有限要素法援用振動インテンシティ計測の 測定範囲拡大に ......第1章 緒論...

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東京工業大学 平成 12 年度修士論文 有限要素法援用振動インテンシティ計測の 測定範囲拡大に関する研究 指導教官 中村健太郎助教授 平成 13 2 総合理工学研究科 電子機能システム専攻 学籍番号 99M29183 堺 淳

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東京工業大学

平成 12 年度修士論文

有限要素法援用振動インテンシティ計測の 測定範囲拡大に関する研究

指導教官 中村健太郎助教授

平成 13 年 2 月

総合理工学研究科

電子機能システム専攻

学籍番号 99M29183

堺 淳

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目 次

第 1章 緒論 21.1 本研究の背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.2 本研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.3 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

第 2章 原理 42.1 本手法の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42.2 振動インテンシティの定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.3 調和振動の計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.3.1 有限要素法による定式化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72.3.2 強制振動解析と振動分布の重ね合わせ . . . . . . . . . . . . . . . . 82.3.3 最小二乗法の適用と振動分布の決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 92.3.4 最小二乗法の改善 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 102.3.5 振動分布からの応力分布の求め方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 122.3.6 振動インテンシティの算出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

2.4 過渡振動の計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

第 3章 測定条件の検討 173.1 計算精度と条件数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.1.1 シミュレーション方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 183.1.2 シミュレーション結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.2 条件数改善のための測定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 223.2.1 シミュレーション方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 223.2.2 シミュレーション結果 (一次元) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 233.2.3 シミュレーション結果 (二次元) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 313.2.4 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36

3.3 測定条件の有効性の検証 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 363.3.1 シミュレーションによる検討 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 363.3.2 実験による検討 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

3.4 測定誤差の影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

第 4章 過渡振動の測定 484.1 実験のセットアップ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 484.2 振動インテンシティの算出結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

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4.3 高精度化のための信号処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

第 5章 結論 545.1 本研究の成果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 545.2 今後の課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54

謝辞 56

関連図書 57

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第1章 緒論

Abstract

本章では、本研究の背景となる振動インテンシティ計測の現状と本研究の目的について述べる。また、本論文の構成についてもふれる。

1.1 本研究の背景

都心における複合施設から一般的な住居までの、さまざまな建築物において、機械設備

や水周りなどの騒音源から、人間が活動する環境への騒音の伝搬は、建造物を設計するに

当たって、非常に大きな問題である。このように構造物中を直接伝搬する固定伝搬音は、

空気中に放出される空気伝搬音に比べ、遠距離まで伝搬し、騒音の発生源から遠く離れた

箇所で空気中に放出されて騒音問題を引き起こす。その伝搬のメカニズムは非常に複雑で、

従来の手法では把握が困難である。そのため、現状ではこのような騒音に対する対策は、

設計者の経験と勘に頼っているのが現実である。

また、各種機械や自動車でも、騒音対策はTry&Error的なアプローチによって行われて

いる部分が多く、よりシステマティックな騒音・振動対策手法が多方面から望まれている。

このような騒音・振動エネルギーの流れを表現する量として、空気伝搬音に対する音響

インテンシティ、空気伝搬音に対する構造インテンシティが提案されている。これらは、

電磁界のポインティング・ベクトルに相当するベクトル量である。音響インテンシティに

関しては、すでにその計測法が確立され、実際の音響エネルギーの流れを計測する際に用

いられている。最近では ISOによって規格化されるところまで来ている。しかしながら、

振動インテンシティは、その計測が音響インテンシティに比較して遙かに困難であるため、

未だ現実的な測定が行われる段階には至っていない。

振動インテンシィという概念の歴史をひもといて見ると、その計測法が初めて提案され

たのは、以外に早く、1960年にD.U.Noiseux1)によるものである。つづいて、1976年には

G.Pavic3)が平板のたわみ振動子の方程式から、有限差分法によって振動インテンシィの近

似値を求める手法を提案している。これらの 2つの研究が振動インテンシィ研究の古典とさ

れている。その後も、平板や梁など、構造が単純で実際に起こりうる振動の形態 (たわみ・

ねじり等)が仮定でき、かつ、表面の振動から構造物全体の振動分布が近似的に求まる構造

物の振動においては、実際に振動インテンシィの計測が報告されている 17)16)15)14)13)12)。

一方、以上のような仮定に当てはまらない、肉厚な構造物や複雑な構造物に関しても、振

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第 1章 緒論 4

動を駆動する外力や、振動の吸収などを仮定して、有限要素法 (FEM)などのシミュレー

ションで振動姿態を求め、そこから振動インテンシィを求める研究は行われている 9)。し

かし、実際にそのような複雑な構造物の振動インテンシィを実測することは困難である。

これは、構造体内部の振動分布を計測することが事実上不可能であるのが主因である。

1.2 本研究の目的

上記のような現状をふまえ、我々の研究室では、複雑な構造物の振動インテンシティを

実測する手法について研究を行っている 11)6)4)。具体的には、構造物の表面のみの振動分

布を測定し、そこから、有限要素法によるシミュレーションを用いて、構造体全体の振動

分布を推定する。そして、この振動分布の推定結果から全体の振動分布を算出するという

ものである。

昨年までに、この手法を用いて調和振動している 1次元、2次元、3次元の構造物や、よ

り複雑な構造を有する 3次元構造物に対しての振動インテンシティの計測に成功している。

しかし、測定データに含まれる誤差の影響を低減するための測定条件が明らかになってい

なかった。そこで本研究では、測定点数や測定間隔、測定範囲などの測定条件について検

討を行っている。さらに、本手法を調和振動だけではなく、過渡的な振動現象にも適用し

た。そして実際に振動インテンシティの測定を行い、その有効性、測定の条件等に関して

も検討を行っている。

1.3 本論文の構成

本論文の各章の内容は下記のとおりである。

第 1章では本論文の背景、目的、そして論文の構成について述べる。

第 2章では振動インテンシティの定義と有限要素法を援用して振動インテンシティを計

測する原理について述べる。また、実際に計算において必要となる、有限要素法、最小二

乗法などのさまざまな手法についてもこの章で説明する。

第 3章では測定条件について検討を行う。まず振動インテンシティの計算精度を向上さ

せるための測定条件を明らかにし、次いでシミュレーションや実際の測定例を用いてその

測定条件の有効性を検証する。最後に、測定データに含まれる誤差が振動インテンシティ

の計算にどのような影響を及ぼすかについて考察する。

第 4章では、過渡応答している構造物に対し、本手法を適用して瞬時の振動インテンシ

ティ計測を試みる。

最後の第 5章は本論文の結論である。本手法で得られた成果、そして今後の研究課題に

ついて述べる。

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第2章 原理

Abstract

本章では、まず振動インテンシティの定義について述べ、その計算法を示す。次に、調和振動の振動インテンシティ、過渡応答の振動インテンシティそれぞれについて、計測・計算の原理を示す。

2.1 本手法の概要

まず、有限要素法援用振動インテンシティ計測法の概要について述べる。

本来、振動インテンシティを求めるためには、振動インテンシティを算出したい地点で

の、振動速度と、応力分布が必要となる。3次元構造物では、振動速度は 3成分、応力分

布は成分からなる。これらすべての成分を実測するのは困難である。

そのため、従来の振動インテンシティの実測は、梁・平板など単純な構造物のみを対象と

してきた。その上、測定の対象となった振動の形態も純粋なねじり振動や、純粋なたわみ

振動などに限られている。また、完全なシミュレーションモデルでの振動インテンシティ

の算出も行われたが、これには、外力分布等の条件が既知でなければならない。

そのような現状をふまえ、我々の研究室で新たな手法を提案している。この手法の概念

図を Fig.2.1に示した。この手法では、

1.構造物の構造・材質などが既知であるとして、構造物の有限要素法モデルを構築する。

2.振動している構造物の表面の一部の振動分布 Usj を測定する。

3.構造物を支持している箇所や振動源が存在すると思われる箇所などに、駆動力 (外力)fi

が作用していると仮定する。

4. (1)で作成した有限要素法モデルと (2)の測定データから、有限要素法を応用した定

式をもちいて (3)の駆動力の大きさを推定する。

5.推定された駆動力から再び (1)のモデルを用いて強制振動解析を行うことにより、構

造体全体の振動分布を推定する。

6.有限要素法で用いられる形状関数により、(5)の振動分布から各有限要素内の応力・振

動速度を計算する。それらの結果から、VIの定義に基づいてVIベクトルを算出する。

という手順を踏んで振動インテンシティを算出するというものである。

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第 2章 原理 6

Fig. 2.1: VI推定手法の概要

2.2 振動インテンシティの定義

弾性体内部における振動エネルギ wは、弾性エネルギ weと運動エネルギ wk の和で示

すことができる。

w = we + wk (2.1)

