jela-日本 e-learning 学会 - a study on recorder-performance...

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初等音楽教育におけるリコーダー 演奏練習支援システムの開発 中村公美*、内田智史*、奥野祥二* A study on recorder-performance training support system in elementary music education Kumi Nakamura*, Satoshi Uchida*, Shoji Okuno* Abstract: In Japanese elementary school music education, students practice both singing and playing musical instruments. In many elementary schools, guidance on playing a recorder is provided from the third grade. With practice, students are able to read the score and play the recorder efficiently. Currently, many systems supporting recorder-performance practice exist. For example, various systems are devised wherein a student can understand the required fingering by watching a video. However, the systems do not provide support for the rhythm of the notes. While playing musical instruments, grasping the pitch as well as the rhythm of notes is indispensable. Therefore, in this research, we developed a system equipped with rhythm practice. Further, improvement in the performance skills with respect to a specific musical piece was verified by performance tests before and after the system use, and a survey on system awareness of the students was conducted. On the basis of verification results, we confirmed that practicing a specific song on the recorder using this system can improve the performance technique for that song. In addition, it was found that the rehearsal of the recorder using this system tended to be higher for students' learning motivation than the conventional recorder practice. Key Words : training support system, elementary music education 1. はじめに 戦後から現代に至るまで、多くの小学校の音楽の授業で リコーダー演奏指導が行われている。文部科学省の小学校 の学習指導要領 [1] では、楽器の演奏を通した音楽表現に関 する学習内容として、第 3、4 学年では「曲想にふさわし い表現を工夫し、思いや意図をもって演奏すること」、第 5、 6 学年では「曲想を生かした表現を工夫し、思いや意図を もって演奏すること」と定められている。 「思いや意図を持って演奏する」ためには、楽譜通りに 演奏するための演奏技術が必要である。 楽器演奏に必要な要素として、「楽譜の認識」、「音を出 すために動かす指(以下、運指と呼ぶ)」の 2つが挙げられ る。「楽譜の認識」については、音符の示す「音程」と「長 さ(以下、リズムと呼ぶ)」の識別が重要である。しかし、 音楽の授業でリコーダーを学び始めたばかりの小学生に は、楽譜から自分の吹くべき音程やリズム、運指を瞬時に 把握することは困難である。 リコーダー演奏支援システムの研究として、特定の曲に 対し、音符の示す音程を知る手助けをするシステム [2] や、 運指を知る手助けとなるシステムの研究 [3] があるが、「リ *神奈川大学工学部 Faculty of Engineering, Kanagawa University ズム」を含む「音程」「運指」の全ての認識を補助するシ ステムの研究は行われていない。 楽譜に不慣れな小学生や音楽初心者の楽器演奏を支援 するために、すでに研究が行われている音程と運指に加え、 音符のリズムに関しても支援のできるシステムが求めら れている。本研究では、小学校のリコーダー学習において、 特定の楽曲に対する演奏技術を習得させるために、運指・ 音程・リズムの 3 要素の認識を補助するシステムを作成し た。システムは、児童一人一人が各々のペースで個別学習 が行えるよう、タブレット PC 用アプリケーションとして 作成した。本研究では、作成したアプリケーションを児童 が使用することで、特定の楽曲に対して児童の演奏技術向 上ができるかどうかを明らかにした。 2. 現在の小学校の音楽教育 2.1 音楽の授業内でのリコーダーの指導 現在の小学校の音楽の授業でリコーダーを教える際、先 生 1 人に対して約 20 人前後の児童の指導を行うことが多 い。先生は全ての児童を平等に見なくてはいけないため、 一人に長時間掛けて指導することは困難である。そのため、 楽譜の理解や運指の習得が十分ではない児童に対してな かなかフォローができないという状況にある。また、習い 事として、楽器を教える音楽教室に通っている児童と、そ 47

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  • 初等音楽教育におけるリコーダー

    演奏練習支援システムの開発

    中村公美*、内田智史*、奥野祥二*

    A study on recorder-performance training support system in elementary music education

    Kumi Nakamura*, Satoshi Uchida*, Shoji Okuno*

    Abstract: In Japanese elementary school music education, students practice both singing and playing musical instruments. In many elementary schools, guidance on playing a recorder is provided from the third grade. With practice, students are able to read the score and play the recorder efficiently. Currently, many systems supporting recorder-performance practice exist. For example, various systems are devised wherein a student can understand the required fingering by watching a video. However, the systems do not provide support for the rhythm of the notes. While playing musical instruments, grasping the pitch as well as the rhythm of notes is indispensable. Therefore, in this research, we developed a system equipped with rhythm practice. Further, improvement in the performance skills with respect to a specific musical piece was verified by performance tests before and after the system use, and a survey on system awareness of the students was conducted. On the basis of verification results, we confirmed that practicing a specific song on the recorder using this system can improve the performance technique for that song. In addition, it was found that the rehearsal of the recorder using this system tended to be higher for students' learning motivation than the conventional recorder practice.

