コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...chapter 5:summary of...

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コウノトリ野生復帰検証委員会 コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分析と評価 コウノトリと共生する地域づくりをすすめる 「ひょうご豊岡モデル」 Assessment of the extension of activities for the reintroduction of the Oriental white storks − The “Hyogo Toyooka Model” , which promotes local communities living in co-existence with Oriental white storks − 1

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Page 1: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

コウノトリ野生復帰検証委員会

コウノトリ野生復帰に係る取り組みの広がりの分析と評価コウノトリと共生する地域づくりをすすめる「ひょうご豊岡モデル」

Assessment of the extension of activities for the reintroduction of the Oriental white storks− The “Hyogo Toyooka Model”, which promotes local communities living in co-existence with Oriental white storks −

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Page 2: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

本分析・評価事業について 日本初の絶滅動物の再導入事例である「コウノトリ野生復帰」の取り組みが、兵庫県豊岡市およびその

周辺(以下、「豊岡地域」という)で展開されている。そこでは、兵庫県立大学併設のコウノトリの研究

機関である「兵庫県立コウノトリの郷公園」を核に、様々な分野の行政機関や地域住民、企業等が連携し、

平成 25(2013)年現在、70 個体を超えるコウノトリが野外で生息するまでに至っている。

 本事業は、この取り組みに深く関わる6つの行政機関(文化庁、農林水産省、国土交通省、環境省、兵

庫県・コウノトリの郷公園、豊岡市)が共同主体となって構成した第三者委員会により、現時点における

取り組み進展のプロセスを公共政策の観点から分析・評価し、課題等を明らかにすることで、他地域への

展開も含めた今後の取り組みの進展に寄与することを目指すものである。

About this assessment project

Activities for the “Reintroduction of the Oriental white storks”, which is Japan's first case of the reintroduction

of an animal that has become extinct in this country, have been developed in Toyooka City and the surrounding

area (hereinafter referred to as the Toyooka region). Besides the Hyogo Prefectural University specialized

institution for storks called the Hyogo Park of the Oriental White Stork that leads the activities, government

actors, community residents, and companies in various fields have worked together to develop these activities,

which have made it possible for over 70 Oriental white storks to inhabit the area in the wild as of 2013.

The aim of this project is to contribute to the progress of future activities including the extension of these

activities to other areas. A third-party committee will consist of six government agencies that are deeply

involved in these activities (Agency for Cultural Affairs, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism,

Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Ministry of the Environment, Hyogo Prefecture, and Toyooka

City) and will become cooperating partners to assess the process of the progress of these activities at this

time from the viewpoint of public measures and to clarify various issues.

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Page 3: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

本資料の構成 本資料では、豊岡地域におけるコウノトリと共生する地域づくりのこれまでの取り組みを振り返り、どのよ

うに広がっていったか、そのプロセスを分析し、メカニズムを明らかにした。

 また、取り組みの進捗を評価し、現状の課題を明らかにするとともに、豊岡地域における取り組みの広が

りのメカニズムのポイントを整理し、そのポイントを総括して「ひょうご豊岡モデル」としてまとめた。

Contents of this document

In this document, the process and mechanism used in the extension of the activities is analyzed, by reviewing

past activities carried out in the Toyooka region for the creation of local communities living in co-existence

with the Oriental white storks.

In addition, the progress of the activities is evaluated to clarify the current issues, and the features of the

mechanism for the expansion of activities carried out in the Toyooka region have been classified, reviewed

and then compiled as the “Hyogo Toyooka Model”.

●はじめに 分析・評価の目的、対象

●第1章 取り組みの背景

●第2章 取り組み実績の整理       

●第3章 取り組みの分析

●第4章 取り組みの進捗の評価

●第5章 「ひょうご豊岡モデル」のまとめ

●第6章 更なる取り組み進展への提言

●付属資料

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 103

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 147

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 161

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 171

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 177

Introduction: Purpose and Target of the Assessment

Chapter 1:Background to the Activities

Chapter 2:Record of the Activities

Chapter 3:Analysis of the Activities

Chapter 4:Evaluation of the Progress of the Activities

Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model

Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities(Draft)

       Appendixe

付属資料1:用語解説(社会的背景、取り組み)

付属資料2:年表

付属資料3:事業費一覧

付属資料4:出典一覧

付属資料5:「月刊文化財」平成20年度掲載コラム(一部加筆)     付属資料6:コウノトリ野生復帰検証委員会について

Appendix 1. Explanation of Technical Terms(social background, activities)

Appendix 2. Chronology

Appendix 3. List of Project Expenses

Appendix 4. List of References

Appendix 5. Column Published in the Gekkan Bunkazai (Cultural Properties Monthly) in 2008 (partially revised)

Appendix 6. About the Investigation Committee on the Reintroduction of Oriental white storks

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 はじめに、コウノトリの野生復帰に係る取り組みの分析・評価を行うにあたって、取り組みの経緯と現

状の概要、分析・評価を行う目的と対象、手法、結果概要を示す。

「瑞鳥※ であり害鳥であったコウノトリ、氾濫と恵みをもたらす円山川」

・豊岡地域においては、円山川の洪水に代表される厳しい自然に翻弄されつつも、時にしたたかに利用(例:湿

地に生育するコリヤナギを利用した柳行李づくり)する「自然と折り合う暮らし」が長年にわたって営まれてきた。

・また、この地域にかつて数多く生息していたコウノトリという鳥も、時に田の苗を踏む害鳥でありながら、

その美しい姿を愛でる瑞鳥でもあるという具合に、その人との関わりは矛盾を含みながらも人と自然の共

生を重視する地域の象徴であった。

・しかし、経済成長を優先し、利便性の向上を追及する近代化の流れの中で、人と自然との関係は薄れ、

国内で最後まで生き延びてきた豊岡地域のコウノトリは、戦後急激にその数を減らし、昭和31(1956)年

の国の特別天然記念物の指定を経て、昭和46(1971)年、ついに野外での絶滅に至った。

・豊岡地域では、昭和30(1955)年から官民一体となった組織的な保護運動が起こり、昭和40(1965)年

からは兵庫県により人工飼育も始まり、そして、平成11(1999)年には、兵庫県立大学併設の研究機関

であるコウノトリの郷公園が開園した。このように半世紀にわたる保護、増殖、野生復帰に向けた取り組

みが多くの人々の努力のもとで進められてきた。

・平成17(2005)年からはコウノトリの郷公園により試験放鳥も行われ、豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰の

取り組みは、野生絶滅~保護増殖~再導入~地域づくり(コミュニティの強化)という大きな展開を見せている。

・コウノトリの野生復帰は、一度絶滅した鳥を人里に戻すという世界でも例のない取り組みである。人里に

戻すためには、地域の人々がコウノトリを受け入れ、人とコウノトリが共生できる地域づくりの重要性を理

解し、地域ぐるみで取り組みを進めることが必要であった。

豊岡市およびその周辺地域の位置 円山川・豊岡市街

はじめに

(1) 取り組みの背景と経緯

※瑞鳥:めでたいことの起こる前兆とされる鳥。または、めでたい鳥。

Toyooka

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「科学、行政、地域社会の連携の体制設計の成功」

・豊岡地域での取り組みには、①コウノトリに係る科学、②行政、③地域社会(コミュニティ)の連携

に大きな特徴がみられ、このことが取り組みの広がりの原動力となった。

・「行政」は、コウノトリに係る「科学」からの要請を真摯に受け止めつつ、様々な状況を勘案しながら

採用し得る技術・施策を「地域社会」に展開してきた。また、「地域社会」側も、地域の風土(地理、

歴史・文化、自然、災害、人間性)等を背景に、コウノトリに係る「科学」からの啓発を理解し、文化的・

社会的な地域再生の取り組みを進めてきたと考えられる。

・これらの取り組みの進展は、分野・対象・内容によって様々であり、すべてが順調であるわけではないが、

例えば、円山川の湿地整備面積は昭和初期(1930年頃)の154haが目標に掲げられ、着実に整備(平成

24(2012)年時点で約 127ha)が進められている。農業分野では、代表的な環境創造型農業でありコウ

ノトリもすめる環境づくりを目指す「コウノトリ育む農法」が平成24(2012)年には豊岡市の水稲作

付面積の約 8 . 8 % にまで広がっている。また、コウノトリがサインマークや商品・店舗等の名称に多

く用いられるといった、地域社会への広がりも見られる。

・このように、様々な取り組みが広がりを見せている一方で、これまでの取り組み過程では達成できな

かったことや、取り組みが進んだからこそ浮かび上がってくる課題も明らかになっている。

図:豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る取り組みの進展を支える体制の全体像

(2) 取り組みの進展の現状

①コウノトリに係る科学(動物生態学、保全生態学、社会科学 等)

②行政(河川、農政、県政、市政 等)

③地域社会(市民・団体・生産者、学校、企業 等)

・フィールドに密着した研究・科学的根拠に基づく保全手法の確立・科学的側面からの普及・啓発、具体展開

・自然環境の自助機能を向上させる土木・農業技術の選択(生息環境の保全・創出技術、環境創造型農業 等)

・コウノトリもすめる地域づくりを促す施策の立案

・コウノトリを契機とした地域活動の継続・行催事・活動への参加・環境創造型農業の実施・地域協働による環境保全活動 等

交流、連携により生じる知

交流、連携により生じる知

交流、連携により生じる知

真実を知る欲求

相談

助言、提言

啓発

技術・施策の展開、インセンティブの

付与、法規制

技術・施策の要請、賛同、選択

豊岡地域での取り組みにおける連携体制

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図:分析・評価の対象範囲

「当地域でのさらなる進展と、他地域での取り組み推進への活用」

・コウノトリ野生復帰に係る取り組みのうち、代表的な分野に注目し、豊岡地域の取り組みを振り返り、

これがどのように多くの人々を巻き込み広がっていったのか、そのプロセスを分析し、メカニズムを

明らかにすることにより、以下の活動に資することを目的とする。

  

    ①取り組みの現状から課題を抽出し、今後の方向性を明らかにすることで、コウノトリも4

     すめる地域づくりを更に進める

    ②同様の取り組みを進める他地域での取り組み推進に活用されることを期待する

・分析・評価を踏まえ、豊岡地域を舞台とした、様々な主体の連携による、コウノトリと共生する地域づくり

が広がったメカニズムのポイントを整理し、そのポイントを総括して「ひょうご豊岡モデル」としてとりまとめる。

「公共政策(河川分野・農業分野・地域社会分野)を対象とする」

・本事業では、取り組みの広がり・進捗について、代表的な取り組み分野である河川分野・農業分野・

地域社会分野の公共政策を対象として、分析・評価していく。したがって本事業では、科学分野の取

り組みを科学的な側面から分析・評価することはしていない。

  一方で、科学分野は、豊岡地域におけるコウノトリに係る取り組みの核であるため、科学分野に係

る「コウノトリと共生する地域づくり」の課題と方向性の整理も対象とした。

(3) 分析・評価の目的 

(4) 分析・評価の対象範囲 

①コウノトリに係る科学

②行政

③地域社会

A. 自然と共生する社会、自然再生、生物多様性等を取り巻く国内外の潮流(法令、国際的な動き等)

B.

豊岡地域の地域特性

(地理、歴史・文化、自然、災害、人間性等)

分析・評価の対象範囲(破線範囲)

河川・農業・地域社会分野の公共政策を対象とする。またこれに係る科学、地域社会および豊岡地域の地域性、取り組みに係る社会的な潮流も整理対象とする。

河川、農業、地域社会分野の公共政策

豊岡地域での取り組みにおける連携体制

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・本事業では、取り組みの広がりについて、より良い生存・生活原理とは何かという観点から、取り組

みに係る数値的な影響要因を考察するとともに、取り組みの広がりやつながりについて関係者へのイ

ンタビュー等も考慮して、分析を行うこととする。

《より良い暮らしを求める共感のポイント》

①生き物を愛する心 (コウノトリをシンボルとした自然への愛情)

 =バイオフィリア

②郷土を愛する心  (豊岡という場所への愛情)

 =トポフィリア

③生活の安定を望む思い

※ 1:エドワード・ウィルソン(1929−、アメリカ、社会生物学)等が提唱。生物・自然への親和性。※ 2:イーフー・トゥアン(1930−、アメリカ、地理学)が提唱した概念。場所への愛。※ 3:災害が起こることを前提として、自然の力も借りてその土地で生活していくこと。

「この地に生きる共感の連鎖」に着目した分析

i)分析  

・豊岡地域における自然と共生する地域づくりの取り組みの進展には、シンボルとしてのコウノトリそ

のものの存在が大きく影響したと考えられるが、それだけでは、ここまで進展させてきた要因の分析

は難しい。そこで、「共感」を評価の軸にして分析を試みた。

・人が自身の生存を確認し、より良い暮らしを求める観点(生存原理)として、「生き物・自然を愛する

心(バイオフィリア) 」(以下、生き物を愛する心)、「郷土を愛する心(トポフィリア) 」があると

言われている。そして、心が不安定な状態になると、安定を求めて行動に移ると言われている。

・「克災※ 3」の中で生きてきた豊岡地域の人々にとって、人と自然の関係が崩れること、その象徴として

コウノトリが絶滅に向かうことは、この地に生きていくことへの不安感を抱かせるものであったに違

いない。

・コウノトリ野生復帰の取り組みが進展してきた背景には、「生き物を愛する心」、「郷土を愛する心」に

基づく安定指向に加え、「生活の安定を望む思い」(経済的安定)に基づく安定指向の要素の付加があり、

共感が連鎖的な広がりを見せていったのではないかと考えられる。

・さらには共感の連鎖が、関わる人々による、生活・人生に対する満足感や幸福感、豊岡らしい生活と

いうアイデンティティの再発見につながっていったと思われる。

・ これらを踏まえ、ここでは生き物を愛する心、郷土を愛する心、生活の安定を望む思いを「生存・生

活原理」とし、分析の指標とする。

(5) 分析・評価の手法

※1 ※2

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ii)評価   

 代表分野ごとに取り組みの進捗を評価し、現時点において残された課題・顕在化した課題と、コウノトリ

と共生する地域づくりを進める上での今後(10年程度)の方向性を整理する。

 併せて、愛知目標(20の個別目標)(CBD-COP※10,愛知,2010年10月)は、2050年までに「自然と共

生する世界」の実現をめざすために、2020年までに実施されるべき行動計画であることから、自然と共生

する地域づくりを進める先行者としての更なる取り組みを進めるために、愛知目標に照らし合わせて、豊岡

地域に係る関係行政機関が取り組んできた公共政策の進捗を評価し、今後取り組むべき方向性を整理する。

より良い生存・生活原理の安定化に係る行動の例

東日本大震災被災地・宮城県亘理郡山元町と東京都町田市の環境緑化交流事業

重要文化的景観(文化財)の保全・姨捨の棚田(千曲市)

地域キャラクターによる地域経済活性化

注)東京都町田市 HP より引用 注)千曲市 HP より引用 注)豊岡市提供

郷土を愛する心 生活の安定を望む思い生き物を愛する心

※ 生物多様性条約締約国会議

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図:生存・生活原理に係る心の変動と取り組みの関係イメージ

環境の悪化

自然環境保全に対する社会の声の高まり

社会への広がりにより自然再生が進展

社会への広がりにより復興が進展

景気回復政策社会発信の取り組み

社会への広がり、生活の安定を実感

復旧政策、地域による足下からの取り組み

心が不安定になる領域

心が安定する領域

公共政策の打ち出し

災害

不況

安定

不安定

時間

生存・生活原理に係る安定化の要因不安定化の要因

● 取り組みの数値的な変化と安定・不安定化の要因との関係を分析

● 取り組みの具体例から主体間のつながりの構造を分析。合わせて、その他のつながりの要因(やりがい、交流等)を抽出する。

ひょうご豊岡モデル

本事業での分析方法

分析により浮かび上がった取り組み進展のポイント

[ 分析 ]

9

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 本資料では、5 つの章のプロセスにより、豊岡地域における取り組みとその広がりを整理・分析・評価

した。その概要は以下のとおり。

 また、分析・評価結果を受けて、コウノトリ野生復帰検証委員会として、「更なる取り組み進展への提言」

をまとめた。(第 6 章に記載)

(6) 分析・評価結果の概要

【第 1 章 取り組みの背景】

 豊岡地域においてコウノトリと共生する地域づくりが進展した背景には、地理、歴史・文化、自然、災害、産業等の地域特性に加え、当地域の自然環境と向き合って暮らす中で形成されてきたコミュニティが大きく影響したと考え、これらを整理した。

【第 2 章 取り組み実績の整理】

 代表分野(河川、農業、地域社会)の取り組みについて、経緯と実績を整理した。各々の分野での取り組みの経緯について、地域に影響を及ぼした事象(例:円山川の出水)や自然再生に係る社会的な潮流、関係法令との時期的な関係性を示した。 また、関係行政機関により、代表分野ごとの取り組みの自己点検を行い、現時点において残された課題、顕在化した課題を抽出し、今後の方向性を整理した。

【第 5 章 ひょうご豊岡モデルのまとめ】

 他地域において同様の取り組みを展開する際の参考となることを期待し、豊岡地域における取り組み進展のメカニズムのポイントと展開のプロセスを「ひょうご豊岡モデル」として総括・整理した。

【第 3 章 取り組みの分析】

 代表分野における取り組みの広がり・つながりについて、『生き物を愛する心・郷土を愛する心・生活の安定を望む思いに対する共感』の視点から分析し、その要点を抽出した。要点は、『気付き』『将来像の共有』

『行動への移行』『共感の連鎖』のプロセスに分類することができた。

【第 4 章 取り組みの進捗の評価】

 豊岡地域に係る関係行政期間が取り組んできた公共政策の進捗を客観的に把握するため、CBD-COP10で採択された「愛知目標」と照らし合わせて評価した。さらに、各々の目標と関係行政機関による自己点検結果を照らし合わせて総括し、今後10年程度の取り組みの方向性を整理した。

「ひょうご豊岡モデル」の定義 ・地方における自然財を活かした持続可能な地域づくりモデル ・心の動きを推進力とした「共感の連鎖」誘発のモデル ・「科学」と「行政」と「地域社会」の連携モデル ひょうご豊岡モデルの「取り組みの5つのポイント」 ひょうご豊岡モデルの「展開の4つのプロセス」

ひょうご豊岡モデル

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・共同主体(文化庁、農林水産省、国土交通省、環境省、兵庫県・コウノトリの郷公園、豊岡市)から、

各機関が作成する広報資料やホームページ、会議の場を通じて発信を続けていく。

・CBD-COP12(2014. 10、韓国) において、『愛知目標』に対応した取り組み事例として発信を予定している。

《 分析の視点 》

(7) とりまとめ成果の活用

地域づくりへの展開

コウノトリと共生する地域づくりに係る公共政策

(代表的な取り組み分野:河川分野・農業分野・地域社会分野)

取り組み(代表分野の公共政策)がどのように広がっていったか

ひょうご豊岡モデル(取り組み進展のメカニズムのポイントの総括)

分析

要点抽出

コウノトリに係る科学の取り組み

地域社会の「心の変化」の視点で分析(生き物を愛する心、郷土を愛する心、生活の安定を望む思いに対する共感の視点から)

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《参考:愛知目標と愛知目標の達成に向けた我が国の国別目標等》

○愛知目標    (CBD-COP10採択より)

  戦略目標 A 各政府と各社会において生物多様性を主流化することにより、生物多様性の損失の根本原因に対処する。

 目標 1   人々が生物多様性の価値と行動を認識する

 目標 2   生物多様性の価値が国と地方の計画などに統合され、適切な場合に国家勘定、報告制度に組み込まれる

 目標 3   生物多様性に有害な補助金を含む奨励措置が廃止、又は改革され、正の奨励措置が策定・適用される

 目標 4   すべての関係者が持続可能な生産・消費のための計画を実施する

  戦略目標 B 生物多様性への直接的な圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する。

 目標 5   森林を含む自然生息地の損失が少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づき、劣化・分断が顕著に減少する

 目標 6   水産資源が持続的に漁獲される

 目標 7   農業・養殖業・林業が持続可能に管理される

 目標 8   汚染が有害でない水準まで抑えられる

 目標 9   侵略的外来種が制御され、根絶される

 目標10   サンゴ礁等気候変動や海洋酸性化に影響を受ける脆弱な生態系への悪影響を最小化する

  戦略目標 C 生態系、種及び遺伝子の多様性を保護することにより、生物多様性の状況を改善する。

 目標11   陸域の 17%、海域の 10%が保護地域等により保全される

 目標12   絶滅危惧種の絶滅・減少が防止される

 目標13  作物・家畜の遺伝子の多様性が維持され、損失が最小化される

  戦略目標 D 生物多様性及び生態系サービスから得られるすべての人のための恩恵を強化する。

 目標14  自然の恵みが提供され、回復・保全される

 目標15  劣化した生態系の少なくとも 15%以上の回復を通じ気候変動の緩和と適応に貢献する

 目標16  ABS に関する名古屋議定書が施行、運用される

  戦略目標 D 参加型計画立案、知識管理及び能力構築を通じて実施を強化する。

 目標 17  締約国が効果的で参加型の国家戦略を策定し、実施する

 目標 18  伝統的知識が尊重され、主流化される

 目標 19  生物多様性に関連する知識・科学技術が改善される

 目標 20  戦略計画の効果的な実施のための資金資源が現在のレベルから顕著に増加する

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○愛知目標の達成に向けた我が国の国別目標等

戦略目標 国別目標 主要行動目標 対応する愛知目標

戦略目標A生物多様 性の 損失 の 根本 原因に対処

A-1「生物多様性の社会における主流化」の達成等

A-1-1 生物多様性の広報・教育・普及啓発等の充実・強化

1234

A-1-2 生物多様性等の経済的な評価などによる可視化の取り組みの推進

A-1-3地方自治体における生物多様性地域戦略の策定や実践的な取り組みの促進2013年までに生物多様性地域戦略の策定や手引きの改定

A-1-4生物多様性への配慮事項が盛り込まれた国・地方自治体の戦略・計画等の策定の促進、奨励措置による生物多様性への影響の考慮、生物多様性に配慮した奨励措置の実施

A-1-5 持続可能な事業のための方針の設定・公表とその実施の奨励

戦略目標B生態系を悪化させる人為的圧力等の最小化に向けた取り組みを進め、持続可能な利用を推進

B-1自然生息地の損失速度及びその劣化・分断の減少

B-1-12014年又は2015年初頭に予定されている愛知目標の中間評価までに損失、速度や劣化・分断の状況把握のための手法、ベースラインの確立

5B-1-2 2020年までに生息地の劣化・分断の減少のための取り組みを実施 等

B-1-3 2015年までに鳥獣保護法の施行状況の見直しの実施 等

B-1-4 鳥獣による農作物被害対策や森林被害対策の推進  等

B-2生物多様性の保全を確保した農林水産業の持続的な実施

B-2-1 持続的な農業生産の維持や生産基盤の管理といった生産関連活動と生物多様性の保全を両立させる取り組みの促進

67

B-2-2 森林の多面的機能の持続的発揮、森林のモニタリング調査の推進 等

B-2-3 持続的な農業と生物多様性の保全を両立させる取組の促進 等

B-2-4 自然と共生した里海づくりの取り組みの実施

B-3窒素やリン等による汚染状況の改善、水生生物の保全と生産性の向上等

B-3-1 流域からの栄養塩類・有機汚濁物質の削減、2015年3月までに第7次水質総量削減の実施

8B-3-22014年までに水生生物の保全のための下層DO及び水生植物保全のための透明度についての環境基準化の検討  等

B-3-3 生息環境を維持するための管理方策の確立に向けた調査研究の実施

B-4外来生物法の施行状況の検討結果を踏まえた侵略的外来種の特定、定着経路情報の整備、防除の優先度の整理、防除の計画的推進等

B-4-1 2014年までに侵略的外来種リストの作成、定着経路の情報整備 等

9B-4-2

2014年までに防除の優先度の考え方の整理、計画的な防除等の推進、「外来種被害防止行動計画」(仮称)の策定

B-4-3優先度の高い侵略的外来種の制御・根絶、これらの取組を通じた希少種の生息状況や本来の生態系の回復の促進

B-5人為的圧力等の最小化に向けた取り組みの推進

B-5-12013年までにサンゴ礁、藻場、干潟、鳥嶼、亜高山、高山地域等の気候変動に脆弱な生態系に対する人為的圧力等の特定、2015年までに人為的圧力等の生態学的許容値の設定と許容値達成のための取り組みの実施

10

戦略目標C生 態 系、 種、 遺伝 子 の多様 性を保全することにより、生物多様性の状況を改善

C-1陸域等の17%、海域等の10%の適切な保全・管理

C-1-12014年又は2015年初頭に予定されている愛知目標の中間評価までに保全・管理の状況把握のための手法、ベースライン、現状の整理

11C-1-2 生物多様性の保全に寄与する地域の指定についての検討と貞節な保全・管理の推進

C-1-3 広域レベルにおける生物系ネットワークの方策の検討とその形成の推進 等

C-1-4 2014年までに重要海域の抽出、保全の必要性及び方法の検討

C-2絶滅危惧種の絶滅防止と作物、家畜等の遺伝子の多様性の維持等

C-2-1 絶滅危惧種に係る知見の集積、レッドリストの整備と定期的な見直し  等

1213

C-2-2 国内希少野生動植物種の指定、保護増殖の取り組みの推進  等

C-2-3 絶滅危惧種の絶滅・減少の防止のための基盤整備の推進 等

C-2-4 トキ、ツシマヤマネコ等の生息域外保全や野生復帰の推進 等

C-2-5 植物遺伝資源保全に関するネットワークの構築 等

戦略目標D生物多様 性 及び生態系サービスから得られる恩恵の強化

D-1生態系の保全と回復を通じた生物多様性・生態系サービスから得られる恩恵の強化

D-1-1 持続的な森林経営の確立、多様で健全な森林の整備・保全の推進 等

14

D-1-2 農業の持続的な営みを通じた農村環境の保全・利用と地域資源の活用 等

D-1-3 SATOYAMAイニシアティブの国内外における推進

D-1-4 2013年までに三陸復興国立公園の指定、海岸防災林の復旧・再生の推進 等

D-1-5 自然と共生した里海づくりの取り組みの実施

D-1-6 生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の仕組みを活用した新たな施策展開の検討

D-2劣化した生態系の15%以上の回復等による気候変動の緩和と適応への貢献

D-2-12014年又は2015年初頭に予定されている愛知目標の中間評価までに生態系の保全・回復の状況把握のための手法、ベースラインの確立 等

15D-2-2 生態系の保全と回復対策の推進による気候変動の緩和と適応対策の推進

D-2-3 森林施業の適切な実施等の森林吸収源対策の推進、緑の回廊の設定 等

D-3名古屋議定書の締結と国内措置の実施

D-3-1可能な限り早期に名古屋議定書を締結、遅くとも2015年までに遺伝資源の利用を監視するためのチェックポイントの設置・普及啓発等の実施による名古屋議定書の義務の着実な実施 16

 D-3-2

地球環境ファシリティー(GEF)や名古屋議定書実施基金等を通じた議定書の締結を目指す途上国への支援の促進

戦略目標E生物多様 性 国家戦 略 に 基づく施策の着実な推進、その基礎となる科学的基盤の強化、生物多様 性分 野における能力構築の推進

E-1生物多様性国家戦略に基づく施策の推進 等

E-1-1 必要に応じ2015年から2016年にかけて生物多様性国家戦略の見直しの実施17

E-1-2地球環境ファシリティー(GEF)や生物多様性日本基金等を利用した世界全体での個別目標17の達成への貢献

E-2伝統的知識等の尊重、科学的基盤の強化、科学と政策の結びつきの強化、愛知目標の達成に向けた必要な資源(資金、人的資源、技術等)の効率的動員

E-2-1 伝統的生活文化の智恵や資源利用技術の再評価、継承・活用の促進

181920

E-2-2 自然環境データの充実、継続的な更新・速報性の向上 等

E-2-3 海洋生物・生態系に関する科学的知見の充実

E-2-4 生物多様性に関する総合的な評価の実施、我が国の国別目標の中間評価

E-2-5 IPBESへの積極的な参加・貢献、国内体制の整備

E-2-6 我が国における資源動員状況の把握及び生物多様性条約事務局への報告体制の整備

出典:「COP10-11 の成果と愛知目標」環境省 H25.3 発行パンフレット※国別目標年は B-5,D-3,E-1 が 2015 年、それ以外の国別目標は 2020 年。主要行動目標の目標年は年が未記載の場合、国別目標の目標年に同じ。

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第1章 取り組みの背景

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但馬地方の中枢

 豊岡市は、兵庫県北東部・但馬地域に位置し、平成17年4月1日に1市5町(豊岡市、城きのさき

崎町、竹野町、

日高町、出いずし

石町、但たんとう

東町)が合併して生まれ、市としては兵庫県で一番面積が広い。日本海に面し、市

域の約8割は森林となっており、海岸部は山陰海岸国立公園、山岳部は氷ひょうのせんうしろやまなぎさん

ノ山後山那岐山国定公園に指

定されている。日ひ よ り や ま

和山海岸や国指定天然記念物の玄げ ん ぶ ど う

武洞、神鍋高原などは、山陰海岸ジオパークの一部

として、世界ジオパークネットワークに加盟している。

 豊岡盆地の中心を流れている円山川は、

中流域から河口までの高低差が小さく、周

辺に広がるヨシ原や河畔林には、多くの野

鳥が見られる。流域は、豊岡市、養や ぶ

父市、

朝あ さ ご

来市の3市からなり、但馬地方における

社会、経済、文化の基盤をなしている。

典型的な日本海型気候

 豊岡盆地は、円山川下流域に広がる幅3㎞、長さ約12㎞の細長い盆地であり、軟弱な粘土層が堆積して

いる。豊岡盆地の気候は、典型的な日本海型気候であり、夏はフェーン現象により気温が上昇し、冬は季節

風の影響を受けて晴れ間が少なく、曇りや雨、雪の日が多い。円山川流域では、秋から冬にかけて霧が発生

し、日本一霧が多い地域といわれている。豊岡盆地の年平均気温は約14℃、年間総雨量は約2000㎜である。

コウノトリも住みやすい湿地帯

 円山川下流域には、干潟やヨシ原、ワンドなどの湿地環境が分布し、塩沼植物であるシオクグ群落や汽

水域に生息する水生昆虫も多く見られる。また、かつて豊岡盆地には低湿な水田(じる田)が一帯にあり、

それが湿地の役目も果たしていた。戦後のほ場整備により「じる田」はほとんどなくなったが、豊岡市内の

戸と し ま

島地区では「じる田」が残っており、作業の困難さから農家は大変苦労をしていた。平成14(2002)年8

月に大陸から訪れた野生のコウノトリ、「ハチゴロウ」(平成18(2006)年2月死亡)が好んで舞い降りたその

水田の一部は平成21(2009)年4月に県と市によって「ハチゴロウの戸島湿地」(3.2ha)として整備された。

「ハチゴロウの戸島湿地」には、楽さ

々さ

浦うら

湾~円山川~日本海と水路でつながる汽水湿地(0.7ha)と農業

用水や湧水を引き込んだ淡水湿地(2.5ha)がある。これらの湿地を区切る仕切り堤防に設置した起伏ゲー

トを利用し、たくさんの魚が行き来する。

 休耕田を共有化したのが、田た い

結湿地(約12ha)である。地元NGOの支援や研究者の支援を受けなが

ら、住民たちによって管理されている。また、国土交

通省が加陽地区の円山川河川敷約15haにて自然再生

を行っている加か や

陽湿地もある。

 平成24(2012)年7月には、戸島湿地、田結湿地を

含む「円山川下流域・周辺水田」がラムサール条約湿

地に登録されている。

第1章 取り組みの背景

1.1.豊岡地域の概要

田結湿地ハチゴロウの戸島湿地

山陰海岸ジオパーク豊岡盆地

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 「天あめのひぼこ

日槍伝説」によると、豊岡市の中央部は朝鮮半島の新しらぎ

羅から来た天日槍が岩山を切り開き、入江湖

を干拓して耕地にしたといわれている。旧但馬国の中心部に位置づけられ、奈良・平安時代は国の役所

である「国府」や国ごとに建立された官寺「国分寺」や「国分尼寺」が設置された。

 室町時代には、山名氏の本拠地として「此このすみやまじょう

隅山城」が築かれ、戦国時代には「有ありこやまじょう

子山城」に移された。

江戸時代には出石に「出石城」が築かれ、豊岡市には京極藩の陣屋が置かれ、ともに栄えた。明治4年

の廃藩置県、府県改置で、但馬、丹後、丹波の一部を管轄する豊岡県が生まれたが、明治9年に兵庫

県に併合(丹後と丹波一部は京都府に併合)された。

 

 円山川は、兵庫県朝あさご

来市生野町円山(標高640.1m)に源を発し、大屋川、八木川、稲葉川、出石川など

の95支流を合流させながら、豊岡盆地を流下して、日本海に注いでいる。幹川流路延長68㎞、流域面積1,300

㎢の一級河川である。流域は、山地86%、平地14%で、平地は豊岡盆地を中心とした穀倉地帯となっている。

 河床勾配は1/9000と緩く、河口から約16㎞上流の出石川合流点近くまでが、海水と淡水が混ざる汽水

域になっている。そのため、回遊魚および汽水・海水魚の割合が高く、数多くの生物が生息する多様な

環境が形成されている。

 円山川流域は、勾配が緩やかなことから、数々の洪水に見舞われてきた地域である。幕政時代には、

出石藩により「大おおぼえ

保恵堤防」が築かれたという記述もある(「円山川治水沿革誌」など)。洪水の主な理由

は台風によるものである。昭和34(1959)年9月の伊勢湾台風、平成2(1990)年9月の台風19号、平成16

(2004)年10月の台風23号などで、大きな被害が発生している。特に平成16(2004)年の台風23号は、

円山川・出石川で多くの堤防が決壊し、豊岡市全体で、死者7名、負傷者51名、浸水家屋7,944戸と甚

大な被害をもたらした。

 そのため、平成16(2004)年から平成22(2010)年度までに約650億円を投じて、河道整備や築堤、内

水対策、堤防強化などの河川激甚災害対策特別緊急事業を実施、現在も緊急治水対策として工事が進

められている。平成13(2001)年から始めたひのそ島掘削など、中州の整備も同時に行ってきた。

1.2.歴史

1.3.円山川の特徴

出典:「円山川水系自然再生計画書」国土交通省近畿地方整備局,兵庫県、H17.11   「円山川水系河川整備計画」国土交通省近畿地方整備局,兵庫県、H25.3

円山川

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暮らし 

 豊岡地域の暮らしは、良い意味でも悪い意味でも豊岡盆地の中央を流れる円山川の影響が大きい。円山

川は「まち」と「むら」の明確な境界線であり、水上交通の要であったばかりでなく、汽水域は川漁の絶

好の漁場となっている。度重なる洪水の被害に、円山川では治水対策として、本流堤防の内側にもうひと

つ小さな堤防を設けて氾濫を防いでいる箇所もある。また、土木用の砂利採取は、適度な浚しゅんせつ

渫の役目も担っ

ている。

 この円山川では川魚を獲り、川辺に生育するコリヤナギを加工して柳行李などの生産を行ってきた。独

特の低湿な田んぼでは、数々の工夫を加えて自然環境の条件の厳しさを克服し、米作りを行ってきた。さ

まざまな自然の恵みを活用しながら、産業へと発展させてきた豊岡地域。自然環境と暮らしを一体のもの

ととらえ、互いに折り合いを付けながら営まれてきたのが、豊岡地域の暮らしといえる。

産業

 豊岡市の産業構造は、第一次産業6.1%、第二次産業24.0%、第三次産業54.7%、その他(分類不能)

15.2%となっており、第一次産業は年々減少傾向にある(平成22年国勢調査)。

農業 

 昔は低湿な田んぼの「じる田」で、田植えのときには腰まで浸って植えていたところも見られた。田舟

や田下駄などを手作りして、知恵と工夫で困難な状況を乗り越えてきた。そうした厳しい条件の中で営ま

れてきた暮らしの中で、農村の文化を作り上げてきた。高度経済成長期以後は農業の効率化のためにほ場

整備を実施し、現在では田んぼは乾田になっている。

 豊岡市では、環境に配慮した栽培方法により農産物等を生産している団体に認証される「コウノトリの

舞まい

」ブランドを制定し、平成24(2012)年10月末までの認定耕作面積は578haで、50団体、30品目3食品

を認定している。コウノトリの生息環境を再生させるために考えられたのが「コウノトリ育む農法」である。

農薬や化学肥料に頼らず、早期湛水・深水管理(田植えの1カ月前から水を張ったり、通常よりも深く水を

張ること)などを行い、安心・安全な米「コウノトリ育むお米」を生産している。平成25(2013)年には約

270haでこの米を作り、大手スーパーをはじめ、全国で販売している。

1.4.暮らしと産業

コウノトリ育むお米

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牧畜

 但たじまうし

馬牛は、最高級和牛といわれる「神戸牛」、「松坂牛」、「近江牛」の素となる牛である。きめが細かい

霜降りがおいしさの秘密で、熱を加えると舌ざわりの良い食感とまろやかな味を生み出す。

水産業

 川魚漁が行われており、河口から16 ㎞付近までが汽水域である円山川には、今でも海の魚や川魚が多

く生息し、天然のウナギやモクズガニなども獲れる。下流ではシジミ、ハマグリの漁も行われていたが、

上流から流れてきた土砂が溜まり最近は少なくなってきている。また、「津ついやま

居山カニ」は津居山港で水揚

げされた松葉ガニの中で、漁師、仲買人によって厳選されたカニである。津居山沖には良好なカニの漁場

があり、ここで獲れるカニは、日本屈指の鮮度と品質を誇っている。

観光 

 全国的に有名な城崎温泉をはじめ、但馬の小京都といわれる出石城下町、西日本屈指の神鍋高原スキー

場などがあり、年間400万人以上が訪れる。

工業 

 豊岡地域は平野部のほとんどが低湿地であるという独特の水辺環境であり、かつては川辺に生えるコリ

ヤナギを使用した製品、柳行李の産地として栄えた。奈良時代に発祥し、江戸時代に柳行李生産の隆盛

を迎えた。大正以降はその伝統技術と流通経路を基盤に、新素材への挑戦とミシン縫製技術の導入によ

り鞄の生産地となった。平成3(1991)年頃の最盛期の全国シェアは約7割にも達した。そのほか、200年

以上の歴史を誇る出石焼、そして近年は太陽光パネルの生産でも注目を浴びている。

津居山カニ 城崎温泉

出石焼 豊岡かばん

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「しゃあないな」の文化

 豊岡地域に暮らす人は、自然環境やそこに住む生き物たちと折り合いをつけながら、その中で営みを続

けてきた。そのことが、豊岡独特の人間性を形成してきたといえる。洪水もそのひとつだが、田んぼが一

年中水気のある「じる田」という湿田であったことが、農作業を過酷なものにしていた。今はほ場整備に

よりそうではなくなったが、昔は足を入れれば膝上、場所によっては腰まで浸かり、そこで田植えをして

いたという。「嫁殺しの田」とまで言われていた場所もある。

 昔は田んぼに舞い降りるコウノトリは苗を踏み荒らす害鳥と考えられていた(現在では調査の結果、苗

を踏み荒らさないことがわかっている)。「コウノトリは稲を踏むから嫌いだ。でも、しゃあないな」と豊岡

地域の人は言う。「しゃあないな」という言葉の中には、「コウノトリも自分もこの自然の中の一部。ならば

多少問題があっても相手の存在を認めていこう」という、独特のおおらかな生き方が感じられる。

住民とコウノトリの関わり

 コウノトリは古くから「ツル」と呼ばれ、瑞鳥(めでたい鳥)という側面があった。出石町桜尾の繁殖

地「鶴山」が大正10(1921)年に天然記念物に指定され、豊岡地域の人にとってめでたい鳥として大事

に保護されてきた。一方、田んぼの苗を踏み荒らす害鳥としての側面もあった。コウノトリを追い払う行

為を「ツルボイ」という。ボイとは方言で追い払うという意味である。空砲を撃って追い払う「ツルオド

シ」も行われていた。

 瑞鳥、害鳥、ふたつの面を持ちながら、うまく共生してきたのが豊岡地域の住民の意識である。「共生とは、

コウノトリのためでも人間のためでもなく、どちらもが主人公であり、かつ共存できることを意味してい

る。(中略)共生の成立には、農業基盤がしっかりしており、人々の和があったのがわかる」(『但馬のコ

ウノトリ』但馬文化協会 菊地直樹・池田啓/著)。コウノトリは「農業の豊かさ」を示してくれる指標に

もなっていた。

 また、コウノトリの野生復帰については地域住民も積極的に協力している。行政がすべてを決めてしま

うのではなく、協議会などには住民も参加し、その意志を十分に反映して決定していったことも、住民が

理解しやすい土壌を作り出した。

1.5.風習・地域性

「お前がやるなら俺もやる」という関係

 コウノトリと住民の関係について研究をしてきた、元コウノトリ

の郷公園研究員の菊地直樹氏は、コウノトリの野生化の取り

組みについてこのように分析している。「佐渡のトキの活動は

NPO主体でこの指止まれといった感じだが、豊岡地域はいわ

ばコミュニティ型。人の名前を下の名前で呼び合うほど、信頼

関係が厚く、『お前がやるなら俺もやる』というベタッとした関

係だ。また、ものごとをはっきりさせずに進んでいくことも特徴

だと思う。計画が少しずつうまく行きだしたら、今度はみんな

で進んでいくタイプ。一気には盛り上がらないが、脈々とつな

がっていき、その中でプロデューサー的な人がさらに盛り上げ

ていく雰囲気を持っている。」その関係性は、(以下のような)

昔からのコミュニティの形成の仕方にも理由があるようだ。

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田結地区の「手間がり」(コモンズ)

 田結地区は、1960年代まで春の農繁期には、晴れた日はワカメ漁をし、雨の日は農作業をする半農半

漁の地域であった。冬の農閑期には男性は出稼ぎに出ていた。一反に32枚も棚田がある場所もあり、機

械化が困難であった。そのため、平成18(2006)年に耕作放棄がされるまで、田植えや稲刈りは村内の

親戚が集まって順番に(持ち回りで)共同で行われ、この共同作業は「手間がり」と呼ばれていた。また、

村民が集まり共同作業を行う「日役」もあった。休耕田の湿地化における湛水作業にあたっては、全戸主

総出の共同作業である「総日役」で行った。農機具も「モヤコ」と呼ばれる共同購入を行っていた。

 棚田には水路がない場合が多く、自然の傾斜で上の棚田の水を下の棚田に流すシステムを取り入れてい

た。そのため、田んぼの水なども共同で管理をしていかなければならなかった。ワカメ漁は採る場所が自

由であったが、干す場所は村民がクジで決めていたという。また、村内のすべての土地は、実質的に村

が管理していた。個人所有地にも決まりが設けられ、だれかが転出する場合は、村の人に競りで売却して

いたため、村内のほとんどの土地は、地元の人が所有していた。

 日本社会における伝統的な人と人とのつながりの形として、一般的なものに「結」がある。「結」は、村落

共同体における労働による互助システムである。そして「結」の関係を成立させている条件の一つに「自然

資源の共同利用・管理制度(コモンズ)」がある。代表的なコモンズには薪炭に利用した森林、屋根の材

料となる茅場の管理などがあるが、田結地区における共同の作業や管理は、まさに「結」である。このように、地域住民がひとつのことを共同で行ってきたことが、コウノトリの野生化プロジェクトに対しても抵抗を感

じず、スムーズに取り組みが行われた一因といえるだろう。

共有林の存在

 前述の田結湿地は、個人が所有する

休耕田を、地域が共同で湿地として再

整備し、維持管理しているものである。

資産の共同管理にあたり、抵抗の声は

地域内で聞こえなかったという。この

地域には、昔から生活に必要な資材を

調達するための共有財産である共有林

があった。この共有林の存在が、湿地

の共同管理をスムーズに実現できた地

域的背景といえる。

区長の決定権

 市内各地区には区長がおり、集落外

の会議や寄り合いには区長が参加し、

区長の判断を尊重する傾向にある。こ

のため、コウノトリの放鳥などのプロ

ジェクトの打ち合わせに参加した区長

が、地域住民を説得していったので、

無理なく推し進めることができた。

稲作最後の年

こ ん な 場 所 も畑にしていた

急峻な山に石で作った段々畑

案ガールズ

出典/『豊岡市 田結地区の挑戦』より

ワカメ干し

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 野生のコウノトリは、シベリア東部のアムール川流域から中国東北部の湿地帯を主な生息地・繁殖地に

している。この湿地帯は世界でも数少ない広大な湿地帯で、コウノトリだけでなく、タンチョウヅルなど

も生息している。野生のコウノトリの数は 3000個体と推定され、絶滅の危機に瀕している。ヨーロッパ

とアフリカ北部には、近縁種であるシュバシコウが生息し、その数は85万個体以上と安泰している。よ

く「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」といわれるが、これはシュバシコウに伝わる伝承である。

 コウノトリは雛のうちは鳴くことができるが、大人になると鳴くことができず、クチバシを叩き合って

カタカタカタと音を鳴らす。これをクラッタリングという。クラッタリングをすることによって仲間との

コミュニケーションを取っている。

 その姿はツルに似ているが、分類上はまったく異なっている。

【分類】

目:コウノトリ目 Ciconiiformes

科:コウノトリ科 Ciconiidae

属:コウノトリ属 Ciconia

種:コウノトリ C.boyciana

【学名】Ciconia boyciana(キコニア・ボイキアナ)

【和名】コウノトリ

【英名】Oriental white stork

■体の大きさ

◎全長=約120~130㎝

◎脚の長さ=約50~60㎝

◎翼開長=約200~250㎝

■体重

約4~5㎏

■雌雄の区別

見た目には違いがわからない。一般的にオス

はメスよりも大きいが、個体差があり判別は

難しい。血液を採って DNA 鑑定で判別する。

■羽根の数

初列風切羽/11枚 初列雨覆羽/11枚 

次列風切羽/19枚 大雨覆羽/23枚 

三列風切羽/3枚  小翼羽/4枚 肩羽/7枚 

1.6.どこまで知っていますか?コウノトリ

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<何を食べているの?>

 肉食で、ドジョウ、フナ、カエル、小魚、昆虫、ザリガニなどを主食としており、大きなナマズも丸飲

みをする。また、ネズミなどの小型哺乳類を捕食することもある。飼育下では、一日約 400 ~ 500g のエ

サを食べる大食漢である。コウノトリが生きていくためには、生き物がたくさんいる自然が必要になる。

<エサ捕りはうまい? 下手?>

 エサを捕るのが苦手といわれているコウノトリ。そのことが、コウノトリが絶滅の危機にある一因にも

なっているという人もいる。また、コウノトリの舌は短く、食べ物を喉の奥に運ぶことができないので、

食べ物を一度空中に上げてから喉の奥に放り込むようにして食べる。長いクチバシを使い、次のような方

法でエサを捕っている。

①直接獲物を見て、狙って捕まえる。

②口を半開きにして水中を突き、クチバシに当たった獲物を捕まえる。

③クチバシを半開きにし、水中に突っ込んだまま左右に振り、クチバシに当たった獲物を捕まえる。

<マイホームはどこに作る?>

 木の上に枝を組み合わせて直径約 2 mという大きな巣を作る。そのため、数個体のコウノトリが乗って

も壊れない丈夫な木が必要で、かつてはアカマツの大木を利用していた。日本に古くからある画材「松に

③の方法による餌取りの様子

コウノトリの舌は短く、食べ物を喉の奥に運ぶことはできないため、食べ物を一度空中に放して、喉の奥に放り込むようにして食べる

ツル」のツルは、実はコウノトリのことだろうとい

われている。ツルは後ろ指が短くて枝をつかむこと

ができないので、松に止まれないからだ。

 適した木がない場合は、電柱などに巣を作ること

もある。豊岡地域では現在は松の大木がないため、

人工巣塔を立てて営巣させている。

フナ ドジョウ カエル ナマズ ヘビ

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<産卵から巣立ちまで>

産卵 

 2 月から 3 月にかけて、1 ~ 2 日おきにひとつずつ計 3 ~ 5 個を産卵する。重さは約 115g でニワトリ

の卵の約 2 倍である。

抱卵

 オスとメスが休まず交代であたためる。最後の卵を産んだ後に温め始めるので、ヒナはほぼ同じ日に孵

化する。

孵化

 抱卵を始めてから約31日で卵からヒナが孵化する。親鳥は交代でヒナを抱いたり、餌を運んだりする。

ヒナ(15日目)

 ヒナは鳴いたり、クチバシをつついたりして餌を催促する。親鳥は、飲み込んできた餌を巣の上に吐き

出す。

ヒナ(1カ月目)

 ヒナは少しずつ羽ばたきの練習を始める。親鳥は羽を広げて日陰を作ったり、ヒナに水をかけたりして、

ヒナを暑さから守る。

巣立ち

 孵化から巣立ちまで約63日。ヒナは巣から飛び出して、自分で餌を採って食べるようになる。

<世界のコウノトリ>

 コウノトリとよく似た姿のコウノトリ、シュバシコウ(朱嘴鶴)は、フランス、ドイツ、ベルギー、オ

ランダなどヨーロッパ各地におり、クチバシ(嘴)が朱色をしていることからそう呼ばれる。古くから幸

せを運んでくる鳥として人々に親しまれている。冬にはアフリカに渡り、春にヨーロッパに戻ってくるが、

アフリカの干ばつの影響や狩猟の対象とされていたことから、戻ってくるコウノトリが少なくなっている。

赤ちゃんを運んでくる鳥

 コウノトリを国鳥としているドイツの中部と北部では、コウノトリが近くの泉や池から赤ちゃんを運ん

でくるという伝説がある。コウノトリは女神ホレの使者として、命の精を民家に運ぶのだ(『蘇るコウノ

トリ』菊地直樹/著)。コウノトリの街として知られるフランスのアルザス地方では、コウノトリが赤ちゃ

んを運ぶのではなく、男の子はキャベツから、女の子はバラから生まれるといわれている(第 2 回コウノ

トリ未来・国際かいぎ ルシアン・ガンゴロフ氏)。

巣は屋根や煙突に作る

 コウノトリは教会や民家の屋根や煙突などに巣を作る。春にアフリカからコウノトリが戻ってくると、

街の人々は大変に喜んで迎えたという。アルザスの風刺画家ハンジは、『私の村』(1913 年刊)という本の

中で、子どもたちが輪になって歌い、まるでお祭りのように騒いでいる様子を描いている。コウノトリが

戻ってこない年は、街中の人が大変悲しがったという。

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放し飼いをしているオランジェリー動物園

 フランス・アルザス地方にあるオランジェリー動物園では、コウノトリが生活する様子がわかるように

ケージに入れずに展示している。高さ約175㎝の金網で囲い、上部は天井がない。約46個体おり、20個体

は羽根を切っているが、その他は切っていないのでどこへでも飛んで行けるにも関わらず、渡りもせず一

年中ここで過ごしている。公園内には20の巣がある(『鸛(コウノトリ)飛ぶ夢』中貝宗治/著)。

コウノトリが住む民族村

 アルザス地方にある「エコミューゼ」は、この地方の古い民家を集めた民族村。ここにある家の屋根で

は、コウノトリが巣を作り、その数は数えられないほど。古くからあるアルザスの村の様子が垣間見られ

る(『鸛(コウノトリ)飛ぶ夢』中貝宗治/著)。

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ことわざ「コウノトリが田んぼに降りると天気になる」

 平成 14(2002)年にコウノトリの郷公園の研究員、菊地直樹氏が行った地元民へのコウノトリに関す

る聞き取り調査では、このような話が出ている。

戦前まで歌い継がれてきた 田植え歌「鶴の子」

 豊岡市神美地区で戦前まで歌い継がれていた田植え歌が、「鶴の

子」。戦後はほとんど忘れ去られていたというが、昭和50(1975)年に

県教委などが実施した民謡調査で、中学校の教諭だった長谷坂栄治

さんが採譜した。お年寄りたちに神美公民館へ集まってもらい、一番

を採譜、二番は歌詞のみを記録した。曲に室町時代の小唄の特徴が

あることから、当時から伝わっていたものとみられる。長谷坂さんは、

古い言葉だけでは現代人に聞いてもらえないと思い、三番は自身で作

詞をした。この曲は、平成7(1995)年10月21日に豊岡市中央町の来

迎寺で開催された「こうのとりフェスティバル」で披露された。

 また、神美小学校ではこの民謡をバックミュージックにした組み体操も創作している。

神美の田植え歌「鶴の子」

一番の前歌

鶴の子の

巣立ちはどこよ

山と山 山と山

朝日輝く

老松の枝

一番の後歌

早乙女衆は

ヤレ小昼びるま

間を待ちゃる

船方は

帆柱を立てて

合の風を待ちゃる

1.7.コウノトリにまつわる話

二番の前歌

日は照るとも

蓑笠を持ちゃれ

篠の露は 篠の露は

小雨の降るごとし

二番の後歌

おもしろや

ヤレ京には山くるま

淀に船

八幡の黒の

もやい船にしょうーや

三番の前歌(長谷坂栄治作詞)

鶴の子よ

いつまた帰る

古里へ 古里へ

三開山の白い翼はね

三番の後歌(長谷坂栄治作詞)

まぼろしの

ヤレ鶴鳴く声が唄となる

人のやさしさに

私も帰る故ふるさと

郷へ

H7.10.20 朝日新聞

 コウノトリは天気に敏感だった。荒原(田んぼ)にこういう感じで降りると、「あ、天気になるぞー」って言ったものだ。ここに雨が降ったら深くなるから降りられへん。ここに降りるということは天気になるからだ。ニワトリの夕方のエサ採りは、明日天気になるという時は、早く止まる。明日が雨になる時は、遅くまでエサ拾う。それと同じような習性があった。天気が善くて、荒原の水が変わらない時には、荒原に降りる訳だ。団地の広いところにおる時には、水が出る心配がないからおるわけだし、雨が降るというと、深くなっておれないから、安全なここに戻ってきた。 昔から「ツルがこうのすに戻ったで」と言えば、雨が降る。本当に降った。「荒原で遊んどる、遊んどる、天気だ天気だ」と言っていた。昔の農業は天候職。測候所があるわけでないし、天候とか鳥の習性とか、ハトの鳴き方で天候を読んでいた。     (『コウノトリ歴史資料収集整理等事業報告書 コウノトリの郷公園 平成 15 年 3 月』より)

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小学校の校歌にもコウノトリのことが取り上げられた

コウノトリのことが身近だったことから、小学校の校歌にもコウノトリのことが取り上げられている。

八条小学校校歌

一  但た じ ま

馬富ふ

士じ

から のぼる日が

   今日もぼくらに 呼びかける

   がんばれ元気な 但馬っ子

   ぐんぐんのびろよ 精一杯

   一人一人が八条の 若い力だ 若い芽だ

二  流れ豊かな  円まるやま

山の

   水がわたしに 呼びかける

   がんばれ元気な のぼりあゆ

   ぴちぴちはねろよ 精一杯

   一人一人が八条の 若い希望に 燃える子だ

三  緑輝く 妙みょうらくじ

楽寺

   鐘がみんなに 呼びかける

   がんばれ巣立ちの こうのとり

   元気ではばたけ 精一杯

   一人一人が八条の 若い誇りに 生きる子だ

豊岡市歌でも詠まれたコウノトリ

一  霧のとばりの  晴れ上がり

   円山川の  ゆるやかに

   岸辺に移ろう 季とき

の花

   山並 鳥かげ 雲のいろ

  (舟唄きこえる) 川面です

  (但たじま

馬まほろば)(豊岡の)郷さと

二  緑萌えでる  山河の朝

   大きな翼は  中なかぞら

空へ

   羽ばたき風に 舞い上がる

   ああコウノトリ この空に

  (いのちかがやき) 共に生きる

  (但たじま

馬まほろば)(豊岡の)郷さと

三  街と町との  虹の橋

   花の香りの  とどきます

   雪の便りも  とどきます

   季節を告げる 海の幸

  (いのち美し) 共に生きる

  (但たじま

馬まほろば)(豊岡の)郷さと

              (   )内 2 回

            平成 20 年 3 月 29 日制定

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コウノトリが教えてくれた温泉 城崎温泉の外湯「鴻こう

の湯ゆ

 舒じょめい

明天皇の時代(629 ~ 641年)、脚にケガをしていたコウノツル(コウノトリ)が田んぼに降り立ち、同

じ場所に立ち続けるようになった。いく日か経って、脚のケガは回復し、カタカタとクラックリングをしな

がら空を飛びまわり、松の大木の上にあった元の巣に戻って暮らすようになった。その様子を見ていた付

近の百姓がその場所に行くと、田んぼの中からお湯が湧いていた。すぐにここに小屋を建て、田んぼ仕事

を終えてからお湯に浸かり、体の疲れを癒した。その場所が、城崎温泉の外湯「鴻の湯」であるといわ

れる。(『校こ う ほ た じ ま こ う

補但馬考』櫻井勉)

コウノトリを祀る久く く ひ

々比神社

久々比神社

 豊岡市下宮地区にある久々比神社は、コウノトリを祀って

いる神社として知られている。この場所は、以前、くくい(コ

ウノトリの古称)村と呼ばれており、数多くのコウノトリが

舞っていた場所だ。日本書紀には、次のような天湯河板挙(あ

まのゆかわたな)のコウノトリ伝説も残っている。

 垂すいにん

仁天皇が御字二十三年の冬十月、王子である誉ほむつわけのおうじ

津別皇を

ともなって宮殿の前に立った時、くくいが大空を飛んでいっ

た。その時、皇子は「これは何という名の鳥だ」と、30歳になっ

て生まれて初めて言葉を発した。これに垂仁天皇は大変喜び、

「誰かあの鳥を捕まえよ」と言った。天湯河板挙が手を挙げると、「あの鳥を献上すれば、褒美を与える」

と天皇。天湯河板挙はくくいを追いかけ、出雲国か但馬国でくくいを捕獲したとある(日本書紀 垂仁天

皇 二十三年十月壬申条)。

 このことから、霊鳥と呼ばれたコウノトリが大切にされ、久々比神社が建立された。

禁猟区として保護した藩主

 江戸時代、出石藩の藩主が藩有林である桜尾山(鶴山)をコウノトリの禁猟区として保護していた。狩

猟により減少していた他の地域と違い、豊岡では明治の半ばから大正、昭和初期にかけても天然記念物に

指定するなど、手厚く保護されてきた。(『コウノトリ再び空へ』神戸新聞総合出版センター)

明治時代、瑞鳥としてもてはやされる

 「明治二十七(1894)年日清戦役にあたり老鶴がやって来て巣をつくり雛を育てたのは、日本が全勝する

吉兆ごと観覧者が多かった。その後一〇年奇遇というか瑞祥と言うべきか征露の役が起こるや、一つが

いの老鶴がまた飛来して山頂の古松に巣をつくり四羽の雛を養育した。世の人々はこの戦が海陸で大勝

を得る霊兆であるとした。果たして連戦連勝で期待した通りであった。このことが、一度遠近に伝わると、

遠く京阪神の観覧者が続々と数しれずおとずれた。」(出雲町史編集委員会 1991:521-522)

豊岡地域に残るコウノトリに関した地名

鶴城跡 山名四天王のひとり田結庄氏の居城。伝承では、永享年間(1429~1441年)の但馬守護山名宗

全による築城であるという。鶴が羽根を広げたような曲輪配置をしていることから、「鶴城」と呼ばれた。

田鶴野地区 田鶴野地区は、その名称が田結庄、鶴井庄、野田庄の3つの庄園から成り立っていることに

由来している。

下鶴井(田鶴野地区の行政区)   口鶴井(田鶴野地区の行政区)   鶴岡(日高地区の行政区)

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(1)日本中にいたコウノトリ

 かつて、コウノトリは日本のあちこちで生息していた。円

山川、豊岡盆地を中心に水辺の生きものを育む湿地環境が

広がる豊岡地域は、コウノトリにとって好都合の場所であっ

た。「じる田」と呼ばれる湿田や、年中水がある土水路、川

などのエサ場に多くのコウノトリが暮らしていた。

(2)減り続ける湿田と農薬の登場

 第二次世界大戦時に巣を作るための松が伐採され、戦後

の経済性、効率性を重視する社会構造の変化のなか、さま

ざまな開発によって湿田や湿地環境も減り続けた。さらに

農薬の使用なども重なり、昭和46(1971)年に野生のコウノ

トリが絶滅した。豊岡地域は国内最後の生息地だった。

(3)25 年目にやっとヒナが誕生

 絶滅に先立つ昭和40(1965)年、野外のコウノトリを保護

して人工飼育が始まった。しかし繁殖は失敗の連続であっ

た。平成元(1989)年、飼育の開始から25年目の春、ようや

く初めてのヒナが誕生した。

(4)初めての放鳥

 コウノトリは人里で暮らす鳥である。増殖したコウノトリが

野生復帰するためには、彼らを受け入れる豊かな環境(自然

環境と文化環境)が再生されていなければならない。農業、

教育、経済活動などさまざまな分野での取り組みを積み重

ねながら、平成17(2005)年、野生復帰に向けての初の放

鳥が行われた。

(5)野外でヒナが誕生

 平成19(2007)年には、43年ぶりに野外でヒナが誕生し、

46年ぶりに巣立った。

(6)「ハチゴロウの戸島湿地」開設

 湿地だったこの地に1個体の野生のコウノトリが舞い降り

た。平成14(2002)年8月5日に確認されたことから、月日か

ら「ハチゴロウ」と名づけられた。惜しくも平成19(2007)

年に死んでしまったが、コウノトリ野生復帰事業における「ハ

チゴロウ」が果たした役割は大きく、彼が愛した湿地を整備

し、平成21(2009)年に「ハチゴロウの戸島湿地」が完成した。

1.8.豊岡地域のコウノトリの歴史

1960(S35)年頃の円山川水系出石川

人工巣塔の下での農薬散布

人工飼育下でのヒナ誕生

コウノトリの放鳥

ハチゴロウの戸島湿地

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(7)円山川下流域・周辺水田がラムサール条約に登録

 ラムサール条約は、生物多様性に富んだ世界の重要な湿地

を保全し、湿地の恵みを利用していくことを謳う国際条約で

ある。平成 24(2012)年 7月、「円山川下流域・周辺水田」が、

ラムサール条約湿地に登録された。このことは、半世紀以上

にわたって続けてきたコウノトリ野生復帰の取り組みを、未

来につないでいく大きな原動力になるはずだ。

(8) 70 個体を超えるコウノトリが暮らしている

 放鳥と自然下の繁殖により、平成25(2013)年現在70個体

を超えるコウノトリが、日本の空の下で暮らしている。「コ

ウノトリと共に生きる」ための自然と文化の再生・創造の取

り組みは、今後も継続して展開されていく。

野外で生息しているコウノトリ

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1895年 野生鳥獣の保護のため「狩猟法」が成立。

1897年 森林保全のため「森林法」が成立。

1919年 「史蹟名勝天然紀念物保存法」が成立。

1931年 景勝地の保護と利用のため「国立公園法」が成立。

1948年 農薬の規格や製造、販売、使用等の規制を定める「農薬取締法」が成立。

1956年 水俣病が発見。

1967年 日本の4大公害病である水俣病、第二水俣病(新潟水俣病)、四日市ぜんそく、イタイイタイ病の

     発生を受け、制定された「公害基本法」が公布。1993年には環境基本法に役割を移し、1993年廃止。

1968年 石油による硫黄酸化物の排出量が増え、「大気汚染防止法」が成立。

1970年 公害対策関連14法案(「公害犯罪処罰法」、「公害防止事業費事業者負担法」、「海洋汚染防止法」、     「水質汚濁防止法」、「農用地土壌汚染防止法」、「廃棄物処理法」、(以下、改正)「下水道法」、「公

     害対策基本法」、「自然公園法」、「騒音規制法」、「大気汚染防止法」、「道路交通法」、「毒物及び

     劇物取締法」、「農薬取締法」)が成立。

1971年 環境庁が発足。

1972年 自然保護の政策を強化するため、「自然環境保全法」が成立。

1992年 生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正な

     配分を目的とした「生物多様性条約」及び、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目標

     とする「気候変動枠組み条約」が採択。(1993年に批准・発効)

1993年 「公害対策基本法」や「自然環境保護法」では、複雑化・地球規模化する環境問題に対応できな

     いことから「環境基本法」が制定された。日本の環境政策の根幹を定める法律である。

1997年 大規模公共事業など環境に大きな影響を及ぼすおそれのある事業について、環境アセスメント

     の手続きを定めた「環境影響評価法」が制定。

     京都で第3回気候変動枠組条約締結国会議(COP3)を開催。京都議定書が採択。

1998年 大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ、地球温暖化を防止する「地球温暖化対策の推進に

     関する法律」を制定。

2000年 廃棄物・リサイクル政策の基盤である「循環型社会形成推進基本法」が制定。

2001年 環境庁を改組し、環境省設置。

2002年 過去に損なわれた自然環境を取り戻すため、行政機関、地域住民、NPO、専門家等多様な主体の

     参加により行われる自然環境の保全、再生、創出等の自然再生事業を推進する「自然再生推進法」

     を制定。

2008年 環境基本法の下位法に位置付けられるとともに、生物多様性の保全および持続可能な利用に関する

     個別法に対しては上位法としての役割を持つ「生物多様性基本法」が成立。

2010年 名古屋で生物多様性第10回締結国会議(CBD-COP10)を開催。愛知目標が採択。

1.9.日本における環境問題の流れ

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第2章 取り組み実績の整理

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 2 章では、コウノトリ野生復帰に向けた公共政策に関する代表的な分野(河川分野・農業分野・地域社

