一一一には, 手芸用のポリエステルシート (25x 30 x 3...

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マ メ ハ モ グ リ パエ幼虫寄生蜂の大量増殖法 355 マメハモ グリバエ幼虫寄生蜂の大量増殖法 さき けん 鹿児島県農業試験場病虫部 おお 宮崎大学農学部農林生産学科 しょう いち 鹿児島県農業試験場病虫部 マメハモグリパエは, 高度の薬剤抵抗性を獲得し, 虫剤に よ る防除が極めて困難な難防除害虫 と して世界的 に問題となっている (PARRELLA and KEIL, 1984 ; 西東1992) 。 このため, 欧米では幼虫寄生蜂イ サエア ヒ メ コ パチ Wighus 白ea) とハモグリコマユノfチ Wac. nusa sibirica) によるマメハモグリパエの生物的防除が 施設野菜で普及 し つ つ あ る (van LENTEREN and WOETS, 1988 ; RAMAKERS and RABASSE, 1995)。 我が国でも 最近 になって生物的防除資材と して上記2種を混合した もの が製品化 さ れ (商品名 : マ イ ネ ッ ク ス ) , マメハモグリ パエの生物的防除に期待が集まっている。 我が国に産する土着天敵について と り ま と めた小西 (1998) に よ れ ば, 2種の導入天敵の う ち, D. sibica の分布は確認されていなしユ。 また, D. isaea は 国 内 で確 認されているが, マメハモグリパエの土着天敵相の中で 必ずしも優占種となっていない (西東ら, 1996 : 大野 ら, 1999 a)。 さ ら に, 導入天敵を放飼した施設で, 着種が優 占 す る 試験例 (西東ら, 1995 a) も報告され, 土着種の 中 に有望天敵が存在す る 可能性が示唆 さ れて い る。 土着の天敵相の中で優占種と して報告されているの は, Hemiptaenus varicoi瓦 Chsocharis ρenthe, Neochsochas foosa, お よ び N okazakii の 4 種で ある (西東 ら , 1996) 。 そ こ で, こ れら土着天敵の有効 性が注目され (西東 ら, 1996 ; AR AKAKI and KINJO, 1998) , H varicois の発育特性 (西東, 1997 a) や増 殖法 (西東, 1997 b) , 実験室内での N foosa の増殖 方法 (大野ら, 1999 b) が検討 さ れ つ つ あ る が, 大量増 殖システムについてはいまだ確立されていない。 土着天 敵の放飼試験を進めるためには, 数百~数千頭規模の大 量増殖が必要 と な る 。 さらに, 商業化に当たっては, 主植物の栽培, 寄主昆虫の大量増殖から天敵の大量増殖 Mass Rearing Parasitoids Attacking the Larvae of Liriom. yza t向olii. By Ken T AKESAKI, Kazuro OHN O and Shoichi lZUMI (キーワ ー ド : 生物的防除, マメハモグリノfエ, 土着天敵, 大量 増殖) までの一連の工程を どれだけ効率的に組み立て る かが重 要となる。 欧米に比べ人件費が高い我が国では, 作業効 率を高 く して可能な限 り 低コ ス ト で生産でき る増殖シス テムが要求される。 そこでこれまでの知見を踏まえ経済 性を念頭に置いた天敵の大量増殖システムを検討した。 なお, 本研究は福岡県, 鹿児島県およ び沖縄県の三県共 同で取 り 組んでい る 農林水産省農産園芸局 「地域重要新 技術開発促進事業J (平成 9 年�11 年) の一部と して実 施している ものである。 本稿では, 筆者らが検討を進め て き た 寄生蜂 N okazakii (口絵写真①参照) の大量増 殖システムの概要について紹介する。 I 寄主の大量増殖 寄生性天敵を大量増殖するためには大量の寄主昆虫を 安定的に供給する必要があ り , そのためには, その餌と なる植物の栽培から検討を始め なければ ならない。 た, 天敵の増殖では対象 と す る 寄主あ る い は代替寄主や 人工飼料の いずれか を用 い る こ と に な る が, 代替寄主な どで飼育した場合は, 寄主選好性に影響を与える可能性 が懸念されている (GILKESON. 1997)。 これらのことか 筆者らはイ ンゲンマメ を用いて防除の対象であるマ メハモグリパエを増殖し, それを用いて天敵の大量精殖 をf子 う こ と に し た 。 マメハモグリパエの大量増殖は, イ ンゲンマメ初生葉 を寄主植物と して用いる酋東 (1977 b, c) の方法に準 じた。 イ ンゲンマメ は飼育した幼虫の発育期聞が短 く , 成虫の蔵卵数が多 (西東 ら, 1995 b) ことから, マメハモグリパエの増殖に好適とされ, また, 矯種か ら 初生葉展開時ま での栽培期間が短い こ と も , 栽培コ ス ト 面から好都合と考えられる。 現在, 鹿児島農試で行っているマメハモグリパエの大 量増殖システムの作業工程を表 1 に示した。 なお, 体群の増殖に は 250Cが最 も 適 し て い る (LEIBEE, 1984) ため, 寄主植物の栽培以外は 250Cの恒温条件で行っ て いる。 1 イ ン ゲ ン マ メ の 栽培 マメハモグリパエの増殖に必要なイ ンゲンマメの栽培 は, 手芸用のポ エス テルシー (25 x 30 x 3 cm) 13

