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「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
グローバル資産形成研究所ホワイトペーパー(白書)2020
加藤航介
インベスコ・アセット・マネジメント(株) グローバル資産形成研究所 所長
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
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日本人のグローバル投資が豊かな日本を作る
グローバル資産形成研究所について
名称グローバル資産形成研究所
英語名Institute for Global Investment Learning
設立2020年2月
活動内容日本にグローバルな資産形成が根付くための啓発活動として、人生と社会を豊かで幸せにする投資の本質に関する情報発を行う 。インベスコのグローバルネットワークを活用した情報収集及び調査、各種レポート・コラム・書籍執筆、セミナー講演、社会貢献イベントなど。
初めに 「“貯蓄から資産形成”の本質」に切り込む!
今から20年ほど前、「金融ビッグバン」や「貯蓄から投資」という大号令が掲げられました。その後の資産形成へ向けての環境の進歩はご存じの通りです。インターネット証券の登場や銀行の資産運用サービスへの本格参入、ETFなどの新商品など、我々が世界中に低コストで投資できる環境は20年前とは比べものにならないほど進歩しました。足元の10年では少額投資非課税制度(NISA)や確定拠出年金などの投資に関する税制優遇も大幅に拡充されました。
一方、個人投資家における投資や資産形成に対する「理解や考え」の深まりは、金融サービスや税制面と比べ、十分であったとは言えないでしょう。人生100年時代において、個人が幸せで豊かな人生を過ごすためには、金融商品を正しく活用できる知恵を身につけることが重要です。そのためには、長期の資産形成を行う新しいマインド・セット(思考様式・潜在意識)を醸成すること、特に投資により個人と社会を共に豊かにしていく意識が大切です。
さて、そもそも、日本社会の大きなスローガンになっている「貯蓄から資産形成(投資)」は、何故にその変化が叫ばれているのでしょうか?その理由は2つあると考えられます。
個人が自分自身で老後資金を準備し、より幸せな人生を過ごすため1990年以降、公的年金のスリム化という世界的な流れの中での、個人による老後資金の準備が必要になりました。先進国では、現在とは異なる人口動態や高い経済成長が見込まれた時期に作られた年金システムを持続可能なものに変えていくこと、そして個人は相応の自助努力をすることが求められています。
社会のイノベーションとモニタリング機能を高めて、より豊かな社会を育むため日本社会をさらに豊かにするため、社会のしくみを進化させようというものです。具体的には社会のイノベーションとモニタリング機能の2つを高めることがゴールになります。
いつの時代においても、投資とは「世の中の豊かさを作るタネ」となります。今回のレポートでは投資が果たす社会的役割について考察し、「“貯蓄から資産形成”の本質」に切り込んでいきたいと思います。まずは、次章より経済の各発展ステージにおいて求められる社会のしくみの違いについて考えていきましょう。
腰を据えた長期の資産形成を行う上では、投資により「個人と社会を、共に豊かで幸せにしていく」というマインド・セット(思考様式・心構え)が大切になります
投資とは世の中の豊かさを作るタネ豊かさ
成長 投資
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
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経済の発展ステージと社会のしくみについてChapter 1
新興国 中進国 先進国
基幹産業の育成 イノベーション・ モニタリングインフラ整備
民間企業 民間企業国営企業
商業銀行 ファンド・マネージャー政府・官僚
預金 株式(投資信託)国債 (預金)
資産形成(投資)の世界貯蓄の世界
社会の豊かさに必要なこと
投資の実行者
投資の監督者
市民の投資先
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
新興国のステージ
まず新興国のステージに求められることは、道路・鉄道、学校・病院などの基礎的な社会「インフラの整備」です。物流を確保する交通網などを整備し、適切な教育や医療を提供する大切さは、何千年前の文明社会から変わりません。近代・現代においては、主に国や地方政府に属する官僚がインフラ整備を計画し、市民のお金を銀行などから国債などへ回します。そして国営企業がその計画を実行する。これが社会を豊かにする一つの近道となります。
かつての日本が新幹線や高速道路を活発に作った時期や、現在のアフリカの国々がこのステージにあたり、政府・官僚と国債が社会の豊かさへ大切な役割を果たしています。例えば、皆さんが新興国の国債へ投資をすることは、その国の豊かさに貢献しようとしていることにつながります。
