「「パパススタタのの街街・・高高崎崎」」のの

楽楽ししみみ方方 ～～３３４４ののレレシシピピ～～

～パスタの街・高崎への 34 のレシピ～

ようこそパスタの街・高崎へ！ こんにちは高崎パスタ研究会です。

この報告書の作成にあたって、「パスタの街・高崎」の新たなる楽しみ方を探ると

いうテーマで、意気揚々と研究をスタート致しましたが、気が付いた時には、長い

年月を経て築かれてきたパスタの街の迷宮をさまよっておりました。

しかし、研究メンバーや関係者の方々と共有したそのプロセスは、新たな出会い

と、この街の魅力の再発見に事欠くことのない、楽しくもあり、美味しくもあるも

のでした。

そして、高崎パスタの“いま”を記録しておくことが、今回の研究の使命ではな

いのかという結論に至りました。

報告書は、パスタの街の道しるべ的な事項を３４の「レシピ」というスタイルで

まとめました。

全てお読みいただいても良いですし、気になるレシピを自由に組合せて、お読み

いただいても、楽しめるような工夫を施しました。

パスタ店やご家庭のテーブルでの話題の種としていただければ幸いです。

この報告書をお読みいただいたあとに、パスタが食べたくなったと言っていただ

けることを、秘かに期待しております。

≪１．Alla Carta アラカルト≫

パスタの街へとつながる５つの動機

「パスタの街・高崎」について考える際に、とりあえず押さえておきたいトピックを

５つ選びました。普段、何気なくフォークにスパゲッティをからませている間にも、厨

房で起こっていること、またその歴史的、地理的な背景など。

【１】昭和初期、この国のイタリアンの可能性は説かれていた

「西洋食の中で日本人の口に合うのはイタリア料理が一番らしい。肉を少なくし、野

菜や穀類を多く使う点もそうだが味付けが濃厚で日本の砂糖と醤油、味噌に似た汁を作

ることに妙を得ているところも日本人向きだ。（中略）日本人の舌にとってはイギリス料

理はあまり素朴過ぎて物足りない。フランス料理は洒落過ぎこしらえ過ぎ飽が来る。ド

イツ料理はシツコ過ぎる。結局チーズを鰹節のように出汁に使い、野菜で肉の味を出す

イタリア料理が、日本人に向くということになる・・・・」

岡本かの子の随筆『旅とガストロノム』から。太郎を生んだ彼女の感性に、この街の

グルメの可能性を見る思いです。

【２】「１番」じゃないけど全国「２～４番」の群馬にて、

冬の晴天（気象庁：日照時間全国 4 位）で適度に乾燥水はけの良い土壌が良質な小麦

を育てるため、生産量も全国 4 位（農林水産省：平成 22 年産作物統計）。群馬県では小

麦による粉食が食卓の主役となりました。うどんはそのもっとも代表的なもので、総務

省の経済センサスによれば、平成 22 年の人口 10 万人当たりに占める、うどん・そば屋

の店舗数は香川県についで全国 2 位です。また、家計調査における平成 20～22 年平均

の 1 世帯当たりの生うどん・そばの年間支出金額は香川県についで全国 2 位で、小麦粉

についても支出金額は長野県についで全国 2 位（購入量は全国 4 位）と、これらの数字

からも慎ましやかに群馬県に粉食文化が根付いていることがうかがえます。

【３】「もったいない！」から生まれた高崎発祥のパスタメニュー

あさりが入った「ボンゴレ」というと、スープたっぷりのパスタをイメージしますが、

実はこの「スープたっぷり」というのが高崎オリジナル。市内の老舗パスタ店シャンゴ

では、ボンゴレを作る際に捨てていたあさりのゆで汁に着目、旨味がたっぷりであるの

に「もったいない！｣と思った店主がスープに応用したのが始まりです。この「スープス

パゲティ」は 1972 年（昭和 47 年）に初めて売り出してから大手食品メーカーが話を聞

きにくることもあったほどで、うどんを好む群馬県民にも広く受け入れられました。辛

口トマト味の「ベスビオ」は群馬で好まれる辛口味噌ラーメンから着想、イタリアのベ

