最底辺のインフラは地形と気象 ビッグデータを活用して 企業の … ·...

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NTT技術ジャーナル 2017.3 50 192 ITと気象情報を融合させ 世の中のインフラとして提供する ◆貴社の設立の背景をお聞かせください. ハレックスは,気象業務法が改正 ・ 施行された1993年 4月1日に設立されました.この日を境に,それまで気象 庁でしか実施することができなかった気象予報業務が民間 の事業会社でも行えるようになりました.当社は,これら の民間の事業会社の中でも,気象(風,雨等,大気の状態), 地象(地震や火山活動),海象(波浪や海流等の現象)の 3つの分野にかかわる予報業務の認可を気象庁から受け た,数少ない総合気象情報会社です. 株主はNTTデータをはじめ,日本気象協会,鉄道,通信, 電力等,56社で構成されており,社員は60名.そのうち 35名が気象予報士の資格保有者です.会社設立当初は, TVやラジオなどの放送局にお天気キャスターとして気象 予報士を派遣する人材派遣事業を主軸としていましたが, 将来を考え,より収益性を高めるために当社の強みは何で あるのか,そして何ができるのか,を考えるようになりま した. 近年,ITの分野においては,「IoT」「オープンデータ」 「ビッグデータ」「クラウド」「AI」「アナリティクス」といっ たキーワードが使われていますが,これらに共通する要素 が「情報」であることに着目し,それらをIT処理すること で新たな価値を生み出すことができると考えました.私は, 世の中のもっともベースとなるインフラは,地形と気象だ と考えています.つまり,地形と気象は人間の活動すべて にかかわり,その延長で多くの産業に影響を及ぼしていま す.そこで,気象情報をデジタル化して,蓄積された過去 のデータをうまく利用すれば,さまざまなことが見えるよ うになり,多くの産業に付加価値を与えることができるで しょう.これまで,お客さまの課題解決をネットワークや システムの構築という切り口で提案をしていたところに, 新たに気象情報が加われば,マーケティングやリスク管理 などの全く新しい提案ができます.私たちは,気象情報を 産業向けに加工することで新たな市場を開拓し,新たな収 益の柱とすることにしました. ◆具体的な事業内容について教えてください. 気象情報には大きく2つあります.1つは,気象庁から の気象情報をほぼそのまま提供し,TVなどで見ることの できる「一般利用者向け予報」,もう1つは,自治体の防 災活動や事業者向けに気象庁から送られてくる気象情報を 解析,加工して提供する「特定利用者向け予報」です.当 社は現在,「特定利用者向け予報」に注力して事業を行っ ています.元データとなるのは,気象庁から提供される衛 星観測データや「アメダス」(地域気象観測システム)の 観測データ,それに,気象庁のスーパーコンピュータから 出力される数値予報といったオープンデータなど,ビッグ データです.1日約50 Gバイトの数値情報で,新聞朝刊 の約5万日(130〜150年間)分という膨大な量にあた ります. 地域情報は1kmメッシュで細分化 鉄道会社の危機管理や乗客の安全確保に一役 ◆どのようなサービスを提供していますか. 気象庁から送られてくるビッグデータとITを融合させ, 気象情報を活用するためのノウハウを組み込んで新たな付 加価値を生み出すサービスとしてつくり上げたのが,当社 http://www.halex.co.jp/ 最底辺のインフラは地形と気象 ビッグデータを活用して 企業の業務課題の解決に挑む ハレックスは,NTTグループ唯一のIT先導型の気象情報会社だ. 気象情報ビジネスの需要が世界的に高まりつつある中,同社は総合 気象情報会社として異彩を放っている.気象とITをどのように融合 させているのか.同社の越智正昭社長にお話を伺った. ハレックス 越智正昭社長 株式会社ハレックス

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Page 1: 最底辺のインフラは地形と気象 ビッグデータを活用して 企業の … · 出力される数値予報といったオープンデータなど,ビッグ ... 元データとなる気象庁の降雨予測などの数値予報モデル

NTT技術ジャーナル 2017.350

192192

ITと気象情報を融合させ 世の中のインフラとして提供する

◆貴社の設立の背景をお聞かせください.ハレックスは,気象業務法が改正 ・ 施行された1993年

4月1日に設立されました.この日を境に,それまで気象庁でしか実施することができなかった気象予報業務が民間の事業会社でも行えるようになりました.当社は,これらの民間の事業会社の中でも,気象(風,雨等,大気の状態),地象(地震や火山活動),海象(波浪や海流等の現象)の3つの分野にかかわる予報業務の認可を気象庁から受けた,数少ない総合気象情報会社です.

