アパレル市場の構造変化と 衣料用テキスタイル業界 …...60 繊維トレンド...

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繊維トレンド 2010 年 3・4 月号 58 はじめに   日本経済は、消費不振の影響を受けて、デフレ 状態を脱し切れずに低迷している。需給ギャップ の拡大と円高によって物価が下落し、そのため企 業収益の悪化が進み、個人所得の減少が更に消費 の落ち込みを招くという悪循環に見舞われている。 周知のとおり、国内アパレル市場は 17 年前のバブ ル崩壊時に価格破壊を経験し、以後、低価格の輸 入品の急増によって継続的な価格の低下に見舞わ れ、アパレル品は国内の消費市場で、デフレスパ イラルの先頭を走る典型的な商品の 1 つである。 さて、2008 年秋から始まった今回の繊維不況は、 衣料分野・非衣料分野共に消費が減少、特に高級 ゾーンの衣料品の不振と価格ダウンが目立ち、国 内繊維業界は深刻な打撃を受けている。すなわち、 雇用不安・収入の減少・異常気象の影響を受け、 消費者の節約志向・低価格志向が一段と強まり、 小売店の価格競争の激化と円高による輸入衣料品 の価格低下、そしてカジュアル化の進行によって、 第 2 次価格破壊の波が押し寄せている。その結果、 全国の各繊維産地は、原料高の製品安、受注の減 少によって、大幅な収益の悪化を余儀なくされ、 ここに来て資金繰りが厳しくなり、経営存続の危 機が高まっている。 今回の繊維不況は、日本経済の景気後退に連動 した循環不況でスタートしたが、昨年秋以降、急 速に構造不況へと変化しつつある。繊維業界がこ れまで実施してきた不採算品種の撤退及び雇用調 国内動向 〔テキスタイル動向〕 アパレル市場の構造変化と 衣料用テキスタイル業界の対応 小山 英之(こやま ひでゆき) 特別研究員 1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その 間、1992 年に繊維工業審議会臨時委員、1997 年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョ ンの策定に参加。2006 年 2 月から東レ経営研究所特別研究員。 1 昨年の国内アパレル市場は、小売店の安売り競争もあり消費者の低価格志向等から、11 兆円を割り込んだ と推定され、バブル期のピークから 4 割強の規模縮小が進んでいる。ただし、外衣・下着の数量ベースの 国内投入量は、過去 10 年間、39 億~ 40 億点の横ばいで推移、金額ベースの市場規模の縮小は、平均単 価の大幅下落によるもので、今なお慢性的なデフレ状態が継続している。 2 今回の構造不況は、高級衣料ゾーンの需要減と購入単価の低下が目立っており、その影響もあって、国産 衣料品の生産縮小が更に進んでいる。そのため、衣料用テキスタイル業界は、受注減と委託加工料のダウ ンが深刻になり、更に円高と東アジア競合国の急速な品質アップが加重され、袋小路に追い込まれている。 この窮地を打開するには、グローバル販売型のミルコンバーターに転換し、自らリスクを持ってマーケッ ト開拓を行い、製販両面の徹底したコストダウンを行うなど、ドラスチックな経営改革が不可欠となって いる。 要 点

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Page 1: アパレル市場の構造変化と 衣料用テキスタイル業界 …...60 繊維トレンド 2010年3・4月号 国内動向 2.2009年のアパレル品の市場規模は11兆円

繊維トレンド 2010年 3・4月号58

はじめに  

日本経済は、消費不振の影響を受けて、デフレ状態を脱し切れずに低迷している。需給ギャップの拡大と円高によって物価が下落し、そのため企業収益の悪化が進み、個人所得の減少が更に消費の落ち込みを招くという悪循環に見舞われている。周知のとおり、国内アパレル市場は 17 年前のバブル崩壊時に価格破壊を経験し、以後、低価格の輸入品の急増によって継続的な価格の低下に見舞われ、アパレル品は国内の消費市場で、デフレスパイラルの先頭を走る典型的な商品の 1つである。さて、2008 年秋から始まった今回の繊維不況は、

衣料分野・非衣料分野共に消費が減少、特に高級ゾーンの衣料品の不振と価格ダウンが目立ち、国

内繊維業界は深刻な打撃を受けている。すなわち、雇用不安・収入の減少・異常気象の影響を受け、消費者の節約志向・低価格志向が一段と強まり、小売店の価格競争の激化と円高による輸入衣料品の価格低下、そしてカジュアル化の進行によって、第 2 次価格破壊の波が押し寄せている。その結果、全国の各繊維産地は、原料高の製品安、受注の減少によって、大幅な収益の悪化を余儀なくされ、ここに来て資金繰りが厳しくなり、経営存続の危機が高まっている。今回の繊維不況は、日本経済の景気後退に連動

した循環不況でスタートしたが、昨年秋以降、急速に構造不況へと変化しつつある。繊維業界がこれまで実施してきた不採算品種の撤退及び雇用調

国内動向〔テキスタイル動向〕

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

小山英之(こやまひでゆき)特別研究員

1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その間、1992年に繊維工業審議会臨時委員、1997年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョンの策定に参加。2006年 2月から東レ経営研究所特別研究員。

1 昨年の国内アパレル市場は、小売店の安売り競争もあり消費者の低価格志向等から、11兆円を割り込んだ

と推定され、バブル期のピークから4割強の規模縮小が進んでいる。ただし、外衣・下着の数量ベースの

国内投入量は、過去10年間、39億~40億点の横ばいで推移、金額ベースの市場規模の縮小は、平均単

価の大幅下落によるもので、今なお慢性的なデフレ状態が継続している。

2 今回の構造不況は、高級衣料ゾーンの需要減と購入単価の低下が目立っており、その影響もあって、国産

衣料品の生産縮小が更に進んでいる。そのため、衣料用テキスタイル業界は、受注減と委託加工料のダウ

ンが深刻になり、更に円高と東アジア競合国の急速な品質アップが加重され、袋小路に追い込まれている。

この窮地を打開するには、グローバル販売型のミルコンバーターに転換し、自らリスクを持ってマーケッ

ト開拓を行い、製販両面の徹底したコストダウンを行うなど、ドラスチックな経営改革が不可欠となって

いる。

要 点

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59繊維トレンド 2010年 3・4月号

整による経営規模の縮小、賃金抑制並びに無駄の排除によるコストの削減等の防衛型不況対策では、現在、直面しているドラスチックな消費構造の変化とアジア競合国の急速な品質アップという構造不況を、残念ながら乗り越えることは困難であると思われる。繊維企業は、原点に返って経営改革を行い、緻密で深く掘り下げた前向きの新戦略を構築しなければならない。「攻撃こそ最大の防御なり」と言われるが、我々は目先の動向に怯むことなく、消費者の低価格志向とアジア競合国との競合激化という構造不況を真正面から受け止め、積極果敢な体質改善のシナリオを打ち出し、総力を挙げて生産及び収益の回復に取り組むことが、今年の繊維企業に課せられた最大のテーマと言えよう。以下、国内のアパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応に焦点を絞って、主要なポイントをまとめてみたい。

1.意外に知られていないアパレル市場の実態

日本のアパレル市場は、世界の中で最も構造変化を遂げているマーケットの 1 つである。繊維業に携わる経営者ならば、当然、大きく変化する最終マーケットの状況をキャッチし、的確に経営対策を行うのが常道であるが、テキスタイル業界の経営者の中で、アパレル市場の構造変化のマクロデータを意外に知らない人が多い。そこで、初歩的な話で申し訳ないが、まず国内アパレル市場の規模の実態がどうなっているかについて、政府統計のデータを簡単に紹介しよう。国内アパレル市場の規模については、これまで

