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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)35No.1489 毎月5日・15日・25日発行(ただし1月5日、5月5日、8月15日は休刊) ISSN 18814417 ロシアNIS経済速報 ROTOBO Connecting Markets 社団法人 ロシアNIS貿易会 2010年(平成22年)3月5日号 No.1489 ロシア極東における中ロ経済関係の新動向 ................... V.クチェリャヴェンコ トピックス ............................................................................................................................. 11 日本郵船グループがカザフに事務所11 キーパーソン ...................................................................................................................... 12 ヤヌコヴィチ・ウクライナ新大統領就任12 ロシア極東における中ロ経済関係の新動向 ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 V.クチェリャヴェンコ はじめに 当会『ロシアNIS調査月報』2007年4月号では、「ロシアと中国」と題する特集を組み、 その一環として、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のクチェリャヴェンコ研究員 に「ロシア極東と中国の通商・経済関係」と題する論考を執筆していただいた。今回クチ ェリャヴェンコ氏より、ロシア極東における中ロ関係のその後の動向に関する論考を寄稿 していただいた 。以下で、その邦訳を紹介する。 (編集部) 危機下でますます高まる中ロ協力の意義 現在、極東地域における中ロ経済関係の発展には、一連の重要なファクターが多方面に わたる影響を及ぼしている(近い将来においてもその影響は続くであろう)。 そうしたファクターとしては、①中国の「東北振興策」の実施、②貿易の規制を目的と したロシア中央及び地方当局の施策、③大ウスリー島の一部及びその隣接地域の中国によ る開発の開始、④「20092018年のロシア極東・東シベリアと中国東北部の間の協力プロ グラム」の国家レベルでの承認、⑤それに2008年に始まった世界経済危機などがあげられ る。 中国との戦略的パートナーシップのさらなる発展と深化、また北東アジア、またその周 辺地域における重要問題の解決に際しての共同行動に向けたロシア側の関心は、近年、顕 В.Е.Кучерявенко. Современные тенденции экономического взаимодействия России и КНР на Дальнем Востоке 1

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

毎月5日・15日・25日発行(ただし1月5日、5月5日、8月15日は休刊) ISSN 1881-4417

ロシアNIS経済速報

ROTOBOConnecting Markets

社団法人 ロシアNIS貿易会 2010年(平成22年)3月5日号 No.1489

目 次

ロシア極東における中ロ経済関係の新動向 ...................V.クチェリャヴェンコ 1 トピックス ............................................................................................................................. 11 日本郵船グループがカザフに事務所/11 キーパーソン ...................................................................................................................... 12 ヤヌコヴィチ・ウクライナ新大統領就任/12

ロシア極東における中ロ経済関係の新動向

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所

V.クチェリャヴェンコ

はじめに

当会『ロシアNIS調査月報』2007年4月号では、「ロシアと中国」と題する特集を組み、

その一環として、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のクチェリャヴェンコ研究員

に「ロシア極東と中国の通商・経済関係」と題する論考を執筆していただいた。今回クチ

ェリャヴェンコ氏より、ロシア極東における中ロ関係のその後の動向に関する論考を寄稿

していただいた※。以下で、その邦訳を紹介する。 (編集部)

危機下でますます高まる中ロ協力の意義

現在、極東地域における中ロ経済関係の発展には、一連の重要なファクターが多方面に

わたる影響を及ぼしている(近い将来においてもその影響は続くであろう)。

そうしたファクターとしては、①中国の「東北振興策」の実施、②貿易の規制を目的と

したロシア中央及び地方当局の施策、③大ウスリー島の一部及びその隣接地域の中国によ

る開発の開始、④「2009~2018年のロシア極東・東シベリアと中国東北部の間の協力プロ

グラム」の国家レベルでの承認、⑤それに2008年に始まった世界経済危機などがあげられ

る。

中国との戦略的パートナーシップのさらなる発展と深化、また北東アジア、またその周

辺地域における重要問題の解決に際しての共同行動に向けたロシア側の関心は、近年、顕

※В.Е.Кучерявенко. Современные тенденции экономического взаимодействия России и КНР на Дальнем Востоке

