イノベーションオフィスで 企業姿勢を体現創造おおいた 2019.8 3...

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創造おおいた 2019.8 3 イノベーションオフィスで 企業姿勢を体現 今回、初めて御社を訪問したのですが、あまりにも開か れたオフィス空間に驚きました。まずは、どうしてこのよう なオフィス設計に踏み切ったのか聞かせてもらえますか。 柳井 設計依頼した建築家には 「社員きがいをるオフィスにしたい相談ちかけましたそこから 「個人依存しない組織」「コミュニケーションを活性化きる」「“揺らぎ”効果社員のモチベーションをめる「災害4 つのテーマに、昨年夏完成ましたそもそもオフィスのリノベーションにむよ うになったのは、有給休暇中社員にわざわざ電話をかけ 、担当業務について再確認しなければならない事案「2019 年版 中小企業白書」が公表されたが、今年も 「慢性的な人材不足」「労働生産性の伸び悩み」「IT 化の 促進」「労働環境の改善」「後継者問題」といった、中小 企業経営者にとって頭の痛い課題が浮かび上がってくる。 このような中、「働きがい」という普遍のテーマにチャレ ンジしている会社が、柳井電機工業株式会社である。昨 年夏には新しいオフィスのスタイルを提示し、注目を集 めた。ドローン業務など新たな開発事業にも意欲的だ。 柳井智雄社長が目指す、理想とする企業像を聞いてきた。 やない 井 智 ともお 略歴 柳井電機工業株式会社 代表取締役社長。1973 年、大分市生まれ。1995年、早稲田大学理工学部大学 院修士過程取得後、株式会社日立製作所入社。 エン ジニアながら営業職としても活躍した後、2003 年 4 月 帰郷、柳井電機工業株式会社勤務。2005 年より 現職。 イノベーションオフィスの全体像はピクニック広場のよう(パース図) P P O O T T w w e e i i v v r r e e t t n n I I 柳井電機工業株式会社 代表取締役社長  柳井 智雄

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創造おおいた 2019.8 3

■ イノベーションオフィスで企業姿勢を体現

今回、初めて御社を訪問したのですが、あまりにも開かれたオフィス空間に驚きました。まずは、どうしてこのようなオフィス設計に踏み切ったのか聞かせてもらえますか。柳井 設計を依頼した建築家には「社員が働きがいを感じるオフィスにしたい」と相談を持ちかけました。そこから「個人に依存しない組織」「コミュニケーションを活性化できる」「“揺らぎ”効果で社員のモチベーションを高める」「災害に強い」と4つのテーマに絞り込み、昨年夏に完成しました。そもそもオフィスのリノベーションに取り組むようになったのは、有給休暇中の社員にわざわざ電話をかけて、担当業務について再確認しなければならない事案が発

「2019 年版 中小企業白書」が公表されたが、今年も「慢性的な人材不足」「労働生産性の伸び悩み」「IT 化の促進」「労働環境の改善」「後継者問題」といった、中小企業経営者にとって頭の痛い課題が浮かび上がってくる。このような中、「働きがい」という普遍のテーマにチャレンジしている会社が、柳井電機工業株式会社である。昨年夏には新しいオフィスのスタイルを提示し、注目を集めた。ドローン業務など新たな開発事業にも意欲的だ。柳井智雄社長が目指す、理想とする企業像を聞いてきた。

柳やない井 智

とも お雄氏

■略歴 柳井電機工業株式会社 代表取締役社長。1973年、大分市生まれ。1995年、早稲田大学理工学部大学院修士過程を取得後、株式会社日立製作所へ入社。エンジニアながら営業職としても活躍した後、2003年4月に帰郷し、柳井電機工業株式会社へ勤務。2005年より現職。

イノベーションオフィスの全体像はピクニック広場のよう(パース図)

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柳井電機工業株式会社代表取締役社長 

柳井 智雄 氏

イノベーションオフィス、開発型企業への挑戦等を通じ、「日本一幸せな会社」を目指す

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生したことが始まり。不在時でも仕事内容をデータ化して情報を共有管理しておけば、「あの人に聞かないと…」といった具合に業務は個人へ依存することなく遂行できます。それを実現するため、整理されていない書類をすべてデータ化したうえで、あえてデスクの引き出し、袖机、キャビネット等も撤廃しました。