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投資は、どのような環境でも「世の中を豊かにするタネ」です。ただし、経済の発展ステージによって、投資を社会の豊かさにつなげる「しくみ」は異なります
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
投資と社会のつながりや、投資の社会での役割をイメージすることは、意外に難しいものです。私は、そのようなしくみを理解する一つのアプローチは、自国の歴史を意識しながら、経済の発展ステージ別における社会の姿をとらえることと考えています。それぞれのステージにおいて、より豊かな社会に進むべき目標や手段が異なることを理解するため、以下、新興国、中進国、先進国の3つのステージに分けて、投資の社会的役割を整理していきましょう。
経済発展と社会のしくみ1
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中進国のステージ
社会に基本的なインフラが整うと、さらなる豊かさのためには、世界で競争できる「基幹産業の育成」が大切になります。民間企業が国際的な競争力を得るためには、一定の事業規模を確保することが求められ、そのための先行投資の手助けを銀行が行っていくことが効率的です。この中進国のステージでは、市民のお金が銀行に預けられ、銀行が民間企業に資金を貸し出し、監督・育成までを務めるのが、社会を豊かにする近道です。戦後の日本では、製造業を中心に世界的な規模と競争力を持つ大企業が生まれ、それらをサポートする中小企業も大いに育ち、晴れて中進国のステージをクリアしました。
なお、このステージをクリアできた国はさほど多くありません。現在、国際通貨基金(IMF)は世界で39カ国を先進国と位置づけており、世界の多くの国は新興国か中進国のステージにとどまっていると言えます。一方で、中進国のステージを終えた社会では、これ以上国債や預金を通じて、社会インフラや企業の規模拡大へお金を投じても、かつてのような豊かさの増加は見込めません。
投資先の豊かさの増加が見込めないとなれば、そこにお金を流している金融商品(国債や預金)の利回りも当然低くなります。現在、日本を含む多くの先進国がその状態となっています。
先進国のステージ
中進国のステージを終えた社会が次に進むべく段階は、「イノベーションとモニタリング」の社会である「先進国のステージ」です。必ずしも大きな組織に属していなくても、新しいビジネスアイデアや発明などで社会の豊かさに貢献できる、また、大きな社会的権力をもった大企業の経営者をモニタリングし、既存の富を有効活用していく社会です。このステージで大切になるのは、市民、民間企業、ファンドマネージャーという三者で、それぞれが自分の役割を理解し、正しく果たしていくことが求められます。
国債・預金新興国・中進国のステージ
先進国のステージ
政府・官僚・銀行
国営・民間企業
株式(投資信託)
ファンドマネージャー
民間企業
豊かさ
成長 投資
豊かさ
成長 投資
出所:インベスコ。例示目的に限る。
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中進国のステージを終えた社会では、国債や預金を通じて、社会インフラや企業の規模拡大へお金を投じても、かつてのような豊かさの増加は見込めません
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
経済発展と社会のしくみ2
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振り返れば、日本社会は平成の時代においてこのステージに進むことが望まれましたが、その宿題は令和の時代に持ち越されることになりました。様々な国が中進国のステージに入り我々を追い上げる中、平成時代の日本の経済成長が世界のそれに大きく見劣りしてしまったことは、残念なことです。国民の豊かさを測る1人当たりGDP(米ドル換算)を見ても、2015年以降の日本は世界20位から30位の間にあり、先進国中では下半分の位置が定着しています。
これより先、日本がより豊かな社会へ進むためには、「先進国のステージ」とはどのような社会であるのか、我々一人一人が、より明確なイメージを持つことが大切になります。次章からは、この社会の全体像を「市民、 民間企業、ファンドマネージャー」という三者の視点から、詳しく見ていきたいと思います。
日本がより豊かな社会へ進むためには、「先進国のステージ」の社会のしくみが、「新興国・中進国のステージ」とは異なるとの理解が必要です
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」6
先進国を豊かにする「同じ船」という仕組みここまで見てきたように、新興国、中進国、先進国という経済の各発展ステージにおいて社会を豊かにするために求められる「社会のしくみ」は異なります。新興国のステージではインフラの整備(その背後には“国債、政治家・官僚、国営企業”の三位一体の構造があります)、中進国のステージでは国際競争力のある基幹産業の育成(同じく“預金、銀行、民間企業”)が社会を豊かにする一つの近道でした。この章では、先進国になった社会がより豊かになるための社会の仕組みを解説していきます。それは、我々日本人がまだ十分に馴染んでいない「市民、民間企業、ファンドマネージャー」 の世界です。
