日本の対アジア oda...

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論文 日本の対アジア ODA の諸問題 那須 祐輔 はじめに ODAとは「発展途上国への資金の流れのうち、政府ないしその実施機関によって供与され ること、途上国の経済開発や福祉の向上への寄与を目的とすること、供与条件がグラント・エ レメント 25%以上であること 1 3 条件を満たすもののこと 2 」である。 日本は現在、先進国の一国としてアジアを引っ張る存在となっている。それまでは、貧しい 時代もあり、高度経済成長を経て現在に至っているのだが、それは、少し発展するスピードが 他のアジア諸国より速かっただけである。だから、先進国として上から見るのではなく、近隣 のアジア諸国と協力することが必要である。世界規模で考えると当然のことである。現在、ア ジア諸国のおかれている状況をみると、日本が援助をする余地があり、援助によってアジア諸 国の環境が改善される。この援助を ODA という形で、より良く行えられればアジアの発展に 日本は大きく貢献できる。 しかし、最近、マスコミなどを通して日本の ODA への不信や効率性等の疑問が指摘されて いる。これは、ODA に対してより目が向けられるようになったことであり、その中で考え直 すべき点が浮き上がってきたということである。そこで、アジア諸国の成長を達成するために ODA に対する問題点を考察しながら、これからの ODA のありかたについて考えていく。 そして、日本の ODA をみる上で、日本の対アジア ODA の現状・実績をふまえながら考察す る。そうすることで、明確な改善点を探っていき、日本にとって、諸外国にとって、効果的な ODA を探る。 1.日本の ODA 1.1 日本の ODA の歴史 日本のODAの歴史は浅くなく、「1951 9 月にサンフランシスコ講和条約の調印がなり、ミ ャンマー(旧ビルマ)、フィリピン、インドネシア、ベトナム(旧南ベトナム)の四カ国向け に賠償が、ラオス、カンボジア、マレーシア、シンガポールなどへは賠償に準ずる無償援助 (準賠償)の供与が始まった。日本のODAの起源はこれらの戦後賠償である。賠償とはいえ、 各国の協定の中で、受取国の経済発展ならびに社会福祉に寄与するという目的が重視されたか らである。 3 そして、1954 年にコロンボ・プラン 4 に加盟し、技術協力を開始した。この時の日本は、経 常収支が赤字で、自らが世界銀行から大量の借款を受け、開発途中であった。 1958 年にはインドに対する円借款が開始され、ODAに新たに輸出促進という目的が付加さ れた。当時の円借款は、ほとんどが「ひもつき(タイド)援助 5 」であった。輸出促進は政府 借款のアンタイド 6 化の決議がなされる 72 年までは、日本のODAの政策目標であった。 また、ODA の量的な拡大に伴い、体制の整備が進められ、1961 年に海外経済協力基金 33

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論文

日本の対アジア ODA の諸問題 那須 祐輔

はじめに ODAとは「発展途上国への資金の流れのうち、政府ないしその実施機関によって供与され

ること、途上国の経済開発や福祉の向上への寄与を目的とすること、供与条件がグラント・エ

レメント 25%以上であること1の 3 条件を満たすもののこと2」である。 日本は現在、先進国の一国としてアジアを引っ張る存在となっている。それまでは、貧しい

時代もあり、高度経済成長を経て現在に至っているのだが、それは、少し発展するスピードが

他のアジア諸国より速かっただけである。だから、先進国として上から見るのではなく、近隣

のアジア諸国と協力することが必要である。世界規模で考えると当然のことである。現在、ア

ジア諸国のおかれている状況をみると、日本が援助をする余地があり、援助によってアジア諸

国の環境が改善される。この援助を ODA という形で、より良く行えられればアジアの発展に

日本は大きく貢献できる。 しかし、 近、マスコミなどを通して日本の ODA への不信や効率性等の疑問が指摘されて

いる。これは、ODA に対してより目が向けられるようになったことであり、その中で考え直

すべき点が浮き上がってきたということである。そこで、アジア諸国の成長を達成するために

も ODA に対する問題点を考察しながら、これからの ODA のありかたについて考えていく。

そして、日本の ODA をみる上で、日本の対アジア ODA の現状・実績をふまえながら考察す

る。そうすることで、明確な改善点を探っていき、日本にとって、諸外国にとって、効果的な

ODA を探る。

1.日本の ODA 1.1 日本の ODA の歴史 日本のODAの歴史は浅くなく、「1951 年 9 月にサンフランシスコ講和条約の調印がなり、ミ

ャンマー(旧ビルマ)、フィリピン、インドネシア、ベトナム(旧南ベトナム)の四カ国向け

に賠償が、ラオス、カンボジア、マレーシア、シンガポールなどへは賠償に準ずる無償援助

(準賠償)の供与が始まった。日本のODAの起源はこれらの戦後賠償である。賠償とはいえ、

各国の協定の中で、受取国の経済発展ならびに社会福祉に寄与するという目的が重視されたか

らである。3」 そして、1954 年にコロンボ・プラン4に加盟し、技術協力を開始した。この時の日本は、経

常収支が赤字で、自らが世界銀行から大量の借款を受け、開発途中であった。 1958 年にはインドに対する円借款が開始され、ODAに新たに輸出促進という目的が付加さ

れた。当時の円借款は、ほとんどが「ひもつき(タイド)援助 5」であった。輸出促進は政府

借款のアンタイド6 化の決議がなされる 72 年までは、日本のODAの政策目標であった。 また、ODA の量的な拡大に伴い、体制の整備が進められ、1961 年に海外経済協力基金

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

(OECF)、74 年に国際協力事業団(JICA)が設立された。 「1973 年には第一次オイルショックに襲われ、ODAに資源確保という目的が追加された。

70 年代後半には、賠償が完了し(76 年)、ODA中期目標の発表(78 年)など国際社会におい

て応分の貢献をなすべきだという意識が強まった。80 年代に入ると貿易収支黒字が拡大し、

黒字還流を目的としたODAの必要性が叫ばれた。同時に、環境問題が取り上げられるなど日

本のODAの取り組む課題が多様化した。それから、日本経済がバブル期に突入し、ODA予算

も増加して 89 年には世界 大の援助供与国となった。7」 1992 年には、「政府開発援助大網8」が閣議決定され、96 年には、ODA大網を具体化する

「政府開発援助に関する中期政策9」が決定され、政策が体系化された。政府は、2000 年に入

り、受取国の政治・経済・社会情勢を踏まえ、また案件選定の透明性を高めるために「国別援

助計画」の作成に着手した。現在、日本のODAは「ODA大網」「政府開発援助に関する中期政

策」「国別援助計画」の三つの政策・体系の下で実施されている。 1.2 日本型 ODA 高い借款比率

DAC10の分類ではODAは二国間の協力である贈与ならびに借款、多国間の協力である国際

機関への拠出・出資の三つに分類される。ODA全体に占める借款の比率が高いことは日本だ

けの特徴である。(図 1)これは日本が自国の利益を考慮し、金貸しになっているかのように

みえる。 2000~01 年の DAC 主要国の贈与比率、グラント・エレメントを比較すると日本の贈与比率

は極端に低い。オーストラリア、カナダ、オランダなどはそもそも供与しているのは贈与のみ

である。また、DAC 主要国においても ODA のほとんどが贈与である。 しかし、後発展途上国(LDC)向けに限ってみれば、日本の ODA の贈与比率およびグラン