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マ メ ハ モ グ リ パエ幼虫寄生蜂の大量増殖法 355

マ メ ハ モ グリバエ幼虫寄生蜂の大量増殖法さ き けん

鹿児島県農業試験場病虫部 嶺おお

宮崎大学農学部農林生産学科 大崎の

野研かず和 朗

し ょ う いち鹿児島県農業試験場病虫部 和 ず泉み 勝

は じ め に

マ メ ハ モ グ リ パエ は, 高度 の 薬剤抵抗性 を獲得 し , 殺

虫剤 に よ る 防除が極 め て 困難な難防除害虫 と し て世界的

に 問題 と な っ て い る (PARRELLA and KEIL, 1984 ; 西東,

1992) 。 こ の た め , 欧米で は幼虫寄生蜂 イ サ エ ア ヒ メ コ

パ チ Wiglyphus 白ea) と ハ モ グ リ コ マ ユ ノ f チ Wac.

nusa sibirica) に よ る マ メ ハ モ グ リ パ エ の 生物的防除が

施設野菜で普及 し つ つ あ る (van LENTEREN and WOETS,

1988 ; RAMAKERS and RABASSE, 1995) 。 我が国で も , 最近

に な っ て生物的防除資材 と し て 上記 2 種 を 混合 し た も の

が製品化 さ れ (商品名 : マ イ ネ ッ ク ス ) , マ メ ハ モ グ リ

パエ の生物的防除 に 期待が集 ま っ て い る 。

我が国 に 産 す る 土着天敵 に つ い て と り ま と め た 小西

( 1998) に よ れ ば, 2 種 の 導 入 天 敵 の う ち , D. sibirica

の分布 は確認 さ れて い な し ユ 。 ま た , D. isaea は 国 内 で確

認 さ れて い る が, マ メ ハ モ グ リ パエ の 土着天敵相 の 中 で

必ず し も 優 占 種 と な っ て い な い (西東 ら , 1996 : 大野

ら, 1999 a) 。 さ ら に , 導入天敵 を 放飼 し た 施設 で, 土

着種が優 占 す る 試験例 (西東 ら , 1995 a) も 報告 さ れ,

土着種の 中 に有望天敵が存在す る 可能性が示唆 さ れて い

る 。 土着の天敵相 の 中 で優占種 と し て報告 さ れて い る の

は, Hemiptarsenus varicorni瓦 Chrysocharis ρentheus,

Neochη'socharis formosa, お よ び N. okazakii の 4 種で

あ る (西東 ら , 1996) 。 そ こ で, こ れ ら 土着天敵 の 有効

性 が 注 目 さ れ (西 東 ら , 1996 ; ARAKAKI and KINJO,

1998) , H. varicornis の 発育特性 (西東, 1997 a) や増

殖法 (西東, 1997 b) , 実験室 内 で の N. formosa の増殖

方法 (大野 ら , 1999 b) が検討 さ れ つ つ あ る が, 大量増

殖 シ ス テ ム に つ い て は い ま だ確立 さ れて い な い。 土着天

敵の放飼試験 を進め る た め に は, 数百~数千頭規模の大

