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NTT技術ジャーナル 2018.1 44 グローバルスタンダード最前線 第21回世界電気通信標準化協調会 議(GSC:Global Standards Col- laboration) が2017年 9 月26〜27日 までオーストリア ・ ウイーンで開催 されました.GSC会合は,各標準化 機関(SDO:Standards Developing Organization)間の活動の情報共有 や活動の重複を回避した標準化活動 の促進を目的としており,今回は11 のSDOから計76名が参加して行われ ました.今回の戦略トピックスは, AI(Artificial Intelligence)とスマー トシティについて議論されました. 会合の概要 第21回世界電気通信標準化協調会 議(GSC:Global Standards Collab- oration) は,2017年 9 月26〜27日 に オ ー ス ト リ ア ・ ウ イ ー ン のIEEE (Institute of Electrical and Elec- tronics Engineers)欧州事務所で行 わ れ,11のSDO(Standards Devel- oping Organization)〔ARIB(日本), ATIS(米国),ETSI(欧州),IEC, IEEE-SA,ISO,ITU,TIA(米国), TSDSI( インド ),TTA( 韓国 ), TTC(日本)〕から計76名が参加しま した(写真).各標準化団体の最新の 活動状況,優先する標準化課題の報告 および戦略トピックスとしてAI (Artificial Intelligence)とスマート シティの 2 つについて議論され,また WRC(World Radiocommunication Conference)-19 Agenda Item 1.12に ついて議論しました. 各標準化団体からの 活動進捗報告 11のSDOから,最新の活動状況の 報告および優先的な課題についての報 告がありました. 重複する課題としては,5G,SDN (Software Defined Networking)/ NFV(Network Functions Virtualization),IoT(Internet of Things),コネクティッドカー,セキュ リティ,オープンソースソフトウェア (OSS),ブロックチェーン,今回の 戦略トピックスのAI,スマートシティ でした. 戦略トピックス議論 ■ Communication Technologies and Artificial Intelligence for Au- tonomous Systems AIについては,IEEE-SAがファシ リテータとなり, 8 つのSDOからの 報告がなされました. (1) ATIS initiatives in support of Artificial Intelligence for Autonomous Systems (ATIS) 2017年に発行されたコネクティッ ドカーのサイバーセキュリティに関す る白書について説明を行いました.ク ラウド経由での接続パスやセキュリ ティ要件が記述されており, Automotive Information Sharing and Analysis Center (Auto-ISAC) と し た連携した活動を行っています. (2) Overview of Communications Technologies for Autonomous and Connected Vehicles(TTA) TTAもコネクティッドカーへのAI の導入事例として,クラウド経由では なく,直接,車車間や信号機や道路標 識などのインフラと相互通信して,事 写真 GSC-21参加者 第21回世界電気通信標準化協調会議 (GSC-21)報告 ひでゆき NTT研究企画部門

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NTT技術ジャーナル 2018.144

グローバルスタンダード最前線

第21回世界電気通信標準化協調会議(GSC:Global Standards Col­lab oration) が2017年 9 月26〜27日までオーストリア ・ ウイーンで開催されました.GSC会合は,各標準化機関(SDO:Standards Developing Or ganization)間の活動の情報共有や活動の重複を回避した標準化活動の促進を目的としており,今回は11のSDOから計76名が参加して行われました.今回の戦略トピックスは,AI(Artificial Intelligence)とスマートシティについて議論されました.

会合の概要

第21回世界電気通信標準化協調会議(GSC:Global Standards Col lab­oration) は,2017年 9 月26〜27日 にオ ー ス ト リ ア ・ ウ イ ー ン のIEEE

(Institute of Electrical and E lec­

tronics Engineers)欧州事務所で行わ れ,11のSDO(Standards De vel­op ing Organization)〔ARIB(日本),ATIS(米国),ETSI(欧州),IEC,IEEE­SA,ISO,ITU,TIA(米国),TSDSI( イ ン ド ),TTA( 韓 国 ),TTC(日本)〕から計76名が参加しました(写真).各標準化団体の最新の活動状況,優先する標準化課題の報告お よ び 戦 略 ト ピ ッ ク ス と し てAI

(Artificial Intelligence)とスマートシティの 2 つについて議論され,またWRC(World Radiocommunication Conference)­19 Agenda Item 1.12について議論しました.

