東シナ海におけるウルメイワシの年齢・成長と成熟特性 · the east china sea....
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東シナ海におけるウルメイワシの年齢・成長と成熟特性
誌名誌名 日本水産學會誌
ISSNISSN 00215392
巻/号巻/号 771
掲載ページ掲載ページ p. 15-22
発行年月発行年月 2011年1月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
Nippon Suisan Gakkaishi 77 (1), 15-22 (2011)
東シナ海におけるウルメイワシの年齢・成長と成熟特性
大下誠 二 1*後藤常夫 2大塚 徹 3塊島光次郎4
(2010 年 6月8日受付, 2010年 9月 10日受理)
l制水産総合研究センター西海区水産研究所, 2~~水産総合研究センタ 一日本海区水産研究所
3熊本県水産海洋研究センター 4鹿児島県水産技術開発センター
Age, growth and reproductive characteristics of round herring
Etl'umeus teres in the East China Sea
SEUI OHSHIMO,l TSUNEO GOTOH,2 TORU OTSUKA,3 AND KOJIRO GE]IMA4
lSeilwi National Fisheries Research lnstitute, Nagasalu 851-2213, 2ゾapanSea National Fishel'ies Research
lnstitute, Niigata 951-8121, 3Kumamoto Pr,ψctuml Fisheries Reseal'ch Center, Kami-a111akusa, KU111a111oto
860-3603, 4Kagoshima Prefectuml Fishel'ies Technology and Development Centel', lbusulu, Kagoshima
891-0315, ]atan
We analyzed the biological characteristics such as growth and maturation of round herring Etrumeus teres in
the East China Sea. Von Bertalanffy's growth curve was calculated based on monthly size frequency distributions
from 1997 to 2009, and the estimated growth formula was BLm = 244.8[1-巴xp{ー0.10(m-0.55)}](〆=0.92,ρ
< 0.01), where BLm is body length at age 111 (months). Additionally, the estimated formula was supported by the
results of scale reading in the adult stage and number of otolith increments in the juvenile stage. Based on histo-
logical observations of the gonads, the main spawning period in the East China Sea was from December to June
Combining the results from the growth mod巴1and relationships between body length and maturation rate, the first
maturation age was巴stimatedto b巴 oneyear old for both s巴xes.
キーワード・ ウルメイワシ,成熟特性,成長式
ウルメイワシ Etrumeωtel'esは西日木の沿岸に主に分
布する魚、であ り,主にま き網,俸受網および釣り漁業に
より漁獲される。水産資源、の管理に関する施策を効果的
に推進していくためには,その対象となる水産資源の現
状を知る必要がある。そのため,日本では水産庁主導の
もと, 我が国周辺の重要魚種の資源評価が実施されてい
る。その対象種であるウjレメイワシは太平洋系群と対馬
暖流系群に分けて資源、評価が行われており,本研究で対
象としている東シナ海および日本海におけるウルメイワ
シ対馬暖流系群の漁獲量は 1976年以降 1万トンから 4
万 7千 トンで推移 している。 1990年代後半以降は漁獲
可能量 (TAC)制度対象種であるマイワシよりも漁獲
量が多く重要な魚種にも関わらず,ウルメ イワシの生物
特性に関する報告は多くない。
資源評価を行う上で,重要な生物学的な情報は成長と
成熟特性である。このうち,成長様式に関する研究は太
平洋海域における知見)-3)と東シナ海域における知見の
があるものの,それらの結果は大き く異なっている。特
に,最高年齢において違いが顕著であり太平洋海域では