ト・エレメントは DAC 平均に近い。これは、日本の ODA は受取諸国の所得に応じて、贈与

と借款の比率を考慮しながら行われているといえるだろう。しかも、日本の借款のグラント・

エレメントは DAC 平均よりも高く、低金利かつ返済・措置期間が長い。 このように、日本の借款比率は高いものの、貸付条件をみると発展途上国に有利である。 ハードインフラ中心

DAC では 7 つの分野に ODA を分類している。社会インフラは教育、医療、人口、衛生、

経済インフラには、運輸、通信、エネルギーが含まれる。 「日本のODAは経済インフラに集中している。二国間ODAに占める経済インフラのシェア

は、1980~81 年においては 40.0%とDAC中の中で も高かった。2000~01 年には経済インフ

ラへの資金配分はDAC平均では 15.7%である一方、日本の同比率は 32.9%と依然きわめて高

い11。」

多くの先進国の ODA は経済インフラから社会インフラへ重心をシフトしている中、日本は

引き続いて経済インフラへの支援を重視している。 東アジア重視

日本の ODA の配分は、ASEAN 諸国、中国、などの東アジアが中心であり、全体の約 5 割

の ODA を配分している。

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日本の対アジア ODA の諸問題

図 1 ODA の国際比較

DAC 主要国の ODA の内訳

(出所)渡辺利夫・三浦有志『ODA(政府開発援助)日本に何ができる

のか』, 中公新書, 2003.

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

各先進国のODAの地域配分は、それぞれ地理的・歴史的・経済的なものを反映したもので

ある。EUは、サブサハラ・アフリカ12へ、米国はラテンアメリカ・カリブ海諸国、中東・北

アフリカに供与相手国が偏っている。 高い借款比率、ハードインフラ中心、東アジア重視という三つの特徴はどういう関係性をも

つのか。それは、東アジアの過去の背景からみると、東アジアは 60 年代に急速な経済成長過

程に入った。その高度成長を持続する開発途上国にとって、低金利の借款はとても魅力的であ

ったのである。開発途上国側からすると、借款によって巨大なインフラ整備ができ、開発の幅

は大きく広がる。そして、インフラ整備に対応する大規模な資金が供給できるのは日本や世銀

など一部に限られていた。これは、日本型 ODA が上述の高い借款比率、ハードインフラ中心、

東アジア重視の特徴をもった理由であるともいえる。 1.3 ODA の理念 日本の基本理念は「政府開発援助大網」に定められている。そこでは①人道的配慮②相互依

存の深化③環境保全④平和国家⑤自助努力の支援と公正という理念がうたわれている。

そして、現在日本の ODA の核となっているのが「自助努力」と「要請主義」である。これは、

1990 年の「わが国の政府開発援助」にはっきり示されている。

極端にいえば、開発途上国の自助努力を政治的な政策改善条件をつけることなく、受取国の

要請にもとづいて支援するというものである。日本の借款比率が高いのはこのような理念が働

いているからである。

2.日本の ODA の改善点・問題点

対外経済協力会関係閣僚会議は、次のようにODAの必要性を強調する。「我が国のODAは、

これまでも開発途上国の経済開発に貢献するとともに、貧困の撲滅や生活水準の向上にも大き

な成果を上げてきたところである。現在世界では、情報通信の発展等によるグローバル化の急

速な発展や、経済の相互依存関係がますます深化しつつあるとともに、通貨・金融面での不安

に起因するアジア危機や開発から取り残されるアフリカ諸国のように、新たな国際社会の支援

を必要とする状況が生じている。また地球環境問題、人口・エイズ問題、食料問題等のいわゆ

る地球規模問題も増加しており、21 世紀に向けて国際社会の調和ある発展のため、途上国支

援の必要性はますます高まってきている。13」グローバル化が進む中、各国の距離を縮め、各

国に散在する様々な問題を世界規模で考える必要がある。ODAは国をつなげる重要な綱であ

る。

こうしたように ODA の必要性は高まる一方、我が国経済は近年低迷しており、財政事情も

極めて厳しい状況にある。このような中で、今後も ODA を積極的に実施し、国際社会におけ

る日本の責務を果たしていくには、これまで以上に国民の支持と理解を得ていくことが不可欠

である。そのためには様々な問題を解決していかなくてはならない。

2.1 透明性の向上 ODA の課題や国別の援助計画を明確にし、案件の選定から事業の実施、事後評価に至るま

でのプロセスの透明性を高めるとともに、ODA に関する情報公開を促進する。そうすること

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日本の対アジア ODA の諸問題

で ODA の実態を国民に知らせることができ、国民の意見も飛び交うだろう。そして、ODAの改善にも役立つ。そのためには、以下の方法を示している。

対外経済協力会関係閣僚会議では次の点を指摘している。

・評価システム等の充実

ODA 事業の評価については、評価システムの充実に努め、可能な限り事後評価を実

施し、その結果を公表するとともに、学識経験者、NGO 等の第三者による評価の制度

を充実する。また、実施段階でのモニタリングについても充実を図る。さらに、事業の

性格に応じた効果的な評価手法の開発導入に努める。

・情報公開の促進 ①事業実績、評価結果に関する各種報告の拡充

広く国民に対し ODA に関する一層の情報提供を図るために、年次報告、白書、事 業報告書等の援助実績に関する報告や各種評価に関する報告の一層の充実に努め、可能

な限り公開する。 ②ODA 関連情報の集約化とインターネットを通じた公表

我が国 ODA に関する各種情報に対して国民が容易にアクセスできるよう、インター

ネットを活用し、情報内容を拡充するとともに、各種項目の検索や関係行政機関等のホ

ームページへのリンク等を可能とする総合的なホームページを構築する。なお、年次報

告等の各種公表資料や各案件の評価結果についても本ホームページを通じ閲覧できるよ

うにする。 ODA に対する評価機能は重要である。現在、日本の ODA に対して国民から厳しい意見が

発せられている。その国民の声も評価を考える上で含めていくべきである。そのためにも国民

に対して、わかりやすく明確な情報を公表していくべきであろう。 2.2 効率性の向上 ODA を実施するにあたって、「限られた ODA をどのように運用するか」は大変重要となっ

