アレルギー性鼻炎診療ガイドライン・レビュー...2)practical guideline for the...

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CPG CPG CPG CPGレビュー レビュー レビュー レビュー:アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー性鼻炎 性鼻炎 性鼻炎 性鼻炎 アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー性鼻炎診療 性鼻炎診療 性鼻炎診療 性鼻炎診療ガイドライン・レビュー ガイドライン・レビュー ガイドライン・レビュー ガイドライン・レビュー 大久保公裕 1 1 日本医科大学耳鼻咽喉科 I .はじめに はじめに はじめに はじめに II II II II .公開 .公開 .公開 .公開ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの種類 種類 種類 種類 1.日本 2.海外 a.欧米のアレルギー性鼻炎の分類:診断基準作成 b.欧米におけるアレルギー性鼻炎診療ガイドラインの作成 III III III III .アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー性鼻炎診療 性鼻炎診療 性鼻炎診療 性鼻炎診療ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの特徴と国際比較 際比較 際比較 際比較 1.国内と海外でのCPGの違いとその理由 2.日本の鼻アレルギー診療ガイドラインの内容と特徴 3.ガイドラインの未来像と期待されるRCTのテーマ I.はじめに はじめに はじめに はじめに 日本および海外作成されたアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインをレビューした。日本と海外のガイドラインの 推奨内容を比較し、プライマリーケア医を対象として、日本のガイドラインの特徴と問題点、使用する上での注意点 を検討した。 II II II II.公開 .公開 .公開 .公開ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの ガイドラインの種類 種類 種類 種類 Medline、医学中央雑誌、J-Stageを用い、Clinical Practice Guideline、Practical Guidelineあるいは診療ガイドライ ンをKey Wordとしてガイドラインの収集を行った。 1.日本 .日本 .日本 .日本:アレルギー性鼻炎のCPGは1つのみであった。 1)鼻アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー治療 治療 治療 治療ガイドライン ガイドライン ガイドライン ガイドライン-通年性鼻炎 -通年性鼻炎 -通年性鼻炎 -通年性鼻炎と花粉症- 花粉症- 花粉症- 花粉症-( 改訂第 改訂第 改訂第 改訂第5 ) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会(日本アレルギー協会、厚生労働省医療技術評価補助金事業「レルギー性鼻炎の科学的根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)によるガイドライン策定に関する研 究」2000~2001年);ライフサイエンスメディカ 、東京、2005. 2) Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1) Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1) Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1) Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1) の英語版 英語版 英語版 英語版 作成中 2.海外 .海外 .海外 .海外:診療指針7編、診療ガイドライン2編が収集された。 a. a. a. a. 欧米の鼻炎( 鼻炎( 鼻炎( 鼻炎(アレルギー アレルギー アレルギー アレルギー性鼻炎) 性鼻炎) 性鼻炎) 性鼻炎)の診断指針作成 指針作成 指針作成 指針作成 国際的鼻炎の診療ガイドラインの動きは国際的なワーキンググループにより定義、診断、治療、管理などのコン センサスレポートとして出発した。日本では日本医科大学名誉教授の奥田稔が出席している。その流れは現在のガ イドラインともいえる同じくコンセンサスレポートのARIAに受け継がれている。純粋なアレルギー性鼻炎としてのガイド Copyright(c) All rights reserved by Minds, Japan Council for Quality Health Care Copyright(c) All rights reserved by Minds, Japan Council for Quality Health Care

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CPGCPGCPGCPGレビューレビューレビューレビュー::::アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎性鼻炎性鼻炎性鼻炎

アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療ガイドライン・レビューガイドライン・レビューガイドライン・レビューガイドライン・レビュー    

大久保公裕 1

1 日本医科大学耳鼻咽喉科

IIII....はじめにはじめにはじめにはじめに

IIIIIIII.公開.公開.公開.公開ガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドラインの種類種類種類種類

1.日本

2.海外

a.欧米のアレルギー性鼻炎の分類:診断基準作成

b.欧米におけるアレルギー性鼻炎診療ガイドラインの作成

IIIIIIIIIIII....アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療ガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドラインの特特特特徴徴徴徴とととと国国国国際比較際比較際比較際比較

