: 1078)
ピーク B(RI : 990)
ピーク C(RI : 1989)
ピーク D(RI : 3331)
ピーク A(RI : 942)
Nocrac 6C(RI: 2367)
Diphenylamine(RI: 1610)
(RI:1840)
(from2,5-Di-tert-butylhydroquinone)
3-Cyclohexen-1-yl-benzene(RI:1348)
NH
OHO
O
C17H35
O
N
HN
NH
NH
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32 4
次に、熱分解 GC/MS 分析で得られたパイログラムについて、検出されたピーク群全体のマススペクトルを F-Search ポリマーライブラリを用いて解析した(Fig. 3)。その結果、3-1の結果と同様に類似度 96 で SBR がヒットした。また得られた
パイログラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。3-1、3-2 の結果から樹脂の母材は SBR であると推定された。
3-2. 熱分解GC/MS分析による樹脂母材の組成解析
3-1 の発生ガス MS 分析のサーモグラムの情報を基に、揮発性成分の熱抽出温度領域(100 ~ 340℃)における熱抽出 GC/MS分析を行い、主要なピークについてNIST および高分子分析ライブラリを用いて定性解析を実施した(Fig. 4)。
3-3. 熱抽出GC/MS分析による添加剤の定性解析
Fig. 4 熱抽出 GC/MS 分析で得られたトータルイオンカレントクロマトグラムと検出された各ピークの定性解析結果
2. 実験
測定には、マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロン ティア・ラ ボ)とガ スクロ マトグ ラフ 四 重 極 型 質 量 分 析 計GCMS-QP2020(島津製作所)を用いた。熱抽出 GC/MSでの添加剤の定性解析には高分子添加剤ライブラリ、および NIST(2014 年版)を用いた。発生ガス MS 分析、熱分解 GC/MS 分析での樹脂基材の定性には F-Search(フロンティア・ラボ)のポリマーライブラリを用いた。詳細な分析条件は Table 1 に示した。
2-1. 装置
実試料として添加剤の配合や基材の情報が不明な加硫ゴムシート(厚さ:2 mm)を用いた。内径0.5mmのマイクロパンチャーで切片を採取し、熱分解用の不活性試料カップに入れて約 0.5 mgを秤量して測定試料とした。
2-2. 試料調製
① 発生ガスMS 分析による熱特性評価、樹脂の組成推定試料を発生ガス MS 法で分析し、揮発性成分と樹脂の熱分解生
成物が検出される温度領域を評価した。また樹脂の熱分解生成物のマススペクトルを F-Search Ver.3.5 EGA-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を行った。
② 熱分解 GC/MS 分析による樹脂の組成解析試料を熱分解 GC/MS 法で分析し、取得されたパイログラムの
マススペクトルを F-Search Ver.3.5 PyGC-MS ポリマーライブラリ(フロンティア・ラボ)を用いて解析し、母材樹脂の定性解析を
行った。
③ 熱抽出 GC/MS による添加剤の解析①の分析で得られた揮発性成分が検出される温度領域での熱
抽出 GC/MS 分析を行い、検出された各ピークについて高分子添加剤ライブラリ(島津製作所)および NIST(2014 年版)を用いて定性解析を行った。
2-3. 分析
Table 1 分析条件
装置
Py : EGA/PY-3030Dマルチショットパイロライザー (フロンティア・ラボ)GC-MS : GCMS-QP2020(島津製作所)
発生ガスMS法
【Py】 分析モード : 発生ガス 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 700℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : Ultra Alloy EGA tube(2.5 m x 0.15 mm I.D.) オーブン温度 : 300℃ 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(1 mL/min) 注入法 : スプリット(1:50) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 600)
熱抽出GC/MS法
【Py】 分析モード : ハートカットEGA(熱抽出法) 熱分解温度 : 100℃ - 20℃/min - 340℃(1 min) ITF温度 : 300℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min) - 20℃/min - 320℃(16 min) 試料気化室 : 300℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z:29 ‒ 800)
