frpを用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能につい...

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FRP を用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能について Study on Load Carrying Performance of Bridge Sidewalk Structures Widened with FRP 角間 恒 岡田 慎哉 ** 表 真也 *** 松井 繁之 **** KAKUMA Ko, OKADA Shinya, OMOTE Shinya and MATSUI Shigeyuki 積雪寒冷地の道路橋では、冬期間の積雪により幅員が狭小となることに起因した歩行安全性の低下 が道路管理上の問題となっており、歩道の無い、あるいは歩道幅員が狭小な橋梁を中心に、歩行者の 安全対策が求められている。床版の拡幅や歩道添架による必要幅員の確保は、こうした問題を解消す る方策の一つであるが、鋼製歩道を使用した従来工法においては、上部工重量の増加により下部工補 強等の追加施工が必要となることがある。そこで本研究では、従来工法に対して拡幅部の軽量化およ び高耐食化が期待できる FRP を用いた既設 RC 床版の歩道拡幅構造を考案し、実物大の床版供試体 を使用した静的載荷実験と数値解析により、高欄への寄り掛かり荷重および張出部への群集荷重に対 する耐荷性能の評価と設計手法の検討を行った。実験結果から、寄り掛かり荷重と群集荷重に対して、 それぞれ設計値の2.4倍、5倍の耐力が得られ、考案する構造が十分な耐力を有していることを確認 した。また、数値解析により破壊に至るまでの挙動を概ね再現でき、耐力設計が可能であることを示 した。 《キーワード:FRP;RC 床版;歩道;拡幅;耐荷性能》 On highway bridges in snowy regions, narrow road width due to snow bank affects the safety of walking. To solve the issue, although widening of slabs or adding sidewalks with steel made sidewalks are generally taken, these often induce the increase in dead load of superstructures involving the necessity of additional construction such as the reinforcement of substructures. Therefore, this study presented a new widening method using fiber reinforced plastics (FRP) with light weight and high corrosion resistance, investigated the load carrying performance and proposed the design method by both loading test and numerical analysis focusing on horizontal load on railing and vertical load on overhang part of FRP slab. As the result, experimentally obtained maximum loads are 2.4 and 5.0 times of design loads for horizontal and vertical loads respectively, which showed the presented structure ensures the sufficient load carrying capacity for widening of bridge sidewalks. Then, numerical analysis result generally represented the experimental behavior up to maximum load and enabled the design calculation. 《Keywords:FRP;RC slab;sidewalk;widening;load carrying performance》 報 文 2 寒地土木研究所月報 №724 2013年9月

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Page 1: FRPを用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能につい …FRPを用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能について Study on Load Carrying Performance of Bridge

FRP を用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能について

Study on Load Carrying Performance of Bridge Sidewalk StructuresWidened with FRP

角間 恒* 岡田 慎哉** 表 真也*** 松井 繁之****

KAKUMA Ko, OKADA Shinya, OMOTE Shinya and MATSUI Shigeyuki

 積雪寒冷地の道路橋では、冬期間の積雪により幅員が狭小となることに起因した歩行安全性の低下が道路管理上の問題となっており、歩道の無い、あるいは歩道幅員が狭小な橋梁を中心に、歩行者の安全対策が求められている。床版の拡幅や歩道添架による必要幅員の確保は、こうした問題を解消する方策の一つであるが、鋼製歩道を使用した従来工法においては、上部工重量の増加により下部工補強等の追加施工が必要となることがある。そこで本研究では、従来工法に対して拡幅部の軽量化および高耐食化が期待できる FRP を用いた既設 RC 床版の歩道拡幅構造を考案し、実物大の床版供試体を使用した静的載荷実験と数値解析により、高欄への寄り掛かり荷重および張出部への群集荷重に対する耐荷性能の評価と設計手法の検討を行った。実験結果から、寄り掛かり荷重と群集荷重に対して、それぞれ設計値の2.4倍、5倍の耐力が得られ、考案する構造が十分な耐力を有していることを確認した。また、数値解析により破壊に至るまでの挙動を概ね再現でき、耐力設計が可能であることを示した。