2歳とさ れる1-3)のに対し,東シナ海域では 6歳であ
る。りしたがって,本研究では,まず東シナ海域におけ
るウルメイワシの成長様式の検討を行うことを目的とし
た。ウルメ イワシの耳石に形成される年輸は読み取りが
可能とされているが,耳石両面の研磨が必要なことと,
鱗でも十分に年齢が読み取れると報告されている。5)た
だし成長様式を推定するにあたり,まき網で多く漁獲さ
れるウルメイワシの鱗ははがれやすいため,鱗のみを年
齢形質として年齢一体長関係を求めようとするには大量
のサンプルを処理する必要があるため,本研究では補助
的な資料として扱った。また,耳石に形成される微細輪
紋を日輪とし,その日輪数と体長との関係から成長様式
を求めた報告もなされており 6)当歳魚においての初期
キ T巴1:81-95-860-1600. Fax: 81-95-850-7767. Email: [email protected]
16 大下,後藤,大塚,塊島
の成長様式の特定に有効と考えられる。したがって本研
究でも,被鱗体長 100mm程度までの当歳魚、を中心に
して,耳石の微細輪紋数を計数した。相浮 ・滝口nや五
利江8)は体長組成から年齢ごとに正規分布を仮定して,
年齢別に平均体長と標準偏差を求める方法を報告してい
る。本研究では,東シナ海で多く漁獲されて測定された
月別の体長組成を用い,彼らの方法を用いて月別に年齢
別の平均体長を推定して成長様式を推定することとした。
町一隅F34N i 心
一方,ウlレメイワシの成熟特性については,成熟期や 33N パッチ産卵数などの報告がなされている。←11)太平洋側
におけるウルメイワシは,卵の出現状況調査(産卵調査)
および成魚の生殖腺指数 (GSI;gonadosomatic index)
から判断して,周年に亘り産卵を行い,産卵盛期は 12
月から 4月とされる。しかしながら,東シナ海では,
春季 (もしくは秋季の一部)の産卵調査の結果があるに
過ぎず,周年産卵をしているかどうかは不明である。12)
本研究は生殖腺の組織学的な検討から,東シナ海におけ
るウルメイ ワシの初回成熟年齢,GSIと精巣および卵巣
の最終発達段階の関係を示す初めての報告である。
試料および方法
分析に供したウルメイワシは 1998年 11月から 2009
年 12月の問, 九州の西沖 (Fig.1) で,おもにまき網
で漁獲されたものを魚市場(長崎魚、市・牛深港 ・阿久般
港)などから入手した。すべての測定個体は被鱗体長
(吻から鱗の後端まで,以後体長と書 く),体重,性別,
生殖腺重量を記録した。その際,体長は 1m111まで,体
重は 0.1gまで,生嫡腺重量は 0.01gまで読み取った。
さらに,生殖腺の一部を 10%ホルマリンで固定した。
体幹部に鱗が残っている個体については鱗を採取し, 清
水で洗浄した後に 2枚のスラ イド グラスに挟み込んで
保管した。また,体長が 100mm以下の個体からは耳
石(平衡石)を摘出し,清水で洗浄した後風乾して保管
した。以上のほか,休長組成を月別に求めるため,魚市
場でパンチングを実施するか,購入した後に測定して得
たデータを月別に集計した。その期間は 1997年 1月か
ら2009年 12月までであり,全測定個体数は 59,897個
体である (AppendixTable 1)。
スライドグラスに挟んで保管していた鱗は万能投影機
を用いて,年輸を読み取った。その際,年輪は鱗の外周
に沿って全体的にリングができているものを年輪と仮定
した。体長 100mm以下の個体から摘出した耳石は,
スライドグラスに透明な樹脂で固定し,必要に応じて研
磨を行って,耳石に形成されている微細輪紋を光学顕微
鏡を用いて計数した。石自のはこの微細輪紋を日輪と報
告しており,本報告でも日輪として取り扱うこととし
た。石田6)はふ化後 5日目から輪紋が形成されると報告
しているので,輸紋数に 5を加えたものを日齢とし
32N
31N
30N 127E 128E 129E
"'0
130E 131E
Fig. 1 Map of study 紅白 Mostof the specimens in this stucly were lancled at Nagasaki Fish Market, Ushibuka and Akun巴 Port
た。月別に集計された体長組成をもとに,相j峯・滝口7)
および五利江8)の方法を用いて, 年齢別および月別の平
均体長と標準偏差を求めた。得られた,月別の平均体長
を用いて,ベルタランフィ ーの成長曲線について,非線
形の最小自乗法を用いて,それぞれのパラメータを推定
した。そのベjレタランフィ一成長曲線は次の通りである。
BLI/I=BL∞[1-exp { -K(111ーら)}]
ただし,BL",はm月齢の被鱗体長であり ,BL∞,K,ら
はそれぞれ極限体長,成長係数および体長が Oとなる
月齢である。なお,推定するためのソフトウェアは IRJを用いた。なお,誕生日は産卵期間の関係から(結果の
項に後述),一部に前年 12月に所、化する個体も見られ
たが,これも同じ年級群に含めるとして,すべての個体
で1月1日と仮定して計算を行った。
10%ホルマリ ソで固定された生殖腺は,定法に従い
エタノールで脱水した後に,パラフィンに包埋し, 8
μmの切片を作成し,それをスライドグラス上に貼り付
