アルゴリズムへの興味・関心を高め,その表現技法を習得させる … ·...

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- 55 - 沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員 第 51 集 研究集録 2012 年3月 <高等学校 情報> アルゴリズムへの興味・関心を高め,その表現技法を習得させる コンテンツの開発 ―プログラム言語を必要としないアルゴリズム学習教材の作成を通して― 沖縄県立美来工科高等学校教諭 赤 﨑 竜 次 テーマ設定の理由 内閣府に設置されている高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が策定した「i- Japan 戦略 2015」では,2015 年までに実現すべきディジタル社会の将来像と実現に向けた戦略が描かれ ている。この中の三大重点分野の一つに教育・人財分野が取り上げられており,「新しい学習指導要領を 踏まえ,課題や目的に応じて情報手段を適切に活用したり,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処 理・創造したりする能力,(中略)情報活用能力の育成を図る。」が方策として掲げられている。 これを踏まえて教科「情報」の目標を見ると,新学習指導要領の中で「情報化された社会において(中 略)自ら課題を発見し解決することができる,いわゆる問題解決能力などを育成する」ことと定義されて いる。新科目「情報の科学」の目標の中では「情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用するた めの科学的な考え方を習得させ(以下略)」と明記されており,問題の発見と解決のできる能力の育成が 重要視されている事がわかる。 現学習指導要領においてこの目標に準ずる単元は,普通教科では「情報B」における「(2)コンピュ ータの仕組みと働き」中の「コンピュータにおける情報の処理」,専門教科では「アルゴリズム」におけ る科目目標「データ構造と代表的なアルゴリズムに関する知識と技術を習得させ,実際に活用する能力と 態度を育てる」に含まれていると考える。具体的には,アルゴリズム *1 とその表現技法である流れ図 *2 ついての考え方を理解することで,その活用能力としての技術が身につき,問題の発見と解決手順を設計 する能力が育成される内容となっている。 しかし現状では,以下二点においての課題が見られる。一つ目は,アルゴリズムについての考え方を理 解するためには,座学だけではなく実際にコンピュータ上で実行させ,動きを確認することが効果的であ るが,学校現場においてコンピュータ上で効果的に活用できる教材が少ない。二つ目は,専門教科におい てはプログラム実習を通してアルゴリズムの動きを確認することができるが,プログラム言語 *3 の記述や ルールそのものの理解に時間が多く使われてしまい,学習指導要領の目標とする「アルゴリズムの学習」 が軽視される傾向にある。 本研究では上記二点の課題の解決を目指し,プログラム言語によらずに,処理の流れや変数値の動きを 確認することができ,アルゴリズムと流れ図を理解させ活用する力を身につけるための,教材の開発を目 指したいと考え,本テーマを設定した。 <研究仮説> アルゴリズムの分野において,プログラム言語を必要としないディジタル教材を活用することにより, 生徒が興味・関心を高め,アルゴリズムの表現技法を身につけることができるであろう。 *1 アルゴリズム…問題を解くための効率的手順を定式化した形で表現したもの。 *2 流れ図…アルゴリズムを(図形・線・矢印などで)わかりやすく図示したもの。フローチャートとも呼ぶ。 *3 プログラム言語…コンピュータに対する一連の動作の指示を記述するための人工言語の総称(例:C 言語,BASIC 言語)。

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沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員 第 51 集 研究集録 2012 年3月

<高等学校 情報>

アルゴリズムへの興味・関心を高め,その表現技法を習得させる

コンテンツの開発

―プログラム言語を必要としないアルゴリズム学習教材の作成を通して―

沖縄県立美来工科高等学校教諭 赤 﨑 竜 次

Ⅰ テーマ設定の理由

内閣府に設置されている高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が策定した「i-

Japan 戦略 2015」では,2015 年までに実現すべきディジタル社会の将来像と実現に向けた戦略が描かれ

ている。この中の三大重点分野の一つに教育・人財分野が取り上げられており,「新しい学習指導要領を

踏まえ,課題や目的に応じて情報手段を適切に活用したり,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処

