-nox三次規制対応技術 -nox三次規制対応技術

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― 70 ― Journal of the JIME Vol. 45, No. 4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010) MAN-B&W ディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx 三次規制対応技術 田 中 一 郎 ** 1. はじめに 舶用ディーゼル機関はその熱効率が50%を超えてお り,残渣油使用とも相まって,すでに資源を有効に活 用していると言える.しかしながら,最近の経済状況 は,さらなる燃料費削減を要求している.また,地球 温暖化対応として, IMO において船舶に対し,トンマ イルあたりの CO2 排出量(EEDI EEOI 等)を規制し ようとする動きも始まっている 一方,従来技術の延長上では, CO2 排出低減は,ト レードオフの関係にある NOx 排出量の増加に繋がる. また, S 分を多く含む残渣油を主燃料とするため, SOx 排出量も相対的に多い.NOx および SOx は酸性雨の 主因と考えられており,すでに IMO により,NOx よび SOx 排出規制が始まっている.さらに,今後段階 的に規制が強化される.特に 2016 年からの NOx 三次 規制(ECA 域内では一次規制値比 80%減,図1参照) および 2015 年からの SOx 排出規制(ECA 域内での燃 料油中の S 含有量 0.1%以下,図2参照)は脱硝装置の 装備や留出油の適用拡大等,船舶の推進システムに大 幅な変化をもたらす可能性がある.また,現時点では, NOx 三次規制対応技術は複数案考えられているが,一 長一短がある. 以上の状況を鑑みた場合,最大の課題は, NOx 三次 規制値をクリアしつつ CO2 排出削減にも繋がる技術 開発であると考えられる.また,燃料油中の S 分の厳 しい規制により,使用頻度が増えると予想されるマリ ンガスオイル(MGO)の低粘度への対応技術も求めら *原稿受付 平成 22 4 28 *正会員 三井造船株式会社(岡山県玉野市) れる.従って,今後の方向としては,機関,脱硝装置, 排熱回収システムならびに低粘度燃料への対応技術を 組み合わせた舶用推進装置の開発が求められている. 本稿では,当社および MAN Diesel 社が取り組んで いる舶用大型低速ディーゼル機関における NOx 規制 対応技術のうち,主として三次規制への対応技術につ いて,CO2 削減技術にも言及し,解説する.また,天 然ガス燃料は CO2NOxSOx の同時削減に寄与する 燃料であることから,天然ガス燃料機関も併せて紹介 する. 2. NOx 二次規制対応技術 まず,MAN 機関について,二次規制対応への取り 組みについて紹介する. MAN Diesel 社は,所有するリ サーチエンジン(4T50ME-X)を活用し,様々なパラ メータ変更試験を実施し, NOxと CO2 SFOC :燃料 消費率)のトレードオフ関係を改善するパラメータの 組合せを見出した.(図3) 図3 NOxSFOC の関係

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Page 1: -NOx三次規制対応技術 -NOx三次規制対応技術

MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 70 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介*

-NOx三次規制対応技術

田 中 一 郎**

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

1. はじめに 舶用ディーゼル機関はその熱効率が50%を超えてお

り,残渣油使用とも相まって,すでに資源を有効に活

用していると言える.しかしながら,最近の経済状況

は,さらなる燃料費削減を要求している.また,地球

温暖化対応として,IMO において船舶に対し,トンマ

イルあたりのCO2 排出量(EEDI・EEOI 等)を規制し

ようとする動きも始まっている 一方,従来技術の延長上では,CO2 排出低減は,ト

レードオフの関係にあるNOx 排出量の増加に繋がる.