スビオ火山を想起させるネーミングを施したものです。

【４】「はとバス」増便となった高崎パスタツアー

都内の老舗旅行会社はとバスから 2011 年 7～9 月の日帰りツアーとして商品化された

「北関東スイーツ倶楽部」は、高崎市とみどり市の食をテーマにしたもので、パスタ店

ボンジョルノでのランチが組み込まれています。震災後の回復期にも重なり、このツア

ーが好評で、連日満員、大型バス 2 便が増便となりました。通常、群馬への宿泊温泉ツ

アーは「昼食うどんで夜鍋料理、朝は和食でバイキング」が定番ですが、地元食材を用

いて予算の割にボリュームがあり、オリーブオイルとニンニクの香りは和食続きの観光

客の五感を刺激、この街に新鮮な印象を残せることを実証しています。なお、ボンジョ

ルノへはその後、同業の他社からも団体ツアー受け入れのオファーが絶えません。

【５】年に一度の祭典、キングオブパスタの副産物

「パスタの街・高崎」を代表するイベント「キングオブパスタ」も 2011 年に 3 回目

を迎え、参加店も 17 店に増加、来場者も 5500 人と過去最高を記録しました。小規模店

舗にとっては、1000 食以上の準備や調理、当日の拘束など厳しい条件ですが、認知度ア

ップに大きく貢献しています。特に上位店は予約が殺到し連日盛況、またイベント当日

には会場近くの参加店以外の店舗も行列になるといった珍現象を引き起こしています。

さらにライバル店同士が事前、当日に顔を合わせる機会が持てる、ということは、パス

タの周辺に関わる情報交換や彼らの結束につながっているのは確かです。メディアから

も注目され、TV では全国ネットで数件取り上げられています。

≪２．Antipasto 前菜≫

パスタがある食卓への１１の話題

高崎でパスタを語る上で欠かせない話題をまとめました。

場所は世界から日本、日本から高崎へ、また時代は古代メソポタミアから 2012 年の

今日現在へと、俯瞰を試みます。

【６】そもそも「パスタ」とは

「パスタ」とはもともとイタリア語で「可塑性で粘着性のやわらかい物質、練り物」

の意味。スパゲッティをはじめとする「食べるパスタ」は、イタリア本国では 1967 年

に「パスタ法」が施行されているほど厳格な定義があります。例えば、乾燥パスタにつ

いて「デュラムセモリナ粉と水でつくる」「人工着色料、保存料は使用しない」「卵入り

パスタは、粉 100ｇに対して全卵を 5 個以上使用する」などが義務付けられています。

施行当時はイタリア製のデュラムセモリナ粉で作られたもの以外はパスタと呼べないと

言う条項までありましたが、貿易上の障害を配慮して撤廃されています。逆を返せばイ

タリア国内でふんだんに小麦を入手することができていたと言えます。

【７】本国イタリアは小麦の栽培適地ではなかった

小麦は、紀元前 8000 年頃にはメソポタミア発祥の地であるチグリス川とユーフラテ

ス川の流域から地中海東海岸にかけて栽培され、その後、紀元前 3000 年頃までに東は

中国、南はエチオピア高原、そしてヨーロッパ全域へと伝わります。興味深いのがイタ

リア半島は小麦の栽培に適してはいなかったという点。土壌は石灰岩質な上に降水量も

少なく、灌漑すればすぐに塩害を生じてしまうなど、不利な条件は何重にもあったにも

かかわらず、今日の「イタリア料理＝パスタ」という食文化を築き得たのは、1453 年ま

で繁栄したローマ帝国の影響と言われます。地中海全域を支配した帝国内にはシチリア、

エジプトといった小麦の産地を擁し、このことが後のパスタ文化への礎となるのです。

【８】スパゲッティの定義

少なくとも日本で、以前なら総じて「スパゲッティ」と呼んでしまえば済みましたが、

この「スパゲッティ」は実はパスタの１つの種類の名称で、形や大きさによって様々な

種類があり、それぞれにおおよその名称がつけられています。例えば断面が円形の細長

