ムーディーズのリサーチサービスご紹介シリーズ...
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
ムーディーズ・アナリティックス
ディレクター
水 野 裕 二
2013年10月28日
ムーディーズのリサーチサービスご紹介シリーズ
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
本資料ではムーディーズが公表してきた以下のデフォルト・スタディを元に、グ
ローバルなインフラストラクチャー・ファイナンス案件及びプロジェクト・ファイナン
ス案件のリスク特性を格付、デフォルト、回収率などの面から分析しました。
“Infrastructure Default and Recovery Rates, 1983-2012H1”(2012年12月18日公表)
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はじめに
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
イントロダクション/対象データ区分
分析対象としたデータはムーディーズ格付のついたインフラストラクチャー・デット案件とプロ
ジェクト・ファイナンス・デット案件に属する、1983年から2012年前半までのデータ
分析に当たっては1つの格付はたとえ小さい規模の案件であっても等しく1件とカウントした。分析はインフラ案件ではデットレベルで行い(ただし、パリパス分割されているディールなどは適宜統合)、ベンチマークとしたグローバル非金融企業データでは企業レベルで行った。
分析に際してはデータは以下の4種類に分割した。
1)インフラ・デット合計
下記2と3の合計
2)米国地方自治体インフラ・デット
米国地方自治体の非課税債として発行・格付されるデット・データ
3)コーポレート・インフラ・デット
上記2を除くすべてのインフラ・デットで、プロジェクト・ファイナンス・デットを含むデータ
4)非金融法人発行体
ベンチマーク比較として使用する非金融企業発行体のデータ
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット格付のセクター分布と地域分布(件数) ~件数では北米が圧倒的な割合を占める ムーディーズによる格付インフラ案件デットの2012年時点におけるセクター分布状況は以下の通り。ムーディーズは現在、1,000件以上のインフラ/プロジェクト・ファイナンスの発行体格付と2,100件余りの米国地方自治体格付を維持している。
Utilityと輸送に関するデットがそれぞれ全体の86%と13%と大半を占める。Utilityの中では水道が全体の39%、主に電気と天然ガスから成る規制・非規制Utilityが29%を占めている。
地域的には95%が北米発行体、特に米国地方自治体によるものだが、これは件数による分布であり、大規模なインフラ案件の大半は米国以外で実施されていることに注意。
【インフラ案件格付のセクター分布(2012年6月)】 【インフラ案件格付の地域分布(2012年6月)】
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット格付の地域分布(金額) ~金額ベースでは欧州がトップ、しかし個別企業ではアジアの電力企業が上位を占める ムーディーズは現在、2.4兆ドルのコーポレート・インフラ・デットと0.8兆ドルの米国地方自治体によるデットに格付を付与している。以下はコーポレート・インフラ・デットの金額による格付分布である。(プロジェクト・ファイナンスを含む)
コーポレート・インフラ・デットの大半が先進国で発行されている。43%が欧州、37%が北米、15%がアジア・パシフィックの発行体によって発行されている。最大のインフラ企業は東京電力、韓国電力公社、中国広東核電集団(China Guangdong Nuclear Power)、シンガポール電力などである。
【コーポレート・インフラ案件格付の地域分布(2012年6月)】
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付分布状況 ~非金融法人と比べると、非投資適格、特にシングルB以下の低格付の割合が小さい インフラ・デット格付の大半は投資適格であり、特にシングルAレンジに集中している(全体の42%)が、最近のデータを見ると投資適格の中での分布はやや広がりを見せている。一方、非投資適格は2012年6月時点で全体の9%に過ぎず、全体の半分が非投資適格になっているグローバル非金融法人データと対照的である。
インフラ案件ではB3以下は1.1%に過ぎないが、非金融法人では18%を占める。また、B1以下はインフラ案件が2.3%に過ぎないのに対して、非金融法人は35%を占める。