    Key Words : training support system, elementary music education

    1. はじめに

    戦後から現代に至るまで、多くの小学校の音楽の授業で

    リコーダー演奏指導が行われている。文部科学省の小学校

    の学習指導要領[1]では、楽器の演奏を通した音楽表現に関

    する学習内容として、第 3、4 学年では「曲想にふさわし

    い表現を工夫し、思いや意図をもって演奏すること」、第 5、

    6 学年では「曲想を生かした表現を工夫し、思いや意図を

    もって演奏すること」と定められている。

    「思いや意図を持って演奏する」ためには、楽譜通りに

    演奏するための演奏技術が必要である。

    楽器演奏に必要な要素として、「楽譜の認識」、「音を出

    すために動かす指(以下、運指と呼ぶ)」の 2つが挙げられ

    る。「楽譜の認識」については、音符の示す「音程」と「長

    さ(以下、リズムと呼ぶ)」の識別が重要である。しかし、

    音楽の授業でリコーダーを学び始めたばかりの小学生に

    は、楽譜から自分の吹くべき音程やリズム、運指を瞬時に

    把握することは困難である。

    リコーダー演奏支援システムの研究として、特定の曲に

    対し、音符の示す音程を知る手助けをするシステム[2]や、

    運指を知る手助けとなるシステムの研究[3]があるが、「リ

    *神奈川大学工学部

    Faculty of Engineering, Kanagawa University

    ズム」を含む「音程」「運指」の全ての認識を補助するシ

    ステムの研究は行われていない。

    楽譜に不慣れな小学生や音楽初心者の楽器演奏を支援

    するために、すでに研究が行われている音程と運指に加え、

    音符のリズムに関しても支援のできるシステムが求めら

    れている。本研究では、小学校のリコーダー学習において、

    特定の楽曲に対する演奏技術を習得させるために、運指・

    音程・リズムの 3要素の認識を補助するシステムを作成し

    た。システムは、児童一人一人が各々のペースで個別学習

    が行えるよう、タブレット PC 用アプリケーションとして

    作成した。本研究では、作成したアプリケーションを児童

    が使用することで、特定の楽曲に対して児童の演奏技術向

    上ができるかどうかを明らかにした。

    2. 現在の小学校の音楽教育

    2.1 音楽の授業内でのリコーダーの指導

    現在の小学校の音楽の授業でリコーダーを教える際、先

    生 1 人に対して約 20 人前後の児童の指導を行うことが多

    い。先生は全ての児童を平等に見なくてはいけないため、

    一人に長時間掛けて指導することは困難である。そのため、

    楽譜の理解や運指の習得が十分ではない児童に対してな

    かなかフォローができないという状況にある。また、習い

    事として、楽器を教える音楽教室に通っている児童と、そ

    47

  • うでない児童に演奏技術の差があるため、1クラスの児童

    をまとめて同じように全体指導するのが困難だという現

    状がある。

    この現状を改善するために、児童一人一人の楽譜や運指

    の把握を助ける演奏支援システムが必要であると考えら

    れる。

    2.2 音楽の教科書の運指の表示

    小学校で使われている音楽の教科書では、リコーダーの

    運指を図 1のように、口のあたる部分が下に向きになるよ

    うリコーダーを表示している[4]。

    図 1: 音楽の教科書に掲載されているリコーダーの運指

    (参考文献[4]p. 57 より引用)