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

著に高まっている。さらに、ここ数年間を通じて見られる二国間の政治経済関係の好まし

い動きが、両国のさらなる協力、そしてその過程で生じる様々な問題の効果的な解決のた

めの強固な土台を創り出しつつある。

モスクワも北京も、世界経済危機という条件下においては地域統合プロセスに向けての

連携の強化を協力の優先方針とみなしており、この方針こそが外部市場の市況変動に起因

する否定的現象の克服に向けた共同努力の可能性を与えると考えている。

「中国東北振興策」の実施に際して同地域のすべての国民経済セクターにおいて進めら

れている大規模な改造は、ロシアと隣接し合う中国側諸地域の発展を著しく加速させてお

り1)、そのため、中国東北部は世界経済に見られる危機的現象の悪影響を大幅に低減させ

ることができた。たとえば、中国の公式統計を信頼すると、危機が最も急速なテンポで進

行していた2008年第3~第4四半期に、東北3省はいずれも地域総生産を低下させなかっ

た。2008年の集計結果によれば、黒龍江省の経済成長率は11.8%、遼寧省が13.1%、吉林省

が16.0%であった。2008年と比べてやや低めとはいえ、プラス成長は2009年も維持された。

2009年上半期の各省の成長率(前年同期比)はそれぞれ、8.9%、11.5%および11.7%であっ

た2)。

貿易では中国のプレゼンスは低下気味 しかしながら、国家レベルの基本プログラム(中国国家発展改革委員会によって作成さ

れた「東北振興策」)や省レベルの基本プログラム(「黒龍江省旧工業基地振興総合計画」、

黒龍江省商業経済常任委員会第16会期で採択された「国境経済協力区発展計画」など)に

おいては、中国側国境地域の経済発展における「ロシア・ファクター」の活用に対して枢

要な役割3)が割り当てられているにもかかわらず、2008~2009年にかけて中国は、ロシア

全体、とくに極東連邦管区の貿易に占めるその地位をかなり低下させた。

例えば、中国側の統計データによれば、2008年1~7月の中国の対ロ輸出高は173億9,639

万ドルであったが、2009年1~7月には87億9,254万ドル、すなわちほぼ半減した。また対

ロ輸入高も149億3,521万ドルから117億5,999万ドルに低下した4)。

2008年~2009年初の期間にロシア極東と中国の貿易の動向に影響を与えたのは、第一に

ロシア連邦指導部によって進められている輸出入取引に対する関税・非関税措置の規制強

化政策、第二に2008年後半に始まった世界経済危機がもたらしたネガティブな結果に起因

する内外需要の全般的縮小である。

中国は日本、韓国とともに、ロシア極東の3大貿易パートナーであるが、2007年以降、

これまで常に競い合ってきた日本だけでなく、韓国にもその地位を譲った(図1)。

2008年の極東連邦管区の貿易高に占めるシェアは、日本の29.2%、韓国の26.7%に対し、

中国は21.0%であった。2000年代初頭以降、極東地域の輸出高に占める中国のシェアは一貫

して低下を続け、2003年の36.8%から2008年には12.3%まで低下した。他方、中国はロシア

極東市場への自国製品供給の面では首位を保ち続けている。極東連邦管区の輸入に占める

中国のシェアはいったんやや低下した後、2008年には36.2%に達し、過去最高を記録した(表

1及び図2参照)。

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

図1 ロシア極東と北東アジア3国の貿易動向

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

日本 1,291.0 2,406.2 3,499.2 3,245.4 6,105.3 7,075.3

中国 2,004.8 2,147.1 3,350.3 4,274.9 4,525.1 5,097.9

韓国 1,098.0 1,163.9 2,183.5 2,788.7 5,849.2 6,474.0

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

(100万ドル)

(出所)ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所データベース。

表1 ロシア極東の国別貿易高・構成

(単位:100万ドル)

% % % % % %

全体 21,270.5 100.0 13,525.4 100.0 7,745.1 100.0 24,219.2 100.0 15,370.8 100.0 8,848.4 100.0

日本 6,105.3 28.7 4,070.2 30.1 2,035.1 26.3 7,075.3 29.2 4,391.9 28.6 2,683.4 30.3

韓国 5,849.2 27.5 4,555.2 33.7 1,294.0 16.7 6,474.0 26.7 5,770.3 37.5 703.7 8.0

中国 4,525.1 21.3 1,984.2 14.7 2,540.9 32.8 5,097.9 21.0 1,891.1 12.3 3,206.8 36.2

その他 4,790.9 22.5 2,915.8 21.5 1,875.1 24.2 5,572.0 23.1 3,317.5 21.6 2,254.5 25.5

