東日本大震災での被害実態と今後の防災・減災のあり方 今村 文 … ·...

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- 41 - 31 61 61 42 30 34 18 24 1984年3月 東北大学工学部卒業 1989年3月 東北大学大学院工学研究科博士後期終了 1989年3月 東北大学工学部助手 1992年9月 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研 究センター助教授 2000年8月 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研 究センター教授 2012年4月 東北大学災害科学国際研究所教授・副研究 所長 2014年4月 東北大学災害科学国際研究所教授・研究所長 6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」 合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~ 東日本大震災での被害実態と今後の防災・減災のあり方 今村 文彦,門廻 充侍 東北大学災害科学国際研究所津波工学研究分野 東日本大震災は広域複合災害であり,巨大地震・津波に加えて,液状化・地盤災害,火災, そして原発事故が複雑にしかも様々な時間帯で発生しました.その結果,死亡者は12都 道県で1万5897人,行方不明者は6県で2533人(2019年3月7日,警察庁調べ),関連死は 3701人(2018年9月30日,復興庁調べ)にも及びました.直接死の多くが津波による犠 牲者であり,関連死は現在も増え続けています.同じ悲劇を繰り返さないためには,震 災の恐ろしさを訴え続けるだけでなく,防災・減災への教訓,知識を伝えていくことが 望まれます.当時の経験・実態を記録すること,遺構を保存するとともに,写真や映像, 記録誌なども利活用して,災害発生時に如何に生きる行動が出来るのかのヒントを得る ことが肝要であると考えます. 当時,犠牲者の内,65歳以上の高齢者が55%を超えていました.現在,今後の防災・ 減災の対策のあり方を議論するために,当時の震災データ(犠牲者データ)を元に致死 プロセスを解明し,津波等からの生存するための学問体系を検討しています.津波から の避難実態,漂流状態(漂流物による打撲,圧死),生き残った後での対応(低体温症, 火災による火傷,関連死)など当時のフェーズにおける状況を体系化し,様々な対策を 包括的に検討する試みが行われています.

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第31回

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日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

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日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1984年3月 東北大学工学部卒業1989年3月 東北大学大学院工学研究科博士後期終了1989年3月 東北大学工学部助手1992年9月 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研

究センター助教授

2000年8月 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター教授

2012年4月 東北大学災害科学国際研究所教授・副研究所長

2014年4月 東北大学災害科学国際研究所教授・研究所長

6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~

東日本大震災での被害実態と今後の防災・減災のあり方

今村 文彦,門廻 充侍東北大学災害科学国際研究所津波工学研究分野

 東日本大震災は広域複合災害であり,巨大地震・津波に加えて,液状化・地盤災害,火災,そして原発事故が複雑にしかも様々な時間帯で発生しました.その結果,死亡者は12都道県で1万5897人,行方不明者は6県で2533人(2019年3月7日,警察庁調べ),関連死は3701人(2018年9月30日,復興庁調べ)にも及びました.直接死の多くが津波による犠牲者であり,関連死は現在も増え続けています.同じ悲劇を繰り返さないためには,震災の恐ろしさを訴え続けるだけでなく,防災・減災への教訓,知識を伝えていくことが望まれます.当時の経験・実態を記録すること,遺構を保存するとともに,写真や映像,記録誌なども利活用して,災害発生時に如何に生きる行動が出来るのかのヒントを得ることが肝要であると考えます. 当時,犠牲者の内,65歳以上の高齢者が55%を超えていました.現在,今後の防災・減災の対策のあり方を議論するために,当時の震災データ(犠牲者データ)を元に致死プロセスを解明し,津波等からの生存するための学問体系を検討しています.津波からの避難実態,漂流状態(漂流物による打撲,圧死),生き残った後での対応(低体温症,火災による火傷,関連死)など当時のフェーズにおける状況を体系化し,様々な対策を包括的に検討する試みが行われています.