【インフラ案件格付の分布状況(1983-2012H1)】 【インフラ案件格付の分布状況(2012年6月時点)】
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付分布の推移 ~コーポレート・デットの格付分布は過去30年でやや悪化傾向
2012年6月時点でコーポレート・インフラ・デット格付の77%が投資適格であるが、1983年から2012年までの推移を見ると、その格付分布は下方向にシフトしている。
投資適格の比率は90%から77%に低下
非投資適格の比率は10%から23%に上昇
Aaa-Aa格付レンジは24%から4%に低下
最大割合を占める格付レンジはシングルAからBaaにダウン
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付分布の推移 ~米国地方自治体インフラ・デットの格付分布は過去30年でやや良化傾向
2012年6月時点で米国地方自治体インフラインフラ・デット格付のほぼ100%が投資適格であるが、 1983年から2012年までの推移を見るとその格付分布は上方向にシフトしている。
投資適格の比率は99%で変わらず
Aa-A格付レンジは67%から91%に上昇
最大割合を占める格付レンジはシングルAからAaに上昇
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
(ご参考)ムーディーズによるインフラ・デット案件のデフォルト定義
ムーディーズによるインフラ・デット案件のデフォルト定義は1)支払不履行、2)破産、3)債務交換、4)条件変更の4種類(正確な定義は以下をご参照)。テクニカル・デフォルトを含まない。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の累積デフォルト率 ~インフラ・デットの累積デフォルト率は非金融法人よりも低い傾向にある
ムーディーズによるインフラ・デット案件と非金融法人の累積デフォルト率の比較は以下の通り。全体的にインフラ・デットの累積デフォルト率の方がより低い傾向にある。
(注)インフラ・デットはより安定的で格付遷移が発生しにくい傾向があるため、両方の格付パフォーマンス(信用損失)を長期で一致するように格付手法を調整すると短期で不一致が生じ、その逆もまたしかりである。両データはおよそ3-4年辺りまでマッチするが、それ以降はインフラ・デットの安定性が両データの結果に相違を生じさせている。
全インフラ案件 累積デフォルト率
非金融法人 累積デフォルト率
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件と非金融法人の累積デフォルト率の比較
インフラ・デットと非金融法人の投資適格での累積デフォルト率の年次推移は非常に類似している。長期になるにつれ、インフラ・デットの累積デフォルト率の低さが目立つ。(比較はシニア無担保で実施)
Ba格付では相違が更に際立つが、サンプル数が少ないことから、ここでの差異は強調されるべきではない。
(両データのBa内の格付分布に
差異があるため、非金融法人のデータをインフラ・デット内の分布に即して修正して比較した。)
インフラ・デット 非金融法人
インフラ・デット 非金融法人
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の回収率は非金融法人よりも全般的に高い
以下はデフォルトしたインフラ・デット案件と非金融法人の回収率を示す。支払不履行・倒産の場合にはその30日後の市場取引価格に基づく。債務交換(Distressed Exchange)の場合、債務交換のクロージングの1日前の市場取引価格に基づく。
インフラ・デット案件の回収率は非金融法人よりも全般的に高い。この傾向は全てのセクターに共通であるが、特に規制対象のUtilityではその傾向が際立っている。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付別のクレジット損失率(デフォルト率×(1-回収率))
シングルAでの累積クレジット損失を比較すると、インフラデット案件と非金融法人のパフォーマンスは非常に似通っている。(比較はシニア無担保で実施)
Baaでの累積クレジット損失を比較すると、インフラデット案件の低さが目立つ。ただし、全体の8%と割合は少ないが、非規制対象Utilityのクレジット損失だけは非金融法人の約5倍と非常に高い。
インフラ・デット
非金融法人
インフラ・デット
非金融法人
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件のデフォルト前格付は1年前だとB1中心
