サッカー日本代表と育成年代におけるセレクション...

1
サッカー日本代表と育成年代におけるセレクションの研究 方法 サッカーは競技開始年齢が早く,各カテゴリーで 選手選抜が行われている.その競技人口は ピラミッド型で競技レベルが上がるにつれ競技人口 が減少し,プロになる選手はほんの一握りである. 目的 目的Ⅰ:「早生まれセレクション」の評価点 目的Ⅱ:育成年代における選手選抜 背景 結果・考察 ・日本代表において発育発達の早い4月生まれに近い誕生月の割合が高い ・早生まれセレクションによって早生まれの選手が1学年下の高いレベルの指導を受ける チャンスが増えたことで2010年以降では早生まれの選手の割合が高くなっている. ・ジュニア期がゴールデンエイジを含む期間で,所属するチームがクラブなのか部活 なのかによって将来日本代表になれる可能性が変わってくることが示唆された. ・同学年のエリート選手がクラブチームに選抜されているにも関わらず,将来日本代表 になるのは部活出身の選手が多い. 「現代サッカーの指導システムでは体格や体力面で不利な早生まれの選手が 選択的にドロップアウトする仕組みになっている」 (Williams and Reilly,2000) 実際に,プロサッカー選手において早生まれの選手が少ないという傾向があり. このような状況を踏まえ,日本サッカー協会は早生まれの選手を1学年下と同じ カテゴリーで見る「早生まれセレクション」を実行. また、本研究では選手の誕生月(歴年齢)だけではなく,生物学的年齢(身長, 体重,BMI),所属チームが選手の選抜に及ぼした影響明らかにし,育成システム や選手選抜の問題点も指摘する. 対象者 2013年3月までに日本代表の試合に15試合以上出場した選手164名. U-17ワールドカップ本戦に出場した選手120名. etc... 誕生月,所属出身チーム,U-17,23の時の身長,体重,BMI 「早生まれセレクション」の評価点と問題点 早生まれの選手におけるタレント発掘という面で「早生まれセレクション」は大きな 影響を与えてきたが,現在では発育発達という面からみて1月生まれとあまり変わ らない12月生まれに近い選手が不利になっている可能性がある育成年代における選手選抜の問題点 ユースに上がるセレクション時に早熟で体重のある選手がクラブチームに選抜され ている. 部活の選手は晩熟で,体重や体格の差で早熟の選手に劣るが,後に早熟の選手 と同じように体重(筋量)が増え才能が開花することが多いと考えられる. ユースに上がるセレクションにおいて,晩熟で将来日本代表になる レベルの選手を選抜出来ていない可能性があることが示唆された43 24 21 23 21 40 45 28 7 17 17 29 29 19 13 20 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2010~ 2000~2010 1990~2000 ~1990 選手の誕生月の割合(%4~67~910~121~3年代別にみた日本代表選手の誕生月の分布 9 14 19 52 17 28 19 24 38 39 33 28 19 24 5 17 44 14 19 28 5 28 22 19 29 5 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2013 2011 2009 2007 2001 1995 選手の誕生月の割合(%1学年上の1~3月 4~6月 7~9月 10~12月 同学年の1~3月 U-17ワールドカップ本戦に出場したU-17日本代表選手の誕生月の分布 ・2009年以降,同学年内の早生まれの選手がその年代の日本代表に選ばれている. ・早生まれセレクションによって今まで埋もれていた可能性のある才能を発掘できるよう になった. 89 69 61 11 31 39 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2010~ 2000~2010 1990~2000 選手の割合(%ジュニア期,ユース期における所属チームが日本代表選手に与えた影響 24 10 6 76 90 94 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2010~ 2000~2010 1990~2000 選手の割合(%クラブ 部活 U-17,U-23の時の身長,体重,BMIが選手選抜に与えた影響 身長(cm) 体重(kg) BMI U-17 部活 176.1(±4.5) 65.22(±4.5) 21.04(±1.1) クラブチーム 174(±6.5) 65.75(±6.5) 21.71(±1.2) U-23 部活 177.2(±5.1) 68.72(±5.1) 21.89(±1.0) クラブチーム 175.3(±4.6) 69.88(±4.6) 22.75(±0.8) A代表 部活 177.6(±5.1) 72.25(±5.1) 22.90(±1.1) クラブチーム 176.4(±5.2) 72.13(±5.2) 23.19(±1.2) ・ユース年代セレクション時に選手の体重や体格が判断材料とされ,才能のある晩熟な 選手に比べ,ただ早熟なだけの選手が選抜されている可能性がある. 分析項目 土屋 智寛1),内藤 景2),谷川 聡3) 1)筑波大学 体育専門学群 2)筑波大学大学院 人間総合科学研究科 3)筑波大学 体育系

Upload: others

Post on 28-Dec-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: サッカー日本代表と育成年代におけるセレクション …tanisato.com/labo/wp-content/uploads/2014/03/a0dd66b857a...サッカー日本代表と育成年代におけるセレクションの研究