ここで、弾性エネルギ weは式 (2.2)のように表すことができる。

we =12[T ]t·[S] (2.2)

式 (2.2)における [T ]と [S]はそれぞれ、応力テンソルマトリックス、ひずみテンソルマト

リックスであり、次式のようになる。

[T ] =

Txx Txy Txz

Tyx Tyy Tyz

Tzx Tzy Tzz

(2.3)

[S] =

Sxx Sxy Sxz

Syx Syy Syz

Szx Szy Szz

(2.4)

同様にして、運動エネルギ wkは式 (2.5)のように表すことができる。

wk =12ρ·−→v 2 (2.5)

ここで−→v は速度ベクトルであり、3次元の場合は

−→v =

vx

vy

yz

(2.6)

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第 2章 原理 7

と定義される。

次に、弾性エネルギweと運動エネルギwkの時間微分を考える。まず、弾性エネルギの

時間微分について考えてみる。

ここで弾性テンソル [c]とコンプライアンス・テンソル [s]を導入する。[c]と [s]には

[T ] = [c][S] (2.7)

[S] = [s][T ] (2.8)

[s][c] = 1 (2.9)

の関係が成り立つ。このことを用いると、弾性エネルギの時間微分は、式 (2.10)のように

表せる。

∂we

∂t=

12

([T ]t·[S] + [T ]t·[S]

)=

12

(([c][S]

)t·[s][T ] + [T ]t[S]

)=

12

{[S]t[c]·[s][T ] + [T ]t[S]

}= [T ]t[S]

= Txx∂vx

∂x+ Tyx

∂vx

∂y+ Txz

∂vx

∂z

+ Tyx∂vy

∂x+ Tyy

∂vy

∂y+ Tyz

∂vy

∂z

+ Txz∂vz

∂x+ Tyz

∂vz

∂y+ Tzz

∂vz

∂z(2.10)

ここで、マトリックスの微分を

∂[T ]t

∂t= [T ]t

∂[S]∂t

= [S]

と表現している。また、運動方程式から

ρ∂−→v∂t

= ∇ · [T ] (2.11)

であるので、運動エネルギの時間微分は式 (2.12)のようになる。

∂wk

∂t= ρ

∂−→v∂t

·−→v

= ∇ · [T ] · −→v

=∂Txx

∂xvx +

∂Tyx

∂yvx +

∂Tzx

∂zvx

+∂Txy

∂xvy +

∂Tyy

∂yvy +

∂Tzy

∂zvy

+∂Txz

∂xvz +

∂Tyz

∂yvz +

∂Tzz

∂zvz (2.12)

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第 2章 原理 8

式 (2.10)と式 (2.12)から、全エネルギの時間微分は式 (2.13)で表される。

∂w

∂t=

∂we

∂t+

∂wk

∂t=

∂t(Txxvx + Txyvy + Txzvz)

+∂

∂t(Tyxvx + Tyyvy + Tyzvz)

+∂

∂t(Tzxvx + Tzyvy + Tzzvz)

= ∇ · ([T ] · −→v ) (2.13)

任意の閉局面で囲まれた領域内部でのエネルギの時間変化はGaussの公式を用いること

で、下記のように表現できる。

∂w

∂t=

∫∫∫∇ · ([T ] · −→v ) dV =

∫∫([T ] · −→v ) · d−→S (2.14)

式 (2.14)が意味するものは、任意の閉局面の表面に流れ込むエネルギの積分値である。

従って、ある瞬間、ある地点における振動エネルギの流れを表すベクトル量、すなわち、

瞬時の振動インテンシティベクトルは、式 (2.15)によって表されていることがわかる。

−→I (t) = −[T ] · −→v (2.15)

これが振動インテンシティの定式である。

2.3 調和振動の計測

2.3.1 有限要素法による定式化

測定対象物を有限要素法によってモデル化するためには、まず、下記のパラメータが必

要であるが、本手法では、これらはすべて既知であることが前提になる。

• 構造体の形状、寸法、材質 (諸材料定数)

• 構造体の拘束条件

• 調和振動の周波数

• 駆動点、吸収点の位置

これらのパラメータを用いて、定式化を行う。

詳細な説明は参考文献 21)7)5) に譲るが、弾性体の有限要素法の定式は下記のように表

せる。

[M ]u + [D]u + [K]u = f (2.16)

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第 2章 原理 9

ここでそれぞれのパラメータの意味は、

u : 離散化された変位ベクトル

f : 外力ベクトル

[M ] : 質量マトリックス

[D] : 減衰マトリックス

[K] : 弾性マトリックス

である。[M ]、[D]、[K]は構造体によって固有なマトリクスである。また、u、f はそれぞ

れ、メッシュ分割された構造体の各節点の各自由度の変位、外力を要素に持つ縦ベクトル

である。たとえば、

ut = (u1x, u1y, u1z, u2x, u2y, u2z, . . . unx, uny, unz) (2.17)

のように表現される。

さて、ここで構造体が角周波数 ωの調和振動していると仮定すると、構造体の各要素の

加速度と速度は

u = −ω2u (2.18)

u = jωu (2.19)

と表すことができる。式 (2.16)に式 (2.18)と式 (2.19) を代入すると、

−ω2[M ]u + jω[D]u + [K]u = f(−ω2[M ] + jω[D] + [K]

)u = f (2.20)

となる。以降、この式を

[A] = −ω2[M ] + jω[D] + [K] (2.21)

[A]u = f (2.22)

と表記する。

2.3.2 強制振動解析と振動分布の重ね合わせ

次に、前節で導かれた式 (2.22)から、実際に振動分布推定を行うことを考える。

我々が提案している手法では、構造体に外力が加えられる駆動点の位置が既知であると

いう前提のもとに解析を行う。この駆動点には、外部から振動エネルギが流入する点と、

外部へエネルギが流失する点の双方が含まれる。

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第 2章 原理 10

このそれぞれの駆動点が単独に駆動された場合の振動分布を重ね合わせることにより、

全体の振動分布を表すことができると考えると、振動分布は、

u =m∑

i=1

fi·ui (2.23)

で表される。ここで

m : 駆動点数 (駆動される自由度の数)

fi : i番目の自由度の駆動力の大きさ

ui : i番目の自由度が単位駆動された場合の振動分布

である。式 (2.23)における uiは式 (2.24)で表せる。

Aui = ki (2.24)

この kiは、i番目の自由度のみが単位力で駆動される力ベクトルであり、

ki = {kij} =

{0 i = j

1 i = j(2.25)

である。

2.3.3 最小二乗法の適用と振動分布の決定

以上の式を用いると、外力分布 fi(1 ≤ i ≤ m)を決定することにより、振動分布を求め

ることができる。本手法では、最小二乗法を用いて、振動分布の実測値から外力分布を決

定する。

得られた測定データを次のように表す。

n : 測定点数 (測定された自由度の数)

xi : i番目の自由度の変位の測定値

このとき、各測定点における測定値と、計算値の誤差 e = {ei}(1 ≤ i ≤ n)は、

e =

e1

e2

...en

=m∑

i=1

fi

ui1

ui2

...uin

x1

x2

...xn

(2.26)

である。したがって、二乗誤差の総和は

Q =n∑

j=1

e2j =

n∑j=1

m∑i=1

(fiuij − xj)2 (2.27)

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第 2章 原理 11

であり、最小二乗法を適用すると、

∂Q

∂fk= 0 (1 ≤ k ≤ m)

n∑j=1

∂fk

(m∑

i=1

fiuij − xj

)2

= 0

2n∑

j=1

{(m∑

i=1

fiuij − xj

)∂

∂fk

(m∑

i=1

fiuij − xj

)}= 0

n∑j=1

(m∑

i=1

fiuij − xj

)ukj = 0

n∑j=1

m∑i=1

fiuijukj =n∑

j=1

xjukj (2.28)

のようになる。これを書き下すと、

n∑j=1

u1ju1j

n∑j=1

u2ju1j . . .n∑

j=1

umju1j

n∑j=1

u1ju2j

n∑j=1

u2ju2j . . .n∑

j=1

umju2j

......

