ビッグデータ - deloitte.com · 2013/07 季刊 企業リスク 84...

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ビッグデータ 1. ビッグデータとは ビッグデータの明確な定義は存在していないが、 言葉通りの意味で解釈すれば、大容量のデータで ある。 従来、企業が行うデータ分析の対象は主に、企業 内に存在している販売データや在庫データ等の データベースに保存されるデータであった。 IT技術の進歩により、これまで対象とならなかっ た多種多様な形式の大量のデータを測定、分析し、 経営に活かすことが注目を集めている。 2 0 1 2 年 3 月 3 0 日 の 日 本 経 済 新 聞で は 、ビ ッグ データ活用の取り組みとして米国政府が2億ドル 以上を投資することを発表したと報じている。 2. ビッグデータが注目される背景 このようにビッグデータが注目されるようになっ たことの背景として、モバイル技術の進展やネット環 境 の 充 実 に より、顧 客 自 ら が 発 信 した 情 報 が デ ジタ ル情報として蓄積され、利用できるようになったこと が挙げられる。また、これにより企業外にある無数の データを分析することで企業にとって有益な情報を 得られる可能性が広がっていることが挙げられる。 さらに高性能のコンピュータが従来よりもはる かに安い価格で入手できるようになったこと、大量 データを高速処理できるソフトウェアが登場したこ と、自社でシステム環境を用意しなくとも、クラウド コンピューティングを利用する環境が整ってきたこ と等、ハードやソフト面が充実してきたことが挙げら れる。 2013/07 季刊 企業リスク 84 3. ビッグデータの特性 大容量のデータに対する分析ならば、従来からBI ツールのようなデータ分析ツールを利用した方法 が行われている。従来のデータ分析とビッグデータ の分析の大きく異なる点は、ビッグデータの持つ特 性にある。 ビッグデータが備えている特性は、それぞれアル ファベットのVで始まるVolume(量)、Velocity(速 さ)、Variety(多様性)で表される。 Volumeは言葉の通りデータ量を表している。そ の 単 位 は テ ラバイト( ギ ガ バイトの 1 0 0 0 倍 )か ら ペ タ バイト( テ ラバイト の 1 0 0 0 倍 )と い う 桁 違 い の データ量となる。 Velocityは辞書では「速さ」と訳されるが、その 意 味 する と ころ は 、情 報 の 更 新 頻 度 の 速 さ で あ る。 S N S の 登 場 や モ バ イル 機 器 の 発 達 に より、リアル タ イムで情報が最新のものに更新される。 Varietyは情報の多様性を意味し、企業内に蓄積 されてきたデータのみならず、企業外に存在する文 章 、画 像 、位 置 情 報 と いった 相 互 に 関 連づ け さ れて いないバラバラなデータをも含む多種多様なもの である。 4. ビッグデータの活用範囲 このような特性を持つビッグデータの分析はビ ジネス分野のみならず、社会インフラや農業等幅広 い領域での活用が期待されている。 ビ ジネス 分 野 の 事 例 と しては 、販 売 促 進 の パ ー ソ ナル 化 が あ る。顧 客 が 何 を 買っ た か、どん な ペ ー ジ をどんな順番で閲覧したか、閲覧したページからど んな影響を受けたか等のデータを分析し、個々の顧 客に応じた販売促進を行い成功を収めている。 企業リスク の言葉 トーマツ 企業リスク www.deloitte.com/jp/book/er

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Page 1: ビッグデータ - deloitte.com · 2013/07 季刊 企業リスク 84 3.ビッグデータの特性 大容量のデータに対する分析ならば、従来からbi ツールのようなデータ分析ツールを利用した方法

