~患者から生活者へ・準備移行支援~...76 訪問リハビリテーション...

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訪問リハビリテーション 第6巻・第2号(通巻32号) 73

*在宅りはびり研究所 (〒783-0004 高知県南国市大そね甲1973-55)

特集

在宅りはびり研究所 代表/理学療法士 吉良 健司*

 巻頭言  訪問リハビリテーションの卒業

~患者から生活者へ・準備移行支援~  

 平成27年度の介護保険改定において,地域包括ケア体制の構築の一環として,活動・参加を強調した生活期のリハビリテーション(以下,リハ)が厚生労働省より促され,訪問リハや通所リハ,あるいは介護保険からの卒業も視野に入れた取り組みへの転換が求められるようになった.全国の訪問リハの療法士が一念発起をして取り組み始めるも,当事者やご家族・ケアマネジャーの同意が得られず,非常に苦戦しているという話をよく聴く.

 個人的な話になるが,私が訪問リハに関わりはじめた約20年前は,外来リハに通院できない人の出前訓練的な意味合いが強かった.また,これまでにも訪問リハで対応する対象者には重度障がい者が多く,抑うつ症状もあるために外出や通所を拒んできた人が少なくなかった.そういった経験から恥ずかしながら訪問リハを継続的に行うことに関して,やむを得ないという意識を持ち,病気や障がいのある要介護者の「最後の砦」のサービスのような位置づけで考えていた.

 しかし,「高齢者や障がい者にどのように関われば,人としての復権が達成され,元気を取り戻すか?」という命題の答えを求め,自分で会社を興し,訪問看護ステーションや他動的個別訓練を禁止した自立支援型デイサービスを作ったり,脳卒中者自主グループ“にき咲くクラブ”の地域活動にも個人として参画しながら模索する中で,自

分なりに成功事例だなと思える人に遭遇する機会が増えてきた.そして成功事例につなげる方程式も見えてきた.具体的に当事者との対話の中で整理できた内容としては,①我々の行ってきた医学モデル的なリハサービスやケアマネジメントは,弱い所を強くする,手当するというウィークネスアプローチであり,当事者の抑うつや重度化を防ぎきれない方法論であること,②反対に,本人の強みに焦点を当てて,協働的関係の中で問題を解決していく視点,ストレングスアプローチの方が,対象者の意欲や火事場の力が引き出しやすく,生活機能が上がりやすいことが経験的に明らかとなってきた.もちろん,年齢や病気や障がいの状態,介護者や生活環境などの影響も受けるが,対象者の強みを強調していくことこそが,介護予防・自立支援の基本であり,今後の卒業へのイノベーションを作る原動力になると感じる.今後は,従来のウィークネスアプローチとストレングスアプローチを統合した評価およびアプローチ方法を標準化するかがカギである.

 そこで,本特集では「訪問リハビリテーションからの卒業」をテーマに,卒業につながった先駆的な事例を各執筆者にご紹介いただきつつ,卒業につなげていくためのプロセスのあり方について学びたいと思う.そして,実際に訪問リハから卒業した当事者にもご執筆していただき,反対側からみた世界を学び,我々のあり方を整理したいと思う.そして,今後の課題や体系的な卒業への道筋作り,パラダイムシフトを促していきたいと思う.

訪問リハビリテーションの卒業~患者から生活者へ・準備移行支援~

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訪問リハビリテーション 第6巻・第2号(通巻32号)74

本当の意味でのリハビリテーションの実現に向けて

医療法人社団松恵会 けやきトータルクリニック

小川 克巳

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訪問リハビリテーション 第6巻・第2号(通巻32号) 75

特集

訪問リハビリテーション事業所からの卒業 

1.訪問リハの役割   2.訪問リハの効果   3.訪問リハと通所リハkey words

1.はじめに

 平成27年度介護報酬改定において,社会参加支援加算が設けられ,“卒業”に向けた取り組みが評価されるようになった.当事業所として,卒業に対して積極的に取り組んできたという認識は少なく,どちらかと言えば,利用者の希望する生活に対してアプローチし,質の高いリハビリテーションを提供してきた結果,卒業につながったと捉えている.今回は,当事業所の卒業の現状と事例を通して学んだ,卒業に向けた取り組みとそのポイントなどをご紹介させていただく.