. . ....

n∑j=1

u1jumj

n∑j=1

u2jumj . . .n∑

j=1

umjumj

f1

f2

...fm

=

n∑j=1

xju1j

n∑j=1

xju2j

...n∑

j=1

xjumj

(2.29)

のような連立方程式になる。この方程式を解くことにより、計測された振動分布を満たす

もっとも確からしい外力分布 fi(1 ≤ i ≤ m)を求めることができる。そして、この解を式

(2.23)に代入すると、実測しなかった各節点も含む、構造体全体の振動分布が求めること

ができる。

2.3.4 最小二乗法の改善

式 (2.29)に示した連立方程式を解けば、外力分布が求まるはずであるが、実際には条件

の与え方、測定誤差などの影響を非常に受けやすく、解は安定しない。

本手法では、振動分布を計測し、そのような振動分布を発生させるもっともそれらしい

外力分布を推定する。このような、「結果から原因を推定する」という逆問題において、そ

れぞれの「原因」が引き起こす「結果」が互いに似通っている場合、解は安定しにくい。

本手法の場合は、異なった駆動点を駆動したときに発生する振動分布が似通っていること

が多く、測定結果から、正しい振動分布を推定するのは難しい。

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第 2章 原理 12

このような問題を解決するため、最小二乗法を解く際に特異値分解 (singular value de-

composition)を用いた。これらの手法については、参考文献 19)8)18)20)2)に詳しいので、こ

こではごく簡単に定義だけを述べる。

式 (2.26)において、誤差の総和 eを 0にすることを考えると、

u11 u21 u31 . . . um1

u12 u22 u32 . . . um2

u13 u23 u33 . . . um3

......

.... . .

...u1n u2n u3n . . . umn

f1

f2

f3

...fm

=

x1

x2

x3

...xn

(2.30)

となる。本来、この方程式の解が求まれば、最小二乗法を持ちいる必要も無いのであるが、

一般的にはm = nなので、解は求まらない。このような方程式の解を求める手法のひと

つとして用いられるのが特異値分解である。

まず式 (2.30)を

[A]f = x (2.31)

と書き換える。この [A]の特異値分解は、

[A] = [U ][Σ][V ] = [U ]

σ1 0σ2

σ3

. . .0 σm

0

[V ] (2.32)

で与えられる。ここで [U ]、[V ]はそれぞれ n × n次元、m × m次元の直交行列で、左特

異ベクトル、右特異ベクトルと呼ばれる。[Σ]は、σ1 ≥ σ2 ≥ σ3 ≥ . . . ≥ σm ≥ 0を満たす

対角要素持つ。この σiを特異値と呼ぶ。

ここで、この特異値のうち、値が大きいほうから r個だけを選んで、

σ1 ≥ σ2 ≥ σ3 ≥ . . . ≥ σr ≥ 0

σr+1 = σr+2 = . . . = σm = 0

とすると、r = rank([A])となる。適切な rを選ぶことによって、測定データに含まれる

誤差に影響されにくい、より安定的な推定値が得られるようになる。

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第 2章 原理 13

2.3.5 振動分布からの応力分布の求め方

振動インテンシティベクトルを求めるためには、振動速度の他に応力を知る必要がある

ことはすでに述べた。ここでは、振動分布から応力を求める方法について述べる。

微小変形を仮定した場合、ひずみテンソルは式 (2.33)で表すことができる。

Sxx

Syy

Szz

Sxy

Syz

Sxz

=

∂ux∂x∂uy

∂y∂uz∂z

∂ux∂y + ∂uy

∂x∂uy

∂z + ∂uz∂y

∂uz∂x + ∂ux

∂z

(2.33)

ここで、ut = (ux, uy, uz)は 3次元変位を表すベクトルである。

有限要素法では、メッシュ分割された各微小要素内における任意の点の変位 ueは、微

小要素の各節点の変位と、重み付け関数である形状関数を用いて表される。形状関数は座

標変数の多項式である。

節点の数がmである微小要素において、

ui : i番目の節点の変位を表すベクトル (1 ≤ i ≤ m)

Ni : 形状関数 (1 ≤ i ≤ m)

とすると、ueは、

ue = N1u1 + N2u2 + . . . + Nmum

=m∑

i=1

Niui (2.34)

で表され、その微分は

∂ue

∂x=

∂x

m∑i=1

Niui =m∑

i=1

∂Ni

∂xui =

m∑i=1

Nixui (2.35)

∂ue

∂y=

∂y

m∑i=1

Niui =m∑

i=1

∂Ni

∂yui =

m∑i=1

Niyui (2.36)

∂ue

∂z=

∂z

m∑i=1

Niui =m∑

i=1

∂Ni

∂zui =

m∑i=1

Nizui (2.37)

のように表される。ここで、

∂Ni

∂x= Nix (2.38)

∂Ni

∂y= Niy (2.39)

∂Ni

∂z= Niz (2.40)

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第 2章 原理 14

である。これらの定義を用いて、式 (2.33)を書き換えると、

Sxx

Syy

Szz

Sxy

Syz

Sxz

=

∂ux∂x∂uy

∂y∂uz∂z

∂ux∂y + ∂uy

∂x∂uy

∂z + ∂uz∂y

∂uz∂x + ∂ux

∂z

=

∑mi=1 Nixuix∑mi=1 Niyuiy∑mi=1 Nizuiz∑m

i=1 Niyuix +∑m

i=1 Nixuiy∑mi=1 Niyuiz +

∑mi=1 Nizuiy∑m

i=1 Nizuix +∑m

i=1 Nixuiz

(2.41)

となる。このようにして、変位からひずみテンソルを求めることができる。

次に、ひずみテンソルから応力テンソルを算出する方法について述べる。応力テンソル

[T ]は、ひずみテンソル [S]と材料定数マトリックス [C] を用いて、

Txx

Tyy

Tzz

Txy

Tyz

Txz

=

[C

Sxx

Syy

Szz

Sxy

Syz

Sxz

(2.42)

のようにして求めることが出来る。

ここで、等方性材料の材料定数マトリックス [C]は、

[C] =

C11 C12 C13 0 0 0C21 C22 C23 0 0 0C31 C32 C33 0 0 00 0 0 C44 0 00 0 0 0 C55 00 0 0 0 0 C66

=E(1 − ν)

(1 + ν)(1 − ν)

1 ν1−ν

ν1−ν 0 0 0

1 ν1−ν 0 0 01 0 0 0

1−2ν2(1−ν) 0 0

sym. 1−2ν2(1−ν) 0

1−2ν2(1−ν)

(2.43)

である。Eは構造体のヤング率であり、νはポアソン比である。

以上の式 (2.41)、式 (2.42)、式 (2.43)を用いることによって、振動変位から応力テンソ

ルを求めることができる。

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第 2章 原理 15

2.3.6 振動インテンシティの算出

振動インテンシティの定式が、式 (2.15)のように表されることは既に述べた。調和振動

においては、振動周期における、振動インテンシティの時間平均量が重要となる。これは、

−→I (ω) =

⟨−→I (t)

⟩T

= −⟨[T ] · −→v ⟩T (2.44)

のように表される。ここで、<>T は周期 T における時間平均を表す演算であり、

⟨−→x · −→y ⟩ =1T

∫ T

0x cos ωt · y cos(ωt + ϕ)dt

=12xy cos ϕ

=12ℜ(−→x · −→y ) (2.45)

と表せる。これを用いると、式 (2.44)は、

−→I (ω) = −1

2ℜ ([T ] · −→v ∗) (2.46)

