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CSR は中小企業の「生存戦略」 ~中小企業のための CSR 読本~ ~第 3 版~ 働く人も、お客様も満足し、 地域社会から必要とされる会社づくりを応援します。

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CSRは中小企業の「生存戦略」

~中小企業のための CSR 読本~

~第 3 版~

働く人も、お客様も満足し、

地域社会から必要とされる会社づくりを応援します。

CSRチェックリスト

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Ⅰ 本書のねらい ......................................................................................... 2

Ⅱ 本書の使い方 ......................................................................................... 4

Ⅲ 経営における CSRの重要性 ....................................................................... 6

Ⅳ CSRチェックリストについて ................................................................... 15

Ⅴ 第 3版の改訂について ........................................................................... 16

1 大分類【守るCSR】 ............................................................................. 18

中分類<誰に対して>組織内部 .............................................................. 19

小分類(1)「組織文化」 ..................................................................... 20

小分類(2)「組織統治」 ..................................................................... 21

小分類(3)「情報セキュリティ」 ......................................................... 24

小分類(4)「労務管理」 ..................................................................... 26

小分類(5)「生産管理」 ..................................................................... 29

中分類<誰に対して>組織外部 .............................................................. 31

小分類(1)「製品、サービスの提供および調達」 ...................................... 32

中分類<誰に対して>地域社会 .............................................................. 34

小分類(1)「環境経営」 ..................................................................... 35

2 大分類【伸ばすCSR】 ......................................................................... 36

中分類<誰に対して>組織内部 .............................................................. 37

小分類(1)「経営戦略」 ..................................................................... 38

小分類(2)「ダイバーシティ」 ............................................................ 40

小分類(3)「人的投資」 ..................................................................... 42

中分類<誰に対して>組織外部 .............................................................. 44

小分類(1)「事業の中核における価値創造」 ........................................... 45

小分類(2)「ステークホルダーコミュニケーション」 ................................ 47

中分類<誰に対して>地域社会 .............................................................. 49

小分類(1)「事業の周辺における価値創造」 ........................................... 50

Ⅵ チェック項目一覧 ................................................................................. 52

Ⅶ チェック結果について ............................................................................ 57

目次

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中小企業を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しています。需要面では、少子高齢化

に伴う人口減少社会の到来による市場規模の縮小や、個人消費者における嗜好・価値観

の多様化が進み、「モノが売れにくい」時代に突入したとも言われています。また、供

給面においても、いわゆる「系列」取引の解体や経済活動の国際化に伴う取引条件の多

様化、環境問題の深刻化や災害対応による安全・安心に関わる管理コストの増大など、

「モノが作りにくい」時代になったとも言うことができます。

こうした中、中小企業が持続可能な成長を実現していくことは、決して容易ではあり

ません。しかし、これらのピンチを新たなビジネスチャンスととらえて、成長への足が

かりを掴もうとする企業や、いわゆる「老舗」と言われる企業に見られるように、社会・

経済情勢の変化や、時代の移り変わりに伴う顧客のさまざまな要請に応えながら、経営

を続けてきた企業も多く見られます。

これらの企業には、明確な経営理念を定め、それに基づき、社内の体制をしっかりと

固め、従業員が働きやすい職場づくりに努めながら、顧客・取引先・株主との関係も良

好に保ち、さらには地域や社会全体に対する配慮も忘れない、という比較的共通した傾

向が見られます。

こうした取り組みの核心にある考え方を、「CSR(Corporate Social Responsibility:

企業の社会的責任)」と言います。CSRというと一般的に、企業による社会貢献活動を

想像されがちですが、英語の語源から読み解くと「企業が社会(の期待)に反応する力」、

つまり「経営そのもの」ということに他なりません。

そこで、さいたま市では「CSR」を「企業が、自らの経営の社会的健全性と経済的健

全性を両立させるためのキー概念」と定義した上で、新たな産業振興のキーワードの1

つに位置づけ、市内中小企業による CSRへの取り組みの促進を図るため、本書を作成

しました。

本書には、CSRにつながるさまざまな経営活動の解説とともに、具体的事例を「チ

ェックリスト」として列挙しています。本書を読み進めることで、日頃からの取り組み

が、実は「CSR」につながっていることに気づくとともに、さらなる経営の高度化に向

けて取り組むべき目標を明らかにし、具体的な行動に結びつけることが可能となってい

ます。ぜひ、座右に置いていただき、持続可能な成長・発展のヒントとしていただけれ

ば幸いです。

Ⅰ 本書のねらい

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本書は、地方公共団体が直接発行....

する中小企業の CSR 促進に向けた「解説書」、「マ

ネジメントツール」としては、全国初の取り組みです。

企業の主体的な取り組みである CSRで直面する課題、例えば環境経営の強化や労務

管理の適正化は、さいたま市から見ると環境政策、労働政策の政策課題になります。特

に、CSRの中心的課題である「ESG(環境・社会・組織統治)問題」(8ページ参照)

は、アプローチの違いこそあるものの、企業も行政もそれぞれの立場を踏まえつつ、協

働して取り組む必要があります。また、ほとんどの市民にとって、働くことや消費する

ことは「生きることそのもの」と言っても過言では無く、「社会的・経済的に健全な企

業で働くこと」「健全な企業から、より良いものが買えること」は、市民のしあわせに

直結します。

だからこそ、さいたま市は本書の発行や「さいたま市 CSRチャレンジ企業認証制度」

の実施などによる市内中小企業の CSR促進を通じて、働く人も、お客様も満足し、地

域社会から必要とされる会社づくりを推進していきます。

活力にあふれ、地域社会に末長く必要とされ、大切にされる中小企業が、1社でも多

く存続することがさいたま市の願いです。

さいたま市

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本書は、日頃から企業が取り組んでいる内容や経営課題が CSR に直結し、企業の生

存戦略に CSR が必要であることを経営者に「気づいていただく」ことを目的としてい

ます。そして、CSR に関する自社の強みや弱みを把握することで、そこからの経営改

善、経営革新につなげるきっかけとしていただくものです。

そのために、日々の経営において取り組むべき内容をチェックリスト化し、CSR の

目的・テーマ別に列挙しています。また、チェックリストだけでなく、CSR が企業の

単なる社会貢献活動ではなく「経営そのもの」であることや、大企業だけではなく、「中

小企業こそ CSR」という理念に基づいた、CSR の各テーマに関する解説を掲載してい

ます。初めから順番に読むことで、【CSR=経営】であることを一通り理解できますが、

自社の現状を把握するために、52 ページのチェックリストの一覧で自社の「CSR」度

をチェックしてから解説を読んでいいただいてもかまいません。

経営管理の手法に「P(Plan:計画)・D(Do:実行)・C(Check:評価)・A(Action:改善)

サイクル」というものがありますが、本書は現状の「C」から始める道具ともいえます。

そして、「A」は改善でもありますが、新たに「気づく(Aware)」ということでもありま

す。そうした気づきや改善内容を踏まえ、「P」目標を立て、「D」実行に移してくださ

い。目標策定や実行の段階で生じる課題については、公益財団法人さいたま市産業創造

財団などの経営相談窓口をご活用下さい。

なお、このチェックリストも PDCA サイクルの考え方によって成り立っており、企

業と社会を取り巻く情勢や、企業の実情に応じて、チェックリストの内容を逐次改訂し

ていきます。

Ⅱ 本書の使い方

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また、さいたま市内に本社、本店がある中小企業等はチェックリストの項目を一定の

水準で満たすと「さいたま市 CSR チャレンジ企業認証制度」の認証を受け、CSR 経営

を進化させるために、さいたま市の支援サービスを利用できますので、ぜひチャレンジ

してください。同制度の詳細はさいたま市のサイトからご覧いただけます。

参考:NPOなどのマネジメントツールにも活用可能なチェックリスト

本書のチェックリストは、基本的には企業、組合の利用を想定して作成されています

が、さいたま市では CSR に基づく活動を社会貢献活動などに限定せず、コンプライア

ンスや労務管理、財務の安定化、環境経営などの、組織の社会的健全性と経済的健全性

を両立させるための一連の活動を含むと考えています。さいたま市では CSR を「経営

そのもの」ととらえ、この考え方に基づいて上記の活動を含むチェックリストを作成し

ています。

さいたま市が考える CSR は、組織の営利性の有無や形態に関係なく求められるもの

であり、NPO などの非営利組織の経営にも求められます。そのため本チェックリスト

は NPOなどの経営の社会的健全性と経済的健全性をチェックするマネジメントツール

としても活用することができます。

NPO などの非営利組織では、活動資金として会費や寄付が大きなポジションを占め

ていますが、その組織のマネジメントが社会的に不健全であれば、会員や寄付者は増え

ず、経済的健全性も保てません。組織のマネジメントの健全性を分析するためにも、ぜ

ひ本チェックリストを活用してください。

参考:株式公開(上場)にも CSRの実践が重要

近年、過重労働や賃金の未払いなどの「ブラック企業問題」のように、企業が ESG

問題の発生源となるケースが目立ちます。このため証券取引所では、上場しようとする

企業の経済性や狭義の内部統制だけではなく、労務管理の適正化など、経営の広範な領

域をより厳格に審査するようになっています。また、上場後も企業には「コーポレート

ガバナンス・コード」などのルールを順守することが求められます。

チェックリストの「期待される行動例」はどの企業にも重要ですが、上記の領域やル

ールとも関わります。将来の上場を目指す企業にも、これらの行動例の実現は重要な経

営課題であると言えるでしょう。

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1 CSR の必要性

【CSRの潮流】

近年「CSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility) 」という言葉が

ビジネスの世界で使われるようになりました。CSR とは企業が自らの利益の追求ばか

りを考えるのではなく、社会の一員として、社会に対して責任ある姿勢で経営に臨む、

という考え方ですが、これは決して新しい考え方ではありません。特に、我が国では江

戸時代の商道徳「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」のように、ビジ

ネスにおいて社会的健全性と経済的健全性を両立させる考え方が古くから唱えられて

いました。

日本では 2003年が「CSR経営元年」とされ、この年を境に大企業を中心に CSR部

門の創設や人員の配置、CSR 報告書の刊行などの取り組みが本格化したとされていま

す。その取り組みのテーマは社会貢献や環境経営など、多岐にわたり、マーケティング、

広報、労働安全衛生、流通や製品開発など、企業の業務のさまざまな部分と関わってい

ます。また、2011年の東日本大震災以降、多くの企業が義捐金や物資の寄付などの震

災復興支援として、社会貢献活動に関わるようになりましたが、これも CSR の実践と

して理解されるものです。

【選ばれる基準として存在感を増す CSR】

現在はグローバル企業を中心に、環境負荷の低さを取引先の選定や購入の基準とする

「グリーン調達」だけでなく、CSRの実施状況を選定基準とする「CSR 調達」が広が

りつつあり、アメリカや EU(欧州連合)では政府レベルでこれを推進しています。これ

は取引先選びの基準が「エコから CSR へ」進化していることを意味します。

そして一般消費者にもこのような CSR 調達的な流れが広がりつつあります。単に安

いだけ、あるいは消費段階で環境負荷が低い商品を選ぶのではなく、モノやサービスの

生産・流通過程全般(サプライチェーン)の全てにおいて環境負荷を抑制し、発注企業

がサプライヤーに不当な圧力をかけず、社会や環境に対して十分配慮された商品を買い

求める、「エシカル消費(ethical:倫理的な)」も広がりつつあります。

Ⅲ 経営におけるCSRの重要性

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このような流れに呼応するように、金融機関はビジネスを通じて社会問題を解決・緩

