research report euの鉄鋼市場とロシア・ ウクライナ・ベラ...
TRANSCRIPT
ロシアNIS調査月報2019年5月号 56
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
はじめに1)
日本とロシア・NIS諸国の間では、鉄鋼の直
接的な貿易は盛んとは言えない。日本側の輸出
では、ステンレス鋼や鋼管が一定量輸出されて
いる程度である。日本側の輸入は、圧倒的にフ
ェロアロイに偏重しており、一般的な鋼材の類
はほとんど輸入されていない。
しかし、ロシア、ウクライナでは鉄鋼が基幹
産業の一つとなっており、ベラルーシなどでも
意外にその重要性は高い。同諸国の産業・通商
動向をウォッチする上では、鉄鋼業を視野に入
れることが必須となる。
鉄鋼業は、世界的に保護主義が最も横行する
産業部門である。米トランプ政権が導入した
25%関税がロシア鉄鋼業に及ぼす影響につい
ては、1年前のレポートで論じた2)。今回は、
そのトランプ関税に触発される形で発動され
た欧州連合(EU)による鉄鋼緊急輸入制限の
問題を取り上げ、EU市場を主たる販路の一つ
としているロシア、ウクライナ、ベラルーシの
鉄鋼業への影響につき概観することにする。
3国の業界地図
ロシアの鉄鋼業界は、ソ連解体後の民営化、
M&A、業界再編を経て、いくつかの民間大手
鉄鋼企業グループに整理されている。一般に、
エヴラズ、セヴェルスターリ、ノヴォリペツク
冶金コンビナート、マグニトゴルスク冶金コン
ビナート、メチェル、メタロインヴェスト、工
業冶金ホールディング、鋼管冶金会社、合同冶
金会社、チェリャビンスク管圧延会社の10社が
10大鉄鋼グループと呼ばれ、これら10社でロシ
アの鉄鋼生産の90%以上を占める。ロシアの粗
鋼生産量にはこのところ大きな変化はなく、ほ
ぼ横這いの状態が続いている(図表1)。
ウクライナの鉄鋼業界では、業界再編を経て、
メトインヴェスト社による一強体制が明確に
なった。メトインヴェストは、大富豪として知
られるR.アフメトフ氏の財閥「システム・キャ
ピタル・マネジメント(SCM)」の傘下にある。
しかし、2014年以降のドンバス紛争を背景に、
2016年末から続いているドンバス封鎖により、
ウクライナ本土とドンバス占領地の物流が遮
断され、また占領当局による現地企業の経営権
剥奪、ロシアによるケルチ海峡の通行管理とい
う障害が生じた。かくして、一時回復の兆しを
見せていたウクライナの鉄鋼生産は、2017年以
降、再び低下に転じている(図表1)。
ベラルーシの鉄鋼業では、有力な企業は「ベ
ラルーシ冶金工場」1社にほぼ限られる。鉄鉱
石の産出のないベラルーシだけに、同社は高炉
を備えておらず、電炉による製鋼圧延企業とな
っている。ベラルーシ冶金工場の生産に占める
輸出向けの比率は70~80%と高い。
EUの鉄鋼市場とロシア・
ウクライナ・ベラルーシ
ロシアNIS経済研究所 副所長
服部 倫卓
■ Research Report ■
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
ロシアNIS調査月報2019年5月号 57
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
図表1 ロシア・ウクライナ・ベラルーシの粗鋼生産量
(出所)2017年までは、World Steel Association (2018). 2018年は世界鉄鋼協会プレスリリース。
貿易概況
3国の鉄鋼業は輸出志向型産業である。2017
年の鉄鋼輸出量では、ロシアは世界第4位とな
っている。一方、最盛期の2007年には世界第3
の輸出国だったこともあるウクライナは、その
後の低迷で、2017年現在11位まで順位を落とし
ている。
3国の輸出入の基礎的な構造を比較すると、
まず、鉄鉱石・原料炭資源に恵まれ、一貫製鉄
所を多く擁するロシアとウクライナとでは、共
通点が多い。それに対し、本格的な鉄鋼メーカ
ーとしては、電炉の製鋼圧延企業が1社あるの
みのベラルーシは、かなり構造が異なる。
ロシアは地理的に広大で、バルト海、黒海、
太平洋のいずれへの出口も有するので、アジア
太平洋向け、北米向けを含め、鉄鋼輸出の販路
が地理的に多様である(図表2)。一方、ウク
ライナの鋼材輸出は、確かにEU向けの比率が
増えてきてはいるものの(図表4)、むしろウ
クライナが自国の黒海港湾から輸出しやすい
仕向け地が主流という特徴がある。ベラルーシ
は、内陸国で外洋への出口を持たないがゆえに、
EUおよびロシアという地続きの市場に依存し
ている度合いが強いが、最近ではそれ以外の市
場への供給も拡大してきた(図表6)。
品目の観点から、ロシアとウクライナに共通
する際立った特徴は、付加価値の低い半製品
(スラブ、ビレット、ブルーム)の輸出比率が
高いことである(図表3、5)。日本の鉄鋼メ
ーカーであれば海外進出した日系機械メーカ
ー向けに鋼板を長期契約で供給するというパ
ターンがあるが、ロシア・ウクライナの鉄鋼メ
ーカーはそうした機械産業の国際的なサプラ
イチェーンに組み込まれている度合いが弱く、
いきおい半製品輸出に依存することになる。ま
た、ロシア・ウクライナの鉄鋼メーカーは、一
部は手放したものの、引き続き欧米に下工程の
単圧子会社を有しているところもあり、そうし
た自社工場向けの半製品供給もある。ウクライ
ナ産半製品の輸出先はEU、その他世界が主流
であり、ロシアの場合にはそれに北米、アジア
太平洋が加わる。輸出先の圧延工場で、母材と
して使用されることになる。一方、ロシアおよ
びウクライナの完成鋼材の輸出では、CIS域内
市場の重要性が高いが、ウクライナは5年前の
政変以降、その市場を失いつつある。
データは省略するが、鉄鋼輸出大国のロシア
とウクライナは、一定規模の輸入も行っている。
特に、鋼板の中でも高級品に位置付けられる亜
鉛めっき鋼板等の被覆鋼板では、両国とも大幅
な入超を余儀なくされている。また、やはり付
