コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 · 1...

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1 コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 An Image Based Measurement of Fine Cracks in the Surface of Concrete Block 伊藤厚史, 橋本周司 Atsushi ITO and Shuji HASHIMOTO 早稲田大学理工学部,{ito,shuji}@shalab.phys.waseda.ac.jp 概要: 本論文は、土木・建築構造物の安全性を検討し維持するために、高解像度カ メラを用いて得られるコンクリート表面の画像から、いくつかの画像処理技術を組み 合わせることにより鉄筋コンクリート表面のひび割れを抽出し、さらにその解析まで を自動的に行うシステムに関するものである。提案手法により、サブピクセル単位で の微細なひび割れの解析が実現された。 1. はじめに 近年、土木および建築分野において、土木・ 建築構造物の安全性を検討し維持するため、画 像処理による外観検査の重要性は飛躍的に高 まっている。土木・建築構造物を建造する上で、 最も幅広く使用されている材料は鉄筋コンク リートであるが、その表面には様々な原因でひ び割れが生じる[1]。このようなコンクリート 表面に発生したひび割れは、構造物の地震後に おける被災度診断、耐震補強の必要性、材料の 劣化度などを推定する[2,3]上で極めて重要な 判断材料となる。 現在、コンクリート表面のひび割れを検査し、 その長さや幅などの特徴量を測定するために は、ほとんどの場合、目視あるいはひび割れの 特徴を記したスケッチを専門家が作成すると いう方法をとっている。しかし、そのような手 法で得られたデータは計算機による解析には 不向きであり、専門家の知識および経験に依存 するところが多い。そのため大変な時間と労力 がかかるばかりでなく、定量性に欠けるため客 観的な評価が難しい。処理の客観性と迅速性向 上のために、ひび割れの幅や方向性、分布等の 自動計測の実現が期待されている[4]。本論文 は、コンクリート表面のひび割れを抽出し、さ らにその微細な解析までを自動的に行うシス テムに関するものである。著者らは、ひび割れ を抽出し分析するプロトタイプシステムを既 に提案している[5,6]。これは、高解像度カメラ により得られるコンクリート表面の画像から、 いくつかの画像処理技術[7-9]を組み合わせる ことにより、自動的にひび割れを抽出・解析し、 ひび割れごとに、方向や幅といった鉄筋コンク リート構造の分析のために有効なデータを抽 出できるものであった。ここでは、さらに高精 度なひび割れ解析[10]が実現できるよう改良 をしたシステムの報告をする。 2. システム概要 まず、コンクリート表面のひび割れを抽出し、 解析するための基礎的な処理の流れを説明す る。さらに微細な解析のための処理プロセスに ついては、次章で記述する。 Step 1. 撮影 高精細 CCD カメラにより、鉄筋コンクリー ト表面の画像を撮影する。コンクリートブロッ クの大きさはおおよそ 100cm x 40cm 程度であ り、それに対し 3040 x 2008 画素の解像度を もつ CCD カメラを用いて、モノクロ 8 ビット で撮影した。そのため画像中の1画素は、実世 界の約 0.33mm x 0.33mm に対応する。それに 対しひび割れの最小幅は 0.1 mm 以下であるた め、このようなひび割れに対してはサブピクセ ル単位での抽出が必要となる。

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Page 1: コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 · 1 コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 An Image Based Measurement of Fine Cracks

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コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 An Image Based Measurement of Fine Cracks in the Surface of Concrete Block