サッカー日本代表と育成年代におけるセレクションの研究�

結論�

方法�

サッカーは競技開始年齢が早く,各カテゴリーで 選手選抜が行われている.その競技人口は ピラミッド型で競技レベルが上がるにつれ競技人口が減少し,プロになる選手はほんの一握りである. �

��目的�

目的Ⅰ:「早生まれセレクション」の評価点 目的Ⅱ:育成年代における選手選抜

背景� 結果・考察�

・日本代表において発育発達の早い4月生まれに近い誕生月の割合が高い�・早生まれセレクションによって早生まれの選手が1学年下の高いレベルの指導を受ける� チャンスが増えたことで2010年以降では早生まれの選手の割合が高くなっている. �

・ジュニア期がゴールデンエイジを含む期間で,所属するチームがクラブなのか部活 � なのかによって将来日本代表になれる可能性が変わってくることが示唆された. �・同学年のエリート選手がクラブチームに選抜されているにも関わらず,将来日本代表� になるのは部活出身の選手が多い. �

「現代サッカーの指導システムでは体格や体力面で不利な早生まれの選手が �選択的にドロップアウトする仕組みになっている」 (Williams and Reilly,2000)�

実際に,プロサッカー選手において早生まれの選手が少ないという傾向があり.このような状況を踏まえ,日本サッカー協会は早生まれの選手を1学年下と同じカテゴリーで見る「早生まれセレクション」を実行.

また、本研究では選手の誕生月(歴年齢)だけではなく,生物学的年齢(身長,体重,BMI),所属チームが選手の選抜に及ぼした影響明らかにし,育成システムや選手選抜の問題点も指摘する.

対象者

2013年3月までに日本代表の試合に15試合以上出場した選手164名. U-17ワールドカップ本戦に出場した選手120名.

etc...

誕生月,所属出身チーム,U-17,23の時の身長,体重,BMI

「早生まれセレクション」の評価点と問題点

早生まれの選手におけるタレント発掘という面で「早生まれセレクション」は大きな影響を与えてきたが,現在では発育発達という面からみて1月生まれとあまり変わらない12月生まれに近い選手が不利になっている可能性がある.

育成年代における選手選抜の問題点

ユースに上がるセレクション時に早熟で体重のある選手がクラブチームに選抜されている. 部活の選手は晩熟で,体重や体格の差で早熟の選手に劣るが,後に早熟の選手と同じように体重(筋量)が増え才能が開花することが多いと考えられる.

ユースに上がるセレクションにおいて,晩熟で将来日本代表になるレベルの選手を選抜出来ていない可能性があることが示唆された.

43

24

21

23

21

40

45

28

7

17

17

29

29

19

13

20

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

2010~

2000~2010

1990~2000

~1990

選手の誕生月の割合(%)

年代

4~6月 7~9月 10~12月 1~3月

年代別にみた日本代表選手の誕生月の分布

9

14

19

52

17

28

19

24

38

39

33

28

19

24

5

17

44

14

19

28

5

28

22

19

29

5

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

2013

2011

2009

2007

2001

1995

選手の誕生月の割合(%)

年代

1学年上の1~3月 4~6月 7~9月 10~12月 同学年の1~3月

U-17ワールドカップ本戦に出場したU-17日本代表選手の誕生月の分布

・2009年以降,同学年内の早生まれの選手がその年代の日本代表に選ばれている. �・早生まれセレクションによって今まで埋もれていた可能性のある才能を発掘できるよう � になった. �

89

69

61

11

31

39

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2010~

2000~2010

1990~2000

選手の割合(%)

年代

ジュニア期,ユース期における所属チームが日本代表選手に与えた影響

24

10

6

76

90

94

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2010~

2000~2010

1990~2000

選手の割合(%)

クラブ

部活

U-17,U-23の時の身長,体重,BMIが選手選抜に与えた影響

身長(cm) 体重(kg) BMI

U-17 部活 176.1(±4.5) 65.22(±4.5) 21.04(±1.1)

クラブチーム 174(±6.5) 65.75(±6.5) 21.71(±1.2)

U-23 部活 177.2(±5.1) 68.72(±5.1) 21.89(±1.0)

クラブチーム 175.3(±4.6) 69.88(±4.6) 22.75(±0.8)

A代表 部活   177.6(±5.1)

  72.25(±5.1)

  22.90(±1.1)

  クラブチーム

  176.4(±5.2)

  72.13(±5.2)

  23.19(±1.2)

・ユース年代セレクション時に選手の体重や体格が判断材料とされ,才能のある晩熟な� 選手に比べ,ただ早熟なだけの選手が選抜されている可能性がある. �

分析項目

土屋 智寛1),内藤 景2),谷川 聡3) �1)筑波大学 体育専門学群 2)筑波大学大学院 人間総合科学研究科 3)筑波大学 体育系