各所で発表している数字を見聞きした人があると思うが、そのデータが様々であり、どれが正確なのか、おそらく戸惑いを感じられたと思う。市場規模のデータに相違があるのは、(A)アパレル品に含める品目の範囲をどのように設定するか、(B)アパレル品の小売・消費統計が抽出調査であることから、調査漏れをどう見るか、(C)市場規模のデータが、最終消費額(小売販売額)の数字なのか、それとも出荷ベース(国内縫製業界の出荷額及び輸入通関額)の数字なのか、が主な要因である。そこで、(A)のアパレルの品目範囲の問題であ

るが、「アパレル品」という言葉を辞典で見ると、「一般的には衣服のことを指しており、広義として

靴やアクセサリーなど服飾全般を示す」と定義している。また、「衣服とは身にまとう物のうち、被り物や手袋、履物を除いたものを指すケースが多い」となっている。したがって、アパレル品の市場規模という場合は、衣服のみの市場規模をいうのか(外衣と下着に限定するのか、またネクタイ・靴下等の洋品類も含めるのか)、あるいは身の回り品を含む服飾全般をいうのかを、明確に区分けして話をしなければならない。次に、(B)のアパレル品の小売・消費統計であ

るが、消費動向については総務省の「家計調査」の統計が唯一のデータである。この家計調査は、1世帯当たりの品目ごとの支出金額・購入点数を毎月調査しており、タイムリーな消費動向の変化を見るには貴重なデータである。しかし、問題点は調査対象数が全世帯数の 0.02 %と低く、全世帯に倍率を引き伸ばして市場規模を求めると誤差率が大きくなり、実際の市場規模よりかなり小さく表示されるという欠点が指摘されている。また、衣料品の小売業界の販売動向については、

経済産業省の統計として、全国の商業販売の実態を調査している「商業統計調査」と、大型小売店(百貨店・スーパー)の販売状況を毎月調査している「商業販売統計」がある。業界団体の統計としては、日本百貨店協会及び日本チェーンストア協会の販売統計が毎月発表されている。「商業統計調査」は、経済産業省が全国 155 万事業所を対象に実施しており、1975 年までが 2 年ごと、1997 年までが 3 年ごと、それ以降は 5 年ごとに調査が行われ、2007 年 6 月に行われた調査結果が直近のデータである。調査票回収率は 95 %前後と高率で、調査対象漏れ事業所を含めても販売実態の約 9 割の高カバー率と推定され、市場規模を調査する上で最も信頼度の高いデータである。しかし、欠点は 5年ごとの調査であるために、毎年の変化が分からないことである。この 2007 年 6 月の「商業統計調査」(2006 年 4

月 1 日から 2007 年 3 月 31 日までの 1 年間の販売調査)によると、衣服(紳士服、婦人服、子供服、その他衣料)の小売店の販売額は 11 兆 6,770 億9,200 万円の市場規模であり、この衣服の販売額に鞄・履物・傘類・ハンドバッグ・小間物等の身の回り品を加えた服飾全般の販売額となると、16 兆6,249 億円である。

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

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繊維トレンド 2010年 3・4月号60

国内動向

2.2009年のアパレル品の市場規模は11兆円割れか 

アパレル品の定義を「衣服(洋品類を含む)」と限定して、「商業統計調査」(2007 年 6 月調査)の業態別アパレル品の小売販売額を示すと図表 1 の通りである。アパレル品販売総額 11 兆 6,771 億円の内訳を見ると、婦人・子供服が 7 兆 2,489 億円、シェア 62 %、紳士服が 2 兆 6,159 億円、シェア22 %、その他衣料が 1 兆 8,123 億円、シェア 16 %であり、衣料品小売ビジネスの中心は婦人・子供服である。次に小売店の業態別の販売状況を見ると、1位が

百貨店の 3 兆 0,082 億円、シェア 26 %、2 位は衣料品専門店 1の 2兆 8,779 億円、シェア 24 %、3位は衣料品中心店 2の 2 兆 8,155 億円、シェア 24 %である。4 位は、セルフ方式の衣料品取扱い率70 %以上の専門スーパー 1 兆 1,717 億円、シェア10 %、5位は総合スーパー 1兆 1,368 億円、シェア10 %となっており、それ以外の小売店は 6,670 億

円、シェア 6 %である。対面販売を行う百貨店・専門店・中心店の販売シェアは全体の 74 %を占め、衣料品販売は対面販売がいかに大切かが理解される。なお、百貨店を専門店が追い上げており、昨年は高額商品の販売不振で百貨店の売上が落ち込み、百貨店と専門店の順位が入れ替わっている可能性が高い。さて、この 11 兆 6,771 億円の市場規模であるが、

幾つかの問題を孕んでいる。第 1 点は、百貨店・総合スーパーの「その他衣料品」に寝具の販売額が含まれていることである。第 2 点は、百貨店・総合スーパーを除く大多数の小売店の販売額が、紳士服・婦人服・子供服・下着・呉服の販売実績であり、それ以外の衣料及び洋品類は「身の回り品」に報告され、11 兆 6,771 億円に含まれていない可能性が高いことである。第 3 点として、この市場規模は調査対象漏れ・無回答の事業所の販売額を含んでおらず、実際の市場規模はもう少し大きいことである。例えば、2007 年の「商業統計調

衣料品小売 紳士服

婦人・子供服 その他衣料品 販売額合計 小 計 婦人服 子供服 小 計 下 着 呉服・服地 百貨店計 3,008,178 582,710 2,180,032 *** *** 245,436 *** ***

大型百貨店 2,873,777 561,958 2,080,107 *** *** 231,712 *** *** その他百貨店 134,400 20,752 99,925 *** *** 13,723 *** ***

総合スーパー計 1,136,776 299,058 697,287 *** *** 140,431 *** *** 大型スーパー 1,107,070 291,094 679,569 *** *** 136,407 *** *** 中型スーパー 29,707 7,965 17,718 *** *** 4,024 *** ***

専門スーパー計 1,386,836 376,157 681,198 527,449 153,749 329,481 316,264 13,217 衣料品スーパー 1,171,692 330,279 585,325 445,335 139,990 256,088 243,811 12,277 食料品スーパー 177,079 23,687 89,232 78,162 11,070 64,160 63,528 632 住関連スーパー 38,064 22,191 6,640 3,951 2,689 9,233 8,925 308

コンビニエンスストア 13,537 222 332 280 52 12,983 12,952 31ドラッグストア 5,473 403 1,185 561 624 3,885 3,865 20その他のスーパー 253,680 49,192 130,081 99,885 30,196 74,407 62,917 11,490専門店計 2,880,884 449,183 1,907,739 1,794,288 113,451 523,962 153,280 370,682

衣料品専門店 2,877,904 448,443 1,906,399 1,793,117 113,282 523,062 152,542 370,520 食料品専門店 44 3 31 31 0 10 7 3 住関連専門店 2,935 737 1,309 1,140 169 889 730 159

中心店計 2,973,906 856,501 1,639,196 1,501,495 137,701 478,209 263,096 215,113 衣料品中心 2,815,499 834,863 1,533,161 1,406,696 126,465 447,475 245,022 202,453 衣料品中心 42,259 5,118 29,189 25,395 3,794 7,952 7,229 723 住関連中心 116,147 16,519 76,845 69,404 7,441 22,783 10,845 11,938

その他小売店 17,822 2,506 11,836 10,871 965 3,480 2,898 582合 計 11,677,092 2,615,932 7,248,886 *** *** 1,812,274 *** ***

区 分

単位:百万円

出所:経済産業省経済産業政策局調査統計部「商業統計調査」

(注1)百貨店・総合スーパーの「紳士服」「婦人・子供服」には、ネクタイ、靴下等の洋品が含まれている。 (注2)百貨店・総合スーパーの「紳士服」「婦人・子供服」には下着販売額を含み、それ以外の小売業の下着販売額は「その他衣料品」に含まれている。 (注3)「その他衣料品」は、呉服反物を主とした販売額であるが、百貨店・総合スーパーには寝具販売額が含まれ、それ以外の小売業には寝具販売額が含まれていない。 (注4)本表には、鞄、履物、傘類、ハンドバッグ、小間物等の「身の回り品」は含まれていない。

