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NTT技術ジャーナル 2014.5 45 グローバルスタンダード最前線 ITU-T(International Telecommu- nication Union-Telecommunication Standardization Sector)FG-M2M (Focus Group on Machine-to- Machine Service Layer)は,M2M技 術のe-health領域への適用を検討す るFocus Groupとして,2012年 1月 の電気通信標準化アドバイザリーグ ループ(TSAG: Telecommunication Standardization Advisory Group) 会合で設立が合意され,2013年12月 までに計12回の会合が開催されまし た.ここでは,FG-M2M会合の議論 結果について報告します. e-healthへの期待 近年,高齢化の進展に伴う医療費の 増加や医師をはじめとした医療提供 体制の不足など,医療分野における社 会課題への対応がますます重要と なっています.これは高齢化先進国で ある日本だけでなく,途上国を含む諸 外国においても重要となっており,そ の方策の 1 つとして医療分野にICTを 活用するe-healthへの期待が高まって います. ITU-T(International Telecommu- nication Union-Telecommunication Standardization Sector) で はWHO (World Health Organization)と合同 で,がんや糖尿病などの非感染症疾患 (NCDs: Non-Communicable Diseases) を対象として,主に途上国で携帯端末 を積極的に活用することを主眼とした Joint ITU and WHO mHealth initiative for NCDsを2012年10月に設立し,国 際的な連携と実証に向けた動きを活発 化 し て い ま す. ま た,ITU-Tで は 2012年11月に開催されたITU-T総会 WTSA-12において,決議78「e-health サービスへのアクセス向上のための活 動促進」が合意され,医療分野の優先 順位を高く設定し,WHOをはじめ関 連標準化団体との連携を加速するこ ととしています. ITU-T FG-M2M(Focus Group on Machine-to-Machine Service Layer) は,e-health領域へフォーカスした M2M技術を検討する場として設立さ れ,2012年 4 月 か ら2013年12月 ま で に計12回の会合が開催されました.次 にFG-M2Mの目的や会合の状況,WG (Working Group)構成と成果文書の 概要について報告します. 会合概要と目的 FG-M2Mの目的として,他標準化 団体との重複作業の回避,および e-health分野への貢献などを明確にす るため,ToR(Terms of Reference) には以下のように記載されています. グローバルM2Mコミュニティや 現在活動している市場情報,およ び要求条件,ユースケース,サー ビス&ビジネスモデル等を記載 している技術仕様の情報を収集 し,文書化すること. ・ M2Mサービスとアプリケーショ ンを有効にするAPIとプロトコル の開発をサポートする技術レ ポートを作成すること.初期検討 サービスとしてe-healthに特化す ること. 個別市場ステークホルダからの参 加者と貢献を期待する活動を実 施し,活動の重複を避けるために, 他標準化団体とリエゾンを結ぶ こと. ・ e-healthに つ い て のITU/WHO ワークショップへの対応として, 医療セクタに対してのM2Mアプ リケーション,およびサービスと いう観点から準備,および対応を アシストすること. FG-M2Mでは,後述する計 5 件の 成果文書(Deliverables)を作成する ことが合意され,検討結果を各成果文 書に反映することが主な業務となりま した. 会合状況 2013年12月の最終会合まで計12回 の会合が開催されており,うち 3 回は 遠隔による電子会議にて実施されまし た.会合はマネジメント担当になった 企業がホストになって実施され,第12 回の最終会合は日本企業であるNEC ヨーロッパ社のホストにて開催されま した.参加人数および寄書提出数は各 会ばらつきがあるものの,おおむね 8 カ国ほどから約25名程度(日本から 6 名程度)の参加があり,寄書数は約 20件程度(日本からは 5 件程度)と なっています.参加者はアジア勢が比 較的多いものの,欧米,中東,アフリ ITU-T FG-M2M会合報告 いしぐれ NTTセキュアプラットフォーム研究所

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Page 1: グローバルスタンダード最前線 ITU-T FG-M2M会合 …46 NTT技術ジャーナル 2014.5 グローバルスタンダード最前線 カと国際色豊かな会合となっており,M2Mおよびe-healthに関心のある国が