1.国内と海外でのCPGの違いとその理由

2.日本の鼻アレルギー診療ガイドラインの内容と特徴

3.ガイドラインの未来像と期待されるRCTのテーマ

IIII....はじめにはじめにはじめにはじめに

日本および海外で作成されたアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインをレビューした。日本と海外のガイドラインの

推奨内容を比較し、プライマリーケア医を対象として、日本のガイドラインの特徴と問題点、使用する上での注意点

を検討した。

IIIIIIII.公開.公開.公開.公開ガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドラインの種類種類種類種類

Medline、医学中央雑誌、J-Stageを用い、Clinical Practice Guideline、Practical Guidelineあるいは診療ガイドライ

ンをKey Wordとしてガイドラインの収集を行った。

1111.日本.日本.日本.日本:アレルギー性鼻炎のCPGは1つのみであった。

1)鼻鼻鼻鼻アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー治療治療治療治療ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン-通年性鼻炎-通年性鼻炎-通年性鼻炎-通年性鼻炎とととと花粉症-花粉症-花粉症-花粉症-((((改訂第改訂第改訂第改訂第5555版版版版))))

  鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会(日本アレルギー協会、厚生労働省医療技術評価補助金事業「ア

レルギー性鼻炎の科学的根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)によるガイドライン策定に関する研

究」2000~2001年);ライフサイエンスメディカ 、東京、2005.

2)Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1)Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1)Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1)Practical Guideline for the management of allergic rhinitis in Japan: 1)のののの英語版英語版英語版英語版

  作成中

2222.海外.海外.海外.海外:診療指針7編、診療ガイドライン2編が収集された。

a. a. a. a. 欧欧欧欧米米米米のののの鼻炎(鼻炎(鼻炎(鼻炎(アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎)性鼻炎)性鼻炎)性鼻炎)のののの診診診診断断断断指針作成指針作成指針作成指針作成

国際的な鼻炎の診療ガイドラインの動きは国際的なワーキンググループにより定義、診断、治療、管理などのコン

センサスレポートとして出発した。日本では日本医科大学名誉教授の奥田稔が出席している。その流れは現在のガ

イドラインともいえる同じくコンセンサスレポートのARIAに受け継がれている。純粋なアレルギー性鼻炎としてのガイド

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ラインは少なく、喘息など他のアレルギー疾患の合併症として記載されているものが多い。

1) International consensus report on the diagnosis and management of rhinitis. (1994) International

International Rhinitis Management Working Group. Allergy 19 (49): 1-34, 1994.

2)Assessing and treating rhinitis. A practical guide for Canadian physicians. (1994) カナダ

CMAJ. 1994 Aug 15;151(4 Suppl):1-27.

3)Consensus statement on the treatment of allergic rhinitis. (1999) EU

European Academy of Allergology and Clinical Immunology. Wien Med Wochenschr. 1999;149(14-15):410-4.

Review.

4)Rhinitis Management Guidelines, 3rd Ed. 2000.

Brit. Soc. for Allergy and Clinical Immunology. (2000)英

5)AHRQ releases review of treatments for allergic and nonallergic rhinitis. (2002)米

Agency for Healthcare Research and Quality. Am Fam Physician. 2002 Dec 1;66(11):2164,2167. USA

6)Management of rhinitis and asthma in pregnancy. (2003)米

Ann Allergy Asthma Immunol. 2003 Jun;90(6 Suppl 3):16-22. Review.

7)Rhinosinusitis: establishing definitions for clinical research and patient care. (2004)米

J Allergy Clin Immunol. 2004 Dec;114(6 Suppl):155-212. Review.

b. b. b. b. 欧欧欧欧米米米米のののの鼻炎(鼻炎(鼻炎(鼻炎(アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎)性鼻炎)性鼻炎)性鼻炎)のののの診診診診断断断断ガイドラインガイドラインガイドラインガイドライン作成作成作成作成

診断指針のコンセンサスレポートを受けて、国際的に診断ガイドラインの作成に試み始めた。米国では早くから国

際グループによるコンセンサスレポートを受けて耳鼻咽喉科医によって診療ガイドラインが作成された。しかし国によ

る疾患構造の違いから来るアレルギー性鼻炎に対する深刻さの違いなどから現在、ガイドラインとして認められてい

るのはARIA(Allergic rhinitis and its impact on asthma)のみである。しかしこれも各国の診察医師(家庭医、アレル

ギー医、耳鼻咽喉医)の違いによる影響が反映されず、アレルギー性鼻炎の優れたEvidence集になっている。

1) Allergic rhinitis: clinical practice guideline. (1996)米

Committee on Practice Standards, American Academy of Otolaryngic Allergy. Otolaryngol Head Neck Surg.