加価値の高いステンレス鋼は、ウクライナは輸
出入が拮抗しているのに対し、ロシアは大幅な
入超となっている。総じて言えば、ロシアとウ
クライナは、付加価値の低い製品を大量輸出す
るかたわら、付加価値の高い製品はEUやアジ
アからの輸入に依存する傾向があると言える。
ベラルーシは、鉄鋼輸出が出超なのは半製品と
条鋼だけで、鋼板・鋼管などは入超になってお
り、ロシアからの輸入が圧倒的に多い。
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
ロシア 68,510 60,011 66,942 68,852 70,209 69,008 71,461 70,898 70,453 71,491 71,700
ウクライナ 37,279 29,855 33,432 35,332 32,975 32,771 27,170 22,968 24,218 21,334 21,100
ベラルーシ 2,589 2,417 2,530 2,614 2,687 2,245 2,513 2,510 2,188 2,343 …
(単位 1,000t)
ロシアNIS調査月報2019年5月号 58
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
図表2 ロシアの鉄鋼輸出の相手地域別内訳
(出所)国際貿易センター(ITC)のデータベースをもとに筆者作成。図表8まで同じ。
図表3 ロシアの鉄鋼輸出の品目別内訳
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
全世界 29,034 27,030 27,846 29,507 30,907 30,901 33,011
CIS 5,411 6,153 5,524 5,218 4,744 5,203 5,762
EU 10,810 8,811 6,284 7,456 7,972 7,070 8,466
NAFTA 1,586 1,851 3,862 2,928 3,010 3,568 4,009
APEC(NAFTA除く) 4,373 3,761 3,669 3,354 4,199 4,500 5,311
その他世界 6,854 6,454 8,507 10,551 10,983 10,560 9,464
全世界 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
CIS 18.6 22.8 19.8 17.7 15.3 16.8 17.5
EU 37.2 32.6 22.6 25.3 25.8 22.9 25.6
NAFTA 5.5 6.8 13.9 9.9 9.7 11.5 12.1
APEC(NAFTA除く) 15.1 13.9 13.2 11.4 13.6 14.6 16.1
その他世界 23.6 23.9 30.6 35.8 35.5 34.2 28.7
数量(1,000t)
構成比(%)
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
総計 29,034 27,030 27,846 29,507 30,907 30,901 33,011
半製品 15,361 13,837 14,154 15,308 15,792 15,141 16,743
鋼板 8,559 8,102 8,334 9,050 9,682 9,369 9,206
条鋼 3,586 3,522 3,739 3,913 4,123 4,235 4,585
鋼管 1,516 1,544 1,602 1,226 1,300 2,143 2,460
ステンレス鋼 11 26 15 10 10 14 16
総計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
半製品 52.9 51.2 50.8 51.9 51.1 49.0 50.7
鋼板 29.5 30.0 29.9 30.7 31.3 30.3 27.9
条鋼 12.4 13.0 13.4 13.3 13.3 13.7 13.9
鋼管 5.2 5.7 5.8 4.2 4.2 6.9 7.5
ステンレス鋼 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0
数量(1,000t)
構成比(%)
ロシアNIS調査月報2019年5月号 59
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
図表4 ウクライナの鉄鋼輸出の相手地域別内訳
図表5 ウクライナの鉄鋼輸出の品目別内訳
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
全世界 24,065 24,582 21,381 17,672 18,112 15,114 14,980
ロシア 3,655 3,531 2,379 1,636 1,576 1,335 1,020
その他CIS 1,835 1,859 1,319 746 570 508 447
EU 5,060 6,379 6,064 5,448 6,224 5,085 5,432
NAFTA 401 161 350 161 294 359 212
APEC(ロシアとNAFTA除く) 1,515 1,382 654 45 133 369 516
その他世界 11,599 11,269 10,615 9,637 9,316 7,459 7,353
全世界 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
ロシア 15.2 14.4 11.1 9.3 8.7 8.8 6.8
その他CIS 7.6 7.6 6.2 4.2 3.1 3.4 3.0
EU 21.0 26.0 28.4 30.8 34.4 33.6 36.3
NAFTA 1.7 0.7 1.6 0.9 1.6 2.4 1.4
APEC(ロシアとNAFTA除く) 6.3 5.6 3.1 0.3 0.7 2.4 3.4
