クリーンルームにおける化学汚染防止対策技術クリーンルームにおける化学汚染防止対策技術...

apa Ne N S F C Ni n PN Na K Ca M HF HCl SOx NOx at H NH HM S Tt at H at H P

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IDEMA Japan News No.62 1

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

1.はじめに

微細な回路を有しかつ微小信号を取り扱う電子デ

バイスの製造において、製造環境が製品の品質に与

える影響は極めて大きい。制御すべき製造環境を図

1に示す。影響する環境因子は、温湿度、微粒子と

いった製品への影響が定量的に評価できかつ制御も

比較的容易なものから、静電気や化学汚染物質など

のように製品への直接的な影響の評価が難しく制御

にも高い技術力が要求されるものまで、非常に広範

囲に及ぶ。静電気問題に関しては、より信頼性の高

い防止対策の実現には、最新の制御技術の採用だけでは不十分で、デバイスメーカ、製造装置メーカ、クリ

ーンルーム(以降CR)設備メーカなどが情報を共有し連携して対策に取り組むことの必要性を、筆者は以

前から訴えている1)。化学汚染も同様である。デバイスへの影響を定量的に評価することがまずは基本にあ

り、その結果から制御すべき濃度レベルを決定し最善の策を行っていくべきである。必要以上の制御技術は、

無駄に製造コストを上昇させるばかりかエネルギー消費上昇の一因になることから避けるべきである。

本説では、制御対象物質によって対策技術が大きく異なる化学汚染を取り上げ、対策の基本的な取り組み

方と最新の制御技術を紹介する。

2.化学汚染障害概要

CRにおける化学汚染

物質を表1に示す。

汚染物質は、有機物、

酸、塩基、ドーパント、

重金属、アルカリ金属に

分類される。重金属とア

ルカリ金属については、

粒子として存在している

ことから乾式フィルタで

容易に除去できる。ただ

し、アルカリ金属は潮解

性があるため、処理空気

の相対湿度制御が不可欠である。デバイスへの障害は、デバイスの種類及び汚染物の種類によって極めて多

岐にわたり、回路の電気特性への直接的な影響から、腐食、塗布密着性悪化にとどまらず、ハードディスク

の固着のようにデバイス使用時において顕在化する障害もある。

3.化学汚染障害対策概要

化学汚染防止対策の基本的な取り組みの考え方を図2に示す。これは従来の粒子汚染防止対策の取り組み

の考え方と全く同じである。つまり、汚染物質は極力上流側で対策すること、かつ発生源が施設内で特定さ

クリーンルームにおける化学汚染防止対策技術

稲葉仁(高砂熱学工業 総合研究所)

静電気温湿度

磁場変動

電磁ノイズ

騒音

気流形状振動

図1 クリーンルーム制御項目

清浄度(微粒子、ガス物質)

省エネルギー化

省コスト化

汚染物質 発生源 障害例

重金属:Fe,Cu,Ni,Zn 外気、装置 ライフタイム劣化、PN接合リーク

アルカリ金属:Na,K,Ca,Mg 外気、人体 絶縁膜耐圧劣化

酸:HF,HCl,SOx,NOx 外気、製造プロセス 腐食、レンズ曇り(酸+塩基)、

スティクション(酸+塩基 at HD)

塩基:NH3,HMDS,アミン類 外気、製造プロセス、人体、 レジスト障害(T-top現象)、

設備部材、加湿蒸気 レンズ曇り(酸+塩基)、

スティクション(酸+塩基 at HD)

有機物:>沸点約150℃ 設備部材、装置 接触抵抗増大、膜密着性劣化、

静電気障害増大(特に液晶)、

粒子化、スティクション(at HD)

ドーパント :B,P ガラス繊維材、製造プロセス しきい値電圧変動

設備構成部材(難燃剤)