図表 1 2007 年 6月調査の業態別アパレル品年間小売販売額

1 :「商業統計調査」では、対面販売を行う衣料品取扱い率 90%以上の小売店を衣料品専門店という。2:脚注 1同様、「商業統計調査」では、対面販売を行う衣料品取扱い率 50%以上の小売店を衣料品中心店という。

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61繊維トレンド 2010年 3・4月号

査」の百貨店の調査事業所数は 271 事業所、アパレル品販売額 3 兆 0,082 億円であったのに対して、「商業販売統計月報」では 323 事業所、3 兆 1,647億円で、「商業統計調査」の販売額は 5 %少なく集計されている。以上のような点を踏まえて、実際のアパレル品

市場の販売規模を推定すると、2007 年の市場規模は 12 兆 5,000 億円前後の規模であったと考えられる。2008 年の市場規模は、これより 3 ~ 4 %の縮小、2009 年は更に約 1割落ち込んでいることから、2009 年の市場規模は 11 兆円割れにシュリンクしていると推定される。

アパレル品小売販売額計

衣・食・住にわたる各種商品小売業 各種商品小売業以外の小売業 区 分 百貨店・総 その他各種 男子服小売 婦人・子供 呉服・服地 その他小売

合スーパー 商品小売業 業 服小売業 小売業 業 紳士服 42,876 17,681 17,681 *** 25,195 *** *** *** ***

婦人・子供服 98,943 40,459 40,459 *** 58,484 *** *** *** *** その他衣料品 40,067 9,617 9,617 *** 30,450 *** *** *** *** 合 計 181,886 67,757 67,757 *** 114,129 *** *** *** *** 紳士服 40,719 15,832 15,832 *** 24,887 *** *** *** ***

婦人・子供服 97,301 41,403 41,403 *** 55,898 *** *** *** *** その他衣料品 34,752 9,220 9,220 *** 25,532 *** *** *** *** 合 計 172,772 66,455 66,455 *** 106,317 *** *** *** *** 紳士服 38,261 15,767 15,696 71 22,494 16,760 3,271 126 2,337

婦人・子供服 94,003 41,978 41,775 203 52,025 1,651 44,256 884 5,234 その他衣料品 32,892 9,057 8,691 366 23,835 695 3,692 16,764 10,115 合 計 165,156 66,802 66,162 640 98,354 19,106 51,219 17,774 17,686 紳士服 27,949 11,451 11,393 58 16,498 11,201 2,913 53 2,331

婦人・子供服 78,899 35,523 35,356 167 43,376 1,621 35,630 483 5,642 その他衣料品 30,548 5,212 4,921 291 25,336 777 2,282 8,140 14,137 合 計 137,396 52,186 51,670 516 85,210 13,599 40,825 8,676 22,110 紳士服 26,159 8,866 8,818 48 17,293 10,946 4,742 32 1,573

婦人・子供服 72,488 28,920 28,773 147 43,568 2,137 36,831 244 4,356 その他衣料品 18,123 4,070 3,859 211 14,053 881 2,903 5,589 4,680 合 計 116,770 41,856 41,450 406 74,914 13,964 44,476 5,865 10,609

単位:億円

出所:経済産業省経済産業政策局調査統計部「商業統計調査」

(注1)衣・食・住にわたる各種商品小売業の「百貨店、総合スーパー」は、従業者50人以上の店舗。「その他各種商品小売業」は50人未満の店舗。 (注2)1991年度、1994年度の「その他各種商品小売業」の販売高は、「各種商品小売業以外の小売業」の販売高に含まれる。 (注3)百貨店・総合スーパーの「紳士服」「婦人・子供服」には下着販売額が含まれ、それ以外の小売業の下着販売額は「その他衣料」に含まれている。 (注4)「その他衣料品」は、呉服反物を主とした販売額であるが、百貨店・総合スーパーには寝具販売額を含み、それ以外の小売業には寝具販売額が含まれていない。 (注5)本表には、鞄、履物、ハンドバッグ、小間物等の「身の回り品」は含まれていない。

小 計 小 計

1991年7月調査

1994年7月調査

1997年6月調査

2002年6月調査

2007年6月調査

図表 2 各調査年度のアパレル品年間小売販売額の推移

3.アパレル品の小売販売額は縮小の一途

繊維業界のデフレ問題は、前述のごとくバブル崩壊を契機として価格破壊が起こり、以後、円高を背景として国内縫製業の海外シフトが拡大し、それに連動して低価格衣料品の輸入が急増、この輸入衣料品が平均単価を引き下げる主因となって今日に至っている。更に、小売業界ではショッピングセンターの建設ラッシュが起こり、これに低コスト販売の SPA の躍進が加わり、増床に伴う衣料品の供給過剰が深刻化し、慢性的な価格下落を引き起こしている。ここで、金額ベースのアパレル市場の縮小過程

を「商業統計調査」のデータで見ると、図表 2 の通りである。1990 年代と 2000 年代の 20 年間に、

経済産業省は全国の小売店に対して 5 回の調査を実施している。バブル期の 1991 年の調査では、アパレル品の販売額が過去最高の 18 兆 1,886 億円を記録、それがバブル崩壊直後の 1994 年の調査では17 兆 2,772 億円に、その後の毎回の調査は減少が続き、2007 年調査では 11 兆 6,770 億円になり、1991 年の調査に対して 35.8 %縮小している。ちなみに、2009 年のデータを推定すると、1991 年比 4割強の減少率となっている。なお、注意しなければならないことは、日本経

済の景気動向と小売業の衣料品販売額の関係である。一般的には、景気が回復すれば消費者の財布の口が緩み、高付加価値品の購入増や購入点数の増加によって小売店の販売額が回復し、不況が来

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アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

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繊維トレンド 2010年 3・4月号62

国内動向

れば逆のパターンになって販売額が落ち込むと考えられており、今回の不況でも景気の回復を待ち焦がれる経営者が多い。しかし、過去約 20 年間のアパレル市場の動向は、景気の回復時に多少の販売額の回復が見られてもその天井が意外に低く、むしろ気象条件によって左右されるケースが多い。また、衣料品の平均販売単価については、輸入衣料品の市場占有率が高いことから、円相場の動向で変動してきている。図表 3は、経済産業省の「商業販売統計」の大型

店(百貨店・スーパー)の衣料品販売額と日本経済

の景気サイクルを組み合わせて、過去約 20 年間の推移を示したものである。戦後、ほぼ一貫して増加してきた衣料品販売額は、1991 年にピーク(7 兆6,573 億円)に達し、その後、景気の山と谷の影響をあまり受けずに販売額が減少をたどり、2008 年は 4 兆 4,150 億円、1990 年比 37.7 %のマイナスになっている。なお、昨年 1 ~ 9 月は前年比 13.2 %の過去最大の減少率を示しており、今回の不況の落ち込みがいかに厳しいか、データで明確に表れている。