いパスタでも、スパゲッティは太さ 1.9ｍ /ｍ、以下スパゲッティーニ（同 1.6ｍ /ｍ）、フ

ェデリーニ（同 1.4ｍ /ｍ）、カッペリーニ（同 0.9ｍ /ｍ）と続きます。また平形で 5～8mm

幅の「フェットチーネ」、穴のあいた棒状のものを「マカロニ」はすでに私たちにもお馴

染みのパスタです。メニューの現状から、「スパゲッティの街・高崎」では？という意見

もありますが、「パスタの街」なら子どもでも、お年寄りでも発音しやすいはずです。

【９】パスタ来日、キーワードは「1872 年」

この「パスタ」はいつ頃、どのようにして日本に伝わってきたのでしょうか。 1872

年（明治 5 年）の敬学堂主人著『西洋料理指南』や仮名垣露文の『西洋料理通』に「マ

カロニー」として紹介されていて、ここから推察すると幕末か明治のきわめて早い時期

に、様々な西洋料理とともに紹介されたのではないかと考えられます。

また、これらの書籍の出版と同じ年の 1872 年には横浜の外国人居留地の西洋料理店

では「素麺（そめん）」として、マカロニが出されています。また、1895 年（明治 28

年）に新橋の東洋軒というレストランでイタリア帰りのシェフがパスタをメニューに載

せています。しかしパスタが一般に浸透するのは昭和まで待たなくてはなりません。

【10】国民的メニュー「ナポリタン」の誕生

ここであえて「誕生」という言葉を使うのは、「ナポリタン」が日本発祥のパスタと

言われているからです。戦後、横浜の「ホテルニューグランド」では、ＧＨＱの接収に

より滞在したアメリカ軍人が大量のスパゲッティとケチャップを持ち込んでいました。

ただそれらを和えて食べる、彼らの簡素というより粗食を見かねた当時の総料理長が、

ケチャップの代わりに生のトマトとたまねぎ、にんにく、トマトペースト、オリーブオ

イルを使ったトマトソースを考案、さらにハムとマッシュルームを加え先のトマトソー

スを和えて、パセリのみじん切りとパルメザンチーズをふりかけて「ナポリタン」を完

成させたというものです。

【11】押えておきたいパスタメニューのネーミング

まず、誰もが知っている「ペペロンチーノ」。正式名称は「アーリオ・オーリオ・ペ

ペロンチーノ」。イタリア語のニンニク、オリーブオイル、唐辛子を表し、その名を見れ

ば誰もが料理を想像できるネーミングです。魚介スパゲティーで有名な「ペスカトーレ」

は、「漁師」という意味。港で売れ残った魚介などをトマトソースで煮たものが始まり。

「カルボナーラ」の元々の意味は「炭鉱で働く人」。材料はパスタ、卵、ベーコン、チー

ズ。仕上げにかける黒コショウは、炭鉱の中で髪や身体についた炭が、ふりかかった事

が始まり。それぞれのメニューに由来するエピソードがある点が、何より興味深いとこ

ろです。

【12】高崎初のパスタ店開店、受け継がれる心意気の原点

高崎でパスタが根付いたきっかけは、請地町にイタリア料理店「シャンゴ」を故関崎

省一郎さん（2011 年８月逝去）が開店した 1968 年（昭和 43 年）に遡ります。当時、

高崎市内でパスタ専門店を開いていたのは、同店の他に一軒だけであったといわれます。

高崎のパスタは量が多いといわれますが、これは戦中戦後の食糧難を経験した関崎さん

に「美味しいものをたらふく食べてほしい」という切なる願いがあり、通常 1 人前 80

～100ｇのところ、120～130ｇのスパゲッティを用いたのでした。関崎さんが大事に守

り後進に伝えた心意気は、いまこの街のパスタ店を訪れる人々を笑顔にして止みません。

さらにそこから今日にも受け継がれる高崎発の名メニューが生まれたのでした。

【13】高崎パスタの経営学

とりわけ高崎にパスタ店がひしめくのは、どうしてなのでしょうか。まず考えられる

のは、外食がそれほど一般的ではない時期に、前述の「シャンゴ」が本店を広い駐車場

を備えた郊外に移して営業。のちに湧きあがった外食ブームを見越したかのように、そ