その他世界 48.2 45.8 49.6 54.5 51.4 49.3 49.1
数量(1,000t)
構成比(%)
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
総計 24,065 24,582 21,381 17,672 18,112 15,114 14,980
半製品 10,092 10,948 9,290 7,867 7,833 6,372 6,402
鋼板 6,579 6,749 6,275 4,965 5,298 4,969 5,154
条鋼 5,811 5,680 4,822 4,217 4,442 3,108 2,730
鋼管 1,543 1,172 959 594 506 630 657
ステンレス鋼 41 33 36 30 33 35 36
総計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
半製品 41.9 44.5 43.4 44.5 43.2 42.2 42.7
鋼板 27.3 27.5 29.3 28.1 29.3 32.9 34.4
条鋼 24.1 23.1 22.6 23.9 24.5 20.6 18.2
鋼管 6.4 4.8 4.5 3.4 2.8 4.2 4.4
ステンレス鋼 0.2 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2
数量(1,000t)
構成比(%)
ロシアNIS調査月報2019年5月号 60
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
図表6 ベラルーシの鉄鋼輸出の相手地域別内訳
図表7 ベラルーシの鉄鋼輸出の品目別内訳
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
全世界 1,913 1,605 1,834 1,912 1,623 1,688 1,840
ロシア 702 729 588 338 297 363 306
その他CIS 53 11 53 14 16 74 167
EU 585 469 580 1,016 827 657 680
NAFTA 33 49 65 47 197 46 67
APEC(ロシアとNAFTA除く) 71 1 2 0 0 0 0
その他世界 468 346 546 499 286 547 620
全世界 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
ロシア 36.7 45.4 32.1 17.6 18.3 21.5 16.6
その他CIS 2.8 0.7 2.9 0.7 1.0 4.4 9.1
EU 30.6 29.2 31.6 53.1 51.0 38.9 37.0
NAFTA 1.7 3.1 3.5 2.5 12.1 2.7 3.6
APEC(ロシアとNAFTA除く) 3.7 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0
その他世界 24.5 21.6 29.8 26.1 17.6 32.4 33.7
数量(1,000t)
構成比(%)
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
総計 1,913 1,605 1,834 1,912 1,623 1,688 1,840
半製品 710 385 585 523 112 244 262
鋼板 9 27 21 12 15 18 15
条鋼 972 965 1,008 1,182 1,305 1,208 1,321
鋼管 222 227 219 195 189 217 242
ステンレス鋼 0 0 0 0 1 1 1
総計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
半製品 37.1 24.0 31.9 27.3 6.9 14.5 14.2
鋼板 0.5 1.7 1.1 0.6 0.9 1.1 0.8
条鋼 50.8 60.2 55.0 61.8 80.4 71.6 71.8
鋼管 11.6 14.1 11.9 10.2 11.7 12.8 13.1
ステンレス鋼 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0
数量(1,000t)
構成比(%)
ロシアNIS調査月報2019年5月号 61
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
図表8 EUの鉄鋼(第72類)輸入の主な相手地域・国
EUの鉄鋼輸入
次に、EU側の輸入という観点から、データ
を吟味してみることにしよう。図表8は、EU
諸国の鉄鋼輸入の相手地域・国を整理したもの
である。なお、図表8は金額ベースの数字なの
で、価格変動による増減が小さくなく、その点
で数量ベースの図表2~7とは異なる。また、
図表8は「第72類:鉄鋼」だけを対象としてお
り、その点でも鋼管など一部「第73類:鉄鋼製
品」も含んでいる図表2~7とは異なる。図表
8は、あくまでもEUの鉄鋼輸入の概況を見る
ための便宜的なものとご理解いただきたい。
さて、EUは域内貿易比率が非常に高い地域
経済圏であり、鉄鋼に関しても輸入はEU域内
からが多く、その比率は常に7割を超えている。
しかし、鉄鋼の域内輸入比率は、2009年の
78.3%から、2018年の72.6%へと傾向的に低下
しており、そうした現実が後述のような保護主
義に繋がっている。
図表8によれば、ロシアは単独の国としては、
EUの最大の域外鉄鋼輸入相手国であり、EU側
の保護主義にもかかわらず、2018年にも輸出増
に成功している。ウクライナもそれに次ぐ規模
のEU向け輸出実績を誇るが、ドンバス・アゾ
フ海情勢というウクライナ側の事情により、直
近の伸びは限定的だ。比較的安定した対EU輸
出を続けているベラルーシに加え、モルドバも