NTT技術ジャーナル 2014.5 45

グローバルスタンダード最前線

ITU-T(International Telecommu-nication Union-Telecommunication Standardization Sector)FG-M2M

(Focus Group on Machine-to-Machine Service Layer)は,M2M技術のe-health領域への適用を検討するFocus Groupとして,2012年 1 月の電気通信標準化アドバイザリーグループ(TSAG: Telecommunication Standardization Advisory Group)会合で設立が合意され,2013年12月までに計12回の会合が開催されました.ここでは,FG-M2M会合の議論結果について報告します.

e-healthへの期待

近年,高齢化の進展に伴う医療費の増加や医師をはじめとした医療提供体制の不足など,医療分野における社会課題への対応がますます重要となっています.これは高齢化先進国である日本だけでなく,途上国を含む諸外国においても重要となっており,その方策の 1 つとして医療分野にICTを活用するe-healthへの期待が高まっています.

ITU-T(International Telecommu-nication Union-Telecommunication Standardization Sector) で はWHO

(World Health Organization)と合同で,がんや糖尿病などの非感染症疾患

(NCDs: Non-Communicable Diseases)を対象として,主に途上国で携帯端末を積極的に活用することを主眼としたJoint ITU and WHO mHealth initiative

for NCDsを2012年10月に設立し,国際的な連携と実証に向けた動きを活発化 し て い ま す. ま た,ITU-Tで は2012年11月に開催されたITU-T総会WTSA-12において,決議78「e-healthサービスへのアクセス向上のための活動促進」が合意され,医療分野の優先順位を高く設定し,WHOをはじめ関連標準化団体との連携を加速することとしています.

ITU-T FG-M2M(Focus Group on Machine-to-Machine Service Layer)は,e-health領域へフォーカスしたM2M技術を検討する場として設立され,2012年 4 月から2013年12月までに計12回の会合が開催されました.次にFG-M2Mの目的や会合の状況,WG

(Working Group)構成と成果文書の概要について報告します.

会合概要と目的

FG-M2Mの目的として,他標準化団体との重複作業の回避,およびe-health分野への貢献などを明確にするため,ToR(Terms of Reference)には以下のように記載されています.

・ グローバルM2Mコミュニティや現在活動している市場情報,および要求条件,ユースケース,サービス&ビジネスモデル等を記載している技術仕様の情報を収集し,文書化すること.

・ M2Mサービスとアプリケーションを有効にするAPIとプロトコルの開発をサポートする技術レ

ポートを作成すること.初期検討サービスとしてe-healthに特化すること.

・ 個別市場ステークホルダからの参加者と貢献を期待する活動を実施し,活動の重複を避けるために,他標準化団体とリエゾンを結ぶこと.

・ e-healthに つ い て のITU/WHOワークショップへの対応として,医療セクタに対してのM2Mアプリケーション,およびサービスという観点から準備,および対応をアシストすること.

FG-M2Mでは,後述する計 5 件の成果文書(Deliverables)を作成することが合意され,検討結果を各成果文書に反映することが主な業務となりました.

会 合 状 況

2013年12月の最終会合まで計12回の会合が開催されており,うち 3 回は遠隔による電子会議にて実施されました.会合はマネジメント担当になった企業がホストになって実施され,第12回の最終会合は日本企業であるNECヨーロッパ社のホストにて開催されました.参加人数および寄書提出数は各会ばらつきがあるものの,おおむね 8カ国ほどから約25名程度(日本から6 名程度)の参加があり,寄書数は約20件程度(日本からは 5 件程度)となっています.参加者はアジア勢が比較的多いものの,欧米,中東,アフリ

ITU-T FG-M2M会合報告

石いしぐれ

榑 康や す お

雄NTTセキュアプラットフォーム研究所

Page 2: グローバルスタンダード最前線 ITU-T FG-M2M会合 …46 NTT技術ジャーナル 2014.5 グローバルスタンダード最前線 カと国際色豊かな会合となっており,M2Mおよびe-healthに関心のある国が

NTT技術ジャーナル 2014.546

グローバルスタンダード最前線

カと国際色豊かな会合となっており,M2Mおよびe-healthに関心のある国が多いと考えられます.