日 本 経 済の景気サイクル

百 貨 店 ス ー パ ー

区 分 小 計 紳士服・ 婦人・子供 その他 小 計 紳士服・ 婦人・子供 その他 販売額 前年比 販売額 前年比 洋品 服・洋品 衣料品 販売額 前年比 洋品 服・洋品 衣料品 1990年(A) 拡張 72,504 4.2% 47,007 2.9% 11,998 28,360 6,649 25,497 6.7% 6,554 14,818 4,1251991年 山(1月) 76,573 5.6% 50,017 6.4% 12,697 30,543 6,777 26,556 4.2% 6,838 15,397 4,3211992年 後退 75,615 -1.3% 49,386 -1.3% 12,156 30,701 6,529 26,229 -1.2% 6,668 15,272 4,2891993年 谷(10月 71,757 -5.1% 46,375 -6.1% 10,770 29,592 6,013 25,382 -3.2% 6,417 14,774 4,1911994年 拡張 71,067 -1.0% 45,238 -2.5% 10,319 29,206 5,713 25,829 1.8% 6,385 14,793 4,6511995年 拡張 70,402 -0.9% 44,316 -2.0% 10,128 28,842 5,346 26,086 1.0% 6,658 15,173 4,2551996年 拡張 71,503 1.6% 45,309 2.2% 10,286 29,830 5,193 26,194 0.4% 6,664 15,251 4,2791997年 山(5月) 71,461 -0.1% 45,658 0.8% 10,315 30,495 4,848 25,803 -1.5% 6,596 15,109 4,0981998年 後退 68,907 -3.6% 43,663 -4.4% 9,688 29,654 4,321 25,244 -2.2% 6,311 15,095 3,8381999年 谷(1月) 66,024 -4.2% 41,701 -4.5% 9,019 28,737 3,945 24,323 -3.6% 5,982 14,861 3,4802000年(B) 山(11月) 62,721 -5.0% 40,121 -3.8% 8,282 28,167 3,672 22,600 -7.1% 5,513 13,846 3,2412001年 後退 59,920 -4.5% 38,184 -4.8% 7,653 27,136 3,395 21,736 -3.8% 5,292 13,400 3,0442002年 谷(1月) 57,147 -4.6% 36,976 -3.2% 7,229 26,569 3,178 20,171 -7.2% 4,911 12,435 2,8252003年 拡張 54,946 -3.9% 35,805 -3.2% 6,965 25,860 2,980 19,141 -5.1% 4,656 11,790 2,6952004年 拡張 52,221 -5.0% 34,013 -5.0% 6,604 24,616 2,793 18,208 -4.9% 4,398 11,370 2,4402005年 拡張 51,610 -1.2% 33,527 -1.4% 6,619 24,206 2,702 18,083 -0.7% 4,457 11,261 2,3652006年 拡張 49,936 -3.2% 32,841 -2.1% 6,476 23,811 2,554 17,095 -5.5% 4,269 10,604 2,2222007年 山(1月) 48,269 -3.3% 31,647 -3.6% 6,309 22,862 2,476 16,622 -2.8% 4,211 10,239 2,1722008年(C) 後退 45,150 -6.5% 29,561 -6.6% 5,921 21,319 2,321 15,589 -6.2% 4,095 9,650 1,8442009年1~9 谷(春) 28,900 -13.2% 18,796 -14.2% 3,549 13,760 1,487 10,104 -11.1% 2,697 6,438 96908/90(C/A) *** -37.7% *** -37.1% *** -50.7% -24.8% -65.1% -38.9% *** -37.5% -34.9% -55.3% 08/00(C/B) *** -28.0% *** -26.3% *** -28.5% -24.3% -36.8% -31.0% *** -25.7% -30.3% -43.1%

単位:億円

出所:経済産業省「商業販売統計月報」 (注)本表には、鞄、履物、傘類、ハンドバッグ、小間物等の「身の回り品」は含まれていない。

大型店合計

図表 3 日本経済の景気サイクルと大型店におけるアパレル品販売額の推移

4.2000 年代の数量ベースのアパレル市場規模は横ばい

これまで、金額ベースのアパレル市場の動向について述べてきたが、数量ベースの市場規模の動向となると、状況は大きく変化する。図表 4 と図表 5 は、アパレルの定義を外衣と下着に絞って、過去約 20 年分の国産品と輸入品の数量ベースの国内投入量を示したものである。「投入量」という表現を用いたのは、供給サイドのデータのためであ

る。なお、売れ残りの在庫処分の問題もあり、この表の全量が消費者の手に渡っていないこと、また国産の点数が、従業者 30 人以上の工場の生産量であり、29 人以下の工場の生産量は含まれず、わずかであるが輸出向け商品も含まれていることをご注意願いたい。バブル期の 1990 年の国内投入量を見ると、19 億

4,500 万点、国産品と輸入品の比率は半々であった。これが、2008 年には国内投入量 37 億 8,100 万点、

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63繊維トレンド 2010年 3・4月号

国産品 5 %、輸入品 95 %の比率になっている。このデータは、前述のごとく 29 人以下の工場の生産量が含まれていないことから、過去 18 年間の国内投入量の増加率が 94.4 %増と異常に高くなっている。そこで、29 人以下の工場の生産量を推計して実際の市場規模を算出すると、国内投入量は 1990年が約 26 億点、2000 年が約 39 億点、2008 年が 40億点弱であり、過去 18 年間に約 1.5 倍増加、2000年代はおおむね横ばいで推移している。また、国産品と輸入品の比率は、大雑把に言って、1990 年の国産 6 割・輸入 4 割が、2008 年には国産 1 割・輸入 9 割へ変化している。いずれにしても、輸入品の急増、国産品の大幅減少という構造変化がいかに凄まじいものであったか理解されよう。以上のように、あまりにも衣料品の急激な輸入

の増加が行われたことから、国民 1 人当たりの投入量は、1990 年の 21 点が 2000 年に 31 点、その後ほぼ横ばいで推移して 2008 年も 31 点となっている。すなわち、2000 年代は 4 人家族なら年間 124点の外衣・下着を購入しないと消化できない大量の衣料品が供給されている。この供給増によって、1990 年代後半から店頭における不良在庫の増加と廃棄処分等の問題が深刻化し、この慢性的供給過剰問題は小売業のオーバーストアを背景としていることから、全国各地のショッピングセンターや

量販店の経営の行き詰まり、そして百貨店の店鋪縮小及び大型合併等の構造調整が行われていることは、周知のとおりである。なお、昨年の衣料品国内投入量の動向であるが、

1 ~ 9 月の輸入品は前年比 4.3 %増、国産品は 1 割強減少し、国内投入量合計は前年比やや増加している。不況到来によって、消費不振が叫ばれている最中に、小売業界が海外品の仕入を強化したのは、どのような理由によるものであろうか。思い返せば、日本経済が好況であった 2007 年は、円レートが 1 ドル 115 ~ 120 円の円安になり、衣料品輸入のビジネスは中国縫製工場の人件費の高騰、増値税の還付率の引下げ、そして人民元のアップ等が加わり、採算の悪化に苦労した。しかし、一昨年下半期から国内経済の景気後退と同時に円高が急速に進行し、中国の増値税の還付率引上げもあって一時的に輸入衣料品の収益が回復、これが不況到来にもかかわらず輸入増に走った原因と思われる。また、海外品の発注時期と輸入通関時期にタイムラグがあることも、前年比増加の要因の1 つと考えられる。なお、昨年 10 月の衣料品輸入量は、前年比 7.3 %減少したものの、11 月は前年比 0.2 %増になり、入手可能なデータでは需給改善は遅れている。