《キーワード:FRP;RC 床版;歩道;拡幅;耐荷性能》

 On highway bridges in snowy regions, narrow road width due to snow bank affects the safety of walking. To solve the issue, although widening of slabs or adding sidewalks with steel made sidewalks are generally taken, these often induce the increase in dead load of superstructures involving the necessity of additional construction such as the reinforcement of substructures. Therefore, this study presented a new widening method using fiber reinforced plastics (FRP) with light weight and high corrosion resistance, investigated the load carrying performance and proposed the design method by both loading test and numerical analysis focusing on horizontal load on railing and vertical load on overhang part of FRP slab. As the result, experimentally obtained maximum loads are 2.4 and 5.0 times of design loads for horizontal and vertical loads respectively, which showed the presented structure ensures the sufficient load carrying capacity for widening of bridge sidewalks. Then, numerical analysis result generally represented the experimental behavior up to maximum load and enabled the design calculation.

《Keywords:FRP;RC slab;sidewalk;widening;load carrying performance》

報 文

2 寒地土木研究所月報 №724 2013年9月

Page 2: FRPを用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能につい …FRPを用いた道路橋歩道拡幅構造の耐荷性能について Study on Load Carrying Performance of Bridge

図-1 FRP 歩道拡幅床版の概要図

(a ) 全体図(片側拡幅の場合)

(b ) 拡幅部詳細

面 FRP 引抜成形材(以下、FRP 成形材)を複数枚並べて連続化した FRP パネル構造とする。FRP 成形材同士の継手はラップ継手構造とし、接着面のサンディングと脱脂を行った後、エポキシ樹脂系接着剤を用いてラップ面を接着し、密着性を確保するためにブラインドリベットで固定する。使用するリベットは、ステンレス製φ4.8mm のものとし、その間隔は150mm 以下となるようにする。

2.3 接合部の構造

 FRP 床版と RC 床版の接合部は、RC 床版に設置したアンカーボルトと FRP 床版内に流し込む無収縮モルタルとの定着により一体化する。なお、FRP 床版には、モルタル充填用の FRP 埋設型枠、充填孔および空気孔を設ける。

2.4 地覆・高欄基部の構造

 拡幅部の軽量化および水や塩分に対する耐久性向上の観点から、地覆についても FRP 成形材で施工する。地覆と FRP 床版は、エポキシ樹脂系接着剤とステンレスブラインドリベットの併用により接合する。 高欄(歩道自転車用柵)は、地覆内に設置した鋼製台

1.はじめに

 積雪寒冷地における道路管理上の問題として、冬期間の積雪により幅員が狭小となることに起因した歩行安全性の低下がある。特に橋梁部においては、側方への排雪を行えない場合が多いために幅員不足となりやすく、歩道の無い、あるいは歩道幅員が狭小な橋梁を中心に、歩行者の安全対策が求められている。このような問題に対しては、鋼製歩道を使用した添架・床版拡幅により必要幅員の確保を図ることが多いが、上部工重量の増加により下部工補強等の追加の施工が必要となるケースも散見されており、より軽量な材料の使用が望まれている。また、積雪寒冷地では、積雪により床版上面が湿潤環境となりやすいことや、凍結防止剤の散布に起因した塩害により材料劣化が促進する環境にあり、耐久性に優れた材料の選定も必要となる。 そこで本研究では、重量が鋼材の1/3程度と軽量かつ耐腐食性に優れ、近年、道路橋の合成床版1)や検査路2)、歩道橋3)として利用されるなど橋梁構造物への適用事例が増加しているガラス繊維強化プラスチック

(Glass fiber reinforced plastics:以下、FRP)を用いた道路橋の歩道拡幅構造を考案した。また、実物大の床版供試体を用いた静的耐荷力実験と3次元 FEM 解析により耐荷性能を評価し、設計手法の検討を行った。