表1 クリーンルームにおける化学汚染物質の発生源とデバイス障害例

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IDEMA Japan News No.62 2

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

れるものについては発生量の削

減を最優先とすること、が基本

である。具体的には、外気由来

の汚染物については、最上流側

である外気処理系内で除去対策

を実施する。CR内の構成部材

からの発生物質については、発

生物質を含まない部材、あるい

は機能上代替物質がない場合は、

部材から脱ガスしにくい分子構

造あるいは組成にするような対

策を行う。製造工程で使用する

薬液などが発生源の場合は、C

R内に漏洩させない排気システムおよび気流・室圧制御を行う。一方、以上の対策を行っても要求制御レベ

ルの達成が困難な場合は、最後の手段としてCR循環系においてケミカルフィルタなどの除去手段の適用を

検討する。

化学汚染防止を考慮した空調システムの設計手順の一例を図3に示す。製造への化学汚染物質の障害デー

タあるいは予測される障害に対するしきい値を基に、製造エリア毎に各成分の制御濃度を決定する。次に、

製造装置の必要な装置排

気量、生産時の実定格電

力の最大値(単なる定格

電力の積算では数倍もの

過剰設備となる)、及び要

求される粒子清浄度から

外気取り入れ量と冷熱源

容量及び空調システムを

仮決定する。なお、装置

排気に関しては、総じて

過剰になっており、かつ

非稼働時も排気している

ものが少なくない。適正

な排気量の算出および製

造装置の運転状態と連動

させることで不要な排気

をなくす等を実行すべき

である。これらの実施により大きな省コストおよび省エネ効果が達成できるのは間違いない。発生源が主に

CR構成部材である有機物に関しては、発生のより少ない使用部材を選定し、その使用量(特に表面積が重要)

から脱ガス量を積算するとともに、外気導入量からCR内平衡濃度を試算する。制御レベルを達成できない

場合は、ケミカルフィルタの適用だけでなく、清浄な外気を優先供給した場合についても検討すべきである。

外気が主な発生源である酸性ガスについては、外気濃度レベルと制御レベルおよび各除去技術の性能とコス

トから、最も安価でかつ運転コスト及びエネルギー消費の少ない除去手段を設計する。この場合、外気処理

系のみにおける対策よりも、外気処理系+循環系両者での除去対策の方がコスト的に有利な場合もあるので、

化学汚染対策

① 持ち込み防止 ② 発生防止

④ 除去③ 拡散防止

1)外気取り入れ位置の適正化

2)外調機での除去

3)圧力バランス

1)脱ガスの少ない素材を使用

(CR構成材、装置構成材、容器類)

2)枯らし促進

1)ケミカルフィルタ使用

2)循環用エアワッシャ付き空調機使用

3)外気による希釈

4)クリーンドライエア供給(超高性能)

1)使用薬品蒸気、ガスの漏洩防止

(装置排気管理)

2)アイソレーション

3)室圧制御

4)気流制御

図2 化学汚染防止4原則

製造へのケミカル汚染物質の影響データ

ゾーニングとエリア毎の各成分の制御濃度設定

複数の空調システム仮決定

①外気取り入れ量(排気量より決定する最少量)②空調条件(温湿度設定値及び室内負荷)