先進国のステージにおける三者の役割先進国のステージをクリアした次に目指す社会とは、イノベーションとモニタリングの社会です。すなわち、大企業のみならず様々な企業から、新規ビジネスや画期的な発明が活発に生まれる社会、そして、大きな社会的権力をもった大企業の経営者を適切に監視し、既にある富をより有効活用していく社会です。
このステージでは、前の2つのステージの「国債・預金」に変わり、「株式」が大変に重要な役割を果たします。そして、「市民、民間企業、ファンドマネージャー」の三者が同じ船に乗り、お互いをけん制しながら世の中を豊かにしていくことになります。
市民
ファンドマネージャー民間企業
三者は同じ船に乗る
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
この三者が同じ船に乗る、つまり、共存共栄しながら社会を豊かにするには、それぞれに求められる役割や条件がありますので、それらを一つずつ見ていきましょう。
<三者が同じ船に乗るための役割・条件>
民間企業︓社会をより豊かにしていく原動力。ただし、その経営者は自社の株式で報酬を受け取る
ファンドマネージャー︓市民の代理として、民間企業の応援やモニタリング活動を実施する(後述の3つの条件が重要)
市民︓ファンドマネージャーを通じてお金を社会参加させる。ファンドマネージャーが社会を豊かにする投資をしているのかモニタリングする
Chapter 2
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民間企業に求められる要件
まず民間企業は、新しい商品やサービスの提供など、社会を豊かにしていく原動力の役割を果たします。そして、その経営者は報酬の主要部分を自社株で受け取ることが大切です。
出所︓デロイト・トーマツ「2018年度 日米欧の社長CEO報酬水準比較」より作成。
上図は、主要先進国における、大企業経営者の報酬に占める自社株の比率を示しています。その比率が1割程度である日本に比べて、米国では 7 割、欧州では4割程度とかなり高いことが分かります(皆さん、自分の給料の4~7割を勤めている会社の株式でもらうとイメージしてみてください)。さらに欧米では、この自社株式について、先3~5年は売却することができない、先数年に渡って分けて受け取る、などの制限が課されています。これにより、経営者の報酬は今から3~5年後の株価で確定するという仕組みが作られています。これは2つの事を意味します。
1. 経営者と株主は、長期的に同様の経済的立場にある
2. 経営者は、企業の長期の業績拡大に強い責任を持つ
これを市民である個人の投資家の視点から見るとどうなるでしょうか?それは、世界に名だたるグローバル企業のトップに上り詰めた優秀な人材と、明日からでも同じ経済的立場に立つことができることを意味します。大企業のトップと同じ立場に立つと聞いて驚かれるかもしれませんが、「経営者と市民が、株式を通じて同じ船に乗る」というのは、世界における株式会社の当たり前の姿なのです。そして、市民が株式市場に長期的に参加する本質的な背景でもあります。
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70%
41% 38% 42%
13%0%
アメリカ イギリス ドイツ フランス 日本
経営者の報酬に占める自社株式の割合
80%
60%
40%
20%
世界での株式投資とは、一般市民が、名だたるグローバル企業のトップに上り詰めた優秀な人材と、明日からでも同じ経済的立場に立つことができる仕組みです
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ファンドマネージャーが社会の豊かさに貢献するためには、3つの条件を満たしている必要があります
ファンドマネージャーに求められる要件
続いてファンドマネージャーについてです。ファンドマネージャーは、市民の代理人として企業経営者の応援・モニタリングを適切に行うこと、つまり市民と民間企業の橋渡しがその役割です。
小規模の企業に向けては、市民に代わって新しいユニークな取り組み(イノベーション)を応援していくことが主な役割です。一方、大企業に向けては、 経済界の権力者である経営人の活動を市民に代わってモニタリング(監視)することが主たる役割となります。この応援やモニタリングは、①株式の市場で売買、②経営者選任(議決権行使)という二種類の投票で行われていきます。我々は選挙によって、政治家という社会的権力者に対する意思表示をすることができますが、株式投資においても、経済的権力者ともいえる経営者に対する意思表示をすることができるということです。
職業的に言えば、投資信託の運用責任者は誰でもファンドマネージャーと呼ばれますが、船の船頭として社会の豊かさへ貢献している株式ファンドマネージャーには3つの条件があります。
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社会の豊かさに貢献する株式ファンドマネージャーの条件
長期視点 報酬体系の評価ビジネスの評価
ロングターム ボトムアップ インセンティブ
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
