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クルド地域園芸技術改善普及プロジェクト Project Horticulture Technology Improvement and Extension -Gasha*- 2013 12 11 26 日に第 3 回合同調整委員会が開 催されました。クルド自治政府農業省から は、プロジェクトサイトであるスレイマニ ア県、ドホーク県、エルビル県の関係者を 含む25名が参加。2011 8 月から始まっ たプロジェクトの進捗状況の確認と、2014 年の活動計画について日本側・クルド側プ ロジェクト関係者間で情報共有・意見交換 がなされました。 今回は、合同調整委員会で取り上げられた活動報告と 2014 年度の計画について報 告をします。 進捗状況の確認 プロジェクト開始から 2 年間を第一フェーズと位置づけクルド地域の農家経営状況、 市場動向、そして、農業省の普及体制の現況把握に取り組んできました。その成果と して、「農家経営に係るベースライン調査報告書」を取りまとめ、450 部を農業省の 関係部局に対して配布しました(右下写真)。市場動向調査報告書、普及体制調査報 告書も年内には関係者に配布を終える予定です。 また、野菜の周年栽培技術の確立に向け、ハウス栽培におけ る温度調整技術や閉鎖型苗生産システム(後述)による育苗手 法の検討を進めました。また、プラムや桃などの核果類の栽培 時に農家が直面している、害虫被害の現状把握、効果的な害虫 防除方法の検討、剪定技術・袋掛けなどの技術移転(導入段階) を行ってきました。第一フェーズの結果を踏まえて、3 年次か らは第二フェーズとして、技術普及に力をいれていきます。 *プロジェクト関係者間では、プロ ジェクトを Gasha Project と呼んで います。 Gasha は、クルド語で「育 つ・成長する」という意味です。 (上)集合写真 (左)熱心に議論をする参加者 (中央)閉鎖型苗生産システムの現況報告 (右)来年度計画を説明する佐久間リーダー

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Page 1: Project Horticulture Technology Improvement and Extension … · 2013. 12. 25. · クルド地域園芸技術改善普及プロジェクト Project Horticulture Technology Improvement

クルド地域園芸技術改善普及プロジェクト

Project Horticulture Technology Improvement and Extension

-Gasha*-

2013年 12月

11月 26日に第 3回合同調整委員会が開

催されました。クルド自治政府農業省から

は、プロジェクトサイトであるスレイマニ

ア県、ドホーク県、エルビル県の関係者を

含む25名が参加。2011年 8月から始まっ

たプロジェクトの進捗状況の確認と、2014

年の活動計画について日本側・クルド側プ

ロジェクト関係者間で情報共有・意見交換

がなされました。

今回は、合同調整委員会で取り上げられた活動報告と 2014年度の計画について報

告をします。

進捗状況の確認

プロジェクト開始から 2 年間を第一フェーズと位置づけクルド地域の農家経営状況、

市場動向、そして、農業省の普及体制の現況把握に取り組んできました。その成果と

して、「農家経営に係るベースライン調査報告書」を取りまとめ、450部を農業省の

関係部局に対して配布しました(右下写真)。市場動向調査報告書、普及体制調査報

告書も年内には関係者に配布を終える予定です。

また、野菜の周年栽培技術の確立に向け、ハウス栽培におけ

る温度調整技術や閉鎖型苗生産システム(後述)による育苗手

法の検討を進めました。また、プラムや桃などの核果類の栽培

時に農家が直面している、害虫被害の現状把握、効果的な害虫

防除方法の検討、剪定技術・袋掛けなどの技術移転(導入段階)