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日本老年学会総会第61回

日本老年医学会学術集会第61回

日本老年社会科学会大会第42回

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第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

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日本老年看護学会学術集会

【学歴・職歴】1997年岩手医科大学医学部卒業,神経精神科学講座入局.2001年同講座助手.2005年同講座講師.2012年同大学災害・地域精神医学講座教授および岩手県こころのケアセンター副センター長.2016年同大学神経精神科学講座教授.

【学 会】理事(日本自殺予防学会[事務局長],日本精神科救急学会,日本総合病院精神医学会),評議員(日本うつ病学会,日本精神科診断学会,精神医学史学会,日本精神神経薬理学会)

【専 門】自殺対策,精神科救急,災害精神医学,精神医学史,臨床精神医学

【受 賞】2002年世界精神医学会フェロー,2006年日本社会精神医学会優秀発表賞,2006年北米放射線学会Certificate Of Merit賞(共同受賞),2012年日本精神神経学会精神医療奨励賞(MHFA-J代表),2012年日本医師会医学研究奨励賞,2012年生存科学研究武見奨励賞,2013年洋野町保健医療功労者表彰

6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~

大規模災害後のこころのケア:東日本大震災後の岩手県の取り組みについて大塚 耕太郎 1,2,3),小泉 範高 1,2,3,4),赤平 美津子 1,2,3),酒井 明夫 2,5)

1 岩手医科大学神経精神科学講座,2 岩手県こころのケアセンター,3 岩手医科大学災害・地域精神医学講座,4 岩手県精神保健福祉センター,5 岩手医科大学

 大規模災害では避難所から仮設住居,そして復興住宅や自力再建に至る時期まで,被災者は持続的なストレスにさらされており,さらに現実的な生活の様々な困難を抱え問題も長期化することが稀ではない.東日本大震災の被災地,岩手県沿岸は高齢化率も高く,高齢の被災者への対応が求められてきた.地域との結びつきの希薄さ,孤独などの問題は,インフラが整備された後にも継続していくことが想定されている.ハイリスク者アプローチとしては,こころのケアや保健師巡回,社会福祉協議会の生活相談員などによる訪問による支援が必要となる.そればかりでなく,訪問非該当者や相談希望者など地域住民の援助希求行動を受け止める体制としての相談拠点体制も必要である.さらに,被災者にとっては話す場がないなどの問題を抱えており,語りの場としてのサロン活動も重要な支援である.一方,ポピュレーションアプローチの目標は地域住民のメンタルヘルス・リテラシーの向上であり,普及啓発活動が重要である.広く対象に働きかける場として健診や地域の保健事業でこころの健康だけでなく,身体的な健康面や介護予防も視野にいれてこころのケアを働きかけることも必要である.このような地域全体としての事業構築を行う上では,地域の従事者の数を増やすことや,従事者の教育が重要となる.地域でのこころのケアが充実していくためには,関わる従事者を確保することが必須となり,支援者の確保,地域の人材の養成,従事者の教育が重要であるため,ゲートキーパー養成が根幹となる.これらの対策は単一の領域の取り組みとしてすすめるのではなく,地域のさまざまな領域がネットワークや重層化した支援体制の中で協働して活動していくことが求められる.そして,長期的な視点で対策を講じることが復興にあたっての必須の取組であると考えられる.当日は東日本大震災後の自殺対策の実践についても提示させていただきたい.なお,発表にあたって守秘義務や匿名性の保持に十分な配慮して行う.