熱分解GC/MS法
【Py】 分析モード : シングルショット 熱分解温度 : 600℃ ITF温度 : 320℃(Auto)
【GC-MS】 カラム : UA-5MS/HT(30 m x 0.25 mm I.D., df=0.25 µm) オーブン温度 : 40℃(2 min)- 20℃/min - 320℃(14 min) 試料気化室 : 320℃ キャリアガス : He(線速度= 36.1 cm/sec) 注入法 : スプリット(1:100) ITF温度 : 280℃ イオン源温度 : 230℃ 測定モード : Scan(m/z : 29 ‒ 600)
Fig. 1 発生ガスMS 分析によるサーモグラムと樹脂母材の熱分解成分の MSスペクトルの取得
Fig. 2 F-Search 発生ガスMS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
3. 結果・考察
発生ガス MS 分析により得られた本試料のサーモグラムを Fig. 1 に示す。100 から340℃付近で添加剤などの揮発成分、それ以上の温度領域で樹脂由来の熱分解生成物が検出された。この熱分解生成物のマススペクトルについてF-Search EGA-MSポリマーライブラリによるライブラリサーチを実施した結果、スペクトル類
似 度 97 で Stylene-butadiene rubber(SBR)が ヒットした。また得られたサーモグラムは検索結果の SBR のパイログラムのパターンと類似していることが確認された。これらの結果から樹脂母材は SBR であると推定された(Fig. 2)。
3-1. 発生ガスMS分析による樹脂母材の組成解析
樹脂母材由来の熱分解生成物
添加剤などの揮発性成分
範囲 A の平均MSスペクトル
樹脂母材の熱分解成分に注目
340℃
発生ガス MS によるサーモグラム
樹脂母材は、SBRと推定!
検索上位拡大
A
100 200 300 400 500 600 ºC
検索一覧
検索 Hit No1 のサーモグラム
検索対象サーモグラム
Fig. 3 F-Search 熱分解 GC/MS ポリマーライブラリを用いた樹脂母材の組成解析結果
1 の結果と同様SBRと推定!
検索結果のパイログラム比較樹脂母材の MSスペクトルの検索
検索上位拡大
RI は保持指標(Retention Index)を示す。
4 6 8 10 12 14 16 18 min
1-Octanethiol(RI: 1130)
HS
Dioctyl disulphide(RI: 2122)
S
S
Benzothiazole(RI: 1242)
BHT(RI: 1519)
Nocrak M-17(RI: 1572)
Naugard 445(RI:3575)?Styrene
N-Butylidenebutylamine(RI: 902)
p-Toluenethiol(RI: 1078)
ピーク B(RI : 990)
ピーク C(RI : 1989)
ピーク D(RI : 3331)
ピーク A(RI : 942)
Nocrac 6C(RI: 2367)
Diphenylamine(RI: 1610)
(RI:1840)
(from2,5-Di-tert-butylhydroquinone)
3-Cyclohexen-1-yl-benzene(RI:1348)
NH
OHO
O
C17H35
O
N
HN
NH
NH
-
TechnicalReport
工藤 恭彦 1、河村 和広 1、田中 幸樹 1、渡辺 壱 2、松井 和子 2、渡辺 忠一 2
11 株式会社島津製作所 分析計測事業部2 フロンティア・ラボ株式会社
C146-0389
高分子添加剤ライブラリとF-Searchポリマーライブラリを利用したPy-GC/MSシステムによる樹脂の詳細解析Detailed analysis of an unknown polymer using the Py-GC/MS system with Polymer Additives and F-Search Polymer Libraries
5
高分子材料に含まれる添加剤の分析は高分子材料の品質管理、品質改良や化学物質規制に向けた対応などのために重要である。「高分子添加剤ライブラリ」は高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS マススペクトルライブラリである。マススペクトルと共に保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録しており、添加剤の詳細な解析が可能となる。