    2.3 リコーダーの種類

    リコーダーは、ソプラノリコーダー、アルトリコーダー

    など、8種類存在する[5]。その中で、小学校の音楽教育の

    場で使用されるものは、ソプラノリコーダーであることが

    多い。

    ソプラノリコーダーはバロック式とジャーマン式の 2 種

    類が存在している。表 1は、ソプラノリコーダーにおける

    バロック式とジャーマン式の違いを表している[6]。小学校

    におけるリコーダー演奏では、「ファ」の音の運指が主な

    違いである。図 2(a)はバロック式の「ファ」の運指を、

    図 2(b)はジャーマン式の「ファ」の運指をそれぞれ表し

    ている。

    図 2(a): バロック式の 図 2(b):ジャーマン式の

    「ファ」の運指 「ファ」の運指

    「ファ」の運指が音階順であることから、多くの小学校

    でジャーマン式リコーダーが使用されているため、本研究

    で開発するシステムは、ジャーマン式リコーダーの運指を

    補助するものとする。

    表 1: バロック式ソプラノリコーダーとジャーマン式ソ

    プラノリコーダーの違い

    バロック式 ジャーマン式

    ファの音の運指 音階順でない 音階順である

    ♯や♭音の運指 簡単 難しい

    大きさの異なるリコー

    ダーへの運指を応用

    できる できない

    2.4 リコーダー演奏支援システム

    リコーダー演奏支援を行う様々な教育支援システムの

    開発・研究が行われている。

    先述の通り、リコーダー演奏には様々な要素が不可欠で

    ある。リコーダー演奏に必要である運指・音程・リズムの

    3つの要素の支援の有無について、リコーダー演奏支援の

    ための教材を調査した。その結果を表 2 に示す。

    調査対象は、手塚らによるソフトウェア教材[2]、土合ら

    による動画教材[7] 、ヤマハミュージックメディアによる

    iOS 専用アプリケーションの「ふこうよアンサンブル ~

    北宇治高校吹奏楽部へようこそ~ 」[8]の 3 つである。こ

    れらのソフトウェアは、リコーダー演奏に必要な 3つの要

    素のうちいくつかをサポートするものである。演奏を行う

    ためには、複数ある要素のうち 1つでも欠けてはいけない

    が、運指・音程・リズムの 3つ全ての要素をサポートする

    教材は見受けられなかった。

    表 2:リコーダー演奏支援教材一覧

    教材 運指の

    表示

    音程の

    表示

    リ ズ ム

    の表示

    手塚らによる

    ソフトウェア教材

    あり あり なし

    土合らによる動画教材 あり なし なし

    ふこうよアンサンブル

    北宇治高校吹奏楽部へ

    ようこそ

    なし なし あり

    3. システム概要

    本研究では、運指・音程に加え、リズムという要素を取

    り扱うため、運指と音程をまとめて表示する手塚らの研究[2]を参考に、1 人につき 1 台のタブレット PC を用いて使

    用するシステムを制作した。開発環境は表 3の通りである。

    表 3:開発環境

    使用 OS Mac OS X 10.9.5

    使用言語 JDK 1.8.0_60

    48

  • 本研究では、運指・音程・リズムの認識補助をテーマと

    しているため、リコーダーのイメージ図により運指を、楽

    譜と音階名の表示で音程を、リズムを直感的に把握する

    「リズムバー」を音符 1つ 1 つに添え、音符の長さを示し

    た。

    本システムは、楽譜を閲覧する予習パートと、演奏の練

    習を行う練習パートの 2つから構成される。

    3.1 リズムバー

    図 3 に示すように、リズムバーを音符に付随させること

    により、音符の長さを認識する補助を行う。八分音符に付

    随させるリズムバーの長さを基準とし、それぞれの音符に

    対応した長さのリズムバーを音符の下部に表示した。

    図 3:リズムバーを付随させた音符

    3.2 楽譜の扱い

    本アプリケーションでは、楽譜を数値データとして扱っ

    ている。音符の音程とリズムをそれぞれ配列を用意し、数

    値を格納することで楽譜を表した。

    音程は、0 から 11 までの値を使用する。小学校の音楽

    教育の場で使用されるリコーダーは、多くの場合ソプラノ

    リコーダーであるため、ソプラノリコーダーで奏でられる

    最も低い音である「ド」を 1 とおき、そこから 1音上がる

    ごとに 2、3、と定めた。本研究で使用する楽曲の最高音

    は、最低音である「ド」から数えて 11 番目にあたる「フ

    ァ」であるため、扱う数値は 11 までとした。休符は 0 を

    割り当てた。図 4は、本システムに実装されている音符・

    休符の種類である。

    付点二分音符・二分音符・付点四分音符・四分音符・八

    分音符は、「ラ」より低い音である場合には棒が上向きの

    画像が、「シ」より高い音である場合には棒が下向きの画

    像が表示される。

    図 4:本システムに実装した音符及び休符

    また、楽譜では通常、低い「ド」の音を表す際には下第

    一線を書き足すので、本システムにおいても、低い「ド」

    を表示する際は、上記の音符に下第一線を追加させた。

    本研究では、ソプラノリコーダーで奏でられる最も低い

    音である「ド」から、それより 3音高い「ファ」の音まで

    を『低い「ド」』や『低い「ファ」』とし、その音より 1

    オクターブ高い音を『高い「ド」』や『高い「ファ」』と表

    す。

    リズムは、八分音符、四分音符、付点四分音符、二分音

    符、付点二分音符、全音符の 6種類を扱う。リズムを数値

    化するにあたって、まず、長さが最小である八分音符を 1

    とおいた。そして、それぞれの音符が八分音符何個分の長

    さであるか、その値をリズムの数値として割り当てた。そ

    れぞれの音符を数値化した値を表 4に示す。

    表 4:リズムを数値化した値

    八分音

    四分音

    付点四

    分音符

    二分音

    付点二

    分音符

    全音符

    1 2 3 4 6 8

    3.3 運指

    運指の図は、予習パートでは画面右(図 5)に、練習パー

    トではリコーダーのイメージ図を時間枠の下部(図 6)に

    表示した。押さえる穴を赤、押さえない穴を黒で表示する

    ことで運指を示している。また、リコーダーを正面から見

    ると、左手の親指で押さえる穴が見えなくなってしまうた

    め、リコーダーの絵から切り離し、左手の人差し指で押さ

    える穴の左側に穴を表示した。

    図 5:予習パートの運指

    図 6:練習パートの運指

    49

  • 小学校の音楽の教科書[4]では、運指を表すリコーダーの

    図を、右手が上、左手が下になるように掲載しているため、

    本システムも教科書と同様の向きにリコーダーの図を表

    示させた。

    3.4 予習パート

    このパートでは図 7のように、スクロールして楽曲の楽

    譜の全体を確認できる。

    図 7:予習パート画面

    さらに、音符をクリックすることで、その音符の運指が

    画面右側に表示され、運指を知ることができる。運指画像

    は、クリックされた音符の小節と同じ高さに表示される。

    図 8は 4小節目初音の高い「ファ」をクリックした時の画

    面の様子、図 9は、8小節目初音の低い「ファ」をクリッ

    クした時の画面の様子である。このように、クリックされ

    た音符により運指画像の表示位置を変えることで、スクロ

    ール時も見切れてしまうことなく運指の確認ができる。

    図 8:予習パート画面(4 小節目初音の高い「ファ」を

    クリックした場合)

    図 9:予習パート画面(8 小節目初音の低い「ファ」をクリ

    ックした場合)

    音符がクリックされるとアクションリスナーが呼ばれ、

    クリックされた位置のxとyの座標値を取得することで何

    番目の音符がクリックされたかわかり、その値を返す。返

    された値により、音符の音程がわかり、その音程に対応し

    た運指画像が表示される。

    3.5 練習パート

    このパートでは図 10 のように、五線上をアニメーショ

    ンとして流れる音符、音符の下に付随して流れるリズムバ

    ー、リコーダーの図で表される運指を見ながら実際に楽器

    を用いて練習をする。音符とリズムバーは、五線上の左側

    にある長方形の赤い時間枠を目指して流れてくるため、演

    奏者は視点の移動を減らし、音程・長さ・運指の認識に集

    中できる。

    図 10:練習パート画面

    3.5 楽譜の流動

    再生ボタンを押すと、音符とリズムバーが五線上を右か

    ら左に流れる。音符とリズムバーは、スレッドを用いて音

    符とリズムバーを表示する x の座標値を少しずつマイナ

    スしていき、その都度画面を再描画することで動かしてい

    る。運指画像は、流動する音符と連動して切り替わる。

    巻き戻しも同様の仕組みで、音符とリズムバーを表示す

    る xの座標値をプラスしていくことで動かしている。

    図 11 は、再生ボタンが押された状態の音符と運指の変

    化を表している。図左から、図中央、図右へと時間経過と

    ともに変化する。

    50

  • 図 11:楽譜の流動の様子

    図 12:開発初期段階の楽譜画像(一部)

    図 12 は、開発初期段階の楽譜画像の一部である。開

    発初期段階では、ペイントソフトを使用して音符の高さ

    と間隔を手動で調整し、必要な音符全てを横一列に配置

    した横長の楽譜画像をスレッドを用いて動かしていた。

    しかし、この方法では、異なる楽曲を使用するたびに楽

    譜画像を作り直さなくてはならなかったので、楽譜に使

    用される音符単体の画像を作り、配列に格納されている

    楽譜データに対応した音符、休符が表示されるよう改善

    した。

    3.6 テンポ調整

    楽曲本来のBPMを最大のテンポ(テンポ調整ボタン:4)