の先駆けになったことが考えられます。そのシャンゴにたくさんの方が弟子入り、独立

し、お互いをライバル視することで切磋琢磨し合い、それが個々のお店のレベルアップ

につながりました。黎明期の数店を第１世代として直弟子の第２世代、孫弟子の第３世

代、さらに現在では他地域、他業種から激戦地高崎に乗り込む第４世代へと、パスタが

つなぐ食のにぎわいの輪は途切れることなく広がっています。

【14】「かかぁ天下」、県民性と市民性のはざまで

「県民性」がバラエティ番組のテーマとして人気を集めていますが、とても誤解が多

いのが「上州名物・かかぁ天下」。このかかぁ天下への不理解が、群馬への負のイメージ

と多くの上州家庭での日常的な悲喜劇を生んでいます。かかぁ天下の本質は、上州の女

性は働き者で経済的な独立性が高かったこと。現在の高崎の、閑雅なパスタランチの光

景は、彼女らの家計外支出が支えています。それは、多忙を極める養蚕のさなか、ファ

ストフードだった「うどん」「おきりこみ」を掻っ込んだ遠祖かかぁの気質を受け継ぐも

のともいえましょう。働き者でもどこかクールビューティ、高崎パスタはそんな市民性

とマッチした食文化なのです。

【15】実力店候補、口コミのプロが満場一致

高崎市商業課が作成する「パスタマップ」。マップを作るために商業応援団サポータ

ーさんを募集して活動しています。女性を中心としたその和気溢れる雰囲気は、出来上

がったマップからも伝わります。これは作業現場での裏話、サポーターさんたちは特に

友達同士でもないのに、なぜか、ほとんどのサポーターさんの「今一番のオススメのお

店」が一致したりします。しかも、その人気ナンバーワンのお店はフリーペーパーなど

にはほとんど掲載されないお店でした。お店の実力もさることながら、女性の美味しい

ものに対する飽くなき探究心が垣間見えます。そんな彼女らの影響力ありげな口コミが、

このパスタの話題をいっそう盛り上げているのです。

【16】パスタマップの効果！？

高崎市商業課でパスタマップを作成し、配布し始めてから、県外の旅行会社から群馬

県への団体旅行ツアーのお客様にパンフレットと一緒に配布したいのでパスタマップが

欲しいという連絡をよく受けるようになったそうです。

例えば伊香保温泉一泊二日のツアーの二日目のランチに、高崎の中心市街地で自由散

策時間を設定して、パスタ店のマップとランチチケットを渡せば、パスタの街高崎を PR

しつつ、中心市街地の活性化にもつながります。ツアー以外の個人旅行でも、群馬の温

泉に旅行にきたら、パスタを食べるために高崎に寄る、というのが群馬の旅行の大定番

になる日も近いかもしれません。

2011 年度（平成 23 年度）商業応援団

サポーターの皆さまの力で、リニューアル

された新パスタ探検隊

≪３．Primo piatto 主菜その一≫

７００人に聞いて分かった５つの事実

2011 年 11 月 3 日に開催された「キングオブパスタ 2011」の会場でアンケートを実施

しました。得られた回答は 729 名から。回答協力者の多くは「パスタ好き」な方という

限定要素はありますが、高崎パスタの今を伝える結果が得られました。

※別冊子あり

【17】「パスタの街・高崎」は意外に県外の人も知っている

「パスタの街・高崎」というキャッチフレーズを知っていますかという問いに対し、

イベントに参加した高崎市民では８０％の人が知っていました。さらに県外からの来場

者においても５０％の人が知っていることが分かりました。県外での認知度は気になる

ところですが、最近ではテレビや雑誌で取り上げられる機会も多くなり、高崎市民が思

っているよりも、県外から高崎に観光や仕事で来る人は「高崎パスタ」との美味しい出

会いを期待しているといえます。また、パスタ店の情報をどこから入手しますかという

問いに対しては “口コミ ”が一番との結果が出ました。「高崎パスタ」を広めるには、県外

の知人・友人が高崎に来た際に積極的に案内するなど、皆で一丸となった地道な広報が