和しようとする企業、つまり CSR として社会問題に積極的に関わろうとする企業に投

資をする「社会的責任投資(SRI:Social Responsible Investment)」の残高を増やし

ています。金融機関は企業の CSR を資金面からサポートすることで、本業である金融

業としての社会的責任を果たすようになっています。

そして CSR の実施状況は人事にまで影響をもたらしつつあります。学生などが就職

活動において就職先を選ぶ際は、CSR の実施状況を判断基準とするケースが増えてい

ます。営業面だけでなく、企業の基礎である優秀な人材を確保する上でも、CSR は確

実にその存在感を増しています。

参考:CSR調達とエシカル消費

企業は製品やサービスの供給に関して、原料の採取、運搬、加工、販売といった、サ

プライチェーンの全てにおいて環境と社会に何らかの負荷をかけています。また消費者

も製品やサービスの消費、廃棄段階で環境と社会に何らかの負荷をかけています。企業

であれ、消費者であれ、われわれはまずこの事実を直視する必要があります。

ある世界的なスポーツ用品メーカーでは生産を発展途上国のサプライヤーに委託し

ていましたが、そこでは児童労働や搾取が行われていました。そのため、メーカーは発

注者責任を問われ、アメリカで激しい不買運動に遭いました。このメーカーは事態を非

常に重く見て、それ以来 CSR 調達の仕組みづくりに取り組んでいます。企業が非人道

的、反社会的な企業をサプライヤーとすることで、発注企業は調達を通じてその非人道

的行為に加担することになり、それは最終的に消費者が非人道的行為、つまりエシカル

ではない行為に加担することにもなります。このように「CSR 調達とエシカル消費は

表裏一体の関係」であり、持続可能なビジネスに「企業間取引(B to B)」と「消費者と

の取引(B to C)」の境界はないのです。

【CSRの誤解】

一方で多くの人々が CSRについて、CSR報告書や企業のキャンペーンなど、企業の

マーケティングや広報活動などを通じて知ることが多いため、企業の社会的評価の向上

を目的として行われる CSR活動、たとえば NPOや市民団体への寄付や助成、里山の保

全や植林活動など、本業と直接的な関係が乏しいケースを典型的な CSRとしてとらえ、

【CSR=社会貢献】【CSR=大企業のもの】という誤解が広まっているのも事実です。

社会貢献が CSRの「一部」であることは間違いありません。しかし、CSR とは本来

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経営活動の全般に存在するものであり、経営の社会的健全性と経済的健全性を高いレベ

ルで両立させるための考え方です。社会貢献だけが CSR ではなく、規模や営利性の有

無に関係なく、あらゆる企業に CSR は求められます。

2 ESG 問題の発生と CSR

【何故 CSRなのか?】

日本では 2003 年から普及し始めた CSRという考え方ですが、なぜこのような考え

方が登場したのでしょうか?これには「ESG 問題」が関わっていると言われています。

ESG 問題とは【E-Environment:環境】【S-Social:社会】【G-Governance:組織

統治】に関わる問題とされています。

下の図のように組織統治、つまり組織の意思決定に社会性が備わっていなければ、企

業は環境に関する規制を無視して環境問題を発生させ、労働法規を無視して労災や過労

死などの社会問題を発生させます。さらに組織統治に問題がある経済活動によって引き

起こされた環境問題が、健康被害などのさらなる社会問題を発生させるリスクも大きく

なります。

これらの ESG 問題は、現代社会の経済発展の負の側面ですが、資源の枯渇や気候変

動、人権侵害など、ESG 問題は持続可能な社会の実現可能性を脅かしています。CSR

は経済活動の発展で生じた ESG 問題の悪化に対応する、歴史的な背景を持った考え方

と言えるでしょう。

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企業は元来納税など、「ビジネスの結果での社会貢献」を社会的に期待されてきまし

たが、各企業がビジネスに取り組み、経済発展を成し遂げてきた現代社会は、ESG 問

題が深刻化する一方です。このため企業には「ビジネスの結果での社会貢献」に留まら

ず、「ビジネスのプロセス」における ESG問題への取り組みも求められるようになって

きました。

【そもそも CSRとは何か?】

CSR は経営活動のあらゆる局面において求められます。経営者は日々の経営でさま

ざまな判断を迫られますが、それは経営が責任のかたまりであることの裏返しです。こ

のこと一つを取り上げても、CSR が社会貢献に限定されたり、あるいは経営のスペシ

ャルな部分ではないことは明らかなのです。

経営全般に存在する CSRをわかりやすく図示すると、上の図のようになります。CSR

として求められる責任が 3層 5パーツから構成されており、各パーツは 2つの CSRに

分類できます。一つは企業価値を防衛するための「守る CSR」であり、もう一つは企

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業価値を創造するための「伸ばす CSR」です。

「守る CSR」は「法的責任」(1-a)と「経済的責任」(1-b)、そして「倫理的行動に

よるリスク低減」(2-b)の 3つから成り立っています。企業が法令を順守できなければ、

ESG問題の”G”(組織統治)の問題を引き起こし、それによって法的・社会的制裁を受

けるなど、その存続に致命的な問題を生じます。そのような事態を回避するのが法的責

任です。

そして企業が収益を上げられなければ、経済的利益を追求するための組織としての企

業の機能を果たせず、出資者や取引先、従業員への支払いや租税の納付もできず、倒産

や廃業といった形で市場からの退出を余儀なくされます。そのような事態を回避するの

が経済的責任です。このように「法を守りながら収益を上げる」ことは企業価値を防衛

するものであり、CSR の第一歩と言えるでしょう。

また、ビジネスではしばしば「違法ではないが社会通念的に好ましくない、非倫理的

な経営判断」、つまり「あこぎな商売」が行われる事例が見られます。このような判断

をとることによって、短期的な利益を得ることができても、社会的評価は低下し、取引

先や顧客の離反を招くほか、組織の規律を弛緩させ、違法な営業活動を助長するなどの

リスクを生じかねません。

「伸ばす CSR」は「倫理的行動による価値向上」(2-a)と、「ビジネスによる社会問

題の解決」(3)の 2つから成り立っています。

前者は、法的に義務付けられていなくても、社会やステークホルダー(11 ページの

囲み記事参照)の期待・要請に応え、彼らに対してプラスの影響を与えることで、企業

の社会的評価を向上させるための行動をとる責任です。寄付やボランティアなどの社会

貢献、環境保全活動、福利厚生の重視などの多くがこれにあたり、一般的な CSR のイ

メージを形成している部分でもあります。

後者は本業のプロセスにおいて社会問題など、さまざまな ESG 問題の解決・緩和に

つながるようなビジネス展開をする責任です。言い換えれば、本業の結果である利益な

どを社会に還元するだけではなく、自社が提供する製品やサービスが、直接的に ESG

問題の解決・緩和に対してプラスの影響を与えるための行動をとる責任です。企業は非

営利の慈善事業ではなく、限られた経営資源に基づく営利組織です。そのため、無制限

に寄付やボランティアに経営資源を割くことはできません。しかし、ESG 問題への取

り組みをビジネスや経営管理強化のチャンスととらえ、その解決・緩和をビジネス化し

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たり、既存業務に取り込むことで顧客満足や従業員満足の向上だけでなく、社会的要請

に応えることができます。こうした伸ばす CSR 的方向性のビジネスは「ソーシャルビ

ジネス」とも言われます。

このように CSR とは、企業を守る、伸ばす、という視点から考えると、多層的な成

り立ちをしていることがわかります。特に「守る CSR」は企業の存続の大前提であり、

これを欠いては経営が成り立ちません。また、これなくして「伸ばす CSR」を行うこ

とは本末転倒となり、思わぬリスクを招来することになります。CSR とは、あくまで

も図で示したような責任に体系的に取り組むことで、企業の社会的健全性と経済的健全

性を高いレベルで両立させ、持続可能な経営を実現するものです。CSR によって企業

価値を高めたいと考えればこそ、「守る CSR」から「伸ばす CSR」への「ステップア

ップ」を着実にこなしていく必要があります。

参考:「ステークホルダー(stakeholder)」とは

日本語では一般的に「利害関係者」と訳されますが、企業などの活動に何らかの形で

関わる全ての人・団体等という意味で使います。具体的には、従業員、消費者(顧客)、

取引先、株主、地域社会などを指します。CSR を理解していく上で、頻繁に使用され

る用語でもありますので、この機会にぜひ覚えてください。

【CSRとは「応える力」】

CSR の”R”、”Responsibility”は通常「責任」と訳されますが、これは”response(反

応する)”と”ability(能力)”の合成語です。”responsibility”の責任とは「応える力」を

意味します。経営全般に求められる CSRの実践は、「ステークホルダーのさまざまな要

請に応えられる経営資源」を培うことと同義です。

法令と市場が求めるルールに適合できるのも「応える力」であり、顧客のニーズに対

応することも「応える力」です。また、ESG問題に立ち向かうのも「応える力」です。

誰かの要請に対して判断を下し、「応えられる」ということは、それだけ自社の経営体

質が健全かつ堅固であることを意味します。つまり、CSR の責任とは、決して後ろ向

きのものではなく、前向き、積極的な意味を持っていると言えるでしょう。

【CSRにゴールは存在しない】

「経営にゴールは存在しない」、これは多くの経営者の共通認識です。企業は器であ

り、企業は経営者が後継者にバトンを渡すことで永続していきます。そして経営は常に

変わりゆく社会環境の中で行われます。つまり、【経営=判断の連続】であり、【判断の

連続=ステークホルダーの要請に応え続ける】ということです。

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このことは CSR にもゴールが存在しない、ということを意味しています。企業価値