2.事業所紹介

 当法人は,前佐賀関町国民健康保険病院から平成16年7月に医療法人関愛会 佐賀関病院として,民営化された法人である.大分県東の半島に位置する佐賀関病院は僻地にあり,佐賀関は漁港の町であり,家屋は密集している.また山並みの険しい道の多い生活環境となっており,訪問リハは地域の特徴を見ても必要な資源でもある. 平成23年4月に,佐賀関病院にあった訪問リハの事業所を,こうざきクリニックに併設している通所リハ(こうざきデイケア・リハビリテーションセンターもみの木)に移設した.訪問リハを通所リハと併設したのは,筆者が過去に両事業所を兼任し,効果的なリハが提供できた経験を踏まえ

訪問リハビリテーションの卒業~患者から生活者へ・準備移行支援~

*社会医療法人関愛会 在宅リハビリテーション室 (〒870-0307 大分県大分市坂ノ市中央1-269)

社会医療法人関愛会 在宅リハビリテーション室/理学療法士 川野 剛士*

ての対応である.

3.当事業所の卒業の現状

1)当事業所の卒業者の傾向 当事業所の平成27年4月から平成28年2月までの終了者の状況を調査してみた.終了者のうち,社会参加に資する取り組みを実施した者の占める割合は,31人中15人で,48%となっていた.訪問リハの介入から卒業までの利用期間としては,1年以内が87%と多く,その中で6カ月以内に卒業している事例は,実に60%にも及んでいた.

n=31n=31

卒業48%卒業48%

入院・入所26%

入院・入所26%

死亡10%死亡10%

その他16%その他16%

[図1] 訪問リハビリ終了理由

n=15n=15

3ヶ月以内40%

3ヶ月以内40%

3~6ヶ月20%

3~6ヶ月20%

6ヶ月~1年27%

6ヶ月~1年27%

1~2ヶ月0%

1~2ヶ月0%

3年以上 7%3年以上 7%1~2年 6%1~2年 6%

[図2] 卒業者の利用期間

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 その卒業者の介護度を見てみると,要介護1が一番多いという特徴となっていた.また平成26年度の卒業者のデータも調べてみると,要介護1~2に集中していることが分かった.

2)卒業後の利用状況 卒業後の利用状況としては,通所系のサービスにつないだ事例が10事例(67%)と多く,そのうち通所リハにつないだ事例は6事例あった.これは,リハを継続していく上で通所介護よりも,セラピストが手厚く配置されている通所リハの方が移行しやすい状況にあることも影響している.一方,地域のサロンなどへつないだ事例はまだ少ない状況である.

卒業に向けた明確な目標の共有が重要となってくる.自宅においてどんな過ごし方をしたいのか?どこまでできるようになりたいかなど,本人や家族,担当ケアマネなどとその目標を共有する. うまく卒業できない事例に多いのが,ケアマネの訪問リハの内容に対する理解が乏しい場合や,利用者が身体機能訓練のみ(マッサージ的な希望)を求めてしまうような場合である.当事業所も介入している事例の中には,自宅に訪問リハが永遠に来てくれると思われている方がいるのも現実である.どれも介入時に「卒業」の具体的な目標を設定せずに介入してきた現状でもある.これは,サービスを提供するセラピスト側にも原因があると思う.ただし,介入当初から「卒業」ありきの話では,利用者の不安要素も大きくなるのも事実である.特に「卒業」に対する視点はその介護度により多様性を持っている.その生活背景や疾患により,一概に全て「卒業」ありきではない点には留意する必要がある.