以下の除去技術の採用有無を仮決定

① 外調機用エアワッシャ② ケミカルフィルタ

③ 循環用ガス除去空調機

NO CR内濃度を試算

OK

循環系でのケミカルフィルタ採用と外気による希釈法のコスト比較

初期コストおよび運転コスト両面から最適な空調システム決定

外気取り入れ量

外気濃度データ

CR内発生量

各除去手段の除去性能

内装材選定

図3 化学汚染対策を考慮した空調システムの設計フロー例

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IDEMA Japan News No.62 3

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

外気処理系だけで要求性能を達成しようという固定的な考え方は避けるべきである。例えば、循環系におい

てエアワッシャ機能付きの循環空調機を採用した場合、外気処理系でその分緩和される濃度レベルによって

は、省エネ効果に加えて設備コストの削減にもなる可能性がある。以上のように、考えられる各空調システ

ム毎に検討した結果を比較することで、最終的にコストパフォーマンスの最も高いシステムを決定する。

CR設備に適用するケミカル汚染防止技術は、ケミカルフィルタ、エアワッシャ、超清浄空気(クリーン

ドライエア:CDA)、に大別される。これら各技術の組み合わせ、および適用方法によって化学汚染物質

の制御レベルが異なる。制御濃度レベルの異なる主な対策実施例を図4に示した。外気由来の無機成分にお

いては、外気処理系でのエアワッシャ処理がほぼ一般的となっている。濃度削減レベルによっては、さらに

同じ外気処理系下流にケミカルフィルタを採用したり、あるいは循環系内で局所的に循環空気をケミカルフ

ィルタにより処理させる方法などが追加される。循環系にエアワッシャを適用する対策は、加湿期の外気処

理系での加湿を最小限に絞り、足りない分を本エアワッシャによりCR内の排熱を加湿熱源として加湿する

ことで、省エネ・省コスト・ガス濃度削減を同時に達成できるとして、筆者らが平成15年に開発した新し

い空調システムである。本システムについては節を改めて解説する。

 化学汚染物質の発生源と優先的に実施すべき対策技術を分かりやすく表2にまとめた。同じコスト・エネ

ルギーの投入に対してより高い効果(高いコストパフォーマンス)が得られる適用場所や技術を優先的に選

定している。外気由来の酸および塩基に関しては、ガス状のものと粒子状のものが混在しており、この組成

比は季節や気象条件によって大きく変動する。粒子成分については前述したように相対湿度を適正範囲に制

御した上で乾式フィルタで除去する。ガス成分については、純水を補給水としたエアワッシャによる除去が

コストパフォーマンスの最も高い手段である。ただし、酸・塩基成分を同時に除去することから、処理外気

中のバランスが極端に偏る場合は除去性能が大きく変動するといった欠点があり、別途追加的な制御対策が

要求される。CR内が主な発生源である有機成分についてはCR構成部材および製造装置構成部材の脱ガス

の少ない材料を選定することが基本であるが、さらなる削減対策が必要な場合はケミカルフィルタが適用さ

れる。

4.外気処理系における化学汚染防止技術/持ち込み防止

 外気由来の金属成分と酸・塩基などの粒子成分の除去は既に述べたように、相対湿度を制御した上で粒子

製造

装置製造

装置

製造

装置

製造

装置

ケミカルフィルタ

エアワッシャ付き外調機加湿機能のない外調機

ドライコイル

エアワッシャ付き空調機クリーンドライエア供給装置

FFU

最少加湿空気供給

図4 クリーンルームにおける化学汚染対策手段とその特徴

ケミカルフィルタ

製造

装置

露点制御空気供給

汚染制御レベル 超高性能 少し高い 高い 普通 普通

運転コスト (CDA量依存) 安い 高い 高い 普通

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技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