また,S 分を多く含む残渣油を主燃料とするため,SOx排出量も相対的に多い.NOx および SOx は酸性雨の

主因と考えられており,すでに IMO により,NOx お

よび SOx 排出規制が始まっている.さらに,今後段階

的に規制が強化される.特に 2016 年からのNOx 三次

規制(ECA 域内では一次規制値比 80%減,図1参照)

および 2015 年からの SOx 排出規制(ECA 域内での燃

料油中の S 含有量 0.1%以下,図2参照)は脱硝装置の

装備や留出油の適用拡大等,船舶の推進システムに大

幅な変化をもたらす可能性がある.また,現時点では,

NOx 三次規制対応技術は複数案考えられているが,一

長一短がある.

以上の状況を鑑みた場合,最大の課題は,NOx 三次

規制値をクリアしつつ CO2 排出削減にも繋がる技術

開発であると考えられる.また,燃料油中の S 分の厳

しい規制により,使用頻度が増えると予想されるマリ

ンガスオイル(MGO)の低粘度への対応技術も求めら

*原稿受付 平成 22 年 4 月 28 日 *正会員 三井造船株式会社(岡山県玉野市)

れる.従って,今後の方向としては,機関,脱硝装置,

排熱回収システムならびに低粘度燃料への対応技術を

組み合わせた舶用推進装置の開発が求められている. 本稿では,当社および MAN Diesel 社が取り組んで

いる舶用大型低速ディーゼル機関における NOx 規制

対応技術のうち,主として三次規制への対応技術につ

いて,CO2 削減技術にも言及し,解説する.また,天

然ガス燃料はCO2,NOx,SOx の同時削減に寄与する

燃料であることから,天然ガス燃料機関も併せて紹介

する.

2. NOx二次規制対応技術

まず,MAN 機関について,二次規制対応への取り

組みについて紹介する.MAN Diesel 社は,所有するリ

サーチエンジン(4T50ME-X)を活用し,様々なパラ

メータ変更試験を実施し,NOxとCO2(SFOC:燃料

消費率)のトレードオフ関係を改善するパラメータの

組合せを見出した.(図3)

図3 NOx-SFOC の関係

MAN-B&W ディーゼル機関における環境保全技術紹介

-NOx三次規制対応技術

田中 一郎**

Page 2: -NOx三次規制対応技術 -NOx三次規制対応技術

MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 71 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

508日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

基本的には,ミラーサイクル化を指向しており,排

気弁開閉タイミングの変更,高圧力比過給機適用等に

より,掃気圧を 0.02MPa 程度高め,燃焼温度を下げ,

NOx 低下を狙っている.さらに電子制御機関(ME エ

ンジン)では,Rate Shaping と称する二段階的な噴射

パターンの採用により初期噴射率を抑えることにより,

燃焼性能の改善を図りつつ,低NOx 化を狙っている.

その結果,電子制御機関の燃焼消費率は,従来の機械

式機関に比べ,3g/kWhr 程度改善されている.ME エ

ンジンにはコモンレール方式とは異なる燃料圧力ブー

スタシステムを採用しており,このRate Shaping は容

易に実現できる.(図4)

図4 燃料油圧力ブースタ原理

さらに,ME エンジンでは”Low Load Mode”と称す

る低負荷性能改善モードや過給機の可変機構システム

である,可変ノズル(VTA:Variable Turbine Area,図

5)と組合せ,電子制御を行うことにより,NOx 二次

規制を満足するとともに,低負荷性能を改善し,減速

運転時に一層のCO2 削減を図ることも可能である. 当社における VTA 陸上試験結果では,部分負荷にお

いて,最大4g/kWhrの燃費改善効果が認められている.

ただし,NOx 排出規制を満足するため,各負荷におけ

るNOx 排出量と燃費の最適化は必要となる.

3. NOx三次規制対応技術

一次規制値比80%減というレベルはエンジン内技術

の適用のみでの達成は困難であり,何らかの脱硝技術

との組合せが必須と考えられている.