伊藤厚史, 橋本周司 Atsushi ITO and Shuji HASHIMOTO

早稲田大学理工学部,{ito,shuji}@shalab.phys.waseda.ac.jp

概要: 本論文は、土木・建築構造物の安全性を検討し維持するために、高解像度カ

メラを用いて得られるコンクリート表面の画像から、いくつかの画像処理技術を組み

合わせることにより鉄筋コンクリート表面のひび割れを抽出し、さらにその解析まで

を自動的に行うシステムに関するものである。提案手法により、サブピクセル単位で

の微細なひび割れの解析が実現された。 1. はじめに

近年、土木および建築分野において、土木・

建築構造物の安全性を検討し維持するため、画

像処理による外観検査の重要性は飛躍的に高

まっている。土木・建築構造物を建造する上で、

最も幅広く使用されている材料は鉄筋コンク

リートであるが、その表面には様々な原因でひ

び割れが生じる[1]。このようなコンクリート

表面に発生したひび割れは、構造物の地震後に

おける被災度診断、耐震補強の必要性、材料の

劣化度などを推定する[2,3]上で極めて重要な

判断材料となる。 現在、コンクリート表面のひび割れを検査し、

その長さや幅などの特徴量を測定するために

は、ほとんどの場合、目視あるいはひび割れの

特徴を記したスケッチを専門家が作成すると

いう方法をとっている。しかし、そのような手

法で得られたデータは計算機による解析には

不向きであり、専門家の知識および経験に依存

するところが多い。そのため大変な時間と労力

がかかるばかりでなく、定量性に欠けるため客

観的な評価が難しい。処理の客観性と迅速性向

上のために、ひび割れの幅や方向性、分布等の

自動計測の実現が期待されている[4]。本論文

は、コンクリート表面のひび割れを抽出し、さ

らにその微細な解析までを自動的に行うシス

テムに関するものである。著者らは、ひび割れ

を抽出し分析するプロトタイプシステムを既

に提案している[5,6]。これは、高解像度カメラ

により得られるコンクリート表面の画像から、

いくつかの画像処理技術[7-9]を組み合わせる

ことにより、自動的にひび割れを抽出・解析し、

ひび割れごとに、方向や幅といった鉄筋コンク

リート構造の分析のために有効なデータを抽

出できるものであった。ここでは、さらに高精

度なひび割れ解析[10]が実現できるよう改良

をしたシステムの報告をする。

2. システム概要

まず、コンクリート表面のひび割れを抽出し、

解析するための基礎的な処理の流れを説明す

る。さらに微細な解析のための処理プロセスに

ついては、次章で記述する。

Step 1. 撮影

高精細 CCD カメラにより、鉄筋コンクリー

ト表面の画像を撮影する。コンクリートブロッ

クの大きさはおおよそ 100cm x 40cm 程度であ

り、それに対し 3040 x 2008 画素の解像度を

もつ CCD カメラを用いて、モノクロ 8 ビット

で撮影した。そのため画像中の1画素は、実世

界の約 0.33mm x 0.33mm に対応する。それに

対しひび割れの最小幅は 0.1 mm 以下であるた

め、このようなひび割れに対してはサブピクセ

ル単位での抽出が必要となる。

Page 2: コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 · 1 コンクリート表面に発生するひび割れの画像計測 An Image Based Measurement of Fine Cracks

