pcaポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例...

8
DD DD 2008 Spring P P P DD 1 N B I M P M M S P P Profile

Upload: others

Post on 21-Oct-2019

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

『緩和ケア領域における CADD Legacy PCA ポンプの有用性』『緩和ケア領域における CADD Legacy PCA ポンプの有用性』

20

08

Sp

rin

g

関根 龍一 先生

亀田総合病院 

緩和ケア科

がん性疼痛管理

はじめに 様々な利点がある機械式 PCA ポンプの緩和ケア現場で

の使用頻度が日本でも広がってきている。筆者は昨年

日本に帰国するまで米国の複数の施設で疼痛緩和ケアの

専門研修を受けていた。帰国後に気づいたことは、日本

では機械式 PCA ポンプの使用がまだ少なく、この利点に

ついての理解と普及が遅れていることである。従来日本

の緩和医療の現場では、シリンジポンプが主に使用され

てきた。

“がん対策基本法”が昨年施行され、“治療の初期段階か

らの緩和ケアの実施”が提唱され、現在がん拠点病院を

中心に全国各地で緩和ケアチームが立ち上がり、活動が

本格化している。ここではシリンジポンプにはない機械

式 PCA ポンプの特徴を有効利用し、きめの細かい個別的

な疼痛治療が可能となる適用例を中心に皆さんにご紹介

したい。

シリンジポンプにはできないこと

『緩和ケア領域における CADD Legacy PCA ポンプの有用性』

関根 龍一 先生

亀田総合病院 

緩和ケア科

コラム1

私は仏教寺院の家庭に生まれ、自然と人の生や死につい

て考える機会も多く、医学と宗教の両方を学ぶことで将

来社会に貢献したく、医学の道を選びました。曽祖父の

留学先であり、祖父の海外布教の場であった米国に親し

みがあり、また現代医療を世界的にリードする米国で臨

床留学をする準備を医学部在学中から始めました。

その後、よき恩師との出会いや幸運により、2001 年

に渡米。NY 市の Beth Israel Medical Center で内科

レジデンシーと Pain Management のフェローシップ

を修了。その後、Memorial Sloan-Kettering Cancer

Center などで Pain and Palliative Care のフェロー

シップ研修を修了し、昨年帰国しました。帰国後感じて

いるのですが、日本では“疼痛コントロール=基本的人

権”という意識がまだ薄く、患者さん自身も痛みの表出

を躊躇する傾向があります。痛みの医療は

その社会、文化のあり方を反映します。医

療者・患者関係も含め、痛みの医療のあり

かたについて、医療者と一般人の自らが今

後のあるべき最良の方向性を探ることが重

要だと思います。

関根 先生Profile緩 和 ケ ア

Page 2: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

PCAポンプとは?PCA は Patient Controlled Analgesia の頭文字をと

った略語で、直訳すれば、“患者自らコントロールする鎮痛

法”となる。分かりやすく言えば、PCA ポンプを用いて、

医師の処方した PCA ドーズ量を患者自らがボタンを押

すことによって投与する方式の鎮痛法である。

PCA ポンプの設定モードには、

①持続投与速度、② PCA ドーズ投与量、③ロックアウ

トタイム(不応期)の 3 つがあり、これに加えて、④随

時投与量(PCA ドーズよりも大きい量を設定でき、医療

者が必要時に追加投与)を除痛困難なケースでは併用す

る(図 1)。実際の使用では、異なる患者によって、こ

れらのモードを最適になるように設定する。PCA ポン

プには複数のタイプがあるが、当院ではスミスメディカ

ル社の CADD Legacy PCA ポンプ(図 2)を主に使用

している。同社の CADD Legacy PCA ポンプはシリン

ジポンプとは異なり、持続投与速度と PCA ドーズ投与

量を異なる数値で設定できることが便利である。

実際の使用例を以下に説明する。

図 2:CADD Legacy PCA

機械式 PCA ポンプの例

④随時投与 0.05 ~ 20.0mL

② PCA ドーズ量 0, 0.05 ~ 9.9mL

図 1:PCA プログラミングの概念

①持続投与速度 0, 0.1 ~ 50.0mL/hr

1 時間

時間有効回数 1 ~ 12 回(1 時間あたりにドーズボタンを

押せる回数 )

