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  • 特集 買いたい服がない

    雑誌  > 日経ビジネス2016年10月3日号

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    PART3

    過去とは決別「これが私の生きる道」新ネットサービスからモノ作り、人材まで

    特集トップ

    ストライプインターナショナルやアダストリアといった、低迷市場でも成長を続ける企業がある。従来のアパレル業界の慣習にとらわれず、思い切って事業を進化させる経営者の覚悟が際立つ。

    (写真=北山 宏一)

     「完全にゆでガエルだった。そう簡単に崩壊しないと高をくくっていた」。大丸松坂屋百貨店の好本達也社長は、過去の衣料品施策について反省を込めてこう語る。「日々の売り上げを見る限りは1~2%減のレベル。一気に減るわけではないので、危機感が薄かった。リーマンショック後は、さらに厳しさを増したが回復曲線が描けなかった」。

     百貨店も含めてアパレルに関連する業界は、皆気付いていたはずだ。このままでは持たないのではないか──。直近の数年は、株高による富裕層消費の伸びと、インバウンド特需が干天の慈雨となり、結果として抜本的な改革への着手が遅れた。

     そうした中で、J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋は業界では早く手を打てた方だ。大丸松坂屋では、松坂屋名古屋店と大丸心斎橋店の店舗で婦人服の売り場面積を縮小。「ブランドレベルの入れ替えをパッチワークのようにやっても意味がない。大きな改革が必要」(好本社長)とアクセルを踏む。心斎橋店では本館建て替えに伴い、婦人服の面積を4割程度減らしたが、売上高は2割減にとどまった。名古屋店ではヨドバシカメラを導入しており、7月には社内に「不動産部」を新設し、他店でもテナント導入を進める考えだ。高島屋も「脱・衣料品依存」の方向を模索する。木本茂社長は「婦人服は通常、フロアにして3~4層を使っているケースが多い。婦人服の面積を削った分は、靴やバッグといった婦人雑貨を増やす方向にかじを切っている」と話す。

     大手アパレルは採算の合わない百貨店の地方店などのショップを閉め、一方で百貨店側も人気のあるブランドに絞り込む。オンワード樫山が紳士服「五大陸」の売り場を9月下旬に、大丸東京店の高級ブランドゾーンに初めて開くなど、製販が組んだ新たな取り組みも生まれている。その一方で選別されて消えていくブランドや百貨店店舗もさらに増えていくだろう。つまり

    アパレルと百貨店の関係は、これまでの「もたれ合い」から、互いに「選別

    日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う米中の対立激化、北朝鮮の変節、ロシアの影――。一気に流動化する世界の「これから」を読み解く

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  • アパレルと百貨店の関係は、これまでの「もたれ合い」から、互いに「選別される関係」になっていく。

     アパレル業界の未来はどこにあるのか。低迷する業界にあって、着実に成長してきた生きのよい企業の取り組みをみれば、多くのヒントがある。

    やらなければ誰かにやられる

     「服、借りホーダイ!」。昨年、ストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)が発表したサービスは業界を驚かせた。1カ月5800円で自社ブランドの衣服を何点でも借りられる「メチャカリ」を開始したのだ。

     レンタルの手続きは全てネットで完結する。衣服のレンタルサービスは、国内でも複数存在するが、多くは、衣料品メーカーから商品を仕入れてレンタルする仕組みを採用する。一方、ストライプは、SPA(製造小売り)として展開する「アースミュージック&エコロジー」といった自社ブランドの商品を使ってレンタルを始めたのだ。

     「自分たちのビジネスの中での共食いも覚悟の上。どうせやらなければ海外企業やIT(情報技術)企業が入ってきて、アパレル業界をぐちゃぐちゃにされる。米アップル、米アマゾン・ドット・コムにやられた多くの日本企業をみれば明らか」(石川康晴ストライプインターナショナル社長)。破壊されるくらいなら、アパレル企業の既存のモデルを壊す覚悟で、業容を進化させる「創造的破壊」をするという精神だ。

     ふたを開けてみれば、共食いはなく、自社店舗もネット通販も売上高にマイナス影響はなかった。メチャカリ登録者のうち3分の2が新規ユーザー、つまりストライプに全く接点のなかったユーザーを取り込めた。