けた。切片は,マイヤーヘマトキシリン ・エオシン染色
を施し,カバーグvラスで封入した後に,実体顕微鏡ある
いは光学顕微鏡を用いて観察を行った。その際,精巣お
よび卵巣内の最も発達した段階を記録した。具体的には
次の通りである。
精巣については,次の 5つの段階に分けた。 13)精原細
東シナ海のウルメイワシの成長と成熟 17
胞増殖期 (SP:spermatogonial proliferation stage),成
熟初期 (EM:early maturation stage),成熟中期 (MM:
mid maturation stag巴),成熟後期 (LM:late maturation
stage) ,機能的成熟期(FM: functional maturation
stage)。
卵巣については,次の 7つの段階に分けた。 14)周辺仁
期 (PN: perinucleolus stag巴),卵黄胞期 (YV: yolk
vesicle stag巴),第 1次卵黄球期(PY: primary yolk
stage) ,第 2次卵黄球期 (SY:secondary yolk stage),
第 3次卵黄球期 (TY:t巴rtiaryyolk stage),匹胞移動期
(MN: migratory nucleus stage),成熟期 (MT:matura-
tion stage)。なお,退行期については記録をせず,排卵
後濡胞が観察された場合は排卵直後と考え,これを記録
した。
なお,生殖腺指数 (GSI)を次の式を用いて計算した。
GWx 100 GSI=一一一一一一
BW
ただし ,GWとB Wはそれぞれ生殖腺重量と体重(生
殖腺重量を含む)である。
結果
年齢査定, 日齢査定と成長様式の推定測定された個体
のうち最も大きな個体は約 260mmであったが,体長
250mm 以上になる個体はごくまれであった (Appen
dix Table 1)。鱗による年齢査定,耳石による日齢査定
および月別の体長組成から得たそれぞれの月齢別平均体
長を Fig.2に示した。なお,鱗による年齢・月齢査定
ができた個体数および耳石による日齢査定ができた個体
はそれぞれ 170個体, 220個体であった。鱗による年齢
・月齢査定の結果では, 10ヶ月齢, 24ヶ月齢および 35
ヶ月齢で,それぞれ 139mm, 209 mmおよび 231mm
であった (Fig.2の口)。なお,年輪が 3本形成されて
いる鱗はなく, Chullasorn et a1. 4)が報告している 6歳ま
での成長様式の検討は本研究から棄却した。一方,体長
100mm以下の個体を中心に日齢を計数した結果,ふ化
後 60日目, 90日目および 120日目の体長はそれぞれ
43mm,60mmおよび 97mmであった (Fig.2の6)。
また,月別の体長組成 (AppendixTable 1)をもとに O
歳, 1歳および 2歳の平均体長を月5]IJに求めたところ,
12ヶ月齢, 24ヶ月齢および 36ヶ月齢の平均体長はそ
れぞれ 174.6mm, 219目7mmおよび 245.7mmであった
(Fig.2の・)。年齢・月齢査定をした個体を雌雄別に分
けた場合とあわせた場合の成長様式の違いを F検定で
行ったところ,雌雄に成長差があるとはいえない (F
test, F = 1.08)。そこで体長組成および年齢・日齢査定
を行ったそれぞれの結果について,ベルタランフィーの
成長曲線を求めたところ,次のような式を得た。
体長組成による結果:
300
250 (
E
-5 200
4普ニ 150 ω
主mori畠 "" Otol伽 叫ng50 klf • Size frequency
BLm=244.8(1-exp(-O目10(m-O.55)))o 0 5 1 0 15 20 25 30 35 40
Monthlyage
Fig. 2 Growth models of round herring in the present study. Open squares, op巴ntriangles and c10sed circ1es repres巴ntth巴resultsfrom scale reading, otolith read ing and monthly size distributions, respectively. V巴rtical bars anc1 solic1 lin巴 r巴presentstanc1arc1 deviations and estimatec1 growth curve, r巴spectively.The results from scale anc1 otolith reading were pool巴din each monthlyage
BL刑 =244.8[1-exp{一0.10(111-0.55)} ] (1'2 = 0.92)
年齢・日齢査定による結果:
BL川 =224.1[1一巴xp{ -0.11 (111 + 0.28)} ] (1'2 = 0.98)
このうち,年齢・日齢査定による成長様式は極限体長
が 224.1mmであり, Appendix Table 1で観察された
大型魚、の当てはまりが悪かった (Fig.2)。
成熟特性雌維の月別の GSIの変化を Fig.3Aと
Fig.3B にそれぞれ示 した。ウルメイワシの雌雄とも