WG構成と成果文書

本会合は 3 つのWG体制にて議論されており,WG1はe-healthユースケースとサービスモデル,WG2はM2Mサービスレイヤにおける要求条件とアーキテクチャ,WG3はAPIとプロトコルという構成になっています.各WGでは担当テーマに従った成果文書の作成を担当することになりますが,基本は参加者全員が全WGに参加して議論できるように議事を進めており,主な提案者は各WGリーダ,および成果文書エディタとなっています.以下に各成果文書の概要を紹介します.

■e-health領域におけるM2M標準化活動およびギャップ分析(D0.1)本成果文書は大きく 2 部構成と

なっています.前半部では,既存のe-health系標準化団体活動を調査し,これらの団体が発行している技術仕様やレポートをリスト化することでe-health標準化動向を記載しています.後半部では,FG-M2Mにて作成した成果文書に記載されている技術内容 と, 前 半 部 に て リ ス ト 化 し たe-health系標準化団体発行文書との関連性,および差分を分析した結果を記載しています.本文書に記載された分析結果は,将来成果文書を仕様化する際に,ほかの標準化仕様との重複や差分を明確にする際に有益であり,またほかのe-health系標準化団体では標準化されていない技術領域の認識にも活用されることが期待されます.

調査対象は,表 1 に示す原則文書を公開している団体としています.

■e-health領域におけるM2Mエコシステム(D0.2)本成果文書は,e-healthに関連する

用語定義,概念およびM2M技術によるe-healthエコシステム概念モデルなどを記載することで,ハイレベルな要求条件を記載しています(図 1 ).医療分野においては遠隔医療を表す用語

表 1  調査対象団体

CEN TC251Continua Health AllianceDICOMepSOSETSI(M2M for use cases)GSMAHL7IHEISO/IEC TC215ITU-T(Q2/13 and Q28/16)M-Health AllianceWHO

図 1  e-healthシステム概念図

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

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O2O2

公衆衛生

パーソナルヘルス

匿名パーソナルヘルスデータ

e-healthシステムの例

固定・移動環境

自宅

コミュニティ地域の医療施設

健康モニタリングシステム

健康モニタリングシステム

患者臨床管理システム

意思決定支援システム

自立支援システム

動作モニタリングシステム

慢性疾患管理システム

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として「Telehealth」「Telemedicine」「Remote patient monitoring」などの類似用語は国や地域の専門家間においても認識に差異があり,統一見解を見出すまでに多くの時間を必要としました.e-health概要,およびエコシステムから導き出されるハイレベル要求条件は,ほかのFG-M2M文書が記載す

る内容の基本概念となるため,重要な文書といえます.■e-health領域におけるM2Mユース

ケース(D1.1)本成果文書では,e-health領域にお

いてM2M技術が活用される典型的なユースケースを記載しています.本文書は,バイタル情報のモニタリングの

ためにセンサ端末とサーバシステムを用いたM2M技術ユースケースと,センサ端末以外のデバイスとサーバシステムを用いたユースケースの大きく2 つに分類されており,計10項目について記載しています(表 2 ).■M2Mサービスレイヤにおける要求

条件とアーキテクチャ概要(D2.1)本成果文書では,M2Mサービスレ

イヤの共通要求条件,およびe-healthシステム適応時の要求条件の概要を記載しています.M2Mサービスレイヤの定義については,ITU-T勧告Y.2060 Overview of Internet of thingsにおけるIoT(Internet of Things) 参 照 モデル図をベースに,M2Mサービスレイヤをマッピングし,既存勧告との関連性を示しています(図 2 ).M2Mサービスレイヤにおける要求条件は,M2Mエコシステム文書(D0.2)に記載されているハイレベル要求条件を起