EU向け鉄鋼輸出を拡大していることが注目さ
れ、これは分離主義地域の沿ドニエストル共和
国に所在するモルドバ冶金工場の製品と考え
られる。
EU側の保護主義に反して、ロシアと同様に、
ここに来てEU向け輸出を急拡大させているの
が、トルコである。
2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
全世界 105,976 145,203 186,980 152,123 145,816 149,407 121,880 113,886 144,332 173,768
EU域内 82,966 110,843 139,704 116,556 111,874 112,692 90,760 85,623 107,159 126,119
CIS 7,333 11,993 15,181 11,770 11,441 11,087 8,818 7,944 9,432 12,285
ロシア 4,208 6,440 7,727 6,552 5,988 5,854 4,976 4,324 5,076 7,145
ウクライナ 2,377 4,606 6,416 4,026 4,371 4,112 2,882 2,873 3,532 4,137
ベラルーシ 311 402 534 369 395 474 471 383 428 528
モルドバ 52 31 39 63 60 168 115 73 133 213
カザフスタン 308 391 329 681 526 380 299 234 191 176
APEC(ロシアを除く) 6,324 9,029 13,454 9,259 9,185 11,079 10,290 9,229 11,323 14,037
中国 1,705 3,409 5,725 3,703 3,800 5,310 5,387 4,217 3,936 4,205
韓国 1,466 1,602 2,288 1,792 1,866 1,991 2,007 2,244 2,940 3,987
台湾 508 729 1,184 748 934 1,204 546 754 1,327 2,030
ベトナム 28 39 89 81 104 113 145 90 322 615
日本 682 723 680 662 499 609 536 564 512 549
その他 9,354 13,338 18,642 14,539 13,316 14,549 12,013 11,090 16,418 21,327
トルコ 1,160 1,228 2,290 1,187 1,694 1,648 1,306 1,456 2,720 4,852
インド 1,031 1,314 2,262 1,631 1,945 2,153 1,651 1,742 3,548 3,313
ブラジル 907 999 2,812 1,969 1,059 1,570 1,790 1,903 2,307 2,700
米国 996 1,414 1,844 1,510 1,295 1,214 1,037 827 1,354 1,270
(単位 100万ドル)
ロシアNIS調査月報2019年5月号 62
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
図表9 EUがロシア・ウクライナ・ベラルーシに適用している鉄鋼関連のアンチダンピング関税
(2019年4月現在)
対象国 品目とHSコード 適用措置
フェロシリコンFerro-silicon7202210000, 7202291000, 7202299000
17.8~22.7%のAD関税
2019年4月11日までだが、
継続の是非につき調査中
熱間圧延フラットロール製品Hot-rolled flat products of iron, non-alloy or other alloy steel7208100000, 7208250000, 7208260000, 7208270000, 7208360000, 7208370000,7208380000, 7208390000, 7208400000, 7208521000, 7208529900, 7208531000,7208539000, 7208540000, 7211130000, 7211140000, 7211190000, 7225191090,7225309000, 7225406090, 7225409000, 7226191090, 7226919100, 7226919900
5.3~33.0%のAD関税
2022年10月6日まで
冷間圧延フラットロール製品Cold-rolled flat steel products7209150090, 7209169000, 7209179000, 7209189100, 7209189990, 7209250090,7209269000, 7209279000, 7209289000, 7211233000, 7211238019, 7211238095,7211238099, 7211290099, 7225508000, 7226920000
18.7~36.1%のAD関税
2021年8月4日まで
方向性電磁鋼板Grain-oriented flatrolled products of silicon-electrical steel7225110010, 7226110011, 7226110091
21.6%のAD関税
2020年10月31日まで
継目無鋼管Seamless pipes and tubes of iron or steel7304110011, 7304191020, 7304193020, 7304220021, 7304230020, 7304240021,7304291020, 7304293020, 7304318030, 7304395830, 7304399230, 7304399320,7304518930, 7304599230, 7304599320
24.1~27.2%のAD関税
2023年10月2日まで