以下はデフォルトしたインフラ・デット案件の6か月前、1年前、5年前の格付分布。1年前の格付のメディアンはB1、70%が非投資適格格付に位置していた(6か月前だと77%が非投資適格)。デフォルト時点でBa以上の格付を保持していたのは6%、Caa以下が77%であった。
1年前の時点でAa3の格付を保持していた案件(Tucson Electric Power)が1件あるが、1年前から1日後の時点でA3に、半年前の時点でBa2に格下げされている。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件のデフォルト前格付を引き上げている例外的案件によるインパクト
上図は年度別デフォルト件数のセクター内訳、下図は当該年度にデフォルトした案件の1年前の格付の最高-最低(オレンジ線)・メディアン(緑ドット)。
1年前格付が高い年(2001-02)にはUtility(電気)のデフォルトが目立つ。2001年と2002年のデフォルト1年前のメディアン格付はそれぞれA2とBaa3であるが、全期間平均ではB1である。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付パフォーマンスは概ね非金融法人を上回るが、例外的デフォルト案件の影響を大きく受けることがある
AP値(平均デフォルター・ポジション)によるインフラ・デット案件と非金融法人の格付パフォーマンスの比較は以下の通り。インフラ・デット案件の格付パフォーマンスは概ね非金融法人を上回っているが、高い格付から突然デフォルトに至る案件が発生すると、チャートが下にスパイクする傾向があることも示している。
AP値(Average Defaulter Position)は格付がリスクを順位付けする能力を示し、0から1の間の数値で示される。1が完全な能力、0.5が能力がないこと、0が正反対の能力を示す。
たとえば、1990年のスパイクはTucson Electric Powerが1年前にAa3の状況からデフォルトしたこと、2005年のスパイクはEnergy New Orleansがハリケーン・カトリーナの直後に、1年前にBaa2の状況からデフォルトしたこと(なおかつ、その前の18カ月間デフォルトがなかったこと)が要因である。
左図のオレンジの線が途切れるのことがあるのは、デフォルトがない年にAPを算出できなかったため
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
高格付から短期間でデフォルトに至った例外的事例
Infrastructure Finance Issuer's Name デフォルト日 デフォルト時点の
格付 デフォルト6か月前の格付
デフォルト12か月前の格付
地域 セクター
1 TUCSON ELECTRIC POWER COMPANY 3/26/1990 B2 Ba2 Aa3 米国 Regulated Utilities
2 C-U FUNDING CORPORATION 3/30/1990 Caa2 Caa2 A2 米国 Electric Cooperatives
3 MOBILE ENERGY SERVICES COMPANY, L.L.C. 1/14/1999 Ca Baa3 Baa3 米国 Power Projects
4 ZHU HAI HIGHWAY COMPANY LIMITED 7/3/2000 B1 Ba1 Baa3 香港 Toll Roads
5 SOUTHERN CALIFORNIA EDISON COMPANY 1/16/2001 Ba1 A2 A2 米国 Regulated Utilities
6 SOUTHERN CALIFORNIA EDISON COMPANY 1/16/2001 Ba1 A3 A3 米国 Regulated Utilities
7 SOUTHERN CALIFORNIA EDISON COMPANY 1/16/2001 Baa2 A1 A1 米国 Regulated Utilities
8 SOUTHERN CALIFORNIA EDISON COMPANY 1/16/2001 Baa3 A2 A2 米国 Regulated Utilities
9 PG&E CAPITAL I 3/16/2001 Caa2 A2 A2 米国 Regulated Utilities
10 PACIFIC GAS & ELECTRIC COMPANY 4/6/2001 B3 A1 A1 米国 Regulated Utilities
11 PACIFIC GAS & ELECTRIC COMPANY 4/6/2001 Caa2 A2 A2 米国 Regulated Utilities
12 COVANTA ENERGY CORPORATION 3/1/2002 Caa2 Baa3 Baa3 米国 Unregulated Utilities