3.1 MAN Diesel 社の取組み NOx 排出を大幅に削減する方法としては,二次規制

対応と同様,燃焼温度を下げることにより,発生する

NOx 自身を減らす方法と,生成した NOx を除去する

方法が考えられる.NOx 発生量は燃焼温度に大きく依

存する.従って,前者は掃気中の酸素濃度を下げる,

あるいは,水(水蒸気)を活用する,ことにより,燃

焼空気の熱容量を上昇させ,燃焼温度を下げる手法で

ある.

水エマルジョン燃料利用,水噴射(WFE:Water Fuel Emulsion),掃気加湿(SAM:Scavenging Air Moisturing),排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が

これに含まれる. MAN Diesel 社ではさらに燃焼ガス再循環(CGR:

Combustion Gas Recirculation)も開発中である.一方,

後者については,機能膜を活用した技術提案もあるが,

NOx を化学反応によりN2 と水分に分離する選択還元

脱硝触媒装置(SCR:Selective Catalytic Reduction)が

有力な候補である.以下にそれぞれの開発状況を当社

の実績も交え,紹介する.

3.1.1 水利用技術

MAN Diesel 社は,20%から 40%程度の削減率であ

れば実証済の技術との立場である.当社のテストでは,

WFE によりNOx 排出量 80%減を確認したが,燃料と

同量程度の水を必要とする.従って,単独技術として

の利用は現実的には困難と考える.また,WFE を予熱

した低質油と共に使用する場合は,ブラックアウト時

にも水の沸騰を回避するため,必要圧力を維持する必

要があり,始動空気駆動式ポンプ等の独立した動力供

給システムの設置が必要となる.SAM については,実

船試験結果,及び SAM 単独での 80%削減は厳しいこ

と,より,現段階では三次規制対応技術とはなり難い

と判断される.しかしながら,SAM 適用により排熱回

収量を増やすことが可能であり,むしろ排熱回収技術

の一つとの位置付けに近い.表1および図6に,MAN

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MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 72 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

509 日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

Diesel 社が提案している,コンテナ船向大型機関にお

ける蒸気タービンとパワータービンを用いた発電によ

る排熱回収システム(WHR:Waste Heat Recovery System)例を示す 1).現状(CASE1)に比べ、いずれ

のケース(CASE2~CASE6)でも排熱回収率(Power rel. to main engine)は増加しているが,SAM 適用(CASE5)時の排熱回収率が最も高く、排熱回収率が 10%から

18%に増加している.また,後述するEGR との組合せ

(CASE6)でも同様に 13.9%に増えており,EGR と

WHR の組合せもNOx 三次規制を満足しつつ,CO2 を

削減する技術として有力な候補の一つと言える.なお、

これらのシステムでは,TES 仕様と称する排ガス温度

を標準よりも上昇させる仕様を採用している.

CASE1 現状(Conventional)

CASE2

CASE3

CASE4

CASE5 SAM 適用時

CASE6 EGR 適用時 図6 WHR システム図 表1 排熱回収率

3.1.2 EGR EGR プロトタイプシステムの主要部概略を図7に

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MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 74 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

510日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

示す.MAN Diesel 社のリサーチエンジンでのテストに

より,80%削減に近い結果が得られている.NOX 削減

性能面における主要開発課題は,排気ガスを浄化する

ためのスクラバ装備およびスクラバに用いる水処理技

術開発,さらに,掃気に戻すために再循環する排気ガ

スを昇圧するためのブロア動力の低減,等である.

図7 EGR プロトタイプシステム また,スクラバにより浄化させるものの,排気ガス

を掃気に再循環させるため,掃気系統の信頼性の確保

も重要である.そこで,MAN Diesel 社では,7S50MCにて EGR の実船試験を今後1~2年実施した後,市

場投入を計画している.実船テスト用 EGR システム

を図8に,EGR システムの系統図を図9に示す. これまで述べてきた,NOx削減性能改善および信頼

性検証に加え,今後は,CO2 削減への寄与との観点か

ら,二次規制適用域と三次規制適応域(ECA 域内)で

の EGR 率の最適化も検討される.この最適化は過給

機仕様にも影響を与える.従って過給機可変ノズルと

の併用や排熱回収システムの利用等,CO2 削減技術と

の組合せ技術の開発も必要になると思われる.