除去フィルタによりほぼ100%の完全除去が達成できる。本節では、酸・塩基性ガス成分の除去手段とし

て、現在多く採用されているエアワッシャ技術について少し詳しく紹介する。筆者らは、平成9年に、当時

としては従来のエアワッシャに対して、装置サイズ1/3、送水動力1/5、送風圧損1/2、というコン

パクトで大幅な省エネを達成した高性能なエアワッシャを実用化した2)。従来、噴霧水滴との気液接触が主

であったのを、噴霧水のキャリーオーバーを防止するために使用されていたエリミネータに着目し、エリミ

ネータを吸水性能の高い素材で構成することで小さなスペースでも大きな気液接触面積を確保することがで

き、このような大幅なサイズダウンや送水動力の削減につながった。これをきっかけに、CR設備へのエア

ワッシャ導入が促進され、現在は電子デバイス関連のCR用外気処理系には標準設備として採用されるまで

になった。エアワッシャ導入がほんの数年でここまで普及した他の理由として、1)加湿期の加湿制御の安

定性が従来主であった蒸気加湿に比べて極めて優れている、2)筆者らの開発をきっかけとして他社もエア

ワッシャの開発に積極的に取り組んだ結果優れた装置が次々と実用化された、ことなどがあげられる。筆者

らも、平成9年以降約2年ごとに、さらなる高性能化を推進し、現在は純水使用エアワッシャの最大の欠点

である除去性能の変動を防止できる技術として、循環水中の余剰のイオン成分のみを選択的に除去すること

で、循環水のpH値を最適な範囲に制御する独自の技術を実用化している3)。

 酸性ガスと塩基性ガスの同時除去を行うCR用エアワッシャでは、循環水による二次汚染発生のリスクを

避けるため純水を補給水として使用している。ところが、清浄な水を使用することが一つの弱点ともなって

いる。酸性及び塩基性ガスの濃度がある範囲でバランスしている場合は問題ないが、バランスが大きく崩れ

ると循環水のpH値が1以上変動し、これに伴い一方のガス成分の除去率が低下する現象である。このよう

な障害は、比較的温暖な地域ではあまり見られないが、寒冷地または降雪地において冬季、突発的に顕在化

することを確認している。これは、塩基性ガスの主成分であるアンモニアの気中濃度が、低温による自然界

での発生量の低下に加えて降雪への吸収により極端に低下することが主な原因である。気中酸性ガスとのモ

ル比は10倍以上もの差になり、循環水のpH値が5以下にシフトする結果、酸性ガスの除去性能が10~

30%も低下してしまうというものである。従来のエアワッシャでは、循環水の水質を導電率でモニタし補

給水量を制御していたが、この現象の防止には全く効果がない。このpHの偏りによるガス除去性能の低下

は、むしろ循環水の導電率が通常より低い(=より清浄)場合に起きる傾向にあるのがその理由である。そ

こで、筆者らは、循環水のpH制御の有効性を示すと共に、従来の薬品添加ではなく逆に余剰の極性イオン

成分のみを選択的に除去することでガス除去性能を安定化するこれまでにない新しい技術を実用化した。な

お、補給水量については、除去対象空気中の各ガス成分の最大値からイオンへの解離常数およびヘンリーの

法則に従って決定しなければならない。例えば80%の除去が要求される成分については、80%除去した

発生源 外気処理での対策 CR内での対策

不純物 除去 排気 材質選定 隔離 除去

外気 CR内 除塵フィルタ エアワッシャ ケミカルフィルタ 除塵 エアワッシャ ケミカルフィルタ

酸系物質 ガス成分 ◎ △ - ◎ ○ ○ - - - - △

粒子成分 ◎ - ◎ △ - - - - - - -

塩基系物質 ガス物質 ◎ ◎ - ○ - ○ △ ○ - ○ ○

粒子物質 ○ - ○ △ - - - - - - -

有機系物質 ガス物質 △ ○ - - △ △ ◎ ○ - - ○

ドーパント B △ ○ - △ - - ◎ - - - -

金属類 粒子物質 ◎ ○ ◎ - - ○ - - ◎ - -

表2 不純物の発生源と優先的に実施すべき対策技術

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技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

循環水中のイオン化していないガス分圧が、浄化後の空気中のガス分圧以下になるよう水量を決定する。な

お、pH変動は補給水量を増やすことでも緩和されるが、同じ性能を達成する場合、余剰イオン成分の選択

除去による手段の方がコスト的にはるかに有利である。具体的な数値で示すと、p H 値を1改善するのは

補給推量を10倍にするのと同等の効果が得られるのである。コスト的にどちらが有利かは明白である。循

環水の大幅な変化に伴うガス除去性能の低下の関係と、p H 制御技術を適用した場合の改善効果例をイメ

ージ図として図5に示す。pH設定範囲は、除去対象ガスの要求性能及び変動許容範囲から個別に決定する。

 外気処理系における要求除去性能として、例えば常時95%以上と非常に高性能な制御が要求される場合

はケミカルフィルタを追加する必要がある。この場合、取り付け位置はエアワッシャの下流側にすることが

原則である。初期の性能としてはほぼ同等であるが、ケミカルフィルタの寿命がエアワッシャの上流と下流

では5~10倍も違ってくることから、運転コストに大きな差が生じることがその理由である。例えば、ケ

ミカルフィルタ単独での使用と、エアワッシャ+ケミカルフィルタ併用の場合で比較しても、後者は除去性

能で5~10倍高く、トータルの運転コストでも1/3程度と、ケミカルフィルタ単独使用よりもはるかに

安価でかつ高い性能が得られる。ただし、ケミカルフィルタによっては高い相対湿度条件下での使用に適さ

ないものもあるので注意が必要である。場合によっては、エアワッシャ処理後加熱処理が必要となり、昇温

幅によっては運転コスト及び消費エネルギー上昇を招くことになる。

5.循環系での化学汚染防止技術

5.1 有機物対策 

 気中に含まれる有機物といっても、実際にデバイス製造基板に付着し障害を引き起こすものはほんの一部

である。沸点が 150 ~ 200℃以上の分子量の大きな有機物(表3)4)で、発生源の多くが設備構成部材あ

るいは製造装置構成部材自身からであることが、無機系の化学汚染物質と大きく異なるところである。従っ

て、対策としては、発生量の少ない素材の部材を使用することが何よりも重要で、未対策設備に対して1/

10以下に発生量を削減することは容易に達成できる。設備部材だけでも相当数の検討が必要であるが、総

0 6 12 18 24経過時間 [ h ]