と書き換えられる。これが調和振動における振動インテンシティの定式となる。3次元の

場合は、 Ix

Iy

Iz

= −ℜ

Txx Txy Txz

Txy Tyy Tyz

Txz Tyz Tzz

·

u∗x

u∗y

u∗z

(2.47)

となる。

2.4 過渡振動の計測

過渡振動の場合も、調和振動の場合の式 (2.16) と全く同様に

[M ]u + [D]u + [K]u = f (2.48)

と定式化できる。調和振動と異なるのは、変位の微分を式 (2.18)や式 (2.19)のような形で

表すことが出来ない点である。

そこで、2.3節で述べた調和振動計測手法を過渡振動にも応用する。以下に、その計算

方法を示す。

1.振動している構造物の複数の点における振動データを、時間波形として測定する (調

和振動の場合には複数の点において振幅と位相のデータのみを測定する)

2.それぞれの振動データをフーリエ変換し、周波数分布を求める

3.振幅と位相のデータを、各周波数成分ごとに分類する

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第 2章 原理 16

4.各周波数成分に対して従来の手法を適用し、全体の振動分布を計算して応力と振動速

度を算出する

5.過渡振動時の応力と振動速度を (4)の和から求め、その積を取ってインテンシティを

求める。

(5)のインテンシティの計算は以下の通りである。

 時刻 tにおける応力 Tiと振動速度 viの i次高調波成分は

Ti(t) = |Ti|cos(ωit + θi) (2.49)

vi(t) = |vi|cos(ωit + θi) (2.50)

と表すことができるので、N次高調波まで存在する場合インテンシティI(t)は

I(t) = T · v (2.51)

=N∑i

|Ti|cos(ωit + θi)N∑j

|vj |cos(ωjt + θj) (2.52)

となる。これを計算方法の概要を Fig.2.2に示す。

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第 2章 原理 17

Fig. 2.2: 過渡振動測定の概要

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18

第3章 測定条件の検討

Abstract本手法では測定データをもとに振動インテンシティを求めるが、その適用結果は

測定データに含まれる誤差の影響を非常に受けやすい。本章では、測定データに含まれる誤差の影響を低減させるために、どのような条件が測定データに求められるかについて検討を行う。まず、モデルを用いたシミュレーションによって、駆動力の計算に用いる最小二

乗法行列の条件数が小さいときに振動インテンシティの計算精度が向上することを示す。次に測定点の選び方と条件数との関係について検討を行う。この検討結果を元に、精度の良い計算のための測定条件を提案する。そして、シミュレーションと実際の測定例を用いて提案の測定条件の有効性について示す。最後に、測定誤差の影響についても述べる。

3.1 計算精度と条件数

本手法ではまず式 (2.29)によって駆動力分布を推定し、それをもとに全体の振動分布を

算出して振動インテンシティを求める。したがって、計算した振動インテンシティの精度

は、式 (2.29)においてどれほど精度良く駆動力分布を求めることができるかに大きく依存

する。

ここで、このような方程式の安定性を表す量として、条件数 (condition number)10)と

いう概念を導入する。

[A] · x = b (3.1)

という連立方程式で未知数 xを求める際の条件数は

cond ([A]) = ||A|| · ||A−1|| ≥ 1 (3.2)

で定義され、右辺に入った誤差の割合||δb||||b||

が、左辺||δx||||x||

でどれくらいの倍率になるか

を示している。当然ながら、条件数が大きい方程式は、誤差に対する安定数が悪いと言う

ことになる。

行列 [A]は各駆動点を単独で駆動した振動分布と測定点の位置によって決定され、誤差

を含む測定データには依存していない。したがって、測定点の選び方によって条件数を小

さくすることができる。

この節では、条件数を振動インテンシティの計算精度の一つの指標として用いることが

出来、条件数が小さいときに振動インテンシティの計算精度が上がることをシミュレーショ

ンによって示す。

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第 3章 測定条件の検討 19

3.1.1 シミュレーション方法

シミュレーションモデルを Fig.3.1に示す。model1は長さ 1000[mm]、幅 200[mm]、高

f 1 f 2f f 4 U s 3 U s 2 U s 1

U sU s

Fig. 3.1: シミュレーションモデル

さ 100[mm]の直方体、model2は長さ 1000[mm]、幅 20[mm]、高さ 10[mm]の直方体であ

る。これらのモデルの両端にz方向駆動力を与えて、Z方向に振動成分を有しX方向に進

行するたわみ振動を励振する。この振動分布のデータのうち構造物の上部中央線上データ

を等間隔に抽出し、このデータの振幅に擬似乱数によって誤差を与え、これを測定データ

として本手法を適用して振動インテンシティを計算する。この計算を測定データのデータ

数や間隔を変化させながら行い、その計算精度と計算に用いた最小二乗法行列の条件数と

の関係を調べた。なお、測定データ数と間隔が等しくても測定点の選び方によって計算値

が変化するので、ここでは位置をずらして複数回計算を行い、その平均の値を示す。

3.1.2 シミュレーション結果

まず、測定点数を変化させて振動インテンシティと条件数を求めた。シミュレーション

にはモデル1を用い、周波数が1 4kHzの場合と 141Hzの場合について計算を行った。周

波数を変化させることによってたわみ進行波の波長を変化させることができ、14kHzで

はモデルに5波程度の波がのり、141Hzでは半波長程度の波がのっている。Fig.3.2(a)は

縦軸が算出した振動インテンシティの誤差を振動インテンシティの真値で規格化して示し

ており、Fig.3.2(b)は振動インテンシティを計算する際に用いた最小二乗法マトリックス

の条件数を示している。Fig.3.2(a)から、周波数が 141[Hz]では測定点数を増加させるに

つれて計算した振動インテンシティの誤差が小さくなるのに対し、周波数が 14[kHz]の場

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第 3章 測定条件の検討 20

合には振動インテンシティの誤差がそれほど変化が無いことが分かる。しかし、いずれの

場合も計算した振動インテンシティの精度と条件数の動きが対応していることが分かる。

このことから、条件数が小さいときに振動インテンシティの計算精度が向上することが分

かる。

次に、測定間隔を変化させて振動インテンシティと条件数を求めた。シミュレーション

にはモデル1とモデル2を用い、測定点の数は 8点から 20点として、どちらの場合にも波

長が20 cm程度となるように周波数を調整した。計算した振動インテンシティの誤差を

Fig.3.3(a)に示し、その計算の際に用いた最小二乗法マトリックスの条件数を Fig.3.3(b)

に示す。Fig.3.3(a)より、モデル 1では測定点の間隔を増やすにつれてインテンシティの

誤差が減少したものの、モデル 2では変化が見られない。しかしこのグラフの増減と最小

二乗法マトリックスの条件数の形が対応していることから、この結果からも条件数が小さ

いときに振動インテンシティの計算精度が向上することが分かる。

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第 3章 測定条件の検討 21

0 . 0 0 10 . 0 10 . 11

1 01 0 0

1 0 0 01 0 0 0 0

1 0 0 0 0 0

0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 0

The sta

ndard d

eviatio

n of S

I

T h e n u m b e r o f v i b r a t i o n d a t a

1 4 k H z1 4 1 H z

(a) 振動インテンシティの誤差

1 0 0

1 0 0 0 0

1 e + 0 6

1 e + 0 8

1 e + 1 0

1 e + 1 2

1 e + 1 4

0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 0

The co

ndition

numb

er

T h e n u m b e r o f v i b r a t i o n d a t a

1 4 k H z1 4 1 H z

(b) 条件数

Fig. 3.2: 測定点数の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化

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第 3章 測定条件の検討 22

0 . 0 1

0 . 1

1

1 0

1 0 0

1 0 0 0

1 0 0 0 0

0 0 . 0 5 0 . 1 0 . 1 5 0 . 2 0 . 2 5 0 . 3 0 . 3 5

The err

or ratio

of SI

T h e d i s t a n c e o f m e a s u r e d p o i n t

m o d e l 1 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 8 - 2 0 m o d e l 1 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 2 0 - 4 0 m o d e l 2 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 3 - 2 0 m o d e l 2 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 3 - 2 0