表 2  ユースケース一覧

No. ユースケースタイトル1 マス型メディカル検診2 BAN(ボディエリアネットワーク)によるマス型メディカル検診3 遠隔患者モニタリング4 遠隔健康相談システム5 NFC健康機器とスマートフォンを用いた遠隔健康管理システム6 在宅医療支援のための遠隔健康システム7 生活環境支援システム(AAL)8 イージークリニック9 パーソナル健康データ管理10 医療情報 ・ アプリケーション共有システム

図 2  IoT参照モデル(ITU-T Y.2060)におけるFG-M2Mサービスレイヤ

管理機能 セキュリティ機能アプリケーションレイヤ

IoTアプリケーション

一般サポート機能

DA GA NA

サービス・アプリケーションサポートレイヤ

ネットワークレイヤ

デバイスレイヤ デバイス機能 ゲートウェイ機能

特定サポート機能

ネットワーキング機能

トランスポート機能

ITU-T M2M サービスレイヤD-SL G-SL A-SL

e-healthサポート

Telematicsサポート …

SL-SL

特定管理機能

一般管理機能

特定セキュリティ機能

一般セキュリティ機能

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NTT技術ジャーナル 2014.548

グローバルスタンダード最前線

点として,ユースケース文書(D1.1)内容からの抽出,および他関連団体文書に定義されている内容などを参照して,共通要求条件としてまとめています.また,アーキテクチャおよび参照点の基本概念について記載しており,詳細検討は実施できていないものの,将来の詳細検討のベースとして活用されることが期待されます.■M2MサービスレイヤにおけるAPI

とプロトコル概要(D3.1)本成果文書では,アーキテクチャ文

書(D2.1)にて示された参照点におい て 期 待 さ れ るAPI(Application Programming Interface)やプロトコル概要について記載しています.M2Mサービスレイヤに適応することが期待できる既存APIとプロトコル情報を収集し,各プロトコルの特徴の分析, およびプロトコル構成例(図 3 )などを記載しています.また,各参照点における要求条件を定義する際に活用されるべき分析ツールを提示するこ

とで,将来のAPIとプロトコル仕様の検討のベースとなる情報を記載しています.

今後の展望

約 2 年前のFG-M2M発足以降,M2Mに関する技術メンバとe-healthの専門家の間には,M2Mやe-healthの認識にギャップがありましたが,会合を重ねるにつれて相互理解が深まり,最終的に成果文書を協力して完成させることができました.特に日本からの参加者は各会合前に,国内審議の場として一般社団法人情報通信技術委員会(TTC: The Telecommunication Technology Committee)のe-Health WP(Working Party)にて議論し,積極的にFG-M2Mへの寄書提出を行いました.結果,寄書件数はトップとなり,延べ 4名がエディタを務め,会合全体の議論を主導することができました.

今後は,FG-M2Mの上部組織であ

るStudy Group(SG)11(Protocols and test specifications), お よ び分 野 横 断 の 議 論 を 行 うTSAG

(Telecommunication Standardization Advisory Group)会合にて方針が議論され,その後関連するSGにて勧告化に向けた作業が進められる予定です.

e-healthに対する市場からの期待は高く,今後も標準化活動と普及活動が必要です.e-healthに関連する技術領域は広いため,勧告化作業ではITU-T内のSGとの連携に加え,WHOや医療系標準化団体との連携も実施することで,必要とされる標準を作成することが重要です.

図 3  e-healthシステムにおけるM2M関連プロトコル構成例

Bluetooth

USB

Zigbee

IEEE

IEEE

アプリケーション

Bluetooth

USB

Zigbee

IEEE

IEEE

アプリケーション

L1

L2

IPv4

TCP

HTTP

HL7v2

アプリケーション

L1

L2

L1

L2

802.3x

802.3x

IPv4

TCP

HTTP

HL7v2

アプリケーション

802.3x

802.3x

IPv4

TCP

HTTP

HL7v3

アプリケーション

802.3x

802.3x

IPv4

TCP

HTTP

HL7v3/SOAP

アプリケーション

IPv4

ゲートウェイ ネットワーク(fixed/mobile)

M2M プラットフォーム アプリケーションサーバ

デバイス