日本におけるマルチステークホルダー 参加型共創の普及に向けて … ·...

24
Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 特別企画コンファレンス 「イノベーションにおける「場」の本質」 日本におけるマルチステークホルダー 参加型共創の普及に向けて :リビングラボの取り組みから 201611月9日 (株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 西尾好司

Upload: others

Post on 10-Jun-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

特別企画コンファレンス

「イノベーションにおける「場」の本質」

日本におけるマルチステークホルダー 参加型共創の普及に向けて :リビングラボの取り組みから

2016年11月9日 (株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 西尾好司

問題意識

CSV(共通価値創造)Sharing Economy(協業経済)の拡大 健康・医療、都市などの領域で社会的価値と事業価値の両方の実現 本当に作るべき新製品やサービスが明確でないこと、自社だけでは解決

できないことを対象とする製品・サービスが求められることも多い。

個人の力を活用するイノベーションの拡大 ユーザー・イノベーション、クラウドソーシング、オープンソース等、

個人やコミュニティによる知識創造活動の拡大。 「対象とする課題・コトに関心のある人」や「共創や開発に協力したい

人」等、専門性のある「個」の力や意識・意欲のある人の活用も必要。

多種多様な人たちとの共創が求められる時代 企業による社外との対話・議論・共創活動が増え、企業は社外との対話

のための空間の設置も増えている。 企業は、エコシステムの構築・多種多様な関係者との共創により自社の

製品やサービスの価値の可能性を高めることも必要。 必ずしも、直接社会的な課題と関連しなくても、通常のイノベーション

能力として、顧客、他社、行政やNPO・NGO、市民等、多種多様な関係者との共創の活用も求められる。

1 Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

研究の概要

目的 日本において多種多様な関係者が参加する共創が促進するための方向性を

明らかにすることを目的として、特に、欧州で活発で、日本でも始まりつつある共創活動のLiving Labの事例研究を中心に研究を行う。

研究項目と研究方法 欧州の現状調査:現地調査と文献調査により、Living Labの活動目的、継

続的な活動にするための課題などを調査。

日本の現状調査(実施中):Living Labを実施・計画機関へのインタビュー(企業、行政、NPO等)により、体制、市民や事業者などの関係者の役割、モチベーション維持の方法、支援・コーディネート機能などを調査。

Living Labのプロジェクトデザインの方向性:海外や国内のLiving Labをコーディネートする大学や企業との議論も参考に、日本でのLiving Lab・共創の枠組み及び普及の方向性を考察。

(参考)海外の状況についての研究成果(富士通総研経済研究所研究レポート) 『Living Lab(リビングラボ)-ユーザー・市民との共創に向けて-』(2012年)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/2012/report-395.html 『ユーザー・市民参加型共創活動としてのLiving Labの現状と課題』(2016年)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/2016/report-430.html

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 2

Living Labとは?

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 3

Living Labの概要 Living Labとは、事業(者)-市民-行政のパートナーシップをベースと

して、人間中心で共創的な方法により、実際の生活・利用環境において、製品やサービスを開発していく(物理的空間ではなく)活動(EC 2009)

EUや各国の支援により、健康・医療、都市、行政、地域などの分野で実施し、Living Labの団体に380以上が登録

①Testbed機能 ユーザや市民等が、製品やサービス(含プロタイプ)を、生活や実際の利用環境、制御された環境下において利用することから、 行動のコンテキストを探求して新しい洞察を獲得 製品やサービスを評価する活動

②共創機能 製品やサービスの提供者と共創する 技術の応用・プロトタイプ化を進め、 可能性を社会に問う 参加するユーザー・市民等は、 対象のサービスや製品の利用者であり、 共創者という役割を担う。

米国から北欧、欧州へ

Living Labのコンセプトは米国で生まれ、北欧に導入され、EUの政策として本格的に支援が行われてきた。

米国で提唱されたLiving Lab(1990年代前半) ユーザが数日~数週間、新技術の利用を観察する施設

北欧のLiving Lab活動(1990年代末~2000年代前半) 実際の利用環境(特にICTにおけるユビキタスな環境)での利用からの洞

察や共創 大学や公的研究を舞台とするLiving Labの立上げやLiving Labのプロジェ

クトを支援する制度の創設(スウェーデンやフィンランド)