2.FRPを用いた歩道拡幅床版

 FRP を用いた既設 RC 床版の歩道拡幅構造(以下、FRP 歩道拡幅床版)の概要図を図-1に示し、その概略を以下に記す。

2.1 使用材料

 本構造で使用する FRP は、強化繊維にガラス繊維を使用した GFRP である。繊維や樹脂の種類、成形材の繊維構成、成形方法、成形材の材料特性等は、「FRP合成床版設計・施工マニュアル(案)」4)に基づくものとした。

2.2 形状と寸法

 本拡幅構造は、歩道のマウントアップを撤去した後に FRP 床版を RC 床版に上載して一体化する構造とし、ブラケットや支持桁の増設等による支持は行わない。歩道幅員は、有効幅員が道路構造令5)で規定される歩道の最小幅員2.0m を満足することとする。 FRP 床版は、下フランジ付きリブを有するπ型断

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座に支柱を設置し、鋼製台座と FRP 床版下側に設ける補強板で FRP 床版を挟み込みアンカーボルトで接合する構造とする。

3.FRP拡幅床版の静的耐荷力実験

 FRP 歩道拡幅床版の耐荷性能を確認するため、実物大床版供試体を製作し、静的耐荷力実験を行った。本研究では、高欄への水平荷重(寄り掛かり)に対する高欄基部の耐荷性能および張出部への鉛直荷重(群集荷重)に対する耐荷性能に着目して、水平載荷実験および鉛直載荷実験を実施した。

3.1 実験供試体

 実験に使用した供試体を図-2に示す。供試体の橋軸直角方向全長は3,405mm であり、既設 RC 床版長さを2,300mm、FRP 床版長さを2,500mm、床版支間を1,925mm とした。橋軸方向全長は、幅600mm の FRP成形材を4枚並べた2,400mm とした。床版厚は、RC

図-2 供試体図

(a ) 供試体全体図 (d ) 高欄基部詳細図(断面)

(c ) 高欄基部詳細図(側面)

(b ) FRP パネルの断面形状(斜線部が1パネル)

床版厚を200mm、FRP 床版厚を100mm とした。 FRP 床版張出部先端には、図-2(c)(d)に示す地覆プレート、高欄支柱、高欄設置用の鋼製台座と補強板を設置した。なお、高欄支柱には載荷の容易さを考慮してH鋼を使用した。

3.2 使用材料

 供試体に使用した FRP 成形材は、ガラス基材としてチョップドストランドマットおよびガラスロービングクロスを、引抜成形用樹脂として不飽和ポリエステル樹脂を使用した。JIS K 7054および JIS K 7056に準拠して実施した材料試験により得られた FRP 成形材の基本的な材料特性値は、長手方向(繊維方向)について、引張強度409N/mm2、圧縮強度313N/mm2、引張弾性率35kN/mm2であった。また、フランジとウェブの隅角部については、幅方向(繊維直角方向)の繊維構成の違いが圧縮強度に与える影響を確認するため、供試体から採取した試験片を用いて JIS K 6911に準拠して圧縮試験を実施した。表-1はその結果であり、

4 寒地土木研究所月報 №724 2013年9月

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137,325

90,538

N/mm2 kN/mm2

114.2 18.8

101.8 13.4

101.4 12.0

図-3 要素分割図

写真-1 実験状況(鉛直載荷実験)

表-1 FRP ウェブの圧縮試験結果(繊維直角方向)

上フランジとウェブの隅角部で強度、弾性率が若干大きいものの、部位による差はほとんど見られなかった。 コンクリートには、普通ポルトランドセメントと5mm 以下の細骨材、最大粒径20mm の粗骨材を使用した。圧縮強度と弾性係数は、実験時材令(58日)において、それぞれ35.9N/mm2、28.4kN/mm2であった。 鉄筋は主鉄筋、配力鉄筋、アンカーボルトにそれぞれ D19、D16、D13(いずれも SD345)を使用した。