GSIのピークは 3月であり,それ以降は減少して, 7月
から 10月は低い値で推移した。精巣の発達段階のう
ち,精原細胞増殖期 (SP),成熟初期 (EM),成熟中期
(MM),成熟後期 (LM)および機能的成熟期 (FM)
を持つ個体の平均 GSIは,それぞれ 0.2,0.9, 2.1, 4.1
および 6.7であった。 一方卵巣の発達段階のうち,周辺
仁期 (PN),卵黄胞期 (YV),第 1次卵黄球期 (PY),
第 2次卵黄球期 (SY),第 3次卵黄球期 (TY),匹胞移
動期 (MN) および成熟期 (MT) を持つ個体の平均
GSIは,それぞれ 0.6,0.9, 2.1, 3.0, 4.6, 6.1および 12.4
であった。肉眼による観察で吸水卵が認められたのは,
12月から 4月であった (Fig.3Bの*)。雌雄と IもGSI
が2を超えていたのは 12月から 4月であり (Fig.3A
• B), GSIが2以上ということは雄においては精小嚢
内腔に精子が存在するJ3)MM期とほぼ等しく,雌にお
いては卵黄蓄積が始まっている PY期の段階14)とほぼ等
しい。
Fig.3Cと3Dには,それぞれ精巣と卵巣の成熟段階
の割合を示した。なお,雄については 7月から 11月,
大下,後藤,大塚,塊島18
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Month
Fig. 3 Monthly changes of mean GSI values in males (A) and females (B) with standard deviations (vertical bars). Asterisks represent the presence of individuals with hydrated oocytes. Monthly percentage of stages of the testis (C) and ovary (D).
雌については 7月から 9月及び 11月についての情報は
ないが, Fig.3A・Bで示した平均 GSIが低く,後述す
るGSIと成熟率の関係 (Fig.4A • B) を見ても,この
時期についてはすべて未成熟であると判断した。維につ
いて, 12月から 6月まで精小嚢内腔に精子が充満して
いる13)LM期および FM期の個体の割合が大半を占め
た (Fig.3C)。雌については, 12月から 6月まで卵母
細胞内にある核が中央部から徐々に周辺に移動する14)
MN期および抱卵直前である MT期の個体が観察さ
れ,これら二つの成熟段階の割合が高かったのは 2月
から 5月であった (Fig.3D)。卵巣内に排卵後纏胞を持
つ個体も観察され,そのときの発達段階は SY期, TY
期, MN期であっ たことから,短期間の聞に複数回の
産卵をすることがうかがわれた。
本研究では精巣で LM期と FM期を,卵巣で MN期
以降と排卵後i慮胞を持つ個体を最終成熟の目安として仮
定し ,GSIをそれぞれ 0.5毎に区切って成熟率 (MR;
Maturation rate =最終成熟の個体の割合)を求めた。
それをロジスティック式で回帰させたところ,雌雄で次
のような式を得ることができた (Fig.4A. B)。
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Fig. 5 Comparison betw巴enprevious studies and th巴
present study. The blue, green and brown solid lines r巴presentthe previous growth curves in the Pacific Ocean 1.2), the black dotted line repr巴sentsthe growth curve in the East China Sea4) and the red line and closed circles represent our results
100
東シナ海のウルメイワシの成長と成熟
100
• A ごす 80 ・一。、
ω ~ 601-c o 百 40'-コ司ドd
c¥l 三 20・
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GSI 8 10
100 Male • c •
80 • • (
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主 40c¥l Lーコ...... 望20
• • O 120 140 160 180 200 220 240 260
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~20 • 140. 1EiO 180 200 220 240 260
Body length (mm)
Fig. 4 The relationships between GSI values and maturation rat巴inmales (A) and fel11ales (B), and relationships between body le四 tha凶 maturationrate in l11al巴s(C) ancl f巴l11ales(D)