100

90

80

70

60

SO42-除去率[%]

8

7

6

5

循環水pH値[-]

0 6 12 18 24経過時間 [ h ]

100

90

80

70

60

SO42-除去率[%]

8

7

6

5

循環水pH値[-]

除去率

pH値

80%→60%以下に低下 80%前後に安定

除去率

pH値

pH制御システム導入

図5 純水使用エアワッ シャ循環水のpH制御による除去性能の安定化

(特許出願中)

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技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

表面積および使用量の多い部材から優先的に検討していくのが基本である。実施例として、脱ガスの少ない

部材を使用した設備における建設直後からの低分子シロキサンの濃度変化を図65)に示す。建設直後の濃度

は、従来の部材を使用した設備に対して約1/15まで削減されていることがわかる。一方、製造装置の搬

入に伴いその濃度は上昇しており、特に19ヶ月後の装置搬入では一気に数倍に跳ね上がっている。なお、

3ヶ月後の装置稼働時に2倍近くに一時的に上昇しているのは、装置内温度の上昇により脱ガス量が一時的

に増加したためである。この結果から、製造装置自身の使用部材の見直しが急務の課題であることが明らか

である。汚染制御の対象となる基板を搬送・ハンドリング・加工している装置自身が最大の発生源であるこ

とは非常に大きな問題である。早期に、装置メーカに化学汚染の情報を提供し、化学汚染対策の指針と共に

徹底した対策の実施を働きかけていくべきである。

 発生量の抑制対策で不十分な場合は、ケミカルフィルタを適用する。物理吸着原理により除去を行うため、

名 称 化学式 分子量 沸点℃ 用途他

DOP C6H4(CO2CH2CHC4H9-n)2 390.6 361 塩化ビニール

フタル酸ジオクチル | ポリエチレン

C2H5 合成ゴム等の可塑剤

DBP C6H4(CO2C4H9-n)2 278.3 340.7 可塑剤

フタル酸ジブチル

DOA C8H17O2C(CH2)4CO2C8H17 370.6 可塑剤

アジピン酸ジオクチル

BHT C6H2(CH3)(OH)[C(CH3)3]2 220.6 265 酸化防止剤

ジブチルヒドロキシトルエン

TBP (CH3CH2CH2CH2O)3PO 266.3 289 難燃剤

リン酸トリブチル

TEP (C2H5O)3PO 182.2 216 難燃剤

リン酸トリエチル

TCEP (C2H4ClO)3PO 284 難燃剤

リン酸トリクロロエチレン

LMCS ((CH3)2SiO)n n=3~11 D3=222,D4=296 134~ シリコーンシール剤

低分子シロキサン 通常検出されるのはn=6まで D5=370,D6=445 245 離型剤、潤滑剤

表3 ウェハ付着有機物として検出されるプラスチック配合剤等

外気 建設直後 1ヶ月後 2ヶ月後 3ヶ月後 4ヶ月後 16ヶ月後 19ヶ月後

装置搬入

稼 動

装置搬入

空気中の低シロキサン濃度[μg/m3]

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0

従来の部材使用時の測定例9.4μg/m3

CH3SiCH3

Si Si

O

O

OCH3

CH3CH3

CH3 D3 D4 D5 D6

3量体 4量体 5量体 6量体

低分子環状シロキサン

建設後の経過時間

図6 建設直後からのCR内の低分子シロキサン濃度履歴

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技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