3.3 載荷方法

 水平載荷実験では、高欄頂部(FRP 床版上面から1,105mm)を載荷位置とし、チェーンブロックで引き込むことで破壊に至るまで荷重を漸増させた。ここで、歩行者自転車用柵の設計水平荷重2,500N/m(種別SP)6)と高欄支柱間隔2.0m(想定)より、5.0kN を本実験における設計荷重とし、耐力評価の基準とした。 鉛直載荷実験では、載荷位置を FRP 床版の張出部先端から600mm の位置の床版中央とし、鋼製の載荷板(500×200mm)を介して破壊に至るまで荷重を漸増させた。ここで、設計活荷重(死荷重および群集荷重)による曲げモーメントに対し、載荷位置での曲げモーメントが等価となる荷重13.9kN を本実験における設計荷重とし、耐力評価の基準とした。 写真-1には、実験状況を示す。

3.4 3次元 FEM 解析

 実験結果を補完し、FRP 歩道拡幅床版の変形および応力性状を詳細に把握するために、3次元 FEM 解析を実施した。本解析は、FEM 解析の汎用コードMSC. Marc(ver.2010.2.0)を使用した線形弾性解析である。 図-3に、解析モデルの要素分割図を示す。モデルの作成においては、FRP 床版張出部(張出部先端から1,105mm)のみを考慮し、RC 床版側の端部を固定端として取り扱った。また、対称性を考慮して1/2モデルを使用した。水平載荷実験の解析では、高欄基部の応力性状を確認するために、地覆プレート、高欄支柱、鋼製台座、補強板およびアンカーボルトも詳細にモデ

ル化し、鉛直載荷実験の解析では、FRP 床版のみをモデル化した。なお、過度に変形を拘束しないよう、FRP 床版と補強板、FRP 床版と鋼製台座、地覆プレートと鋼製台座の間は完全剛結とせず、接触時の摩擦を考慮している。 FRP 成形材は直交異方性材料としてモデル化し、材料試験を実施していないパラメータについては、既往の文献7)に基づき材料特性を設定した。高欄支柱、鋼製台座、補強板、アンカーボルトについては、弾性係数200kN/mm2、ポアソン比0.3の弾性体として扱った。

4.結果および考察

 以下では、FRP 歩道拡幅床版の水平および鉛直載荷実験について、実験結果と FEM 解析結果に基づく耐荷性能の評価ならびに耐力設計手法の検討を行う。

4.1 水平載荷実験

4.1.1 実験結果

 水平載荷実験における荷重と水平変位の関係を図-

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0 30 60 90 1200

4

8

12

16

mm

kN

( a) ( b) FEM

(5.0kN)

4に示す。水平変位の計測点は、図-2(a)に示す載荷位置(点a)および地覆頂部(点b)である。実験では、載荷直後から荷重6.0kN 程度まで荷重の増加とともに変位が線形的に増加した後、徐々に剛性が低下し、荷重12.1kN のときに異音の発生とともに荷重の低下に至った。最大荷重12.1kN は設計荷重5.0kN の約2.4倍であり、実構造では高欄横梁による荷重分配も見込まれることから、本高欄基部構造が寄り掛かりによる水平荷重に対して十分な耐力を有していると考えられる。荷重-水平変位関係について、実験結果と FEM解析結果を比較すると、実験において線形性が見られる範囲では両者がよく一致しており、高欄基部構造を詳細にモデル化することで水平荷重作用時の基礎的な挙動を再現できると判断できる。なお、実験における非線形挙動は、FRP 成形材のせん断変形の非線形性や微視的破壊の進行によるものであると推察され、FEM 解析においてこれらを考慮することで、解析による耐力や破壊性状の詳細評価も可能になると考えられる。 写真-2に、実験終了時における中央ウェブ(図-

2(a)中のウェブA)の損傷状況を示す。FRP 床版の破壊は、鋼製台座直下でウェブ上縁が圧縮せん断破壊する形態であり、これに伴って上フランジとウェブの境界部に沿ってき裂が生じていた。また、破壊時には鋼製台座と補強板を連結するボルトに緩みが生じていたが、破壊に至るまでに変位の急変が見られていないことから、これは破壊とともに生じたものであり、FRP 床版、鋼製台座、高欄のそれぞれの間で滑りは生じていなかったと考えられる。その他、地覆プレートや地覆プレートと FRP パネルの接着部、FRP 床版と RC 床版の定着部、FRP パネルの継手部については、目視調査による損傷は認められなかった。4.1.2 高欄基部の設計手法の検討