量増殖が必要 と な る 。 さ ら に , 商業化 に 当 た っ て は, 寄

主植物の栽培, 寄主昆虫の大量増殖か ら 天敵の大量増殖

Mass Rearing Parasitoids Attacking the Larvae of Liriom.

yza t向ifolii. By Ken T AKESAKI , Kazuro OHNO and Shoichi

lZUMI ( キ ー ワ ー ド : 生物的防除, マ メ ハ モ グ リ ノ fエ , 土着天敵, 大量

増殖)

ま での一連の工程 を どれだ け効率的 に組み立て る かが重

要 と な る 。 欧米 に比べ人件費が高 い我が国 で は , 作業効

率 を 高 く し て 可能 な 限 り 低 コ ス ト で生産で き る 増殖 シ ス

テ ム が要求 さ れ る 。 そ こ で こ れ ま での知見 を踏 ま え 経済

性 を 念頭 に 置 い た 天敵の大量増殖 シ ス テ ム を検討 し た 。

な お , 本研究 は福岡県, 鹿児島 県 お よ び沖縄県 の三県共

同 で取 り 組んで い る 農林水産省農産 園芸局 「地域重要新

技術開発促進事業J (平成 9 年�11 年) の一部 と し て 実

施 し て い る も の で あ る 。 本稿で は , 筆者 ら が検討 を 進 め

て き た 寄生蜂 N. okazakii ( 口 絵写真①参照) の 大量増

殖 シ ス テ ム の概要 に つ い て 紹介す る 。

I 寄主の大量増殖

寄生性天敵 を大量増殖す る た め に は大量の寄主昆虫 を

安定的 に 供給す る 必要があ り , そ の た め に は, そ の餌 と

な る 植物 の 栽培か ら 検討 を 始 め な け れ ば な ら な い 。 ま

た , 天敵の増殖で は対象 と す る 寄主 あ る い は代替寄主や

人工飼料の い ずれか を 用 い る こ と に な る が, 代替寄主 な

どで飼育 し た場合 は, 寄主選好性 に 影響 を与 え る 可能性

が懸 念 さ れ て い る (GILKESON. 1997) 。 こ れ ら の こ と か

ら 筆者 ら は イ ン ゲ ン マ メ を 用 い て 防除の対象で あ る マ

メ ハ モ グ リ パエ を増殖 し, そ れ を 用 い て 天敵の大量精殖

をf子 う こ と に し た 。

マ メ ハ モ グ リ パエ の 大量増殖 は, イ ン ゲ ン マ メ 初生葉

を 寄主植物 と し て 用 い る 酋東 ( 1977 b, c) の 方法 に 準

じ た 。 イ ン ゲ ン マ メ は飼育 し た 幼虫 の 発育期聞 が短 く ,

成虫の蔵卵数が多 く な る (西東 ら , 1995 b) こ と か ら ,

マ メ ハ モ グ リ パエ の増殖 に 好適 と さ れ, ま た , 矯種か ら

初生葉展開時 ま での栽培期間 が短い こ と も , 栽培 コ ス ト

面か ら 好都合 と 考 え ら れ る 。

現在, 鹿児島農試で行 っ て い る マ メ ハ モ グ リ パエ の大量増殖 シ ス テ ム の 作業工程 を 表 1 に 示 し た 。 な お, 個

体群の増殖に は 250Cが最 も 適 し て い る (LEIBEE, 1984)

