アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築...

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アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援 1 アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援 山下 光 〈要旨〉 現在の平和維持活動(PKO)の多くは、アフリカ諸国・地域の紛争を管理するために組 織されている。こうした中、2002 年のアフリカ連合(AU)創設を契機として、アフリカ諸国 自身も大陸レベルでの PKO 能力を整備強化するための努力を続けてきた。そしてこうした努 力を後押しすべく、域外の主要な組織や国家も能力構築支援を実施してきている。本論では、 アフリカ待機軍(ASF)構想を中心として進捗している大陸規模の PKO 能力整備計画と、 それに対する国連と欧州連合(EU)による能力構築支援をとりあげ、それらの取り組みが 持つ特徴や意味合いを考察する。 はじめに 1 現在の平和維持活動(PKO)の多くがアフリカ諸国・地域の紛争を管理するために組織 されていることは広く知られている。国連 PKO を例にとれば、2000 年以降に設立された 16 のミッションのうち 12 がアフリカの紛争に関するものである(その他は東ティモール 2 件、ハイ チ、シリア各 1 件) 2 2015 年末の時点で展開している 16 ミッションをみても、そのうち 9 件が アフリカ大陸で展開しているものであるのに対し(これらはすべて 2000 年以降の設立)、他 地域で展開中の 7 件はそれ以前から長期にわたり活動を継続しているもの(いわゆる「レガ シー・ミッション」)がほとんどである 3 現代の PKO がアフリカの紛争を焦点として進展してきたことはこうした趨勢からも明らかであ るが、アフリカ地域自体もまた、2002 年のアフリカ連合(AU)創設を契機として、大陸レベルで PKO 能力を整備するための努力を続けてきた。そしてこうした努力を後押しすべく、国連や 1 本稿は 2016 1 月に脱稿しており、記述は基本的に同月までの情報に基づいている。 2 UN, List of Peacekeeping Operations 1948-2013, available from <http://www.un.org/en/peacekeeping/ documents/operationslist.pdf>, accessed 19 October 2015. 3 UN, Current Peacekeeping Operations, available from <http://www.un.org/en/peacekeeping/operations/ current.shtml>, accessed 5 January 2016. アフリカ以外の 7 つのミッションは国連休戦監視機構(UNTSO1948 年設立)、国連インド ・パキスタン軍事監視団(UNMOGIP 1949 年)、国連キプロス平和維持隊(UNFICYP 1964 年)、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF1974 年)、国連レバノン暫定隊(UNIFIL1974 年)、国連西サ ハラ住民投票監視団(MINURSO1991 年)、国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK1999 年)である。

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アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

山下 光

〈要旨〉

現在の平和維持活動(PKO)の多くは、アフリカ諸国・地域の紛争を管理するために組織されている。こうした中、2002年のアフリカ連合(AU)創設を契機として、アフリカ諸国自身も大陸レベルでの PKO能力を整備強化するための努力を続けてきた。そしてこうした努力を後押しすべく、域外の主要な組織や国家も能力構築支援を実施してきている。本論では、アフリカ待機軍(ASF)構想を中心として進捗している大陸規模の PKO能力整備計画と、それに対する国連と欧州連合(EU)による能力構築支援をとりあげ、それらの取り組みが持つ特徴や意味合いを考察する。

はじめに 1

現在の平和維持活動(PKO)の多くがアフリカ諸国・地域の紛争を管理するために組織されていることは広く知られている。国連 PKOを例にとれば、2000年以降に設立された 16

のミッションのうち 12がアフリカの紛争に関するものである(その他は東ティモール 2件、ハイチ、シリア各 1件)2。2015年末の時点で展開している16ミッションをみても、そのうち 9件がアフリカ大陸で展開しているものであるのに対し(これらはすべて 2000年以降の設立)、他地域で展開中の 7件はそれ以前から長期にわたり活動を継続しているもの(いわゆる「レガシー・ミッション」)がほとんどである 3。現代の PKOがアフリカの紛争を焦点として進展してきたことはこうした趨勢からも明らかであ

るが、アフリカ地域自体もまた、2002年のアフリカ連合(AU)創設を契機として、大陸レベルでの PKO能力を整備するための努力を続けてきた。そしてこうした努力を後押しすべく、国連や

1 本稿は 2016年 1月に脱稿しており、記述は基本的に同月までの情報に基づいている。2 UN, “List of Peacekeeping Operations 1948-2013,” available from <http://www.un.org/en/peacekeeping/

documents/operationslist.pdf>, accessed 19 October 2015. 3 UN, “Current Peacekeeping Operations,” available from <http://www.un.org/en/peacekeeping/operations/

current.shtml>, accessed 5 January 2016. アフリカ以外の 7つのミッションは国連休戦監視機構(UNTSO、1948年設立)、国連インド・パキスタン軍事監視団(UNMOGIP、1949年)、国連キプロス平和維持隊(UNFICYP、1964年)、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF、1974年)、国連レバノン暫定隊(UNIFIL、1974年)、国連西サハラ住民投票監視団(MINURSO、1991年)、国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK、1999年)である。

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欧州連合(EU)をはじめとする域外の主要な組織や国家も能力構築支援を実施してきている。そこで本論では、AUによるアフリカPKO能力整備とそれに対する域外からの能力構築支援の動向を整理するとともに、それらの取り組みが抱える課題の把握を行い、今後の展望を考察する。なお、アフリカPKO能力への支援といった場合、AU等が派遣しているミッションに対する財政・兵站支援や、他機関が同じ国・地域に派遣しているミッションとの協力を通じた支援も広義には含まれる。しかし本論では、派遣を契機としたそれらの支援ではなく、それとは一応切り離され、能力構築を明示的目標として行われているPKOアクター間の組織的な(いわば平素からの)協力に焦点を当てる。第 1節では、アフリカ待機軍(ASF)を中心して進んできたAUによるPKO能力整備の計画と現在までの進捗を同定する。第 2節ではこれを踏まえた上で、この分野で最も主導的な役割を果たしている国連とEUの活動を取り上げ、その実績や問題点を指摘する。アフリカPKO能力構築に関してはこれらの国際機構以外にも各国ベースでさまざまな活動が行われているが 4、本論ではそれ自体が PKOミッションを組織派遣する主体でもある国連および EUによる支援を取り上げることで、PKOをめぐる国際・地域機構間の協力の現状の全体像を把握する機会としたい5。結論では第2節、第3節の内容を踏まえ、今後のアフリカPKO能力構築支援の展望や日本の同分野における活動への示唆を考察する。

1 アフリカ待機軍(ASF)

(1)ASF構想と能力ニーズ本節では、AUにおけるASF構想の背景や同構想の具体的内容を整理する。ASF構想が直接の根拠としているのは、AU平和安全保障理事会(PSC)の設立を定めた PSC

創設議定書(2002年 7月9日採択)である。同議定書では、軍民の諸能力からなり、早期展開態勢を備えた「待機多機能部隊」の設置を求めていた 6。これはさらに言えば、AU

設立条約(2000年 7月11日採択)の中で、深刻な諸事態(戦争犯罪、ジェノサイド、人道に対する罪)が発生した場合 AUとして介入する権利を持ち(第 4条(h))、そして加盟国の側も平和と安全の回復のため、AUに対して介入の要請をする権利を有する(同(j))

4 例えば、主要なドナー国であるG8メンバー各国の支援をまとめたものとしては、山下光「平和維持活動における能力構築支援―G8を中心として」『防衛研究所紀要』第 14巻第 2号(2012年 3月)1-17頁を参照。

5 実際、EUと国連が PKOおよび危機管理分野における将来的な協力の方向性を取り決めた最近の文書では国連・EU・AUの 3者協力(trilateral cooperation)という言葉が用いられており、これら3機関間の協力関係はかなり自覚的なものとなっているようである。See, e.g., Strengthening the UN-EU Strategic Partnership on Peacekeeping and Crisis Management: Priorities 2015-2018, EU Doc. EEAS 458/15, 23 March 2015, sect. III 2.

6 The Protocol relating to the Establishment of the Peace and Security Council of the African Union (PSC Protocol), 9 July 2002, art. 13.1.