国 産 ア パ レ ル 品 輸 入 ア パ レ ル 品 区 分 計 外 衣 下 着 計 外 衣 下 着 国産比率 輸入比率

数 量 前年比 数 量 前年比 数 量 数 量 数 量 前年比 数 量 数 量 1990年(A) 1,945 -7.3% 974 -5.1% 624 350 971 -9.3% 559 412 50.1% 49.9% 1995年 2,942 10.7% 833 -1.9% 504 329 2,109 16.7% 1,323 786 28.3% 71.7% 2000年(B) 3,579 13.3% 511 -11.6% 314 197 3,068 18.8% 1,938 1,130 14.3% 85.7% 2001年 3,565 -0.4% 424 -16.9% 266 158 3,141 2.4% 2,017 1,124 11.9% 88.1% 2002年 3,349 -6.1% 364 -14.4% 228 136 2,985 5.0% 1,909 1,076 10.8% 89.2% 2003年 3,559 6.3% 312 -14.2% 191 121 3,247 8.8% 2,109 1,138 8.8% 91.2% 2004年 3,751 5.4% 283 -9.5% 168 115 3,468 6.8% 2,295 1,173 7.5% 92.5% 2005年 3,751 0.0% 246 -12.7% 150 96 3,505 1.1% 2,345 1,160 6.6% 93.4% 2006年 3,867 3.8% 232 -5.9% 142 90 3,635 3.7% 2,472 1,163 6.0% 94.0% 2007年 3,848 -0.5% 217 -6.6% 132 85 3,631 -0.1% 2,461 1,170 5.6% 94.4% 2008年(C) 3,781 -1.8% 198 -8.9% 118 80 3,583 -1.3% 2,436 1,147 5.2% 94.8% 2009年1~9月 2,941 3.4% 132 -11.4% 73 59 2,809 4.3% 1,928 881 4.5% 95.5% 08/90(C/A) +94.4% *** -79.7% *** -81.1% *** +269.0% *** +335.8% +178.4% *** *** 08/00(C/B) +28.5% *** -61.3% *** -62.4% *** +16.8% *** +25.7% +45.9% *** ***

単位:百万点

出所:経済産業省「繊維・生活用品統計月報」、財務省「日本貿易月表」 (注)国産アパレル品は、従業者30人以上の工場の生産量であり、輸出向けを含む。

合 計

図表 4 国内市場におけるアパレル品の投入量の推移

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

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繊維トレンド 2010年 3・4月号64

国内動向

5.消費者は、衣料品への支出額を大幅削減  

次に消費者サイドの変化を見てみよう。図表 6は、総務省の「家計調査年報」の 1 世帯当たりの消費支出の動向を示したものである。注目すべきことは、1 世帯当たりの年間全消費支出額が 1990年の 373 万 4,088 円から、2008 年には 356 万 3,184円へ、1990 年比 4.6 %落ちていることである。我々に関心の高い被服・履物類の全消費支出額に占める構成比は、1990 年の 7.4 %から 2008 年には4.2 %へ低下、その結果、1 世帯当たりの衣服の消費額は 1990 年の 23 万 4,211 円から 2008 年には 12万 7,387 円へ、45.6 %も減少している。小売業界の衣料品販売額の減少について、これ

までの一般論として「消費者はタンス在庫があるから、衣料品を買わなくなった」と言われてきたが、消費者は古着を処分しており、前述のごとく数量ベースの衣料品の購入量は、全く落ちていないのである。すなわち、消費者は衣料品への支出額を削減し、保健医療・交通通信等の支出は増やしているものの、消費者はおしゃれを楽しむために、単価の安い良質な衣料品の購入を積極的に行っており、衣料品の購入平均単価が毎年下落し

ていることが、衣服の消費額減少をもたらしているのである。この傾向は、今回の不況でも一段と進んでいる。衣料品の消費が顕著に落ち込んだ昨年 7 ~ 9 月の状況を見ると、衣服消費額合計は前年比 10.8 %減少、品目別では子供用洋服 8.4 %減、婦人用洋服 11.3 %減、男子用洋服 20.2 %減、和服34.8 %減と支出額が落ちている。また、同期間の衣料品の購入平均単価は、男子背広が前年比20.7 %低下、ワイシャツ 21.2 %、婦人服 17.9 %、スカート 22.4 %、男女のズボン・スラックス 9 ~10 %とそれぞれダウンしている。業界紙によると、「若者世代は、他世代に比べて

おしゃれへの関心は依然として高く、消費意欲が強い。その半面、とにかく安くて経済的なものを選びたいとの意識も強く、お金をかけずにおしゃれを楽しんでいる(地域流通経済研究所調査)」、「消費者は良質で高額な商品、憧れのブランドへの盲目的な消費から、価格と価値を見極める方向に変わっている」「流行に対する意識が弱まり、自分の着たいものを着るという消費に変化している」「店頭では、高級品でも感性・品質に対して割安感のある商品は動いている」「消費変化に対応するた

外 衣 下 着 区 分 計 織物製 ニット製 計 織物製 ニット製 外衣比率 下着比率

数 量 前年比 数 量 前年比 数 量 数 量 数 量 前年比 数 量 数 量 1990年 974 -5.1% 624 -2.9% 353 271 350 -8.9% 37 313 64.1% 35.9% 1995年 833 -1.9% 504 -5.1% 281 223 329 3.4% 33 296 60.5% 39.5% 2000年 511 -11.6% 314 -10.8% 167 147 197 -14.2% 19 178 61.4% 38.6% 2001年 424 -16.9% 266 -15.1% 141 125 158 -19.9% 20 138 62.8% 37.2% 2002年 364 -14.4% 228 -14.5% 117 111 136 -14.1% 16 120 62.7% 37.3% 2003年 312 -14.2% 191 -16.3% 95 96 121 -10.6% 13 108 61.1% 38.9% 2004年 283 -9.5% 168 -12.1% 86 82 115 -5.4% 11 104 59.4% 40.6% 2005年 246 -12.7% 150 -10.3% 77 73 96 -16.2% 10 86 61.0% 39.0% 2006年 232 -5.9% 142 -5.4% 71 71 90 -6.6% 10 80 61.3% 38.7% 2007年 217 -6.6% 132 -7.2% 64 68 85 -5.6% 9 76 60.8% 39.2% 2008年 198 -8.9% 118 -10.6% 58 60 80 -6.1% 7 73 59.6% 40.4% 2009年1~9月 131 -12.7% 73 -19.8% 36 37 58 -1.7% 3 55 55.7% 44.3% 1990年 971 -9.3% 559 -5.2% 257 302 412 -14.4% 116 296 57.6% 42.4% 1995年 2,109 16.7% 1,323 15.2% 496 652 786 19.2% 242 544 63.5% 36.5% 2000年 3,068 18.8% 1,938 16.1% 811 1,127 1,130 23.9% 320 810 63.2% 36.8% 2001年 3,141 2.4% 2,017 4.1% 860 1,157 1,124 -0.6% 318 806 64.2% 35.8% 2002年 2,985 5.0% 1,909 -5.4% 813 1,096 1,076 -4.2% 305 771 63.9% 36.1% 2003年 3,247 8.8% 2,109 10.5% 868 1,240 1,138 5.7% 303 835 65.0% 35.0% 2004年 3,468 6.8% 2,295 8.8% 879 1,416 1,173 3.1% 304 869 66.2% 33.8% 2005年 3,505 1.1% 2,345 2.2% 898 1,447 1,160 -1.1% 297 863 66.9% 33.1% 2006年 3,635 3.7% 2,472 5.4% 961 1,511 1,163 0.3% 294 869 68.0% 32.0% 2007年 3,631 -0.1% 2,461 -0.4% 908 1,553 1,170 0.5% 288 882 67.8% 32.2% 2008年 3,583 -1.3% 2,436 -1.0% 885 1,551 1,147 -2.0% 254 893 68.0% 32.0% 2009年1~9月 2,809 4.3% 1,928 4.8% 708 1,220 881 3.0% 196 685 68.6% 31.4%

単位:百万点

出所:経済産業省「繊維・生活用品統計月報」、財務省「日本貿易月表」 (注)国産アパレル品は、従業者30人以上の工場の生産量であり、輸出向けを含む。

合 計

図表 5 生地別アパレル品の国内生産量及び輸入量の推移

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65繊維トレンド 2010年 3・4月号

めに、大手アパレルメーカーは百貨店向けの衣料品を、相次いで 10 ~ 20 %の値下げに踏み切っている」と報じており、今回の消費変化の特徴が端的に表現されている。なお、以上のような消費構造の変化の底流には、

所得が高い段階の世代層(昭和 22 ~ 24 年生まれ)