輸入 貿易高 輸出 輸入

2008年2007年

貿易高 輸出

(注)ダイヤモンド部門の製品、貴金属・同製品の輸出を含む。サービスの輸出入及びバンカーオイ

ルの供給を除く。

(出所)ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所データベース。

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

図2 ロシア極東と中国の貿易動向

1,891.1

688.3

1,187.4

1,701.8

3,206.8

1,984.2

2,573.1

2,162.9

1,491.81,517.2

487.6

2,540.9

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

ロシア極東の輸出 ロシア極東の輸入

(100万ドル)

(出所)ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所データベース。

全体として見ると、極東地域の対中輸出はかなり長期にわたり、伝統的な構成を維持し

ており、木材(55.6%)と魚・海産物(18.3%)が大きな割合を占めている。また中国はロ

シア極東で生産される石油製品(ガソリン、軽油、重油等)の最大の消費国であり、ロシ

ア極東からの石油製品輸出の43.9%は中国に輸出されている。

2008年のロシア極東の対中貿易は、全体で約51億ドル、うち輸入が32億ドル、輸出が19

億ドルと、輸入額の方がずっと大きく、極東連邦管区の対中貿易赤字は2007年に5億5,670

万ドル、2008年には13億1,500万ドル(前年比2.3倍)に達した(図2)。対中輸入の前年比

伸び率は、2006年には43%、2007年には49%であったが、2008年にはやや減速して26%とな

った。

対中輸入伸び率の減速の要因としては、世界経済危機の影響で、失業者の増加や所得の

低下によって、ロシア極東の住民の購買力が大幅に落ち込み、中国からの一般消費財や日

用家電品の輸入に陰りをもたらしたことがあげられる。もう一つの重要なファクターは、

住宅その他施設の建設の鈍化であり、その関わりで中国製の建機や建材に対する需要が低

下したためである5)。

規制強化の影響を受ける国境貿易

いわゆる「国境貿易」でも輸入動向に一定の低下が生じている。以前と同様、国境貿易

の規模の推定は困難である。国境貿易は、相当部分が中国側隣接地域への旅行の際、個人

的使用という名目で私人によって購入された商品の搬入だからである。ロシアの中央・地

方当局は、こうした中国製品の流入を法的規制下におき、課税を免れている取引の流れか

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ら除外するため、長年にわたって各種の措置を講じてきた。

例えば、2006年にはロシア政府決定により関税免除手荷物の重量が50kgから35kgに引き

下げられ、国境通過頻度にも制限(1カ月間に1回以下)がかけられた6)。2009年には、

ロシア国内での転売を目的としているにもかかわらず私物を装って搬入される商品を発見

するため、旅行者によって搬入される手荷物の税関検査が極東地域のすべての国境検問所

で厳格化された7)。基本的には、税関検査の厳格化とは入国者に対する審査と質問をより

厳密に行うことを意味する。その結果、綏芬河(黒龍江省)~グロデコヴォ(ロシア沿海

地方)の国境通過点だけで、中国からロシアに運び込まれる荷物の没収件数が過去最高を

記録した。2008年には1万8,742点、合計約25万ドル相当の各種製品が差し押さえられた8)。

主な差押品は、携帯電話やその付属品、電子メモリーカード、スポーツウェアなどであっ

た。税関検査の厳格化によって、中国側隣接省への買い物ツアーに対するロシア市民のモ

チベーションは低下し、このことはツーリストの流れ、彼らにより中国から運ばれる荷物

量、またロシア極東の国境地域で活動する一連の零細企業や旅行会社の業績に顕著に現れ

ている。

もっとも減少したのは黒龍江省からの輸入である。2008年には綏芬河国境検問所を通過