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とされている点に依拠している7。実は、アフリカ諸国による大陸内の紛争管理を目的としたこうした部隊構想は1960年代からさまざまな形で提案されてきたのであるが 8、1990年代の国内・地域紛争およびその帰結(ルワンダ・ジェノサイドなど)に対する反省から、AUにおいてはようやくその構想が正式な役割としての位置付けを得るようになったのである 9。

PSC創設議定書では、ASFは次の 7つの展開シナリオを念頭に使用されるとされている。

a. 監視ミッションb. その他の平和支援ミッションc. AU設立条約第 4条(h)および(j)に従い、深刻な事態またはAU加盟国の要請に関連した加盟国への介入

d. ①係争または紛争のエスカレーション、②進行中の暴力を用いた紛争の近隣地域・国への拡散、③紛争当事者間の合意後の暴力の再発のいずれかを防ぐための予防展開

e. 紛争後の武装解除・動員解除を含む平和構築f. 紛争地域における文民の苦難を軽減するための人道支援および大規模自然災害対処のための支援努力

g. PSCまたはAU議会の決定に拠るその他の諸機能 10

このようにAUが有すべき紛争管理機能の正式な一部として設置されることになったASF

であるが、それを実際に整備するためには、求められる具体的能力の一覧や整備のためのスケジュールを作成する必要があった。こうして作成されたのが「ASF設立のための政策枠組み」(以下「政策枠組み」)であり、2004年のAU議会で最終的に採択されている 11。 「政策枠組み」は能力整備の観点から上記の 7シナリオを6つの「紛争シナリオ」へと具

7 The Constitutive Act of the African Union, 11 July 2002, art.4.8 Klaas von Walraven, “Heritage and Transformation: From the Organization of African Unity to the

African Union,” in: Ulf Engel and João Gomes Porto (eds.), Africa’s New Peace and Security Architecture:

Promoting Norms, Institutionalizing Solutions (Farnham and Burlington VT: Ashgate, 2010), pp. 49-52.9 AUの安全保障機能に焦点を当てた成立経緯の説明としては、Kathryn Sturman and Aïssatou Hayatou, “The

Peace and Security Council of the African Union: From Design to Reality,” in Engel and Porto, Africa’s New

Peace and Security Architecture, Ch. 4; Benedikt Franke, Security Cooperation in Africa: A Reappraisal (Boulder, CO: FirstForumPress, 2009), Ch. 5を特に参照のこと。

10 PSC Protocol, art. 13.3.11 Decision on the African Standby Force (ASF) and the Military Staff Committee (MSC), AU Doc.

Assembly/AU/Dec.35 (III), 6-8 July 2004. 検討プロセスについては Report of the Chairperson of the Commission on the Meeting of Ministers of Defence, held in Addis Ababa, Ethiopia, on 20-21 January 2004および Draft Policy Framework on the Establishment of the African Standby Force (ASF) and the Military Staff Committee (MSC), AU Doc. Ex. CL/110 (V), 23 June-3 July 2004を参照。

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体化し、それに基づいた能力の一覧と今後の整備計画を提示している。まず、紛争シナリオとそれぞれにおける活動のタイムラインについては以下が掲げられている。

表 1 「政策枠組み」における「紛争シナリオ」

シナリオタイムライン

展開開始 展開期間1 政治ミッションに派遣されるAU軍事顧問 授権後展開開始までの期間

として―1~ 4および 5(軍事部隊):30日以内

5(軍事部隊以外):90日

6:14日以内

自足的な活動ができる期間として―1~ 3:30日間

4~ 6:90日間

2 国連ミッションと同時に展開するAU監視ミッション3 単独での監視ミッション4 国連憲章第 6章授権あるいは予防展開のための

AU平和維持部隊5 スポイラー対処の諸能力を備えた複合多機能型

PKOミッション6 ジェノサイド的状況に対する全面的な軍事介入

(出所)The Policy Framework for the Establishment of the African Standby Force and the Military Staff Committee, AU Doc. Exp/ASF-MSC/2(I), 15-16 May 2003, paras. 1.6., 2.9, 2.29.

これらの活動を可能にする能力については 4つのレベル(政治レベル、戦略レベル、ミッション司令部およびミッション各部門)があるとされる。ミッションの創設や任務付与の意思決定に係る政治レベルの能力整備はもちろん重要であるが、本論の目的から、ここではミッションの管理および運用に必要とされる能力を中心に見てみることにしたい。そうした能力は、「政策枠組み」においては次の4つからなるシステムとして提示されている。

① 各ミッション司令部要員の派遣準備を行うAUスタッフおよびミッションに派遣される文民専門家② 各準地域 12から提供される5旅団(計画スタッフおよび支援ユニット含む)③ AU隷下の高度即応旅団(計画スタッフおよび支援ユニット含む)④ AU管理の軍事監視要員および警察要員の派遣システム 13

12 アフリカの地域機構は大陸全体をカバーするAUと、西アフリカ、中部アフリカなどより限られた地域の諸国により設立されたさまざまな地域機構の 2種類からなっており、後者は前者と区別して準地域機構(sub-regional organization)または地域経済共同体(REC)と呼ばれる。本論では引用を除き、準地域機構という名称を使用する。

13 Exp/ASF-MSC/2(I), para. 3.4. なお、こうした実質的な部隊整備に加え、大陸および準地域それぞれにおける兵站・補給インフラ、AU内の装備の標準化、持続的財源の確保、要員提供国に対する償還金制度、指揮命令手続きなども必要である旨が記されている。Ibid., para. 2.30-39.

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さて、これら4つは紛争シナリオで求められる活動能力を概ねカバーしているといえるが 14、それらが短期間かつ同時に整備できるわけではもちろんない。「政策枠組み」はこうした野心的目標とAU内の現状の能力との間に「明らかかつ重大で根本的なギャップ」があることを認め 15、ASFを中長期的なプロジェクトとして 2期(2005年 6月までと2010年 6月まで)に分けて推進することを構想する。このうち第 1期については、①大陸(即応旅団)および準地域それぞれにおいて常設の軍事計画部門(PLANELM、15人)16および待機旅団、② AU管理の軍事監視要員ロスター(300~ 500人規模)、③ AU管理の警察要員ロスター(240人以上)および少なくとも2個中隊の警察部隊(FPU)、④ AU管理のミッション行政官および文民専門家ロスターの整備を目指すとした 17。第 1期についてさらに具体的な整備目標を示した「ASF運用化のためのロードマップ」(2005年 3月、以下ロードマップ I)によると、ASFの中心をなす待機旅団(上掲①)については以下のような構成が考えられている。

• 旅団司令部および支援ユニット(65人、車両 16台)• 司令部中隊および支援ユニット(120人)• 軽歩兵大隊 4個(各 750人、車両 70台)• 施設ユニット(505人)• 軽通信ユニット(135人)• 偵察中隊(150人)• ヘリコプター・ユニット(80人、車両 10台、ヘリ4機)• 軍事警察ユニット(48人、車両 17台)• 軽多機能兵站ユニット(190人、車両 40台)• 医療ユニット(レベル 2、35人、車両 10台)• 軍事監視グループ(120人)• 文民支援グループ(行政、財務、ロジ支援等の機能を含む)18

14 上記した紛争シナリオは活動の規模や烈度が段階的に設定されており、それぞれに必要とされる能力は異なっている。これらの中でとりわけシナリオ1~5はミッション構成要素がより多機能なものへと積み上げられる構成となっており、その意味でシナリオ 5(多機能 PKO)は能力整備上重要なベンチマークとなっている。実際、「政策枠組み」では、アフリカにおける実際の活動ニーズやAU加盟国の有する資源などに鑑み、シナリオ 5、特にその軍事部門の能力整備を当面は優先するとされている。Ibid., para. 2.10.

15 Exp/ASF-MSC/2(I), para. 3.3.16 その後(2004年 1月)開催された国防相会合では、まず核となる 5人の組織により立ち上げ、その後段階を踏んで拡充する方向性が示されている。EX.CL/110(V), para. 6.

17 Exp/ASF-MSC/2(I), para. 3.12-14. 18 Roadmap for the Operationalization of the African Standby Force, AU Doc. EXP/AU-RECs/ASF/4(I),

22-23 March 2005, Annex A, para. 5.