会分野)について、各主体における主な取り組みの実績や人々の意識、それらによる波及効果を整理する

とともに、実績等の整理から見た課題を示す。

 また、各取り組み分野において、関係行政機関が自ら振り返り、現時点において残された又は顕在化し

た課題を整理し、今後の方向性を示す「自己点検」を行う。

 更に、関係者へのインタビューを通じ、取り組みに携わってきた人達の思い・価値観等を抽出するとと

もに、既往文献やインタビューをもとに、取り組みに関わる多様な主体の「思いや価値観の共有、共感の

連鎖」を象徴する代表的なエピソードを紹介する。

・ 代表的な取り組み分野(河川分野・農業分野・地域社会分野)ごとの主な実績と波及

効果及び実績等の整理から見た課題

・取り組みに関わってきた方々へのインタビューによる思い、価値観の抽出

・取り組みの広がりを感じさせるエピソード

・関係行政機関による取り組みの自己点検

2.1.代表分野別の取り組み実績の整理

2.2.取り組みに関わってきた方々の思い・価値観 ~インタビューを通じて~

第 2章 取り組み実績の整理

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図 2.1-1 主体ごとの取り組みテーマの経緯

(1) 代表分野の取り組み実績

・公共政策に関する代表分野(「河川分

野」「農業分野」「地域社会分野」)に、

「コウノトリに係る科学分野」を加え、

それぞれの分野ごとに取り組んでき

たテーマを時系列で右図に整理した。

・新聞記事から読み取ったそれぞれの

時代における野生復帰の取り組みに

対する社会の意識を上段に、取り組

みを取り巻く法規制等の「社会的背

景」や地域の出来事を下段に示した。

・生息数の激減に伴い、「コウノトリに

係る科学分野」の取り組みとして明治

33(1900)年頃には既に保護活動が

始まっていたが、いよいよ絶滅の危機

が迫った昭和40(1965)年、野生個

体を捕獲し人工飼育が開始された。

・関係者の努力により、長い苦闘の末、

平成元(1989)年に人工繁殖がようや

く実を結び、飼育下での個体数が増

えてきた1990年代、将来、野生復帰

するために必要な餌場の確保を目的

とした「河川分野」や「農業分野」で

の取り組み、及び、コウノトリを受け

入れる文化の形成を目的とした「地域

社会分野」の取り組みが始まり、徐々

に広がりを見せていった。

・次ページ以降に、代表的な取り組み

分野ごとに、取り組みの背景、取り

組みの経緯と実績、人々の意識、地

域社会への波及効果、及び、実績の

整理から見た課題を示す。

2.1.代表分野別の取り組み  実績の整理

ひのそ島掘削 (2001~07)

全国では豊岡だけ 保護策を急げ

(1952.6)

天然記念物に 指 定 本県のコウノトリ

(1953.4)

コウノトリ受難つづく 保護対策も期待薄

(1961.3)

失敗続く人工ふ化

(1967.1)

苦難 24年実ったコウノトリ人 工 増 殖

(1989.5)

連続ひな誕生 人工増殖軌道に乗る(1991.4)

共存めざし めだかサミット市民らが企画(2000.7)

コウノトリに優しい環境を 無農薬農業目指す(2002.1)

育てドジョウ餌場づくりへ繁殖調査

(2003.4)

コウノトリ放鳥 見えなくなるまで見送る(2005.9)

コウノトリと共生もう1 度 住民らビオトープ造り(2006.2)

46 年ぶり巣立ち市民晴れ晴れ(2007.8)

コウノトリ農法 農 家100人学ぶ

(2009.2)

ラムサール歩いて理解 円山川下流域 豊岡市民ら特徴学ぶ(2011.5)

家 族 連 れ続 々 ひ な一般公開開始(1990.7)

新聞記事

農業分野

河川分野

コウノトリに係る科学分野

ステージ

社会的背景

地域の

出来事

地域社会分野

凡例行政

市民・社会

国土交通省

環境省

市民団体

民間組織

組生息環境の整備(山林:アカマツ植栽  、人工巣塔設置 等)(2003~) ビオトープづくり (1998~) 戸島湿地・田結地区の保全 (2008~)

環境教育(市民団体等による環境教育プログラム、体験活動の機会の提供     )(1998~)

環境調査(住民参加型生き物調査、餌場調査等)    (2006~10 )

イベント       (コウノトリ未来・国際かいぎ   )(1994、2000、2005、2010)(博覧会への出展 、フォーラムの開催 等)(2004) (シンポジウム開催  )(2006~10)

参加の啓発(コウノトリファンクラブ事業の推進 、コウノトリ自然博物館構想の推進 )(2004~)

普及啓発(ラムサール条約湿地登録に向けた住民勉強会)     (2008~10 )

情報発信(取り組み紹介ビデオ 、円山川水系紹介マップ ゚ 、ロゴマーク 、地域文化に関する書籍 ) (2011~)

取り組み主体の連携体制構築(コウノトリ野生復帰推進連絡協議会)(2003)

都市と農村の交流推進(パンフレット発行等によるコウノトリを象徴とした観光誘致 、市民農園 )(2003~ )

環境創造型農業    (2003~)「コウノトリ育む農法」の生産・流通・販売体制整備  (2005~)

生息環境の整備(湿地創出、魚道改良、水路の段差解消、河岸の緩傾斜化等    )(2003~)

・ツーリズムプログラム、環境学習の実施や企業の参加に向けた検討、生物多様性情報システムの構築(2011~)

・コウノトリの生息を可能にするワンドの 生物多様性の保全(2001~03)

・繁殖のための成鳥・幼鳥の 生態観察(1989~99)

・他施設からの移入と生態観察、ペアリング(1967~88) ・他の個体とのペアリング

(1998~02)

・野生復帰地での餌場の価値・再導入における生態・行動調査手法(2001~06)

・野生化の生態観察、放鳥方法の試験(2005~10)

野上地区の掘削 (1999)

餌場の確保(魚貝類の放流・増繁殖、        天然遡上アユ汲み上げ、外来魚駆除等  )(1971~ )

アイガモ農法  (1997~)

生息環境の整備(休耕田ビオトープ   )(1998~)(転作田ビオトープ 、 水田魚道づくり )(2001~) (水田・湿地の再生   )(2008~10 )

県 市県

市環

市県

市県 市

県 県

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

ステージ4:放鳥~野生復帰ステージ3:再導入に向けて

ステージ2:保護~増殖ステージ1:減少~絶滅

・放鳥個体の追跡、行動の類型化、モニタリングへの フィードバック・野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果・コウノトリの捕獲方法の比較と有効性・IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復 (2011~)

・飼育場での採卵と人工孵化・捕獲、人工飼育、生態観察、死因の分析・コウノトリ行動調査(1963~88)

・遺伝的解析・野生復帰のフィールドに おけるリスクの予測・有機塩素系化合物等が S30年代のコウノトリに 与えた影響把握・GISを用いた生息環境復元 のための分析(1999~01)

・人とコウノトリの環境史解明 ・但馬地域の地域開発、観光的取り組みに関する歴史的研究 ・環境保全型地域づくりの研究(2000~)

・ジオパークにおける基礎研究及び地域の関係性構築に関する研究(2010~)

・豊岡盆地に飛来したコウノトリの行動範囲と利用環境(2002~03)

・コウノトリの野生復帰の場としての 水田地帯の景観構造(2002)

・河川生物群集の保全、アンブレラ 種を指標とした地域資源化(2009)・再導入個体の生存可能性分析

・飼育下および野外コウノトリの 遺伝的多様性と繁殖計画・飼育情報の一元管理システム の開発(2012~)

・阪本勝兵庫県知事の呼びかけによる 「コウノトリ保護協賛会」、ドジョウ一匹運動(1955~62)

・旧室埴村、兵庫県による保護(鶴山)(1904~24)

M37(1904)

S30(1955)

S40(1965)

H元(1989)

H9(1997)

H10(1998)

H11(1999)

H12(2000)

H13(2001)

H14(2002)

H15(2003)

H16(2004)

H17(2005)

H18(2006)

H19(2007)

H20(2008)

H21(2009)

H22(2010)

H23(2011)

H24(2012)

→→→ →→→ →→→ →→→→→→→→→→→

文化財保護法(1950)

高度経済成長(1955~73)

特別天然記念物に指定(1956) 野生下で絶滅(1971) 初めてヒナ孵化(1989) コウノトリの郷公園開園(1999)野生個体「ハチゴロウ」飛来(2002)

野生復帰推進計画(2002)

台風23号(2004)コウノトリ放鳥(2005) 46年ぶりのヒナ巣立ち(2008) 世界ジオパーク認定(2010)ラムサール条約湿地登録(2012)

ブルントラント報告、持続可能な開発(1987)

日ロ渡り鳥条約(1988) レッドデータブック公表(日本版1989、兵庫県1995) 多自然川づくり基本指針、

有機農業推進法(2006)

第3次社会資本整備重点計画(2012)

河川水辺の国勢調査開始(1990)

ラムサール条約(1980)ワシントン条約(1973)ローマクラブ成長の限界(1972)

バブル崩壊(1991)

河川法改正(1997)COP3開催、京都議定書(1997) 環境保全活動・環境教育推進法(2003) 生物多様性基本法(2008)

CBD-COP10開催、愛知目標採択(2010)

リーマン・ショック(2008)

第2次社会資本整備重点計画(2009)

持続農業法(1999)

循環型社会形成推進基本法(2000)

自然再生推進法、鳥獣保護法(2002)失われた10年(1991~01)

新・生物多様性国家戦略(2002) 第三次生物多様性国家戦略(2007)生物多様性国家戦略2010(2010) 生物多様性国家戦略2012-2020(2012)

失われた20年(1991~12)

生物多様性条約、種の保存法(1992) 生物多様性国家戦略(1995)

環境と開発に関するリオ宣言(1992)

環境基本法(1993)

県 民

民市県 市県

市県 民

市県

・エコミュージアムに向けた科学 や地域の課題(2004~05)

兵庫県県

豊岡市市

農業基本法(1961)

36

Page 37: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

ひのそ島掘削 (2001~07)

全国では豊岡だけ 保護策を急げ

(1952.6)

天然記念物に 指 定 本県のコウノトリ

(1953.4)

コウノトリ受難つづく 保護対策も期待薄

(1961.3)

失敗続く人工ふ化

(1967.1)

苦難 24年実ったコウノトリ人 工 増 殖

(1989.5)

連続ひな誕生 人工増殖軌道に乗る(1991.4)

共存めざし めだかサミット市民らが企画(2000.7)

コウノトリに優しい環境を 無農薬農業目指す(2002.1)

育てドジョウ餌場づくりへ繁殖調査

(2003.4)

コウノトリ放鳥 見えなくなるまで見送る(2005.9)

コウノトリと共生もう1 度 住民らビオトープ造り(2006.2)

46 年ぶり巣立ち市民晴れ晴れ(2007.8)

コウノトリ農法 農 家100人学ぶ

(2009.2)

ラムサール歩いて理解 円山川下流域 豊岡市民ら特徴学ぶ(2011.5)

家 族 連 れ続 々 ひ な一般公開開始(1990.7)

新聞記事

農業分野

河川分野

コウノトリに係る科学分野

ステージ

社会的背景

地域の

出来事

地域社会分野

凡例行政

市民・社会

国土交通省

環境省

市民団体

民間組織

組生息環境の整備(山林:アカマツ植栽  、人工巣塔設置 等)(2003~) ビオトープづくり (1998~) 戸島湿地・田結地区の保全 (2008~)

環境教育(市民団体等による環境教育プログラム、体験活動の機会の提供     )(1998~)

環境調査(住民参加型生き物調査、餌場調査等)    (2006~10 )

イベント       (コウノトリ未来・国際かいぎ   )(1994、2000、2005、2010)(博覧会への出展 、フォーラムの開催 等)(2004) (シンポジウム開催  )(2006~10)

参加の啓発(コウノトリファンクラブ事業の推進 、コウノトリ自然博物館構想の推進 )(2004~)

普及啓発(ラムサール条約湿地登録に向けた住民勉強会)     (2008~10 )

情報発信(取り組み紹介ビデオ 、円山川水系紹介マップ ゚ 、ロゴマーク 、地域文化に関する書籍 ) (2011~)

取り組み主体の連携体制構築(コウノトリ野生復帰推進連絡協議会)(2003)

都市と農村の交流推進(パンフレット発行等によるコウノトリを象徴とした観光誘致 、市民農園 )(2003~ )

環境創造型農業    (2003~)「コウノトリ育む農法」の生産・流通・販売体制整備  (2005~)

生息環境の整備(湿地創出、魚道改良、水路の段差解消、河岸の緩傾斜化等    )(2003~)

・ツーリズムプログラム、環境学習の実施や企業の参加に向けた検討、生物多様性情報システムの構築(2011~)

・コウノトリの生息を可能にするワンドの 生物多様性の保全(2001~03)

・繁殖のための成鳥・幼鳥の 生態観察(1989~99)

・他施設からの移入と生態観察、ペアリング(1967~88) ・他の個体とのペアリング

(1998~02)

・野生復帰地での餌場の価値・再導入における生態・行動調査手法(2001~06)

・野生化の生態観察、放鳥方法の試験(2005~10)

野上地区の掘削 (1999)

餌場の確保(魚貝類の放流・増繁殖、        天然遡上アユ汲み上げ、外来魚駆除等  )(1971~ )

アイガモ農法  (1997~)

生息環境の整備(休耕田ビオトープ   )(1998~)(転作田ビオトープ 、 水田魚道づくり )(2001~) (水田・湿地の再生   )(2008~10 )

県 市県

市環

市県

市県 市

県 県

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

ステージ4:放鳥~野生復帰ステージ3:再導入に向けて

ステージ2:保護~増殖ステージ1:減少~絶滅

・放鳥個体の追跡、行動の類型化、モニタリングへの フィードバック・野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果・コウノトリの捕獲方法の比較と有効性・IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復 (2011~)

・飼育場での採卵と人工孵化・捕獲、人工飼育、生態観察、死因の分析・コウノトリ行動調査(1963~88)

・遺伝的解析・野生復帰のフィールドに おけるリスクの予測・有機塩素系化合物等が S30年代のコウノトリに 与えた影響把握・GISを用いた生息環境復元 のための分析(1999~01)

・人とコウノトリの環境史解明 ・但馬地域の地域開発、観光的取り組みに関する歴史的研究 ・環境保全型地域づくりの研究(2000~)

・ジオパークにおける基礎研究及び地域の関係性構築に関する研究(2010~)

・豊岡盆地に飛来したコウノトリの行動範囲と利用環境(2002~03)

・コウノトリの野生復帰の場としての 水田地帯の景観構造(2002)

・河川生物群集の保全、アンブレラ 種を指標とした地域資源化(2009)・再導入個体の生存可能性分析

・飼育下および野外コウノトリの 遺伝的多様性と繁殖計画・飼育情報の一元管理システム の開発(2012~)

・阪本勝兵庫県知事の呼びかけによる 「コウノトリ保護協賛会」、ドジョウ一匹運動(1955~62)

・旧室埴村、兵庫県による保護(鶴山)(1904~24)

M37(1904)

S30(1955)

S40(1965)

H元(1989)

H9(1997)

H10(1998)

H11(1999)

H12(2000)

H13(2001)

H14(2002)

H15(2003)

H16(2004)

H17(2005)

H18(2006)

H19(2007)

H20(2008)

H21(2009)

H22(2010)

H23(2011)

H24(2012)

→→→ →→→ →→→ →→→→→→→→→→→

文化財保護法(1950)

高度経済成長(1955~73)

特別天然記念物に指定(1956) 野生下で絶滅(1971) 初めてヒナ孵化(1989) コウノトリの郷公園開園(1999)野生個体「ハチゴロウ」飛来(2002)

野生復帰推進計画(2002)

台風23号(2004)コウノトリ放鳥(2005) 46年ぶりのヒナ巣立ち(2008) 世界ジオパーク認定(2010)ラムサール条約湿地登録(2012)

ブルントラント報告、持続可能な開発(1987)

日ロ渡り鳥条約(1988) レッドデータブック公表(日本版1989、兵庫県1995) 多自然川づくり基本指針、

有機農業推進法(2006)

第3次社会資本整備重点計画(2012)

河川水辺の国勢調査開始(1990)

ラムサール条約(1980)ワシントン条約(1973)ローマクラブ成長の限界(1972)

バブル崩壊(1991)

河川法改正(1997)COP3開催、京都議定書(1997) 環境保全活動・環境教育推進法(2003) 生物多様性基本法(2008)

CBD-COP10開催、愛知目標採択(2010)

リーマン・ショック(2008)

第2次社会資本整備重点計画(2009)

持続農業法(1999)

循環型社会形成推進基本法(2000)

自然再生推進法、鳥獣保護法(2002)失われた10年(1991~01)

新・生物多様性国家戦略(2002) 第三次生物多様性国家戦略(2007)生物多様性国家戦略2010(2010) 生物多様性国家戦略2012-2020(2012)

失われた20年(1991~12)

生物多様性条約、種の保存法(1992) 生物多様性国家戦略(1995)

環境と開発に関するリオ宣言(1992)

環境基本法(1993)

県 民

民市県 市県

市県 民

市県

・エコミュージアムに向けた科学 や地域の課題(2004~05)

兵庫県県

豊岡市市

農業基本法(1961)

37

Page 38: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

(潜在レベル)

年S40’65

……

……

H元’89

H9’97

H10’98

H11’99

H12’00

H13’01

H14’02

H15’03

H16’04

H17’05

H18’06

H19’07

H20’08

H21’09

H22’10

H23’11

H24’12

主な取り組み

他分野の関連する取り組み

社会的背景

地域のできごと

(顕在レベル)

(潜在レベル)

影響影響 影響

各分野の取り組み年表イメージ

各分野の資料構成

■背景

・コウノトリの野生復帰及びそれに関わる地域づくりにおける各分野の背景を整理する。

■取り組みの経緯

・各分野における取り組みの経緯及び実績を時系列的に整理する。

■人々の意識

・各分野における取り組みに関連した人々の意識やその変化について整理する。

■地域社会への波及効果

・各分野における取り組みが地域社会に与えた波及効果(経済効果、観光効果)について整理する。

■課題

・以上の整理から見た課題を示す。

■年表・各分野の取り組み経緯を年表にまとめる。

38

Page 39: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

1) コウノトリに係る科学分野

i) 背 景

 昭和46(1971)年、江戸時代には日本各地に生息していたコウノトリが野生下で絶滅した。

 コウノトリは明治時代になって乱獲により生息数を減少させていった。兵庫県北部の但馬地方では、

明治37(1904)年から旧室埴村(現豊岡市出石町)や兵庫県などが保護行政を行い、S9(1934)年には

20ペアが確認された。しかし、第2次世界大戦中の松の大量伐採による営巣木の消失や、渡りルートが

戦地となって消失した結果、S25(1950)年の調査では2ペアが確認されるのみとなった。その後、昭和

30(1955)年には、阪本勝兵庫県知事(当時)の呼びかけで「コウノトリ保護協賛会」(後の但馬コウノ

トリ保存会)が発足し、官民一体となった本格的なコウノトリ保護活動が始まった。ドジョウ一匹運動、

保護基金活動などにより、一時的に生息数は増加し、S31(1956)年には23個体が確認されたが、農業

の近代化、効率化に伴い、不適切な農薬・肥料の使用、経済性や効率性を優先した農地・水路の整備

など一部の農業の活動が生物多様性に負の影響を与えた結果、餌場に適した湿田が消失し、餌生物も

減少した。また、農薬によるコウノトリ自身の健康被害や、個体数減少による遺伝的多様性の喪失もあっ

て生息数は急激に減少し、S39(1964)年には、わずか12個体となっていた。

ii) 取り組みの経緯(表 2.1-1)

捕獲と人工飼育から人工繁殖へ

 S38(1963)年兵庫県は、コウノトリという種の保存を目的に、人工飼育に踏み切ることを決意した。

S40(1965)年、豊岡市に生息していた1ペアを捕獲して「コウノトリ飼育場」で人工飼育を開始し、保護

増殖事業がスタートした。しかし、捕獲したコウノトリの繁殖は成功せず、

当地方に生息していた野生のコウノトリもS46(1971)年に最後の1個体を

捕獲するに至り、日本のコウノト

リは野生下で絶滅し、危機的な

状態が続いた。

 この、S38 (1963)年からの主

な研究には、飼育場での採卵と

人工孵化、捕獲、人工飼育、生

態観察や死因の分析、コウノトリ

の行動調査などがある。捕獲されたコウノトリの飼育ケージ 野生最後として捕獲された

コウノトリ

昭和 35 年の豊岡市の風景((有)富士光芸社) 小、中学生が捕えコウノトリ保存会に届けた無数のドジョウ出典:平成 13 年度要覧(コウノトリの郷公園)出典:朝日新聞(1962.11.3)

出典:朝日新聞(1965.2 .17)出典:朝日新聞(1971.5.26)

39

Page 40: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

人工孵化成功から繁殖技術の確立へ

 その後S60(1985)年に旧ソ連(現ロシア共和国)ハバロフスク地方から幼鳥6個体が受贈されたことに

よって、コウノトリ保護増殖事業に大きな転機が訪れた。幼鳥が繁殖年齢に達したH元(1989)年に、コウ

ノトリ飼育場で初めて繁殖に成功し、その後、毎年繁殖に成功するようになったのである。H4(1992)年

には、コウノトリの飼育場がコウノトリ保護増殖センターに改称された。また、同年に「コウノトリ野生復帰

調査委員会」が設けられ、コウノトリの野生復帰の模索が始まった。

 この S60(1985)年からH10(1998)年までの主な研究には、他施設からの移入と生態観察、ペアリング、

繁殖のための成鳥・幼鳥の生態観察などがあげられる。

兵庫県立コウノトリの郷公園を拠点とする野生復帰に向けた研究

 H11(1999)年に、野生復帰の拠点となる施設として、県立大学併設の研究機関「兵庫県立コウノトリの

郷公園」(以下「コウノトリの郷公園」)が開園し、コウノトリの保護・増殖及び野生復帰に向けた研究と実践

が進められるようになった。

 コウノトリの野生復帰とは、豊岡盆地周辺に、再び自立した個体群を確立しようとするものである。その

取り組みは、かつての生息環境の破壊と改変、農薬使用などによる餌生物の減少、健康被害などコウノト

リの減少要因を取り除き、生息環境を再創造する自然再生事業としての性格を持っている。

 このような視点に基づき、H11 (1999)年からH13(2001)年までに行われた主な研究には、遺伝的解析、

野生復帰のフィールドにおけるリスクの予測、有機塩素系化合物等が昭和30年代のコウノトリに与えた影響

把握、GISを用いた生息環境復元のための分析などがあげられる。また、自然再生事業に関連する社会科

学的な分野についても、人とコウノトリの環境史解明や但馬地域の地域開発、観光的取り組みに関する歴

史的研究、環境保全型地域づくりの研究などがH12(2000)年から着手され、地域づくりにも活かされている。

ハバロフスクからやってきたコウノトリ 初めての人工増殖成功

空から見たコウノトリの郷公園出典:平成 13 年度要覧(コウノトリの郷公園)

ケージ内のつがいとヒナ出典:平成 12 年度要覧(コウノトリの郷公園)

出典:読売新聞(1985.7.28) 出典:神戸新聞(1989.5.17)

40

Page 41: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

自然再生事業の着手から放鳥へ

 コウノトリの野生復帰は、コウノトリの生息を可能にさせていた人々の営みや自然との関わりの見直し、人

と自然の関わりの創り直し、里の鳥だったコウノトリを通してのライフスタイルの見直しなどを含む「地域再生」

の試みでもある。こうした考えに基づき、研究はコウノトリの「増殖技術」、コウノトリが生息可能な「自然環

境の再生」、人とコウノトリとの関わりの再創造などの「社会環境」という三つの課題を明確に設定して進め

られた。一方、河川やほ場などさまざまな環境整備や環境創造型農業の取り組み等が進められる中、H14

(2002)年にコウノトリの郷公園における飼育個体数が100個体を超え、同年8月に野生コウノトリ「ハチゴ

ロウ」が豊岡地域に飛来したことによって、野生復帰をめざす環境における行動観察を行うことができた。

翌年H15(2003)年には「コウノトリ野生復帰推進計画」が策定され、H17(2005)年9月24日、5個体を試

験的に放鳥し、野生復帰事業が本格的にスタートした。

 このような中、H13 (2001)年からH18(2006)年の間に行われた主な研究は、コウノトリの生息を可能

にするワンドの生物多様性の保全、野生復帰地での餌場の価値、再導入における生態・行動調査手法、

豊岡盆地に飛来したコウノトリの行動範囲と利用環境、エコミュージアムに向けた科学や地域の課題、野

生下の生態観察、放鳥方法の試験などがあげられる。

野生での繁殖から地域との共生へ

 H17(2005)年に放鳥した個体は、翌年につがいを形成し、人工巣塔で38年ぶりに野外での産卵を行ったが、孵化には至らなかった。H19(2007)年7月に野生下では46年ぶりとなるヒナの孵化と巣立ちが見られ、

以降毎年連続してヒナが巣立っている。

図 2.1-2 コウノトリに関する研究論文数

論文数(件)

豊岡市学術研究補助制度コウノトリの郷公園学術論文

30

25

20

15

10

5

0

7

5

4

’99

9

’00

9

’01

9

’02

12

’032

’04

5

6

’0514

’06

5

5

’07

4

6

’08

5

’09

5

9

’10

7

8

’11

14

’12 年

18

出典:コウノトリの郷公園提供資料、豊岡市提供資料

野生コウノトリ「ハチゴロウ」の飛来(H14 年 8 月) 試験放鳥の開始(H17 年 9 月 24 日 郷公園)出典:開園 10 周年記念誌(2009.10) 出典:開園 10 周年記念誌(2009.10)

41

Page 42: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

 コウノトリの野生復帰を進めるためには、コウノトリの生

活要求に沿った特定の場所だけでなく、人間の生活地域

全体を環境修復の対象に含めなければならず、それを支

える社会環境の構築が重要である。コウノトリの野生復帰

事業を推進する上で大きな役割を果たしてきたのが、さま

ざまな案件や事業を方向付ける合意形成の場となった「コ

ウノトリ野生復帰推進連絡協議会」である。また、絶滅危

惧種や生物多様性の保全と地域住民が指向する価値観

の整合が図られた総合的な施策を用意するなど、両者の

矛盾を回避する試みが行われてきた。「コウノトリ育む農法」

は安全安心な米と生き物を同時に育む農法と定義され、その延長として豊岡市は「環境経済戦略」を策定

し、地域の産業を低負荷・循環型に誘導することで、野生復帰推進計画で掲げられている「コウノトリも

住める街」という理念を実現しようとしている。

 このように、コウノトリの郷公園におけるコウノトリの野生復帰を実現する実践的な研究は、「レジデント

型研究機関」として、地域課題の解決の意思決定に影響を及ぼす側面も持ちながら進められてきた。H19

(2007)年から現在に至る主な研究には、H21(2009)年の河川生物群集の保全、アンブレラ種を指標に

した生物群集の復元、H22 (2010)年はコウノトリの野生復帰を軸にした地域資源化、ジオパークにおけ

る基礎研究及び地域の関係性構築に関する研究、H23 (2011)年からは、放鳥個体の追跡・行動の類

型化・モニタリングへのフィードバック、野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果、コウノトリの捕獲

方法の比較と有効性、IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復、H24 (2012)年からの再導入

個体の生存可能性分析、飼育下及び野外コウノトリの遺伝的多様性と繁殖計画、飼育情報の一元管理シ

ステムの開発などがある。

図 2.1-3 コウノトリ繁殖数

40

35

30

25

20

15

10

2 0 15

0

繁殖数

産卵 巣立ち

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

6

20

8

32

9

33

9

33

9

30

14

出典:コウノトリの郷公園提供資料

ヒナの巣立ち(H20 年 6 月 百合地人工巣塔)出典:開園 10 周年記念誌(2009.10)

42

Page 43: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

iii) 課題

・数少ない家系の子孫が野外に生息しているので、遺伝的な多様性が確保できていない。今後、十分配

慮した対策を講じていかないと遺伝的劣化による個体群の壊滅が生じる恐れがある。

・これまで、市民が善意で野外個体に給餌を行ったことがあったが、野生復帰を達成するには、野生動

物の子は大半が死ぬものであり、コウノトリも適切に淘汰されることが必要であるとの認識を広める

必要がある。

・野生動物が人に近づきすぎることによる危険性を社会に周知する必要がある。給餌等によりコウノト

リが人馴れした場合、例えば、近づいた子どもが目をつつかれて失明するといった恐れがある。また、

コウノトリが鳥インフルエンザに代表されるような病原体を持つ可能性もある。

・将来、野生個体が大幅に増えていった場合、現在、鹿やカワウなどで問題となっているように、人や

生物との軋轢が大きくなり、再び「害鳥」と扱われるようになる可能性がある。

・コウノトリが自立して生活し、繁殖していける餌量を確保するには、淡水魚類群集の復活が欠かせな

いが、豊岡地域の水田・河川・水路における現存量調査、そして魚類等の再生産および、適度に食わ

れ適度に生き延びるのに必要な自然再生計画を策定するために必要な調査は始まったばかりである。

また、河川は流域全体でとらえることが大事であり、ハビタットや栄養塩(植物プランクトン等の生長・

増殖に必要な窒素・リン等の無機塩類)の動態について、行政管轄を超えた視点で評価する必要がある。

・魚類の生息環境改善を行うには、魚道設置など個別の取り組みだけではなく、魚類の生活史を視野に

入れ、農業・漁業との両立をめざす総合的な対策を検討する必要がある。

・環境教育の効果をより一層高めていくためには、市民団体とコウノトリの郷公園が連携を深めて、戦

略的に進めていく必要がある。

コウノトリをアンブレラ種とした環境修復の概念図(「農業生態系の修復:コウノトリの野生復帰を旗印に」内藤和明・池田 啓 2009)

過去と現在の比較により修復目標を決定する流れ図(「農業生態系の修復:コウノトリの野生復帰を旗印に」内藤和明・池田 啓 2009)

生物多様性の回復、維持循環型社会の実現

環境の創造的復元

現在の環境

人の生活様式の変化による環境へのインパクトの増大

コウノトリがすんでいたかつての環境

生息地の分断と破壊

43

Page 44: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

年度M37 →→→ S30 →→→ S40 →→→ H 元 →→→ H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

'04 '55 '65 '89 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12

主な取り組み

地域社会分野

農業分野

河川分野

社会的背景

地域のできごと

表 2.1-1 コウノトリに係る科学分野に関連する取り組み年表

(M37~S13)・旧室埴村、兵庫県による保護(鶴山) 繁殖のための成鳥・幼鳥の生態観察

他の個体とのペアリング

人とコウノトリの環境史解明 ・但馬地域の地域開発、観光的取り組みに関する歴史的研究 ・環境保全型地域づくりの研究

コウノトリの生息を可能にするワンドの生物多様性の保全

豊岡盆地に飛来したコウノトリの行動範囲と利用環境

コウノトリの野生復帰の場としての水田地帯の景観構造

エコミュージアムに向けた科学や地域の課題

野生化の生態観察、放鳥方法の試験

ジオパークにおける基礎研究及び地域の関係性構築に関する研究

生物多様性情報システムの構築

コウノトリのモニタリング【パークボランティア】

コウノトリと共生する水田自然再生事業開始(中干し延期・冬季湛水、転作田ビオトープ)【県】

ひのそ島改修検討会【学、民、国、県】ひのそ島掘削工事【国】

自然再生計画策定【国、県】

再導入個体の生存可能性分析飼育下および野外コウノトリの遺伝的多様性と繁殖計画

飼育情報の一元管理システムの開発

野生復帰地での餌場の価値再導入における生態・行動調査手法

河川生物群集の保全、アンブレラ種を指標とした地域資源化

遺伝的解析野生復帰のフィールドにおけるリスクの予測有機塩素系化合物等がS30年代のコウノトリに与えた影響把握GISを用いた生息環境復元のための分析

(S30~S37)・阪本勝兵庫県知事の呼びかけによる「コウノトリ保護協賛会」、ドジョウ一匹運動

(S38~S63)飼育場での採卵と人工孵化捕獲、人工飼育、生態観察、死因の分析コウノトリ行動調査

(S42~S63)他施設からの移入と生態観察、ペアリング

放鳥個体の追跡、行動の類型化、モニタリングへのフィードバック、野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果コウノトリの捕獲方法の比較と有効性、IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復

ローマクラブ成長の   限界(S47)●

第三次生物多様性国家戦略(H19)●

生物多様性国家戦略2010(H22)●

COP10開催、愛知目標採択(H22)●生物多様性国家戦略2012-2020(H24)●

生物多様性基本法(H20)●

●多自然川づくり基本指針、有機農業法(H18)●環境保全活動・環境教育推進法(H15)●河川水辺の国勢調査開始(H2)

●生物多様性条約、種の保存法(H4)●環境と開発に関するリオ宣言(H4)

●河川法(H9)●COP3開催、京都議定書(H9)

●持続農業法(H11)

●循環型社会形成推進基本法(H12)●新・生物多様性国家戦略(H14)●生物多様性国家戦略(H7)

ワシントン条約(S48)●ラムサール条約(S55)●

●ブルントラント報告、持続可能な開発(S62)●日ロ渡り鳥条約(S63)

●農業基本法(S36) ●自然再生推進法、鳥獣保護法(H14)●レッドデータブック公表(日本版H元、兵庫県H7)●文化財保護法(S25)

●特別天然記念物に指定(S31)

●野生下で絶滅(S46)

●初めてヒナ孵化(H元)野生復帰推進計画(H14)●

●コウノトリの郷公園開園(H11)

●「ハチゴロウ」飛来(H14)●台風23号(H16)

●郷公園に放鳥(H17)●46年ぶりのヒナ巣立ち(H19)

●世界ジオ パーク認定 (H22)

ラムサール条約登録(H24)●

注 1)表中の赤線は影響を及ぼしたと   考えられるものを示す。注 2)取り組み主体の略字は以下を示す。 国:国土交通省  県:兵庫県 民:市民  学:大学

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2) 河川分野

i) 背 景

 円山川は多くの恵みをもたらす一方で、洪水

が豊岡盆地に集中しやすく、また豊岡盆地より

下流の勾配が非常に緩やかで、洪水が流下し

にくい地形となっているため、大雨が降るとた

びたび洪水被害を発生させてきた。近年では、

昭和34(1959)年の伊勢湾台風で16,833戸が

浸水、平成2(1990)年の秋雨前線と台風19号

では2,508戸が浸水、H16(2004)年台風23号

では円山川・出石川の堤防が相次いで決壊し、

死者7名、負傷者51名、浸水家屋7,944戸の

未曾有の大水害が発生した(表2.1-2)。

 そのため、国は豊岡市の市街地を抱える下流

部では、現在の河道の原型となる流路変更を大

正9(1920)年~S12(1937)年に実施し、その

後長い年月を経て堤防の嵩上げ等の改修を進

めてきた。

 その結果、治水安全度が向上する一方、川

は単一的な空間となり、生物の生息・生育環

境の多様性が損なわれてきた。

表 2.1-2 主要洪水の要因と被害状況

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)出典:円山川流域の概要(S63.3、建設省河川局)(S34.9 洪水)    出水報告(S36.9 洪水)    水害統計(S47.7 洪水、S51.9 洪水、S54.10 洪水、H2.9 洪水)   但馬県民局調べ(H16.10 洪水(H17.3 時点)、H21.8 洪水) ※平成 16 年の浸水家屋は、全半壊・一部損壊を含む ※立野地点観測流量で括弧書きの数値は氾濫戻し流量

洪水発生年月日 生起要因流域平均2日雨量(mm)

立野地点観測水位(m)

立野地点観測流量(㎥ /s)

被害状況

浸水家屋(戸) 浸水面積(ha)

昭和34年9月26日 伊勢湾台風 253 7.423,043

(4,500)16,833 16,926

昭和36年9月16日 第2室戸台風 184 6.86 2,624 1,933 2,303

昭和47年7月12日梅雨前線及び台風6号

233 6.75 2,786 749 1,715

昭和51年9月10日 台風17号 322 6.92 2,595 2,855 2,115

昭和54年10月19日 台風20号 211 6.74 2,461 610 185

平成2年9月20日 台風19号 364 7.13 3,064 2,212 1,923

平成16年10月20日 台風23号 278 8.294,127

(4,900)7,944 4,083

平成21年8月9日 台風9号 188 6.21 3,090 77 346

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)

大正~昭和初期の改修(大磯の大曲のショートカット)

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)

伊勢湾台風(昭和34年)

45

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ii) 取り組みの経緯(表 2.1-3)

野上地区における湿地の出現

 国土交通省が本格的に自然再生事業を開始する以前、H11(1999)年の梅雨前線による出水で被災し

た円山川下流部左岸(一日市地区)の護岸工事が行われた。同時に、出水時の水の流れを変えて、当地

区の護岸に衝突する水の勢いを弱めるため、対岸の野上地先で高水敷の掘削工事が行われた。平常時

の河川水位より高い部分のみ掘削したことで、結果として約1.4km面積約5haの湿地が出現し、サギなど

の絶好の餌場になった。この工事は湿地再生を主眼としたものではなかったが、コウノトリの野生復帰を目

指す関係者の間で「餌場確保の大きなヒント」となる出来事であった。

ひのそ島の半分を保全

 一方、治水対策として下流部の中ノ島、菊屋島などの大きな中州が掘削され、河口から6km付近にあ

る長さ約1.4km、面積約1.6haの「ひのそ島」についても、H4(1992)年度から全島掘削計画のもと用地

買収が行われてきた。しかし、環境調査により周辺で貴重な植物や魚類の生息が確認され、更にH9(1997)

年の河川法改正で、治水・利水に加え、河川環境の整備と保全が河川行政の目的に位置付けられるよう

になるなど、社会の環境意識の高まりを背景に、掘削のあり方について学識経験者や地元住民・漁業関

係者、行政による検討会が発足した。検討会では治水と環境という、相反するテーマについて多角的な

視点で議論を重ね、島の面積の半分(断面積では3/4)を掘削し、その他は湿地として残すことを決定し、

H19(2007)年にかけて工事を行った。

出典:毎日新聞(2000.9.1) 出典:豊岡河川国道事務所提供資料

野上地区の湿地

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと(2012.3) 出典:コウノトリ野生復帰のあしあと(2012.3)

掘削前 掘削後

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コウノトリ野生復帰本格化への対応

 豊岡地域ではH14(2002)年に省庁や自治体等の関

係機関による「コウノトリ野生復帰推進協議会」が設立さ

れ、「コウノトリ野生復帰推進計画」を策定し、コウノトリ

野生復帰に向けた動きが本格化してきた。同じ頃、自然

再生推進法が制定されたこともあり、国土交通省と兵庫

県は、コウノトリをシンボルとした地域づくりを進めるため、

「円山川水系自然再生計画」の検討を始めた。

台風 23号による被害と自然再生への取り組みの推進

 それから間もないH16(2004)年、台風23号による堤防決壊により豊岡盆地に未曾有の被害がもたらさ

れた。これに対し国は、河川激甚災害対策特別緊急事業を採択し、緊急治水対策を開始した。このよう

な状況を踏まえ、コウノトリ野生復帰に向けた地域の取り組みと円山川の治水対策と合わせて、河川環境

の再生を目指すものとして「円山川水系自然再生計画」が、国土交通省及び兵庫県によりH17(2005)年

に策定され、それに基づいて自然再生事業が進められてきた(図2.1-4)。

出典:近畿地方整備局 事業評価監視委員会 平成 25 年度第3回 円山川総合水系環境整備事業【再評価】(2013.11)

図 2.1-4 円山川自然再生事業(国土交通省管理区間)

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)

平成16年10月洪水(台風23号)

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「円山川水系自然再生計画」で設定された4つの目標

①特徴的な自然環境の保全・再生・創出

 物理環境や生物の生息・生育状況をモニタリングし、治水工事などによる影響把握を行うとともに、植

生が繁茂できる護岸への改築などの多自然化工事を行ってきた。

出典:平成 24 年度円山川自然再生事業分析評価業務報告書(2013.3)

※H 24 年度調査は定性・定量調査の合計値を用いている

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)出典:豊岡河川国道事務所提供資料

図 2.1-6 湿地整備後の魚類の確認状況(加陽地区)

図 2.1-5 円山川の河川区域内(国管理区間)の湿地面積の推移

400(個体)

350

300

250

200

150

100

50

開放型湿地(上流)①

0

平成22年度 平成23年度 平成24年度

94

224

185

開放型湿地(下流)②

123153

397

木工沈床施工箇所③

101

175

329

下流流水域(対照区)

6135

112

開放型湿地(試験地)

245

閉鎖型湿地(上流上)

70

閉鎖型湿地(上流下)

⑦126

閉鎖型湿地(下流)

31

三木川

54

定量調査により確認された魚類の個体数

湿地再生(加陽地区)300

250

200

150

100

50

01898 32 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年度

湿地

面積

(ha

対策前の湿地 治水事業による湿地 自然再生事業による湿地

281

15482

3

82 75

31

72

39 48

71

50

71

50

71

50

71

50

71

古い 1/50,000 地形図から堤防(河川区域)を確定させ、その範囲内の湿地を机上で測定した。1932(S7)年と 1950(S25)年は同値であった。

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②湿地環境の再生・創出

 これまでの治水対策や土砂堆積、河道内の耕地化によって、昭和初期に比べ半減した湿地環境を、水際

部の掘削や緩勾配化によって再生・創出してきた。加陽地区などで大規模な湿地を再生するなど、円山川

の湿地面積は徐々に増加している(図 2.1-5)。また、自然再生した箇所では、対照区(改変を行っていな

い近傍の地点)よりも魚類の個体数が多く確認され、魚類の良好な生息環境となっている(図 2.1-6)。こ

れらの取り組みにより湿地整備を行った箇所を中心に、円山川にコウノトリが多数飛来する姿が見られる

ようになった(図 2.1-7)。

③水生生物の生態を考慮した河川の連続性の確保

 多くの堰や樋門・樋管によって、かつてのよう

な上下流及び本川・支川・水路間の水生生物の

移動が制限されていることに対し、魚道の改善や

河川と水路の接続部を階段或いはスロープ状に

し、落差の解消を図ることによって、水生生物が

移動できる構造としてきた。

④人と河川との関わりの保全・再生・創出

 近年、人々の生活形態が変化し、日常生活の

中で川を訪れる機会が減少していることに対し、

国土交通省や兵庫県では河川環境や自然再生を

テーマとした講座などを実施してきた。また、豊

岡市ではH20(2008)年から小学校で「川の体験

活動」を実施してきた。

出典:地域活性化を支援する円山川自然再生の効果検証(2011 神谷)

出典:地域活性化を支援する円山川自然再生の効果検証(2011 神谷)

出典:円山川水系河川整備計画(2013.3)

出典:近畿地方整備局事業評価監視委員会 平成25年度第3回資料

図 2.1-7 円山川へのコウノトリ飛来状況(H24 秋季・冬季各 4 日連続調査)

200

180

160

140

120

100

80

60

40

20

湿地整備済み 湿地整備中H24

その他

確認回数

円山川・堀川橋上流に飛来した17個体のコウノトリ

かつての原風景の再現(新聞記事)

河川の連続性の確保

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地域と連携した水辺の再生

 日本海に面した田結地区を流れる田結川周辺では、過疎化や耕地整理が進まないなどの理由で、田ん

ぼが耕作放棄され荒れ地となりつつあった。H20(2008)年に、「ハチゴロウの戸島湿地」で営巣していた

コウノトリが飛来したことをきっかけに、地元や外部の市民グループ、豊岡市、大学などの専門家が共同

で放棄田の自然再生に取り組み始めた。この取り組みに兵庫県も同調し、出水時の遊水池や沈砂池の機

能をもたせつつ、平常時は河川から水を引き込んで湿地とする災害防止と自然再生(湿地化)を一体的に

した整備を行うなど、コウノトリの採餌場の創出に取り組んできた。

 円山川の支川出石川の沿川は、かつてはコウノトリの営巣を見物した「鶴山(つるやま)」があり、コウノ

トリが川や田んぼで採餌する姿が見られた地域である。出石川沿川の加陽地区では、コウノトリの生息拠

点となることを目指し、国土交通省、兵庫県、豊岡市、地域住民、NPO、漁協など様々な主体が同所的

に取り組む川づくりが進められている。国土交通省では湿地の再生、県では出石川での瀬淵の再生、市

では地域住民と連携した管理計画づくりや小学校・NPOと連携した環境学習会の開催などが行われてい

る。湿地の再生では、地域のアイデアを得ながら、蛇行河川の再生、開放型や閉鎖型の湿地再生、支

川の水や山の伏流水の活用など、複数の再生技術を適用しており、地域住民が参加する生物モニタリン

グ調査結果を見ながら、施工方法や整備形状を順応的に見直していく進め方を取り入れている。

iii) 人々の意識

 「ひのそ島」掘削工事では、当初、地元の区長から「虫と人間の命とどっちが大切なんだ」

といった意見や、漁協から「掘削して土質の成分が変われば、漁業ができなくなるが、ど

う補償してくれるのか」という意見が出るなど、反対意見もないわけではなかった。それ

に対し、国土交通省はシミュレーション結果を用いて、生態系に影響が出ないことなどを

根気よく説明し、最終的に合意を得ることができたが、その背景には地元の人達の辛抱

や区長達の地元における信頼による所が大きかった可能性がある。

 一方、近年においては、「ひのそ島」や加陽地区などで地元の小中学校と連携し、魚類

のモニタリング調査や環境教育を行うなど、市民の環境に対する理解の醸成を図っている。

 

iv) 地域社会への波及効果

・豊岡地域では、国土交通省による円山川自然再生事業及び兵庫県による河川の自然再生事業が進め

られており、事業費はそれぞれ約45億円(2019年まで)、約3億円(2012年まで)の合計48億円である。

・湿地再生にかかる整備は、生産誘発係数1.266の経済波及効果をもたらすとされており(大沼・山本

(2009))、これを自然再生事業にあてはめると約60億円の経済波及効果が生じるものと推計される。

・一方、 国 土 交 通 省による円山川自然 再 生 事 業については、 仮 想 市 場 法(CVM: Contingent

Valuation Method)を用いた自然再生の便益が推計されており、1世帯あたり年間約6,700円の支

払意思(WTP)があり、1年あたりでは約4億円の経済的価値があると評価されている。

・また、事業の費用対効果(B/C)は2.0と評価されている。

 

v) 課題

・人工的に造成した湿地は、そのまま放置すると植生が繁茂するなど、湿地としての機能が劣化してい

くため、定期的に維持管理を行う必要がある。一方、我が国の財政事情を踏まえると、今後、維持管

理を行政だけで行っていくことには限界があるため、市民との連携が必要であり、維持管理活動に地

域社会が継続的に係わっていく体制をつくることが必要である。

地元小学校との連携によるモニタリング調査出典:平成24年度円山川自然再生事業分析評価業務 報告書(H25.3)

50

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表 2.1-3 河川分野に関連する取り組み年表

注 1)表中の赤線は影響を及ぼしたと考えられるものを示す。注 2)取り組み主体の略字は以下を示す。   国:国土交通省 県:兵庫県   市:豊岡市 民:市民   学:大学 漁協:漁業協同組合

年度H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24'97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12

主な取り組み

科学分野

農業分野

地域社会分野

社会的背景

地域のできごと

河川改修(湿地出現:円山川・野上地区)【国】

自然再生護岸(円山川・城崎地区)【国】

自然再生計画策定【国 、県】

湿地改良(円山川中流)【国】

湿地再生(出石川・加陽地区)【国】

連続性の確保(円山川・八代水門)【国】

モニタリング【国、民】

魚道整備・樋門段差改修工事(六方川、出石川、鎌谷川)【県】

緩傾斜護岸工事(鎌谷川)【県】

田結川整備【県】

田結地区の放棄田で自然再生【民、市、県、学】

●多自然川づくり基本指針(H18)

第 3 次社会資本整備重点計画(H24)●ラムサール条約登録(H24)●

生物多様性国家戦略 2012-2020(H24)●生物多様性国家戦略 2010(H22)●

●第三次生物多様性国家戦略(H19)

リーマン・ショック(H20)●

●「ハチゴロウ」飛来(H14)●コウノトリの郷公園開園(H11)

●放鳥(H17)

戸島湿地の運営管理・環境教育・普及啓発【コウノトリ湿地ネット】

ひのそ島掘削工事【国】

●河川法改正(H9)

野生復帰推進計画(H14)●

環境保全活動・環境教育推進法(H15)●

野生復帰のフィールドにおけるリスクの予測有機塩素系化合物等が S30 年代のコウノトリに与えた影響把握GIS を用いた生息環境復元のための分析

コウノトリの生息を可能にするワンドの生物多様性の保全

野生復帰地での餌場の価値再導入における生態・行動調査手法

●台風 23 号(H16)

●新・生物多様性国家戦略(H14)

河川激甚災害対策特別緊急事業による河道掘削に併せて湿地創出【国】

水田魚道設置【県】

地域と連携したモニタリング調査【県、民】

自然再生をテーマに出前講座【県、国、民】

魚介類放流、産卵場造成、ビオトープへの放流、外来魚駆除、漁場監視・河川環境保護【漁協】

ひのそ島改修検討会【学、民、国、県】

湿地改良試験(円山川・野上地区、中流)【国】

環境遷移帯創出(出石川合流点部)【国】

河岸・河床の多自然化等工事(六方川、鎌谷川、馬路川)【県】

小学校で川の体験活動実施【市、民】

●自然再生推進法(H14)第 2 次社会資本整備重点計画(H21)●

51

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表 2.1-4 河川分野における公共政策のまとめ

H17(2005)

河川法改正

コウノトリの郷公園開園

ステージ 社会的背景 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした

代表的な事象

「ハチゴロウ」飛来自然再生事業の創設

台風23号災害による激特事業開始

コウノトリ放鳥

多自然川づくり基本指針

ラムサール条約湿地登録

環境保全活動・環境教育推進法

自然再生推進法

CBD-COP3、京都会議

◯治水と環境保全が両立し、地域に受け入れられる河川整備(ひのそ島の掘削方法の確定)

生物多様性基本法リーマン・ショック

CBD-COP10愛知目標採択

生物多様性国家戦略

○ひのそ島全島掘削案に対して、全島掘削による治水安全度向上を強く望む地域住民が少なくない一方で、社会の環境意識の高まりを背景に掘削のあり方が焦点に。

○本来相反する治水と環境保全の両立について暗中模索の状態。

○ひのそ島ではこれまでの国等による調査で貴重な動植物が確認。

○「ひのそ島改修検討会」を組織。委員はひのそ島の元地権者や漁協 , 生物・河川の専門家等 , 治水と環境保全双方の立場を含む形で構成。

○掘削方法の違いによる変化予測を3次元流動計算やフォトモンタージュ等を用いて具体イメージ化。

○「ひのそ島改修検討会」では、治水と環境保全の歩み寄りの議論がなされ、貴重動植物の生育・生息環境に配慮した形状として断面積で3/4 掘削で一応の決着。

○検討会が、治水と環境保全の歩み寄りやステークホルダーの理解を得る議論の方法として一つの先例となった。

・水田魚道整備による河川と水田のネットワークの形成(継続中)

コウノトリ野生復 帰 推 進 計画、コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想

円山川水系河川整備基本方針策定

野生復帰グランドデザイン策定

コウノトリ野生復帰推進計画(2期)策定

目標1目標 11

目標 11

目標1目標 2

国・県

国・県

国・県

国目標1目標 2

目標1目標 2目標 11

ステージ3:再導入に向けて

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

河川における自然再生の先例的な扱いであり、全国的に先例や知見が少ない状態での検討であった

円山川水系河川整備計画の検討・策定(流域住民の意見を反映させた計画の策定)

円山川水系自然再生計画書に基づく自然再生の着実な実施

治水一辺倒にならずに自然環境の保全・再生も織り込んだ検討が求められた

○自然再生事業の順応的な実施を図り評価するため、「円山川水系自然再生計画検討委員会」を「円山川水系自然再生推進委員会」に改組

◯大規模湿地再生(出石川・加陽地区)、高水敷掘削による湿地再生、魚道改良、水路の段差解消、河岸の緩傾斜化等を実施

19 回に及ぶ公開での流域委員会の開催、オープンフォーラムの開催、ニュースレターの発行などにより、多様な意見を把握し、計画に反映

◯激特事業による河道掘削・築堤・内水対策・橋梁架替・堰改築等に合わせて湿地の創出を実施

◯治水と環境(湿地整備)を両立する遊水地の整備(事業中)

H16台風23号の甚大被害を受けながらも自然環境の保全・再生・創出に関する機運は冷めず、「円山川水系自然再生計画書(H17.11)が国・県の共同により策定

湿地再生による湿地面積の増加。整備した湿地にコウノトリが飛来・採餌

◯激特事業により、H16洪水と同程度の洪水に対してHWLまで低下させる対策を講じることができた。

◯治水工事による湿地面積の増加。整備した湿地にコウノトリが飛来・採餌

○国・県の河川部局の共同体制の構築

◯コウノトリ野生復帰推進協議会と目標を共有

○豊岡市、コウノトリ生息地保全協議会による湿地の保全・管理◯小学校の環境学習のフィールドとしての利用

自然再生計画を織り込む形で河川整備計画を策定(H25.2)

○「円山川水系自然再生計画書(第2 回変更)」策定(H23.12)

S50年代の琵琶湖石鹸運動や平成初期の長良川河口堰建設反 対運動等、市民が河川環境を重視する潮流。それまでも治水等事業の一環として多自然型川づくり等の取り組みをしていたが、従前の法では環境目的の事業予算を付けることが出来ず、H9年河川法改 正(治水・利水と並んで環境保全の内部目的化)につながる。改正法では河川事業の計画策定にあたり住民意見を聞くことが義務に。→ある種、住民が事業内容を選択するという制度に近いものとして 受け止められる。しかし、従前の河川事業では治水と環境は相反することが多く、その両立に苦心。

H25(2013)

H24(2012)

H23(2011)

H22(2010)

H21(2009)

H20(2008)

H19(2007)

H18(2006)

H16(2004)

H15(2003)

H14(2002)

H13(2001)

H9(1997)

H11(1999)

H12(2000)

H16年台風23号の被災に伴う治水対策の要望や、並行して検討されている自然再生計画を高度に融合させた検討が求められた。

○円山川水系自然再生計画の策定

台風23号被害を受け、河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業、H16~H21年度)及び緊急治水対策事業(~H26)の検討と実施

「円山川水系自然再生計画検討委員会」を組織。委員は河川・生物の専門家の他、地元代表として市民団体、小学校教諭、PTA、区長の代表、漁協、土地改良区など多彩なメンバーで構成

52

Page 53: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

H17(2005)

河川法改正

コウノトリの郷公園開園

ステージ 社会的背景 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした

代表的な事象

「ハチゴロウ」飛来自然再生事業の創設

台風23号災害による激特事業開始

コウノトリ放鳥

多自然川づくり基本指針

ラムサール条約湿地登録

環境保全活動・環境教育推進法

自然再生推進法

CBD-COP3、京都会議

◯治水と環境保全が両立し、地域に受け入れられる河川整備(ひのそ島の掘削方法の確定)

生物多様性基本法リーマン・ショック

CBD-COP10愛知目標採択

生物多様性国家戦略

○ひのそ島全島掘削案に対して、全島掘削による治水安全度向上を強く望む地域住民が少なくない一方で、社会の環境意識の高まりを背景に掘削のあり方が焦点に。

○本来相反する治水と環境保全の両立について暗中模索の状態。

○ひのそ島ではこれまでの国等による調査で貴重な動植物が確認。○「ひのそ島改修検討会」を組織。委員はひのそ島の元地権者や漁協 , 生物・河川の専門家等 , 治水と環境保全双方の立場を含む形で構成。○掘削方法の違いによる変化予測を3次元流動計算やフォトモンタージュ等を用いて具体イメージ化。

○「ひのそ島改修検討会」では、治水と環境保全の歩み寄りの議論がなされ、貴重動植物の生育・生息環境に配慮した形状として断面積で3/4 掘削で一応の決着。

○検討会が、治水と環境保全の歩み寄りやステークホルダーの理解を得る議論の方法として一つの先例となった。

・水田魚道整備による河川と水田のネットワークの形成(継続中)

コウノトリ野生復 帰 推 進 計画、コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想

円山川水系河川整備基本方針策定

野生復帰グランドデザイン策定

コウノトリ野生復帰推進計画(2期)策定

目標1目標 11

目標 11

目標1目標 2

国・県

国・県

国・県

国目標1目標 2

目標1目標 2目標 11

ステージ3:再導入に向けて

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

河川における自然再生の先例的な扱いであり、全国的に先例や知見が少ない状態での検討であった

円山川水系河川整備計画の検討・策定(流域住民の意見を反映させた計画の策定)

円山川水系自然再生計画書に基づく自然再生の着実な実施

治水一辺倒にならずに自然環境の保全・再生も織り込んだ検討が求められた

○自然再生事業の順応的な実施を図り評価するため、「円山川水系自然再生計画検討委員会」を「円山川水系自然再生推進委員会」に改組

◯大規模湿地再生(出石川・加陽地区)、高水敷掘削による湿地再生、魚道改良、水路の段差解消、河岸の緩傾斜化等を実施

19 回に及ぶ公開での流域委員会の開催、オープンフォーラムの開催、ニュースレターの発行などにより、多様な意見を把握し、計画に反映

◯激特事業による河道掘削・築堤・内水対策・橋梁架替・堰改築等に合わせて湿地の創出を実施

◯治水と環境(湿地整備)を両立する遊水地の整備(事業中)

H16台風23号の甚大被害を受けながらも自然環境の保全・再生・創出に関する機運は冷めず、「円山川水系自然再生計画書(H17.11)が国・県の共同により策定

湿地再生による湿地面積の増加。整備した湿地にコウノトリが飛来・採餌

◯激特事業により、H16洪水と同程度の洪水に対してHWLまで低下させる対策を講じることができた。

◯治水工事による湿地面積の増加。整備した湿地にコウノトリが飛来・採餌

○国・県の河川部局の共同体制の構築

◯コウノトリ野生復帰推進協議会と目標を共有

○豊岡市、コウノトリ生息地保全協議会による湿地の保全・管理◯小学校の環境学習のフィールドとしての利用

自然再生計画を織り込む形で河川整備計画を策定(H25.2)

○「円山川水系自然再生計画書(第2 回変更)」策定(H23.12)

S50年代の琵琶湖石鹸運動や平成初期の長良川河口堰建設反 対運動等、市民が河川環境を重視する潮流。それまでも治水等事業の一環として多自然型川づくり等の取り組みをしていたが、従前の法では環境目的の事業予算を付けることが出来ず、H9年河川法改 正(治水・利水と並んで環境保全の内部目的化)につながる。改正法では河川事業の計画策定にあたり住民意見を聞くことが義務に。→ある種、住民が事業内容を選択するという制度に近いものとして 受け止められる。しかし、従前の河川事業では治水と環境は相反することが多く、その両立に苦心。

H25(2013)

H24(2012)

H23(2011)

H22(2010)

H21(2009)

H20(2008)

H19(2007)

H18(2006)

H16(2004)

H15(2003)

H14(2002)

H13(2001)

H9(1997)

H11(1999)

H12(2000)

H16年台風23号の被災に伴う治水対策の要望や、並行して検討されている自然再生計画を高度に融合させた検討が求められた。

○円山川水系自然再生計画の策定

台風23号被害を受け、河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業、H16~H21年度)及び緊急治水対策事業(~H26)の検討と実施

「円山川水系自然再生計画検討委員会」を組織。委員は河川・生物の専門家の他、地元代表として市民団体、小学校教諭、PTA、区長の代表、漁協、土地改良区など多彩なメンバーで構成

53

Page 54: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

3) 農業分野

i) 背 景

 豊岡盆地はかつて「じる田」と呼ばれる湿田が広がり、水田作業は「嫁殺し」と言われる地域もある程、

大変な重労働であったが、生物が豊富でコウノトリにとっては生息しやすい環境だった。

 しかし、昭和40年代半ば(1970年頃)から始まったほ場整備事業により、乾田化が進められ、作業効率

の向上が図られた一方で、用排水の分離による河川と水路と田んぼの連続性の低下等により、生物の生息・

生育に適さない環境となってきた。また、農薬・化学肥料の導入により収穫量が増加し、作業労力は減少

した一方、コウノトリの餌となるカエルや昆虫、魚などの生物が姿を消していった。

 コウノトリの野生復帰には、餌場を復元することが必須であり、また、農作物価格の下落等による農業

の活力低下の打開策として、豊岡市を中心とする兵庫県但馬地方では、1990年代なかばから、農薬の

削減など環境にやさしい農業の普及に努めてきた。

出典:豊岡市環境経済戦略(2006.3)

出典:豊岡市環 境 経 済 戦 略(2006.3)

人工巣塔の下での農薬散布

豊岡盆地の湿田「じる田」

54

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ii) 取り組みの経緯(表 2.1-6)

環境にやさしい農業の推進

 兵庫県では、環境に対する負荷の軽減と県民への安全安心な農産物の安定供給を図るため、平成

5(1993)年度に全国に先駆けて「兵庫県有機農産物認証制度」を創設し、H13(2001)年度から残留

農薬量を国の基準の1/10以下とするなどとした「ひょうご安心ブランド農産物認証制度」を創設するなど、

環境にやさしい農業を推進してきた。特に「コウノトリの郷公園」の建設予定地となった祥雲寺地区では、

1990年代からアイガモ農法を取り入れるなど、農薬に頼らない米作りに先進的に取り組んできた。

 また、兵庫県や豊岡市、農林水産省は、乾田化やコンクリート三面張り水路の増加により悪化した生物

の生息環境を改善するため、魚類等が水路と水田を移動できる「水田魚道」、稲の活力を増すために水

田の水を抜く「中干し」期間中に水生生物が生き残れる「避難場所(素掘り水路等)」、水路における生息・

生育場となる「魚巣」等の整備をH13(2001)年頃から行ってきた。

 その他にも、休耕田に年間を通じて水を張ることで生物の生息・生育場とする「転作田ビオトープ」、冬

期等、通常は田んぼが干上がっている時期に水を張る「常時湛水稲作」といった取り組みを推進してきた。

出典:コウノトリ野生復帰推進計画(2003.3)

水田に放し飼いにされたアイガモが、雑草や害虫を餌として食し、排泄物が稲の養分となることにより、化学肥料や農薬を使用しない農法。

アイガモ農法

出典:コウノトリ育む農法パンフレット(豊岡市)

冬期湛水田で餌を捜すコウノトリ

55

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コウノトリ育む農法の体系化

 そうした中、兵庫県や祥雲寺地区等の一部の農家が協力し、農薬や化学肥料を使用しない、または使

用量を大幅に低減させ、コウノトリの餌となる生物を育む農法の確立に向けた取り組みをH15(2003)年頃

から開始した。

 しかし、当時は農薬や化学肥料を使用し、地域の栽培スケジュールに従って、農作業の効率化、単位面

積当たりの収量増加を図ることが常識的な考え方であり、それに相反する取り組みに対して簡単に理解が得

られるものではなかった。また、農薬を使用せずに雑草を抑制する技術などはまだ確立されていなかった。

 これに対し、兵庫県は先進的な指導者を県外から招くなどし、「コウノトリと共生できる農業」の技術開発

に取り組み、強い信念をもった農業普及員の努力などもあり、試行錯誤の末、H17(2005)年に「コウノト

表 2.1-5 コウノトリ育む農法の要件

図 2.1-8 コウノトリ育む農法の水管理

出典:コウノトリ育む農法パンフレット(豊岡市)

変態中のアマガエル

出典:コウノトリ育む農法パンフレット(2013.3)

出典:コウノトリ育む農法パンフレット

リ育む農法」(表2.1-5)を体系化した。これは化学農薬を使用しない、または

慣行栽培に比べ75%低減し、化学肥料の代わりに有機肥料を使用するとともに、

田んぼに水を張っている期間を長くするといった要件がある(図2.1-8)。湛水期

間を延長することにより、オタマジャクシがカエルまで育ち、ヤゴがトンボになるこ

とができ、コウノトリの餌となる生物を増やすとともに、田んぼの生き物のバラン

スを保つことによる害虫抑制等を意図したものである。

項目 必須事項 努力事項

環境配慮

・ 生きものの多様性確保 中干し前にオタマジャクシ 変態確認・ 化学合成農薬削減 ①農薬を使用しないタイプ 栽培期間中不使用 ②農薬使用を減らすタイプ 当地比7.5割減、農薬を使 用する場合は普通物魚毒性 A類  ③農薬削減技術導入   温湯消毒等、化学合成農薬 を使用しない種子消毒、畦 草管理 ・ 化学肥料削減 栽培期間 中不使用

・ 冬期湛水、早期湛水時の イトミミズ、ユスリカ幼虫 の確認・ 出穂期前後のカメムシ、 ウンカ類、クモ等の確認・ 魚道、生きものの逃げ場の 設置・ 米糠、くず大豆等の施用

水管理・ 早期湛水 ・ 深水管理 ・ 中干し延期

・ 冬期湛水

資源循環 ・ 堆肥・地元有機資材の活用

その他

・ 各種認証の何れか取得 (有機JAS、ひょうご安心 ブランド、コウノトリの舞、 コウノトリの贈り物)

56

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180

補助(冬期湛水)対象面積(ha)

補助金(冬期湛水)総計(千円)

160140120100806040200

18,00016,00014,00012,00010,0008,0006,0004,0002,0000

H15

面積 補助金(冬期湛水の委託金)