有効です。

【18】人気のイタリアン店がひしめく通り

「パスタストリート」を作るならばどこが適しているかという問いに対しては、①駅

西口近郊、②駅東口近郊、③高崎市役所周辺という３つの選択肢を用意したなかで、結

果はほぼ同数でした。しかし④その他の中の自由記述で意外でもあり、参考にしたい回

答もありました。中心地から少し離れた場所に人気のイタリアン店がひしめく、並榎町

から筑縄町を通る「ハナミズキ通り」があります。パスタ店が出店したくなる磁力があ

るのでしょうか。この通りの周辺エリアには書店やお洒落な雑貨屋やショップ、人気の

スイーツ店やカフェが程よく散在します。その場所でなければ味わえない雰囲気、それ

らの数値化は困難ですが、空間的、経験的なニーズ把握が求められそうです。

【19】ロハス志向？それとも、古きよき時代の再興？

⑱のレシピでは、お洒落な通りとしての「ハナミズキ通り」にパスタストリートを、

という意見の紹介もありましたが、こちらではまた違った視点の紹介です。「ハナミズキ

通り」と同数ほどの意見があったのが「中央銀座通り」。今ではシャッターを閉めたまま

のお店が多くなってしまいましたが、数十年前のえびす講の時などは歩くのに不自由を

覚えるほどの人出がありました。その再興を願っての意見なのでしょうか。また、「（烏

川の）河川敷」という意見もごく少数ありました。リバーサイドで窓の向こうの四季の

移ろいを眺めながら、群馬・高崎の食材で作られたパスタを食べるというのもステキで

すね。

【20】意外な結果！？それとも．．．

ここまで「パスタの街」をうたっていると、高崎市民はどれだけパスタを食べている

のか気になるところですが、残念ながら全国的な調査結果というものはありません。せ

めて来場者における結果ぐらいはということで今回アンケートを実施しました。結果は

高崎市民、高崎市以外の県内の方、県外の方、それほどパスタを食べる頻度に変わりは

ありませんでした。ただ「パスタ店で週１～２回パスタを食べる」という方については、

群馬県民と県外の方では約５％の差がありました。やはり、小麦文化、粉食文化という

群馬の食環境のなかで、パスタ店の多さや、ボリュームがあり、手ごろな値段で食べら

れるからこその結果なのかと考えられます。

【21】もてなし広場に若い女性がたくさん！

一時は中心市街地のもてなし広場を一周してもおさまらないほどの来場者があったキ

ングオブパスタ２０１１。来場者のうち、30 代以下の女性の割合は全体の 43.9％。来

場者の半数弱が 30 代以下の女性であることが分かりました。もてなし広場に 30 代以下

の女性がこんなにも多く集まる機会を他に見たことがない、と主催者は驚きの表情でし

た。実際、女性どうしのグループの参加も多く、高崎パスタへの若い女性の関心の高さ

がうかがえます。流行は若い女性から始まるものです。キングオブパスタが高崎パスタ

の発展に大きく寄与していることは言うまでもありません。そして、パスタは街なか集

客のツールにもなり得るのです。

≪４．Second piatto 主菜その二≫

パスタがつなぐこの街の９つの魅力

高崎が掲げる「○○の街」というキャッチフレーズ。そこには「音楽」、「映画」、「だる

ま」といったこの街の名物が入りますが、これらを結び、いっそう魅力を広げるのが「パ

スタ」ではないかとも思います。

【22】北関東・県都グルメ「宇都宮餃子」を意識しすぎない

たとえバブル経済のもとであっても、自治体や商工会が一攫千金を目論み数百～千万

円単位で宝くじや LOTO6 を購入するようなことはないはずです。ご当地グルメまたは

B 級グルメブームの叫ばれる昨今、地域おこしの起爆剤としての期待から新興のグルメ

もたびたびメディアで取り上げられます。専門のアドヴァイザーとして全国各地を駆け

回る方もいらっしゃるとか。ここで少し冷静に考えてみてください。全国に数千あると