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ミッション管理に関しては、PSC創設議定書がそのために必要な組織や手続きの青写真を示している。AUミッション 19は文民の特別代表により率いられる。同代表はAUの行政部門であるAU委員会議長により任命され、同議長に対し責任を負う。軍事部門の長である司令官も委員会議長に任命されるが、司令官が責任を負うのは議長ではなく特別代表に対してであることが明記されている。ミッションはAU委員会の提案に基づきPSCの承認を得て設立される。PSC構成国(大陸内の5地域から2年または3年の任期で選出される15カ国)の幹部将校(参謀総長レベル)をメンバーとする軍事参謀委員会は、PSCに対し活動の軍事的側面に関して助言を行う20。本論の視点から議定書で注目されるのは、AU委員会が「国連事務局と協議の上で、訓練、兵站、装備、通信および財源面でのASF能力構築支援に向けた外部イニシアティブ調整に関する支援を行う」と記していることである21。国連事務局の役割がこの文脈で明記されていること、そしてAU委員会が ASFに対する外的支援の窓口の役割を期待されていることがここから理解できる。こうした管理能力について、「政策枠組み」は第 1期にはAUレベル(シナリオ 1~ 3)および各準地域(シナリオ 4)でのミッション司令部設立・管理の確立、第 2期にはシナリオ 5までについてミッション管理能力整備を目指すとしている 22。

(2)進捗と課題このような形で当初構想されたASFであるが、その後さまざまな変更がなされてきている 23。まずスケジュールであるが、上記した実施のためのタイムラインは数回にわたり修正されたのち 2段階から3段階へと変更され、さらに完全運用能力を宣言する最終的な期限は2010年から2015年にまで延長された(ただし、2015年末の時点でこの趣旨の宣言はなされていない)。構想そのものの内容についても、シナリオ 6に必要とされる展開能力は早期

19 PSC創設議定書では、AUのミッションは ASFを通じて部隊形成がなされることが想定されているが、これまでのところ、実際の部隊派遣を伴うミッションはすべてアドホックな形で組織されている。ただしASFに伴って整備がされているミッション管理能力については、これらミッションに対しても用いられている模様である。

20 The PSC Protocol, art. 13.6-12.21 The PSC Protocol, art. 13.16.22 Exp/ASF-MSC/2(I), para. 3.8-11.ここでシナリオ1~ 3がAU、4が準地域にそれぞれ割り振られているのは、シナリオ4(および 5)が主に 5つの準地域による部隊派遣を想定しているのに対し、それ以下の派遣である前者(個人と小規模な監視ミッション)は AUが直接組織・派遣することになっているためである。なお、最も烈度が高いシナリオ 6は「政策枠組み」を見るかぎりでは AU隷下の高度即応旅団が対応する(すなわち前者)ものと考えられていたが、次節で述べるように、その後準地域機構に依存した整備の方向性にシフトしているようである。

23 ASFの進捗に関するより具体的な評価としては Jakkie Cillers and Johann Pottgieter, “The African Standby Force,” in Engel and Porto, Africa’s New Peace and Security Architecture, Ch.7.; Benedikt Franke, “Steady but Uneven Progress: The Operationalization of the African Standby Force,” in: Hany Besada (ed.), Crafting

an African Security Architecture: Addressing Regional Peace and Conflict in the 21st Century (Fahnham and Burlington, VT: Ashgate, 2010), Ch.11.

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展開能力(RDC)として新たに定義されるようになった。第 3期の整備計画を示したASF

ロードマップ III(2011年 10月)によると、RDCは地域ごとに短期(3か月以内)の高烈度な展開能力を整備するものとし、AU全体としては 2地域が RDCを同時に展開できる態勢を持つ必要があると考えられている。RDCの運用化期限は当初 2012年に設定された 24。しかしRDC整備が実際には遅 と々して進まないため―2015年に出されたある論考では、RDCは「不在のまま」であると評価されている 25―大陸レベルの早期展開能力を確保するための新たなアプローチが 2013年から提唱されるようになった。アフリカ即時危機対応能力(ACIRC)構想がこれである。

ACIRCは2013年4月、マリ内戦に対するAUの対応の遅れという文脈の中でヌコサザナ・ドラミニ=ズマAU委員長(Nkosazana Dlamini-Zuma)により最初に提唱され、翌月AU

議会において正式に採用された枠組みである。ACIRCは、AU加盟国による自発的貢献またはASFを通じて整備された準地域の能力をもとに、新たな危機に対して早期展開が可能な軍・警察能力の「柔軟かつ強い」部隊をAUにもたらすことを目的としている 26。具体的な構想としては、5,000人規模の登録要員からなるとされ、そこから1,500人規模の戦闘グループが編成されるという。タイムラインとしては、PSCによる授権から10日以内の派遣と少なくとも30日間の自律的活動が目指されている27。準地域別にあらかじめ編成され展開される部隊を前提とするASFと異なり、ACIRCは活動を希望する各国政府によるオファーとPSC

による承認というプロセスで派遣がなされる28。ここでASFとの関係が問題になるのであるが、現在では、ACIRCはASF(とりわけRDC)の運用が軌道にのるまでの「暫定措置」であり、その活動は平和・安全保障面におけるAUの枠組み全体(アフリカ平和安全保障アーキテクチャー:APSAと総称される)の中で実施されるという形で整理がなされている 29。2013年

24 See the African Stand-By Force (ASF) Roadmap III, adopted at the 5th Ordinary Meeting of the Specialized Technical Committee on Defence, Security and Safety, 23-16 October 2011, para. 14.

25 Peter Fabricius, “Standing By or Standing Up: Is the African Standby Force Nearly Ready for Action?” ISS

Today, 23 July 2015.26 Decision on the Establishment of an African Capacity for Immediate Response to Crises, AU Doc.

Assembly/AU/Dec.489(XXI), 26-27 May 2013, para. 2.27 Report of the Chairperson of the Commission on the Operationalisation of the Rapid Deployment

Capability of the African Standby Force and the Establishment of an “African Capacity for Immediate Response to Crises,” AU Doc. RPT/Exp/VI/STCDSS/(i-a)2013, 29-30 April 2013, paras. 26-30. 具体的には、3つの戦闘グループ(それぞれに 850人規模の歩兵大隊、戦闘支援および兵站能力、部隊司令部を有する)が想定されている模様である。Ibid., paras. 31-38.

28 Decision on the Operationalization of the African Capacity for Immediate Response to Crises: Doc. Assembly/AU/4(XXII), AU Doc. Assembly/AU/Dec.515(XXII), 30-31 January 2014, para. 4.

29 Assembly/AU/Dec.489(XXI), para. 2.なお、APSAは PSC、ASFのほか、平和基金、賢人会議、大陸早期警戒システム(CEWS)からなっている。

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後半における議論を経て 30、AU議会は 2014年 1月、ACIRCが 12カ国の参加を得て可能となったと宣言した31。2015年末の時点ではACIRCはまだ実際に派遣されているわけではなく、またACIRCが ASF整備を促進する役割を担うのか否かについてもコンセンサスがあるとは言えない。ASFとACIRCの関係は域内政治的な側面もあり、ACIRCを主導する南アフリカと、同国の意図への疑いや新たな負担に対する不安を有する他の地域大国(ナイジェリアなど)との間の政治的対立も絡み合っているという32。

こうした変遷や議論はあるものの、ASFはアフリカPKO能力の青写真としての役割を果たし続けている。若干見方を変えて言えば、「政策枠組み」等で具体的に示されているASF

構成能力の一覧は、AUが PKO能力を整備する上でどのような支援が必要なのかを要約したものであるともいえる。実際、ASF構想を正式に採用するに当たり、AU議会は必要な能力構築支援を提供するよう「特にG8、欧州連合、国連および二国間のパートナー」を中心とした国際社会のパートナーに要請している 33。ここから、G8サミット、国連、そしてEU

に対するAUの期待の高さがうかがえるが、以下では国連および EUに焦点を当て、両機関による支援の概要と特徴を把握するようにしたい 34。

2 国連による支援―制度構築への注力

国連によるアフリカPKOに対する支援は、AUの前身であるアフリカ統一機構(OAU)の時代にさかのぼるが 35、OAUからAUへと発展し、AUが上記したようなPKO能力整備に本格的に取り組むようになるにつれ、国連も能力構築支援を強化していった。本節ではそ

30 例えば、南アフリカは 2013年 11月 5日、ACIRCへの参加を検討している各国の首脳を集めたサミット会合をプレトリアで開催している。 Department of International Relations and Cooperation (South Africa), “Consultative Summit for the African Capacity for Immediate Response to Crises (ACIRC) 5 November 2013,” available from <http://www.dfa.gov.za/docs/2013/acirc1104.html>, accessed 31 July 2015.