薬液濃度

持続投与量

PCA ドーズ量

ロックアウトタイム

1mg/mL

0.3 ~ 0.5mg/hr

0.3 ~ 0.5mg

10 ~ 60min

モルヒネ

50μg/mL

10 ~ 15μg/hr

10 ~ 15μg

10 ~ 60min

フェンタニル

 当院では PCA ポンプの使用は緩和ケアチームが初めて

組織化された 2004 年から開始されたが、使用件数はそ

れほど多くなかった。筆者は当院に赴任後、適応があると

考えられる患者には PCA ポンプを積極的に使用してきた。

過去約 1 年間に緩和ケア科に依頼のあった患者のうち、

PCA ポンプの使用例は 78 名(新規緩和ケアコンサルト

患者数 233 名の 33%)であった。

当院は全ベッド数が 930 床、このうちがん患者数が約

200 名程度存在し、今後も適応がある場合には PCA ポン

プを積極的に活用して適切な除痛を行う予定である。

亀田総合病院における機械式PCAポンプの使用状況

●この表はオピオイド未経験者の開始量

●持続痛がない場合、持続投与量は 0 から開始する

●現在使用中の設定で持続痛や突出痛に対して緩和効果はあるがまだ不十分な場合、持続投与量とPCAドーズをそれぞれ 25 ~ 50%程度増量する。全く効かない場合は、50 ~ 100%増量し、経過観察する。設定量増加後は密な経過観察を行い、傾眠その他の副作用に注意する

●痛みがなく傾眠の場合は、持続投与量を 25 ~50%ずつ適宜減量し、PCA ドーズは中止する

●後期高齢者、ハイリスク患者(せん妄や意識障害、肝、腎機能障害時など)では常に低量からの開始とし、過剰投与にならない様に注意してゆっくり増量する

当院での PCA 開始量

投与モード

持続投与量m L/h r

PCA ドーズ量mL

ロックアウトタイム

随時投与

PCA、持続、持続 +PCA、随時

CADD Legacy PCA 6300

シリンジポンプ(PCA 機能付)

0 または 0.1 ~ 50.0mL

0 または 0.05 ~ 9.9mL

5 分~ 24 時間

可 0.05-20,00mL( 流速 125mL/hr)

持続、持続 +PCA

0.05 ~ 60.00mL(10mL シリンジ使用時)

1 時間投与量(0.05 ~ 2.0mL)

15・30・45・60・90・120 分

早送りで対応約 60.0mL/h(10 m L シリンジ使用時)