    とし、その BPM を二分の一にしたテンポ(テンポ調整ボ

    タン:3)と、四分の三にしたテンポ(テンポ調整ボタ

    ン:2)、五分の二にしたテンポ(テンポ調整ボタン:1)の 4

    種類の中から練習者自身がテンポを選択できる(図 13)。

    図 13:テンポ調整ボタン

    テンポの変更は、音符を動かすスレッドのスリープの

    時間を変更することで行っている。初期状態では、2 番

    目に早いテンポ(テンポ調整ボタン:3)に設定してある。

    4. 予備実験

    4.1 予備実験の概要

    二度に渡り予備実験を行った。一度目の実験では、動

    作の確認及び追加すべき機能の検討を行った。二度目の

    実験では、2 名の小学生を対象に、児童にとってシステ

    ムを使用しての練習が困難ではないか検証した。

    4.1.1 予備実験(1):動作確認実験

    システムの動作確認と、追加すべき機能の検討を目的

    に、大学生 3 名を対象に予備実験を行った。 図 14 は、

    この実験を行った時点での練習パート画面である。

    図 14:改善前の練習パート画面

    被験者は、本システムを使用しながらリコーダーの練

    習を 15 分行い、その後聞き取り調査を行った。課題曲

    はフランス民謡の「きらきら星」とした。きらきら星の

    楽譜データを 1小節ずつ区切ったものを表 5に示す。

    表 5:きらきら星楽譜データ

    音程 1 1 5 5 6 6 5 4 4 3 3 2 2 1 5 5 4 4 3 3 2

    リズム 2 2 2 2 2 2 4 2 2 2 2 2 2 4 2 2 2 2 2 2 4

    音程 5 5 4 4 3 3 2 1 1 5 5 6 6 5 4 4 3 3 2 2 1

    リズム 2 2 2 2 2 2 4 2 2 2 2 2 2 4 2 2 2 2 2 2 4

    51

  • 聞き取り調査の結果で得られた意見を表 6に示す。予

    習パート画面に曲の題名を表示させるべきこと、練習パ

    ートで巻き戻し機能を追加すべきこと、テンポ調節機能

    を追加すべきということ、息継ぎの記号(ブレス記号)を

    表示させるべきだということがわかった。そこで図 15

    に示すようにブレス記号を挿入した。練習パートの「小

    節の区切りがあった方がいいと思う」という意見につい

    ては、小節区切りを入れてしまうと音符の流動タイミン

    グがずれてしまうという問題が発生するため、導入しな

    かった。

    表 6:聞き取り調査で得られた意見

    予習パートについて 練習パートについて

    ・曲のタイトルを書いた方

    がいい。

    ・リズムバーを押した時も

    運指表示した方がよい

    と思う。

    ・息継ぎの記号があった方

    がいいと思う。

    ・小節の区切りがあった方

    がいいと思う。

    ・曲のスピードを調整でき

    た方が良い。

    ・巻き戻しができると良

    い。

    図 15:ブレス記号

    4.1.2 予備実験(2):小学生を対象とした

    二度目の予備実験では、歌や楽器などの音楽を習い事

    として習っていない小学 4 年生 2名を対象に、本実験の

    予備実験を約1時間実施した。図16はその様子である。

    実験で使用したリコーダーは、本実験と同様にジャーマ

    ン式ソプラノリコーダーである。

    予備実験では演奏技術習得状況の確認テストは行わ

    ず、システム使用前後のアンケート調査のみ行った。楽

    曲は、「山のポルカ(後半)」と「ラバーズコンチェルト(後

    半)」を使用した。練習者 2 名は、小学校の授業で山の

    ポルカを演奏した経験があり、ラバーズコンチェルトに

    関しては初見の楽譜であった。

    図 16:予備実験風景

    4.1.2.1 実験手順

    初めの 10 分で音楽に関するアンケートの記入とシス

    テムの説明を行い、20 分間「山のポルカ」の練習を各々

    行った。その後、20 分間「ラバーズコンチェルト」の練

    習を各々行い、最後にシステム使用に関するアンケート

    の記入を行った。

    4.1.2.2 予備実験(2)の結果

    システム使用前のアンケートより、被験者 1名はリコ

    ーダー演奏に対して積極的、もう1名は消極的であった。

    システム使用後のアンケートでは、2 名とも本システ

    ムを使用してのリコーダー練習に対して、「楽しい」、「上

    手になった」と回答した。また、1 名は、教科書の楽譜

    を見ながらの練習よりも、運指が確認できることで練習

    しやすいという意識を持った。両名とも、本システムを

    用いたリコーダー練習の際、どこを見れば良いかわから

    なくなることはなかったと回答した。

    これらのことより、運指・音程・リズムの 3つの要素

    を補助するシステムを使用しリコーダーの演奏練習を

    行うことで、練習者は意欲的に練習に取り組めることが

    分かった。また、従来の教科書を見ながらの練習よりも、

    本システムを使用したリコーダー練習の方が理解が深

    まり、演奏技術が上達したという意識を持つことが分か

    った。

    5 小学生を対象とした実験授業

    5.1 対象児童

    2017 年 1 月に、南アルプス市立白根百田小学校の第 3

    学年 1学級 26 名、第 6学年 1 学級 26 名を対象に実験を

    行った。それぞれのクラスで 2日間続けて(45 分×2回)