を防衛し、その上で企業価値を創造する、CSRとは進行形”-ing”のものであり、決して

過去形”-ed”ではないのです。

【CSRの原点】

このゴールが存在せず、経営全般にわたって広範に存在する CSR ですが、その原点

は一体どこにあるのでしょうか?「会社」という文字を逆さにすると「社会」です。ビ

ジネスにおいて「最も身近な社会」とは「会社」、すなわち自社です。自社という足場

を固めなければ、何も始まりません。まずは、最も身近な社会である、自社の ESG 問

題に取り組むことが、全ての CSR の始まりとなるのです。

3 中小企業こそCSR

【CSRは誰のものか?】

前述のとおり、社会では【CSR=社会貢献】【CSR=大企業のもの】という考え方が

少なからず存在します。これは大企業が CSR 活動を自社の広報やマーケティングの機

会ととらえ、さまざまなメディアを通じて、自社のプラスイメージを発信していること

と関係があります。多くの人々が CSR の典型的なケースだと考えているスポーツイベ

ントへの寄付や協賛、企業による途上国支援、植林や緑化活動などは多額の費用を要す

るものであり、多くの企業が簡単に実践できるものではありません。これらは大企業に

よる CSRの実践のごく一部であることを理解することが重要です。

日本の企業の 99%は中小企業ですが、さいたま市も同じように、市内の企業の 99%

以上が従業員数 300人以下の中小企業です。これでは、大企業がどんなに CSR活動に

取り組んでいても、ESG問題の解決・緩和は自ずと限定的にならざるを得ません。

いま求められているのは、中小企業による CSR の戦略的・体系的な実践です。1 社

でも多くの中小企業が立ち上がり、ESG 問題に取り組むとともに、自身の社会的健全

性と経済的健全性の両立、つまり ESG問題が深刻化する時代における経営体質の強化、

「真っ当な経営」が求められているのです。ESG 問題は社会共通の問題であり、ESG

問題への取り組みを通じた経営体質の強化は全ての企業のメリットとするところであ

り、持続可能な経営の第一歩は、CSR 活動の実践にあるのです。

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【「距離感」と CSR】

多くの中小企業は、極めて地域性が高い存在であり、中小企業は地域社会からさまざ

まな経営資源の提供を受けることでその経営が成り立っています。経営者も従業員も、

地域社会の中で仕事と生活の境目が薄い関係にあり、大企業のようにビジネス基盤を他

の地域に移転させることは極めて困難です。中小企業とその経営者や従業員は、地域社

会と運命共同体を構成していると言っても良いでしょう。

つまり、中小企業の活性化は地域社会の活性化でもあり、中小企業の ESG 問題は地

域社会の ESG問題でもあり得るのです。多くの中小企業が CSRに取り組めば、それだ

け地域社会の活性化や ESG 問題の解決・緩和につながる道が開けます。中小企業には

大規模なスポーツイベントや大がかりな途上国支援は難しいかもしれませんが、別にそ

れをまねる必要も必然性もありません。

中小企業のステークホルダーの多くはその地域社会に存在しており、地域社会の実情

に通じているのも中小企業です。これは大企業にはないアドバンテージです。まずは「会

社」という「社会」の CSR にしっかり取り組み、次に地域社会のニーズに合った CSR

に取り組むことこそが経営体質の強化にもつながります。CSR の実践を通じて地域社

会で胸を張って名乗れる存在になることが、今度は経営者や従業員のモチベーション向

上につながるなど、組織内部の CSRにプラスの影響を与えます。中小企業だからこそ、

CSRは「より近く」という距離感を意識することが良いでしょう。

【ミッションの重視】

CSR は経営とイコールであり、日々の経営の積み重ねが CSR の積み重ねでもありま

す。つまり「明日から CSR」ということはできません。また、成り立ちや経営資源も

異なるにも関わらず、安易にほかの企業の CSR のケーススタディ(事例)をまねしよう

としても、「その事例を自社がやる必然性はあるのか?」という壁に突き当たり、経営

資源の浪費になりかねません。人間が十人十色であるように、企業も規模、業種、得意

分野、成り立ち、経営課題、人員構成や業務体制などが異なり、各企業の個性がありま

す。このことを踏まえれば CSR の実践も企業ごとにさまざまなものがあり得ます。ス

テークホルダーの別を問わず、「自社だからこそ」という CSRの実践が、本当の意味の

価値の防衛と創造につながります。

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CSR は「守る CSR」であろうと「伸ばす CSR」であろうと、貴重な経営資源を投下

して行われるものです。だからこそ「やるべきこと」と「できること」をはっきりと区

別しなければなりません。例えば法令順守など、「守る CSR」には「やるべきこと」が

多く含まれていますが、そこで致命的な欠陥を抱えたまま「伸ばす CSR」に取り組も

うとすれば、この区別を無視することになり、ビジネスにおけるリスクを増加させるこ

とになります。

また自社で「できること」であっても「自社がやるべき必然性」をよく検討する必要

があります。企業に広範な裁量がある「伸ばす CSR」には「できること」が多く含ま

れていますが、それが自社にとって必然性の低い活動であれば、経営資源の浪費になっ

てしまいます。「できること」を通じて価値を創造するためには、経営理念などの「ミ

ッション」に立ち返る必要があります。ミッションとは企業の存在意義であり、精神的

支柱です。ミッションは全ての企業で異なります。ミッションに基づいた CSR こそが、

実効的でオリジナルな CSR の実践につながります。

【社内の「宝探し」を】

中小企業は大企業と比べてシンプルな組織です。だからこそ CSR に取り組もうとす

る中小企業にとって、CSR の実践は非常に大きいメリットをもたらしてくれます。そ

のメリットはシンプルな組織であるがゆえに経営の意思決定が迅速に行い得るという

ことであり、経営者と従業員の「距離」が近いため、組織的な CSR の実践が容易だと

いうことです。

シンプルな組織だからこそ、経営者の意欲があれば、すぐに CSR も本格的に取り組

むことができます。それは大企業のように必ずしも巨額のキャンペーン予算が必要なも

のではありません。「カイゼン」と一緒で、身近な従業員と語らって、その協力が得ら

れれば、「守る CSR」でも「伸ばす CSR」でも、今日からできることはたくさんありま

す。自社の内部に CSR の実践となるような要素はたくさんあるはずです。まずは経営

者が率先して社内の「宝探し」をしてみることが大事です。

これこそが大企業にまねができない部分であり、中小企業の最大の強みです。この強

みが CSRの実践に活かされれば、必ずや自社の体質強化と社会的要請である ESG問題

の解決・緩和につながることでしょう。まさに”Small is beautiful(小さいことは素晴

らしい)”なのです。

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15

9ページで解説したように、CSRとは、企業価値を防衛するための「守る CSR」と、

企業価値を創造するための「伸ばす CSR」の2つから成り立っています。

そこで、この 2つの CSRを、より具体的な企業の行動事例に即して理解できるよう、

合計 60項目の「チェックリスト」を作成しました。

チェックリストの全体構成は下図のとおりで、テーマ別の解説はそれぞれの該当ペー

ジでご確認下さい。

Ⅳ CSR チェックリストについて

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16

本書は第 3版への移行に伴い、チェックリストのチェック項目を従前の 90項目から

60 項目(「守る CSR」40 項目、「伸ばす CSR」20 項目)へと大幅に簡素化した上で改

訂しました。ただし項目数は簡素化しましたが、内容的には従来の 90項目のエッセン

スを取り込みつつ、さらに組織統治や労務管理を強化し、ダイバーシティなどのこれか

らの経営に重要なテーマを加えて、チェック項目の改良と精選を行っています。

従前の版では「従業員の消防団などへの参加を推進している」(第 2 版チェック項目

77)などのように、特定の行為や状況を要求するチェック項目がありました。これらの

チェック項目は応募企業の特性や規模、事業所の施設の整備状況によっては対応が難し

く、結果的に多様な CSRのあり方の評価が難しかったため、第 3版ではチェック項目

として提示する内容を、「特定の行為や状況を要求し、その適合性を評価する」という

細則主義(Rules Based Approach)から、「規範を示し、その趣旨を当事者が適切な方

法で具体化し、それを評価する」という原則主義(Principle Based Approach)に基づ

いて改めました。つまり客観的に見てチェック項目の趣旨に適う活動であれば、それを

評価する、というものであり、それぞれの企業の経営状況や価値観に応じた CSR 活動

を積極的に評価しようというものです。

原則主義の考え方は特に「伸ばす CSR」で顕著になっていますが、一方で改訂に伴

って提示している内容の抽象性が高くなるため、企業が「どのような CSR 活動をする

べきか?」と戸惑わないように、参考として各チェック項目に対応した「期待される行

動例」を示しています。この行動例はあくまでチェックリストの趣旨に適う一般的な行

動例に過ぎず、実際に趣旨に適う行動は業種、規模、企業の経営理念や方針によって異

なる場合があります。

また、各チェック項目には企業を含む国際的な社会的責任(SR)のガイダンス規格、

「ISO26000」で示す「7つの中核課題」(「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公

正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」)のど

の課題と関連性を有するのかも示していますので、「CSRレポート」作成や「CSR調達」

対応時の取引先 SAQ(Self-Assessment Questionnaire:自己チェックシート)回答の

参考としてください。

※「期待される行動例」はあくまでも例示に過ぎず、「さいたま市 CSR チャレンジ企

Ⅴ 第 3 版の改訂について

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17

業認証制度」の審査ではそこに示されている行動例の実践のみが評価されるわけではな

い点についてご注意ください。

第 3版では「守る CSR」が 31項目から 40項目に増加し、「伸ばす CSR」が 59項

目から 20項目に減少しました。この増減は主要な法令の改正、社会経済情勢の変化、

国際機関による重要な国際的取り決めなどを勘案したものであり、特に「守る CSR」

では「組織統治(第 2版「企業統治」)」「労務管理」が大幅に強化されています。これ

は企業の存続のために両者が非常に重要な役割を果たしていること、また両者から生じ

る ESG問題の大きさを反映したものであり、両カテゴリでは企業の存続上特に重要な

経営課題を提示しています。

「伸ばす CSR」については前述のとおり、多様な CSRのあり方を評価するため、企

業の自主性を尊重する提示内容にするとともに、ダイバーシティなど、CSRの実践上、

特に重要な経営課題を提示しています。

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CSR を「何のため」行うのか。CSR の第一歩は「ビジネスを守り、従業員の生活を