(a) 振動インテンシティの誤差

1

1 0 0

1 0 0 0 0

1 e + 0 6

1 e + 0 8

1 e + 1 0

1 e + 1 2

1 e + 1 4

0 0 . 0 5 0 . 1 0 . 1 5 0 . 2 0 . 2 5 0 . 3 0 . 3 5

The co

ndition

numb

er

T h e d i s t a n c e o f m e a s u r e d p o i n t

m o d e l 1 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 8 - 2 0 m o d e l 1 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 2 0 - 4 0m o d e l 2 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 3 - 2 0 m o d e l 2 : T h e n u m b e r o f p o i n t i s 2 0 - 4 0

(b) 条件数

Fig. 3.3: 測定間隔の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化

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第 3章 測定条件の検討 23

3.2 条件数改善のための測定条件

この節では、条件数を小さくするためにどのように測定データをとるべきか、というこ

とについて検討を行う。条件数は有限要素法モデルと駆動力の加わる位置ををもとに測定

点の位置を決めることによって計算され、測定データに含まれる誤差には依存しない。そ

こで、典型的なモードである正弦波を用いたシミュレーションを行い、測定点の位置によっ

て条件数がどのように変化するかを調べた。

3.2.1 シミュレーション方法

駆動点が二つ存在し、それぞれの駆動点が単独で駆動されたときの振動分布が

u1 = sin(ωt) sin(kxx + kyy − ϕ) (3.3)

u2 = cos(ωt) cos(kxx + kyy) (3.4)

となっているとする。このときの全体の振動分布 uは

u = u1 + u2 (3.5)

で得られる。ϕを変化させることによって定在波比を調節することができ、例えば ϕ = 0

の時には y = 0の直線上では u = cos(kx − ωt) の進行波が生じる。

今 y = 0の直線上のみの一次元の場合を考える。振動データを、dの間隔でN 個測定した

とする (Fig.3.4)。このとき、j 番目の測定点の位置は 1番目の測定点の位置を x0とする

と、xj = x0 + d(j − 1)となるので、二つの駆動点がそれぞれ単独で駆動されたときの j番

目の測定点の変位 u1j , u2j は

u1 = sin{k(x0 + d(j − 1)) − ϕ} (3.6)

u2 = cos{k(x0 + d(j − 1))} (3.7)

ただし  0 ≤ j ≤ (N − 1) 

となる。また、測定範囲 Lは L = d(N − 1)で与えられる。

2次元平面の場合には、測定点を格子状に取るとき、x, y方向の間隔をそれぞれ dx, dy、

測定点数をNx, Ny、測定範囲を Lx, Ly とすると、j,k番目の測定点の座標は

xj = x0 + dx(j − 1) (3.8)

yk = y0 + dy(k − 1) (3.9)

ただし  0 ≤ j ≤ (Nx − 1)  0 ≤ k ≤ (Ny − 1) 

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第 3章 測定条件の検討 24

x0 1 . 0 2 . 0 3 . 0

x 0 x 1 x 2 x 3 x 4 x N - 1d

u 2 = c o s ( k x )u 1 = s i n ( k x - )

u 1 2

u 1 3

u 1 4

u 1 N - 1

u 1 0

u 2 0

u 2 1

u 2 2

u 2 3

u 2 4

u 2 N - 1

Fig. 3.4: 正弦波を用いたシミュレーションの測定点のとり方

となるので、j,k番目の測定点の変位 u1j , u2j は

u1 = sin{kx(x0 + dx(j − 1)) + ky(y0 + dy(k − 1)) − ϕ} (3.10)

u2 = cos{kx(x0 + dx(j − 1)) + ky(y0 + dy(k − 1))} (3.11)

(3.12)

となる。

このとき、振動データをもとに駆動力を計算する最小二乗法行列Aは

A =

n∑

j=1

u1ju1j

n∑j=1

u2ju1j

n∑j=1

u1ju2j

n∑j=1

u2ju2j

(3.13)

で与えられ、この条件数は

cond ([A]) = ||A|| · ||A−1|| ≥ 1 (3.14)

で定義される。

この条件数が、測定間隔 d、測定点数N、測定範囲Lによってどのように変化するかを

調べ、この結果から条件数を小さくするための一般的な測定条件について考察する。

3.2.2 シミュレーション結果 (一次元)

Ny = 1として一次元の場合を考える。ϕ = 0, 76.5[deg]として定在波比を 1, 8.4とした。

測定間隔

まず、測定間隔を変化させて条件数を計算した。測定点数Nx = 100, x0 = 0とし、測定

間隔 dを λ40 ずつ λ 以下の範囲で増加させた。この結果を Fig.3.5に示す。この結果から、

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第 3章 測定条件の検討 25

測定間隔 dが半波長の整数倍 (d = nλ2 ,n:整数)の時に条件数が著しく大きくなるので、測

定間隔はそこから λ10 以上の差がある値

2+

110

λ ≤ d ≤ nλ

2+

410

λ (3.15)

にすればよいと考えられる。

測定点数

測定点数について考察を行った。まず、測定間隔 dを固定し、測定点数Nを 3~100の

範囲で変化させた。測定間隔は λ40 ≤ d ≤ λで変化させたが、その内のいくつかの計算結

果を Fig.3.6に示す。この結果から、測定点数 Nをある程度 (20点)以上とることによっ

て、条件数が収束していることが分かる。しかし収束に向かいながら振動していることの

原因はわからなかった。

次に、測定範囲 Lを固定し、測定点数 Nを 3~100の範囲で変化させた。測定範囲は

0.1λ ≤ L ≤ 3λで変化させたが、その内のいくつかの計算結果を Fig.3.7に示す。測定点

数の増加に対して条件数が単調減少する場合 (L=0.5[λ])、単調増加する場合 (Fig.3.7(a)

L=0.3[λ])、極小値を持つ場合 (Fig.3.7(a) L=0.9[λ],Fig.3.7(b) L=1.2[λ])があることが分

かる。単調減少になるのは Lが半波長の整数倍に近いときで、単調増加になるのはL ≤ λ2

のとき、その他の場合には極小値をもった。極小になるときの測定点数Nと測定範囲 Lの

関係については、SWR=1では x0を変化させても変化が無かったが、SWR=8の場合には

x0を変化させると極小になる測定点数Nが変化していることから、よく分からなかった。

必要な測定点数は、

測定範囲,測定位置

測定する範囲 Lの大きさとその位置について考察を行う。まず、測定範囲 L、測定点数

N、測定間隔 dを固定し、測定位置x0を 0 ≤ x0 ≤ λの範囲で変化させた。L=1.6[λ]、N=7

としたときの結果を Fig.3.8に示す。この結果から、測定位置をずらしただけで条件数が

変化することが分かる。SWR=8.4の場合、条件数が最大もしくは最小になるのは測定範

囲の中心が振動の山または谷に重なった時だった。

次に、測定範囲の長さ Lを変化させたときの条件数の変化を調べた。測定点数 N=100

とし、Lを 0.1~3.0の範囲で変化させて条件数を計算した結果をFig.3.9に示す。。Fig.3.8

から分かるように位置をずらすと条件数が変化するので、ここではその最大値と最小値を

載せた。この結果から、測定範囲を 0.5[λ]以上にすることによって条件数が収束するこ

とが分かる。また、測定範囲 Lが半波長の整数倍の時に最大値と最小値が等しくなり、L

がずれると条件数の値に幅がでてきた。しかし、定在波比が1の時には d = nλ2 の時に条

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第 3章 測定条件の検討 26

件数が 1で最小になったが、定在波比が 8.4の時には Lがずれた時のほうが条件数が小さ

くなることもあった。これらの結果から、条件数が最小になるときのLはモデルや測定を

行う位置によって変化するものの、測定範囲を半波長よりも多くとれば安定した結果が得

られることが分かる。

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第 3章 測定条件の検討 27

(a) SWR = 1

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.5: The condition number vs. distance of sampling point

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第 3章 測定条件の検討 28

(a) SWR = 1

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.6: The condition number vs. the number of sampling point ; d is constant

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第 3章 測定条件の検討 29

(a) SWR = 1

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.7: The condition number vs. the number of sampling point ; L is constant