    実験時間を設けた。このうち、授業実践期間中に欠席し

    た時間がある3年生 1名と 6年生 3名については分析対

    象とはしない。

    6 年生は、何度か授業でタブレット PC の使用経験があ

    ったが、3 年生の児童については、今まで授業でタブレ

    ットPCを扱った経験がなく、本実験で初めて使用した。

    南アルプス市立白根百田小学校のコンピュータ室に

    備えられているタブレット PC(HP Pro Tablet 10 EE G1,

    Windows 8.1 Pro)を児童の人数分使用した。また、実験

    52

  • を行うにあたって、全てのタブレット PC に Java をイン

    ストールした。

    5.2 使用楽曲

    実験では、「山のポルカ(後半)」と、「ラバーズコンチ

    ェルト(後半)」の 2曲を使用した。楽曲の詳細を表 7 に

    示す。表 7からもわかるように、ラバーズコンチェルト

    はヘ長調の楽曲であるため「シ」の音にフラットが付く。

    実験で使用する楽曲の選定は、それぞれのクラスの担

    任の先生と話し合い決定した。どちらの楽曲も、曲の前

    半部分を以前に学習済みであり、後半については授業で

    演奏をしていない。また、どちらの学年についても、運

    指を未学習の音が出てこない楽曲である。

    表 7:使用楽曲詳細

    楽曲名 山のポルカ ラバーズコンチェルト

    作曲者 テェコ民謡 デニー ランデル・サンデ

    ー リンザー

    編曲 岡部栄彦 石桁冬樹

    拍子 2/4 4/4

    テンポ BPM = 92~100 BPM=108~116

    調 ハ長調 ヘ長調

    5.3 実験の目的

    児童が本システムを用いてリコーダーの演奏練習を

    行うことで、特定の楽曲に対して演奏技術の向上が見ら

    れるかの検証と、リコーダー練習の際、児童が運指・音

    程・リズムの 3 つの要素にそれぞれ注目しているかどう

    かを調査した。

    5.4 実験手順

    1時間目の最初の15分で担任の先生による1日目の授

    業説明と読譜の時間を設けた。次に、15 分間で児童全員

    のシステム使用前の演奏技術状況を確認するテストを

    先生監修の元で行った。テストを待っている児童たちに、

    音楽に関するアンケートを実施した。アンケートは、選

    択肢を設けた設問と、自由記述式の設問を質問用紙に示

    した。テストが終了し授業時間が終わるまでの残りの 15

    分間は、システムの説明を行い、各自タブレット PC を

    用いてシステムを使用した練習を行った。練習時間中に

    は担任の先生が教室を巡回し、補助の必要な児童に適宜

    個別指導を行った。図 17、図 18 は、システムを使用し

    た練習時間中の教室の様子である。

    2 時間目は、前半 25 分はまず 2日目の授業の説明を行

    い、その後 1 時間目の終わりと同様にタブレット PC を

    用いてシステムを使用した練習を行った。2 時間目は、

    システムの使用方法についての説明を行わなかったが、

    練習時間中に使用方法について質問する児童はみられ

    なかった。後半 20 分で練習の成果のテストを行い、テ

    ストを待っている児童たちに、システムを用いたリコー

    ダー練習についてのアンケートを実施した。

    図 17:システムを使用した授業の様子

    図 18:システムを使用している児童

    6 実験授業の評価

    6.1 評価基準

    両学年とも評価は 3 段階評価で、A が最高評価、C が

    最低評価とした。3年生の評価基準は、「A : 一度も間違

    えずに演奏ができ、フレーズが正しく、タンギングがで

    きている」、「B : 一度も間違えずに演奏ができる」、「C :

    演奏中にミスがある」とした。6年生の評価基準は、「A :