した輸出入貨物は6.1%減少し、22億1,000万ドルとなった。うち輸入は7億1,000万ドル

(38.4%減)、輸出は15億ドル(24.5%増)であった。

やはり黒龍江省にある中国最大の国境検問所の一つで、大型トラックの輸出を専門に取

り扱う東寧国境検問所では2008年に対ロ貿易が11億8,000万ドルに低下(36.3%減)したが、

これは中国からの自動車輸入の減少という全般的傾向を反映している。同ルートでの対中

輸出は3,000万ドル(金属スクラップが大半)で前年比64.5%減であった9)。

その結果、中国の国境各省との貿易高の増加テンポに一定の減速が認められた。中国の

公式データによれば、中国の国境各省による2008年の対ロシア貿易は総額で83億7,000億ド

ルとなり、前年比で0.3%の増加にとどまった。

全体として見ると、中国の国境貿易に占めるロシアの比率は2007年の39.1%から2008年に

は27.1%に低下し、中ロ貿易全体に占める中国側国境各省の割合は2007年の36.8%から2008

年には33.6%に縮小した10)。他方、中ロ貿易に占める中国中央部、沿岸部ならびに南部工業

先進省のシェアは年々拡大しており、2008年の中ロ貿易に占めるその割合は64.2%まで増加

した(2006年には59.7%、2007年には63.2%)11)。

電力輸出や機械輸入が拡大の見通し

近年のロシア極東における輸出急減の主因の一つは、2007年2月5日付ロシア政府決定

第75号「特定種類の未加工木材に対する輸出税率の承認について」12)が施行され、未加工

木材に対する輸出税が25%に引き上げられたことによる原木輸出の低下である。原木の輸

出税がさらに80%に引き上げられるという懸念が一時的に駆け込み需要を生んだが、その

結果、極東連邦管区に隣接する各省(とくに黒龍江省)の木材市場では過剰在庫が発生し

た。またロシア産木材の高騰と並んで、世界経済危機の悪影響が、中国の一連の部門で生

産の増加を減速させ、その後これに起因して生じた様々な事象がロシア産木材に対する需

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要の激減をもたらした。

ロシア極東からの木材輸出の大部分が中国市場向け(2008年には78.2%)であることを考

えれば、上述の需要の変動が極東地域の輸出に量的にも額的にも大きな低下をもたらした

ことは疑いない。このことは、沿海地方やハバロフスク地方といった木材輸出地域ではと

くに顕著であり、2008年の対中輸出は沿海地方では27.6%減、ハバロフスク地方では3.4%減

となった。2009年上半期にはアムール州からの中国への木材輸出額が前年比で2分の1に

減少した13)。しかし、輸出量は全般的に低下しているものの、未加工木材は極東地域の対

中輸出品構成において依然として最上位を占めている。

ハバロフスク地方からの石油製品の輸出低下も、極東地域の対中輸出の統計上の減少に

影響を与えた。この輸出低下は石油製品の輸出申告手続の変更によって生じたものである。

現在、ハバロフスク製油所で生産された石油製品はアリアンス社の子会社、コムソモリス

ク・ナ・アムーレ製油所で生産された石油製品はロスネフチの子会社を通じて輸出されて

いるが、これらの子会社は極東外に登記されているという事情に起因している。

2009年上半期にはアムール州から2億8,100万kWhの電力が中国に売却された14)。この方

向での両国の貿易経済関係の展開において重要なステップとなったのは、隣接する中国領

内へのロシア産電力の輸出体制に関わる合意であり、この合意は2009年10月にプーチン首

相が北京を訪問した際に結ばれた。2010年には黒龍江省への電力供給量は10億~15億kWh

まで増加すると予測されている。現在、中国国家電網公司との間で輸出条件についての交

図3 ロシア極東の中国からの機械設備・輸送機器の輸入動向

63

113.3

177.8

249.7

846.3

632.5

12.9

14.7

26.4

15.0

16.5

24.9

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

機械設備・輸送機器の輸入高 対中輸入に占めるシェア

(100万ドル) (%)