H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

放鳥

300

250

200

150

100

50

0

放鳥

’03

10’04

2

14’05

537

’06

12

84

’07

33124

’08

44

139

’09

62

150

’10

57

162

’11

48

186

’12

50

201

豊岡市内作付面積(ha)

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

農家からの買取価格(円/30㎏)

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

全国生産者価格(円/30㎏)

育むお米(減農薬)育むお米(無農薬)全国生産者価格慣行栽培

’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年「JAたじま」のコウノトリ

育むお米売上高(百万円) 但馬地域内向け 但馬地域外向け

350

300

250

200

150

100

50

002 0 18

69

13

77

27

134

38

185

39

195

41

243

37

267

396 4

育むお米(減農薬)育むお米(無農薬)

コウノトリ育む農法の普及

 「コウノトリ育む農法」は慣行栽培に比べ、除草や

水管理などの手間が増え、収量は低下する。これに

対し県や市、農林水産省は助成金制度(図2.1-9)を

設けているほか、研修会やフォーラムの開催、大規模

実践地区の設置、マニュアルの作成等を行い、但馬

地域に広げる取り組みを行ってきた。

 また、H20(2008)年から3年間、「コウノトリ育む農

法アドバイザー養成講座」を開講し、各営農地区のリー

ダーに技術講習等を行うなどしてきた。これらの取り組

みの結果、作付面積はH17(2005)年のコウノトリ試

験放鳥以降、急激に拡大し、現在も増加傾向にある

(図2.1-10)。

コウノトリ育む農法の消費量拡大

 「コウノトリ育む農法」が広がるためには、コウノトリ

野生復帰という理念のみならず、農家にとって経済的

な利点を維持していくことが必要である。H15(2003)

年に、豊岡市が「ひょうご安心ブランド」に独自に定め

た要件を加えた「コウノトリの舞」を、JAたじまが特別

栽培農産物認定制度「コウノトリの贈り物」を制定す

るなど、ブランド化を進めてきた。そのほか、県や市、

JAは販売促進イベントを実施し、大手量販店をはじめ

とする販売ルートの確保、田んぼの生き物調査を通じ

た消費者と農家の交流促進を行ってきた。また、地元

の子供達の要望が発端となり、H21(2009)年から豊

岡市の学校給食に「コウノトリ育むお米」を取り入れる

など、消費量拡大を行っている。

 これらの取り組みや社会の環境意識の高まりといっ

た背景もあり、「コウノトリ育む農法」は慣行農法に比

べ高値で取引され(図2.1-11)、売上高も但馬地域外

向けを中心に年々着実に増加している(図2.1-12)。

図 2.1-9 コウノトリ育む農法の助成金(冬期湛水の委託金)

図 2.1-10「コウノトリ育むお米」作付面積の推移

図 2.1-11 米買取額の比較

図 2.1-12「コウノトリ育むお米」の売上高

出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市提供資料

出典:JAたじま提供資料

57

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その他

 「コウノトリ育む農法」の努力目標である「水田魚道」の設置も進めら

れている(図 2.1-13)。「コウノトリ育む農法」と慣行農法における田んぼ

の生物数を調査した結果から「コウノトリ育む農法」では、実際にたくさ

んの生物が生息していることが分かっている(図 2.1-14)。河川の水質調

査においても、農薬関連項目の数値は環境基準を達成した状態を保ってい

る。

 また、NPO コウノトリ市民研究所や地元の小中高校生による田んぼの

生物調査が行われるなど、環境教育の場としても活用されている。そのほ

か、H22(2010)年には JICA(国際協力機構)の「草の根技術交流事業」

として「コウノトリ育む農法」の中国への技術指導が県や市などを通じて

行われるなど、海外にも取り組みが広がっている。

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと(2012.3)

※水田魚道とは、田んぼと水路を魚類等が移動できるように設けた魚道

140120100806040200

水田魚道数(基)

H15H14 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

50

6

88 89 93106 110 110 110 110 110

放鳥

種類

5月

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

個体数25

20

15

10

5

0

個体数(慣行農法)種類(慣行農法) 種類(環境創造型 :減農薬)

個体数(環境創造型 :減農薬)種類(環境創造型 :無農薬)個体数(環境創造型 :無農薬)

6月 7月※0.75m2あたり

図 2.1-13 水田魚道数

図 2.1-14 コウノトリ育む農法と慣行農法による生物数の比較

出典:コウノトリ野生復帰グランドデザイン(2011.8)、豊岡市提供資料

出典:コウノトリ野生復帰グランドデザイン(コウノトリの郷公園:H23)

水田魚道

58

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iii) 人々の意識

 コウノトリ育む農法は順調に広がってきたかに見えるが、取り組みの当初には農家から根強い反発も

あった。それは、農家にとって、コウノトリは稲を踏みあらす害鳥のイメージがあったからだ。しかし、

県の農業指導員らが熱心に農家を回って訴えかけ、徐々に賛同者が増えてきた(2.2. 関わってきた方々

の思い1)インタビュー:西村いつき)。また、兵庫県や豊岡市、コウノトリの郷公園では野生コウノトリ「ハ

チゴロウ」が飛来した機会に稲の踏付け回数を調査し、現在の乾田化したほ場では被害が大きくないこと

を農家に周知してきた。これらの取り組みの結果、コウノトリ育む農法の栽培面積が増加してきたが、そ

の背景には豊岡地域の人々にとってかねてからコウノトリは害鳥であると同時に、瑞鳥(めでたい鳥)で

あるという意識があり、かつては円山川が頻繁に氾濫など自然災害に悩まされながらも、自然と共生して

きた風土、そして、安全安心な農作物を消費者に届けたいといった気持ちをもともと持っている人達がい

たことなどが関連していると考えられる。

 実際に「コウノトリ育む農法」を行った農家を対象にした意識調査では、「育む農法」をして感じたこ

ととして、「生き物が増えて欲しい」「田んぼの生き物に目が向く」「コウノトリのことを話す」「コウノト

リが降りて欲しい」といった内容が多く、コウノトリを軸に水田に生息する生物へのまなざしが培われて

いる(図 2.1-15)。取り組みのきっかけ、目的、感じていることなどは非常に多様であるが、総体的には「コ

ウノトリ育む農法」を評価している。

出典:コウノトリの野生復帰を軸にした地域資源化(2010.7菊地)

図 2.1-15 コウノトリ育む農法をして感じたこと

71.9 3.00.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

6.3

6.3田んぼによく行く 28.1 40.6 18.8 6.3

田んぼの生きものへ目が向く 18.8

田んぼや生きもののことを家族に話す 15.6 31.3 46.9 6.3

コウノトリのことを話す 28.1 50.0 15.6 6.3

生きものの会話が増えた 34.4 6.353.16.3

生きものが増えて欲しい 6.33.168.821.9

コウノトリが降りて欲しい 6.315.650.028.1

農業を引き継いでもらいたい 6.3 6.350.037.5

0

非常に感じる感じるどちらかといえば感じない全く感じないNA

20 40 60 80 100(%)

59

Page 60: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

02005 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

農家からの買取価格(円/30㎏)

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

全国生産者価格(円/30㎏)

育むお米(減農薬)育むお米(無農薬)全国生産者価格慣行栽培

60 農作業量%

50

40

30

20

10

4 割以上

3.30

2~4割増えた

20

2 割未満

10

変わらない

56.7

減った

3.3

無回答

6.7

+900+800+700+600+500+400+300+200+100+0

2005 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12補助金含む慣行栽培米との売上の差(千円/ha) 補助金

販売売上(無農薬)販売売上(減農薬)

iv) 地域社会への波及効果

農家にとっての経済的メリット

・コウノトリ育む農法について、コウノトリ育むお米を例として、経済面から評価する。

・先行研究では、農家にとっての経済分析(大沼・山本(2009))や、地域への経済波及効果の分析事

例(関家(2009)、大沼・山本(2009)、林(2010))がある。

・農家にとってみると、メリットとしては、育むお米が高く売れる価格プレミアムが付加されていることがあ

げられる。農協の買取価格では、慣行栽培米の7,000円/30kgに対し、減農薬では+1,000~2,000円、

無農薬では+4,000~5,000円程度の価格上乗せとなっている。(図2.1-16)

・また、農林水産省、兵庫県、豊岡市による環境保全型農業への支援制度により、例えば、育むお米(無

農薬)では、エコファーマー認定により8,000円/10a、冬期湛水により市の単独事業の上乗せ7,000円

/10aの補助金が受領できる。

・一方デメリットとしては、雑草の発生による収量減や、水管理や除草等による農作業量の増加が懸念さ

れるが(関家(2009)、林(2010))、農業者への聞き取りからは、「増えた」との3割の回答に対し、「変

わらない」が5割以上を占め最も多かった(図2.1-17)。

・買取価格の経年データを用いて、コウノトリ育むお米を栽培する経済的メリットを試算してみると、H20

(2008)年以降の販売売上では、減農薬で+5~20万円/ha、無農薬で+10~35万円/ha程度と、慣

行栽培より数十万円収入が増える結果が維持されていた(図2.1-18)。これは、育む農法による収量減

を補う以上に、価格プレミアムが付加されていることを表している。

・さらに、補助金まで含めると、減農薬で+13~25万円/ha、無農薬で+25~40万円/ha程度の収入増

となっており、補助施策と合わせて、コウノトリ育むお米栽培への金銭的インセンティブが維持されている。

・ただしこの試算では、農薬散布量減による費用減や、有機肥料購入費用増、労働力増に伴う労務費

増等は計上していない。

生産者と消費者の交流

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと(2012.3) 図 2.1-16 農法別米買取価格

図 2.1-18 慣行農法との売上高の差

出典:豊岡市提供資料、(公財)米殻安定供給確保支援機構

出典:豊岡市資料をもとに算出

図 2.1-17 育む農法による作業量変化(アンケート)

出典:コウノトリ育む農法に取り組む農業者に対する聞き取り調査報告(2012 菊地)

60

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経済波及効果

・「コウノトリ育むお米」栽培による経済波及効果の推計例としては、育むお米及び清酒の経済波及効果

として2.2億円(関家(2009))、約140haが育むお米へ転換された場合の生産額の増加として0.6億円

(林(2010))と推計されており、生産誘発係数は前者で約1.4、後者で1.57と、地域経済への波及効

果が4割~6割であるとされている。

・市内総作付面積に売上単価を乗じ、コウノトリ育むお米の市内総生産額を求めると、2005年の0.6億

円から2012年の3.7億円へ、約3.1億円増加している。生産誘発を加味した経済波及効果では、2005

年の0.9億円から2012年の5.8億円へ、約5億円の増加があったと推計される(図2.1-19)。・以上より、「コウノトリ育む農法」の拡大は、市経済にとっても6億円程度の経済効果をもたらす施策となっ

ている。

出典:豊岡市資料をもとに算出図 2.1-19 コウノトリ育むお米による生産額と経済波及効果

70060050040030020010002005黒文字:無農薬と減農薬による生産額計赤文字:無農薬と減農薬及び波及分の生産額計

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

市内総生産額(百万円)

波及分無農薬 減農薬

136214 224

351262

411

304

478

287

451

316

496

370

580

585890

61

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回答数割合

60 収入%

50

40

30

20

10

4 割以上

00

2~4 割

増えた

36.7

2 割未満

6.7

変わらない

26.7

減った

16.7

無回答

13.3

早期湛水不可

0 5 10

0 20 40 60 80 100

育む農法

営農形態

15 20 25%

22.8%

雑草対策 18.4%

手間がかかる 17.9%

収量が低い 9.8%

深水管理不可 9.6%

病害虫の問題 6.0%

肥料代が高い 5.7%

育苗不可 5.4%

JA 荷受体制 4.4%

取り組んでみたい47人 3.8%

取り組みたくない495人 39.5%

取り組んでみたいが

取り組めない415人 33.1%

その他未回答

296人 23.6%

豊岡市内

73.3 26.7

18.1 81.9

兼業専業

v) 課題

・「コウノトリ育む農法」が始まって10年超が経過し、育む農法の拡大スピードは、近年やや鈍化している。

(図2.1-10)

・育む農法の農家への認知度も70%を超え、3人に1人が取り組みに前向きの意思を持っているものの(図

2.1-20)、近隣ほ場に迷惑がかかるため早期湛水や冬期湛水ができない、あるいは、雑草対策に手間

がかかる、水利権の関係から早期取水ができないなどの課題が、さらなる拡大の阻害要因となっている。

(図2.1-21)

・また、平均的には育む農法の方が収入増となるものの、実際には、収入変化なしが約3割、増えた農

家が約4割、減ったが2割との調査結果もあり(菊地(2012))、農家間の収入の「ばらつき」が育む農

法の拡大や持続性の課題となっている可能性がある(図2.1-22)。

・経済面でみれば、農法変更により収穫率が1~2割減少するものの、育むお米には1,000円~5,000円

/30kgの価格プレミアムが付加されており、収量減を考慮しても、補助金を含めた売上高に直すと15

~30万円/haの収入増となっている(図2.1-18)。

・しかし、価格プレミアムについても、農家の約4割が“安い”と回答しており、労力増に見合う価格とは

認識されていない現状もある。(豊岡市2013年アンケート)

・また、育む農法は、約7割が専業農家によって担われている(図2.1-23)。豊岡市内の専業農家率2割に比

べて高いが、言い換えれば、兼業農家の参加は少なく、さらなる拡大には、兼業農家への普及が課題である。

・減農薬と無農薬との別でみてみると、減農薬栽培については純増が維持されている一方で、無農薬栽

培については、最大時の62haが近年は50ha以下にまでやや減少している。

・無農薬に比べ、減農薬は慣行栽培にくらべて作業量が大きく増加しないことなどが(菊地(2012))減

農薬がより選ばれる理由と考えられる。

図 2.1-20 育む農法の取り組み意向

図 2.1-22 育む農法による収入の変化(アンケート) 図 2.1-23 育む農法の営農形態割合

図 2.1-21 育む農法の取り組みの阻害要因出典:コウノトリ育む農法アンケート(豊岡市、2013 年)

出典:コウノトリ育む農法に取り組む農業者に対する聞き取り調査報告(2012 菊地)

出典:コウノトリ育む農法に取り組む農業者に対する聞き取り調査報告(2012 菊地)

出典:コウノトリ育む農法アンケート(豊岡市、2013 年)

62

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表 2.1-6 農業に関連する取り組み年表

年度H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24'92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12

主な取り組み

科学分野

河川分野

地域社会分野

社会的背景

地域のできごと

注 1)表中の赤線は影響を及ぼしたと   考えられるものを示す。注 2)取り組み主体の略字は以下を示す。 県:兵庫県 市:豊岡市 農:農業者 民:市民  学:大学  企:企業

●「祥雲寺を考える会」発足('97 ~「コウノトリのすむ郷づくり研究会」に改称)「コウノトリの郷営農組合」発足● ●「豊岡エコファーマーズ」発足

「コウノトリ共生推進課(現コウノトリ共生課)」設置【市】●コウノトリプロジェクトチーム結成【県】●

●「農林水産課環境農業推進係」設置【市】●「コウノトリ翔る地域づくり担当」設置【県】●「コウノトリ育むお米生産部会」発足  【農、JA】

三江地区で環境創造型農業試験実証【農】

郷公園建設予定地付近の集落で、地域活性化に向けた勉強会【市】

アイガモ農法【農】 アイガモ農法が組織的な取組みに発展(豊岡あいがも稲作研究会)【農】

兵庫県有機農産物認証制度【県】 「ひょうご安心ブランド農産物認証制度」【県】

水田魚道、生態系保全水路(魚巣等)、中干し時の避難場所(素掘水路等)整備【県、市、農水省】

ビオトープづくり・田んぼの学校・生物調査等【NPO法人コウノトリ市民研究所、市】

県外から先進的な指導者を招き、学習会・技術指導会・生きもの調査等を実施【県、市、国、NPO】

「コウノトリ育む農法」への補助金(冬期湛水への委託金)支払【市、県、農水省】

強い信念と計画性をもった農業普及員による普及活動【県】

「コウノトリ育むお米」販売促進(顧客開拓、資材の開発・安定供給等)【JA】

●「コウノトリの舞」商標登録【市】●「コウノトリの贈り物」制度制定【JA】

「コウノトリ育む農法(減農薬タイプ)」栽培指針作成【県】●

コウノトリによる苗の踏付実態調査【市】

コウノトリ舞い降りる田んぼづくり推進【県、市】

田んぼの生き物調査を通じた消費者との交流【農、民、JA】

但馬全域に「コウノトリ育む農法」推進(研修会、フォーラム、大規模実践地区設置、マニュアル作成)【県】

「コウノトリ育むお米(無農薬)」の栽培、トロトロ層の調査【新田プロジェクト E】

大手量販店で「コウノトリ育むお米」販売【企】

生き物・水質・土壌調査【豊岡高校】

コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座【農、県】

コウノトリ育む農法アドバイザー研究会結成【農、県】コウノトリ育む農法除草コンテスト【県】

豊岡市内の学校給食に、「コウノトリ育むお米」を使用【市】

「コウノトリ育むお米」販売促進活動【市、県】

オーナー田制度【コウノトリの郷営農組合】

第 1 回生物の多様性を育む農業国際会議【県、市、JA、民】●農業機械整備・栽培経費補助【県】

「一斉生きもの調査日(6/26)」設定【JA、市、県】●「コウノトリ育む農法」の中国への技術指導 [JICA 草の根技術交流事業 ]【県、市、NPO】

戸島地区を湿地として残す声が上がり始める【民】

田結地区放棄田の自然再生【民、市、県、学】

野生復帰のフィールドにおけるリスクの予測 有機塩素系化合物等が S30 年代のコウノトリに与えた影響把握GISを用いた生息環境復元のための分析

野生復帰地での餌場の価値 再導入における生態・行動調査手法

魚道整備・樋門段差改修工事(六方川、出石川、鎌谷川)【県】

第 3 回コウノトリ未来・国際会議(コウノトリ育む農法発表)【県、市】●

●「コウノトリの郷公園」整備予定地決定【県】コウノトリの郷公園開園(H11)●

コウノトリと共に生きるまちづくりのための環境基本条例(H14)● ●豊岡市環境経済戦略(H17)●「ハチゴロウ」飛来(H14)●放鳥(H17)

野生復帰推進計画(H14)● ●台風23号(H16) 豊岡市農業振興戦略(H23)●

●生物多様性条約、種の保存法(H4) ●持続農業法(H11) 有機農業法(H18)● ラムサール条約登録(H24)●生物多様性国家戦略 2012-2020(H24)●

●リーマン・ショック(H20)第三次生物多様性国家戦略(H19)●生物多様性国家戦略 2010(H22)●

●環境と開発に関するリオ宣言(H4) 環境保全活動・環境教育推進法(H15)●●生物多様性国家戦略(H7)

新・生物多様性国家戦略(H14)●

田結地区放棄田の自然再生【民、市、県、学】

田結川整備【県】

戸島湿地構想・計画 戸島湿地工事

●「コウノトリ育む農法(無農薬タイプ)栽培指針作成【県】

転作田のビオトープ化・常時湛水稲作の推進【市、県】

63

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表 2.1-7 農業分野における公共政策のまとめ

H21 (2009)

H22 (2010)

コウノトリ繁殖成功 (H 元 )バブル崩壊 (H3)阪神淡路大震災 (H7)

コウノトリの郷公園開園

「ハチゴロウ」飛来

台風 23 号襲来

コウノトリ放鳥

リーマン・ショック

ステージ 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした代表的な事象

○農薬使用量削減にむけた技術的な知見の不足、農家の意識転換

○各主体の取り組み体制の構築と、組織内の理解の形成

○水田の自然再生に関する知見の不足

○コウノトリ育むお米の高付加価値化および販売ルートの開拓

○放鳥に向けたコウノトリの餌場となる水田面積の拡大

○コウノトリ育む農法への取り組み農家の増加、水田面積の拡大に向けた、支援の仕組みの強化

○コウノトリ育む農法に取り組む生産者の増加に伴う、組織化による生産・販売体制の強化

・環境創造型農業の推進方針策定・有機農産物認証制度設立

・県民局地域振興部「コウノトリプロジェクトチーム」発足

・コウノトリ共生推進課の設置・減農薬無化学肥料栽培試験開始・コウノトリと共生する水田づくり学習

会を開始(講師:稲葉光國氏)・コウノトリ野生復帰推進計画策定(Ⅰ

期)・コウノトリと共生する水田自然再生

事業開始・市がコウノトリの舞認証制度を制定

・県・市・JA が減農薬栽培歴合意・減農薬栽培指針作成・「コウノトリ育むお米生産部会(仮

称)」準備委員会の発足。・栽培期間中化学合成農薬・化学

肥料不使用栽培指針作成・豊岡市環境経済戦略策定

・「コウノトリ育むお米生産部会」設立・県立農林水産技術総合センターに「コウノトリ育む農法」検討プロジェクトチーム発足

・生き物調査マニュアルに基づく生き物調査開始

・「コウノトリ育む」を商標登録

・コウノトリ育むお米生産部会の支部を設立(北部・南部支部)

・「コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座」開設

・「コウノトリ育むお米推進協議会」設立

・コウノトリ野生復帰推進計画策定(Ⅱ期)

・「コウノトリ大豆生産部会」設立・「コウノトリ育む農法推進事業補助

金制度」創設・「コウノトリ育む農法集落まるごと事

業制度」創設・豊岡市農業振興戦略策定

・祥雲寺地区でアイガモ農法を導入・「豊岡アイガモ稲作研究会」が

無農薬による稲作開始。

・各主体(県、市、JA)の取り組み体制の構築

・コウノトリの郷営農組合と豊岡エコファーマーズが栽培期間中化学合成農薬・化学肥料不使用試験開始

・ブランド米の制度立ち上げ

・地元の量販店(トヨダ)で販売開始

・「コウノトリ育む農法」の体系化・イトーヨーカドーで販売開始

・環境創造型農業推進事業により但馬全域に「コウノトリ育む農法」が拡大

・酒米「五百万石」「フクノハナ」コウノトリ育む農法無農薬タイプ販売開始

・「コウノトリ大豆組合」発足・環境創造型農業推進事業により「コウノトリ大豆」栽培拡大開始

・「コウノトリ育むお米生産部会」、「コウノトリ大豆生産部会」による生産体制の確立

・「コウノトリ育むお米推進協議会」による販売体制の強化

・「祥雲寺地区を考える会」発足・祥雲寺地区内の水田にコウノ

トリ市民研究所と共にビオトープを設置

・水田魚道整備による河川と水田のネットワークの形成

・「コウノトリ育む農法」について「コウノトリ未来・国際かいぎ」で発表

目標 1目標 8

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

○安全・安心な食糧の生産の推進

○環境創造型農業の実施体制の構築

○無農薬・減農薬の農法の試行

○水田の自然再生に関する支援事業の創設

○コウノトリの保全に資する農作物のブランド化

○コウノトリ育む農法の体系化

○販路の確保

○コウノトリ育む農法の推進と多面的な展開

○コウノトリ育む農法の持続可能性の強化

県県

市県・市市

県・市県県・市

県・市県

県・市

県・市市

ステージ3:再導入に向けて

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

H25(2013)

H24(2012)*ラムサール 条約湿地登録

H23(2011)

H20 (2008)

H19 (2007)

H18 (2006)

H17 (2005)

H16 (2004)

H15 (2003)

H14 (2002)*自然再生推進法

H元 (1989)

H11 (1999)

H12 (2000)

H13 (2001 )

64

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H21 (2009)

H22 (2010)

コウノトリ繁殖成功 (H 元 )バブル崩壊 (H3)阪神淡路大震災 (H7)

コウノトリの郷公園開園

「ハチゴロウ」飛来

台風 23 号襲来

コウノトリ放鳥

リーマン・ショック

ステージ 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした代表的な事象

○農薬使用量削減にむけた技術的な知見の不足、農家の意識転換

○各主体の取り組み体制の構築と、組織内の理解の形成

○水田の自然再生に関する知見の不足

○コウノトリ育むお米の高付加価値化および販売ルートの開拓

○放鳥に向けたコウノトリの餌場となる水田面積の拡大

○コウノトリ育む農法への取り組み農家の増加、水田面積の拡大に向けた、支援の仕組みの強化

○コウノトリ育む農法に取り組む生産者の増加に伴う、組織化による生産・販売体制の強化

・環境創造型農業の推進方針策定・有機農産物認証制度設立

・県民局地域振興部「コウノトリプロジェクトチーム」発足

・コウノトリ共生推進課の設置・減農薬無化学肥料栽培試験開始・コウノトリと共生する水田づくり学習

会を開始(講師:稲葉光國氏)・コウノトリ野生復帰推進計画策定(Ⅰ

期)・コウノトリと共生する水田自然再生

事業開始・市がコウノトリの舞認証制度を制定

・県・市・JA が減農薬栽培歴合意・減農薬栽培指針作成・「コウノトリ育むお米生産部会(仮

称)」準備委員会の発足。・栽培期間中化学合成農薬・化学

肥料不使用栽培指針作成・豊岡市環境経済戦略策定

・「コウノトリ育むお米生産部会」設立・県立農林水産技術総合センターに「コウノトリ育む農法」検討プロジェクトチーム発足

・生き物調査マニュアルに基づく生き物調査開始

・「コウノトリ育む」を商標登録

・コウノトリ育むお米生産部会の支部を設立(北部・南部支部)

・「コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座」開設

・「コウノトリ育むお米推進協議会」設立

・コウノトリ野生復帰推進計画策定(Ⅱ期)

・「コウノトリ大豆生産部会」設立・「コウノトリ育む農法推進事業補助

金制度」創設・「コウノトリ育む農法集落まるごと事

業制度」創設・豊岡市農業振興戦略策定

・祥雲寺地区でアイガモ農法を導入・「豊岡アイガモ稲作研究会」が

無農薬による稲作開始。

・各主体(県、市、JA)の取り組み体制の構築

・コウノトリの郷営農組合と豊岡エコファーマーズが栽培期間中化学合成農薬・化学肥料不使用試験開始

・ブランド米の制度立ち上げ

・地元の量販店(トヨダ)で販売開始

・「コウノトリ育む農法」の体系化・イトーヨーカドーで販売開始

・環境創造型農業推進事業により但馬全域に「コウノトリ育む農法」が拡大

・酒米「五百万石」「フクノハナ」コウノトリ育む農法無農薬タイプ販売開始

・「コウノトリ大豆組合」発足・環境創造型農業推進事業により「コウノトリ大豆」栽培拡大開始

・「コウノトリ育むお米生産部会」、「コウノトリ大豆生産部会」による生産体制の確立

・「コウノトリ育むお米推進協議会」による販売体制の強化

・「祥雲寺地区を考える会」発足・祥雲寺地区内の水田にコウノ

トリ市民研究所と共にビオトープを設置

・水田魚道整備による河川と水田のネットワークの形成

・「コウノトリ育む農法」について「コウノトリ未来・国際かいぎ」で発表

目標 1目標 8

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

目標 1目標 3目標 4目標 7目標 8目標 11目標 19

○安全・安心な食糧の生産の推進

○環境創造型農業の実施体制の構築

○無農薬・減農薬の農法の試行

○水田の自然再生に関する支援事業の創設

○コウノトリの保全に資する農作物のブランド化

○コウノトリ育む農法の体系化

○販路の確保

○コウノトリ育む農法の推進と多面的な展開

○コウノトリ育む農法の持続可能性の強化

県県

市県・市市

県・市県県・市

県・市県

県・市

県・市市

ステージ3:再導入に向けて

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

H25(2013)

H24(2012)*ラムサール 条約湿地登録

H23(2011)

H20 (2008)

H19 (2007)

H18 (2006)

H17 (2005)

H16 (2004)

H15 (2003)

H14 (2002)*自然再生推進法

H元 (1989)

H11 (1999)

H12 (2000)

H13 (2001 )

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4) 地域社会分野

i) 背 景

 但馬地域では古くからコウノトリを「ツル」と呼び、天保年間

(1830~1843年頃)には出石藩主・仙石久利が保護したと言

われているなど、「瑞鳥(めでたい鳥)」として扱われてきた。江

戸時代~昭和初期にかけては、コウノトリが巣作りをすると、近

くに茶店が設けられ、見物にやってくる人達で賑わっていた。

 一方、野生のコウノトリが生息していた頃、田んぼで餌を探

すコウノトリは、稲を踏み荒らす害鳥として嫌われる存在であっ

た。かつて「じる田」と呼ばれ、膝上、場所によっては腰まで

沈むような湿田で、機械や農薬もない時代の田植えや雑草取り

は大変な重労働であり、大切な食料である稲を無事に育てるこ

とは農家の切実な願いであった。

 このように、従来、豊岡地域の人々はコウノトリに対し「瑞鳥」

と「害鳥」という相反する意識を持っていた。

 平成元(1989)年に人工繁殖によるはじめてのヒナが誕生し

て以来、飼育下での繁殖は順調に進み、野生復帰を視野に入

れた将来構想が描かれ始めた。そのためには、コウノトリの生

息に必要な餌場環境の創出・維持管理などに市民の協力が不

可欠であり、税金の一部を使いつつ、市民生活にも変化を求

めることに対し、理解を得る必要があった。

 

ii) 取り組みの経緯(表 2.1-8)

市民への情報発信の始まり

 豊岡市は、コウノトリ野生復帰の拠点となる「コウノトリの郷公

園」の整備に合わせ、コウノトリの絶滅・保護・増殖の歴史をま

とめた冊子「舞い上がれ再び-コウノトリの歴史-」をH6(1994)

年に市内全戸に配布した。また、同じ年に県と市が主体となり、

「第1回コウノトリ未来・国際かいぎ」を開催した。この会議は、

秋篠宮殿下や海外で鳥類の保護や野生復帰に取り組んでいる

研究者を招いて行われ、コウノトリ野生復帰の取り組みの意義

を地域住民に周知するとともに、メディアを通じて全国に取り組

みが伝えられた。

NPO 法人コウノトリ市民研究所

 その後、豊岡地域ではいくつかの市民団体が結成され、時

には行政に先行する形でコウノトリに関する情報発信や環境

学習・生息環境の創出・維持管理などが行われてきた。H10

(1998)年、豊岡盆地をフィールドとして自然観察や生き物調

査などを行っていた市民が「コウノトリ市民研究所」を設立し、

水田や水路などを遊びと学びの場とする環境教育「田んぼの学

校」、生きもの調査、ビオトープづくりなどを行ってきた。

出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市提供資料

茶店でコウノトリを見物する客(明治末期)

湿田での農作業(昭和 30 年代初期)

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと田んぼの学校(NPO 法人コウノトリ市民研究所)

出典:コウノトリ未来・国際かいぎ 報告書コウノトリ未来・国際かいぎ

H6(1994)年に豊岡市が、市内全戸に配布した冊子

66

Page 67: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

180160

10120100

80604020

0’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

放鳥

コウ

ノト

リの

郷公

園に

おけ

る年

間学

校対

応数

908070605040302010

0’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

放鳥

コウ

ノト

リの

郷公

園研

究部

員が

行っ

た年

間講

演数

29

76 81 6588 102 120

141 156 147

97 90 101 86

624 23 15 22 23 30

39 32 41 49 5762

79

1400人

1200

1000

800

600

400

200

0’04

874

35

’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

放鳥

コウ

ノト

リフ

ァン

クラ

ブ会

員数

1,104

44

1,211

43

1,044

36

916

30

816

26

743

23

713

22

699

24

賛助会員一般会員

60

50

40

30

20

10

0’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

放鳥

体験

実施

校数

(小

学校

川の体験活動実施校数(小学校)農業体験実施校数(小学校)

13 13

11

14

17

20

19

20

22

22

29

(’12 現在 全校数 30)

兵庫県、コウノトリの郷公園

①コウノトリ・パークボランティア

 H11(1999)年にコウノトリの郷公園が開園し、

コウノトリの種の保存と遺伝的管理、野生化に向

けての科学的研究及び実験的試みに加え、環境

教育プログラムの整備や体験活動、公開フォーラ

ム・公開講座の開催といった普及・啓発活動を実

施してきた(図2.1-24、図2.1-25)。また、コウノト

リの郷公園では、H12(2000)年から「コウノトリ・

パークボランティア」の養成を始めた。これは、市

民に放鳥コウノトリの飛翔ルートや行動などをモニ

タリングしてもらう制度で、講義を受講し、レポー

トを発表するなどの要件をクリアすると認定され

る。H17(1995)年の放鳥後から実際にモニタリ

ングを開始し、得られたデータは、コウノトリの生

息環境条件の解明に活用されている。

②コウノトリファンクラブ

 その後も兵庫県では、普及・啓発のための映

像作成・配信を行ったり、H16(2004)年には「コ

ウノトリファンクラブ」を発足させ(図2.1-26)、全

国から会員を募り、生きもの調査、水田・河川・

里山の再生活動、コウノトリ目撃情報の収集、河

川への稚魚放流、松くい虫に抵抗性のある「ひょ

うご元気松」の植栽、情報発信等を行ってきた。

 また、「コウノトリ野生復帰」の取り組みを掲載し

た小・中学生用の「道徳」の副読本をH23(2011)

年に作成し、県内の全児童・生徒に配布している。

図 2.1-24 コウノトリの郷公園における年間学校対応数

図 2.1-25 コウノトリの郷公園研究部員が行った年間講演数

図 2.1-26 コウノトリファンクラブ会員数

出典:開園 10 周年記念誌(2009.10)、コウノトリの郷公園提供資料

出典:開園 10 周年記念誌(2009.10)、コウノトリの郷公園提供資料

出典:コウノトリの郷公園提供資料

豊岡市

 豊岡市では、H12(2000)年に、コウノトリの郷

公園内に「豊岡市立コウノトリ文化館」を開設し、

「人と自然の共存を考えるエコミュージアムの拠

点」として環境学習や情報発信を行っている。そ

の他にも市民環境大学や小学校での環境教育、

自然体験学校「子どもの野生復帰大作戦」、学校

や学年の枠を超えた組織「コウノトリKIDSクラブ」

による体験活動等を行ってきた(図2.1-27)。小学

校での環境教育では、「コウノトリ野生復帰」の取

り組みを掲載した社会科の副読本をH16(2004)

年に作成し、改訂を加えつつ、市内全校に配備

している。 図 2.1-27 農業・川の体験活動実施校数(豊岡市)出典:豊岡市提供資料

出典:H18 コウノトリ・パークボランティア募集案内コウノトリ・パークボランティア

67

Page 68: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

コウノトリ湿地ネット

 豊岡地域では、昭和40年代後半から湿田の乾

田化が進められてきたが、湿田のまま残っていた

戸島地区で、ようやく乾田化の工事が行われてい

たH16(2004)年に台風23号による未曾有の洪水

が発生した。このため、工事は中断され、湿田

が自然の湿地のような状態になっていたところに、

野生のコウノトリ「ハチゴロウ」が飛来し、餌場と

して居ついたことをきっかけに、市民から「湿地

として残せないか」といった声が出始めた。これ

を受けて、豊岡市が地権者から農地を買い取り、

兵庫県が3.2ha(汽水0.7ha、淡水2.5ha)の湿地

「ハチゴロウの戸島湿地」を整備した。

 同じ頃、H19(2007)年に、コウノトリの保護に

関心のある市民らが集い、「コウノトリ湿地ネット」

が設立され、コウノトリ目撃情報の発信やビオトー

プ作りの他、市から「ハチゴロウの戸島湿地」の

指定管理を受託した。当会は「コウノトリ舞い降り

る湿地」を目標に、ボランティアにも協力を得なが

ら維持管理を行っており(図2.1-29)、湿地内の

人工巣塔にはペアが定着し、連続してヒナが巣

立っている。戸島湿地を拠点に湿地管理技術を

高めるとともに、そのフィールドを活かして、観光

や環境学習の場も提供している。 出典:豊岡市提供資料図 2.1-29 ハチゴロウの戸島湿地ボランティア数

 また、兵庫県等と連携し、「コウノトリ未来・国

際かいぎ」を計4回開催、「愛知万博(愛・地球

博)」への出展、豊岡地域の魅力を発信するイベ

ント「豊岡エキシビション」をH21(2009)年から東

京で毎年開催しているほか、市長やコウノトリ共

生課等の市職員による市外での講演活動を通じ

て、精力的に情報発信を行ってきた。また、新潟

県佐渡市(トキ)、山口県周南市(ナベヅル)、鹿

児島県出水市(ナベヅル・マナヅル)と共催した「生

きものと人・共生の里を考えるシンポジウム」や、

宮城県大崎市(マガン)、佐渡市と共催した「世

界一田めになる学校」など他地域との連携にも取

り組んできた。

図 2.1-28 豊岡市長・豊岡市コウノトリ共生課による      豊岡市外での講演数

出典:豊岡市提供資料

出典:コウノトリ野生復帰のあしあとハチゴロウの戸島湿地

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと

豊岡市マスコット「コーちゃん」      「オーちゃん」

コウノトリ KIDS クラブ

35

豊岡市外での講演回数(回)

302520151050

不明

海外

約300km圏外

約150~300km圏内

約150km圏内

県内(市内除く)市長

2005

市長

2006

市長

2007

市長

共生課

2008

市長

共生課

2009

市長

共生課

2010

市長

共生課

2011

市長

共生課

2012 年

600

500

400

300

200

100

0

ハチゴロウの

戸島湿地管理ボランティア数(人)

’09

457

’10

521

’11

190

’12 年

208

35

豊岡市外での講演回数(回)

302520151050

不明

海外

約300km圏外

約150~300km圏内

約150km圏内

県内(市内除く)市長

2005

市長

2006

市長

2007

市長

共生課

2008

市長

共生課

2009

市長

共生課

2010

市長

共生課

2011

市長

共生課

2012 年

600

500

400

300

200

100

0

ハチゴロウの

戸島湿地管理ボランティア数(人)

’09

457

’10

521

’11

190

’12 年

208

68

Page 69: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

多様な主体による取り組み

<人工巣塔>

 かつてコウノトリが営巣に使っていたアカマツ

は、第二次大戦中の大量伐採や、その後の里

山林の荒廃、松くい虫の被害により激減してし

まった。その再生には長い年月を要することから、

H14(2002)年から人工巣塔を設置する取り組み

が兵庫県、コウノトリファンクラブ、地元企業、商

工会、市民団体など様々な主体により行われてき

た(図2.1-30)。なお、現在の巣塔の配置は豊岡

盆地中心部でなわばりの重複をもたらしているた

め、適正な配置への見直しが求められている。

<田結湿地>

 田結地区では過疎化が進み、減反政策や獣害

の影響などで地区内の田んぼがすべて耕作放棄

されていたが、H20(2008)年に、ハチゴロウの

戸島湿地で営巣していたコウノトリが餌を求めて

飛来したことをきっかけに、様々な主体が一体とな

り、湿地の保全活動を進めてきた。

 地元住民、コウノトリ湿地ネット、豊岡市は畦

の補修やため池の造成などを行ってきた。兵庫

県は災害時の遊水機能をもたせつつ、平常時

の湿地面積を拡大する工事を行った。東京大学

と国連大学高等研究所は、国際的な環境リー

ダーの育成を目指す教育プログラム「日本・アジア

SATOYAMA教育イニシアティブ」の実習を田結

地区で行い、企業も豊岡市と連携し「ENEOSわ

くわく生き物学校」などの環境体験学習を行った。

iii) 人々の意識

1960 〜 70 年代の住民意識

 住民の中には、コウノトリに対する害鳥意識と、

「めでたい」あるいは「きれい」に代表される好意

的な意識が混在していた。絶滅直前の時期には、

官民あげての保護政策が広く展開され、害鳥意

識からの脱却がはかられた。このコウノトリに対す

る住民の好意的な感覚には、19世紀から(おそら

く江戸期から)の一貫した保護政策が大きな影響

を与えていると考えられる。

図 2.1-30 人工巣塔設置数出典:豊岡市提供資料

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと

図 2.1-31 放鳥の賛否

出典:「地域への便益還元を伴う野生復帰事業の抱える課題−兵庫県豊岡市のコウノトリ野生復帰事業を事例に−」(本田裕子)

人工巣塔

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと

田結湿地

30

25

20

15

10

5

0

放鳥

人工巣塔設置数(基)

’02

1

’03

1

’04

1

’05

4

’06

8

’07

18

’08

18

’09

19

’10

20

’11

23

’12 年

24

50%45%40%35%30%25%20%15%10%5%0%

40%35%30%25%20%15%10%5%0%

放鳥の賛否

回答者にとってのコウノトリ

2006 年2011 年

2006 年 2011 年

おおいに賛成*

どちらかといえば賛成*

どちらともいえない

どちらかといえば反対

おおいに反対

地域の誇り/象徴/シンボルとなるから

地域の活性化の起爆剤/きっかけ*

豊かな自然環境の象徴やバロメータ*

農作物の付加価値

経済効果を生み出すもの

地域を学ぶ/知る上での題材

かけがえのない生きもの

他の生きものと一緒

苗を踏み倒す害鳥

世話のかかるもの/面倒なもの

別になにも思わない

69

Page 70: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

コウノトリ放鳥後の住民意識

 放鳥後のH18(2006)年、H23(2011)年に豊

岡市民を対象に行ったアンケート結果によると、コ

ウノトリの放鳥に「賛成」または「どちらかといえば

賛成」と答えた人の割合は、2006・2011年とも全

体の8割弱を占め、好意的な意見が多かった(図

2.1-31)。また、回答者にとってコウノトリがどのよ

うな存在であるかに対する回答では、「地域の誇

り/象徴/シンボルとなるから」がH18(2006)・H23

(2011)年とも36%と最も多く、次いで「豊かな自

然環境の象徴やバロメータ」となっている。一方、

「苗を踏み倒す害鳥」と答えた人はH18(2006)・

H23(2011)年とも1%程度に留まっている(図2.1-

32)。このように、かつての害鳥意識は大きく減少し、

地域のシンボル・豊かな自然環境のバロメータとし

て、コウノトリを受け入れる意識が醸成されてきた。

図 2.1-32 コウノトリの位置づけ

出典:「地域への便益還元を伴う野生復帰事業の抱える課題−兵庫県豊岡市のコウノトリ野生復帰事業を事例に−」(本田裕子)

新聞記事・教科書への掲載

 コウノトリ関連の新聞記事掲載数は、地域社会の関心の度合いを反映していると考えられる。飼育員を

初めとする関係者の懸命の努力にもかかわらず、人工繁殖に失敗し続けたS63(1988)年までは多い年

でも60件程度で推移していたが、初めてヒナが誕生したH元(1989)年には130件と大幅に増えた。その

後、しばらくは80~250件程度で推移していたが、コウノトリの郷公園やコウノトリ文化館が設立されたH11

(1999)年頃から増加し、年間400件を超える記事が掲載されるようになった。そして、コウノトリの郷公

園によって、初めて放鳥が行われたH17(2005)年には急激に増加し1,400件を超えた。その後は徐々に

減少し、現在は年間300件程度となっている(図2.1-33)。

 また、学校の教科書・副読本に「コウノトリ野生復帰」の取り組みが紹介されている。上述した兵庫県

や豊岡市が主体となって作成したものの他、複数の出版社から社会科や道徳、英語、家庭科などの分

野でこれまで10冊以上、出版されている。

図 2.1-33 新聞記事掲載数

出典:豊岡市が、新聞 5 誌(神戸新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞)を対象に行ったコウノトリ関連記事の切抜きをもとにカウントした。

16001400120010008006004002000新聞5誌におけるコウノトリ関連記事

掲載数

’76 ’78 ’80 ’82 ’84 ’86 ’88 ’90 ’92 ’94 ’96 ’98 ’00 ’02 ’04 ’06 ’08 ’10 ’12

放鳥

ヒナ誕生

コウノトリの郷公園・文化館設立

50%45%40%35%30%25%20%15%10%5%0%

40%35%30%25%20%15%10%5%0%

放鳥の賛否

回答者にとってのコウノトリ

2006 年2011 年

2006 年 2011 年

おおいに賛成*

どちらかといえば賛成*

どちらともいえない

どちらかといえば反対

おおいに反対

地域の誇り/象徴/シンボルとなるから

地域の活性化の起爆剤/きっかけ*

豊かな自然環境の象徴やバロメータ*

農作物の付加価値

経済効果を生み出すもの

地域を学ぶ/知る上での題材

かけがえのない生きもの

他の生きものと一緒

苗を踏み倒す害鳥

世話のかかるもの/面倒なもの

別になにも思わない

なおH18(2006)年と比べ、H23(2011)年は、「豊かな自然環境の象徴のバロメータ」が有意に減少して

いる一方、「地域の活性化の起爆剤/きっかけ」が有意に増加しており、地域活性化への期待がより託さ

れるようになってきている。

70

Page 71: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

iv) 地域社会への波及効果

経済

 豊岡市がH17(2005)年に策定した「豊岡市

環境経済戦略」の中で、環境への取り組みによっ

て経済効果が生まれ、経済効果が生まれること

によって環境への取り組みが活発になるといった

「環境と経済の共鳴」が唱えられている。その

一例が太陽電池製造を手掛ける「カネカソーラー

テック株式会社」である。この会社は、豊岡地域

におけるコウノトリ野生復帰の取り組みに共感し、

H11(1999)年に豊岡市に本社・工場を設立した。

H24(2012)年には、再生可能エネルギー固定

買取制度を活用した発電施設「豊岡エコバレー・

山宮地場ソーラー」のパネル製造・維持管理を豊

岡市から受託した。市は、売電収入から運営経

費を差し引いた利益を環境施策の財源として充

当することになっている。

 H18(2006)年に豊岡市がコウノトリの郷公園

前に整備した「コウノトリ本舗」では、市内17の

企業が出資して設立した会社が、地元産品の販

売などを行っている。

 また、豊岡市ではコウノトリ野生復帰の資金確

保のため、H12(2000)年に「豊岡市コウノトリ基

金」を設置し、H20(2008)年からは、ふるさと

納税「コウノトリ豊岡寄付金」制度の導入やコウノ

トリ文化館で「コウノトリ環境協力金」への協力呼

びかけを行っている(図2.1-34)。

図 2.1-34 コウノトリ基金への寄付金額出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市 HP豊岡エコバレー・山宮地場ソーラー

24

20

16

14

8

4

0

放鳥

コウノトリ基金への寄付金額・

ふるさと納税額(百万円)

’00

2.3

’01

1.5

’02

1.9

’03

2.0

’04

1.4

’05

4.4

’06

6.2

’07

6.7

’08

20.9

’09

21.1

’10

15.0

’11

13.8

’12 年

13.8

基金(県内(但馬地域除く))基金(コウノトリ文化館入館者) 基金(匿名など)基金(但馬地域) 基金(県外)

ふるさと納税

71

Page 72: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

1,400

1,200

800

600

400

200

0コウノトリツーリズムガイド利用者数(人)

6

5

4

3

2

1

0豊岡市 入込み数(百万人)

宿泊客数 ツーリズムガイド利用者数日帰り客

放鳥1.5 1.4 1.4

1.3 1.3 1.3 1.3 1.2 1.11.1 1.1 1.1

’01

4.1

’02

4.1

’03

4.1

’04

3.8

’05

4.0

’06

4.1

’07

4.0

’08

3.8

’09

3.6

’10

3.2

’11

3.2

’12

3.1

600千人

500

400

300

200

100

0’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

郷公園への来園者数

放鳥

35 120 131 155 164 125242

488 455 417 365302 297 306

コウノトリによる地域への波及効果

 コウノトリの保護・増殖研究や環境教育の拠点

としてH11(1999)年に設立されたコウノトリの郷

公園では、屋外の公開ケージにて、コウノトリを

間近で観察できる。また、コウノトリ野生復帰の

取り組みを学べる豊岡市立コウノトリ文化館や、

コウノトリ育む農法で栽培された新鮮な農産物の

直売所も併設されており、休日には、多くの団体

客が訪れるなど、豊岡の観光コースの一拠点と

なっている。

 初のコウノトリ放鳥が行われたH17(2005)年、

旅行会社の株式会社 JTBから「JTB交流文化

賞」を受賞したことを機に、JTB、JAたじま、城

崎温泉旅館組合、豊岡市が一体となって企画し

た団体向け旅行商品「人と自然が共生するまち

豊岡」の販売を行っている。参加者はコウノトリ

の餌場となる湿地の畦直しなどの野生復帰の取り

組みを体験できる。また、豊岡市ではH20(2008)

年に、コウノトリをはじめとする地域のさまざまな

資源について学び、来訪者に伝えていくボランティ

アガイド「コウノトリツーリズムガイド」の養成を始

めた(図2.1-35)。

コウノトリの郷公園及びコウノトリ文化館への来園者数の推移と経済波及効果

・コウノトリの存在は、豊岡地域への観光集客

や経済効果をもたらし、コウノトリを目的として

来訪する来園者はH21(2009)年時点で年間

約8万人、コウノトリを目的とする来園者による

経済効果は年間約8億円、経済波及効果で

は約10億円の効果があるとされている(大沼・

山本(2009))。

・来園者数は、試験放鳥を開始した翌年のH18

(2006)年に急増し年間約50万人近くに達し

たが、その後はやや減少し、年間30万人程

度で推移している(図2.1-36)。

図 2.1-35豊岡市への入込み数、コウノトリツーリズムガイド利用者数

図 2.1-36 コウノトリの郷公園来園者数の推移

出典:豊岡市提供資料、豊岡市環境報告書

出典:コウノトリの郷公園提供資料

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと

出典:コウノトリ野生復帰のあしあと

コウノトリツーリズムガイド

コウノトリツーリズムでの湿地保全活動

72

Page 73: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

(a) 全来訪者30%

20%

10%

0%コウノトリ第一目的率

(b) 日帰り客40%

コウノトリ第一目的率

30%20%10%0%

(c) 宿泊客10%

コウノトリ第一目的率

0%

100,000

コウノトリ第一目的来訪者数(人/年)

80,000

60,000

40,000

20,000

0

2009.4

22%

2013.11

日帰り54%

宿泊46%

2008~2009 年

日帰り43%

宿泊57%

2013 年

13%

2009.4

35%

2013.11

23%

2009.4

7%

2013.11

5%

2008~2009 年

14,128

84,713

13,73727,266

2013 年

宿泊客 日帰り客

東海、中国、四国13%

それ以遠8%

近畿圏79%

東海、中国、四国26%

それ以遠14%

近畿圏60%

2008~2009 年 2013 年

H25(2013)年現在における分析

・ここでは、現在でも集客力や経済効果が持続しているか、H25(2013)年のデータをもとに、H21

(2009)年と対比する形で、追証を試みる。

・コウノトリを目的として来園する人は、H21(2009)年の22%からH25(2013)年の13%まで約10%減少

した(図2.1-37a)。

・日帰り客でみると、約35%から約23%まで大きく減少(図2.1-37b)。これを年間の来園者数に乗じ換

算すると、年間5万人減に相当する(図2.1-38)。

・来園者のうち、宿泊客についてみると、コウノトリ目的の割合は5~7%程度と変わっていない。(図2.1-

37c)その宿泊客の割合は46%から57%へと、約10%増加しており(図2.1-39)、東海地方・中国地

方など、近郊の近畿圏より一回り外側の地域からの来訪者が増加していることと符合している(図2.1-

40)。

・一方、一人当たりの消費単価は減少しており、宿泊客では約−5,000円/人、日帰り客でも約−3,000

円/人となっている(図2.1-41)。

図 2.1-37 コウノトリ目的の来訪者の割合(出典:大沼・山本(2009)、国土交通省)

図 2.1-40 来訪者の居住地の割合(出典:菊地(2011)、国土交通省)

図 2.1-39 来訪者のうち宿泊客の割合(出典:大沼・山本(2009)、国土交通省)

図 2.1-38 コウノトリを目的に訪れる来園者数(出典:大沼・山本(2009)、国土交通省)

73

Page 74: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

600千人

500

400

300

200

100

0’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

郷公園への来園者数

放鳥

リーマンショック

35 120 131 155 164 125242

488 455 417 365302 297 306

25,000

消費単価(円/人)

20,00015,00010,0005,0000

12

経済効果(億円/年)

1086420

2008~2009 年

23,697

5,405

19,172

2,563

2013 年

宿泊客日帰り客

経済効果波及効果

2008~2009 年

7.9

10.3

3.34.3

2013 年

・経済効果については、大沼・山本(2009)が2007

年の来園者数、2008~2009年のアンケートを用

いて、コウノトリを目的とした来園者による経済波

及効果を年間約10億円と試算している。

・同じ方法を用い、2012年の来園者数と2013年の

アンケートを用いて計算したところ、2013年時点

では約4億円と試算された(図2.1-42)。

・この値を大沼・山本(2009)の推計と比べると、

ほぼ半減となっている。

・半減の主な要因は、来園者数が約2/3に減少し

たこと、及び、一人当たりの消費単価が3,000円

程度減少していることにある(図2.1-41)。

・比較では減少となったものの、2つの年次は社会情

勢が大きく異なっている。大沼・山本(2009)の値

は、H17(2005)年の放鳥を受けて来園者数がピー

クとなったH18(2006)年の翌年の来園者数を用い

ており、一方今回はその後のリーマンショックを受

けた景気後退時かつアベノミクス経済対策前後の

値である。よって、消費単価減は、このような社会

経済情勢の影響を受けていた可能性がある。

・まとめると、コウノトリ目的に訪れる来園者は、ピー

ク時に比べて減少したものの、景気後退の社会

情勢下でも年間約30万人の来園が維持されてい

る。その内訳では、遠方からの集客が増えてい

るとの好変化もうかがえる。

・経済効果でみると、来園者の減少、消費単価の

減少により、ピーク後と比べて約半分程度まで減

少していた。しかしながら、このような景気後退・

回復初期期においても、コウノトリを目的として年

間約30万人の来訪があり、経済波及効果でも4

億円以上の効果が発現している状況が維持され

ている。

(再掲)図 2.1-33 新聞記事掲載数

図 2.1-42 コウノトリ目的の来園者による経済効果(出典:大沼・山本(2009)、国土交通省)

出典:豊岡市が、新聞 5 誌(神戸新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞)を対象に行ったコウノトリ関連記事の切抜きをもとにカウントした。

出典:コウノトリの郷公園提供資料(再掲)図 2.1-36 コウノトリの郷公園来園者数の推移

図 2.1-41 来訪者一人あたり消費単価(出典:大沼・山本(2009)、国土交通省)

16001400120010008006004002000新

聞5誌におけるコウノトリ関連

記事掲載数

’76 ’78 ’80 ’82 ’84 ’86 ’88 ’90 ’92 ’94 ’96 ’98 ’00 ’02 ’04 ’06 ’08 ’10 ’12

放鳥

郷公園・文化館設立

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v) 課題

・コウノトリの郷公園及びコウノトリ文化館への来園者数、コウノトリに関連する新聞記事掲載数、コウノ

トリファンクラブの会員数、コウノトリ基金の寄付金額などは、初めて放鳥が行われたH17(2005)年

前後をピークに減少している。

・しかし、その後は、年間30万人の集客効果が維持されており、コウノトリ目的の来園者も5~7%で維持

されている。

・経済効果で見る場合も、景気後退後の状況において、かつコウノトリを目的に来園する人に限っても、

年間3億円以上の域内消費、及び経済波及効果では約4億円が維持されている。

・日本の空から一度消滅したコウノトリが再び空に戻るという出来事は、全国的にも注目に値することであ

り、世間の関心が一時的に急増すること自体は問題ではない。ただし、野生復帰を果たすには、長

期的に地域社会の理解・協力を得ていくことが不可欠であり、今後、地域社会の関心が低減しないよ

う継続的な情報発信等を行っていく必要がある。

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年度H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

'93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12

市民団体等結成

情報発信

主なイベント

情報誌・映像等

環境教育・市民と協働による環境整備

経済

科学分野

農業分野

河川分野

社会的背景

地域のできごと

表 2.1-8 地域社会に関連する取り組み年表

●コウノトリ湿地ネット発足●コウノトリの郷朝市友の会(現合同会社コウノトリの郷直売所)発足

コウノトリ本舗設立●コウノトリ・パークボランティア発足●●コウノトリファンクラブ発足●NPOコウノトリ市民研究所発足

●第1回コウノトリ未来・国際会議【県、市】第4回コウノトリ未来・国際会議【県、市】●

ラムサール条約第11回締約国会議【県、市、他】●

生きものと人・共生の里を考えるシンポジウム【市、新潟県佐渡市、山口県周南市、鹿児島県出水市】

コウノトリ野生復帰普及啓発映像作成・配信【県(国)】

会報誌等による情報発信【コウノトリファンクラブ】

名刺、おどりによる情報発信【豊岡商工会議所(女性会)】

コウノトリ目撃情報の収集、整理【NPOコウノトリ湿地ネット】

豊岡市マスコット コーちゃん&オーちゃんによるPR活動【市】

ビデオ等による啓発【市】

コウノトリ文化館での情報発信【市】

情報発信【コウノトリ市民研究所】

放鳥コウノトリ情報等の発信【県】

「但馬文化協会ニュースKOHNOTORI」発行【但馬文化協会】

田んぼの学校、生きもの調査、ビオトープづくり【コウノトリ市民研究所】

コウノトリのモニタリング【パークボランティア】

コウノトリKIDSクラブ【市】

草の根技術協力事業による中国への支援(環境教育・環境創造型農業)【JICA】

東大フィールド実習【学】日本・アジアSATOYAMA教育イニシアティブ実習【学、環】

小学校での環境教育支援【JA】

田結地区放棄田の自然再生【民、市、県、学】

戸島湿地の運営管理・環境教育・普及啓発【NPOコウノトリ湿地ネット】

ENEOSわくわく生き物学校【企、市】

子どもの野生復帰大作戦「自然体験学校」【市】

小学校での環境学習・教育【市】

生きもの調査、水田・河川・里山の再生活動、コウノトリ目撃情報の収集、稚魚放流、ひょうご元気松植栽等【コウノトリファンクラブ】

市民環境大学【市】

ボランティアを活用した里山林の整備【県】

人工巣塔設置【県、市、民】

コウノトリ文化館での環境学習【市】

環境教育プログラム整備、体験活動、公開講座、サイエンスカフェ【郷公園、県】

「太陽電池の製造」による環境経済事業【カネカソーラーテック】

●但馬地域「グリーンツーリズム特区」認定●第1回JTB交流文化賞受賞

コウノトリ翔る地域づくり担当参事設置【県】●

●豊岡盆地が「文化的景観」に選定コウノトリ共生推進課(現コウノトリ共生課)設置【市】●

世界ジオパークに認定●●放鳥

ハチゴロウ飛来●コウノトリの郷公園開園●ラムサール条約登録●●環境経済戦略●台風23号野生復帰推進計画●●阪神淡路大震災(H7)

戸島湿地構想・計画  戸島湿地工事

大手量販店で「コウノトリ育むお米」販売【市、企】

田結川整備【県】

戸島地区を湿地として残す声が上がり始める【民】

放鳥個体の追跡、行動の類型化、モニタリングへのフィードバック、野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果コウノトリの捕獲方法の比較と有効性、IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復

野生化の生態観察、放鳥方法の試験

コウノトリ本舗・駐車場整備【市】

東京にアンテナショップ開設【市】

ふるさと納税「コウノトリ豊岡寄付金」制度導入、文化館で「環境協力金」呼びかけ【市】

豊岡市コウノトリ基金募集【市】コウノトリツーリズムガイド【市】

コウノトリ育むお米の加工品販売【企】

旅行商品「人と自然が共生するまち豊岡」販売【JTB、JA、城崎温泉旅館組合、市】

環境・地産地消をテーマとした物産販売等【コウノトリ本舗】

コウノトリ支援自動販売機設置【近畿コカ・コーラボトリング】

●コウノトリの歴史小冊子全戸配布【市】

豊岡エキシビション【市】

世界一田めになる学校【市、大崎市、佐渡市】

コウノトリと共生する地域づくりフォーラム【県】

コウノトリの郷公園公開フォーラム【郷公園】

コウノトリの野生復帰に関する国際ワークショップ【県】●第1回生物の多様性を育む農業国際会議【県、市、JA、民】●

●愛知万博【県、市】

●第3回コウノトリ未来・国際会議(初放鳥)【県、市】●第2回コウノトリ未来・国際会議【県、市】

注 1)表中の赤線は影響   を及ぼしたと考えら   れるものを示す。注 2)取組み主体の略字   は以下を示す。   県:兵庫県   市:豊岡市   民:市民   学:大学   JA:農協   環:環境省

●生物多様性国家戦略(H7)

●第三次生物多様性国家戦略(H19)リーマン・ショック(H20)●環境保全活動・環境教育推進法(H15)●

新・生物多様性国家戦略(H14)●生物多様性国家 戦 略 2012-2020(H24)●

自然再生推進法(H14)● 生物多様性国家戦略2010(H22)●多自然川づくり基本指針(H18)●COP10開催、愛知目標採択(H22)●

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年 イベント名称 開催日 主催等 参加者数 概要H6 1994 第 1 回コウノトリ未来・国際かいぎ H6.6.25 ~ 26 兵庫県 , 豊岡市 のべ 2,080 人 コウノトリ野生復帰事業の計画の実現に向けた技術・知見の集積や国際的アピールを目的にした国際会議。

H10 1998 第 5 回「兵庫の川サミット」 H10.5.23 ~ 24 第 5 回兵 庫の川サミット実行委員会 150 人 県内の地域や流域を越えた新しいネットワークづくりとより良い川環境づくりを目指す会議。

H12 2000第 2 回コウノトリ未来・国際かいぎ H12.7.8 ~ 9 兵庫県 , 豊岡市 のべ 1,590 人 計画の実現に向けた技術・知見の集積やコウノトリ野生復帰事業の国際的アピールを目的にした国際会議。ミュージカル「こうのとりが飛ぶとき」 H13.2.24 ~ 25 豊岡市 1,600 人 コウノトリをシンボルに、人と自然と共存というテーマをファンタジックに描いた21世紀のエコロジー・ミュージカル。

H13 2001 コウノトリの郷公園開園記念フォーラム~飛び立つコウノトリ~ H13.11.4 兵庫県 350 人 平成 11 年 11 月に郷公園が全面開園したことを記念し、コウノトリの野生復帰・環境づくり等について一層の理解を得

るためのフォーラム。

H14 2002 コウノトリの郷公園開園記念フォーラム~人とコウノトリとの共生をめざした地域づくり~ H14.11.4 兵庫県 120 人 コウノトリの野生復帰・環境づくり等について一層の理解を得るためのフォーラム。

H15 2003

第 1 回こうのとり感謝祭 H15.9.27 ~ 28 実行委員会 のべ 600 人 コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取り組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。

コウノトリの郷公園開園記念フォーラム~コウノトリ環日本海国際フォーラム~ H15.11.9 兵庫県 200 人 コウノトリの野生復帰・環境づくり等について一層の理解を得るためのフォーラム。

コウノトリと共生する水田づくりシンポジウム H16.3.20 豊岡市 150 人 コウノトリと共生する水田づくりに関する講演・パネルディスカッション。

H16 2004

円山川自然再生に関するフォーラム~コウノトリ野生復帰に向けて~ H16.8.8 国土 交 通省、兵 庫

県、豊岡市 約 400 人 円山川の自然をどのように保全・再生していけばよいのかを、講演者・聴講者が共に考えることを目的としたフォーラム。

コウノトリの郷公園開園記念フォーラム~コウノトリ・私たちの野生復帰~ H16.12.12 兵庫県 280 人 コウノトリの野生復帰・環境づくり等について一層の理解を得るためのフォーラム。

コウノトリと共生する地域づくりフォーラム H16.12.12 兵庫県 300 人 国内外の自然環境の保全・再生等への取り組みの先進事例を検証し、但馬地域における住民参加による環境創造型農業、河川の自然再生、里山林の整備等の環境整備の推進への理解と参加を得るための地域づくりフォーラム。

H17 2005

第 2 回こうのとり感謝祭 H17.2.7 実行委員会 のべ 200 人 コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。

第 3 回コウノトリ未来・国際かいぎ H17.9.24 ~ 25 兵庫県 , 豊岡市 のべ 1,900 人 コウノトリ野生復帰事業の計画の実現に向けた技術・知見の集積や国際的アピールを目的にした国際会議(コウノトリ野生復帰の歴史的な一歩となる試験放鳥のスタートにあたり、秋篠宮殿下同妃両殿下ご臨席)。

2005 年日本国際博覧会【愛知万博】 H17.3.25 ~ 9.25 兵庫県 , 豊岡市

約 2,205 万人(コウノトリの展示を行った「グローバルハウス」の入館者数は約156万人)

“自然の叡智”をテーマとし、121 カ国4国際機関が参加した国際博覧会のテーマ館グローバル・ハウスにおいて、コウノトリ野生復帰プロジェクトを展示し、兵庫県・豊岡市の取り組みを PR した。馴化訓練の様子のリアルタイム中継などが注目を集め、放鳥式典当日は、豊岡市と結んでの生中継を行った。

学術研究発表会 H17.12.17 豊岡市 100 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度(H16 ~)を利用した学生による研究成果の発表会。

H18 2006

第 3 回こうのとり感謝祭 H18.4.1 ~ 2 実行委員会 のべ 200 人 コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取り組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。

コウノトリ放 鳥記念 1 周年記念 地 域づくりフォーラム H18.9.23 兵庫県 650 人

国内外の自然環境の保全・再生等への取り組みの先進事例を検証し、但馬地域における住民参加による環境創造型農業、河川の自然再生、里山林の整備等の環境整備の推進への理解と参加を得るための地域づくりフォーラム。フォーラム終了後、コウノトリ自然放鳥を行った。