2)訪問リハの効果の見える化 退院後の訪問リハの必要性や卒業に向けた提案を行っていく際に,その効果の「見える化」は重要となってくる.当事業所は,訪問リハの介入による効果を明確にし,本人や他職種へわかりやすく伝達する目的で,リハビリの評価項目を決め,定期的に機能評価を実施し,数値化して報告をしている.機能評価のみならず,BMS(Bedside Mobility Scale)やLSA(Life-Space Assessment)などの評価を用いることで,ベッド周囲での動作や生活範囲の評価も実施している. 卒業に向けた提案のタイミングとしては, 訪問リハが介入しなくても,生活の中で活動量が確保されるようになることである.「生活不活発病」などの予防が図れることが重要になってくる. 訪問リハの介入により,どのくらいの変化が生じ,現時点で利用者がどのくらいの範囲で活動が得られているのかなどを数値化することにより,卒業へ向けた後押しとなってくる.漫然と訪問リハを提供しないためにも,効果の「見える化」は大事

平成26年度 平成27年度

9

7

12

01

5

0 0 0 0

21 1

要介護5

要介護4

要介護3

要介護2

要介護1

要支援2

要支援1

[図3] 卒業者の介護度(平成26年度との比較)

通所サービス67%

通所サービス67%

地域のサロンなど 6%地域のサロンなど 6%

自宅周辺での活動など27%

自宅周辺での活動など27%

[図4] 卒業後の状況

4.卒業にむけた取り組み

1)訪問リハの役割の明確化 訪問リハからの卒業を目指すためには,リハ開始時の担当者会議などで訪問リハの役割の説明や

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である.

3)訪問リハと通所リハの併設のメリット 通所リハと距離が離れていた訪問リハを併設することにより,訪問リハと通所リハの情報交換が多くなった.その後,事務所を同フロアにすることで,更に顔を合わせる機会が多くなり,より密な情報交換が可能になった.

4) 訪問リハと通所リハの併用者に対して合同カンファレンスの実施とそのメリット

 筆者が訪問リハと通所リハの管理するようになり,訪問リハも通所リハも同じようなプログラム内容が多いことに気づいた.そのことを踏まえ,平成26年より同法人の訪問リハと通所リハを併用している利用者に関しては,合同カンファレンスを実施するようにした.その結果,両事業所でのプログラムの見直しができ,課題点の共有もできるようになった.通所リハの介護職員も参加することにより,送迎時の状況なども共有することができるようになった.訪問リハから,自宅での様子を報告してもらうことで,自宅と通所リハ利用中の様子との違いなども把握でき,生活背景や性格など,“その人らしさ”を知るきっかけにもなっている. このように併設の利点があるにも関わらず,介護給付費実態調査(平成26年4月審査分)による

と,全国で訪問リハと通所リハのサービスを一体的に提供している事業所は,約21%と一部に過ぎないのが現状でもある.

5.事例1  < 家族の不安のある中,卒業に向けてサービ

スを移行していった事例>

1)症例紹介 K氏 60歳代 男性.平成○年6月に脳梗塞発症.右片麻痺(失語あり)

2) 退院後に見えてきた訪問リハの課題とアプローチ

 訪問リハ開始後,実際に自宅で生活動作の確認を行うと,トイレの介助スペースの問題や入浴時の環境設定,外出時の介助量などを含めて,多くの課題が見えてきた.①トイレ環境の再調整 日中のトイレ動作を確認.トイレの介助スペー スが狭く,家族がズボンの上げ下げの介助をするスペースが確保されていなかった.また,便器 と前面の壁のスペースが狭く,体幹の前傾がしに くいことにより,立ち上がりにも介助を要し,方 向転換時には,右麻痺側下肢が壁に引っ掛かることなどがわかった. 以上の問題点を踏まえ,トイレのスペースを全面改装した.便器の前面の壁がなくなることにより,起立動作時に制限されていた体幹の前傾が可

[写真1]  訪問リハと通所リハ併用者に対する合同カンファの様子 [図5] トイレ環境の再調整

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能となり,介助量を軽減することができた.また介助スペースが広くなり,ズボンの上げ下げの介助も容易にできるようになった.②入浴動作と環境の再調整 浴槽へのまたぎ動作は,座位またぎで実施する想定であったが,実際に家族と一緒に入浴動作を確認していくと,座位ではなく,立位でのまたぎ動作の方がスムーズに入れることが判明した.想定が変更になったため,再度,手すりを追加することで,家族の負担なく,立位でまたいで入浴ができるようになった.自宅での入浴が安定するまでは,通所リハでも入浴サービスの提供を行っていたが,その後,自宅での入浴が可能となり,通所リハでの入浴サービスを中止することができた.