守ること」そして「ビジネスを通じて社会と環境に与えている負荷を抑制すること」で

す。つまり CSRの基礎は企業価値を防衛(バリュー・プロテクション)する「守る CSR」

にあると言えるでしょう。

経営は企業価値を防衛するための判断の連続です。だからこそ経営者はビジネスに関

する確固たるポリシーを持ち、法令と市場が要求するルールを守りながら各業務を推進

する必要があります。「守る CSR」の多くは「~しなければならない」という要素で成

り立っています。しかし、ひとたびこれを実践できなければ、社会とステークホルダー

に多大な迷惑をかけ、そのことにより企業自体も社会的批判や制裁を受けることになり、

企業の存続に重大な危機をもたらします。

「守る CSR」は企業の存続に必須の取り組みであり、規模の大小や業種業態、ある

いはグローバルかローカルか、といった地域性も関係なく、全ての企業と経営者に求め

られるものです。これはいわば「企業が社会的に存在を許されるための条件」と言える

でしょう。そして「守る CSR」は後述の「伸ばす CSR」の前提条件でもあります。次

節からはそのような「守る CSR」の具体的な内容を説明します。

「守る CSR」として法令と市場のルールが求めている内容は、企業の存続や「真っ

当なビジネス」にとって「あたりまえ」のことです。しかし、この「あたりまえ」を致

命的な欠陥がない水準にまで引き上げ、それを維持することがいかに難しいかは、経営

者の方であれば、ご理解いただけると思います。

1 大分類【守るCSR】

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19

企業に求められる CSR には、さまざまなものがあります。法令と市場が求めるルー

ルのように、強力な規範に基づく責任もあれば、強力な規範には基づかないものの、社

会情勢の変化によって、地域社会などのステークホルダーから求められる責任もありま

す。

「守る CSR」は企業価値を防衛するためのもので、その内容の多くは法令のような

強力な規範に由来しています。企業価値を守るには、企業外部や地域社会のステークホ

ルダーとの適正な関係も重要ですが、まずは経営者自らがどのようなポリシーでビジネ

スに取り組み、法令と市場が求めるルールに従い、そして足元の企業内部をどのように

管理しているかが最も重要です。企業内部が適切に管理されていて、はじめて企業外部

や地域社会における「守る CSR」も実践可能となり、これらが致命的な欠陥がない水

準に引き上げられた後に、はじめて「伸ばす CSR」が可能になります。

「伸ばす CSR」は社会貢献など、企業のイメージアップにつながる要素が多く含ま

れますが、「守る CSR」としての企業内部の管理がおろそかな状況で「伸ばす CSR」に

取り組むことは、法令違反や従業員の離反・士気の低下、放漫経営などの温床になりか

ねません。また、「守る CSR」の取り組みはブラック企業問題や不正会計問題などのよ

うな ESG 問題の発生と密接な関係があります。企業が「伸ばす CSR」に取り組んで、

企業価値の一層の向上を図るためにも、「守る CSR」をチェックし、定期的にモニタリ

ングする必要があります。

1 守るCSR

<中分類~誰に対して> 組織内部について

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20

企業は必ず何らかの目的があって存在しています。そしてその目的こそが企業の価値

観やビジネスのあり方を規定し、それぞれの業務方法に影響を与えています。企業の目

的を実現するには、経営者だけがその価値観や目的を理解していれば良いのではなく、

従業員も理解・共有している必要があります。この共有と実践こそが組織文化を体現し

ます。

組織文化とは目的を共有している企業の構成員同士から、ステークホルダーとの日常

のコミュニケーションから、日々の業務の中から醸し出される企業の「雰囲気」であり、

従業員のモラールと企業の社会的評価の重要部分を構成する、一種の「のれん」、「無形

資産」です。企業はこれらの「目に見えない資産」を築き、運用することで経済的利益

を得て、そのミッションの実現に接近します。

組織文化とは経営者、従業員の高い倫理観をベースに、企業の目的の共有と、それに

基づく業務を地道に行うことで培われるものであり、その培養は経営者の具体的な言動

に負うものです。風通しの良い、素晴らしい企業とは何の努力もなしにある日突然実現

するものではありません。

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

1

経営理念などの自社の中核的

価値観・規範を定めて従業員に

明示している

経営理念の策定・掲出・配布・

唱和 組織統治

2

経営者が定期的に事業の状況

や方向性などを従業員に伝えて

いる

朝礼・決算などにおける

業績説明 組織統治

1 守るCSR

組織内部(1) 組織文化

チ ェ ッ ク 項 目

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21

企業はその活動を通じて社会に有益な製品やサービスを生み出して経済的利益を得

る一方で、社会や環境に対してさまざまな負荷をかけています。この負荷は大きく分け

て【Environment-環境】【Social-社会】【Governance-組織統治】の 3つに分類され、

「ESG問題」と呼ばれています。経営者に社会性や法的リテラシーが欠如していると、

企業は反社会的、あるいは社会的影響を考慮しない意思決定によって大きな ESG 問題

を引き起こします。このような意思決定は法令と市場が求めるルールへの違反となり、

企業は法的・経済的・社会的制裁を受け、その存続を脅かす重大なリスクとなります。

組織統治とは、企業が持続可能な成長を果たすために、法令と市場が求めるルールに

適合すべく、適正な業務体制を整備し、その実践状況を監督する一連の活動であり、守

る CSRの根幹をなす、極めて重要な活動です。

ブラック企業問題、セクシャル・ハラスメント、労災、製品による健康被害、不正な

会計処理、公職者との癒着、暴力団の関与などの重大な社会問題の発生リスクや、違法

な廃棄物の処理などによる環境汚染や公害などの重大な環境問題の発生リスクは、組織

統治が機能不全に陥ることで増加します。

企業が社会問題や環境問題の「発生源」とならないために、経営者は組織統治を従業

員や社外の専門家に「丸投げ」せず、彼らと協力して組織統治に関する具体的な行動を

デザインし、自らその実践状況を監督する必要があります。

※チェック項目は次のページ以降になります

1 守るCSR

組織内部(2) 組織統治

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22

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

3

株主総会や取締役会など法令で

定める組織の意思決定機関を適

法に開催し、議事を記録している

3か月に 1回以上の取締役会の

開催、適法な招集通知に基づく

株主総会の開催、議事録の作成

組織統治

4

関連企業を含め、全社的な

法令違反を予防・発見するため

の具体的な措置をとっている

内部通報制度の構築、

実質的な監査役監査、

内部監査の実施、

弁護士・税理士・社労士などの

法的問題の専門家との連携、

子会社に対する業務管理状況の

報告徴求、

コンプライアンス担当者の設置

組織統治

公正な

事業慣行

5

公職者との適法な関係を保持

するための具体的な措置を

とっている

公職者との交際方針の策定、

方針に基づく役員・従業員の

監督、交際費支出のチェック

強化、政治献金などの支出記録

の保存

組織統治

公正な

事業慣行

6

反社会的勢力との関係を謝絶

するための具体的な措置を

とっている

与信管理における反社会的勢力

関連のチェック、取引先との覚書

交換、調査会社・興信所の利用

組織統治

公正な

事業慣行

7 事業の持続可能性に関わる

重要なリスクを把握している

事業の存続に影響を及ぼす

社内外の主要なリスクの

探知・評価、

探知・評価結果の組織的共有

組織統治

公正な

事業慣行

人権

環境

8 取締役などの全ての役員は管掌

する具体的な業務を有している

役員管掌業務の明示、

取締役規程などの策定、

組織図の作成

組織統治

9

株主(出資者)や取引金融機関

に対して自社の財務情報や

事業計画について正確に開示

(説明)している

決算書・勘定科目明細・税務

申告書・事業計画書などの開示 組織統治

10 決算・配当および税務に関する

書類の作成を適法に行っている

税理士の利用、

取締役会議事録の整備 組織統治

※チェック項目は次のページにもあります

チ ェ ッ ク 項 目

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23

※「組織統治」チェック項目の続き

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

11 財務の健全化のための具体的な

措置をとっている

支払条件の改善、借入条件の

改善、試算表の作成、買掛債務・

売掛債権の管理体制の構築、

月次決算の早期化

組織統治

12

取引先に対する優越的地位を

濫用した不当な要求

その他の圧迫を行わないための

具体的な措置をとっている

調達基準の策定、

与信管理規程の策定、

スポンサーメリットの禁止、

取引先接遇マナー研修の実施

公正な

事業慣行

13

災害に遭遇した場合でも

事業を復旧し、継続するための

計画や準備がある

BCP(事業継続計画)の策定

およびそのシミュレーション、

緊急連絡網の整備、

企業総合保険などへの加入、

防災用品の備蓄、

防災訓練の実施

組織統治

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24

現代社会はパソコン、携帯電話のような IT 機器がビジネスや生活の隅々にまで浸透

しています。さらには IoT化(Internet of Things:モノのインターネット化)の進展で、

ビジネスや暮らしに必要なさまざまなモノがインターネットを通じて制御されるよう

になり、この傾向は一層進んでいます。

そして近年 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と言われるインターネット

上のサービスが普及したことにより、手軽にインターネット上のコミュニティにおける

コミュニケーションを楽しむことができるようになった一方で、インターネット空間が

全世界のステークホルダーとつながっていることを理解できず、経営者や従業員がSNS

上で不用意な発言・投稿をすることによって、企業の社会的評価を著しく低下させ、営

業活動などに支障をきたすことがあります。

インターネット上の情報は、簡単に複製・拡散することができます。インターネット

上に流出した情報は半永久的にインターネット上に残り、検索することによって、簡単

にその情報にたどり着くことができるので、企業の社会的評価を低下させるリスクが半

永久的に存続することを意味します。

また、インターネットはビジネスと暮らしの「境界」を取り払い、生活を一体化させ

ますが、一方どこで情報が流出するか、わからないというリスクもあります。技術や営

業上の機密情報の保護は従来から重要な経営課題でしたが、現在は個人情報の保護、従

業員のマイナンバー(個人番号)の管理などの【情報セキュリティ×コンプライアンス】

という経営課題も加わり、情報の流出リスクは増加しています。

そして冒頭で触れた IoT化の進展は、ビジネスに必要なモノを制御するための IDや

パスワードの流出、モノの制御を乗っ取られるリスクの増加につながっています。この

ため、取得・管理している情報の流出は企業の存続に重大な悪影響を与えます。だから

こそ、経営者と従業員は普段から情報リテラシーを高め、情報を防護する技術的措置を

講じることが必要になります。

※チェック項目は次のページ以降になります

1 守るCSR

組織内部(3) 情報セキュリティ

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25

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

14

従業員とその扶養家族の

マイナンバー(個人番号)の

漏出・不正な改変・

法定外目的の利用などを

防ぐためにその取得および

取扱ルールを定め、

技術的な防護措置をとっている

マイナンバーの取扱・廃棄方法を

定める情報管理規程の策定と

その運用、

PC・スマートフォン・タブレットなど

の取扱端末用セキュリティソフト

や出力データの適切な廃棄のた

めのシュレッダーの導入、

情報管理のためのトレーニング

労働慣行

15

顧客情報や業務情報の漏出・

不正な改変・法定外目的の

利用などを防ぐために

その取得および取扱ルールを

定め、技術的な防護措置を

とっている

顧客情報や業務情報の取扱・

廃棄方法を定める情報管理規程

の策定とその運用、

PC・スマートフォン・タブレットなど

の取扱端末用セキュリティソフト

や出力データの適切な廃棄のた

めのシュレッダーの導入、

情報管理のためのトレーニング

公正な