(出所)ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所データベース。

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

渉が進められている。2010年にはプロジェクト第1段階の対象施設(アムール州内の500kV

送電線及びハバロフスクにおける出力400~500MWのガス・蒸気タービン複合サイクル発

電所)の建設が予定されている。これら施設の供用開始に伴い、中国への電力輸出量は年

40億~50億kWhまで増加するかもしれない15)。また同プロジェクトの第2段階では輸出の

量的拡大(年180億kWhまで)だけでなく、供給先の地理的拡大(瀋陽市、遼寧省)も計画

されている。

一方、中国からの輸入構成にも一定の変化が生じている。従来同様、対中輸入品の主要

部分は消費財(輸入の49.4%)であるが、ここ数年の傾向として機械・設備の輸入が増加し

ており、2007年及び2008年にはその傾向がさらに顕著となった(図3)。機械・設備の中で

は設備投資用機械・設備が最大部分(48%超)を占め、産業用輸送機器がさらに25%を占め

ている。設備投資用機械・設備の輸入高は2000~2008年にかけて55倍(740万ドルから4億

680万ドル)となり、輸入品構成に占めるそのシェアは5.3%から12.7%に増加した。ただし、

極東地域における機械・設備の輸入に占める中国の割合は今のところ2.4%にすぎない。

その他、対中輸入品では建材、衣類及び履物、ガラス及び同製品、家電品(冷蔵庫、掃

除機)、玩具、農産品が従来と同様に大きな割合を占めている。

中国からの投資は今のところわずか

この数年間、極東連邦管区と中国の間で投資協力の目立った活性化は生じていない。こ

れまでと同様、両者は互いに第三国からの投資をめぐる競合として行動しているケースの

ほうが多い。中国東北3省の当局は、同国の南部・沿岸部諸省や香港から資本誘致を図る

べく、自己の競争優位としてロシア市場の近さとその資源へのアクセスの容易性をアピー

ルしている。それと同時に、彼らは南部・沿岸部ならびに香港の企業がロシア極東市場に

直接進出することを望んでいない。そのようなことになれば、東北3省はこれら地域間の

仲介者としての自らの独占的地位を失ってしまう恐れがあるからである。その理由は、ロ

シア極東に輸出されている商品のかなりの部分が中国東北部ではなく、中国南部地域で生

産されていることと関係がある。もし中国東北部とロシアの間の貿易経済関係の密度が低

下し、中国当局が以前から望んでいるように、より発展度の高い中国各省(先進省)と極

東管区各地域との間で直接交流が確立した場合には、発達した中国沿岸部とロシアの間の

仲介サービスで楽に金を稼ぐことに慣れた東北部の地元企業はこの図式から排除されてし

まう。このことは中国東北部内部の社会経済状態に悪影響を及ぼし、ロシア側地域にとっ

ての中国東北部の重要性の低下を引き起こすことになる。しかし、世界経済危機の時期に

深刻化した必要資金の不足に関連し、中国東北部自体が大規模投資を行う可能性は限られ

ている。このように、ロシア側地域と中国東北3省の間に一定の利益相反が存在している

ことにより、二者間における投資協力の発展は引き続き抑えられることになる。

上記の理由との関連により、中国はロシア極東経済への投資国のトップ10にすら入って

いない。極東連邦管区への外国投資全体に占める中国のシェアは、2007年には0.47%(2,951

万4,000ドル)、2008年には0.3%(2,706万800ドル)にすぎない。2008年のロシア極東におけ

る外国投資に占める北東アジア3国(日中韓)の割合は約8.9%であったが、3カ国中では

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ロシアNIS経済速報 2010年(平成22年)3月5日 No.1489

図4 ロシア極東への北東アジア3国による外国投資

49.7

36.0

66.3

15.5 17.4

174.8

13.38.6

19.0 19.728.5 23.9

8.9 8.0

35.4

53.2

20.113.1

0

50

100

150

200

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

日本 中国 韓国

(100万ドル)

(出所)ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所データベース。

日本と韓国が上位に立っている(図4)。

従来どおり、中国の投資家にとって最も魅力的な地域は木材産出地帯である。例えば、

2008年には、中国による外国投資の25%(675万ドル、前年比2.2倍)がハバロフスク地方、

23.4%(633万ドル、同2.4倍)が沿海地方、17.5%(470万ドル、同1.6倍)がアムール州に投

入された。

2008年における極東連邦管区への中国からの外国投資の前年割れは、主としてマガダン

州(2.5分の1に減少)及びカムチャツカ地方(2007年の6,800万ドルから2008年には2,000

ドル)での急激な減少によって生じた。

中国の投資家にとって魅力の高い業種は、小売・卸売業、外食産業、また原木の伐採及

びその小規模な一次加工である。その他、最近の傾向として、ロシアの地下資源の探鉱・

開発権の取得をめぐる中国側の活動が活発化している。

注目される協力プログラムの実現

ロシアの原料基盤に対する中国の古くからの関心は、2009年9月23日に両国元首によっ

て承認された「2009~2018年のロシア極東・東シベリアと中国東北部の協力プログラム」16)の中で具体化された。この種の文書の策定について数年間にわたり中国側から粘り強い

提案がなされ、ついに採択されたのがこのプログラムである。

内容を分析すると、このプログラムには、両国の国境通過地点の輸送能力の拡大、通過

地点にアクセスする輸送インフラの整備、ロシア領内における中国人労働者の人数拡大、

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請負建設工事量の増大、中国側によるロシア農地の賃借など、中国側の従来からの提案と