株主はNTTデータをはじめ,日本気象協会,鉄道,通信,電力等,56社で構成されており,社員は60名.そのうち35名が気象予報士の資格保有者です.会社設立当初は,TVやラジオなどの放送局にお天気キャスターとして気象予報士を派遣する人材派遣事業を主軸としていましたが,将来を考え,より収益性を高めるために当社の強みは何であるのか,そして何ができるのか,を考えるようになりました.

近年,ITの分野においては,「IoT」「オープンデータ」「ビッグデータ」「クラウド」「AI」「アナリティクス」といったキーワードが使われていますが,これらに共通する要素が「情報」であることに着目し,それらをIT処理することで新たな価値を生み出すことができると考えました.私は,世の中のもっともベースとなるインフラは,地形と気象だと考えています.つまり,地形と気象は人間の活動すべてにかかわり,その延長で多くの産業に影響を及ぼしています.そこで,気象情報をデジタル化して,蓄積された過去

のデータをうまく利用すれば,さまざまなことが見えるようになり,多くの産業に付加価値を与えることができるでしょう.これまで,お客さまの課題解決をネットワークやシステムの構築という切り口で提案をしていたところに,新たに気象情報が加われば,マーケティングやリスク管理などの全く新しい提案ができます.私たちは,気象情報を産業向けに加工することで新たな市場を開拓し,新たな収益の柱とすることにしました.◆具体的な事業内容について教えてください.

気象情報には大きく2つあります.1つは,気象庁からの気象情報をほぼそのまま提供し,TVなどで見ることのできる「一般利用者向け予報」,もう1つは,自治体の防災活動や事業者向けに気象庁から送られてくる気象情報を解析,加工して提供する「特定利用者向け予報」です.当社は現在,「特定利用者向け予報」に注力して事業を行っています.元データとなるのは,気象庁から提供される衛星観測データや「アメダス」(地域気象観測システム)の観測データ,それに,気象庁のスーパーコンピュータから出力される数値予報といったオープンデータなど,ビッグデータです.1日約50 Gバイトの数値情報で,新聞朝刊の約5万日(130〜150年間)分という膨大な量にあたります.

地域情報は1kmメッシュで細分化 鉄道会社の危機管理や乗客の安全確保に一役

◆どのようなサービスを提供していますか.気象庁から送られてくるビッグデータとITを融合させ,

気象情報を活用するためのノウハウを組み込んで新たな付加価値を生み出すサービスとしてつくり上げたのが,当社

http://www.halex.co.jp/

最底辺のインフラは地形と気象ビッグデータを活用して企業の業務課題の解決に挑むハレックスは,NTTグループ唯一のIT先導型の気象情報会社だ.

気象情報ビジネスの需要が世界的に高まりつつある中,同社は総合気象情報会社として異彩を放っている.気象とITをどのように融合させているのか.同社の越智正昭社長にお話を伺った. ハレックス 越智正昭社長

株式会社ハレックス

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独自の気象サービス「HalexDream!」です.これをAPI(Application Programming Interface)により提供することで,お客さまは,業務に資するさまざまなシステムに容易に気象情報を取り込めるようになります.

元データとなる気象庁の降雨予測などの数値予報モデルは,5〜20 kmメッシュ内の平均値が使われていますが,当社では,1kmメッシュに細分化し,標高補正処理も加えています.また,気象庁から1日4〜8回発表される気象予報データでは予報と実況に乖離が生じる場合があるため,当社では30分ごとのアメダス観測データによる実測補正処理と,実況情報としてのレーダー観測データを活用することで,1日48回,情報が更新されるようにしています.◆HalexDream!はどのように活用されていますか.