[図6] 入浴動作と環境の再調整

[図7] 屋外環境の再調整

る.しかし退院後,実際に生活をしていくと,設置した手すりなどをうまく使えていない事例や,予想外に介助量が多くなり自宅での生活を継続していくことが困難に感じる場合もある.今回の事例のように, 入浴・トイレ・外出において,その環境が活動の制限因子となる場合もある. 筆者の中での在宅でのキーワードは「事件(課 題)は現場(生活の場)で起きている!」ということである.いくら,病院で身体機能が上がり自立レベルとなっても,また退院前に住宅改修をしていても,実際の生活の場となると,病院での想定とは違う生活環境が待っている. このような現場で起きている課題に関して,実 際にその生活の場で動作確認や練習が行え,時に はご家族の声をダイレクトに聞き,対応することができるのは,訪問リハならではの強みでもある.

4)通所リハとの連携 今回の事例では,退院直後に訪問リハが介入していたため,手すりの追加やトイレの大掛かりな工事の提案が行えた.また,外出の模擬練習となる通所リハの送迎時に,天候の違いによる介助量の変化や職員が危険と感じる環境に気づき,通所リハと訪問リハが情報を共有し,取り組んだ結果でもあった.病院を退院後、通所リハで測定した運動機能評価 図8 を見ると,急激な移動能力の改善が図られた.その能力の変化を訪問リハと共有することで,実際の生活の場でのリハの見直し

③屋外環境の再調整 外出に向けた屋外歩行練習では,自宅前の10段ほどある階段に手すりが設置され,段差昇降の介助量は少なく行えていた.しかし,階段の手前には坂道があり,車いすで移動するため,傾斜のある場所で車椅子から立ち上がる必要があった.通所リハの送迎を行う職員より,傾斜での車いすの立ち上がりが危険であるとの情報があり,環境の再調整を実施した.

3)事件は現場で起きている! 病院では退院に向けて事前に退院前訪問を実施し,住宅改修や退院後の動作指導などを行ってい

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担当者会議を開催し,課題を共有し,段階的にアプローチをしてきたことで,退院後,約10カ月で訪問リハを「卒業」することができた. このように介入当初から具体的な目標設定が難しい事例では,「卒業」のタイミングとしては課題が解決し,自宅でのリハの目標がなくなってくる時期ではないか.このタイミングを逃すと,ズル ズルと目的なき身体機能訓練というような状況に 陥る可能性がある. 図9 のように,目標が達成しつつある時期に,徐々に担当セラピストから利用回数を減らすことや他のサービスなどへの移行 の提案なども行っていくことが重要となってくる.②卒業に向けたスムーズなサービスの移行 このように適時に担当者会議を設け,その時々の課題を家族とも共有し,今後の方向性を踏まえて「卒業」に向けて アプローチしていく.ポイントは,訪問リハを「卒業」しても通所リハを残すことで,セラピストの介入が継続されることで,安心感を与えることができる点である.訪問リハの回数を減らすことでリハの量が減ることへの不安を家族から聞いていたため,この事例では,通所リハを増やしサービスの介入回数は減らさずに移行していった.この対応で不安は少なくなり,また移行期間も1~2カ月程度設けることで,サービスを変更しても大きな変わりはないということも確認していただいた.このように,家族の不安要素を取り除き, サービス全体を通して安心であることをお伝えしていくことも,卒業には大事な要素でもある.