31 Assembly/AU/Dec.515(XXII), para. 2.参加国はアルジェリア、アンゴラ、チャド、エチオピア、ギニア、モーリタニア、ニジェール、南アフリカ、セネガル、スーダン、タンザニア、ウガンダであった。

32 Fabricius, “Standing By or Standing Up”; Jason Warner, “Complements or Competitors? The African Standby Force, the African Capacity for Immediate Response to Crises, and the Future of Rapid Reaction Forces in Africa,” African Security 8, iss. 1 (March 2015), pp. 63-64.

33 Assembly/AU/Dec.35 (III), para. 3.34 G8のこの分野でのイニシアティブについては山下「平和維持活動における能力構築支援」を参照。35 例えば 1993年 9月に開催された両者の会合では、① OAUによる国連ミッションへの関与・参加を通じ、両組織が平和創造・維持に関する定期的な共同活動をすべきであること、② OAUが PKOを行う場合、国連は技術支援を提供すべきであること、③ OAUの平和創造・維持活動に対し、国連は財政・兵站支援を動員すべく協力すべきであること、④ OAU加盟国が国連 PKOに参加できるよう、OAUが同加盟国の軍事部隊に対して実施する訓練プログラムを国連は支援すべきであること、が合意されていた。Cooperation between the United Nations and the Organization of African Unity: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/48/475/Add.1, 15 October 1993, para. 23.

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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れを取り上げるが、まず端的に国連によるそうした支援の特徴を挙げるとすれば、AUおよび準地域機構によるミッション管理能力強化への注力が指摘できる。これも、その端緒はOAU

時代に既にみられている。「平和のための課題追補」(1995年)発表を受けたフォローアップの中で、ブトロス・ブトロス=ガリ事務総長(Boutros Boutros-Ghali)はOAU本部への国連連絡官の派遣、OAU紛争予防・管理・解決メカニズムを強化するためのスタッフ交流の開始、OAUミッションが組織される場合の兵站・計画面での支援、OAUシチュエーション・ルーム設立への支援、PKO訓練の共同実施といったアイデアを提起した 36。その後90年代の後半の時点でいくつかの提案は実現している。例えば、1996年 7年にアフリカ紛争予防・平和維持能力強化を目的とした国連信託基金(UN Trust Fund for Improving

Preparedness for Conflict Prevention and Peacekeeping in Africa)が設立されたのに続き、1998年 4月にはOAU本部の所在するアディスアババ(エチオピア)に国連連絡事務所が設立されている 37。安保理決議 1197(1998年 9月18日)はこうした進展を支持し、OAUおよび準地域機構によるPKO実施の際、その兵站・財政所要を同定できるよう国連が支援することを事務総長に対して求めている。1999年 2月の報告では、コフィ・アナン事務総長(Kofi Annan)は PKOスタッフとの意見交換を目的としたアフリカ軍事要員の国連本部への招へいや、アフリカ人警察要員を対象とした PKO訓練プログラムの創設などによる支援のさらなる拡大を示唆している 38。

AUの創設に伴い、国連事務局によるAU委員会(AUの行政を司る組織であり、国連事務局のカウンターパートにあたる)への支援は継続拡大していった。OAUからAUの過渡期においても、PKO要員や事務局スタッフに対する教育・訓練機会の提供を継続的に実施するのに加え 39、AUの平和・安全保障機能の整備に関しても緊密な協力を行っている。

36 Improving Preparedness for Conflict Prevention and Peace-Keeping in Africa: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/50/711-S/1995/911, 1 November 1995, paras. 9-10, 32, 37, 40.

37 Enhancement of African Peacekeeping Capacity: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/54/63-S/1999/171, 12 February 1999, paras. 15 and Annex; Cooperation between the United Nations and the Organization of African Unity: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/54/484, 21 October 1999, para. 6. 2000年初頭までに、少なくとも1人の軍事連絡要員がコンゴ紛争への国連の対応を背景としてその事務所に配置されている。Second Report of the Secretary-General on the United Nations Organization Mission in the Democratic Republic of the Congo, UN Doc. S/2000/330, 18 April 2000, para. 14 and attached deployment map.

38 A/54/63-S/1999/171, para. 43. 1999年 1月 21日、DPKOとOAUはアフリカPKO強化のための取り組みを議論すべく会合を開催している。この会合には、アフリカ 27カ国の代表が参加したという。A/54/484, para. 16.

39 See, e.g., Implementation of the Recommendations of the Special Committee on Peacekeeping Operations and the Panel on United Nations Peace Operations: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/56/732, 21 December 2001, paras. 53 and 56; Enhancement of African Peacekeeping Capacity: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/59/591, 30 November 2004, para. 16.

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2002年 7月10日にAUが正式に発足すると、平和・安全保障領域での運営能力整備を支援するため、国連事務局内に部局横断的なタスクフォースが作られた 40。ASF構想の作成については域外から助言や支援がなされたが、国連事務局はAUとともにそれらを調整する役割も果たしている 41。

ASF構想整備における国連・AU間の緊密な協力を示す例としては、前述したロードマップ Iが挙げられる。このロードマップにはAUが国際支援を期待する4つの優先分野―① AU・準地域の PLANELMおよび旅団司令部に係る活動・運営コスト、② AU・準地域の兵站基地整備およびドナー提供の装備をASFミッションに投入するためのメカニズム整備(戦略輸送を含む)、③各地域の訓練センターや訓練プログラムに対する支援を通じた地域旅団の訓練、域外の訓練計画に対する派遣を通じたASFスタッフの訓練、④ ASF派遣に対する財政支援―が示されている 42。興味深いのは、このロードマップ Iが発表される4

か月前(2004年 11月)、アナン事務総長はアフリカPKOに関する報告書の中で、アフリカPKOで改善が必要な 4つの要素を挙げていることである。それらは(ア)共通ドクトリン・訓練基準の欠如(上記③に関連)、(イ)装備および戦略輸送を含む兵站支援能力の欠如(②)、(ウ)財源不足(④)、そして(エ)PKOミッションの計画運営に係る制度面の能力欠如(①)であり43、ロードマップにおける優先項目とほぼ一致する。アナンの報告書はAU

と国連がアフリカPKO能力構築について共通といえる問題認識を持っていたことを端的に示すものであるが、同報告書はこの認識に基づいて国連が行うべきいくつかの具体的措置をも提起している。そこにはアフリカ人の中堅警察幹部に対する訓練の提供、必要な装備を柔軟に入手できるようにするための回転資金の創設や兵站訓練の拡大といった内容に加え、AUミッションの計画および初期展開段階における支援を行うための「小規模な核となる計画・助言能力」の設置も含まれていた 44。実は、「計画・助言能力」については 2004年 10月、平和維持活動局(DPKO)の軍事、財政、兵站、警察専門家から構成される国連支援セル(UN Assistance Cell)が既に立ち上げられていたが、あくまで特定ミッション(AUスーダン・ミッション)に対する支援の一環としてであり、恒常的な仕組みとしてではなかった 45。アナンの提言はこの実績をより発展させ

40 Implementation of the Recommendations of the Special Committee on Peacekeeping Operations: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/57/711, 16 January 2003, para. 83.

41 Implementation of the Recommendations of the Special Committee on Peacekeeping Operations: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/58/694, 26 January 2004, para. 94.

42 EXP/AU-RECs/ASF/4(I), para. 28.43 A/59/591, para. 18.44 A/59/591, paras. 19-32.45 Implementation of the Recommendations of the Special Committee on Peacekeeping Operations: Report

of the Secretary-General, UN Doc. A/60/640, 29 December 2005, para. 30.