学術研究発表会 H18.12.1 豊岡市 120 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

コウノトリ育む農法推進フォーラム H19.2.20 兵庫県 - 「コウノトリ育む農法」の意義と将来展望を検討し、生産者及び関係者が情報を共有するとともに、環境や経済の観点から但馬の農業を考えたフォーラム。

第 4 回こうのとり感謝祭 H19.3.24 実行委員会 200 人 コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取り組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。

H19 2007第 5 回こうのとり感謝祭 H19.7.20、27 実行委員会 のべ 200 人 コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取り組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を

高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。学術研究発表会 H19.12.15 豊岡市 70 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

H20 2008

第 6 回こうのとり感謝祭 H20.3.8 実行委員会 100 人コウノトリをシンボルとしたまちづくりに取り組んでいる市民・団体が活動成果を発表し合い、交流の輪を広げて元気を高めながら、次のステップに上がっていく契機とするイベント。「世界へ ! 未来へ !」をテーマに、人と自然が共生するまちを目指して行われた、映画上映、座談会等各種イベント。

「国際生物多様性の日」記念イベントミュージカル「火の鳥」 H20.5.22 環 境 省、 兵 庫 県、

豊岡市 1,000 人 コウノトリ野生復帰の取り組みの啓発を兼ね、国連が提唱する国際デーの1つの「国際生物多様性の日(5月22日)」の記念イベントとして、劇団わらび座により行われたミュージカル。

学術研究発表会 H20.7.31 豊岡市 約 150 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

コウノトリ巣立ち記念日 野外コンサート H20.7.31 豊岡市 300 人 2007 年に国内で 46 年ぶりとなるコウノトリの野生下での巣立ちを迎えた日を記念して、「命への応援」をキーワードにしたイベント。

学術研究発表会 H20.12.6 豊岡市 70 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

H21 2009

生きものと人・共生の里を考えるシンポジウム H21.1.24 豊岡市 , 佐渡市 , 周南市 , 出水市 150 人

大型の希少鳥類をシンボルに、人と自然の共生に取り組む 4 つの自治体〔佐渡市(新潟県・トキ)、周南市(山口県・ナベヅル)、出水市(鹿児島・ナベヅル等)、豊岡市(兵庫県・コウノトリ)〕の首長、関係団体、国県関係者等が一堂に会し、各地の現状と地域での取組みについて情報と経験の交流を図ったシンポジウム。

ラムサール勉強会 H21.2.6 ~ 7 コウノトリ生息地保全協議会 117 人 ラムサール条約への登録に向けた行政職員・住民向け勉強会。

豊岡 KODOMO ラムサール交流会 H21.2.21 ~ 22 コウノトリ生息地保全協議会 33 人 第 10 回ラムサール条約締約国会議に合わせて行われた「KODOMO ラムサール in 韓国」に参加した子どもたちの情報交

換やネットワークの形成を目的とした交流会。ワークショップ「土と生きもののおいしい関係」 H21.3.3 コウノトリ生息地保

全協議会 35 人 環境創造型農業や湿地創出に関連し、土と生きものの関係を解明すること目的としたサイエンスワークショップ。

学術研究発表会&ディスカッション H21.7.31 豊岡市 60 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

豊岡エキシビション【東京】 H21.11.10 豊岡市 103 人 豊岡地域の取り組みや魅力を発信するためのイベント。東京でテレビ局、新聞・雑誌社、広告代理店、百貨店、旅行業者などを招待。

H22 2010

コウノトリ野生復帰学習・検討会「渡りと定着化について考える」 H22.1.9 コウノトリ生息地保

全協議会 40 人 初めての放鳥から 5 年が経過しようとしているなか、「コウノトリ野生復帰」を見つめなおし、今後の進むべき道を考えるための学習・討論会。

市民フォーラム「外来種がいて何が悪いの?」 H22.2.28 コウノトリ生息地保全協議会 50 人 近年豊岡地域でも身近な問題となっている外来種に関する理解と意識醸成を図り、豊岡地域で行っている生物多様性

の保全活動に活かすために行われた市民フォーラム。公開ワークショップ「コウノトリのお米をおいしくいただく」【東京】 H22.3.15 豊岡市 59 人 「コウノトリ育むお米」を題材にした、食の発信イベント。「食べる健康、食べる貢献」をテーマに、東京でジャーナリ

スト等を招待。生物多様性セミナー「生きものの多様性の保全と事業活動」 H22.4 ~ 8 豊岡市 380 人 「第 4 回コウノトリ未来・国際かいぎ」の環境経済分科会として、「環境と経済の共鳴」のさらなる可能性を見出すため

に行われたセミナー。

湿地ネットワーク研修会「湿地夜も夜も話」 H22.5.21 コウノトリ生息地保全協議会 40 人 豊岡市内で湿地やビオトープの管理に取り組む団体や個人が情報交換し、管理技術やマンパワー等の共有を通じた「湿

地ネットワーク」の形成を図るための研修会。日本学術会議公開シンポ「生物多様性をめぐる科学と社会の対話」 H22.5.22 日本学 術 会議、豊

岡市 168 人 生物多様性を研究対象とする「統合生物学」の現状を伝えるとともに、生物多様性の危機を克服し、社会の持続可能性を確保するための新しいフォーラムのモデルを提示するシンポジウム。

第 1 回生物の多様性を育む農業国際会議 H22.7.2 ~ 4 兵庫県、豊岡市、JAたじま、民間団体 411 人 日本、韓国、中国の3カ国が中心となって、東アジアの風土における環境創造型農業の普及・拡大を目指すとともに、

生物の多様性を重視し、自然循環機能を再生する農業技術や地域の取り組みについての方向性を見出す国際会議。

豊岡エキシビション 2010【東京】 H22.7.7 豊岡市 199 人 コウノトリをシンボルとした環境都市の実現に向けた先駆的な取り組みや、固有の自然、歴史、伝統、文化に根ざしたまちづくりを紹介。

生物多様性セミナー(市民向け基礎編) H22.7.28 豊岡市 100 人 国連が定める「国際生物多様性年」(2010 年)の関連行事として、市民などを対象にしたセミナー。

世界一田めになる学校【東京】 H22.8.9 豊 岡 市、 大 崎 市、佐渡市 287 人 東京大学を会場にマガンの里・大崎市、トキの郷・佐渡市、コウノトリの郷・豊岡市の3つの市によって行われた「田ん

ぼの未来」と「自分たちの未来」を考える子どもイベント。

コウノトリの生息地を全国に広げる市民かいぎ H22.10.29 コウノトリ生息地保全協議会 83 人 コウノトリの生息地を全国に広げていくため、各地でコウノトリを迎えるために活動している市民が集まり、現在の課題

を出し合い、今後の展望等について議論した会議。第 4 回コウノトリ未来・国際かいぎ H22.10.30 ~ 31 兵庫県 , 豊岡市 のべ 2,950 人 コウノトリ野生復帰事業の計画の実現に向けた技術・知見の集積や国際的アピールを目的にした国際会議。学術研究発表会 H22.12.4 豊岡市 60 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

H23 2011

湿地管理勉強会「湿地夜も夜も話」 H23.5.30 コウノトリ生息地保全協議会 40 人 豊岡市内で湿地やビオトープの管理に取り組む団体や個人が情報交換し、管理技術やマンパワー等の共有を通じた「湿

地ネットワーク」の形成を図るための研修会。

コウノトリの野 生復帰に関する国際ワークショップ H23.5.27 兵庫県 約 110 人

試験放鳥から本格的野生復帰のステージに入ったことを踏まえ、国内外から希少鳥類研究者を招き、研究成果及び取り組み状況を集約して、コウノトリの野生復帰の学術的指針の策定に資するとともに、希少鳥類保護に必要な環境整備の重要性を伝えたワークショップ。

シンポジウム~地域づくりのたねとしかけを国際発信する~ H23.5.28 兵庫県 約 230 人

試験放鳥から本格的野生復帰のステージに入ったことを踏まえ、国内外から希少鳥類研究者を招き、研究成果及び取り組み状況を集約して、コウノトリの野生復帰の学術的指針の策定に資するとともに、希少鳥類保護に必要な環境整備の重要性を伝えたシンポジウム。

豊岡エキシビション 2011【東京】 H23.7.7 豊岡市 259 人 コウノトリをシンボルとした環境都市の実現に向けた先駆的な取り組みや、固有の自然、歴史、伝統、文化に根ざしたまちづくりを紹介。

世界一田めになる学校【東京】 H22.8.9 豊 岡 市、 大 崎 市、佐渡市 200 人 東京大学を会場にマガンの里・大崎市、トキの郷・佐渡市、コウノトリの郷・豊岡市の3つの市によって行われた「田ん

ぼの未来」と「自分たちの未来」を考える子どもイベント。

各地のコウノトリの様子を知る会 H23.11.22 コウノトリ生息地保全協議会 50 人 コウノトリの郷公園研究部長を招いて「コウノトリ野生復帰グランドデザイン」と豊岡地域の現状を学ぶと共に、他地域

におけるコウノトリの様子や地域の取り組みを共有する会。学術研究発表会 H23.12.10 豊岡市 45 人 コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度を利用した学生による研究成果の発表会。

「きみの町にコウノトリがやってくる」環境学習授業 H24.2.28 コウノトリ生息地保

全協議会 100 人 コウノトリを守り、コウノトリとともに生きていくために努力を続けている人々を綴った「きみの町にコウノトリがやってくる」や幼児向け紙芝居「とんだとんだコウノトリ」などを描いた児童文学作家による環境学習授業。

「コウノトリの結婚相談」勉強会 H24.3.20 コウノトリ生息地保全協議会 25 人 野外コウノトリの遺伝的多様性確保に向け、研究者を招いて行った勉強会。

コウノトリの郷公園公開フォーラム「コウノトリとジオパークをたねにした地域づくり」 H23.10.22 兵庫県 約 70 人 試験放鳥から本格的野生復帰のステージに入ったコウノトリの野生復帰事業及び環境づくりについて、更なる理解を得

るための公開フォーラム。

H24 2012

ラムサール条約第11回締約国会議【ルーマニア】 H24.7.6 ~ 13

参加者(ラムサール条 約事 務局、日本代 表団、関 係自治体、 国 内NGO関係者、各国代表団)

- ラムサール条約の締約国による会議。コウノトリの生息を支える「円山川下流域・周辺水田」が登録湿地に認定された。

ラムサールセミナー H24.7.24 豊岡市 70 人 登録を記念したラムサール WEEK 事業。登録と今後の豊岡地域について考えるセミナー。

豊岡エキシビション 2012【東京】 H24.7.25 豊岡市 177 人 コウノトリをシンボルとした環境都市の実現に向けた先駆的な取り組みや、固有の自然、歴史、伝統、文化に根ざしたまちづくりを紹介。

ラムサール登録記念公演 ミュージカル「おもひでぽろぽろ」 H24.7.28 豊岡市、JA たじま 700 人 ラムサール WEEK 事業で開催。地域への愛を再確認するミュージカル。

NHK 環境キャンペーン H24.7.29 NHK 神戸、豊岡市 220 人 ラムサール WEEK 事業で開催。子どもたち自身が考えた地域の自然に関するクイズを通じて、楽しみながらふるさとを再発見するステージショー。

世界一田めになる学校【東京】 H24.8.9 豊 岡 市、 大 崎 市、佐渡市 200 人 東京大学を会場にマガンの里・大崎市、トキの郷・佐渡市、コウノトリの郷・豊岡市の3つの市によって行われた「田ん

ぼの未来」と「自分たちの未来」を考える子どもイベント。

コウノトリと共生する地域づくりフォーラム H24.10.19 ~ 20 兵庫県 , 郷公園 約 230 人 ふるさとひょうご記念貨幣(地方自治法施行 60 周年記念貨幣)がコウノトリを題材として発行されることを記念して、コウノトリの野生復帰や人と自然が共生する地域づくりへの理解を深めるために開催したフォーラム。

表 2.1-9 コウノトリに関する主な情報発信イベント(フォーラム、シンポジウム、発表会等)

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表 2.1-10 地域社会における公共政策のまとめ

H21 (2009)

H22 (2010)

野生下で絶滅(S46)就業者数減少(S55 ~)

○コウノトリを保護

○コウノトリに対する 関心向上(情報発信)

○コウノトリを受け 入れる環境づくり

○環境経済戦略を進める

コウノトリ繁殖成功(H 元)バブル崩壊(H3)阪神淡路大震災(H7)

コウノトリの郷公園開園

「ハチゴロウ」飛来

ステージ 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした代表的な事象

ステージ3:再導入に向けて

ステージ2:保護〜増殖

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

H25(2013)

H24(2012)*ラムサール条約 湿地登録

H23(2011)

H20 (2008)

H19 (2007)

H18 (2006)

H17 (2005)

H16 (2004)

H15 (2003

H14 (2002 )*自然再生推進法

H元 (1989)

S46(1971)

H11 (1999)

H12 (2000)

H13 (2001)

台風 23 号襲来

コウノトリ放鳥

リーマン・ショック

目標 1

目標1目標19

目標1目標19

目標1目標4目標19

・コウノトリ棲息環境が悪化

文化庁

文化庁県

・文化財(天然記念物)保護として指定地の変更

・特別天然記念物に昇格・コウノトリ対策委員会設立

・県知事が豊岡を訪れ、保護の必要性を市民に訴える

・コウノトリの保護活動進む

・様 な々媒体による情報発信進む・「田んぼの学校」など市民によ

る環境調査、環境学習進む

・国内外への PR により、企業等の関わりが広がる

・企業と連携したコウノトリによる観光や環境施策により、経済効果が見られる

・祥雲寺地区内の水田にコウノトリ市民研究所と共にビオトープを設置

・「コウノトリ育むお米」の販売開始、広がる

・河川環境整備により、人と川との関わりが復活

・「コウノトリ育むお米」の販売更に広がる

・水田や河川など身近にビオトープが再生され、環境教育の場が増加

・種の保存委員会設置・コウノトリ将来構想調査委員会

設置・兵庫県は県立大学の研究部を

併設した「コウノトリの郷公園」を開設

・コウノトリ野生復帰推進委員会・「コウノトリ未来・国際かいぎ」、「コウノトリの歴史小冊子全戸配布」など実施

・コウノトリの郷公園内に参加型の展示・研究・来園者対応の普及啓発施設「市立コウノトリ文化館」を開設

・「コウノトリ未来・国際かいぎ」や「コウノトリ野生復帰を普及啓発するための映像」を作成、周知

・豊岡市にコウノトリ共生課が発足(市長直属)、県民局にも専属の担当(コウノトリ翔る地域づくり担当)が配置

・県、市、コウノトリの郷公園をつなぐ「コウノトリプロジェクトチーム」を発足

・豊岡市環境経済戦略推進・兵庫県内の子供たちは、コウ

ノトリの基本的な教育を受ける(教科書に掲載)

・「田んぼの学校」など身近に生物が生息・生育する場づくりを実施

・ひのそ島や加陽地区において地元小中学校と連携したモニタリングを実施

・小学校区ごとにビオトープの設置を進める

・小さな自然再生支援事業を開始

県県

県県・市

県・市

県・市

市県

・多くの市民にコウノトリに関する知識や関心を向上させる

・放鳥に向け、市民のコウノトリを受け入れる環境づくり必要

・コウノトリも住める環境づくりの継続

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H21 (2009)

H22 (2010)

野生下で絶滅(S46)就業者数減少(S55 ~)

○コウノトリを保護

○コウノトリに対する 関心向上(情報発信)

○コウノトリを受け 入れる環境づくり

○環境経済戦略を進める

コウノトリ繁殖成功(H 元)バブル崩壊(H3)阪神淡路大震災(H7)

コウノトリの郷公園開園

「ハチゴロウ」飛来

ステージ 直面した課題実施主体 具体策

備考他分野・他主体とのつながり

具体策 成果テーマ

(公共政策方針)対応する愛知目標

地域に影響を及ぼした代表的な事象

ステージ3:再導入に向けて

ステージ2:保護〜増殖

ステージ4:放鳥〜野生復帰

ステージ5:コウノトリと共生する地域づくりへの展開

H25(2013)

H24(2012)*ラムサール条約 湿地登録

H23(2011)

H20 (2008)

H19 (2007)

H18 (2006)

H17 (2005)

H16 (2004)

H15 (2003

H14 (2002 )*自然再生推進法

H元 (1989)

S46(1971)

H11 (1999)

H12 (2000)

H13 (2001)

台風 23 号襲来

コウノトリ放鳥

リーマン・ショック

目標 1

目標1目標19

目標1目標19

目標1目標4目標19

・コウノトリ棲息環境が悪化

文化庁

文化庁県

・文化財(天然記念物)保護として指定地の変更

・特別天然記念物に昇格・コウノトリ対策委員会設立

・県知事が豊岡を訪れ、保護の必要性を市民に訴える

・コウノトリの保護活動進む

・様 な々媒体による情報発信進む・「田んぼの学校」など市民によ

る環境調査、環境学習進む

・国内外への PR により、企業等の関わりが広がる

・企業と連携したコウノトリによる観光や環境施策により、経済効果が見られる

・祥雲寺地区内の水田にコウノトリ市民研究所と共にビオトープを設置

・「コウノトリ育むお米」の販売開始、広がる

・河川環境整備により、人と川との関わりが復活

・「コウノトリ育むお米」の販売更に広がる

・水田や河川など身近にビオトープが再生され、環境教育の場が増加

・種の保存委員会設置・コウノトリ将来構想調査委員会

設置・兵庫県は県立大学の研究部を

併設した「コウノトリの郷公園」を開設

・コウノトリ野生復帰推進委員会・「コウノトリ未来・国際かいぎ」、「コウノトリの歴史小冊子全戸配布」など実施

・コウノトリの郷公園内に参加型の展示・研究・来園者対応の普及啓発施設「市立コウノトリ文化館」を開設

・「コウノトリ未来・国際かいぎ」や「コウノトリ野生復帰を普及啓発するための映像」を作成、周知

・豊岡市にコウノトリ共生課が発足(市長直属)、県民局にも専属の担当(コウノトリ翔る地域づくり担当)が配置

・県、市、コウノトリの郷公園をつなぐ「コウノトリプロジェクトチーム」を発足

・豊岡市環境経済戦略推進・兵庫県内の子供たちは、コウ

ノトリの基本的な教育を受ける(教科書に掲載)

・「田んぼの学校」など身近に生物が生息・生育する場づくりを実施

・ひのそ島や加陽地区において地元小中学校と連携したモニタリングを実施

・小学校区ごとにビオトープの設置を進める

・小さな自然再生支援事業を開始

県県

県県・市

県・市

県・市

市県

・多くの市民にコウノトリに関する知識や関心を向上させる

・放鳥に向け、市民のコウノトリを受け入れる環境づくり必要

・コウノトリも住める環境づくりの継続

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5) その他の分野

i) 里山林

a)背景

 かつて、豊岡地域の里山は薪炭林として活用され、

落葉は肥料に利用されていた。そのため、日当たりの

よく栄養の乏しい場所を好むアカマツが多く見られ、

枝ぶりのよい大木の樹上にコウノトリが巣をつくり、

繁殖を行っていた。

 しかし、第二次大戦中にマツの根から油を取る目的

などで大量に伐採されてしまい、その後は燃料革命や

化学肥料の導入等により里山林に人手が入らなくなっ

たため、マツの生育に適さない環境に変わってしまっ

た。更には、松くい虫の被害を受け、地域によっては

マツがほとんど消滅してしまう程、激減してしまった。

b)取り組みの経緯(表 2.1-11)

 兵庫県やコウノトリの郷公園では、コウノトリの営巣

に必要なアカマツ林を再生するため、平成12(2000)

年から「アカマツ林整備体験活動」として、市民と協

働で林内の除伐・地表かき起しの他、松くい虫に対し

抵抗性がある品種「ひょうご元気松」の植栽を行って

いる。活動には子供達によるボランティアグループ「コ

ウノトリセーバー・キッズ」や「コウノトリ・パークボランティ

ア」なども参加している。

 豊岡市ではH15(2003)年からアカマツ林整備作業

用に林間歩道を設置するとともに、松くい虫の防除や

「森林ボランティア」育成の一環として、アカマツ苗の

植栽、枝打ち講習会等を実施している。更に、里山

の保全活動などで生じた間伐材を有効利用し、バイオ

マスエネルギーとして利用する「豊岡市バイオマスタウ

ン構想」に取り組んでいる。H19(2007)年から間伐

材から製造したペレットを燃料にした「ペレットストーブ」

の導入に取り組み、H24(2012)年までに公共施設を

中心に累計320台が設置されている(図2.1-43)。

 また、H16(2004)年に発足した「コウノトリファンク

ラブ」でも、里山の再生活動として、「ひょうご元気松」

の植栽等を行っている。

 一方で、アカマツの再生には長い年月を要すること

から、兵庫県や企業、市民団体等によって人工巣塔

の設置も行われている。

350

300

250

200

150

100

50

0ペレットストーブ設置累積数(台)

4 3984

132

293 320

’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

図 2.1-43 ペレットストーブ設置累積数出典:豊岡市提供資料

出典:郷公園 生き物通信 No.60(2002.12 .5)

出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市 HP

マツの樹上での営巣(S30 年代)

アカマツ林整備体験活動

ペレットストーブ

ペレット

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ii) 景観

a)背景

 コウノトリ野生復帰にあたり、送電線がコウノトリ

の障害物となることが懸念されていた。

b)取り組みの経緯

 コウノトリが電線にひっかかることを防止するとと

もに、田園景観の整備を併せて、兵庫県と豊岡市では、

電力会社の協力のもと、コウノトリの郷公園が開園し

たH11(1999)年にコウノトリの郷公園の進入路にあ

る電柱の地中化を行った。また、H16(2004)~ H17

(2005)年にはコウノトリの郷公園周辺の電線類の地

中化や道路緑化、電柱美装化(擬木化)を行った。

 その他、兵庫県や国土交通省では、国道などにコウ

ノトリをデザインした標識を設置するなどの取り組み

を行ってきた。

表 2.1-11 その他分野に関連する取り組み年表

出典:豊岡市提供資料

コウノトリの郷公園周辺(電柱地中化前)

コウノトリの郷公園周辺(電柱地中化後)

年度H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 ‘10 ‘11 ‘12

里山林取り組み

景観

科学分野

地域社会分野

社会的背景

地域のできごと

アカマツ林整備体験活動【県、郷公園、民】

●阪神淡路大震災(H7)●「ハチゴロウ」飛来

野生復帰推進計画● ラムサール条約登録●世界ジオパークに認定●

コウノトリ共生推進課(現コウノトリ共生課)設置【市】●コウノトリ翔る地域づくり担当参事設置【県】● ●但馬地域「グリーンツーリズム特区」認定

●豊岡盆地が「文化的景観」に選定【文化庁】

生物多様性国家戦略 2012-2020(H24)●

豊岡市景観計画策定【市】●

林間歩道・松林等森林整備【市、民】

●生物多様性 国家戦略(H7)

●景観法施工(H15)

ペレットストーブの導入【市】

郷公園進入路の電柱を地中化【県、関西電力】

花いっぱいモデル事業【県】

●コウノトリの野生復帰の場としての水田地帯の景観構造(H14 ~)

コウノトリの郷公園開園● ●放鳥●環境経済戦略

●第三次生物多様性国家戦略(H19)

●台風23号

新ひょうごの森づくり(第 1 期対策)(H14~)●自然再生推進法(H14)●

●コウノトリ・パークボランティア発足●コウノトリファンクラブ発足

新ひょうごの森づくり(第2 期対策)(H24 ~)●

コウノトリをデザインした標識の設置【県、国交省】

郷公園周辺の電線類地中化、道路緑化、電柱美装化【県、市、関西電力】

●野生復帰のフィールドにおけるリスクの予測(H11 ~)

コウノトリセーバー・キッズ発足●

新・生物多様性国家戦略(H14)●環境保全活動・環境教育推進法(H15)●

ひょうご元気松植栽等【コウノトリファンクラブ】

コウノトリ営巣木復活推進事業【県・林業団体】

人工巣塔設置【県、市、民】

生物多様性国家戦略 2010(H22)●COP10 開催、愛知目標採択(H22)●

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(2) 関係行政機関による取り組みの自己点検

 コウノトリ野生復帰に係る公共政策の取り組み整理を踏まえて、河川分野、農業分野、地域社会分野に

関わる各行政主体が、取り組みの自己点検として、現時点において残された課題、顕在化した課題、今後

の方向性について整理した。

【河川分野】 (自己点検実施主体:国土交通省、環境省、兵庫県、豊岡市)

【現時点において残された又は顕在化した課題】

 河川分野においては河川法改正以来、洪水災害対策と環境保全の両立に苦心してきたとこ

ろであるが、ここでは、コウノトリに係る取り組みに限定して示した。

①「災害復旧事業の円滑な推進」と「自然環境の保全」の一時的なトレードオフの発生に  関する課題

・ ひのそ島の経験や、科学者の知見等を得たことで、円山川では湿地創出で治水と環境保全

の両立を図っているが、例えば限られた期間の中で災害復旧事業を推進しようとすれば、

河川周辺を工事の土砂仮置き場にせざるを得ず、一時的に湿地環境を減少させるなど、自

然環境に少なからず影響を与えるトレードオフが生じることになる。

②環境に対する社会の評価価値認識の適切な把握に関する課題

・河川整備においては、堤内地側の用地条件等の制約によっては、矢板護岸等、必ずしも環

境に対し最適解とならない手法を選択しなくてはいけない場合がある。

・ただし、環境と社会資本財の選択バランスについては、時代によって移り変わってきてお

り、時代・社会の評価価値を適切に反映した手法を選択する必要がある。

③持続可能な管理方法の確立に関する課題

・創出した湿地環境は、人為的な維持管理が必要となる。

したがって、地域と連携した持続可能な管理方法の確立が必要になる。

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【今後の方向性】

A. 湿地整備工、仮設等も含めた自然環境への影響の低減【課題①に対応】

・環境影響調査結果の活用や科学分野との連携により、極力、コウノトリの生息に影響の少

ない手法を選定し、事業実施における配慮事項等について、専門家等に相談を行い、生息

環境に配慮しつつ実施する。

B. 環境に対する社会の評価価値の適切な反映【課題②に対応】

・環境に対する価値は、人間社会の中において決定される側面がある。

河川法改正により、河川事業では、科学分野の専門家や地域社会の声を取り込み、事業を

進めるようにしてきたことで、環境に対する時代・社会の評価価値を反映し、事業を進め

てきた。

今後も、トレードオフが生じる場合においても、社会の評価価値を適切に受け止めるよう、

専門家や地域社会の声を受け止める場(委員会等)を設けていく。

C. 持続的な管理を実現する湿地の価値の確保・向上【課題③に対応】

・湿地等を地域と連携して持続的に管理を行うために、湿地自体の価値を高めることで、地

域が湿地を維持し続けることのメリットを享受できる仕組みを確立する。

例えば、管理する湿地が、観光資源となる等、経済的な効果を生んだり、科学分野の支援・

連携も得て、その湿地が環境・生物学的に、他と比べて価値が高い(コウノトリ以外にも

希少な生きものを観察できる等)等、湿地自体の価値を確立する。

また、上記と合わせて維持管理体制の構築・維持管理の内容・作業ポイント等に関して手

引き等として整理する。

83

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【農業分野】 (自己点検実施主体:農林水産省、環境省、兵庫県、豊岡市)

【現時点において残された又は顕在化した課題】

▼コウノトリ育む農法の拡大に関する課題

①農法の課題

・手間が掛かるという既存イメージがあり、新規参入及び無農薬農法の拡大の妨げになって

いる。

②用水確保の課題

・水利権(許可水利)の関係から、冬期又は田植え前の早期に取水できない地域も多い。

③隣接田への影響の課題

・冬期・早期湛水が近隣圃場に迷惑をかけることもあり、個人の意志では取り組めない農家

が多い。

・コウノトリの生息環境のネットワーク化及び生産効率性から、集落・水系単位の取り組み

推進が必要である。

④集荷体制の課題

・JAにはコウノトリ米に対応できる乾燥調整施設(カントリーエレベーター)がないため、

乾燥調整施設のない小規模農家は取り組めない。

⑤次世代育成の課題

・継続的にコウノトリ育む農法を推進するためには、水稲を中心とした若い農業者の育成及

びコウノトリ育む農法の推進リーダーの育成が必要である。

⑤他主体との連携の課題

・農家の安定した収益確保のため、コウノトリ育むお米のさらなるブランド力強化が必要で

ある。

・コウノトリ野生復帰推進計画に連動して関係機関がコウノトリ育む農法を拡大するための

体制づくりが必要である。

・消費者(都市市民)への理解を広げ、サポーターを増やす体制が必要である。

▼農政全般に関する課題

⑦農政全般に関する課題

・耕作放棄地の増加、優良農地の改廃が続いている。

・コウノトリ野生復帰を支えている水田農業の存続(農地及び後継者の確保)が必要である。

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【今後の方向性】

A. コウノトリ育む農法の拡大のための条件整備

【課題①に対応】

・雑草対策の省力化など、収穫量の安定に向けた取り組みを継続する。(具体例:病気や雑

草に強い「成苗稲作」の実証研究。機械式除草機の開発研究。実践データの収集・分析・

評価など)

【課題②に対応】

・冬期湛水・早期湛水を可能にする近隣河川からの用水確保を推進する。(具体例:河川の

溜まり水を利用する施設を整備(六方地区)。環境利水に関する実験的・試験的な取り組

みの検討)

【課題③に対応】

・法人、営農組織を中心とする集落・水系単位の取り組みを支援する。(具体例:育む農法

に新たに取り組む農業生産法人・営農組織等に対して、栽培経費及び推進活動を補助。農

業改良普及センターを中心に、コウノトリ育む農法推進セミナーや集落相談会等を実施。

大規模農家・法人・営農組合等を中心に、周辺生産者が一体となった取り組みを推進)

・集落営農による効率化に向けた施設整備等を支援する。(具体例:コウノトリ育む農法拡

大に取り組む農業生産法人・営農組織等に対して、共同利用機械・施設整備を助成)

【課題④に対応】

・農家が生籾で出荷できるよう拠点施設を確保する。(具体例:JA のカントリーエレベーター

整備の支援。カントリーエレベーターでの小規模な出荷量の受け入れに向けた調整)

【課題⑤に対応】

・若い農業者及びコウノトリ育む農法の推進リーダーを育成する。(具体例:農業改良普及

センターでは、若い農業者に対する担い手講座を開催。実証圃の設置指導等を通して、環

境創造型農業の次代の担い手を育成。コウノトリ育む農法アドバイザー研究会(30名)を

組織し、その活動支援により推進リーダーを育成。豊岡市では、環境創造型農業への若手

新規就農者育成のための農業スクール運営)

【課題⑥に対応】

・販売促進・消費者交流活動、県内外へのPR活動によりコウノトリ米のブランド力の向上

を図る。(具体例:関係機関の連携の強化により、JA等の販売促進や消費者交流活動を

支援。平成26年度「~出会い・感動~夢但馬2014」における県内外へのPR)

B. 農地の保全と担い手育成【課題⑦に対応】

・良好な農地の保全を図る。

・コウノトリ育む農法に代表される高付加価値農業を拡大することで、地域農業の活性化を

図る。

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【地域社会分野】 (自己点検実施主体:文化庁、環境省、兵庫県、豊岡市)

【現時点において残された又は顕在化した課題】

①市民の関心を低減させないような取り組みに関する課題

・放鳥(2006年)以降、全国的な話題としてマスコミに取り上げられることなく、関心が薄

れている。コウノトリ野生復帰は、市内では「当たり前」の感覚になっており、関心も薄れ

ている。

・市民への積極的な情報提供ができていない。コウノトリ野生復帰の取り組みの、暮らしや

文化の中への落としこみが不十分である。

・コウノトリ野生復帰の取り組みは進みつつあるが、その取り組みが一部の団体や住民に限

られている。

②コウノトリも住める環境づくりへの取り組み拡大に関する課題

・自然環境保全活動に参加・実践する市民団体が増加しておらず、関係者が固定化している。

市民分野において、取り組み目標が不明確である。

③市民の意識レベルの底上げに関する課題

・「コウノトリがいる豊岡」にはなったが、「コウノトリと共に生きる豊岡市民」にはなりき

れていない。(受け入れる地域社会(行政を含む)の成熟度)

・市民の暮らしと環境づくりの関連づけを増やし、暮らしへの内在化を進めることが必要で

ある。

・コウノトリに対する愛着のみならず、それを支えている自らの地域への愛着を広げていく

ことが必要である。

④他主体との連携に関する課題

・コウノトリ野生復帰が他地域にも拡大する中、先行地としてどのような役割を果たしてい

けるか。

・コウノトリに関わる関係者の思い(「コウノトリと共に生きるまち」を守る心、守るしくみ)

の見直しと共有。(暮らし方や文化等の哲学が問われている。)

⑤人間社会とのトレードオフに関する課題

・湿地創出など自然再生の取り組みを進める一方で、市街化や宅地開発等による農地開発は

制限なく進んでいる。

・市が行う公共工事等においても、環境配慮のための指針やルールが明確でない。

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【今後の方向性】

A. コウノトリを地域の財産とする意識醸成【課題①、③に対応】

・コウノトリ野生復帰を、世界に誇れる取り組みであり、地域の財産であると捉え、自らの

誇りと感じられるよう意識の醸成を図る。

・他地域への広がり事例も交えながら、コウノトリ野生復帰の取り組みの意義を市民に向け

て改めて発信する。

B. 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成【課題①、②に対応】

・地域に根付く研究者など次世代の人材育成推進。(具体例:兵庫県立大学大学院地域資源

マネジメント研究科の設置など)

・文化遺産が地域で積み重ねてきた価値や意義を次世代に語り継ぎ、地域の魅力を発信でき

る人材を育成する。(具体例:サイエンスカフェ「鶴見カフェ」など)

・地域に対する意識・理解を深め、環境保全等に向けた人の果たす責任と役割、主体的に行

動する実践力を育成する。(具体例:スーパー・サイエンス・ハイスクール事業、総合的

学習など)

・地域の資源(人材・施設等)を活用し、地域の特性を踏まえた環境教育を推進する。また

小学生のみならず、高校生、大学生、若手社会人等にも目を向けた施策を展開する。(具体例:

環境学習実践講座(小中学校教職員対象)など)

C. 多様な主体の参画【課題③、④に対応】

・連携を維持するためのプラットフォームを継続する。(具体例:コウノトリ野生復帰推進

連絡協議会)

・半世紀に及ぶ野生復帰の「物語」を知ってもらう努力を続ける。また全国を飛び回る豊岡

生まれのコウノトリについて、目撃情報の管理だけに終わらず、飛来に合わせて野生復帰

の取り組み周知を行う。

・都市住民や消費者、企業などの幅広い参画につなげていく。

D. 営み(経済)と環境づくり、地域活動を結びつける【課題③に対応】

・一次産業の育成とそれを支える地域コミュニティ保全を強化する。

・環境づくりと地域活動を結びつける施策を検討し、積極的に展開する。

E. 科学・地域双方における連携の拡大【課題④に対応】

・兵庫県(コウノトリの郷公園)は、国や豊岡市等の地元自治体と共に、これまでに蓄積し

てきた連携の経験を基に先行地としての役割を担いながら、全国の自治体、団体等への情

報提供を通じて連携を拡大する。

・自治体側も、「コウノトリと共に暮らすまち」としての経験を伝えられるよう、ネットワー

クの形成に取り組む。

・コウノトリ野生復帰に関係する市民同士も、ネットワーク形成に取り組む。

F.「豊岡ルール」の検討【課題⑤に対応】

・豊岡らしい「環境配慮のまち」の具体的な基準を形づくると共に、特に農地や景観など「受

け継がれてきたもの」の保全に向けた総合的な対策(土地利用を含む)を検討する。

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【コウノトリに係る科学分野】

 本事業では、科学分野の取り組みを科学的な側面から分析・評価することはしていない。一方で、科学

分野は、豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る取り組みの核であるため、ここでは、コウノトリに

係る科学における「コウノトリと共生する地域づくり」に関する課題、方向性を整理した。

【現時点において残された又は顕在化した課題】

①野生動物と人が近くに暮らすうえでの課題

・野生動物が人に近づきすぎることによる危険性を社会に周知する必要がある。給餌等によ

りコウノトリが人馴れした場合、例えば、近づいた子どもが目をつつかれて失明するといっ

た恐れがある。また、コウノトリが鳥インフルエンザに代表されるような病原体を持つ可

能性もある。

②コウノトリの個体数が増えたときの人の生活環境との関係

・将来、野生個体が大幅に増えていった場合、現在、鹿やカワウなどで問題となっているよ

うに、人や生物との軋轢が大きくなり、再び「害鳥」と扱われるようになる可能性がある。

③市民に対し「野生復帰」の意味を科学の立場から啓発

・これまで、市民が善意で野外個体に給餌を行ったことがあったが、野生復帰を達成するに

は、野生動物の子は大半が死ぬものであり、コウノトリも適切に淘汰されることが必要で

あるとの認識を広める必要がある。

④コウノトリの生息環境基盤の指標モデルづくり

・コウノトリが自立して生活し、繁殖していける餌量を確保するには、淡水魚類群集の復活

が欠かせないが、豊岡の水田・河川・水路における現存量調査、そして魚類等の再生産お

よび、適度に食われ適度に生き延びるのに必要な自然再生計画を策定するために必要な調

査は始まったばかりである。また、河川は流域全体でとらえることが大事であり、ハビタッ

トや栄養塩の動態について、行政管轄を超えた視点で評価する必要がある。

・魚類の生息環境改善を行うには、魚道設置など個別の取り組みだけではなく、魚類の生活

史を視野に入れ、農業・漁業との両立をめざす総合的な対策を検討する必要がある。

⑤コウノトリの野生復帰を始めた地域としての責任

・野生動物であるコウノトリは、豊岡地域から全国に飛来している。野生復帰実施主体とし

て、科学面での課題や上述した人間社会との関わりの中での課題等、自覚と責任を持って、

継続的に対応していく必要がある。

⑥(参考:その他のコウノトリの科学に関する課題:遺伝子の多様性への対応)

・数少ない家系の子孫が野外に生息しているので、遺伝的な多様性が確保できていない。今

後、十分配慮した対策を講じていかないと遺伝的劣化による個体群の壊滅が生じる恐れが

ある。

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【今後の方向性】

A. 啓発のための主体間連携【課題①②③に対応】

・市民に対し、コウノトリとの共生についての課題を正しく理解いただくために、市民に対

するメッセージ伝達の窓口となる豊岡市と、互いに得意とする分野を補いあい、連携して

いく。

・環境教育の効果をより一層上げていくために、市民団体とコウノトリの郷公園が連携を深

めて、戦略的に進めていく。

B. コウノトリの生活環境基盤づくりのための主体間連携【課題④に対応】

・コウノトリの生息環境の指標モデルをつくるために、河川・農林水産行政(国・県)、市

民行政と連携していく。

C. コウノトリの野生復帰を始めた地域としての責任への対応【課題⑤に対応】

・コウノトリ野生復帰に関する国内外の中心となる研究機関として、さらなる研究はもとよ

り、情報ネットワークの充実と、情報発信を進めていく。

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(1) インタビューを通じた価値観の抽出

 これまでコウノトリ野生復帰の取り組みに関

わってこられた方々に、主観で語っていただくな

かから、豊岡地域の住民等が共有しているコウノ

トリ及び郷土への思いや、価値観を見いだすこと

を目的として、インタビューを行った。

1)インタビュー

インタビューは、以下の方々を対象に実施した。

2)インタビューのまとめ

 関係者それぞれの思いから語られたインタビュー

の中から、地域で共有されている思いや価値観が

表れているキーワードを抽出、とりまとめた。

2.2.関わってきた方々の思い

項目 ヒアリングの視点 氏名

コウノトリ保存活動の

全体像

取り組 み の 全体 像、 タ ー ニング・ポイントに つ いて 聞き取りを行う。

松島 興治郎 氏(豊岡市立コウノトリ文化館名誉館長、元・「但馬コウノトリ保存会」の飼育員)

全体 江崎 保男 氏(兵庫県立大学教授、コウノトリの郷公園研究部長)

佐竹 節夫 氏(コウノトリ湿地ネット代表、元豊岡市コウノトリ共生課長)

中貝 宗治 氏(豊岡市長)

宮垣  均 氏(豊岡市コウノトリ共生部 コウノトリ共生課)

河川 円山 川整 備 が現 在 に 至る変遷、 整 備 と コウノトリの関係性 に つ いて 聞き取りを行う。

藤田 裕一郎 氏(岐阜大学フェロー・名誉教授)

農業 コ ウノト リ 育む農 法 が広 がりつ つあ る 現在 に 至 るま でに農業 政 策 が辿った 変 遷とコウノトリの関係 性 に つ いて聞 き 取りを 行う。

保田  茂 氏(神戸大学名誉教授)

畷なわて

 悦喜 氏(コウノトリの郷営農組合)

西村 いつき 氏(兵庫県農政環境部 農林水産局農業改良課 環境創造型農業推進班長)

堀田 和則 氏(JAたじま 直販事業部 米穀課)

地域社会への展開

コウノトリに関わ る 政 策と普及・ 啓 発 の 取り組み の展 開に つ いて 聞き取りを行う。

菊地 直樹 氏(総 合 地 球 環 境 学 研 究 所 准 教 授、元コウノトリの郷公園研究員)

大西 信行 氏(ひょうごツーリズム協会専務理事)

上田 尚志 氏(NPO 法人コウノトリ市民研究所代表理事)

山本  進 氏(NPO法人コウノトリ豊岡・いのちのネットワーク副代表、元新田小学校校長)

松島興治郎氏豊岡市立コウノトリ文化館名誉館長元・「但馬コウノトリ保存会」の飼育員

人工飼育を始めて24年目。初めて孵化に成功した日が忘れられない

 昭和39(1964)年、兵庫県と豊岡市がコウノトリの飼育施設の建設を始めましたが、同時に野生のコウノトリの捕獲も開始しました。当時、家業である農業とカバン製造業の兼業農家でしたが、ボランティアという形で捕獲を手伝うようになりました。昭和40(1965)年2月には初めて捕獲に成功。捕獲したあとは、市役所の職員とボランティア・スタッフが交代で飼育していましたが、24時間休みなく飼育しなければならないので、本当に大変。「一度やる」と言ったらやらねばならぬという気持ちで取り組みました。3月末にはすぐに卵を産んで、スタッフ一同大喜び。しかし、すべての卵の孵化に失敗してしまいました。同年5月より「飼育員は松島しかいない」と声を掛けられ、コウノトリ保存会の唯一の職員として人工飼育に取り組むようになりました。コウノトリ保存会とは、豊岡市、兵庫県、周辺の自治体、学校、各種団体、民間企業などで構成された保護団体です。 その後、飼育方法を学ぶべく、神戸の王子動物園や東京の動物園などに研修に行ったり、新たな捕獲の準備をしたり、かなり忙しい日々を送っていました。しかし、努力の甲斐なくコウノトリの捕獲と死亡を繰り返し、昭和45(1970)年、ついに野生のコウノトリは途絶えてしまいました。そのころ、ロシアより6羽のコウノトリが贈られ、平成元(1989)年、ついに人工繁殖に成功しました。人工飼育を始めてから24年目の出来事です。その後は、毎年孵化に成功しています。また、初めて放鳥したときの感動は、今も忘れられない瞬間です。 人工飼育が成功するまで、内圧、外圧もたくさんあり、県議会でも問題視されることもありました。その間、コウノトリを育てることだけを考え、地道にその手段を探してきたからこそ、今の成功があると思います。兵庫県や文化庁の後押しがあったほか、国内をはじめ海外の研究者や動物園の協力があったから順調な繁殖につながったと思います。阪神淡路大震災のときには、コウノトリどころではないと思いましたが、兵庫の再生の心の拠りどころとして取り組んできたことが功を奏しました。

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佐竹節夫氏コウノトリ湿地ネット代表、元豊岡市コウノトリ共生課長

市民の関心が薄れてきたのが問題。本物の野生復帰にはほど遠い

 平成2(1990)年に豊岡市教育委員会社会教育課文化係長に任命されてから、コウノトリに関わることになり、それ以来、コウノトリにどっぷりとはまり続けています。その年は飼育下繁殖成功の2年目で、今後コウノトリの数が増えそうだったので、それに合わせた施設をということで、第2の保護増殖施設の計画を始めました。結果的に、それがコウノトリの郷公園という形になったものです。しかし、この計画は大胆(?)だったので県教育委員会から難色を示され、当時の県会議長・中貝宗雄氏に相談したり、平成4(2002)年には知事に要望書を出して、構想づくりがスタートしました。 人工飼育で印象的だったのは、卵から孵化するシーンを撮影できたときです。産まれようとするヒナの姿は感動的で、子どもたちに見せたら、こぶしをにぎりしめながら見ていました。今から思えば、いのちへの共感だったのでしょう。 コウノトリの郷公園の用地買収のとき、村の長老から「今は農薬を使って農業しているが、本当は農薬なんか使わずに農業したかった。コウノトリの郷公園で先導してくれるのを期待する」と言われたことがありました。このとき、コウノトリの郷公園構想は成功する、と確信しましたね。一般市民の意識が変わりだしたのは、「ハチゴロウ」がやってきたことが大きかったです。大空を飛ぶ姿は素晴らしく、「あんたらの論理的な説明よりも、「ハチゴロウ」が飛ぶ姿を見た方がよほど説得力がある」と言われたほどでした。ハチゴロウには本当に感謝しています。 今の課題は、コウノトリの急増に対して、受け皿づくりが追いつかないことです。平成25(2013)年現在、無農薬の田んぼの面積は水田全体のまだ2%ですし、ビオトープに取り組んでいる人も面積もごくわずかです。それでもほとんどの若鳥が豊岡から出て行かないので、狭いエリア内でコウノトリの社会が歪になっています。テリトリー争いや近親婚になったりしています。この解決には、全国レベルで生息環境づくりが必要になっていると思います。そのためにも、本家の豊岡の市民が各自それぞれの課題にしていくことだと思います。ハチゴロウのとき、あんなに感動した人たちも今では慣れて、当たり前のようになっています。野生復帰はこれからが本番なのに、もう成功したかのような雰囲気こそ問題では?

江崎保男氏兵庫県立大学教授、コウノトリの郷公園研究部長

コウノトリの餌になる魚をもっと増やしていくことが大事

 県立コウノトリの郷公園には平成22(2010)年に赴任してきましたが、その前は兵庫県教育委員会のコウノトリ保護増殖会議のメンバーとして関わっており、当時は、コウノトリの郷公園スタッフが立てた案に対してゴーサインを出していた立場でした。当初の計画がどの程度達成されたのか、感覚的には約半分というところではないでしょうか。問題点は、非常に少ない家系からこんなに殖やしてしまったこと。これがすでに歪みとなって現れてきています。山岸園長や私は、壊滅のリスクを食い止めながら野生復帰を進めているのが現状です。 「コウノトリも住める社会」には、生物多様性の回復が必須です。それは何よりも、コウノトリが食べていける資源(食物)があること。諸事情があったとはいえ、これを十分に確認する前に放鳥を始めてしまったことも問題です。放鳥前に豊岡のどの水田、どの河川、どの水路にどれくらい魚がいるかを調査すべきでした。田んぼを何とかすれば、コウノトリが住めると思っている人が多いのですが、オタマジャクシやカエルだけでは、コウノトリはやっていけません。魚類が大量にいることが重要なのですが、魚がいるためには魚が住める、つまり生活史をまっとうできる環境整備が必要。それらを全部揃えなければなりません。もちろん淡水魚は人間も食べられるわけで、魚を復活させることは食料自給率が下がっている現状を救ううえでも重要。内水面漁業を復活させ、農業との折り合いをつける環境整備をしていかないといけないと思っています。 ビオトープなどを利用し、昔の「春の小川」のようなモデル水系を作ることが必要なのです。魚が復活すれば、コウノトリの餌になるばかりでなく、子どもたちの環境教育にもなります。「春の小川」は水田の水路ですが、魚たちが産んだ卵がふ化し成長するには、水田はきわめて良い環境です。今、豊岡では魚道がたくさん設置されていますが、単に魚道を作るだけではダメ。魚道を上っている間にコウノトリよりも採餌が上手なサギに根こそぎ食べられてしまいます。産卵の場、成長の場、そして捕食者から逃げる場が大事。適度に食べられて、残りはうまく生き抜いていくという動物生態学の視点が必須です。

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宮垣均氏豊岡市コウノトリ共生部コウノトリ共生課

前例がないことに取り組むことでモチベーションは上がる

 豊岡市のコウノトリ共生課(旧・共生推進課)は、コウノトリをシンボルとした街づくりを推進するために平成14(2002)年に設置されました。その前は教育委員会の生涯学習課に所属しており、当時「コウノトリ文化館」を建設していたため、その頃からコウノトリに関わることが多かったです。共生課では、「地域まるごと博物館計画」を推進するために、4つのモデル地区を決めてコウノトリの野生復帰に向けた活動を始めました。まず成功例をひとつ作り、そこから広げていこうという作戦でした。 一番のターニングポイントは、平成14年の「ハチゴロウ」の飛来だったのではないでしょうか。「ハチゴロウ」が来たことで、自分たちの仕事も理解してもらいやすくなったと思います。実物のコウノトリを見ることで身近に感じ、次に何をしていったら良いかがわかりやすくなったといえます。この年は、放鳥の目安だった繁殖個体数が100羽を超えるなど、いくつものターニングポイントがありました。 豊岡市は予算規模が小さいので、国や県の事業を取ってくることが重要。また、新規事業ばかりなので、豊岡市の内部をいかに説得できるような企画書を作れるかがカギになってきます。逆をいえば、新規だからこそ納得できるような材料が見つけやすいと思います。例えばビオトープ。コウノトリの餌場として転作田をビオトープとして使うことで、県が半分負担してくれました。そのビオトープにたまたま「ハチゴロウ」が飛んできたので、とてもわかりやすい評価へとつながりました。行政は敷居が高くて相談しにくいという人もいますが、豊岡市のコウノトリ共生課はとりあえず相談を受け付けていく姿勢でいます。話を聞いていくうちに自分たちがやるべきことのヒントが隠れていることがあるからです。相談を受けることで自分たちの仕事も変化していきます。うまく行かないこともありますが、常に問題意識を持って取り組んでいくのが大切だと思います。

中貝宗治氏豊岡市長

たくさんの仲間、共感の連鎖を作るため受け取れる球を投げ続けることを心掛けた

 コウノトリ共生課を作ったのは、市の教育委員会から離したいというのが狙いでした。それまで、コウノトリは天然記念物の文化財であり、教育委員会の管轄でした。しかし、「コウノトリも住める街づくり」には、川もあるし、教育もあるし、農業や経済もある。総合的な街づくりということで、企画部の中に作ったのが成功でした。そして、市長の近くに置いたことで、街のシンボリックな政策にすることができました。「コウノトリも住める街づくり」のスローガンは、「が」を「も」にしたことで、みんなの共感を得られました。「何でコウノトリのことをやらなければならないんだ」と言っていた人も、自分たちのことだと気づいてくれました。 平成14(2002)年の「ハチゴロウ」の飛来はまさに神様からの贈り物。その前に県と市でビオトープ水田を始めており、そこに舞い降りてきたのはまさに奇跡で、衝撃的でした。そのとき、我々のやっていたことは間違いなかったと確信を得ました。 たくさんの仲間を得るために、ずっと意識をしてきたのが相手が受け取れる球を投げること。一歩ずつ前へ行く。最初はいきなり「野生復帰」の提案ではなく、飼育下で順調に羽数がのびてきたので、将来どうしたらいいのか専門家たちに検討してもらってはどうかと県に提案しました。そうしたら通りました。 コウノトリの野生復帰には市民からの抵抗がずいぶんありました。環境で飯が食えるのか、害鳥を野外に放すのかという批判も。平成16(2004)年に環境経済戦略を作ったころから、市民の理解も進み、有機農業の方向性も見えるようになってきました。現在、無農薬のお米「コウノトリ育むお米」は生産が間に合わないくらいに売れています。沖縄のスーパー「サンエー」には、テレビコマーシャルを作るくらい熱を入れてもらっています。また、太陽光電池の「カネカ」も、コウノトリの街であるということで豊岡に工場を建ててくれました。これもコウノトリ効果ですね。

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藤田裕一郎氏岐阜大学フェロー・名誉教授

治水機能と環境機能の両立を目指したひのそ島の掘削計画

 リバーカウンセラーとして、昭和60年代から円山川と関わりを持ってきました。これは河川工学の吉川秀夫先生が提唱された制度だったと記憶していますが、当時同年代の学者がいろいろな川のリバーカウンセラーに就きました。なだらかな流れのため洪水被害が多かった円山川下流部は、道路が冠水して陸の孤島となるときもあり、昭和53(1978)年には菊屋島と中ノ島が掘削され、大きな中州で耕作地でもあったひのそ島の全島掘削と左岸位置の前出しが計画され、用地買収も始まっていました。この島には、タコノアシやミクリ、シッチコモリグモやヒヌマイトトンボなどの希少な生物が生育・生息しており、シラウオの産卵場所も付近にありました。そこで、今ある自然を残しつつ、どのように掘削していくかが課題になりました。そのため、行政や学識者ばかりでなく、漁業関係者、市民団体、元地権者などが参加した「ひのそ島改修検討会」が発足し、私も参加しました。 河川の湿原は、放鳥を迎えるコウノトリの餌場としても注目されていました。コウノトリを頂点とした生態系に配慮し、かつ、治水機能に影響しない方法を見出すことがみんなの共通認識でした。元地権者は、当初の計画を前提として農地を売却したのだから、全島掘削にして古くから苦しんできた洪水が起こらない地域にしてほしいとの意見でした。河川は線ですが、コウノトリの生息も維持しうる自然の保全となると、豊岡盆地といった面でとらえる必要がありました。農地があり、山腹があるので、それぞれの働きを生態学的に見て、希少な動植物をどのように保全していくかが課題でした。全国的に展開されてきた多自然型川づくりも背景に検討を重ねた結果、面積にして半分、体積にして3/4を掘削するという案で合意に辿り着き、治水のための河積確保と生物のための湿地保全のふたつを、必ずしも十分ではないが、叶えることができました。 振り返ってみますと、多様なメンバーによる議論で合意が得られたことは大きな成果だったと思います。それだけに、現在、湿地保全に理解を示された下流区間で平成16(2004)年水害対応の治水工事が進んでいることに感慨を覚えます。また、作り上げた湿地の機能をいかに高めていくかも重要だと考えています。コウノトリだけに注目すると、水深の限定等、単調になって逆に豊かな自然ではなくなる危険性があります。また、出水によって希少な動植物の流失する危険性が掘削で高まっている面もあるので、例えば根だけでも残るような手段も考えています。

保田茂氏神戸大学名誉教授

有機農業を豊岡市内だけではなく但馬全域に、そして兵庫県全域に広げていきたい!

 コウノトリの野生復帰について、本格的に関わったのは「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」の会長を仰せつかって以来のこと。私は神戸大学農学部在職中から、母乳の農薬汚染をきっかけに食の安全を可能にする有機農業の研究を続け、豊岡の農家の皆さんにも有機農業のお話をしてきました。また、有機農業を定着させるには、作ったものが売れなければ続けられませんから、直売所で販売する方法も提案してきました。 ケージで人工飼育しているコウノトリが100羽を超えた段階で、放鳥しようという計画が当初からあり、その日が近づいた平成15(2003)年8月6日、「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」が誕生。国、県、但馬の各市町のほか、農業委員会、たじま農協、円山川漁協、商工会、学校関係者、市民団体も含め、27団体が加盟する大規模な協議会でした。私は豊岡高校の生物部でコウノトリ保護運動の手伝いをしていた関係もあって、協議会会長を仰せつかったのだと思います。 第1回の協議会では、出席者から厳しい意見が続出。「自分たちは何を協力すればいいのか」、「魚が住めない川を作って、コウノトリを放鳥するなんて、どこに餌場を作るつもりか」など、コウノトリの野生復帰を皆で応援していく雰囲気はまったくありませんでした。しかし、粘り強く訴えると、次第に皆でコウノトリの放鳥を成功させようという雰囲気になり、大きな拍手で第1回目の協議会を閉じたのでした。象徴的だったのは、協議会の最中、窓の近くを野生のコウノトリ(「ハチゴロウ」)が悠然と舞い、まるで協議会の前途を祝ってくれたかのようで、協議会の雰囲気は大きく変わりました。以後、年2回、定期的に開催を続け、各団体が一年間に取り組んだ実績や今後の課題を報告しあい、コウノトリの野生復帰を推進するための世論づくりに精力的にエネルギーを注いでいただいています。 いよいよコウノトリは100羽時代を迎えます。もはや豊岡盆地だけでは生活空間として狭すぎます。今後は但馬全域、近未来的には兵庫県全域でコウノトリが生活出来る環境づくり、地域づくりを進めていかねばと考えています。そのためには有機農業の技術を広めていくことが求められます。協議会の役割もさらに広がっていきそうです。

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西村いつき氏兵庫県農政環境部農林水産局農業改良課 環境創造型農業推進班長

大義によって活路が開けた

 コウノトリの放鳥に向けて、平成14(2002)年に兵庫県但馬県民局地域振興部にコウノトリプロジェクトチームが結成され、私も一員となりました。当時は、コウノトリ野生復帰に対する関心は地域住民は勿論のこと関係機関でも低く、コウノトリのために有機農業を推進するといっても理解が得られる状況でありませんでした。しかし、前任地で担当した「おおや高原有機野菜部会」を天皇杯に導いた経験から有機農業による農業振興は可能だという確信があり、コウノトリ野生復帰事業を農業振興に結びつけたいという思いがありました。しかし、市の農林水産課やJAも総論は賛成でも、有機農業の推進となると実現性や将来性を心配する意見が根強くありました。 農家や関係機関との合意形成も支援体制も不十分なまま、平成15(2003)年にはコウノトリ野生復帰推進協議会で、平成17(2005)年に試験放鳥することが決まりました。通常、農業技術の普及は試験研究機関で技術実証を行ってから現地導入を図りますが、放鳥までに餌場の確保が必要であると判断し、農家の皆さんに協力を呼びかけて、現地で技術の組み立てと普及を始めました。しかし、有機農業で始めた年は田んぼ(以下:有機稲作)一面に雑草が生えるなど散々な結果に。休みの日には当時中学生だった息子と一緒に草取りをしました。失敗に対して関係者からは非難の声が上がりましたが、農家の皆さんからは「西村さんが責められないように頑張ろう」と応援を頂き結束が固くなりました。さらに、地道な取り組みが功を奏し理解者や協力者が徐々に増えていきました。 生態系ができて農家の皆さんが技術を習得して有機稲作が成功するようになるには、時間と努力、信念が必要です。私自身も、熱意だけでは人を動かすことができないが地道に積み上げたデータが人を動かすことを学びました。また、技術が確立出来ても「コウノトリ育むお米」(以下:育む米)が売れなければ農家は報われません。初期段階では、自ら販路開拓を行いJAに販路を紹介し、消費者へのPR活動も活動領域を越えて行いました。気がついた者が職責を越えて仕事をし、軌道にのったら役割を担うべき組織へバトンタッチしていったら良いと考え業務を遂行しました。 この取り組みの最大の成功要因は、コウノトリ育むお米を、

「作ること」「買い支えること」「支援すること」に、コウノトリも棲める環境を次世代に継承するという「大義」があり、それを多くの人々が理解して下さったお陰だと思っています。

畷悦喜氏コウノトリの郷営農組合

全体の取り組みの善し悪しはコウノトリに決めてもらう

 地元の祥雲寺地区に「コウノトリの郷公園」が出来ることになり、野生復帰に備えて、コウノトリとどう共生していくかを考える「祥雲寺を考える会」を結成しました。と同時に農薬や化学肥料を使用しない安全・安心な農業に挑戦していくことにしました。 そもそもコウノトリは、カラスやトンビのように忌み嫌っていた鳥ではありません。特別という訳ではなかったけれども、一目置く鳥でした。平成9(1997)年にはアイガモ農法による無農薬栽培をし、平成14(2002)年には無農薬・減農薬に取り組む「コウノトリの郷営農組合」を作りました。地元で農家離れが進んでおり、自分たちの地域をこれ以上荒らしたくないという思いも背景としてありました。 本当は無農薬栽培を広げたいところでしたが、現実的には手間がかかり、始めるのがなかなか厳しい状況がありました。まわりの人たちには、まずは減農薬から入り、少しずつ農薬を減らしていく取り組みを一緒にやりましょうと勧誘していきました。無農薬にすると、どうしても収穫量は落ちます。収穫量が少なくても我慢できるかどうかが焦点となりました。営農組合を作った翌年からは、市からの要請を受けて、生物を育む冬期湛水を行っています。冬期湛水には、畦畔がゆるむなど圃場管理の面で心配もありましたが、冬期湛水で雑草を抑えて、無農薬栽培に取り組んで、まず自分たちが安全なものを食べていこうという思いをまとめて取り組みました。 平成17(2005)年に「コウノトリ育む農法」の栽培体系が整い、年を追って耕作面積が増え、販売が拡大していくにあたって、JAに「コウノトリ育むお米生産部会」の設立を要望。初代部会長を務めることになりました。「コウノトリ未来・国際かいぎ」で育む農法を紹介したところ、取材や視察が殺到し、その数は年間50件以上にも及びました。 現在、豊岡全体の農地は約3000haで育む農法は約270ha、割合でいくと実はまだ1割にもなりません。コウノトリ育むお米は、まだまだ拡大していく余地があると思います。これからは売れる米づくりから、消費者に選んでもらえる米づくりへの転換が必要だからです。価格的なメリットを感じて、生産に関わりたいという人もたくさんいます。私は「田んぼの善し悪しは生きものに決めてもらう、お米の善し悪しは消費者に決めてもらう、全体の取り組みの善し悪しはコウノトリに決めてもらう」を持論にしています。

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堀田和則氏JAたじま 直販事業部 米穀課

無農薬というのだけでは売れない豊岡のためという使命を持って

 放鳥2年前の平成15年度から、JAでコウノトリ育むお米を売っています。こういう農法が持続していくためには、行政、農家、JAが一体となって取り組まなければ、決して成功しません。当時のJAには自らお米を売る機能が無かったので、当初は無農薬のお米は売れないのではと心配する人もいました。でも、大学からすぐにJAに入った僕は、若い職員でも農家の皆さんに貢献できることは販売だと思っていました。そして、こういうお米を売りたいと考えていましたので、熱心に取り組みました。よく農業が変わると風景も変わると言います。僕は、自分が育ってきた地域の風景を変えてみたいと思ったのです。 問題は販売価格をどうするかでした。当時は、安心・安全なお米だから高く買うといった世の中の流れもありませんでしたが、手間が掛かった分の対価がないと続きませんから、販売価格は農家さんの意向を汲んで、初めに5㎏2980円に決めました。 初年度は、5軒の農家で生産量は6トン。当時は、お米とコウノトリの関係もあまり理解してもらえない状態でした。道の駅で売りましたが、量も少ないこともあって完売できました。2年目に地元のスーパートヨダさんが扱ってくれるようになり、3年目には米穀店やイトーヨーカ堂が販売してくれるようになりました。 農家さんの中には、コウノトリのために安心・安全で作ったお米が売れないわけがないだろうと思っている人もいます。しかし、消費者のニーズからいうと、コウノトリを守るためにお米をつくってほしいという要望はあまりないのです。初めに消費者のニーズがあるから作ったのではなくて、豊岡としてやるべき方向の中で、大切なので作ったという方が正しいと思います。だから消費者のニーズを作り出すことが重要なんです。消費者にはコウノトリ育むお米の良さを理解していただけるよう取り組み続けています。 このお米作りが当たり前に行われ、当たり前に評価される。そうなることが、未来の里地、里山を守ることにつながると思っています。そのために今後も頑張っていきたいと思います。

菊地直樹氏総合地球環境学研究所准教授、元コウノトリの郷公園研究員

414人の聞き取り調査で地元とコウノトリの関係がわかった

 コウノトリと人との関係、コウノトリの野生復帰を軸にした地域づくりについて、コウノトリの郷公園で研究してきました。平成14(2002)年1月から6月まで 豊岡に住む414人のお年寄りに聞き取り調査を行いました。そこでわかったのは、コウノトリには田んぼを荒らす害鳥のイメージとめでたい鳥である瑞鳥といった多面性があること。高齢者はコウノトリのことをツルと呼んでいました。それは、湿原というコウノトリにとって豊かな水場があり、しかし、大雨になると洪水になってしまうという豊岡の矛盾するふたつの自然環境にも似ています。また、円山川の右岸は農村で、左岸は市街地になっており、市街地に住む人はコウノトリにはあまり関心がなく、地域によって温度差がありました。野鳥保護に対する考え方は、豊岡はコミュニティベース型 。トキの保護地である佐渡の「この指とまれ」というNPO型と比べ、「あんたがやるなら俺もやる」といったベタッという関係の中で動くのが豊岡の形態。下の名前で呼び合うような協力関係を持っているのが大きな特徴で、他の地域では真似がしにくいと思います。 環境は経済と結びつけることが非常に大切だと思っています。平成20(2008)年と平成21(2009)年にはコウノトリの郷公園に来た人にアンケートを取りました。ピーク時の入園者数は50万人で経済効果は10億円。来ている人は高所得で、 満足度は高く、リピーター率も高かったのですが、関西圏の人が多く日帰りで帰ってしまう人がほとんど。お金があまり落ちません 。コウノトリ以外の豊岡の魅力を訴えていけば、もっと経済効果が上がると思います。 放鳥をしたあと、人々の意見に変化が出てきました。コウノトリを経済的に活用したいという人や純粋に保護していきたい人など、意見に食い違いも出てきました。そこで、いろいろな人の意見を聞くために「鶴見カフェ」を月1回開催しています。現在、65回目にもなり(平成26(2014)年3月現在)、そこで市民と研究者の間での信頼関係が生まれたと思います。