 次に、実験結果および FEM 解析結果に基づき高欄基部耐力の設計手法の検討を行った。 図-5に、FEM 解析から得られた高欄基部近傍におけるウェブの鉛直応力およびアンカーボルトの軸応力の分布を示す。図から、ウェブおよびアンカーボルトともに、高欄基部に作用するモーメントによって、張出側では圧縮応力が、支点側では引張応力が生じている。また、応力負担の傾向として、圧縮応力についてはウェブの負担分が多く、引張応力についてはアンカーボルトの負担分が多くなっている。これらのことから、高欄基部の曲げモーメントに対する荷重分担を簡略的に表すと、図中(b)に示すように、ウェブが圧

図-4 荷重と変位の関係

写真-2 ウェブAの損傷状況(水平載荷実験)

縮力を、アンカーボルトが引張力を負担するものと仮定できる。この仮定の下、中央のウェブ2本で曲げモーメントによる圧縮力を負担するとして最大荷重時の応力を計算すると、ウェブの圧縮応力は103.8N/mm2

となり、FRP 成形材の圧縮強度(表-1)と概ね一致する結果が得られた。以上のことから、曲げモーメントに対する応力分担状況を適切に評価することで、高欄への水平荷重に対する高欄基部の耐力照査が可能であると考えられる。

4.2 鉛直載荷実験

4.2.1 実験結果

 鉛直載荷実験における荷重と載荷点鉛直変位の関係を図-6に示す。実験では、荷重の増加とともに変位が線形的に増加し、荷重69.1kN のときに FRP 床版の中央4本のウェブの材料破壊が生じて荷重が低下したことから、破壊に至ったとして実験を終了した。最大荷重69.1kN は設計荷重13.9kN の5倍であり、本構造が既設 RC 床版の歩道拡幅に対して高い安全性を有していると考えられる。荷重-載荷点変位関係について、実験結果と FEM 解析結果を比較すると、解析結果が若干荷重を過大評価する傾向があるものの、破壊まで

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A A’ B

B’

C

C’

100 50 0 50 100150

100

50

0

50

mm

N/m

m2

A’A

0 20 40 60 80N/mm2

20 15 10 5 0

0

20

40

60

80

100

FRP

mm

C

C’

B

B’ 10000 8000 6000 4000 2000 0

0

20

40

60

80

μ

kN

FEM

FEM58.5kN

γ12

1 2

0 4 8 12 16 20 240

20

40

60

80

mm

kN

FEM

(50.2kN)

FEM (58.5kN)

(13.9kN)

ルの継手部においては、目視調査による損傷は認められなかった。

4.2.2 鉛直荷重に対する設計手法の検討

 次に、FRP 歩道拡幅床版の群集荷重に対する設計手法の検討として、鉛直荷重に対する断面耐力および破壊形態について、実験結果と梁理論による計算結果との比較を行った。 梁理論による計算では、(1)FRP 床版張出部のウ

の荷重-変位関係を再現していると判断できる。また、図-7には、ウェブAの破壊位置における荷重と面内せん断ひずみの関係を示す。文献6を参考に FRP 成形材の面内せん断強度を50N/mm2と仮定すると、着目位置では、荷重58.5kN のときに FRP 成形材のせん断破壊が生じる解析結果となった。本実験では、載荷開始から破壊に至るまで構造全体が概ね線形的な挙動を呈していることから、FEM 解析による耐荷挙動の再現性が高く、荷重58.5kN を FEM 解析における耐力とすると、実験結果の85% の耐力であった。 写真-3は、実験終了時におけるウェブAの損傷状況である。き裂はせん断応力と圧縮応力が卓越する支点側を起点とし、ウェブの中腹部を張出側に向かって瞬時に進展するものであった。また、アンカーボルトの引抜荷重は最大荷重時で0.6kN 程度であり、アンカーボルトの引抜けの懸念がないレベルであった。その他、RC 床版と FRP 床版の定着部ならびに FRP パネ