本レポートでは、未知の樹脂をPy-GC/MSシステムの 3 つの分析モード(発生ガスMS、熱分解 GC/MS、熱抽出 GC/MS)で分析し、高分子添加剤ライブラリとフロンティア・ラボ社製F-Searchポリマーライブラリを用いて、含有される添加剤の推定と樹脂母材の推定を行った。その結果、樹脂母材は Styrene butadiene rubber(SBR)と推定され、添加剤として老化防止剤の p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD などが含有されていることが推定された。Py-GC/MSシステムとこれらのライブラリを組み合わせることで未知の樹脂の詳細解析が可能であることが示された。
Keywords: Py-GC/MS、樹脂、高分子、添加剤、高分子添加剤ライブラリ、F-Search
Abstract:
1. はじめに
高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS
マススペクトルライブラリです。約 4900 種のマススペクトルに加
え、保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録し
ており、添加剤の深い知識がなくても簡便に添加剤の解析が可
能です。熱分解 GC/MS はもちろん、液打ち GC/MS などさまざま
な GC/MS システムで使用可能なライブラリです。
GC/MS マススペクトルライブラリ
高分子添加剤ライブラリ
検索ソフトウェアの F-Searchと各種ライブラリーから構成され、
EGA サーモグラムとパイログラムから、ポリマーと添加剤の高速
検索が可能です。Ver. 3.6 では 3 種のポリマーライブラリーの収
録数を増加しました。
1) EGA-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
2) PyGC-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
3) Pyrolyzate-MS ポリマーライブラリー : 全 268 種類(103 種のポリマーを追加)
4) ADD-MS 添加剤ライブラリー : 全 494 種類
フロンティア・ラボ社製
F-Search システム Ver.3.6
本資料の掲載情報に関する著作権は当社または原著作者に帰属しており、権利者の事前の書面による許可なく、本資料を複製、転用、改ざん、販売等することはできません。掲載情報については十分検討を行っていますが、当社はその正確性や完全性を保証するものではありません。また、本資料の使用により生じたいかなる損害に対しても当社は一切責任を負いません。本資料は発行時の情報に基づいて作成されており、予告なく改訂することがあります。
初版発行:2019 年 5 月 © Shimadzu Corporation, 2019
3218-02901-10AIT
https://www.an.shimadzu.co.jp/
樹脂材料中の微量添加剤の分析は、その品質管理や研究開発、厳格化が進む化学物質規制に向けた対応などのため、ますます重要性が高まっている。現在その分析法としては、数十~数百 ppm の種々の添加剤を高感度に検出し選択性に優れたGC/MS が既存の NIST や Willey の汎用マススペクトルライブラリと併用して広く用いられている 1)。しかし汎用ライブラリは、一般的に樹脂材料に使用されている添加剤の登録は限定的であり、一部の添加剤の解析には使用できない。また一部の添加剤は配合後の加熱や練り工程において熱分解や変性をするため、汎用ライブラリでのライブラリ検索ではそれらの化合物同定は可能であるが本来の目的である元の添加剤の同定は難しく、熱分解生成物から元の添加剤を推定するには長年の経験と知識が必要であった。
そこで、我々は樹脂材料中の添加剤分析を効率的に行うため、新たに高分子材料向け添加剤に特化した GC/MS マススペクトルライブラリ「高分子添加剤ライブラリ」を開発した。
本ライブラリを用いて未知配合樹脂中の老化防止剤等の添加剤の定性解析を行い、ライブラリの有用性を検証した。さらに発生ガス MS 分析や熱分解 GC/MS 分析の結果からポリマーの組成解析が可能な F-Search ポリマーライブラリ2)を併用して、樹脂の詳細解析を行った。
その結果、NIST 及び高分子添加剤ライブラリのいずれの検索結果からも、架橋剤の Irgacure に加えて老化防止剤のBHT、Nocrac M-17、Nocrac 6C、NocracCD 等が使用されていることが推定された。一方、ピークA からD についてはNIST を用いた検索ではヒット率が低く化合物推定が困難であった。また NISTを用いてパイログラム上の熱分解生成物の同定は推定できたとしても、熱分解前の元の添加剤の推定ができなかった。これらのピークについて高分子添加剤ライブラリを用いることで類似度、保持指標などの情報と共に化合物を推定することができた(Fig. 5)。