の退職急増、若年層の人口減少及び低所得という少子高齢化の問題が流れていることも見逃すことはできない。我々は、「日本経済が、今後、順調な回復軌道に乗るならば、衣料品の消費が連動して回復するであろう」という甘い考えは、この際捨てた方が良いのでないかと思われる。

1990年 2000年 2002年 2004年 2006年 2008年 7~9月対比 08/90 08/00 (A) (B) (C) 2008年 2009年 前年比 (C/A) (C/B)

年間全消費支出額 3,734,088 3,807,936 3,671,436 3,635,700 3,539,316 3,563,184 870,953 853,160 -2.0% -4.6% -6.4% 被服・履物 7.4% 5.1% 4.7% 4.4% 4.3% 4.2% 3.9% 3.6% *** *** *** 食 料 25.4% 23.3% 23.3% 23.0% 23.1% 23.2% 23.7% 24.0% *** *** *** 住 居 4.8% 6.5% 6.5% 6.3% 6.1% 5.7% 5.8% 5.9% *** *** *** 保健医療 2.8% 3.6% 3.8% 4.0% 4.3% 4.3% 4.3% 4.5% *** *** *** 交通通信 9.5% 11.5% 12.0% 12.9% 12.8% 13.2% 14.0% 1.6% *** *** *** 教 育 4.7% 4.4% 4.2% 4.4% 4.3% 4.3% 3.6% 3.7% *** *** *** 教養娯楽 9.7% 10.1% 10.0% 10.2% 10.2% 10.6% 11.0% 11.3% *** *** *** 衣服消費額計 234,211 166,402 148,616 138,981 131,246 127,387 28,592 25,491 -10.8% -45.6% -23.5% 男子用洋服 39,095 25,040 22,733 20,685 20,125 19,293 3,280 2,619 -20.2% -50.7% -23.0% 婦人用洋服 63,574 44,517 40,718 36,620 35,312 34,759 7,324 6,500 -11.3% -45.3% -21.9% 子供用洋服計 14,587 10,686 9,576 9,266 8,972 8,685 1,719 1,575 -8.4% -40.5% -18.7% 男子シャツ・セーター類 18,383 13,170 11,700 11,353 10,671 10,108 2,589 2,281 -11.9% -45.0% -45.0% 婦人シャツ・セーター類 30,995 25,191 23,163 22,688 20,552 20,003 5,064 4,821 -4.8% -35.5% -20.6% 子供シャツ・セーター類 4,976 3,813 3,226 3,325 3,217 3,004 742 654 -11.9% -39.6% -21.2% 下着類 22,774 19,042 17,303 15,426 15,140 14,477 3,504 3,340 -4.7% -36.4% -24.0% 和 服 20,484 9,394 6,251 6,821 4,670 4,176 1,409 918 -34.8% -79.6% -55.5% 他の被服 19,343 15,549 13,946 12,797 12,587 12,882 2,961 2,783 -6.0% -33.4% -17.2% 背広服 56,743 44,377 40,133 39,685 38,889 36,028 36,947 29,289 -20.7% -36.5% -18.8% ズボン 5,749 4,481 4,219 4,213 4,183 4,216 4,119 3,706 -10.0% -26.7% -5.9% ワイシャツ 3,773 3,303 3,038 3,105 3,152 3,064 3,213 2,532 -21.2% -18.8% -7.2% 婦人服 22,155 18,622 19,851 20,080 17,000 12,344 10,408 8,543 -17.9% -44.3% -33.7% スカート 6,392 5,489 5,771 6,181 5,925 6,102 6,182 4,799 -22.4% -4.5% 11.2% スラックス 4,187 3,567 3,480 3,588 3,542 3,562 3,445 2,764 -19.8% -14.9% -0.1% シャツ 2,164 2,094 2,100 2,119 2,126 2,062 2,009 1,828 -9.0% -4.7% -15.3% セーター 6,682 5,143 5,181 4,663 4,594 4,366 4,548 3,987 -12.3% -34.7% -15.1%

総 数 123,611 126,926 127,435 127,687 127,770 127,692 *** *** *** 3.3% 0.6% 0~14歳 17.8% 14.6% 14.2% 13.9% 13.6% 13.5% *** *** *** -24.2% -7.5% 15~29歳 21.8% 20.3% 19.3% 18.2% 17.0% 16.4% *** *** *** -24.8% -19.2% 30~49歳 29.6% 26.5% 26.5% 26.8% 27.1% 27.2% *** *** *** -8.1% 2.6% 50~64歳 18.3% 21.2% 21.5% 21.6% 21.4% 20.8% *** *** *** 13.7% -1.9% 65歳以上 12.5% 17.4% 18.5% 19.5% 20.9% 22.1% *** *** *** 76.8% 27.0%

一世帯当たり家計支出

構成比

構成比

年間衣料支出額

男子用

婦人用

購入平均単価

人 口

単位:円、人

出所:総務省「家計調査年報」「国勢調査」 (注)2人以上の世帯を調査。購入平均単価の婦人シャツにはブラウスを含まず。

区 分

図表 6 一世帯当たりの家計支出、衣料品購入平均単価、人口構成の推移

6.出荷段階の国産品のシェアは、金額ベースで3割

これまで、アパレル品の最終市場の構造変化について考察してきたが、主要なポイントを整理すると、(A)金額ベースの市場規模は、バブル期の18 年前に比較して 4 割強減少、昨年の市場規模は11 兆円を割り込んだと思われるが、残念ながら今もって減少に歯止めがかかっていない。(B)数量ベースの市場規模は過去 10 年間、横ばいで推移、外衣・下着の年間市場投入量は 40 億点弱の大規模

市場を維持している。(C)消費者の 1 世帯当たり衣服の年間支出額は、過去 18 年間に 45 %減少、この減少は衣料品の購入単価の下落によるものである。今回の不況で消費者の低価格志向が高まり、購入単価が一段と下落している。(D)過去 18 年間、衣料品の輸入が急増、これが衣料品の慢性的デフレを引き起こし、国産衣料品の生産が大幅にシュリンク、2008 年の数量ベースの輸入比率は 9 割、国産は 1割となっている。

↑↑

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

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繊維トレンド 2010年 3・4月号66

国内動向

しかし、出荷段階における金額ベースの市場規模となると事情が異なる。図表 7 は、バブル崩壊後の 1994 年~ 2007 年のアパレル品(外衣と下着)の国産品出荷額及び海外品輸入額の推移を示したものである。このデータは、大雑把に言うとアパレルビジネスにおける出荷段階の数字であり、投入額(国産出荷額+輸入額)は 1994 年の 4 兆9,390 億円が、2007 年には 3 兆 5,414 億円になり、13 年間に 28.3 %減少している。この出荷段階の投入額のデータに、アパレルメーカーのコスト・利益、輸入商社のコスト・利益、そして小売業界のコスト・利益を加えると、最終マーケットの小売販売額になり、2007 年のデータでは衣料品小売販売額に占める出荷段階の投入額の比率が約 3 割である。したがって、国産アパレル品の出荷額の動向は、テキスタイル業界にとって受注の変動を判断する上で最も重要なデータと言える。なお、この原稿を作成している段階では、経済産業省が2007 年までの統計しか発表していないために、やや古い数字となっていることをご寛恕願いたい。さて、国産品と輸入品の推移を見ると、1994 年

の国産品出荷額 3 兆 6,172 億円(国産比率 73 %)、海外品輸入額 1兆 3,218 億円(輸入比率 27 %)が、2002 年に国産品出荷額 1 兆 5,490 億円(国産比率45 %)、海外品輸入額 1 兆 8,754 億円(輸入比率55 %)と輸入が国産をオーバー、2007 年には国産品出荷額 1兆 1,574 億円(国産比率 33 %)、輸入品2兆 3,840 億円(67 %)となっている。国産品出荷額は 2008 年、2009 年も減少していることから、現在の国産品出荷額の比率は 3 割弱に低下しているものの、9,000 億円台の規模を持っていると考えられる。この市場規模は今後も縮小は避けられないが、依然として巨額の高級品マーケットが存在する。残るパイを巡って、これから誰が取るかが問題であり、国内の繊維企業間の厳しいサバイバル競争が展開されよう。以上のような国内アパレル市場の構造変化に対