( a ) 応力出力位置 (b ) 荷重分担模式図

図-6 荷重と載荷点変位の関係

図-7 荷重と面内せん断ひずみの関係

写真-3 ウェブAの損傷状況(鉛直載荷実験)

(c ) FRP ウェブの鉛直応力分布

(d ) アンカーボルトの軸応力分布

図-5 高欄基部の応力性状(FEM 解析、12kN 時)

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験の結果、設計荷重の5倍程度の耐力が得られ、FRP を用いた歩道拡幅構造が既設 RC 床版の歩道拡幅に対して高い安全性を確保できることを確認した。また、計算的手法による耐荷性能の評価および設計計算が可能であることを示した。

3) 以上のことから、本研究で示した FRP を用いた既設 RC 床版の歩道拡幅工法が、歩道拡幅に対して高い適用性を有しているものと考えられる。

参考文献

1) 久保圭吾、西田正人、河西龍彦、筒井秀樹、松井繁之:「桟橋構造に適用した FRP 合成床版の設計と施工」、第5回道路橋床版シンポジウム講演論文集、pp.315-320、2006.

2) 永見研二、渡部陽一:FRP 製付属物の製作・施工- NEXCO 中日本 新東名 FRP 製付属物-、宮地技報、No.26、pp.97-105、2011.

3) 北山暢彦、宇野名右衛門:「伊計平良川線ロードパーク連絡歩道橋の設計・製作・架設」、石川島播磨技報2001橋梁特集号、pp.82-86、2001.

4) FRP 合成床版研究会:FRP 合成床版設計・施工マニュアル(案)、2009.

5) 日本道路協会:道路構造令の解説と運用、2004.6) 日本道路協会:防護柵の設置基準・同解説、2008.7) 土木研究所:FRP を用いた橋梁の設計技術に関

する共同研究報告書(Ⅱ)-引抜成形 GFRP 材を用いた車道用床版の輪荷重走行試験-、2007.

ェブ2本(FRP 成形材1枚、幅600mm)で荷重を受け持つ、(2)FRP 成形材のせん断変形の影響を考慮して Timoshenko 梁として計算を行う、(3)FRP 成形材の面内せん断強度は50N/mm2とする、の3点を仮定した。 図-6中には、梁理論により得られた荷重と載荷点鉛直変位の関係および耐力(50.2kN)を図示する。計算では、荷重-変位関係が実験結果と概ね一致し、破壊形態は実験と同様にウェブのせん断破壊と推定された。耐力については、計算結果が安全側の耐力を与え、耐力比は1.38(=69.1/50.2)であった。このことから、計算断面を FRP パネル1本分とすることで設計時の安全率を見込んだ断面耐力の算定が可能であると考えられる。

5.まとめ

 本研究では、FRP を用いた道路橋の歩道拡幅構造を考案し、載荷実験および3次元 FEM 解析による耐荷性能の評価と設計手法の検討を行った。得られた知見を以下にまとめる。1) 高欄基部の耐荷性能に着目した水平載荷実験の結

果、設計荷重の2.4倍の耐力が得られ、本研究における高欄基部構造が十分な安全性を有していることを確認した。また、FEM 解析による基礎的挙動の再現が可能であること、ならびに曲げモーメントに対する荷重分担を考慮することで高欄基部耐力の設計が可能であることを示した。

2) 群集荷重に対する耐荷性能に着目した鉛直載荷実

角間 恒*

KAKUMA Ko

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム研究員博士(工学)

岡田 慎哉**

OKADA Shinya

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム主任研究員博士(工学)

表 真也***

OMOTE Shinya

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム研究員

松井 繁之****

MATSUI Shigeyuki

大阪工業大学八幡工学実験場構造実験センター客員教授工学博士

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