100 雄:MRma1r=
Ir 1 +巴xp{( -2.2 (CSI -2.3))}
l00 雌 :MR'cm山=
J'''''''" 1 + exp { -1.1 (CSI -3.8)}
ただし ,MRma1eおよびMRjemalcはそれぞれ雄と雌の
成熟率である。これらの関係式から, 50%成熟 CSI
は,雄では 2.3,雌では 3.8であることがわかった。ま
た,産卵期 (12月から 6月)の個体を使って,体長を
10mm毎に区切り,雌雄別に MRを求めて体長との関
係を求めたところ (Fig.4C・D),雄では体長 170mm
で 25%,190mmで 60%であり 200mm以上では 80%
以上の値を示した (Fig.4C)。雌の成熟率は,体長 170
mmで 25%,190I11mで 90%,200111111以上ではほぼ
100% を示した (Fig.4D)。
考察
本研究では,鱗による年齢査定および耳石による日齢
査定を実施し,それぞれの査定結果を合わせた成長式を
推定し ,BLm = 224.1 [1-exp { -0.11 (m + 0.28)} ]を得
た。しかし,この式では極限体長が約 224111111とな
り,漁獲される体長の最大体長約 250ml11 (Appendix
Table 1) を適切に説明できないと判断した。そこで,
月別の体長組成から年齢別に正規分布を仮定して平均体
長を求め,その平均体長から成長式を推定したところ,
BL山 =244.8[1-exp{-0.10(m-0目55)}]となった。こ
の式は,ウルメイワシの測定結果から観察される最大体
長 (AppendixTable 1)を説明できると同時に,鱗お
よび耳石による査定結果からも大きく外れていない
(Fig. 2) ことから,東シナ海におけるウルメイワシの
成長式は月別の体長組成から得られる式がもっとも妥当
と判断した。ウルメイワシのように,寿命が短く,成長
が速い魚種では,年齢形質を年齢査定して得られる成長
式よりも月別の体長組成から得られる成長式のほうが,
簡便でかつ毎年の成長の差も検討できるメリットがある
と考えた。
次に,既往の知見との比較を試みる (Fig.5)。既往
の知見は,真由ら(太平洋南部沿岸), 1)山田(熊野
灘), 2) Chullasorn et al. (九州西岸)のを引用した。それ
ぞれの成長様式は次の通りである。
20 大下,後藤,大塚,塊島
真回ら1)
BL", = 254.4[1-exp { -0.1555 (m -0.6399)} ]
山田2):
BL", =237.8[1一巴xp{一0.1329(m + 0.3573)} ]
山田2):
BL", = 227.0[1-exp { -0.1368 (m -0.6868)} ]
Chullasorn et al.4) :
BLt= 311.6{1-exp ( -0.2594t-0.2432)}
ただし, Chullasorn et al.4)のBLtは t歳時の体長であり,
Fig.5はそれを月齢毎の体長となるように計算をして示
した。既往の知見のうち,太平洋側での報告と比較する
と,太平洋側の成長はふ化後約 20ヶ月齢までは本研究
の結果よりもよかったものの (Fig.5の青色,緑色およ
び茶色の実線),ふ化後 20ヶ月齢以降では山田2)が報告
した二つの成長様式と本研究の結果はほぼ同じであっ
た。一方,東シナ海での既往の報告4)は木研究の結果を
含めて,異なる成長様式を示した (Fig.5の黒色の破
線)。年齢査定や漁獲された年代が異なるので,年代に
よる差の影響も考えられるが,同所的に漁獲されるマイ
ワシでは資源量の増減に伴う成長様式の差は報告されて
いるものの 15.16)資源量がマイワシほど変化しないウjレ
メイワシでは年代の差が,成長式の差の要因とは考えづ
らい。さらに,式に示されている FL∞=311.6 mmとい
う値は,実際に観察される最大の体長(約 250mm,
Appendix Tabl巴 1) と大きく異なっている。したがっ
て, Chullasorn et al. ,1)の報告した成長様式は間違ってい
ると考え,本研究や太平洋側での報告がウjレメイワシの
成長様式を表していると判断した。ただし,太平洋側と
の特に若齢期における成長差について,既往の論文が図
などを示していないため,詳細な検討ができなかった。
したがって今後は両海域におけるサンプルを比較するこ
とが必要だろう。その際,本研究で用いた月別体長組成
からの成長式の推定方法は強力なツーjレになると考える。
次に成熟特性について考えてみる。魚類の成熟・産卵
特性は資源水準の変動に応じて変化することが知られて
いる。17-20)本研究では資源水準の変動との関係を論じる
までの長期間の蓄積はないが,ウルメイワシの資源、量の
変動はマイワシほど大きくないため,成熟特性が大きく
変わる可能性は低いと考えている。成熟特性においても
太平洋側の知見のほうが多い0111)初回成熟体長は春季
発生群ではふ化後 12ヶ月後の 180mmで,秋季発生群
ではふ化後 17ヶ月後の 210mmと 11.21)180 mm以上
の個体で産卵を行うとされる。本研究でも 170mm台
の個体でも産卵に参加すると個体もあると考えられる
が,産卵する個体の主体は 180mm以上である (Fig.