てくる。その ODA を相手国のためになるようにするためには、相手国の実情・真のニーズに

則した援助が可能となるよう計画的でかつ弾力的な対応を行うとともに、その実施体制の整備

及び執行の効率化を促進する。

対外経済協力会関係閣僚会議は次の点を示す。

①事前調査・各種効果の充実

援助の効率性を充実させるために、事前調査を適切に実施するとともに、可能な

限り事後評価や実施段階のモニタリングを充実させ、その結果をその後実施する事

業に的確に活用するよう努める。

②プロジェクトのフォローアップ強化

移転した技術や供与した施設・機材等が十分に活用されるよう、既に終了した案

件等のフォローアップを着実に実施し、現地での対応の強化をはかる。

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

これに加えて私は次の点も重要と考える。

③ODA 相手国からの情報収集

実施国側からの調査・評価だけでなく、相手国の政府・国民からも意見交換・評価をしても

らうことにより、効果的な方法を探ることができる。現地の声に耳を傾けることは重要であろ

う。次の図 2 の一貫した評価・モニタリングの流れに、この相手国からの情報を上手く組みこ

むことが必要である。

図 2 一貫した評価・モニタリングの流れ

事後モニタリング ⇦ 事後評価フォロー (完成後 7 年) ⇩ ⇧ 事前評価(審査) 事後評価(完成後 2 年) ⇩ ⇧ 中間管理 ⇨ 中間プレビュー

(出所)「ゼミナール 大競争時代の ODA」,『日本経済新聞』,

2005 年 10 月 17 日, を参考に作成。

2.3 経済インフラか社会インフラか

多くの先進諸国が経済インフラから社会インフラにシフトしていると前述した。しかし、日

本の ODA は依然経済インフラ重視である。この理由はなぜなのか。経済インフラが適応され

るような国は、ある程度貧困であっても生活はできているレベルだと考えられる。それ以前に

世界的に考えると社会インフラの適応が必要とされる国は困窮国が多いと思われる。だから、

日本の地域的な事情もあるのだろうが、全体の底上げをするためにも社会インフラが先決のよ

うに思われる。だが、これは社会インフラ重視国と日本のような経済インフラ重視国の差をも

っと深くさぐらなければならない。ODA 受取国の実情も考えつつ、経済インフラを重視する

か社会インフラを重視するか、これからじっくり検討する必要がある。

3.多角度から分析する日本の対アジア ODA 第 2 節では、日本の ODA の一般的な改善点・問題点をとりあげた。ここでは、日本の

ODA を対アジアという観点からみていく。そして、日本の ODA が現在の方法で行われたロ

ジック、また、実例をとらえての日本の ODA の分析をはかる。 3.1 財源からみる日本の ODA 日本の ODA の贈与比率、グラント・エレメントの低さといった特徴は、援助形態別構成に

おける有償援助(政府貸付等)の占める割合に起因する。(表 1)また、経済インフラが多い

ことも、返済をもとめられる有償援助は、基本的に収益を生み出す分野に活用せざるをえない

と考えられる。

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日本の対アジア ODA の諸問題

表 1 ODA(支出純額ベース)総額と援助形態別構成比 (単位:億円,%)

1980 年 1990 年 2002 年

ODA 総額 7,491 13,353 11,622

二国間 ODA 計 59.4 75.3 72.1 贈与 19.8 32.7 47.1 無償資金協力 11.3 14.9 18.5 技術協力 8.4 17.8 28.6 政府貸付等 39.6 42.5 25 国際機関向け拠出・出資等 40.6 24.7 27.9

ODA 合計 100 100 100

(出所)船津潤「ODA と財政の国際化」, 金澤史男編『財政学』, 有斐閣ブックス, 2005.

では、何故有償援助が多いのか。ODAの財源という観点からみてみる。ODA事業の財源は

表 2 の示したように主として一般会計、財政投融資、出資国債14からなる。このODA事業予算

の財源について船津潤氏は著書で「こうした財源の種類は、援助形態と大きな関連を持つ。具

体的には、財政投融資は有償資金であるため、贈与の財源とはなりえず、主として円借款の財

源となる。そして、一般会計は、あらゆる援助形態の財源となり、円借款に関しては、財政投

融資資金に対する資金利息が、途上国への貸付金利を上回る、いわゆる逆ザヤを補填する役割

を担っていると言える。」と指摘している。このような指摘のように有償援助の割合の多さに

は、ODAの財源に財政投融資を大規模に活用していることが原因としてある。財政投融資と

は、国民に返還が必要なため、もちろん無償援助にはあてられない。有償援助となると、有償

援助は償還が必要なので償還が困難な社会インフラには使用されない。また、有償援助の割合

が多いことによってODA事業予算としての一般会計が圧迫されている。一般会計財源が圧迫

されることにより、無償援助にも影響がでる。 すなわち、日本の ODA の有償援助・経済インフラ中心というメカニズムは日本の ODA 財

源を見ることによって解明される。ODA 財源としての財政投融資の割合が多いことにより有

償援助を誘引し、有償援助によって返済をみこした経済インフラ中心の援助が誘引されている。

だから、アジア諸国に対しても有償援助かつ経済インフラを中心とした援助を行っているので

ある。

表 2 ODA 事業予算(グロス・ベース)総額と財源構成比 (単位:億円,%)

1993 年 1998 年 2003 年

事業予算総額 19,097 17,321 15,598

一般会計 53.1 60.5 55財政投融資等 33.1 30.8 35.4出資国債 13.2 7.9 8.8特別会計 0.6 0.8 0.7

合計 100 100 100

(出所)船津潤「ODA と財政の国際化」, 金澤史男編『財政学』, 有斐閣ブックス, 2005.

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

図 3 日本の援助形態のロジック

財源 援助形態 援助分野

財政投融資 → 有償援助 → 経済インフラ

(返還が必要) (償還可能)

一般会計 ↗

→ 無償援助 ↗ 社会インフラ

(返還不要) → (償還困難)

3.2 実例からみる日本の対アジア ODA ここで実例を示すというのは、日本の対アジア ODA の目的の不明確な点を述べるたで ある。日本の対アジア ODA の現実をみることにより、改善点を探る。 (1) 対中 ODA 「日本から中国への ODA は 2001 年度までにちょうど総額 3 兆円ほどに達した。日本の 全ODAでもインドネシアと並んで国別のトップクラスである。15」そして、ここ数年、日本の

援助先で上位となることが多く、98 年度では日本のODA全体の 20%近くを占めた。中国側か

らみても、日本のODAは他の諸国からの援助に比べて群を抜く多額である。「日本の資金は 80年代末には中国が全世界から得るODA全体の 90%ほどに達し、98 年には全体の 66.9%、99 年

には 67.3%ともなっていた。16」 援助額の約 70%がインフラ建設へ

中国への ODA の特徴として鉄道、高速道路、空港、橋などのインフラ建設への資金援助が

かなり多いことがあげられる。日本の対中 ODA のうち 70%近くはこうしたインフラ建設に投

入されてきた。円借款援助のうち 26%は鉄道建設に、20%は発電所に、12%は湾岸施設の建

設に投入されてきている。つまり、日本の ODA は中国政府の公共土木事業に大部分が投入さ

れてきたのである。反対に、フランスなど他の諸国の対中援助では、インフラではなく、教

育・医療・環境・農業などを重点としている。 多用される有償供与、巨額の一括供与

日本の対中ODAは有償資金17、無償資金、技術の 3 援助からなりたっている。「対中援助で

も金額の比率では有償が圧倒的に多く、全体の 9 割以上、残りの無償資金援助と技術援助はほ

ぼ同額となる。18」この有償援助の財源は財政投融資と一般会計からである。有償だといくら

巨額の資金を支出しても返ってくる、という前提から日本側の抵抗が少ないのであろう。 また、その巨額にわたる資金供与の仕方として、国家開発 5 ヵ年計画にあわせ 5、6 年分が

一括に供与されている。第一次円借款から第四次円借款が 1979 年から 5、6 年ごとに 3300 億

円、5400 億円、8100 億円、9700 億円と一括供与されているのである。 巨額の資金を 5 年とか 6 年という長期を対象に一度に出せば、用途とか効用の点検は難しい。