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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たものであり、国連で毎年 PKOを包括審議する場であるPKO特別委員会もいち早く提言への支持を表明した 46。これを受け、アナンは 2005年 12月に「AUの PKOに関連する事柄についてAUおよびその他のパートナーにとって単一のコンタクト・ポイントとなるような」常設の能力をDPKO内に整備することを改めて提言する 47。この提言も2006年前半にPKO

特別委員会により認められ 48、同年後半には立ち上げに向けた準備が進められた。他方、この頃(2006年 9月)、国連 DPKOとAU平和支援活動局(PSOD)は「AU平和維持能力構築に対する国連支援のためのAU・国連ジョイント・アクション・プラン」(Joint AU/

UN Action Plan for UN Assistance to AU Peacekeeping Capacity Building)を締結しており、新設された平和支援チーム(PST)はその履行を主な任務とすることになった 49。同チームは 2007年 1月、アディスアババとニューヨークを拠点として活動を開始した。訓練コースの運営、AUが進めていた兵站基地概念の見直しへの支援、PKO運営に係る財政その他の手続き的事項に関する助言などをその活動初年においては行っている 50。ジョイント・アクション・プランによると、その目的は「複合・多機能型 PKOを運営するための長期的・制度的能力をAUが整備できるよう支援すること」であり、DPKOのアプローチは「助言と専門知識の提供を通じた知識移転と能力構築の組み合わせ」であるという51。国連がAUの PKOミッション管理能力を重視していることがここからも見て取れる。

その後、AUが ASF整備を具体的に進めていくにつれ、国連の支援体制も強化されて

46 Report of the Special Committee on Peacekeeping Operations and Its Working Group, UN Doc. A/59/19/Rev.1, 31 January-25 February and 4-8 April 2005, para. 120.

47 A/60/640, para. 31.48 Report of the Special Committee on Peacekeeping Operations and Its Working Group, UN Doc. A/60/19,

27 February-17 March 2006, para. 143.49 Implementation of the Recommendations of the Special Committee on Peacekeeping Operations: Report

of the Secretary-General, A/61/668/Add.1, 22 December 2006, para. 45. PST設置に向けた当初の予算案に関しては Budget for the Support Account for Peacekeeping Operations for the Period from 1 July 2006 to 30 June 2007: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/60/727, 23 March 2006, paras. 108-119を参照。

50 Report of the Secretary-General on the Relationship between the United Nations and Regional Organizations, in Particular the African Union, in the Maintenance of International Peace and Security, UN Doc. S/2008/186, 7 April 2008, para. 41. AUと国連の協力全般としては、2006年 11月に AU委員長と国連事務総長がAUのための 10カ年能力構築プログラム枠組み(Framework for the Ten-Year Capacity Building Programme for the African Union)に合意した。この枠組みは、2016年 11月に至る10年間におけるAUの能力構築に関する包括的な国連支援を約した宣言であるが、ジョイント・アクション・プランは PKO面でこの宣言をいち早く具体化する役割を担ったことになる。Enhancing UN-AU Cooperation: Framework for the Ten-Year Capacity Building Programme for the African Union, UN Doc. A/61/630, 12 December 2006, Annex; see also Review of the Ten-Year Capacity-Building Programme for the African Union: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/65/716–S/2011/54, 2 February 2011.

51 Joint AU/ UN Action Plan for UN Assistance to AU Peacekeeping Capacity Building, author’s copy obtained in January 2009. このアクション・プランは一度の合意で内容が確定する類のものではなく、継続的に見直され、参照されているという(DPKO関係者へのインタビュー、2009年 1月 28日)。

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いった。2008年 4月の時点ではアディスアババ PSTの人員は 6人(政務、軍事、警察、兵站、行政・財政、IT/コミュニケーションをそれぞれ担当)からなり、現行 AUミッションの計画策定やASF整備および訓練プログラム・ワークショップ開催に係る調整への支援を行っていた 52。2010年になるとPSTはアディスアババにある他の国連出先機関―国連AU連絡事務所、AUソマリア・ミッション(AMISOM)計画支援チーム、国連 AUダルフール合同ミッション(UNAMID)設立に向けた統合支援調整メカニズムの運営部門―のスタッフとともに国連 AU事務所(UNOAU)へと吸収される(65人)53。この統合は、総数の単純な比較では約三分の一の人員削減を意味したものの(以前の各機関所属のスタッフ数合計は108人)54、一元化されたことによってより効率的支援が可能な態勢が整備されることになった。UNOAUは新設された事務次長補をトップとした 3つの部署(政務、運用計画、行政計画)から構成されており、旧 PSTの機能は運用計画・助言ユニット(10人)と行政計画・助言ユニット(8人)によって担われている。このうち、後者の行政計画・助言ユニットは「ミッション関連の行政、情報技術、コミュニケーション、訓練、兵站、部隊所有装備の分野において、[AUが]制度および運用上の能力を整備」できるようAU委員会を支援することが目的とされている55。AU本部のあるアディスアババで一定規模かつ高いレベルのプレゼンスを持つ国連は(UNOAUの長は 2013年、事務次長補から事務次長へと格上げされている)56、アフリカPKOのミッション管理に係る包括的な能力構築を担うようになっていると言えるであろう。

2009年の報告書の中で、国連事務総長はAUに対する国連の PKO能力構築支援に関する以下の原則を掲げている。

(a) AUPKOミッション展開に先立つ国連事務局とAU委員会との協議。展開が行われる場合、AUは国連事務局に対し計画その他の支援を要請することができる。

52 Budget for the Support Account for Peacekeeping Operations for the Period from 1 July 2008 to 30 June 2009: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/62/783, 7 April 2008, paras. 78-79; Budget for the Support Account for Peacekeeping Operations for the Period from 1 July 2009 to 30 June 2010: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/63/767, 16 March 2009, para. 84.

53 Budget for the Support Account for Peacekeeping Operations for the Period from 1 July 2011 to 30 June 2012: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/65/761, 28 February 2011, para. 69. 定員数はのちに 3人削減されている。Budget for the Support Account for Peacekeeping Operations for the Period from 1 July 2013 to 30 June 2014 and Financing for the Period from 1 July 2012 to 30 June 2013, UN Doc. A/67/756, 25 February 2013, paras. 65-68.

54 UNAMID統合支援調整メカニズムの実質的な活動を担う部分(11人)は引き続きUNAMID隷下に置かれている。Budget for the United Nations Office to the African Union: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/64/762, 30 April 2010, paras. 15-16.

55 Ibid., para. 49.56 “Secretary-General Appoints Haile Menkerios of South Africa Special Representative to African Union,”

UN Doc. SG/A/1406-AFR/2622-BIO/4473, 17 May 2013.

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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(b) [能力構築の]所要はAUにより同定され、またAU委員会の支援受容能力に応じて進められる。

(c) 国連による支援は、現に生じている国連フィールド・ミッションへの支援需要の文脈において提供される。

(d) AUは最終的には自らのニーズに最適な能力を整備できる。国連のシステムが単純に輸出されるのではなく、そのシステムはAUが自らに特有な所要に合致した形で適応させていくような一つの資源[という位置づけ]でなければならない。

(e) 国連の技術支援はアフリカPKOミッションでのフィールド経験を有する最高水準の人材により提供される 57。

ここに掲げられている原則は、ミッション管理能力強化の重視に加え、国連がアフリカ自身による能力整備上のイニシアティブ(オーナーシップ)を尊重していることも示している。PKO

能力構築におけるアフリカのオーナーシップ重視という姿勢は国連にかぎらず、次に見るEU

においても―少なくとも原則としては―共有されているように見える。しかしEUの場合、支援の重点は国連とは異なる分野に置かれている。次節ではその EUによる支援の趨勢を整理してみたい。

3 EUによる支援―アフリカ平和基金(APF)と演習「アマニ・アフリカ」

EUによるアフリカPKO能力構築は、アフリカ平和基金(APF)と「アマニ・アフリカ」演習という主に 2つのプログラムからなっている。本節ではこれらの内容と主な実績を把握する。まず、APFを見ていくと、このスキームが設立されたのは、2003年のAU首脳会議におけるEUに対する要請を契機としている。マプート(モザンビーク)で開催されたこのサミットで、AU加盟国首脳は、EUが AUの PKOミッションを財政的に支援できるような仕組みを検討するよう、EUに要請した 58。この要請を受けてEUが同年に設立を決定したのがAPFなのであるが、それは EU内の各プログラムが AUに対し個別に提供していた財源を一本化するとともに、欧州開発基金(EDF)からの新規財源を追加することによって行われた。

57 Support to African Union Peacekeeping Operations Authorized by the United Nations: Report of the Secretary-General, UN Doc. A/64/359-S/2009/470, 18 September 2009, para. 45. (c)にいう「フィールド・ミッション」とは、国連 PKOミッションに加え、平和構築ミッションや政治ミッションなどをも含めた総称を指すものと思われる。

58 Decision on the Establishment by the European Union of a Peace Support Operation Facility for the African Union, AU Doc. Assembly/AU/Dec.21(II), 10-12 July 2003, para. 5.