イニシアチブに大幅に依拠していることがわかる。

同時にこのプログラムを際立たせているのは、両国がその共同実施に関心をもつ具体的

プロジェクトが列挙されているという点に示された具体性である。また、このプログラム

は、その本質において、シベリア・極東地域と中国東北部の間の資源供給者とその加工者

としての関係性を規定するものとなっている。例えば、ロシア極東の連邦構成主体の領域

だけをとってみても、このプログラムは16の資源鉱床(石炭、褐炭、石油、金鉱石、鉄・

錫鉱石、銅鉱石、チタン・マグネタイト含有砂岩、燐灰石、沸石、石灰岩)の開発におけ

る中国の優先権をみとめている。プログラムによれば、中国領内では輸入原料の加工が行

われ、スポンジチタン、電解アルミニウム、肥料、セメントの生産、またより付加価値の

高い一連の商品(自動車、日用機器など)の製造が行われる計画となっている。これらの

製品のかなりの部分は隣接するシベリア・極東地域にも輸出されることになると予想され

る。

公正を期するために述べておくが、このプログラムにはロシア領内における一連の生産

プロジェクトも含まれている。ただし、その案件数ははるかに少ない。

概して言えば、このような事態の展開は十分に予測可能なものであり、中国がロシア極

東において順次進めている政策を反映している。この政策は、その本質において、中国の

グローバル経済戦略の一部をなしており、中央アジア、ラテンアメリカ及びアフリカとい

った地域で実施されている政策と同種のものである。その主要目的は、①エネルギーや原

料資源へのアクセスを確保すること、②北京の利益に沿った二国間貿易経済協力の長期経

済連携メカニズムを創出することにある。

ロシア極東に隣接する中国各省の指導部は、貿易だけでなく投資にも積極的に参加する

よう、とくにプログラムに含まれるプロジェクトに参加するよう、ロシアと協力関係をも

つ企業家に対してすでに呼びかけている。これに該当する投資を行う意向を表明した企業

に対しては、財政的・行政的支援が提供されるものと予想される。

現在、中国東北3省においては指導部レベルでロシア極東地域との関係を活性化させる

ための体制が整っている。例えば、遼寧省指導部は地域協力共同計画の採択に関する提案

を行い17)、黒龍江省でも同様の計画の策定作業が進められている。このプロセスにおける

イニシアチブは相変わらず中国側にある。ただし、提案されているプロジェクトはまだ具

体的な投資という形での裏付けを得ておらず、それら案件の一部は、従来と変わらず単な

る声高な宣言や約束のままで終わってしまう可能性がある。しかし、いずれの場合にせよ、

これらすべてのプロジェクトについて、その実施がもたらす結果について綿密な検討・分

析を地域レベル及び連邦レベルで行う必要がある。

おわりに

以上のことから、以下のような結論を導くことができる。

第1に、貿易については、中国がロシア極東地域の独占的貿易パートナーに転化するリ

スクは過去2年間で著しく低下した。一連の客観的・主観的要因の影響下で、中国はロシ

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ア極東の貿易部門におけるその地位を顕著に弱めた。

第2に、二者間の貿易構造に一定の変化が続いている。例えば、ロシアからの輸出に電

力、木材加工品といった新たな品目が現れた。これらの部門のプロジェクトを共同協力プ

ログラムに含めることにより、今後におけるその発展を期待することができる。

第3に、投資協力は今のところとりわけ活発というわけではないが、中国側はロシア地

域における一連の大規模資源プロジェクトの共同実施に対する関心を明瞭に示している。

東北3省には資源プロジェクト展開のための資金力が不足しているが、この不足はおそら

く国家規模の中国大企業の資金を利用することによって補完されるだろう。こうした事例

は世界の多くの地域においてすでに存在している。

この方面での中国の活発な行動は、おそらく、日本や韓国といったシベリア・極東地域

の伝統的パートナーを徐々に締め出しながら、同地域の資源セクターにおいて自らの地歩

を固めたいという明瞭な意図が中国にあることを物語っている。炭化水素鉱床の開発やそ

の他の資源の支配をめぐる国際競争の激化が北東アジアの主要国間において一連の先鋭な

対立(領土に関する対立を含む)を引き起こしている現況下において、中国のこのような

政策は、地域共同体における主要国が世界経済危機の否定的影響をともに克服するべく行

っている必然的努力に、ある意味、水を差すものになっている。

【注】

1)D.A.イゾトフ、V.Ye.クチェリャヴェンコ「『経済再生計画』実施の条件下における中国東北部」

『空間経済学』誌(2009年、No.2)、pp.140-158。

2)China Monthly Economic Indicators, May, 2009. National Bureau of Statistics. People’s Republic of China.