ピークA、B はそれぞ れ Dibutyl amineとButyl isocyanateと推定し、さらに添加剤ライブラリに登録されているオリジナル添加剤の情報から、これらの化合物は老化防止剤 Tributyl thiourea 等に由来する化合物であると推定された。ピークCは N-Phenyl-1,4-benzendiamineと推定し、オリジナル添加剤の情報からピークD の化合物の成形等における熱分解生成物で あると推 定し た。ピ ークD は 老 化 防 止 剤 p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD で あると推 定された。
Fig. 5 高分子添加剤ライブラリによるピークA、B、C、D の定性解析結果
高分子添加剤ライブラリを用いることで汎用ライブラリでは解析が難しいピークでも添加剤の推定が可能であった。また従来は熟練の知識が必要であった熱分解生成物の検出による元の添加剤の推定を本ライブラリにより簡便に行うことができた。さらに、F-Search ポリマーライブラリを用いることによって未知樹脂材料の基材の推定を行うことができた。このように高分子添加剤ライブラリとF-Search ポリマーライブラリを組み合わせることで、未知の樹脂試料についての詳細な解析可能であることが分かった。
4. 結論1) K. D. Jansson, C. P. Zawodny, T. P. Wampler, J. Anal. Appl. Pyrolysis,
79 (2007) 353-3612) A. Hosaka, K. Ito, I. Watanabe, C. Watanabe, 島 津 製 作 所 GC/MS
technical report No.9
参考文献
マススペクトルの類似度検索の結果
保持指標によるフィルタリングを行い、絞り込んだ結果
類似構造をもつ化合物が沢山ある添加剤成分では、マススペクトル
だけの類似度検索では複数の候補化合物が上位にヒットする場合が
あります。保持指標でフィルタリングすることで候補が絞り込まれ、
効率よく同定することが可能になります。
保持指標によるフィルタリング
添加剤の分類情報(可塑剤、難燃剤など)が登録されているので、ヒッ
トした化合物がどのような添加剤に関与するのかを確認するのに役
立ちます。
添加剤の分類情報の確認
● 登録スペクトル数:4,869(添加剤、添加剤の熱分解生成物を含む)F-Search 添加剤ライブラリ ADD-MS16B(フロンティア・ラボ)の情報を収録したライブラリに加え、市場での使用状況や化学物質規制(REACH、GS マーク等)情報を基に選定した分析要求の高い化合物 65 種のマススペクトルを収録した島津独自開発のライブラリを追加。
● 保持指標情報を登録保持指標の絞込みによる精度の高いシミラリティ検索が可能。
● 添加剤の分類情報を登録添加剤の詳しい知識がなくてもライブラリでヒットした化合物が可塑剤、難燃剤等、どのような添加剤に関与するかを判別可能。
● 添加剤の分解生成物から元の添加剤の推定が可能本ライブラリには元の添加剤と紐付けられた分解生成物の情報が登録されており、添加剤分析の長年の経験や深い知識がなくても同定された分解生成物から元の添加剤の推定をすることが可能。
1-1. 高分子添加剤ライブラリの概要
Butyl isothiocyanate Tributyl thiourea (Antidegradant)
分解生成物 元の添加剤
NC
S
N
S
HN
Di-n-butylamine測定スペクトル
ライブラリスペクトル
RI: 942
RI: 945
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
ピーク A 類似度:96
類似度:97
類似度:94
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク B
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク C
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク D
Butyl isothiocyanate
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
RI: 990
RI: 984
RI: 1989
RI: 1983
N-Phenyl-1,4-benzenediamine
ピークD の熱分解生成物と推定
p-(p-Toluene sulfonylamido) diphenylamine
老化防止剤(NIST14 に登録なし)
RI: 3331
RI: 3341
類似度:97
NH
NC
S
HN
H2N
NHHNS
OO
-
TechnicalReport
工藤 恭彦 1、河村 和広 1、田中 幸樹 1、渡辺 壱 2、松井 和子 2、渡辺 忠一 2
11 株式会社島津製作所 分析計測事業部2 フロンティア・ラボ株式会社
C146-0389
高分子添加剤ライブラリとF-Searchポリマーライブラリを利用したPy-GC/MSシステムによる樹脂の詳細解析Detailed analysis of an unknown polymer using the Py-GC/MS system with Polymer Additives and F-Search Polymer Libraries
