p1-53 · 2018. 4. 25. · 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 0123 比 抵...

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0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 0 1 2 3 Ω m 0 500 1000 1500 2000 Ω 水面位置 下流徐々に不飽 和になる 図-2 含水状況と露頭比抵抗の対応 含水低 含水中(沢周辺、表土・ ロームで被覆 含水高(水没、飽和) ①含水状況と露 頭比抵抗の対応 ②地下水分布箇所 での露頭比抵抗の 相対変化 応用地質株式会社 ○千葉伸一、辻岡秀樹、結城洋一、本間宏樹、 岡野肇、瀬戸秀治(現 独立行政法人土木研究所) 国土交通省富士砂防事務所 大森徹治、山根宏之(現浜松河川国道事務所) 独立行政法人土木研究所 木下篤彦、一色弘充(現 応用地質株式会社) 1.はじめに 東日本大震災以降火山活動の活発化により噴火や 大規模土砂災害の発生が懸念されていることを受け て、国土交通省砂防部では火山噴火緊急減災対策砂 防計画策定対象の火山を対象として、平成 25 年度か ら空中物理探査を活用した土砂災害のリスク評価を 進めている。富士山はその対象火山の1つである。 富士山山麓部では人々の生活や経済活動が営まれ ている他、重要な道路・鉄道など交通の幹線が直近 に存在するため、大規模土砂災害発生時には多大な 被害や影響が生じる可能性がある。本発表では、空 中物理探査により得られる比抵抗の解釈手法ととも に、地形要素と合わせた安定度が低い箇所を抽出す る考え方について述べる。 2.空中物理探査手法 物理探査は、地上に敷設した送信源(同軸ケーブ ル)から人工的に発生させた電磁波が作る誘導磁場 を空中で測定し、その誘導磁場から比抵抗構造を求 める可探深度 1,000m の「地上ソース型時間領域空中 電磁探査」とした(図-1)。 3.比抵抗値の解釈 比抵抗は間隙率、飽和度、固結度、粘土含有量お よび地下水の導電率と定性的な関係を示し、特に水 に対して敏感であるため地質的解釈には注意を要す る物性である。そこで、空中物理探査で得られた比 抵抗値の防災上の意味付けについて、現地踏査時に 実施した露頭での比抵抗測定結果などに基づいて、 含水、変質および火山噴出物の産状に着目して解釈 を行った。 (1)含水 図-2①は含水低、含水中(沢周辺、表土・ローム で被覆)、および含水高(水没、飽和)で区分した露 頭比抵抗分布であり、含水が多いほど比抵抗値が低 い。図-2②は土石流堆積物中の水面を挟んで露頭比 抵抗を連続測定したもので、水面位置より下流側で は 1/4 程度になった。このように、比抵抗値は含水 が多いほど低下することが明らかである。 (2)変質 宝永火口で噴気により変質しているスパター(火 口周辺に噴出された溶岩片)の露頭、非変質部の露 頭が確認された。(図-3)。非変質の比抵抗が72,624 Ω・mであるのに対し、変質している露頭は5,540Ω・ mで 1 桁以上低い。 (3)火山噴出物の産状 地山の不飽和部が(1)の「含水中」の状態であると 見なして、火山噴出物の産状ごとに比抵抗を区分(図 -4)。オーバーラップしているものの、溶岩、降下火 砕物(スコリア)、固結火砕物および泥流堆積物(雪 代堆積物除く)の順で比抵抗が低い。ボーリングコ アの比抵抗測定では溶岩(クリンカー、塊状溶岩)、 スコリア、堆積物の順で比抵抗が低い(図-5)。 送信源 図-1 探査イメージ模式図 P1-53 - A-218 -

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Page 1: P1-53 · 2018. 4. 25. · 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 0123 比 抵 抗 ( Ω ・ m ) 含水低 含水中(沢周辺、表土・ ロームで被覆

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40,000

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60,000

70,000

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0 1 2 3

比抵

抗(Ω・

m)

含水低

含水中(沢周辺、表土・

ロームで被覆含水高(水没、飽和)

0

500

1000

1500

2000

比抵

抗(Ω

・m

水面位置

下流→

←徐々に不飽和になる

図-2 含水状況と露頭比抵抗の対応

含水低

含水中(沢周辺、表土・

ロームで被覆含水高(水没、飽和)

①含水状況と露

頭比抵抗の対応

②地下水分布箇所

での露頭比抵抗の

相対変化

富士山の防災対策を目的として行った空中物理探査による不安定箇所抽出の考え方

応用地質株式会社 ○千葉伸一、辻岡秀樹、結城洋一、本間宏樹、

岡野肇、瀬戸秀治(現 独立行政法人土木研究所)

国土交通省富士砂防事務所 大森徹治、山根宏之(現 浜松河川国道事務所)

独立行政法人土木研究所 木下篤彦、一色弘充(現 応用地質株式会社)