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設立当初、APFは 3年間で 2.5億ユーロの予算を与えられていたが 59、その後段階的に予算規模は拡充されていった。第 1期 APF(2004~ 2007年)の間、複数回にわたり財源が追加され、同期終了までには総額 4.392億ユーロが提供された。第 2期(2008~2010年)、第 3期(2011~ 2013年)には予算として 3億ユーロがそれぞれ配分され、第 3期には 2度の大規模な財源追加(総額 2.15億ユーロ)が行われている 60。こうした実績に基づき、第 4回アフリカEUサミット宣言(2014年 4月、ブリュッセル)では 2015年以降もアフリカPKO能力構築にEUが貢献することが再確認された。APFはこの文脈で「重要な貢献」を果たしてきたものとして言及されており、今後も同じ財源規模を維持していくことが約束されている 61。

APFの主要な用途は展開中のアフリカPKOミッションの運用費用に対する貢献ではあるが、能力構築もAPFの当初からの柱である。データのある2004年から2013年の期間でいえば、同期間の支出総額 11億 6,430万ユーロ(契約額ベース)のうち8.3%にあたる9,720

万ユーロが能力構築に用いられた。他方、ミッション運用費用には90.4%(10億5,210万ユーロ)が用いられている 62。両者の性質の違いを考えれば当然のことではあるが、能力構築に対して用いられる財源は相対的には小さいものではある。また、APFを通じて提供される能力構築支援の内容を見ていくと、かなり広範な目的に使用されていることがわかる。2013年版 APF年次報告によれば、APF財源は「APSA支援プログラム」(後述)、平和・安全保障関連の業務に従事するAU委員会スタッフの給与、ポスト紛争地域に設置されるAU

連絡事務所立ち上げ費用、「アマニ・アフリカ」演習費用、アフリカ各地にあるPKO訓練センターの財源、指揮・統制・通信・コンピュータ・情報収集(C4I)システム導入に関する支援などに用いられている。この中で規模的にも旗艦的な位置付けなのが「APSA支援プログラム」(APF第 3期予算 4,000万ユーロ)である。このプログラムはASF関連の運営スタッフ拡充、訓練および事務所整備を主な目的としているが 63、ASFを構成する5つの準地域機構(中部アフリカ諸国経済共同体:ECCAS、南部アフリカ開発共同体:SADC、

59 Ibid.; Decision No. 3/ 2003 of the ACP-EC Council of Ministers on the Use of Resources from the Long-Term Development Envelope of the Ninth EDF for the Creation of a Peace Facility for Africa, EU Doc. OJ L345/108-109, 11 December 2003.

60 European Commission, African Peace Facility Annual Report 2013 (Luxembourg: Publications Office of the European Union, 2014), p. 8.

61 Declaration, Fourth EU-Africa Summit, 2-3 April 2014, Brussels, para. 12.62 African Peace Facility Annual Report 2013, p. 8; see also p. 31. とりわけ近年においては AMISOMに対する財源支援がかなりの部分を占めているようである。

63 African Peace Facility Annual Report 2013, pp. 13-15; European Commission, African Peace Facility

Annual Report 2012, pp. 15-16. 第 1~ 2期(2004~ 2010年)の期間では、合計 3,500万ユーロがAPSA強化に使用されたと説明されている。European Commission, African Peace Facility Annual Report 2011, p. 15.

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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西アフリカ諸国経済共同体:ECOWAS、東アフリカ待機軍調整メカニズム:EASFCOMおよび北アフリカ地域能力:NARC)も100~ 300万ユーロの財政支援(第 3期)をASF

整備関連で受けている 64。以上を踏まえれば、能力構築はAPF全体でいえば主要な使途ではないものの、能力構築の範疇の中ではASF関連の支出が多くの部分をなしていることが分かるであろう。

EUによる支援のもう一つの重点と思われるのは訓練支援である。これには、① APFを通じた財源支援の一部をなすもの(アフリカPKO訓練センターに対する支援)もあれば、② PKO関連演習実施に向けた計画支援や助言の提供も含まれている。訓練センターに対する財源支援でいえば、同支援は 2012年に開始され、2014年までの期間に 1,140万ユーロがAUおよび ASF構成各地域の PKOセンターへの支援に用いられている 65。訓練支援で主要な部分を占めるのは、「アマニ・アフリカ」演習シリーズに対する、財源支援と助言を組み合わせた形の支援である。この演習は、もともとはフランスが 1997年から行っていた取り組みの一部である 66。フランス(国防省、外務省により運営)67のアフリカPKO

能力強化(RECAMP)プログラムは各国、準地域、大陸レベルでの訓練プログラムからなっており、大陸レベルのものは 2年のサイクルで政軍セミナー、演習計画の策定に係る準備会合、そしてそれらに基づく指揮所・実働演習の実施という流れからなっていた 68。フランスは、2004年までにこの演習を4回実施してきたが 69、2008年から大陸レベルの演習は EUへと移管される(準地域および各国レベルのものはフランスが引き続き実施)。大陸レベル演習がフランスからEUへと移管がなされた背景には、AUの発足とASF構想の立ち上げがある。アフリカPKO強化に向けた EUアクション・プラン(2007年 5月欧州理事会により採択)は、「大陸レベルでのASF運用能力確立に向けた支援を含め、

64 African Peace Facility Annual Report 2013, p. 31. 65 African Peace Facility Annual Report 2013, p. 14. 2012~ 2014年期の支援は「パイロット・プロジェクト」として位置付けられており(ibid.)、他のAPF支援項目と同様に 2015年以降も継続していくものと思われる。

66 1997年 12月に国連、翌 98年 11月にフランス・アフリカ・サミット(パリ)で発表されたとされる。Bruno Charbonneau, France and the New Imperialism: Security Policy in Sub-Saharan Africa (Aldershot: Ashgate, 2008), p.113; “Statement by Foreign Ministry Spokesperson” (8 December 1998), available from <http://www.un.int/france/documents_anglais/991208_mae_presse_afrique.htm>, accessed 22 March 2011.

67 “Field PK Training,” available from <http://www.un.int/france/frame_anglais/france_and_un/france_and_peacekeeping/field_pktraining_eng.htm>, accessed 2 March 2011.

68 “Presentation of the ‘Recamp 4’ Training Cycle,” <http://www.recamp4.org/telechargement/presentation_recamp_uk.pdf>, accessed 3 March 2011; “Benin 2004 Initial Planning Guidance,” available from <http://www.recamp4.org/telechargement/dip_uk.pdf>, accessed 4 March 2011.

69 “Presentation of the ‘Recamp 4’ Training Cycle,” available from <http://www.recamp4.org/telechargement/presentation_recamp_uk.pdf>, accessed 3 March 2011; “Benin 2004 Initial Planning Guidance,” available from <http://www.recamp4.org/telechargement/dip_uk.pdf>, accessed 4 March 2011.

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防衛研究所紀要第 19 巻第 1号(2016年 12月)

RECAMPを欧州化(Europeanize)」することを喫緊の課題として掲げている 70。欧州化された RECAMP(EURORECAMPと呼ばれる)は 2007年 12月に発表されたアフリカ・EU共通戦略(JAES)の中でも支持されている 71。EURORECAMPは、ASF運用化支援を明確な目標としてEUが実施する支援であったのである 72。

EURORECAMPとしての演習実績はアマニ・アフリカ I(2008~ 2010年)とアマニ・アフリカ II(2011~ 2015年)の 2回がある。これら演習は基本的にはフランスRECAMP

のパターンを踏襲しているが(開催順序などは異なる)、① ASFを通じたAUミッションの派遣が想定されている点、②軍民の指導者を対象とした図上演習(MAPEX)、セミナーやワークショップの開催に重点が置かれている点が以前と異なっている 73。実働演習はアマニ・アフリカ Iでは実施されなかったが、IIでは実動演習までが含まれており、度重なる延期の末に 74最終的には 2015年 10月19日~ 11月7日、南アフリカ陸軍戦闘訓練センターにて、SADCをホストとして実施されている 75。なお、既に記したように、「アマニ・アフリカ」演習シリーズの財源となっているのはAPF

である 76。第 2サイクルについて言えば、演習開催関連に係る費用としてAPFから520万ユーロが振り向けられている 77。また、演習開催を支援するため、第 1サイクルについてはフランソワ・ゴネ准将(François Gonnet、フランス)を長とするEURORECAMPプロジェクトチーム(5人。他の出身国はイギリス、フランス、イタリア、フィンランド)がフランス軍統合

70 Action Plan for the Implementation of Proposals relative to the EU Concept for Strengthening African Capabilities, EU Doc. 8551/2/07 REV 2, 7 May 2007, Annex.