    90%以上正しく演奏できている」、「B : 60%~89%正しく

    演奏できている」、「C : 60%未満正しく演奏できている」

    とした。

    6.2 結果

    6.2.1 担任の先生への聞き取り調査

    実験授業中と実験授業の終わりに、担任の先生にそれ

    ぞれ児童たちの練習の様子や授業の進め方などについ

    て聞き取り調査を行った。表 8、表 9 は、それぞれ 3 年

    生の担任の先生、6 年生の担任の先生に行った聞き取り

    53

  • 調査の結果得られた回答である。

    聞き取り調査の回答から、児童たちは興味を持ってリ

    コーダー練習に取り組めていたことが分かる。また、音

    程・リズム・運指が目視確認できるため、楽譜や運指を

    学ぶために適しているということが分かった。

    表 8:3年生の担任の先生への聞き取り調査結果

    ・授業でタブレットを使用したことはなかったが、児童

    たちなりに適応できていた。

    ・練習の様子は楽しそうであった。

    ・システムを使用する際に、吹くべき音が鳴ったり、音

    符が流れるタイミングで拍を表す音を鳴ったりする

    とよかった。

    ・システムを使用しても、タンギングなど息づかいにつ

    いては学習できないが、楽譜や運指を学ぶのにとても

    役立つ。

    ・練習後テストでC評価を取ってしまった児童がいたが、

    「あとひといき」で B評価になりそうだった。

    表 9:6年生の担任の先生への聞き取り調査結果

    ・(児童たちは)楽しそうに練習していた。

    ・普段のリコーダー練習では、一人の児童に付いて指導

    を行っていると他の児童が遊び出してしまうが、シス

    テムを使用することで児童が集中して練習に取り組

    めており、指導が必要な児童に一対一でアドバイスが

    できた。

    ・教科書を見ながらの練習では、自分の間違えた箇所に

    気がつかない児童もいるが、システムを使用すること

    によって、音程・リズム・運指の何を間違えてしまっ

    たのかを児童自身が見て分かるため、目標を持って練

    習ができていた。

    ・テストの結果、(練習前テストの評価より、練習後テ

    ストの)評価が下がってしまった児童がいたが、この

    児童は緊張しやすい児童で、テストということで緊張

    してしまっていた。テストの結果は悪くなってしまっ

    たが、練習後にこの児童の演奏技術が低下したという

    ことはない。

    6.2.2 システム使用後の演奏技術習得状況

    システムを使用する前の被験者の演奏技術習得状況

    と、システム使用後の被験者の演奏技術習得状況を 3年

    生は表 10 に、6年生は表 11 にそれぞれ示す。評価 A、B、

    C をそれぞれ 3、2、1 と数値化し、その平均と分散を表

    12 に示した。

    表 10:3年生の演奏技術習得状況

    被験者番号 システム

    使用前テスト

    システム

    使用後テスト

    3-1 A A

    3-2 C B

    3-3 B B

    3-4 C B

    3-5 C C

    3-6 C B

    3-7 C B

    3-8 C B

    3-9 A A

    3-10 B A

    3-11 B B

    3-12 C B

    3-13 C B

    3-14 C B

    3-15 B B

    3-16 C B

    3-17 C B

    3-18 C B

    3-19 C B

    3-20 A B

    3-21 A A

    3-22 C A

    3-23 C A

    3-24 A A

    3-25 C A

    3-26 A A

    表 11:6 年生の演奏技術習得状況

    被験者番号 システム

    使用前テスト

    システム

    使用後テスト

    6-1 C A

    6-2 A A

    6-3 A A

    6-4 B A

    6-5 B A

    6-6 C B

    6-7 C B

    6-8 B B

    6-9 B B

    6-10 B B

    6-11 B A

    6-12 C B

    6-13 A A

    6-14 A A

    6-15 A A

    6-16 B A

    6-17 C A

    6-18 A B

    6-19 B A

    6-20 A A

    6-21 B B

    54

  • 6-22 B A

    6-23 C B

    6-24 B A

    6-25 B A

    6-26 B B

    表 12:テスト結果を数値化した平均と分散

    平均 分散

    3 年生 前

    1.615

    2.308

    0.698

    0.290

    6 年生 前

    2.038

    2.615

    0.499

    0.237

    全体 前

    1.827

    2.462

    0.643

    0.287

    6.2.3 3 年生のテスト結果

    3 年生では、26 名中 16 名(61.5%)の児童が練習後の評

    価が練習前の評価を上回った。26 名中 3 名(11.5%)の児

    童は、評価が C から A へ 2 段階上がった。1 名(3.8%)の

    み、練習後の評価が練習前の評価を下回った。

    練習前のテストの結果を数値化した平均より、練習後

    の平均の方が値が高くなった。さらに、分散値が減少し

    たことから、3 年生全体のテストの結果が高い評価にな

    ったことがわかる。

    図 19 は、システム使用前後の 3 年生の技術習得状況

    を A、B、Cの評価ごとに人数を表したものである。練習

    前後で、A 評価を取った児童は 3 名増加、B 評価を取っ

    た児童は 12 名増加、C 評価を取った児童は 15 名減少し

    た。

    図 19:3 年生のテスト結果の比較

    6.2.4 6 年生のテスト結果

    6 年生では、26 名中 14 名(53.8%)の児童が練習後の評

    価が練習前の評価を上回った。26 名中 2名(7.7%)の児童

    は、評価が Cから Aへ 2段階上がった。1名(3.8%)のみ、

    練習後の評価が練習前の評価を下回った。

    3 年生と同じように、練習前のテストの結果と練習後

    のテストの結果をそれぞれ数値化した平均は、練習後の

    値の方が高くなった。また、分散値が減少したことから、

    6 年生全体のテストの結果が高い評価になったことがわ

    かる。

    図 20:6 年生のテスト結果の比較

    図20は、システム使用前後の6年生の技術習得状況をA、

    B、Cの評価ごとに人数を表したものである。練習前後で、

    A評価を取った児童は 9名増加、B評価を取った児童は 3

    名減少、C評価を取った児童は6名減少し0名となった。

    6.2.5 全体のテスト結果

    全体では、52 名中 30 名(57.7%)の児童が練習後の評価

    が練習前の評価を上回った。52 名中 5名(9.6%)の児童は、

    評価が C から A へ 2 段階上がった。2 名(3.8%)のみ、練

    習後の評価が練習前の評価を下回った。

    図 21 は、システム使用前後の両学年の技術習得状況

    を A、B、Cの評価ごとに人数を表したものである。練習

    前後で、A評価を取った児童は 12 名増加、B評価を取っ

    た児童は9名増加、C評価を取った児童は21名減少した。

    テスト結果の平均値は 1.827 から 2.462 に増加した。

    分散は 0.643 から 0.287 へ減少した。このことから、テ

    ストの評価が全体的に上がったことが分かる。

    また、システム使用後のテストの後、担任の先生への

    聞き取り調査を行ったところ、「テストの結果、評価の

    下がってしまった児童がいたが、この児童は緊張しやす

    い児童で、テストということで緊張してしまっていた。

    テストの結果は悪くなってしまったが、練習後にこの児

    童の演奏技術が低下したということはない」と評価して

    いた。さらに、練習後のテストで C評価をとった児童に

    関して「あとひといき」と評価していた。

    55

  • 結果より、3年生と 6年生の両学年において、本システ

    ムを用いた練習を行うことで、半数以上の児童の演奏技

    術が向上することが分かった。このことから、本システ

    ムは、特定の楽曲に対する演奏技術の向上に効果がある

    といえる。

    6.3 アンケート調査の分析

    実験前と実験後に児童たちにリコーダー練習が好き

    かどうかのアンケートを実施した。3年生の結果を表 13

    に、6年生の結果を表 14 に示す。

    図 21:全体のテスト結果の比較

    表 13:リコーダー練習に関するアンケートの設問と結果(3 年生)

    設問 とても

    好き 好き

    どちらでも

    ない 嫌い

    とても

    嫌い

    リコーダーを演奏することは

    好きですか?(実験前) 12 9 4 1 0

    タブレット PC を使ったリコーダーの

    練習は好きですか?(実験後) 22 4 0 0 0

    表 14:リコーダー練習に関するアンケートの設問と結果(6 年生)

    設問 とても

    好き 好き

    どちら

    でもない 嫌い

    とても

    嫌い

    リコーダーを演奏することは

    好きですか?(実験前) 5 14 7 0 0

    タブレット PC を使ったリコーダーの

    練習は好きですか?(実験後) 14 10 1 1 0

    6.3.1 システム使用による学習意欲調査

    実験前アンケートでの「リコーダーを演奏することは好

    きですか?」、実験後アンケートでの「タブレット PC を使

    ったリコーダーの練習は好きですか?」という設問に対す

    る回答を比較した。

    3 年生に対する事前調査では、21 名(80.8%)の児童が「と

    ても好き」「好き」と回答し、1名(3.8%)が「嫌い」「とて

    も嫌い」と回答した。事後調査では、26 名全員が「とて

    も好き」「好き」と回答した。

    6 年生に対する事前調査では、19 名(73.1%)の児童が「と

    ても好き」「好き」と回答し、「嫌い」「とても嫌い」と回

    答した児童はいなかった。事後調査では、24 名(92.3%)の

    児童が「とても好き」「好き」と回答し、「嫌い」「とても

    嫌い」と回答した児童は 1名(3.8%)だった。事後調査で「嫌

    い」と回答した児童の自由記入欄には、「PC を使うと、リ

    ズムがとれて良いが目がつかれる」と記入されていた。

    両学年合わせた結果は、事前調査に「とても好き」「好

    き」と回答した児童が 40 名(76.9%)、「嫌い」「とても嫌い」

    と回答した児童は 1名(1.9%)であった。事後調査では、「と

    ても好き」「好き」と回答した児童が 50 名(96.2%)、「嫌い」

    「とても嫌い」と回答した児童は 1名(1.9%)であった。

    事前調査で「とても好き」「好き」と回答した児童より、

    事後調査で「とても好き」「好き」と回答した児童の方が

    多く見られたことから、従来の教科書を見ながらのリコー

    ダー演奏練習よりも、本システムを使用しての練習の方が、

    児童の学習意欲が高くなる傾向にあるということが分か

    った。

    56

  • 表 15:システムに関するアンケートの設問と結果(3 年生)

    設問 とても

    見た

    見た どちら

    でもない

    あまり見て

    いない

    全く見てい

    ない

    音符、または「ド」や「ソ」などの音階名を見て演奏

    しましたか?

    11 11 0 4 0

    音符の長さを表している赤いバーを見て演奏しまし

    たか?

    8 12 0 6 0

    押さえる指を表しているリコーダーの絵を見て演奏

    しましたか?

    6 3 0 8 9

    表 16:システムに関するアンケートの設問と結果(6 年生)

    設問 とても

    見た

    見た どちら

    でもない

    あまり見て

    いない

    全く見てい

    ない

    音符、または「ド」や「ソ」などの音階名を見て演奏

    しましたか?

    10 11 0 5 0

    音符の長さを表している赤いバーを見て演奏しまし

    たか?

    16 10 0 0 0

    押さえる指を表しているリコーダーの絵を見て演奏

    しましたか?

