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NTT 技術ジャーナル 2016.10 71 分線用金物の把持力低下 分線用金物は,メタル屋外線・ドロップ光ファイバ(以 下,引込線)を架空ケーブルもしくはつり線から分岐さ せ,お客さま宅へ配線するために用いられます.この分 線用金物は,支持板と呼ばれる部材 2 枚を架空ケーブル 支持線やつり線に挟み込み,ボルト締めすることで固定 させています(図₁ ). しかし,近年この分線用金物が何らかの要因で把持力 が低下する事象が発生しています.NTT東日本技術協 力センタでは発生の都度,現場へ駆けつけての調査 ・ 原 因分析 ・ 対策検討などを個別に行ってきました. 分線用金物の特性評価 今回問題となっている「分線用金物の把持力低下」は 以前より全国各地から情報があがってきており,技術協 力センタで現地調査を実施した案件を詳細に分析したと ころ,架空SSケーブル支持線での発生以外に傾向の規 則性は見受けられませんでした.そこで引張り試験によ る把持耐力の評価とさらに実設備に近い環境を構築し, さまざまな条件下で分線用金物の把持力低下を再現さ せ,把持力低下メカニズムの解明を行いました. ■引張り試験による把持耐力の評価 分線用金物の把持特性としては,「締付けトルク」「支 持物(ケーブル支持線・つり線)の径」「引落し角度」 など,金物の設置状態によって変わると推測しました. 具体的には支持板に対する締付けトルクは規定値 「30 N・m」 と規定を満足しない 「10 N・m」 の 2 パターン,支 持線は 「1₈ mm 「22 mm 「30 mm 」 の自己支持型の 3 種類を組み合わせ,引き落とし角度 「0°」 「45°」 「90°」 の 3 方向に張力をかけて評価を実施しました(図₂ ). 引張り力による把持特性の評価結果をに示します. 分線用金物の種類と支持線径がどの組合せの場合でも引 落し角度(張力方向)が45°の場合には,支持板の把持 耐力がもっとも小さくなることが分かります.締付けト ルクが10 N・mと規定のトルク値を下回った場合には, お客さま宅 RTB RTB 分線用金物 図 1  設備構成例 90°方向 45°方向 0°方向 分線用金物 図 2  引張り試験の荷重方向 安心 ・ 安全な通信設備維持のための取り組み:分線用金物の信頼性評価 通信サービスの提供に欠かせない通信ケーブルやそれを支持する構造物(電柱 ・ 金物)は,屋外に設置されるため, その性質上第三者に対する安心 ・ 安全を脅かすことのないよう,より確実に維持 ・ メンテナンスを行う必要がありま す.しかし,屋外設備に関する特異事象がNTT東日本技術協力センタに寄せられています.ここでは架空ケーブル支 持線やつり線に取り付けられる「分線用金物」の把持力低下に関する課題,およびその取り組みについて紹介します.

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Page 1: 安心・安全な通信設備維持のための取り組み:分線用金物の ...RTB RTB 分線用金物 図1 設備構成例 45 方向 90 方向 0 方向 分線用金物 図2

NTT技術ジャーナル 2016.10 71

分線用金物の把持力低下

分線用金物は,メタル屋外線 ・ ドロップ光ファイバ(以下,引込線)を架空ケーブルもしくはつり線から分岐させ,お客さま宅へ配線するために用いられます.この分線用金物は,支持板と呼ばれる部材 2 枚を架空ケーブル支持線やつり線に挟み込み,ボルト締めすることで固定させています(図 ₁).

しかし,近年この分線用金物が何らかの要因で把持力が低下する事象が発生しています.NTT東日本技術協力センタでは発生の都度,現場へ駆けつけての調査 ・ 原因分析 ・ 対策検討などを個別に行ってきました.

分線用金物の特性評価

今回問題となっている「分線用金物の把持力低下」は以前より全国各地から情報があがってきており,技術協力センタで現地調査を実施した案件を詳細に分析したところ,架空SSケーブル支持線での発生以外に傾向の規

則性は見受けられませんでした.そこで引張り試験による把持耐力の評価とさらに実設備に近い環境を構築し,さまざまな条件下で分線用金物の把持力低下を再現させ,把持力低下メカニズムの解明を行いました.■引張り試験による把持耐力の評価

分線用金物の把持特性としては,「締付けトルク」「支持物(ケーブル支持線 ・ つり線)の径」「引落し角度」など,金物の設置状態によって変わると推測しました.

具体的には支持板に対する締付けトルクは規定値 「30 N・m」 と規定を満足しない 「10 N・m」 の 2 パターン,支持線は 「1₈ mm2」 「22 mm2」 「30 mm2」 の自己支持型の 3種類を組み合わせ,引き落とし角度 「 0 °」 「45°」 「90°」の 3 方向に張力をかけて評価を実施しました(図 ₂).

引張り力による把持特性の評価結果を表に示します.分線用金物の種類と支持線径がどの組合せの場合でも引落し角度(張力方向)が45°の場合には,支持板の把持耐力がもっとも小さくなることが分かります.締付けトルクが10 N・mと規定のトルク値を下回った場合には,

分線用金物の把持力低下

分線用金物の特性評価

お客さま宅

RTBRTB分線用金物

図 1  設備構成例

90°方向45°方向

0°方向

分線用金物

図 2  引張り試験の荷重方向

安心 ・ 安全な通信設備維持のための取り組み:分線用金物の信頼性評価通信サービスの提供に欠かせない通信ケーブルやそれを支持する構造物(電柱 ・金物)は,屋外に設置されるため,その性質上第三者に対する安心 ・安全を脅かすことのないよう,より確実に維持 ・メンテナンスを行う必要があります.しかし,屋外設備に関する特異事象がNTT東日本技術協力センタに寄せられています.ここでは架空ケーブル支持線やつり線に取り付けられる「分線用金物」の把持力低下に関する課題,およびその取り組みについて紹介します.