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日本の対アジア ODA の諸問題

もらう側にとっては非常に都合の良い方法である。「ただし日本側でも 2001 年からはついにこ

の一括方式を改めて、単年ごとの供与という一般の方式をとることを決めた。19」これは、中

国だけをいつまでも特例にしてはおけないという認識の現れである。 徹底した要請主義

日本の対中 ODA は徹底した要請主義である。つまり、どんなプロジェクトにどれほどの資

金を提供するかが、原則として援助を受ける側から要請で決まるのである。これは、対中

ODA に日本の自主性がほとんど発揮されないまま巨額の資金を提供してきたことになる、と

もいえる。

都市への援助集中

外務省が発行する『ODA白書』によると日本の援助が「北京、上海、南京、天津、青島、

広州など海沿い、あるいは沿岸からそう遠くない大都市にアリの群れのように凝集しているの

だ20」と記載されている。これにより、都市部と農村地域の貧富の差はより一層ひらいたので

はないか。そして、ODAの本質を失っているのではないか。

日本の商社と ODA の関わり

日本の商社が ODA と関わっているのが明らかとなる事例がある。1989 年に「日中環境保全

センター」プロジェクトという ODA 資金で中国の北京に建設をするというプロジェクトが発

表された時のことである。 「日中環境保全センター」プロジェクトの中国側調査団が来日し、天安門事件が起こる 3 ヶ

月以上も前のことで、日中関係は良好だった。メンバーは国家環境保護局の幹部ら 6 人。名誉

団長は鄧楠女史で、中国の 高実力者、鄧小平氏の次女である。同プロジェクトは、大気汚染

や水質汚染などの公害問題を抱える中国に大気汚染などの研究分析センターを無償資金協力で

建設する事業であり、総額 100 億円が見込まれるビッグプロジェクト。しかも、我が国の援助

として初めて本格的に環境問題に取り組む新しさもあった。このために、プロジェクトが浮上

して以来各商社の動きは激しかった。それが、鄧楠女史の名前をみつけるにいたって一気に加

熱した。同中国一行は日本各地などの視察などの過密スケジュールが組まれていたが、その合

間を縫うように、各商社からの面会申し込みが殺到した。中国で長年、ビジネスを続けてきた

商社マンたちは、要人とコネをつけることが中国でビジネスを成功させる上でいかに重要かを

骨身にしみて知っているらしく、やっきになっていた。 こうした事例から見えるように商社にとって ODA はビジネスチャンスであり、ODA 事業

を勝ちとることは企業にとって大変大きいことがわかる。そのために、企業と日本政府がつな

がっているだけではなく、相手国政府まで巻き込んでいるのである。 (2) 対ベトナム ODA

日本のODAはここ数年、全体に金額の伸びが控えめとなっているが、そんな傾向のなかで

も大幅に増えている国もある。その一つがベトナムである。日本は 1992 年以来、ベトナムに

対し、累計約 7,520 億円(2000 年度現在)という 大のODA援助国としての地位を維持して

いる。日本からのODA援助には贈与と政府貸与がある。贈与は病院、学校等の社会基盤整備

事業、調査・訓練の技術支援事業、自発的計画等に重点が置かれている。 貸与については、

エネルギー、運輸、農業及び地方開発、郵便、通信、上水道、都市インフラ、SMEs等ベトナ

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

ムの重点的な経済計画に焦点をあて、これまでに両国政府は総額約 6,588 億円にのぼる 64 の

クレジット協定(1992~2000 年)を締結した。ベトナムの返済率は近年 20%であり、これは

各年において他の被貸与国に比べ高い率となっている。21ベトナムは日本のODA供与の重点国

の一つであり、日本ODAの大規模受益国である。 この供与の必要性は何なのか。ベトナムは 1986 年にドイモイ(刷新)政策を開始して以降、

近隣諸国と比べて高い経済成長を遂げており、国内総生産に占める製造業の構成比は 10 年間

で 12%から 20%に増加している。このような市場経済化や工業化の進展により、諸外国との

経済関係は緊密となり、また、民間部門の役割も増大している。上記の様な経済の国際化、急

速な工業化等を受け、政府の産業政策立案のための基礎情報としてのみならず、在ベトナムの

企業、国内外の投資家、研究者等による経済の現状分析及び将来予測のための判断材料となる

経済分野の統計情報の整備・改善に対する官民からのニーズが従来にも増して高まってきてい

る。このことから見うけられるように、ベトナムに対する援助が行われるのは、日本の ODAがベトナムの経済成長につながりやすく、日本の民間からもアプローチしやすい点にある。そ

して、援助によって統計をとり、これからに活かしやすいからであろう。 しかし、ベトナム援助に対する問題点もある。ここではその点もとりあげる。 外国依存を長引かせている