     石川社長はアパレルの市場を、「新品を買って終わり」の世界ではなく、それ以降も利用者と接点が持てるビジネスにしていくつもりだ。例えば、メチャカリを始めたと同時に、ストライプでは自社EC(電子商取引)で中古品販売を始めた。メチャカリで返却された商品を中古品として売る「出口」を用意したのだ。それだけではない。昨年4月にベンチャー企業を買収して始めたクリーニングサービス「バスケット」も購入後の接点を増やす戦略の一つだ。

     石川社長が見習うのは自動車産業だ。自動車は、メンテナンスや中古の買い取り、販売のサイクルがある。パーツやアクセサリーの市場もある。今なら配車サービスの「ウーバー」もその産業の一端を担っていると言える。

     自動車産業に倣えば、アパレル市場も伸びしろがあると考えている。特にテクノロジーを使ったサービスに期待し、バスケット買収時の社長だった30代の松村映子氏を、ストライプのCTO(最高技術責任者)に抜擢している。ネットビジネスなどを熟知した人材を積極登用して、アパレル業界の枠にとらわれないビジネスを切り開く考えだ。

     TSIホールディングスの齋藤匡司社長も、アパレル産業はITをもっと活用できるはずとみる。「例えば、店舗の前にどれくらい人が通っていて、そのうち何人が入店して、どの商品に触れたかなども、技術的にはデータが取れる時代。こうしたデータを活用する時代はすぐそこまで来ている」という。ネット通販の購買データを組み合わせれば、精度の高い需要予測や顧客への提案が可能になる。

     現在、TSIの中で売上高トップを誇るブランド「ナノ・ユニバース」のネット販売の比率は既に30%を超えている。他のブランドのネット通販の比率が今後上昇していけば、従来通りの出店は必要なくなるだろうとみる。「TSI全体の店舗数は現在約1400店舗だが、1000程度に減る可能性も十分にある」(齋藤社長)。

    「ブランド作りはモノ作りから」

     川下だけではなく、川上にも改革の余地は大きい。「ローリーズファーム」「グローバルワーク」などのSPAブランドを持つアダストリア。ブランドの買収を進めながら、順調に成長している。転機になったのは2010年。OEMなどによる「丸投げ」体質から脱却し、海外生産であっても商品の企画から工場の現場まで、モノ作りに自社で踏み込む姿勢に転換したのだ。 福田三千男・会長兼CEOには忘れられない記憶がある。2009年ごろ、ある

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  • (写真=大槻 純一)

    (写真=的野 弘路)

    (写真=大槻 純一)

    (写真=竹井 俊晴)

     福田三千男・会長兼CEOには忘れられない記憶がある。2009年ごろ、ある中国人が日本のアパレル店舗を回った後にぼそっと一言こういった。「日本で買えるものは中国でも買える。どれも一緒だよ」。福田氏は少なからずショックを受けたという。「あの頃、日本企業のクオリティーは少なくとも中国よりは高いと思っていた」。だが現実を突き付けられた。同時期に言われた自動車メーカー幹部の言葉も胸に突き刺さった。「モノ作りをしていないのに、どうやってお客さんにブランドとしてモノを売るんだよ」。

     同質化から脱却するにはモノ作りしかない──。福田氏は2010年に「チェンジ宣言」と銘打ち、“OEMの丸投げ”と手を切る。売上高は2016年2月期に2000億円を突破。2011年2月期以降、下降傾向にあったのれん償却前連結営業利益も2015年に回復し、2016年2月期には実質的に過去最高益の182億円を計上した。「昔のように上っ面だけのブランドは通用しない。それをやっていたらお客さんに鼻で笑われて終わりだ」(福田会長兼CEO)。

     イッセイミヤケ社長、松屋の常務執行役員などを歴任したクールジャパン機構の太田伸之社長は「産地との向き合い方を変えなければ、日本のアパレルに未来はない」と話す。モノ作りや川上への回帰は少しずつ始まっている。例えば、高島屋は福井県の双葉レースや大阪府の敦賀繊維などと手を組んだ商品開発を本格的に開始した。