EUの政策としてのLiving Lab 2006年からイノベーションやICT領域のプロジェクトとしてスタート EUでは、 現在Open Innovation2.0という、社会的目的達成に向け、

多様な相互関係性を踏まえて、企業・政府・自治体・大学・市民やユーザーが参加する共創を支援しており、Living Labはその重要な政策ツール。

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 4

海外のLiving Labの状況

団体(European Network of Living Lab)の登録は全世界で380超。 米国でもSmart City政策でLiving Labが取り上げられている。

5

(出典)http://www.openlivinglabs.eu/ より筆者一部加筆

57 49 19

27

15

12

16

13 14

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

Living Labの活動分野

スマート都市 12% 製造

2% エネルギー

4%

社会参加 5%

メディア・ コンテンツ

9%

健康・医療 27%

観光

2%

その他

39%

(出典)Mulvenna, Martin, McDade, Beamish, de Oliveira, and Kivilehto(2011)TRAIL Living Labs Survey 2011: A survey of the ENOLL living labs, University of Ulster

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 6

主要な活動分野は、健康・医療、都市、ICTである。 最近ではLiving Labの手法を様々な分野に活用することが増えている。

海外のLiving Labのプロジェクトの事例

在宅医療サービスの開発(他国への展開)

高齢者ケアのためのポータルなソフトウェア開発

生活支援・介護ロボット、歩行・移動支援、高齢者向け住まい(AAL)

長期入院の子供用学習支援システムの開発

エネルギーの効率化のベンチマークやサービスの評価法開発

ショッピングモールの駐車場サービス、障害者のアクセシビリティ向上

キャンパス内のSocial Integrationのためのサービス開発

スマートファクトリー

Living Labへの参加目的

27%

23%

19%

8%

19%

38%

19%

50%

46%

50%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

新しい知識の獲得

インフラや研究施設の改良

生産性の向上

プロセスイノベーション

評判を高める

共創ネットワークの拡大

新しい研究のマーケティング

新しい手法、ツールの開発や応用

サービスの改善

新しいサービスの開発

(出典)European Commission (2009)”Study on the potential of the Living Labs approach including its relation to experimental facilities for future Internet related technologies”

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 8

Living Lab活動に参加する目的は、サービスの開発や改良、共創手法の開発、社外とのネットワークの拡大が中心

大企業は、共創手法や共創に参加する従業員の意識改革を重視

LLの活動主体は大学や公的機関が多い

政府

(中央・地方)

11%

公的セクター

20%

大学

28%

民間セクター

16%

その他

25%

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 9

<企業の例> Philips、Telenor、 Electrolux and Ericsson Nokia、SAP 等

EUや政府の公的資金が活動資金の3分の2を占める。 大学や公的機関が活動主体となることが多い。

(出典)Mulvenna, Martin, McDade, Beamish, de Oliveira, and Kivilehto(2011)TRAIL Living Labs Survey 2011: A survey of the ENOLL living labs, University of Ulster

Living Labの参加者の役割

Living

Lab

サービス・製品

利用者

住民、企業等

LLの手法

提供者

大学・研究機関等

LLの支援者

行政、自治体

サービス・製品

開発・提供者

企業・行政等

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 10

Living Labのプロジェクトの進め方の例

①企画段階 コアメンバーがプロジェクトの方向性を決め、 参加ユーザを募集・選定

②探索段階 対象とするサービスのアイデアを参加者との 間で固め、ユーザの利用のコンテキストを 理解するための情報として、対象サービス との関係性やサービスに対する意見、 関連するユーザの背景を確認する。

③実験段階:実際にサービスをユーザが利用してデータを収集する。

④評価段階 実験段階のユーザの行動動観察や利用のログの取得データ、ユーザへの

新たなインタビューにより、利用後の認識の変化や行動分析、探索段階で得たデータとの比較などから、評価を行う。

⑤共創段階 ユーザへのインタビューやアンケート、ブレインストーミングなどを行

い、ユーザと一緒に次のサービスの企画や改良案を検討し、反映する。 ※ 上記過程を数回繰り返す

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 11

日本のLiving Labの事例

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 12

名称 場所

みんらぼ(みんなの使いやすさラボ) つくば市

横浜コミュニティ・デザインラボ 横浜 桜木町

WISEラボ たまプラーザ

戸塚リビング・ラボ(仮称) 横浜市戸塚区

鎌倉リビング・ラボ(仮称) 鎌倉市

リビングラボラトリー 三浦市

松本ヘルスラボ 松本市

おたがいさまコミュニティ 福岡市

(出典)健康・医療・高齢化社会関連分野を中心に、東京大学IOG資料をベースに作成。

JST・RISTEX(コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン)やMETI(地域ヘルスケア産業創出支援事業)等の公的資金制度の活用、自治体による取り組みなど、日本でも活動が始まりつつある。