比表面積の大きい活性炭が用いられる。現在、複数のメーカがそれぞれ特徴あるフィルタを製造販売してお

り、特に長寿命化(=低コスト化)に対する開発競争が激しく、数年前に比べてコストパフォーマンスは2

倍以上に高性能化されている。また、ケミカルフィルタの最大の課題であった寿命予知に対しては、秋山ら

が新しい予測手法を考案し実用化している 6)。

5.2 無機イオン対策&省エネ&低コスト化同時達成技術

 発生源の主が外気由来である酸性及び塩基性の無機イオン成分対策については、外気処理系での処理が基

本であることは既に述べた。一方、アンモニアに関しては、CR内においても発生するため、場合によって

はCR循環系においても追加的な低減対策が必要となる。一般的には、必要な工程のみを一部隔離し、ケミ

カルフィルタで濾過したCR空気をワンパスでそのエリアに供給するという方法が採用されている。しかし、

対象エリアが大きくなるとケミカルフィルタの数量が増加し、設備運転コストを大きく上昇させかねない。

そこで筆者らは、外気処理系における実績から、ケミカルフィルタに比べて運転コストの安価なエアワッシ

ャ技術の循環系への適用を検討し、無機イオン成分の除去と省エネ・省コストを同時に達成できる新しい空

調システムを実用化した。

 本空調システムを開発した経緯を少し説明する。電子デバイス用クリーンルームは年間冷房施設であるに

も係わらず、冬季の加湿期には、外気処理系において加湿のために膨大な加熱エネルギーを投入している。

これは、循環系において加湿機能を持たないドライコイルやファンコイルが使用されていることによる。こ

のような、外気処理系における加湿のためのエネルギーの無駄は、加熱の分CR内では冷却負荷も多くなる

ため、CR全体の年間空調消費エネルギーの 20 ~ 35%にも及ぶ。CO2 量に換算すると一工場当たり 1,000× 103 ~ 3,000 × 103kg /年にも達する。筆者らが開発した空調システムは,このようなエネルギー消費の

無駄をなくすことで,可溶性ガスの削減と共に大幅な省エネルギーと省コストを同時に実現できるものであ

る(図7)。

加湿期に外気処理系において加湿するためには、加湿水 1kg 当たり約 2,600kJ の熱が加えられる。一方、

CR

純水プラント

T H

外調機

エアワッシャ

pH制御システム

外気OA

RA

CA

エアワッシャ付き空調機

(商品名:G-GET)

10ppb20.5~1

ケミカル汚染レベルの削減例

外気

OA

RA

SOx

NH3

図7 化学汚染削減・省エネ・省コストを同時に達成できる対策例

特許出願中

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IDEMA Japan News No.62 8

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

加湿期の処理外気は、通

常 CR 内循環空気よりも

エンタルピーが低いた

め冷却源となり得る。し

かし、加湿により加え

られた熱量 2,600kJ 分

の冷却能力を失うこと

になるばかりか、その分

の冷却能力が循環系で

必要となる。つまり、水

1kg の加湿により、加熱

分の 2,600kJ と冷却負

荷増加分(=外気冷却

能力損失分)の 2,600kJとの計 5,200kJ のエネ

ルギーを必要とするわ

けである。そこで、エア

ワッシャを排熱が発生す

るCR循環系に採用する

ことで、従来外気処理系

で全て加湿していたのを、

CR循環系のエアワッシ

ャで加湿することでこの

無駄は大幅に削減される

のである。

CR循環系で使用する

エアワッシャ機能を搭載

した空調機(G-GET)

のガス除去性能評価結果

例を図8に示す。除去性

能は総じて高い。特に SO

2ガス、HF ガス、HCl ガ

スの除去性能は 97% 以上と非常に高い。可溶性 NO x成分については、バラツキが大きいが比較的良くと

れている結果といえる。アンモニアは外気処理系での除去性能より若干高いレベルである。ところで、本性

能はワンパスでの除去性能であって、CR内の平衡濃度は、CR内熱負荷率(=循環空気処理量)と外気導

入量の比により計算で求められる。図9に計算例を示したように、ワンパスの除去性能に対する循環系での

平衡濃度削減率の感度は比較的低いことがわかる。空調機自身のワンパスの除去性能としては80%以上あ

れば十分である。

6.完全隔離超清浄環境/クリーンドライエア

 究極の清浄環境として、西村らによって超低露点清浄空気発生機が実用化されている 7)。本装置の最大の

特徴は、従来の吸着塔を用いた圧力スイング方式と異なり、除湿用ロータを用いて常圧雰囲気で除湿するこ

NH4+

SO42-(SO2)

NOx(=NO2-+NO3-)

F-(HF) Cl

-(HCl)

B

91.7%

>98.6%

76.3%

>97% 97.5%

87.5%

60

70

80

90

100

除去

率[

%]

図8 G-GETのガス除去性能評価結果例

0 2 4 6 8 100

20

40

60

80

100

G-GET処理風量/外気供給量

G-

GE

T非

運転

時に

対す

るガ

ス濃

度削

減率

[%

]