例えば,鉄道会社においては,沿線の降水量や降り方を予測し,気象庁の土壌雨量指数(土壌中に貯まっている降雨雨量を指数化したもの)や国土交通省がオープンデータ化をしている土の成分等の情報を活用して,土砂災害の危険度を6時間先まで表示(危険度の可視化)します.これにより,鉄道の速度規制や運行規制,保線業務の支援,そして土砂災害への防災対策等への対応が事前に可能となります.気象情報をデジタル化し,加工することにより,お客さまの業務システムに組み込むことができるようになり,乗客の安全を確保するといった,さまざまなサービスに取り組めるようになりました.◆貴社の強みは何ですか.

当社の強みは,単に気象情報を提供することではなく,データをお客さまの業務に利活用していただけるよう解析 ・ 加工し,そしてデジタルデータを可視化する専門技術を兼ね備えていることです.

お客さまにとって必要なことは,雨が降るかどうかではなく,降雨が業務にかかわる場所や業務自体にどのような影響があり,どのような潜在的なリスクがあるのかを知ることです.気象情報等の専門家ではないお客さまにとって,活用できるかたちで情報提供されなければ意味がないため,お客さまが必要とする形式で情報を解析 ・ 加工し,リスク要因を可視化して表示する必要があります.それによりお客さまは,気象状況が急変したときや災害発生時における迅速な対応を図ることが可能となります.言い換えれば,当社の情報は,リスクマネージメントに直結するサービスでもあります.

また,地震にも対応しています.例えば,緊急地震速報のデータを使い,地震発生直後に,「この方向からこの地震波が来たらどう揺れるか」を即座に計算し,地図上に推定地震度分布図を表示し,お客さまに提供しています.これらを図で表示しますと,岩盤の固さ等により地震の揺れ方は異なるため,必ずしも震源を中心とした同心円上に揺れるわけではないことが分かります.どこがどう揺れたかが分かれば,それを初動に活かし,リスクの低減につなげる

ことができます.◆重点的に取り組まれているのはどのようなことですか.

人材育成です.お客さまのニーズに合うように気象情報を解析できる気象防災アナリストを育成し,気象データの使い方が分からないお客さまへのコンサルティング営業を行っています.また,「ビッグデータの可視化」から「状態の可視化」を行い,いかにその状態を見やすくするか,ということに力を入れています.見える化し,そこにインテリジェンスを組込むことで,気象予報士の仕事の幅が広がり,データから読み取ることのできる地域特性や気象特性に応じたビジネス展開の可能性を自ら考えるようになりました.◆どのような課題がありますか.

小規模の会社ですから,販路に乏しいという課題があります.私どもは気象情報にかかわる素材(気象庁等からのデータ)とレシピ(解析 ・ データ加工技術)により可視化された情報を提供することはできますが,エンドユーザであるお客さまの業務は千差万別で個々に直接対応していくことには限界があります.お客さまとのチャネルを形成し,課題への対応を個別に図るためには,NTTグループとの連携が欠かせません.まずグループ会社に当社のことを知っていただき,各社の営業と協力してそれぞれのお客さまの業務に踏み込んだコンサルティング,提案を行い,ソリューションを提供できるようになれば,気象情報の利活用のフィールドも広まるのではないかと考えています.

農業は気象情報との親和性が高い 自動監視や生育予測のインフラとして

◆�今後の展望について教えてください.現在もっとも興味があり,力を入れたいと考えている

のは農業分野です.天候に影響されやすい農業において,気象情報をデジタル化,可視化することのインパクトは大きく,当社の取り組みは多方面から注目されています.この分野における気象情報の活用イメージとして,まず,第1ステップで,気象情報をデジタル化し,利活用の基盤となるインフラを整備します.第2ステップで,土の中の水分量や温度 ・ 湿度のモデル化や業務の見える化を行うことにより,農作物の自動監視やリスク管理,さらに,生育予測が可能となります.そして,第3ステップで,得られた効果を検証し,業務の改善や経営革新につなげることができるようになります.

農業にかかわらず,多くの産業は何らかのかたちで気象現象と関係があるのではないでしょうか.今,当社に求められているのは,何よりもお客さまの活用方法に合った付加価値の高い気象情報サービスを提供することでしょう.今後,世界の気象情報ビジネスの市場規模はますます拡大し,当社が提供する気象データが企業の事業判断を行う際の重要な情報として,活用されるようになることを期待しています.