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Step 2. シェーディング補正

画像撮影時の照明のムラを除去するために

行うものである。補正用画像データとして、コ

ンクリートブロックの前に白い板を設置し、コ

ンクリート表面を覆い隠した状態で撮影され

た画像を、事前に獲得しておく。原画像の各画

素の輝度値を補正画像の対応する画素の輝度

値で規格化することにより、照明の不均一性を

取り除くことができる。

Step 3. 仮2値化処理

コンクリート表面のバイナリ画像を獲得す

るために、固定的なしきい値を設定して仮の2

値化を行う。シェーディング処理で得られた画

像全体の輝度の平均値を求め、平均値と輝度の

最低値の中間値をしきい値 k として決定する。 k = ( Ave + Min ) / 1.25

Ave : 画像全体の輝度の平均値 Min : 画像全体の輝度の最小値

ひび割れが存在する領域を黒画素、背景を白画

素で表現した2値化画像が得られる。

Step 4. 再2値化処理

再2値化処理は、仮2値化処理によって抽出

しきれなかったひび割れ領域を抽出するため

に行われる。2値化後に得られたバイナリ画像

中において、ひび割れ画素(黒画素)が存在す

る密度が高い領域には、他のひび割れ画素の存

在する可能性は高い。そこで、バイナリ画像中

の黒画素に対し、その周囲 9 x 9 画素の領域

内での黒画素の数が、ある一定の値以上の場合、

未抽出のひび割れ画素が存在すると考え、この

地域に対して再び2値化処理を行う。このとき、

ひび割れと背景の領域を分離するしきい値は、

判別分析法を用いて新たに決定する。これは地

域内の画素を、その輝度値をもとに2つのクラ

スに分割したとして、クラス間の分散が最も大

きくなるようにしきい値を決定する方法[7]である。図1(b) は、仮2値化処理後の画像図1

(a) に対して再2値化処理を行った結果であ

る。

Step 5. 細線化処理

ひび割れの幾何学的な形状や方向の情報を

得るために、細線化処理を行う。具体的には、

黒画素を中心に 3 x 3 画素のウインドウを考

え、画像の連結性を変えないで消去可能な黒画

素を、白画素に変えることによって細線化を行

う[8]。この過程でひび割れ領域の面積情報を

画素数の単位で得ることが出来る。図1(c) に細線化画像の例を示す。

Step 6. 追跡・ラベリング処理

ラベリングは細線化処理により得られた画

像から、ひび割れを一本ずつ分解するために行

う処理である。マスク処理によってひび割れの

端点を発見し、その点からひび割れを追跡しな

がら次の端点まで同じラベルを付けていく[9]。これによりひび割れ一本ずつの解析が可能と

なる。また、追跡の過程で、ひび割れの角度の

情報を得ることができる。図2にラベリング処

理の一例を示す。

Step 7. 特徴解析

ここまでの処理により、ラベルをはられたひ

び割れ一本ずつの角度および面積の情報を得

ることができる。ここではその情報から、ひび

割れの方向,長さ,太さの分布を求める。

図3 再2値化処理から細線化処理 までの処理の例

Further Thresholding

(a) (b)

(c)

Thinning

1 1 1 1 1 1 1 1

1 1 1 1 1111

AAA B AA BB

AABBBCCC

1 1 1 1 1 1 1 1

1 1 1 1 1111

AAA B AA BB

AABBBCCC

図4 ラベリング処理の例

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3. サブピクセル単位でのひび割れ検出

手法

2章においてその概要を説明した手法を用

いることにより、コンクリート表面を撮影した

画像中からひび割れ部分を抽出し、その特徴を

分析することが可能である。しかしながら、ひ

び割れの長さおよび面積に関しては、実用的な

単位ではなく、2値化後の画像の画素単位でし

か表現できなかった。そこで、解析結果を実寸

単位へと正確にキャリブレーションする手法

を検討した。 まず撮影の際、図3に示すように、クラック

スケールと呼ばれる透明なシートを画像中に

写りこませる。クラックスケールはシート上に、

その面積の値(単位は mm2)が正確に知られ

ている黒い目盛りを複数含んでおり、この目盛

り領域は2値化処理後に得られるバイナリ画

像では、ひび割れと同様に黒画素として表され

る(図3(d))。著者らが以前に提案した手法で

は、2値化処理後のバイナリ画像中の黒画素領

域をひび割れ領域であると決定し、それぞれの

ひび割れがもつ黒画素の数をその面積として

いた。バイナリ画像中で、各々のひび割れ領域

がもつ黒画素の数を、クラックスケールの目盛

り領域がもつ黒画素の数と比較することによ

り、画素単位で表されていたひび割れ領域の面

積を実寸に変換することができる。

ここで、図3(d) の2値化処理後のバイナリ

画像に注目する。クラックスケールの目盛りは

それぞれ面積が既知であり、バイナリ画像中の

各目盛りがもつ黒画素の数はその面積に比例

するはずであることは前に述べた。しかし図3

(d) を観察すると、実際には面積の大きい目盛

りよりも、小さい目盛りの方で多くの黒画素が

検出されるケースが頻繁にみられる。この原因

は、2値化処理により生じた量子化誤差のため

であると考えられる。 図4(a) は2値化処理

前のグレースケール画像からクラックスケー

ルの目盛りをズームアップしたものであり、図

4(b) は図4(a) と同じ部分を、2値化後のバ

イナリ画像からズームアップしたものである。

両者を比べると、図4(b) においてひび割れ領

域として検出された各画素でも、図4(a) にお

いてそれに対応する画素の輝度値が不均一で

あることがみてとれる。この主たる理由は、実

際のひび割れがある画素を埋め尽くしている

場合と、画素の一部のみをひび割れの領域が占

める場合との違いにあると考えられる。その結

果、ひび割れ検出は2値化処理時のしきい値に

大きく依存し、実際にはひび割れを含んでいる

画素でも、ひび割れ領域として検出されない可

能性がある。 そこで、2 値化処理以前のグレースケール画

像において、各画素がもつ輝度値を扱うことに

よりこの誤差を補完し、サブピクセル単位での

微細な計測を可能にする手法を検討した。

(a)Input image

(b)Crack scale

(c) Gray scale image (d)Binary image

Thresholding

図3 クラックスケールの設置

Reselection

(d)

Thresholding

Expanding

(a) (b)

(c)