理・創造したりする能力,(中略)情報活用能力の育成を図る。」が方策として掲げられている。

これを踏まえて教科「情報」の目標を見ると,新学習指導要領の中で「情報化された社会において(中

略)自ら課題を発見し解決することができる,いわゆる問題解決能力などを育成する」ことと定義されて

いる。新科目「情報の科学」の目標の中では「情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用するた

めの科学的な考え方を習得させ(以下略)」と明記されており,問題の発見と解決のできる能力の育成が

重要視されている事がわかる。

現学習指導要領においてこの目標に準ずる単元は,普通教科では「情報B」における「(2)コンピュ

ータの仕組みと働き」中の「コンピュータにおける情報の処理」,専門教科では「アルゴリズム」におけ

る科目目標「データ構造と代表的なアルゴリズムに関する知識と技術を習得させ,実際に活用する能力と

態度を育てる」に含まれていると考える。具体的には,アルゴリズム*1 とその表現技法である流れ図*2 に

ついての考え方を理解することで,その活用能力としての技術が身につき,問題の発見と解決手順を設計

する能力が育成される内容となっている。

しかし現状では,以下二点においての課題が見られる。一つ目は,アルゴリズムについての考え方を理

解するためには,座学だけではなく実際にコンピュータ上で実行させ,動きを確認することが効果的であ

るが,学校現場においてコンピュータ上で効果的に活用できる教材が少ない。二つ目は,専門教科におい

てはプログラム実習を通してアルゴリズムの動きを確認することができるが,プログラム言語*3 の記述や

ルールそのものの理解に時間が多く使われてしまい,学習指導要領の目標とする「アルゴリズムの学習」

が軽視される傾向にある。

本研究では上記二点の課題の解決を目指し,プログラム言語によらずに,処理の流れや変数値の動きを

確認することができ,アルゴリズムと流れ図を理解させ活用する力を身につけるための,教材の開発を目

指したいと考え,本テーマを設定した。

<研究仮説>

アルゴリズムの分野において,プログラム言語を必要としないディジタル教材を活用することにより,

生徒が興味・関心を高め,アルゴリズムの表現技法を身につけることができるであろう。

*1

アルゴリズム…問題を解くための効率的手順を定式化した形で表現したもの。

*2 流れ図…アルゴリズムを(図形・線・矢印などで)わかりやすく図示したもの。フローチャートとも呼ぶ。

*3プログラム言語…コンピュータに対する一連の動作の指示を記述するための人工言語の総称(例:C 言語,BASIC 言語)。

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Ⅱ 研究内容

1 理論研究・調査研究

(1) 教科「情報」におけるアルゴリズムと流れ図の単元

現学習指導要領及び,新学習指導要領において,教科「情報」の中でアルゴリズムと流れ図を扱

う単元は,表1の通りである。

現学習指導要領

教科名 内容

普通教科「情報」 情報 B (2)コンピュータの仕組みと働き イ コンピュータにおける情報の処理

専門教科「情報」 アルゴリズム (1)数値計算の基礎 ア 基本的なアルゴリズム

新学習指導要領

教科名 内容

共通教科「情報」 情報の科学 (2)問題解決とコンピュータの活用 イ 問題解決と処理手順の自動化

専門教科「情報」 アルゴリズムとプログラム (1)アルゴリズムの基礎 イ 処理手順の図式化

現学習指導要領における普通教科「情報」で,アルゴリズムを学習する内

容は「情報B」の「(2)コンピュータの仕組みと働き」の中に含まれてい

る。ここでは「問題解決」というキーワードは入っておらず,内容の

「(1)問題解決とコンピュータの活用」において,問題解決のためのコン

ピュータの活用を理解させる内容が含まれている。しかし新学習指導要領の

「情報の科学」では,アルゴリズムと流れ図の分野が「問題解決とコンピュ

ータの活用」に含まれるようになり,アルゴリズムと流れ図が,問題解決の

ためのツールとして重要視されていることが分かる。

岡本敏雄(2002)は,情報科教育における「アルゴリズムによる問題解決」

分野の学習目標を「問題解決におけるアルゴリズムの構成能力を育成する。

特に,問題解決の手順を的確に把握し,論理的に思考し,分かりやすく表現

するためのツールとしての流れ図の基本を身につける」と述べている。この

ことからも,アルゴリズムや流れ図を理解することが問題解決能力の育成に

つながることが分かる。

今回は,現学習指導要領における普通教科「情報B」及び専門教科「アル

ゴリズム」の中でのアルゴリズムと流れ図(フローチャート)の部分を対象と

して取り扱う。ただしアルゴリズムを単なる数値計算のツールとして学ばせ

るのではなく,幅広く問題解決に使えるツールと

して理解させる。また流れ図(図1)を用いて3

つの基本制御構造(順次構造・選択構造・繰り返

し構造)(図2)を表現する学習を進めていくた

めの教材を開発する。

(2) 実態調査

本研究では,アルゴリズムの分野全体を対象範

囲としているが,特に単元の学習における定着度

を把握するために,本校コンピュータデザイン科

の2年生の生徒を対象に実態調査を行った。昨年

度の科目「アルゴリズム」の学習を通して,①ア

ルゴリズムの学習内容がどの程度身についているかを調べる実態テスト,及び,②アルゴリズムの

授業感想アンケートの二つを実施した。

表1 教科「情報」でのアルゴリズムを学習する単元項目

図1 流れ図(フロ

ーチャート)の例

図2 3つの基本制御構造

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① 実態テストの結果と分析

実態テストの大問及び小問を分析すると,正答率

が 60%を割って低い部分が三か所で見られた(図3

「ア~ウ」)。この三か所を今回の教材作成におけ

る重点課題範囲として設定した。

ア 大問【2】は,「流れ図が何を解決するものを表

しているか」を答える問題である(図4)。その中

で,①と②は類似問題であるが,二つの正答率に差

があった。②ではCにAを代入する(C←A)とい

った,値を一度,他の変数に入れてから出力する処

理を行っている。正解は「2つのデータを入力し,

小さい値を出力する。」であるが,最も多かった誤

答は「3つのデータを入力し,小さい値を出力す

る。」であった(全体の 20%)。この原因として,

