[ 運動器①(症例報告) ] p 6 左殿部の荷重時痛により歩行の...
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【目的】 杖歩行の左立脚期に疼痛が生じ、左立脚期が短縮することで実用性低下を認めた左坐骨骨折の症例を担当した。杖歩行の実用性改善に対して、姿勢・動作観察、歩行時に生じる疼痛評価を中心に行い、治療を行った。その結果、杖歩行時の実用性が向上し、病棟内杖歩行を獲得したためここに報告する。
【症例紹介】 症例は86歳の男性で、自宅トイレに行こうとした際に転倒し左坐骨骨折を受傷した。また、本症例には既往歴として14年前に脳梗塞を呈し左片麻痺が生じていた。本症例の主訴としては、「しっかり歩けるようになりたい」であり、在宅復帰には、屋内杖歩行の獲得が必要であった。そこで、Needs として杖歩行の実用性向上とした。初期評価時の Brunnstrom Recovery stage は手指Ⅰ上肢Ⅱ下肢Ⅲであった。表在及び深部感覚は正常であった。
【説明と同意】 本症例はヘルシンキ宣言に基づき、発表の趣旨を十分に説明し、同意を得た。
【経過】 本症例の初期評価時(受傷後25日目)の ADL は病棟内車椅子移動であり、リハビリ時に杖歩行見守り~軽介助レベルで実施していた。杖歩行では、左立脚初期から中期にかけて体幹・骨盤の左回旋、左股関節軽度屈曲、左膝過伸展が生じ、左立脚中期での股関節伸展は乏しく、その際に左臀部に疼痛を認め、歩幅の減少が生じていた。歩行時の疼痛はVisual analog scale(以下 VAS)4であり、10 m 歩行速度は49秒、歩数は52歩、歩行率1.1(歩 /s)であった。筋緊張検査では、左大殿筋・左大腿四頭筋の筋緊張低下、左下腿三頭筋の筋緊張亢進を呈していた。疼痛評価として、初期評価時には炎症所見、臥位での他動・自動運動や筋への圧痛等の疼痛は消失していたにも関わらず、移乗動作や歩行動作時の左単脚支持の際には疼痛が生じていた。また、セラピストが前方に位置し骨盤左回旋を股関節介助にて修正し左股関節伸展を促しながらの左側単脚支持を行うことで荷重時痛は認めなかった。そこで、治療として、セラピスト介助や骨盤帯への弾性緊縛帯による左股関節伸展を誘導しながらの荷重練習やステップ動作を中心に行い、荷重に対する疼痛や不安感が消失していくにつれて介助歩行へと移行し、その後杖歩行を実施した。その結果、2週間後の最終評価時には、VAS は0、10 m 歩行31秒、歩数は45歩、歩行率1.5(歩 /s)となり、歩行時の左立脚中期における股関節伸展の増大、体幹・骨盤
の左回旋に伴う過度な股関節内旋は軽減し歩行の実用性向上を認め、病棟内杖歩行自立を獲得した。
【考察】 本症例は、初期評価時には炎症所見、受傷部位の筋への圧痛や自動・他動運動などでの疼痛は改善していたにも関わらず、移乗時や歩行時の左単脚支持の際にのみ疼痛が残存していた。また、荷重時痛に関して、本症例の筋緊張検査では、大殿筋の筋緊張低下を認めており、セラピストによる股関節介助での荷重の誘導で疼痛は生じなかった。これらより、本症例では大殿筋の筋緊張低下により左立脚中期での股関節伸展は乏しく体幹・骨盤左回旋に伴う股関節の過度な内旋や左股関節軽度屈曲位で荷重することで、通常よりも股関節の屈曲・内旋モーメントが増大することで今回の受傷部位である坐骨結節から起始するハムストリングスや外旋筋の起始部に荷重・伸張力が過度に加わり疼痛が生じていたと考える。そこで、大殿筋の緊張改善のために、左立脚中期における左股関節伸展を促した状態で疼痛や不安感が生じないようセラピスト介助下や骨盤帯への弾性緊縛帯での荷重練習、ステップ動作を行い自己の身体位置や荷重を意識しながら段階的に治療を実施した。最終評価時には、左立脚中期に必要とされる大殿筋の収縮と荷重に対する恐怖心の軽減により杖歩行での左立脚初中期に左股関節伸展の増大および体幹・骨盤の左回旋に伴う過度な股関節内旋の軽減を認めたと考える。その結果、杖歩行時の VAS は0となり歩行速度の改善・歩幅の増大を認めた。このことで、杖歩行の実用性向上を認め、病棟内杖歩行の獲得に至ったと考える。
【理学療法研究としての意義】 本症例を通じて、異常姿勢と骨折部位への荷重肢位を考慮した中での荷重練習を行うことで、より疼痛が出現しにくい肢位での荷重練習が可能となり、早期に移乗や歩行動作の獲得につながる可能性があると考える。
左殿部の荷重時痛により歩行の実用性低下を認めた左坐骨骨折の一症例
○濱田 諒(はまだ りょう),吉田 直樹,松浦 伸治交野病院 リハビリテーション科
Key word:坐骨骨折,荷重時痛,荷重肢位
ポスター 第4セッション [ 運動器①(症例報告) ]
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