1996 Jul;115(1):115-22.

2) Allergic rhinitis and its impact on asthma. J Allergy Clin Immunol. 2001 Nov;108(5 Suppl):S147-334. Review.

WHO position paper.

IIIIIIIIIIII....アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療性鼻炎診療ガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドラインの特特特特徴徴徴徴とととと国国国国際比較際比較際比較際比較

本邦のガイドラインも海外のガイドラインもEvidenceに基づいた内容であるが、圧倒的に異なるのはその全体の量

である。日本のガイドラインも版を重ねるごとにページ数を増し、現在第4版で84ページになっている。しかしARIAは

これをさらに上回り全文で214ページというボリュームを持っている。またARIAではメカニズム、臨床薬理、文献に

60%を割き、臨床医の診療においては直接には必要のない部分も多い。一方、日本のガイドラインでも文献エビデ

ンス集が巻末のCDロムに追加されている。またその特徴的な違いは診断領域では病態病型分類、重症度分類、診

断方法について、また治療指針としては治療法の選択やその推奨度が上げられる。以下、具体的に述べる。

1.1.1.1.国内国内国内国内とととと海外海外海外海外ののののCPGCPGCPGCPG間間間間でのでのでのでの違違違違いとそのいとそのいとそのいとその理由理由理由理由

a.a.a.a.病態、病型分類病態、病型分類病態、病型分類病態、病型分類

日本のガイドラインではアレルギー性鼻炎の病態を通年性アレルギー性鼻炎、季節性アレルギー性鼻炎(花粉

症)その病型をくしゃみ・鼻汁型、鼻閉型または鼻閉を主とする充全型に分けている。これは小児期に発症する他の

アレルギー疾患を合併する通年性アレルギー性鼻炎と成人で多く発症しやすい花粉症では病態とその発症機序が

異なると考えられるためである。しかし国際ガイドラインとされているARIAではアレルギー性鼻炎を単純に間欠性と

持続性に分けた。間欠性は週4日未満あるいは4週間未満、持続性は週4日以上あるいは4週間以上の症状を有す

ると定義した。この分類にはEvidenceがなく、喘息におけるガイドラインであるGINA(Global Strategy for Asthma

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Management and Prevention)における「間欠性」「持続性」の流用となっている。日本ではスギ花粉症は通常2月中

旬から4月一杯症状があるので持続性になる。6月になったら全く症状がなくなる単独のスギ花粉症が本当に持続的

と呼べるかどうか疑問が残る。またARIAでは鼻の症状による病型を決めていない。これは診療する医師の多くが家

庭医あるいはアレルギー医である事が反映されている。

b.b.b.b.重症度分類重症度分類重症度分類重症度分類

日本のガイドラインではアレルギー性鼻炎のくしゃみ、鼻汁、鼻閉それぞれの症状に症状の程度を定義し、その

組み合わせにより重症度を無症状、軽症、中等症、重症、最重症と決めている。一方、ARIAでは生活の質(QOL;