例1:福岡「おたがいさまコミュニティ」

目的:「おたがいさまコミュニティ」の形成 アジアン・エイジング・ビジネスセンター(NPO)が主体となり、アイデ

アを出せる場作り、住民が当事者性を持つ、専門家を活用する意識作りや一緒に活動できるようにするコミュニティの形成。

活動内容:「おたがいさまコミュニティ」形成の支援方法確立 住民が自分達の力の限界を知り、その改善策を自分達が考え、住民と事業

者(民間企業、学校や病院など)の目標が一致した活動へ 小学校区3か所を対象に、「コミュニティのみえる化手法」・「協働によ

る事業立案手法」の開発(コーディネート機能も含む) 当事者性:リーダーシップを発揮する人、協力意識を持つ人 専門性:自分達の課題を解決するために専門家(事業者)を活用する意識

波及効果 TSUTAYA(公民館ミニ図書館事業) UR(場を提供し、生協試食会や出張販売、大学や自治体とも連携)

13 Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

例2:松本ヘルスラボ

市民の健康増進と市民との共創によるヘルスケア産業の創出と育成の実現。

市民の会員制クラブ「健康パスポートクラブ」のメンバーが参加し、健康産業に関わる

企業・団体が、新しいサービス・製品を開発することを支援

共創の場(リビング・ラボ)の提供

実証の場(テストフィールド)の提供

(専門家との)相談の場の提供

「健康パスポートクラブ」(年会費3,000円)

半年に1回の無料健康チェックと健康データベースへの記録、健康イベントの参加

開発ワークショップでのアイデア提供や試作品の体験によるアドバイス提供

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 14

(出典)松本ヘルスラボ https://m-health-lab.jp/

日本のインタビューや議論から

Living Labの機能としては、製品評価、ユーザーの利用のコンテキスト・リサーチ、共創のいずれを重視するかは、プロジェクトにより異なる。

ユーザー・市民側 途中でドロップアウトする場合がある。 健康のような直接の目的を強調するよりも、参加する楽しみを強調する方

が参加者を集めやすい場合がある。 地域課題については、参加の動機や当事者意識の醸成は可能。

事業者側 Living Labを製品の評価の機会、ユーザーを自社製品やサービスの評価対

象とする傾向がみられる。 実際に製品やサービスの評価の場合、企業による当初の企画をそのまま実

施することは難しく、企画の再検討が必要な場合もある。 議論や共創の場の設置を勧められると議論・共創を行う企業がある。 積極的にLiving Labの活動を主導・活用しようとする企業が出ている。

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 15

欧州の課題:ユーザ・市民の参加の難しさ

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Living Labに

関心をもつ

Living Labの

便益を理解

Living Labの

コンセプトを理解

Living Labの活動に

実際に参加

不特定の

多くの人の参加

軸ラベル

大変容易 容易 難しい 大変難しい

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

Living Labの関心や活動の意義は理解されるが、コンセプトが分かりにくく、実際に参加することは難しい。

16

(出典)Mulvenna, Martin, McDade, Beamish, de Oliveira, and Kivilehto(2011)TRAIL Living Labs Survey 2011: A survey of the ENOLL living labs, University of Ulster

→ 困難 容易 ←

欧州:コンセプトと実際のギャップ

Living Labの目的の特徴 一般的な目的

イノベーションや開発のプロセス

利用のコンテクストを探求する研究 ×

想定しない利用や新しいサービス機会の洞察獲得 ○

パートナーとしてユーザーが参加して共創する ×

新しいソリューションをユーザーと共に評価、確認 ○

実際(同等)の利用のコンテクストで技術的な試験 ×

コンテクスト

ユーザーの利用環境に近づけた状況で経験・実験 ○

実際に利用するコンテクストで経験・実験 ×

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 17

(出典)Følstad(2008)”Living Labs for innovation and development of information and communication technology: A literature review”, eJOV Executive –The Electronic Journal for Virtual Organizations and Networks, Vol.10, pp. 99–131