使っている変数がA,B,Cの3種類であったため,『3つのデータを比較する』と勘違いし

たと考えられる。また「3つのデータを入力し,大きい値を出力する」(12.5%),「2つの

データを入力し,大きい値を出力する」(10.0%)といった,原

因の混ざっている誤答も無視できなく,代入処理と組み合わせた

構造を弱点としているということが分かった。

イ 大問【2】の③は,「ループ端子を使った繰返し構造」の問題

である(図5)。正解は「100 までの整数の和を求め,出力す

る」というものであるが,誤答として「100 までの奇数の和を求

め,出力する」(22.5%)というものが一番多かった。繰返し構造

はコンピュータを使ったアルゴリズムに特有の性質を持っており,

何度も同じ場所を行ったり来たりするため,変数の値を確認した

り実行結果を想像することが難しい。ループ端子を使った繰返し

構造において,条件式について慣れ,その動きを理解させること

が課題だと考える。

ウ 大問【4】は「選択肢の無い流れ図の穴埋め問題」で,正答

率の低かった③と④は,判断記号で分岐した後の処理の記述であ

る(図6)。正解は③「a÷bの値を表示」,④「『割り算でき

図4 大問【2】の①・②と正解例

図5 大問【2】③と正解例

図3 教材の種類ごとの小問正答率

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ません』と表示」を記述するものであるが,誤答としては様々なパターンがあった。目立った

のが③と④を逆に書いているものや無答であったが,「ANS←a÷b」など,関係ない変数を用

意し,代入しようとしているものもあった。このことから,流れ図の穴埋め問題の中でも比較

演算子を応用した選択構造の理解が未だ不十分であるこ

とが分かった。

以上の分析より,以下の三点が,現在生徒が弱点とする

項目であり,アルゴリズムと流れ図分野の中でもこの部分

を重点的に扱う教材が必要であると考えた。

ア 順次構造での課題…「変数への代入」を活用したも

の(元となる変数への再代入など)

イ 繰返し構造での課題…ループ端子と条件式を使った

もの

ウ 選択構造での課題…「比較演算子」を使ったもの

(代入処理と組み合わせたもの)

② 授業の感想アンケートから見る生徒の興味・関心度の把

実態調査の二つ目として,生徒が「流れ図

を使ったアルゴリズム分野の授業についてど

のような印象を受けているか」のアンケート

を実施した。

「科目『アルゴリズム』が好きでしたか」

という質問と,「アルゴリズム分野の学習が

好きでしたか」という質問に関しては,半数

以上が「好きではない」と回答した(図7)。

本科は情報を専門に学ぶ学科ではあるものの,

静止画・動画などデザインを学びたい生徒と

ゲームや Web ページを作成したい生徒に分か

れており,アルゴリズム分野への興味・関心

が決して高くない事が分かった。

また「アルゴリズム分野とプログラム分野

ではどちらが好きですか」という質問に関して

は,半数近い 45.7%が「プログラム分野」と回

答したのに対し,「アルゴリズム分野」の方が

好きと回答したのは 14.3%であった(図8)。

ゲーム作成や Web ページの作成に興味のある生

徒でも,作品の制作に直接つながるプログラミ

ングの授業に興味・関心が大きく向いているこ

とが分かる。更に「アルゴリズム分野が好きで

はない(プログラム分野の方が好き)」と回答

した生徒に,その理由を聞いたところ,「理解

できない」「分からない」というものが多かっ

た。さらにアルゴリズム分野の学習が理解しづ

らいと思う理由を分析したところ,「動きが実

際に確認できない」「正解かどうかが分かりに

くい」といった,座学中心であることが原因と

思われる内容が多く,「具体的にどのような動

きをするのか確認ができないから」と回答した

生徒が 63.2%と半数を超える結果となった(図

図6 大問【4】と正解例

図7 ①科目「アルゴリズム」が好きでしたか?

②アルゴリズム分野の学習が好きでしたか?

図8 アルゴリズム分野とプログラム分野ではどちら

が好きですか?

図9 流れ図を使ったアルゴリズム分野が理解しに

くいと思う理由はどんなところだと思いますか?

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9)。

逆に「プログラム分野よりもアルゴリズム分野が好き」と回答した生徒の理由としては,

「プログラムは記述ルールが多く覚えきれない。フローチャートは記号を覚えるとある程度で

きるようになる」といったものや「(プログラムは)どこが間違えたのか分かりにくい(デバ

ッグをしきれない)」といったものがあった。

「(アルゴリズム分野とプログラム分野の)どちらも好きではない」と回答した生徒からは,

「専門的な内容,専門用語が多く,覚えるのが難しい」という答えが多かった。この結果から,

教材の素材を考えるときに,数学的なものだけではなく,身近なものを取り入れるなどの工夫

が必要であるということが分かった。

アンケートの最後の項目で,「アルゴリズム分野を学習する教材として,どのようなものが

あれば興味を持って学習に取り組めると思いますか」という質問を,自由記述で回答してもら

った。その結果,「フローチャートの動きが分かる教材」と回答した生徒が多く,その次に

「パズル形式で埋めて遊べるもの」「ゲーム感覚で遊べるもの」といったものが続いた。また

「フローチャートの動きが分かる教材」と書いた生徒の中には「変数の値の動きが分かりやす

いもの」といった内容もあり,生徒が,流れ図における変数の値を確認できたり,流れを把握

することのできる教材を求めていることが分かった。

(3) 単元・授業の課題分析

現在,科目「アルゴリズム」の授業を進める際に,アルゴリズムの基礎知識と流れ図に関する内

容を座学で一通り学習した後,プログラミング言語を用いたプログラム実習に進むという方法が取

られている。プログラミング言語を使ったプログラム実習を始めると,アルゴリズムの本質である

「問題解決のための処理手順を学ぶ内容」はほとんど省略され,プログラム言語の記述ルールに授

業の大半が費やされることになる。

例えば2つの変数に値を入力し,その和を出力するといった単純なアルゴリズムをプログラム言

語(C言語)で記述する場合でも,正常に実行させ

るためには多くの記述ルールを覚えなければならな

い(図 10)。記述ルールは基本的にそのプログラミ

ング言語独自のものが多く,命令語のスペルが一文

字違っただけでも,あるいは「,(カンマ)」と「.