溶接管Welded tubes and pipes, of iron or non-alloy steel7306304120, 7306304920, 7306307280, 7306307780
10.1~20.5%のAD関税
2020年1月28日まで
鉄鋼製の管用継手Tube and pipe fittings, of iron or steel7307931191, 7307931193, 7307931194, 7307931195, 7307931199, 7307931991,7307931993, 7307931994, 7307931995, 7307931999, 7307998092, 7307998093,7307998094, 7307998095, 7307998098
23.8%のAD関税
2018年1月30日までだが、
継続の是非につき調査中
鉄鋼製のその他の管及び中空の形材Hollow sections (welded tubes, pipes and hollow profiles ...)7306619200, 7306619900
調査中
熱間圧延フラットロール製品Hot-rolled flat products of iron, non-alloy or other alloy steel7208100000, 7208250000, 7208260000, 7208270000, 7208360000, 7208370000,7208380000, 7208390000, 7208400000, 7208521000, 7208529900, 7208531000,7208539000, 7208540000, 7211130000, 7211140000, 7211190000, 7225191090,7225309000, 7225406090, 7225409000, 7226191090, 7226919100, 7226919900
19.4%のAD関税
2022年10月6日まで
継目無鋼管Seamless pipes and tubes of iron or steel7304110011, 7304191020, 7304193020, 7304220021, 7304230020, 7304240021,7304291020, 7304293020, 7304318030, 7304395830, 7304399230, 7304399320,7304518930, 7304599230, 7304599320
12.3~35.8%のAD関税
2023年10月2日まで
鉄筋用の棒Rebars (certain concrete reinforcement bars and rods)7214100010, 7214200020, 7214300010, 7214911010, 7214919010, 7214991010,7214999510
12.5%のAD関税
2022年6月17日まで
溶接管Welded tubes and pipes, of iron or non-alloy steel7306304120, 7306304920, 7306307280, 7306307780
10.1~20.5%のAD関税
2020年1月28日まで
ウ
ク
ラ
イ
ナ
ベ
ラ
ルー
シ
(出所)欧州委員会のサイト(http://trade.ec.europa.eu/tdi/completed.cfm)にもとづき筆者作成。
ロ
シ
ア
ロシアNIS調査月報2019年5月号 63
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
鉄鋼をめぐるEUとCIS諸国の関係
2008年5月にウクライナが、2012年8月にロ
シアが世界貿易機関(WTO)に加盟したことに
伴い、それまで存在したEUと両国の鉄鋼協定
は破棄され、EUは両国産の鉄鋼に課していた
輸入数量制限を撤廃した。それに代わって、ロ
シア・ウクライナ産鉄鋼からEU市場を保護す
る役割を担うようになったのが、アンチダンピ
ング(AD)関税であった。現時点でEUがロシ
ア・ウクライナ・ベラルーシ産の鉄鋼・鉄鋼製
品に適用している、または調査中のAD関税の
すべての事例をまとめたのが、図表9である。
なお、EUによる冷間圧延フラットロール製品
に対するAD関税導入を不服として、2017年1
月にロシアはWTOに提訴している。
注目されるのは、2014年にウクライナがEU
と連合協定を結んだことによって、どのような
変化がもたらされるかである。結論から言えば、
連合協定が結ばれ、両者間で「深化した包括的
な自由貿易圏(DCFTA)」が成立したからと言
って、ウクライナ産品がEUのAD関税の適用を
免れるわけではない。協定では、双方は相手側
に対するAD措置の適用に際して国際的な合意
を遵守し透明性を確保すること、事前に協議を
尽くすことなどを取り決めているものの、連合
協定のパートナーだからといって制度的に何
らかの優遇を受けられるわけではない。
ただし、ウクライナ危機後のEUのAD関税の
運用姿勢を見ると、明らかに連合協定パートナ
ーであるウクライナを裁量的に優遇している
様子がうかがえる。たとえば、図表9に見るよ
うに、ロシアとベラルーシの溶接管を対象とし
たEUのAD関税がある。実は、2008年にこれが
導入された時には、ウクライナもその対象に入
っていた。ところが、EUは2015年1月に、ロシ
ア・ベラルーシおよび中国に対してはその措置
を継続する一方、ウクライナのみ同措置から外
す決定を下した。欧州委員会では、ロシアと異
なりウクライナはダンピング輸出できるよう
な遊休設備が限られているので、もはやダンピ
ングの恐れはなく、したがってこれはロシア差
別・ウクライナ優遇ではない、(ウクライナの
代表的なメーカーである)インテルパイプ社が
仮に60%輸出を増やしてもEUでのシェアは
0.5%程度にすぎない、などと決定理由を説明
しているが3)、それならばそもそも2008年の