まず、1.のロングタームです。これは、期待する経営者には3年〜5年以上の期間でお金を預ける、つまりその株式を長期に保有するということです。経営者が行う事業活動は、数カ月や1年などの短期間で成果が出るものではありません。経営者と同じ船に乗るためには、経営者と同様の時間軸で応援とモニタリングを行う必要があります。反対に、短期的な売買を繰り返しているファンドマネージャーは、いくら運用の成績が良かろうと「社会と同じ船」には乗ってないと言えます。
2.のボトムアップは、企業のビジネスの将来性を評価して、投資を決めるということです。企業の株価は長期ではその業績に強く連動しますので、株価が長期で上昇しているということは、その企業が良い製品やサービスを提供して社会を豊かにしたという証左になります。つまり、ボトムアップ視点で投資をしているファンドマネージャーは、社会を豊かさの増加とともに、投資のリターンを得ている事になります。ボトムアップの反対はトップダウンと言われ、経営者の活動とは直接関係ない、マクロ経済や政治家の発言などの、日々株価を動かしている短期的な要因を予測して売買を行う株式投資です。これは社会を豊かにする船頭の役割とは関係ありません。
そして3.は経営陣の報酬体系(インセンティブ)の評価です。近年注目されているESG1のGであるガバナンスに関連しますが、経営者が自社株で報酬の主要部分を受け取るなど、そもそも市民と同じ船に乗っているかをチェックしていきます。
このように「同じ船」という視点から見ると、投資信託を運用するファンドマネージャーの本来の社会的役割が浮かび上がってきます。それは、市民の代理人として、ボトムアップの長期視点で経営者の事業活動を選別・モニタリングをし、その事業活動により社会が豊かになった一部を、市民である投資家へ投資リターンとして返していくということです。
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
1.ESG: Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の三つの言葉の頭文字をとったもの。
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市民に求められる要件
最後に市民についてです。先に挙げた3つの基準により個人が企業を選別し、社会の応援やモニタリングに参加することが理想ですが、一般の方が、そのための十分な時間や知識を持つことは容易ではありません。そこで、個人に求められる役割は、上記の3つの基準を満たす優良なファンドマネージャーを選別し、投資信託を通じて「同じ船」に乗ること。そしてファンドマネージャーの活動と長期の運用成績を厳しくモニタリングしていくことが大切になります。
このように三者が「同じ船」に乗り、お互いの役割を果たしながら、またお互いをけん制しながら豊かさを作っていくのが「先進国のステージ」です。もしも、企業の経営者が報酬の主たる部分を自社株で受け取らず、ファンドマネージャーは短期の売買を金融市場で繰り返し、市民が株式投資に無関心な社会はどうなってしまうのでしょうか?中進国のステージをクリアした後に、世界の中で相対的な豊かさを失っていった日本について、このような視点で考えることも大切でしょう。
市民の政治への関心が高ければ、その社会はより豊かなものになっていくでしょう。同様に、市民の企業活動の応援やモニタリング、すなわち、株式投資への関心が高ければ、社会はより豊かになっていくでしょう。
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市民が、投資信託を通じてお金を社会参加させながら、ファンドマネージャーを厳しくモニタリングすることで、社会という船が前へ進みます
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Chapter 3 令和時代における資産形成のマインド・セットこの章では、今まで見てきた先進国のステージにおける社会のしくみを踏まえながら、令和時代に我々がどのようなマインド・セット(思考様式・心構え)を持って資産形成にのぞんでいくべきか、特にグローバル投資に関わる以下の2点の考察をしていきます。
1.日本の豊かさのため、海外投資からの富を、日本に還流させる
2.生活する基盤と、金融商品の投資先を同じにしない
日本の豊かさのため、海外投資からの富を、日本に還流させる今日の日本の豊かさは、国を開き、世界へ向け投資を進めたことにより作られてきました。明治時代に鎖国を解き、昭和時代にモノの輸出を進め(貿易収支の改善)、平成時代には海外子会社の稼ぐ力を高め(配当など所得収支の改善)、さらに外国人観光客の誘致を進め(サービス収支の改善)ました。いずれも、世界の経済と人々の豊かさと幸せに貢献し、その豊かさの一部を還流させたことが、日本の豊かさを高めてきたと言えます。
現在の日本では、国内外のモノやサービスを差別なく比較し、必要なものを自由に選択できます。例えば、新しくスマートフォンを購入する際は、アップル、サムスン、ソニーなどの国内外の製品を比較しているでしょう。もし、国内製にこだわり、様々な国の製品を正しく公平に選ぶ目を持っていなければ、それは消費者にとって機会損失です。