して、衣料用テキスタイルを製造する繊維企業は、どのような対策をとるべきであろうか。以下、今次繊維不況の問題点と対策のポイントを簡単に整理する。

区 分 1994年 1998年 2000年 2002年 2004年 2005年 2006年 2007年 07/94 織物製外衣 22,423 17,337 13,036 9,490 7,997 7,337 6,983 7,133 -68.2% 国産品出荷額 ニット製外衣 9,153 7,236 5,256 3,854 3,274 2,961 2,712 2,807 -69.3% (A) 下 着 4,596 3,933 3,198 2,146 1,901 1,791 1,654 1,634 -64.5%

計 36,172 28,506 21,490 15,490 13,172 12,089 11,349 11,574 -68.0% 織物製外衣 6,234 7,635 8,792 9,485 9,773 10,109 11,366 11,247 80.4% 海外品輸入額 ニット製外衣 5,083 6,648 6,623 6,428 7,374 8,013 8,897 9,361 84.2% (B) 下 着 1,901 2,549 2,808 2,841 2,905 3,064 3,184 3,232 70.0%

計 13,218 16,832 18,223 18,754 20,052 21,186 23,447 23,840 80.4% 織物製外衣 28,657 24,972 21,828 18,975 17,770 17,446 18,349 18,380 -35.9% 国内投入額 ニット製外衣 14,236 13,884 11,879 10,282 10,648 10,974 11,609 12,168 -14.5% (A+B) 下 着 6,497 6,482 6,006 4,987 4,806 4,855 4,838 4,866 -25.1%

計 49,390 45,338 39,713 34,244 33,224 33,275 34,796 35,414 -28.3% 織物製外衣 78.2% 69.4% 59.7% 50.0% 45.0% 42.1% 38.1% 38.8% ***

ニット製外衣 64.3% 52.1% 44.2% 37.5% 30.7% 27.0% 23.4% 23.1% *** 下 着 70.7% 60.7% 53.2% 43.0% 39.6% 36.9% 34.2% 33.6% *** 計 73.2% 62.9% 54.1% 45.2% 39.6% 36.3% 32.6% 32.7% *** 織物製外衣 21.8% 30.6% 40.3% 50.0% 55.0% 57.9% 61.9% 61.2% ***

ニット製外衣 35.7% 47.9% 55.8% 62.5% 69.3% 73.0% 76.6% 76.9% *** 下 着 29.3% 39.3% 46.8% 57.0% 60.4% 63.1% 65.8% 66.4% *** 計 26.8% 37.1% 45.9% 54.8% 60.4% 63.7% 67.4% 67.3% ***

単位:億円

出所:経済産業省「工業統計表」、日本化学繊維協会「化繊貿易月報速報」

(注)国産品出荷額は、従業者4人以上の工場の調査集計であり、輸出向け商品を含む(輸出比率は2~3%と低率)。

国産品比率

輸入品比率

図表 7 過去 10 年間のアパレル品(外衣+下着)の国産品出荷額及び海外品輸入額の推移

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67繊維トレンド 2010年 3・4月号

7.万策尽きてもなお一策

我が国テキスタイル業界は、1993 年のバブル崩壊以降、国産衣料品の急激な生産縮小に伴う内需衣料用織編物の需要の減少と、中国等のアジア競合国の激しい追い上げによる輸出減少に見舞われ、その間に事業所数・従業者数・出荷額はおおむね 3分の 1 に縮小、織物生産量も 3 分の 1 になり、ニット生地の生産量は半減した。この苦難に対処するため、テキスタイル業界は (A)高感性・高機能等の高付加価値差別化の推進、(B)小ロット・クイックデリバリーの促進、(C)海外縫製基地への持ち帰り用テキスタイル輸出の強化、(D)産業資材等の非衣料分野への転換、等の世界トップクラスの物造りによる国際分業を推進してきた。しかし、前門の虎、後門の狼という言葉がある

が、今回の繊維不況においては、深刻な袋小路に追い込まれている。すなわち、テキスタイル業界を取り巻く環境が激変し、(A)国内高級衣料品需要の縮小と消費者の低価格志向に伴うテキスタイル価格の下落、(B)原糸等の価格高騰及び極端な小ロット・クイックデリバリーによるコストのアップ、(C)アジア競合国の急速な品質向上に伴う中国への持ち帰り用テキスタイル輸出及び欧米・中東への純輸出の減少、(D)自動車・家電向け等の産業資材並びにインテリア・家庭用繊維の需要縮小など、八方塞がりの状態に陥っている。我々は、今までの不採算品種からの撤退、雇用調整による経営規模の縮小等の防衛型不況対策では、前述のごとく、今後、世界経済及び日本経済が順調な回復軌道に乗っても、構造不況要因が障壁となって回復の天井が低く、倒産・廃業等の規模縮小に歯止めがかからないであろう。禅問答に、四方・八方を敵に囲まれ、窮地に

陥った時にどう対処するかという問題がある。その回答は、「上下に逃げる」である。一度原点に返って、無心の心で周囲の環境変化を再度見回すと、必ず窮地を打開するキーワードがあるということを、この禅問答は示唆している。そこで、今回の動乱を乗り越えるためのキーワードの 1 つを

紹介しよう。筆者は、昨年 10 月に北陸の代表的産元商社であ

る一村産業株式会社の石井銀二郎社長にお会いする機会があった。その時、同氏は「ダーウィンは、環境の変化に対応したもののみが生き残ると言い、ニーチェは脱皮できない蛇は滅びると断じている。戦略はマクロで、現場はミクロで的確かつタイムリーな抜本的な対策を立てることが必要である。そのためには、国内を含めグローバルな視点で自社が勝てる地域・商品分野・製販の方法を根本的に見直し、万策尽きてもなお一策に全力を傾注しなければならない。そうすれば新たな道が開ける」と金言を述べられた。「万策が尽きてもなお一策」、この言葉は惰性的でかつ自己弁護の甘い経営を打破し、今回の危機を打開するための経営改革の重要な羅針盤と言えよう。我々は今こそ、内外の繊維市場の構造変化をミ

クロ面できちんと分析し、断固たる信念で抜本的な経営改革に着手しなければならない。周知の通り、国内のアパレル・小売業界は消費者の低価格志向に対処するために、自社の企画とコストに合うリーズナブルプライスのテキスタイルを求め、一段と国産テキスタイルへのこだわりが薄くなっている。繊維企業は、早急に自社の開発・製造・受注販売・物流等のあらゆる面から品目ごとのミクロの徹底した見直しを行い、大幅なコストダウンの新たな低コストシステムを構築しなければならない。また、受注量を増やし生産回復を目指すには、グローバルな販路の開拓が不可欠であり、海外の富裕層マーケットの実態がどうなっているのか、効率的なバイヤーの発掘と売り込み方法はどうすべきか、競合国・競争相手のレベルがどう変化しているかを、正確に分析し、果敢に販路の開拓にチャレンジすることが緊要である。更に、内外の顧客に買気を起こさせるための商品技術開発分野は何か、自社の得意分野の開発で欠けている点は何かを、一度原点に返って全面的に棚卸しを行い、グローバルな視点から、新技術・新商品の開発に総力を挙げなければならない。

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応

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繊維トレンド 2010年 3・4月号68

国内動向

8. 経営改革の方向は、グローバル販売型のミルコンバーター

今回の繊維不況は、戦後第 13 回目の不況であるが、過去の 3 大不況(第 1 次石油不況、円高不況、バブル崩壊不況)を上回る深刻な状況を呈している。2008 年秋から不況が本格化し、昨年上半期に直下型に不況が悪化、下半期にようやく下げ止まり、昨秋以降、産業資材等で過剰減産の反動の回復が見られ、繊維企業の経営者の顔は昨年春先に比較して、やや落ち着きを取り戻しつつある。参考までに、テキスタイル生産の 7 割を占める