13 COVANTA ENERGY CORPORATION 3/1/2002 WR Baa2 Baa2 米国 Unregulated Utilities
14 NRG ENERGY, INC. (OLD) 9/16/2002 Caa1 Baa3 Baa3 米国 Unregulated Utilities
15 NRG SOUTH CENTRAL GENERATING LLC 9/16/2002 Caa1 Baa2 Baa2 米国 Power Projects
16 TXU EUROPE LTD. 10/15/2002 Caa3 Baa2 Baa2 英国 Unregulated Utilities
17 ENERGY GROUP OVERSEAS B.V. 10/15/2002 Caa2 Baa1 Baa1 オランダ Unregulated Utilities
18 TXU EUROPE LTD. 11/20/2002 Ca Baa1 Baa1 英国 Unregulated Utilities
19 NRG NORTHEAST GENERATING LLC 12/15/2002 Caa1 Baa3 Baa3 米国 Power Projects
20 BRITISH ENERGY PLC 2/14/2003 Ca Baa2 A3 英国 Unregulated Utilities
21 NORTHWESTERN CORPORATION (OLD) 9/15/2003 B3 Baa3 Baa1 米国 Regulated Utilities
22 ENTERGY NEW ORLEANS, INC. 9/23/2005 Caa1 Baa2 Baa2 米国 Regulated Utilities
23 JEFFERSON (COUNTY OF) AL SEWER ENTERPRISE 4/1/2008 Caa3 A3 A3 米国 Water Utilities
24 LANE COVE TUNNEL FINANCE COMPANY 12/9/2008 Ca Ba3 Baa3 オーストラリア Toll Roads
以下はデフォルト12か月前の時点で投資適格であった過去のデフォルト案件をすべて示したものです。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
例外的デフォルト事例の背景
インフラ案件では本質的な財務体力が不足していても、その他の要因によってリスクが軽減されていると評価される場合がある。そのようなケースでイレギュラーなストレス状況が発生すると、デフォルトへの到達スピードが速くなることがある。以下はいくつかの例外的な事例の背景。
ケース10と11のPacific Gas & Electric及びケース5-8のSouthern California Edisonは全て2000年代初めのカリフォルニア・エネルギー危機に関連している。2社の電力会社はいずれも電力卸売価格の急騰と1996年のカリフォルニア州が規制緩和法によってそれらの増加コストを消費者に転嫁することを禁止していたことによって、数カ月にわたって苦しんでいた。その結果、両社とも電力と天然ガスの確保に苦労する状況であった。エネルギー危機の結果、電力供給がほぼ停止する状況に至り、停電が頻発した。最終的には両社とも戦略的判断の結果として破産申請を行い、規制当局からの救済を求めた。
ケース20のBritish Energyは英国の原子力発電で寡占的な立場にあり、操業は英国に集中していた。British Energyはデフォルトの1年前の時点でA3格付を保有していたが、電力制度の変更に伴う卸売単価の低下や原子力発電所の計画外停止などにより業績を悪化させ、デフォルトの5か月前である2002年9月にCaa1に格下げされた。最も低い格付はCaであった。この格付は2002年11月から2003年3月に取り下げになるまで継続した。
ケース23のJefferson County Sewer Enterpriseのデフォルトは、地域の老朽化した下水処理施設を環境基準に合致させることに長年にわたって失敗してきたことに原因がある。そのことにより、1990年の後半に連邦裁判所によって設備改良を命令されるにいたった。その命令に従うために、Jefferson Countyは結果的には返済不能な水準の負債を負った。それらの負債の中には負担を減らすことを意図してスワップや変動利付取引が含まれていたが、最終的に巨額の負債によって債務超過に陥った。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付ドリフト・格付ボラティリティは非金融法人と比べて概ね安定的に推移し、金融危機でも安定していた