図4 ひび割れ領域の再選択

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まず、ひび割れ領域を含む画素は、図4(b) のようなバイナリ画像中で黒画素として選択さ

れた画素とそれに隣接する白画素の範囲まで

に存在するものと考え、ひび割れ測定の対象を

図4(c) のように拡張する。ここで灰色にて表

された画素が、新たに拡張された測定対象の画

素である。次に図4(c) 中の黒および灰色で示

された画素の領域に対応する、グレースケール

画像中の画素領域を図4(d) に示すように選

択する。最後に、図4(d) にて選択した領域の

全画素についてその輝度値を、周辺の背景領域

の平均の輝度値と差分をとり、その総和を算出

する。この輝度値の総和をひび割れ面積のパラ

メータとして使用し、実際の面積値に変換する。

4. キャリブレーション線の作成

本章では、実際のコンクリート表面の画像

(図5)を対象として、ひび割れ領域の面積を

実寸に変換するため、クラックスケールの目盛

りを基準としたキャリブレーション線を作成

する。前章で述べた提案手法の有効性を確認す

るため、クラックスケール領域に対して2つの

手法を適用して検証する。一方は、バイナリ画

像中でクラックスケールの各目盛りがもつ黒

画素の数を基準とする方法であり(Method 1)、他方は前章にて提案した、輝度値の総和を基準

とする方法(Method 2)である。 図5は Method 1,2 の結果を比較するもので

ある。図5(a) および(b) の横軸はクラックス

ケール目盛りの実際の面積であり、その単位は

(mm2)である。また縦軸はそれぞれ、黒画素

の数および輝度の総和を指している。図6(a) , (b) には、最小自乗法により決定した直線が描

かれている。実際のひび割れを測定する際には、

これを基準線として実寸への変換を行う。 図6(a) , (b) を比較して、直線からのばらつ

きは Method 2 の方が小さいことがわかる。重

相関係数は、Method 1 において 0.89613 であ

ったのに対し、Method 2 では 0.98533 であっ

た。この結果から、輝度値の総和をパラメータ

図6 キャリブレーション線の作成

0

20

40

60

80

100

120

0 2 4 6 8 10

Area (mm2)

Num

ber o

f bla

ck p

ixel

s

(a) Method 1

(b) Method 2

02000

40006000

800010000

1200014000

0 2 4 6 8 10

Area (mm2)

Sum

mat

ion

of b

right

ness

図5 測定対象とした画像

A C

B

D

A D

B

C

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に使用する手法(Method 2)が、より正確に各

クラックスケール目盛りの面積を得ることが

できることがわかる。また図6(b) に描かれた

最小自乗線の方が、図6(a) のそれよりも基準

線としての信頼性が高いことを示していると

いえる。

5. ひび割れ面積の測定

前章にて得られた基準線を実際のひび割れ

領域に適用し、その面積を実寸単位で測定する。

ここで問題となるのが、実際のひび割れは図7

のように、ひび割れの深さの影響などにより、

その領域内部の輝度値が均一ではないものが

多く存在することである。この不均一性は特に

太いひび割れで顕著にみられる。その場合

Method 2 により得られた基準線からは、正確

なひびの面積を得ることは期待できない。そこ

で Method 1 と Method 2 の長所を併せもつ手法

(Method 3)を検討した。 Method 3 を具体的に説明する。まず、ひび

割れ領域の内側部分にあたる画素の輝度を固

定値で与え、画素数を乗じることにより、この

部分の輝度値の総和とする。一方、ひび割れ領

域の外側、境界近くの部分は、グレースケール

画像においてその画素がもつ輝度値を直接足

し合わせる。そして両部分の輝度値を合計した

値を、ひび割れ面積を得るための基準とする。

これを用いて、Method 1, 2 と同様に最小自乗

線を作成し、実際のひび割れ面積を計算するの

である。 今回の実験では図5の中から、ラベリング処

理により識別された A~D までのひび割れの面

積を、Method 1~3を適用してそれぞれ求める。

また Method 3 を適用する際、図4(b)のような

バイナリ画像中で白画素に隣接する黒画素を、

図4(c)の灰色であらわされる対象領域を拡張

した際に加わった画素とともに、輝度値を直接

足しこんでいく領域とし、残った内側の画素は

輝度値を 250 として固定した。この値はひび

領域において、安定しているとみられた輝度の

平均値である。 表1に測定結果をまとめて示してある。ひび

の面積の真値を正確に知ることは出来ないの

で定性的な評価になってしまう。したがって、

図 5 中のA~Dまでのひび割れを、得られた面

積(単位は mm2)と長さ(単位はピクセル)