1.はじめに

東日本大震災以降火山活動の活発化により噴火や

大規模土砂災害の発生が懸念されていることを受け

て、国土交通省砂防部では火山噴火緊急減災対策砂

防計画策定対象の火山を対象として、平成 25年度か

ら空中物理探査を活用した土砂災害のリスク評価を

進めている。富士山はその対象火山の1つである。

富士山山麓部では人々の生活や経済活動が営まれ

ている他、重要な道路・鉄道など交通の幹線が直近

に存在するため、大規模土砂災害発生時には多大な

被害や影響が生じる可能性がある。本発表では、空

中物理探査により得られる比抵抗の解釈手法ととも

に、地形要素と合わせた安定度が低い箇所を抽出す

る考え方について述べる。

2.空中物理探査手法

物理探査は、地上に敷設した送信源(同軸ケーブ

ル)から人工的に発生させた電磁波が作る誘導磁場

を空中で測定し、その誘導磁場から比抵抗構造を求

める可探深度 1,000m の「地上ソース型時間領域空中

電磁探査」とした(図-1)。

3.比抵抗値の解釈

比抵抗は間隙率、飽和度、固結度、粘土含有量お

よび地下水の導電率と定性的な関係を示し、特に水

に対して敏感であるため地質的解釈には注意を要す

る物性である。そこで、空中物理探査で得られた比

抵抗値の防災上の意味付けについて、現地踏査時に

実施した露頭での比抵抗測定結果などに基づいて、

含水、変質および火山噴出物の産状に着目して解釈

を行った。

(1)含水

図-2①は含水低、含水中(沢周辺、表土・ローム

で被覆)、および含水高(水没、飽和)で区分した露

頭比抵抗分布であり、含水が多いほど比抵抗値が低

い。図-2②は土石流堆積物中の水面を挟んで露頭比

抵抗を連続測定したもので、水面位置より下流側で

は 1/4 程度になった。このように、比抵抗値は含水

が多いほど低下することが明らかである。

(2)変質

宝永火口で噴気により変質しているスパター(火

口周辺に噴出された溶岩片)の露頭、非変質部の露

頭が確認された。(図-3)。非変質の比抵抗が 72,624

Ω・mであるのに対し、変質している露頭は 5,540Ω・

mで 1桁以上低い。

(3)火山噴出物の産状

地山の不飽和部が(1)の「含水中」の状態であると

見なして、火山噴出物の産状ごとに比抵抗を区分(図

-4)。オーバーラップしているものの、溶岩、降下火

砕物(スコリア)、固結火砕物および泥流堆積物(雪

代堆積物除く)の順で比抵抗が低い。ボーリングコ

アの比抵抗測定では溶岩(クリンカー、塊状溶岩)、

スコリア、堆積物の順で比抵抗が低い(図-5)。

送信源

図-1 探査イメージ模式図

P1-53

- A-218 -

Page 2: P1-53 · 2018. 4. 25. · 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 0123 比 抵 抗 ( Ω ・ m ) 含水低 含水中(沢周辺、表土・ ロームで被覆

3,116

5,728

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比抵

抗Ω・

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塊状溶岩 クリンカー スコリア 堆積物

平均値

図-5 地質区分とコア比抵抗の対応

72624 Ω・m 5540Ω・m

噴気

変質

図-3 変質状況と露頭比抵抗の対応

4.安定度が低い箇所の考え方

3.で述べた含水、変質および火山噴出物の産状

などの地盤要素と比抵抗値を整理すると、表-1 のよ

うに、低比抵抗ほど未固結の細粒物質や水および変

質部が存在する、すなわち強度が弱く降雨などによ

る外力により不安定化しやすい地盤と考えられる。

また、地形の傾斜は、傾斜が急なほど重力的に不安

定になりやすい地形要素である。

そこで、比抵抗と傾斜の組み合わせにより、急傾

斜かつ低比抵抗ほど安定度が低いため、降雨時等に

不安定性が懸念される箇所と考えた(表-2)。

抽出の条件は、比抵抗値は送信源や送電線の影響

を除いた低い方から上位 2 割程度の 200Ω・m 以下で

かつ傾斜は 30°以上(図-6)、および比抵抗が 400Ω・

m 以下でかつ傾斜が 40°以上とし、対象深度は

0,20,40,80m とした。

表-2 比抵抗と傾斜による不安定性の概念

比抵抗

低い 高い

急 1 2

緩 3 4

不安定度(不安定 1 → 4 安定)

5.今後の課題

空中物理探査結果の比抵抗構造は地質区分、変質

および地下水など複数の要因が合わさったものであ

る。本手法で抽出した箇所について、現地にて地形

や地質および地表水の状況を確認し、安定度の低い

地盤条件か判断する必要がある。

また大沢崩れのように、溶岩/スコリアの互層のス

コリア部分が流水により縦浸食されて拡大崩壊に至

るような崩壊機構も考えられる。したがって、明瞭

な集水地形になっており、かつスコリアから構成さ

れる可能性がある比抵抗が相対的に高い箇所につい

ても現地で確認した方が良いと考えられる。

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度数

累計(%)

図-6 比抵抗値ヒストグラム(0m)

送信源等

の影響

200Ω・m以下

400Ω・m以下

比抵抗値Ω・m

累積度数%

固結火砕物 岩屑なだれ堆積物

上位:溶岩

下位:降下火砕物(スコリア)0

2,000

4,000

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12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

0 1 2 3 4 5

比抵

抗(Ω・m

雪代

堆積物

溶岩

降下火砕物

固結火砕物

泥流堆積物

図-4 地質区分と露頭比抵抗の対応

比抵抗※ 低い 高い

地 盤

含 水

変 質

←柔らかい

←水が多い

←軟質化

堆積物 固結火砕物 スコリア 溶岩

高い 低い

あり なし

→硬い

→水が少ない

→硬い

崩壊しやすさ 『低』比抵抗の方が崩壊しやすい

表-1 比抵抗値を左右する地盤要素の概念

※比抵抗はこれらが合わさった値

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