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NTT技術ジャーナル 2017.3 58 介護予防の現状と課題 ■介護予防運動 日本の二次介護予防対象者(介護が必要となるおそれの ある65歳以上の高齢者)は,平成26年度時点で300万 人以上に達しています (1) .厚生労働省は高齢化に伴う介 護 ・ 医療の問題解決のために「地域包括ケアシステム」 (2) の構築などを推進しており,その中でも運動器の向上を図 る介護予防運動は主要な取り組みとなっています. ■介護予防運動の課題 介護予防運動の大きな課題として,運動の継続性とコ ミュニティ形成があります.継続性については,自治体主 催の介護予防運動教室はどうしても短期的となり,1カ月 から長くても3カ月程度の教室を1年に1回開くかたちと なります.また運動を1人で継続し続けることは困難であ るため,一緒に運動する仲間を見つけられる運動コミュニ ティの形成も課題となっています.年齢を重ねてから新し い仲間 ・ 友だちをつくるというのは,なかなか困難なこと なのです. ■NTTコムウェアの取り組み NTTコムウェアは福岡県みやま市において,フィット ネス会社と共同で2016年6〜7月にトライアルを行いま した.本トライアルではマルチロケーション型の介護予防 運動教室である「TV健康教室」,自宅で簡単に運動が始め られる「おうち健康TV」,ウェアラブルによる「運動量の 見える化」を提供し,合計30名以上の市民の方にご参加 いただきました.参加者の90%以上が「これからも参加 し続けたい」と答えるなど,好評を得ています. 本トライアルではフィットネス会社が運動コンテンツ提 供,NTT西日本が現地での設置作業,ドコモ ・ ヘルスケ アがウェアラブル活動量計を提供するなど,各社の強みを 結集したサービスであり,NTTコムウェアはそれらのサー ビスを取りまとめて,福岡県みやま市の市民の方々に提供 しました. TV健康教室 ■多拠点間での双方向ライブ映像配信 従来の介護予防運動教室には,講師を公民館などに派遣 する派遣型と,フィットネスジムなどの拠点で開催する通 所型があります.どちらの場合も1人の講師が同時に担当 できる拠点数は1カ所だけで,複数個所での開催には多く の講師が必要です.しかし介護予防運動の有スキル者は十 分ではなく,開催できる拠点数に限りがありました. TV健康教室は,インターネットを通じた双方向ライブ 映像配信(Web会議)を活用することにより,講師1人 で多拠点の教室開催を可能としました.講師のいるスタジ オと教室参加者のいる拠点をWeb会議で接続し,介護予 防運動教室を開催する仕組みです.接続は双方向で,講師 はそれぞれの拠点の反応を見ながら講義内容を調整する ことができます.また各拠点も,自分以外の拠点の様子 を見ながら運動することができます.これにより,従来で は不可能だった多拠点での教室開催を可能としています 図1 ). TVを通しての教室開催となりますが,クオリティは従 来の教室と遜色なく,トライアル時に講師を担当した介護 予防運動のプロフェッショナルからも「これなら効果の高 い教室を開催できる」と評価を得ています. 運動教室の内容は従来との介護予防運動教室と変わりな く,時間は60分程度,準備運動から始まり,椅子に座っ て手足や腰を動かす「からだ」の体操,足踏みをしながら 右手と左手で別々の動きをする「あたま」と「からだ」の 二重課題運動などを行います. スタジオ側の設備は,参加者側の映像を写すTV,講師 を撮影するビデオカメラ,スピーカ,制御 ・ 送信用のPC で構成されます.PCにはWeb会議用ソフトウェアがイン f rom NTTコムウェア TVとウェアラブル活動量計を活用した 新しい介護予防運動サービス 大切な人にずっと元気なままでいてほしい——高齢化社会が進む今,お年寄りが健康に暮らせる期間をできるだけ長くする介 護予防は,身近な課題となっています.NTTコムウェアはフィットネス会社およびNTTグループと共同でICTを用いた「日々 の生活に溶け込む」「続けられる」をテーマとした介護予防運動サービスを検討しています.生活空間であるリビングのTVを用 い,ご高齢の方でも簡単に利用できるサービスを,福岡県みやま市におけるトライアル事例を交えて紹介します.