G-GETガス除去率 100%

〃 85%

〃 55%

計算条件

外気中ガス濃度=0

CR内濃度は均一と仮定

一般的な運転範囲

図9 [循環浄化空調機風量/外気量]とCR内ガス平衡濃度削減率の関係

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IDEMA Japan News No.62 9

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

測定項目 仕様値 実績値

装置出口 取入外気

露点温度 ℃ <-100 <-111 10

(水分濃度 wtppb) (<8.7) (<-0.78) 7.6×106

有機ガス成分

気中濃度(トルエン換算:ppb) <1.0*1

0.2*2

21~29

ウェハ付着(DBP換算:ng/m2/72h) - ND~0.19 5.5~7.2

無機ガス成分(VoLppb) NH3:0.07~0.16 NH3:8~8.7

SOx:<0.01 SOx:0.18~0.86

NOx:0.08 NOx:1.4~2.6

*1:目標仕様値*2:ブランクレベル

評価場所:高砂熱学工業(株)総合研究所

表4 超低露点清浄空気供給装置の空気質評価結

図10 基板の汚染を完全に防止する究極の超清浄環境

クリーンルーム

FFU

ストッカー

搬送BOX

製造基板

極軟X線除電装置

超清浄低露点空気供給装置

開閉扉

除塵フィルタ

開閉扉

特許出願中

CR内のケミカル対策は大幅に軽減可

クリーンルーム

FFU

ストッカー

搬送BOX

製造基板

極軟X

クリーンルーム

FFU

ストッカー

搬送BOX

製造基板

極軟X線除電装置

超清浄低露点空気供給装置

開閉扉

除塵フィルタ

開閉扉

特許出願中

CR内のケミカル対策は大幅に軽減可

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IDEMA Japan News No.62 10

技術委員会 ESD コントロール分科会・コンタミネーションコントロール分科会 (04.05.28)より

とで露点温度-110℃(=水分濃度 1vol ppb 以下)を達成したことで、製造コストを大幅に削減したこ

とである。供給空気の性能を表4に示す。化学汚染物質も、全て大幅に削減されている。本装置の適用例を

図10に示す。半導体や液晶製造工程において、基板の汚染リスクが最も高いのが、CR雰囲気に長時間暴

露されるストッカーなどである。ここにクリーンドライエアを供給することで、例えば洗浄直後の基板は、

数日間保管されても清浄表面が保たれることから、次工程に投入する際に再度洗浄する必要がなくなる。ま

た、短時間での水分付着あるいは有機物付着が成膜特性などに影響を与える場合は、搬送環境をドライエア

雰囲気にすることでこのような障害は排除され、信頼性の高い再現性のある製造が可能となる。本技術が、

基板表面のさらなる超清浄化の要求に対する一つの答えになることを期待している。

7.終わりに

 化学汚染による電子デバイス製造への影響は、評価が非常に難しく明らかになっていない部分も多い。今

後、デバイスの高性能化に伴いさらに顕在化してくる問題と考えられる。新たな化学汚染障害に対して早期

に対策を実施していくためには、静電気対策と同様、デバイスメーカが装置メーカおよび設備業者など関連

する企業にいち早く情報を提供していくことが必要であろう。お互いに最新のデータを共有することで対策技

術の標準化を行っていくことが、結果的にデバイスメーカ自身にとって最善の策であるといえる。

参考文献

1) 稲葉、LCD製造における静電気対策、クリーンテクノロジー、Vol.14 No.4、pp26-32、20042) 稲葉、岡村、高橋、“エアワッシャーにおける親水性エリミネータの有効性”、空気清浄第 37 巻第 4 号、

pp308-314、19993) 岡村、佐藤、稲葉、“エアワッシャ供給水におけるpH制御システム”、第 21 回空気清浄とコンタミネーションコント

ロール研究大会予稿集、pp155-157、20034) 五味、半導体プロセス環境における化学汚染とその対策、リアライズ社、p102、1997

5) 谷本、半導体プロセス環境における化学汚染とその対策、リアライズ社、P50、1997

6) 秋山、高橋、五味、“多成分有機ガスの置換吸着現象を考慮したケミカルフィルタの寿命予測手法”第 22回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集、PP160-163、2004.4

7) 西村、岡村、“超低露点空気発生装置”、クリーンテクノロジー、Vol.10 N0.5、pp64-66、2000