(ドット)」といった細かい記号を間違えただけで

も動かなくなるほどシビアなものである。

アルゴリズム分野の学習において,現学習指導要

領の「内容の構成及び取扱い」を見ると,「指導に

当たっては,コンピュータを活用した実習や演習を

通して(中略)アルゴリズムを適切に選択し,改善し

ていく」とあり,実習と演習の必要性が書かれている。ところが現場においては,アルゴリズムと

流れ図に関する実習や演習はほとんど実施されていないのが現状である。

アルゴリズム分野の演習が少ない原因として,アルゴリズムと流れ図を学習するために,コンピ

ュータ上で活用できる,適当な教材がほとんどないということが挙げられる。そのため,アルゴリ

ズムの分野におけるディジタル教材を今回の研究で開発する。

2 教材の開発

(1) 教材の目的

本教材の最終目標は,作成した流れ図を画面上で実行し,その動きを確認することによって活用

方法を身につけ,次のプログラム実習にスムーズに入ることである。プログラム実習がほとんど実

施されていない普通教科「情報」でも,専門用語を多用せず身近なテーマを取扱い,生徒がアルゴ

リズムの考え方を身につけられるよう活用できる教材を開発する。普通教科「情報」においては,

アルゴリズムの分野が座学中心で,理論のみの学習となる事が多い。そのため本教材を使った授業

では,流れ図の動きを実際に確認しながら学習していく。また,大量の計算が必要で,人の手で解

くには大変な問題でも,コンピュータを活用することによって解決することができることを実感さ

図 10 プログラム言語(C 言語)の記述ルール例

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せ,興味・関心を持たせることで学習意欲の向上につなげる。

(2) 教材の種類

① 【直感型教材】:Flash で作成した,主に直感的に操作するゲーム性の高い教材である。実行

結果がすぐに確認でき,このソフトが何をするものなのかが理解しやすいが,裏でどのような処

理がされているかが分かりにくい。そのため,いきなり説明部分や演習に入るのではなく,主に,

最初に生徒の興味・関心を引き出す導入部分での活用を想定している。

② 【提示型教材】:PowerPoint で作成した,説明用のスライド教材である。

③ 【パネル演習型教材】:Flash で作成した,アルゴリズムの各パーツをパネルとして用意し,

穴埋め形式で組み立てていくシミュレーション型の教材である。「実行」ボタンを押すとフロー

チャートが順番に実行され,最後に結果が表示される。フローチャートの流れに沿ってアニメー

ションされるため,結果が出るまでのプロセスを目で追うことができ,裏で行われている処理を

理解しやすい。

(3) 教材の使用方法

提示型教材は,前方のスクリーンにスライドを提示しなが

ら説明を行う。直感型教材及びパネル演習型教材は,HTML

形式で作成したメニュー画面(図 11)のリンクから実行す

る。メニュー及び各教材ファイルをコンテンツファイルとし

て生徒機へ配布した後,各自で操作をさせる。

(4) 教材の構成と,想定している授業の進め方

アルゴリズムのイメージをつけさせるため,及び三つの基

本制御構造の課題に対応するために,それぞれの項目におけ

る教材を作成した。

① アルゴリズムの概要をイメージさせるための教材

アルゴリズムそのものに対する興味・関心を引き出すた

めに,算数パズルである水汲み問題(3Lと5L入るバケツを使って4Lの水を作る)をテーマ

にし(図 12),それぞれ直感型とパネル演習型の教材を作成した。

② 3つの課題に対応するための教材

実態調査で課題としていた3つの基本制御構造(代入処理を含む順次構造,選択構造,繰返し

構造)に対応するため,各構造を1テーマとし,授業の流れに沿って活用できるよう,それぞれ

以下の教材を作成した。

ア 準備運動教材(直感型)

導入用のウォーミングアップとして活用する軽いゲーム型の教材である。代入処理を学ぶた

めの「ダーツ教材(図 13)」,選択構造を学ぶための「後出しじゃんけん教材(図 14)」,

繰返し構造を学ぶための「簡易電卓教材(図 15)」がある。

イ 説明用及び,動きの確認用教材(提示型+パネル演習型)

流れ図の記号を説明するための,提示型教材(図 16)と,動きを確認する簡易パネル演習型

教材(図 17)である。

ウ テーマ流れ図の紹介用及び,テーマ流れ図作成用教材(提示型+パネル演習型)

各構造で代表的と思われるテーマ流れ図を紹介するための提示型教材と,その後実際にテー

マ流れ図を作成できるパネル演習型教材を作成した。

エ アルゴリズム作成実習用教材(パネル演習型)