金融の投資についても、同様に、国内外の選択肢を正しく公平に選ぶ目が必要です。いつの時代も投資の長期の利回りは社会の豊かさの増加に比例しますが、少子高齢化が加速する令和時代においては、日本の金融資産全体の長期の利回りが、平成時代と同様に、世界に見劣りする可能性を考えておくべきでしょう。また、株式投資で言えば、Chapter2の「同じ船」というトピックで紹介した通り、日本と海外の経営者と株主の関係性が大きく異なることも理解しておくべきでしょう。
「貯蓄から投資」が叫ばれた過去20年で、国内外への投資の選択肢は我々に十分に用意されています。令和時代に個人の金融投資を開国させるマインドを持つことは、過去に経験した海外からの新たな富の還流と同様に、日本の豊かさを大いに高めると考えています。
企業の商業・貿易 企業の事業投資 個人の金融投資
鎖国 鎖国鎖国
開国
開国開国
開国 開国へ!開国
江戸時代
明治・昭和時代
平成時代
令和時代出所︓インベスコ。例示目的に限る。
いつの時代も、日本と世界を結びつけ、世界の富を日本に還流させることが、日本の豊かさを作り出してきました
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
日本を豊かにする開国
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特に、1,900兆円の個人金融資産を、世界を豊かにするための同じ船に乗せること、すなわち海外株式投資へ向かわせることは、日本への長期で大きな富の還流を生み出すことになるでしょう。その富の還流は、国内の消費の増加などにつながり、我々の老後の生活を支え、少子高齢化に苦しむ日本経済の成長率を押し上げ、結果として日本の金融資産自体の利回りをも高めうると考えられます。
日本国全体での300兆円を超える世界一の対外純資産2は、日本の強さであると言われます。国内外の投資を正しく公平な視点で選択する新しい開国マインドは、その強さを何倍にも高め、日本人が令和を豊かに生きる処方箋となることでしょう。
生活する基盤と、金融資産の投資先を同じにしない海外投資について、「私は一生涯、日本に住み続けるので外貨預金や海外資産は必要ない」という声をよく聞きます。日本は一生暮らしたいと思える素晴らしい国です。そして生活の基盤と、金融資産の投資先を一致させるという考えは、とてもシンプルで分かりやすいものです。例えば、米国人の多くは生涯を自国で暮らし、米国株と米国債だけの金融投資で人生を送ります。
一方、かつてヨーロッパの貴族は、自国が貧しくなる可能性(戦争に負けるなど)に備え、子供の教育や一族の資産を自国外へ分散させていました。現在のヨーロッパや新興国の人々も、自分や家族への投資や金融資産を、国外へ広く分散させるという知恵を参考にしているようにみえます。これは先ほどの考えとは正反対の、自分の生活の基盤がある場所と、金融資産の投資先を同じにしないという考え方です。
それぞれ一理あるように見えますが、一体、どちらが正しいのでしょうか?その答えは、「世界と比較した自国の経済環境であり、時代によって正しい答えは異なる」、となります。
過去の日本の例で考えてみましょう。昭和の日本経済は世界と比べ高成長し、株や土地の価格も大きく上りました。また為替も、1 米ドル360円から200円、100円と強くなリました。その結果、日本人の給料や円資産は、世界基準(米ドルなど)で飛躍的に上昇しました。日本人の豊かさの世界的な高まりは、身近になった海外旅行や、ドイツ車やフランス製革製品の購入などに現れることになります。このような時代を生きている人にとっては、生活基盤と金融資産の投資先をそろえるのは大正解の選択だったと言えるでしょう。
一方、平成の時代では日本と世界の経済成長率は逆転し、次ページのように、日本人の給料の伸び率が世界に大きく見劣りする30年が続きました。
今までのマインド
日本へ投資し日本を豊かにする
新しいマインド
世界へ投資し富を還流することで日本を豊かにする
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
令和時代における資産形成のマインド・セット1
個人の金融資産を、世界の企業と同じ船に乗せることは、日本への富の還流を生み出します
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」12
2. 日本の政府、企業、個人が外国に保有する資産から負債を差し引いたもの
世界の実質賃金の推移
1.50
1.40
1.30
1.20
1.10
1.00
0.901991
イギリス
アメリカ
1994 1997 2000 2003 2006 2009 2012 2015 2018
オーストラリアフランス
ドイツスイス
日本イタリア
出所︓OECD statよりインベスコ作成。フルタイム労働者換算、2018年の物価を基準とした実質賃金。1991年から2018年のデータ。
今までのマインド
生活の基盤と金融資産の投資先を揃える
新しいマインド
生活の基盤と金融資産の投資先を分ける
自国が高成長の場合のみ 通常の場合
出所︓インベスコ。例示目的に限る。
為替は平成の始まりと終わりで1米ドル100円代前半とほぼ横ばいの水準にとどまったものの、日本人の世界基準で見た豊かさは、平成を通じて、じわじわと低下したことになります。また、この期間の日本の金融資産全体の利回りも、世界のそれに大きく見劣りしました。
さて、我々は令和の時代を生きるにあたって、昭和の日本人や現在の米国人、もしくはヨーロッパの貴族、どちらのマインド・セットを持って人生を過ごすべきでしょうか?