EUでは実際の利用からの新洞察獲得や共創活動の継続的な拠点は50か所

コンセプト通りの活動は難しい。Open Innovation2.0 2016の議論では、Living Labをオープンイノベーション活動のより良い「てこ」とするためにre-inventionが必要と指摘。

欧州の課題:参加者のモチベーション

ユーザー・市民側

プロジェクトの最初から最後まで必要なタスクを実施するユーザは多くなく、ドロップアウトする人も多い。理由は、参加の意味や価値が途中で不明確になる、時間がなくなる、製品等が自分に合わないと判断等。

協働に参加するという意識や課題解決、個人の関心等の個人の精神的なインセンティブが、金銭・物質的なものより高い(両方必要であるが)。

熱心な参加者は、自分の考えを聞いてもらえること、研究段階の結果を教えてもらえること、自分が参加することの社会的なインパクトを考慮。

事業者側

当初目標としていない成果が生まれることが多い。非直線的なアプローチが必要になり、明確なゴールに向かうのではなく、カオスの状況下でのマネジメント力が必要であるが、企業は予想できない結果を懸念する。

事前に十分な時間をかけてユーザーや市民等との関係づくりやサービス等のコンセプト開発を行うことが必要。

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 18

論点:Living Labからみた共創の課題ー1

対話の場を構築し、対話から共創に展開する活動の難しさ 本格的な活動から10年経った欧州でも、現在の日本と同様の課題がある。 同質の世界での共創ではなく、異質な人や組織との共創のため、参加者が

立場や行動論理など多様性を理解しあい、信頼を醸成していくので、時間と手間がかかり、プロセスのパターン化も容易でない。

⇒ イノベーション・共創における「場」の再確認

対話の場を構築するために:参加者のモチベーション ユーザー・市民に対して、貢献した努力が、共同財を生み出せるという見

通しやそのことを理解・判断できる情報を提供する。実行によって学び、その過程で個人的に価値ある知識が得られることを理解してもらう。

事業者に対して、生まれつつある成果の有効性を比較的簡単に判断できるようにすること。

事業者側は、ユーザーや市民との円滑なコミュニケーションのための意識改革が必要であり、利用行動を実際の環境から解釈する活動も必要。

⇒ 対話のための事前準備・目的の設定 ⇒ 効果的なコミュニケーション

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 19

論点:Living Labからみた共創の課題ー2

「共創」の場へ展開するために 参加者間の知をつなげるだけでなく、意図的に新しい知識を創造し、多様

な参加者を同じ目標に向かわせ、共創へ展開していくこと。なお、対話の参加者と共創の参加者が異なる場合も多い。

参加者間で殻を破る対話を実現し、密接な関係を構築すること。 ⇒ 対話から共創という活動へ展開する時の変化 仲介のような橋渡しでは不十分、コーディネーターや対話のファシリテー

ターとは違うリーダーシップが必要。 ⇒ リーダーシップ

継続的な活動に向けた企業戦略 共創・イノベーションの「場」とは、1つではなく、社外と社内、開放系

と閉鎖系など、様々な特徴を持つ場を多層的を活用していくこと。 ⇒ 異質な人や組織と暗黙知を共有して新しい知識創造を実施するための 企業戦略、場の構築・活用戦略

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 20

登壇者ご紹介

行政

他社

NPO

自社 ユーザー

解決策を 提供できる人

解決したい 課題のある人

企業

大学

共創に 協力したい人

オープン・イノベーション

九州経済調査協会 南様

コクヨ 齋藤様

市民との共創

21

紺野先生

(注)実際の企業等での活動ではなく、今回のテーマの領域として

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE

顧客価値創造

前川総合研究所 岩崎様

個人 法人

社内

パネルディスカッションのテーマ

1.共創につながる対話をする場を構築するために

2.対話から共創につなげるために(共創の場の構築)

3.事業者側(特に企業)が持続的な活動とするために

4.イノベーションにおける「場」の本質とは

Copyright 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 22

Copyright 2012 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 23