ビッグデータ

1. ビッグデータとは

 ビッグデータの明確な定義は存在していないが、

言葉通りの意味で解釈すれば、大容量のデータで

ある。

従来、企業が行うデータ分析の対象は主に、企業

内 に 存 在してい る 販 売 デ ー タ や 在 庫 デ ー タ 等 の

データベースに保存されるデータであった。

IT技術の進歩により、これまで対象とならなかっ

た多種多様な形式の大量のデータを測定、分析し、

経営に活かすことが注目を集めている。

2012年3月30日の日本経済新聞では、ビッグ

データ活用の取り組みとして米国政府が2億ドル

以上を投資することを発表したと報じている。

2. ビッグデータが注目される背景

 このようにビッグデータが注目されるようになっ

たことの背景として、モバイル技術の進展やネット環

境の充実により、顧客自らが発信した情報がデジタ

ル情報として蓄積され、利用できるようになったこと

が挙げられる。また、これにより企業外にある無数の

データを分析することで企業にとって有益な情報を

得られる可能性が広がっていることが挙げられる。

 さらに高性能のコンピュータが従来よりもはる

かに安い価格で入手できるようになったこと、大量

データを高速処理できるソフトウェアが登場したこ

と、自社でシステム環境を用意しなくとも、クラウド

コンピューティングを利用する環境が整ってきたこ

と等、ハードやソフト面が充実してきたことが挙げら

れる。

2013/07 季刊 ● 企業リスク 84

3. ビッグデータの特性 

 大容量のデータに対する分析ならば、従来からBI

ツールのようなデータ分析ツールを利用した方法

が行われている。従来のデータ分析とビッグデータ

の分析の大きく異なる点は、ビッグデータの持つ特

性にある。

 ビッグデータが備えている特性は、それぞれアル

ファベットのVで始まるVolume(量)、Velocity(速

さ)、Variety(多様性)で表される。

 Volumeは言葉の通りデータ量を表している。そ

の単位はテラバイト(ギガバイトの1000倍)からペ

タバイト(テラバイトの1000倍)という桁違いの

データ量となる。

 Veloc i tyは辞書では「速さ」と訳されるが、その

意味するところは、情報の更新頻度の速さである。

SNSの登場やモバイル機器の発達により、リアルタ

イムで情報が最新のものに更新される。

 Varietyは情報の多様性を意味し、企業内に蓄積

されてきたデータのみならず、企業外に存在する文

章、画像、位置情報といった相互に関連づけされて

いないバラバラなデータをも含む多種多様なもの

である。

4. ビッグデータの活用範囲

 このような特性を持つビッグデータの分析はビ

ジネス分野のみならず、社会インフラや農業等幅広

い領域での活用が期待されている。

 ビジネス分野の事例としては、販売促進のパーソ

ナル化がある。顧客が何を買ったか、どんなページ

をどんな順番で閲覧したか、閲覧したページからど

んな影響を受けたか等のデータを分析し、個々の顧

客に応じた販売促進を行い成功を収めている。

企業リスクの言葉

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バックナンバーのご案内

第39号(2013年4月号)

2013/07 季刊 ● 企業リスク 85

 またインフラ分野の事例として、2011年に発生

した東日本大震災において、自動車の位置や速度等

の情報を分析し、救援車両や支援物資を運ぶ車両に

対し、被災地の実際の道路通行実績を案内すること

で物流の効率化に寄与した例がある。

5. ビッグデータの活用に向けて

 ビッグデータの活用は企業や社会に様々な利益

をもたらすと考えられるが、ビッグデータの分析は

あくまでもマネジメントのツールの一つである。

ビッグデータは多種多様な大量のデータであるた

め、そこから自社に有益な情報を見出し、より的確

な意思決定に利用してこそ意味がある。

 そのためには、利用目的を明確にし、どのビジネ

スにビッグデータを利用するか、どういった情報が

必要となるか、どういった人材が必要となるか等、

目的から逆算して、ビッグデータを利用することが

重要となる。

〈参考文献〉

1 .「 ビッグ デ ー タで 経 営 は どう 変 わ るか 」(『 H a r v a r d

Business Review』2013年2月)ダイヤモンド社

2. 城田真琴『ビッグデータの衝撃』東洋経済新報社、2012年

3. 「ビッグデータを活用した高精度の道路交通情報サービス」

(『ITソリューションフロンティア』2012年3月号)

野村総合研究所

特集

大規模システム開発の落とし穴●システム開発のリスクと対策

●システム開発プロジェクト調達の 「はじめの一歩」

●システム開発プロジェクトの運営に潜む

●法的リスクの分析とその対処法

●大規模システム開発のプロジェクト監査

連載

●企業における 情報関連トラブルとリーガルリスク

●やさしく分かる 内部監査ナビゲーション(第28話)

研究室

●標的型サイバー攻撃のリスクと対処

●日本企業にとってのインドの リスク・ホライズン

●温室効果ガス排出量削減に係る 国際動向 ~海運業界~

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2013/07 季刊 ● 企業リスク 86

 

 しかし、少子高齢化による将来の労働力不足が

見込まれる中、女性の活用は重要な課題であり、内

閣府において『女性の活躍状況の資本市場における

「見える化」に関する検討会』が行われている。この

検討会の提言を受けて、東証では平成25年4月18

日に「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記

載要領の一部改訂を行い、有価証券報告書に取締役

会等の男女別構成や、役員への女性の登用に関する

現状の記載を推奨している。

4.最後に

 このようにダイバーシティは、労働力不足への対

応、変化に強い組織作りのために必須で取り組む

べき事項といえるが、単に女性や外国人を採用した

り、社内制度を整えるだけで根付くものではない。

今まで企業企業経営の前提となっていた、長時間労

働や全国転勤などの負担を受け入れなければ組織

に貢献していないといった硬直化したマインドを見

直すことが求められる。

企業リスクの言葉

図1 女性管理職割合の推移

(%)14.0

12.0

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

01989 1992 1995 1998 2000 2003 2006 2009 2011

(出所:厚生労働省平成23年雇用機会均等基本調査をもとに著者   が作成)

ダイバーシティ(多様性)

1. ダイバーシティとは

 ダイバーシティとは直訳すると「多様性」という意

味であるが、企業経営の観点からは、人種・国籍・性

別などの違いを尊重して受け入れ人材を活用する

ことの意味で用いられている。ダイバーシティの目

的は、社員一人ひとりの多様性を生かすことによっ

て、変化に強い柔軟な組織を作ることである。

2.ダイバーシティの起源

 ダイバーシティの起源は、アメリカで1964年に

公民権法により人種差別撤廃のために企業に機会

均等が義務付けられたことに端を発する。これによ

り人種・性別を理由に差別的に取り扱うことが禁止

された。このようにはじめは法律の要請により義務

的に取り組まれていたが、1980年代以降は加速す

る経営環境のグローバル化の中で、ダイバーシティ

は企業イメージの向上や、組織の柔軟性・創造性の

強化といったことを目的として取り組まれるよう

になった。

3.日本におけるダイバーシティの取り組み

 上述のアメリカとは異なり、日本ではダイバーシ

ティの取り組みは主に女性活用の観点で行われてい

る。1986年に男女雇用機会均等法が施行された後

は、年々女性に対する雇用機会は向上しているとい

える(図1)が、諸外国と比較すると依然として低い

水準となっている。

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トーマツ企業リスク研究所は、企業リスクの有効なコントロールが注目される中、激変する経営環境に伴って変化する企業リスクとその管理について研究する専門部署として2002年10月より監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)内に設置されました。トーマツ企業リスク研究所は、企業が直面するさまざまなリスクを研究対象し、その研究成果に基づきセミナーの開催、Webサイトによる情報提供、季刊誌の発行などを行います。

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