各標準化団体からの 活動進捗報告

11のSDOから,最新の活動状況の報告および優先的な課題についての報告がありました.

重複する課題としては,5G,SDN(Soft ware Defined Networking)/N F V ( N e t w o r k F u n c t i o n s Virtualization),IoT(Internet of Things),コネクティッドカー,セキュリティ,オープンソースソフトウェア

(OSS),ブロックチェーン,今回の戦略トピックスのAI,スマートシティでした.

戦略トピックス議論

■ Communication Technologies and Artificial Intelligence for Au­ton omous SystemsAIについては,IEEE­SAがファシ

リテータとなり, 8 つのSDOからの報告がなされました.

(1)  ATIS initiatives in support of Art i f ic ia l Inte l l igence for Autonomous Systems (ATIS)

2017年に発行されたコネクティッドカーのサイバーセキュリティに関する白書について説明を行いました.クラウド経由での接続パスやセキュリテ ィ 要 件 が 記 述 さ れ て お り,Automotive Information Sharing and Analysis Center (Auto­ISAC)とした連携した活動を行っています.

(2)  Overview of Communications Technologies for Autonomous and Connected Vehicles(TTA)

TTAもコネクティッドカーへのAIの導入事例として,クラウド経由ではなく,直接,車車間や信号機や道路標識などのインフラと相互通信して,事

写真 GSC-21参加者

第21回世界電気通信標準化協調会議(GSC-21)報告

岩い わ た

田 秀ひでゆき

行NTT研究企画部門

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故防止を行うCellular V2X(車車間 ・路車間通信)の3GPP(3rd Gen er a­tion Partnership Project)での活動の紹介を行いました.本技術は将来の自動運転につながるものです.

(3)  ETSI Issues on Artificial Intelligence (ETSI)

ETSIからは,Radio Access tech­nol ogy, Vehicle connect iv i ty, IMT2020, Access, x­Haul and Core network technologies,Network Management & ControlについてAI導入のインパクトと活動プログラムの紹介がありました.また,ETSI ISG­ENI(Industry Specification Group on Experiential Networked In tel li­gence)で,5Gを含むネットワーク運用へのAI導入に関する検討を2017年2 月から開始しました.(4)  Overview of JTC1 Activities

in the Area of Artificial In tel­ligence (IEC)

JTC1からは,AI技術の変遷や定義の紹介がありました. 1 年前にJAG

(JTC1のアドバイザリグループ)がJETI(JTC1 on Emerging Tech nol o­gy and Innovations)の時限的なグループを立ち上げ,AIとAS(Autonomous System)の迅速な標準化の必要性を提唱して,JTC1/SC7(ソフトウェアエンジニアリング),SC34(文書の処理と記述の言語),SC40(ITマネジメントとITガバナンス)やWG9(ビッグデータ)での活動を開始しました.

(5)  IEEE­SA Initiatives in Ar ti­fi cial Intelligence and Au ton o­

mous Systems (IEEE­SA)IEEE­SAか ら は2015年 に“Global

Initiatives of Ethical Considerations in Artificial Intelligence and Au ton o­mous Systems”のプロジェクトを立ち上げ,倫理 ・ ポリシーに基づいたAI/AS技術の適用を検討していると報告がありました.

(6)  Communications Technology and Artificial Intelligence (ISO)

ISOか ら は 航 空 ・ 宇 宙, 防 衛 のR&D領域におけるAIの適用に関する機会とチャレンジについて分析が報告されました.AIの実現にはデータの品質(ISO8000で規定)やIoT技術によるデータ取得,ブロックチェーンにおけるデータのセキュリティ確保について説明が行われました.

(7)  AI for Good Global Summit (ITU)

ITUとXPRIZE財団が主催し,20の国連機関が後援となって2017年 6月 に 開 催 さ れ た “AI for GOOD”Global Summitが紹介されました.社会のすべての側面で安全で倫理面で公平なAIの開発についての議論が行われました.