6.事例2 <独居の利用者の卒業に向けた関わり方>

1)症例紹介 ○歳代 女性 要介護1 独居(月に1回,市内に住む息子の訪問あり).平成○年6月に病室で転倒し,腰椎圧迫骨折となる.平成○年7月に回復期病院を退院.退院直後から訪問リハ(週2回),訪問ヘルパー(週2回)介入となる.

66

35.3 33.328.8

25.2

37.9

19.3 16.4 1514.1

0

10

20

30

40

50

60

70

平成24年4月

TUG5m歩行(秒)

四点杖金属支柱型

T点杖金属支柱型短下肢装具

T点杖AFO具装

回復期病棟退院後,約1年で,TUG31.8秒短縮!5m歩行:23.8秒短縮!

平成24年1月 平成24年7月 平成24年10月 平成25年1月

[図8]  通所リハでの退院後の運動機能評価での移動能力の変化

や内容の変更に役立った.また、家族にできる能力を伝えていけたことが,利用者の自宅での「活動」意欲を高め, 早期に改善できたポイントでもある.

5)訪問リハ卒業にむけたアプローチ①担当者会議による情報共有の大切さ 退院後の訪問リハの重要性について述べてきたが,この事例は介入当初から「卒業」ということを意識していたわけではない.介入当初は介助量も多く,先々の明確な「卒業」という目標が我々も家族もイメージできる状況ではなかった.身体状況の改善や家族の希望の変化などが生じた時に

回数 担当者会議の内容1回目(平成○年1月) 「利用開始前の担当者会議」

2回目(平成○年4月)

「追加住宅改修の提案と通所介護追加に向けた担当者会議」

(平成○年5月) 追加住宅改修完成(平成○年9月) 新たな環境下で訪問リハを実施し,身

体機能の向上と併せて,御自宅での動作の安定が図られる.目標が達成しつつあったため,訪問リハのセラピストが介入時に徐々に訪問リハの卒業について提案を行っていく.

3回目(平成○年10月)

「訪問リハの卒業に向けた今後の方向性を決める担当者会議」(訪問リハの回数を週2回から1回へ減らし,状況を見て卒業を提案)※サービスの移行状況は 図10 参照

[図9]  訪問リハが介入していた約10カ月間のうちに,3回にわたる担当者会議を実施

退院直後

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2)経過①初回介入時 初回介入時は,寝間着を着用しており,居間で臥床している状況であった.独居のため,スーパーへ買い物に行ってみたが,往復3時間程度の時間を要し,「買い物から帰ったら疲れて調理ができない」との訴えがあった.目標を「往復1時間以内で,片道1.8㎞先にあるスーパーまで買い物に行けるようになる」と設定した.訪問リハの介入時以外にできる自主訓練での下肢の筋力トレーニングの指導と訪問リハ介入時はシルバーカーを使用してスーパーまでの歩行練習に取り組んだ.毎回,移動に要した時間を測定し,徐々に歩行距離を伸ばしていき,本人へフィードバックを行っていった.少しずつ目標に向けて改善していることを,距離や時間などを使用することで明確化することで,意欲の向上を図っていった.約3カ月後には,往復1時間以内でスーパーまで買い物に行

平成○年 平成○+1年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月

訪問リハビリ 回復期病院退院

週2回 週1回 卒業!

通所リハビリ 週2回 週3回

通所介護 週1回 週2回

サービスの介入回数 週4回 週5回

[図10] 訪問リハ卒業に向けたサービスの移行

くことができるようになり,前記の訴えも聞かれなくなった.② 活動量が高まることで行動が変わり,新たな希望が出てくる 本人も自信が持てるようになり,新たな目標として「お墓参りへ行きたい」という新たな希望が聞かれるようになった.お墓は坂の上にあり,階段もあるため,以前息子が帰省された際に一緒に行ったところ,途中で歩くことができなくなり,息子におぶってもらって帰宅したとのことだった. しかし,この頃には,買い物にも週2,3回行くなど,退院直後に比べ活動量が大幅に増えていたため,見守りでお墓参りに行くことができるようになっていた.そして,今年の正月には妹と二人でお墓参りにも行くことができた.