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日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1978年3月 大阪歯科大学卒業1978年4月 同大学歯科麻酔学講座1981年4月 神戸市立中央市民病院歯科口腔外科1989年6月 神戸市立西市民病院歯科1995年1月 阪神淡路大震災にて病院崩壊2002年4月 神戸市立西市民病院歯科口腔外科部長2008年4月 神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科教授2010年4月 ときわ病院歯科口腔外部長(兼任)

6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~

大規模災害時の歯科保健医療の重要性―災害関連肺炎を防ぐために

足立 了平神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科,ときわ病院歯科口腔外科

 阪神・淡路大震災では920人,東日本大震災では3700人が関連死と認定されている.この死は災害がなければ助かった可能性があることから「救えた命(Preventable Disaster Death:PDD)」とも表現される.関連死を予防することは医療関係者に与えられた大きな使命である.阪神・淡路大震災における関連死には以下の特徴が認められる.

(1)死因の中で肺炎が最多(24%),次いで心筋梗塞,脳卒中が続く(2)高齢者が多い(60歳以上が90%)(3)災害発生後2か月以内に約80%が死亡した また,その後に発生した大規模災害の調査から関連死を引き起こす要因として,①ストレス,②常用薬の紛失や変更による服薬コンプライアンスの低下,③脱水,④生活不活発病,⑤画一的な食事などが共通した因子として挙げられる.このため,高血圧,糖尿病などの基礎疾患の増加,ひいては心筋梗塞や脳卒中の増加・増悪につながったと思われる.一方,肺炎も災害時に増加する.上記要因に加え,極端な水不足から義歯や口腔内の清掃が不備となり口腔内微生物が増加したことで予備力の低下した高齢者の誤嚥性肺炎が増加した結果と推察される.地震後の口腔粘膜炎および歯性感染症の増加はこれを裏付けるものである.さらに,平時との比較において肺炎死の年齢が低下したこと,被害の程度に応じて肺炎死の増減が認められることは,保健・医療供給量の相対的低下によると考えられる.避難所においては高齢者のフレイル予防や要援護者の福祉避難所への速やかな移送,施設・在宅療養者への栄養管理,口腔機能管理が必要である.このように災害関連肺炎の発生が多くの交絡因子によることから,医科・歯科・福祉・行政関係者が一体的となった支援活動が求められる.被災地の高齢者はすべて肺炎の予備群ととらえ発症を予防する視点が必要である.そのためには,口腔ケアが肺炎から「命を守るケア」であることを周知させることが必要であり,平時から「噛める口・飲める口」を維持しておくことが災害時を生き抜く力となることを広く国民に告知するべきである.

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日本老年歯科医学会学術大会

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日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

1986年3月 聖路加看護大学卒業1986年4月- 1994年3月 聖路加国際病院勤務(病棟師長心得)2000年3月 東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻

博士後期課程修了(障害科学博士)2000年4月- 2019年3月 宮城大学看護学部・看護学研究科(2000 〜講師,

2002 〜 2005助 教 授,2005 〜 2019教 授,2011〜 2018学部長,2012 〜 2018研究科長兼務)

2019年4月- 聖路加国際大学看護学部長・教授,宮城大学名誉教授

日本心臓リハビリテーション学会(理事),日本循環器看護学会(理事長),日本災害看護学会(評議員),日本心臓病学会(推薦理事,FJCC),日本看護科学学会(代議員),聖路加看護学会(理事),NPO法人ジャパンハートクラブ(評議員)

6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~

大規模地震災害における健康と生活の連続性~生活支援の重要性を改めて考える

吉田 俊子聖路加国際大学大学院看護学研究科

 東日本大震災による宮城県の死者・行方不明者は12000人近くに達し,震災直後は32万人以上が避難する甚大な被害を受けた. 避難所では感染症などの発症,高齢者の身体活動性の低下や慢性疾患の悪化があった.また甚大な津波被害を受けた地域では,在宅医療の中断による病状の悪化,褥瘡発生,家族を失った心の痛手など心身両面の健康状態の急激な悪化があり,ライフライン,生活物資不足や地区機能の崩壊,情報不足等の厳しい生活環境は健康悪化に重大な影響を及ぼしていた.慢性期に入っても,交通機関の寸断や介護福祉サービスの低下による高齢者の健康問題があげられ,さらに若い家族の死亡による介護や家事,育児の負担増などの問題も発生した.高齢者の健康問題は生活と深く絡み合い,長期化・複雑化している.この震災の経験を通して,生活と健康は切り離せないものであり,対象の生活を支えていく看護支援の重要性を強く再認識した.現在,災害公営住宅への居住などの生活の再構築が行われているが,特に高齢者への健康支援には,その土地で生きてきた経験,自然と共に生活の中で培われた文化,人とのつながりなど,生活の営みを大切にしていくことが不可欠であり,減災・防災に向けても重要であると考える.