5
高分子材料に含まれる添加剤の分析は高分子材料の品質管理、品質改良や化学物質規制に向けた対応などのために重要である。「高分子添加剤ライブラリ」は高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS マススペクトルライブラリである。マススペクトルと共に保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録しており、添加剤の詳細な解析が可能となる。
本レポートでは、未知の樹脂をPy-GC/MSシステムの 3 つの分析モード(発生ガスMS、熱分解 GC/MS、熱抽出 GC/MS)で分析し、高分子添加剤ライブラリとフロンティア・ラボ社製F-Searchポリマーライブラリを用いて、含有される添加剤の推定と樹脂母材の推定を行った。その結果、樹脂母材は Styrene butadiene rubber(SBR)と推定され、添加剤として老化防止剤の p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD などが含有されていることが推定された。Py-GC/MSシステムとこれらのライブラリを組み合わせることで未知の樹脂の詳細解析が可能であることが示された。
Keywords: Py-GC/MS、樹脂、高分子、添加剤、高分子添加剤ライブラリ、F-Search
Abstract:
1. はじめに
高分子材料に用いられる幅広い添加剤の情報を登録した GC/MS
マススペクトルライブラリです。約 4900 種のマススペクトルに加
え、保持指標、添加剤の分類情報、分解生成物の情報も収録し
ており、添加剤の深い知識がなくても簡便に添加剤の解析が可
能です。熱分解 GC/MS はもちろん、液打ち GC/MS などさまざま
な GC/MS システムで使用可能なライブラリです。
GC/MS マススペクトルライブラリ
高分子添加剤ライブラリ
検索ソフトウェアの F-Searchと各種ライブラリーから構成され、
EGA サーモグラムとパイログラムから、ポリマーと添加剤の高速
検索が可能です。Ver. 3.6 では 3 種のポリマーライブラリーの収
録数を増加しました。
1) EGA-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
2) PyGC-MS ポリマーライブラリー : 全 1000 種類(300 種のポリマーを追加)
3) Pyrolyzate-MS ポリマーライブラリー : 全 268 種類(103 種のポリマーを追加)
4) ADD-MS 添加剤ライブラリー : 全 494 種類
フロンティア・ラボ社製
F-Search システム Ver.3.6
本資料の掲載情報に関する著作権は当社または原著作者に帰属しており、権利者の事前の書面による許可なく、本資料を複製、転用、改ざん、販売等することはできません。掲載情報については十分検討を行っていますが、当社はその正確性や完全性を保証するものではありません。また、本資料の使用により生じたいかなる損害に対しても当社は一切責任を負いません。本資料は発行時の情報に基づいて作成されており、予告なく改訂することがあります。
初版発行:2019 年 5 月 © Shimadzu Corporation, 2019
3218-02901-10AIT
https://www.an.shimadzu.co.jp/
樹脂材料中の微量添加剤の分析は、その品質管理や研究開発、厳格化が進む化学物質規制に向けた対応などのため、ますます重要性が高まっている。現在その分析法としては、数十~数百 ppm の種々の添加剤を高感度に検出し選択性に優れたGC/MS が既存の NIST や Willey の汎用マススペクトルライブラリと併用して広く用いられている 1)。しかし汎用ライブラリは、一般的に樹脂材料に使用されている添加剤の登録は限定的であり、一部の添加剤の解析には使用できない。また一部の添加剤は配合後の加熱や練り工程において熱分解や変性をするため、汎用ライブラリでのライブラリ検索ではそれらの化合物同定は可能であるが本来の目的である元の添加剤の同定は難しく、熱分解生成物から元の添加剤を推定するには長年の経験と知識が必要であった。
そこで、我々は樹脂材料中の添加剤分析を効率的に行うため、新たに高分子材料向け添加剤に特化した GC/MS マススペクトルライブラリ「高分子添加剤ライブラリ」を開発した。
本ライブラリを用いて未知配合樹脂中の老化防止剤等の添加剤の定性解析を行い、ライブラリの有用性を検証した。さらに発生ガス MS 分析や熱分解 GC/MS 分析の結果からポリマーの組成解析が可能な F-Search ポリマーライブラリ2)を併用して、樹脂の詳細解析を行った。