それは思いきりましたね。柳井 個人の持ち物はオフィス全体をリング状に取り囲んだ土塁のような立ち会議机の内部に備え付けた個々のロッカーに入れ、終業後のノートパソコンもそこに格納させます。仕事場となるリングの内側には一見ランダムにも見えるように机を配置。誰のものでもない机も点在させ、そこで即座に打ち合わせができるようにしました。また従来のように直線的な机のレイアウトではないため、いわゆる“揺らぎ”効果で新しいコミュニケーションの場が生まれ、そこから新たなアイデアや挑戦が芽生える可能性もあります。さらにリング周辺にもプレゼンや打ち合わせができる場を複数設け、オフィス全体がみなぎるコミュニケーション空間を演出しています。もちろん地震などに備えたBCP対策も万全な構造になっています。

オフィスの一角にある階段状の立体物は何でしょう?柳井 見た目どおり『マウンテン』と名付けているのですが、その中で社員が休憩したり、談話をしたり……。特に機能が決まっているわけでもなく、必要かどうかと言われれば不要かもしれませんが(笑)、こういうコミュニケーション空間を設けることも、社員の士気高揚に繋がっているように思えます。言い換えれば『マウンテン』は当社が標榜する「挑戦」や「イノベーション」のシンボル的存在とも言えます。先ほど申し上げたようにオフィスが社員の働きがい、つまり働き方改革につながっていけば本望です。

オフィス環境のほかにも、働き方改革の一環として導入している制度などありますか?柳井 有給休暇の取得率向上や産休・育休の推進などありますが、新しい制度としてテレワークを導入しています。大学を卒業して設計施工の現場で活躍していた女性社員が、

結婚してご主人の仕事の関係で山口県へ転居せざるを得なくなったのです。そこで在宅勤務ができる仕組みづくりを検討し、テレワークの実現に至ったのです。まだまだ課題もありますが、社員自身の成長やモチベーション向上にも貢献しているようで、将来的にきっと役に立つ制度になると信じています。

■ 開発型エンジニアリング企業に向けたアプローチ

柳井電機工業の創業の地は、中津市だそうですね。柳井 創業者である祖父は中津生まれで、日立製作所の本社工場(茨城県)に勤務していたのですが、大戦で工場が壊滅状態になり、地元へ戻ってきました。1947年に中津で柳井商会を創業し、日立製のモーターや電線を販売する問屋を営んでいました。そのうち納品した電機製品の設計・施工やメンテナンスの受注も受けるようになり、1952年には本社を大分市に移転しました。さらに大分が1964年の新産業都市に指定されたのと並行して当社も事業領域が拡大。家電部門と重電機部門に分社化しながら石油化学コンビナートのプラント設備や自治体の大規模施設などを手がけ、製造業のエンジニアリングにおける技術を研鑽してきました。

大分県の発展とともに歩んできた歴史といえますね。柳井 現在の柳井電機工業の事業分野はとても広く、照明やエアコン、コンプレッサー、 モーターやエレベーターといった一般的な製品から、 ガスタービン発電設備、受変電設備、太陽光発電設備などの“エネルギー”事業、監視カメラや防災無線などの“セキュリティ・通信事業”、上下水道設備などの“社会インフラ”事業に至るまで、あらゆる場面でのビジネスを展開していますが、最近ではプラントエリア内において業務委託をうけ、設備の運営管理を顧客に代わり当社の社員で行うようなことまで手がけるようになりました。

組織図を拝見すると、エンジニアリング本部に研究開発グループという部門があります。研究開発にも積極的のようですね。柳井 5年ほど前から福岡支店を拠点に研究開発室を設置