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NTT技術ジャーナル 2017.352

担当者に聞く

◆業務概要についてお聞かせください.私どもは,2人とも

気象予報士ですが,当社が開発した気象情報サービスの営業を担当しています.具体的には,法人企業に対し,

「HalexDream!」 をお客さまの業務に組み込 む こ と で, 情 報 としての価値のみならず,お客さまの持つ課題を解決する効果を生むために,本サービスがどれだけ役に立つツールであるかということをご提案しています.「HalexDream!」は,気象庁から取得した情報を解析し,

さらに当社独自のデータを付加したオリジナルな気象情報システムです.すでに鉄道会社のみならず,食品スーパーにおける来客予測システムの開発会社等,さまざまな分野のお客さまにご活用いただいています.

気象情報を防災のために活用することはもちろんですが,それ以外に,「HalexDream!」が企業のコストの低減化や収益の向上に寄与する付加価値のあるツールであるということを,当社のお客さまに説得力を持って訴求することが営業部のミッションであると考えています.当社はNTTデータグループですから,ITの専門家であるという強 み を 前 面 に 出 し, お 客 さ ま の 業 務 シ ス テ ム の 中 に

「HalexDream!」を組み込んでいただくことでお客さまの課題を解決し,その効果を継続的に出していただけるよう,提案することに取り組んでいます.◆どのような業種の企業に提案されるのですか.

鉄道や食品関連以外にも,多岐にわたっています.例えば,製造業,流通業,運輸,放送といった業界です.ネットで検索されて当社にお問い合わせをいただくケースが多く,営業担当として,まずはお客さまの課題に,耳を傾けることから始めています.例えば,ある精密機器を扱うメーカさんの場合,日常業務は水とのかかわりが深く,水質はもちろんのこと,集中豪雨や川の水位の上昇といったことに非常に高い感度をお持ちでした.加えて,豪雨などが工

場の稼働にも影響することから,お客さまの業務における精度の高い気象データのかかわりと必要性をご理解いただけるように努め,提案しました.

また,当社の気象情報は飲料メーカ様の販売促進事業においても活用されています.温度 ・ 湿度や風,日差し等の気象状況が変化しても,当該メーカ様の飲料を,一般の方に美味しく飲んでいただけることを説くためには,どのようなCMを打てば効果的なのかといった検討に,当社ならではのノウハウが凝集された情報を活用していただきました.このように,気象データを商品の販売促進やCMに活用することも,新しい利活用の仕方であると感じています.

お客さまに対し,気象情報の提供にとどまらず,「ここの強みを活かしていただくと,こういうことができるようになる」という具体的な活用方法も提案させていただき,業務の中で,最大限,かつ最適な効果が得られるようにサービスをカスタマイズして提供できますと,その対価として単価も大きくなり,当社の利益の向上につながります.これこそが,気象データの特徴を理解している気象予報士という付加価値を持った営業として,お客さまの課題解決のお手伝いができるという,民間気象会社の営業担当の醍醐味だといえるのではないでしょうか.◆苦労されることはありますか.

気象庁から発表される気象情報やインターネットで閲覧できるような情報はオープンデータで,無料で利用できますので,そこに付加価値を付けた情報であっても,企業の方は,今まで前例のない利活用の仕方,しかも有料であることに対して,非常に慎重です.例えば,「こういうことができます」と新しい提案をしても,「それはどこかで導入していて定量化された効果が見えているのか」と逆に質問されてしまいます.他がやっていないことを先駆けてやるからこそ,同業者の中で抜きんでられる可能性があるのですが,前例がないゆえに費用対効果の検証が難しくなることで,二の足を踏まれて,社内における検討事項としての優先順位が下がってしまいます. 

お客さまのところに伺い,話をしますと,多くの方は,まず,「どれくらいの確率で当たりますか?」というように,予報の精度を気にされます.しかし,当社が提供するサービスは,雨が降るか,晴れるか,という,気象予報そのものではありません.さまざまなデータを利活用することで,土砂災害やゲリラ豪雨といったこの先発生する可能性のある事象,つまり企業にとってのリスク要因を予測し,そのリスクを未然に回避するためのツールになり得るということです.

