アレルギーの基礎知識 - 中外医学社1 5 第1章 アレルギーの基礎知識...

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498-14536 5 まずは,アレルギー性疾患に共通する知識を整理し ましょう. アレルギーとは アレルギーと免疫は,ちょうど,表と裏のような関 係に近いです.どちらも体内に侵入した異物に対する 防御反応です.万人にとって有害な異物に反応して体 内から排除するのが免疫であり,我々の体を守るため には必要なシステムです.一方,特定の人の体で,本 来,無害であるはずの異物(アレルゲン)に対して免 疫反応が起こってしまうのがアレルギーです(図 3, 図 4).そのため,アレルギーの病気はすべての人で アレルギーの基礎知識 1 3 免疫とアレルギー 体内 アレルゲン 病原体 抗体 白血球 免疫反応 アレルギー 反応 侵入 侵入

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Page 1: アレルギーの基礎知識 - 中外医学社1 5 第1章 アレルギーの基礎知識 まずは,アレルギー性疾患に共通する知識を整理し ましょう. アレルギーとは

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第1章 アレルギーの基礎知識

まずは,アレルギー性疾患に共通する知識を整理しましょう.

■アレルギーとはアレルギーと免疫は,ちょうど,表と裏のような関

係に近いです.どちらも体内に侵入した異物に対する防御反応です.万人にとって有害な異物に反応して体内から排除するのが免疫であり,我々の体を守るためには必要なシステムです.一方,特定の人の体で,本来,無害であるはずの異物(アレルゲン)に対して免疫反応が起こってしまうのがアレルギーです(図 3, 図 4).そのため,アレルギーの病気はすべての人で

アレルギーの基礎知識1

図 3 免疫とアレルギー

体内

アレルゲン

病原体

抗体白血球

免疫反応アレルギー反応

侵入侵入

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第1章 アレルギーの基礎知識

起こるわけではありませんが,最近,増えています.アレルゲンが侵入したときに,まずは,抗原提示細

胞に取り込まれます.抗原提示細胞は,樹状細胞,マクロファージやランゲルハンス細胞で,主にヘルパーT 細胞に抗原を提示します.T 細胞は,B 細胞に抗体を形成するように指令することになります.B 細胞が形質細胞に分化して,主に IgE を産生すれば,Ⅰ型アレルギー反応ですし,IgG,IgM を産生すれば,Ⅱ型,Ⅲ型アレルギー反応です(図 4).ヘルパー T 細胞が細胞障害型 T 細胞に指令すれば,Ⅳ型アレルギー反応になります.

ここで重要なのが,T 細胞です.本来,無害であるためには,免疫寛容でなければなりません.免疫寛容の機序として,T 細胞そのものの状態と免疫応答を抑制する調節性 T 細胞の存在が考えられています.T