以下は全インフラ・デット案件格付の格付ドリフトと格付ボラティリティを示したもの。インフラ・デットの格付変動は非金融法人と比べて、概ね安定的に推移している。2000-2003年に米国で発生したエネルギー危機の時期を除き、格付のアップグレードとダウングレードは概ね均衡している。金融危機の際にも安定的に推移していた。
格付ドリフトの定義は「ノッチ加重平均されたアップグレード率-ノッチ加重平均されたダウングレード率」で、12ヶ月間における格付変化のネット平均ノッチ数を示す。格付ボラティリティの定義は「ノッチ加重平均されたアップグレード率とノッチ加重平均されたダウングレード率の合計」で、12ヶ月間における格付変化のグロス平均ノッチ数を示す。
(注:NFCs=非金融法人)
非金融法人の格付ドリフト(緑点線)⇒
インフラ・デットの格付ドリフト(青実線)⇒
インフラ・デットの格付ボラティリティ(オレンジ点線)⇒
金融危機
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
ただし、インフラ・デット案件の金融危機時のリスクプロファイル変化はセクターごとに異なっていたことに注意
西ヨーロッパのインフラ・デットの格付ドリフトは北米よりも大きかった。これはソブリンレベルでの景気やクレジットの弱さに起因して、欧州政府関連Utility発行体のクレジットに影響を及ぼした。
規制対象Utilityと米国公共Utilityのクレジット・クォリティの悪化は全般的に小幅なものにとどまった。高格付のUtilityは資本調達市場へのアクセスを維持することができ、特に米国では規制対象の電気・ガスは規制フレームワークからのサポートを引き続き得ることができた。
運輸セクターでは景気低迷による需要減少のあおりを受け、状況はより厳しかった。米国の有料道路セクターは低金利や政府による景気刺激策の影響で大規模な負債調達を行えたが、レバレッジの悪化と財務体質の弱化を招いた。
空港業界では景気低迷と主要な航空会社によるリストラ等の悪影響を受けた。特に米国の空港では収益性の低下、地方自治体による雇用削減への反対などによる経営非効率化の影響もあった。
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
インフラ・デット案件の格付遷移マトリクスを見ると、遷移ボラティリティは非金融法人よりも全般的に低い
以下は1983-2012H1データに基づく、インフラ・デット案件と非金融法人の格付遷移マトリクス(12か月間の平均遷移)の比較。インフラ・デット案件の格付遷移は全般的に非金融法人よりも安定している。 (低格付ゾーンではむしろ非金融法人よりも不安定に見えるが、少数の例外的案件によってデータが影響されている。)
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
ただし、内訳を見ると、米国地方自治体インフラ・デットのダウングレードの低さが寄与しており、コーポレート・インフラ案件は非金融法人とほぼ同レベル
以下はコーポレート・インフラ・デット案件と米国地方自治体インフラ・デット案件の格付遷移マトリクス(12か月間の平均遷移)の比較。米国地方自治体案件の安定性が目立つ一方、コーポレート・インフラ・デット案件の遷移率は非金融法人とほぼ同じ。(低格付ゾーンではむしろ非金融法人よりも不安定に見えるが、これは少数の案件によってデータが影響をされているので注意が必要。)
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インフラストラクチャー/プロジェクト・ファイナンスの格付データから分析するリスク特性
まとめ
インフラ・デット案件に関するムーディーズのデフォルト・スタディは30年という長期間かつ大量の格付データに支えられ、その結果はインフラ・ファイナンスやプロジェクト・ファイナンスのリスク管理にとって有用な内容を示している。
インフラ・デット案件の格付・デフォルト・回収率の動向は、非金融法人の同種データと比べても、全般的により安定的で、リスクが低い傾向にある。
ただし、デフォルト絶対数が少ないこと、ディールごとやセクターごとの個別性が高いこと、長いデータ期間であるがゆえにクレジット・サイクルの影響があること、などの要因から、データ分析結果をそのまま鵜呑みにはできないという面もいくつか見られた。(特に、合計データよりも細分化されたデータを分析することが重要)
また、中には予想外のストレス事態に直面するなどして突然クレジットが悪化する案件が観測されている。
ムーディーズ格付などの外部データ分析結果も有用であるが、それらのみに依存することなく、ディールごとやセクターごとの特性や市場経済面の背景などを考慮した、より詳細なレベルでの所見を踏まえた審査やリスク管理が求められる。
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