もいわれるご当地グルメ、あなたはいくつ言えますか？し烈な PR 合戦が繰り広げられ

る中で、たとえば名の挙がる筆頭格である「宇都宮餃子」や「富士宮焼きそば」はそん

な中から宝くじ的確率でその地位を勝ち得たものです。

【23】北関東・県都グルメ、群馬の場合

キングオブパスタ実行委員会の方はほとんど意識していませんが、フリーペーパー等

の北関東のご当地グルメ特集で「高崎パスタ」と比較されることが多い前橋市の「豚肉

料理」があります。グランプリ形式のイベントも開かれていますが、いち早く県内で開

催されたのはパスタの方です。ところで、総務省が行う家計消費額調査があります。ご

当地グルメの説明で、その自治体での消費がどれだけ多いかを示す際にしばしば引用さ

れる数値です。実はこの数値は、都道府県と、市レベルでは県庁所在地でしか統計が行

われていません。ですので、高崎はパスタの消費が全国でどれくらいかを知るのは実際

相当困難なことなのです。安易な比較はナンセンスと考える理由です。

【24】育まれてきた多様性を、末永く大事に

「では高崎パスタの特徴って何ですか？」という質問は、高崎のおすすめのお店を訊

かれ、答えたあとかならず受けるものです。「量が多い」では相手は納得しません。「こ

ういう材料を使って、こう調理して…」といったような定義付けが必要、との声も聞き

ます。バラエティ番組の制作会社やグルメライターが取り上げたがらないのはそんな背

景もあります。でもこの定義の難しさは多様性の裏返しとも言えます。それは長い時間

を掛けてお店とお客さんの間で育まれてきた、どこにも真似できないこの街の財産、ま

たは文化。「高崎パスタ」を通り一遍な尺度で他と比較したり、他のグルメと並べてラン

ク付けしたりするのは、あまり意味のあることではありません。

【25】人の真似はしない、「音楽の街」の高崎パスタ

「音楽の街・高崎」を語る上で欠かせない存在である「群馬交響楽団」と「群馬音楽

センター」。戦後の荒廃した北関東の一都市に、当時としては稀なプロオーケストラが生

まれ、市民の浄財により音楽ホール建設を実現したことと、後の高度成長期に同じ街で

パスタ文化が芽生えたという 2 つの事実は、上州、群馬のなかでも古くから交通網が発

達し、宿場町、商業のまちとして多くの人、モノ、情報が行き交ってきたこの街の必然

性によると考えます。新しい文化の受容に対して柔軟、そして、新しいもの好き、人の

真似をすることを嫌う町人気質は、時に他所の者がまず絶対不可能と思うようなことま

で可能にしてきたのです。

【26】感動の余韻に浸る、「映画の街」の高崎パスタ

郊外のシネコン隆盛の昨今ですが、映画好きな市民有志の運営で四半世紀近くの歴史

を刻んできた｢高崎映画祭｣や、彼らの熱意で建てられたミニシアター｢シネマテークたか

さき｣など、この街には｢映画の街・高崎｣という文化シーンが築かれてきました。また都

内からのアクセスが良好で、都会と自然の二つの顔を併せ持つ景観資源は映画やドラマ

のロケ地にも頻繁に登場しています。スクリーンの感動の余韻に浸れる場所として、パ

スタ店は格好の空間。また撮影スタッフや俳優からなる映画関係者にとって、ロケ先で

のご当地グルメは何よりの楽しみ。口コミ力ある彼らも、滞在中にはお気に入りのパス

タ店を見つけてもらうためのサポートは欠かせません。

【27】「赤」が幸福を招く、「だるまの街」の高崎パスタ

地域ブランド力アップに躍起な群馬県がこのたび掲げた海外からの観光誘客戦略。国

内の旅行市場の伸びが頭打ちの中、海外からの観光客の来県に外貨獲得の可能性がうた

われています。とはいえ外国人にとって東京、富士山、京都といったゴールデンルート

以外はまだまだ知名度が低いのが現状です。そんな中で、群馬でも日本一の生産量を誇

る｢高崎だるま｣は香港、台湾の団体客に絵付け体験などが人気です。特に中華圏ではだ