p. 110; China Monthly Economic Indicators, August, 2009. National Bureau of Statistics. People’s Republic

of China. p. 110

3)D.A.イゾトフ、V.Ye.クチェリャヴェンコ、上掲論文、pp.152-157。

4)China Monthly Economic Indicators, August, 2009. National Bureau of Statistics. People’s Republic of

China. p. 46-47

5)M.V.アレクサンドロヴァ「アムールの波:中国との国境貿易は新たな上昇を前に静まりかえって

いる」『ロシア新聞』(2009年10月13日)。

6)2006年1月23日付ロシア政府決定第29号「2003年11月29日付ロシア政府決定第718号により承認

された『個人的使用を目的としてロシア連邦関税境界を通過して個人によって移動される商品に対

する統一関税率の適用に関する規程』の改正について」

(http://www.customs.ru/common/img/uploaded/files/Press_slugba/PRAVITELSTVO_ROSSIIYSKOIY_FED

ERATSII2.doc)

7)http://www.divoh.ru/index.php?option=com_

content&view=article&id=226:lr---&catid=19:-16-090409-150409&Itemid=2)

8)http://www.vg-news.ru/news-rezko-vyros-oborot-

rossiisko-kitaiskoi-prigranichnoi-torgovli)

9)同上。

10)http://www.premier.gov.ru/pda/visits/world/136/

info/3860.html

11)同上。

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12)「決定」の全文は下記参照。

http://base.consultant.ru/cons/cgi/online.cgi?req=doc;base=LAW;n=65981

13)http://www.fedpress.ru/federal/socium/china/id_

156942.html

14)同上。

15)http://www.eastern-ec.ru/publications/jurij-sharov

-v-rossijsko-kitajskom-sotru.html

16)http://www.vedomosti.ru/newspaper/article/2009/10

/12/216003

17)「2009~2015年の遼寧省とロシアとの間の地域協力発展計画」(ロシア側との意見交換に関するテ

キスト、遼寧省発展改革委員会、2009年7月)。

トピックス

◇日本郵船グループがカザフに事務所

日本郵船は2月26日、ロシア物流現地法人 NYK Logistics Rusがこのたび、カザフスタン

のアルマティに駐在事務所を開設したと発表した。同社グループの現地法人が同国に事務

所を開設したのは初めて。

2009年10月に日本郵船グループのNYK Holding Europeが、アルマティに拠点を置く完成

車専用ターミナル運営会社のTranco Terminal社に25%の出資を行い、同社事業に参画。これ

を契機に同社では、カザフスタンにおける完成車物流事業をさらに積極的に展開すべく、

新たにロシア物流現地法人の駐在事務所を設置することになったという。アルマティの駐

在事務所では、当面は現地での情報収集を行いつつ、顧客にTranco Terminal社の完成車専用

ターミナルを利用してもらうことで同社のビジネス拡大を図る。また、中国やヨーロッパ

の港からカザフスタンに至る完成車輸送や、一般雑貨などの物流サービスの提供も検討し

つつ現地でのビジネスの新規開拓に努めていくとのこと。

■NYK Logistics Rus カザフスタン駐在事務所所在地

38 (ground floor), Tulebaeva street, Almaty, Republic of Kazakhstan

■Tranco Terminal社概要

設立:2008年7月(業務開始は2009年1月)

資本金:KZT 257,860,000(約1.5億円)

株主構成:JSC Tranco(カザフスタンの大手物流会社):75% 当社:25%

<アルマティの完成車専用ターミナル概要>

総面積:約76,000m2

蔵置可能台数:約2,700台

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キーパーソン

◇ヤヌコヴィチ・ウクライナ新大統領就任

2月7日にウクライナ大統領選挙の決選投票が実施された。2月14日に中央選挙管理員

会が発表した最終的な公式結果によると、ヤヌコヴィチ:12,481,266(48.95%)、ティモシ

ェンコ:11,593,357(45.47%)、両候補に反対:1,113,051(4.36%)、無効票:305,837(1.19%)