Page 2: 安心・安全な通信設備維持のための取り組み:分線用金物の ...RTB RTB 分線用金物 図1 設備構成例 45 方向 90 方向 0 方向 分線用金物 図2

NTT技術ジャーナル 2016.1072

さらに支持板の把持耐力が低下し,引落し角度(張力方向)が45°の場合には,30 N・mで締め付けた場合の最大4 分の 1 程度の把持力になることが分かりました.■線路設備を模擬した再現実験(振動実験)

技術協力センタが過去現地対応した把持力低下事例を基に,実設備に近い架空線路設備を実験用として構築し,そこに評価用の分線用金物に対し条件(締付けトルク ・ 配線形態等)を変えて設置し,一定の負荷(振動)をケーブルに付与しながら把持力低下が再現されるか評価を行いました(図 3).

施工の条件については分線用金物のナットの締付けトルクを適正値である30 N・mと,施工者のヒューマンエラーを想定し適正ではない10 N・mの 2 条件としました.さらに過去の把持力低下事例ではケーブル支持線の傷跡から「回転しながら把持力低下」していると推測しているものが複数件あることから,引込線の引落し配線角度が回転する要素であると想定し,引込線の引落し配線角度を①90°:直角,②45°:鋭角,③135°:鈍角の 3 パター

ンで設定しました.なお,実験で使用した分線用金物は現行の「S」と従来品である「B」「K」の計 3 種類,

締付けトルク 金物種別 支持線径(mm2)

引落し角度(kN)0 ° 45° 90°

30 N・m

分線用金物「B」

18 2.5 1.6 5.222 2.4 1.5 5.530 2.0 1.0 4.1

分線用金物「K」

18 3.1 2.2 5.722 3.0 1.7 5.630 3.0 1.5 5.8

10 N・m

分線用金物「B」

18 1.7 0.7 2.922 1.5 0.4 2.130 1.1 0.4 1.8

分線用金物「K」

18 2.6 1.1 6.222 2.0 0.7 6.330 2.4 0.7 5.8

表 引張り力による把持特性評価

固定用壁固定用壁固定用壁

135°加振機45°加振機90° 90°CPCPCPCP

45°および135°90°

図 3  振動試験の評価構成

Page 3: 安心・安全な通信設備維持のための取り組み:分線用金物の ...RTB RTB 分線用金物 図1 設備構成例 45 方向 90 方向 0 方向 分線用金物 図2

NTT技術ジャーナル 2016.10 73

負荷を与える振動試験機の設定値は周波数2.5 Hz,振幅3₇ cm,振動時間₆0分とし,分線用金物の把持力低下が再現されるか,実験を行いました.

その結果,ナット締付けが規定値である30 N・mの場合は,すべての試験条件において把持力低下は再現されませんでした.一方でナットの締付けトルクが規定値を下回る10 N・mの場合においては,従来品である分線用金物「K」「B」で,かつ引込線の引落し角度が45°の場合において把持力低下が再現されました.しかし10 N・mでも,引落し配線角度が90°や135°と鋭角ではない場合は従来品である分線用金物「K」「B」でも把持力低下は再現されませんでした.また現行品である分線用金物「S」においては,締付けトルクが10 N・mであっても,配線角度が条件にかかわらず把持力低下は全く再現されませんでした.

以上の実験結果から,①ナットの締付けトルクが規定値を下回る10 N・m,②引落し角度が45°:鋭角,③従来品である分線用金物「K」「B」では把持力の低下が再現され,把持力低下リスクが高いことが判明しました.逆に① ・ ②の条件でも分線用金物「S」では把持力低下はせず,現行品では把持力低下リスクは低いことが判明しました.

現行の分線用金物の工事規格では,「ガタツキ,傾きなく30 N・mで取り付ける」および「原則としてケーブルと直角に引落とすこと」となっています.今回の実験結果から,少なくとも工事規格で定められた締付けトルクが規定値を遵守した施工であれば,分線用金物の把持力低下は起こらないと考えます.逆に規定トルクを満足しない場合でかつ配線形態などによっては把持力低下のリスクは否定できない結果となりました.

なお,現在の分線用金物「S」については,過去の分線用金物と比較し形状が改良されており,「ガタツキや傾き」が発生しにくい構造になっていることから,規定値で締め付けられていることで把持力低下リスクは相当軽減されると考えられます.それは本検証でも証明されているといえます.

検証は現在も引き続き実施しており,今後はさらに「ガタツキや傾き」での施工における評価など,今回実施した試験条件以外での評価も行っていき,把持力低下メカニズムを解明していきます.

分線用金物の施工時においては「ガタツキ,傾きなく30 N・mで取り付ける」および「原則としてケーブルと直角に引落とすこと」など,工事規格を理解 ・ 遵守し正しく施工することが重要です.

今後の展開

分線用金物が架空ケーブル支持線やつり線から把持力低下し,引込線が垂れ下がる事象が発生し,事故になってしまうことは避けなければなりません.なぜ把持力低下してしまうのかそのメカニズムを科学的に解明し,そのうえで対策を講じて安全な設備を提供できるよう,技術協力センタでは引き続き設備の信頼性向上,故障低減に向けた取り組みを進めていきます.

◆問い合わせ先NTT東日本 ネットワーク事業推進本部

サービス運営部 技術協力センタTEL 03-5480-3701E-mail gikyo ml.east.ntt.co.jp

今後の展開