た め , 寄主植物 の栽培以外 は 250Cの 恒温条件で行 っ て

い る 。

1 イ ン ゲ ン マ メ の栽培

マ メ ハ モ グ リ パエ の増殖 に 必要 な イ ン ゲ ン マ メ の栽培

に は, 手芸 用 の ポ リ エ ス テ ル シ ー ト (25 x 30 x 3 cm)

一一一 13 一一一

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356 植 物 防 疫 第53 巻 第9号(1999年)

表 - 1 イ ン ゲ ン マ メの栽!�fか ら 7 メ ハ モ グ リ パエ幼虫の

大iii地殖 ま で

作業内容l イ ン ゲ ン (寄主植物)のI!�芽

2 ポ リ エス テ ノレ シ ー ト に播種

3 ミ ス ト 室で栽埼

4 事;!fffil放布5 産。1'1用飼育箱中の イ ン ゲ ンのセ ッ トおよび回収

6 回収 し た イ ン ゲ ンの水管理

7 蝋回収装置 に セ ッ ト

8 踊の回収

9 蝋の保管

10 蝋 カ ードに貼付

11 成虫放飼 (頗l カ ード を飼育箱 に 吊 り 下げ る )

12 ポ リ エス テ ル シ ー トの消毒

を 支持 シ ー ト と し て 用 い る 。 こ の シ ー ト に 32 個 の 穴 を

聞 け, そ の 中 に 数個の発芽 し た イ ン ゲ ン マ メ 種子 を 2 粒

ずつ入れ る 。 こ れ は 土 を 用 いた 寄主植物の栽培 と 比較 し

て 移植や ク ロ ー lレ ピ ク リ ン 等 に よ る 床土消毒の手聞が省

け る こ と と , 後述す る 踊 の 回収の簡使化 を 目 的 と し た も

の で あ るo

イ ン ゲ ン マ メ は初生業展開時の ス テ ー ジ を斉一化す る

た め, 数 日 開催芽処理 を 行 い, 発根長 1 cm 程度の も の

を ポ リ エ ス テ ル シ ー ト 上 に 播種す る 。

播種 し た シ ー ト は 自 動 ミ ス ト 瀧水室 に 置 い て , 初生葉

2 枚が展開す る ま で 5�7 日 間維持 す る 。 こ の 後, マ メ

ハ モ グ リ パエ の産卵 に供す る 前 に, 10% ハ チ ミ ツ 水溶液

を ハ ン ド ス プ レ ー で初生薬 に散布す る 。 葉面の糖蜜 や ア

ブ ラ ム シの排せ つ す る 甘露な どの炭水化物の摂取が, マ

メ ハ モ グ リ パ エ 雌成 虫 の 寿 命 お よ び 蔵卵 数 を 高 め る

(P.�RHELLA, 1984 ; ZOEBISC I I an d SCJIUSTEI�, 1 987) こ と がまi[J

ら れ て お り , Ganaspidi1l1n utilis の大立増殖で も 糖蜜の

散布がな さ れ て い る (Ri\T I IW\N et al . , 1991 ) 。

2 マ メ ハモ グ リ パエの産卵

上 述 の 方 法 で 用 意 し た イ ン ゲ ン マ メ (初生葉 2 枚展

開) を産卵用飼育箱 に 入れ る 。 こ の箱 は , ア ク リ ル製飼

育箱 (50 x 50 x 50 cm) を二つ連結 し , 連結部 に 通路 を

設 け , 飼育箱聞 を マ メ ハ モ グ リ パエ成虫が移動で き る よ

う に工夫 し て い る 。 黒色の遮光性布で片方ずつ を被誼す

る こ と で, 走光性 に よ っ て 明 る い ほ う に マ メ ハ モ グ リ パ

エ成虫が集 ま る た め, 遮光 し た側の産卵 さ れた イ ン ゲ ン

マ メ を成虫の逃亡 を よ り 少 な く し て ポ リ エ ス テ ル シ ー ト

ご と 交換で き る (図 1, 仁l絵写真②参照) 。

現在の本大量増殖 シ ス テ ム で は, 一つの飼育箱 を使用

し て お り , 2 シ ー ト ず つ 1 時 間 間 隔 で (9 @! 交換 ; 9 :