図8 実船テスト用EGRシステム

3.1.3 SCR 当社では,低速機関での陸上発電設備に SCR を装備

した実績がある.MAN 機関としても陸上発電設備の

他,実船にも搭載しており,その主機関は 6S50MC,6S35MC である.6S50MC 機関用に搭載した SCR 装置

図を図10に示す 2). 上記例では,いずれのケースも SCR を過給機前に装備

している.これは低速機関は高効率ゆえに,過給機出

口の排気ガス温度が 300℃以下と低く,脱硝性能が充

分発揮され難いことに起因する.

図9 EGR システム系統図

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MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 74 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

511 日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

従って,日本では「スーパークリーン・マリンディー

ゼルの研究開発」として SCR の研究を進めている.

SCR 機器スペース,尿素等のランニングコストも課題

の一つである. 以上,MAN Diesel 社ではEGR とともに SCR の開発

にも取り組んでいる.

図10 SCR 装置図

3.2 三井造船における取組み

SOx 規制の強化は SCR には好都合となる.そこで,

当社では,MAN Diesel 社とは異なるアプローチにより,

SCR の課題を克服するための NOx 三次規制対応技術

を開発中である 3).過給機後流へ SCR 装備した場合で

も,良好な脱硝性能を維持するため,燃焼性能を悪化

させること無く,過給機出口排気ガス温度を高めるこ

とを目的に,排気ガス高温低温分離システム

(EGS:Exhaust Gas Separation System)の開発に取り組

んでいる.まず,当社試験機関 MTE40 にて従来の排

気方式の場合の排気ガスの温度,圧力,NOx 濃度の過

渡的な変化を計測し,次の結果を得た. MTE40 機関

の緒言を表 2 に示す. 表 2 MTE40 緒言

(1)排気弁が開いた直後の排気工程では,NOx の含

有率及びガス温度が高く,燃焼後の排気ガスが主であ

る. (2)排気弁が閉じる直前の掃気工程ではNOx 濃度及

びガス温度は低く,掃気が多く含まれている.

この結果より,現状の排気方式では,この二種類の

ガスが,排気レシーバ内で混合され,中温のガスとな

り過給機に供給されていると考えられる.従って,こ

の二種類のガスを適切に分離できれば,より高温の排

気ガスを過給機に供給するとともに,掃気を多く含ん

だ低温ガスは掃気に導入することが可能となる.その

概念図を図11 に示す.

図 11 EGS システム概念図

EGS では,ガス分離のため,排気通路を二箇所設置

し,通路切替用の弁(副弁)を新たに装備する.従来

の排気弁に相当する主弁及び新設される副弁ともに電

子制御により開閉する.従って,主弁の開閉タイミン

グ及び副弁の切替えタイミングは任意で変更可能であ

る.図 12 に開発中のシステムの断面図を示す.この技

術は,当社中速機関に採用し,実績のある一弁式給排

気弁方式を踏襲した. 次に,MTE40 機関に EGS を装備し,分離性能を検

証した.図 13 に試験機関の外観を示す. MTE40 での

試験は基礎試験を終えた段階であるが,高温側排気ガ

スと低温側ガスに分離できること,および,高負荷域

図 12 EGS システム断面図

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MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 75 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

512日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -6- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

図 13 MTE40 でのEGS 搭載外観写真 において高温側排気ガスは従来の排気ガス温度に比べ,

約 80℃上昇する結果が得られた.この高温側排気ガス

温度上昇により,過給機出口側排気ガス温度も SCR を

過給機後流側に装備することが可能な温度レベルに近

づくと考えられる.図 14 に EGS 適用時および従来方

式において,SCR を装備した例を示す.また,排気ガ

ス温度の上昇は排熱回収率の増加にも繋がる.本基礎

試験の結果,EGS は,NOx 三次規制への対応を採りつ

つ,CO2削減に寄与するシステムとしての可能性を秘

めていると考えられ,実用化開発に着手したところで

ある.一方,低温側ガスを掃気へ戻すには,EGR 同様,

補助ブロアが必要である.従って,EGR 開発と同様,

ブロア動力への対応や掃気系の信頼性検証等が今後の

開発課題に含まれる.