③ロック アウト タイム5 分~ 24 時間

Page 3: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

早期からの静脈内PCAの実際1:悪性骨腫瘍に対する治療と併行した静脈内PCA

【症例 1】皮膚転移巣の創部の疼痛 進行性皮膚がんの90歳男性。下肢の皮膚腫瘍浸潤による潰瘍が悪

化。1日数回の創部処置・包交時や体動時に中等度以上の痛みがあり、

この管理目的にフェンタニル IV-PCAを開始。高齢者で腎機能低下が

あり、フェンタニルを選択。フェンタニルパッチ2.5mgで安静時疼

痛はコントロール良好であったため、ポンプの持続量はゼロ、PCA

ドーズ12.5μgのみの使用とした。

包交前や体動時にPCAドーズを使用することで、この間欠痛はなく

なり、リハビリにも積極的に参加でき、自宅退院。退院後もPCAポ

ンプ継続にて在宅で最期を過ごすことができた。PCAポンプ開始後

は疼痛管理の改善、QOLの向上により介護者の負担も軽減された。

実際の使用例1● 持続投与量ゼロ、PCAドーズのみで使用した例

【症例 2】排尿時の激痛 後腹膜播種、水腎症のため尿管ステント留置後である進行胃がんの

80歳男性。尿意を感じてから排尿開始、排尿終了後も数分から数十

分持続する尿道部、下腹部の激痛が出現。ジクロフェナクなどのNSAIDs、

経口オピオイドでもコントロール不良のため、モルヒネ IV-PCA

(持続投与0、PCAドーズ2mg)を開始。安静時痛はなく、持続量は

ゼロで開始した。

 その後傾眠傾向がみられ、フェンタニルに変更。以降、持続痛が

下腹部全体に出現し徐々に投与量を増量した(持続投与15→50μg/hr、

PCAドーズ30→100μg)。

PCAドーズ使用でも治まらない激痛には随時投与としてPCAドーズ

の1.5~2倍量を適宜使用した。PCAの使用によりそれまで激痛に

より不可能であった体動や歩行も短期間ではあったが可能となった。

PCA ドーズ:12.5μg/injection

ロックアウトタイム

10分

持続:フェンタニルパッチ 2.5mg/72 時間

フェンタニル持続投与:0

PCAドーズ量:12.5μgロックアウトタイム:10分

※イメージ図

※イメージ図

PCA ドーズ:2mg/injection

PCA ドーズ:30μg/injection

ポンプ持続 15μg/hrロックアウト

タイム

15分

フェンタニル持続投与:15μg/hrPCAドーズ量:30μg

ロックアウトタイム:15分

モルヒネ持続投与:0

PCAドーズ量:2mgロックアウトタイム:15分

フェンタニル持続投与:50μg/hrPCAドーズ量:100μgロックアウトタイム:15分

PCA ドーズ:100μg/injection

随時投与: 150 ~ 200μg/injection

ポンプ持続 50μg/hr

徐々に増量

モルヒネによる傾眠傾向のため薬剤変更

Page 4: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

【症例 3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

にしびれを伴う神経障害性疼痛が出現し増悪。同部位を動かすと激痛

がある。安静時にはそれほど痛みはない。

この痛みにステロイド、抗けいれん剤、放射線治療などとともに、

モルヒネ IV-PCA(持続投与1mg/hr、PCAドーズ1mg)を開始。

安静時の疼痛は軽度のみで安定、突出痛の管理のため、PCAドーズ

は持続投与量より多く必要であり、この症例では持続量の25%増か

ら倍量の範囲(持続投与1mg/hr、PCAドーズ1.25~2mg)で適

宜調節した。

これによって、リハビリ時やその体動に伴う痛みにより有効に対応できた。

実際の使用例2● 持続投与量と PCA ドーズを異なる数値で使用した例

 大腸がん再発で入院中の50歳女性。再発病変、イレウスによる下

腹部と骨盤内の疼痛が急に悪化。フェンタニル IV-PCA(持続投与

100μg/hr、PCAドーズ50μg)を開始。

投与量が増加し、薬液交換が頻回なため、持続投与量はフェンタニ

ルパッチ(20mg/72hr)に置き換え、IV-PCA(持続投与0、PCAド

ーズ100μg)を併用し突出痛に対応。追加の持続量はその時点での

持続痛のレベルによってPCAポンプの持続投与によって適宜増量。

突出痛に使用するPCAドーズ量は貼付剤とPCAポンプからの1時

間持続投与合計量の50%程度を目安とし、痛みと眠気の程度により

適宜増減した。オピオイドの他にもステロイド、ケタミン等の鎮痛補

助剤も使用したが、フェンタニルパッチ量は最高60mgまで達した。

フェンタニル注射剤は原液の50μg/mLが最高濃度であり、フェン

タニルを大量に必要とするケースでは全部をPCAポンプでまかなうと、