Quality of Life)を重視し、睡眠、日常生活、学業・仕事の支障のQOL項目と気になる症状がどれもないのが軽症、1

個以上は中等症あるいは重症とし、中等症と重症の差がなくEvidenceもない。これによりGINAで紹介した喘息とほ

ぼ同じ「軽症間欠型」「軽症持続型」「中等症・重症間欠型」「中等症・重症持続型」に分類される。

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c.c.c.c.診診診診断断断断

日本のガイドラインでも国際ガイドラインでもその診断の基礎は問診、鼻汁中IgE、皮膚テスト(皮内テストあるいは

スクラッチ(プリック)テスト)あるいは血清特異的IgE検査、鼻誘発反応をアレルギー性鼻炎の有無、あるいは抗原診

断の基にしている。しかし日本では鼻鏡検査、エックス線撮影なのに対し、国際ガイドラインでは内視鏡、CT検査が

上げられ、そのコストパフォーマンスや被爆量などの配慮が少ない。

d.d.d.d.治療法治療法治療法治療法のののの選選選選択択択択とととと推推推推奨奨奨奨度度度度

日本のガイドラインではevidenceを重視しながらも、その発症機序などから「治療法の選択」が作成されている。ど

の薬剤もプラセボ対象ではないが、二十盲検比較試験(RCT)を実施しており、英文論文にしていないためevidence

として国際的に認知されていないが、決して低いレベルのevidenceではない。ARIAにおける治療法の推奨度は

evidenceのみ重視され、有用と考えられる抗原回避・除去はレベルDの最も低いものであり、それ以外プラセボ対照

RCTがあればすべて推奨度Aと極端なものになっている。もちろんevidenceは重要であるが、抗原がなければ発症し

ないアレルギー性鼻炎において抗原回避・除去がDと記載しているARIAの特徴を良く示している。

 

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2222.日本.日本.日本.日本のアレルギーのアレルギーのアレルギーのアレルギー性鼻炎性鼻炎性鼻炎性鼻炎のガイドラインののガイドラインののガイドラインののガイドラインの内内内内容容容容とととと特特特特徴徴徴徴

[[[[第第第第1111章.定義、診章.定義、診章.定義、診章.定義、診断断断断、分類、分類、分類、分類]]]]

海外では花粉症を含むアレルギー性鼻炎の多くはprimary physicianやアレルギー専門医がみることが多く、この

ためガイドラインも「鼻炎」から定義されている。一方日本ではアレルギー性鼻炎の定義から定められ「I型アレルギ

ー疾患で、発作反復性のくしゃみ、水性鼻汁、鼻閉を3主張とする」と書かれている。「鼻炎」の分類は大きく1.感染

性、2.過敏性非感染性、3.刺激性、4.その他と4項目に分けられ、その類似疾患も含められ鑑別に重要である事

が示されている。

[[[[第第第第2222章.疫章.疫章.疫章.疫学学学学]]]]

アレルギー性鼻炎の増加は慢性副鼻腔炎の減少や軽症化に反比例していることは臨床的によく理解される。現

在では全国の通年性アレルギー性鼻炎で18.7%、スギ花粉症で16.2%、アレルギー性鼻炎全体で29.8%と報告され

ている。奥田の報告でも花粉症の全国有病率はほぼ馬場らの報告と同じである。

[[[[第第第第3333章.章.章.章.アレルギーアレルギーアレルギーアレルギー性鼻炎性鼻炎性鼻炎性鼻炎発発発発症症症症のメカニズムのメカニズムのメカニズムのメカニズム]]]]

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花粉症ではアレルギー素因を持つ人が,アレルギー反応の原因となる花粉アレルゲンを吸い込み、体内で免疫

反応によりアレルゲンに対する特異的IgE抗体がつくられ、鼻粘膜の表面にあるマスト細胞にFcε受容体を介して結

合する。再び同じアレルゲンが侵入すると、マスト細胞上で抗原抗体反応が生じ、マスト細胞からヒスタミンやロイコト

リエンなどの化学伝達物質が放出され、発症する。

[[[[第第第第4444章.章.章.章.検検検検査査査査・・・・診診診診断断断断法法法法]]]]

アレルギー性鼻炎のための検査には大きく分けると2種類ある。1)アレルギー性鼻炎があることの証明のための

検査と2)原因抗原が何であるか判断するための検査である。1)の検査は血液好酸球数、鼻汁好酸球数、血清総

IgE検査であり、2)には皮内テスト、プリックテスト、スクラッチテストなどの皮膚テスト、血清特異的IgE検査、抗原誘

発テストであるが、問診が最も重要である。

診断基準は鼻汁中好酸球、皮膚反応テスト(または血清特異的IgE)、鼻誘発テストのいずれか2項目以上陽性で

ある事がアレルギー性鼻炎の確定診断に必要である。しかし、花粉症は鼻のみのアレルギーではないので問診を中

心に目や皮膚の症状を総合的に判断し診断する。鼻の症状からの鑑別診断には感染性鼻炎(風邪)、血管運動性

鼻炎、好酸球増多性鼻炎、肥厚性鼻炎(特に血管収縮薬などによる薬剤性鼻炎)、アスピリン過敏症などを考えるこ

とが重要である。

アレルギー性鼻炎と診断したら、その分類も必要になる。抗原の種類、好発時期、病型(くしゃみ・鼻汁型、鼻閉

型、充全型)、重症度などであり、分類の方法が表にしてある。また新たに飛散花粉のカレンダーが図として掲載さ

れた。

[[[[第第第第5555章.治療章.治療章.治療章.治療]]]]