アルゴリズム作成の実践練習用として,アプリ開発など身近なテーマを取り入れたパネル演

習型教材を作成した。順次構造及び選択構造では,自分の誕生日や名前の画数を入力すると結

果が出力される「占いアプリ作成(図 18)」,繰返し構造では毎日お金を2倍ずつ貯金してい

くといくら貯まるかといった「倍々貯金(図 19)」をテーマとして作成した。

図 11 メニュー画面

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(5) パネル演習型教材の画面構成

パネル演習型教材は「パネルは最初から設置されておりパラメータ*4 だけを変更できるタイプ」

と,「パネルを全部埋めていくタイプ」の2種類を用意している。操作方法の混乱を避けるため,

パネル演習型教材は基本的に画面のレイアウトを統一した(図 20)。画面を構成する各要素として

それぞれ以下のものがある。

*4

パラメータ…ソフトウェアを実行したりするときに,その動作を指定するために外部から与える設定値のこと。

図 13 【直感型】ダーツ教材 図 12 【直感型】水汲み問題

図 16 【提示型】記号と式の説明 図 17 【パネル演習型】動きの確認

図 15 【直感型】簡易電卓教材

図 14 【直感型】後出しじゃんけん教材

図 18 順次構造のアルゴリズム実践練習教材 図 19 繰り返し構造のアルゴリズム実践練習教材

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① 問題文

問題文(課題)が表示される。

② 入力画面

変数へ入力する処理がある場合,ここで値を入力する。

③ 出力画面

変数を出力する処理がある場合,ここに出力される。

④ 変数値表示

処理が実行されている間,変数の値がリアルタイムで表示される。

⑤ 処理内容(メッセージログ)表示

処理が実行されている間,処理の内容が表示される。

⑥ アルゴリズム作成用部品(パネル群)

各フローチャートの記号に応じたパネルが用意されている。

⑦ アルゴリズム作成スペース

パネル群で用意されているパネルを,この場所に並べて(穴埋めして)アルゴリズムを完成させ

る。

⑧ 制御ボタン群

自動的に処理が実行されていくボタン,高速で実行されるボタン,処理を一つずつ実行するボ

タン,処理を途中で止めるボタン,もう一度最初からやり直すリセットボタンなどがある。

⑨ ごみ箱

パネルをこの上にドラッグすることによって,使わなくなったパネルを削除することができる。

(6) パネル演習型教材の使い方

① 問題文を読んで課題を把握する。

② パネル群から適切なパネルを選び,アルゴ

リズム作成スペースに並べる(穴埋めする)。

③ 準備ができたら実行ボタンを押し,処理が

実行されるのを確認する。必要に応じて,

「高速実行ボタン」「一つずつ実行ボタン」

などを使い分けることができる。

④ 変数への入力があれば入力画面で値を入力

する。

⑤ 「終了」処理がされたときに正誤判定され図 21 ヒント画面

図 20 パネル演習型教材の画面構成

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る。作成したアルゴリズムが正しければ,○印が画面に表示され,サウンドが流れる。