で、ヤヌコヴィチに軍配が上がった。ティモシェンコが選挙に不正があったとして法廷に

訴える一幕もあったが、その訴えは直後に取り下げられ、ヤヌコヴィチの当選が正式に確

定した。ヤヌコヴィチ大統領は2月25日に就任式を行い、かくして第4代ウクライナ大統

領が誕生した。

今回の選挙の総括や、新政権の体制・方向性などについては、後日詳しく論じる機会を

設ける予定である。ここではさしあたり、ヤヌコヴィチ新大統領のプロフィールを紹介し

ておく(出典は主に、http://file.liga.net/person/2.html)。

* * * * *

ヤヌコヴィチ・ウクライナ大統領

Viktor Fedorovych Yanukovych

生い立ち 1950年7月9日、ドネツィク州エ

ナキエヴォ市の鉄道労働者の家庭に生まれた。

2歳のときに母親を喪う。高校卒業後の1969年

に働き始める。 ドネツィク工科大学(機械技師

専攻)卒業、ウクライナ外国貿易アカデミー修

了、国際法学修士。

若き日の過ち 1967年には強盗、1970年には傷害と、若い頃、2度収監されたことがある。

前科はだいぶ前に抹消されているというのが公式的な情報だが、ヤヌコヴィチ自身は初め

て首相に就任する前に書いた自伝のなかで、前科についてあえて触れている。

経歴 1969年にエナキエヴォ冶金工場のガス技術者。その後、自動車製造工、自動車会

社機械工としても働く。20年にわたり様々な企業の幹部を務め、生産合同「ドンバストラ

ンスレモント」、「ウクルウグレプロムトランス」、「ドネツィク州地域自動車輸送合同」の

総裁を務めた。

1996年8月、ヤヌコヴィチはドネツィク州行政府副議長(副知事に相当)に任命され、

1ヵ月後には第一副議長に昇格する。1997年5月から2002年11月まで、ドネツィク州知事

を務めた。ドネツィク州議会議員でもあり、1999年5月から2001年5月までは州議会議長

も兼任した。

2002年11月21日、クチマ大統領がヤヌコヴィチを首相に指名。2003年4月、ヤヌコヴィ

チは地域党の党首となった。2004年7月、地域党により、大統領候補に推挙される。スポ

ンサーの潤沢な資金、行政資源の投入、国の南・東部における人気にもかかわらず、2004

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年の大統領選挙では野党候補のユーシチェンコに屈した。

大統領選挙での敗北後、ヤヌコヴィチは半年以上、公の場から姿を消した。一部の評論

家は、地域党の党首を辞するとか、政治生命はもう終わりだと指摘した。それでも、地域

党の幹部は、ヤヌコヴィチを担ぎ続けた。2006年春の最高会議(議会)選挙では、ヤヌコ

ヴィチ率いる地域党が最大得票を収め、社会党および共産党と組んで議会で多数派(「危機

対策 連立」)を形成した。この議会多数派とユーシチェンコ大統領の交渉の結果、2006年

8月4日にヤヌコヴィチは首相に返り咲いた。 首相就任および組閣後、専門家によって

様々な展望が語られ、ヤヌコヴィチは今日の政治経済情勢のなかでは最適な人物でバラン

ス政治の象徴だと語る向きもあれば、ヤヌコヴィチは一部のビッグビジネスおよび財閥の

利益を優先するだろうという見方もあった。一方、対外関係においてヤヌコヴィチは、ク

チマ前大統領の「多極路線」を踏襲して、欧州的・民主的価値観を標榜しつつ、常にクレ

ムリンに気を使った。

ユーシチェンコとの対立 ヤヌコヴィチが首相に返り咲いた直後から、「危機対策連立」は

ユーシチェンコ大統領を攻撃し、大統領からなるべく多くの権限を政府および議会側に奪

い取ろうとした。この攻撃があまりに威力を発揮したため、最終的に大統領は、民主主義

の危機を国民に表明し、第5回最高会議の期限前解散と前倒し議会選挙の実施に関する一

連の大統領令を出すことを余儀なくされた。危機対策連立の側はこれに猛反発し、すぐに

キエフに多数の支持者を集結させた。

激しい対立と、複雑な交渉を重ねたのち、両者は議会選挙を2007年9月30日に実施する

ことで合意した。選挙の結果、地域党は175の議席を獲得、第1党とはなったが、連合工作

で過半数に届かず、野党に回ることとなった。ヤヌコヴィチは地域党会派の会長を務める

とともに、影の内閣の首相となり、次なる戦いに備えることとなった。

プライベート 妻リュドミーラは専業主婦。息子が2人。長男のアレクサンドルは医者、

次男のヴィクトルは地域党選出の議員となっている。

趣味はスポーツ(テニス)、猟、鳩飼育。

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