を用いて、面積が同値で、一定の幅をもった直

線として原画の上に描いたのが図8の右であ

る。図8のDにみられるように、幅が狭く面積

の小さいひび割れ領域に適用した場合、

Method 2,3 の結果は Method 1 を適用した場合

と比較して、真値に近いと思われる大きな値を

とっている。この結果から、輝度値の和を用い

た測定が1画素に満たない微細なひび割れ領

域を計測するのに有効であることがわかる。一

方、図8のBにみられるように、太く面積の大

きなひび割れ領域に適用した場合には、

Method 1,3 の結果が Method 2 の結果よりも真

値に近いと思われる大きな値をとる。この結果

から Method 3 が輝度の不均一による影響を受

けずに、ひび割れ面積を計測できる手法である

ことがいえる。総じて、提案手法(Method 3)が様々なひび割れに対して適用できることが

わかった。 Method 2,3 は、Method 1 と比較して、グレー

スケール画像を参照する分だけ処理過程が多

いが、処理時間としては、ほとんど変わらなか

った。

6. まとめ

高解像度カメラにより取得した画像データ

を用いて、鉄筋コンクリート表面のひび割れを

自動的に解析するシステムを提案した。さらに、

サブピクセル単位の精度でひび割れ検出を可

能とするため、しきい値処理に加え輝度値の総

和を用いることとし、尚且つ輝度の不均一に対

してロバストな手法を検討し、その効果を確認

Thresholding

図7 内部の輝度が不均一なひび割れの例

Method.1 Method.2 Method.3A 5.097 8.911 8.791

B 27.516 22.789 26.88

C 7.832 10.492 10.361

D 2.425 5.554 3.423

表1 ひび割れ面積測定結果 (mm2)

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6

した。これにより、より微細なひび割れ解析が

実現された。 本システム全体の処理時間は、Pentium3

600MHz CPU を搭載した PC において、約 1分であった。 現在、本システムはコンクリート壁面の加力

実験などの実験室データの解析に使用中であ

る。また、既存建造物の壁面解析に適用するた

めに、コンクリート表面の汚れや模様などがひ

び割れとともに記録された画像データにおい

て、ひび割れのみを抽出する手法を検討中であ

る。

謝辞 本研究を行うにあたり、ご協力頂きまし

た大林組技術研究所の大内一博士、山田守博士、

武田篤史氏に感謝いたします。

参考文献

[1] 日本コンクリート工学協会:コンクリートのひび

割れ調査,補修・補強指針,1987. [2] 国枝稔,若槻晃右,鎌田敏郎,六郷恵哲:破壊制

御設計に基づいたひび割れ注入補修に関する基礎

的研究,土木学会論文集,No.659 / V-54, pp169-177, 2002.

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[4] K.Y.Song, M.Petrou and J.Kittler: Texture Crack Detection, IAPR Journal of Mach.Vis.Appl. Vol.8, No.1, pp.63-76, 1995.

[5] S.Cho, K.Hisatomi and S.Hashimoto: Cracks and Strain Feature Extraction of the Concrete Block Surface Using Image Processing Technique, Proc. FCV’99, pp.68-73, 1999, Taegu, Korea.

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[8] 呉樹椅,奥村彰二: 方向性距離変換に基づいた2

値化の高速細線化法,電子情報通信学会論文誌, J76-D-Ⅱ, No.12, pp2537-2546, 1993.

[9] M.M.Chang, A.M.Tekalp and M.I.Sezen: Simultaneous Motion Estimation and Segmentation, IEEE TIP, Vol.6, pp.1326-1333, No.9, 1997.

[10] Q.Tian and M.N.Huhns: Algorithms for Subpixel Registration” Computer Vision, Graphics and Image Processing, No.35, pp.220-233, 1986.

伊藤厚史:早稲田大学大学院応用物理学研究科所属.

パターン認識、画像計測の研究に従事. 橋本周司:早稲田大学理工学部教授.工博.確率課程

の応用、画像処理、音楽情報処理、ロボティクスの研

究に従事.画像電子学会、日本顔学会、日本ロボット

学会、計測自動制御学会、IEEE、ICMA 各会員 図8 色々なひびに対する測定結果

Method 1

Method 2

Method 3

A

B

C

D