を行ってきました。第一フェーズの結果を踏まえて、3年次か

らは第二フェーズとして、技術普及に力をいれていきます。

*プロジェクト関係者間では、プロ

ジェクトを Gasha Project と呼んで

います。 Gashaは、クルド語で「育

つ・成長する」という意味です。

(上)集合写真 (左)熱心に議論をする参加者 (中央)閉鎖型苗生産システムの現況報告 (右)来年度計画を説明する佐久間リーダー

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野菜分野

果樹分野

①・②スレイマニア県にて篤農家調査をする松田専門

家・原田専門家、③研究普及局長との現場視察、④活

動報告を終え感謝盾を受け取る松田専門家、⑤・⑥・

⑦ゲダラシャ試験場でトマト苗の定植をする原田専門

家、カウンターパートとプロジェクトスタッフ

⑧・⑨害虫被害調査をする藤家専門家、⑩・⑪山口

教授による技術指導、農家調査、⑫カウンターパー

トとともに害虫防除試験を行う藤家専門家、⑬果樹

栽培の問題分析と今後の果樹栽培試験計画のあり方

を説明する山口教授

① ②

⑤ ⑥ ⑦

⑧ ⑨

⑪ ⑫

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2014年からの活動計画

野菜分野については、クルド地域で一番収穫量の多いトマトの周年栽培技術確立

に重点を置き、(1)閉鎖型システムによる育苗手法のスレイマニア県、ドホーク

県での導入、(2)生産量が顕著に減少する 4月 5月に収穫時期を移行するための

大型温風暖房機の導入・経済性検討、(3)二重トンネル式のビニール被覆導入実

証試験 を継続して行います。

また、1月から 3週間に渡って実施される第 3国研修「グリーンハウス栽培技術」

コース(於 ヨルダン National Center for Agricultural Research &Extension)へ本プロ

ジェクトのカウンターパート 8名が参加予定です。

上述したように第二フェーズからは、プロジェ

クトサイトであるエルビル県、スレイマニア県、

ドホーク県での技術普及活動に力を入れていきま

す。普及活動は、農業省普及局の圃場に加え、各

地で高い生産性と利益を生み出している篤農家圃

場でも行います。最初の取り組みとしてスレイマ

ニア県で質の高いトマトを生産し、市場開拓に成

功しているバラムさんに協力をしてもらうことに

なっています。2013年 10月からトマトの栽培活

動が始まりました。1月と 3月には、近隣農家を

集めて展示圃場視察と技術指導を行う計画です。

普及活動に必要な技術ガイドライン作成には 2014年 3月から着手する予定です。

継続して実施する実証試験、圃場展示・技術指導の成果も反映したガイドラインに

は、視聴覚教材も含まれます。

果樹分野については、品種選定試験用に 29種 870本の苗木を供与します。スペイ

ンから輸入する苗木を適切に管理するために、ラベル付けや防虫ネット設置などの

活動が 2014年 1月から始まります。

東京農業大学 山口教授が取りまとめた核果

類栽培試験計画(案)に基づき、クルド地域の

果樹剪定技術や袋掛けの技術指導を継続してい

きます。上記栽培試験計画でも明らかになった

ことは、クルド地域では、タマムシ類の害虫被

害が大変深刻であるということです。プロジェ

クトでは、藤家専門家を派遣し、成虫発生状況

の調査と被害枝幹の観察調査、天敵線虫製剤と

クルド市販の殺虫剤の効果を確認する調査を行

ってきました。2014年以降も引き続き、害虫防

除対策に取り組んでいきます。

(上)アンズ枝に寄生したタマムシ類の蛹

(左)幹上のタマムシ類の成虫

(上)バラムさん圃場のトマト栽培の様子。

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閉鎖型苗生産システム開発に挑む

外部環境に左右されずに年間を通して育苗を行

うことを目的として中山専門家が取り組んでいるの

が閉鎖型苗生産システムの開発です。クルド地域

は、夏は 45度を越える日が続き、また冬は雪も降

る環境です。野菜苗の安定供給は周年栽培の技

術確立に大変重要となってきます。

中山専門家のこだわりは、現地で手に入る資機

材・技能者を使ってこのシステムを構築すること。

「現地の適正技術・調達できる資材で作る」言う

のは簡単ですが、多くの壁を乗り越える必要があり

ます。

(中山専門家の話)

クルドの人たちは閉鎖型苗生産システムを実際に見たことがありません。そのため、閉鎖型苗生産シ

ステムがどういったものなのか?・・・どんな目的で利用するのか、どんな仕組みで動くのか、どんな資

材が必要なのか、誰も想像がつきません。一方の私自身は、クルド地域でどんな資材が調達でき、どん

な技能者がいるのか分かりません。現地スタッフと一緒になって市場や町工場を一軒一軒訪ねる日々

が続きました。

閉鎖型苗生産システムは、育苗を行う棚、太陽の代わりとなる光(電気)、灌漑装置など様々な技術

が組み合わさって一つのシステムとなっています。信頼できる町工場を見つけた後は、それぞれの技能

者に、こちらの欲しい物を理解して、実際に作ってもらわなければなりません。彼らも初めて依頼される

不思議な注文に戸惑っていました。中山専門家らは毎日町工場へ足を運び、根気強く意見交換を続け

た結果、当初の期待を上回るものができました。

作った施設を実際に運用することも大変です。クルド地域の夏は大変熱く 45度を超える日中には、

使用電力がピークに達し停電が頻繁に起こます。空調が正常に動かなければシステム内の温度は急

上昇してしまい育苗に大きなダメージとなります。発電機と温度調整機器が誤作動なく動くための安定

した電力を確保するための配電盤の設置には、町の電気屋さんにきめ細かく説明を行うとともに、実際

に苗管理を行う技術者や作業員たちにも日々の点検、記録の大切さを説明しています。

中山専門家(ゲダラシャ試験場の閉鎖型苗生産システム内に於いて)