薬液交換の回数が多くなり一般病棟でのスタッフの負担が増え、薬液

交換時の疼痛悪化のリスクもあがる。

これには、フェンタニル貼付剤とPCAポンプの併用が現実的な対応

策であり、持続量とPCAドーズを別々に設定できるPCAポンプが

必要である。本症例は緩和的化学療法を継続中であり、良好な疼痛コ

ントロールが得られることで化学療法継続が可能であった症例である。

【症例 4】フェンタニル大量使用時に貼付剤とIV-PCAを併用する症例

ポンプ持続 1mg/hr

適宜調節ロックアウト

タイム

15分

モルヒネ持続投与:1mg/hr

PCA ドーズ量:1mgロックアウトタイム:15 分

モルヒネ持続投与:1mg/hr

PCA ドーズ量:1.25mgロックアウトタイム:15 分

モルヒネ持続投与:1 mg/hrPCA ドーズ量:2mg

ロックアウトタイム:15 分

PCA ドーズ:1mg/injection

PCA ドーズ:1.25mg/injection

PCA ドーズ:2mg/injection

※イメージ図

PCA ドーズ:50μg/injection

PCA ドーズ:100μg/injection

PCA ドーズ:パッチ+ポンプ持続投与量 / 時間の 50%

PCA ドーズ:パッチ+ポンプ持続投与量 / 時間の 50%

持続:フェンタニルパッチ 20mg/72hr

ポンプ持続 200μg/hr

ロックアウトタイム

15分

ポンプ持続 100μg/hr

ポンプ持続 100μg/hr

フェンタニル持続投与:0

PCA ドーズ量:100μgロックアウトタイム:15 分

フェンタニル持続投与:100μg/hrPCA ドーズ量:50μg

ロックアウトタイム:15 分

フェンタニル持続投与:100μg/hr

PCA ドーズ量:150μgロックアウトタイム:15 分

持続:フェンタニルパッチ40mg/72hr

フェンタニル持続投与:200μg/hr

PCA ドーズ量: 300μgロックアウトタイム:15 分

※イメージ図

薬液交換が頻回のため持続をパッチに変更

痛みと眠気の程度により適宜増減

適宜増量

ポンプの持続により

Page 5: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

【症例 5】非がん疼痛の治療困難例 慢性腎不全で腎透析を受け、その他、心筋梗塞、ASO(閉塞性動脈硬

化症)など多数の慢性疾患をもつ79歳男性。右足のASOによる虚血、

同部位の感染を合併した壊疽に対して、病巣の切断を勧められるも拒否し、

苦痛の緩和のみの治療を選択され、緩和ケア科コンサルトとなった。虚血、

壊疽による激痛に対し、腎不全症例であったためフェンタニルIV-PCA(持

続投与50μg/hr、PCAドーズ75μg)を開始。週3回の透析中に疼痛

が悪化するパターンがみられ、透析時の苦痛は耐えがたく、関連がある

印象であった。この理由の詳細は検討の余地を残したが、実際上の対応

策として透析時の持続量とPCAドーズをそれぞれ20-30%程度毎回

増量、透析終了時にまた非透析時の投与量に戻すことを開始。また、

PCAドーズの1.5~2倍量の随時投与も適宜活用した。

 この管理法により透析時の疼痛はなくなり、全体としてのQOLも有意

に向上。透析時以外にも頻繁に激しい突出痛があり、PCAドーズ使用が欠

かせなかったが、全体的な疼痛コントロールは安定し、PCA開始前には不

可能であった車椅子移動などの緩和的リハビリもある期間行うことができた。

 この症例ではPCAポンプを死亡までの入院中計85日間使用したが、

疼痛がひどくなればその時点で離脱することも検討していた週3回の透

析を約3ヶ月間維持でき、入院中の有意義な家族との時間を長く持つこ

とができた。反省点としては、条件が整えば本人も妻も自宅退院を希望

していたが、退院後にPCAポンプの継続使用ができないことが、退院後

の透析通院の困難と並んで自宅退院をあきらめざるを得ない要因となった

ことである。退院後にPCAポンプを継続使用できる体制作りが痛感された。

 乳癌終末期の50歳女性。肺転移、がん性リンパ管症による呼吸困

難が増悪。酸素経鼻投与、ステロイド投与とともに、内服モルヒネを

開始。塩酸モルヒネ5mg内服である程度の呼吸苦改善はみられたが、

モルヒネの副作用と思われた頭重感、傾眠を好まず、モルヒネは中止。

フェンタニルに変更し、IV-PCA(持続投与10μg/hr、PCAドーズ

5μg)を開始。

その後呼吸苦の程度に合わせて経時的に持続量、PCAドーズをそれぞれ

設定変更(持続投与45μg/hr、PCAドーズ35μg)。

持続投与量はベースの呼吸苦レベルによって調節。PCAドーズは毎回

トイレ歩行時、運動歩行時など呼吸困難が予想される場面に予防的に使用。

PCAドーズを1時間の持続投与量と同量にすると眠気が非常に強くなり、

1時間量の50%から80%程度に適宜状態を見ながら増減した。この