治療の目標は症状のない、日常生活に支障のない状態すること。安定した症状で急性増悪のない状態にするこ

と。抗原誘発がないか軽度の状態することである。実際の治療ではできるだけアレルギー性鼻炎患者の訴えを聞

き、症状や重症度に見合った治療方法を選択する。アレルギー性鼻炎治療の基本は患者とのコミュニケーションや

指導にあることも「治療法の選択」の中にも記載されている。十分なインフォームドコンセントでどのような治療法でも

できる限り持続させ、それでも症状がつらい様であれば再受診し、さらに患者とone step上の治療法を選択してゆく。

治療法の選択も花粉症が新たに加えられた。治療の目安としてQOLの重要さも述べられている。

[1]生活指導

1)室内ダニの除去

2)スギ花粉の回避

3)ペット(特にネコ)抗原の減量

に気をつけるよう記載されている。

[2]抗原特異的免疫療法(減感作療法)

根本治療としての減感作療法は体内への抗原の注入により、局所あるいは全身の免疫性を高めて、抗体産生を

昂進させ局所での抗原反応性を低下させようとするものである。広く用いられている皮下投与法では通年性アレル

ギー性鼻炎でも、スギ花粉症に対してでも約80%の有効率を示している。WHOのposition paperの免疫療法の要約

も日本のガイドラインにも載せられている。また詳しい施行方法も新たに書き入れられた。

[3]薬物療法

治療法の選択では各種薬剤の使い分け、複合的な使用方法が記載されている。

くしゃみ・鼻汁型では第2世代抗ヒスタミン薬かケミカルメディエーター遊離抑制薬を主体として治療する。重症の場

合は鼻噴霧用ステロイド薬を併用する。

鼻閉型や鼻閉を中心とした充全型ではロイコトリエン受容体拮抗薬、トロンボキサンA2受容体拮抗薬を使用す

る。重症の場合には鼻噴霧用ステロイド薬を併用するが、効果の少ない場合にはリバウンドの副作用に注意しなが

ら局所血管収縮薬の頓用を行う。

花粉症で重症の場合は花粉飛散の最盛期(東京では3月第2週目、4月第1週目)には経口ステロイド薬をを1、2週

間を目安として使用し、症状を緩和させる。薬物相互作用について新たに記載された。

[4]手術療法

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手術法には粘膜を切除する方法と粘膜凝固術があり、有効性が高い。花粉症に対する手術療法の是非に関する

議論の決着はみられていない。

[[[[第第第第6666章.章.章.章.そのそのそのその他他他他]]]]

この項目ではI合併症として、慢性副鼻腔炎、気管支喘息、アレルギー性結膜炎をいれ、II妊娠、III小児、IV口腔ア

レルギー症候群、Vアナフィラキシー項目数、内容ともさらに充実された。

3333....ガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドラインの未未未未来来来来像像像像とととと疾患領域疾患領域疾患領域疾患領域のガイドラインのガイドラインのガイドラインのガイドライン作成者作成者作成者作成者からからからから見見見見たたたたRCTRCTRCTRCTがががが期待期待期待期待されるテーマされるテーマされるテーマされるテーマ