AD関税適用自体が根拠薄弱だったことになっ
てしまうだろう。もう一つ、EUが2017年2月、
ウクライナのスタリカナト・シルル社製のワイ
ヤーロープに課していたAD関税を撤廃した事
例も挙げることができる。
ウクライナが負ったEU基準化という義務
欧州委員会およびEUの鉄鋼業界は、EU圏の
鉄鋼業が新興国との競争で劣勢に立たされて
いることに危機感を抱き、2013年に鉄鋼業に関
する行動計画を採択している4)。その中で、た
とえば鉄鋼業によるCO2の排出に関する基準
がEUでは厳格であるのに対しEU域外では緩
いのは公正でないとして、EU基準を域外にも
普及させていくべきとの立場が示されている。
また、EU鉄鋼業が鉄鉱石をはじめとする原料の
不足に直面していることが、問題視されている。
EUのこうした利害は、当然のことながら、
2014年に結ばれたウクライナとの連合協定に
も反映されており、今後ウクライナ鉄鋼業に構
造的な変化を迫る可能性を秘めている。特に、
環境問題を扱った協定第6章の付属文書によ
り、ウクライナは2~10年以内に、鉄鋼業にも
関係する多くのEU規則・指令を自国の法体系
に導入する義務を負うことになっている。
新たなルールの下で、ウクライナの鉄鋼メー
カーがEUスタンダードの品質・省エネ・環境
基準に適応することは、長期的に見れば自らの
利益に繋がるだろう。しかし、問題はそうした
コストを背負い込んだ場合にウクライナ鉄鋼
ロシアNIS調査月報2019年5月号 64
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
業が存続できるかである。その適応に失敗すれ
ば、ある意味でEUの思惑通りに、ウクライナ
はEUの鉄鉱石供給基地という役割に甘んじる
ことになるかもしれない。
EUの鉄鋼セーフガード
問題の発端は、件の米国による鉄鋼・アルミ
ニウム関税の導入であった。トランプ米大統領
が2018年3月8日に署名した行政命令により、
鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を
課すことが決まり、同23日に発動されたもので
ある。米国は当初、EUおよびカナダ・メキシコ
からの輸入には追加関税の適用を見合わせて
いたが、同年6月1日からはその対象に加えら
れた。
そこでEUは、2018年7月17日付のEU規則に
より、一連の鉄鋼を対象とした暫定的な緊急輸
入制限セーフガードの導入を決定し、同19日か
らこれを実施した。そして、その後も継続的に
調査を実施し、その結果を踏まえて、2019年1
月31日付のEU規則5)により、今度はセーフガ
ードの導入を正式に決定し、2月2日から施行
したというわけである。当該措置の期間は3年
間であり、暫定措置の期間から起算され、2021
年6月30日まで続くことになっている。
EUの説明によれば、米国が一方的に25%と
いう高関税を導入した結果、そこから締め出さ
れた鉄鋼がEU市場に流入しているので、それ
によるEU域内の生産者への打撃を軽減するこ
とが、セーフガードの目的であるとされている。
実際、2018年5~9月に、今回EUが調査対象
とした品目の輸入は、米国では前年同期比260
万t減少したのに対し、EUでは逆に200万t増
加しており、因果関係は明らかであると、EU
は主張している。
関税割当
今回EUが打ち出した鉄鋼セーフガードは、
具体的には「関税割当」というスキームである。
これは、一定量までは通常の関税率(EUの関
税率は、鉄鋼では概ね0%、鉄鋼製品では0~
3%程度)で輸入できるが、その上限を超えた
輸入分に関しては25%の高関税が上乗せされ
るという仕組みである。
その際にEUは、各品目ごとに通常の関税率
で輸入できる数量の上限を、2015~2017年の平
均輸入量にもとづいて決定し、それを1年ごと
に5%ずつ拡大していく方式をとった。それに
より、EUの鉄鋼生産者と、鉄鋼需要家の双方
の利益に配慮したと説明している。米国が最初
の輸入から無条件に25%の関税を課すのに対
し、EUは伝統的な鉄鋼貿易のフローは尊重し、
あくまでもそれを超えるような輸入の急増か
ら市場を守ることが目的であるとされている。
EUが2018年7月に鉄鋼セーフガードを暫定
的に発動した時点では、単純にEU域外からの
輸入割当の総量が設定されていただけだった。
それに対し、2019年2月に正式に発動されたセ
ーフガードでは、輸入相手国別の割当量も設定
されている。その際に、国別の割当量が設定さ
れるのは、EUの当該品目の輸入に占める過去
3年間のシェアが5%を超えている主要相手
国だけであり、またアンチダンピング関税また
は相殺関税により近年輸入量が急減している
相手国は除外している。
図表10は、各品目ごとにEUが設定した第三
国向け割当総量を整理し、CIS各国のシェアが
5%以上につき個別割当が設定されている場
合にはそれも付記したものである。今回の措置
で当初対象となったのは28品目だったので、28
番までの商品番号が付されているものの、その
後2品目の輸入量が低下し対象から外された
ため、表に掲載されているのは26品目となって
いる。なお、商品番号1番の熱間圧延フラット
ロール製品だけは国別の割当はなく、従来どお
り輸入割当の総量のみが設定されている。
ロシアNIS調査月報2019年5月号 65
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
図表10 EUが導入した鉄鋼関税割当とCIS諸国向け割当(単位 t)
商品
番号商 品 名 区 分
2019.2.2-2019.6.60
2019.7.1-2020.6.30
2020.7.1-2021.6.30
1Non Alloy and Other Alloy Hot RolledSheets and Strips
第三国向け割当合計
(国別割当なし)3,359,532 8,641,213 9,073,273
第三国向け割当合計 1,033,371 2,657,983 2,790,882