るまのシンボルカラーである｢赤｣がとても喜ばれます。であれば赤色で春の桜や芝桜、

秋のコスモスとともに、トマトソースのパスタの赤と併せてＰＲしたいところ。ホテル

ランチのイタリアンビュッフェは旅行業界ではハズレがないとも言われます。

【28】新鮮な味覚の魅力で、「地産多消」の高崎パスタ

全国で｢地産地消｣への取り組みが定着する中、何でも地元産であれば許されると甘ん

じていては目舌の厳しい消費者から見放される時代になりました。その点、高崎のパス

タは大きな強みになりそうです。｢高崎の農産物はこんなに美味しい｣、郷土料理だけで

なく、瀟洒なイタリアンレストランでもその雰囲気にいっそうの彩りを添える食材、技

がこの街にはあります。例えば温泉旅行で群馬に訪れた方にとって、和食続きの食事か

ら、オリーブオイルの香る前菜、パスタ、アンチパストの皿々は新鮮な食の印象をお持

ちいただけることでしょう。それは「地産地消」から「地産多消」、そして「地産外商」

へとつながることが期待できます。

【29】３か月で７４１皿オーダー実績、鉄道マニアのための高崎パスタ

ＳＬの牽引力には驚かされました。2011 年７～９月に群馬県で実施された大型観光企

画「群馬デスティネーションキャンペーン」では、鉄道マニアをはじめ多くの観光客が

連日高崎を発着するＳＬの見学、乗車に訪れました。この好機を逃すまいと高崎駅周辺

の商店等でさまざまなＳＬ関連商品を発売、全国からファンが殺到し商店街を周遊する

光景が見られました。その中の一商品、パスタ店ボンジョルノの「鉄道イカすみスパゲ

ッティ」は機関車を想起させる真っ黒なパスタ。このメニューの同期間中に提供された

数は 741 皿（スズラン店）と、同店厨房では予想以上の反響に嬉しい悲鳴を上げたほど

です。この街のパスタという素材のフレキシブルな面を物語る出来事でもありました。

【30】古代から受け継ぐ DNA、1300 年以上

1300 年前の奈良時代、711 年（和銅４年）、上野国に新しい郡「多胡郡」が誕生した

ことを、吉井町にある国指定特別史跡、多胡碑が伝えています。この「胡」という文字

からこの地に外国人、主に朝鮮半島からの渡来人が多かったことがうかがえます。古墳

時代までさかのぼってみても、この地に多くの渡来系文化がもたらされたといいます。

このことは、古代のこの地に異文化を受け入れる大きな受け皿があったことでもありま

す。高崎の人は「新しいもの好き」といわれますが、その後も近世にかけて交通の要衝

として発展、また近代では鉄道網、道路網の先進的な発達を遂げたこの街に、同じ群馬

で小麦を用いてパスタが発展した理由。古代から受け継ぐ DNA を見る思いがします。

≪５．Dolce デザート≫

夢だけで終らせたくない４つの提案

一年間の研究活動で、メンバー同士、またはパスタ店主、イベントスタッフ、パスタ

好きな地元の方々と会話を交わす中で語られた夢。こんな街になれば面白い、そんな話

題の一部です。

【31】パスタを学べる街、「ここに泉あり」の精神で

2011 年（平成 23 年）12 月 24 日付け上毛新聞に「パスタ作りに挑戦」という記事が

掲載されています。年末の調理体験といえば蕎麦打ちが定番ですが、親子で生パスタ作

りに挑戦するという発想が、まさに「パスタの街・高崎」の文化のまばゆい一面を物語

ります。子供の頃から地域の風土に根ざした粉ものに触れ、そしてそこから派生した高

崎パスタ文化に触れ、味わいと触感の感動を食卓で共有する仕組み、今後のさらなる発

展にはパスタ店主や調理専門学校、学校給食現場の協力も仰ぎたいところです。そんな

仕組みの前例として、往年の名画『ここに泉あり』のモデルとなった群馬交響楽団の移

動音楽教室という財産を、この街はすでに持っています。

【32】宴会の〆にスパゲッティ、または２次会あがりのスープパスタ

宴会あとにラーメンが食べたくなるのは、飲酒後の肝臓がアルコールを分解するタン