事業慣行

チ ェ ッ ク 項 目

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26

企業の基礎は従業員にあります。機械や商材が企業に利益をもたらすのではなく、直

接的には営業などのフロントオフィス業務に従事する従業員が企業に利益をもたらし

てくれるのであり、あわせてフロントオフィス業務を支える会計や総務などといったバ

ックオフィス業務に従事する従業員がいて、はじめて企業は安定的にビジネスを営むこ

とができます。どちらの業務も軽重の差はなく、一方でも欠ければ、経営は非常に不安

定になります。

企業が安定的にビジネスを営むためにも、従業員に対して適切な処遇と労働環境を提

供することは、経営者の重大な責任です。従業員が肉体的にも精神的にも安全な環境で

その能力を充分に発揮するためにも、そして持続可能な成長を実現するためにも、労働

基準法などの労働法の順守は極めて重視する必要があります。

昨今の「ブラック企業」問題に見られるように、不適切な労務管理を行う企業は従業

員の離職を招き、採用難に陥るだけでなく、多くのステークホルダーからの批判を受け

ることで、経営の持続可能性を危うくします。そのような労務管理は未払い賃金などの

債務を増加させるとともに、労働審判や損害賠償請求訴訟などの企業の訴訟リスクを急

激に高めます。

また労務管理の重要な要素である人事考課は定量的な面だけでなく、定性的な考課を

必要とする面があり、人権問題を含む極めてデリケートな判断が要求されます。特に評

価・処遇をする側・される側の性別や職位が異なる場合など、雇う側・雇われる側の関

係性は、法令上はお互いに対等の立場であっても、経営者が増長し、あるいは従業員が

萎縮することにより、実質的な対等性が確保できない場合があります。

労務管理において、経営者は自分の立場・感覚と相手の立場・感覚が常に異なること

を前提とし、従業員の人権を尊重・擁護し、独善を排した慎重なコミュニケーションを

とることが求められます。

※チェック項目は次のページ以降になります

1 守るCSR

組織内部(4) 労務管理

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27

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

16

雇用形態に関わらず、全ての従

業員と労働条件を明示した労働

契約を書面で交わしている又は

労働条件通知書を交付している

雇用契約書の作成、

労働条件通知書の交付 労働慣行

17

雇用形態に関わらず、全ての

従業員に関するデータを作成

してその勤怠を管理している

労働者名簿の作成、出勤簿の

作成、タイムカードの導入、

社会保険労務士の利用

労働慣行

18

就業規則などの行動規範を定

め、従業員が常に参照可能な状

態にしている

就業規則の策定およびその

アクセスの保障、

法改正に伴う規則の見直し

労働慣行

19

対象となる全ての従業員に

ついて労働保険および社会保険

に加入している

労災保険・雇用保険・健康保険・

厚生年金の加入、

社会保険労務士の利用

労働慣行

20

記録された労働時間などに

基づき、従業員の給与・手当を

正確に支払っている

賃金台帳の作成、タイムカードの

導入、社会保険労務士の利用 労働慣行

21

従業員の労働条件を低下させる

労働契約の変更を行う場合は

適法な手続をとっている

従業員との合意に関する書面

および経過記録の作成 労働慣行

22

サービス残業などの

「事実上の無償・強制労働」を

予防するための具体的な

措置をとっている

職場パトロールの実施、

タイムカードと業務用 PCの

一体的管理、

残業申請制度の導入、

上司による牽制残業の禁止

労働慣行

23

従業員の 1週間当たりの

労働時間が法定労働時間の

範囲内である又は適法な手続き

によって法定労働時間の上限を

延長している

適法な三六協定の締結、

職場パトロールの実施、

タイムカードと業務用 PCの

一体的管理、

残業申請制度の導入

労働慣行

※チェック項目は次のページにもあります

チ ェ ッ ク 項 目

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28

※「労務管理」チェック項目の続き

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

24 過重労働を防止するための

具体的な措置をとっている

有給休暇取得率の目標値設定、

ノー残業デー・在宅勤務などの柔

軟な勤務体制の実施、

性別を問わない看護・育児・介護

休業の取得

労働慣行

25 労働災害を予防するための

具体的な措置をとっている

KY活動・ゼロ災運動・労災予防

の啓発、通勤経路の把握 労働慣行

26

労働災害が発生した場合は

法令に定める官公署への

報告および受傷者などへの

補償を行っている

労働者死傷病報告の作成・提出

労働者災害補償保険による補償 労働慣行

27

事業所などにおいて、従業員の

健康的な労働環境を保全する

ための具体的措置をとっている

禁煙・分煙・休憩所の設置、

作業場の適切な照明量・空調の

確保

労働慣行

28

事業の再建などにおける従業員

の削減や出向・配置転換などは

退職強要行為や嫌がらせを

行わず、適法に行っている

整理解雇の 4要件の充足、

実施経過の記録 労働慣行

29

人事考課において、

法令に定める権利の行使を

理由とした実質的な報復措置

および性別・障害・疾病・国籍・

学歴・宗教・支持政党などを

理由とした差別を行っていない

人事考課基準の策定および明示 人権

労働慣行

30

法令で対象とされる全ての従業

員に対し、法定健康診断を受診

させている

対象者の受診、

受診時の資料の保管 労働慣行

31

セクシャルハラスメント・

パワーハラスメントなどの

人権侵害を予防するための

具体的な措置をとっている

就業規則への禁止事項追加、

ハラスメント防止の啓発、

セミナーの受講、

相談・通報窓口の設置

人権

労働慣行

32 法令に定める従業員の

ストレスチェックを実施している

加入している健康保険組合・

健康診断で提携している医療

機関・産業医を利用した法令に

定めるストレスチェックの実施、

健康保険組合や行政などの

メンタルヘルスに関する相談

窓口の紹介

労働慣行

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29

生産管理は組織的に製品やサービスの品質を維持、向上させるための活動であり、企

業の経済的利益の基礎を担います。企業が顧客から選ばれ続けるには、提供する製品や

サービスの品質を社会情勢や顧客のニーズに応じて常に改善し続ける必要があります。

製品やサービスの品質は(1)機能性、(2)経済性、(3)環境性の3要素に影響されます。

機能性には製品やサービスの機能・性能の向上だけでなく、実際に製品やサービスを作

る作業者の安全や容易さなども含まれます。また、経済性にはより安価に製品やサービ

スを作るという生産コストの削減だけでなく、製品やサービスを従来よりも安価に顧客

に提供するという廉価さなども含まれます。そして環境性には完成した製品やサービス

の使用・消費における環境負荷の低さだけでなく、生産プロセスにおける環境負荷の低

さなども含まれます。

生産管理はどのような業種でも必須の活動であり、業種ごとの方法や課題があります。

また業種だけでなく、職種ごとの方法や課題があり得ます。場合によっては製品やサー

ビスを作る部門・従業員だけが生産管理を担うのではなく、総務や経理などの部門間に

わたって取り組む必要性があることもあり、部門間の連携による生産管理を円滑に進め

て組織全体の生産性を向上させるためには、経営者に強力なリーダーシップを発揮する

ことが求められます。

※チェック項目は次のページになります

1 守るCSR

組織内部(5) 生産管理

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30

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

33

製品やサービスの生産に関する

トラブルを回避し、品質を安定

させるための具体的な措置を

とっている

業務・材料の標準化、作業工程

の見直し、QC活動、採用時・採

用後の継続的な業務に関する

トレーニングの実施、

生産業務のトラブル対応

マニュアルの作成、

品質マネジメントシステム・

労働安全衛生マネジメント

システム認証の取得

消費者課題

34

製品やサービスの経済性や

環境性を追求するための具体的

な措置をとっている

バリューエンジニアリング、

選別受注、取引先・材料・発注

方法の見直し、

作業工程の見直し、QC活動、

原価管理に関連する情報の共有

と教育、環境マネジメント

システム認証の取得

組織統治

環境

35

製品やサービスの生産に関する

作業環境の継続的かつ

具体的な改善に取り組んでいる

5S活動、QC活動、クレーム対応

体制の構築、社内提案・報奨

制度の導入、職場パトロールの

実施、品質マネジメントシステム・

労働安全衛生マネジメント

システム認証の取得

労働慣行

環境

チ ェ ッ ク 項 目

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31

組織内部や情報を守るだけでは、真に企業価値を防衛することにはなりません。ビジ

ネスは取引先や顧客などの組織外部のステークホルダーとの継続的なコミュニケーシ

ョンによって成り立っています。そのため、組織外部のステークホルダーとの関係にお

いても、法令と市場が求めるルールを順守する必要があります。

どのような企業もサプライチェーンの中に組み込まれて存在しています。サプライチ

ェーンの各所に存在する企業が、組織外部のステークホルダーとの関係を適切に処理す

ることにより、自社だけでなく、サプライチェーン全体でリスクを低減させ、ESG 問

題に取り組むことができるようになります。

サプライチェーン全体で ESG 問題、つまり「守る CSR」に取り組むということは、

後述する「伸ばす CSR」と相乗して、企業価値を防衛できる優良企業のサプライチェ

ーンを形成することにつながり、現在広がりつつある調達・取引の基準である「CSR

調達」にも対応可能な企業への転身を促すことになり、経営の強化にもつながります。

本書の前半でも言及しましたが、BtoB で言われる CSR 調達は BtoC の場合、「エシカ

ル消費」となりますが、取引先、あるいは最終消費者から選ばれるためにも、製品やサ

ービスだけがエコロジカルであるだけでなく、営業・販売活動なども適切に管理するこ

とが重要となります。

1 守るCSR

<中分類~誰に対して> 組織外部について

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32

良質な製品とサービスを開発・生産し、それを社会に送り出すことは基本的な CSR

の実践であり、使命でもあります。これを着実に実行するためには、組織内部の生産プ

ロセスだけを管理すれば良いのではなく、実際に顧客に製品やサービスを提供するプロ

セスや、経営資源の調達プロセスなど、組織外部のステークホルダーとの関係を持つ業

務プロセスの適正化を図る必要があります。

製品やサービスが良質でも、その提供プロセスである営業活動などで顧客に対して優

良誤認や重要事項の不説明、虚偽説明などを行えば、顧客の信頼を得られないどころか、

規制当局による営業の禁止、制限につながり、経営の持続可能性を脅かす重大なリスク

となります。

調達プロセスや調達した経営資源の管理が適正でなければ、製品やサービスに起因す

るトラブルが発生した時に、責任の所在があいまいになり、原因の解明や被害の救済な

どが困難になり、トラブル解決のためのコストも増加します。また、調達した経営資源

の管理が会計処理と適正に連動していなければ、不良資産(滞留在庫)が増加する在庫リ

スクや、予期しない課税などの税務リスクを増加させることにもなります。

製品やサービスの品質の保証は生産プロセスだけでなく、その前後に位置する調達プ

ロセス、製品、サービスの提供プロセスを含め、各プロセスを一体的に運営することに

より実現します。経営者は常にこの全プロセスが円滑に運営されるように、適正な経営

資源の配分と、ステークホルダーとの関係の調整に努めることが求められます。

※チェック項目は次のページになります

1 守るCSR

組織外部(1) 製品、サービスの提供および調達

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33

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

36

製品やサービスの提供

プロセス・営業プロセスに

おいて、法令で規制されている

有害物質の混入や違法な営業

行為などを発生させないための

具体的な措置をとっている

調達方針の策定・明示、

検収・作業工程のチェック強化、

業務・材料の標準化、

営業研修の実施、営業活動の

方針・ルールの策定・明示、

営業活動時の知的財産権の

利用状況のチェック

消費者課題

公正な

事業慣行

37