患者はがん末期の呼吸苦をPCA使用で自ら調節できることで大きな心理

的安定を得ていた。フェンタニルでは効きが悪い印象が生じ、モルヒネ

(持続投与1.5mg/hr、PCAドーズ1mg)に再度ローテーションをしたが、

死亡まで合計88日間PCAポンプを呼吸苦管理に使用。PCAポンプの

使用で呼吸苦が自制内である期間が増え、終末期であっても食事やトイ

レ歩行など自立的な生活の維持をサポートできた症例である。

【症例 6】がん終末期の呼吸苦に対するオピオイド投与に機械式PCAポンプを活用

ポンプ持続 50μg/hrロックアウト

タイム

20分

フェンタニル持続投与:50μg/hrPCAドーズ量:75μg

ロックアウトタイム:20分

フェンタニル持続投与:65μg/hrPCAドーズ量:90μg

ロックアウトタイム:20分

フェンタニル持続投与:50μg/hrPCAドーズ量:75μg

ロックアウトタイム:20分

PCA ドーズ:20-30% 増量

随時投与: PCA ドーズの1.5 ~ 2 倍 /injection

ポンプ持続 20-30% 増量

透析開始 透析終了

PCA ドーズ:75μg/injection

PCA ドーズ:75μg/injection

※イメージ図

徐々に増量

PCA ドーズ:持続量の 50 ~ 80%

PCA ドーズ:持続量の 50 ~ 80%

ポンプ持続 呼吸苦のレベルに   合わせて調節

ポンプ持続 呼吸苦のレベルに   合わせて調節

PCA ドーズ:5μg/injection

ロックアウトタイム

15分

持続:内服 20mg/day

フェンタニル持続投与:10μg/hrPCAドーズ量:5μgロックアウトタイム:15分

モルヒネ内服5mg/回

フェンタニル持続投与:45μg/hrPCAドーズ量:35μgロックアウトタイム:15分

モルヒネ持続投与:1.5mg/hrPCAドーズ量:1mgロックアウトタイム:15分

ポンプ持続 10μg/hr

※イメージ図

呼吸苦に対して効きが悪い印象のためフェンタニル中止⇒モルヒネに変更

モルヒネの副作用(頭重/傾眠)発現により薬剤変更

Page 6: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

 前述の使用例では、全例で各々患者の状態に応じて持続投与

量と PCA ドーズ量を別設定することが必要であり、CADD

Legacy PCA ポンプが用いられた。

機械式 PCA ポンプのプラス面とマイナス面を整理すると表 1

のようになる(プラス面⑧、⑨は CADD Legacy PCA が持つ特

長的な利点である)。

表 1:機械式 PCA ポンプのプラス面とマイナス面

プラス面 マイナス面

1

2

3

4

5

6

7

1

2

3

4

5

6

7

8

9

認知障害のある患者がPCAボタンの使用法を理解

できない場合には勧められない

不安やせん妄時には痛みではなく、不安感や意味も

なくただドーズボタンを押してしまうリスクがあり、

ロックアウトタイムを長く設定するなど注意を要する

PCA開始後、看護師が痛みを理由に患者のベッドサ

イドに行く必要が減り、逆に看護師とのコンタクト

回数が減ることを嫌う患者がいる

PCAポンプ使用時に、適切にペインモニタリングを

行われていない傾向があることが研究で指摘されて

いる。PCA導入時には必ず使用状況のフォローとペ

インモニタリングの仕組みが必要である

経口オピオイドで十分管理可能な疼痛の場合には、

必要のないPCAポンプの接続ラインが増えること

により体動が制限され、ADL低下、QOL低下にな

ってしまうリスクがある

PCAポンプ購入には費用がかかる

いわゆる患者の状態がもっとも進行したターミナル

後期に体動困難、ベッド上で常時安静臥床状態、かつ

疼痛が持続痛で突出痛がない場合に、オピオイドを

開始する場合にはシリンジポンプで十分疼痛管理が

可能でPCAポンプの必要性は少ないだろう

ボタンを押すという作業を通じて、痛くなる場面が

予想できる場合には予防的にドーズを使用できるこ

とで、患者自らが痛みの治療に参加できる�

痛くなったら我慢せずに直ちにドーズを使用でき、

担当看護師をその都度コールして薬の投与を待たず

にすむため、その間の痛みを我慢する必要がなくなり、

看護師に痛みを頻回に訴えることで感じていた心理

的な負担が減る�

緩和ケアに最も重要な食事摂取や生活動作の維持は

痛みのコントロールと密接に関係する。自らPCA

ドーズを使う適切なタイミングを体得し、自らが最

も良好な生活サイクルを作れることは大きなQOLの

向上につながる�

病院スタッフの適切な教育と指導の下に、患者に付

き添う家族がドーズを押すことで患者の疼痛ケアに

参加できる�

携帯小型式PCAポンプは体力的には普通レベルの

ADL(Activities of Daily Living)が、ひどい疼痛