その結果、NIST 及び高分子添加剤ライブラリのいずれの検索結果からも、架橋剤の Irgacure に加えて老化防止剤のBHT、Nocrac M-17、Nocrac 6C、NocracCD 等が使用されていることが推定された。一方、ピークA からD についてはNIST を用いた検索ではヒット率が低く化合物推定が困難であった。また NISTを用いてパイログラム上の熱分解生成物の同定は推定できたとしても、熱分解前の元の添加剤の推定ができなかった。これらのピークについて高分子添加剤ライブラリを用いることで類似度、保持指標などの情報と共に化合物を推定することができた(Fig. 5)。
ピークA、B はそれぞ れ Dibutyl amineとButyl isocyanateと推定し、さらに添加剤ライブラリに登録されているオリジナル添加剤の情報から、これらの化合物は老化防止剤 Tributyl thiourea 等に由来する化合物であると推定された。ピークCは N-Phenyl-1,4-benzendiamineと推定し、オリジナル添加剤の情報からピークD の化合物の成形等における熱分解生成物で あると推 定し た。ピ ークD は 老 化 防 止 剤 p-(p-Toluene sulfonylamido)diphenylamine:Nocrac TD で あると推 定された。
Fig. 5 高分子添加剤ライブラリによるピークA、B、C、D の定性解析結果
高分子添加剤ライブラリを用いることで汎用ライブラリでは解析が難しいピークでも添加剤の推定が可能であった。また従来は熟練の知識が必要であった熱分解生成物の検出による元の添加剤の推定を本ライブラリにより簡便に行うことができた。さらに、F-Search ポリマーライブラリを用いることによって未知樹脂材料の基材の推定を行うことができた。このように高分子添加剤ライブラリとF-Search ポリマーライブラリを組み合わせることで、未知の樹脂試料についての詳細な解析可能であることが分かった。
4. 結論1) K. D. Jansson, C. P. Zawodny, T. P. Wampler, J. Anal. Appl. Pyrolysis,
79 (2007) 353-3612) A. Hosaka, K. Ito, I. Watanabe, C. Watanabe, 島 津 製 作 所 GC/MS
technical report No.9
参考文献
マススペクトルの類似度検索の結果
保持指標によるフィルタリングを行い、絞り込んだ結果
類似構造をもつ化合物が沢山ある添加剤成分では、マススペクトル
だけの類似度検索では複数の候補化合物が上位にヒットする場合が
あります。保持指標でフィルタリングすることで候補が絞り込まれ、
効率よく同定することが可能になります。
保持指標によるフィルタリング
添加剤の分類情報(可塑剤、難燃剤など)が登録されているので、ヒッ
トした化合物がどのような添加剤に関与するのかを確認するのに役
立ちます。
添加剤の分類情報の確認
● 登録スペクトル数:4,869(添加剤、添加剤の熱分解生成物を含む)F-Search 添加剤ライブラリ ADD-MS16B(フロンティア・ラボ)の情報を収録したライブラリに加え、市場での使用状況や化学物質規制(REACH、GS マーク等)情報を基に選定した分析要求の高い化合物 65 種のマススペクトルを収録した島津独自開発のライブラリを追加。
● 保持指標情報を登録保持指標の絞込みによる精度の高いシミラリティ検索が可能。
● 添加剤の分類情報を登録添加剤の詳しい知識がなくてもライブラリでヒットした化合物が可塑剤、難燃剤等、どのような添加剤に関与するかを判別可能。
● 添加剤の分解生成物から元の添加剤の推定が可能本ライブラリには元の添加剤と紐付けられた分解生成物の情報が登録されており、添加剤分析の長年の経験や深い知識がなくても同定された分解生成物から元の添加剤の推定をすることが可能。
1-1. 高分子添加剤ライブラリの概要
Butyl isothiocyanate Tributyl thiourea (Antidegradant)
分解生成物 元の添加剤
NC
S
N
S
HN
Di-n-butylamine測定スペクトル
ライブラリスペクトル
RI: 942
RI: 945
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
ピーク A 類似度:96
類似度:97
類似度:94
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク B
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク C
測定スペクトル
ライブラリスペクトル
ピーク D
Butyl isothiocyanate
老化防止剤Tributyl thioureaに由来
RI: 990
RI: 984
RI: 1989
RI: 1983
N-Phenyl-1,4-benzenediamine
ピークD の熱分解生成物と推定
p-(p-Toluene sulfonylamido) diphenylamine
老化防止剤(NIST14 に登録なし)
RI: 3331
RI: 3341
類似度:97
NH
NC
S
HN
H2N
NHHNS
OO