ウクライナ 102,326 263,197 276,357
第三国向け割当合計 3,800 9,775 10,264
ロシア 520 1,337 1,404
第三国向け割当合計 133,534 343,469 360,643
ロシア 51,426 132,276 138,8904.A 第三国向け割当合計 914,150 2,351,330 2,468,8964.B 第三国向け割当合計 747,925 1,923,775 2,019,9635 Organic Coated Sheets 第三国向け割当合計 324,653 835,054 876,8076 Tin Mill products 第三国向け割当合計 286,635 737,268 774,131
第三国向け割当合計 1,136,967 2,924,446 3,070,668
ウクライナ 339,678 873,703 917,388
ロシア 115,485 297,045 311,8978 Stainless Hot Rolled Sheets and Strips 第三国向け割当合計 140,249 360,741 378,7799 Stainless Cold Rolled Sheets and Strips 第三国向け割当合計 331,411 852,439 895,061
10 Stainless Hot Rolled Quarto Plates 第三国向け割当合計 12,185 31,342 32,909
第三国向け割当合計 583,352 1,500,466 1,575,490
ロシア 94,792 243,820 256,011
ベラルーシ 57,908 148,947 156,395
第三国向け割当合計 559,267 1,438,517 1,510,443
ロシア 94,084 241,998 254,098
ウクライナ 62,535 160,848 168,891
モルドバ 28,285 72,752 76,390
第三国向け割当合計 65,202 167,710 176,096
ウクライナ 5,734 14,747 15,48515 Stainless Wire Rod 第三国向け割当合計 25,607 65,864 69,157
第三国向け割当合計 827,700 2,128,967 2,235,416
ウクライナ 149,009 383,273 402,437
ロシア 122,884 316,075 331,879
ベラルーシ 97,436 250,621 263,152
モルドバ 73,032 187,848 197,241
第三国向け割当合計 131,157 337,355 354,223
ウクライナ 42,915 110,384 115,903
ロシア 9,424 24,240 25,45218 Sheet Piling 第三国向け割当合計 19,329 49,716 52,202
第三国向け割当合計 7,705 19,819 20,810
ロシア 2,147 5,523 5,799
ウクライナ 658 1,691 1,77620 Gas pipes 第三国向け割当合計 152,898 393,277 412,941
第三国向け割当合計 320,541 816,863 857,707
ロシア 35,406 91,070 95,624
ウクライナ 25,241 64,923 68,169
ベラルーシ 20,899 53,755 56,443
第三国向け割当合計 22,312 57,390 60,259
ウクライナ 5,225 13,439 14,111
第三国向け割当合計 187,140 481,352 505,420
ウクライナ 36,780 94,603 99,333
ベラルーシ 19,655 50,556 53,084
第三国向け割当合計 206,371 530,817 557,358
ロシア 140,602 361,650 379,73226 Other Welded Pipes 第三国向け割当合計 224,810 578,244 607,156
第三国向け割当合計 198,475 510,508 536,033
ロシア 117,519 302,277 317,391
ウクライナ 15,969 41,075 43,128
第三国向け割当合計 303,451 780,522 819,548
ベラルーシ 88,295 227,107 238,462
ロシア 41,609 107,025 112,376
ウクライナ 26,755 68,818 72,259
(出所)EU (2019) にもとづき筆者作成。
28 Non Alloy Wire
25 Large welded tubes
27Non-alloy and other alloy cold finishedbars
21 Hollow sections
22 Seamless Stainless Tubes and Pipes
24 Other Seamless Tubes
19 Railway Material
16 Non Alloy and Other Alloy Wire Rod
17Angles, Shapes and Sections of Iron orNon Alloy Steel
12Non Alloy and Other Alloy Merchant Barsand Light Sections
13 Rebars
14 Stainless Bars and Light Sections
7 Non Alloy and Other Alloy Quarto Plates
2Non Alloy and Other Alloy Cold RolledSheets
3.AElectrical Sheets (other than GOES)
3.B
Metallic Coated Sheets
ロシアNIS調査月報2019年5月号 66
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
ロシア・ウクライナへの影響は?