日本のインフラODAがベトナム経済に実際にどこまで貢献するのか、特に経済の開発と自

立にどう寄与するか、が重大な点でもある。実例として、ホーチミン市にある「ダニム発電所

では、開設から 30 年が過ぎたのになお日本の援助がまた 82 億円も注ぎ込まれることになって

いる。22」発電所の所長の声として「これまでの支援は感謝しますが、こんごも日本からの援

助が必要なのです。23」とある。このようなことでは、日本は将来ずっと支援することになっ

てしまいかねない。ベトナム側の自助努力は何なのか。これは、ODAにすがり、ベトナムの

外国依存を長引かせているだけではないか。 援助の不明確性

対ベトナム援助に対して日本の ODA は何故行われているのか。第 1 番目に外交の手段の一

つであること、第 2 番目にアジアの安定と繁栄が日本の安定と繁栄につながり、ベトナムが安

定して繁栄することで回りのアジアの国々が安定し、発展することになるのだといえる。しか

し、対ベトナム ODA で明確な外交目標はないようにみえる。ここはやはり明確にするべきで

あろう。 また、将来ビジョンとしてアジアの安定が、日本に与える影響はある。この点は理解できる。

だから、グローバル化が唱えられている中で、アジアという規模でこれからを考えていくのは

必要である。しかし、何故アジアのなかでベトナムに多額の援助をという面がみえてこない。 援助に際しての将来不安

ベトナム政府は、支援が約束された援助の 25~40 パーセントしか執行できていない。この

国に対して、今月初め、日本政府は更に 917 億 3800 万円(うち円借款は 793 億 3000 万円)の

ODA を供与すると約束した。ベトナムにこのままの水準で ODA を出し続けて大丈夫なのだ

ろうか。

12 月初旬に対ベトナム支援国会合がハノイで開かれた。日本の服部在ベトナム日本大使は、

過去に支援を宣言した援助の支出が進まない状況に対して、その加速化を厳しくベトナム政府

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日本の対アジア ODA の諸問題

に求めた。その一方で、もしこうした忠告によって、準備不足の中でむやみにベトナム政府が

援助を執行し、大規模なプロジェクトを推進したり、不正が横行したりすると、結果として

様々な社会問題となることも懸念される。 現在の対ベトナムODAが本当に適正な規模なのか、日本国内でもっと議論が必要なのでは

ないか。24

(3) 対ビルマ(現ミャンマー)ODA 1990 年発行の毎日新聞社会部 ODA 取材班による著書によると「日本のミャンマーに対する

ODA のうち、国内工業の自立化を目指した工業化プロジェクトは、自動車、電気製品、農業

機械の三部門で、ミャンマーの自立化を促すことを目的に 1962 年対ミャンマー賠償として始

まった。72 年から現在の商品借款(有償資金協力)に切り替わり、以後、13 次にわたって

延々と続けられてきた。その総額は過去 15 年間で 1400 億円の巨額に達し、対ミャンマー有償

資金協力(4029 億円)の 34.9%占める。」と記載されている。 日本企業の影

まず、自動車部門であるが、毎年送りこまれるプラグ、ジェネレイター、クラッチカバーな

どざっと数百種類にのぼる部品は日野自動車工業から送り込まれていた。また、エンジン、ピ

ストン、などの主な部品、車体用の板金、それにタイヤやハンドルなどの相当部分にあたるも

のも同社から送り込まれている。次に、併設されている電気製品工場の方も事情は同じである。

こちらは松下電器産業の協力で電球、蛍光灯などを組み立てている。 このように、多くの援助には誰もが知っているような大手企業がからんでいる。この裏には

何か隠れている。あるひとつの仮説として、大手企業と日本政府、すなわち議員の間に何かつ

ながりがあり、企業が議員に働きかけ ODA が増えているのではないかというものが立てられ

る。このような関係はもちろん表ざたにはならない。 また、この頃の自動車はビルマ国民にとって完全に手の届かない品であった。自動車を買う

には、国民の平均所得からすると、30 年分の給与をつぎ込まなくてはならない。いくらビル

マの産業発展のためとはいえ、的をはずした援助なのではないか。この背景からも日本の企業

の影が見える。 このような実例からみえるものは、日本の ODA の基本方針の不明確性である。しっかりし

た方針が示されていれば、問題点は軽減できる。また、大胆な援助に際しても基本方針の確立

が周囲の納得をさせるだろう。これは、政府機関に対しての納得と共に、ODA 財源の一つで

ある租税資金を負担している国民に対しての納得も得られる。そして、周囲の理解を得ること

で次の援助をスムーズにさせ、より良質な援助ができるであろう。 また、日本の ODA と企業の関係性から、日本の ODA の裏の面がみられる。上述した高い

借款比率、ハードインフラ中心、東アジア重視という三つの特徴の関係性も見えてくる。企業

にとってアクセスがしやすいという面で東アジア重視となってくる。このアクセスというのは

距離的な面とこれからのビジネス経路を構築する上で格好の場所となるのである。日本にある

ものがない国に対しての援助は多くの可能性を秘めている。ないところへ作るのだから大規模

なビジネスとなる。そして、多くの隙間も存在する。ハードインフラ中心であるのは物を提供

することにより、もちろん分かりやすく金額に出てくる。しかも、ODA のハードインフラと

なると施設、病院、機材など大規模なものになっていき、企業にとって多くの利益が期待でき

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

る。教育などの社会インフラより確実に利益につながるのである。また、借款中心ではあるが、

ODA の財源には無償資金である租税資金も含まれる。その税金が企業の利益となるための無

償援助につかわれると国民に知れると批判を買うのは目に見える。借款にすることにより、見

た目には返ってくるお金ということを示しておくことで一応の体裁もつく。このようなロジッ

クばかりではないが、ODA と企業の関係は目をそむけられない。 3.3 成功からみる日本の対アジア ODA 世界銀行が 1993 年に東アジアの 8 カ国を高い経済成長と所得分配を同時に達成したモデル

ケースとして分析した。8 カ国というのは日本、香港、韓国、シンガポール、台湾、インドネ

シア、マレーシア、タイである。この 8 カ国の内、日本以外の 7 カ国はかつての、あるいは現

在でも日本の ODA の主要な対象国である。その点から日本の ODA が成功したと言えなくは

ないだろう。 東アジアの経済成長や貧困削除の成功要因を分析すると、途上国の経済成長には外国からの

直接投資と貿易が欠かせない。途上国向けの直接投資は 2003 年には 1520 億ドルと、同年の

ODA 総額の 2 倍以上だ。貿易については、収支が赤字の国が多数あるものの、途上国全体で

は 1930 億ドルの黒字となっている。 外国からの直接投資や貿易を原動力に経済成長や貧困削除を実現してきたのは東アジアであ

る。同地域では、1990 年から 2001 年の間に海外直接投資と輸出が、それぞれ年平均 18%、

12%のペースで増加した。経済成長は年平均で 8%に達し、2 億 5000 万人以上が貧困から脱し

ている。 「日本のODAは東アジア諸国への直接投資や貿易に多大な貢献をしてきた。例えば、タイ

のバンコク東部に位置する東部臨海地域の開発に、1788 億円の円借款が供与され、港湾、工

業団地、バンコクと結ぶ道路、鉄道が建設された。進出企業が必要とする技術者も育成した。

ODA以外でも国際協力銀行の投資金融や保証を通じて、日本企業の現地での事業展開を後押

しした。さらに、日本の工業製品関税が世界 低の水準にあることも、進出した日本企業が親

会社と製品をやり取りすることを可能にしている。この結果、同地域は現在ではタイの自動車

産業の集積地に成長している。同地域における。製造業の付加価値額の成長率はタイ全体の 2倍以上に達するなど、同国の輸出産業の成長を牽引している。25」また、その効果は雇用創出