後染織物の出荷が、今次不況でどのような影響を被っているかを示すと図表 8の通りである。昨年 1~ 9 月の出荷合計は、11 億 7,545 万㎡で前年比24.4 %減少、内需が 24.6 %減、輸出が 24.3 %減であり、輸出の 46 %を占める中国向けが 23.8 %減、その他地域向け輸出が 24.7 %減である。ちなみに、内需向けの減少は、国産アパレル品の減産と非衣

料分野の需要減によるものであり、中国向け輸出の減少は、前述の日本の持ち帰り用織物が中国産織物へシフトしていることを示している。その他地域向けは、欧米・中東・東南アジア等への純輸出で、円高に伴う国際競争力の低下によって減少している。このように、今回の繊維不況の特徴は、内需・輸出共にほぼ同率で減少しており、したがって、テキスタイル業界が生産回復を図るには、国境の垣根を取っ払い、国内マーケットも含めてグローバルな視点での販路の開拓とコストダウン対策が不可欠となっている。さて、全国の繊維産地の中で、最も構造不況問

題に呻吟しているのは、日本海側の合繊長繊維織物産地である。その構造問題の主なポイントを示すと、(A)中国・韓国・台湾等の合繊長繊維織物が、高密度織物等の高機能分野、複合繊維織物等の高感性分野の品質が、ここに来て急速に向上し、日本品のコピーの迅速化もあって、国際競争力を

2004年 2006年 2008年 2009年1~9月 (C) 数量 前年比

出荷量合計(染色加工量) 2,469,016 2,338,865 2,049,999 1,175,447 -24.4% 輸出量 1,295,839 1,225,416 1,067,057 600,519 -24.3% 織物合計 中国向け 651,281 618,750 498,295 276,811 -23.8% その他地域向け 644,558 606,666 568,762 323,708 -24.7% 国内向け出荷量 1,173,177 1,113,449 982,942 574,928 -24.6% 出荷量合計(染色加工量) 756,670 670,894 537,855 309,593 -23.3% 輸出量 354,329 315,623 248,607 131,408 -27.4% 綿織物 中国向け 181,826 165,280 122,960 65,480 -24.7% その他地域向け 172,503 150,343 125,647 65,928 -29.8% 国内向け出荷量 402,341 355,271 289,248 178,185 -20.1% 出荷量合計(染色加工量) 126,879 112,958 90,488 50,153 -26.2% 輸出量 58,800 49,597 41,269 22,956 -25.7% 毛織物 中国向け 47,289 39,500 31,147 16,484 -27.3% その他地域向け 11,511 10,097 10,122 6,472 -21.2% 国内向け出荷量 68,079 63,361 49,219 27,197 -26.7% 出荷量合計(染色加工量) 402,116 371,815 353,944 197,063 -25.1% 輸出量 166,678 181,330 188,867 112,962 -17.8% 合繊短繊維織物 中国向け 78,613 73,173 59,466 32,890 -22.5% その他地域向け 88,065 108,157 129,401 80,072 -15.7% 国内向け出荷量 235,438 190,485 165,077 84,101 -33.1% 出荷量合計(染色加工量) 1,032,013 1,051,477 957,629 560,101 -23.7% 輸出量 611,502 582,944 501,908 289,474 -23.5% 合繊長繊維織物 中国向け 305,923 307,351 254,637 145,849 -22.9% その他地域向け 305,579 275,593 247,271 143,625 -24.2% 国内向け出荷量 420,511 468,533 455,721 270,627 -23.9% 出荷量合計(染色加工量) 887,145 860,486 798,366 458,974 -24.9% 輸出量 493,879 447,965 367,731 210,660 -23.9% (ポリエステル長織物) 中国向け 244,468 231,534 185,658 106,528 -22.5% その他地域向け 249,411 216,431 182,073 104,132 -25.2% 国内向け出荷量 393,266 412,521 430,635 248,314 -25.8%

単位:千m2

出所:経済産業省「繊維・生活用品統計月報」、財務省「日本貿易月表」

(注)出荷量合計(染色加工量)には、輸入生機を含む。国内向け出荷量=出荷量合計-輸出量。輸出量には生機と先染織物を含む。

区 分

図表 8 後染織物出荷量(染色加工量)の輸内別出荷推移

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69繊維トレンド 2010年 3・4月号

失って厳しい事態に陥っている産地企業が増加している。(B)合繊メーカー及び産地商社の委託生産比率が高く、今回の合繊メーカーの構造調整に伴うチョップ織物の削減や産地商社のビジネス縮小に対して、産地織物業界は設備の稼働率を落とし、雇用調整を行って出血を防ぐしか手の打ちようがなく、受注回復の有効な対策を打てない企業が多い。(C)グローバル富裕層マーケットの開拓は、委託生産加工比率が高いために商社(合繊メーカーも含む)の販売力に頼っているが、高付加価値ゾーンの織物のビジネス形態が小ロット多品種となり、バイヤーが広域に点在することから販売コストが高まり、そのため集散地テキスタイル商社・産地商社の輸出意欲が減退している。そこで、このような構造問題を打開するには、

どうするかであるが、まず内外の需要の喚起と国際分業の再構築を図るために、日本の武器である高機能分野、特に「快適性」を狙った超機能分野のリーズナブルプライスの環境応答型テキスタイル(スマート・テキスタイル)の開発を加速することが必要である。また、東アジア競合国の交織複合織物の技術レベルが上がっていることから、高感性の発現のための糸加工、すなわち高難度の複合加工技術の開発を強力に推し進めることが緊要になっている。そして、これらの高度技術開発商品を的確に内

外のマーケットに売り込むには、ユーザーに対する詳細な商品説明とコストダウン対策が不可欠であり、産地企業が内外のユーザーに直接コンタクトし、自らがリスクを持って最終市場に近いところへの販売促進を図り、製販トータルの徹底したコストダウン対策を行うしか方法が無い。既に北

陸産地の繊維企業の中に数は少ないが、委託加工生産を脱してグローバル販売型のミルコンバーターに転換した企業が生まれつつあり、このグローバル型自立化企業を、いかに迅速に育成するかが、日本のテキスタイル業界の未来を決めると言っても過言ではないであろう。イタリアの繊維企業のように、販売先国が増えれば、生産量は増加し、販売は小ロット多品種であっても生産は中ロットになり、ある程度の見込み生産も可能になることからコストダウンが推進される。石川県繊維協会・繊維リソースいしかわは、2013 年までの中期戦略として、「ミルコンバーターの集積産地」を掲げ、自立化企業の育成に取り組んでいることは時宜を得た対策であり、今後の動向が注目される。余談になるが、NHK で「坂の上の雲」が放映さ

れ、明治の人々の気骨とバイタリティに感銘を受けた人が多いと思う。明治時代の北陸の小規模羽二重工場主は、果敢に横浜の商館に自販を行い、言葉が全く話せないのにヨーロッパへ自らが売り込みに行き、全財産をはたいて当時の最新鋭の力織機を購入して近代化を図るなど、逞しい経営を実践していた。我々は、明治の先達に習って勇気を持って立ち向かえば、飛躍のチャンスは幾らでもある。「困難こそ本物の企業を育て上げる」と言われるが、中小繊維企業の若手経営者は、自ら不可能と思い込んでいる甘えの殻を突き破り、世界トップの商品を開発して内外のユーザーへのオーナービジネスを積極的に展開するなど、ダイナミックな経営改革を実行されることをお願いして、本稿の終わりとする。

アパレル市場の構造変化と衣料用テキスタイル業界の対応