00�1 7 : 00) イ ン ゲ ン に産卵 さ せ た 場合, 20 , 000 頭/ 日

、、

図 - 1 産卵用飼育箱

以上の幼虫の生産が見込 ま れ る 。

3 幼虫飼育 と 婦の 回収方法産卵 さ せ た イ ン ゲ ン マ メ の シ ー ト は プ ラ ス チ ッ ク ト レ

イ に 入 れ, 潅 水 し た 後, 室 温 (約 250C) で維持 す る 。

産卵 さ せ て か ら , 5 日 目 の 夕 方 に 蝋 回収装置 ( 図 2, 口

絵写真③参照) に イ ン ゲ ン マ メ を ポ リ エ ス テ /レ シ ー ト ご

と セ ッ ト す る 。 マ メ ハ モ グ リ パエ 終齢幼虫 は葉か ら脱出

し て , 焔化す る た め, イ ン ゲ ン マ メ 株を シ ー ト ご と 上下

反転す る こ と で, 下方の表面 を フ ッ 素加工 し た ト レ イ 上

に蝋 を落下 さ せ る こ と がで き る 。 な お , ト レ イ に は嫡 の付 い 4るい

付着 を 防 ぐ 目 的で微粒珪砂 を lfJf く 散布 し , 蜘 は飾 (0 . 3

111111 目 ) を 用 い て 回収す る 。

終齢幼虫か ら 踊化時の生存率 に は , 湿度が大 き く 影響

し (P.�RR I孔Li\, 1 987) , 嫡化時の湿度が低 い と 羽化成虫数

が極端 に 少な く な る 。 そ の た め, 本 シ ス テ ム で は !踊回収

装置全体 を ビニ ー ル で被覆 し , さ ら に 冬期の暖房 に よ っ

て恒温室内 の乾燥が甚だ し い と き は, 内 部 を 加湿器で数

日 間隔で 10 分程度加湿す る こ と に よ り 湿度 を 90%以上

に保つ こ と で焔期 の 生存率 を 80�90% に 維持 し て い る 。

4 舗の保存 お よ び成虫放飼

回収 し た 蜘 は湿 ら せ た 伊紙 を 敷 い た プ ラ ス チ ッ ク シ ャ

ー レ に 入れ, 5�7 日 間程度維持 す る 。 そ の 後, 踊 を ポ

リ エ ス テ ル 片 付 x 6 x 0 . 4 CI11) に 殺 菌 剤 (ベ ン レ ー ト

T) と 10%ハ チ ミ ツ 水溶液 を 等主混 ぜ た 水 溶 液 で 張 り

付 け , 上記の飼育箱内 に羽化完了 ま で吊 り 下 げ る ( 口 絵

写真④参照) 。

5 ポ リ エ ス テ ル シ ー ト の消毒使用 し た ポ リ エ ス テ ル シ ー ト は 1 %次亜塩素酸ナ ト リ

ウ ム水溶液中 に 数 日 間漬 け込み, 殺菌 し た 後, 乾燥 さ せ

再利用 す る 。 こ の方 法 は土 を 用 い た イ ン ゲ ン マ メ の栽培

と 比較 し て 殺菌の手間が大幅 に経滅 さ れ る が, 処理が不

一一一 14 一一一

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マ メ ハ モ グ リ パエ幼虫寄生蜂の大量増殖法 357

l; ポリエステルシ ー ト

初生築展/J月後7メハモグリパエ に~\ぐ さ せ る

5 日後 に踊回収装置にセ ッ ト

〆/ーJ

イ ン ゲン | 初生楽 吊 り 下 げ ら れ る よ う に-十-- ・

ト レ イ には微粒珪砂を薄 〈 散布一一-JJ WY-z!