    百貨店・アパレル大手が描く「私たちの活路」

    高島屋木本 茂社長【売上高】7655億円(2016年2月期)【3年前と比較した売上高成長率】3%注:百貨店の売上高は、各社の百貨店事業のみを抽出

    いち早く消費者の声に応え、川上の産地と連携して独自製品の開発に注力する。売り場面積当たりの衣料品の比率は下げざるを得ない

    大丸松坂屋百貨店好本 達也社長【売上高】7632億円(2016年2月期)【3年前と比較した売上高成長率】2%

    消費者のニーズを細かく見て、高級ラインなど手薄な価格帯を強化する。取引先を見極めてアイデンティティーを持ったブランドと強力に組む

    TSIホールディングス齋藤 匡司社長【売上高】1672億円(2016年2月期)【3年前と比較した売上高成長率】▲10%

    ネット事業、店舗の効率化、工場への投資を積極化する。ブランドや品番数も選択と集中を進める。11%のネット通販比率を20%にまで高める

    アダストリア福田 三千男会長兼CEO【売上高】2000億円(2016年2月期)【3年前と比較した売上高成長率】64%

    パタンナーやデザイナーを集めたR&D室でモノ作りに徹底的に取り組む。外部委託で失った大切な力を、利益が減ったとしても取り戻す

    ストライプインターナショナル石川 康晴社長

    【売上高】1103億円(2015年1月期)

  • (写真=北山 宏一)

    【売上高】1103億円(2015年1月期) 【3年前と比較した売上高成長率】48% 注:ストライプは現在未上場。売上高比較は、ストラ

    イプ単体のもの

    IT活用やサービスを取り入れれば、衣料品市場は大きくできる。店舗数やブランドは増やすが、数字管理を徹底して潔くやめるものはやめる

    LVMHが先導する販売員強化

     消費者との接点となる、販売人材の待遇改善に乗り出す動きも出てきた。三越伊勢丹ホールディングスは、従業員の生活に配慮し、2009年度からは30分の営業時間短縮、2011年度には元旦以外の店舗休業日を導入し、初売り日を1月3日に後ろ倒しにするなど、業界の暗黙のルールにとらわれない施策を次々と打ち出してきた。さらに今年4月からは、契約の販売員の雇用期間を採用時から無期雇用にするなど、働きやすい環境づくりに取り組む。

     ワールドは2017年春採用で、子会社のワールドストアパートナーズが新卒を1000人採用すると発表した。これまでの新卒採用数の約2倍だ。銀行出身で2015年4月に社長に就任したワールドの上山健二氏は「最前線で活躍する販売員は一番の戦力」と考えた。就任直後に本社社員を希望退職で大きく減らしたが、売り上げに直結する販売員については人材増強が必要との判断だ。

    国内アパレル復活の処方箋テクノロジーの導入ネット通販をはじめとするテクノロジーをいかに利益につなげるか。売買を単にネットに移すのみならず、顧客管理、データ解析、接客やカスタマーサポートなどテクノロジー活用の余地は大きい成功体験からの脱却脱・衣料品頼みを進め始めた百貨店や商業施設に依存していては道は開けない。自らの強みを再定義し、思い切った事業構造の転換や、M&A(合併・買収)にも積極投資すべきだモノ作りと向き合う「少しくらい高くても、納得できるもの」を求める消費者は多い。中途半端な値段と質ではもう売れない。商社などへの丸投げをやめ、国内外を問わず素材や生産現場と向き合う姿勢が必要販売員の育成前線に立つ販売員や通販のカスタマーサポートなど接客対応をする人材は今後、他社との競争上ますます重要になる。「ブラック」と呼ばれて久しい販売員の地位向上は必須 業界全体の動きも出てきた。今年6月、大手百貨店やアパレルメーカー約100社が集まる日本プロフェッショナル販売員協会(JASPA)が発足した。代表は6月末までLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパンの社長を務め、現在もフランス本社の顧問であるエマニュエル・プラット氏。テンプスタッフの堀井氏は「LVMHは販売員の待遇が良い会社として知られる。今までも類似の団体は何度か発足しているが、代表者や発起人のラインアップが今までとは全く違う」と評価する。

     JASPAでは今後、会員企業の販売員に向けた教養やスキルアップ講座の開設、語学研修や検定などを実施していくという。代表のプラット氏は9月21日に開いた初の総会でメッセージを伝えた。「販売員を取り巻く環境はその重要性に比べて、必ずしもいいとは言えない。地位向上を図りたい」。業界が一歩を踏み出した意味は大きい。

     日本のアパレル業界は今、正念場に立たされている。改革は今のタイミングを逃せば、次はない。いかに軌道に乗せるか。ファッションの先進国である米国の姿は多くの示唆を与える。最後に、米国のアパレル業界で起きている劇的な変化の様子をリポートする。