結局、「自国の長期の経済成長を、世界より高く見込めるのか?」が、この選択のポイントになります。日本が世界の経済より、一貫して高成長であった昭和は30年以上昔の話です。そして、現在の米国は、そのような見通しを持てる可能性のある数少ない先進国でしょう。我々が令和の時代を生きるにあたっては、世界の多数の人々と同じく、生活の基盤と金融資産の投資先を一緒にしないというマインド・セットが求められるでしょう。
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
令和時代における資産形成のマインド・セット 2
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日本
ドイツ
スイス
オーストラリアフランス
イギリス
アメリカ
イタリア
サマリー 豊かな社会、幸せな人生、資産形成当レポートでは、個人の投資と社会の関わりを、日本の歴史や世界との比較などで解説してきました。日々の生活から見えているものだけでなく、時間軸と地理軸を広げる目を持つことで、世の中のしくみを理解する様々な考察が可能になると思います。
投資とは、金融市場を数学・統計で分析することや、お金もうけのマネーゲームではありません。長期の資産形成を腰をすえて行うためには、当レポートで見てきたような「投資とは、自分と社会の豊かさと幸せを共に作っていくモノ」という理解が大切になると考えます。
主役は、お金や金融商品ではなく、あくまで人と社会です。そして時代に即したマインド・セットで行動をすることが、我々の豊かな社会と、幸せな人生を作っていくでしょう。
加藤航介インベスコ・アセット・マネジメント(株) グローバル資産形成研究所 所長
資産運用業界一筋20年。欧米での10年に及ぶ留学・勤務経験、世界約30ヶ国での経済・企業分析、世界株式ファンドマネージャーの経験より、社会のしくみや投資の本質についての豊富な知識を有する。2015年1月、インベスコ入社、2020年2月より現職。ウォーレン・バフェット氏が投資を学んだ米国コロンビア大学MBA(経営学修士)修了。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー、証券アナリスト試験に合格(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員)。「実経験が大切、顧客とは同じ船に 乗る」との考えから、自らもグローバルな資産運用を行う投資家でもある。
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」
「人と社会が投資の主役である」というマインド・セットが、我々の豊かさと幸せを育みます
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インベスコ 研究所
www.invesco.co.jp/Institute_Global_Investment_Learning/index.html
専用HPはこちら
インベスコ・アセット・マネジメント株式会社グローバル資産形成研究所
2020年5月発行
「豊かな社会、幸せな人生、資産形成」15
<ご注意事項>
当資料は情報提供を目的として作成してインベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」といいます。)内のグローバル資産形成研究所(以下「当研究所」と言います。)が作成した資料であり、弊社が特定商品の勧誘を行うものではありません。当資料の中で記載されている内容は当研究所の当資料作成時点のものであり、今後予告なく変更されることがあります。当資料に記載された一般的な資産運用に関する情報及びそれらの見解や予測は、当研究所の資料作成時点における見解であり、いかなる金融商品への投資の助言や推奨の提供を意図するものでもなく、また将来の動向を保証あるいは示唆するものでもありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。本文で詳述した本書の分析は、一定の過程に基づくものであり、その結果の確実性を表明するものではありません。分析の際の過程は変更されることもあり、それに伴い当初の分析の結果と重要な差異が生じる可能性もあります。当資料について弊社の事前の許可なく複製、引用、転載、転送を行うことを禁じます。
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C2020-04-131