マ メ ハモグ リ パエ蝋 一一一一一---'図 - 2 -;> メ ハ モ グ リ パ工大iït地殖 シ ス テ ム

十分だ と 乃thium 菌等 に よ る 病害が発生 す る の で注意

が必要であ る 。

E 寄生性天敵 N. okαzαkii の大量増殖

N. okazalúi は, 内部寄生性の幼虫寄生蜂で圏 内 に 広

く 分布 し て い る (小西, 1998) 。 本種 は マ メ ハ モ グ リ パ

エ幼虫 を寄主 と し た 場合, 約 13 日 (250C) で世代 を 完

了 し , 発育 日 数 は マ メ ハ モ グ リ パエ よ り 速 い (表 2 ) 。

1 大量増殖技術

先 に述べた 飼育方法で用意 し た イ ン ゲ ン マ メ 株 を , マ

メ ハ モ グ リ パエ幼虫が終齢幼虫 に 達 し た 時点で, ßE卵用飼育箱に 一定時間 (8�14 時間) 入 れ る 。 産卵用 飼育箱

の 中 に は 大量 (数百頭) の寄生蜂成虫 を 維持 し, マ メ ハ

モ グ リ パエ の場合 と 同様, 産卵用飼育箱の左右 に 交互 に

イ ン ゲ ン マ メ 株 を入れ, 片側 を遮光性布で覆 う こ と に よ

り , 寄生蜂 を移動 さ せ る 。

寄生蜂 に 産卵 さ せ た 初生薬 2 枚展開時の イ ン ゲ ン マ メ

は, 室 内 (250C) で 5 日 間維持 し た 後, 飲料水用ペ ッ ト

ボ ト /レ を改良 し た 羽化蜂回収装置 (大野 ら , 1999 a) に

初生薬 を摘み取 っ て 入れ, 数 日 後 に 羽化虫 を ア ク リ ノレパ

イ プ部分 に 集 め る (図-3) 。 こ れ ま で に マ メ ハ モ グ リ パ

エ 寄生蜂の飼育 シ ス テ ム で は, 寄生!蜂お よ びマ メ ハ モ グ

リ パエ成虫 を吸虫管で集 め る 作業が大 き な労力 を 占 め る

(PAllRELLA 巴t a l . , 1 987) こ と が報告 さ れて い た が, ペ ッ

ト ボ ト ル を 用 い た羽化蜂回収装置では羽化蜂 を 高 い割合

で集め る こ と がで き (大野 ら , 1999 a) , N. olwzalúi で

も こ の方法 に よ り ア ク リ jレパイ プ部分 を 交換す る こ と で

羽化蜂を容易 に 回収で き る 。 集 め た羽化!峰 は 飼育箱中 に

表 ー 2 N. oliazakii の大盆増殖 シ ス テ ム

作業内容1 . 成虫政飼

2 . 飼育箱中 の イ ン ゲ ン ( マ メ ハ モ グ リ パエ終齢幼虫潜孔

の あ る ) の入れ替え3 天敵羽化装世 に セ ッ ト

4 羽化虫の 回収

5 ポ リ エ ス テ Jレ シ ー ト の 消務

放飼す る か, 野外放飼用 と し て 数 臼 間保存す る 。 羽化蜂

の補充 は現在の と こ ろ 毎 日 行 っ て い る が, 放飼頭数や供

試時間等, 今後検討す る 必要 が あ る 。

大量増殖 さ れた天敵 は い ずれ も 室 内 で単一の環境で し

か も 高密度下で増殖 さ れて い る た め, 天敵の 質 を 損 ね る

可能性 も 指摘 さ れ て い る (van DR1ESl lE and BELLOIVS,

1996 ; G1L KES ON , 1997) 0 Trichograrmna の 大 量 増 殖 で

は, そ の増殖 シ ス テ ム で麹 に 奇形 を持 っ た 飛淘 で き な い

個体の割合が 世代 を経 る ご と に 上昇 し , 増殖虫の質的劣

化 に つ な が る 例が報告 さ れて い る (B1GLEll et al. , 1991 ;