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第 3章 測定条件の検討 30

(a) SWR = 1

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.8: The condition number vs. the location of sampling area ”x0”:L=1.6[λ],N=7

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第 3章 測定条件の検討 31

(a) SWR = 1

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.9: The condition number vs. the length of sampling area

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第 3章 測定条件の検討 32

3.2.3 シミュレーション結果 (二次元)

同様のシミュレーションを二次元の場合についても行い、一次元の結果が二次元にも応

用できることを示す。測定点は 3.10の様にとり、3.2.2節の結果から x方向に分布する測

定点は条件数が安定するNx = 20,Lx = λ2 で固定し、y方向の測定点の分布を変化させて

条件数の変動を調べた。また、一次元の場合と同様に ϕ = 0, 76.5[deg]として定在波比を

1, 8.4とした。

x

y

d y d x

N x

N y

Fig. 3.10: 測定点のとり方

測定点数

測定範囲の幅 Ly を固定し、測定点の列数Ny を 3~15の範囲で変化させたときの条件

数を Fig.3.11に示す。ϕ = 76.5[deg]の場合には測定範囲を平行移動すると条件数が変化

するので、Fig.3.11(b)にはそれらの値の最大値と最小値を示した。この結果より、測定点

数Nyが少し増加しただけで条件数が減少している様子がわかる。このことから、測定点

の列数を少し増加させるだけでも計算の安定性が上がることが分かる。

測定範囲

次に、測定範囲の幅Lyを変化させたときの条件数の変化を調べた。測定点の列数Ny =

13とし、Ly を 0.1~3.0[λ]の範囲で変化させて条件数を計算した結果を Fig.3.12に示す。

ϕ = 76.5[deg]の場合には Fig.3.8のように位置をずらすと条件数が変化するので、ここで

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第 3章 測定条件の検討 33

はその最大値と最小値を載せた。この結果から、測定範囲を 0.5[λ]以上にすることによっ

て条件数が収束することが分かる。

ここまでの議論では論点を明快にするために測定点数、測定範囲、測定間隔をそれぞれ

独立に扱ってきたが、この 3つの変数は

L = dN (3.16)

という互いに従属の関係にある。そこでその 3つの関係を同時に見るために、本節の結果

を Fig.3.13にまとめる。ϕ = 76.5[deg]の場合には測定位置を平行移動すると条件数が変

化するが、Fig.3.13ではその最大値のみを示す。この図より、(Ly, Ny) = (2, 2), (2, 4)のよ

うに測定間隔 dyが半波長の整数倍になるときには条件数が悪くなることが分かる。また、

測定点を一列だけとる場合 (Ny = 1)に対し、列数を少しでも増やした場合には条件数が

著しく減少することが分かる。

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第 3章 測定条件の検討 34

2 4 6 8 10 12 14 160.95

1

1.05

1.1

1.15

The number of sampling point

Condition number

(a) SWR = 1

0 5 10 1564

66

68

70

72

74

76

78

80

The number of sampling point

Condition number

maximaum valueminimum value

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.11: The condition number vs. the number of sampling point

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第 3章 測定条件の検討 35

0 0.5 1 1.5 20.95

1

1.05

1.1

1.15

The length of sampling area[λ]

Condition number

(a) SWR = 1

0 0.5 1 1.5 260

65

70

75

80

85

The length of sampling area

Condition number

maximaum valueminimum value

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.12: The condition number vs. the length of sampling area

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第 3章 測定条件の検討 36

0

5

10

15

0

0.5

1

1.5

2

1

1.05

1.1

number of point:y-directionlength of y-direction’s measured area

the maximum value of condition number

(a) SWR = 1

0

5

10

15

0

0.5

1

1.5

2

70

72

74

76

78

80

number of point:y-directionlength of y-direction’s measured area

the maximum value of condition number

(b) SWR = 8.4

Fig. 3.13: The condition number vs. the length of sampling area and number of samplingpoint:Nx = 20, Lx = λ

2

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第 3章 測定条件の検討 37

3.2.4 まとめ

以上の結果をまとめると、条件数を小さくし、誤差に対する安定性をよくするための測

定条件は次のようになる。

(i).測定範囲 Lは半波長以上にする

(ii).測定間隔は半波長 (λ2 )の整数倍にはしない

(iii).測定点数は駆動点の 10倍以上とる

(iv).弾性波が二次元的に分布する場合には測定点も二次元に配置する

3.3 測定条件の有効性の検証

前節で提案した測定条件の有効性を確認するため、測定条件をシミュレーション結果と

実際の測定例にあてはめる。

3.3.1 シミュレーションによる検討

3.1節で行ったのと同様のシミュレーションを行う。シミュレーションモデルの形状は鉄

製の梁とL字アングルとし、モデル 1とモデル 2を梁、モデル 3をL字アングルとした。

モデル 1、モデル 2の形状は Fig.fig:simumodelと同じで、寸法を Table3.1に、モデル 3

の概要を Fig.3.14に示す。

Fig. 3.14: シミュレーションモデル:L字アングル

これらのモデルの両端に合計二個のZ方向駆動力を与え、たわみ振動を励振する。この

振動データのうち表面一部の振動分布データを抽出し、位相または振幅に誤差を与える。

これを用いて振動インテンシティを計算した。また、振動インテンシティ計算に用いた最

小二乗法マトリックスの条件数も計算した。誤差はガウス分布に従い、標準偏差が 10度

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第 3章 測定条件の検討 38

Table 3.1: The simulation model

モデル 長さ [mm] 幅 [mm] 厚さ [mm] 周波数 [Hz] 波長 [mm]モデル1 1500 30 5 535.8 300モデル2 2000 60 10 2411 200

の位相誤差と、振幅値の 20

測定範囲

モデル 1を用い、測定範囲Lを変化させた。条件数と測定範囲の関係を Fig.3.15(a)に、

計算した振動インテンシティの誤差率と測定範囲の関係をFig.3.15(b)に示す。Fig.3.15(a)

より、測定範囲を半波長以上とることによって条件数が小さくなることが分かる。これに

対して Fig.3.15(b)をみると、位相誤差を与えた場合には測定範囲を半波長以上とること

によってインテンシティの誤差が小さくなるが、振幅誤差を与えた場合には計算結果が測

定範囲に依存していない。

測定間隔

モデル 2を用い、測定間隔dを変化させながら計算を行った。条件数と測定間隔の関係

を Fig.3.16(a)に、計算した振動インテンシティの誤差率と測定範囲の関係を Fig.3.16(a)

に示す。Fig.3.16(b)より、測定点の間隔が半波長の整数倍になったときに条件数が大きく

なっていることが分かる。これに対して Fig.3.16(b)より、位相誤差を与えた場合には条

件数と同じように測定間隔が半波長の整数倍になったときに誤差が大きくなっているが、

振幅誤差を与えた場合には測定間隔と誤差との間に相関関係がみられなかった。

測定点の列数

モデル 1とモデル 3を用い、測定範囲 Lを変化させながら計算を行った。測定点の取り

方は梁の中央線上の 1列× 10個の場合と、中央線上と長辺上の 2列× 5個とした。計算

した条件数をFig.3.17(a)、Fig.3.18(a)に示し、位相誤差を与えて計算したインテンシティ

の結果をFig.3.17(b)、Fig.3.17(b)に示す。この結果から、測定点を 2列とることによって

VIの精度が向上することが分かる。

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第 3章 測定条件の検討 39

0 0.5 1 1.5 2 2.5 30

1000

2000

3000

4000

5000

6000

The length of sampling area

The condition number

(a) 条件数

0 0.5 1 1.5 2 2.5 35

10

15

20

25

30

35

40

The length of sampling area

∆ VI [%]

∆ a = 20[%]∆ p = 10[deg]

(b) 測定範囲とインテンシティの誤差

Fig. 3.15: 測定範囲の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化

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第 3章 測定条件の検討 40

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 20

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

The length of sampling area

The condition number

(a) 条件数

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.80

50

100

150

200

250

300

The length of sampling area

∆ VI [%]

∆ a = 20[%]∆ p = 10[deg]

(b) 測定間隔とインテンシティの誤差

Fig. 3.16: 測定範囲の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化

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第 3章 測定条件の検討 41

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.50

50

100

150

200

250

300

The length of sampling area [λ]