今回のEUの鉄鋼セーフガードで、重要なポ
イントは、鉄鋼半製品が対象になっていないこ
とである。ロシアにしても、ウクライナにして
も、EU向け鉄鋼輸出の約半分は半製品であり、
その取引は関税割当の影響を受けない。これは、
完成鋼材のみならず半製品にも25%関税を適
用し自国経済の首を締めている米トランプ政
権の支離滅裂な方針6)との、大きな違いである。
また、商品番号1番の熱間圧延フラットロー
ル製品は、近年EUがAD関税で輸入を厳しく制
限してきた品目であり、2018年7月以降の暫定
セーフガードの下でも割当量は3分の2程度
しか消化されなかった。したがって、枠には余
裕があり、ロシアおよびウクライナによるこの
品目の対EU輸出が、今回の関税割当によって
新たに抑制されるということはなさそうだ。
EUの国別関税割当の対象になることには、
マイナスとプラスの両面がある。通常関税での
輸入が、割当の上限によって制限されてしまい、
それ以上の輸入には高関税がかかることは、当
然マイナスである。その反面、2015~2017年の
輸入実績にもとづいて通常関税での輸入の上
限が設定されているということは、他の供給国
との競争を回避でき、既存の取引量を維持しや
すくなる効果ももたらす。
ロシアの鉄鋼メーカーの中で、マグニトゴル
スク冶金コンビナートは、これまでのEUの保
護措置で、EU市場への輸出の採算がとれなく
なり、すでにロシア国内市場および中近東市場
にシフトしている。ノヴォリペツク冶金コンビ
ナートは、デンマークとベルギーに単圧子会社
を有しており、EUによる完成鋼材の輸入制限
がかえって有利に働く可能性がある。一方、EU
の条鋼の関税割当は鋼板のそれよりも早く消
化されてしまうので、条鋼を主体としたエヴラ
ズ、メチェルなどはEUセーフガードの影響を
より強く受けるかもしれない7)。
ウクライナの完成鋼材輸出に関して言えば、
今回のセーフガードは総じて肯定的か、あるい
は中立的な効果を発揮するとの指摘がある。た
とえば、商品番号16の「鉄または非合金鋼の棒」
はエナキエヴェ冶金工場の操業停止により、商
品番号7番の「鉄または非合金鋼の厚板」はア
ルチェフスク冶金コンビナートの操業停止に
より、それぞれ割当に大きな余裕があるという。
逆に、商品番号2番の「冷間圧延フラットロー
ル製品」については、メトインヴェスト傘下の
ザポリジスターリおよびイリチ記念コンビナ
ートが2017~2018年の輸出を拡大したので、割
当がタイトになっている8)。
ウクライナの経済発展・商業省は、「我が省
は12の品目でウクライナがEUの保護措置の対
象から除外されることを達成した」と自賛して
いる9)。しかし、筆者の理解によれば、EUはシ
ェア5%以上の国を自動的に国別割当の対象
にしているだけであり、しかも国別割当の対象
国でなくても関税割当が適用されることに変
わりはない(単に、「その他の国々」の割当量
を諸外国と分け合うだけである)。あたかも同
省の交渉が実りウクライナが優遇されたかの
ような発表は、誤解を招くものだ。
ちなみに、EUと「欧州経済領域」を形成して
いる「欧州自由貿易連合(EFTA)」加盟国(具
体的にはノルウェー、アイスランド、リヒテン
シュタイン)については、「高度な市場統合が
実現している」として、EUは今回の鉄鋼関税
割当の対象外とする(つまり上限なしでEU市
場に鉄鋼を無関税で輸出できる)という決定を
下している。EUの鉄鋼セーフガードが、ウク
ライナ鉄鋼業にとって大打撃になるわけでは
ないにしても、やはりウクライナはEU経済の
インサイダーというよりはアウトサイダーで
あるという現実が、浮き彫りになったと言える。
ロシアNIS調査月報2019年5月号 67
■ Research Report EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
【引用文献一覧】
EU (2019) ‘Commission Implementing Regulation (EU)
2019/159 of 31 January 2019: imposing definitive
safeguard measures against imports of certain steel
products.’
[https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_impl/2019/159/oj]
World Steel Association (2018) Steel Statistical Yearbook
2018.
Лырчикова, Анастасия и Полина Иванова (2019)
‘Новые квоты ЕС на сталь почти не нарушат
поставок российских сталеваров.’
[https://ru.reuters.com/article/businessNews/idRU
KCN1Q01PO-ORUBS]
Тарасенко, Андрей (2019) ‘Что значат новые
европейские квоты для украинских
металлургов.’
[https://blog.liga.net/user/antarasenko/article/320
91]
服部倫卓(2017)「ロシア・ウクライナ・ベラルーシ
の通商・産業比較 ―地政学危機の中の経済利
害―」(北海道大学博士学位論文)。
服部倫卓(2018)「ロシア鉄鋼業とトランプ関税」『ロ
シアNIS調査月報』第63巻第5号、47-53頁。
丸川知雄・服部倫卓(2019)「中国・ロシアの鉄鋼業
―競争力の源泉は何か?―」『比較経済研究』第
56巻第1号、31-47頁。
【注】
1)本稿の主要部分は、服部 (2017) の第8章を抜
粋しアップデートしたものである。
2)服部 (2018). 米トランプ政権の関税導入とロシ
アへの影響に関しては、丸川・服部 (2019) も
参照。
3)http://eur-lex.europa.eu/legal-
content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32015R0110&
from=en
4)http://eur-lex.europa.eu/legal-
content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52013DC0407
&from=EN
5)EU (2019).
6)服部 (2018) 参照。
7)以上のロシア各メーカーへの影響の分析は、
Лырчикова и Иванова (2019).
8)以上のウクライナ鉄鋼業への影響の分析は、
Тарасенко (2019).
9)http://www.me.gov.ua/News/Detail?lang=uk-
UA&id=d1f90233-566b-4388-b17c-
4771aa4d4c48&title=OstatochniZakhisniZakhodis
NaStalevuProduktsiiu-
UkrainaProdovzhuvatimePostavliatiMetaloprodukt
siiu