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日本老年学会総会第61回

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日本老年社会科学会大会第42回

日本基礎老化学会大会第30回

日本老年歯科医学会学術大会

第34回

日本老年精神医学会第18回

日本ケアマネジメント学会研究大会

第24回

日本老年看護学会学術集会

令和元年第18回日本ケアマネジメント学会大会長東北福祉大学特任教授,東北大学名誉教授

【最終学歴】大阪大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学

【学位・認定】医学博士(東北大学),経済学修士(大阪大学),日本公衆衛生学会認定専門家

【専門領域】医療介護管理学,医療介護安全管理学,ケアマネジメント学

【職 歴】大阪大学経済学部助手,東北大学医学部助手,東北大学大学院経済学研究科医療福祉講座教授,東北大学副総長特別補佐・評議員,東北福祉大学大学院教授

6月6日(木) 16:00 ~ 18:00 第1会場/仙台国際センター会議棟 2F 「大ホール」合同シンポジウム3 大規模地震災害への対応~東日本大震災等の教訓と予想される今後の大規模地震災害対応~

大規模地震災害の課題と対応1978年宮城県沖地震と2011年東日本大震災を参考として

関田 康慶東北福祉大学感性福祉研究所

1 1978年宮城県沖地震の教訓(1)地震の状況 1 発生時刻:昭和53年6月12日午後5時14分頃 2 震源:宮城県金華山沖南部,大きさは:M(マグニチュード)7.4 3 震度:宮城県仙台市及び石巻市で震度5 4 死者 27人,負傷者 10,962人(2)災害の特徴と教訓 1)地域による被害の偏り,ブロック塀倒壊,ガラス片,ビルからの落下物による負傷,倒木や電柱が倒れて交通渋滞,ライフラインの被害,医療機関の機能低下(震度で設備側面,人員配置の機能低下,患者受け入れ乖離)2)教訓:現状を見ると過去の災害が教訓として生かされていない(ブロック塀等)2 2011年東日本大震災の教訓

(1)地震の状況 人的被害:死者 15,883人,行方不明者 2,656人,避難者 293,782人 災害の特徴:大規模広域災害,津波災害,原子力災害(人災),大規模人的被害,広域的ライフラインの長期被害,政府対応の遅さ 喪失したもの:人,住居,職場,医療機関,福祉施設,学校,家族,人間関係,仕事,精神的安定,カルテ,お薬手帳,行政関係重要資料,預金通帳(2)地震の教訓 通信被害対応の複数の選択肢(被害確認・安否確認),食糧不足(備蓄,道路寸断)への対応,ライフライン被害への対応(他地域からの支援),流通の確保(宅配便の活用),ガソリン不足(製油所被害,GS被害,タンクローリーの高速道路の活用),避難所を転々とする利用者への対応,通信手段長期麻痺(情報収集手段はラジオ・自転車・歩行),流通格差への対応(情報取集,ドローン) 健康状態:トイレが少ないため,避難者は排泄を我慢,飲食を控えるようになり,脱水症状,廃用症候群,便秘,津波で薬が流され薬が不足,避難者の病状悪化,避難所の救護班との連絡体制が無い,これらのネットワークづくりが重要,医療と介護の避難所の迅速な開設と生活支援が必要,定期的に訪問する医療関係者の派遣が必要.