    2 5 4 5 10

    6.3.2 システム使用に関するアンケート調査

    システムを使用した練習で、練習者が運指・音程・リズ

    ムに注目しながら練習したかどうか、3つの要素それぞれ

    を「とても見た」「見た」「どちらでもない」「あまり見て

    いない」「全く見ていない」の 5 つの選択肢から選び評価

    してもらった。表 15、表 16 に各学年へのアンケートの設

    問と結果を示す。

    まず、3 年生の視点であるが、図 22 は運指画像に、図

    23 は音符や音階名に、図 24 はリズムバーに、それぞれ練

    習中に注目していたかどうかを表している。

    図 22:運指を見たか(3 年生)

    図 23:音符、または音階名を見たか(3 年生)

    図 24:リズムバーを見たか(3 年生)

    57

  • 運指を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 9 名(34.6%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 17 名(65.4%)であった。

    音符を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 22 名(84.6%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 4名(15.4%)であった。

    リズムバーを「とても見た」「見た」と回答した児童は

    合わせて 20 名(77.0%)、「あまり見ていない」「全く見てい

    ない」と回答した児童は合わせて 6名(23.0%)であった。

    次に、6 年生の視点であるが、図 25 は運指画像に、図

    26 は音符や音階名に、図 27 はリズムバーに、それぞれ注

    目していたかどうかを表している。

    図 25:運指を見たか(6 年生)

    図 26:音符、または音階名を見たか(6 年生)

    運指を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 7 名(26.9%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 15 名(57.7%)であった。

    図 27:リズムバーを見たか(6 年生)

    音符を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 21 名(80.8%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 5名(19.2%)であった。

    リズムバーを「とても見た」「見た」と回答した児童は

    合わせて 26 名(100.0%)、「あまり見ていない」「全く見て

    いない」と回答した児童はいなかった。

    最後に、全体の視点であるが、図 28 は運指画像に、図

    29 は音符や音階名に、図 30 はリズムバーに、それぞれ注

    目していたかどうかを表している。

    図 28:運指を見たか(全体)

    図 29:音符、または音階名を見たか(全体)

    58

  • 図 30:リズムバーを見たか(全体)

    運指を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 16 名(30.8%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 32 名(61.5%)であった。

    音符を「とても見た」「見た」と回答した児童は合わせ

    て 43 名(82.7%)、「あまり見ていない」「全く見ていない」

    と回答した児童は合わせて 9名(17.3%)であった。

    リズムバーを「とても見た」「見た」と回答した児童は

    合わせて 46 名(88.5%)、「あまり見ていない」「全く見てい

    ない」と回答した児童は合わせて 6名(11.5%)であった。

    両学年合わせた結果では、音程・リズムに関しては 8

    割以上の児童が注目していたのに対し、運指に注目してい

    た児童はわずか 3割であった。このことから、児童たちは

    リコーダーの練習をする際に、主に音程とリズムの情報を

    必要としていることが分かった。

    6.3.3 テストの結果と視点の関係性

    児童たちの練習前テストと練習後テストの成績を比較

    し、「成績の上がった児童」と「成績の上がらなかった児

    童」それぞれの視点について表 17、表 18、表 19、表 20、

    表 21、表 22 に示した。なお、練習前テストが A評価で練

    習後テストも A評価だった児童については、A以上の評価

    に上がることがなかったため、「成績の上がった児童」「成

    績の上がらなかった児童」のどちらにも含まれていない。

    表中の「見た」「見なかった」は、それぞれ「とても見

    た」と「見た」の合計人数、「あまり見ていない」と「全

    く見ていない」の合計人数である。

    表 17:成績の上がった児童の視点(3 年生)

    n=16 見た 見てない

    運指 7 9

    音程 12 2

    リズム 12 2

    表 18:成績の上がった児童の視点(6 年生)

    n=16 見た 見てない

    運指 7 9

    音程 12 2

    リズム 12 2

    表 19:成績の上がった児童の視点(全体)

    n=16 見た 見てない

    運指 11 16

    音程 22 5

    リズム 26 2

    表 20:成績の上がらなかった児童の視点(3 年生)

    n=16 見た 見てない

    運指 1 2

    音程 2 1

    リズム 2 1

    表 21:成績の上がらなかった児童の視点(6 年生)

    n=16 見た 見てない

    運指 1 3

    音程 5 0

    リズム 5 0

    表 22:成績の上がらなかった児童の視点(全体)

    n=16 見た 見てない

    運指 2 5

    音程 7 1

    リズム 7 1

    成績の上がった 3 年生の児童のうち、7 名(43.8%)は運

    指画像を見たが、9 名(56.3%)は運指画像を見ていなかっ

    た。12 名(75.0%)は音程を見たが、2名(12.5%)は音程を見

    ていなかった。12 名(75.0%)はリズムを見たが、2 名

    (12.5%)はリズムを見ていなかった。

    成績の上がらなかった3年生の児童のうち、1名(33.3%)

    は運指画像を見た、2 名(66.7%)は運指画像を見ていなか

    った。2 名(66.7%)は音程を見たが、1 名(33.3%)は音程を

    見ていなかった。2 名(66.7%)はリズムを見たが、1 名

    (33.3%)はリズムを見ていなかった。

    成績の上がった 6 年生の児童のうち、4 名(28.6%)は運

    指画像を見たが、7 名(50.0%)は運指画像を見ていなかっ

    た。10 名(71.4%)は音程を見たが、3名(21.4%)は音程を見

    ていなかった。14 名(100.0%)はリズムを見たが、0 名

    (0.0%)はリズムを見ていなかった。

    成績の上がらなかった6年生の児童のうち、1名(20.0%)

    は運指画像を見た、3 名(60.0%)は運指画像を見ていなか

    った。5 名(100.0%)は音程を見たが、0 名(0.0%)は音程を

    見ていなかった。5 名(100.0%)はリズムを見たが、0 名

    (0.0%)はリズムを見ていなかった。

    最後に全体について説明する。成績の上がった児童(全

    体)のうち、11 名(36.7%)は運指画像を見たが、16 名

    (53.3%)は運指画像を見ていなかった。22 名(73.3%)は音

    程を見たが、5 名(16.7%)は音程を見ていなかった。26 名

    59

  • (86.7%)はリズムを見たが、2 名(6.7%)はリズムを見てい

    なかった。

    成績の上がらなかった児童(全体)のうち、2 名(25.0%)