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  • NTT技術ジャーナル 2017.358

    介護予防の現状と課題

    ■介護予防運動日本の二次介護予防対象者(介護が必要となるおそれのある65歳以上の高齢者)は,平成26年度時点で300万人以上に達しています(1).厚生労働省は高齢化に伴う介護 ・ 医療の問題解決のために「地域包括ケアシステム」(2)

    の構築などを推進しており,その中でも運動器の向上を図る介護予防運動は主要な取り組みとなっています.■介護予防運動の課題介護予防運動の大きな課題として,運動の継続性とコミュニティ形成があります.継続性については,自治体主催の介護予防運動教室はどうしても短期的となり,1カ月から長くても3カ月程度の教室を1年に1回開くかたちとなります.また運動を1人で継続し続けることは困難であるため,一緒に運動する仲間を見つけられる運動コミュニティの形成も課題となっています.年齢を重ねてから新しい仲間 ・ 友だちをつくるというのは,なかなか困難なことなのです.■NTTコムウェアの取り組みNTTコムウェアは福岡県みやま市において,フィットネス会社と共同で2016年6〜7月にトライアルを行いました.本トライアルではマルチロケーション型の介護予防運動教室である「TV健康教室」,自宅で簡単に運動が始められる「おうち健康TV」,ウェアラブルによる「運動量の見える化」を提供し,合計30名以上の市民の方にご参加いただきました.参加者の90%以上が「これからも参加し続けたい」と答えるなど,好評を得ています.本トライアルではフィットネス会社が運動コンテンツ提供,NTT西日本が現地での設置作業,ドコモ ・ ヘルスケアがウェアラブル活動量計を提供するなど,各社の強みを結集したサービスであり,NTTコムウェアはそれらのサービスを取りまとめて,福岡県みやま市の市民の方々に提供

    しました.

    TV健康教室

    ■多拠点間での双方向ライブ映像配信従来の介護予防運動教室には,講師を公民館などに派遣する派遣型と,フィットネスジムなどの拠点で開催する通所型があります.どちらの場合も1人の講師が同時に担当できる拠点数は1カ所だけで,複数個所での開催には多くの講師が必要です.しかし介護予防運動の有スキル者は十分ではなく,開催できる拠点数に限りがありました.TV健康教室は,インターネットを通じた双方向ライブ映像配信(Web会議)を活用することにより,講師1人で多拠点の教室開催を可能としました.講師のいるスタジオと教室参加者のいる拠点をWeb会議で接続し,介護予防運動教室を開催する仕組みです.接続は双方向で,講師はそれぞれの拠点の反応を見ながら講義内容を調整することができます.また各拠点も,自分以外の拠点の様子を見ながら運動することができます.これにより,従来では不可能だった多拠点での教室開催を可能としています(図 1).TVを通しての教室開催となりますが,クオリティは従来の教室と遜色なく,トライアル時に講師を担当した介護予防運動のプロフェッショナルからも「これなら効果の高い教室を開催できる」と評価を得ています.運動教室の内容は従来との介護予防運動教室と変わりなく,時間は60分程度,準備運動から始まり,椅子に座って手足や腰を動かす「からだ」の体操,足踏みをしながら右手と左手で別々の動きをする「あたま」と「からだ」の二重課題運動などを行います.スタジオ側の設備は,参加者側の映像を写すTV,講師を撮影するビデオカメラ,スピーカ,制御 ・ 送信用のPCで構成されます.PCにはWeb会議用ソフトウェアがイン

    from NTTコムウェアTVとウェアラブル活動量計を活用した新しい介護予防運動サービス大切な人にずっと元気なままでいてほしい——高齢化社会が進む今,お年寄りが健康に暮らせる期間をできるだけ長くする介護予防は,身近な課題となっています.NTTコムウェアはフィットネス会社およびNTTグループと共同でICTを用いた「日々の生活に溶け込む」「続けられる」をテーマとした介護予防運動サービスを検討しています.生活空間であるリビングのTVを用い,ご高齢の方でも簡単に利用できるサービスを,福岡県みやま市におけるトライアル事例を交えて紹介します.

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    ストールされており,ビデオカメラとUSBで接続します.講師はTVの前に立ち,TV越しで教室参加者たちの運動の様子を見ながら指導していきます.参加者と講師はお互いに冗談を言い合うなどのコミュニケーションを通常の運動教室と同じように行うことができます.■運動コミュニティどうしの橋渡し従来の運動教室で形成される運動コミュニティはその場に閉じたものであり,交流相手は同じ地域に住む人に限られていました.TV健康教室はTVでお互いの運動の様子を写し,お互いに声をかけ合うことができるため,離れた拠点の仲間との交流による,地域をまたいだ運動コミュニティの形成を支援します.例えば,沖縄に住む方が北海道

    の方と一緒に運動をするといったことも可能となります.

    おうち健康TV

    ■自宅での運動をサポート利用者は自宅のTVに光BOX+*1を接続するだけで,フィットネス会社が産学共同で開発した運動コンテンツを視聴できます(図 2).運動コンテンツは1日ごとに入れ替わり,手指体操 ・ 筋力トレーニング ・ リズム体操など,さまざまなテーマで飽きずに運動することができます.さ

    *1 光BOX+:西日本電信電話株式会社の登録商標です.