71 The Africa-EU Strategic Partnership: A Joint Africa-EU Strategy, EU Doc. 16344/07 (Presse 291), 9 December 2007, para. 18. See also First Action Plan (2008-2010) for the Implementation of the Africa-EU Strategic Partnership, 9 December 2007, sect. 1 (Africa-EU Partnership on Peace and Security).

72 “EURORECAMP Presentation. What is EURORECAMP?” 11 March 2008, available from <http://www.amaniafricacycle.org/spip.php?article2&lang=en>, accessed 8 March 2011.

73 “Calendar of the Cycle,” 6 October 2010, <http://www.amaniafricacycle.org/spip.php?article10&lang=en>, accessed 8 March 2011; “Le Calendrier,” < http://www.recamp4.org/fr/calrec.php>, accessed 28 March 2011.

74 アマニ・アフリカ IIは 2011年 10月に開始され、当初は 2013年までの予定であった。インタビュー(パリ、2011 年 3 月 28 日 )。“Launching of Amani Africa II Cycle,” <http://www.au.int/en/sites/default/files/Press%20Release%20Launch%20AMANI%20October%2020%2020111.pdf>, accessed 9 November 2011.

75 EEAS, “Amani Africa II Cycle,” <http://www.eeas.europa.eu/amani-africa-ii/about/index_en.htm>, accessed 8 July 2015; “African Standby Force Exercise in Lesotho Postponed until March,” defenceWeb, 4 September 2014; “Defence Hosts AMANI AFRICA II Field Training Exercise, 19 Oct to 7 Nov 7,” 5 October 2015, available from <http://www.gov.za/speeches/defence-hosts-amani-africa-ii-field-training-exercise-19-oct-7-nov-7-oct-2015-0000>, accessed 14 October 2015; “African Standby Force Starts First Military Exercises,” BBC News, 19 October 2015.

76 Council of the European Union, EURO RECAMP̶Financial Aspects of the Proposal, EU Doc. 13053/07, 20 September 2007.

77 African Peace Facility Annual Report 2013, p. 14 and African Peace Facility Annual Report 2012, p. 16.

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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訓練部隊司令部(EMIA-FE、フランス・クレイユ)内に設けられていた 78。第 2サイクルではこの支援機能自体もより欧州化し、EU計画チーム(EUPT)が欧州対外行動庁(EEAS)の中に作られている(2012年 4月)。EUPTはフランス人の EU官僚であるベルナール・ランボー(Bernard Rambaud)がチーム長となり、そのほか 4人のメンバーからなっている(出身国はイギリス、フランス、イタリア、ドイツ)79。アフリカの紛争予防・管理能力整備を支援するに当たり、欧州理事会は EUの支援が

「需要に牽引されたプロセスであり、アフリカ側パートナーとの強化された対話に基づき、アフリカのオーナーシップを十分に尊重する」必要があることを強調している 80。こうした方向性と軌を一にしているのが、APFの以下の原則である。

• アフリカのオーナーシップアフリカ・オーナーシップ原則は、ミッションや活動がアフリカ側から立ち上げられ、計画され遂行されることを意味する。したがって、そうしたイニシアティブがAPFを通じた財源提供の対象となる前の段階で、EUに対するアフリカの正式な要請が必要となる。アフリカ主導の活動のみに財源が提供されることが、APFの特徴である。

• アフリカとEUのパートナーシップアフリカとEUのパートナーシップ原則は APFの基礎であり、JAESがそこでは中心的役割を果たす。緊密な協力を促すため、EU、AU、アフリカ地域経済共同体(REC)、そして関心を有するアフリカ・欧州の各機関加盟国は年次会合を持ち、平和・安全保障関連諸問題の対話に参加して、意見や情報の交換と将来の取り組みに向けた共通の計画づくりを行う。

• アフリカの団結アフリカ団結の原則は、同大陸の平和と安全はすべてのアフリカ諸国に益するものであるという認識に基づいている。それは、同諸国がAUまたは RECのもとで協力をし、ミッションを遂行するにあたっての財政・兵站面の負担を共有することを意味する。APFとの関連では、財源はアフリカ諸国に平等に分配されるのではなく、必要に応じて使われるという考え方の受容を意味する。(以下略)81

78 “EURORECAMP Presentation.”79 “Amani Africa II Cycle.” 80 Council Conclusions on Strengthening African Capabilities for the Prevention, Management and

Resolution of Conflicts, 2760th General Affairs Council Meeting, Brussels, 13 November 2006, para. 2.81 APF Annual Report 2012, pp. 9-10.

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前節でみた国連の対アフリカ支援においても、アフリカ・オーナーシップ原則は重要なものとして掲げられていたが、ここでもその原則が他の諸原則を論理的に導くものとして重視されている。団結原則はオーナーシップ原則と、アフリカ諸国・組織のイニシアティブに期待する欧州側の期待とが結びついているものであり、さらに言えば状況に応じ将来的には能力構築の負担をアフリカ側自身に移管していきたいという意図を含んでいる。つまり、団結原則において EUは、能力構築に内在する援助側・被援助側の関係(すなわち、被援助側が要求し、ドナーが応えるという関係)を逆転させ、アフリカのアクターに対して自助の要求をなしているのである。これに対し、先に見たように、国連にとってオーナーシップ原則はあくまで現地のイニシアティブを尊重した援助を行うべきという字義通りの考え方を意味するものであった。国連とEUというアフリカPKO能力構築における主要なアクターが共に掲げていることからも、オーナーシップ原則はこの分野で広く共有されていることは確認できるものの、そこからどのような指針を導き出しているかについては、両者で重要なニュアンスの違いがあることが、ここからは示唆されているように思われる。

おわりに

本論ではここまで、AUの創設後 ASF構想を中心として進捗している大陸規模の PKO

能力整備計画と、それに対する国連とEUによる能力構築支援の主な内容をそれぞれ取り上げてきた。第 1節ではASF構想の概要とその後の進捗を把握した。ASF構想は 2002

年の PSC創設議定書を根拠とし、2004年の「政策枠組み」において具体化された構想であり、大陸(AU)レベルおよび準地域レベルにおける待機部隊、個人要員および運用のための組織からなる包括的かつ野心的なシステムであった。整備プロセスとしては 2010

年までを目標とし、当初は 2期にわけて段階的に整備することになっていた。しかし実際には、数回の修正を経て 2015年までの 3期に分けて整備することになったほか、構想自体にもRDCが追加されるといった変更がなされている。本論執筆の時点で、ASF整備の現状と今後の計画に関するAUの正式見解は確認できないが、ACIRCをめぐる議論を見ても、ASF整備が 2015年の時点で完了したとは言えないように思われる。第 2節および第 3節では、ASF構想を契機として行われてきた国連とEUによる対 AU支援を整理した。国連による支援の特徴は、ASF運用に必要なミッション管理能力に注力していることであり、これはAUの前身であるOAUに対する支援にも見られる特徴である。その頃(1990年代後半)から、国連は信託基金の設置、ミッション計画に対する助言、事務局間の人事交流を通じたノウハウの共有といった活動を行ってきた。AUのもとでASF構想が立ち上げられ、同時に

アフリカにおける平和維持活動能力整備と能力構築支援

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AUミッションが複数派遣されるようになると、国連によるAU委員会支援も拡大し、AU支援のためのタスクフォースの設立、ジョイント・アクション・プランの作成、PSTやUNOAU

設置を中心としたAUに対する助言能力の強化を行っている。これに対し、EUが主に注力しているのは財源と派遣要員に対する訓練支援であり、APFと「アマニ・アフリカ」演習の実施がこれに当たる。APFはAUからの要請に基づき2004年から開始されている事業であり、AUミッションの運用費用の負担が支出の大半を占めるものの、紛争管理に係るAU