ラウンド状に囲まれたコミュニケーション空間が成立している

一角にそびえる『マウンテン』は談話室などに使われている

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し、IoT(Internet of Things)時代にふさわしい新たなソリューション開発にチャレンジ取り組んでおり、情報処理エンジニアもこの1年間で7名ほど採用しました。具体的には、たとえばセンサーを活用した酒造りが出来ないかと、酒蔵や大学と共同研究しています。いわば IoTにより酒造りの根幹に携わる杜氏さんなど現場で働く方の負担軽減を図るというシステムです。

杜氏や蔵人の後継者不足が懸念されるなか、彼らの働き方改革にもつながりそうですね。柳井 ドローン事業にも取り組んでいます。ドローンに赤外線カメラを搭載して、太陽光パネルの点検を当社が開発した画像解析のソフトウェアを使って故障箇所を特定するのです。従来は広大な敷地に設置された太陽光パネルを4日くらいかけて点検していたものが、わずか5分で撮影してきた画像を解析すればいいのです。このほか、工場やコンビナートの高い煙突の塗装面の点検作業なども、ドローンだと短時間で処理できます。このようにドローンは様々なシーンで活用されていくと思われ、県の尽力により組織化された「大分県ドローン協議会」は、ドローン産業の可能性を広げるうえで頼もしい存在になっていくと思います。

まさにイノベーションですね。柳井 働き方改革の目的のひとつは、人口減少で労働力不足が懸念されるなか、長時間労働を是正する一方で、労働生産性の向上を図ることです。ドローンやAI(人工知能)、RPA(Robotic Process Automation=ロボットによるオフィス業務の自動化・効率化)といったテクノロジーの導入は、究極のサポート手段となるでしょう。

■ CSR活動による社員のモチベーション向上

AI やロボットに人間の仕事が奪われるという記事を見かけますが、柳井社長はどのようにお考えですか?柳井 私はそうは思いません。AIやロボットは、いわゆる「3K」と呼ばれる労働環境や単純労働の現場で活用され“危険”や“無駄”を排除し、人間がクリエイティブで付加価値の高い業務に挑戦できる環境づくりに貢献してくれます。

そこでは多彩な分野に携わる人との交わりもあり、コラボレーションやコ・クリエイションを通じて化学反応を起こすことで、「共創」の概念が生まれてくるかもしれません。わかりやすい言葉でいえば、「やりがいがあってワクワクする社会の実現」に向けて、AIやロボットを活用するのです。

CSR(Corporate Social Responsibility =企業の社会的責任)にも積極的に取り組んでいるそうですね。柳井 お取引先の昭和電工㈱様のご指導も仰ぎながら、2011年より本格的に取り組んでいます。企業倫理、BCP安全活動、品質管理、社会貢献と多方面から取り組んでいるのですが、経営者がいると意見が出にくいということで(苦笑)、社員の自主性が原動力となって推進しています。おかげで、いい意味での緊張感が生まれ、新しいリーダーも生まれています。社内の事柄だけでなく、地域社会と良好な関係を築くうえでも役立っているのではないでしょうか。

今後の事業展開は?柳井 当社は電気や機械の分野で、お客様の問題解決に取り組んできました。これから求められることは、単品で製品やサービスを提供するのではなく、新たな付加価値を加えた提案をしていき、事業領域を広げていくことだと考えています。そのためには開発型企業としての側面も力を付けていかねばなりませんが、何よりも全社員が楽しく仕事に取り組むことが必須です。さらなる企業価値の向上を図っていくよう精進します。

■ 企業データ●会 社 名 柳井電機工業株式会社●代 表 者 代表取締役社長 柳井 智雄●所 在 地 大分市弁天2丁目7番1号 

TEL 097-537-5385●拠   点 中津支店、福岡支店、東京営業所●創   業 1947年9月9日●設   立 1961年3月23日●資 本 金 2,610万円 ●従業員数 156名●事業内容 日立製品全般の販売及び計画から設計・施工及び

メンテナンス業務、環境システム・情報通信システム・IoT・AI・太陽光・小水力発電設備等のエンジニアリング提供、ドローン撮影画像解析、製造業向けIoT ソフトウェア開発 等

● U R L http://yanaidenki.co.jp/

本社社屋研究開発部ではドローンが持つ可能性を探る