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上田尚志氏NPO法人コウノトリ市民研究所代表理事

子どもたちは自然相手に遊ぶことで環境保護の意識が芽生える

 高校で生物を教えてきましたが、高校生の時代から地域の自然に関心があり、但馬の山のブナの伐採や林道などの問題に目を向けていました。コウノトリは小学校の頃に目にしていた覚えがあります。平成4(1992)年頃からコウノトリの野生復帰が取り上げられるようになりましたが、僕自身はコウノトリで自然が守れるのかと疑問に思っていました。しかし、過疎化が進行する中で、単に自然を守りましょうといってもなかなかうまくいきません。所属していた「但馬の自然を考える連絡会」には、いろいろなグループがありましたが、自分たちが住んでいる地域づくりを考える中で地域の自然を守ろうと考えるようになりました。豊岡ではコウノトリを抜きに考えることはできません。 平成10(1998)年には、市民参加型のコウノトリ市民研究所を作りましたが、最初のきっかけは地元で開催されていた市民講座「地域まるごと講座」で講師をしたこと。当時は、豊岡市の職員だった佐竹節夫さんがこの講座の企画者でした。豊岡市の優れたところは、行政でありながら行政を飛び越えた発想を持っていたことだと思います。 平成16(2004)年の台風23号の被害で、治水優先になると思っていましたが、自然再生にブレーキがかからず、環境と治水を両立させる方向は維持されました。 市民研究所の研究員は豊岡盆地の生物調査を行っていますが、平成14(2002)年から子どもたちを対象にした「田んぼの学校」を始めました。川や田んぼ生き物を探したり、山で遊んだりしています。毎月第3日曜日の午前中と日時が決まっていて、当日、雨が降っても運動会と重なっても必ずやっています。また、要請によっていろいろな地域にも出かけていく「出張田んぼの学校」も人気。そこでは身近な場所であっても様々な発見があったり、「これだけオタマジャクシがいると、コウノトリの餌になるね」などと、コウノトリの話題になることもあります。 様々な環境教育が提唱されていますが、自然の中で遊んだ体験が、将来自然を守る行動につながると考えています。

大西信行氏ひょうごツーリズム協会専務理事

成功の秘訣は協議会で意見を交わしながら計画を推進したことと、事業予算を現場から一本化要求できたこと

 平成12(2000)年4月から豊岡市の兵庫県但馬県民局で6年間仕事をしました。最初の2年間は、21世紀の県土づくり総合指針として、「但馬地域ビジョン」づくり。その後の4年間は、「コウノトリ翔る地域づくり担当参事」として、「コウノトリ野生復帰推進計画」の作成、実施を担当しました。この計画を推進するために、県、市町を含めた「コウノトリ野生復帰推進協議会」を作り、その後、市民団体も入ってもらい、「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」となりました。 野生復帰計画は、単に放鳥計画ばかりではなく、田畑、里山、河川等の自然再生的整備が非常に重要でした。コウノトリ側からいうと餌場と営巣の確保であり、人間にとっては安全安心の地域づくりです。これらをなし遂げるには、市民の意見合意が必要なので、たくさんの人に協力してもらいました。しかし、「本当に放鳥する」という気持ちは、当初コウノトリの郷公園のスタッフや県市の一部関係者以外は、非常に希薄だったように思えました。コウノトリ野生復帰事業のことを市民だけでなく、県や市の職員に理解してもらうのも大変でした。 もうひとつ重要な点は、井戸知事が新体制を作り、県への予算請求が一本化できたこと。それまで県民局が県に予算申請する場合は、この予算は県の農林部、この予算は県の企画部とバラバラに予算を申請し査定されていました。それがコウノトリの事業は、県民局が一本化して財政当局に直接予算請求しても良くなったんです。それに国の河川整備の方向が治水利水に加えて環境自然再生型になったのも幸運でした。放鳥開始の前年に円山川の洪水が起きたので、本来ならば修復工事で、大きく河川を削らなければなりませんでしたが、河川敷を残そうという意識が高まっていました。こういうことは、個別交渉をしてもなかなか難しいのですが、協議会を作って結束したことで、通すことができた事業だと思います。 今、思うのは「美しい誤解」がないかということ。環境創造型農業が増大していますが、まだ10%未満です。本当にコウノトリが住めるいい環境になっているのか、常に問い直していくことが必要です。

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山本進氏NPO法人コウノトリ豊岡・いのちのネットワーク副代表 元新田小学校校長

環境学習をすることによりコウノトリが身近になった

 私は豊岡市立新田小学校の校長(平成18~20年度)を務めていました。新田小学校は、田んぼに囲まれた立地にあって、学校では長い間授業で稲作を教えていました。第2回目のコウノトリの放鳥が行われる際には、子どもたちも参加させていただき、そのことがきっかけで、学校内で「生き物と人間が共生できる農法を子どもたちに伝えるべきだ」という声が大きくなりました。そこで、慣行農法から冬期湛水を行うコウノトリ育む農法に変えました。これは学校が始めた生きた環境教育です。コウノトリを目の前にしたことで、コウノトリが活動とシンボルになり、野生復帰させることは自分たちの命を守ることであると認識した活動といえます。 平成16年、台風23号の被害で学校も子どもたちの家も床下、床上浸水をしてしまい、たくさんの方々に救援に訪れていただきました。1年後にお礼の意味を込めて感謝祭を開催しました。その頃に子どもたちが始めたのが、プロジェクトEという活動です。水害を防ぐことと環境を守ることは一緒のことと考えてのことです。Eは、エコロジーのEなど、活動を象徴する4つの言葉の頭文字から取っています。プロジェクトEの子どもたちは非常に熱心で、田んぼに魚道を作り、生きもの調査をし、無農薬で有機栽培のコウノトリ育む農法に取り組みました。また、コウノトリ育むお米の販売拡大にも市長に直談判するなど、積極的に動き回りました。6年生がメインでしたが、彼らは卒業し、中学生になってからもずっと活動を続けていました。 平成19(2007)年10月には、子どもたちだけにとどまらず、区長会や営農組合など地元の人と一緒に、「新田環境未来計画2007」というシンポジウムを開催しました。コウノトリから学ぶ田んぼと食のあり方を中心に、環境や防災のことなどを考える絶好の機会となりました。プロジェクトEの活動は、子どもたちも常に主体性と誇りを持って創造的に取り組み、周りの大人がそれを尊重し、しっかりと支えていたのが成功の秘訣といえます。 学校全体で環境学習に取り組もうという思いが常にありました。しかし、学校教育現場では先生が非常に忙しく、職員の転勤等もあり、さらに教育課程の改定等があり、継続していくには課題が山積していました。しかし、市長やコウノトリ共生課の人たちの協力があって、なんとか続けられたと思います。

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(2) 取り組みのつながり事例(エピソード)

 

 コウノトリ野生復帰の取り組みに関わる多様な主体の「思いや価値観の共有、共感の連鎖」を象徴する

代表的なエピソードを既往文献、インタビューをもとに整理したものを紹介する。

学校給食にも取り入れるように

市長に直談判をする

 美しい田園風景が広がる環境にある豊岡市立新田小学校。平成 18 年 11 月、この学校で子どもた

ちが自ら環境保護について活動をする「新田プロジェクトE」が組織された。きっかけは、平成

16 年 9 月に遡る。運動場に立っていた学校のシンボルであるポプラの木が強風で倒され、太い幹

は造園業者が引き取っていった。そして、その年の 10 月に襲ってきた巨大台風 23 号によって押し

流され、水が引いた後は、かなり離れている田んぼにまるでそのまま生えているように立っていた。

春が来て田植えの邪魔になったこのポプラの木は、再び造園業者の元で保存された。すると驚いた

ことにこの幹から芽が吹き出してきて、やがてみずみずしい緑の葉がのびてくるようになった。10

月に造園業者と PTA の協力を得ながら、子どもたちはこの枝を挿し木にして、植えた。

 新田小学校の子どもたちは、倒木、水害にあっても力強く生き抜こうとするポプラの生命力に感

動し、自分たちも災害には決して負けまいと誓った。この思いを決して忘れまいと 6 年生が、この

物語を絵本「プラポン」として描き残した。また、平成 17 年 9 月には、コウノトリの放鳥があり、

ますます自然保護への意識が高まっていった子どもたちは、5 年生と 6 年生でプロジェクトEを結

成したのだった。

 担任が子どもたちをバックアップし、農業普及員の西村いつきさんなどの助言を受けながら、自

然環境のことを少しずつ学んでいった。子どもたちの知識の吸収力は非常に高く、活躍の場を広げ

ていった。まず冬も水を張る冬期湛水を行っている近くの田んぼに魚道を作ることを計画。プロに

頼むとかなり費用がかかることがわかり、自分たちで作ることにした。土地改良事務所で魚道の作

り方を教わり、森林組合に魚道の材料をわけてもらった。魚道を作ったことでメダカやフナ、ナマ

ズなどの生き物が増え、豊かな自然体系ができることを学んだ。また、自分たちでも「コウノトリ

育むお米」づくりに挑戦。冬期湛水や籾の温湯消毒や米ぬかによる雑草対策など、無農薬栽培を実

子どもたちが自主的に推進した「新田プロジェクトE」

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践した。ここで作ったお米は、自分たちで稲刈りをし、できたお米は「新田プロジェクトE栽培米」

として、自分たちで販売をした。

 無農薬栽培のお米をたくさん作るためには、作ったお米が売れることが大切と学校の近くのコン

ビニにでかけ、おにぎりにコウノトリ育むお米を使ってほしいとお願いした。さらに豊岡市役所に

出向き、市長に学校給食でコウノトリ育むお米を使うように直談判。市長は、即時に許可を出し、

平成 19 年 10 月から 2 週間に 3 回の割合で、学校給食で出されるようになった。同じ年には、シン

ポジウム「新田環境未来計画 2007」を地元の区長会や公民館、その他の団体の人と共同主催。看

板の規制やゴミ減量などの「新田環境宣言」採択した。

 同じ野生復帰という面で共通項がある佐渡の子どもたちとの交流も始まった。平成 20 年 7 月に

は新田プロジェクトEの子どもたちが、佐渡を訪問。8 月には、佐渡の子どもたちが豊岡地域にやっ

てきて、一緒に生き物調査などをしている。

子どもたちの積極的な活動は

市民全体に影響を及ぼした

 新田小学校もこの活動をあらゆる面でバックアップ。初めは新田プロジェクトEに参加している

子どもと参加していない子どもとでは温度差があったが、次第に環境やコウノトリへの知識や意識

の高まりは学校全体に波及していった。

 子どもたちは、この活動により、「人間は、自然環境やそこで生きる生き物と密接な関係を持っ

ている。その関係を絶やしてはいけないと感じた」と言う。新田プロジェクトEの子どもたちの活

動は、PTAのほか、地域、市民全体にも大きな影響を与え、人々の環境保護への意識が高まって

いった。子どもたちが変わることによって、大人たちも変わってきたのだ。

 新田プロジェクトEに参加した者は、小学校を卒業した後も積極的に活動に参加し、支援を続け

てきた。学校の授業とは違うおもしろさをこの取り組みの中で感じたようだ。当時のリーダー的存

在だった子どもは現在大学生になり、環境について学んで、いつか世界で活躍したいと言っている。

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研究者と市民が同じ課題を共有し

より良い解決策をさぐる

 コウノトリの放鳥に成功したことで、豊岡市民がいろいろな観点でコウノトリに関心を

持ってきた。そして、コウノトリに対する関わり方や感情も人によって変化が生まれてきた。

ある人は、コウノトリを通してお金を稼ぎたいという経済面での効果を期待し、ある人は純

粋に保護したいなど、意見の食い違いが出てきたのだ。また、研究面でもコウノトリの郷公

園の研究者が何をやっているのかわからない、市民はコウノトリに対してどう思っているの

かわからないという共通認識がないのが問題だった。

 そこで、コウノトリの郷公園の研究者だった菊地直樹さんが中心となって、研究者と市民

との交流の場「鶴見カフェ」を毎月 1 回豊岡市の商店街にある「なごみ茶屋」で開催するよ

うになった。コーヒーや紅茶を片手に、地元の名産のお菓子をつまみながら、気軽にコウノ

トリのこと、科学のこと、但馬のことを語り合う会だ。研究者などからの報告が中心だが、

それに対して市民と研究者が談義をしていく。現在までに 65 回開催されている(平成 26 年

3 月現在)。市民が「コウノトリも住める街」への意識が高まり、野生復帰や有機農法への

理解が高まる催しとなっている。

市民と研究者の交流の場「鶴見カフェ」を開催

「鶴見カフェ」の様子

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内容 話題提供者 肩書(報告当時)

第1回 放鳥コウノトリの繁殖とその新知見 大迫義人 コウノトリの郷公園主任研

究員/兵庫県立大准教授

第2回 トキの眼から但馬を見る 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員/

兵庫県立大講師

第3回 コウノトリの野生復帰と但馬人 池田 啓 コウノトリの郷公園研究部

長/兵庫県立大教授

第4回 あ な た の 知 ら な い、鳥の世界 三橋陽子 コウノトリの郷公園獣医師

第5回 白 鳥の鳥 インフルエンザ感染の波紋 小泉伸夫 動物衛生研究所主任研究員

第6回 コウノトリの繁殖について 佐藤 稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第7回 野 生復帰のこれまでとこれから 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員/

兵庫県立大講師

第8回 コウノトリに個性はあるのか 吉沢拓祥 コウノトリの郷公園飼育員

第9回 豊岡盆地の生物調査報告 内藤和明 コウノトリの郷公園研究員/

兵庫県立大講師

第10回 かつてのコウノトリ 松島興二郎 豊岡市立コウノトリ文化館館長

第11回 飼育員は見た?今年の繁殖 佐藤 稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第12回 放鳥コウノトリの繁殖行動 前田 了 兵庫県立大学大学院生

第13回

育ての親と実の親が違う !?野外で巣立ちしたコウノトリの父性解析

内藤和明 コウノトリの郷公園研究員

第14回 コウノトリ育む農法 畷悦喜 コウノトリ育むお米生産部会長

第15回 コウノトリ・ジャーナリズム宣言 松田 聡 読売新聞豊岡支局

第16回 田結地区の農地をコモンズとして考える 石原広恵 ケンブリッジ大学大学院生

第17回 私たちの野生復帰 なし 参加者で談義

第18回 豊岡の農業の未来を考える 中川瑠美 京都大学大学院生

第19回ヨコハマの職 員が 覗いたトヨオカ!~一年間の西方見聞録~

伊藤 藍 豊岡市コウノトリ共生課

第20回 飼育員が今年の繁殖をウォッチする 佐藤 稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第21回 コウノトリの野生復帰への市民参加

宮村良雄菊地直樹

豊岡市民コウノトリの郷公園研究員/兵庫県立大講師

第22回 環 境のまちづくり専門員という仕事 遠藤美香 豊岡市コウノトリ共生課

第23回 佐 渡めぐりトキを語る移動談義所 豊田光世 兵庫県立大学講師

第24回 コウノトリの知られざる行動 大迫義人 コウノトリの郷公園主任研究員

第25回 花火からコウノトリを考える なし 参加者で談義

第26回 放鳥個体のモニタリングから見えてくるもの 内藤和明 コウノトリの郷公園研究員

第27回 田結のTies(団結) 石原広恵 ケンブリッジ大学大学院生

第28回 かつて日本中が注目した「出石鶴山」 中村英夫 豊岡市民

第29回 重箱の隅のコウノトリ学 三橋陽子 コウノトリの郷公園獣医師

第30回 コウノトリ・ウォッチャーの生態 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員/

兵庫県立大講師

第31回 コウノトリをささえる大地 松原典孝 コウノトリの郷公園研究員

第32回 コウノトリの巣の話 吉沢拓祥 コウノトリの郷公園飼育員

第33回 鶴山散策 中村英夫

第34回 飼育員から見た今 年の繁殖 佐藤稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第35回 コウノトリを育む農業という仕事 根岸謙次 豊岡エコファーマーズ

第36回 佐藤哲 長野大学教授

第37回適度な見晴らしが鍵なのか?−コウノトリのなわばりと営巣場所

内藤和明 コウノトリの郷公園研究員

第38回 コウノトリの衣がえ 吉沢拓祥 コウノトリの郷公園飼育員

第39回豊岡市のコウノトリ関連 取り組み、あれやこれや

上田篤 豊岡市コウノトリ共生課

第40回 西予市コウノトリ見聞録 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員

第41回 コウノトリを教える 加藤義弘 コウノトリの郷公園指導主事

第42回 小さな自然 再 生・座学編 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員

第43回 小さな自然 再 生・実学編 案ガールズ

第44回 飼育員から見た今 年の繁殖 佐藤稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第45回 石のすき間を利用する魚たち 佐川史朗 コウノトリの郷公園主任研究員

第46回 コウノトリ育む農家たち(中間報告) 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員

第47回 ラムサール登録を考える 坂本成彦 豊岡市コウノトリ共生課

第48回コウノトリの新たな遺伝解析は個体群の管理に役立つか

内藤和明 コウノトリの郷公園研究員

第49回 2年振りの放鳥から考える 菊地直樹 コウノトリの郷公園研究員

第50回極 東ロシアの諸 事情−コウノトリから食事まで

三橋陽子 コウノトリの郷公園獣医師

第51回 ペアになるための社会的行動の変化 吉沢拓祥 コウノトリの郷公園飼育員

第52回子育て中のコウノトリは何がお好き?−福田親子の食卓−

佐川史朗 コウノトリの郷公園主任研究員

第53回 山陰海岸ジオパークの楽しみ方 松原典孝 郷公園研究員

第54回 コウノトリ座談会 菊地直樹 総合地球環境学研究所

第55回豊岡に生 息する植物たち−絶滅危惧 種を中心に

菅村定昌 コウノトリ市民研究所

第56回 但馬の野鳥を撮る 高橋信 コウノトリ市民研究所

第57回野生生物の保全に動物園水族館が果たす役割

高見一利 大阪市天王寺動植物公園事務所

第58回 様々な方法で,様々な里山を,守る,使う 白川勝信 高原の自然館

第59回 「百年の約束」(韓国のコウノトリ復元の現状)

パク・ヒョンスク

韓国教員大学・韓国コウノトリ生態研究院

第60回 飼育員が見た今年の繁殖 佐藤稔 コウノトリの郷公園主任飼育員

第61回 足環の効用−鳥の博物学と科学 江崎保男 コウノトリの郷公園田園生

態研究部長

第62回 コウノトリと砂肝のはなし 三橋陽子 コウノトリの郷公園獣医師

第63回

小学校でのコウノトリをもとにした 環 境 学習をカリキュラムに位置付ける

吉田博治 養父市立伊佐小学校教諭

第64回 農法の違いと水田の植物 内藤和明 コウノトリの郷公園主任研究員

第65回 コウノトリの長距離移動の分析と特徴 大迫義人 コウノトリの郷公園研究部

長心得

■「鶴見カフェ」の内容

(平成26年3月現在)

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第3章 取り組みの分析

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第 3章 取り組みの分析

 豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る取り組みは、全国的に見ても注目すべき進展を見せてきた

が、一方で、前章で整理したとおり、現時点においても様々な課題が顕在化している。

 この取り組みの進展の要素を浮かび上がらせ、「ひょうご豊岡モデル」として取りまとめるために、この

地で起こった共感の連鎖の根本となったであろう生存・生活原理を踏まえ、取り組みの広がり・つながり

のプロセスを分析し、そのメカニズムを明らかにする。

・分析の対象は、コウノトリ野生復帰に係る公共政策の代表的な分野(河川分野・農業分野・地域社会分野)

とする。

・分野ごとの代表的な指標と取り組み実績を整理し、施策の「広がり」の要点を抽出する。

・分野ごとの具体事例により、取り組みに係る主体の「つながり」の要点を抽出する。

・これにより、「ひょうご豊岡モデル」における公共政策に反映すべきポイントを浮かび上がらせる。

3.1.分析の手法と対象

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3.2. 取り組みの背景(各分野の課題と人々の心、社会的方向性)

3.3. 代表指標からみる広がりの分析、具体事例からみるつながりの分析

3.4. 取り組みの分析のまとめ

第2章取り組み実績の整理

・各分野において取り組みを行うに至った背景について各分野の課題、「生存・生活原理に係る人々の心」、およびその結果としての社会的方向性の観点から整理する。

・各分野の代表指標からみる施策の広がり、具体事例からみる主体のつながりの分析から、要点を浮かび上がらせる。

・各分野の分析から浮かび上がった要点を統合し、「ひょうご豊岡モデル」における公共政策に反映すべきポイントを抽出する。

代表指標からみる施策の広がりの分析

具体事例からみる主体のつながりの分析

代表指標以外の複数指標からみる施策の広がりの分析

関係者インタビュー結果からみる分析結果の確認

各分野の代表指標【河川】円山川の河川区域内(国管理区

   間)の湿地面積【農業】コウノトリ育む農法の作付面積【地域社会】コウノトリと共生する地域      づくりの認知率

各分野の具体事例【河川】治水と環境保全が両立する湿地整   備とエコロジカルネットワーク形成

【農業】コウノトリ育む農法への   取り組み

【地域社会】田結地区での自然再生

施策の広がりの要点 主体のつながりの要点

3.5【参考】外部への広がりの分析

3.6【参考】豊岡地域の取り組みと他地域との比較

「ひょうご豊岡モデル」における公共政策のポイントの抽出

共感の連鎖が広がるプロセスの整理

施策の広がり・主体のつながりの要点の整理

第5章 ひょうご豊岡モデルのまとめ

第4章 取り組み進捗の評価

第3章 取り組みの分析

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 各分野において取り組みを行うに至った背景について、①各分野の課題、②生存・生活原理に係る人々

の心、③その結果としての社会的方向性の観点から以下に整理した。

3.2.取り組みの背景(各分野の課題と人々の心、社会的方向性)

課 題

・自然環境や景観といった観点で地域の原風景が壊されていくことへの危機感と安全 性・利便性との葛藤

・自然環境や景観といった観点で地域の原風景が壊されていくことへの危機感と安全 性・利便性との葛藤

・台風23号による甚大な被災で治水の重要性再認識。しかしコウノトリ野 生 復 帰もすすめたい。(治水も環境も≒湿地整備)

・徹底した情報公開・多様な主体が集まっ

て意見を言える場の設置(円卓会議)

・多様な主体が集まって意見を言える場の設 置(ひのそ島改修検討会)

・掘削方法の違いによる変 化・影 響・効 果を様々な技術を駆使して検討、可視化

・地域の意志の確認と計画への反映……19回に及ぶ公開での流域委員会(多様な主体の参加による会議)、オープ ンフォーラム等による多様な意見把握

・別途実施された河川改修によって湿 地出現(円山川・野上地区)

・「ハチゴロウ」飛来・地域づくりの方向性(野生復帰推進計画)

・台風23号・コウノトリ放鳥・ラムサール条約湿地

登録

・河川法の改正(治水・利水に加えて河川環境の整備と保全を内部目的化)

・河川事業を検討するプロセスとして、多様な主体の参画による議論の有効性を認識

・治水と環境保全とが両立する手法としての湿地整備技術の有効性を認識

→今後の円山川での河川事業の方向性を示唆

・法定計画である河川整備計画に自然再生計画を統合

・治水事業(河川激甚災害対策特別緊急事業※2含む)および自然再生事業による湿地整備等の推進

・長良川河口堰建設反対運動等、治水優先の河川事業への国民世論の反対

・ひのそ島掘削による環境への影響の声(治水優先の河川事業への地域世論の反対)

・河川改修に対する環境配慮の潮流

・コウノトリ野生復帰と治水安全度向上の両立

対策・取り組み

社会的方向性生存・生活原理に係る人々の心※1

人々の心に影響を与えた要因

※1 生存・生活原理に係る人々の心:第2章 関わってきた方々へのインタビュー及び既往の文献資料(付属資料4より抽出)※2 河川激甚災害対策特別緊急事業:「災害対策等緊急事業推進費」の一つ。「災害対策等緊急事業推進費」は、自然現象

による災害を受けた地域等又は社会的に影響のある公共交通に係る重大な事故が発生した箇所等において、再度災害防止又は事故の再発防止等を図り、住民等の安全・安心の確保に資することを目的として使用する費用である。このうち河川分野の事業の一つとして「河川激甚災害対策特別緊急事業」(略称:激特事業)がある。

全国的潮流

豊岡地域における取り組み

(1)河川分野

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課 題

課 題

・安全・安心な食料を確保したい

・農業が持続できる社会であってほしい

・開発により生物多様性が減少する危機感

・コウノトリに帰ってきてもらいたいが、無農薬・減農薬栽培に取り組むには抵抗感がある

・郷土の風景を守るために水田を維持したいが担い手がいない

・かつてコウノトリがいた生活を戻したい

・今ある環境を守りたい、子 供たちに残したい

・コウノトリ育む農法に取り組みたいが農家の作業負担が大きい

・環境保全の取り組みを経済効果に繋げたい

・子供たちや若い世代はコウノトリを知らない、身近には感じていないことへの不安

・豊岡に住み続けたい・環境保全の取り組みを

経済効果につなげたい

・食料・農業・農村政策に関する基本理念の明確化、政策の再構築

・国土や環境の保全など、農 業・農 村の 役割の評価

・環境に関する情報公開・環境保全活動への多

様な主体の参加、人材育成

・ガット・ウルグアイ・ラウンド農業交渉合意

・バブル期の開発

・コウノトリ育む農法の技術開発、体系化

・環境創造型農業の専門家の招聘による講演会の開催

・地域ごとのコウノトリ育む農法の説明会開催

・市民への情報提供(コウノトリ歴 史冊 子 配布等)

・地域外からの情報提供(未来・国際かいぎ等)

・市民のコウノトリへの関わり(目撃情報など)

・「コウノトリの舞」認証制度の制定

・「コウノトリ育む」の商標登録

・コウノトリ育むお 米生産部会の設立

・田んぼの学校、コウノトリKIDSクラブ等、環境学習開催

・グリーンツーリズム実施

・豊岡エコバレーの実現へ

・「ハチゴロウ」飛来・コウノトリ放鳥

・コウノトリ放鳥・「ハチゴロウ」飛来・ラムサール条約湿地

登録

・コウノトリ放鳥

・コウノトリ放鳥

・ 食 料・ 農 業・ 農 村基 本 法 の 制 定(H11

(1999)年)

・環境保全に関する法令制定(環境基本法、自然再生推進法、環境教育推進法、等)

・コウノトリ育む農法の拡大に向けた農家の理解の形成

・コウノトリも住める環境づくり実現に向けた市民による活動の展開

・多様な主体との連携

・環境と経済の共鳴を目標とする環境経済戦略の策定

・環境と経済の共鳴を目標とする環境経済戦略の推進

・食料自給率の低下・農業者の高齢化・農

地面積の減少・農村の活力の低下

・人と自然環境との関わりを見 直し・再 構築

・コウノトリ放鳥に向けた餌場となる水田の確保

・耕作放棄地の拡大による土地の荒廃

・コウノトリも住むことができる環境を整える

・コウノトリを受け入れるための市民の意識づけ

・コウノトリ育む農法の拡 大・継 続を支えるために地域経済の活性化が必要

・継続的な活動にするための人材育成、地域経済の活性化が必要

対策・取り組み

対策・取り組み

社会的方向性

社会的方向性

生存・生活原理に係る人々の心※1

生存・生活原理に係る人々の心※1

人々の心に影響を与えた要因

人々の心に影響を与えた要因

全国的潮流

全国的潮流

豊岡地域における取り組み

豊岡地域における取り組み

(2) 農業分野

(3) 地域社会分野

107

Page 108: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

1) 代表指標(円山川の湿地面積)からみる施策の広がりの分析

円山川の河川区域内(国管理区間)の湿地面積※の推移

3.3.代表指標からみる広がりの分析、具体事例からみるつながりの分析(1) 河川分野に関わる取り組み

公共政策の実績にみる取り組みの広がり(河川分野)

野外コウノトリの個体数

出典:コウノトリの郷公園提供資料 ※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

安定

不安定

生存・生活原理に係る

人々の心のベクトル

円山川の河川区域内(国管理区間)の

湿地面積

出典:国土交通省豊岡河川国道事務所提供資料

0

50

100

150

200

250

300

1898

(ha)

(年度)’32 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

古い1/50,000地形図から堤防(河川区域)を確定させ、その範囲内の湿地を机上で測定した。S7(1932)年とS25(1950)年は同値であった。

281

154

82 82 75 72 71 71 71 71 71

313 39 48 50 50 50 503 4 4 4 4 6 7

データなし

治水一辺倒の河川改修による河川の無機質化・単調化

河川改修で偶然に湿地出現。ひのそ島改修検討会で治水と環境保全が両立する湿地整備技術の有効性認識

激特事業および自然再生事業による湿地再生

湿地に野生コウノトリ「ハチゴロウ」飛来

河川法改正

コウノトリ野生復帰推進計画策定 自然再生

計画策定

放鳥

台風23号被災

対策前の湿地 治水事業による湿地 自然再生事業による湿地

70(個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

長良川河口堰建設反対運動河川法改正

河川改修で図らずも湿地出現(円山川・野上地区)【国】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】

コウノトリの郷公園開園

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

円山川の環境整備の一つとして湿地再生の有効性の認識【国】「ハチゴロウ」飛来

自然再生計画策定【国・県】 湿地再生(出石川・加陽地区)【国】

ラムサール条約湿地登録

河川整備計画策定【国・県】湿地・約130ha激特事業での湿地創出【国】

台風23号被災円山川でのコウノトリの生息環境(湿地)整備の推進の必要性

ひのそ島全島掘削反対の声

0

50

100

150

200

250

300

1898

(ha)

(年度)’32 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

古い1/50,000地形図から堤防(河川区域)を確定させ、その範囲内の湿地を机上で測定した。S7(1932)年とS25(1950)年は同値であった。

281

154

82 82 75 72 71 71 71 71 71

313 39 48 50 50 50 503 4 4 4 4 6 7

データなし

治水一辺倒の河川改修による河川の無機質化・単調化

河川改修で偶然に湿地出現。ひのそ島改修検討会で治水と環境保全が両立する湿地整備技術の有効性認識

激特事業および自然再生事業による湿地再生

湿地に野生コウノトリ「ハチゴロウ」飛来

河川法改正

コウノトリ野生復帰推進計画策定 自然再生

計画策定

放鳥

台風23号被災

対策前の湿地 治水事業による湿地 自然再生事業による湿地

70(個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

長良川河口堰建設反対運動河川法改正

河川改修で図らずも湿地出現(円山川・野上地区)【国】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】

コウノトリの郷公園開園

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

円山川の環境整備の一つとして湿地再生の有効性の認識【国】「ハチゴロウ」飛来

自然再生計画策定【国・県】 湿地再生(出石川・加陽地区)【国】

ラムサール条約湿地登録

河川整備計画策定【国・県】湿地・約130ha激特事業での湿地創出【国】

台風23号被災円山川でのコウノトリの生息環境(湿地)整備の推進の必要性

ひのそ島全島掘削反対の声

0

50

100

150

200

250

300

1898

(ha)

(年度)’32 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

古い1/50,000地形図から堤防(河川区域)を確定させ、その範囲内の湿地を机上で測定した。S7(1932)年とS25(1950)年は同値であった。

281

154

82 82 75 72 71 71 71 71 71

313 39 48 50 50 50 503 4 4 4 4 6 7

データなし

治水一辺倒の河川改修による河川の無機質化・単調化

河川改修で偶然に湿地出現。ひのそ島改修検討会で治水と環境保全が両立する湿地整備技術の有効性認識

激特事業および自然再生事業による湿地再生

湿地に野生コウノトリ「ハチゴロウ」飛来

河川法改正

コウノトリ野生復帰推進計画策定 自然再生

計画策定

放鳥

台風23号被災

対策前の湿地 治水事業による湿地 自然再生事業による湿地

70(個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

長良川河口堰建設反対運動河川法改正

河川改修で図らずも湿地出現(円山川・野上地区)【国】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】

コウノトリの郷公園開園

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

円山川の環境整備の一つとして湿地再生の有効性の認識【国】「ハチゴロウ」飛来

自然再生計画策定【国・県】 湿地再生(出石川・加陽地区)【国】

ラムサール条約湿地登録

河川整備計画策定【国・県】湿地・約130ha激特事業での湿地創出【国】

台風23号被災円山川でのコウノトリの生息環境(湿地)整備の推進の必要性

ひのそ島全島掘削反対の声

※:平水位から水深 50cm 低下したときの水面域を除いた湿地面積

108

Page 109: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

〔円山川の河川区域内(国管理区間)の湿地面積の推移の状況〕・明治31(1898)年時点では281ha、昭和7(1932)年(この時期1930年の豊岡地域におけるコウノトリ

個体数は100個体でピークであったとみられる)及びS25(1950)年では154haであった湿地面積は、平成16(2004)年で82haまで減少していた。H17(2005)年より治水事業による湿地整備で面積が増え始め、H24(2012)年では自然再生事業による整備と合わせて127haとなっている。

〔円山川の河川区域内(国管理区間)の湿地面積の推移の要因考察〕・円山川では度重なる水害に見舞われてきたため、コンクリート護岸等を使用するなど治水を優先した

河川改修が行われてきたことなどから、円山川の湿地面積はH16(2004)年には、S7年(1932)年の154haから82haと半減した。

・一方で、市民が河川環境を重視する潮流が昭和50年代ごろより全国的に強くなり、平成に入ってからは長良川河口堰建設反対運動等の従前型の治水・利水優先の河川事業に対する国民世論の反対が最高潮に達した。これを受けてH9(1997)年に河川法が改正(治水・利水と並んで環境保全を内部目的化)された。改正法では河川事業の計画策定にあたり住民意見を聞くことが義務化された。しかし、ダムなど従前型の河川事業では治水と環境保全とが相反する事が多く、多くの河川でその両立に苦心する状況であった。

・河川管理者(国)は、地域住民が望む円山川の治水安全度の向上のために、中州であるひのそ島の全島掘削を行う予定で土地買収を進めていたが、河川環境を重視する潮流の中で、ひのそ島及びその周辺で貴重な生物が相次いで確認され、掘削のあり方が争点となった。そこで河川管理者(国)は、ひのそ島の元地権者である地域住民や市民団体、学識者、漁業協同組合等、多様な主体で構成される「ひのそ島改修検討会」を組織し、掘削方法について景観シミュレーションや3次元流動シミュレーションなどを活用し、様々な掘削方法による変化・影響・効果を検討し、検討会に諮った。

・別途行われていた河川改修(円山川・野上地区)によって図らずも湿地が出現(p.46参照)し、掘削方法によって治水と環境保全とが両立する可能性が示唆された。検討会では、この観点で検討が進められ、治水と環境保全とが両立する手法としての湿地整備技術の有効性が認識されていった。

・一方でH14(2002)年に自然再生推進法が成立、また、湿地に野生コウノトリ「ハチゴロウ」が飛来し、湿地の価値・重要性が行政や地域住民等に認識される中、兵庫県がコウノトリの野生復帰を目指した「コウノトリ野生復帰推進計画」を策定(H15(2003)年3月)、多様な主体の参画によるコウノトリ野生復帰推進連絡協議会が組織された。同計画において河川分野では湿地再生等の河川整備を推進することとなり、河川管理者(国・県)は、協働して円山川水系の自然再生計画の策定に取り組んだ(H15(2003)年~)。

・このようにH17(2005)年のコウノトリ放鳥を目指した取り組みが多様な主体によって実施される中、豊岡地域は、H16(2004)年10月台風23号による未曾有の被害を受けた。

・台風23号は地域住民等に甚大な被害をもたらした大洪水であり、治水優先の河川改修をすべきという声もあったが、コウノトリ野生復帰を災害復興の象徴ととらえ、「円山川の環境・景観を保全したい」

「コウノトリ野生復帰を進めたい」という市民の思いが途絶えずに、国・県の協力体制や市民・学識者等多様な主体の参画によって円山川水系自然再生計画が策定(H17(2005)年11月)された。

・また、台風23号被災に伴う河川激甚災害対策特別緊急事業においても、積極的に湿地整備等の手法による河川改修が実施され、円山川の湿地面積は増加し、H24(2012)年現在で、127haまで再生された。

・豊岡地域で野生絶滅したコウノトリを野生復帰させる取り組みは、コウノトリが、地域住民の郷土を愛する心や生き物を愛する心と重なって象徴となり、各主体が「コウノトリも

すめる」地域を作りたい、取り戻したい、という共通の目指す姿をイメージして、これが、コウノトリ野生復帰推進連絡協議会の組織化と相まって強い推進力を生んだものと考えられる。

・河川分野における湿地の再生は、そのような地域の価値認識のなか、地域の意見を取り入れる形で進められた。

109

Page 110: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

【施策の広がりの要点】

●河川法の改正など全国的な潮流を背景に進展・全国的な河川環境を重視する潮流を受けて河川法が改正され、豊岡地域においても河川環境が重視された。

●災害をも機会とした・H16(2004)年台風 23号被災に伴う河川激甚災害対策特別緊急事業により湿地再生が推進された。

●各主体との目的の共有(分かりやすいシンボルと理念、共通の目指す姿の存在)・かつて豊岡地域に普通に生息していたコウノトリを野生復帰させるという分かりやすいシンボルと理念、

共通の目指す姿が存在することで、各主体間において目的が共有された。これにより、H16(2004)年台風 23 号で未曾有の被害を受けたにも関わらず、関係機関・市民の思いはブレずに湿地整備が進められた。

●治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備技術の確立・上記のように関係機関・市民の思いがブレなかった背景には、(湿地の質の向上という技術的課題は残る

ものの)治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備技術の一応の確立が大きく寄与していると考えられる。

●取り組み・検討の連携の体制設計(多様な主体の参画による計画策定)・多様な主体が参画する検討会・推進協議会などの取り組み・検討の連携体制の構築が適切であったこと

から、上記のような各主体との目的の共有、湿地整備技術の有効性の共通認識等が生まれ、強い推進力となったものと考えられる。

水生生物調査の実施状況(H24.9.24, 出石川)出典:「平成 24 年度円山川自然再生事業分析評価業務報告書」

(H25.3,(公財)リバーフロント研究所)

110

Page 111: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

111

Page 112: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

2) 代表指標以外の複数指標からみる施策の広がりの分析

80

70

60

50

40

30

20

10

0円山川における水生生物調査の延べ

参加者数(人)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08

52

’09

66

’10

0

’11

71

’12 年

52

データなし

コウノトリ放鳥

35

30

25

20

15

10

5

0

豊岡市における川の体験活動実施

小学校数(校)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08

11

’09

17

’10

19

’11

22

’12 年

29

取り組み開始前

70(個体)

60

50

40

30

20

10

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

713

18

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

コウノトリ放鳥

複数の指標からみる取り組みの広がり

野外コウノトリの個体数

出典:コウノトリの郷公園提供資料 ※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

出典:豊岡市提供資料

出典:国土交通省近畿技術事務所 HP

112

Page 113: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

円山川における水生生物調査の年間延べ参加者 数 は、H20(2008)年 に52人、H23(2011)年は71と伸びたが、H24(2012)年は52人であった。

〔施策の広がりに関する考察〕・湿地面積は、河川激甚災害対策特別緊急事業

および自然再生事業によりH18(2006)年より急激に増加した。

・円山川における水生生物調査の年間のべ参加者数および豊岡市における川の体験活動実施小学校数の統計開始はH20(2008)年以降であることから、上記の湿地面積増との直接的な因果関係は明らかではない。

・しかし、特に川の体験活動実施小学校数の伸びは著しく、H24(2012)年には29校と、豊岡市内の小学校の全校が実施するまでになった。教育現場において、湿地の価値の認識が増加したとも解釈でき、湿地整備の間接的な効果向上として解釈して良いものと考えられる。

・一方で一般市民の中では関心が薄れる懸念がある。「当たり前」化の弊害の可能性も考えられるため、市民活動の参加意欲を向上させる等、意識の劣化・風化に対する方策が必要と考えられる。

豊岡市における川の体験活動実施小学校数は、H22(2010)年に19校であったのが、H21(2009)年度から兵庫県教育委員会が始めた「ふるさと実感・環境体験事業」とも相まって、H24(2012)年には29校と、豊岡市の小学校の全校が実施するまでになった。

113

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具体事例:「治水と環境保全が両立する湿地整備とエコロジカルネットワーク形成」にみる主体のつながり・ひのそ島改修検討会での議論を通して、洪水時の河川水位を低下させつつ環境保全と両立する手法とし

て高水敷の切り下げや遊水地整備による湿地再生の有効性が地域住民にも認識された。台風23号の甚大被害を受けながらも市民の思いが反映された自然再生計画が策定され、創出された湿地がエコロジカルネットワーク形成の一角をなし、環境学習等のフィールドとしても利用されている。

3) 具体事例(治水と環境保全の両立)からみる主体のつながりの分析

度重なる水害被害

コウノトリの郷公園開園

台風23号襲来

野外コウノトリの個体数増加と湿地の利活用

河川法改正別途実施された河川改修で湿地出現

・湿地整備技術の 有効性の認識・多様な主体の参画によ る検討の有効性の認識

目標像、行動計画を主体間で共有

(河川分野ではコウノトリもすめる湿地を選択)

地域の賛同を得た計画に基づく事業の推進

湿地整備、水際等の多自然化、魚道等河川の連続性確保

環境学習のフィールドとしての利用

壊されていく地域の原風景を何とかしたい

コウノトリ野生復帰をすすめたい

生存・生活原理に係る人々の心

円山川の環境・景観を良くしたい

でも洪水被害は余り受けたくない

「ハチゴロウ」がきた!「湿地」は効果ありだ!

治水も環境も≒湿地

自分たちの地域を自分たちが

守り継ぎたい

ひのそ島改修検討会

コウノトリ野生復帰推進連絡協議会

コウノトリ野生復帰推進計画策定

自然再生計画策定

湿地整備、水際等 の多自然 化、魚道等河川の連続性確保

エコロジカルネットワーク形成

水田魚道整備冬水田んぼの実施

湿地の保全・管理

気付きのプロセス

将来像の共有プロセス

分かりやすい目標の主体間での共有

甚大な被害を受けながらも湿地整備を選択

行動への移行プロセス

共感の連鎖プロセス

市民

学識

市民

学識

市民

学識

県 農家 市民

学校

治水優先の河川改修による河川の単調化・無機質化

野生コウノトリ「ハチゴロウ」飛来

コウノトリ放鳥

凡例

生存・生活原理への影響

環境を重視する潮流

114

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関係者インタビュー結果からみる分析結果の確認・ひのそ島の検討で、治水のための河積※確保とコウノトリのための湿地づくりの両方を同時に叶えること

が出来た。(藤田氏)・ひのそ島の検討では、多様なメンバーで合意が得られたのが大きな成果。(藤田氏)・台風23号の被害で治水優先の整備になるかと思っていたが、自然再生にブレーキがかからず、環境と治

水を両立させる方向で維持された。

【主体のつながりの要点】

●湿地整備技術の有効性の共通認識、多様な主体の参画による検討の有効性の認識 別途実施された河川改修で図らずも湿地が出現したことで、治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備の有効性が認識された。ひのそ島改修検討会という多様な主体の参画による検討を経たことで、湿地整備技術の有効性の共通認識が形成された。同時に、多様な主体の参画による検討という検討手法の有効性も認識された。

●湿地への「ハチゴロウ」の飛来 整備した湿地に野生コウノトリ「ハチゴロウ」が飛来したことで、関係者の間で、湿地整備技術の有効性に自信が生まれた。

●関係主体間での将来像の共有 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会で目標像、行動計画を主体間で共有できたことで、河川分野での役割が明確になり、ブレずに湿地整備を進めることが出来た。

※河川の流れに直交する水路断面内のうち、水が流れている部分の面積。洪水の流下能力を決定する重要な要素であり、 これを確保することが治水行政の重要な役割となっている。

115

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1) 代表指標(コウノトリ育む農法の作付面積)からみる施策の広がりの分析(2) 農業分野に関わる取り組み

野外コウノトリの個体数

出典:コウノトリの郷公園提供資料 ※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

公共政策の実績にみる取り組みの広がり(農業分野)

出典:豊岡市提供資料

コウノトリ育む農法の作付面積の推移

コウノトリ育む農法の作付面積

安定

不安定

生存・生活原理に係る

人々の心のベクトル

豊岡市内の全稲作作付面積

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H7

主な取り組み

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

コウノトリの舞制度【市】

コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座開設【県】

コウノトリ育む農法の拡大に向けた農家の理解の形成

環境と経済の共鳴を目標とする環境経済戦略の策定

豊岡市環境経済戦略策定【市】

「コウノトリ育む」商標登録【市】

食料自給率の低下、農業者の高齢化、農地面積の減少、農村の活力の低下

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」

飛来

コウノトリと共生する水田づくり学習会開始【市】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】コウノトリと共生する水田自然再生事業の設立【県・市・国】

コウノトリ育む農法の体系化【県】

コウノトリ放鳥

0

50

100

150

200

250

300

2,700

2,800

2,900

3,000

3,100

3,200

’95

(ha) (ha)

(年度)’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

142 5 12 33 44

62 57 48 50

84

3,0983,071 3,052

3,1123,090

3,0403,060

2,9602,940

3,0202,980 2,970

3,003

37

124 139150 162 186 201

・不適切な農薬・化学肥料の使用等・農業者の減少、耕作放棄地の拡大

コウノトリの郷公園開園

コウノトリ野生復帰推進計画策定

豊岡市環境経済戦略策定

有機農法の推進に関する法律の制定

兵庫県環境創造型農業推進計画策定

食料・農業・農村基本法成立

放鳥

育む農法(米:無農薬) 育む農法(米:減農薬) 全作付(米)

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

食料・農業・農村基本法制定

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H7

主な取り組み

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

コウノトリの舞制度【市】

コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座開設【県】

コウノトリ育む農法の拡大に向けた農家の理解の形成

環境と経済の共鳴を目標とする環境経済戦略の策定

豊岡市環境経済戦略策定【市】

「コウノトリ育む」商標登録【市】

食料自給率の低下、農業者の高齢化、農地面積の減少、農村の活力の低下

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」

飛来

コウノトリと共生する水田づくり学習会開始【市】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】コウノトリと共生する水田自然再生事業の設立【県・市・国】

コウノトリ育む農法の体系化【県】

コウノトリ放鳥

0

50

100

150

200

250

300

2,700

2,800

2,900

3,000

3,100

3,200

’95

(ha) (ha)

(年度)’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

142 5 12 33 44

62 57 48 50

84

3,0983,071 3,052

3,1123,090

3,0403,060

2,9602,940

3,0202,980 2,970

3,003

37

124 139150 162 186 201

・不適切な農薬・化学肥料の使用等・農業者の減少、耕作放棄地の拡大

コウノトリの郷公園開園

コウノトリ野生復帰推進計画策定

豊岡市環境経済戦略策定

有機農法の推進に関する法律の制定

兵庫県環境創造型農業推進計画策定

食料・農業・農村基本法成立

放鳥

育む農法(米:無農薬) 育む農法(米:減農薬) 全作付(米)

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

食料・農業・農村基本法制定

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H7

主な取り組み

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

コウノトリの舞制度【市】

コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座開設【県】

コウノトリ育む農法の拡大に向けた農家の理解の形成

環境と経済の共鳴を目標とする環境経済戦略の策定

豊岡市環境経済戦略策定【市】

「コウノトリ育む」商標登録【市】

食料自給率の低下、農業者の高齢化、農地面積の減少、農村の活力の低下

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」

飛来

コウノトリと共生する水田づくり学習会開始【市】

野生復帰推進計画策定【県・市・国】コウノトリと共生する水田自然再生事業の設立【県・市・国】

コウノトリ育む農法の体系化【県】

コウノトリ放鳥

0

50

100

150

200

250

300

2,700

2,800

2,900

3,000

3,100

3,200

’95

(ha) (ha)

(年度)’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

142 5 12 33 44

62 57 48 50

84

3,0983,071 3,052

3,1123,090

3,0403,060

2,9602,940

3,0202,980 2,970

3,003

37

124 139150 162 186 201

・不適切な農薬・化学肥料の使用等・農業者の減少、耕作放棄地の拡大

コウノトリの郷公園開園

コウノトリ野生復帰推進計画策定

豊岡市環境経済戦略策定

有機農法の推進に関する法律の制定

兵庫県環境創造型農業推進計画策定

食料・農業・農村基本法成立

放鳥

育む農法(米:無農薬) 育む農法(米:減農薬) 全作付(米)

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

食料・農業・農村基本法制定

116

Page 117: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

〔コウノトリ育む農法の作付面積の推移の状況〕・コウノトリの放鳥の時期からコウノトリ育む農法の作付面積が急増し、現在は豊岡市内で約250ha(但

馬地域で約340ha)にまで拡大している。・H16(2004)年以降、コウノトリ育む農法の作付面積は拡大傾向にあるが、H21(2009)年以降は拡

大スピードが鈍化している。・無農薬での作付面積はH21(2009)年の62haをピークとしてやや減少し、H24(2012)年には50ha

になっている。

〔コウノトリ育む農法の作付面積の推移の要因考察〕・コウノトリが野生で絶滅した昭和40年代は、S36(1961)年の農業基本法の制定、S38(1963)年の

ほ場整備事業の制度化を背景として、米の収量増大を図るため、基盤整備による乾田化が進められ、農薬・化学肥料の使用により、生産の効率化が図られていた。一方で、不適切な農薬・肥料の使用、経済性や効率性を優先した農地・水路の整備など一部の農業の活動が生物多様性に負の影響を与えていた時代である。

・米の流通の面から見ると、S42(1967)年からの大豊作を機に米の需要が過剰基調となったこと等を受けて、S46(1971)年度以降生産調整が本格的に実施された。このような中、国民の食生活の向上に伴う良質米志向の高まりを背景に、民間流通の長所を活かした自主流通米制度がS44(1969)年に発足した。

・農業基本法が制定されたS36(1961)年以降は、急速な経済成長の一方で、全国の農地面積、農業就業者数、食料自給率は減少の一途を辿り、H11(1999)年には、農業政策を全面的に見直し、再構築することを目的として、食料・農業・農村基本法が制定されている。

・コウノトリの郷公園が開園したH11(1999)年に制定された食料・農業・農村基本法の特徴の1つは、農業の多面的機能の1つとして、自然環境保全が位置づけられたことである。

・同法に先駆けて、兵庫県ではH4(1992)年に環境創造型農業の推進方針を策定しており、豊岡市内では同時期にコウノトリの郷公園の開園に向けて、祥雲寺地区でアイガモ農法が導入されるなど、農業と環境の関係が注目され始めた時期であった。

・消費者の視点からは、食の安全・安心への要求の高まりから、県がH5(1993)年に有機農産物認証制度を、国もH13(2001)年に有機農業認証制度(有機JAS)を開始している。

・また、H5(1993)年にはガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意があり、H7(1995)年には食糧法により、米の流通規制が大幅に緩和されていることから、均質な農産物の大量生産から、市場競争力の高い農産物の生産の重要性が認識され始めた時期でもあったと考えられる。

・以上を社会的背景として、H15(2003)年に策定されたコウノトリ野生復帰推進計画では、環境創造型農業の推進、生態系豊かな水田づくりが位置づけられ、コウノトリと共生する水田自然再生事業による転作田ビオトープ、冬期湛水・中干延期に対する助成(県・市)が開始されている。

・コウノトリ育む農法は、H17(2005)年のコウノトリの放鳥への社会の注目、農業における環境意識の高まり、安全・安心な食への消費者ニーズを追い風として拡大するが、その背景には、コウノトリ育む農法の体系化、環境創造型農業の専門家の招聘による講演会や地域ごとのコウノトリ育む農法の説明会の開催など、県・市・JAたじまの連携による農家の理解の形成に向けた取り組みがある。

・また、H14(2002)年の野生コウノトリ「ハチゴロウ」の飛来に伴って実施された調査により、稲を踏み倒すなどの農業への影響はわずかであることが確認されるなど、農家のコウノトリに対する害鳥イメージが薄れるきっかけになった。

・経済面から見ると、H15(2003)年に市がブランド「コウノトリの舞」認証制度を制定し、豊岡市環境経済戦略(H17(2005)年策定)により、生物多様性と農業者の利益増の両立を目指す環境創造型農業の推進が位置づけられ、コウノトリ育む農法の作付面積が急増している。

117

Page 118: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

【施策の広がりの要点】

●コウノトリ野生復帰と社会的な潮流である食の安全安心の確保との方向性の一致・コウノトリ野生復帰のためには、餌場となる水田の生物を増やすために無農薬・減農薬栽培が必要であっ

たが、1990年代後半から食の安全安心への社会的な関心が高まり、兵庫県及び国の有機農業認証制度等の整備の方向性とも一致していたことが、コウノトリ育む農法の広がりの背景となった。

●行政によるコウノトリ育む農法の体系化と技術指導・普及啓発・新たに無農薬・減農薬に取り組むことは、農家にとっては除草等の手間が掛かるだけでなく、収量の減

少等のリスクがあること、どのように取り組んだらよいか分からないということが障害になると考えられた。そこで、県の豊岡農業改良普及センターが中心となって「コウノトリ育む農法」の体系化をすすめ、農家への技術指導・普及啓発を行うことにより、生きものが生息できる水田環境と稲作の技術開発と理解の促進、農家が取り組む際の障害の軽減が図られた。以上の取り組みを背景としながら、コウノトリの放鳥への社会的な注目を契機として、さらには、コウノトリが田んぼで採餌する様子を実際に見ることで農家・消費者の関心は高まり、コウノトリ育む農法は拡大していった。

●コウノトリの水田への飛来による農家の主体的な関わり意識の萌芽・農家にとってコウノトリは、稲を踏み倒す害鳥のイメージがあった。しかし、偶発的なH14(2002)年の

ハチゴロウ飛来を好機と捉えて実施した調査によって、コウノトリによる稲の踏みつけはほとんどなく、収量への影響が無いことが確認されたことにより、農家のコウノトリに対するイメージが改善されるきっかけになった。

・H17(2005)年の放鳥後、コウノトリが飛来した水田を中心にコウノトリ育む農法への取り組みが拡大するケースにみられるように、コウノトリの存在自体が、農家の主体的な関わり意識の萌芽に影響を及ぼしている。

●行政と地域住民が一体となってコウノトリ育む農法の説明会を継続することによる信頼関係の確立・地域へのコウノトリ育む農法の説明会は、市のコウノトリ共生課、県の豊岡農業改良普及センターと、既

にコウノトリ育む農法に取り組んでいる地区の農家が説明者として一体となって実施された。行政からの一方的な説明だけでなく、実際にコウノトリ育む農法に取り組んでいる農家が経験を通して説明を行うことにより、参加者の理解を得ることや、取り組みの意義に共感を得ることに効果があった。

●水田の生物多様性保全に対する補助制度の創設(コウノトリと共生する水田自然再生事業)・H15(2003)年に、コウノトリも住める豊かな水田の再生・創造と生き物を育む稲作技術を確立し、コウ

ノトリ育む地域農業の振興を図ることを目的として「コウノトリと共生する水田自然再生事業」が始まった。補助対象として、ビオトープ型と冬期湛水型があり、農家が転作田によるビオトープ整備を行うことやコウノトリ育む農法に取り組む際の動機付けや抵抗感を緩和することに寄与している。(当該事業は、創設当初は県と市の1/2負担であったが、現在は市の事業となっている。)

●農産物のブランド化による環境保全と経済活動の相乗効果の発揮・コウノトリ育む農法は、従来の慣行農法と比較して手間が掛かるため、取り組む農家に経済的なメリット

が無ければ継続することは難しい。そこで豊岡市では、H15(2003)年に「コウノトリの舞」認証制度を制定し、JAたじまでは、コウノトリ育む農法による出荷米に「コウノトリ育むお米」の名称を用いることによって、環境創造型農業による農産物のブランド化を図った。コウノトリ放鳥による社会的な注目の高まりを端緒として、コウノトリ育む農法により生産される米の高付加価値を維持しており、農家が取り組む際のメリットを確保している。

118

Page 119: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

119

Page 120: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

野外コウノトリの個体数

出典:コウノトリの郷公園提供資料

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

70(個体)

605040302010

0

713

1827

3541

4758

コウノトリ放鳥

※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

2) 代表指標以外の複数指標からみる施策の広がりの分析

複数の指標からみる取り組みの広がり

270 18240 16210 14180 12150 10120 890 660 430 20 0豊

岡市におけるコウノトリ育む農法

への補助(冬期湛水)対象面積(ha)

補助金(冬期湛水)総計(百万円)

250

200

150

100

50

0

豊岡市におけるビオトープ・冬期湛水

面積(ha)

12,000 12,000

10,000 10,000

8,000 8,000

6,000 6,000

4,000 4,000

2,000 2,000

0 0

JAたじま買取価格(円/30kg)

(参考)全国生産者価格(円/30kg)

600

500

400

300

200

100

0

全国における

コウノトリ育むお米取扱店舗数(店)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10

84

5.8

’11 ’12 年

129

17.0

取り組み開始前

コウノトリ放鳥

125

15.6

72

5.1

65

4.5

20

8.2

19

7.7

19

7.4

6

2.2

補助面積

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10

83.5

8.3

’11 ’12 年

189.3

12.7

取り組み開始前137

12.2

72.2

7.8

64.812.5

1620.4

16.219.2

16.85.67.26.7

1.1

ビオトープ冬期湛水

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

取り組み開始前

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10

400

’11 ’12 年

500

取り組み開始前 データなし データなし

コウノトリ放鳥

500

325

59

10.4

18.5

育むお米減農薬育むお米無農薬 全国生産者価格慣行栽培

出典:豊岡市提供資料 

出典:豊岡市提供資料 

出典:豊岡市提供資料 

出典:豊岡市提供資料、公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構 HP

120

Page 121: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

・H15(2003)年コウノトリ野生復帰推進計画策定以降、コウノトリ育む農法への補助(冬期湛水)面積は増加傾向にある。

・H20(2008)年とH23(2011)年に急激に増加している。

・補助金はH20(2008)年に、対象面積は増加したものの補助単価額を下げたことから総額は下がったが、H23(2011)年には、無農薬の補助単価額が上がったことも有り、大きく増加している。

〔施策の広がりに関する考察〕・コウノトリ育む農法の作付面積の増加に伴い、

冬期湛水・中干延期、ビオトープ整備等に対する補助金額も増加しており、豊岡市の水田自然再生事業が活用されていることが分かる。

・コウノトリの餌場の確保のために重要な水田の冬期湛水は、コウノトリ育む農法の要件になっており、コウノトリ育む農法の取り組みの拡大に伴い増加し、取り組みの成果指標として評価できる。

・コウノトリ育むお米の買取価格は、農家のコウノトリ育む農法への取り組み易さの指標として見ることができる。一定以上のプレミアムを維持し続けることができれば、農家の取り組みへの新規参入・継続を計画的に検討する際の材料とすることができる。すなわち現時点におけるコウノトリ育む農法の成果指標のひとつと見なすことができると考えられる。

・コウノトリ育むお米の取扱店舗数は、コウノトリ育む農法の拡大に伴い増加傾向にはあるが、量販店自体の店舗数の減少など、必ずしも取り組みの拡大と連動しない部分もある。

・コウノトリ育む農法の取り組みの成果指標として見るためには、売上金額や取扱地域の拡大についても合わせて見ることが必要である。

・冬期湛水面積は、H15(2003)年コウノトリ野生復帰推進計画策定以降、順調に増加している。

・一方、 ビオトープ 面 積 はH17(2005)年 の16.8haをピークとして、H24(2012)年 には12.7haと減少している。

・販売が始まったH17(2005)年から、H24(2012)年まで、無農薬・減農薬ともに慣行栽培よりも高値を付けており、プレミアムを維持している。

・取り扱い店舗数は、最初のデータがあるH17(2005)年の59店と比較して、H21(2009)年には5倍以 上の325店に 増 加しており、H23

(2011)年の500店まで順調に増加している。

121

Page 122: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

3) 具体事例(コウノトリ育む農法)からみる主体のつながりの分析

具体事例:「コウノトリ育む農法への取り組み」にみる主体のつながり・コウノトリ育む農法は、技術的な体系化・普及を兵庫県が行い、豊岡市が勉強会などを開催し、農家へ

の情報提供、地域の調整窓口を担い、JAたじまが組織化・販売の支援を行うことにより、連携して推進を図ってきた。

・市と県の連携により、コウノトリと共生する水田自然再生事業(補助制度)に取り組んできた。

コウノトリの野生絶滅

初めてのヒナ誕生

不適切な農薬・化学肥料の使用等

農業者の減少、耕作放棄地の拡大

食料・農業・農村基本法成立

台風23号襲来

ラムサール条約湿地登録

有機農法の推進に関する法律の制定

コウノトリ野生復帰のイメージ共有

計画に基づく環境創造型農業への取り組み

コウノトリ育む農法による作付面積拡大

コウノトリ育むお米生産部会事務局、販売支援

コウノトリに帰ってきてもらいたい

こだわりを持って農業を営みたい

生存・生活原理に係る人々の心

いまより土地を荒らしてはならない

郷土の風景を守りたい

コウノトリが飛んでいるところを

もう一度みたい

コウノトリが餌を採れる場所を

増やしたい

郷土を保全する農業を守りたい

コウノトリの野生復帰を支援したい

他地域との差別化により、

地域を活性化したい

コウノトリ未来・国際かいぎ

コウノトリ野生復帰推進計画策定

コウノトリ育む農法の技術的な体系化・普及

コウノトリと共生する水田自然再生事業

環境経済戦略策定

コウノトリ育む農法の向上、技術指導・普及

情報提供、地域の調整

地産地消 CSR 流通

販売

気付きのプロセス

将来像の共有プロセス

行動への移行プロセス

共感の連鎖プロセス

農家

農家

農家

市民

市民

農家

市民 企業

JA

自然再生推進法制定

コウノトリの郷公園開園

「ハチゴロウ」飛来

コウノトリ放鳥 市

販売促進、情報発信、教育

凡例

生存・生活原理への影響

122

Page 123: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

関係者インタビュー結果からみる分析結果の確認・コウノトリは身近な鳥。特別大切に思ってはいなかったが、一目置いていた鳥であった。(畷氏)・農業離れが進んでおり、土地を荒らしてはならないという思いがあった。(畷氏)・農業が変わると風景が変わる。(堀田氏)・売れる米作りから買ってもらえる米作りへの転換。(畷氏)・無農薬であれば売れるわけではない。消費者のニーズを作り出すことが大切。(堀田氏)・これからは豊岡地域だけでなく、兵庫県全体でコウノトリが住めるような環境にしなければならない。(保田氏)

【主体のつながりの要点】

●科学的な分析に基づくコウノトリの絶滅と農業の関係の気付き・コウノトリの絶滅の一因は、農薬中毒であったと考えられており、食物連鎖の上位に位置するコウノトリ

に有毒物質が高濃度に蓄積されたことが原因と考えられている。当時の新聞でもコウノトリの死体解剖の結果、水銀中毒であったことが報じられており、コウノトリの絶滅と農業は無関係ではないことが、農家を含む市民に理解されていったことが主体間の共通認識を形成する要因となった。

●コウノトリの生息環境の保全再生と郷土景観の保全の将来目標に対する共感の連鎖・コウノトリの餌場となる生き物が生息できる水田環境の保全・再生は、かつての水田の広がる郷土景観

の保全につながるものがあり、耕作放棄地の拡大に危機感を感じていた人々に、無理なく受け入れられ、共感が連鎖することにより主体間のつながりが形成されていった。

●集落の結びつきなどの地域特性を背景とした一定のまとまりでの取り組みの推進・コウノトリ育む農法の取り組みの勉強会等を集落単位で開催し、営農組織を中心とする集落単位の取り

組みを行政が支援している。そのため、信頼関係で結ばれている地域コミュニティの特性を背景に集落の一定のまとまりの水田を単位としてコウノトリ育む農法の作付面積の拡大を進めている。

●生産、販売、消費に関わる農家、行政、企業、市民などの多様な主体の関わり・「生産」においては、行政(県、市)がコウノトリ育む農法の技術開発・普及啓発及び農家に対する支援

を行い、「販売」において、豊岡市・JAたじまがブランド化・販売促進、イベント等による情報発信による消費者ニーズの掘り起こし、企業が販売を行い、コウノトリ野生復帰に共感した市民が「消費」するなど、多様な主体の関わりにより、つながりが形成されていった。

123

Page 124: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

コウノトリと共生する地域づくりの認知

1) 代表指標(コウノトリと共生する地域づくりの認知)からみる施策の広がりの分析(3) 地域社会分野に関わる取り組み

野外コウノトリ数

出典:コウノトリの郷公園提供資料 ※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

安定

不安定

生存・生活原理に係る

人々の心のベクトル

取り組みを市民が認知した時期の回答数

公共政策の実績にみる取り組みの広がり(地域社会分野)

出典:WEB アンケート調査結果

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

0

20

40

60

80

100

120

’71

(件)

(年)

N=155

’80 ’90 ’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’05’04 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