製品やサービスに問題が生じた

場合、回収・補償・原因究明・

再発防止策などを講じる体制を

敷いている

生産物賠償責任(PL)保険への

加入、クレーム対応制度の

構築、再発防止策の実施、

事案の記録作成

消費者課題

38

主要な取引や業務・資産に

ついて記録を作成して管理

している

取引時の契約書の作成、

受発注システムの構築、

固定資産・備品管理システムの

構築

組織統治

チ ェ ッ ク 項 目

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34

どのような企業でも、必ず一定の地域に事業拠点を開設し、そこを拠点に活動するこ

とになります。企業がその地域で継続的かつ安定的にビジネスを営むためには、地域の

環境が良好であるとともに、その企業が地域の環境の保全に参加することで、地域社会

から受け入れられなければなりません。

そのためには企業が環境法を順守することで環境負荷を抑制し、これらを適切に処理

する必要があります。これは「守る CSR」としての地域社会との関わりの第一歩であ

り、「伸ばす CSR」として社会貢献によって地域社会から積極的な支持を受け、地域社

会におけるビジネス基盤を安定させるための第一歩でもあります。

1 守るCSR

<中分類~誰に対して> 地域社会について

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35

環境経営には「環境負荷を抑制する」や「コストを抑制する」など、さまざまな要素

がありますが、ここで述べる環境経営とは「守る CSR」として、前者の環境負荷の抑

制を念頭に置いています。「守る CSR」としての環境経営は「ESG 問題」の”E”の抑制

に直接かかわる活動です。

どのような企業でも製品やサービスの生産、営業などの経済活動で、エネルギーを消

費し、廃棄物を発生させて環境負荷をもたらしています。一つ一つの経済活動による環

境負荷は、広大な自然環境の中で希釈されますが、やがてオゾンホールや光化学スモッ

グの発生、粒子状物質(PM2.5など)の拡散、酸性雨の降雨、気候変動によるゲリラ豪雨

などの形で、ビジネスや生活に悪影響を及ぼします。各企業が生み出した環境負荷は希

釈されてしまうために、その責任や被害は直ちには分かり難いですが、その総量は大き

なものであり、最終的な影響は甚大なものです。そしてその「分かり難さ」に由来する

企業の「環境意識の欠如」が現在の環境問題の原因の一つとなっています。また、活動

のタイプによっては騒音や悪臭など、生活環境に直ちに被害をもたらすものもあります。

企業が実際に一定の地域で活動する以上、その地域環境が良好でなければ、安定的に

ビジネスを継続することは難しくなってしまいます。各企業による「守る CSR」とし

ての環境経営の実践が、マクロ・ミクロレベルの環境負荷の抑制につながり、ビジネス

を安定的に行う物理的な基盤を整えることにつながるとともに、法令順守にもつながり

ます。経営者には環境負荷の抑制に努め、そのための設備更新などのための投資余力を

保つことが求められます。

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

39 事業における廃棄物の処理を

適法に行っている

廃棄物処理業者の利用、

マニフェストの保管 環境

40

事業における騒音・振動・臭気・

汚水・その他の有害物質の

排出を法令の基準以内に抑制し

ている

適用法令の確認、

法令に適合する設備の設置、

設備の法定点検の実施

環境

1 守るCSR

地域社会(1) 環境経営

チ ェ ッ ク 項 目

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36

われわれがメディアを通じて知ることができる CSR 活動の例として、企業によるボ

ランティア活動や植林などの環境保護、売り上げの一部を寄付するコーズマーケティン

グなどがあります。これらは企業の社会的評価の向上につながり、従業員の士気を高め

るほか、多様なステークホルダーとのつながりやビジネスの機会を広げ、企業にとって

経営のさまざまな局面でプラスの効果をもたらしています。そして、このような取り組

みは、社会にとってもプラスの効果をもたらしています。

これらの活動の多くは法律上の義務に基づくものではなく、企業の価値観や使命によ

って行われるものであり、積極的に CSR活動を実践することで企業価値を創造(バリュ

ー・クリエイション)する、「伸ばす CSR」として理解することができます。「伸ばす CSR」

には社会からのさまざまな要請や社会的な課題をビジネスに取り込みながら企業価値

を創造し、その成果を社会と共有する機能があります。つまり「自社にとってプラスに

なることが、社会にとってもプラスになる」のです。メディアでも取り上げられること

が多い「伸ばす CSR」が CSRの一般的なイメージの中核を担っていると言えるでしょ

う。

「守る CSR」が「~しなければならない」という性格であったのに対し、「伸ばす

CSR」は企業の使命に基づき「~をしたい」という性格のものであり、中小企業におい

ては経営者の社会観が大きく影響します。

しかし、「伸ばす CSR」によって企業価値を創造し、その成果を社会と分け合うため

には、「守る CSR」を致命的な欠陥がない水準にまで引き上げなければなりません。こ

れができずに「伸ばす CSR」で経営者の虚栄心を充たそうとしたり、企業に分不相応

な社会的評価を求めようとすれば、それは経営資源の濫費につながるだけでなく、従業

員の離反やさまざまなリスクの増大などにつながります。経営者と従業員が働くことに

真の喜びを見出し、企業の社会的評価を高めて、ステークホルダーにとってなくてはな

らない存在になるためにも、「守る CSR」から「伸ばす CSR」へのステップアップを

意識することが重要です。次節以降ではそのような「伸ばす CSR」の具体的な内容を

説明します。

2 大分類【伸ばすCSR】

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37

企業に求められる社会的責任には、さまざまなものがあること、「守る CSR」の多く

は法令と市場が求めるルールのような強力な規範に基づく責任であること、その責任の

起点は足元である組織内部から始まることは既に説明しました。「伸ばす CSR」でも責

任の起点は変わらず、企業価値を創造する起点は CSR の主体である組織内部にありま

す。

企業が CSR 活動を具体的な価値創造につなげるには「戦略性」が必要になります。

この戦略性は「守る CSR」から「伸ばす CSR」の全領域に求められますが、前者が労

務管理やコンプライアンスなど、企業の取り組むべきテーマとして分かりやすい一方で、

後者はダイバーシティや社会貢献活動などの広範な ESG 問題に関わるテーマを扱うた

めに、伝統的で狭義のビジネスの概念にとらわれている人にはその価値や目的が理解さ

れにくいという問題があります。

「守る CSR」で経営基盤を確保して、「伸ばす CSR」の実践で持続可能な経営を実現

するには、組織全体で目標を共有する必要があり、だからこそ「明文化された経営戦略・

経営計画」が必要になります。これなくして場当たり的な経営資源の投入を行えば、経

営資源の浪費となります。

また、近年多文化共生社会の進展とともに、障害者のノーマライゼーションや男女共

同の社会参画に加え、外国人やセクシャルマイノリティなどの特質を持った人々のダイ

バーシティ(多様性)の尊重や、生活保護受給者、刑余者などの社会的弱者の保護・支援

などの人権上の課題が注目されています。ビジネスにおいて、これらは何も顧客への配

慮として行われるだけでなく、現在の従業員あるいは将来の従業員がこれらの属性を持

っていることもあり得るため、組織内部の課題としても受け止める必要があります。

そして CSR による価値創造の主力となるのは従業員であり、従業員のキャリア、ス

キルや「CSR リテラシー」があるからこそ、現場で経営戦略が適切に実践され、ダイ

バーシティの尊重や、価値創造につながります。これらの能力は企業が何もせずに身に

つくものではなく、企業が積極的に人的資源に投資する必要があります。

2 伸ばすCSR

<中分類~誰に対して> 組織内部について

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38

かつて「企業寿命 30年説」が唱えられましたが、現在は 30 年を大きく割ると言わ

れています。企業の規模の大小や業態に関わらず、企業は常に市場の中で競争にさらさ

れており、その競争は技術革新と顧客のニーズ・価値観の多様化、人口構成の変化など、

さまざまな要因から年々熾烈になっています。それ故に、たとえ市場の規模が大きく、

顧客の数が多いとしても、何の努力もせずに顧客から選ばれる合理的な理由はありませ

ん。また、顧客のニーズ(潜在的なニーズを含む)と異なる努力は顧客から評価されるこ

とはなく、経営者の自己満足による経営資源の浪費に終わります。

例えば、グローバル企業と取引がある製造業であれば、絶えず世界市場や技術動向、

CSR 調達に関心を払い、それに対応できなければ、いまの取引上の地位は容易に他の

ライバルに取って代わられます。小売業であれば、顧客のライフスタイルや価値観の多

様化に応じた品ぞろえや店舗設計、従業員教育をしなければ、顧客離れが進むことにな

るでしょう。

一方で経営は有限の経営資源を元手に行われるものであり、それ故に同時に全ての顧

客のニーズを満たすことはできません。つまり「八方美人」になれないが故に、経営理

念や経営環境を総合的に検討しながら経営資源の投入に関する「選択と集中」を行い、

一定期間の組織の目標や方向性を明確にする必要があります。経営資源の投入を場当た

り的に行えば、その浪費につながり、経営の持続可能性を脅かす大きなリスクを抱える

ことになります。

だからこそ経営には「戦略性」「計画性」を具現化した「経営戦略」や「経営計画」

が求められます。経営者として最初に取り組むべきは、この経営戦略を立案し、従業員

と共有することにあるといえます。経営戦略の立案は組織統治と同様に、社外の専門家

や従業員に「丸投げ」するのではなく、経営者が率先して取り組むことが重要です。も

ちろん他の経営活動と同様に、CSR活動にもこの「戦略性」「計画性」が必要なのは改

めて述べるまでもないでしょう。

※チェック項目は次のページになります

2 伸ばすCSR

組織内部(1) 経営戦略

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39

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

41 中期経営計画などの

経営計画を策定し、運用している

中期経営計画の策定、

CSR活動と経営計画の一体的

取り組み、経営革新計画の承認

取得

組織統治

チ ェ ッ ク 項 目

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40

社会は性別、年齢、能力、所属するコミュニティなど、さまざまな特質を持つ人々に

よって構成されており、その特質が顧客のニーズを形成しています。ビジネスとは元来

「ダイバーシティ(diversity:多様性)」を前提としており、単一の属性からなる市場・

顧客とのみビジネスをしているという考え方は「錯覚」であると言えます。つまり顧客

のダイバーシティを理解しないビジネスは、早晩市場からの退場を余儀なくされます。

このダイバーシティは顧客に対してのみ通用する考え方ではなく、従業員についても

同じことが言えます。従業員も顧客と同じようにさまざまな特質を持っており、同じ組

織に所属しているからと言って、全ての従業員が画一的な存在になるわけではありませ

ん。この点を理解しないと、企業は従業員の尊厳を傷つける処遇やセクシャル・ハラス

メント、パワー・ハラスメントなどを引き起こし、重大な人権リスクを増加させること

になります。人権リスクはビジネスにおけるリスクの中でも、世界的に注目されており、

訴訟リスクと表裏一体の関係にもあります。

ダイバーシティの尊重は社会的な課題であり、経営者には従業員のダイバーシティを

理解し、「色眼鏡」を排した公正な評価、特質にあった処遇など、具体的な行動を通じ

てその特質を尊重・擁護することが求められます。

ダイバーシティ尊重の具体的な行動例としては、社会的弱者の支援や、潜在的で活用

されていない能力の活用があげられます。従来から言われている女性や障害者、高齢者

だけでなく、外国人やセクシャルマイノリティ、勤労学生、児童養護施設退所者、生活

保護受給者、刑余者などに社会参画の機会を提供し、その特質を伸ばす労務管理を行う

ことで、企業の社会的評価の向上と生産性の向上や採用難を解消することも不可能では

ありません。また、「健康」もダイバーシティのテーマであり、がんなどの重い病気に

かかった従業員の休職・復職の支援なども、その尊重につながると言えます。これから

の経営では、ダイバーシティに関する継続的な学習と、その実現に向けた上記のような

取り組みが、リスクを軽減し、新たな企業価値の創造につながります。

※チェック項目は次のページ以降になります。

2 伸ばすCSR

組織内部(2) ダイバーシティ

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41