The condition number

1 row’s data2 row’s data

(a) 条件数

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.50

5

10

15

20

25

30

35

40

The length of sampling area [λ]

∆ VI [%]

1 row’s data2 row’s data

(b) 列数とインテンシティの誤差

Fig. 3.17: 測定点の列数の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化

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第 3章 測定条件の検討 42

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.40

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10x 10

33

The length of sampling area [λ]

The condition number

1 row’s data2 row’s data

(a) 条件数

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.40

10

20

30

40

50

60

70

The length of sampling area [λ]

∆ VI [%]

1row’s data2fow’s data

(b) 列数とインテンシティの誤差

Fig. 3.18: 測定点の列数の変化に対する振動インテンシティと条件数の変化 (L字アングル)

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第 3章 測定条件の検討 43

まとめ

以上の結果より、提案の測定条件は測定データの位相に誤差が含まれる場合に有効であ

ることが確認された。すなわち、測定範囲を半波長以上とり、測定間隔を半波長の整数倍

にしないこと、測定点を複数列に配置することにより、位相誤差の影響を小さくすること

ができることがわかった。提案の測定条件は振幅誤差の影響を小さくすることには関与し

ていないが、位相誤差に対して振幅誤差が振動インテンシティの誤差に与える影響は小さ

いこと、また測定データの誤差には概して位相誤差、振幅誤差共に含まれるので、提案の

測定条件が有効であることが分かる。

3.3.2 実験による検討

次に、実際の測定例を用いて上述の測定条件の有効性を確認する。Fig.3.19に示すよう

な L字の断面を有するアルミ製のアングルを用い、片側に加振器を接続して 231Hzの調和

振動を励振し、もう一端に鉄製の棒により 1点で固定してエネルギーを吸収させる。この

場合には長手方向の長さは約 1.2λとなっている。この表面の面外方向振動分布を 300点

測定し、ここから順次測定点を間引いていった場合の計算結果を Fig.3.19に示す。また、

これらの測定点のとり方が 3.2.4節で述べた測定条件満たすかどうか、また計算したVIの

精度を Table3.2に示す。

まず、どの測定例も長手方向に半波長以上測定範囲をとっていることから測定条件 (i)

を満たしており、同時に測定条件 (ii)も満たしている。測定条件 (iii)に関しては Fig.3.19

の一番下の 3例 (g,h,i)は長手方向に 10点しかとっておらず、精度の良い結果は期待でき

ないと考えて測定条件を満たしていない (Table3.2の×)とした。測定条件 (iv)に関して

は、一番右側の 3例 (c,f,i)は横方向に 1列しか測定点をとっていないことから計算精度が

下がるとして、測定条件の満足度は低い (△)とした。

これに対し、VIの推定結果を見ると測定条件とほぼ同じ傾向を示しており、既述の測

定条件が妥当であることが分かる。

Table 3.2: 測定条件とVIの精度の判定結果測定条件の満足度 / VIの誤差率 [%]

(a) ○ / 10 (b) ○ / 26 (c) △ / 96(d) ○ / 22 (e) ○ / 11 (f) △ / 103(g) × / 103 (h) × / 67 (i) × / 92

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第 3章 測定条件の検討 44

5 03

3 0 01 . 8 0 m W

5 0

1 0 00 . 0 7 m W

5 02

2 0 02 . 5 2 m W

2 53

1 5 01 . 5 4 m W

2 52

1 0 02 . 2 1 m W

2 51

5 0- 0 . 0 5 m W

1 03

6 0- 0 . 0 5 m W

1 02

4 03 . 3 4 m W

1 01

2 00 . 1 4 m W

: 2 3 1 H z 1 . 9 9 m W

Fig. 3.19: 測定点のとり方とエネルギーフロー

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第 3章 測定条件の検討 45

3.4 測定誤差の影響

まず、シミュレーションの方法について述べる。対象としたモデルは長さ1m、幅 4mm、

厚さ2mmの直方体の梁で、振動周波数は波長を20 cmとするために 482.24Hzとした。

梁の両端に駆動点を 1つずつおき、強制振動解析を行って梁全体の振動分布を求めた。駆

動力の位相差を調整すれば梁の振動の定在波比を変化させることができ、今回は定在波比

を 8.45、15.05、22.21とした。なお、定在波比が大きくなると条件数も大きくなると考え

られる。それぞれの振動の様子を Fig.3.20に示す。

0

2e-05

4e-05

6e-05

8e-05

0.0001

0.00012

0.00014

0.00016

0.00018

-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6

Am

plitu

de [m

]

Length [m]

swr8 swr15 swr22

(a) Using amplitude data with error

-200

-150

-100

-50

0

50

100

150

200

-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6

Pha

se [d

eg]

Length [m]

swr8 swr15 swr22

(b) Using phase data with error

Fig. 3.20: Vibration distribution on beam

次に、この振動データの一部を抽出して誤差を与え、これを測定データとして用いてイ

ンテンシティを計算した。データの抽出の方法は、強制振動解析によって得られたデータ

のうち、梁の上部中央の長さ方向の 1列に並んでいる 400点から何点かを等間隔に抽出す

る。抽出する点数は3点から 150点までとした。与える誤差は発生確率密度がガウス分布

に従う擬似乱数を用い、その標準偏差σを誤差の指標とすると、振幅誤差は真の値のσ%、

位相誤差はσ度の誤差を与えた。

このようにして求めたインテンシティと測定点数との関係の一例をFig.3.21(a)に示す。

このグラフは定在波比が 15で、40度の誤差を位相に与えたものである。このグラフでは、

一つの測定点数で複数のデータがある。そこで、算出したインテンシティの誤差率につい

て、同じ測定点数で標準偏差を取ったものを Fig.3.21(b)に示す。この図に引いた実線は

計算値をキュービック・スプライン補完したものである。このシミュレーションを、3つ

の定在波比について与える誤差の大きさを変えながら行った。その結果を Fig.3.22~3.24

に示す。

まず Fig.3.22(a)、Fig.3.23(a)、Fig.3.24(a)の振幅誤差だけを与えた場合の結果を見る

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第 3章 測定条件の検討 46

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Inte

nsity

number of vibration data

culculated value true value

(a) Culculated SI

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty [%

]

The number of vibration data

(b) Standard deviation of culculated SI

Fig. 3.21: The SI and standard deviation of SI as a function of the number of vibrationdata : swr15 Δ a=40°

と、定在波比を変化させても振動インテンシティの計算値に現れる誤差はそれほど変化し

ていない。例えば、60%の振幅誤差を与えたときに、いずれの定在波比でも測定点数を4

0点程度とればインテンシティの誤差が 20~30%程度に収まっている。このことは、条

件数が悪くなっても振幅誤差の与える影響は一定であることを示していると考えられる。

一方、位相誤差を与えた場合には、定在波比を大きくすると振動インテンシティの計算

値に現れる誤差が増加している。このことから、条件数が悪くなると位相誤差の影響が如

実に悪くなることが分かる。

定在波比が大きくなると条件数が大きくなり、また測定データ数が増加すると条件数は

小さくなるが、これらの結果から、測定データに含まれる誤差の影響は単純に条件数だけ

から推し量ることは出来ず、定在波比も併せて考えるべきであることが分かる。また、イ

ンテンシティの算出に関して、定在波比と関係があるのは位相誤差で、振幅誤差と定在波

比との間には相関関係は無いということが確認できた。そして、振幅誤差よりも位相誤差

の方がインテンシティの算出に与える影響が大きいことが分かった。

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第 3章 測定条件の検討 47

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta p = 10[%] delta p = 20[%] delta p = 30[%] delta p = 40[%] delta p = 40[%] delta p = 40[%] delta p = 40[%]

(a) Using amplitude data with error

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta p = 10 [deg] delta p = 20 [deg] delta p = 30 [deg] delta p = 40 [deg]

(b) Using phase data with error

Fig. 3.22: The standard deviation of error ratio of culculated SI as a function of thenumber of vibration data : swr8.45

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta a = 10[%] delta a = 20[%] delta a = 30[%] delta a = 40[%] delta a = 50[%] delta a = 60[%] delta a = 70[%]