    2大トップインタビュー苦境からの脱却、盟主の戦略 アパレルの状況は相当悪くなっています。当社の売上高を見ても、ここ数年だけで3割くらいは落ちている。業界は悪循環に陥っています。アパレル各社は従来、100の売り上げ目標に対して130程度商品を作っ

    ていましたが、今は売れないこと

  • 三越伊勢丹ホールディングス大西 洋社長【売上高】(百貨店事業のみ)1兆1873億円(2016年3月期)【3年前と比較した売上高成長率】6%(写真=北山 宏一)

    オンワードホールディングス保元 道宣社長【売上高】2635億円(2016年2月期)【3年前と比較した売上高成長率】2%(写真=的野 弘路)

    ていましたが、今は売れないことが前提。100の目標に対して100くらいかもしれない。その結果、百貨店の地方や郊外の店には商品が回らない。その上、商品の同質化の流れは変わらない。先日も売り場を改めて歩いて見ましたが、ほとんどのブランドで似たような商品がある。顧客を引きつける個性が薄れているのです。

     先日、三越千葉店の閉鎖を決めましたが、郊外店の改革は急務です。百貨店はビジネスモデルそのものが問われています。コト消費が加速している時代なのに、百貨店の店舗は8割以上がモノの販売のままです。百貨店の商品分類の発想を超えた、店舗構成の見直しが

    必要です。

     カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との提携は、「Tポイント」にとどまるものではありません。彼らは大阪府枚方市で生活提案型の商業施設を最近、つくりました。それをそのまま導入するわけではありませんが、郊外店の改革などでも、CCCとは協力していくつもりです。

     地方や郊外の百貨店はこれからも厳しさを増しそうです。利益を保ちつつ、差異化を図るうえで、自分たちでモノ作りに挑戦するしかないというのが我々の判断です。独自開発の婦人靴では想定以上の成功を収めました。しかし衣料は難しく、在庫がケアしなければならない水準に来ています。今秋から独自開発の衣料は、ラインアップを定番に集中させ、テコ入れしているところです。

     アパレルメーカーとの付き合い方も変えていくことになります。全量が消化仕入れという形ではなく、リスクを取って一定量を買い取る契約も必要になります。

     今まで各アパレルとは価格などの条件交渉がメーンだったのですが、これからは、本当にこの商品には売価に見合った価値があるのか、どこまで売れるのかといった踏み込んだ交渉をしていきたいのです。

     百貨店やショッピングセンターでの販売が中心となっている、当社の既存ビジネスは過去1年半、なかなか逆風がやみません。

     業界として店舗過剰、商品過剰になっているのは否定できません。当社としては、今後の成長の土台を作るため、採算性の見込めないブランドや店舗を、大胆に整理することが欠かせません。選択と集中によって、店の規模や立地、販売員の能力など店ごとの魅力を高めていきます。

     主力ブランドの「組曲」「23区」などは1990年代に発売した当初は20代をターゲットにしていましたが、今では40代以上の顧客も多いのです。若い世代をどう開拓するかは非常に重要な課題です。これまでショッピングセンター向けのブランドなどを提案してきましたが、これからはインターネットを活用していきたい。当初は直営サイトを中心に考えていましたが、顧客基盤ができたので、今後はオープン戦略です。既にゾゾタウンに出品していますが、百貨店には来ないような消費者が、当社の商品と出合い、新規顧客を開拓できます。成長の柱として

    いる「オムニチャネル」は、ネットと店舗を通じて、顧客との接点を広

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    いる「オムニチャネル」は、ネットと店舗を通じて、顧客との接点を広げることが狙いなのです。

     アパレル各社が90年代に海外生産を広げたとき、商社などへの生産委託に頼ったことで、商品の同質化が進んだ面はあります。これからはもっと我々自身が生産にコミットしていくべき時代です。並行して、当社の国内生産の比率も現在の15%から25%に高めたいと思っています。こうしたメーカーとしてのこだわりが、これからアジア市場を開拓していくときの強みにもなるのです。

     これからは、顧客一人ひとりにカスタマイズした衣料が必要だと思います。IT(情報技術)を活用しながら、リードタイムを短く、価格を抑えて販売できるようにしたい。極端に言えば、顧客と対話しながら作れれば、在庫ロスがなく、セールをしなくてもいい。そんなモデルが理想です。

    日経ビジネス2016年10月3日号 40~43ページより

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