ほとんどのお客さまとって,気象情報についての分かり

「HalexDream!」はお客さまの課題解決を支援する気象情報ツール第一事業部営業部 営業課 �課長代理 山本 ゆめさん� �

主任 谷生 美奈さん

(左から)谷生美奈さん,山本ゆめさん

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やすい尺度といえば,当たり ・ はずれの精度しかありませんので,常にそれを気にされることについては,私どもも理解できます.しかし,業務にとり大切なのは,精度よりもむしろ気象情報をどう利活用できるかということです.降水確率という一般的な感覚に加えて,今日の予報であれば,雨がどこで,どの時間帯にどんな強さで,どのような降り方をするのか,という情報を細かくお伝えすることができます.雨を凌ぐという発想1つとっても,具体的な材料が用意できますから,例えば,屋外でキャンペーンを行っているようは場合,降雨に備えてテントの準備が必要なのか,あるいはキャンペーンの中断,中止が必要なのかといった,業務に即した最適な判断をするためにも,当社のソリューションが有効であると考えています.◆気象予報士の資格は,営業にどのように活かされていますか.資格を持っていますと,気象庁が出した情報に対して,

情報の意味はもちろんその背後にある意図まで分かります.ですから,お客さまのご要望を伺ったときに,あのデータのあの強みをお客さまの業務とマッチングさせれば,ご要望を叶えられるのではないかと推測できるわけです.また,気象情報の限界やデータの癖も把握しているので,より現実に則した提案ができるというメリットがあります.◆今後どのようなことに重点的に取り組んでいきますか.

2015年の下期ごろから,過去データに対する需要が急速に高まってきました.そこで,お客さまのニーズにおこたえするために,過去5年分のデータを1km四方単位で任意の場所で取得できるシステムを立ち上げました.これらは,リスクや防災のための解析に役立てることが可能ですし,ビジネス面においては,売れ筋予測といったマーケティング活動などにも応用が可能です.これらを企業向けに販売を始める予定です.

■気象のプロが考える新たなビジネスモデルとは旅行中,雨に降られて,せっかくの計画も台無し.帰る日になってやっと快晴,なんていう経験,よくありますよね.けれどもそれは我々一般人の話.世の中には,「限られた旅行日程を100%フルに活用し,楽しむことができる」という人がいます.それが,今回取材に応じてくださった気象予報士の山本さんと谷生さんです.「旅行に行くと,旅先の天気予報をきちんと解釈できますので,無駄のない計画を立てることができます」と山本さんは,その秘訣を伝授してくださいました.「例えば,私たちは,昼過ぎから雨雲がかかるので,その前に泳いでおいて,雨が降る午後に,屋内で楽しめる水族館に行く,というように,天気とうまく付き合って行動するようにしています.皆さんは,気象情報を意識することなく,どこに行くかという目的で計画を立てられると思うので,そこで天気に恵まれないと,楽しみきれずに満足度が下がってしまうことがあるのではないでしょうか」.確かに,気象情報を基に,旅行の計画を立てるという発想はありませんでした.しかもそれは,ビジネスにつなげられるといいます.「お客さまをお迎えする側が,事前に気象情報や,それに見合った観光情報や最適なルートをお客さまにお伝えすることができれば,おもてなしになるのではないでしょうか」(山本さん).気象情報という誰にも等しく与えられた条件と便利にうまく付き合うということがおもてなしに通じるというわけです.例えば,観光客にとり,富士山が見えるか見えないかは,その満足度に大きく影響するといいます.気象情報を便利に使い,より満足度を高めるサービスが始まれば,2020年に向けて,新たな観光客 ・観光地向けのビジネスモデルができるかもしれませんね.■休憩室は備蓄倉庫同社の職場の一角に和室が設けられています(写真).職場内の気象情報センターには,1日24時間,1年365日,気象予報士が常駐しており,この和室は気象予報士の休憩室,仮眠室となります.そしてあるときは,車座で打合せができる会議室にも変身するそうです.それだけではありません.綺麗な畳敷きの床下は,備蓄倉庫もかねており,1週間分の食料等が蓄えられています.災害発生時には,社員への指示を出す指揮所としても活躍するそうです.

ハレックスア・ラ・カルトア・ラ・カルト

写真 休憩室兼備蓄倉庫の和室