40

61 61 62 64 64 66 67 67

16 16 164 5 15 16

35 36 36 40 40

27

36 36 38 3842 43 43 43

6 6 62 3

6 6

18 20 2025 26

認知度13.5%

認知度34.0%

認知度62.5%認知度71.0%

認知度42.5%

・市民と行政が一体となった 保護活動開始・個体数の減少をくい止める ことはできない

コウノトリの郷公園開園「ハチゴロウ」の飛来

ヒナ誕生

豊岡市環境経済戦略策定コウノトリ野生復帰推進計画策定

放鳥

豊岡市 豊岡市以外

’93 ’94 ’96 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H5

年度H6

’95 ’97H7 H9H8 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

人と自然環境との関わりを見直し・再構築

・継続的な活動展開・環境保全と経済

・市民の受け入れ

バブル期の開発

環境基本法等制定

市民への情報提供(コウノトリの歴史小冊子全戸配布等)【県・市】市民のコウノトリへの関わり(目撃情報等)【県・市】

豊岡エコバレー推進【市】 グリーンツーリズム推進【市】

ラムサール条約湿地登録

田んぼの学校、生きもの調査等環境学習実施【市】

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」飛来

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

0

20

40

60

80

100

120

’71

(件)

(年)

N=155

’80 ’90 ’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’05’04 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

40

61 61 62 64 64 66 67 67

16 16 164 5 15 16

35 36 36 40 40

27

36 36 38 3842 43 43 43

6 6 62 3

6 6

18 20 2025 26

認知度13.5%

認知度34.0%

認知度62.5%認知度71.0%

認知度42.5%

・市民と行政が一体となった 保護活動開始・個体数の減少をくい止める ことはできない

コウノトリの郷公園開園「ハチゴロウ」の飛来

ヒナ誕生

豊岡市環境経済戦略策定コウノトリ野生復帰推進計画策定

放鳥

豊岡市 豊岡市以外

’93 ’94 ’96 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H5

年度H6

’95 ’97H7 H9H8 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

人と自然環境との関わりを見直し・再構築

・継続的な活動展開・環境保全と経済

・市民の受け入れ

バブル期の開発

環境基本法等制定

市民への情報提供(コウノトリの歴史小冊子全戸配布等)【県・市】市民のコウノトリへの関わり(目撃情報等)【県・市】

豊岡エコバレー推進【市】 グリーンツーリズム推進【市】

ラムサール条約湿地登録

田んぼの学校、生きもの調査等環境学習実施【市】

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」飛来

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

70( 個体 )

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

1318

2735

4147

58

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

7コウノトリ放鳥

0

20

40

60

80

100

120

’71

(件)

(年)

N=155

’80 ’90 ’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’05’04 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12

40

61 61 62 64 64 66 67 67

16 16 164 5 15 16

35 36 36 40 40

27

36 36 38 3842 43 43 43

6 6 62 3

6 6

18 20 2025 26

認知度13.5%

認知度34.0%

認知度62.5%認知度71.0%

認知度42.5%

・市民と行政が一体となった 保護活動開始・個体数の減少をくい止める ことはできない

コウノトリの郷公園開園「ハチゴロウ」の飛来

ヒナ誕生

豊岡市環境経済戦略策定コウノトリ野生復帰推進計画策定

放鳥

豊岡市 豊岡市以外

’93 ’94 ’96 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12H5

年度H6

’95 ’97H7 H9H8 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

’05 ’06H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

人と自然環境との関わりを見直し・再構築

・継続的な活動展開・環境保全と経済

・市民の受け入れ

バブル期の開発

環境基本法等制定

市民への情報提供(コウノトリの歴史小冊子全戸配布等)【県・市】市民のコウノトリへの関わり(目撃情報等)【県・市】

豊岡エコバレー推進【市】 グリーンツーリズム推進【市】

ラムサール条約湿地登録

田んぼの学校、生きもの調査等環境学習実施【市】

コウノトリ放鳥「ハチゴロウ」飛来

人々の心に影響を与えた要因主要な取り組み等の流れ 地域外地域内

取り組み間の繋がり

124

Page 125: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

〔コウノトリと共生する地域づくりの取り組みが市民に認知された時期〕・豊岡市及び但馬地域の市民を対象に「コウノトリと共生する地域づくりの取り組みが市民一般に認知

されてきた時期」について、WEBアンケート調査※を行い、施策の広がりを確認した。・S30(1955)年以降、市民と行政が一体となったコウノトリの保護活動が始まったが、認知度は広がっ

ていない。しかし、初めてコウノトリのヒナが誕生したH元(1989)年に認知度が13.5%に増加している。

・更に、H11(1999)コウノトリの郷公園開園(13.5%→34.0%)、H17(2005)コウノトリの郷公園による放鳥(42.5%→62.5%)という事象で増加している。

・その後、認知度は微増し、H24(2012)年時点では70.0%超認識されている。

〔コウノトリを PR に用いている状況〕・豊岡地域における公共事業や交通ネットワーク等、生活環境の中にコウノトリを活用したツールは多

く存在する。人の生活の中にコウノトリが浸透していることが伺える。(p.136 参照)

〔コウノトリと共生する地域づくりの取り組みが市民に認知されてきた時期の要因考察〕・S30(1955)年に市民と行政が一体となったコウノトリの保護活動が開始され、S31(1956)年には

コウノトリが国の特別天然記念物に指定された。しかし、個体数の減少をくい止めることはできず、S40(1965)年に人工飼育を開始した。人工繁殖に失敗し続けていた最終年のS63(1988)年の新聞報道は60件程度だったが、初めてヒナが繁殖したH元(1989)年に130件と大幅に増え、それに伴い、

「コウノトリと共生する地域づくり」の認知度は広がっている。・コウノトリの郷公園がH11(1999)年に開園して観光客が訪れるようになると、市民の認識もさらに

広がっている。またコウノトリの郷公園の県立大学教員・職員が見学に来る学校受け入れや講演会を実施し、H12(2000)年からコウノトリの郷公園では、「コウノトリ・パークボランティア」の育成が開始され、市民がコウノトリに関わる取り組みが開始されている。

・H17(2005)年の放鳥に伴い、コウノトリが目の前で飛び立つ姿に人は喜び・感動を覚え、「コウノトリも住める地域づくり」への多様な主体(市民や企業、国内の他大学等)の共感が広がったと考えられる。この喜び・感動が市民にとってコウノトリも住める地域づくりに向けた「自然再生」と、コウノトリとともに戻ってきた価値「地域の暮らし再生」の両立を進める原動力(気付き、やりがい等)になったと考えられる。

・放鳥前から環境教育等の活動は盛んであったが、放鳥後もコウノトリを受け入れる市民啓発・人材育成、企業や地域との交流、国際会議(生物多様性条約締約国会議(CBD-COP10))等により情報発信を県・市は常に実施してきた。

※ WEB アンケート調査・WEB アンケート調査とは、インターネットを用いたアンケート調査・調査対象:但馬地域(豊岡市、朝来市、養父市、香美町、新温泉町)・設問:取り組みが市民一般に認知されてきたのは、いつ頃からだと思うか

125

Page 126: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

【施策の広がりの要点】

●コウノトリ野生復帰に向けた地域社会の理解を得るための啓発・コウノトリの郷公園の整備に合わせ、兵庫県と豊岡市は積極的な情報発信を行った。コウノトリの絶滅・

保護・増殖の歴史をまとめた冊子を市内全戸に配布したほか、コウノトリ未来・国際かいぎ開催等によるメディアを通じた全国への発信に力を入れ、市内外にコウノトリと共生する地域である豊岡地域のアピールと受け入れ側の市民等への啓発を進めた。

・H17(2005)年のコウノトリ放鳥により、市民はコウノトリが野生復帰した具体的な姿を感じ、事業の認知度が広がり、野生復帰を受け入れる機運が高まった。

●地域に密着した県立大学併設の研究機関「コウノトリの郷公園」の存在と普及啓発・コウノトリの郷公園では、コウノトリの保護・繁殖及び野生復帰に向けた研究と実践が進められ、また人

とコウノトリの環境史解明や但馬地域の地域開発・観光に関する歴史的研究、環境保全型地域づくりの研究等が進められ、その研究成果は、地域づくりへ反映されてきた。また、「鶴見カフェ(サイエンスカフェ)」の開催による地域社会への啓発が進められてきた。

●コウノトリ野生復帰推進連絡協議会での多様な主体の合意形成・H14(2002)年に野生復帰の道案内役をした「ハチゴロウ」が飛来した。この「ハチゴロウ」の飛来は、

多様な主体の合意形成を後押しするきっかけとなった。・「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」設置やコウノトリ未来・国際かいぎ等の開催により、多様な主体

が集まり、将来像を共有し、行動へ移行していった。コウノトリを取り戻したいという市民の思いを行政が受け止め、積極的な施策を展開していった。

●コウノトリも住める地域づくりを担う次世代リーダーの育成・豊岡市は、コウノトリの郷公園内に「コウノトリ文化館」を設置し、「人と自然の共存を考えるエコミュー

ジアムの拠点」として市民や観光客に公開するとともに、市民環境大学や小学校での環境教育、自然体験事業「子どもの野生復帰大作戦」、「コウノトリKIDSクラブ」などの事業を行い、コウノトリと共生する地域を支える次世代の人材育成のための施策を展開している。

●営み(経済)と環境づくりのつながり・豊岡市がH17(2005)年に策定した「豊岡市環境経済戦略」では、「環境と経済の共鳴」が唱えられ、

コウノトリを活用したツーリズム産業の創出等を推進しており、H21(2009)年の研究では、コウノトリの郷公園への来園者による経済波及効果として約10億円の効果があるとされた。

126

Page 127: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

127

Page 128: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

2) 代表指標以外の複数指標からみる施策の広がりの分析

複数の指標からみる取り組みの広がり

600

500

400

300

200

100

0

千人コウノトリの郷公園への来園者数

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

90

25

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

コウノトリの郷公園研究部員が

行った年間講演数

’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

80706050403020100

20

15

10

5

0

1400人

コウノトリファンクラブ会員数

1200

1000

800

600

400

200

0

豊岡市における農業体験実施

小学校数(校)

コウノトリ放鳥

リーマン・ショック

開園前302 306297

365417455488

242125164155131120

35

コウノトリ放鳥

取り組み開始前

20 2220141313

取り組み開始前743

23

699

24

713

22

816

26

916

30

1,044

36

1,211

43

1,104

35

874

5779

624941323930232215

23246

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

一般会員 賛助会員

44

出典:コウノトリの郷公園提供資料

出典:コウノトリの郷公園提供資料

出典:豊岡市環境報告書

出典:兵庫県但馬県民局提供資料

128

Page 129: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

・コウノトリの郷公園への来園者数は、試験放鳥を開始した翌年のH18(2006)年に急増し年間約50万人近くに達した。

・リーマン・ショック(H20(2008)年)以降、やや減少しているが、年間30万人程度で推移している。

・コウノトリの郷公園が公開フォーラム、公開講座等による普及・啓発活動を実施しており、年間講演回数は徐々に増加し、H24(2012)年は、年間79回に及んでいる。

・コウノトリ放鳥以降、農業体験を実施する小学校が増加している。

・学校での活動を企業や行政が支援、活動を発表する場等もあり、農業体験に取り組む学校が広がっている。

・H16(2004)年には県が「コウノトリファンクラブ」を発足させ、全国から会員を募り、自然環境の保全・再生への支援を行っている。

・コウノトリ放鳥後「コウノトリファンクラブ」の会員数は除々に増加し、ピーク時のH18(2006)年には、1,211名の会員数になり、その後700人程度まで減少したが、その後は横ばいとなり、ファンの定着が見られる。

129

Page 130: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

複数の指標からみる取り組みの広がり

出典:豊岡市提供資料

45

環境経済認定 事業者(数) 40

35302520151050

35

’11

41

’12

7豊岡市観光客入込み数(百万人)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

6543210

1600

製造品出荷額(億円)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

1400120010008006004002000

市町村合併 リーマン・ショック

コウノトリ放鳥

1.1 1.11.11.1

3.2 3.13.23.6

1.2

3.8

1.31.31.31.3

4.04.14.03.8

1.41.41.4

4.14.1

1.51.5

4.1

1.5

4.44.14.1

1.5

4.2

1.7

4.4

1.7

4.6

日帰り客 宿泊客数

1,337

1,391

1,385

1,294

1,246

1,102

1,139

1,048

1,046

1,075

1,020

1,078

1,113

1,210

1,033

1,074

1,056

1,176

出典:豊岡市提供資料

出典:兵庫県工業統計調査結果

野外コウノトリの個体数

出典:コウノトリの郷公園提供資料

70(個体)

605040302010

0’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05

713

1827

3541

4758

’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

コウノトリ放鳥

※ 野生個体(通称「ハチゴロウ」「エヒメ」)は含まず

130

Page 131: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

・H11(1999)年にコウノトリの郷公園が開園し、翌年には、豊岡市立コウノトリ文化館や、コウノトリ育む農法で栽培された新鮮な農産物の直売所も併設される。

・H15(2003)年に但馬地域がグリーンツーリズム特区に、H22(2010)年に山陰海岸ジオパークに認定されるなどしており、多くの観光客が訪れている。

・豊岡市の製品出荷額を見ると、H20(2008)年に伸びているが、ほぼ横ばいで推移している。

・環境と経済の共鳴をめざすため、豊岡市は環境経済事業を行う事業者の認定を行っている。その認定企業は、H24(2012)年で41件が認定され、増加している。

環境経済認定事業 企業が取り扱う製品

〔施策の広がりに関する考察〕・コウノトリの繁殖に成功し、野生復帰を意識し

た時から自分たちの生活している環境を見回すと、かつての豊岡の環境と異なっていることに気づく。全国的にもH7(1995)年に生物多様性国家戦略が策定されるなど、世の中の潮流と相まって自然環境への意識は高まっていった。

・H11(1999)年、コウノトリの郷公園が開園し、豊岡市内外への情報発信、環境教育、環境経済事業が動き出した。

・その結果、新聞には年間400件を超えるコウノトリに関する記事が掲載され、コウノトリの郷公園への来園者等は徐々に増えていった。

・その後、コウノトリの放鳥が全国的なニュースとなって大きな関心を呼び、コウノトリの郷公園への来園者数、コウノトリファンクラブ会員数は増加していった。

・コウノトリ放鳥の翌年をピークに、コウノトリの郷公園への来園者数、コウノトリファンクラブ会員数、豊岡市への市外からの入り込みは減少しているが、環境教育(学校教育での実施、田んぼの学校等)への取り組みは、様々な主体(学校、企業等)の参画や活動を発表する場ができるなどにより、増加している。また、コウノトリの郷公園も H24(2012)年は年間 79 回に及ぶ講演会等を実施し、研究成果を地域社会に発信している。ただ開催回数は増えているが、参加しているメンバーはあまり広がっていない。

・環境経済事業に認定される企業は増加している。地域温暖化防止、廃棄物の削減、森林環境の保全等に取り組んでいる企業が認定されている。

・豊岡市は、H25(2013)年1月からは、豊岡市環境経済インキュベーションパートナーシップ

(事業立ち上がり期の共同支援組織)を設立し、市内の金融機関、商工団体、市等が連携し、環境経済事業を支援している。

131

Page 132: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

観光列車ポスター

【参考】昔から観光業が盛んな豊岡地域

○全国に知名度のある観光地の存在・全国的に有名な城崎温泉をはじめ、西日本屈指の神鍋スキー場、

但馬の小京都・出石城下町などがあり、多くの観光客が豊岡地域を訪れている。

○日本最初のエコツアー「鶴巣籠り見物観光列車」・コウノトリの営巣を見物する「鶴見茶屋」が開かれ、多くの人が

訪れた。また、日本最初のエコツアーかと思わせる「鶴巣籠り見物列車」なる観光列車が運行されていた。豊岡地域の人々は、昔からコウノトリと観光を結びつけていた。

【参考】内閣府「国民生活に関する世論調査」心の豊かさ

70

60

50

40

30

20

10

0昭和47年1月調査

40.0

  48年1月調査

40.3

  49年1月調査

41.6

  49年11月調査

41.3

  50年5月調査

40.9

  50年11月調査

41.3

  51年5月調査

41.3

  51年11月調査

41.4

  52年5月調査

41.1

  53年5月調査

40.4

  54年5月調査

40.9

  55年5月調査

42.2

  56年5月調査

44.3

  57年5月調査

44.8

  58年5月調査

46.4

  59年5月調査

46.5

  60年5月調査

49.6

  61年5月調査

49.1

  62年5月調査

49.6

心の豊かさ

物の豊かさ

  63年5月調査

50.3

平成元年5月調査

49.3

  2年5月調査

53.0

  3年5月調査

52.0

  4年5月調査

57.2

  5年5月調査

57.4

  6年5月調査

57.2

  7年5月調査

56.8

  8年7月調査

58.8

  9年5月調査

56.3

  11年12月調査

57.0

  14年6月調査

60.7

  15年6月調査

60.0

  16年6月調査

59.0

  17年6月調査

57.8

  18年10月調査

62.9

  19年7月調査

62.6

  20年6月調査

62.6

  21年6月調査

60.5

  22年6月調査

60.0

  23年10月調査

61.4

  今回調査

64.0

37.335.3 36.7 36.1

38.836.8

40.7 39.9 40.1 39.5 40.3 39.8 38.8 37.6 36.8 36.8

32.9 32.7 34.032.0 32.7

30.8 30.527.3

29.0 30.028.1 27.9

30.1 29.327.4

28.7 29.1 28.430.4

28.630.2 30.2 31.1 31.0 30.1

S55 年頃から心の豊かさを求める傾向にある

(注)心の豊かさ→「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」   物の豊かさ→「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」

132

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133

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3) 具体事例(田結地区での自然再生)からみる主体のつながりの分析

具体事例:「田結地区での自然再生」にみる主体のつながり・近くの戸島湿地で繁殖しているコウノトリが餌場として、田結地区の放棄された水田に舞い降りたことで、

住民はコウノトリも住める環境づくりに価値を感じるようになり、耕作放棄地になっていた土地が活かせることを認識した。

・そのことを契機に地域とNPO、行政が協働して、田結地区において生物多様性を保全する活動が始まった。その活動は、県外の大学との連携に広がり、海外からの視察につながるなど情報発信も行われてきた。

・全国で行われている伝統芸能や特産品による活性化とは異なり、地域の自然を保全することで生まれた活性化活動を市民は進めており、田結地区は、この土地に住んでいけることに豊かさを感じ、豊かさを深めていく選択を市民がしたと言える。

コウノトリの野生絶滅

過疎化、高齢化の進行

耕作放棄地の増加

耕作放棄による村の共同作業減少

環境保全活動・環境教育推進法制定

ラムサール条約湿地登録

豊岡市環境経済戦略策定

コウノトリが飛来し、耕作放棄地が生き物の楽園であると気づく

日役を通し、自分たちの地 域を自分たちで守る意識

(地域の団結)

放棄水田をコウノトリの餌場として湿地づくり

日役にコウノトリの餌場という意義が加わり、活動が展開

(やりがい)

田結湿地づくり(地域住民による自然再生)

グリーンツーリズム展開(田結地区「案ガールズ」によるガイド、MAP作成等)

田結湿地づくり(地域住民による自然再生)

他地域へ活動波及

地域共有の財産を守りたい

今の活動を次の世代にもつなげていきたい

地域に住み続ける幸せ・豊かさを感じ、深めたい

生存・生活原理に係る社会の心

美しい地域維持のために、活動を続けたい

コウノトリがいた頃の暮らしを取り戻したい

(世代間で想いは異なる)

コウノトリにこの土地をもっと利用して貰いたい

コウノトリを通じて、土地を守りたい

田結の結束力が失われるのではないかと危機感

地域の活動が評価されている

地域外の人たちとの交流や連携も深めたい

自分たちの地域を自分たちの力で守り継ぎたい

コウノトリ野生復帰推進計画策定

コウノトリ野生復帰推進計画策定

地域との協働作業(日役)

勉強会、情報発信、人材育成、河川・砂防事業実施

地域との協働作業(日役)

勉強会、情報発信、人材育成(環境教育)

地域との協働作業(日役)

地域の調整・仲介窓口(企業等)、子供向け環境学習フィールドとして活用 研究

フィールド

観光、視察

CSR協定 視察等

気付きのプロセス

将来像の共有プロセス

行動への移行プロセス

共感の連鎖プロセス

市民

NPO

NPO

市民

市民

NPO

市民

県外大学

海外研究者企業

地域外

自然再生推進法

コウノトリ放鳥

休耕田にコウノトリが飛来

地域の調整・仲介窓口、マンパワー提供

凡例

生存・生活原理への影響

134

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関係者インタビュー結果からみる分析結果の確認・「ハチゴロウ」が来たことで、自分たちの仕事も理解してもらいやすくなった。実物のコウノトリを見るこ

とで身近に感じ、次に何をしていったらいいかがわかりやすくなった(宮垣氏)・自分たちが住んでいる地域づくりを考える中で、地域の自然を守ろうと考えるようなった(上田氏)・自然の中で遊んだ体験が、将来自然を守る行動につながる(上田氏)・プロジェクトE(P.98 参照)の活動は、子どもたちも常に主体性と誇りを持って創造的に取り組み、周りの

大人がそれを尊重し、しっかりと支えていたのが成功の秘訣といえる(山本氏)

【主体のつながりの要点】

●コウノトリの飛来で気付いた地域の価値・「瑞鳥」コウノトリが、自分たちの地域に飛来したことで、自分たちの地域には何かあるのではないか、

飛来し餌をついばむ田んぼに何があるのかと、コウノトリを見ることで、地域の財産(価値)に気付き、その財産を守ろうという将来像の共有・共感、主体間へのつながりに進展していった。

● NPO、大学、企業など多様な主体の地域活動への関わり・放棄された田んぼに、コウノトリも住める環境づくりを進めることで新たな利用価値が生まれ、地域行

事に NPO、行政、大学等、多様な主体が関わり、つながりが形成された。様々な主体が関わることで、地域住民の生きがいへと繋がっている。

●行政が仲介・調整役となり、多様な主体を結びつける・コウノトリ野生復帰事業を推進する上で大きな推進力となった「コウノトリ野生復帰推進連絡協議会」の

設置や、地域活動を支援する大学や企業などの主体と地域の仲介や調整を、行政が中心となって実施した。

●コウノトリ野生復帰のストーリーをPRし、多様な主体の共感と、その共感の連鎖を得る・コウノトリ野生復帰に向け積み重ねてきた歴史は、国内外に誇れる豊岡地域の財産であり、その野生復

帰のストーリーを豊岡市長の講演会等により積極的にPRし、多くの人達の共感を得てきた。共感を得た人達が、豊岡地域における取り組みに貢献したいと行動し、様々な主体の行動が、他主体への共感、連鎖へと繋がっている。

135

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■交通ネットワーク等における活用例

■ 建設業界における活用例

○ 地域社会分野に関わる広がり活用事例

機体のラッピング、空港名 ( コウノトリ但馬空港 )

公用車 ( エコカー ) のラッピング特急コウノトリ H23(2011)年 3 月~

大阪 - 城崎間の高速バスのラッピング 市内循環バスのラッピング

事業地内に路面イラスト

工事用仮設ガードレール

重機車体にイラスト

コンクリート工場にイラスト

企業パンフへの写真掲載

工事説明看板

136

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■民間店舗等における活用例

コウノトリ支援自動販売機

FM 放送局のサイン

商店街でのサイン

銀行店舗のサイン

民間店舗でのイラスト・ディスプレイ

店舗のサイン

店舗のサイン

商店街のサイン

シャッターのイラスト

会社のサイン 神社の絵馬

店舗のサイン 商品の表示

137

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3.4.取り組みの分析のまとめ(1) 施策の広がり・主体のつながりの要点の整理以上の各分野の分析から浮かび上がった施策の広がりの要点と、各主体のつながりの要点を以下に示した。

【施策の広がりの要点】 河川①:河川法の改正など全国的な潮流を背景に進展 河川②:災害をも機会とした 河川③:各主体との目的の共有(分かりやすいシンボルと理念、共通の目指す姿の存在) 河川④:治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備技術の確立 河川⑤:取り組み・検討の連携の体制設計(多様な主体の参画による計画策定)

【主体のつながりの要点】 河川⑥:湿地整備技術の有効性の共通認識、多様な主体の参画による検討の有効性の認識 河川⑦:湿地への「ハチゴロウ」の飛来 河川⑧:関係主体間での将来像の共有

河川分野

【施策の広がりの要点】 農業①:コウノトリ野生復帰と社会的な潮流である食の安全安心の確保との方向性の一致 農業②:行政によるコウノトリ育む農法の体系化と技術指導・普及啓発 農業③:コウノトリの水田への飛来による農家の主体的な関わり意識の萌芽 農業④:行政と地域住民が一体となってコウノトリ育む農法の説明会を継続することによる信頼関係の確立 農業⑤:水田の生物多様性保全に対する補助制度の創設(コウノトリと共生する水田自然再生事業) 農業⑥:農産物のブランド化による環境保全と経済活動の相乗効果の発揮

【主体のつながりの要点】 農業⑦:科学的な分析に基づくコウノトリの絶滅と農業の関係の気付き 農業⑧:コウノトリの生息環境の保全再生と郷土景観の保全の将来目標に対する共感の連鎖 農業⑨:集落の結びつきなどの地域特性を背景とした一定のまとまりでの取り組みの推進 農業⑩:生産、販売、消費に関わる農家、行政、企業、市民などの多様な主体の関わり

農業分野

【施策の広がりの要点】 地域社会①:コウノトリ野生復帰に向けた地域社会の理解を得るための啓発 地域社会②:地域に密着した県立大学併設の研究機関「コウノトリの郷公園」の存在と普及啓発 地域社会③:コウノトリ野生復帰推進連絡協議会での多様な主体の合意形成 地域社会④:コウノトリも住める地域づくりを担う次世代リーダーの育成 地域社会⑤:営み(経済)と環境づくりのつながり

【主体のつながりの要点】 地域社会⑥:コウノトリの飛来で気付いた地域の価値 地域社会⑦:NPO、大学、企業など多様な主体の地域活動への関わり 地域社会⑧:行政が仲介・調整役となり、多様な主体を結びつける 地域社会⑨:コウノトリ野生復帰のストーリーを PR し、多様な主体の共感と、その共感の連鎖を得る

地域社会分野

138

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 コウノトリ野生復帰に係る各分野の施策の広がりの要点と、各主体のつながりの要点を踏まえて、「ひょうご豊岡モデル」の公共政策に反映すべき5つのポイントを以下に抽出した。

(2)「ひょうご豊岡モデル」における公共政策のポイントの抽出

河川①:河川法の改正など全国的な潮流を背景に進展農業①:コウノトリ野生復帰と社会的な潮流である食

の安全安心の確保との方向性の一致農業⑧:コウノトリの生息環境の保全再生と郷土景観

の保全の将来目標に対する共感の連鎖

①社会的な潮流を受け止めて、積極的に 活用・展開・高度経済成長下における環境悪化の進行による

国民の不安に対し、様々な法制が確立された。・その世の中の変化と自分たちが住む環境変化、

国政の動きを豊岡地域の人々は、いち早く感じ、かつて身近に存在していたコウノトリをシンボルとした取り組みを展開した。

河川⑤:取り組み・検討の連携の体制設計(多様な主体の参画による計画策定)

河川⑥:湿地整備技術の有効性の共通認識、多様な主体の参画による検討の有効性の認識

農業②:行政によるコウノトリ育む農法の体系化と技術指導・普及啓発

農業⑩:生産、販売、消費に関わる農家、行政、企業、市民などの多様な主体の関わり

地域社会②:地域に密着した県立大学併設の研究機関「コウノトリの郷公園」の存在と普及啓発

地域社会⑦:NPO、大学、企業など多様な主体の地域活動への関わり

地域社会⑧:行政が仲介・調整役となり、多様な主体を結びつける

②科学・行政・地域社会の連携の体制設計・「コウノトリも住める地域づくり」を推進してい

くためには、様々な主体の関わりが必要だった。

・主体の関わりが取り組みの推進力となるよう連携の体制設計(デザイン)が行われた。

③プロセスの設計(※具体事例から抽出したプロセスを次項に示す)・人はどのように気付き、行動に転換し、共感

を得るのかの視点から、戦略的に持続可能な取り組みを構築し、展開した。

河川①~⑧:「治水と環境保全が両立する湿地整備とエコロジカルネットワーク形成」にみる主体のつながりの分析結果

農業①~⑩:「コウノトリ育む農法」にみる主体のつながりの分析結果

地域社会①~⑨:「田結地区での自然再生」にみる主体のつながりの分析結果

④偶発的な自然現象をも推進要因に転換・活用・「ハチゴロウ」飛来、台風 23 号等、偶発的な

自然現象を、より良い地域づくりの転機やプラスの感情(喜び、驚き等)の共感につなげ、目標の実現に向けた動きに結びつけた。

河川②:災害をも機会とした河川⑦:湿地への「ハチゴロウ」の飛来農業③:コウノトリの水田への飛来による農家の主体的

な関わり意識の萌芽地域社会⑥:コウノトリの飛来で気付いた地域の価値

河川②:災害をも機会とした農業⑨:集落の結びつきなどの地域特性を背景とした

一定のまとまりでの取り組みの推進地域社会⑥:コウノトリの飛来で気付いた地域の価値

⑤地域の伝統的コミュニティの理解・ 時に自然の猛威を感じながらもその恵みを活

かした生業を営んできた集落等の伝統的コミュニティの精神性やつながりを理解して、矛盾が生じないよう配慮しながら取り組みが進められた。

各分野の施策の広がり・主体のつながりの要点 「ひょうご豊岡モデル」に反映すべきポイント

139

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 前項で「ひょうご豊岡モデル」に反映すべき5つのポイントの内の1つとして抽出した「③プロセスの設計」について、各分野の施策の広がりの要点・主体のつながりの要点から共感の連鎖が広がる各段階を4つのプロセスに分類した。

(3) 共感の連鎖が広がるプロセスの整理

各分野の施策の広がり・主体のつながりの要点

河川①:河川法の改正など全国的な潮流を背景に進展

農業①:コウノトリ野生復帰と社会的な潮流である食の安全安心の確保との方向性の一致

農業⑦:科学的な分析に基づくコウノトリの野生絶滅と農業の関係の気付き

地域社会②:地域に密着した県立大学併設の研究機関コウノトリの郷公園の存在と普及啓発

河川③:各主体との目的の共有(分かりやすいシンボルと理念、共通の目指す姿の存在)

河川⑥:湿地整備技術の有効性の共通認識、多様な主体の参画による検討の有効性の認識

河川⑦:湿地への「ハチゴロウ」の飛来河川⑧:関係主体間での将来像の共有

農業③:コウノトリの水田への飛来による農家の主体的な関わり意識の萌芽

農業⑧:コウノトリの生息環境の保全再生と郷土景観の保全の将来目標に対する共感の連鎖

地域社会①:コウノトリ野生復帰に向けた地域社会の理解を得るための啓発

地域社会③:コウノトリ野生復帰推進連絡協議会での多様な主体の合意形成

河川②:災害をも機会とした河川④:治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備技

術の確立河川⑤:取り組み・検討の連携の体制設計(多様な主体の参

画による計画策定)

農業②:行政によるコウノトリ育む農法の体系化と技術指導・普及啓発

農業④:行政と地域住民が一体となってコウノトリ育む農法の説明会を継続することによる信頼関係の確立

農業⑤:水田の生物多様性保全に対する補助制度の創設(コウノトリと共生する水田自然再生事業)

農業⑨:集落の結びつきなどの地域特性を背景とした一定のまとまりでの取り組みの推進

地域社会④:コウノトリも住める地域づくりを担う次世代リーダーの育成

地域社会⑦:NPO、大学、企業など多様な主体の地域活動への関わり

地域社会⑧:行政が仲介・調整役となり、多様な主体を結びつける

農業⑥:農産物のブランド化による環境保全と経済活動の相乗効果の発揮

農業⑩:生産、販売、消費に関わる農家、行政、企業、市民などの多様な主体の関わり

地域社会⑤:営み(経済)と環境づくりのつながり地域社会⑥:コウノトリの飛来で気付いた地域の価値地域社会⑨:コウノトリ野生復帰のストーリーを PR し、多様

な主体の共感と、その共感の連鎖を得る

プロセス 広がり・つながりの要点のまとめ

気付き

・社会的な潮流の地域課題への変換・地域に密着した県立大学併設の研

究機関による科学の理論と解析に基づく地域の環境変化への危機意識

・コウノトリ野生復帰の取り組みから見出された地域の価値

将来像の共有

・地域の生物多様性の豊かさを象徴する種(コウノトリ)をシンボルとした目標設定による多様な主体間の将来像の共有

行動への移行

・生物多様性保全の技術開発・探求(湿地整備、コウノトリ育む農法)・地域に密着した普及啓発、技術指

導の実施・多様な主体(市民、農家、研究機関、

行政、企業等)の連携体制の構築・地域づくりを担う次世代リーダー

の育成

共感の連鎖

・地域のブランド化による生物多様性保全と地域づくりの相乗効果の発揮

・生物多様性保全(コウノトリ野生復帰)のストーリーのPR

140

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141

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販売店舗数

200180160140120100806040200

124

地域別コウノトリ育むお米店舗数

量販店 その他店舗 合計米穀店

県内

73

関西(県外)

50

東北

15

関東

175

中部

1

中国四国

3

九州

59

沖縄

 コウノトリ野生復帰の取り組みの外部への広がりの状況について、分野ごとに指標となる項目を選定し、

分析を行った。

・豊岡地域ではH15(2003)年にコウノトリ野生復帰推進連絡協議会※が設置されたが、全国にもこのよう

な生態系ネットワーク形成を目的とした多様な主体を含む協議会等の設置例が拡大している。

・ コウノトリ育むお米の販売店舗は量販店を中心に県外にも広がっている。

・ 特に関東では、大消費地をターゲットに官民連携により売り込みを続けてきた結果、店舗数が多い量販

店での販売に繋がり、取り扱い店舗数が合計 175 店舗に上っている。

・ 沖縄では積極的に販売している量販店がある。

・ 一方、東北・九州では取り扱い店舗がわずかであるため、今後の PR 等の販売促進が課題である。

3.5.【参考】外部への広がりの分析

(1) 河川分野における外部への広がりの分析

(2) 農業分野における外部への広がりの分析

生態系ネットワーク形成を目的とした地元自治体等の多様な主体を含む協議会等の設置例は全国に広がっている。

東北;「北上川サケ 200kmの旅・応援隊」準備会(H26(2014)年 3 月開催)関東;関東エコロジカル・ネットワーク推進協議会(H26(2014)年 2 月設立)中部;木曽三川流域生態系ネットワーク推進協議会準備会(H25(2013)年度)近畿;(円山川)コウノトリ野生復帰推進連絡協議会(H15(2003)年設立)   (九頭竜川)流域環境保全に関する協議会(H23(2011)年 9 月設立)中国;(斐伊川)生態系ネットワークによる大型水鳥類と共に生きる地域づくり懇談会(H26(2014)年3月開催)四国;四万十つるの里づくりの会(H18(2006)年 3 月設立)

その他、北海道、北陸、九州地方でも設置に向けた動きがある。

このほか、自然再生推進法の成立(H14(2002)年)を受け、同法に基づく協議会等が多数設立されている。

※コウノトリ野生復帰推進連絡協議会は、生態系ネットワーク形成を目的に設立されたものではないが、取り組み内容に生態系ネットワーク形成が含まれていることから、ここに示した。

出典:豊岡市提供資料

参 考

142

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・ 豊岡市立コウノトリ文化館の開館以降、基金、ふるさと納税が始まり、徐々に件数が増えてきている。

豊岡市長の市外での講演回数は、コウノトリ放鳥以降、年間20回程度、全国で実施し、豊岡市の取り組

みを伝えている。これらの地域外への発信が、県外からの基金、ふるさと納税の割合の増加などの要因

とも言える。

・ コウノトリというシンボルを掲げた地域づくりを伝えることで、人は「共感」し、豊岡へ貢献したいと

いう行動に結びついている。

(3) 地域社会分野における外部への広がりの分析

160140120100806040200コ

ウノトリ基金への寄付・

ふるさと納税件数(件)

30

25

20

15

10

5

0

市長講演回数(回)

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10

125

’11 ’12 年

109

コウノトリ放鳥

コウノトリ基金開始

ふるさと納税開始119

131125

80

5664

29

基金(県内(但馬地域除く))

’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10

27

’11 ’12 年

20

データなし

17232220

25

4969

3519

10

基金(県外) 基金(匿名など) 納税(但馬地域)納税(県内(但馬地域除く)) 納税(県外) 基金+納税(合計)

出典:豊岡市提供資料

出典:豊岡市提供資料

参 考

143

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各分野での豊岡地域における取り組みと他地域との比較を行うことで、豊岡地域における取り組みポイン

トを浮かび上がらせる。

・我が国において、過去の開発等により失われた良好な自然環境である湿地、干潟の中で、回復可能な

面積約7,000haのうち、自然再生事業等の実施により復元・再生した面積(割合)は、平成23年度末時

点で、約1,800ha(25.7%)となっている。(出典:第2次社会資本整備重点計画)

・円山川における湿地整備は、昭和初期(S7年)(戦後S25年と同値)の154haを目標に進められている。

円山川において過去に開発等で失われた湿地面積は、72.1ha(=昭和初期・戦後の面積154ha−再生

前H16年出水後面積81.9ha)であり、H24年時点における湿地面積は127haとなっており、再生面積は

56.3haで、失われた湿地面積72.1haに対して約78%の湿地面積が再生されている。

3.6.【参考】豊岡地域における取り組みと他地域との比較

(1) 河川分野における取り組みと他地域との比較

0% 20% 40% 60% 80% 100%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

回復可能な面積のうち未再生 , 5200全

国 復元・再生した面積 , 1800, 25.7%

再生面積 ,56.3

円山

再生面積 , 56.3 , 78.1%

図中の数字は面積 [ha] を表す。

円山川で過去に開発等で失われ

た湿地のうち未再生 , 15.8

参 考

144

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・全国で作付けされている生き物マーク米のうち、「コウノトリ育む農法」は佐渡市の「朱鷺と暮らす郷

づくり認証米」「雁音米」に次いで 3 番目の作付面積がある。

・2 市町村以上にまたがり作付けされている銘柄は、「コウノトリ育む農法」の他には「雁音米」、「魚ゆり

かご水田米」のみであり、生産者と行政、JA 等の組織的な連携により、取り組みを拡大している点が「コ

ウノトリ育む農法」の特徴となっている。

・生き物マーク米の認証条件に無農薬栽培を設けている銘柄のうち、無農薬栽培の作付面積は「コウノト

リ育む農法」が最大となっており、他地域に先行するかたちになっている。

・また、減農薬の場合でも他地域では慣行農法の 5 割減を要件としているものが大半を占めるが、「コウ

ノトリ育む農法」では 7.5 割減を要件としており、他地域と比較してより積極的な条件設定となっている。

(2) 農業分野における取り組みと他地域との比較

※「ふゆみずたんぼ米」の作付面積は、伸萌地区(ラムサール条約湿地の一部)における取り組み面積を示す出典:各銘柄の取り組み主体または関連自治体へのヒアリング

※「ふゆみずたんぼ米」の作付面積は、伸萌地区(ラムサール条約湿地の一部)における取り組み面積を示す。出典:各銘柄の取り組み主体または関連自治体へのヒアリング

銘柄 対象市町村

コウノトリ育む農法

メダカ米

ふゆみずたんぼ米

雁音米(かりおんまい)

トキひかり

朱鷺と暮らす郷づくり認証米コウノトリ呼び戻す農法米

さぎ草米

フクロウ米

魚のゆりかご水田米

つるの里米

272.7

110.0

-

375.0

-

1,351.0

-

12.3

64.0

57.0

15.1

65.6

-

55.4

50.0

8.6

16.1

11.2

-

-

-

1.4

338.3

110.0

55.4

425.0

8.6

1,367.1

11.2

12.3

64.0

57.0

16.6

5,297

4,220

10,900

14,320

5,940

5,940

2,540

2,540

6,780

25,368

1,380

6.39%

2.61%

0.51%

2.97%

0.14%

23.02%

0.44%

0.48%

0.94%

0.22%

1.20%

生き物マーク米作付面積(ha)

減農薬 無農薬 合計 ①

対象市町水稲作付

面積(ha)②①/②(%)

生き物マーク米の作付面積(H24(2012)年)

但馬地域(豊岡市、養父市、朝来市、新温泉町)

山形県庄内町

宮城県大崎市

宮城県大崎市、加美町

新潟県佐渡市新穂等

新潟県佐渡市

福井県越前市

福井県越前市

栃木県宇都宮市

滋賀県:大津市,草津市,守山市,野洲市,近江八幡市,東近江市,彦根市,米原市,長浜市,高島市

山口県周南市

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

生きものマーク米作付面積(ha)

コウノトリ育む農法

メダカ米

ふゆみずたんぼ米

雁音米(かりおんまい)

トキひかり

朱鷺と暮らす郷づくり認証米

コウノトリ呼び戻す農法米

さぎ草米

フクロウ米

魚のゆりかご水田米

つるの里米’00 ’01 ’02 ’03 ’04 ’05 ’06 ’07 ’08 ’09 ’10 ’11 ’12 年

参 考

145

Page 146: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

・ 兵庫県では、兵庫県民の主観的な「豊かさ感」を調査し、地域社会の様々な課題や生活への実感等を、

幅広く把握する目的で、「兵庫の豊かさ指標」県民意識調査を実施している。

・ この調査は、兵庫県全域の県内に居住する満 20 歳以上の男女個人 5,000 人を対象に調査したものである。

・ 「兵庫の豊かさ指標」から、「環境」「産業」「地域への愛着」に関する項目を抽出し、但馬地域と兵庫県

との比較を行った。全般的に但馬地域は、兵庫県平均を上回っている。

・ 特に「地域活動の参加」「生き物とふれあう機会」「環境を守る活動参加」「観光客の増加を感じる」等

で県内の割合を上回っており、豊岡を中心に実施されてきた田んぼの学校などの学習やツーリズムによ

る効果を住民は実感していると考える。

(3)地域社会分野における取り組みと他地域との比較

100%

80%

60%

40%

20%

0%

但馬地域兵庫県

割合

住んでいる地域では、心の豊かさを育む教育が行われていると思う人の割合

36.4%24.4%

住んでいる地 域 に、観 光などの訪問客が増えていると思う人の割合

31.7%13.9%

住んでいる地域の農林水産業に、活 気が感じられると思う人の割合

11.1%9.3%

住んでいる地 域の自然環境は守られていると思う人の割合

61.8%53.9%

住んでいる地域では、自然の生き物(動物・植物)とふれあう機会があると思う人の割合

61.0%44.6%

山林や川、海などの自然環境を守るための取り組みに参加している人の割合

26.1%10.4%

地元や県内でとれた農林水産物は安心だと思う人の割合

87.2%82.4%

住んでいる地域のことに関心がある人の割合

73.5%62.3%

住んでいる地域をより良 くし たり、盛り上げたりする活動に参加している人の割合

45.3%22.1%

住んでいる地域には、自慢したい地域の「宝」(風景や産物、文化など)があると思う人の割合

61.3%47.5%

住んでいる地域に誇りや愛着を感じる人の割合

64.3%62.4%

住んでいる地域では、県内外にある他の地 域との交流が進んでいると思う人の割合

18.8%11.3%

住んでいる地 域にこれからも住み続けたい人の割合

73.8%76.0%

出典:兵庫県 HP

H25年度 兵庫の豊かさ指標 (兵庫県と但馬地域の比較)

参 考

146

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第4章 取り組みの進捗の評価

147

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第 4章 取り組みの進捗の評価

 4章では、コウノトリ野生復帰に係る取り組みについて現時点での評価を行うとともに、これまでの取り組

みの進捗を愛知目標に照らして評価し、今後(10年程度)の方向性を整理する。

 愛知目標は、国家的な目標や様々な領域に対する目標を含んでいるため、野生復帰の取り組みと対照

できうる個別目標に絞り込む。続いて、個別目標の推進に合致する公共施策を列記した上で、施策の進

捗状況及び今後の方向性をとりまとめる。

4.1.各分野の取り組みの進捗の評価(現時点における課題と今後の方向性)

4.2.愛知目標に照らした取り組み進捗の評価

・「 2 章 取り組み実績の整理」、「 3章 取り組みの分析」を踏まえて、各分野の現時点における課題と方向性を整理する。

(1) 進捗評価に用いる愛知目標の選定・愛知目標(20の個別目標)のうち、コウノトリ野生復帰の取り組みと対照できうる個別目標を選定する。

(2) 愛知目標に対応する取り組み進捗の評価・愛知目標に照らしあわせて、ひょうご豊岡のコウノトリ野生復帰に係る取り組み全体の進捗を評価し、今後(10年程度)の方向性を整理する。

・コウノトリに係る科学分野および3つの行政分野(河川分野、農業分野、地域社会分野)の取り組み実績と自己点検

第4章 取り組みの進捗の評価

第2章 取り組み実績の整理

対照

愛知目標(CBD-COP10)

20の短期目標

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4.1. 各分野の取り組みの進捗の評価(現時点における課題と今後の方向性) 「2 章 取り組み実績の整理」、「3 章 取り組みの分析」を踏まえて、各分野の現時点における課題と方向

性を整理する。

代表的な指標にみる取り組みの進捗の評価

現時点において残された又は顕在化した課題(P82)

今後の方向性(P83)

(1)河川分野河川分野

・目標湿地再生面積 72.1ha(残存湿地面積と合わせて154ha を目標)に対して、55.2ha(残 存湿地と合わせて127ha)整備(平成 24

(2012)年度末時点)

A1 湿地整備工、仮設等も含めた自然環境への影響の低減

A2 環境に対する社会の評価価値の適切な反映

A3 持続的な管理を実現する湿 地の 価 値の 確 保・向上

①「災害復旧事業の円滑な推進」と「自然環境の保全」の一時的なトレードオフの発生に関する課題

・湿地創出で治水と環境保全の両立を図っているが、例えば限られた期間の中で災害復旧事業を推進しようとすれば、河川周辺を工事の土砂仮置き場にせざるを得ず、一時的に湿地環境を減少させるなど、自然環境に少なからず影響を与えるトレードオフが生じることがある。

②環境に対する社会の評価価値認識の適切な把握に関する課題

・環境と社会資本財の選択バランスについては、時代によって移り変わってきており、時代・社会の評価価値を適切に反映した手法を選択する必要がある。

③持続可能な管理方法の確立に関する課題・創出した湿地環境は、人為的な維持管理が必

要となるため、地域と連携した持続可能な管理方法の確立が必要になる。

149

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代表的な指標にみる取り組みの進捗の評価

(2)農業分野農業分野

・豊岡型環境創造型農業※作付 面 積 割 合目標 51%( 平成 34(2022)年 度 ) に対して、33.5%( 平 成 25

(2013)年度時点)

※化学農薬、化学肥料とも、慣行栽培と比べ 5 割減

B1 収穫量の安定に向けた取り組み継続

B2 冬期湛水・早期湛水を可能にする用水確保の推進

B3−1 法人・営農組織を中心とする集落・水系単位の取り組み支援

B3−2 集落営農による効率化に向けた施設整備等の支援

B4 農家が生籾で出荷できるよう拠点施設を確保

B5 次代を担う人材発掘とリーダー育成

B6 県内外への PR 活動によるコウノトリ育むお米のブランド力向上

B7−1 良好な農地の保全B7−2 高付加価値農業の拡

大による地域農業の活性化

▼コウノトリ育む農法の拡大に関する課題①農法の課題・手間が掛かるという既存イメージが、新規参入

及び無農薬農法の拡大の妨げになっている。

②用水確保の課題・水利権(許可水利)の関係から、冬期又は田

植え前の早期に取水できない地域も多い。

③隣接田への影響の課題・冬期・早期湛水が近隣圃場に迷惑をかけるこ

ともあり、個人の意志では取り組めない農家が多い。

・コウノトリの生息環境のネットワーク化及び生産効率性から、集落・水系単位の取り組み推進が必要である。

④集荷体制の課題・JAたじまにはコウノトリ育むお米に対応でき

る乾燥調整施設(カントリーエレベーター)がないため、乾燥調整施設のない小規模農家は取り組めない。

⑤次世代育成の課題・継続的にコウノトリ育む農法を推進するために

は、水稲を中心とした若い農業者の育成及びコウノトリ育む農法の推進リーダーの育成が必要である。

⑤他主体との連携の課題・農家の安定した収益確保のため、コウノトリ育

むお米のさらなるブランド力強化が必要である。・コウノトリ野生復帰計画に連動して関係機関が

コウノトリ育む農法を拡大するための体制づくりが必要である。

・消費者(都市市民)への理解を広げ、サポーターを増やす体制が必要である。コウノトリ育む農法を拡大するための体制が必要である。

▼農政全般⑦農政全般に関する課題・耕作放棄地の増加、優良農地の改廃が続いて

いる。・コウノトリ野生復帰を支えている水田農業の

存続(農地及び後継者の確保)が必要である。

現時点において残された又は顕在化した課題(P84)

今後の方向性(P85)

150

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代表的な指標にみる取り組みの進捗の評価

(3)地域社会分野地域社会分野

・コウノトリと共生する地域づくりが 一 般 社 会 に 認 知されたと考える市民の割合は、コウノトリの郷公園開園前の 13.5% に対し、コウノトリの郷公園開園時点

( 平 成 11(1999) 年 ) で34%、放 鳥時点(平成 17

(2005)年)で 62.5% と広がった。

平成 24(2012)年時点で71%。

C1 コウノトリを地域の財産とする意識醸成

C2 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成

C3 多様な主体の参画C4 営み(経済)と環境づく

り、地域活動を結びつける

C5 科学・地域双方における連携の拡大

C6 「豊岡ルール」の検討

①市民の関心を低減させないような取り組みに関する課題

・放鳥(平成18(2006)年)以降、全国的な話題としてマスコミに取り上げられることなく、関心が薄れている。野外のコウノトリの存在は、市内では「当たり前」の感覚になっており、関心も薄れている。

・市民への積極的な情報提供ができていない。コウノトリ野生復帰の取り組みの、暮らしや文化への落としこみが不十分である。

・野生復帰の取り組みは進みつつあるが、その取り組みが一部の団体や住民に限られている。

②コウノトリも住める環境づくりへの取り組み拡大に関する課題

・自然環境保全活動に参加・実践する市民団体が増加しておらず、関係者が固定化している。市民分野において、取り組み目標が不明確である。

③市民の意識レベルの底上げに関する課題・「コウノトリがいる豊岡」にはなったが、「コウ

ノトリと共に生きる豊岡市民」にはなりきれていない。(受け入れる地域社会(行政を含む)の成熟度)

・市民の暮らしと環境づくりとの関連づけを増やし、暮らしへの内在化を進めることが必要である。

・コウノトリに対する愛着のみならず、それを支えている自らの地域への愛着を広げていくことが必要である。

④他主体との連携に関する課題・コウノトリ野生復帰が他地域にも拡大する中、

先行地としてどのような役割を果たしていけるか。

・コウノトリに関わる関係者の思い(「コウノトリと共に生きるまち」を守る心、守るしくみ)の見直しと共有。(暮らし方や文化等の哲学が問われている)

⑤人間社会とのトレードオフに関する課題・湿地創出など自然再生の取り組みを進める一

方で、市街化や宅地開発等による農地開発は制限なく進んでいる。

・市が行う公共工事等においても、環境配慮のための指針やルールが明確でない。

現時点において残された又は顕在化した課題(P86)

今後の方向性(P87)

151

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4.2.愛知目標に照らした取り組み進捗の評価

(1) 進捗評価に用いる愛知目標の選定

1) コウノトリ野生復帰事業と愛知目標

・豊岡地域でのコウノトリ野生復帰事業とは、コウノトリの種の保全を核とした、自然と共生する地域づくり

の取り組みである。

・一方、世界各地では、生物多様性の損失が続いており、現在の状態が続くと、生態系が自己回復でき

る限界点を超え、取り返しのつかない事態を招くおそれがあるとの危機が指摘されている。

・そのため、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10、2010年)では、「自然と共生する世界」

の実現に向けて、新戦略計画、及び2020年もしくは2015年までをターゲットとして緊急的かつ効果的な

行動を実施するための、20の短期目標「愛知目標」が採択された。

・豊岡地域でのコウノトリ野生復帰事業は、まさしく、CBD-COP10と同じ目標を有する地域の取り組みで

あり、自然と共生する地域づくりの先行者として、更なる取り組みを進めるために、この愛知目標(20の

個別目標)に対照させて取り組みの進捗を確認し、今後の方向性を整理することとする。

2) 対照させる愛知目標の選定

・愛知目標は、締約国各国の国内施策や生物多様性戦略への組み込みを求めているため、個別目標には、

国家的に取り組むべきものや、農林水産業、海洋、先住民など幅広い領域の目標が含まれている。

・そのため、豊岡地域での取り組みの進捗評価にあたっては、先ず、野生復帰事業が対象とする領域に

関連のある個別目標を選定する。言い換えると、愛知目標の20の個別目標のうち、国家レベルの目標、

あるいは対象領域が異なる個別目標は、除外することとする。(例、サンゴ礁、先住民)・このような考え方から、コウノトリの野生復帰事業に関連すると考えられる個別目標としては、目標1,2,3,4,

5,6,7,8,9,11,12,13,14,17,19の15個を選定する。

152

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■ 表 4.2 1 コウノトリの野生復帰事業に関連する愛知目標

  戦略目標 A 各政府と各社会において生物多様性を主流化することにより、生物多様性の損失の根本原因に対処する。

 目標 1   人々が生物多様性の価値と行動を認識する

 目標 2

 目標 3

 目標 4

  戦略目標 B 生物多様性への直接的な圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する。

 目標 5

 目標 6   水産資源が持続的に漁獲される

 目標 7   農業・養殖業・林業が持続可能に管理される

 目標 8   汚染が有害でない水準まで抑えられる

 目標 9   侵略的外来種が制御され、根絶される

 目標10

  戦略目標 C 生態系、種及び遺伝子の多様性を保護することにより、生物多様性の状況を改善する。

 目標11  

 目標12   絶滅危惧種の絶滅・減少が防止される

 目標13

  戦略目標 D 生物多様性及び生態系サービスから得られるすべての人のための恩恵を強化する。

 目標14  自然の恵みが提供され、回復・保全される

 目標15 

 目標16 

  戦略目標 D 参加型計画立案、知識管理及び能力構築を通じて実施を強化する。

 目標 17 

 目標 18  伝統的知識が尊重され、主流化される

 目標 19  生物多様性に関連する知識・科学技術が改善される

 目標 20 

愛知目標 関連 理由

生物多様性の価値が国と地方の計画などに統合され、適切な場合に国家勘定、報告制度に組み込まれる

里山林の整備等を推進しており、該当する。

漁業振興対策を推進しており、該当する。

減農薬・無農薬栽培を推進しており、該当する。

自然再生事業を推進しており、該当する。

コウノトリ育む農法等を普及・推進しており、該当する。

豊岡市生物多様性地域戦略などの戦略、計画を策定しており、該当する。

コウノトリと共生する地域づくりや啓発活動等を推進しており、該当する。

自然再生への助成制度等の奨励措置を施行しており、該当する。

行政、農業団体等の関係者が計画・行動を推進しており、該当する。

サンゴ礁に関する目標であるため、検証の主たる対象外とする。

ラムラール条約湿地登録等を推進しており、該当する。

ラムラール条約湿地登録等を推進しており、該当する。

国家戦略に関する目標であるが、豊岡でも生物多様性戦略を策定しており、該当する。

コウノトリの保護・増殖・野生復帰を推進しており、該当する。

気候変動に関する目標であるため、検証の対象外とする。

先住民・少数民族に関する目標であるため、検証の対象外とする。

コウノトリの遺伝子多様性維持のための保護・増殖・野生復帰を推進しており、該当する。

遺伝資源の取得のアクセスにかかる国家対応の目標であるため、検証の対象外とする。

コウノトリにかかる科学・研究が推進されており、該当する。

資金動員に関する目標であり、国対応の目標のため、検証の対象外とする。

生物多様性に有害な補助金を含む奨励措置が廃止、又は改革され、正の奨励措置が策定・適用される

すべての関係者が持続可能な生産・消費のための計画を実施する

サンゴ礁等気候変動や海洋酸性化に影響を受ける脆弱な生態系への悪影響を最小化する

作物・家畜の遺伝子の多様性が維持され、損失が最小化される

劣化した生態系の少なくとも 15%以上の回復を通じ気候変動の緩和と適応に貢献する

締約国が効果的で参加型の国家戦略を策定し、実施する

戦略計画の効果的な実施のための資金資源が現在のレベルから顕著に増加する

遺伝資源の利用から生じた利益の公平な分配(ABS)に関する名古屋議定書が施行、運用される

陸域の 17%、海域の 10%が保護地域等により保全される

森林を含む自然生息地の損失が少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づき、劣化・分断が顕著に減少する

153

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(2) 愛知目標に対応する取り組み進捗の評価

1) 取り組み進捗の評価方法

・愛知目標との照らしあわせでは、各種公共施策の導入や実施状況、及びその施策内容の広がりの確

認をもって、個別目標に対する施策の進捗評価を行う。

・具体的には、それぞれの愛知目標に合致する豊岡地域での公共施策を抽出する。続いて、取り組み実

績の整理・波及効果、現時点での自己点検に基づく今後の課題(2章で整理)を、愛知目標の評価軸

に照らしあわせて総括することで、愛知目標の理念・行動指針に対する、豊岡地域での公共施策の進

捗の評価、及び今後(10年程度)の方向性を整理する。

愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は平成 24(2012)年度値)  今後の方向性

■ 表 4.2 2 愛知目標に照らした豊岡での取り組みと進捗の評価

各政府と各社会において生物多様性を主流化することにより、生物多様性の 損 失 の根 本原因に対処する。

人 々が 生 物 多様性の価値と行動を認識する

生 物 多様 性の 価値 が 国と地 方の計画などに統合され、 適 切 な場 合に 国 家 勘 定、 報告制度に組み込まれる

生 物 多様 性に 有害 な補 助 金を 含む 奨 励 措 置 が 廃止、又は改革され、正の 奨 励 措 置 が策定・適用される

すべての関係者が持続可能な生産・消費のための計画を実施する

・コウノトリ野生復帰推進計画【県・市・国】

・豊岡市生物多様性地域戦略【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・生物多様性ひょうご戦略【県】

・豊岡市環境基本条例【市】・豊岡市環境基本計画【市】・豊岡市環境経済戦略【市】・円山川水系自然再生計画【国・県】

・豊岡市生物多様性地域戦略【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・「コウノトリ育む農法」推進計画【市】

・コウノトリ基金条例【市】・「コウノトリ豊岡寄付金」制

度【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・豊岡市環境基本条例【市】・豊岡市環境基本計画【市】・豊岡市環境経済戦略【市】

・コウノトリの郷公園設置【県】・コウノトリ未来・国際かいぎ【県・市】・コウノトリ野生復帰普及啓発映像作

成・配信【県】・コウノトリ文化館での情報発信、市民

環境大学【市】・教科書や副教本への掲載、コウノトリ

と共生する地域づくりフォーラム、公開講座、サイエンスカフェ、田んぼの生き物調査を通じた消費者との交流、体験活動【県・市・コウノトリの郷公園】

・小学校やコウノトリ文化館での環境学習・教育、子どもの野生復帰大作戦

「自然体験学校」、コウノトリKIDSクラブ、コウノトリツーリズム【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画策定【県】

・コウノトリの郷公園設置、県民局に専属担当設置【県】、コウノトリ共生課設置【市】

・豊岡市環境基本計画、豊岡市環境経済戦略策定【市】

・円山川水系自然再生計画策定【国・県】

・コウノトリと共生する水田自然再生事業【市、県】

・水田魚道の設置【県】・小さな自然再生支援助成制度【市】

・コウノトリと共生する水田自然再生事業【市・県】

目標 1

目標 2

目標 3

目標 4

A

154

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愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は平成 24(2012)年度値)  今後の方向性

■進捗状況農業・川の体験活動実施学校数のべ 51 校、コウノトリファンクラブ会員数約 700人、戸島湿地ボランティア数約 200人、コウノトリの郷公園来園者数約 30万人、コウノトリ基金への寄付金額約 1,300万円、新聞記事掲載数約 300件 等■進捗評価コウノトリと共生する地域づくりが一般社会に認知されたと考える市民の割合は、71%(2012年時点)

■進捗状況コウノトリ野生復帰推進計画【県】、豊岡市生物多様性地域戦略【市】等を策定済み■進捗評価左記等の施策を適時実施

■進捗状況水田魚道設置数累計 110 基、コウノトリ育む農法の助成対象面積約 130ha、コウノトリ育むお米等特別栽培米作付面積 953ha(2013 年) 等■進捗評価豊岡型環境創造型農業作付面積割合目標 51%(2022年度)に対して、33.5%(2013年度時点)

■進捗状況コウノトリ育むお米等特別栽培米作付面積 953ha(2013年) 等■進捗評価豊岡型環境創造型農業作付面積割合目標 51%(2022年度)に対して、33.5%(2013年度時点)

C1 コウノトリを地域の財産とする意識醸成C2 多様な主体の参画C3 豊岡の取り組みを地域内外へ周知C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

A2 環境に対する社会の評価価値の適切な反映B5 土地利用計画による農地の担保

B1 コウノトリ育む農法の拡大拠点施設の整備B2 コウノトリ育む農法拡大のための条件整備

B1 コウノトリ育む農法の拡大拠点施設の整備B2 コウノトリ育む農法拡大のための条件整備B3 多様な担い手の確保と育成B4 次代を担う人材発掘と育成B5 土地利用計画による農地の担保B6 関係機関の連携によるコウノトリ育むお米のブランド力向上

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愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は平成 24(2012)年度値)  今後の方向性

生 物 多様 性へ の直 接 的 な圧 力を減少させ、持続可能な利用を促進する。

生 態 系、 種 及び遺 伝 子 の 多様 性を保護することにより、生物多様性の 状 況を 改 善 する。

森林を含む自然生息地の損失が少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づき、劣化・分断が顕著に減少する

陸 域 の 17 %、 海域の 10%が 保 護地域等により保全される

水 産資 源が 持 続的に漁獲される

農業・養殖業・林業 が 持 続 可 能に管理される

汚 染 が 有 害 でない水準まで抑えられる

侵 略 的 外 来 種 が制御され、根絶される

サンゴ礁等気候変動や海洋酸性化に影響を受ける脆弱な生態系への悪影響を最小化する

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・但馬地域農林水産ビジョン2020【県】

・豊岡市環境経済戦略【市】・豊岡市バイオマスタウン構想【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・コウノトリ野生復帰グランドデザイン【県】

・円山川水系自然再生計画【国・県】

・円山川水系河川整備計画【国】

・豊岡市農業振興戦略【市】・兵庫県環境創造型農業推

進計画【県】・但馬地域農林水産ビジョン

2020【県】

・目標 7と同様

・円山川水系自然再生計画【国・県】

・円山川水系河川整備計画【国】

・ボランティアを活用した里山林の整備、コウノトリ営巣木復活推進事業【県】

・ひょうご元気松の植栽(~H24)【コウノトリの郷公園】

・松林等森林整備、公共施設へのペレットストーブの設置【市】

目標 5、7、9に加え、・ラムサール条約湿地登録【市・県・国】・ひのそ島掘削、自然再生護岸(円

山川・城崎地区)、環境遷移帯創出(出石川合流点部)、連続性の確保(円山川・八代水門)【国】

・魚道整備・樋門段差改修(六方川、出石川、鎌谷川)、河岸・河床の多自然化等(六方川、鎌谷川、馬路川)、緩傾斜護岸工事(鎌谷川)【県】

・田結川整備【県】、田結地区放棄田の自然再生【市・県】、戸島湿地整備【市】

・内水面漁業振興対策事業【市】

・コウノトリと共生する水田自然再生事業、コウノトリ育む農法販売促進活動

【市・県】・兵庫県有機農産物認証制度、ひょう

ご安心ブランド農産物認定制度、「コウノトリ育む農法」の体系化、コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座

【県】・「コウノトリの舞」農産物の認定制度、

学校給食にコウノトリ育むお米を使用【市】

・目標 7と同様

・湿地改良(円山川中流)、湿地再生(出石川・加陽地区)、激特事業による河道掘削に併せて湿地創出

【国】

目標 5

目標 6

目標 7

目標 8

目標 9

目標10

目標11

B

C

156

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愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は平成 24(2012)年度値)  今後の方向性

■進捗状況市内公共施設にペレットストーブ設置 320 台 等■進捗評価左記等の施策を適時実施

■進捗状況水田魚道設置数累計 110 基 等■進捗評価湿地再生面積目標 72.1ha に対して、55.2ha(72%)整備

■進捗状況アユ、ヤマメ等の放流 等■進捗評価左記等の施策を適時実施

■進捗状況水田魚道設置数累計 110基、コウノトリ育む農法の助成対象面積約 130ha、コウノトリ育むお米等特別栽培米面積 953ha(2013年)等■進捗評価豊岡型環境創造型農業作付面積割合目標 51%(2022年度)に対して、33.5%(2013年度時点)

■進捗状況農薬等に関する最近約 20年間の水質は環境基準を満たしている。■進捗評価豊岡型環境創造型農業作付面積割合目標 51%(2022年度)に対して、33.5%(2013年度時点)

■進捗状況水田魚道設置数累計 110 基 等■進捗評価湿地再生面積目標 72.1ha に対して、55.2ha(72%)整備

― ―

C2 多様な主体の参画C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

A1 湿地整備工、仮設等も含めた自然環境への影響の低減A2 環境に対する社会の評価価値の適切な反映A3 持続的な管理を実現する湿地の価値の確保・向上B1 コウノトリ育む農法の拡大拠点施設の整備B2 コウノトリ育む農法拡大のための条件整備B3 多様な担い手の確保と育成B4 次代を担う人材発掘と育成B5 土地利用計画による農地の担保B6 関係機関の連携によるコウノトリ育むお米のブランド力向上C1 コウノトリを地域の財産とする意識醸成C2 多様な主体の参画C3 豊岡の取り組みを地域内外へ周知C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