    スタジオ

    利用者の自宅

    利用者の自宅

    利用者の自宅

    利用者の自宅

    講師

    運動動画

    利用者

    光BOX+

    TVを見ながら運動

    表示

    動画配信システム

    運動動画のアップロードインターネット

    インターネット

    オンデマンド動画配信オンデマンド動画配信

    図 2  おうち健康TV利用イメージ

    スタジオTV

    双方向ライブ映像配信参加者の映像

    講師 教室参加者

    カメラ カメラ

    撮影スタジオの映像

    TV参加者側拠点

    図 1  TV健康教室利用イメージ

  • NTT技術ジャーナル 2017.360

    らに過去の運動動画をアーカイブ化しており「あたまの運動」「からだの運動」などのカテゴリから自分の好きな運動テーマを選んで運動することも可能です.■みんなの運動ひろば運動コミュニティ形成のために,運動量を得点化する「み

    んなの運動ひろば」を導入しました.おうち健康TVで運動コンテンツを視聴し終えると,自分が住む町に得点が貯まる仕組みです.さらに一定の得点を獲得した町にはメダルが授与されるなど,ゲーミフィケーションを取り入れています.これによりTV健康教室に参加できない人に,同じ町の人と一緒に運動している一体感を提供します.リアルタイムで自分の得点が町の得点に反映される仕組みのため「町の健康に貢献した!」という達成感を味わうことができます.トライアルでは参加者のグループが,TV健康教室の

    終わりに「今週は何点貯めよう!」と和気あいあいと話をするなど,コミュニティの活性化にも一役買いました.■UIの簡略化で運動をより気軽に運動を継続するには,運動を気軽に始められるようにするために,運動までの心理的なハードルを下げることが重要です.おうち健康TVではUIを徹底的に簡略化し,「運動」というイメージをアイコン化したカードをICカードリーダにかざすだけで運動が始められる仕組みを導入しました.従来だとTVの電源を立ち上げ,ボタンを選択して,決定ボタンを押すという3つの動作をリモコンで行う必要がありましたが,一連の動作をカード1枚にまとめることで手順を簡略化しています.

    ウェアラブルで運動量の見える化

    ■健康のスタートは「からだを知る」ことから運動モチベーションの持続のためには,どれだけ運動したか,自分が今どれぐらい健康なのかを知ることが重要です.NTTコムウェアは「光BOX+」とウェアラブル活動量計「ムーヴバンド3」*2(図 ₃)を活用し,TVでバイタルデータを見える化しました.収集されるデータは歩数のほか,移動距離,消費カロリー数,睡眠時間などがあり,利用者はからだの健康状況を総合的に把握することができます.睡眠時間については浅い眠りと深い眠りの時間を計

    *2 ムーヴバンド3:ドコモ・ヘルスケア株式会社の登録商標です.

    図 3  ムーヴバンド 3

    バイタルデータを自動収集

    バイタルデータを自動収集

    クラウド

    ・歩数・移動距離・消費カロリー・睡眠時間

    自動的に送信

    利用者利用者

    ムーヴバンド 3

    光BOX+

    バイタルデータ送信

    バイタルデータ閲覧

    利用者

    図 4  ムーヴバンド 3 利用イメージ

    NTTコムウェアfrom

  • NTT技術ジャーナル 2017.3 61

    ることができ,起床時と睡眠時の両方のバイタルデータを取ることができています.データ閲覧もTV画面で簡単に可能です.トライアルに参加した方のほとんどは65歳以上の高齢者でしたが,使い方に困ることもなくバイタルデータを日々の健康にご活用いただきました.■バイタルデータの自動収集利用者がムーヴバンド3を身に付けて運動するとバイタルデータが収集され,光BOX+を通じてクラウドに送信されます.データ送信は自動的に行われるため,利用者が意識する必要はありません.自分のバイタルデータは,TVでいつでも確認することができます(図 4).

    今後の展開

    今回はTVと光BOX+を通じた運動コンテンツの配信 ・バイタルデータ収集を行いました.今後は光BOX+を家庭内のIoTゲートウェイと位置付け,バイタルデータ以外のさまざまなセンサとも連携していくことを検討中です(図5).家庭のセンサ情報を集約し,その他の情報(防災情報等)と一緒に利用者に提供するなど,活用用途を広げていくことを検討しています.

    ■参考文献(1) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000075280.html(2) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_

    koureisha/chiiki-houkatsu/

    ◆問い合わせ先NTTコムウェア ビジネスインキュベーション部サービスインキュベーション部門TEL 03-5796-3411FAX 03-5796-0103E-mail bi-svi-hikaribox srv.cc.nttcom.co.jp

    各種センサ各種センサ クラウド

    人感センサ 体重・血圧センサ

    血糖値センサ

    今回実施

    データ送信

    データ集約

    データ提示

    分析結果

    今後検討

    など

    ムーヴバンド 3 光BOX+

    図 5  IoTゲートウェイ構想