パク質を欲しているから、という説があります。確かに消費カロリーなどは気になりま

すが、お酒の後のダシの効いたラーメンには気持ちがとても落ち着くものです。そんな

宴会の流れに、｢パスタの街・高崎｣流の楽しみ方を確立するには、皆さんの日頃からの

協力が不可欠です。ラーメン店の代わりにパスタ店へ、深夜まで開店しているお店も街

なか、郊外にあります。または幹事さんは宴会コースの最後にパスタをリクエスト。市

外、県外からお越しの方は驚くかもしれませんが、そんな時は「これが高崎スタイル」

と自信をもっていえるようになれば、「パスタの街」はより確固たるものになるはずです。

【33】真剣に、そして遊び心を大切に、「オール高崎産パスタ」を味わいたい

「すべての素材を高崎産でそろえてみたい―――」そんな意欲を熱くするパスタ店主

に、何人も出会いました。国産小麦では無理、といわれていた麺づくりも技術の向上に

より可能となり、高崎産小麦を使った生パスタもいくつかのお店で味わえます。トマト

をはじめとする野菜やキノコ、最近注目されているブランド豚肉、そして地粉の生パス

タ。商都の心意気を受け継ぐパスタ職人、ひた向きに土と向き合う農家、古きを守りつ

つも新しいモノ好きな市民、そんなオール高崎で作り上げた一皿を味わえる日が訪れつ

つあります。

【34】「ついでに寄る街」から「行ってみたい街」へ

2011 年 3 月に北関東自動車道が全線開通、2014 年度には北陸新幹線が金沢まで延伸

されます。また、ここ数年で、高崎駅周辺には多くのホテルがオープンしました。駅前

の飲食店の光景も以前とはだいぶ変化し、馴染みのお店では、商談を終えたビジネス客

が席を埋めていることも珍しくありません。一方で、温泉やアウトドアを目的とした観

光客にとっては、宿泊には至らない「ついで」寄りの方がほとんどです。駅周辺でも、

郊外でも、市内のパスタ店にまずは「ついで」でも寄っていただければありがたい。そ

して、そこでの好印象が、次は目的地として「行ってみたい」という動機につながれば、

「集客都市」としてのこの街の魅力の一面を、先人たちが大事に築いてきたパスタが担

えることになります。

おわりに

パスタの理想的なゆで方の呼称、 “アルデンテ ”。

イタリア語の本来の意味は「歯に当たる」「歯応えのある」だそうです。

茹で過ぎてしまえば軟らかくなってまずくなり、

早く引き上げ過ぎると固くて食べられたものではありません。

そのタイミングというか、サジ加減は、この国の文化をあらわす “粋 ”に通ずるものか

もしれません。

お客さんの笑顔と驚きの表情を楽しみに、ひたすらソースづくりにはげむパスタ職人。

バイタリティをみなぎらせ、高崎ならではのイベントを盛り上げたいと意気込むイベ

ント運営メンバー。

パスタ店の周辺で、遊び心あふれる空間づくりを仕掛ける映画館スタッフ、音楽好き

な経営者。

このグループ研究を通じて、この街の “粋 ”を体現するような方々にたくさん出会えま

した。

何かをきっかけに高崎を良くしたい、この街を元気にしたい、たくさんの人に高崎に

来て欲しい―――。地元愛に満ちた方々ばかりでした。

もしかしたら、それは「パスタ」でなくてもよかったのかもしれません。共通する思

いが交差したところにあったのが、「パスタ」だったのだと思います。

「高崎には名物がない」

と言う人がいます。このテーマに着手するまで、私もそう思っていた一人です。

でもこれからは自信を持ってこう言いたい。

「高崎を知りたければ、街のどこかでパスタを食べてみてください」

いつしか私たちのお気に入りになったパスタ店で、見事にアルデンテに茹で上げられ

たスパゲッティをフォークにからめながら、メンバーのひとりがつぶやいたそんな言葉

を、この研究会のひとつの答えに代えたいと思います。

「パスタの街・高崎」の楽しみ方 ～３４のレシピ～

発行・編集／キングオブパスタ実行委員会「高崎パスタ研究会」

発 行 日／ ２０１２年（平成２４年）５月