面でも成果は目覚しかった。労働集約的な生業を振興することにより、1995 年から 1997 年の

間に約 24 万人の雇用が同地域で創出された。 また、日本の ODA は途上国同士の協力を促した。東アジアで成功した国の中には、他の途

上国支援に乗り出している国もある。韓国は日本の援助体制を学び、10 年以上前に支援を始

めているし、タイはインドシナ諸国に支援を始めている。 また、日本には国内貯蓄や外貨を豊富に所有していた。途上国は開発事業にあてる資金が不

足していた。これを日本の ODA がうまく補完したといえる。この要因も日本の ODA の成功

を示すものである。この背景には、日本の ODA の借款中心で無償援助より資金が確保しやす

いところにも起因する。したがって、日本 ODA 援助が借款中心であるということは、一方で

は良い面を示し、高い借款比率での批判はあるものの、借款を完全に否定することはできない。

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日本の対アジア ODA の諸問題

4.ODA 改革 今までに述べてきたように、日本の対アジア ODA には数々の疑問点・矛盾点が存在する。

その ODA を正常化するためにどのような改革が求められているのか。ここで必要なのは、

ODA の柱となる部分の構築である。柱のしっかりした ODA とすることで、アジア諸国に対

して有効な援助が増えるであろう。日本の対アジア ODA に必要な改革点は、ODA 基本法の

制定、理念と政策の整理、ODA の質の改善、安全保障をより大きな指針に、要請主義から自

主主義へ、担当政府機関の統合、予算の縮小、対中 ODA のゼロからの再考、外部的な監査な

どがあげられる。 ODA 基本法の制定

日本のODAの大きな欠陥部分の「法の統治」の不在を埋めるために、ODAの理念、目的、

実施の手続きなどに関して一定範囲の拘束力を持つ法律の制定が必要である。「だれにもわか

るように明文化され、だれもの順守を義務づけるルールの制定は、これまでの官僚の勝手な自

己裁量権をなくし、ODAの政策の決定や実行のプロセスを密室から公開の場にさらして、透

明にする効果がある。26」これはあくまで基本的な拘束力をもたすためのものであり、完全な

拘束力は持たなくても良い。ただ国民の貴重な公的資金を有効利用するためにも基本的柱とし

て確立すべきである。

一貫性のある援助政策の立案

日本では各府省がODAに携わっているが、それぞれが実施するODAが相矛盾することなく

実施され、ODAの効果を発揮することが重要であり、そのためには政府全体が同じ政策や目

標を共有し統一性を保つことが重要である。新しいODA大網においても、「この大網の下に、

政府全体として一体性と一貫性をもってODAを効率的・効果的に実施する」としている。そ

の具体的な施策としては、新しいODA大網に沿った形で「中期政策や国別援助計画を作成し」、

これらの政策に沿った形で、国際社会における様々な援助主体と強調・連携を図りながら、

「ODA政策の立案及び実施を図る」としている。国別援助計画においては、日本の援助政策

を踏まえつつ、また、被援助国の開発計画やその国の政治・経済・社会情勢に基づく開発上の

課題を十分勘定した上で、「真に必要な援助需要を反映した」計画の策定を図ることを謳って

いる。27

理念と政策の整理

ODA 援助には、なぜ他国に援助を与えるのか基本理念の確立が不可欠である。日本国民か

ら支払われる租税資金も含まれている資金なのだから、国民に利益を与えることも視野にいれ

ておく必要もある。その利益とは物、金でなくても良いと思う。国民に対して援助の理解を深

め、他国の状況を把握することも国益だ。そのためにも具体的な理念と政策の整理が必要であ

る。

NGO との補完関係

2003 年の日本の NGO から途上国への援助は総額 3 億 4 千万ドルと、この 10 年間で倍増し

ている。途上国の支援に取り組む NGO の数も 04 年は 354 団体と、10 年前の 2 倍に増えた。

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

「NGOの活動はODAでは手の届かない地域、分野に欠かせない。例えば、緊急人道支援を

迅速かつ柔軟に展開できるし、地域住民のニーズにもきめ細かく対応できる。ODAとの補完

関係を考慮し、89 年にはNGO事業への小規模な無償資金援助の制度がODA予算で作られた。

NGOのノウハウを活用のケースとして、昨年末のインド洋大津波で被災したスリランカの復

興事業がある。国際協力銀行は現地で活動する日本のNGOに民族問題や被災民のニーズを踏

まえた漁業活性化策の提案を依頼している。28」 このように、ODA だけでは支援しきれない部分に対しては NGO との関係を構築し、補完

関係を築くべきである。 安全保障をより大きな指針に

ODA は経済援助だから経済面での計算は当然として、日本は安全保障への配慮が少なすぎ

る。核兵器を保有する軍事大国の中国への巨額の援助が例である。ODA が安全保障にどんな

影響をもたらすかをもっと深く考えるべきだ。将来、日本の脅威となる国には援助を慎重に考

え実行しなければならない。逆に安全保障上脅威となる国には ODA 援助を増やしバランスを

とるという考えも必要だろう。 しかし、ODA を自国の安全保障とかねあわせて良いのかという疑問も残る。そこはよく考

える必要がある。 ODA 財源の見直し

ODA の財源として財政投融資を多く活用することにより、援助の形態・内容が限られてく

る。もし、日本の ODA を無償援助・社会インフラにシフトさせようとした時には、財源を返

済不要な租税資金によって多くを補う必要がある。 どんな形態の援助を 良のものとするにしても、より柔軟な対応ができる体制にしておかな

ければならない。そのためにも ODA 財源の見直しをするべきである。 人員の構成、受注システムの構築

民間企業が ODA に多く入り込むのは ODA に関わる政府の人員不足にも原因がある。もち

ろん、すべての援助を政府の人員で行うのは無理である。しかし、政府と民間の取次ぎ役とな

る人員が必要である。プロジェクトが決定した後、民間に発注した後の現地調査には、民間職

員だけではなしに政府の人間も必要である。それも、少数ではなく、ある程度まとまった人員

が必要である。 また、民間企業の利益重視にならないように徹底した入札システムの構築が必要である。い

わゆる、政府御用達の商社ができてはならない。相手国側も借款である以上は費用も考慮にい

れなければいけない。入札制の構築により相手国のニーズに合う商社が決まってくるであろう。

現地機能の強化

ODAの戦略性・透明性・効率性の向上や説明責任の徹底を図るためには、国別の援助戦略

構築における現地の役割の強化が必要であるとの考えのもと、ODA大綱では「現地機能の強

化」の方針が打ち出された。援助政策の決定・実施過程において在外公館及び実施機関現地事

務所などが一体となって主導的な役割を果たすようその機能を強化し、そのような努力と共に、

現地を中心として、被援助国にとって何が開発上の優先課題になっているのか、その中でもど

のようなことに日本の貢献が求められているのかを総合的かつ的確に把握すること。具体的に

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日本の対アジア ODA の諸問題

は、在外公館や実施機関の現地事務所などにその国についての知見や経験をもつ外部の人材を

活用したり、現地に精通した現地関係者と連携したりすることを通じて現地の経済社会状況な

どを十分把握すること、そして、そのような仕組みを作ることが重要である。

このような現地機能の強化により、日本は他のドナーとの援助協調においても積極的な貢献

を行うべきである。被援助国政府のリーダーシップの下に、ドナーを含む関係機関が協力し策

定・実施される貧困削減戦略文書(PRSP)の策定・見直しが進められている。このような