(a) Using amplitude data with error

0

50

100

150

200

250

300

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta p = 10 [deg] delta p = 20 [deg] delta p = 30 [deg] delta p = 40 [deg]

(b) Using phase data with error

Fig. 3.23: The standard deviation of error ratio of culculated SI as a function of thenumber of vibration data : swr15.05

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第 3章 測定条件の検討 48

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 20 40 60 80 100 120

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta a = 10% delta a = 20% delta a = 30% delta a = 50% delta a = 60%

(a) Using amplitude data with error

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

0 20 40 60 80 100 120

Err

or ra

tio o

f Int

ensi

ty[%

]

The number of vibration data

delta p = 10 [deg] delta p = 20 [deg] delta p = 30 [deg] delta p = 40 [deg] delta p = 50 [deg] delta p = 60 [deg]

(b) Using phase data with error

Fig. 3.24: The standard deviation of error ratio of culculated SI as a function of thenumber of vibration data : swr22

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49

第4章 過渡振動の測定

Abstract

本章では、構造物に加振器からバースト的な振動を印加し、時間的に振動状態が変化するときの振動インテンシティ計測の計測例について述べる。

4.1 実験のセットアップ

過渡振動の測定装置の概要を Fig.4.1に示す。測定対象にしたのは直方体の梁で、片端

に加振器を取り付けて 462Hzの正弦波を 2波印加し、もう一端を砂箱の中に挿入して振動

エネルギーを吸収させる。振動分布の測定は加速度ピックアップを用いて行い、梁の上面

の中央直線上において、面外方向の振動分布を合計 38点で測定した。

1 2 0 0 m m1 0 0 m m

1 6 m m3 m m

m s e c .

Fig. 4.1: 実験装置の概要

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第 4章 過渡振動の測定 50

4.2 振動インテンシティの算出結果

測定したデータを用いて、振動インテンシティを算出した。梁の中における振動インテ

ンシティ分布の時間変化を、Fig.4.2に示す。ここで、位置が 0[m]の場所が加振点であり、

1.2[m]の場所が吸収点である。この結果から、t = 2msの時に加振点の近くにあったエネ

ルギーが時間の経過と共に吸収点のほうに向かって流れる様子が分かる。また、針の中で

は周波数によって伝播速度が異なるため、高い周波数成分のほうが速く進み、t = 6msで

は吸収点の近くまで到達している様子がわかる。

4.3 高精度化のための信号処理

さて、測定したデータをそのまま用いて計算した値は雑音の影響を受けやすい。そこ

で、その雑音の影響を減らすため、ある時間の振動インテンシティの値を出す際に、その

時間を中心としてある程度の時間幅の値で平均をとった。ここでは、駆動周波数の周期が

T = 2.16msであるので、それぞれの値を中心とする 2T [s]の区間の値で平均を取った。そ

の様子を Fig.4.3に示す。これを Fig.4.2の結果と比較すると、平均をとった場合のほうが

大きなエネルギーの動きが分かり、インテンシティの時間変化が確認しやすくなっている。

しかし、駆動周波数 462.4Hzの波が梁の端に到達するのは 10.4msであるが、Fig.4.3を

みると実際に梁の端にエネルギーが到達するのはそれよりも遅くなっている。これは、測

定した加速度の周波数分布が広く分布していることが原因であると考えられる。加速度を

積分して応力や振動速度を算出することため低周波成分のほうが大きなエネルギーを有す

ること、低周波成分のほうが波の伝播速度が遅いことから、全体的なエネルギーの伝播す

る速度が計算よりも遅くなったものと考えられる。

ここに示したよりも長い時間で振動インテンシティ分布を観察すると、この低周波成分

は、定在波のように梁の中を往復しながら減衰していった。この低周波成分は梁全体が剛

体変形したものとも考えられる。そこで、剛体変形ではない波動的なエネルギーの動きを

確認するために、算出した各周波数成分の応力と振動速度を高域通過フィルタにかけて低

周波成分を除去し、200Hz以上の成分の振動インテンシティを計算した。このときの振動

インテンシティの分布を Fig.4.4に、この値を Fig.4.3と同じように時間平均を取ったもの

を Fig.4.5に示す。

この結果を見ると、駆動周波数 462.4Hzの波が梁の端に到達するよりも早く到達してい

るが、振動エネルギーが梁の端で吸収され、ごく一部分のエネルギーだけが反射している

様子がわかる。

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第 4章 過渡振動の測定 51

Fig. 4.2: 振動インテンシティ分布

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第 4章 過渡振動の測定 52

Fig. 4.3: 2Tの時間幅で平均を取った振動インテンシティ分布

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第 4章 過渡振動の測定 53

Fig. 4.4: 低周波成分を除去して計算した振動インテンシティ分布

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第 4章 過渡振動の測定 54

Fig. 4.5: 低周波成分を除去し、2Tの時間幅で平均を取った振動インテンシティ分布

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第5章 結論

Abstract

本章では、本研究で得られた成果について述べる。また、本研究を通じて明らかになった今後の研究課題についても示す。

5.1 本研究の成果

本研究では有限要素法援用振動インテンシティ計測法の適用範囲について考察を行い、

その拡張に取り組んだ。本研究の成果を下記に挙げる。

• 測定条件の明確化これまで明らかにされていなかった測定条件について考察し、測定データに含まれる誤差の影響を低減するための測定条件について検討を行った。

• 過渡振動測定への拡張従来の調和振動を対象とした測定手法を過渡振動へと拡張し、実際に振動インテンシティの計測を試みた。

5.2 今後の課題

有限要素法を援用して振動インテンシティを計測する手法に関して、まだ以下のような

課題が残っている。

• その他の誤差の影響の考察

本研究では測定データに含まれる誤差の影響と、それを低減するための測定条件を

明らかにしたが、振動インテンシティ算出にあたってはその他の誤差の影響も考察

しなければならない。例えば、FEMモデル化誤差や駆動点の位置数の誤差などがあ

げられる。これらの影響を低減する手法についても考察する必要がある。

• 過渡振動測定の高精度化・高速化

本研究では梁を測定対象として実験を行い、エネルギーが流れていく様子を確認し

た。しかし、低周波成分がパワーフローの計算結果において大きな割合を占めるが、

それらの周波数成分や高周波数成分と波動的に伝わる周波数成分とを分離する必要

がある。その手法についてより十分な検討が必要である。

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第 5章 結論 56

• 騒音・振動問題との関連づけ

本手法によってエネルギーの流れを可視化することは可能になってきているが、計

測されたエネルギーの流れの情報を、どのように振動・騒音対策に結びつけるかと

いう具体的な手法を提案することが必要であると思われる。

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謝辞

本論文を書き上げるに当たって、指導教官である中村健太郎助教授には、いつも貴重な御

助言、ご指導をいただいきました。心より感謝申し上げます。上羽貞行教授にも非常に多

くの御助言をいただきました。また、研究以外でも多くのことを学ばせていただいきまし

た。どうもありがとうございました。小池義和講師には数え切れないほどの御助言、御助

力をいただきました。この研究は小池氏との共同作業の面がとても大きいと思います。ま

た、お忙しい中計算機に関して非常にたくさんの援助を頂きました。深く御礼申し上げま

す。そのほか石井孝明助手、高橋久徳技官、加藤孝子様の研究室のスタッフのみなさんに

は研究面、生活面でお世話になりました。どうもありがとうございました。

この研究は、一昨年度修士課程を修了された平泉啓氏の研究を引き継ぐものです。平泉

氏の研究無くしては、本研究はありえません。そのほか既に研究室を卒業された諸先輩方、

研究室の同期、後輩のみなさんにも公私を通じて多くのご支援をいただきました。2年間

すずかけ祭スポーツ大会やソフトボール大会で共に戦った仲間たちがいなければ、本研究

に取り組むことは難しかったと思います。

この研究ではLapack、Linux、Mesa、gtk、povray、perl、Octave、GNUプロジェクト

のソフトウエア群、そのほか多くのフリーソフトの力を借りています。これらの優れたソ

フトウエアを無償で公開された作者のみなさんにもお礼を申し上げます。

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