C2 多様な主体の参画C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

B1 コウノトリ育む農法の拡大拠点施設の整備B2 コウノトリ育む農法拡大のための条件整備B3 多様な担い手の確保と育成B4 次代を担う人材発掘と育成B5 土地利用計画による農地の担保B6 関係機関の連携によるコウノトリ育むお米のブランド力向上C1 コウノトリを地域の財産とする意識醸成C2 多様な主体の参画C3 豊岡の取り組みを地域内外へ周知C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

B1 コウノトリ育む農法の拡大拠点施設の整備B2 コウノトリ育む農法拡大のための条件整備

A1 湿地整備工、仮設等も含めた自然環境への影響の低減A3 持続的な管理を実現する湿地の価値の確保・向上C1 コウノトリを地域の財産とする意識醸成C2 多様な主体の参画C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成C5 営みと環境づくり、地域活動を結びつけるC6 豊岡が中心となり、他主体と連携

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愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は 2012年度値)  今後の方向性

生 物 多様 性へ の直 接 的 な圧 力を減少させ、持続可能な利用を促進する。

生 物 多様 性 及び生 態 系サ ービスか ら 得 ら れ るすべ ての人 の た めの恩 恵を強 化 する。

参加型計画立案、知 識 管 理 及び 能力構築を通じて実施を強化する。

絶 滅 危 惧 種の 絶滅・減少が防止される

自然 の恵 みが 提供され、回復・保全される

締 約国が 効 果 的で 参 加 型の国 家戦略を策定し、実施する

生 物 多様 性に関連する知識・科学技 術 が 改 善される

戦 略 計 画の 効 果的な実施のための資金 資 源が 現 在のレベルから顕著に増加する

伝 統 的知 識 が 尊重され、主流化される

劣 化した 生 態 系の少なくとも 15%以上の回復を通じ気候 変 動の 緩 和と適応に貢献する

ABS に関 する名古屋 議 定 書が 施行、運用される

作物・家畜の遺伝子 の 多様 性 が 維持 され、 損 失 が最小化される

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・コウノトリ野生復帰グランドデザイン【県】

・円山川水系自然再生計画【国・県】

・円山川水系河川整備計画【国】

・目標 11と同様

・目標 2と同様

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・コウノトリ野生復帰グランドデザイン【県】

・コウノトリ野生復帰学術研究補助制度【市】

・コウノトリ野生復帰推進計画【県】

・コウノトリ野生復帰グランドデザイン【県】

(目標 11 に加え「コウノトリの科学」が中心となり取り組み中)

・目標 11と同様

・目標 2と同様

(前出までの各種施策に加え「コウノトリの科学」が中心となり取り組み中)

(目標 11 に加え「コウノトリの科学」が中心となり取り組み中)

目標12

目標14

目標17

目標19

目標20

目標18

目標15

目標16

目標13

C

D

E

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愛知目標  豊岡におけるコウノトリもすめる社会に向けての取り組み(公共施策)

戦略目標 20の個別目標 豊岡での主な計画       豊岡での主な公共施策    進捗状況と評価   (注記なければ数値は 2012年度値)  今後の方向性

■進捗状況人口巣塔設置数 24 基、研究論文数 25 件、コウノトリ巣立ち数 14 羽 等■進捗評価コウノトリの郷公園が基軸となり「コウノトリの科学」を研究・普及

■進捗状況水田魚道設置数累計 110 基 等■進捗評価湿地再生面積目標 72.1ha に対して、55.2ha(72%)整備

■進捗状況コウノトリ野生復帰推進計画【県】、豊岡市生物多様性地域戦略【市】等を策定済み■進捗評価左記等の施策を適時実施

■進捗状況研究論文数 25 件、コウノトリの郷公園における年間学校対応数約 90校、コウノトリの郷公園研究部員が行った年間講演数 79 回 等■進捗評価コウノトリの郷公園が基軸となり「コウノトリの科学」を研究・普及

― ―

― ―

― ―

― ―

・目標 12と同様

・目標 11と同様

・目標 11と同様

A2 環境に対する社会の評価価値の適切な反映B5 土地利用計画による農地の担保

C4 地域人材の発掘と後継者リーダー、研究者等の育成

・目標 11と同様

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第5章 ひょうご豊岡モデルのまとめ

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第 5章 ひょうご豊岡モデルのまとめ

 5章では、3章で整理した「施策の広がり・主体のつながり」の要点から、国内外の生物多様性の保全

を核とする持続可能な地域づくりへ反映できるように、「ひょうご豊岡モデル」としてとりまとめを行った。

とりまとめにあたり、豊岡地域でのこれまでの取り組みの理解を深めるとともに、他地域において同様の

取り組みを展開する際の参考となることを期待し、「取り組みのポイント」、「取り組み展開のプロセス」を

示すこととした。

 また、豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る取り組みは、現時点で完全に目標を達成したというわ

けではない。課題を有し、未だ途上にあるものである。続く6章では、コウノトリ野生復帰検証委員会として、

豊岡地域における野生復帰の取り組みを更に進展させ、また、他地域に広げていく上での現段階での課題、

留意点を整理した提言「更なる取り組み進展への提言」をまとめた。

・他地域において同様の取り組みを展開する際の参考となることを期待し、豊岡地域における取り組み進展のメカニズムのポイントと展開のプロセスを「ひょうご豊岡モデル」として総括・整理。

・豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰の取り組みを更に進展させ、また、他地域に広げていく上での現段階での課題、留意点を整理した提言をコウノトリ野生復帰検証委員会としてまとめた。

第5章 ひょうご豊岡モデルのまとめ

第6章 更なる取り組み進展への提言

「ひょうご豊岡モデル」の定義 ・地方における自然財を活かした持続可能な地域づくりモデル ・心の動きを推進力とした「共感の連鎖」誘発のモデル ・「科学」と「行政」と「地域社会」の連携モデル ひょうご豊岡モデルの「取り組みの5つのポイント」 ひょうご豊岡モデルの「展開の4つのプロセス」

ひょうご豊岡モデル

第2章取り組み実績の整理

・3 つの分野(河川分野、農業分野、地域社会分野)ごとに施策のひろがり、取り組みに係る主体のつながりを整理し、「施策の広がり、主体のつながり」の要点をとりまとめ。

第3章 取り組みの分析・各分野の取り組みの進捗の評価(現時点における課

題と今後の方向性)・豊岡地域における取り組みを客観的視点から評価す

るため愛知目標と対照させる。

第4章 取り組みの進捗の評価

162

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5.1.「ひょうご豊岡モデル」 4章までの整理・分析・評価を踏まえ、豊岡地域における取り組みが広がったメカニズムのポイントを整

理し、そのポイントを総括・整理すると、「ひょうご豊岡モデル」を以下のようにとりまとめることができる。

【豊岡地域における取り組みとは】

 取り組みのシンボルとなっているコウノトリは、特別天然記念物すなわち、文化財である。豊岡地域の人々は、その野生復帰の取り組みの過程を通じて、生き物と地域の文化が密接不可分な関係にあることを感じ取っている。

 豊岡地域の人々は、自然共生の重要性を再認識する国際的・全国的な潮流を背景としながら、地域にとって特別な存在であるコウノトリを象徴として、生物多様性の保全と地域再生・地域活性の両立によって、持続可能な地域づくりを目指してきた。

 豊岡地域での取り組みの特徴は、コウノトリの野生復帰に向けて、地域に密着した県立大学併設の研究機関を設置することによって、科学を基盤として取り組みを推進し、調査研究によって得られたデータを解析評価する体制を整えるとともに、行政による一方的な政策展開ではなく、地域づくりの推進力は地域社会であることを認識し、「共感」をキーワードに科学、行政、地域社会が相互に連携するシステムを設計してきたことにある。

 また、豊岡地域での取り組みは、人々の「この土地で暮らし続ける」という覚悟と決意の上に成り立っている。豊岡地域の人々は、災害さえもより良い地域づくりの契機として活かしてきた「克災」の精神を背景に、度重なる円山川の水害とも折り合いを付けてきた。そして同時に、コウノトリ野生復帰が象徴する自然共生のなかに地域の豊かさを見出し、市民の地域に対する誇りとしてきたのである。そうした取り組みへの共感が豊岡地域内外の企業・産業群にも波及し、農業を含めた地域の経済的持続性にも貢献する方法を得ることにつながった。

それは地域の豊かさに対する価値観を「単なる量的な拡大」から、「質的な充実」へと転換しなければ為し得ないことであり、地方都市の生き残り戦略としての「成長戦略」から「成熟戦略」への転換の実践であるといえる。これは、人口減少社会が到来した我が国にあって、地方が目指すべきひとつのかたちではないだろうか。

地方における自然財を活かした持続可能な地域づくりモデル「ふるさとで生きる」という覚悟と決意のもと、その地の自然と文化をすべての基盤にしながら、持続可能で経済活力もある「安らげる暮らしぶり」と「心の豊かさ」の双方を手にするために、コウノトリを象徴として、自然共生を政策に位置づけた地域づくりモデル。

心の動きを推進力とした「共感の連鎖」誘発のモデル偶然と必然、双方によるかく乱要素を触媒に、公共政策が関わりながら社会に良質な化学反応を生み出し、人々の心にある「命への共感」(バイオフィリア)と「郷土愛」(トポフィリア)を基軸とした共感の連鎖を誘発しながら取り組みを拡大してきた連鎖の推進モデル。

「科学」と「行政」と「地域社会」の連携モデル「コウノトリの再生」と「地域の再生」を結びつけることで、コウノトリに係る科学を基盤に、「地域づくり」という行政目標のもとで多様な主体がそれぞれの役割を果たしつつ、住民の思いを実現していく連携モデル。

つまり、ひょうご豊岡モデルは次のように表現できる。

163

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5.2.取り組みのポイント 3 章では、コウノトリ野生復帰に係る公共政策の代表的な分野(河川分野、農業分野、地域社会分野)

を対象として、施策の「広がり」、関係する主体の「つながり」の要点を抽出し、「ひょうご豊岡モデル」

に反映すべき取り組みのポイントを整理した。(P.139)

 豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰の取り組みは、「科学・行政・地域社会の連携の体制設計」と「プ

ロセスの設計」がポイントとなって広がってきたが、その背景として、法制度の改正などの「社会的な潮

流を受け止めて、積極的に活用・展開」してきたこと、ハチゴロウの飛来や台風23号による水害等の「偶

発的な自然現象をも推進要因に転換・活用」してきたことが特徴であるといえる。また、コウノトリ野生

復帰の取り組みが地域に受け入れられ、主体のつながりを形成していく上では、「地域の伝統的コミュニ

ティの理解」が重要であった。

 豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰の取り組みのポイントは次の5つに集約され、その関係性は、右

図のように整理できる。

豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る5つの取り組みポイント

①社会的な潮流を受け止めて、積極的に活用・展開・高度経済成長下における環境悪化の進行による国民の不安に対し、様々な法制が確立された。・その世の中の変化と自分たちが住む環境変化、国政の動きを豊岡地域の人々はいち早く感じ、かつて身近に

存在していたコウノトリをシンボルとした取り組みを展開した。

②科学・行政・地域社会の連携の体制設計・「コウノトリも住める地域づくり」を推進していくためには、様々な主体の関わりが必要だった。・様々な主体の関わりが取り組みの推進力となるよう連携の体制設計が行われた。

③プロセスの設計・人はどのように気付き、行動に転換し、共感を得るのかの視点から、戦略的に持続可能な取り組みを構築し、

展開した。

④偶発的な自然現象をも推進要因に転換・活用・ハチゴロウ飛来や台風 23号等の偶発的な自然現象を、より良い地域づくりの転機やプラスの感情(喜び、驚

き等)の共感につなげ、目標の実現に向けた動きに結びつけた。

⑤地域の伝統的コミュニティの理解・時に自然の猛威を感じながらもその恵みを活かした生業を営んできた集落等の伝統的コミュニティの精神性

やつながりを理解して、矛盾が生じないよう配慮しながら取り組みが進められた。

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5つの取り組みポイントの関係図

【背景】国内外の生物多様性・自然再生に係る動き(リオ宣言、河川法改正、ウルグアイ・ラウンド農業交渉合意 等)

①社会的な潮流を受け止めて、積極的に活用・展開

②科学・行政・地域社会の連携の体制設計

④偶発的な自然現象をも 推進要因に転換・活用

⑤地域の伝統的コミュニティの理解

③プロセスの設計

・社会的な潮流の地域課題への変換

・地域に密着した県立大学併設の研究機関による科学の理論と解析に基づく地域の環境変化への危機意識

・コウノトリ野生復帰の取り組みから見出された地域の価値

・地域の生物多様性の豊かさを象徴する種(コウノトリ)をシンボルとした目標設定による多様な主体間の将来像の共有

・生物多様性保全の技術開発・探求

・地域に密着した普及啓発、技術指導の実施

・多様な主体の連携体制の構築・地域づくりを担う次世代リー

ダーの育成

・地域のブランド化による生物多様性保全と地域づくりの相乗効果の発揮

・生物多様性保全のストーリーのPR

プロセス

4つのプロセス(次項参照)

気付き

将来像の共有

行動への移行

共感の連鎖

つながり・広がりの要点

地域社会の心を揺さぶる出来事(ハチゴロウ飛来、台風23号等)

・「自然と折り合うくらし」を育んできた地域の特性(自然環境、克災の歴史、風習・習慣)・コウノトリが最後まで生き延びた地域

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5.3.展開のプロセスとメカニズム 豊岡地域のコウノトリ野生復帰に係る取り組みの5つのポイントのうち、「プロセスの設計」について、

各分野(河川分野、農業分野、地域社会分野)の施策の広がり・主体のつながりの要点から、共感の連鎖

が広がるプロセスの段階を 4 つに分類・整理した。(P.140)

【気付き】

 初めの段階としては、地域の状況についての「気付き」が重要であり、豊岡地域における取り組みでは

特に地域に密着した県立大学併設の研究機関「コウノトリの郷公園」が大きな役割を果たしている。

【将来像の共有】

 コウノトリ野生復帰の取り組みの立ち上げにあたっては「将来像の共有」の段階に移行し、郷土の豊か

さを象徴するコウノトリをシンボルとして目標を設定することによって、多様な主体の関わりが生まれる

ことになった。

【行動への移行】

 多様な主体がコウノトリ野生復帰に関われる状況を作り出すためには「行動への移行」の段階が必要で

あり、湿地整備やコウノトリ育む農法の技術開発や普及啓発が行われた。この段階では、市民、農家、研

究機関、行政、企業などの多様な主体の連携体制の構築が図られている。

【共感の連鎖】

 コウノトリ野生復帰の取り組みを広げ、持続可能な地域をつくるためには、「共感の連鎖」が必要であり、

コウノトリ育む農法による農産物のブランド化によって、生物多様性保全と地域づくりの相乗効果の発揮

が目指されているほか、地域内外へ向けてコウノトリ野生復帰のストーリーのPRなどが進められている。

 以上を踏まえて、「取り組み展開のプロセス図」(P.168−169)には、豊岡地域におけるコウノトリ野生

復帰の取り組みの「プロセス」と展開された「戦略」の関係性などのメカニズムを図化した。

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表 取り組み展開の4つのプロセス

・社会的な潮流の地域課題への変換

・地域に密着した県立大学併設の研究機関による科学の理論と解析に基づく地域の環境変化への危機意識

・コウノトリ野生復帰の取り組みから見出された地域の価値

・地域の生物多様性の豊かさを象徴する種(コウノトリ)をシンボルとした目標設定による多様な主体間の将来像の共有

・生物多様性保全の技術開発・探求(湿地整備、コウノトリ育む農法)

・地域に密着した普及啓発、技術指導の実施

・多様な主体(市民、農家、研究機関、行政、企業等)の連携体制の構築

・地域づくりを担う次世代リーダーの育成

・地域のブランド化による生物多様性保全と地域づくりの相乗効果の発揮

・生物多様性保全(コウノトリ野生復帰)のストーリーのPR

4つのプロセス

気付き

将来像の共有

行動への移行

共感の連鎖

広がり・つながりの要点のまとめ

各分野で抽出された広がり・つながりの要点

河川:河川法の改正など全国的な潮流を背景に進展農業:コウノトリ野生復帰と社会的な潮流である食の安全

安心の確保との方向性の一致農業:科学的な分析に基づくコウノトリの野生絶滅と農業

の関係の気付き地域社会:地域に密着した県立大学併設の研究機関「コ

ウノトリの郷公園」の存在と普及啓発

河川:各主体との目的の共有(分かりやすいシンボルと理念、共通の目指す姿の存在)

河川:湿地整備技術の有効性の共通認識、多様な主体の参画による検討の有効性の認識

河川:湿地への「ハチゴロウ」の飛来河川:関係主体間での将来像の共有農業:コウノトリの水田への飛来による農家の主体的な関

わり意識の萌芽農業:コウノトリの生息環境の保全再生と郷土景観の保全

の将来目標に対する共感の連鎖地域社会:コウノトリ野生復帰に向けた地域社会の理解を

得るための啓発地域社会:コウノトリ野生復帰推進連絡協議会での多様な

主体の合意形成

河川:災害をも機会とした河川:治水と環境保全が両立する手法としての湿地整備

技術の確立河川:取り組み・検討の連携の体制設計(多様な主体の

参画による計画策定)農業:行政によるコウノトリ育む農法の体系化と技術指導・

普及啓発農業:行政と地域住民が一体となってコウノトリ育む農法

の説明会を継続することによる信頼関係の確立農業:水田の生物多様性保全に対する補助制度の創設(コ

ウノトリと共生する水田自然再生事業)農業:集落の結びつきなどの地域特性を背景とした一定の

まとまりでの取り組みの推進地域社会:コウノトリも住める地域づくりを担う次世代リー

ダーの育成地域社会:NPO、大学、企業など多様な主体の地域活動

への関わり地域社会:行政が仲介・調整役となり、多様な主体を結

びつける

農業:農産物のブランド化による環境保全と経済活動の相乗効果の発揮

農業:生産、販売、消費に関わる農家、行政、企業、市民などの多様な主体の関わり

地域社会:営み(経済)と環境づくりのつながり地域社会:コウノトリの飛来で気付いた地域の価値地域社会:コウノトリ野生復帰のストーリーを PR し、多

様な主体の共感と、その共感の連鎖を得る

※ 3章 P. 140より167

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多様な主体が関わり、取り組みが広がっていくプロセスとメカニズムを図化している。

理念

コウノトリの野生絶滅

シンボルとしての「コウノトリ」

将来像:コウノトリもすめる社会

生活・生存原理

連携の動機付け

地域活性化の考慮

現状に対する警鐘

危機意識明確な将来像のイメージ

外的要因(偶然)・「ハチゴロウ」の飛来・平成 16 年台風 23 号

生活の糧としての経済性

市民団体・市民

研究機関

農業者

行政機関

方針

気付きのプロセス「このままで良いのか?」「何かが違う」という不安

国内外の潮流・生物多様性の損失に対する 危機意識

地域の状況・地域の衰退・土地の荒廃

将来像の共有プロセス

豊岡地域と自分の生活がこうあって欲しいというイメージの共有。

戦略

多様な主体の存在(プレイヤー)

取り組み展開のプロセス図

科学的な調査・研究

・コウノトリ絶滅への人間の影響・地域密着型の研究機関の存在

計画策定・コウノトリ野生復帰推進計画・河川整備計画・自然再生計画・県環境創造型農業推進計画・市環境経済戦略

168

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主体間の連携体制の構築

・野生復帰推進協議会・野生復帰推進連絡協議会

各主体の実施体制の構築

県:コウノトリプロジェクトチーム

教育・子どもの野生復帰大作戦・コウノトリ KIDS クラブ・田んぼの学校・食育・環境学習市:コウノトリ共生課

実施主体 市民との一体的な取り組み 将来の希望

地域への影響

外的要因・外部からの評価・取り組み支援・連携

外的要因・リーマンショック

地域固有の背景・克災の精神・地縁社会の一体性

民間企業等

地域経済の基盤強化

実現性の担保

経済的持続性事業の推進力

行動への移行プロセス

各種主体ごとに将来像の実現に向けた行動の具体化。

共感の連鎖プロセス

小さな成功の積み上げ、見える化による共感の連鎖。

持続可能な地域へ

・自然と共生する社会・郷土愛を持ち続けられる 社会

事業推進・コウノトリ野生復帰・湿地環境整備・環境創造型農業推進事業・コウノトリ育む農法・水田自然再生

情報発信・市長によるトップセールス・コウノトリ未来国際かいぎ・コウノトリ野生復帰に 向けてのフォーラム開催・リーフレット配布 (国内外)

地域ブランド化・農産物のブランド化・住みたい地域イメージ戦略・コウノトリに関わる観光推進・企業誘致、CSR 誘導

169

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170

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第6章 更なる取り組み進展への提言

171

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第 6章 更なる取り組み進展への提言

 豊岡地域におけるコウノトリ野生復帰に係る取り組みは、現時点で完全に目標を達成したというわけで

はない。課題を有し、未だ途上にあるものである。

 6章では、コウノトリ野生復帰検証委員会として、豊岡地域における野生復帰の取り組みを更に進展させ、

また、豊岡地域と他の地域とが共に今後の生物多様性の保全を進める上での現段階での課題、留意点を整

理した提言「更なる取り組み進展への提言」をまとめた。

6.1. 豊岡地域におけるこれまでの取り組みに関する総論 豊岡地域における取り組みの素晴らしいことの一つに、早期の「取り組み・検討の連携体制設計(デザ

イン)」が挙げられる。里の鳥であるコウノトリが人とともにすめる地域づくりを行うにあたり、どのような課題

が想定され、そしてその課題にはどの主体・行政部局等が取り組んでいかなければならないかについて想

定を行い、それら主体・行政部局等を集めたコウノトリ野生復帰推進連絡協議会を設置し、目標像の共有、

役割の明確化が図られてきた。

 さらに取り組みを分析してみると、当初から意図したものではないかもしれないが、取り組みは大きく4つ

のプロセス(①気付きのプロセス、②将来像の共有プロセス、③行動への移行プロセス、④共感の連鎖プ

ロセス)に分けることができる。この4つのプロセスは、地域の人々の生存・生活原理に係る「心」の動きと

密接に関わっており、この土地で生きていきたいという覚悟と決意を持つ人々の郷土愛と将来への希望が

原動力となっている。そして各プロセスでの取り組みは、偶発的な自然現象と、それも契機とする公共政

策によるこの「心」への戦略的な働きかけがあって、共感の連鎖につながっている。

 豊岡地域における取り組みは、この郷土愛と将来への希望を原動力とする4つのプロセスを経て多様な

主体の参画・連携への展開、取り組みの広がりが起こったものと考えられる。このようなプロセスデザインは、

取り組み・検討の連携体制設計(デザイン)と合わせて、今後、他の地域等において新たな取り組みを行

う際に特に参考となるものである。

 兵庫県は、平成7(1995)年1月の阪神淡路大震災の甚大な被害を受けながらも、コウノトリ野生復帰の

重要拠点となるコウノトリの郷公園整備事業を継続させ、また、平成16(2004)年台風23号による円山川

の氾濫という甚大な被害を受けながらも、地域は治水一辺倒にならずに治水と環境保全が両立する手法

である湿地の整備を選択し、国土交通省は、この災害さえも契機と捉えて湿地整備を強力に推進した。

 ここには、地域の関係主体の強力な意志があり、厳しい自然現象・自然環境と共存してきた文化・歴史を

持つ地域性が反映されている。この土地で生きていくという覚悟と決意を持つ人々が、地域の誇りであるコウノ

トリをシンボルとした将来像「コウノトリもすめる環境づくり」を共有し、そして地域の各主体がそれに向けた

努力を続けている。これは、地方の衰退が問題となっている昨今、地域の生存戦略として参考となるものである。

 日本は、少子高齢化社会を迎え、都市部への人口集中が加速している。そのような中で地方は、社会資

本整備による成長戦略から、自然資本の保全・再生による成熟戦略への転換期にある。「グレー・インフラ」

か「グリーン・インフラ」かの選択である。しかし、成熟戦略をとるにしてもその道程は簡単ではない。多くの

人的エネルギーとコストを要する。そして何より大事な条件は、この土地で生きていくという個人としての、そ

してコミュニティとしての覚悟と決意であり、人々の郷土愛と誇り・希望の持てる将来像の共有が地域の成熟

への一歩となる。そしてその選択が新たな幸福となり、人口減少社会を地方が乗り越えて生き残っていくこと

につながっていくのではないだろうか。それはひいては日本のこれからの国づくりにもつながっていくものである。

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Page 173: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

6.2. 今後の取り組みを進めるうえでの課題および留意すべきポイント【視点①:人間社会への影響】・・・取り組み分野:科学、地域社会

 コウノトリ野生復帰を始めたこと、また野外コウノトリの個体数が増加したことにより、野生動物と人々の生

活・社会の距離が近づくことによる影響が生じる可能性がある。

 例えば、交通事故や防獣ネットへの接触といった実例に加え、鳥インフルエンザのような病原体の媒介の

危険性や、人に直接危害を加える等の可能性がある。また、野外コウノトリの増加によって、コウノトリが生

活鳥として人々の意識から埋没し(当たり前になり過ぎ)、コウノトリも住める自然環境・社会環境の継続的

な改善、メンテナンスを怠ってしまうことも危惧される。

 これらに対しては、科学分野(県立大学・研究機関)と地域行政等を含む各関係主体が連携して課題

を共有するとともに、地域社会に適切な情報を発信していく必要がある。

【視点②:コウノトリが豊岡地域外に移動することに対する影響・責任】・・・取り組み分野:科学、地域社会

 コウノトリは、豊岡地域外の国内外にも飛んでいくため、絶滅した野生個体を野生復帰(IUCN ガイドラ

インに沿って再導入)した立場として、コウノトリの生態や、視点①に示したような課題も含め、豊岡地域外

の国内外に対しても、情報の発信、集約をしていく必要がある。

 さらに、現在の日本のコウノトリは数少ない家系の子孫であるため、大陸から飛来するコウノトリ等との交

配により遺伝的劣化を防ぐ必要があり、その状況を把握していく必要がある。

 これらに対しては、野生復帰の先行者の責任として、コウノトリ野生復帰に係る専門研究機関が、モニ

タリングや影響の予見、および周知発信、対応策の検討などについて全国の研究機関・関係主体の全国ネッ

トワーク化を図り、その中心的役割を担うべきである。

【視点③:コウノトリの生息環境保全・創出と人間社会における短期的利益・利便性や開発等とのトレー

ドオフ※】・・・取り組み分野:河川、農業、地域社会 ※トレードオフ:一方を得ようとすると他方を失う関係のこと。

 コウノトリと共生する社会づくりを進めていくと、コウノトリの生息環境保全・創出と、社会資本財との間で

トレードオフが生じる可能性がある。

 河川分野においては、湿地創出で治水と環境保全の両立を図っているが、例えば、限られた期間の中

で災害復旧事業を推進しようとすれば、河川周辺を工事の土砂仮置き場にせざるを得ず、一時的に湿地環

境を減少させるなど、自然環境に少なからず影響を与えるトレードオフが生じることになる。

 また、農業分野においては、現在想定しているバランス以上にコウノトリ等野生動物が増加し、農作物へ

の影響被害が増える可能性がある。

 さらに地域社会分野においては、新たな社会資本整備、開発行為が行われる場合、水田の転用など、

平野部を利用するコウノトリの生息環境保全とのトレードオフが生じる。

 このようなトレードオフが起こりうることを予め想定した対策、計画、ルールづくりが必要である。

例:河川分野 ・・・・環境影響調査結果の活用や科学分野との連携により、極力、コウノトリの生息に影

響の少ない手法を選定し、事業実施における配慮事項等について、専門家等に相

談を行い、生息環境に配慮しつつ実施する。

例:農業分野 ・・・・ 議論の際の科学的裏付けとして、餌場としての湿地の質的評価、豊岡地域の環境

収容力の現状評価と向上についての調査・研究が望まれる。

例:地域社会分野・・・社会資本財とのトレードオフについて、今後起こり得ることを予見し、スプロール(市

街地の無計画な広がり)の防止、農地の転用の制限等を含めて、計画・調整等の

ルールづくりを行う。

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Page 174: コウノトリ野生復帰に係る 取り組みの広がりの 分 …...Chapter 5:Summary of the Hyogo Toyooka Model Chapter 6:Recommendations for Further Progress in the Activities

※ PDCAサイクル:プロセス管理手法の一つ。計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)という4段階の活動を繰り返し行うことで、  継続的にプロセスを改善していく手法のこと。

【視点④:野生復帰による地域づくり進展の現状を見た、 市民の理解・誤解】・・・取り組み分野:地

域社会

 当初の先人の苦労や野生復帰が必要になった背景・課題への認識が薄れ、コウノトリ野生復帰の取り組

みによる地域づくりの良い側面だけを見て、野生復帰は容易、あるいは野生復帰で地域が活性化するとい

う安易な印象を豊岡地域内外に与えてしまう恐れがある。

 本来、「自然と共生する社会」の実現のために実行している取り組みであり、膨大なコスト、労力、年月

がかかっていることを発信・周知していく必要がある。

【視点⑤:取り組みの進展のための既存制度との調整】・・・取り組み分野:農業、地域社会

 環境配慮型農業や耕作放棄地の活用などを行うには、水利権を獲得する必要があり、新たな利害関係

が発生する恐れがある。関係機関の調整等を丁寧に行う必要がある。

 また、放棄田を活用した湿地の整備等についても同様に所有権や土地利用計画等の課題に直面するこ

とが想定される。所有権や既存制度・計画等との調整を丁寧に行う必要がある。

【視点⑥:取り組みの評価のための指標データの継続的収集】・・・取り組み分野:農業、地域社会

 PDCAサイクル のもと、継続的に実施状況や事業効果を整理・評価し、改善策や新たな施策導入に

つなげていく必要がある。

 農業分野では、コウノトリ育む農法の水稲作付面積の拡大スピードが近年やや鈍化していることから、要

因分析を行うためにも、農家単位や地区単位の収穫量、生産費用等にかかる数値データが必要である。

 地域社会分野では、総合的な評価値としての市民の意識や行動に関する指標、また、観光客の動態デー

タが必要である。

 しかし現状では、施策を評価でき、かつ経年的に測定されているこれらの指標データが不足しており、特

に地域社会分野についての追加計測・拡充が望まれる。

 例えば、地域社会分野では、取り組みに対する市民の評価(≒認知度、満足度)、環境行動の変化、

環境教育の効果、観光客の来訪目的や市内消費額など、農業分野では、収穫量、取り組み意欲、生産

費用等にかかる個別農家・地区別の数値データなどが望まれる。

【視点⑦:全国とのブランド競争】・・・取り組み分野:農業、地域社会

 コウノトリ野生復帰の取り組みの全国展開が進捗するにつれ、コウノトリ育むお米などのブランド価値が相

対的に低下していくことも想定される。昨今、コウノトリに限らず自然環境と共存した農法によるブランド農産

物の生産が全国的に取り組まれてきており、この分野におけるブランド競争は熾烈になっていくことが予想さ

れる。競争過熱によって全て沈下してしまうのか、品質・ブランドを維持しつつ更なる需要拡大ができるのか、

戦略を立てて取り組む必要がある。

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6.3.今後の全国での展開に向けて<期待が高まる豊岡地域に係る各主体の役割>

 豊岡地域のコウノトリは日本国内で200を超える市町村に飛来し、平成26(2014)年3月には、韓国に

飛来した。また、千葉県野田市、福井県越前市などにおいて、コウノトリの飼育繁殖から放鳥への動き

が加速されつつある。コウノトリ野生復帰の取り組みを、全国に先行して実践してきた豊岡地域に係る各

主体に期待される役割は地域に留まらないものとなってきている。

 特に、コウノトリの郷公園をはじめとする研究施設を有し、調査・研究を先導してきた兵庫県と兵庫県立

大学及び野生復帰を現場で支援し、地域づくりのシンボルとして展開してきた豊岡市の役割は重要である。

<全国ネットワークの必要性とトップランナーとしての役割>

 コウノトリの郷公園は、放鳥およびそれに至るプロセスを整理し、他地域の参考となるようマニュアルを作

成することが期待される。生態学的な観点からのコンサルティングがさらに求められよう。

 コウノトリそのものに係る科学分野においては、コウノトリの飼育に係る国内の施設などが相互連携を目指

した「ニホンコウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル」(IPPM:Inter-institutional Panel

on Population Management of the Oriental White Stork[IPPM-OWS])が設立(平成 25(2013)

年 12 月)されている。

 兵庫県や豊岡市は、野生復帰を進める総合行政のトップランナーとして、これから取り組んでいく自治体をネットワーク化(例えば、「コウノトリ野生復帰推進全国自治体ネットワーク」(仮称))し、その幹事役として、

IPPMと連携しつつ中心的役割を果たしていくことが求められる。各主体・各行政部局が持つ課題やノウハ

ウをこれらネットワークで共有し、全国的な取り組みの展開と深化に寄与していくことが求められる。

 一方で、全国での取り組みの広がりに伴って、豊岡地域における取り組みの独自性・先導性が埋没して

しまうことも考えられる。豊岡地域に係る各主体は、コウノトリに係る歴史を持つ地域として、更なる高みを

目指した取り組みを継続させ、トップランナー地域であり続けるための努力を継続させていかなければならな

い。

<地域コミュニティの成熟による生物多様性の維持>

 コウノトリ野生復帰の取り組みは、人の関わりにより生物多様性が維持される「SATOYAMA イニシアテ

ィブ型」と言え、さらには、地域づくりや暮らし方とも結びつく「生物多様性の生活的モデル」ともいうこと

ができる。

 里の鳥であるコウノトリが地域で生息できることは、人と生物を含めた地域の持続性の基本となるものであ

る。これは、単に特別天然記念物や絶滅危惧種の保全という観点だけで捉えられるべきものではなく、これ

からの我が国における地域のあり方、住まい方、暮らし方、さらには、我々国民一人一人の地域コミュニテ

ィの中での地域づくりへの関わりのありようを示唆している。

<関係省庁の連携継続の必要性>

 特別天然記念物コウノトリの保護を行う兵庫県に対して、文化庁は昭和 38 年から継続して支援を行って

きたほか、関係省庁の支援もあって現在の状況があるが、野生復帰したコウノトリは個別地域に留まらず国内外各地に飛び回るものである。従って、取り組みの全国的なネットワーク化とともに、文化庁、農林水産省、

国土交通省、環境省など関係省庁の連携と持続的支援が欠かせない。

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付属資料

付属資料の構成

●付属資料1:用語解説(社会的背景、取り組み)

●付属資料2:年表

●付属資料3:事業費一覧

●付属資料4:出典一覧

●付属資料5:「月刊文化財」平成20年度掲載コラム(一部加筆)      「特別天然記念物『コウノトリ』を中心に展開するまち—兵庫県豊岡市—」

●付属資料6:コウノトリ野生復帰検証委員会について

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 178

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 186

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 192

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 194

. . . . . . . 198

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 200

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◆付属資料1.用語解説

【社会的背景】[ア行]

失われた10年平成3 ~平成13(1991~ 2001)年

安定成長期終焉後の1990年代前半から2000年代前半にわたる経済低迷の期間を指す。就職難が深刻化するなど、長期にわたる不景気が地域経済に大きな影響を与えた。

失われた20年平成3~平成24(1991~ 2012)年

バブル崩壊以後、経済の低迷が改善に向かわなかったため、いざなみ景気の期間を含め、失われた10年と2000年代以降の経済を併せて「失われた20年」と呼ばれるようになった。長期にわたる不景気がデフレ傾向をもたらし、地域社会に大きな影響を与えてきた。

[カ行]

河川法改正平成9(1997)年

河川法は昭和39(1964)年に制定されたが、本改正は、国民の環境に対する関心の高まりや地域の実状に応じた河川整備の必要性、頻発する渇水状況等を踏まえ、環境の整備と保全を河川法の目的に位置付け、計画制度の抜本的な見直しを行うとともに、異常渇水時における水利使用の円滑化のための措置等を講じるもの。本改正により、自然環境の保全を目的とする河川事業が可能となり、その後の自然再生推進法の制定へとつながっていく。

河川水辺の国勢調査平成2(1990)年~

国土交通省が全国の河川・ダムにおける生物や環境等の調査を行い、データベースとして公開している。平成2(1990)年より開始。円山川水系におけるコウノトリの他、コウノトリの生息環境に関わる生物群などの変遷の基本データとなっている。

環境基本法平成5(1993)年

公害対策基本法、自然環境保全法では、対応に限界があることから、環境政策の新たな枠組を示す基本的な法律として制定された。(1)環境の恵沢の享受と継承等、(2)環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等、(3)国際的協調による地球環境保全の積極的推進が掲げられている。同法により、コウノトリの絶滅と関わる水質汚濁や土壌汚染に対する施策の枠組みが明確となった。

環境と開発に関するリオ宣言平成4(1992)年

ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)において合意された宣言。「アジェンダ21」の他、「森林原則声明」、「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」が国際的に合意された。

環境保全活動・環境教育推進法平成15(2003)年

「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」。平成24(2012)年に「環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律」(環境教育等促進法)に改正。学校・地域・職場等の様々な場における環境教育の推進方策や人材育成、拠点整備のための施策等について定めている。

高度経済成長昭和30 ~ 昭和48(1955~1973)年

戦後の日本経済が飛躍的に成長を遂げた時期。国民の所得や生活が向上した反面、過度の開発や農業の近代化などはコウノトリ減少・絶滅の原因の一つとなった。

UNFCCC-COP3開催、京都議定書平成9(1997)年

京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC-COP3)。京都議定書は気候変動枠組条約に関するもので、正式名は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」。企業の環境問題への取り組みが広く意識されるきっかけの一つとなった。

CBD-COP10開催、愛知目標採択平成22(2010)年

CBD-COP10は、生物多様性条約第10回締約国会議のことで、名古屋で開催された。本会議で合意された愛知目標は、人類が自然と共生する世界を2050年までに実現することを目指すもの。愛知目標でうたわれた戦略目標は、地域の自然再生事業などの指標となりうるものであり、コウノトリ野生復帰事業においても同様である。

(五十音順)

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[サ行]

自然再生推進法平成14(2002)年

過去に損なわれた自然環境を取り戻すため、行政機関、地域住民、NPO、専門家等多様な主体の参加により行われる自然環境の保全、再生、創出等の自然再生事業を推進することを目的とする。同法の施行を背景に、コウノトリ野生復帰事業が進められた。

持続農業法平成11(1999)年

正式名「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」。たい肥等による土づくりと化学肥料・化学農薬の使用の低減を一体的に行う「持続性の高い農業生産方式」の導入を促進する措置を講じ、環境と調和のとれた持続的な農業生産の確保を図るもの。コウノトリ野生復帰事業、コウノトリ育む農法にとって、水田等における化学肥料・化学農薬使用の低減は重要な要素である。

社会資本整備重点計画平成15(2003)年第2次社会資本整備重点計画平成21(2009)年第3次社会資本整備重点計画平成24(2012)年

社会資本整備重点法(平成15(2003)年)に基づき、社会資本整備事業を重点的、効果的かつ効率的に推進するために策定する計画。対象は道路、交通安全施設、鉄道、空港、港湾、航路標識、公園・緑地、下水道、河川、砂防、地すべり、急傾斜地、海岸及びこれら事業と一体となってその効果を増大させるため実施される事務又は事業。第2次計画(平成21

(2009)年)より、河川の整備にあたり、自然、歴史、文化等の河川の有する多様性を踏まえた上で、良好な自然環境の保全・再生やまちづくりと一体となった川づくりを進めていくことが示された。同計画に基づき、コウノトリ野生復帰をめざす人と自然が共生する川づくりの事業が推進されている。

種の保存法平成4(1992)年

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」。ワシントン条約を期に制定された「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」を発展させたもの。コウノトリは平成5(1993)年同法により保護の対象となった。

循環型社会形成基本法平成12(2000)年

日本における循環型社会の形成を推進する基本的な枠組みとなる法律。廃棄物・リサイクル政策の基盤が確立されたことで、企業活動や経済に影響を与えた。

食料・農業・農村基本法平成11(1999)年

食料の安定供給、多面的機能の発揮(水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成等)、農業の持続的な発展、農村の振興を基本理念として見なおした。農業の多面的機能の1つとして、自然環境保全が位置づけられた。

生物多様性条約平成4(1992)年

「生物の多様性に関する条約」。生物の多様性を「生態系」「種」「遺伝子」でとらえ、生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的とする国際条約。生物多様性の保全が持続可能な社会、経済の発展に不可欠であることを示した。

生物多様性基本法平成20(2008)年

日本の生物多様性政策の根幹を定める基本法。国による「生物多様性国家戦略」策定の義務付け、および地方公共団体による生物多様性地域戦略策定の努力義務を規定した。

生物多様性国家戦略平成7(1995)年新・生物多様性国家戦略平成14(2002)年第三次生物多様性国家戦略平成19(2007)年生物多様性国家戦略2010平成22(2010)年生物多様性国家戦略2012-2020平成24(2012)年

生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づく、生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国の基本的な計画。平成24(2012)年の計画では、(1)生物多様性を社会に浸透させる(2)地域における人と自然の関係を見直し・再構築する(3)森・里・川・海のつながりを確保する(4)地球規模の視野を持って行動する(5)科学的基盤を強化し、政策に結びつける 「5つの基本戦略」を設定している。

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[タ行]

多自然川づくり基本指針平成18(2006)年

国土交通省で平成2(1990)年に始まった多自然型川づくりの現状を検証し、新たな知見を踏まえた今後の多自然型川づくりの方向性について指針を定めたもの。取り組みの方向性として、

(1)河川全体の自然の営みを視野に入れた川づくりとすること、(2)生物の生息・生育・繁殖環境を保全・創出することはもちろんのこと、地域の暮らしや歴史・文化と結びついた川づくりとすること、(3)調査、計画、設計、施工、維持管理等の河川管理全般を視野に入れた川づくりとすることとしている。同指針に基づき、コウノトリ野生復帰をめざす人と自然が共生する川づくりの計画・設計等が進められている。

鳥獣保護法平成14(2002)年

「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」。前身の「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」を全面改正し、生物多様性の確保が加えられた。コウノトリは同法による非狩猟鳥である。

[ナ行]

日露渡り鳥条約昭和63(1988)年

渡り鳥や絶滅のおそれがある鳥類とその生息環境を保護するため、日本がロシアと結んでいる 2 国間での条約(旧日ソ渡り鳥条約、昭和 48 年)。昭和 60(1985)年にロシアのハバロフスクからコウノトリの幼鳥 6 個体を受贈し、豊岡市の飼育場で飼育を開始、その後のヒナ誕生につながる。

農業基本法昭和36(1961)年

その当時の社会経済の動向や見通しを踏まえて、我が国の農業の向かうべき道すじを明らかにするものとして制定された。平成11(1999)年、食料・農業・農村基本法の施行によって廃止された。

[ハ行]

バブル経済昭和60 ~平成2(1985 ~1990)年

日本で起こった資産価格の上昇と好景気、およびそれに付随して起こった社会現象。グローバル経済化の始まりでもあった。バブル崩壊後の失われた10年、失われた20年として地域経済に大きな影響を与えた。

バブル崩壊平成3(1991)年

バブル景気の後退期と不況などを指す。→バブル経済

ブルントラント報告、持続可能な開発昭和62(1987)年

日本の提案によって設けられた国際連合の「環境と開発に関する世界委員会」の報告で「持続可能な開発」が中心的な理念となり、その後広く認知される。「持続可能な開発」は、現在、環境保全についての基本的な共通理念として、国際的に広く認識されている。

文化財保護法昭和25(1950)年

文化財の保存・活用と、国民の文化的向上を目的とする法律。昭和31(1956)年、コウノトリが国の特別天然記念物に指定された。

[ヤ行]

有機農業推進法平成18(2006)年

「有機農業の推進に関する法律」。環境への負荷を低減する農業生産方法の推進を目的とする法律。化学肥料や農薬を使用せず、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とする有機農業の考え方は、コウノトリ野生復帰事業、コウノトリ育む農法の基本である。

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[ラ行]

ラムサール条約昭和55(1980)年

湿地の保存に関する国際条約で、水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守るため制定された。豊岡の「円山川下流域及び周辺水田」が平成24(2012)年に登録された。

リーマン・ショック平成20(2008)年

アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した出来事。これが世界的金融危機(世界同時不況)の大きな引き金となった。世界的な経済の冷え込みから、結果的に日本経済の後退につながった。

レッドデータブック日本版・平成元(1989)年、兵庫県・平成7(1995)年レッドリスト日本版第4次・平成24 ~ 25(2012 ~ 2013)年兵庫県・平成22 ~ 25(2010 ~ 2013)年

絶滅のおそれのある野生生物について記載した文献や種のリストのことで、日本では環境省や地方自治体などの団体が作成している。コウノトリは日本版で絶滅危惧IA類、兵庫県版でAランクに指定されている。

ローマクラブ 成長の限界昭和47(1972)年

民間シンクタンクのローマクラブが「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らした。日本の高度成長の後半期、公害や自然破壊が顕在化する中、社会のあり方を見直すきっかけの一つとなった。

[ワ行]

ワシントン条約昭和48(1973)年

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。コウノトリは同条約附属書Iに帰属し国際的な保護が必要とされている。

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【取り組み】[ア行]

アイガモ農法アヒルとカモを掛け合わせたアイガモを田植え後の水田に放し、雑草や害虫を食べさせる有機農法の一つ。農薬を使わなくてすみ、水や泥をかき回すので、水田内への酸素補給にも役立つ。成鳥の処理や飼育コストなどの課題もある。

アンブレラ種その地域における生態系ピラミッド構造、食物連鎖の頂点の消費者である。アンブレラ種を保護することにより、生態系ピラミッドの下位にある動植物や広い面積の生物多様性・生態系を、傘を広げるように保護できることに由来する。

栄養塩 植物(植物プランクトン含む)の生長・増殖に必要な窒素・リン等の無機塩類。

エコミュージアム

ある一定の文化圏を構成する地域の人びとの生活と、その自然、文化および社会環境の発展過程を史的に研究し、それらの遺産を現地において保存、育成、展示することによって、当該地域社会の発展に寄与することを目的とする野外博物館。発祥は1960年代フランスのエコミュゼである。

ENEOSわくわく生き物学校小学生とその保護者を対象に、田結湿地において、楽しみながら、科学的な観点から湿地や生物多様性のしくみを学ぶ1泊2日のプログラム。平成18(2006)年から毎年1回、JX日鉱日石エネルギー株式会社(当時は九州石油株式会社)の協賛により豊岡市主催で行われている。

[カ行]1/2

環境創造型農業

コウノトリの野生復帰では、田畑にドジョウやタニシなどエサが常時生息している必要があり、農薬を極力使用しない米づくりの方法が求められた。これに端を発し考案された、有機質資材等による土づくりと化学合成された肥料・農薬の使用低減とを一体的に行う農業生産方式。兵庫県は平成21(2009)年4月に「兵庫県環境創造型農業推進計画」を策定した。

グリーンツーリズム都市と農山漁村を行き交う新たなライフスタイルを広め、都市と農山漁村それぞれに住む人々がお互いの地域の魅力を分かち合い、「人、もの、情報」の行き来を活発にする取り組み。農山漁村における定住・半定住等も含む広い概念でもある。

コウノトリKIDSクラブ

豊岡市内の子どもたちがコウノトリや自然について学ぶ校外クラブ活動で、市内のビオトープや湿地などで生き物調査や保全作業などに取り組む。遊び学び、楽しみながらコウノトリのことを知り、野生復帰の取り組みやそれを支える自然や文化、地域の方々の取り組みを学んで「自分たちにできること」を考える。平成22(2010)年から開始。

NPO法人コウノトリ湿地ネット

コウノトリの野生復帰を確かなものとするため、コウノトリの採餌場所となる湿地の保全・再生・創造を行うなど、人と自然が共生する社会づくりに寄与することを目的とするNPO法人。平成19(2007)年9月に設立、事務所を豊岡市に置く。平成23(2011)年度から「ハチゴロウの戸島湿地」の指定管理者を務める。

NPO法人コウノトリ市民研究所コウノトリをシンボルに掲げ、生きもの調査や自然観察を行うNPO法人。豊岡市立コウノトリ文化館を拠点に、毎月開催する「田んぼの学校」のほか、「豊岡盆地の生きもの調査」など、大人や子どもが参加できる活動を行っている。平成10(1998)年5月に発足。

コウノトリツーリズムガイド豊岡市は、環境経済戦略(平成17(2005)年3月)においてコウノトリをシンボルとした、豊岡にしかできないツーリズムとして、コウノトリツーリズムを掲げた。平成20(2008)年からは、コウノトリツーリズム養成講座の修了生によるボランティアガイドの取り組みを始めている。

兵庫県立コウノトリの郷公園

兵庫県立コウノトリの郷公園は、コウノトリと共生できる環境が人にとっても安全で安心できる豊かな環境であるとの視点に立ち、人とコウノトリが共生できる環境と学習の場を提供することを目的として平成 11(1999)年に設立された研究施設。職員の一部は兵庫県立大学自然・環境科学研究所の研究員を兼務している。

コウノトリの舞豊岡市では、環境に配慮した栽培技術の導入によって、安全・安心な農産物及び農産加工品を生産する団体を「コウノトリの舞」農産物等生産団体として認定し、認定団体によって生産された農産物等に、認定ロゴマークを貼付して出荷している。平成21(2009)年度より開始。

(五十音順)

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[カ行]2/2

コウノトリ・パークボランティア兵庫県立コウノトリの郷公園が募集するボランティアで、コウノトリや自然について学び、放鳥されるコウノトリの追跡調査を行うことを目的としている。コウノトリ・パークボランティア養成講座を修了することが必要。平成13(2001)年に発足。

コウノトリファンクラブ

コウノトリの野生復帰を支援する市民グループ。兵庫県但馬県民局に事務局を置く。平成16(2004)年に発足。主な活動は、放棄田の復田化、ビオトープ化や水田魚道、人工巣塔の整備など自然環境の保全及び再生、生きもの調査およびコウノトリの目撃情報の収集および情報発信など。

豊岡市立コウノトリ文化館豊岡市立コウノトリ文化館は、人と自然の共生できる地域づくりの拠点(エコミュージアムのコア)として、コウノトリをはじめ、豊岡盆地の自然・文化・産業などを紹介している。平成12

(2000)年に開館。

コウノトリ保護協賛会 こうの鳥保護協賛会→但馬コウノトリ保存会

豊岡市地域交流センターコウノトリ本舗兵庫県立コウノトリの郷公園の隣に平成19(2007)年3月にオープンした豊岡市の施設。コウノトリ関連商品や郷土のこだわりを詰め込んだ特産品などの販売のほか、カフェスペースや観光情報も提供している。

コウノトリ未来・国際かいぎコウノトリ野生復帰事業の国際的アピールや計画の実現に向けた技術・知見の集積を目的に、兵庫県と豊岡市の共催で開催されるシンポジウム。平成6(1994)年に第1回、平成12

(2000)年に第2回、平成17(2005)年に第3回が開催された。

コウノトリ野生復帰推進計画

豊岡地域において、コウノトリを自然との共生の象徴として位置づけ、コウノトリがすめる環境の創出、すなわち自然再生を総合的に推進するための計画で、多様な主体の参画と協働による新たな地域づくりを目指すものである。兵庫県但馬県民局長を会長とするコウノトリ野生復帰推進協議会により平成15(2003)年3月に策定。

コウノトリ野生復帰推進連絡協議会「コウノトリ野生復帰推進計画」(平成15年3月)の実現に向け同年(2003年)7月に設置された、住民、関係団体、学識者、行政で組織する協議会。多様な主体が協議・連携を図り、人と自然が共生する地域づくりを進めながらコウノトリの野生復帰をめざしている。

子どもの野生復帰大作戦

子どもたちを野生に帰し、多くの自然体験をすることで、道徳観や正義感、豊かな発想や命を大切にする心、「ふるさと豊岡を愛する気持ち」を育むことを目的とした豊岡市のプログラム。メインのキッズワイルド(自然体験教室)は「子どもコース」と「親子コース」を開設し、「子どもコース」は活動内容別に3つのコースがある。平成18(2006)年より開始。

[サ行]

ジオパーク

地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園。ユネスコの支援により平成16(2004)年に設立された世界ジオパークネットワークにより、世界各国で推進されている。日本国内の世界ジオパークは、洞爺湖有珠山、糸魚川、島原半島、山陰海岸、室戸、隠岐の6地域が認定されている。

じる田水路と段差の無い湿田。ぬかるみの中での農作業は大変であったが、魚などの生き物にとっては、水路と水田を自由に行き来できる湿地帯であった。ほ場整備が行われる前、豊岡市円山川流域一帯に広がっていた。

人工巣す と う

塔コウノトリが営巣するために設置された塔で、豊岡市を中心に愛媛県西予市や広島県三次市にも設置されている。鉄筋コンクリート柱の頂上部に、鋼製の巣台が取り付けられているものが主流。

水田魚道

魚が水田へ遡上できるよう、水路から田んぼへの道(階段等)を作ること。かつて川と水路と水田は繋がっており、水田は魚にとって繁殖の場所であり、魚を食べるコウノトリの餌場であった。しかし、農作業の機械化によって水田が乾田化されたため、給排水はポンプで行われるようになり、川と水田のつながりは遮断された。水田魚道は、かつての水田と川のつながりを回復するための工夫である。

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[タ行]

田た

結い

湿地

田結地区は、豊岡市の北東部に位置し、日本海に面した海岸と田結川の流域に形成された集落。谷沿いにある約12haの水田は、減反政策やシカなどの獣害、後継者不足により放棄田となっていたが平成20(2008)年から近くの戸島湿地で繁殖しているコウノトリが餌場として舞い降りるようになり、地域とNPO、地元行政が共同して、生物多様性を保全する活動を始めた。

台風23号

平成16(2004)年10月20日、高波、大雨、土砂崩れ、洪水など、広い範囲に多大な被害を及ぼした。現豊岡市での建物被害は、全壊333棟、大規模半壊1,082棟、半壊2,651棟、一部損壊292棟、床上浸水545棟、床下浸水3,326棟におよび、兵庫県下における被害の約半数を占めた。人的被害は死者7人で、6人は洪水、1人は土砂災害によるものであった。

但た じ ま

馬コウノトリ保存会

昭和30(1955)年、当時の兵庫県知事坂本勝が、山階鳥類研究所の創設者、山階芳麿博士より「兵庫県に生息するコウノトリはきわめて珍しく、貴重な存在、なんとか保護の手を差し伸べなければならない」との通達を受け、「こうの鳥保護協賛会」を発足させた。3年後の昭和33(1958)年に「但馬コウノトリ保存会」と改称し、保護活動をはじめ人工巣塔を建設するなど26年にわたって幅広く展開させた。会は昭和56(1981)年に豊岡市に移管され、その活動は豊岡市役所コウノトリ共生部、兵庫県立コウノトリの郷公園、コウノトリ保護増殖センターに受け継がれている。

田んぼの学校

古くから農業の営みの中で形づくられてきた水田や水路、ため池、里山などを、遊びと学びの場として活用する環境教育の総称。平成10(1998)年度、当時の国土庁、文部省、農林水産省の3省庁合同の調査を踏まえ、各界有識者による研究会が設置され、水田などを積極的に活用した環境教育「田んぼの学校」が提唱された。

戸としま

島湿地

円山川の右岸に位置し、円山川からの淡水と日本海からの汽水、山からの湧水が混在する面積3.8haの湿地。平成14(2002)年に雄の野生コウノトリ(ハチゴロウ)が飛来して以降、コウノトリ野生復帰事業の一環として豊岡市が整備を進め、平成21(2009)年4月に「ハチゴロウの戸島湿地」として完成した。コウノトリをはじめとした野鳥の生息拠点として、環境教育の拠点として、観光拠点としても活用されている。

ドジョウ一匹運動昭和30(1955)年に発足した「コウノトリ保護協賛会」が始めた保護活動の一つ。コウノトリの餌不足を解消するために県内各地からドジョウを持ち寄ることを呼びかけた。

豊岡エキシビジョンコウノトリをシンボルとした環境都市の実現に向けた取り組みや、固有の自然、歴史、伝統、文化に根ざしたまちづくりを発信するイベント。豊岡の挑戦をトークや映像で伝え、本市の知名度アップを狙う。主に首都圏において平成21(2009)年度から年1回取り組んでいる。

豊岡市環境経済戦略環境を良くする取り組みによって経済効果が生まれる、経済効果が生まれることによって環境を良くする取り組みが活発になる。そんな相乗効果を目指し、環境と経済が共鳴する仕組みや事業を市内で増やしていこうという戦略。平成17(2005)年3月に策定された。

豊岡市コウノトリ基金 →ふるさと納税「コウノトリ豊岡寄付金」制度

[ナ行]

日本・アジアSATOYAMA教育イニシアティブ

環境省のアジア環境人材育成イニシアティブにおける大学教育プログラム開発事業の一つ。「里山」に代表される伝統的な地域資源の利用・管理システムへの理解を深めるとともに、フィールドでの実践および国際的な交流を通じて、アジアに共通する自然観を現代社会に再編・再生するための方途を自ら見出し、それらをあらたな循環・共生型社会モデル(SATOYAMA Model)としてアジアおよび世界に発信できる国際的な環境リーダーの育成をめざす。そのため、学術拠点(東京大学)、国際拠点(国連大学高等研究所)およびフィールド拠点(兵庫県豊岡市)の 3 拠点を設置し、拠点相互の有機的な連携により教育シナジー効果を高めるカリキュラムを提供する。平成 20(2008)年度より開始。

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[ハ行]

ハチゴロウ

平成14(2002)年8月5日、湿田であった戸島湿地に一羽の雄の野生コウノトリが飛来し、確認された日にちなんで「ハチゴロウ」と名づけられた。以来5年近くにわたり豊岡市に留まって生活を続け、地域住民や愛好家らに親しまれていたが、平成19(2007)年2月27日に同市金剛寺の山林で死亡しているのが確認された。ハチゴロウの飛来によって野生のコウノトリは通常どのような行動をとるのかなど多くの事実を実際に目撃・確認することができた。これらの功績を称えるとともに、市民に親しまれた記憶を風化させないよう、保全した戸島湿地に名前を残すこととなった。

ひょうご安心ブランド農産物認証制度

土づくりを基本とし、化学合成された農薬や肥料の使用を低減する生産方式(ひょうご安心ブランド農産物生産方式)を取り入れた農産物について、残留農薬等の自主検査体制を整備し、生産情報を公開できる生産者集団について審査を行い、県が認証する制度。平成13(2001)年12月から開始された。認証生産者集団が生産した農産物は 「ひょうご安心ブランド農産物」として、認証マーク等を貼付して流通される。

ふるさと納税「コウノトリ豊岡寄付金」制度

個人がふるさと(応援したいと思うまち)に寄付を行ったとき、所得税と住民税から一定の控除を受けられる「ふるさと納税」。この制度を、豊岡市では「コウノトリ豊岡寄付金」と名称を定めて寄付を募っている。寄付金は「豊岡市コウノトリ基金」に積み立てられ、コウノトリ野生復帰を核とした「人と自然が共生するまちづくり」事業に使われる。

放鳥

人間によって捕獲あるいは飼育されていた鳥を野外に放し、人間の管理下から離脱させること。平成17(2005)年9月24日、兵庫県立コウノトリの郷公園で行われたコウノトリの放鳥式で5個体のコウノトリが大空に放たれ、昭和46(1971)年に国内最後の野生コウノトリが姿を消してから、30数年ぶりに、但馬の空に復活することとなった。現在、コウノトリの郷公園では、コウノトリを野外の環境に慣れさせるための馴化訓練を経て次の4つの方法で放鳥をしている。1.適切な場所から複数の個体を一斉に放鳥する、2.飛べない状態にしたペアを放鳥拠点で飼育・繁殖させ、巣立ちした幼鳥を自由にさせる、3.オスとメスを放鳥拠点で飼育し、拠点を認知したころに自由にさせる、4.飛べない状態にした複数のメスを放鳥拠点で飼育し、飛翔可能な複数のオスを付近に放鳥し、繁殖させる。

ほ場整備事業耕地区画の整備、用排水路の整備、土層改良、農道の整備、耕地の集団化を実施することによって労働生産性の向上を図り、農村の環境条件を整備することである。農林水産省や都道府県の公共事業として行われる。

[ワ行]

ワンド「入り江」や「川の淀み」「淵」のこと、あるいは、川の本流と繋がっているが、水制などに囲まれて池のようになっている地形(淀川のワンドなど)のことである。魚類などの水生生物に安定したすみかを与えるとともに、様々な植生が繁殖する場にもなる。

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

江戸時代 ─ ●ほぼ全国各地でコウノトリが見られた・豊岡市内では、中期から幕末までいくつかの記録が残されている。 ・1685年「生類憐みの令」発布

明治時代 ─●乱獲・明治元年から24年まで、野生動物保護に対する国の手立てはなく、この間に多くの鳥獣が絶滅に追いやられた。

明治25(1892)年 2

●「狩猟規則」の制定・狩猟規則により一部の鳥獣が保護されたが、コウノトリやトキには効率的な農業の支障になる有害鳥との認識があり、保護対象にはならなかった。

明治27(1894)年 2 ・コウノトリが再び姿を現し、鶴山(現・豊岡市出石町桜尾)に1つがいが営巣

する。

明治37(1904)年 8

●瑞鳥ブーム・鶴山に営巣したコウノトリが4個体のヒナを孵す。日露戦争の勝利とあいまって、繁殖は吉兆であると「瑞鳥」ブームが起きる。・地元の人々は、コウノトリ見物のために茶店を出し、観光客の誘致活動を展開した(茶店は第2次世界大戦前まで続いた)。●保護行政・旧室植村は鶴山を保護し、兵庫県は鶴山の周囲18haを狩猟禁止地に指定する。

・日清戦争が始まる。

明治40(1907)年 10 ・この頃、旧奈佐村でもコウノトリ1つがいが営巣・繁殖 ・台風により豊岡市内約5,000戸が浸水被害

明治41(1908)年 10

●「狩猟法」の改正・鳥獣保護の根拠に、初めて「希少性」が加えられて、コウノトリ、トキ、ヘラサギが保護鳥として追加指定される。しかし、時はすでに遅く、全国からほとんど姿を消していた。

大正8(1919)年 30 ・「史蹟名勝天然記念物保存法」制定

大正9(1920)年 ─ ・円山川で大規模改修工事が始まる(1937年)

大正10(1921)年 ─ ●史蹟名勝天然記念物の指定

・コウノトリの繁殖地として出石桜尾の「鶴山」が天然記念物に指定される。

大正12(1923)年 ─ ・関東大震災

昭和9(1934)年 41

●但馬コウノトリの最盛期・この頃,コウノトリの生息地は、豊岡盆地を中心に朝来市和田山から京都府京丹後市久美浜町の間(15㎞×30㎞)に拡大。

昭和14(1939)年 ─

●営巣木の伐採・戦地へ供給する木材として松が大量に伐採されたため、コウノトリは営巣の場を失い、個体数が激減する。大陸の渡りルートが戦地になったことも大きい。

・第2次世界大戦が始まる。

昭和20(1945)年 ─ ・第2次世界大戦が終わる。

昭和25(1950)年 ─

・豊岡市河谷、八鹿町(現・養父市)浅間にそれぞれ1つがいが営巣。●「文化財保護法」の制定・コウノトリが文化財保護法の保護対象に指定される。

・豊岡町、新田村、中筋村、五荘村が合併し、豊田市が発足●農地改革

昭和26(1951)年 ─ ・コウノトリ生息地の移動に伴い、天然記念物指定を「鶴山」から「養父郡(現・

養父市)伊佐村」に変更する。

昭和27(1952)年 ─ ・「養父郡伊佐村」の指定が、天然記念物から特別天然記念物に変更される。

昭和28(1953)年 ─ ●「種」として保護指定

・コウノトリの移動に伴い、天然記念物指定を「生息地」から「種」に変更する。

昭和30(1955)年 ─

●組織的な保護活動の始まり・行政と民間が共同して「コウノトリ保護協賛会」を結成、官民一体となった保護活動が始まる。昭和33年に「但馬コウノトリ保存会」(以下、保存会という)と改称。

昭和31(1956)年 23 ・「コウノトリ」の指定が、天然記念物から特別天然記念物に変更される。

昭和34(1959)年 22 ・この頃から保存会は、「コウノトリをそっとする運動」や、人工巣塔の設置(豊岡

市百合地地区)、人工餌場を作り、小魚を放流するなどさまざまな活動を展開。) ・伊勢湾台風により市内16,800戸に浸水被害

昭和35(1960)年 18

●経済成長重視社会へ・池田内閣が「所得倍増計画」を発表。驚異的な経済成長を遂げた50~ 70年代の「高度経済成長期」のなか、生活様式が大きく変化。農村から都市への人口移動、農村構造の変化、都市の大気や水の汚染が社会問題となる。

◆付属資料2.年表

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

昭和36(1961)年 15

・第2室戸台風により豊岡市内1,933戸に浸水被害●近代的・効率的な農業へ・その当時の社会経済の動向や見通しを踏まえて、我が国農業の向かうべき道すじを明らかにするものとして「農業基本法」を制定。化学肥料や農薬、大型機械を使った農法が急速に広がる。