PRSPの動きに併せて、現地ベースでの援助協調の動きは各地で本格化し、それに対し日本は

例えば、ベトナムでPRSPの経済成長戦略拡充におけるドナー協議をリードするなど、援助の

効率化を目指し活発に議論に参加して積極的に貢献するべきである。

終わりに

日本の対アジア ODA にはまだまだ改革点があると思われる。それの探索もふくめて、まだ

まだ研究する余地があるであろう。そして、日本のこれからの ODA の方向性を見つめ直す必

要がある。 また、現在日本国民のなかで ODA の存在が強く意識されている。それは数々の汚職により

クローズアップされてきているからであろう。今こそ、日本の対アジア ODA、もしくは世界

各地への ODA を再考するときである。ODA は現在、外交の手段、ビジネスとしての手段な

ど様々な目的で使われてきたかもしれない。また、日本の経済、貿易にとても重要とされてい

る東南アジアに対しては、それらの目的で使われていたのも仕方のないことかもしれない。も

ちろん、今の日本があるのはアジアの国々からの経済利益があってのものだとも思われる。し

かし、やはり 終的にたどりつくのは日本の ODA には、誰のための援助か、何のための援助

か、という点が一番重要な点である。それを考えるとおのずと日本の ODA をどう変えたらよ

いか、どう使えばよいか、が見えてくるだろう。 世界では、5 人に 1 人が 1 日 1 ドル未満の所得で生活をし、7 人に1人が慢性的な飢餓で苦

しんでいる。またアジアで見てみると、世界の 1 日 1 ドル未満で生活する人々のうち南アジア

は 42%も占めている。また栄養不良者も世界で 7 億 9900 万人、アジアでは 1 億 5800 万人存

在する29。そして、失業率も 2004 年の暫定的数値ではあるが、フィリピンで 10.9%、インド

ネシアで 7.4%となっている30。他のアジア諸国は日本並みになっているが、中国、タイなど

の街中で潜んでいる数を含めれば膨大にふくれあがると思われる。 この他にも様々な問題で苦しんでいる国がたくさんある。日本は幸福にも他のアジア諸国よ

りも先に経済成長し、比較的裕福な生活をしている。そんな中、近隣のアジア諸国をサポート

するのが日本の ODA の役割なのではないか。

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

補論 諸外国の ODA ここでは、日本以外の諸外国の ODA ついてとりあげる。

(1) アメリカ

援助理念と動向

アメリカは第 2 次世界大戦後の西側自由主義国の経済復興に資金面や技術面、

組織面などで大きな援助を行い、この経験をいかして、途上国への援助への援助

にもいろいろな意味でリーダーシップを発揮しながら積極的に取り組んできた。 戦後、旧ソ連を中心とする東側諸国との冷戦構造が続く中で、アメリカの援助

理念では共産主義威力の途上国の浸透を抑え、自由主義を守る、ということが重

要視されてきた。特にアイゼンハワー大統領(在任 1953~60 年)時代には共産圏

囲い込みを目的として、ギリシャ、トルコ、東南アジア、南ベトナム(当時)、台

湾、韓国などに資金協力が軍事援助と共に行われてきた。

援助対象国

アメリカの援助は国際政治上の配慮に基づいて行われることが大きな要素であ

ったため、その時々の状況に応じて援助の対象国がかなり変化する傾向が見られ

る。アイゼハワー大統領時代の主な援助対象国は先に見たとおりだが、カーター

大統領(在任 77~80 年)時代以降はエジプト・イスラエル間のキャンプデービッ

ド和平合意を受け、両国に対する援助が急増した。

援助形態

国際政治戦略上の配慮に基づいて行われる経済援助は「経済支援基金」(ESF)という援助予算上のカテゴリーで呼ばれているが、この他に重要な援助カテゴリ

ーとしては、「開発援助」(DA)及び「食料援助」(PL480 援助)があげられる。

前者は主として途上国の人々の「草の根」的なニーズを満たすために行われ、後

者はその名のごとく食糧援助だが、アメリカが一大農業生産国であるという事情

を踏まえて供与されるものである。 この他に行われる援助として世界銀行、アジア開発銀行、国連などの国際開発

機関にアメリカが他の国と共に資金を出して、実際の援助はこれらの機関が行う

「マルチを通じての援助」がある。31

援助形態間の力点の置き方の変換

アメリカの援助で上記の ESF, DA, PL480, 及びマルチを通じた援助のどれを重視するかはそ

の時々の大統領の方針や米国議会の政策などにより大きな変化があった。カーター大統領の時

は BHN(ベーシック・ヒューマン・ニーズ)充足の考え方から DA が重視されたのだが、そ

の後のレーガン大統領(在任 81~88 年)の時代には東西対立の激化もあり ESF が増加し、マ

ルチを通じての援助が大幅に縮小された。 93 年にクリントン政権になり、アメリカは新たな援助方針の策定に着手し、持続可能な開

発を基本目標に据えた開発戦略を採用した。そして、援助の効果的実施という観点からは、結

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日本の対アジア ODA の諸問題

果重視の姿勢を明確にし、援助先についても開発パートナーとして相応しくない国に対する援

助は行わないとの方針を打ち出している。

アメリカの援助の動向

1. 援助量、贈与のシェア ODA 総額は 90.6 億ドルで先進国中第 2 位だった。贈与の占めるシェアは

86.7%で基本的に ESF, DA はともに無償援助で、PL480 のみが部分的に借款と

なっている。 2. タイド性

アメリカの二国間援助は国際収支支援型のものなどの一部の例外を除いてす

べてタイドで、アメリカ企業からの物やサービスの購入にしか使えない。 3. セクター配分

社会インフラが 32.2%、経済インフラが 9.0%、プログラム援助が 8.6%、そ

の他が 44.2%となっている。 4. 援助の地域別配分

地域別配分としては、中近東、北アフリカ、東欧のシェアが も高く、次に

サブサハラ・アフリカが続いてきている。32

(2) ヨーロッパ

西側先進国の ODA に占めるヨーロッパ諸国のシェア

ヨーロッパの国は 96 年に DAC メンバーとして援助実績のある 21 カ国中 16カ国と大半を占めており、同年実績(支出総額ベース)で 347 億ドルと DAC 全

体の 61%のシェアになっている。ただし、ヨーロッパには経済規模の小さい国

も多く、96 年実績で 10 億ドル以上の援助を行っているのはドイツ、フランス、

デンマークなど 10 カ国で、これら 10 カ国の合計は 96 年で 312 億ドルとヨーロ

ッパ諸国全体の 90%以上を占める。

援助の条件

北欧諸国を始め、多くのヨーロッパ諸国の ODA は 94~95 年平均でみて無償援

助が ODA のすべて、もしくは 90%以上を占めているが、フランス(82.0%)、

オーストラリア(80.0%)、ドイツ(79.5%)、スペイン(71.5%)は比較的無償

援助の比率が低く有償による援助が多い。

援助の「ひもつき」の程度

援助が自国企業のみ受注可能か否か、すなわち「ひもつき(タイド)援助」か

否かについては、ヨーロッパ諸国の二国間援助はタイド援助のシェアが高く、94年実績では特にドイツ(55.7%)、イギリス(54.2%)のタイド比率の高いのが目

立つ。

ODA の地域別配分

ヨーロッパ諸国はサブサハラアフリカ重視の傾向を強めている。これは旧宗主

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

国と植民地という歴史的なつながり、地理的近さ、援助を 貧国に重点的に配分

するとの考え方などの反映とみられる。例えば、フランスの場合「仏語圏」が中

心的な援助対象である。95 年の上位供与先 10 カ国中、非仏語圏は 1 カ国のみで、

他の仏語圏上位供与先 9 カ国で二国間援助の約 4 割を占めている。33

(3) 韓国(援助される側から援助する側になった国)