4. 天然ガス燃料機関(ME-GI)

メタンを主成分とする天然ガス燃料は SOx フリー

であり,CO2排出量は 20%強低減する.また,NOxも油燃料に比べ,約 10%低減する.従って,天然ガス

燃料は SOx,NOx および CO2 を削減するのに適した

燃料であると言える.当社は,ガス燃料機関として,

高圧のガスを燃焼室に噴射するガスインジェクション

(GI:Gas Injection)方式を採用した機関(低速・中速)

および中速リーンバーンガス機関(GE:Gas Engine)の製造・稼動実績がある.(図15)

図 14 SCR 装備例

図 15 ガスインジェクション発電設備

MAN Diesel 社はこのGI 技術と電子制御エンジン技

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MAN-B&Wディーゼル機関における環境保全技術紹介 -NOx三次規制対応技術

― 76 ―Journal of the JIME Vol. 45, No.4(2010) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第45巻 第4号(2010)

514 日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -7- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

術を合体させ,電子制御式デュアルフューエル(DF)機関(ME-GI)を提案している. ME-GI では,着火

減として若干のパイロット油を必要とするが,このパ

イロット油の割合を調整することにより,デュアルフ

ューエル(DF)化を図っており,重油専燃モード運転

も可能である.(図16)

図 16 ME-GI 運転モード また,高圧のガス供給方法として,従来はガスコンプ

レッサーが標準であったが,近年,LNG を直接昇圧さ

せるポンプの採用も提案しており,LNG 船において再

液化装置との組合せによる LNG ポンプの採用も可能

である.(図17)

図 17 燃料ガス供給システム 最近,LNG 船の主機に中速DF 機関や低速油焚ディ

ーゼル機関が採用されているが,ME-GI も LNG 船の

主機に適応した機関と考えている.さらに,MAN Diesel 社では,コンテナ船への適用も提案している.

(図18)

図18 コンテナ船主機用LNG 焚きME-GI

5. おわりに

今後は NOx 三次規制へ対応しつつ,CO2 も削減を

図る技術が求められており,本稿では,主として,NOx三次規制対応技術について,CO2 削減技術にも言及し,

当社およびMAN Diesel社の取り組み状況を紹介した.

SOx 規制対応も急を要しており,SOx 規制対応や本稿

で紹介した技術開発の動向についても,次の機会でさ

らに詳しく紹介したい.なお,EGS 開発は国土交通省

殿の支援を受け,日本海事協会殿との共同開発にて実

施中である.

謝 辞

当社は低速2サイクル MAN ディーゼル機関のライ

センシであり,本稿を執筆するにあたり,多大なる協

力をいただいた MAN Diesel 社殿に対して,ここに謝

意を表す.

参考文献 (1) Niels Kjemtrup, K. et al., Developments on Exhaust

Emission Modeling for Large Two-Stroke Diesel Engines – Some Comparisons with Measured Data and an Update on the Latest Emission Reduction Techniques , CIMAC Congress 2007 Vienna, Paper No. 230 (2007).

(2)http://www.mandieselturbo.com/files/news/filesof9187/5510-0060-00ppr.pdf,MAN Diesel, , Copenhagen ,Denmark , “ Exhaust Gas Emission Control Today and Tomorrow ”(2009),p.12

(3) Takahashi, K. et al, Study of exhaust gas separation (EGS) system on 2-stroke engine, CIMAC Congress 2010 Bergen, Paper No. 108 (2010).