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

42 障害者の勤務に適した労働環境

を整備し障害者を雇用している

事業所などのバリアフリー化、

法定雇用率以上の障害者雇用、

障害者雇用促進法に基づく

特例子会社の設置、授産事業の

開発、障害の性質に応じた業務

方法の見直し

人権

労働慣行

43

定年を設けない又は

65歳以上の従業員の就労が

可能な状態にある

65歳以上の従業員の雇用、

就業規則における定年の撤廃、

65歳以上の雇用の位置づけ

人権

労働慣行

44 役員の親族以外の女性役員や

管理職が常勤している

常勤する女性役員・管理職の

登用、育成計画の策定・実施

人権

労働慣行

45

従業員、またはその家族の

妊娠・出産・育児・介護・看護、

その他健康状態に配慮した

労働環境を整備している

出産・育児・介護・看護休暇の

取得推奨の啓発、これら休暇

期間の延長、休暇取得の適用

事由・対象の拡大、復職体制の

整備、ワークシェアリングの

実施、就業時間の変更、

関連する手当の支給、

福利厚生における内縁関係者と

配偶者の平等な処遇、

対象外のパート従業員や

従業員の扶養家族などの

健康診断・予防接種などの実施

人権

労働慣行

46

外国人・セクシャルマイノリティ・

社会的弱者の社会参画を

促進するための具体的な行動を

とっている

ノーマライゼーション教育の

実施・啓発、外国人・セクシャル

マイノリティ・生活困窮者・刑余者

などの雇用、職場での配慮

人権

チ ェ ッ ク 項 目

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42

労働基準法などの労働法が企業に求めているのは、法律上の最低限の基準の順守です。

最低限の基準を順守するというのは、実際に経営者としては非常に難しいことではあり

ますが、一方で最低限の基準で喜んで働く従業員は、実際に皆無なのもまた事実です。

企業を構成するのは従業員であり、その従業員が優秀であれば、その成長可能性は当

然大きくなります。企業成長の第一歩は、能力に見合った従業員の処遇であり、そして

従業員の能力を向上させるための学習機会の提供、つまり人的資源への投資が欠かせま

せん。また、CSR の実践は現場で働く従業員の努力なくしてあり得ません。だからこ

そ従業員が「CSRリテラシー」を向上させる「CSR教育」も重要な経営課題です。

能力に連動した処遇、能力向上の機会提供は従業員のモラールを向上させる重要な方

法であり、「将来の従業員」に対しても訴求力を持ちます。「現在の従業員」と「将来の

従業員」が働きたくなる環境づくりのための人的投資こそが企業の成長につながります。

日本的な労働観に「御恩と奉公」「滅私奉公」があります。経営者からの御恩(良い処

遇)があってこそ、従業員は奉公(一層の精勤)に励みます。経営者がこれを忘れて、み

だりに従業員に要求ばかりをする「滅私奉公」では、従業員は離反して社会的評価は下

がり、その結果、補充人事の採用も滞るだけでなく、優秀な人材を獲得する機会を失い、

企業は成長可能性を低下させてしまいます。経営者はそのような事態に陥らないように、

設備投資や研究開発と同じように、人的資源への投資を重視する必要があります。

そして、真に人的資源への投資が効果を現すためには、経営者が従業員の模範となり、

自ら経営能力向上ための具体的な学習を実践し、それを従業員に示すことが重要です。

従業員に学習を命令しても、経営者が自ら学習しなければ従業員は応えません。経営者

と従業員のそれぞれの人的資源への投資が継続的に行われる組織、すなわち「学習する

組織」こそが持続的成長を可能にします。

※チェック項目は次のページになります

2 伸ばすCSR

組織内部(3) 人的投資

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43

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

47

研修の受講や独立開業の支援

など、従業員の能力を向上させ

るための人的投資を行っている

社内外における研修の受講、

資格手当・資格取得奨励金の

給付、大学院・研究機関への

派遣、異業種交流会への派遣、

社内ベンチャーや独立に向けた

創業支援

労働慣行

48 組織内における具体的なCSRの

教育・普及活動を行っている

CSR教育の実施、部門・担当者

に偏らない CSR活動、

OJTによる CSR教育

組織統治

人権

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44

「伸ばす CSR」は、1 社の経営資源だけで実践できるものではありません。「伸ばす

CSR」によって企業価値を創造するには、組織内部、つまり「会社」という「社会」に

おけるステークホルダーとの適切な関係を構築するとともに、顧客や取引先などの組織

外部のステークホルダーとの連携が必要になってきます。また、企業が地域を拠点に活

動する以上、このステークホルダーは上記の経済的関係だけに限られず、NPO や市民

団体なども含まれます。

組織外部のステークホルダーと連携するためには、まず自社のステータス(状況)を周

囲のステークホルダーに向けて適切に発信したり、相手をよく理解するための双方向的

なコミュニケーションが求められます。企業が相手をよく知らずに連携することはリス

クの増加になり、逆に自社のステータスを相手に伝えなければ、ステークホルダーの信

用を得ることはできません。このような丁寧なコミュニケーションができてこそ、企業

はようやく CSR調達への適合性を高め、ESG問題に取り組みながら経済的利益を得る

ことができるようになります。

そして「伸ばす CSR」を効果的に行うには、組織外部のステークホルダーが持って

いる CSR 資源を有効に活用することが欠かせません。これは「守る CSR」の「組織外

部」の項とも関係がありますが、CSR の実践に有益な資源を持っている組織外部のス

テークホルダーと協力してサプライチェーンを構築することにより、自社の企業価値を

守るだけでなく、企業価値を創造するための CSR を重視したサプライチェーン、CSR

調達の実現が可能になり、ビジネスのプロセスそのものが自社だけでなく、社会にプラ

スの影響を及ぼすことになります。

また、所有と経営が未分離であることが多い中小企業では、経営者は独善に陥りやす

く、放漫経営や反社会的な意思決定を冒すリスクが増加します。だからこそ経営にステ

ークホルダーの声や視点が入るというのは、その暴走を抑止する「安全装置」の役割を

期待することができます。

2 伸ばすCSR

<中分類~誰に対して> 組織外部について

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45

CSR における「責任」とはビジネスを通じて社会と顧客のニーズに応えることであ

り、決してネガティブなものではありません。顧客のニーズに応えられない企業・ビジ

ネスに市場における存在意義はなく、そして現代社会では ESG 問題の深刻化・広域化

に伴って、顧客も何らかの ESG 問題に直面しています。だからこそ、これからのビジ

ネスには眼前の顧客だけでなく、「社会と顧客の双方のニーズ」に応えることが必須と

なっています。

また、従来の「ビジネスの結果を社会に還元する」という考え方だけでは、ESG 問

題は解決しないどころか、状況は悪化し続けています。このため、ビジネスのあり方に

はコペルニクス的転回のような価値観の転換が求められます。それは結果志向のビジネ

スから、プロセス志向のビジネスへの転換であり、CSRがそのキー概念となります。

CSR の要諦は社会、顧客と共有できる価値の創造にあり、ビジネスのプロセスの中

で ESG 問題を解決することで経済的利益を得る、結果的に「儲かる CSR」になること

です。そのためにも企業は自らが ESG 問題の発生源にならないようにその活動を適正

に保ち、ESG 問題の解決、緩和に資する製品やサービスの生産、投資、業務方法の改

善、サプライチェーンマネジメントなど、ビジネスの中核における価値創造が求められ

ます。

ESG問題への取り組みで経済的利益を得るには、1社だけでなく、サプライチェーン

全体で CSR活動に取り組むことが重要になります。ESG問題の解決には、最終消費者

にわたる製品やサービスだけでなく、サプライチェーンに関わる組織と個人、資源の関

わり方の適正さが欠かせません。このため、経営者にはサプライチェーンマネジメント

の「最高責任者」として CSR を実践している取引先との関係を強化し、サプライチェ

ーンを「CSRのバリューチェーン」に高めるための努力が求められます。

※チェック項目は次のページになります

2 伸ばすCSR

組織外部(1) 事業の中核における価値創造

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46

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

49

組織の施設運営や業務の管理

において、環境問題・社会問題

の抑制につながる具体的な措置

をとっている

施設のユニバーサルデザイン

化、緑化・省エネ活動、

エコカー・LED照明などの省エネ

機器の導入、環境負荷が低い通

勤方法や時差通勤・柔軟な勤務

体制の実施、

環境マネジメントシステムの

認証取得

人権

環境

公正な

事業慣行

50 環境問題や社会問題に取り組む

製品・サービスを提供している

環境問題や社会問題の

解決・緩和につながる製品や

サービスの製造・販売

人権

環境

公正な

事業慣行

51

環境問題や社会問題に取り組む

製品・サービスの研究開発

投資などを行っている

環境問題や社会問題の緩和に

つながる製品・サービスの研究

開発、ソーシャルベンチャー企業

への出資・育成

人権

環境

公正な

事業慣行

52

環境問題や社会問題・地域に配

慮したサービスや資材の調達を

行っている

取引先のCSRを意識した調達

(CSR調達)、

市内事業者を優先した調達、

環境負荷が低いサービスや資材

の調達、寄付つきのサービスや

資材の調達、非正規社員の正社

員への登用(社会問題に配慮し

た人的資源の調達)、

従業員の 50%以上の市内採用、

授産施設・刑務作業の利用

人権

環境

公正な

事業慣行

チ ェ ッ ク 項 目

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47

株式会社や合同会社などは出資者によって私的に所有される組織であり、組合などは

組合員の人的結合体です。法令に定めがある場合を除き、いずれも出資や契約による利

害関係者以外に、活動に関する説明責任を負わず、活動内容を公開する義務はありませ

ん。

しかし、活動内容を公開する義務がない場合、組織運営が閉鎖的になり、経営者によ

る放漫経営や独善的、反社会的な意思決定を行うリスクが増加します。また、社会通念

に照らして秘密主義的な組織運営をとる場合、従業員や取引先などのステークホルダー

の不信を買い、あるいは不安視され、ビジネス全体のパフォーマンスを低下させるリス

クも増加します。

秘密主義的な組織運営は調達・購買にも悪影響をもたらします。サプライチェーンマ

ネジメントの観点からは CSR を実践している、信頼できるサプライヤーとの取引が望

まれますが、組織運営に関して必要な情報をスムーズに開示できない企業はステークホ

ルダーから忌避され、CSR 調達によるビジネスチャンスを喪失することになります。

また、CSR調達に限らず、「伸ばす CSR」の実践は 1社だけで完結できるものではなく、

取引先や NPO、市民団体など、多様なステークホルダーとの連携が重要になります。

さまざまなリスクを低減させて新たな価値を創造し、あるいはステークホルダーとの

関係を強化するためにも、経営者は自発的に自社の情報を開示しながら、さまざまなス

テークホルダーとの積極的なコミュニケーションを図り、そこから得たコメントや情報

を活かすための柔軟さや器量が求められます。

※チェック項目は次のページになります

2 伸ばすCSR

組織外部(2) ステークホルダーコミュニケーション

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48

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

53

CSR活動の実践に際して

組織外部の多様な組織などと

連携している

他社・業界団体・NPO・市民

団体・官公庁・学校などとの

連携による CSR活動

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

54 CSR活動や関連する情報を

社内・社外に対して発信している

CSRレポートの発行、

企業案内・自社サイト・雑誌など

への CSR情報の掲載、

CSR・社会貢献関連のイベント

への出展・参加

組織統治

消費者課題

55

CSR活動に関しステークホルダ

ーの声を汲み取るための具体的

な行動をとっている

社内提案制度の導入、

地域住民・取引先などとの

事業環境や地域の課題に関する

意見交換会

(ステークホルダーダイアログ)