⑥ 不正解の場合,処理内容表示エリアに,その旨のメッセージが表示される。アルゴリズムを再

度実行しながら変数の値やメッセージログ,出力結果などを確認し,どこが誤処理であるかを

探し,修正していく。

⑦ 3回実行して正解にならなかった場合,ヒントボタンが表示されるので,それを押すとヒント

画面が現れる(図 21)。ヒントを参考にアルゴリズムの組み立て直す。

⑧ 「アルゴリズムの作成→実行→確認」を正解になるまで繰り返す。

(7) パネル演習型教材の特徴

今回,パネル演習型教材の開発を行うにあたり,以下の点に留意した。

① 課題解決型であること

アルゴリズムを自由に作成できるだけのソフトはこれまでもいくつかあったが,自由ゆえに生

徒達にとっては何をどう作れば良いか分からず,ほとんど活用されてこなかった。そのため本教

材では項目ごとに細かくソフトを分け,問題を提示し正解判定まで行う「課題解決のためのツー

ル」であるという特徴を前面に出すようにした。教材の中にはパネルが既に設置されており,パ

ラメータの変更のみを行うものもあるが,これらにも簡単な問題を用意した(図 14)。

② シミュレーション型であること

前述の通りこの教材は課題解決型のため,自分で作成したアルゴリズムがどのような挙動をす

るかを確認する部分が重要である。そのため,実行スピードの変更,一つずつ実行などの制御ボ

タンを用意し,フローチャートのどの部分でどのような処理がなされているかを確認しやすくし

ている。また実行結果に至るまで変数の値をリアルタイムで表示させたり,現在どのような処理

を行っているかメッセージで表示させている。これによりプログラミングの際に重要な,処理に

おける変数の変化などを容易にトレース(追跡)できる機能を実装している。

③ 興味・関心を引き出すための工夫

正しいパネルを穴埋めしていくというパズル的要素,問題テーマの工夫,視覚的に変化の過程

を見ることができるしくみなど,生徒にストレスを感じさせず操作させ興味・関心を引き出すコ

ンテンツの開発を意識した。

(8) 学習理論から見たパネル演習型教材の特徴

今回の研究における学習理論として,問題解決における意思決定連鎖のしくみを採用している

(図 22)。延味道都(2002)は,情報科の授業プランと実践事例を考える上で「PLAN-DO-SEE サイクル

モデル」を挙げており,今回の教材はこのモデルを演習型教材に応用させたものである。

パネル演習型教材を進めるに当たり,まず与え

られた課題を理解した上で,パネルを利用して画

面上でアルゴリズムを組み立てる作業を行う

(PLAN)。その後,実際にコンピュータ上で実行

し(DO),「終了」処理になるまで,実行結果を

確認する(SEE)。流れ図が正しく,課題が解決

されたかどうか,出力画面などを確認しながら判

断する。正解でない場合は,流れ図の組み立てか

ら再挑戦することができる(PLAN)。この考え方

を取り入れることで,サイクルを繰り返しながら

最終的に正解にたどり着く流れ図を組み立てることができるため,問題解決方法として流れ図を利

用する考え方が身につく教材となっている。特に,確認(SEE) の部分において,今回の教材におけ

る「一つ進む実行ボタン」「変数値リアルタイム表示」「メッセージログ表示」などの機能は,シ

ステム開発の現場などで行われる「デバッグ*5 ログ表示」の手法*6 を採用している。この教材では

表示結果の確認を経て上記サイクルの作業や,試行錯誤を繰り返しながら自分の求めるアルゴリズ

ムを作成する。そのことによって,次の学習段階であるプログラミング実習においても,複雑なプ

ログラムでも同じように作成できるようになることを目的としている。 *5

デバッグ…コンピュータプログラムの誤り(「バグ」と呼ばれる)を探し,取り除くこと。

*6デバッグログ表示手法…プログラムのトレース処理とも呼ばれる。1 行ごとにプログラムの処理を進め,その際に変数の値はどうか,

メモリの状況はどうかといった状態を結果として表示させ確認していく。それらの作業によりバグの原因を突き止める手法である。

図 22 問題解決のための意思決定連鎖のしくみ

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Ⅲ 指導の実際

本教材を使用する検証授業は,本校において以下の通り実施した。

1 科目名 「アルゴリズム」

2 単元名 (1)数値計算の基礎 ア 基本的なアルゴリズム

3 単元の目標

アルゴリズムに関する基本的な内容を扱い,順次,選択,繰り返し構造で表現できるアルゴリズム

について理解する。

4 単元の評価規準

【興味・関心・態度】問題の解決においてアルゴリズムと流れ図を活用することに興味関心を持

ち,積極的に課題に取り組むことができる。

【思考・判断】提示された課題に従って,適切な処理式や条件式を選択できる。

【技能・表現】提示された課題に従ってアルゴリズムを考え,流れ図として表現することができ

る。

【知識・理解】アルゴリズムと流れ図の役割や違い,記号の意味について理解している。また,

その流れ図が何をするものかを説明することができる。

5 指導の計画及び評価計画(1~4時/6時)

授業の進め方としては,①アルゴリズムの概要,②基本制御構造1(順次構造),③基本制御構造

2(選択構造),④基本制御構造3(繰り返し構造)を各1時間ずつ行う。それぞれの時間で,提示

型教材,直感型教材,パネル演習型教材を交互に使用する(表2)。

表2 指導の計画及び評価計画

項目 指導内容 使用教材 評価区分

導入(10分)

オリエンテーション

倍々貯金問題の紹介

1日に倍の金額を貯金していくと31日後に何円

貯まっているか想像させる。

授業の最後にコンピュータを利用してこの問題

解決ができるようになることを目的とすることを

示す。

提示型教材

【準備運動1】中学校入試問題(水汲み)問題を

解かせる。①直感型:ボタンを押した回数を比

較させる。最高何回で正解にたどり着くか発言

させる。

直感型教材

【準備運動2】中学校入試問題(水汲み)問題を

解かせる。②パネル型:直感型と同じ操作をパ

ネル型で行い,アルゴリズム組み立てを体験さ

せる。

パネル演習型教材

展開②(20分)

2.アルゴリズムのわかりやすさ

アルゴリズムは文章で書くより図で書いた方が

分かりやすいことを示す。

フローチャート書き方の基本ルールを説明す

る。

フローチャートの代表的な記号について説明す

る。

3つの制御構造について説明する。

今回でこの3つを学ぶ事を説明する。

フローチャートを書く練習をさせる(点線に沿っ

て記号をかかせる)。

【準備運動】代入処理のイメージを掴むために

ダーツ問題を解かせる。

直感型教材 【関心・意欲・態度】

代入・演算の式と記号について説明する。 提示型教材

ワークシート

【知識・理解】

代入演算式のアルゴリズム作成の練習をさせ

る。ソフトの使い方を示してから練習問題に挑

戦させる。

パネル演習型教材 【思考・判断】

【技能・表現】

入出力の式と記号について説明する。 提示型教材

ワークシート

【知識・理解】

入出力記号と入力の練習をさせる。 パネル演習型教材

代入・演算と入力式を使った練習問題を解かせ

る(占いアプリを作ろうI)。

パネル演習型教材

まとめ(5分) 本日学習した内容のまとめを確認する。

一言ふりかえりをワークシートに書かせる。

ワークシート

【知識・理解】

【思考・判断】

【技能・表現】

【関心・意欲・態度】

提示型教材

ワークシート

2-1.フローチャートとは

展開①(20分)

1.アルゴリズムとは

2-2.基本制御構造

展開③(45分)