1111)診)診)診)診断断断断領域:原因抗原領域:原因抗原領域:原因抗原領域:原因抗原検検検検索索索索のののの重要性重要性重要性重要性

現在の一般的な診断方法は血清特異的IgE検査が重要視されている。ただIgEにより抗体陽性といわれると発症し

ていないにも関わらず、原因抗原と思われる場合もある。しかし実際の原因抗原であるかどうかは、その抗原によっ

てアレルギー性鼻炎の症状が出現しなければならない。そのためには抗原誘発検査が必須であるが、市販されてい

る抗原ディスクは対照ディスクを含めて3種類しか市販されていない。診断用や治療用の抗原エキスを用いた簡便的

な誘発反応も行われるが、定量的ではなく、非特異的な反応も考慮されていない。この誘発反応をどの抗原におい

ても施行可能にする標準化が正確な抗原診断には必要である。現状では季節の症状の有無や変化を問診によって

確認し、その季節に飛散する抗原の血清特異的IgE検査や皮膚反応によって確認することが必要である。将来的に

は、現在の血清特異的IgE検査の精度は向上しているが、簡便性にかける。このため、簡便で精度の高い特異的IgE

検査が望まれる。

日本でのアレルギー性鼻炎の診断は国際的に見ても正確だと思われる。これは日本の抗原の種類がおおよそ限

られていることにも起因する。しかし、日本では正確な原因抗原の頻度がまだまだ不明である。個々の施設ではすで

にスギ花粉抗原がハウスダスト抗原によるアレルギー性鼻炎患者数を超えているといわれているが、同じ診断基準

による大規模な調査により日本のアレルギー性鼻炎の原因抗原頻度を調査する必要がある。

2)2)2)2)判定基準:診判定基準:診判定基準:診判定基準:診断断断断基準、病態、重症度判定基準基準、病態、重症度判定基準基準、病態、重症度判定基準基準、病態、重症度判定基準

診断基準については前項でも述べたが、問診での症状発現季節の調査(季節性と通年性)と血清特異的IgE検査

によって診断が可能である。この診断基準についてはほぼ問題がないと考えられるが、診断できないケースに好酸

球増多性鼻炎や血管運動性鼻炎などがある。また国際的にはアレルギー性鼻炎の一部とも考えられているアレル

ギー性真菌性副鼻腔炎、アレルギー性副鼻腔炎の診断基準も今後、必要になる。

病態では国際基準とおおよそ同じメカニズムが考えられているが、国際的なガイドラインでは上気道と下気道の関

連性に重点をおいている。日本でもこの考え方から種々の検討が始まっているが、現在まで直接的に上気道と下気

道の関連性を示す日本人でのデータはない。また重症度判定基準は日本のCPGと国際的CPGでは大きな違いがあ

る。日本のCPGは耳鼻咽喉科医が国際的なCPGは内科医が作成した違いがあるが、ARIAにおける重症度基準が

国際的スタンダードになれば日本もこれに追随する必要があるかもしれないが、エビデンスに欠ける重症度基準で

あり、これらの日本における標準化にも詳細な検討が必要であり、学会での調査や国内での調査チームが行わなけ

ればならない。

3333)治療領域:複合治療)治療領域:複合治療)治療領域:複合治療)治療領域:複合治療のエビデンスのエビデンスのエビデンスのエビデンス評評評評価価価価

治療領域では抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、局所ステロイド薬などプラセボを対照にしたRCTが国内でも開

発段階の試験で行われ始めている。しかし、現状ではまだプラセボを対照としたRCTがまだ行われている薬剤は少

数であり、未施行の薬剤については第4相の試験として今後行うべきと考える。同じ薬効の薬剤としても効果の程度

は異なり、別の領域のCPGでは薬物名ごとに推奨する時代が来ていることからも重要なRCTである。また国際的に

もあまり多くないのが日本でも標準的に行われている複数の経口薬による治療や経口薬と鼻噴霧用薬の複合治療

の評価である。実際の評価は薬剤が複数になるために非常に煩雑な試験になり、RCTには症例数も単剤の場合の

数倍になるため費用もかかる。これも日本でのRCTが進まない理由の一つになっている事は間違いがない。今後は

このようなRCTが協賛企業による費用援助なしに施行できるシステムを日本で開発しなければならない。薬剤の複

合治療ばかりでなく、薬物療法に抗原回避・除去、免疫療法、手術療法を加えた治療のアウトカムのエビデンスが

RCTではなくとも必要である。

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4444)治療)治療)治療)治療のののの成果:成果:成果:成果:QOLQOLQOLQOL、患者、患者、患者、患者満満満満足度、足度、足度、足度、コストパフォーマンスのコストパフォーマンスのコストパフォーマンスのコストパフォーマンスの評評評評価価価価

新しい日本のガイドラインではQOL、患者満足度に関しての調査票や判定基準が述べられており、新しい治療評

価方法へ踏み出している。海外のCPGでも同様なことが書かれている。今後の薬剤評価ではこのQOLや患者満足

度も必要になるであろう。またコストパフォーマンスに関してはジェネッリック医薬品の問題もあり、まだまだ現状では

評価することが難しい。RCTにおける薬剤の効果判定を症状スコアだけでなく、QOL、患者満足度にも着目して評価

判定することも今後の医療では必要であると考えられる。

(2006年10月作成)

 

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