Gl l.KES ON , 1997) 。 筆者 ら の N. olwzakü の 大量増殖では,

成虫の走光性に よ っ て 箱 の 中 を 飛朔, 移動 し な が ら 産卵

す る た め, 麹奇形の個体が個体君宇中 で増加す る 可能性 は

低い よ う に 思わ れ る 。 た だ し, こ れ以外に も 大量増殖に

用 い る 寄主植物の天敵の寄主選好性への 影響 な ど, 不明

な点、が残 さ れて い る た め , 矢野 ( 1981 ) が指摘 し て い る

よ う な虫質の モ ニ タ リ ン グ手法の確立が必要で、あ る 。

虫質以外の問題点 と し て , ア ブ' ラ パチ や シ ョ ク ガ タ マ

パエ の大量増殖で は高次寄生者の侵入が指摘 さ れて お り

(Gll. KESON , 1997) , ま た 増殖施設が近接 し て い る 場 合 に

一一一 15 一一一

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358 槌 物 防 疫 第53 巻 第9号(1999 i:f三)

初生業展開後 \ マメハモ グリバエlこ \ 産卵 さ せ る \

5 日 後 二 \\ 寄生虫華産卵装置1::---'­セ ッ ト

- 7 7 リ ルパ イ プ

羽化等生 的 を 1集 め る l

羽化寄生虫華回収容苦言

-・一ーーーーーー一一ボ ト ル部分を被 う

寄生虫華産卵用飼育箱

糸で口 を絞る

I マ ジ :; 7 テー プ

図 - 3 " メ ハ モ グ リ パエ寄生虫準大公増殖 シ ス テ ム

は, 近縁種間で交雑が起 こ る (van DlllESIIE and BELLOIVS,

1996) な ど, 天敵の大量増殖 に お い て は シ ス テ ム構築後

も 考慮す べ き 点が多い。

2 防除への利用現在, 施設 ト マ ト お よ び ミ ニ ト マ ト で接種的放飼 (各

1 20 頭の 4 回放飼) に よ る マ メ ハ モ グ リ パエ の 防除試験

を行 っ て お り , 十分な 効果 を 認め て い る (獄崎 ら , 未発

表) 。

近縁穏の N. formosa に つ い て も 本種 同 様 に 大量増殖

シ ス テ ム お よ び防除効果が検討 さ れて い る (大野 ら , 未

発表) 。 本穫 に つ い て は wolbachia 感染 に よ る 産雌性単

為生殖系統が九州南部お よ び南西諸島で確認 さ れて お り

(AllAKAKI and KINJO 1998 ; 大野 ら , 未発表) , FINNy and

FISHEll ( 1 964) お よ び矢野 ( 1981 ) が述べ て い る よ う に

性比 (雌比) が高 い と い う 大孟増殖に適 し た生物学的特

性の一つ を有 し て い る こ と か ら , 実用的な放飼効果が認

め ら れれば有望種 と 考 え ら れ る 。

お わ り に

こ れ ま で筆者 ら が行 っ て い る マ メ ハ モ グ リ パエ幼虫寄

生蜂の大量増殖 シ ス テ ム に つ い て述べて き た が, 生産 さ

れた 天敵の包装や輸送, さ ら に そ れ ら の条件に影響 さ れ

る 生存率や放飼後の活動性 な ど, 多 く の検討す べ き 点が

残 さ れて い る 。 今後, こ れ ら の点 も 考慮 し な が ら , 天敵

の大企増殖 シ ス テ ム の確立 に 向 け て さ ら に検討や改善 を

進め る つ も り であ る 。

引 用 文 献

1 ) A llAKAKI , N. and K . KINJO ( 1 998) : Appl. Entomo1 Zool . 33 : 577�581

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3) GI I_KE50N, L. A. ( 1997) : Ecological Interact ion and Bio1ogical Contro1, ed. D. A. ANDOIV, D. W RAG5DALE anc1 R. F. N YVALL, Westview Press, pp 139�148

4) LEIBEE, G. L. ( 1984) : Environ. Entol11ol. 13 : 497�501 5) MINI<EN日EllG, O. P. J. M . ( 1 990) : On Seasona1

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