[写真2] スーパーまでの屋外歩行動作

[写真3] お墓への階段動作

3)卒業に向けた過程 スーパーへの買い物も週2,3回,またバスに

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乗って遠方へ買い物に行くこともできるようになった.活動量も高く,訪問リハとしての当初の目標も達成した.担当ケアマネ,ヘルパーと担当者会議を開催し,現状の報告と訪問リハの回数を週2回から週1回へ減らしていくことを提案した.訪問リハの時に回数の件は本人に少しずつ話を進めていたため,受入もスムーズだった.ヘルパーも介入当初は,買い物が支援の中に入っていたが,掃除のみの介入となった 訪問リハの回数も週2回から1回に減らして様子をみていた.その後も継続して買い物にも行けており,その際に友人と会ってお話をされていることも確認できたため,訪問リハを開始して,約9カ月後に卒業をすることとなった.そして最後に一カ月後ご自宅を訪問させていただく約束をした.訪問リハを終了したから終わりではなく,「その人らしい生活」が継続できているかが重要である.ご自宅を訪問し,生活に変化がないかを確認し,もし状態が悪化していれば再度訪問リハが介入するなど「かかりつけ療法士」として困ったことがあれば相談してもらえる関係を作ることで,利用者も安心して卒業ができるという保障が大事でもある.

4)効果の見える化 初回介入時は,居間で横になっており,パジャマ姿であった利用者.ご自宅でも簡単に評価のできるCS-30での身体機能評価では,初期評価時は4回であったが,終了時は13回実施できるようになった.また活動範囲の評価であるHb-LSAでは初回評価時は67.5点であったが,終了時は110点と大幅に活動範囲の拡大がみられた.

7.事例3 < 地域の仲間の協力を得て趣味活動が再開でき卒業に近づいた事例>

1)症例紹介 ○氏 ○歳代 女性 要介護1 脳梗塞 右不全片麻痺 独居

2)経過 平成○年5月 回復期病院を退院.病退院後,訪問リハ週3回,ヘルパー週4回,配食サービスを毎日利用することで,自宅での生活に戻った.住まいは一戸建てで,居住環境は地域特有の急傾斜地で,敷地に自動車も入らない環境. 約1カ月後の平成○年6月の時点で動作が改善し,自宅外での活動が可能なレベルになった.急傾斜地を歩いて移動することが可能になったため,平成○年7月に訪問リハの回数を1回減らし,通所介護の利用を週1回開始することができた.また掃除が行えるようになり,ヘルパーの回数も1回減らすことができた.また,外出ができるようになったことで,買い物に行くことや銀行へ行って金銭の出し入れなどのIADLの実施が可能となった.また買い物で好きなものを購入し,ヘルパーの指導により,ご自宅で調理練習を実施し,好きなものを自分で作って食べることも可能になった.

3)かつての趣味活動へのアプローチ①活動を制限する心理 外出が可能になったことを機に,かつてウォーキングが日課として習慣化していたことに着目した.仲間とウォーキングをしていたようですが,まずは一人で再びウォーキングができるようになることを目標とした.実際に,かつてのウォーキングルートを一緒に歩いてみた.最初はご本人も自信がなく,以前のように歩けるかどうか不安のようだった.また「仲間に杖を突なかいと歩けなくなった姿を見せたくない」という心理的な制限因子も聞かれており,一人での歩行練習を繰り返した.②心理状況へのアプローチ そのような心理状況を踏まえ,実際のウォーキング現場に担当セラピストのみで足を運んでみた.それらしい方々がいたが,もちろん面識がないため,恐る恐る突撃取材をしてみた.ズバリ利用者のウォーキング仲間であったことがわかった.ウォーキング仲間から「しばらく姿をみない

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[写真4]  かつての地域のウォーキング仲間との再開時の様子