    は運指画像を見た、5 名(62.5%)は運指画像を見ていなか

    った。7 名(87.5%)は音程を見たが、1 名(12.5%)は音程を

    見ていなかった。7 名(87.5%)はリズムを見たが、1 名

    (12.5%)はリズムを見ていなかった。

    成績の上がった児童と、上がらなかった児童の練習中の

    視点について比較したところ、大きな差は見られなかった。

    このことから、練習中にどの部分に注目しているかは演奏

    技術の向上とは関係ないということが分かった。

    6.3.4 自由記入によるシステムの評価

    自由記入欄は、事後アンケートの「一人で練習する時に、

    タブレット PC を使うのと教科書を使うのでは、どちらが

    好きですか?」「タブレット PC を使ってリコーダーの練習

    をした感想を書いてください」という設問に対して設けた。

    「一人で練習する時に、タブレット PC を使うのと教科書

    を使うのでは、どちらが好きですか?」という設問に対し

    ては、「タブレット PC を使った練習」と「教科書を使った

    練習」のどちらかを選び、さらに理由を自由記入として回

    答してもらった。

    タブレットと教科書どちらが良いかという質問に対し

    ては、3年生では 25 名(96.2%)、6 年生では 24 名(92.3%)、

    全体では 49 名(94.2%)がタブレット PC で練習を行った方

    が良いと回答した。

    タブレット PC を使用した練習の方が良いと回答した理

    由としては、「楽譜が見やすい」「テンポが選べる」「楽譜

    が流れてくるのが良い」「リズムが分かる」「運指が分かる」

    「楽しい」などが挙げられた。

    教科書を使用した練習の方が良いと回答した理由とし

    ては、「楽譜を読む力がつくため」「(タブレット PC での練

    習と比べて)目が疲れない」ということが挙げられた。

    システムを使用した感想は、「楽しい」「わかりやすい」

    「練習しやすい」と感じた児童が多かった。

    自由記入による回答から、多くの児童はタブレット PC

    を使用したリコーダー練習を楽しい、わかりやすいと感じ、

    教科書を使用しての練習よりも興味を示すことがわかっ

    た。また、一部の児童は、「目が疲れない」ことや、「楽譜

    を読む力をつける」ために、教科書での練習を好むという

    ことがわかった。これらのことより、教科書での練習より

    も、本システムを使用した練習の方が、児童の学習意欲が

    高い傾向にあるということが推測される。

    7 結論

    本研究では、特定の楽曲に対して小学生のリコーダー演

    奏技術の向上を目的に、運指・音程・リズムについて補助

    を行うリコーダー演奏練習支援システムを開発し、実験授

    業を行った。

    検証の結果、本システムを使用してリコーダーの演奏練

    習を行った児童の多くは、練習前と比較して演奏技術が向

    上する傾向にあることが分かったが、成績と運指・音程・

    リズムへの注目の相関関係は見られなかった。

    さらに、教科書を見ながらの通常の練習と比べて、本シ

    ステムを使用してリコーダー演奏練習を行うことで、学習

    意欲が高まる傾向にあることが分かった。

    また、システムを使用した練習の際、音程とリズムに比

    べて、運指に注目する児童が少ないことが分かった。児童

    が運指を覚えているから運指に注目しなかったのか、それ

    とも、音程とリズムに注目していたため運指にまで注目で

    きなかったのかは本研究では解明できなかった。

    今後の課題として、特定の楽曲に対するリコーダーの演

    奏技術を上達させるために、それぞれサポートする要素の

    異なるリコーダー演奏練習支援システムを作成し、演奏技

    術の上達度を測り、比較することで、より有用なシステム

    が開発できるだろうと考える。

    最後になりましたが、実験に協力してくださった、南ア

    ルプス市立白根百田小学校の築野一彦校長先生、名取昭彦

    教頭先生、音楽主任および 3 年 1 組担任の時田里枝先生、

    6 年 2 組担任の米山和美先生、ならびに 3 年 1 組と 6 年 2

    組の児童の皆さんに感謝申し上げます。小学校での実験実

    施にあたって、教育用タブレット PC の使用を許可して下

    さった南アルプス市教育委員会に感謝致します。

    参 考 文 献

    [1] 文部科学省, 小学校学習指導要領, 東京書籍,

    2008.7.25, 237p, 978-4-487-28695-9 (4-487-

    28695-6)

    [2] 手塚正道、川島芳昭、石川賢, 「ソフトウェア教材に

    おる楽器演奏練習の支援効果」, 宇都宮大学教育学部教

    育実践総合センター紀要, 2009 年7 月1 日, 第32 号,

    pp. 10-16

    [3] 佐藤和紀, 深見友紀子, 齋藤玲, 森谷直美, 堀田龍

    也, 「小学校工学人におけるリコーダーの演奏技能向上

    を目指した完全習得型反転学習と評価」, 教育システム

    情報学会誌,2016 年 8 月 16 日, vol.33 No.4 (ISSN

    1341-4135), pp.181-186

    [4] 畑中良輔, 小学生の音楽 3, 教育芸術社, 2003 年

    [5] 渡辺清美編著、リコーダーが上手くなる方法、自由現

    代社、2014 年

    [6] 吉澤実、絶対!うまくなる リコーダー 100 のコツ、

    ヤマハミュージックメディア、2012 年

    [7] 土合泉, 長谷川春生, 「リコーダー指導におけるタブ

    レット PC を活用した個別学習支援教材と単元の

    開発」, 日本教育工学会論文誌, 2014, 37(4),

    pp. 459-468

    [8] ヤマハ株式会社, "ふこうよアンサンブル北宇治

    高校吹奏楽部へようこそ",

    http://jp.yamaha.com/products/apps/fukouyo/?mode=model

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  • [ 著 者 紹 介 ]

    中村 公美 (非会員)

    2017 年神奈川大学工学部情報システム創成学科卒業、2017年 4 月に株式会社ハイマックスに入社。システムエンジニア職として新入社員研修中。

    内田 智史 (学術会員) 1982 年青山学院大学理工学部経営工学科卒業、1987 年青山学院大学理工学研究科博士後期過程単位取得済み退学、

    博士(工学) 筑波大学。青山学院大学理工学部助手、神奈川大学工学部助手、専任講師を経て、1999 年より神奈川大学工学部助教授、2007 年より准教授。 奥野 祥二 (非会員)

    1989 年東北学院大学工学部応用物理学科卒業、1991 年東北学院大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士課程前

    期課程修了、1995 年総合研究大学院大学数物科学研究科加速器科学専攻博士課程後期課程修了、博士(理学)。1995年より神奈川大学工学部助手、2007 年より神奈川大学工学部助教。

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