(特に突出痛)により障害されている場合に利用価値

は高い�

嘔吐、嘔気などの理由で経口摂取不能、消化管を使

用できない患者で激しい疼痛(とくに突出痛)があ

る場合に経静脈・皮下PCAはよい適応である�

疼痛増悪にオピオイド増量が必要な場合にオピオイド

の至適量測定(タイトレーション)を短期間に安全

に行うことがPCAポンプにより可能である。

がんの積極的治療中の疼痛悪化に疼痛緩和目的の短

期入院が今後益々増えることが予想されるが、この

場合にPCAポンプの使用が最適である�

間欠痛のみで持続痛が全くない場合に、“持続はゼロ

でPCAドーズのみ使用”の設定を行うことができる�

実際の使用例の症例のように持続痛と突出痛の程度に

あわせて持続量とPCAドーズを別個に設定できる�

機械式PCAポンプの特徴

モルヒネ? フェンタニル? どちらを選ぶ?コラム 2

初めてのオピオイド定期使用者のPCA開始の場合、

通常はモルヒネでよいが、以下の場合にフェンタニルを

検討します。

a. 高度腎機能障害

b.せん妄や意識障害合併例 (NSAIDs等のオピオイド以外での除痛方法を検討)

c.ひどい便秘症、腸閉塞合併例 (オピオイド以外での除痛方法を併用検討)

d. 後期高齢者や臓器不全合併のハイリスク患者

Page 7: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

 医師が PCA ポンプを処方しても、これを実際に操作し、薬液

交換作業を行うのは現場の病棟ナースであり、操作方法や問題

発生時の対処法について看護部、ME室、薬剤部との連携が不

可欠である。当院ではこれらの部署と協力して、院内での普及

と教育に努力している。

 もうひとつの問題点として、入院中には PCA ポンプを使用で

きても、退院後や転院後に継続使用ができない状況がある。

がん拠点病院などの緩和ケアの中心的施設が地域施設と連携して、

PCA ポンプが疼痛管理法として不可欠な場合に、適切なサポー

トを行える体制作りが早急に必要である。

 具体的には在宅 PCA の普及と教育、地域連携施設同士が集ま

っての PCA 勉強会などを行っていく必要がある。亀田総合病院

では入院治療と当院が自前で行う在宅医療部の連携が良好であり、

必要なケースでは PCA ポンプを在宅でも使用している。しかし、

在宅での PCA ポンプ使用時の機械トラブルに 24 時間体制で対

応できるシステムが現時点では存在せず、これは今後の課題で

ある。

 米国では、在宅医療と連携して high tech company とよば

れる会社が地域に存在し、在宅 PCA 患者のサポートを 24 時

間体制で行っている。日本でもこれに準じた体制作りが今後の

課題である。

今後のがん疼痛コントロールにおける機械式PCAポンプ使用の展望 オピオイドの間欠的な静脈内投与法と PCA ポンプ使用時で疼

痛コントロールの有意差を比較試験した研究など、様々な PCA

ポンプについての臨床試験がこれまで行われているが、ランダ

ム化された大規模比較試験はなく、PCA ポンプの有用性を支持

するエビデンスレベルの高い臨床研究や PCA ポンプ使用に関す

るプロトコールの標準化が必要である。今後ますます積極的な

がん治療の選択肢が増え、治療期間の長期化、治療内容の高度

複雑化に伴い、良好な疼痛管理ががん治療を順調に継続できる

か否かの鍵を握ることが多くなると思われる。日本を先取りす

る米国疼痛緩和医療の現場での筆者自身の臨床経験を振り返っ

ても、積極的治療中の標準的な疼痛治療法として機械式 PCA ポ

ンプの使用が日本でますます増加するだろう。今回紹介した症

例のように多様な疼痛パターンに即した機械式 PCA ポンプの利

用によって、より良好な疼痛コントロールを実現できる可能性

がある。

機械式PCAポンプの課題と問題点

最後に1980年代から緩和医療について、オピオイ

ドの適正な使用が強調されつづけて20年以

上経ちますが、緩和医療の現場ではまだまだ

痛みに苦しむ患者さんが多く存在するのが現

状です。適応がある場合にPCAポンプを正し

く活用し、一人でも多くの人の痛みが緩和さ

れることを願ってやみません。

Page 8: PCAポンプとは? - smiths-medical.com · 【症例3】体動時の激しい突出痛の症例 60歳の進行肺癌の男性。腫瘍は左の腕神経叢に浸潤し、左の上腕

The global brands of Smiths Medical

スミスメディカル・ジャパン株式会社は、「早期からの緩和ケアの実現」を目指して、

亀田総合病院 関根龍一 先生の貴重な体験や、さまざまなご意見を頂きCADD NEWSを発刊いたしました。

今後、患者様のQOLに対応した理想的ながん性疼痛管理の普及にお役立て下さい。

Literature No. 12044092008033000CL1bdd