の実施

消費者課題

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

56

従業員同士やその扶養家族など

の親睦・慰安を図るための

具体的な活動を行っている

会社負担による懇親会の実施、

社員旅行・社内運動会の催行、

社内クラブ活動の支援、

扶養家族・内縁関係者を含めた

福利厚生

労働慣行

57

経済団体・業界団体などに

加入し、埼玉経済界や所属業界

の活性化に関与している

商工会議所・法人会・業界団体

などへの加入

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

チ ェ ッ ク 項 目

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49

企業が「伸ばす CSR」によって企業価値を創造するには、地域社会にその存在を「仕

方なく」受け入れてもらうのではなく、地域社会から積極的な支持を取り付ける必要が

あります。地域社会に住む人々は、企業に人材を供給してくれたり、顧客であったりと、

ビジネス面でさまざまなメリット・地域資源を提供してくれる存在です。そして、企業

の社会的評価とは、自社の製品やサービスだけではなく、地域社会との交流からも生ま

れてきます。これは地域性が高く、仕事と生活のあり方が表裏一体的な中小企業である

ほど、その傾向が強くなります。

企業と地域社会の関係は、「守る CSR」で地域社会への環境負荷を抑制するという、

消極的な関係に留まるのではありません。ビジネスのプロセスにおいて、企業が地域社

会のさまざまな資源を活用するとともに、地域社会に企業の経営資源を活用してもらい、

新たなビジネスチャンスやネットワークの構築などの互恵的な関係を築くことで「伸ば

す CSR」につなげることができます。

2 伸ばすCSR

<中分類~誰に対して> 地域社会について

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50

企業は地域社会から人材をはじめ、有形無形の経営資源を調達してビジネスを営んで

います。良好な自然環境という物理的基盤があってこそ、良好な地域社会が存在できま

す。大気や水が汚染され、悪臭が漂い、治安が悪く、必要な経営資源を調達し難い地域

では、安定的なビジネスを営むことは困難です。そのような地域は従業員や取引先など

のステークホルダーも忌避します。

企業も他のステークホルダーも自然環境を基礎とする地域社会の一員であり、ビジネ

スを営むための良好な環境は、他人任せで実現するものではありません。経営者も従業

員も自ら地域社会の一員であることを強く自覚し、経営者や従業員が働きたくなり、愛

着が持てるような地域社会を創造することが、経営基盤を堅固にするうえで欠かせませ

ん。

また、近年は単に労働環境の充実だけでなく、働く中で ESG 問題に取り組むことを

人間的成長、学習の機会と考える人々が増えています。組織的な社会貢献活動などは事

業周辺の ESG 問題の解決に寄与し、そのような従業員のニーズを満たす恰好の機会で

もあり、自社の社会的評価を高める機会でもあります。

人々が働きやすい組織だけでなく、健全なステークホルダーが集まり、ビジネスを営

みやすい地域社会、良好な自然環境を求めるのは当然のことであり、企業が事業周辺の

価値創造に努めることは、企業自身の物理的な持続可能性を保障することにつながりま

す。

事業周辺の価値創造を企業の持続可能性につなげるためにも、経営者は率先して社会

貢献活動などで自ら労務を提供して従業員の模範になり、従業員が積極的に社会貢献活

動などに参画できるための具体的な環境整備を行うことが求められます。

※チェック項目は次のページになります

2 伸ばすCSR

地域社会(1) 事業の周辺における価値創造

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51

No. チェック項目 期待される行動例

関連する

ISO26000の

中核課題

58 組織として

社会貢献活動を行っている

児童・高齢者・母子・父子家庭・

生活困窮者などのための

社会福祉活動、自然環境の

回復・保護・地域の美化などの環

境保全活動、災害の被災者・

被災地の支援、国際交流の

促進、その他の社会問題の解決

を促進する社会貢献活動、

地域の祭礼・学校教育・

スポーツ・文化事業などを支援

する地域貢献活動などへの金品

の寄付・労務・施設の提供

人権

環境

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

59 役員が自ら

社会貢献活動に協力している

役員による社会貢献活動への

参加

人権

環境

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

60

従業員が自発的に社会貢献

活動やソーシャルビジネスなどに

参加しやすくするための

具体的な支援を行っている

ボランティア休暇の付与、

ボランティア活動の出勤扱い、

活動費の補助、

ソーシャルビジネスや

コミュニティビジネスへの

参加の許可・就労体制の配慮

人権

環境

コミュニティ

への参画及び

コミュニティの

発展

チ ェ ッ ク 項 目

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52

Ⅵ チェック項目一覧

ここでは全てのチェック項目を一覧表にまとめています。自社が現在実現で

きていることには「はい」を付け、自社の「CSR 度」の把握に役立ててくださ

い。

守 る C S R

No. チェック項目 回答

組織文化

1 経営理念などの自社の中核的価値観・規範を定めて

従業員に明示している はい ・ いいえ

2 経営者が定期的に事業の状況や方向性などを

従業員に伝えている はい ・ いいえ

3 株主総会や取締役会など、法令で定める組織の

意思決定機関を適法に開催し、議事を記録している はい ・ いいえ

4 関連企業を含め、全社的な法令違反を

予防・発見するための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

5 公職者との適法な関係を保持するための

具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

6 反社会的勢力との関係を謝絶するための

具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

7 事業の持続可能性に関わる重要なリスクを把握している はい ・ いいえ

8 取締役などの全ての役員は管掌する

具体的な業務を有している はい ・ いいえ

9 株主(出資者)や取引金融機関に対して、自社の財務

情報や事業計画について正確に開示(説明)している はい ・ いいえ

10 決算・配当および税務に関する書類の作成を

適法に行っている はい ・ いいえ

11 財務の健全化のための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

12 取引先に対する優越的地位を濫用した不当な要求その

他の圧迫を行わないための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

13 災害に遭遇した場合でも事業を復旧し、

継続するための計画や準備がある はい ・ いいえ

※守る CSR のチェック項目は次ページにもあります

守 る C S R

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53

※守る CSR のチェック項目続き

守 る C S R

No. チェック項目 回答

情報セキュリティ

14

従業員とその扶養家族のマイナンバー(個人番号)の

漏出・不正な改変・法定外目的の利用などを

防ぐために、その取得および取扱ルールを定め

技術的な防護措置をとっている

はい ・ いいえ

15

顧客情報や業務情報の漏出・不正な改変・

法定外目的の利用などを防ぐために

その取得および取扱ルールを定め

技術的な防護措置をとっている

はい ・ いいえ

16

雇用形態に関わらず、全ての従業員と労働条件を

明示した労働契約を書面で交わしている

又は労働条件通知書を交付している

はい ・ いいえ

17 雇用形態に関わらず、全ての従業員に関する

データを作成してその勤怠を管理している はい ・ いいえ

18 就業規則などの行動規範を定め、

従業員が常に参照可能な状態にしている はい ・ いいえ

19 対象となる全ての従業員について

労働保険および社会保険に加入している はい ・ いいえ

20 記録された労働時間などに基づき、従業員の給与・

手当を正確に支払っている はい ・ いいえ

21 従業員の労働条件を低下させる労働契約の変更を

行う場合は、適法な手続をとっている はい ・ いいえ

22 サービス残業などの「事実上の無償・強制労働」を

予防するための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

23

従業員の 1週間当たりの労働時間が法定労働時間の

範囲内である又は適法な手続きによって

法定労働時間の上限を延長している

はい ・ いいえ

24 過重労働を防止するための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

25 労働災害を予防するための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

26 労働災害が発生した場合は、法令に定める官公署への

報告および受傷者などへの補償を行っている はい ・ いいえ

27 事業所などにおいて従業員の健康的な労働環境を

保全するための具体的措置をとっている はい ・ いいえ

28

事業の再建などにおける従業員の削減や出向・

配置転換などは、退職強要行為や嫌がらせを行わず

適法に行っている

はい ・ いいえ

※守る CSR のチェック項目は次ページにもあります

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54

※守る CSR のチェック項目続き

守 る C S R

No. チェック項目 回答

29

人事考課において、法令に定める権利の行使を

理由とした実質的な報復措置および

性別・障害・疾病・国籍・学歴・宗教・支持政党などを理

由とした差別を行っていない

はい ・ いいえ

30 法令で対象とされる全ての従業員に対し

法定健康診断を受診させている はい ・ いいえ

31 セクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの

人権侵害を予防するための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

32 法令に定める従業員のストレスチェックを実施している はい ・ いいえ

生産管理

33 製品やサービスの生産に関するトラブルを回避し、

品質を安定させるための具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

34 製品やサービスの経済性や環境性を追求するための

具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

35 製品やサービスの生産に関する作業環境の継続的かつ

具体的な改善に取り組んでいる はい ・ いいえ

外 部

製品、サービスの提供

および調達

36

製品やサービスの提供プロセス、営業プロセスに

おいて、法令で規制されている有害物質の混入や

違法な営業行為などを発生させないための

具体的な措置をとっている

はい ・ いいえ

37 製品やサービスに問題が生じた場合、回収、補償、原因

究明、再発防止策などを講じる体制を敷いている はい ・ いいえ

38 主要な取引や業務、資産について

記録を作成して管理している はい ・ いいえ

地域社会

環境経営

39 事業における廃棄物の処理を適法に行っている はい ・ いいえ

40 事業における騒音・振動・臭気・汚水・その他の

有害物質の排出を法令の基準以内に抑制している はい ・ いいえ

守る CSRで「はい」と回答できた数 /40

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伸 ば す C S R

No. チェック項目 回答

経営

戦略

41 中期経営計画などの経営計画を策定し、運用している はい ・ いいえ

ダイバーシティ

42 障害者の勤務に適した労働環境を整備し、

障害者を雇用している はい ・ いいえ

43 定年を設けない又は

65歳以上の従業員の就労が可能な状態にある はい ・ いいえ

44 役員の親族以外の女性役員や管理職が常勤している はい ・ いいえ

45 従業員、またはその家族の妊娠・出産・育児・介護・看護

その他健康状態に配慮した労働環境を整備している はい ・ いいえ

46 外国人・セクシャルマイノリティ・社会的弱者の

社会参画を促進するための具体的な行動をとっている はい ・ いいえ

人的投資

47 研修の受講や独立開業の支援など、従業員の能力を

向上させるための人的投資を行っている はい ・ いいえ

48 組織内における具体的な CSRの教育・

普及活動を行っている はい ・ いいえ

事業の中核における

価値創造

49 組織の施設運営や業務の管理において、環境問題・

社会問題の抑制につながる具体的な措置をとっている はい ・ いいえ

50 環境問題や社会問題に取り組む製品・

サービスを提供している はい ・ いいえ

51 環境問題や社会問題に取り組む製品・

サービスの研究開発・投資などを行っている はい ・ いいえ

52 環境問題や社会問題・地域に配慮した

サービスや資材の調達を行っている はい ・ いいえ

ステークホルダー

コミュニケーション

53 CSR活動の実践に際して

組織外部の多様な組織などと連携している はい ・ いいえ

54 CSR活動や関連する情報を社内・社外に

対して発信している はい ・ いいえ

55 CSR活動に関し、ステークホルダーの声を

汲み取るための具体的な行動をとっている はい ・ いいえ

56 従業員同士やその扶養家族などの

親睦・慰安を図るための具体的な活動を行っている はい ・ いいえ

57 経済団体・業界団体などに加入し

埼玉経済界や所属業界の活性化に関与している はい ・ いいえ

※伸ばす CSR のチェック項目は次ページにもあります

伸 ば す C S R

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※伸ばす CSR のチェック項目続き

伸 ば す C S R

No. チェック項目 回答

地域社会

事業の周辺における

価値創造

58 組織として社会貢献活動を行っている はい ・ いいえ

59 役員が自ら社会貢献活動に協力している はい ・ いいえ

60

従業員が自発的に社会貢献活動やソーシャルビジネ

スなどに参加しやすくするための具体的な支援を

行っている

はい ・ いいえ

伸ばす CSRで「はい」と回答できた数 /20

「守る CSR」における「はい」+「伸ばす CSR」における「はい」の合計 /60

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Ⅶ チェック結果について

「守る CSR」40項目、「伸ばす CSR」20項目のチェック結果はいかがでしたか?チ

ェックリストとその解説を読んでいただき、チェックしていただくことで、改めて自社

の長所、短所、そして「経営課題の優先順位」が見えてきたと思います。チェック結果

を今後の経営に活かし、「さいたま市 CSRチャレンジ企業認証制度」の認証基準を満た

す市内の中小企業等はぜひ認証制度にチャレンジしてください。

なお、チェック結果を分析する概ねの目安は次の通りです。自社の現状分析の参考と

してください。

CSR にゴールがないことは先述しましたが、「はい」がついた項目は、それで達成で

はなく、引き続きその項目に関連する活動の質を向上させ、あるいはそのバリエーショ

ンを増やし、CSR の PDCA サイクルを描くことが、さらなるリスクの低下や企業価値

の創造につながります。今後みなさんの一層の CSR の実践を通じ、ステークホルダー

との共有できる価値の創造と、持続可能な経営が実現することを期待しています。(終)

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『CSRチェックリスト~中小企業のための CSR読本~』

平成 28年 4月 第 3版

発行 さいたま市(経済局 商工観光部 経済政策課)

委託先 公益財団法人埼玉りそな産業経済振興財団

CSRコンサルティング事務所 允治社

ISBN 978-4-9907244-1-2

〒330-9588 さいたま市浦和区常盤 6-4-4

電話 048-829-1362 FAX 048-829-1944

E-mail [email protected]

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