図 4 Ⅰ型アレルギー反応のしくみ

Th2 リンパ球マクロファージなど

Bリンパ球

形質細胞

肥満細胞

①アレルゲンが 体内に侵入

②アレルゲンをリンパ球 に知らせる ③アレルゲンをBリンパ球

 に知らせる

⑤形質細胞から IgE が 産生分泌される

アレルゲンと IgE が肥満細胞を刺激

⑥化学物質が肥満細胞 から分泌

④Bリンパ球が形質細胞 に変化

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第1章 アレルギーの基礎知識

細胞そのものの状態では,T 細胞が免疫不応状態になるアネルギー(anergy)とアレルゲンに反応する T細胞のクローンの消失(clonal deletion)があります.これらの反応は,抗原量が高用量の場合に起きやすく,免疫応答を抑制する調節性 T 細胞は,抗原量が低用量のときに誘導されます.現在,調節性 T 細胞 は,CD4 陽 性 CD25 陽 性 Foxp3 陽 性 T 細 胞,TGF-βを産生する CD4 陽性 Th3 細胞,IL-10 を産生する CD4 陽性 Tr1 細胞,CD8 陽性 Treg 細胞,腸管免疫に関わるγδ陽性 T 細胞などが報告されています.ヘルパー T 細胞には,以前から Th1,Th2,それに伴い,抗原提示細胞である樹状細胞にも DC1,DC2 と大きく分けられており,Th1 は IFN-γを中心とした免疫に関わり,Th2 は IL-4,IL-5 を中心としたアレルギーに関わります.これを調節している T細胞が Th3 細胞でもあります.免疫寛容が起こらず,Th1 と Th2 のバランスが崩れると,アレルギーを起こすことになります.自然免疫においても,Th1 やTh2 のようなリンパ球が報告されています.Th1 とTh2 だけでなく,現在は,IL-17(炎症性サイトカイン)産生 Th 細胞である Th17,IL-22(IL-10 関連サイトカイン)産生 Th 細胞である Th22 などのヘルパー T 細胞もアレルギーに関わっていることが明らかになっています.ヘルパー T 細胞を整理すると,以下のようになります.簡単に考えるなら,Th1 とTh2 という考え方になります(図 5).

■アレルギー性疾患が増えているかどうか?アレルギー性疾患は全体的には増えています.成人

喘息では,2011 年の厚生労働省の受診患者数統計によれば,2011 年は宮城県石巻,気仙沼医療圏,福島県を除いた数字で,人口減少を考えると増えていると

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第1章 アレルギーの基礎知識

図 5 ヘルパー T細胞の分化

Th0 細胞

Th1 細胞

Treg 細胞IL-10TGF-β

IL-1βIL-12

IL-1βTGF-βIL-6IL-23

IL-4

(-)

(-)

(-)

IL-2, IFN-γ細胞性免疫細胞内感染肉芽腫自己免疫

Th2 細胞

IL-4, IL-5, IL-13液性免疫寄生虫防御アレルギー自己免疫

Th17 細胞

IL-17, IL-22細胞外感染自己免疫

IL-10, TGF-β免疫抑制発がん

抗原提示細胞

表 1 喘息総患者数の推移総数 男性 女性 0〜4歳 5〜14 歳 15〜64 歳 65 歳以上

1999(H11) 1,096 596 500 166 266 440 227

2002(H14) 1,069 558 511 179 237 393 269

2005(H17) 1,092 550 542 227 237 389 252

2008(H20) 888 438 451 161 207 296 240

2011(H23) 1,045 521 523 216 253 340 249(単位: 千人)

総数 男性 女性 0〜4歳 5〜14 歳 15〜64 歳 65 歳以上

1999(H11) 1,096 54% 46% 15% 24% 40% 21%

2002(H14) 1,069 52% 48% 17% 22% 37% 25%

2005(H17) 1,092 50% 50% 21% 22% 36% 23%

2008(H20) 888 49% 51% 18% 23% 33% 27%

2011(H23) 1,045 50% 50% 21% 24% 33% 24%(厚生労働省の受診患者数統計)

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第1章 アレルギーの基礎知識

考えられます(表 1, 2).喘息だけでなく花粉症も増えています(図 6).小児においてもアレルギー性疾患が増えています

(図 7).アトピー性皮膚炎は減っていますが,学童期のアトピー性皮膚炎の減少は,乳幼児でのアトピー性皮膚炎の原因の多くが食物であることから,自然治癒することによると思われます.学童になるまでに,アトピー性皮膚炎はよくなります.

表 2 喘息受療率(人口 10万対)の推移総数 入院 外来

1999(H11) 132 12 120

2002(H14) 120 9 111

2005(H17) 122 7 115

2008(H20) 93 4 88

2011(H23) 107 3 103(厚生労働省の受診患者数統計)

図 6 鼻アレルギーの 1998年と 2008年の有病率(馬場廣太郎,他.鼻アレルギーの全国疫学調査 2008(1998 年との比較)−耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として−.Prog Med. 2008; 28: 2001-12)

0 10 20 30 40 50有病率(%)

29.839.4アレルギー性鼻炎全体

19.629.8花粉症全体

10.915.4スギ以外の花粉症

16.226.5スギ花粉症

18.723.4通年性アレルギー性鼻炎

1998 年2008 年