4D)。したがって,初回成熟体長についての違いは両海
域では認められず,成長様式からみて,東シナ海では満
l歳魚、から産卵を行うと判断された。本研究の結果から,
GSIの月別の変化をみると,雌:維とも 12月から 4月に
GSIが高く, 7月から 10月は非常に低い値で推移し
た。また,肉眼における観察で,卵巣内に吸水卵が認め
られたのも, 12月から 4月であった。ただし 5月およ
び6月には肉眼による観察では吸水卵は認められなか
ったが, MN期の発達段階をもっ個体もいたことから
(Fig. 3D),東シナ海に分布するウlレメイワシの産卵期
は 12月から 6月までと考えられる。この点は,太平洋
側における周年産卵という知見11)とは異なる。ただ
し,太平洋側のウlレメイワシの O歳魚、の成長1.2)は東シ
ナ海のものより速いため,これらが当歳魚、のうちに再生
産に関係をしているのかもしれない。今後は太平洋側の
生殖腺について組織学的な観察が必要と考える。
GSIと精巣および卵巣内の最も発達した成熟段階との
比較では,維では GSIが約 2以上で精小嚢内腔に精子
形成をし,雌では GSIが約 4以上で匹胞移動期が, 10
以上て。吸水卵(完熟期)が観察された。本研究では,精
巣で LM期と FM期,卵巣で MN期以降の発達段階を
成熟していると仮定して,GSIと成熟率との関係を求め
たところ,雄では GSIが2.3で半数が成熟をし, OtiEで
は GSIが 3.8で半数が成熟すると考えられた。これら
の関係は GSIを用いて成熟期などを簡便に判定する際
に有効であると考えられる。
また,卵巣内には MN期の発達段階と排卵後漉胞が
同時に観察された。ウlレメイワシの排卵後i慮胞の消失過
程に関する研究や卵巣の最終成熟に関する研究は無いも
のの,他のニシン目魚類の研究から,この MN期にあ
たる卵巣は翌日には産卵をしていると考えられる。22幻)
以上のことからウルメイワシは数日以内に複数回の産卵
をするものと考えられる。このような知見も,産卵調査
から親魚資源量を求める際に必須の情報となるだろう。
以上報告してきたように,コホート解析を行うために
必要な成長様式の確定や,産卵調査の結果から親魚、資源
量を推定する際に必要な産卵期などのパラメータを本研
究で明らかにしてきた。これらの値を用いることで,よ
り資源評価の信頼性が高まることが期待される。ただ
し成長様式や成熟特性について太平洋側との若干の相
違も明らかとなった。この点については,今後太平洋側
で漁獲される個体を詳細に比較することで検討する必要
がある。
謝辞
本研究は水産庁委託事業である我が国周辺漁業資源等
調査および資源動向要因分析事業の予算を用いて行われ
た。また,採集やiJ!IJ定の補助をしていただいた方々にお
礼申し上げる。
東シナ海のウルメイワシの成長と成熟 21
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22 大下,後藤,大塚,塊島
Feb. Mar
Table 1 Monthly size distributions from 1997 to 2009
BL (mm)
0-4
5-9
10-14
15-19
20-24
25-29
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
80-84
85-89
90-94
95-99
100-104
105-109
110-114
115-119
120-124
125-129
l30-134
135-139
140-144
145-149
150-154
155-159
160-164
165-169
170-174
175-179
180-184
185-189
190-194
195-199
200-204
205-209
210-214
215-219
220-224
225-229
230-234
235-239
240-244
245-249
250
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383 111
412 170
420 219
407 223
343 268
292 320
183 229
110 138
52 47
37 24
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32 30
18 16
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464 542 708
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453 555 529
389 432 421
354 376 458
360 302 337
232 233 363
142 152 269
66 93 284
35 75 247
23 49 187
34 17 88
32 17 27
37 29 7
28 35 9
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Oct. Nov. Dec
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