3.順次構造のフローチャート

3-1.代入・演算処理

3-2.入出力処理

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Ⅳ 仮説の検証

1 「生徒がアルゴリズム分野へ興味・関心を高められたか」の検証

(1) 検証授業前後のアンケート結果分析

教材を活用した1年生のクラスに対

して,検証授業の前後にアンケートを

実施し,本分野における生徒の興味・

関心度合いの差を分析した。まず「あ

なたは科目『アルゴリズム』の学習が

好きだと思いますか」という質問に関

して,「思う」と回答した生徒が約

9.4 ポイント上昇した(図 23)。その

中で約3割の生徒(30.6%)が「とても

思う」と答えており,この分野に対し

て興味を持ったことがうかがえる。

また,「『アルゴリズム』の授業で

コンピュータを使うと理解しやすくな

ると思いますか」との質問に対して,

「思う」と回答した生徒が 13.1 ポイ

ント上昇し(図 24),更に「思わな

い」と回答した生徒がいなくなった

(0%)。この事から,コンピュータ

上で動く教材の活用が,アルゴリズム

の理解につながると考える生徒が増え

たことが分かる。

(2) 検証授業後アンケートの分析(教材について)

検証授業後に行ったアンケートで,「今回のディジタル教材は,本分野の学習を進める上で役に

図 23 科目「アルゴリズム」の授業が好きだと思いますか

図 24 「アルゴリズム」の授業でコンピュータを使うと,理解しやすく

なると思いますか

項目 指導内容 使用教材 評価区分

導入(10分)

授業の準備

前回学んだことを確認する。

本日学ぶ内容を提示する。

提示型教材

【準備運動1】後出しじゃんけんゲーム教材をさ

せる。

直感型教材

【準備運動2】後出しジャンケンゲームで,パネ

ル型を操作し,判断記号の動きに慣れる。

直感型教材

パネル演習型教材

判断記号について説明をする。 提示型教材

判断記号の動きの確認教材をさせる。 パネル演習型教材

大小比較アルゴリズムについて,流れ図をワー

クシートに書き写させる。

提示型教材

ワークシート

書き写したアルゴリズムを,パネル教材で作成

させる。

パネル演習型教材

【練習問題】判断記号を使ったアルゴリズムの

作成練習(占いアプリを作ろうII)をさせる。

パネル演習型教材

【準備運動】Flash計算機を使って,1から10ま

での合計を求めさせる。

直感型教材 【関心・意欲・態度】

ループ記号について説明する。 提示型教材

動きの確認用教材で,ループ記号式のパラ

メータ記述について学ばせる。

パネル演習型教材

ワークシート

1から10まで足すアルゴリズムについて,流れ

図をワークシートに書き写させる。

提示型教材

ワークシート

書き写したアルゴリズム(1から10までの合計)

を,パネル教材で作成し実行させる。

パネル演習型教材

【練習問題】繰り返し記号を使ったアルゴリズム

作成練習(倍々貯金)をさせる。

パネル演習型教材

ワークシート

まとめ(10分) 本日学習した内容のまとめを確認する。

一言ふりかえりをワークシートに書かせる。

授業の補足として他の教材の紹介などを行う。

提示型教材

ワークシート

第5時~第6時は自由作成演習及び単元のまとめ(省略)

展開①(40分)

4.選択構造のフローチャート

展開②(40分)

5.くりかえし構造のフローチャート

【知識・理解】

【思考・判断】

【技能・表現】

【知識・理解】

【思考・判断】

【技能・表現】

【関心・意欲・態度】

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立ったと思いますか」との質問に対しては,全員(100%)が「思う」と答えている(図 25)。また

「本分野でディジタル教材を使った学習は,黒板や紙を使用した授業に比べて興味・関心を持てる

と思いますか」という質問に対しても,90%以上の生徒が「思う」と答えており(図 26),今回

の授業を受けた生徒が,本教材がこの分野において有効だと考えていることが分かる。

また,アンケートの中で,今回授業の中で最も興味を持った教材を回答してもらった(図 27)。

一番多かったのが「後出しじゃんけん(ボタン型)」「水くみ問題(ボタン型)」などの直感型教材で

あり,「ウォーミングアップにちょうどいい」「ゲーム感覚で頭の体操になる」などの感想が見ら

れた。一方,アルゴリズム作成練習におけるパネル演習型教材の「占いアプリ I」や「倍々貯金」

など,難易度が高いと思われた教材も評価が高く,「インターネットにある占いのしくみがなんと

なくわかった」「意外なものでもアルゴリズムは使えると思った」「これこそアルゴリズムの特徴

が分かると思った」などの回答が得られた。

(3) 事後アンケートの分析(授業全般について)

今回の教材について自由記述の内容を見ると,「比較演算子やループの感覚が分かった」「わか

らなかったのがわかった」といった回答があった。今までの授業で苦手意識を持っていたアルゴリ

ズムの分野への印象が変わったと思われる。また「他の授業(単元)でも今回のような教材があれ

ばもっと授業が楽しくなると思う」といった好意的な感想があった。

2 「アルゴリズムの表現技法が身につけられたか」の検証

(1) 実態(確認)テストの比較状況

今回検証授業を行った1年生に対して,アルゴリズムの表現技法が身についたかどうかの検証と

して,授業の後に確認テストを実施した。テストの内容は,実態調査で実施したテストと全く同じ

ものである。

図 27 「今回の教材の種類で一番興味を持てたのはどれですか?」

種類 内容

1 A 水汲み問題①2 P 水汲み問題②3 A 準備運動(ダーツ)4 P 代入・演算練習①5 P 代入・演算練習②6 P 入出力の練習7 P 占いアプリ作成Ⅰ8 A 後出しじゃんけん①9 P 後出しじゃんけん②10 P 後出しじゃんけん③11 P 動きの確認(比較演算子)12 P 大小比較13 P 占いアプリ作成Ⅱ14 A 準備運動(計算機)15 P 動きの確認(ループ端子)16 P 1から10までの足し算17 P 倍々貯金