および準地域機構の給与や活動費用、さらに大陸各地での訓練活動に対する費用にも用いられている。このAPFからの財源を用いながら、スタッフ派遣も伴った形で EUが包括的な実施の支援をしているのが「アマニ・アフリカ」演習である。この演習はもともと1990年代後半からフランスが行なってきた支援を前身に持つが、そのうちAUレベルで行われてきた演習部分が EUに移管されたものであった。では、ここまでの議論はどのような意味があるのであろうか。4点を示唆して本論を閉じたい。第 1は、アフリカPKO能力構築に関して国連、EUそしてAUが進めてきた協力の広さ

と深さである。前身となる活動を含めれば 1990年代の後半からその協力は開始され、ASF

を契機としてさらに加速している。また、支援する国連とEUの間では、①相互の役割に関する一定の分担(国連がミッション管理、EUが財源および訓練支援)と、②対AU支援の原則に関するコンセンサスが成立しているように見える 82。PKOミッションの間での協力(例えば、中央アフリカ共和国における国連、AU、EUおよびフランス派遣部隊間の協力など)に比べ、能力構築支援は規模も小さく目立ちにくいが、こうした協力も着実に、長い期間を掛けて続けられてきていることは一つの趨勢として着目される。他方、第 2に指摘すべきことは、本論で取り上げた国際機構間の能力構築支援は、能

力構築全体の中でいえばすべてではないということである。端的な例が「アマニ・アフリカ」演習である。これがもともとはフランスRECAMPの一部であり、欧州化した以外の部分は引き続きフランスが実施していることは既に触れた。また、フランス以外の主要国も、国連やEUといった多国間を通じた支援への貢献に加え、二国間ベースでのアフリカPKO能力構築支援をそれぞれに行っている83。こうした取り組みを改めて包括的にレビューすることは本論

82 Ståle Ulriksen, Catriona Gourlay, and Catriona Mace, “Operation Artemis: The Shape of Things to Come?” International Peacekeeping 11, no.3 (Autumn 2004), p. 522. もっとも、②についてはオーナーシップ原則の解釈について、上に示唆したような違いが観察されるほか、①についても、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)介入旅団やAMISOMのように、国連がアフリカの PKOイニシアティブを直接負担するケースが出てきつつあることは留意される。後者については山下光「MONUSCO介入旅団と現代の平和維持活動」『防衛研究所紀要』第 18巻第 1号(2015年 11月)1-30頁(特に第 3節)および決議 2036号(2012年 2月 22日)以降のAMISOM関連安保理決議を参照。

83 この点については例えば山下「平和維持活動における能力構築支援」を参照。

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の範囲を超えるが、この指摘から少なくとも示唆されることは、アフリカPKO能力構築全体で見た場合、さまざまな内容や規模で行われているそれらのプログラムの重複回避や効率的な調整が引き続き課題となるという点である。実際、「政策枠組み」は既に域外支援が「常に重要なアフリカの懸案事項に焦点を当ててきたとは言え」ず、とりわけそれら「イニシアティブの性質や規模の決定に関してOAU・AUが十分に関与してこなかった」ことを指摘していた 84。ASF構想はこの点の改善も期待してのものであったと思われるが、主要ドナー国・機関間の競争もあり、情報共有は必ずしも十分に行われていない模様である 85。これとも関係する第 3の点として、ASFの進捗に対してこれまでの国際社会による能力構築支援がどの程度の効果をもたらしたのか、という問題がある。この問いには、本論の範囲内で次のように考えることが可能である。まず ASF整備が遅延を繰り返し、現在に至っても完了していないとみられる実態からは、PKO能力構築支援が量および質(ここで、上述した調整の問題が関係してくる)において十分なものだったのか、という疑問が浮上してくる。だが他方、ASFの進捗と域外からの能力構築支援とを安直に結びつけることには、いくつかの点で問題があるともいえる。まず、ASF構想自体が非常に野心的なものであり、大陸内で多くの紛争が進行している現実に鑑みても、ASFの進捗には当初から困難が予想されていた 86。また、アフリカ諸国自身の自助努力不足という批判もある。ASFの実現には域外諸国からの積極的な支援が期待されたとはいえ、大陸内の PKO能力を整備すべき一義的な責任はアフリカ諸国にある。アフリカ諸国が全体として有している富の規模に比して、ASFを含むAPSAに対するアフリカ側の投資が乏しいのではないかという見解が提起されつつあることは留意されよう 87。能力構築支援という取り組み自体の長期性・継続性に鑑みても、こうした諸課題にもかかわらず、アフリカ内外のアクターによるPKO能力整備は粘り強く続けていく必要があるように思われる。最後に、ここまでの議論が日本の取り組みにとって持つ意味合いに触れておきたい。まず簡単に日本のアフリカPKO能力構築に関する取り組みを整理すると、アフリカPKOセンターに対する財政支援(2008年度~、総額 3,900万ドル、13機関対象)および訓練官・コン

84 Exp/ASF-MSC/2(I), para. 2.28.85 Cillers and Pottgieter, “The African Standby Force,” p. 140. G8においてもドナー間調整の枠組みが作られたが、実質的な調整の機能を果たしているとは言い難いところがある。山下「平和維持活動における能力構築支援」12頁。

86 See, e.g., Victoria K. Holt with Moira K. Shanahan, “African Capacity-Building for Peace Operations: UN Collaboration with the African Union and ECOWAS,” Stimson Center, February 2005, pp. 19-20.

87 Paul D. Williams, “Peace Operations in Africa: Patterns, Problems, and Prospects,” paper presented at the NIDS International Symposium on Security Affairs 2014, 5 November 2014, available from <http://www.nids.go.jp/english/event/symposium/pdf/2014/E-01.pdf>, accessed 6 January 2016, p. 55.

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サルタント派遣(自衛官 20人を含む延べ 40人、8機関に派遣)が主なものとなっている 88。こうした活動はこれまでに見た国際的な趨勢にも沿っているものではある。財政支援については継続性が留意されているようであり、人材派遣についても派遣ペースや形態に積極性と工夫が近年は見られるようになってきている 89。では、今後、日本がこの支援をより特徴ある形で積極的に取り組むといった場合、どのよう

な点が本論から示唆されるであろうか。端的に言えば、それはアフリカPKO能力構築ニーズと国際的支援の動向に関する把握の重要性、そして能力構築支援の継続性への理解、であろう。前者について言えば、ASFに関して現在どのようなニーズがあるのかを、他の支援アクターの活動状況を把握しつつ同定できれば、日本が支援を進める場合のニッチや比較優位を持つ分野を割り出すことができるかもしれない。そしてこれを行うためには、アフリカの主要国やAU・準地域機構が本部を置く国での情報収集や当該組織のカウンターパートとのコミュニケーションが継続的に必要となってくるようにも思われる。後者については、この分野で積極的な支援を行っている国や組織が行っているプログラムはいずれも中長期的な関与を保っている。既に述べたように、このことは能力構築という取り組み自体が持つ特性に根差すものであり、積極的な貢献となるためには長期的な財源の確保と、PKO運用面での助言が可能な人材の育成が必要になってくる。つまり能力構築支援を効果的に実施するためには、受け入れ側の適切な受容能力のみ

ならず、支援側の情報(コミュニケーション)、財源、人材面における、長期的な視野に立った実施インフラの整備が必要となるということである。その意味でいえば、日本がアフリカPKO能力構築に向けてどの程度、そしてどのような実施体制を整備していくのかということの中に、日本のこの分野への取り組みの姿勢が示されるように思われる。

(やましたひかる 政治・法制研究室長)

88 「エチオピア平和支援訓練センターに対する自衛官の国際コンサルタント派遣」(2015年 10月 21日) <http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002556.html> 2015年 10月 21日アクセス。

89 当初の派遣は既存の教育プログラムにおける講義実施のための派遣であったが、2014年からはそれに加えて教育プログラムに対する助言を行うコンサルタントの派遣が加わるようになっている。また 2015年には、ケニアの PKOセンターにおける重機操作要員育成を目的として、11人の陸上自衛官からなるチームが派遣されている。「エチオピア国際平和維持訓練センターへの自衛官の派遣」(2014年 3月 20日)<http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_000760.html45.html>;「ケニア国際平和維持訓練センター及びエチオピア国際平和維持訓練センターへの自衛官の派遣」(2014年 9月 26日) <http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001277.html>;「アフリカ施設部隊早期展開プロジェクトへの講師派遣」(2015年 9月 3日) <http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002405.html>、いずれも 2015年 12月 25日アクセス。