[写真5]  かつてのウォーキング仲間と一緒に歩行練習

努めた. 初めは,一緒にペースを合わせて歩くことが困難であったが,仲間とのウォーキングを繰り返すことで同じペースで歩くことができるまで歩行能力が改善した.また歩行に対する自信がついたことにより,自宅からウォーキング仲間が集まる場所までの1km以上をすべて歩けるようになった.④まとめ ポイントは,ウォーキングを再開するために体力や能力などの身体機能の向上を単なる目標とするのではなく,その仲間の方々と再び,「活動」や「参加」ができるようになることに主眼を置いたことである.利用者の過去の生活背景を知っていることと,また地域の共助を利用し,動機づけを行った.そのことで本人の活動意欲を高めることができ,かつてのウォーキング習慣の再獲得ができ,卒業が見えてきた. 訪問リハの担当セラピストは単なるご自宅の環境下での身体機能訓練や環境設定に留まらず,地域の仲間との懸け橋となるような視点も持ちつつ,「活動」や「参加」にアプローチしていくことも求められる.今回の事例は,訪問リハの対象者に対してのみならず,その地域のかつての仲間までアプローチすることで,地域を元気にできる幅の広い訪問リハが提供できた.

8.おわりに

 以上のように,事例を振り返ると自立支援の視

ので心配だった」という暖かい言葉を耳にした.そこで現在の利用者の状況を説明したところ,「快く迎えてあげたい」との言葉をいただき,現在のウォーキングの実施時間を聞いておいた.早速,利用者に「友人たちが,あなたが来るのを待っているようですよ」とお伝えし,「仲間とのウォーキングに再び参加してみませんか?」と本人に提案してみた. 行きたい・・・しかし,ウォーキング仲間が集まる場所はご自宅から約1km以上先にあり,その道のりを全て歩いて移動するのは現時点で困難であった.そこで,まずはそこまでの道のりの確認も含め,訪問リハの車を有効活用し,本人を乗せて仲間が集まる場所へお連れした.久々の再会である.まだこの時点では長い時間,立位保持が困難であったため,折りたたみの椅子も持参し対応した.③共助 かつてのウォーキング仲間からの励まし(共助)もあり,仲間に杖を突なかいと歩けなくなった姿を見せたくない」という心理的な制限因子も解消されたと思う.そのことにより,仲間とのウォーキングを再開するという目標の動機づけができた.共助の強みを生かし,まずは,訪問リハとしての介入時間を,仲間のウォーキング時間に合わせて調整し,かつての仲間と一緒にウォーキングを行うことを繰り返し,さらなる身体機能改善に

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訪問リハビリテーション 第6巻・第2号(通巻32号) 83

点で,自宅でできることを増やすことや,自宅での課題を一つひとつ克服することで卒業が見えてくる.本人が,できないことができるようになったという実感と,そのことを家族や担当ケアマネが共有することが重要である.そのためにも,自宅で簡単にできる身体機能評価を定期的に行うことや,動作,生活範囲の評価などによる効果の「見える化」が必要になってくる. 卒業は担当セラピストから作り出されるもので ある.担当ケアマネは月に1回程度の自宅訪問が多く,利用者と顔を合わす機会は少ないと思われる.訪問リハは,より多く自宅訪問することができ,本人や家族とコミュニケーションを取る機会を多く設けることができる.そのため,情報収集はしやすく,今後の生活について助言できる一番身近な相談者ともなりえる.そのような関係性の

中で,卒業に向けてのアプローチで必要なものは,担当セラピストのマネジメント力にも関わってくる.利用者と自立支援の視点で関わり,身体機能×活動×参加をバランスよく配合し,多職種協働で自立した生活を目指すことで,必然的に卒業が見えてくるのではないだろうか? 卒業に対する不安を解消することも,とても重要になってくる.これに対しては,段階的に訪問リハの回数を少なくすることや他のサービスや地域への移行期間を設け,訪問リハが介入しなくなっても,変化なく生活が継続できることを実感してもらうことが大事である.困ったことがあれば,いつでも相談できる「かかりつけ療法士」といった関係を築くことで,安心して卒業を促していけるのではないか.

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