(種類)A:直感型,P:パネル型

図 26 今回の教材を使った学習でアルゴリズムと流

れ図分野に興味・関心を持てましたか

図 25 今回の教材はアルゴリズムと流れ図分野の

学習を進める上で役に立ったと思いますか

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本科は1クラス(40 名)のみで,結果を比較す

るためにクラスを半分に分ける(20 名×2)事は

母集団が少なくなりすぎると判断し,実態調査テス

トを行った2年生をあえて比較対象とした。2年生

は,前年度の4月にアルゴリズムの授業を受けてい

る。一般的に考えて授業直後に確認テストを実施し

た1年生の方が有利とも思えるが,2年生はその後,

アルゴリズムを活用したプログラミング実習をずっ

と続けてきており,比較対象になると判断した(図

28)。

(2) テスト結果の分析

まず,問題の種類別に見る

正答率の差を確認した。基礎

知識問題と,選択肢のある流

れ図穴埋め問題は,ほとんど

平均正答率に差が見られなか

ったが,流れ図読解問題(大

問【2】)と選択肢無し流れ

図穴埋め問題(大問【4】)

ではそれぞれ 14.8 ポイント,

13.8 ポイントの上昇が見られ

た(図 29)。

次に,実態調査で見つかっ

た3つの課題部分(ア~ウ)

に注目し,小問ごとに正答率

の差を確認してみると,大問

【4】の④がほぼ横ばい(-0.8

ポイント)だったが,他の3箇

所では上昇した(図 30)。特に

大問【2】の③(繰返し構

造)と大問【4】の③(選択

構造)においてそれぞれ 33.9

ポイント,20.8 ポイントと上

昇値が高く,今まで弱点であ

った選択記号とループ端子記

号について,視覚的に動きが

確認でき,理解できるようになったのではないかと思われる。

しかし,大問【2】の②の他,全体を通して見ても代入式を含む問題については上昇値がそれほ

ど高くない。また大問【4】の④などの誤答パターンを見ると,処理を最後まで書かれていないも

のが多かった。アルゴリズム及びプログラミングにおいては重要な部分であり,大問【4】全体を

みてもまだ正答率が想定より低く,これらに関しては教材と授業の改善余地が残っていると考える。

(3) アルゴリズム自由記述問題の結果分析

アルゴリズムについてどのくらいイメージを持てるようになったかを見るために,「流れ図(フ

ローチャート)の例を書きなさい」という質問を検証授業の前後で出題した。検証授業前で書かれ

ていた正解の流れ図は,一度は通常の授業を受けているものの,ほとんどが一本道の順次構造のも

のであった。検証授業後の結果では,分岐がはっきりと書かれているものや,プログラミング的な

アルゴリズムを表現する生徒も見られた(図 31)。この結果からアルゴリズムというものが,決

図 28 授業とテストのタイミング

図 29 問題の種類別による正答率の差

図 30 実態調査で課題としていた小問の正答率の差

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して一本道だけのものではなく,選

択や繰返しも含めながら複雑な問題

を解くものであるという認識ができ

たものと思われる。

Ⅴ 成果と課題及び今後の予定

1 成果

本校での検証授業の実施及び確認テ

ストとアンケートの結果から,本研究

で開発した教材とその指導プログラム

によって,以下のような効果があるこ

とが分かった。

(1) アルゴリズムの授業と単元に対する興味・関心が高められた。

(2) アルゴリズムの分野における基本制御構造を扱った内容において,表現技法の理解の底上げにつ

ながった。

(3) アルゴリズムが日常生活における問題解決においても有効であることを生徒に理解させることが

できた。

2 課題と今後の予定

(1) 代入式や比較演算子を使った選択構造の条件式では,確認テストで平均正答率の上昇が見られた

ものでも,課題設定の基準値に達していないものがあり,これらに対応するための,直感型を利用

した反復練習用コンテンツを充実させていきたい。

(2) 出力や表示など,手順を最後まで行わないと解決に至らないということを意識させるために,場

合に応じたパネルを複数追加していきたい。

(3) 3つの基本制御構造を組み合わせた問題や,分岐を使った繰返し構造など,今回は扱わなかった

応用的な内容について,研究を深めていく必要があると考える。

3 普及と広報

(1) 県立総合教育センター「教育情報共有システム」におけるソフト本体と指導マニュアルの公開

(2) 平成 24 年度「教科『情報』実践講座」における実践事例報告(予定)

(3) 現場における活用及び,職員間での情報共有 など

<主な参考文献>

岡本敏雄・西野和典 2002 『情報科教育のための指導法と展開例』実教出版株式会社

鳥居雄司・宮城優・若菜初 2001 『普通教科「情報」の授業はこう創る』学事出版

図 31 流れ図自由記述問題の解答の変化

事前 事後