日本も第二次世界大戦後アメリカから援助されていた時期があった。その効果的な援助に

より経済をとり戻し、今や援助供与国上位となっている。それに類似する点をもつ韓国の

ODA をみてみる。 日本の対韓国援助

日本の韓国に対する援助は 1965 年から 96 年までで累計 6455 億円の円借款が供与され

てきた。借款が供与された部門は、当初 60 年代及び 70 年代は運輸、ダム、鉱工業など産

業基盤中心で、これらは現在の韓国経済発展の基礎作りに大きな役割をもたらした。80 年

代になると、借款は生活基盤中心へと大幅に変化し、83 年中曾根首相訪韓時に行われた協

力意図表明で、円借款については 18.5 億ドルを目処とする資金協力を行うことにした。そ

の借款が 90 年までに上下水道、教育施設、医療施設、公害防止施設などに供与された。 韓国経済の発展と被援助国からの卒業

韓国は 70 年代に高度経済成長を達成し、80 年代も急成長を続け、86~87 年 GNP 成長

率は 12%を超えた。 このように韓国が飛躍的に発展を成し遂げ、着実に工業国へと前進してきていることか

ら、韓国に対する円借款は 90 年に供与されたものを 後に円借款から卒業した。

韓国の援助

韓国の 96 年の ODA 実績は 1 億 5915 万ドルとなっている。韓国の ODA 実績は、従来、

大半は多国間援助によって占められていたが対外経済協力基金(EDCF)や韓国国際協力

団(KOICA)の設立により、近年二国間援助が本格化してきている。 韓国の二国間援助はその対象国が韓国より一人あたりの国民所得の低い途上国であり、

かつ韓国の経済的利益を促進するとの原則に基づき決定されている。二国間援助実績をみ

ると、87 年の 142 万ドルから 96 年は 1 億 2331 万ドルへと大幅に伸びてきている。89 年

からは EDCF による二国間有償資金援助に基づく融資が始まり、96 年には 6990 万ドルが

貸付られた。今後もこの有償資金援助が伸びていくだろう。 以上のように諸外国の援助は様々である。しかし、アメリカ、ヨーロッパ諸国などの先進諸

国の ODA には何点か似かよった点がある。それは、まず二国間援助に力をいれ、その援助に

際してタイド制を採用していることである。日本も以前多くタイド制を採用していた。だが、

現在はアンタイド制をとっている。このアメリカ、ヨーロッパ諸国の ODA の裏には自国の利

益を目論んだ意向が伺われる。多くの国で借款率は低く、無償援助が多いのは図 1 から読みと

れる。だが、無償援助が多い代わりに、タイド制を採用している点では、自国の利益を考慮し

つつ、金貸しになっているというように思われる点がある。逆に、日本の借款をグラント・エ

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日本の対アジア ODA の諸問題

レメントの良い条件で貸付しているのも悪いようには思われない。 もう一つの点として、上述した、先進諸国の ODA 供与相手国についてである。アメリカに

してもヨーロッパ諸国にしても供与相手国に偏りがある。しかも、多くを占めている供与国が

以前自国の植民地などの支配下にあった国々である。これにも、やはり自国の利益を考慮して

いる姿が伺える。

51

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

付 録

付図 1 わが国二国間 ODA の地域別配分

単位:百万ドル

アジア

727.51

1,088.262,404.71

無償資金援助

技術協力

政府貸与等

欧州

41.96

42.52

31.61

中東

177.86135.47

26.14

52

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日本の対アジア ODA の諸問題

アフリカ

614.42

223.34

13.57

中南米

269.62

302.99

165.61

大洋州

48.41

44.67

8.43

分類不能

1,105.48

4.86

26.88

(出所)『政府開発援助(ODA)白書 2002 年度版の要旨』より作成

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

付図 2 わが国二国間援助 ODA の地域別配分の推移

-20% 0% 20% 40% 60% 80% 100%

2001

2000

1999

1998

1997

1990

1980

1970

アジア

中東

アフリカ

中南米

大洋州

欧州

その他

(出所)『政府開発援助(ODA)白書 2002 年度版の要旨』より作成

付図 3 1 日 1 ドル未満で暮らす人々の地域分布

27%

5%

2%

24%

42%

サハラ以南アフリカ

中南米

東欧・CIS諸国

東アジア・太平洋諸国

南アジア

(出所)「人間開発報告書 2003」

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日本の対アジア ODA の諸問題

付表 1 わが国二国間 ODA の 10 大供与相手国・供与額 (支出順額ベース, 単位:百万ドル、%)

1999 年 順位 国名 金額 シェア

1 インドネシア 1,605.83 15.3 2 中国 1,225.97 11.68 3 タイ 880.26 8.39 4 ベトナム 679.98 6.48 5 インド 634.02 6.04 6 フィリピン 412.98 3.93 7 ペルー 189.12 1.80 8 パキスタン 169.74 1.62 9 ブラジル 149.36 1.42

10 シリア 136.17 1.30 10 位合計 6,083.45 57.95 途上国計 10,497.56 100

2000 年 順位 国名 金額 シェア

1 インドネシア 970.10 10.06 2 ベトナム 923.68 9.58 3 中国 769.19 7.98 4 タイ 635.25 6.59 5 インド 368.16 3.82 6 フィリピン 304.48 3.16 7 パキスタン 280.36 2.91 8 タンザニア 217.14 2.25 9 バングラデッシュ 201.62 2.09

10 ペルー 191.68 1.99 10 位合計 4,861.64 50.43 途上国計 9,640.10 100

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経済政策研究 第 2 号(通巻第 2 号) 2006 年 3 月

2001 年

順位 国名 金額 シェア

1 インドネシア 860.07 11.54 2 中国 686.13 9.21 3 インド 528.87 7.10 4 ベトナム 459.53 6.17 5 フィリピン 298.22 4.00 6 タンザニア 260.44 3.49 7 パキスタン 211.41 2.84 8 タイ 209.59 2.81 9 スリランカ 184.72 2.48

10 ペルー 156.52 2.1

10 位合計 3,855.50 51.74

途上国計 7,452.04 100

(出所)『政府開発援助(ODA)白書 2002 年度版の要旨』より作成

1 グラント・エレメントとは、援助条件の緩やかさを表示するための指標である。市場金利(10%と仮

定)で貸付するものを 0%とし、無償資金協力を 100%としたもの。金利、返済期間などの条件が緩やか

になるにしたがって高くなる。25%以上のものがODAとして認められる。 2(5)p.242. 3(1)p.8 4 第二次世界大戦後、アジア太平洋地域の国々の経済・社会開発を促進することを目的に設立

された国際機関。 5 援助に必要とされる資材、役務の調達先を援助する側の国と援助される側の国に限定するも

の。 6 援助に必要とされる資材、役務の調達先を限定しないもの。 7(1)p.10 8 ODAの理念などを内外に示すためにつくられたもの。閣議決定されたもので、法的拘束力はもたない。

理念や原則には、人道的配慮、相互依存関係の深化、環境の保全、平和国家、自助努力にもとづくODAの実施。 9 1996 年に出されたODA大網を具体化したもの。ODAについての基本的な考え方、重点課題地域別の援

助方針、援助手法が体系化されている。 10 経済協力開発機構の下部組織で、主として援助の量的拡大、質的向上について援助供与国間の意見調

節を行う。 11(1)pp.39~40 12 サハラ砂漠以南のアフリカ諸国。 13(2) 14 国際機関への出資のため、現金に代えて交付する国債で、償還期限が確定していないという特徴をも

つ。

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日本の対アジア ODA の諸問題

15(3)p.126 16(3)p.127 17 近の円借款は金利が 0.7%、返済は 40 年間、 初の 10 年は据え置きで、払わなくても良いという条

件。 18(3)p.128 19(3)p.130 20(3)p.132 21 (10) 22(3)p.152 23(3)p.152 24 (11) 25 「ゼミナール 大競争時代のODA」,『日本経済新聞』, 2005 年 10 月 4 日. 26(3)p.221 27 (12) p.62 28 「ゼミナール 大競争時代のODA」,『日本経済新聞』, 2005 年 10 月 3 日. なお、ここでの昨年末と

いう記載は 2004 年 12 月のことである。 29 (8)グラフ(資料 2)文章参照 30 (9) 31 (6) pp.104~105. なお、原典には、大統領の在任期間の表記に明らかな誤りがあり、本稿では、これを

修正のうえ引用した。以下同。 32 (6) p.106 33 (6) pp.109, .113~114 参考文献

(1)渡辺利夫・三浦有志『ODA(政府開発援助)日本に何ができるのか』, 中公新書, 2003. (2)対外経済協力会関係閣僚会議「ODA の透明性・効率性の向上について(妙)」, 資料 20,

1998 年 11 月 27 日,http://www.soumu.go.jp/hyouka/siryo0020.pdf (3)古森義久『ODA 再考』, PHP 新書, 2002. (4)『政府開発援助(ODA)白書 2002 年度版の要旨』

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/2002_2.html (5)船津潤「ODA と財政の国際化」, 金澤史男編『財政学』, 有斐閣ブックス, 2005. (6)久保田勇夫『Q&A 分かりやすい ODA』, ぎょうせい, 1998. (7)毎日新聞社会部 ODA 取材班『国際援助ビジネス ODA はどう使われているか』, 亜紀

書房, 1990. (8)『労働と飢餓』 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/handbook01.pdf (9)『アジア諸国 主要経済データ 労働 失業率』

http://www.asianstocks.info/ecodata/jobless.htm (10)ベトナム社会主義共和国在日大使館『日越関係 ODA』

http://www.vietnamembassy.jp/japanese/relations/economy.html (11)特定非営利活動法人 メコン・ウオッチ,『対ベトナム ODA メコン河開発メールニュー

ス』 http://www.mekongwatch.org/resource/news/20031221_01.html (12) 外務省『ODA 政府開発援助白書 2003 年版 ~新 ODA 大網の目指すもの~』, 2004.

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