(8)  Standardization perspectives f o r A u g m e n t a l R o b o t i c s

(TSDSI)TSDSIか ら はAugmental Robotics

(拡張的ロボット工学)の概念,チャレンジ課題と標準化について紹介がありました.触覚,感覚を表現するためのコーデック(IEEE P.1918.1)の検討,安全が必要とされる業態利用をめ

ざしたTime Sensitive Networking(IEEE 802.1)の検討を行っています.特に60%の国民が基本的な医療を受けられない遠隔医療へのAIの導入が期待されています.■スマートシティ

(1)  ATIS Initiatives in support of Smart Cities (ATIS)

2017年 5 月に “ATIS Smart Cities Technology Roadmap” が発行されました.テクノロジマップでは,アクセス,プラットフォーム,アプリケーション,インフラの 4 つに分類され,それぞれの課題が示されています.アクセスの課題は,クラウドデータ,コンテクストアウェア,次世代位置検出,プライバシとセキュリティ管理です.プラットフォームの課題は,AI,マシーンラーニング,データ集積基盤とデータ交換,AR基盤です.アプリケーションの課題は,AR/VRコンテンツ,コンテンツ連携です.インフラの課題は,分散による復元力,設備管理,緊急事態の対応であることが述べられました.

(2)  Smart City/Achieving Better Life (CCSA)

スマートシティ展開事例(ドバイ:下水,ごみ処理等公共サービス,広州:地方政府の効率化,ケニア:遠隔医療,アムステルダム:スタジアムWi­Fiサービス,敦煌:スマート観光,ニューカッスル:大学内高速Wi­Fiネットワーク)について報告がありました.

(3)  ETSI Strategy on Smart City Standards(ETSI)

スマートシティに関する技術検討が

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グローバルスタンダード最前線

進んでおり,都市ごとに必要な技術を選択する際に,標準化により,技術適用のリスクが削減されると指摘していました.ETSIのスマートシティについて紹介があり,データ活用の推進には,コンテキストを把握することが重要,またセキュリティ,プライバシ,トラストの重要性を強調していました.

(4)  IEC using a Systems Ap­proach to develop Smart City standards (IEC)

スマートシティは,複雑で大規模なインフラが対象であり,インターオペラビリティが重要で,標準化については,システム的なアプローチが必要です.2017 年に IEC SyC(Systems Committee)を設立してスマートシティ,Smart Energy,AAL(Artificial Assisted Living),LVDC(Low Voltage Direct Current)の標準化活動を展開しています.

(5)  IEEE Smart City (IEEE­SA)IEEE標準化でスマートシティに関

連 す る も の は,IEEE802( 高 効 率WLAN),IEEE P1931.1 ROOF

(Real­t ime Onsite Operat ions Facilitation: 家庭や建物内の局所環境におけるIoTのインターオペラビリティやセキュリティの実現),5G関連であることが報告されました.

(6)  ISO Smart and Sustainable Cities development (ISO)

ISOか ら は, 都 市 レ ベ ル のISO TC268(スマートでサステナブルな都市実現標準化)とマシンレベルのJTC1 WG11(スマートシティに向け

た情報技術)の標準化活動の紹介,SC41(IoT)とSC27(セキュリティ)と連携した活動を紹介しました.

(7)  ITU Smart Sustainable Cities and Communities Initiatives: Towards a Smart Global Vision

(ITU)ITU­Tのスマートシティ活動とし

て, 多 く の 国 際 機 関 が 参 加 し たU 4 S S C ( U n i t e d f o r S m a r t Sustainable Cities)においてICTを活用したスマートサステナビリティを実 現 す る た め のKPI(Key Per for­mance Indicator)や知識の共有と方向性を検討した報告が行われました.

(8)  Building the Smart City To­geth er (TIA)

NISTとCybercity Framework,IESCi t ty FrameworkおよびUS Ignite(先進無線コンソーシアム)やFirstNetとの連携が報告されました.

(9)  India’s SMART Cities I ni­tiative and the role of stan dard­i zation (TSDSI)

インドでは,交通,エネルギー,水道が最大の課題となっています.スマートシティの定義として,標準化されていること,安全で確実であること,信頼でき調和していることであり,その実現には,ICT,IoT技術が必須であることが述べられました.

(10)  Sustainable development of IoT enabled smart cities in South Korea (TTA)

過去のプロジェクトの失敗から,持続 性(Sustenability) と 相 互 接 続

(Interoperability)の重要性を意識して お り,oneM2Mの 水 平 プ ラ ッ トフォーム展開と標準インタフェースによる相互接続性の適用が不可欠です.TTAの活動として,oneM2Mの認証事業とFIWARE等のプラットフォームとのインタワークを紹介しました.

今後の予定

次回,第22回会合は2019年 3 月にISO/IECがホストとなり,スイスで開催される予定です.