昭和37(1962)年 15 ・保存会が「ドジョウ1匹運動」を展開。

・兵庫県が「特別天然記念物コウノトリ」管理団体に指定される。・レイチェル・カーソンが「沈黙の春」を出版。化学物質による土壌汚染に警鐘を鳴らす。

昭和38(1963)年 14 ・保存会が、活動費を募る「愛のきょ金運動」を開始。

・兵庫県がコウノトリの人工飼育に踏み切ることを決定。

昭和40(1965)年 11 2

●コウノトリ人工飼育の始まり・豊岡市野上にコウノトリ飼育場(現・コウノトリの郷公園付属施設保護増殖センター(以下、「飼育場」という))が完成。野生コウノトリ1つがい(2個体)を捕獲し、人工飼育を開始する。・コウノトリが兵庫県の県鳥に指定される。・文部省のコウノトリ飼育対策協議会で、野外に生息しているコウノトリすべてを人工飼育によって保護することを確認。

・食料自給率(カロリーベース)が73%になる。・台風23号により市内の1,933戸に浸水被害。・市内で農業構造改革事業を始める(赤石地区、土渕地区の土地基盤整備)。

昭和41(1966)年 7 1 ・東京教育大学の武藤教授が、豊岡盆地で死んだコウノトリの死因は、水銀

剤農薬によると発表。

・円山川が1級河川に昇格する。・1956年から始まった円山川改修の工事実施基本計画が定められる。

昭和42(1967)年 6 4 ・市内で野生コウノトリ2つがいを捕獲。

・第1回コウノトリ保護増殖対策会議開催。 ・「公害対策基本法」制定

昭和43(1968)年 5 4 ・市内中筋北部の圃場整備、コンバイン購入事

昭和44(1969)年 3 6 ・市内で野生コウノトリ1つがいを捕獲。

昭和46(1971)年 1 4

●日本の野外でコウノトリ絶滅・市内で傷ついて衰弱した最後のコウノトリが保護されたが死亡。これにより、コウノトリは日本の野外から姿を消した。・福井県武生市で保護されたコウノトリ1個体が飼育場に移送される。・鹿児島県奄美郡徳之島町でコウノトリ1個体が保護される(翌年、飼育場に移送される)

・「ラムサール条約」採択・環境庁が設置される。●農政の大きな変化・減反政策・米の過剰供給解決のため、減反政策が始まる。

昭和47(1972)年 0 5

・ローマクラブ「成長の限界」発表・国連人間環境会議(ストックホルム)で「人間環境宣言」・国連環境計画(UNEP)設置・第17回ユネスコ総会で「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」採択・市内で法花寺万歳保存会発足

昭和51(1976)年 0 5 ・台風17号により市内3,022戸に浸水被害

昭和54(1979)年 0 5 ・台風20号により市内1,016戸に浸水被害

昭和58(1983)年 0 6 ・㈲朝日農事組合発足

昭和60(1985)年 0 7

●ロシアよりコウノトリを導入・旧ソ連、ハバロフスク地方からコウノトリの幼鳥6個体を受贈し、飼育場で飼育を始める(以降、平成11年、15年、16ほ年にもハバロフスクから寄贈あり)

・食料自給率(カロリーベース)が53%になる。・市内で初めて1集落1営農形態の中谷農事組合が発足

昭和61(1986)年 0 10 ・飼育場で、豊岡盆地に生息していたコウノトリの最後の1個体が死亡。日本

のコウノトリ絶滅。

平成元(1989)年 0 11 ●人工繁殖に成功

・コウノトリの人工繁殖に初めて成功(2個体生育)。以降、毎年ヒナが誕生する。 ・日本版レッド・データブック(第1版)公表

平成2(1990)年 0 15

・バブル経済の崩壊・台風19号により市内2,508戸に浸水被害・北近畿タンゴ鉄道宮津線の開業

平成3(1991)年 0 20 ・東京都多摩動物公園から、2個体繁殖貸与を受ける(以降、頻繁に国内動物

園との個体の行き来あり。記述は省略)。

平成4(1992)年 0 26

●コウノトリ野生復帰計画が始まる・飼育下にあるコウノトリの将来方向を決めるため、コウノトリ将来構想調査委員会(以下、「委員会」という)が発足。

・国連環境開発会議(リオネジャネイロ)で「環境と開発に関するリオ宣言」、「生物多様性条約」採択・「種の保存法」制定・柳行李が伝統的工芸品の指定を受ける。・但馬空港(現・コウノトリ但馬空港)の開港

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

平成5(1993)年 0 30 ・委員会は、飼育下コウノトリを野生復帰させる方向を確認。その中間報告で、

野生化拠点場所を、豊岡市祥雲寺・河合・百合地地区に建設することを決定。

・EU発足・国連持続可能な開発検討委員会設置・「環境基本法」制定

平成6(1994)年 0 40

・委員会がコウノトリの基本構想を策定する。・飼育下第3世代(F2)が誕生し、安定した繁殖に目処が立つ。・第1回コウノトリ未来・国際かいぎの開催。テーマ「コウノトリの野生復帰」

・「気候変動枠組条約」策定・但馬ミュージカル研究会発足

平成7(1995)年 0 43 ・県が、コウノトリの郷公園(仮称)基本計画を策定。

・「生物多様性国家戦略」策定・阪神・淡路大震災・食料自給率(カロリーベース)が43%になる。

平成8(1996)年 0 44 ・ISO14001発効

平成9(1997)年 0 47

・コウノトリの郷公園建設工事着工。・コウノトリの郷公園で分散飼育開始。・豊岡あいがも稲作研究会発足。コウノトリの郷公園周辺で、無農薬による米づくりが組織的に始まる。

・地球温暖化防止京都会議(COP3)開催。「京都議定書」採択。国ごとの二酸化炭素排出量削減数値目標を定める。・河川法の改正(目的に環境保全を追加)・駅前再開発ビル「アイティ」完成

平成10(1998)年 0 54 ・コウノトリ市民研究所発足(2004年にNPO法人化)。以降、豊岡盆地の生

きもの調査をはじめ、「田んぼの学校」の開催等様々な活動を行っている。・「家電リサイクル法」制定・豊岡で最初の朝市「加陽の朝市」ができる。

平成11(1999)年 10 66

●種の保存、野生化に向けた拠点ができる。・兵庫県立コウノトリの郷公園が開園。・コウノトリの郷公園進入路の電柱を地中化

・「食料・農業・農村基本法」制定・コウノトリの郷公園前で「コウノトリの郷朝市(現コウノトリの郷直売所)が始まる。

平成12(2000)年 10 73

●市民の学習の場を提供する普及啓発施設ができる・コウノトリの郷公園内に、豊岡市立コウノトリ文化館が開館。・豊岡市コウノトリ基金を設置。・第2回コウノトリ未来・国際かいぎ開催。テーマ「人と自然の共生」

・「循環型社会形成推進基本法」制定・「建設リサイクル法」制定・「食品リサイクル法」制定・円山川河川敷一部を湿地再生(ビオトープ化)・「コウノトリの郷朝市友の会(現合同会社コウノトリの郷直売所)」発足

平成13(2001)年 30 82 ・転作田を活用したビオトープ水田を始める。

・コウノトリ・パークボランティア発足。 ・環境省発足

平成14(2002)年 野1 101

●行政担当部署の整備、体系的な政策の企画・調整・市企画部内に「コウノトリ共生推進課(現コウノトリ共生課)」を設置。・兵庫県但馬県民局企画調整部に「コウノトリ翔る地域づくり担当参事」が設置される。・飼育コウノトリが100個体を超える。・水田と水路をつなぐ魚道の設置が始まる。・「コウノトリ野生復帰推進計画」策定。・「コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想・計画」策定。●野生コウノトリの飛来・8月に野生コウノトリ1個体(ハチゴロウ)が飛来。

・「自然再生推進法」成立・「新・生物多様性国家戦略」決定・「自動車リサイクル法」制定・食料自給率(カロリーベース)が40%になる。・「豊岡市総合計画」策定。目指す都市像を「コウノトリ悠然と舞い、笑顔あふれるふるさと・豊岡」と定める。これに基づき、「コウノトリと共に生きるまちづくりのための環境基本条例」、

「豊岡市環境基本計画」策定・円山川水系自然再生計画(国・県)策定委員会の発足・「コウノトリの郷営農組合」発足・「河谷地区営農組合」発足・エコファーマー認定制度の開始

平成15(2003)年 野1 105

●横の連携が広がり始める・コウノトリ野生復帰推進連絡協議会の設置か・コウノトリ野生復帰技術方策検討委員会の設置。・10月、コウノトリ文化館来訪者が50万人に達する。・転作田を活用したビオトープづくりが市内複数の農会・農事組合に広がる。・安全・安心農産物ブランド「コウノトリの舞」の商標登録。・コウノトリと共生する水田づくり(田園自然環境再生、転作田ビオトープ、中干し延期、冬期湛水農作)が始まる。・コウノトリの試験放鳥に向けた野生馴化訓練が始まる。・愛知県でコウノトリ1個体が捕獲され、郷公園へ移送される。・文化庁より、豊岡盆地が「文化的景観」に認定される。

・「環境保全活動・環境教育推進法」制定・「遺伝子組換え生物規制法」制定・「循環型社会形成推進基本計画」策定・「食糧法」改正・但馬地域がグリーン・ツーリズム特区に認定され、市民農園や農家民宿がオープンする。・第1回コウノトリ感謝祭開催(以降、第3回まで毎年開催)・市内小学校を環境教育モデル校に指定・収集ごみの有料化を開始・「豊岡市環境行動計画」策定

平成16(2004)年 野1 113

・プレ愛知万博でコウノトリ野生復帰をPR。・コウノトリ野生復帰を全国規模で応援する「コウノトリファンクラブ」が発足。・コウノトリの郷公園周辺県道の電柱地中化・美装化を行う。・韓国教員大学韓国コウノトリ研究所へコウノトリ2個体譲渡(以降、H19にも譲渡あり)・野生復帰に向けた順化訓練(飛行・採餌など)の実施。・新潟県でコウノトリ1個体が保護され、郷公園へ移送される。

・「景観法」施行・国産最後のトキ「キン」が死亡・鳥インフルエンザが問題となる。・円山川下流域が全面銃猟禁止区域となる。・ひのそ島の掘削工事が始まる。・台風23号により、市内7,944戸に浸水被害・豊岡かばんが「Japanブランド育成支援事業」に選定される。・「豊岡市環境経済戦略」策定・市内で研究活動を行う学生を支援する「コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度」が始まる。

平成17(2005)年

野1放7 111

●コウノトリ試験放鳥始まる・9月、飼育下コウノトリの試験放鳥が始まる。・第3回コウノトリ未来・国際かいぎ開催。テーマ「人と自然が共生する持続可能な地域づくり」・「コウノトリ育む農法」が各地域に広がる。

・4月、1市5町の合併により新豊岡市となる。・市街地に「カバンストリート」がオープン

以上、第3回コウノトリ未来・国際かいぎ(2005.9) 資料「豊岡の挑戦」から

188

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

平成17(2005)年

野1放7 111

3月 ・愛知万博で「コウノトリ野生復帰」プロジェクト紹介(愛知県名古屋市)

4月 新「豊岡市」発足

6月 ・クチバシの折れたコウノトリ「武生」が死亡

9月・飼育下のコウノトリの試験放鳥開始 自然放鳥5個体・祥雲寺 段階的放鳥2個体・野上

9月 ・第3回コウノトリ未来・国際かいぎ開催。テーマ「人と自然が共生する持続可能な地域づくり」

平成18(2006)年

野1放13 107

4月●野外での産卵(孵化せず)・自然放鳥の中から2個体がペアになり、産卵(孵化には至らず、百合地人工巣塔)

4月 ・市に「コウノトリ共生部」設置・コウノトリ環境経済コンソーシアム設立

5月

・祥雲寺の段階的放鳥拠点のペアへ託卵。ヒナ2個体が飛び立ち・野上拠点での段階的放鳥を中止・愛媛県から野生コウノトリ1個体(エヒメ)が飛来

5月 ・子どもの野生復帰大作戦「自然体験学校」開講

6月 ・コウノトリ文化館入館者100万人到達

7月 ・試験放鳥 段階的放鳥2個体・祥雲寺

9月・試験放鳥 自然放鳥3個体・円山川河川敷 段階的放鳥4個体・河谷

11月 ・豊岡市環境審議会「豊岡市コウノトリと共に生きるまちづくりのための環境基本条例案」答申

2月 ・17年度自然放鳥個体1個体死亡・野生コウノトリ「ハチゴロウ」死亡 ・「コウノトリ舞い降りる田んぼ」に市内5地区認定

3月

・市立地域交流センター「コウノトリ本舗」オープン・バイオマスタウン構想書公表・豊岡市総合計画策定・「(仮称)ハチゴロウの戸島湿地」整備基本構想・計画策定

平成19(2007)年

野1放18 99

4月 ・18年度自然放鳥の中から2個体がペアになり産卵(孵化には至らず・赤石人工巣塔)

5月 「コウノトリ舞い降りる田んぼ」に市内9地区認定

6月 ・日欧共同ワークショップ・シンポジウム(ドイツ)で市長が講演

7月●野外でのヒナ誕生・巣立ち(国内で46年ぶり)・18年度段階的放鳥のペアからヒナ1個体が巣立ち(百合地人工巣塔  5/20誕生、7/31巣立ち)

7月 ・環境経済型セミナー(市民環境大学)・ひのそ島(円山川中州)掘削完成

9月・試験放鳥 自然放鳥3個体・楽々浦 段階的放鳥2個体・山本

10月 ・韓国教員大学韓国コウノトリ研究所へ4個体譲渡 10月

・日欧共同ワークショップ・シンポジウムを豊岡で開催●学校給食の変化・市内小中学校の学校給食で、コウノトリ育むお米を2カ月に3回の割合で使用

11月 ・バイオディーゼル燃料(BDF)を学校給食配送車に使用

2月 ・自然放鳥個体1個体収容

3月 ●野生復帰後初めてのヒナの誕生日を市の記念日に・豊岡市「生きもの共生の日」(5/20)を制定

平成20(2008)年

野1放27 100

5月 ・三木の段階的放鳥拠点のペアへの託卵。その後、ヒナ2個体が飛び立ち 5月

・ふるさと納税「コウノトリ豊岡寄付金」制度導入・コウノトリツーリズムガイドを開設・田結の休耕田で湿地創出の動き・「コウノトリ舞い降りる田んぼ」に市内1地区認定

6月●野外での順調な繁殖・自然、段階的放鳥の中から5ペアのヒナ8個体が巣立ち(~ 7月)

6月 ・コウノトリ生息地保全協議会を設立

7月 ・試験的放鳥 段階的放鳥2個体・三木 7月

・豊岡市マスコット・コウノトリの「コーちゃん」、オオサンショウウオの「オーちゃん」誕生・コウノトリ文化館入館者200万人到達

9月 ●トキの野生復帰始まる・トキ放鳥記念式に市長参加(新潟県佐渡市)

10月 ・ラムサール条約第10回締約国会議に参加(韓国)

1月 ・放鳥コウノトリの野外繁殖により巣立った個体1個体死亡

2月 ・豊岡KODOMOラムサール交流会を開催

189

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

平成21(2009)

野1放35 98

4月 ・放鳥コウノトリの野外繁殖により巣立った個体1個体死亡 4月

・コウノトリの郷公園開設10周年 ・学校給食を毎日米飯にするとともに、毎週1回の割合でコウノトリ育むお米を使用 ●野外コウノトリのための拠点施設ができる ・ハチゴロウの戸島湿地(城崎町戸島)開設

5月 ・自然、段階的放鳥、野生個体の中から4ペアのヒナ9個体が巣立ち(~ 8月) 5月

●寄付金「コウノトリ基金」の本格的活用が始まる ・市内小学校区ごとにコウノトリ基金活用ビオトープの設置を開始。小学校授業と連携

6月 ・「コウノトリ舞い降りる田んぼ」に4地区認定(うち市内1地区)

9月 ・日本・アジアSATOYAMA教育イニシアティブ実習(東京大学、国連大学高等研究所、豊岡市連携事業)

10月 ・試験放鳥 段階的放鳥2個体・唐川

11月 ・豊岡市経済成長戦略策定

12月・21年度段階的放鳥個体1個体死亡 ・放鳥コウノトリの野外繁殖により巣立った個体1個体死亡

2月 ・自然放鳥個体1個体収容

平成22(2010)年

野1放41 98

4月

・福井県越前市に野生個体1個体が飛来(4/1 ~連続107日間滞在) ・山本の段階的放鳥拠点のペアへ託卵。その後、ヒナ2個体が飛び立ち

4月

・コウノトリ文化館開設10周年 ・豊岡市エコハウス完成 ●豊岡市に「環境のまちづくり」専門員(生物多様性保全担当)に配置

5月 ・「国際生物多様性年関連事業」を実施(~ 10月)

6月・自然、段階的放鳥、野生個体の中から5ペアのヒナ9個体が巣立ち(~ 8月・自然放鳥個体と野生個体の間に初めてのヒナ誕生。遺伝的多様性に光明)

7月 ・試験放鳥  段階的放鳥2個体・山本 7月 ・「コウノトリ舞い降りる田んぼ」に3地区認定(うち市

内1地区)

8月 ・JICA草の根技術協力による中国への支援(環境教育・環境創造型農業)のため訪中

9月・放鳥コウノトリの野外繁殖により巣立った個体2個体死亡・22年度段階的放鳥個体1個体死亡

9月●ラムサール条約湿地登録に向けた動きが本格化 ・「円山川下流域及び周辺水田」がラムサール条約の国内潜在候補地に選定(9/30)

10月

・山陰海岸ジオパークが世界ジオパークに認定・生物多様性条約第10回締約国会議(CBD /COP10)に参加(愛知県名古屋市)・第4回コウノトリ未来・国際かいぎを開催。テーマ「野生復帰がもたらすもの~コウノトリが紡ぐいのち・地域・経済・文化」・「コウノトリ生息地を全国に広げる市民かいぎ」、「関係自治体会議」を開催

12月

・高病原性インフルエンザ対策が本格化・鳥取県米子市と富山県高岡市で死んだ野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたことを受け、郷公園でのコウノトリ12個体の公開を一時中止

(12/25 ~ 1/2収容)

12月 ・豊岡市高病原性鳥インフルエンザ警戒本部を初めて設置

1月

・兵庫県伊丹市端ケ池で死亡していた野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたこと等を受け、郷公園でのコウノトリ12個体の公開を再び一時中止(1/27 ~ 3/22収容)

2月 ・19年度自然放鳥個体1個体死亡 2月 ・兵庫県が「コウノトリ野生化対策会議」を立ち上げ

3月 ・18年度自然放鳥個体1個体死亡 3月 ●東日本大震災発生(3/11)

以上、第4回コウノトリ未来・国際かいぎ(2005.9) 資料「豊岡の挑戦」から

190

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年コウノトリの数

コウノトリに関するできごと 関係するできごと野生 飼育

平成23(2011)年

野1放47 95

4月 ・放鳥コウノトリの野外繁殖により巣立った個体1個体死亡 4月 ・学校給食でのコウノトリ育むお米の使用を週2回に

・市政策調整部内に「エコバレー推進室」を設置

5月 ・コウノトリ文化館入館者300万人到達

6月・自然、段階的放鳥、野生個体の中から5ぺア9個体が巣立ち(~ 9月・百合地巣塔 9/24のヒナ巣立ちは最も遅い記録)

8月

●コウノトリ野生復帰の中長期計画策定 ・兵庫県教育委員会とコウノトリの郷公園が「コウノトリ野生復帰グランドデザイン」を発表・兵庫県がコウノトリ野生復帰推進計画(第2期)策定委員会」を立ち上げ

9月 ・18年度段階的放鳥個体1個体死亡

11月 ・豊岡市が「生物多様性地域戦略検討委員会」を立ち上げ

12月●兵庫県以外での繁殖個体群創設に向けた動きがスタート ・福井県越前市に1ペア(2個体)を移送(12/10)

1月

豊岡盆地以外で4個体の長距離移動を確認(福井県三方上中郡若狭町、岡山県倉敷市(および総社市)、愛媛県西与市、鹿児島県南さつま市)。1月1日~ 31日の目撃情報

3月 ・「コウノトリ野生復帰推進計画(2期)」策定

平成24(2012)年

野1放58 91

4月 ・野外繁殖により増えた個体1個体死亡 ・保護飼育センターで飼育していた個体1個体死亡

5月 ・野外で巣立ったコウノトリ同士のペアによる国内初(野外第3世代)のヒナを確認

6月 ・豊岡市日高町山本放鳥拠点から巣立ちし、負傷していた個体1個体を捕獲して飼育していたが、死亡 6月 ・「豊岡市いのちへの共感に満ちたまちづくり条例」制

7月 ・「円山川下流域・周辺水田」がラムサール条約湿地に登録

8月 ・「豊岡市景観計画」策定

10月

・非公開としている「コウノトリ野生化ゾーン」を2日間のみ特別公開 ・ロシアのハバロフスクにコウノトリ4個体(2つがい)を寄贈

11月 ・21年度人工巣塔で生まれた個体1個体死亡

12月 ・24年度、コウノトリの郷公園が東京都多摩動物園より譲受され、野外放鳥した個体1個体死亡 12月 ・「豊岡エコバレー・山宮地場ソーラー(第1期事業)」

完成

2月・コウノトリの郷公園に仮設人工巣塔設置 ・野上地区の人工巣塔で野外コウノトリの産卵(2個)を確認

3月 ・「豊岡市農業振興戦略」策定

平成25(2013)年 不明 不明

4月 ・放鳥個体と大陸渡来野生個体による繁殖を確認(コウノトリの郷公園)

10月 ・非公開としている「コウノトリ野生化ゾーン」を2日間のみ特別公開

191

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◆付属資料3.事業費一覧主体 事業名 事業概要

事業費(百万円)

H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

文化庁

特別天然記念物コウノトリ天然記念物再生事業

特別天然記念物のコウノトリの増殖により回復を図り、保護及び再生に万全を期するため、給餌、病害虫駆除、生態調査等を行う。

64 60 68 64 81 57 56 56 56 54

特別天然記念物コウノトリ史跡等・登録記念物保存修理事業

保護増殖センターの改修 0 35 0 18 0 0 0 0 0 0

国土交通省

円山川総合水系環境整備事業

過去に失われた湿地環境や河川の連続性等を再生・湿地再生(出石川加陽地区、円山川本川中流、下鶴井地区、奈佐川)・既設構造物(八代水門、寺内第1樋門)の落差解消・環境護岸整備(城崎地区)

250 610 70 431 110 253 370 212 301 294

河川激甚災害対策特別緊急事業(自然再生相当分)

・中水敷掘削による湿地再生 0 3,400(H16 ~ 22年における合計) 0 0

農水省

農地・水保全管理支払交付金2,840haの協定農用地において、農地・水路等の日常管理とコウノトリをはじめとする生態系保全や水質保全等のための活動を実施。

0 0 0 0 119 119 118 118 118 85

経営体育成基盤整備事業六方地区

当該事業ではコウノトリ野生復帰に関連する施工はしていないが、後に別の県単独事業において水田と排水路の連続性を確保するため魚道を設置

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

経営体育成基盤整備事業赤石地区

経営体育成基盤整備事業において水田と排水路の連続性を確保するため魚道を設置

130 97 0 0 0 0 0 0 0 0

経営体育成基盤整備事業中川地区

経営体育成基盤整備事業において水田と排水路の連続性を確保するため魚道を設置

48 19 0 0 0 0 0 0 0 0

中山間地域等直接支払制度中山間地域などの農業生産条件が不利な地域において、5年以上農業を続けることを約束した農業者の方々に対して、交付金を交付(H24年度:32集落、194ha)。

9 9 38 37 38 38 36 40 40 40

環境保全型農業直接支払交付金(兵庫県分)

農業者等が、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組とセットで、地球温暖化防止等に効果の高営農活動に取り組む場合に支援

0 0 0 0 0 0 0 0 27 55

環境省

コウノトリ野生復帰に関する支援事業

円山川下流域の保全・再生を推進するため、住民参加型の生きもの調査の実施、シンポジウムの開催等により、環境保全の機運を高めるとともに、餌場の環境調査及びコウノトリによる利用状況の調査等を実施し、餌場環境の改善を図るもの。

0 0 0 3 3 3 3 2 0 0

生物多様性保全推進支援事業※豊岡コウノトリ生息地保全対策事業に対する交付金。事業費は環境省支出分

コウノトリの野生復帰を進めるために、耕作放棄された水田を整備するなど、採餌に適した湿地環境の再生活動や検討を行うほか、ラムサール条約湿地への登録に向けた住民勉強会を実施するなど、普及啓発を図るもの。

0 0 0 0 0 5 4 6 0 0

生物多様性保全推進支援事業※豊岡生物多様性・生態系サービス保全推進モデル事業に対する交付金。事業費は環境省支出分

コウノトリの生息地保全にむけた湿地の保全と賢明な利用を具現化するために、持続的な地域の生物多様性保全活動の確立を目指して、ツーリズムプログラムの整備や環境学習の実施、企業の参加促進にむけた検討を行い、あわせて、これまでの活動により蓄積されてきたデータ等により「生物多様性情報システム」を構築し、コウノトリの個体群形成に資することを目的とするもの。

0 0 0 0 0 0 0 0 6 7

但馬県民局(豊岡土地改良センター)

経営体育成基盤整備事業 ・水路、水田魚道設置 22 14 0 0 0 0 0 0 0 0

地域環境保全創造活動推進事業・生態系保全水路施設設置 ・水田魚道設置

1 1 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリの野生復帰生息拠点整備支援実験事業

・水田魚道設置・遡上調査

2 3 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリの餌場復活対策実験事業・水田魚道設置・遡上調査、周辺水路生息調査

2 2 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリの餌場対策調査事業 ・生き物調査、遡上調査 0 0 5 0 0 0 0 0 0 0

生き物安全安心場所づくり事業 ・水田に魚等の逃げ場、産卵場所を設置 0 3 0 0 0 0 0 0 0 0

生態系保全型排水路事業 ・水路に魚等の逃げ場、産卵場所を設置 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ放鳥拠点環境整備事業・簡易魚道、魚巣設置・魚等の逃げ場設置

31 24 0 1 1 0 0 0 0 0

魚類生息区域モデル実証事業・水田魚道設置・畦畔強化等

0 0 0 0 3 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する水田自然再生事業 2 4 8 8 8 0 0 0 0 0

田国自然環境保全・再生支援事業・生態系調査・研修会、シンポジウム開催等

5 8 8 2 2 0 0 0 0 0

但馬県民局(豊岡農林水産振興事務所)

「コウノトリ舞い降りる田んぼ」評価委員会設置事業

・コウノトリが舞い降りる環境を備えた水田を認定・支援 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ舞い降りる田んぼづくり推進事業

・「コウノトリ舞い降りる田んぼ」の認定 0 0 0 1 1 2 0 0 0 0

コウノトリと共生するビオトープづくり ・転作田ビオトープの設置 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0

コウノトリ育む農法アドバイザー養成講座開催事業

・コウノトリ育む農法のアドバイザー養成 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ育む農法拡大総合対策事業 ・農業機械の整備補助、栽培経費補助等 0 0 0 0 0 0 0 0 20 15

ボランティアを活用した里山林の整備 ・ボランティアによる森林整備等 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

里山ふれあい森づくり事業 ・ボランティアによる森林整備等 0 0 0 4 0 0 0 0 0 0

192

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主体 事業名 事業概要事業費(百万円)

H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

但馬県民局

(豊岡農業改良普及センター)

コウノトリと共生する安全・安心農産物PR推進事業 ・「ひょうご安心ブランド」普及啓発 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

但馬産ひょうご安心ブランド農作物の産地育成事業 ・ひょうご安心ブランドの産地拡充支援 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ育む農法英語版パンフレット作成事業 ・啓発バンフレット作成 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ育むドジョウ生産対策事業 ・ドジョウ養殖技術の確立 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0

コウノトリ育む農法除草コンテスト開催事業 ・除草機コンテストの開催 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

環境創造型農業実践モデル地域育成事業 ・「コウノトリ育む農法」実証水田設置 0 0 0 3 2 2 1 1 1 0

コウノトリ育む農法のステップアップ ・無農薬栽培の技術確立等 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0

環境創造型農業推進事業 ・大規模実践地区設置等 0 0 0 4 14 22 17 13 3 3

但馬県民局

(豊岡土木事務所)

円山川支流の自然再生 ・河川の多自然化、湿地創出、段差解消 0 0 0 40 60 40 40 38 10 37

おいでコウノトリ来るな土砂災害プロジェクト ・田結川整備 0 0 0 0 0 0 2 14 0 0

但馬県民局(地域政策室)

コウノトリ営巣用人工巣塔設置事業 ・人工巣塔の設置 0 0 1 2 0 1 1 1 0 1

コウノトリ野生復帰推進連絡協議会運営事業 ・コウノトリ野生復帰推進連絡協議会開催 3 2 2 2 2 1 0 0 1 1

コウノトリ野生復帰普及啓発事業 ・コウノトリ野生復帰推進計画冊子、パンフ印刷 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0

コウノトリファンクラブ事業・野生復帰支援の全国組織 ・柳生博会長

0 0 1 1 0 0 0 2 2 2

愛知万博・しずおか国際園芸博覧会出展 ・イベント出展 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリシンポジウムPR事業 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0

放鳥1周年地域づくリフォーラム ・野生復帰普及啓発フォーラム 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ育む農法推進フォーラム開催事業 ・コウノトリ育む農法フォーラム 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する地域づくりフオーラム開催 ・野生復帰普及啓発フォーラム 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0

コウノトリの野生復帰に関する国際ワークショップの開催 ・野生復帰普及啓発フォーラム 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0

コウノトリと暮らす地域づくりフォーラム ・野生復帰普及啓発フォーラム 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する農業PR看板設置事業 ・啓発看板設置 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ記録写真保存事業 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する地域づくりの映像による普及啓発事業 ・コウノトリ野生復帰映像の作成、活用 0 0 4 2 0 0 0 0 0 0

コウノトリ野生復帰普及啓発映像リスト検索システム構築事業 ・映像ライブラリー作成 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

コウノトリ野生復帰PR事業 ・映像ライブラリーの運営 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0

但馬県民局

(本庁地域振興課)

コウノトリ営巣用人工巣塔設置事業 ・人工巣塔の設置 0 0 0 0 4 0 0 0 0 0

コウノトリファンクラブ事業・野生復帰支援の全国組織 ・柳生博会長

0 4 4 4 4 5 3 0 0 0

コウノトリ野生復帰PR事業 ・冊子作成 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0

放鳥1周年地域づくリフォーラム事業 ・野生復帰普及啓発フォーラム 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する地域づくりの映像による普及啓発事業 ・コウノトリ野生復帰映像の作成、活用 0 0 15 20 0 0 0 0 0 0

コウノトリ野生復帰普及啓発映像リスト検索システム構築事業 ・映像ライブラリー作成 0 0 0 4 0 0 0 0 0 0

コウノトリ自然博物館構想の推進 ・基本構想、基本計画策定 0 0 0 5 8 3 3 2 2 2

コウノトリ

の郷公園

コウノトリの郷公園運営 コウノトリの郷公園運営 166 181 165 170 165 127 132 125 112 102

豊岡市

コウノトリ野生復帰推進事業費

コウノトリ文化館管理費 8 7 8 12 11 10 10 10 9 10

コウノトリ文化館普及啓発事業費 3 1 2 2 1 1 3 2 2 2

コウノトリ野生復帰推進事業費 3 2 10 6 3 9 6 3 4 4

コウノトリと共生する水田づくり支援事業費 13 12 10 2 0 0 0 0 0 0

コウノトリと共生する水田自然再生事業費 0 0 14 17 0 0 0 0 0 0

コウノトリ知の集積・交流事業費 0 0 0 0 1 1 1 1 1 2

コウノトリ生息地保全対策事業費 0 0 0 0 0 3 10 11 13 15

ハチゴロウの戸島湿地管理費 0 0 0 0 0 1 6 6 6 6

自然生態系保全事業費 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ラムサール関連事業費 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5

地域まるごと博物館整備事業費 0 0 19 86 37 0 0 0 0 0

地域まるごと博物館整備事業費(繰越明許分) 0 0 0 0 0 18 0 0 0 0

ハチゴロウの戸島湿地整備事業費 0 0 0 73 43 72 0 0 0 0

ハチゴロウの戸島湿地整備事業費(繰越明許分) 0 0 0 0 11 0 21 0 0 0

「コウノトリ未来・国際かいぎ」開催事業費 0 0 6 0 0 0 1 6 0 0

愛知万博出展事業費(H17)、国際生物多様性年関連事業費(H21)

0 0 6 0 0 0 0 4 0 0

情報戦略発信(H18は国体スポ芸) 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0

生物多様性地域戦略策定事業費 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2

その他(人件費) 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0

その他湿地を中心とした生物多様性保全支援事業費 0 0 0 0 0 0 0 0 10 10

ラムサール関連事業費・意識調査研究事業費 0 0 0 0 0 0 11 4 6 0

農林水産業費

コウノトリと共生する水田自然再生事業費 0 0 0 0 17 9 7 9 0 0

コウノトリと共生する水田づくり支援事業費 0 0 0 0 3 0 0 0 0 0

コウノトリ餌場環境整備事業費・コウノトリ舞い降りる田んぼづくり推進事業費等

0 0 0 2 5 1 0 0 0 0

生物の多様性を育む農業国際会議 0 0 0 0 0 0 0 4 0 0

193

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◆付属資料4.出典一覧文献名 著者又は発行元等 発行年月

「ザ・たじま」但馬検定テキストブック 公益財団法人 但馬ふるさとづくり協会 2006.9.6

「第8回県民意識調査」調査結果(速報) 兵庫県 2002

「美しい兵庫指標」県民意識調査結果一覧(平成14年度~平成24年度) 兵庫県 2002 ~ 2012

COP10と生物多様性をエコロジカルに紐解く(1).環境技術 39: p.1-5 江崎保男 2010

COP10と生物多様性をエコロジカルに紐解く(2).環境技術 40: p.1-5 江崎保男 2010

Efforts to Account for Biodiversity and Ecosystem Services for Sustainable Development Tokyo October 2012 Kirk Hanlilton, Lead Econornist Development Research Group, The Worid Bank

Kirk Hanlilton, Lead Econornist Development Research Group, The Worid Bank

2012.10

FLY TO THE WILD 第1号~第43号 豊岡市 コウノトリ共生部 コウノトリ共生課 1996.5 ~ 2010.12

H16年度水田生物モニタリング業務 報告書+写真集 有限会社 地域生態系保全 2005.2

H17年度水田生物モニタリング業務 報告書 有限会社 地域生態系保全 2006.3

平成21年度 農村環境保全を活用した地域活性化に関する方策検討調査報告書 農林水産省 農村振興局 2010.3

広域的地域活性化基盤整備計画 但馬地域 【第5回変更】 兵庫県 2011.3

地域活性化を支援する円山川自然再生の効果検証 神谷 毅 2011.10

RAMSAR_TOYOOKA − −

SatoyamaConvention on Biological Diversity 

〔生物多様性条約(CBD)事務局〕2011

The Economics of Ecosystems & Biodiversity TEEB FOR LOCAL AND REGIONAL POLICY MAKERS

TEEB FOR LOCAL AND REGIONAL POLICY MAKERS −

The Environment-Economy Strategy Challenge for Toyooka City − −

生き物通信 兵庫県立コウノトリの郷公園 2000.6 ~ 2013.11

今、兵庫の教育に求められるもの 県議会自由民主党議員団 2001.3

大空をめざして 兵庫県立コウノトリの郷公園 −

おかえりコウノトリ 水辺を再生しコウノトリを迎える 佐竹節夫(株式会社 童心社) 2009.12

開園10周年記念誌(研究活動の成果リスト含む) 兵庫県立コウノトリの郷公園 2009.10

平成16 ~ 19年度 豊岡市コウノトリ野生復帰 学術研究奨励論文集(学生) 豊岡市 2004 ~ 2007

平成20 ~ 23年度 豊岡市コウノトリ野生復帰 学術研究奨励論文集(学生) 豊岡市 2008 ~ 2011

翔る 豊岡市制50周年記念要覧 豊岡市 2000.4

コウノトリとの共生政策「コウノトリ育む農法」の現状 関家昌志 −

環境再生に向けた挑戦(農村地域の環境整備) 兵庫県但馬県民局 豊岡土地改良センター −

環境社会学会セミナー要旨集 環境社会学会 2007.6

城崎小学校3学年 学年通信「WONDER」 豊岡市立城崎小学校 2011

研究・教育業績集No.1-2(1999-2001年) 兵庫県立コウノトリの郷公園・姫路工業大学 2002.3

研究・教育業績集No.3-5(2002-2004年) 兵庫県立コウノトリの郷公園・姫路工業大学 2005.3

研究・教育業績集 No.6 ~ 8(2005-2007年) 兵庫県立コウノトリの郷公園・兵庫県立大学 2009.3

公開セミナー「台風23号の水害をふりかえる」 兵庫県立コウノトリの郷公園・兵庫県立大学 2005.3

コウノトリ 坂本 勝 神戸新聞社 1966.11

コウノトリ 大空に帰る日へ 加藤紀子(神戸新聞総合出版センター) 2002.4

コウノトリ、再び 小野泰洋・久保嶋江実(エクスナレッジ) 2008.8

コウノトリ・ジオパーク地域づくり講座報告書 兵庫県立コウノトリの郷公園・兵庫県立大学 2013.3

コウノトリがおしえてくれた 池田 啓(株式会社 フレーベル館) 2007.11

コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想・計画コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想・計画検討委員会

(兵庫県・豊岡市)2003.3

コウノトリが発展させる地域社会と経済 大沼あゆみ 2009.2.1

コウノトリと共生する水田づくり事業 平成17年3月 豊岡市 2005.3

コウノトリと共生する水田づくり事業 平成18年3月 豊岡市 2006.3

コウノトリと共生する地域づくり講座報告書 平成20年度~平成23年度 兵庫県立コウノトリの郷公園・兵庫県立大学 2009.3 ~ 2012.3

コウノトリと共生する地域づくりフォーラム等報告書 兵庫県立コウノトリの郷公園 2013.3

コウノトリと共に生きる ~豊岡の挑戦~ 豊岡市 2010.11改訂

コウノトリと共に生きる ~豊岡の挑戦~ 何を失ったのかどのように取り戻すのか 豊岡市 2013.6改訂

コウノトリと共に生きる ~豊岡の挑戦~(左開き) コウノトリ百年の歴史(右開き) 豊岡市 2007.3

コウノトリと共にくらす郷づくり・村づくり・人づくり 祥雲寺地区・コウノトリの郷営農組合 −

コウノトリとともに生きる ~豊岡の挑戦~ 豊岡市長 中貝 宗治(生物多様性センター) 生物多様性国家戦略小委員会 2007.6

コウノトリと人間の共生 −豊岡の試み. 三田評論 (1139):p.40-46 根岸謙次 2010.11

コウノトリと共に生きる ―環境と経済の「共鳴」をめざして― 豊岡市 2010.6

コウノトリと共に生きる農業 ―兵庫県豊岡市の挑戦― 岸 康彦 2010

コウノトリの餌場をつくる NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2010.3

コウノトリの贈り物 生物多様性農業と自然共生社会をデザインする 鷲谷いづみ(株式会社 地人書館) 2007.11

コウノトリの採餌環境に適した湿地環境の検証作業 コウノトリ生息地保全協議会 2010.3

コウノトリの郷づくりグランドビジョン コウノトリの郷を考える会 1999.3

コウノトリの野生定着に向けた放棄田の湿地化による自然生態系(食物連鎖)の再生 NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2010.9

コウノトリの野生復帰を軸にした地域資源化. 地理科学 65(3): p.11-25 菊地直樹 2010.7

コウノトリの郷を創る 野生復帰のための環境整備(生物多様性と造園学) 内藤和明・池田 啓 2001.3

コウノトリの郷公園(仮称)基本計画報告書《資料編》 コウノトリの郷公園(仮称)基本計画策定委員会 1995.3

コウノトリの再導入 ―IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復―. 保全生態学研究 16(2):p.181-193

内藤和明・菊地直樹・池田 啓 2011.11

コウノトリの採餌環境の造成と維持管理手法の研究 NPO法人 コウノトリ湿地ネット・横田登代子 2010年度

194

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文献名 著者又は発行元等 発行年月

コウノトリの生態と生息環境 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 −

コウノトリの巣から発見された鞘翅目と鱗翅目昆虫.昆蟲ニューシリーズ 13(3・4): 119-125 那須義次・村濱史郎・三橋陽子・大迫義人・上田恵介 2010.9

コウノトリの野生復帰 ~豊岡の挑戦~ 松島興治郎 2010.10

コウノトリの野生復帰とコウノトリ育む農法 環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性施策推進室 −

コウノトリの野生復帰と里地の再生. ビオフィリア 26: p.32-35 内藤和明 2011

コウノトリの野生復帰における「野生」 菊地直樹 2008.11

コウノトリの野生復帰プロジェクトと地域づくり. ランドスケープ研究 72(4): p.368-372 菊地直樹・池田 啓 2009.2

コウノトリの野生復帰を軸にした地域づくり. 生活と環境 55(6): p.19-25 菊地直樹 2010

コウノトリ育む農法 兵庫県 但馬県民局 豊岡農業改良普及センター 2013.3

コウノトリ再び大空へ コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 −

コウノトリ再び空へ 神戸新聞総合出版センター 2006.1

コウノトリ保護増殖事業の概要 兵庫県 教育委員会 1981.3

コウノトリ保護増殖事業の概要Ⅱ 兵庫県 教育委員会 2008.4

特別天然記念物コウノトリ保護増殖(野生化)事業の概要Ⅲ 兵庫県立コウノトリの郷公園 2009.10

コウノトリ未来・国際かいぎ 報告書 第1回~第4回 実行委員会 1995.3 ~ 2011.3

コウノトリ野生復帰事業における住民意識の経時的変化 本田裕子 2012

コウノトリ野生復帰推進計画 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 2003.3

コウノトリ野生復帰推進計画(2期) 平成24年3月 コウノトリ野生復帰推進計画策定委員会 2012.3

コウノトリ野生復帰推進事業・活動一覧 平成16年3月 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 2004.3

コウノトリ野生復帰推進事業・活動一覧 平成19年3月 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 2007.3

コウノトリ野生復帰推進事業・活動一覧 平成24年3月 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 2012.3

コウノトリ野生復帰のあしあと 豊岡市 2012.3

コウノトリ歴史資料収集整理等事業報告書 兵庫県立コウノトリの郷公園 2003.3

コウノトリ育むお米 豊岡市 コウノトリ共生部 農林水産課 −

コウノトリ育むお米 但馬の地米 特別栽培米 兵庫県但馬産こしひかり  豊岡市 コウノトリ共生部 農林水産課 −

コウノトリ育む農法  豊岡市 コウノトリ共生部 農林水産課 −

コウノトリ自然博物館構想検討委員会《第1回検討委員会参考資料》 豊岡市立コウノトリ文化館 2006.6

コウノトリ野生復帰グランドデザイン 兵庫県立コウノトリの郷公園 2011.8

コウノトリ野生復帰を契機としたツーリズムと来訪者サービスのあり方について コウノトリツーリズムを考える会 −

コウノトリ野生復帰連絡推進協議会における県民局資料 兵庫県 但馬県民局 2003.7 ~ 2013.8

コウノピア 要覧 豊岡市立コウノトリ文化館コウノピア 2001.3

神戸新聞社説1~6 神戸新聞 2006

これからの河川環境を考える 国土交通省 −

さあ、はじめよう!田んぼの生きもの調査 -「農」が支えるたくさんのいのち 全国農業協働組合連合会(JA全農):監修 宇根豊  2013.5第2刷発行

桜尾鶴山史跡調査とコウノトリに関する聞き取り調査 鶴山史跡保存会 2010.2

Varue creator VALUE CREATOR社 2012.3

三江地区水田魚道調査業務委託 報告書 概要版 兵庫県 2003.10

市街地水路の生きもの調査報告 豊岡市 2004.3

自然とともに子どもたちとともに ~農村地域における自然再生関連施設の展開~ 農林水産省 農村振興局 2004.1

祥雲寺郷づくり報告書 こうのとりのすむ郷づくり研究会 2000.9

シリーズ但馬Ⅴ 但馬のこうのとり 菊地直樹・池田 啓(但馬文化協会) 2006.3.1

コウノトリ関連新聞記事切り抜き(S6 ~ H25 豊岡市) 神戸新聞・朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・産経新聞等 1931.5 ~ 2013.9

水田生物モニタリング報告書(平成16年度概要版) 豊岡市 2005.3

水田生物モニタリング報告書(平成17年度概要版) 豊岡市 2006.3

水田生物モニタリング報告書(平成18年度概要版) 豊岡市 2007.3

水田生物モニタリング報告書(平成19年度概要版) 豊岡市 2008.3

世界のコウノトリ目展 − 2006.9

絶滅危惧種を主題とした環境教育が地域に与える影響について 小島千尋(上越教育大) 2012.3

第1 ~ 4回コウノトリ野生復帰推進協議会 議事録 コウノトリ野生復帰推進協議会 2002.6 ~ 2003.3

コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 議事録 コウノトリ野生復帰推進連絡協議会 2003.7 ~ 2013.8

台風23号に係る 防災教育資料 豊岡市 教育委員会 2005.3

但馬地域農林水産ビジョン 2020 兵庫県 但馬県民局 2012.3

但馬の自然研究 NO.2 2010 兵庫県 生物学会 但馬支部 2010.6

但馬の野鳥 但馬野鳥の会 2012.3

食べる貢献・食べる健康 豊岡市 2009.3

田んぼの学校 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2003.3

コウノトリ・ツーリズム−豊岡(兵庫県). 地域資源を守っていかすエコツーリズム:p.152-163 編著者:敷田麻実・ 森重昌之 2011.9

地域への便益還元を伴う野生復帰事業の抱える課題. 環境社会学研究 18 本田裕子 2012.11

地上 7月号 一般社団法人 家の光協会(JAグループ) 2011.7

田園空間の整備事例 但馬「コウノトリと共生する地域づくり」 兵庫県 土地改良事務所 −

豊岡model あしたのふるさと 豊岡市 2003

豊岡市 田結地区の挑戦 コウノトリと共生して暮らす村づくり NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2012.3

豊岡市環境基本計画 平成14年3月 概要版 豊岡市 2002.3

豊岡市環境基本計画 平成14年3月 豊岡市 2002.3

豊岡市環境基本計画 平成19年4月 豊岡市 2007.4

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文献名 著者又は発行元等 発行年月

豊岡市環境経済戦略 平成17年3月 豊岡市 2006.3

豊岡市環境経済戦略 平成19年12月 豊岡市 2007.12

豊岡市環境行動計画 豊岡市 コウノトリ共生部 コウノトリ共生課 2003.3

豊岡市環境報告書 コウノトリと暮らす豊岡の環境 平成20年度~平成24年度 豊岡市 コウノトリ共生部 コウノトリ共生課 2009.9 ~ 2013.11

豊岡市教育行動計画 豊岡市 教育委員会 2003.3

豊岡市湿地再生白書 NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2010.3

豊岡市生物多様性地域戦略 豊岡市 2013

豊岡市総合計画 前期基本計画 平成13年度 豊岡市 2002.4

豊岡市総合計画 前期基本計画 平成18年度 豊岡市 2007.3

豊岡市内でのコウノトリの目撃情報 NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2011.12

豊岡市内でのコウノトリ目撃情報2012年版 NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2012

豊岡市経済・産業白書〔平成22年度版〕 豊岡市 2011.3

豊岡の挑戦 豊岡市 2007.3

豊岡盆地コウノトリ目撃地図 兵庫県立コウノトリの郷公園 2002.3

豊岡盆地で暮らす鳥100+1 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2005.3

豊岡盆地と円山川下流域のレッドデータ生物 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2012.3

豊岡盆地のRD生物 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2004.3

豊岡盆地の生きもの地図 1999 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2000.3

豊岡盆地の絶滅危惧植物 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2006.3

豊岡市総合計画後期基本計画 豊岡市 2012.3

奈佐村役場文書 豊岡市 教育委員会 2010.3

なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか 平田 剛士(平凡社新書) 2007.3

日本の河川環境行政の取組 ―河川における開発と環境の共存― 国土交通省 水管理・国土保全局 2012.1

育む米作付面積・買取価格 豊岡市 2013

パタパタ1号~ 21号 NPO法人 コウノトリ湿地ネット 2009.1 ~ 2013.9

ビオトープ転作試験ほ調査報告書 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2002.3

ひのそ島改修事業資料作成業務 報告書 株式会社 建設技術研究所 2001.3

ひのそ島関係(参考資料)他 − −

ひのそ島掘削事業 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 −

兵庫県豊岡市のコウノトリ米に対する地域住民の認識 本田裕子 2011.11

福田地区コウノトリ生息状況調査 復建調査設計株式会社 2008.3

ふるさと三江を愛する会活動の記録 平成18年3月 ふるさと三江を愛する会 2006.3

ふるさと三江を愛する会活動の記録 平成23年3月 ふるさと三江を愛する会 2011.3

舞い上がれ再び ~コウノトリの歴史~ 豊岡市 教育委員会 1994.3

平成15年度 円山川自然再生計画検討業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2004.3

平成16年度 円山川流域委員会資料作成業務 報告書 株式会社 東京建設コンサルタント 2005.3

円山川自然再生計画調査(その2)業務 報告書 復建調査設計株式会社 2005.3

平成16年度 円山川自然再生計画検討業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2005.9

平成16年度 円山川自然再生計画検討業務 【委員会資料編】 財団法人 リバーフロント整備センター 2005.9

平成17年度 円山川自然再生に係わる評価分析検討業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2006.3

平成17年度 円山川流域委員会資料作成業務 報告書 株式会社 東京建設コンサルタント 2006.3

円山川自然再生計画調査(その3)業務 報告書 復建調査設計株式会社 2006.3

平成18年度 コウノトリの野生復帰に関する普及啓発促進業務 報告書 株式会社 一成 2007.3

平成18年度 円山川自然再生に係わる評価分析業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2007.3

平成18年度 円山川自然再生調査業務 報告書1/2 【本編】 復建調査設計株式会社 2007.3

平成19年度 円山川自然再生に係わる評価分析業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2008.3

平成20年度 コウノトリの野生復帰に関する支援業務【円山川下流域コウノトリ生息環境調査】 報告書 復建調査設計株式会社 2008.9

平成20年度 円山川自然再生評価分析検討業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2009.3

円山川環境整備事業評価業務 報告書 株式会社 建設技術研究所 2009.3

平成21年度 円山川自然再生評価分析業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2010.3

円山川環境環境整備事業資料整理業務 報告書 概要版 株式会社 三菱総合研究所 2010.3

平成22年度 円山川自然再生関連分析評価業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2011.3

円山川河川環境モニタリング調査業務 報告書 株式会社 建設技術研究所 2012.3

平成23年度 円山川自然再生関連分析評価業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2012.3

平成24年度 円山川自然再生事業分析評価業務 報告書 財団法人 リバーフロント整備センター 2013.3

円山川決壊 台風23号 記録と検証 神戸新聞但馬総局(神戸新聞総合出版センター) 2005.7

円山川水系河川整備計画(国管理区間)  国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2013.3

円山川水系自然再生計画書 参考資料 〔直轄管理区間編〕  国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2005.11

円山川水系自然再生計画書 (第2回変更) 参考資料 〔直轄管理区間編〕 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2011.12

円山川水系自然再生計画書 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 ,兵庫県 2005.11

円山川水系自然再生計画書 (第2回変更) 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 ,兵庫県 2011.12

円山川水系自然再生推進委員会資料 第1回~第11回 円山川水系自然再生推進委員会 2007.3 ~ 2013.3

円山川水系自然再生推進委員会資料 第1回技術部会~第28回 円山川水系自然再生推進委員会 2005.11 ~ 2013.3

円山川にもどろう 円山川の自然再生事業 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 −

円山川風土記 兵庫県但馬県民局県土整備部 −

円山川物語 神戸新聞但馬総局 1970.4

円山川流域風土資産絵地図 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 −

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文献名 著者又は発行元等 発行年月

水辺フォーラム '02「水辺の生きものと人の暮らし」 神戸市 兵庫・水辺ネットワーク 2002.7

野生のコウノトリ ハチゴロウがやって来た 岩見印刷株式会社 2007.10

野生復帰されるコウノトリとの共生を考える 本田裕子 2008.6

野生復帰によるコウノトリの観光資源化とその課題. 湿地研究 2: p.3-14 菊地直樹 2012

要覧  平成11年度~平成25年度 兵庫県立コウノトリの郷公園 1999 ~ 2013

蘇るコウノトリ -野生復帰から地域再生へ 菊地直樹(東京大学出版会) 2006.8.1

ラムサール条約湿地 円山川下流域・周辺水田 見どころMAP 豊岡市 コウノトリ共生部 コウノトリ共生課 −

円山川 懐かしの写真集 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2005.3

円山川の今 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2006.8

円山川の自然環境 円山川 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 −

円山川水系河川整備計画(国管理区間)の概要 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2013.3

円山川総合水系環境整備事業 【再評価】 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2013.11

基本計画策定委員会における主要意見のまとめ コウノトリの郷公園(仮称)基本計画策定委員会 1995.3

魚のゆりかご水田プロジェクト ~母なる湖「琵琶湖」との共生~  滋賀県 農政水産部 農村振興課 にぎわう農村推進室 −

魚のゆりかご水田プロジェクト 湖魚が産卵・成育できる水田環境を取り戻そう!  滋賀県 農政水産部 農村振興課 にぎわう農村推進室 −

魚のゆりかご水田米  須原魚のゆりかご水田協議会 −

郷公園に寄せられた目撃に関する情報の件数 兵庫県立コウノトリの郷公園 2013

経済成長戦略 ~環境都市「豊岡エコバレー」と大交流~ 豊岡市 2011.11改訂版

経済成長戦略のポイント ~環境都市「豊岡エコバレー」と大交流~ 豊岡市 2011.2

市コウノトリと共に生きるまちづくり環境基本条例 豊岡市 2006.12

人とコウノトリとの共生をめざした地域づくり(開園3周年記念フォーラム) 兵庫県立コウノトリの郷公園 2003.3

水田魚道に取り組むための手引き 農林水産省 中国四国農政局 土地改良技術事務所 2011.3

生態系と生物多様性の経済学 住友信託銀行・株式会社日本総合研究所・財団法人日本生態系協会 −

生物群集からみた河川. 河川レビュー 144:p.20-25 江崎保男 2009

生物多様性保全に配慮した農業生産の影響評価とその促進方策 農林水産省 農林水産政策研究所 2010.12

川ものがたり「近畿」 − −

但馬2009年9月号 但馬県民局 総務室 地域企画課 2009.9

但馬のコウノトリ. 環境総合年表 ―日本と世界―:p.274 菊地直樹 2010.11

農業生態系の修復:コウノトリの野生復帰を旗印に. 京都大学出版会 シリーズ群集生態学第6巻: p.129-158

内藤和明・池田 啓 2009

兵庫県環境創造型農業推進計画 兵庫県 農政環境部 2009.4

兵庫県環境創造型農業推進計画 平成22年度活動計画 兵庫県 農政環境部 農林水産局 農業改良課 2009.7

兵庫県豊岡市におけるコウノトリ野生復帰をめぐる経済分析 大沼あゆみ・山本雅資(三田学会雑誌) 2009.7

兵庫県豊岡市に飛来・定着した野生コウノトリの死亡とその原因−激しい種内闘争?. 山階鳥類学雑誌 43: p.197-201

江崎保男・佐竹節夫・吉沢拓祥・三橋陽子・大迫義人 2012

平成13年度ひのそ島改修事業資料作成業務 報告書 株式会社 建設技術研究所 2001.10

母なる川 円山川 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 2001.9

豊岡市コウノトリ基金の状況 豊岡市 H25.3.31現在

豊岡市景観計画 概要版  豊岡市 2012.8

豊岡市景観計画 豊岡市 2012.8

豊岡市条例第40号 豊岡市いのちへの共感に満ちたまちづくり条例 豊岡市 2012

豊岡市勢要覧 とよおか豆事典 2012 豊岡市 2012.12

豊岡市農業振興戦略 概要版 豊岡市 2012.3

豊岡市農業振興戦略 豊岡市 2012.3

豊岡盆地におけるコウノトリの野生復帰のための自然再生.関西自然保護機構会誌 33(1):p.9-13 内藤和明 2011

豊岡盆地の生きもの地図 2011 NPO法人 コウノトリ市民研究所 2011.3

野生復帰 第1巻第1号 兵庫県立コウノトリの郷公園 2011.12

野生復帰 第2巻第1号 兵庫県立コウノトリの郷公園 2012.12

生物多様性配慮型農業生産が地域経済に与える影響 林 岳 2010.12

鸛 飛ぶ夢 中貝宗治 2000.7

生きものマーク ガイドブック 農林水産省 大臣官房環境バイオマス政策課 2010.3

環境保全型稲作実践の地域的条件に関する予備的考察. 日本農業研究所研究報告『農業研究』 26:p.419-432

桑原考史 2013.12

価値ある自然 生態系と生物多様性の経済学:TEEBの紹介 環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性施策推進室 2012.4

ひょうご・人と自然の川づくり事例集 兵庫県 土木部 河川課 1999.10

ひょうご・人と自然の川づくり事例集 兵庫県 県土整備部土木局 河川計画課 2004.4

ひょうご・人と自然の川づくり事例集 兵庫県 県土整備部土木局 河川整備課 2011.3

川の百科事典 丸善株式会社 2009.1

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◆付属資料5.「月刊文化財」平成20年度掲載コラム(一部加筆)「特別天然記念物『コウノトリ』を中心に展開するまち— 兵庫県豊岡市—」

特別天然記念物「コウノトリ」を中心に展開するまち — 兵庫県豊岡市—

 平成17年9月24日,秋篠宮同妃両殿下をお迎えして,兵庫県豊岡市で特別天然記念物「コウノトリ」の放鳥式が行われました。野生復帰の第一歩のスタートが切られたのです。コウノトリは,江戸時代には猟が禁じられ,東北地方以南の各地にいました。現在名勝に指定されている東京の「六義園」の松の木にも巣をかけていたといいます。野生での最後の生息地である豊岡市では,水田や里山での暮らしにとけ込んだ存在であったし,戦前はヒナの巣立ちを見物する茶屋までたったといいます。

 コウノトリは大正10年天然記念物に指定されましたが,農薬により餌となる生きものの減少,戦時中の営巣木となるマツの伐採などの影響を受け,昭和46年には国内での野生のコウノトリは絶滅をします。この間,手をこまねいていたわけではありません。昭和38年には,野生の11個体を捕獲し人工繁殖の取り組みが始められました。しかし道のりは順調ではなく,最初の繁殖に成功する平成元年までに25年の時を費やし,さらに野外に放つまでには17年の時が経ちました。平成11年にはコウノトリの研究施設である「兵庫県立コウノトリの郷公園」が開園,豊岡市,兵庫県が一体となった野生復帰に向けた取り組みが加速します。平成15年からは野生馴化訓練が開始されるとともに,無農薬・減農薬農法の普及,ビオトープ水田の整備,国際シンポジウムの開催など,官民一体となった多方面からの取り組みが急速に行われてゆきます。平成19年夏には,野外で孵化した個体の巣立ちにも成功します。

 地元豊岡市では,「コウノトリも住める街」を合い言葉に,保護と両立する様々な地域活性化の取り組みを行い成功を収めてきています。その一つがコウノトリブランドの提案であり,その中心となるのが「コウノトリ育む農法」により作られた米(コウノトリ育むお米)です。この米を用いて日本酒,各種加工食品など多様な展開を行ってきています。さらに,特別天然記念物コウノトリを中心に据えた環境経済戦略を策定し,天然記念物の保護活用を中心に据えた,着実な地域活性化の歩みも始まっています。コウノトリの保護活動は,単なる野生生物の保全ではありません。歴史的にも人の暮らしに寄りそってきた生き物を通じて,地域での暮らしそのものを取り戻す活動でもあります。百年かけて失ったものを,50年かけてやっと野外に戻すスタートが切れたのです。兵庫県を始め多くの関係者の方とともに文化庁としても,昭和38年以来息長く支援を続けてこられたことも重要でした。

 放鳥されたコウノトリが生息する豊岡盆地は,平成16年秋の台風23号の際に円山川の堤防が決壊し大水害をもたらしました。円山川を河口近くで閉塞させ,豊岡盆地を成立させているのが天然記念物「玄武洞」の玄武岩です。この玄武岩が円山川の河道を狭めているため,円山川は度々氾濫し水害をもたらしてきました。一方このように低湿な豊岡盆地は,地場産業の柳行李の材料となるコリヤナギの生育に適した場所を提供してきましたし,コウノトリの餌場や生息場所を提供してきました。豊岡の古い家屋は,玄武岩の石を積んだ上に家屋を建て,水害から暮らしを守ってきました。時を経て柳行李はカバン産業へと変わりましたが,低湿な豊岡盆地という土地柄に変わりはありません。特別天然記念物「コウノトリ」や天然記念物「玄武洞」の保護は,天然記念物を中心とした文化財が伝える,地域の風土や歴史や暮らしのあり方を示す知識や知恵のシンボルでもあるのです。

 現在,千葉県野田市,福井県越前市を始め,コウノトリをシンボルとした地域造りの動きが加速しています。こうした動きの中で,コウノトリの郷公園は,野生復帰へのガイドラインと全国的なコウノトリの生息状況に対する目配りが,豊岡市,兵庫県においてはこうした自治体間のネットワークを構築し,主体的な役割を果たすことが求められています。豊岡での,こうした風土・歴史に根ざしたコウノトリの保護の動きは,関係する多様な主体の理解と連携の下に築かれてきたものであり,こうした認識の共有無しには今後も展開してゆくことができません。こうした動きが加速され,日本各地に拡がることを期待したいと思います(月刊文化財平成20年度掲載「特別天然記念物「コウノトリ」を中心に展開するまち−兵庫県豊岡市−」に加筆)。(文化庁文化財部記念物課 主任文化財調査官 桂 雄三)

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50 年ぶりに蘇ったコウノトリのいる豊岡。(兵庫県立コウノトリの郷公園提供)

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◆付属資料6.コウノトリ野生復帰検証委員会について

コウノトリ野生復帰検証委員会設置要項

(目的)第1条 日本で一度は絶滅した特別天然記念物・コウノトリの野生復帰に向けた取り組みが、半世紀以上にわたって兵庫県豊岡市及びその周辺地域で展開され、優れた成果を得るに至っている。その進展の成果を、各地で行われる絶滅危惧種の復元や自然再生活動に広く生かすため、これまでの取り組みを分析・評価し、モデルとしてまとめるべく、コウノトリ野生復帰検証委員会(以下「委員会」という。)を組織する。

(所掌事項)第2条 委員会は、次のことを行う。

(1)コウノトリ野生復帰の取り組みの分析、評価に関すること。(2)その他前条の目的を達成するために必要な事項に関すること。

(組織)第3条 委員会は、有識者、研究者等で組織する。2 委員会には、委員長1名、副委員長1名を置き、委員の互選によって定める。

(委員長等の職務)第4条 委員長は、委員会を代表し、会務を統括する。2 副委員長は、委員長を補佐し、委員長に事故あるときはその職務を代理する。

(任期)第5条 委員の任期は、委嘱の日から所掌事項が完了するまでとする。

(会議)第6条 委員会の会議は、必要に応じて委員長が召集し、議長となる。

(事務局)第7条 委員会の事務局は、豊岡市コウノトリ共生部コウノトリ共生課に置く。

(経費)第8条 委員会の経費は、豊岡市予算をもってあてる。

(会計)第9条 委員会の会計は、豊岡市の会計規則、会計年度に従い行う。

(補則)第 10 条 この要項に定めるもののほか、委員会の運営に関し必要な事項は、委員長及び事務局が別に定める。

附則この要項は、平成 25 年4月1日から施行する。

●委員会設置要項

平成25年4月1日コウノトリ野生復帰検証委員会事務局 豊岡市

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●委員会委員等

●委員会開催経緯

委員氏名 所属等 備考

涌井 史郎 東京都市大学環境情報学部教授 委員長

古川  彰 関西学院大学社会学部教授 副委員長

永田 尚志 新潟大学超域学術院 朱鷺・自然再生学研究センター准教授

藤栄  剛 滋賀大学環境総合研究センター准教授

大山由美子 株式会社丹青研究所 取締役

  開催日 内容 場所

第 1 回 平成25年10月4日 分析・評価の目的、対象について 東京

第 2 回 平成25年11月9日 分析・評価のフレームについて 豊岡市

第 3 回 平成26年1月21日 分析案、自己点検方針について 東京

第 4 回 平成26年3月25日 資料とりまとめ(案)について 東京

最終調整会議 平成26年 5月12日 とりまとめ成果の確認 東京

区分 担当部署

文化庁 本庁記念物課

国土交通省 本省河川環境課

近畿地方整備局河川環境課豊岡河川国道事務所調査第一課

農林水産省 本省大臣官房環境政策課

環境省 本省自然環境局野生生物課

近畿地方環境事務所野生生物課

兵庫県 県立コウノトリの郷公園

教育委員会社会教育課  同  文化財課

但馬県民局地域振興課地域政策室

豊岡市 コウノトリ共生部コウノトリ共生課

豊岡市 コウノトリ共生部コウノトリ共生課

≪ コウノトリ野生復帰検証委員会≫

≪ コウノトリ野生復帰検証事業共同主体 ≫

≪ コウノトリ野生復帰検証事業共同主体 事務局 ≫

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発行日 平成26(2014)年6月

とりまとめ・提言 コウノトリ野生復帰検証委員会

発行 コウノトリ野生復帰検証事業共同主体